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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】放射線計測装置および放射線計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 3/00 20060101AFI20231206BHJP
   G01T 1/172 20060101ALI20231206BHJP
   G01T 1/17 20060101ALI20231206BHJP
   G21C 17/10 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
G01T3/00 H
G01T1/172
G01T1/17 C
G21C17/10 200
G21C17/10 500
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020115172
(22)【出願日】2020-07-02
(65)【公開番号】P2022012968
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 克宜
(72)【発明者】
【氏名】名雲 靖
(72)【発明者】
【氏名】吉原 有里
(72)【発明者】
【氏名】米谷 豊
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-217876(JP,A)
【文献】特開2006-284589(JP,A)
【文献】特開2018-205070(JP,A)
【文献】特開2020-091103(JP,A)
【文献】国際公開第2014/125814(WO,A1)
【文献】特開2018-017613(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0219518(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00-1/16
G01T 1/167-7/12
G21C 17/00-17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子を検知する放射線計測装置であって、
2台以上の中性子検出器と、
前記中性子検出器を移動させる移動手段と、
1回の反応で同時に放出した複数の中性子を前記中性子検出器で同時に計数する同時計数信号計測装置と、
前記中性子検出器の位置情報を取得する位置情報装置と、
前記位置情報装置で取得した位置における前記同時計数信号計測装置で得られた同時計数値を処理する同時計数値処理装置と、
前記同時計数値処理装置で処理された同時計数値の位置依存性曲線から測定対象物由来の同時計数値を演算する同時計数値曲線演算装置と、を備える
ことを特徴とする放射線計測装置。
【請求項2】
前記同時計数信号計測装置は、1つの中性子によって生じる前記中性子検出器の信号の検出時刻と波高値を記録し、任意の検出時刻領域および任意の波高値領域で検出された信号を同時計数値として計数する
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線計測装置。
【請求項3】
前記同時計数値曲線演算装置は、前記同時計数値処理装置が処理した同時計数値の位置依存性曲線のうち、測定対象物との任意の距離領域における同時計数値を利用して測定対象物由来の同時計数値を演算する
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線計測装置。
【請求項4】
前記同時計数値曲線演算装置が、演算した演算情報を格納する演算情報格納装置を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線計測装置。
【請求項5】
前記測定対象物由来の同時計数値を中性子束に変換する中性子束変換係数を記憶する中性子束変換係数記憶部と、
前記測定対象物由来の同時計数値と前記中性子束変換係数から測定位置における中性子束を演算する中性子束演算装置と、を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線計測装置。
【請求項6】
前記中性子検出器は、熱中性子遮へい材と、中性子減速材と、熱中性子検出器と、を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線計測装置。
【請求項7】
前記中性子検出器は、熱中性子または高速中性子を検知する
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線計測装置。
【請求項8】
前記中性子検出器は、線形配置またはアレイ配置された
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線計測装置。
【請求項9】
前記位置情報装置は、前記測定対象物との位置情報を取得する、レーザ距離計測手段、カメラ画像計測手段、超音波距離計測手段、電波距離計測手段のうち少なくともいずれか一つである
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線計測装置。
【請求項10】
中性子を検知する放射線計測装置の放射線計測方法であって、
2台以上の中性子検出器を備え、
前記中性子検出器を移動させる移動ステップと、
1回の反応で同時に放出した複数の中性子を前記中性子検出器で同時に計数する同時計数信号計測ステップと、
前記中性子検出器の位置情報を取得する位置情報取得ステップと、
前記位置情報取得ステップで取得した位置における前記同時計数信号計測ステップで得られた同時計数値を処理する同時計数値処理ステップと、
前記同時計数値処理ステップで処理された同時計数値の位置依存性曲線から測定対象物由来の同時計数値を演算する同時計数値曲線演算ステップと、を実行する
ことを特徴とする放射線計測方法。
【請求項11】
前記同時計数値曲線演算ステップでは、
前記同時計数値の位置依存性曲線における演算領域として測定対象物との距離領域を設定するステップと、
前記同時計数値曲線演算ステップで演算して演算情報格納装置に格納した演算情報と前記同時計数値の位置依存性曲線をフィッティングするステップと、
前記フィッティングの完了を判定するステップと、
測定対象による同時計数値曲線を抽出するステップと、有する
ことを特徴とする請求項10に記載の放射線計測方法。
【請求項12】
測定対象による同時計数値曲線を演算した結果を利用して、測定対象物由来の同時計数値と中性子束変換係数から測定位置における中性子束を演算する中性子束演算ステップを有する
ことを特徴とする請求項10に記載の放射線計測方法。
【請求項13】
前記中性子検出器による同時計数値測定の実行タイミングまたは前記位置情報を事前に取得する
ことを特徴とする請求項10に記載の放射線計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線計測装置および放射線計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウランやプルトニウム、使用済み核燃料を取り扱う施設や研究用原子炉、商用原子力プラントにおいて、核燃料を測定する手段の一つとして、中性子を利用した計測が適用されている。中性子を利用した計測により様々な履歴を有する核燃料を分析する場合には、核燃料の一部を採取して、専用の分析設備を利用することで、オフラインにてその特性が調査されている。核燃料の一部を採取して分析できない場合には、バックグラウンドを低減可能な専用の設備を備えることで、オフラインにてその特性が調査されている。
核燃料の一部を採取することや専用設備による調査においては、それぞれの条件で分析を達成するための装置や施設が必要であることから、その適用範囲は極めて限定的である。上述した要因が存在することから、核燃料が保管・管理されているフィールドにおいても中性子を計測することによって、測定対象物を分析可能な放射線計測装置およびその方法が求められている。
【0003】
フィールドにおいて測定対象物由来の中性子を計測する場合、周辺に配置された他の放射線源の影響を考慮する必要がある。従来の分析で使用されている中性子計測装置は周辺線源の影響を考慮した設計ではないことから、フィールドやインライン、オンラインでの適用は困難である。このような理由から、周辺線源の影響を低減して測定対象物由来の中性子を計測可能な放射線計測装置およびその方法が必要とされる。
【0004】
特許文献1には、実施形態の放射線測定装置において、中性子を入射させる開口部と中空部を備える検出器案内管と、前記検出器案内管の外周を周方向に覆い中性子を遮へいする中性子遮へい被膜と、前記検出器案内管の前記中空部のうち前記開口部側に配置される中性子減速材と、前記中空部に前記中性子減速材の前記検出器案内管の管軸方向に隣接して配置される中性子検出器と、を有する放射線測定装置が記載されている。特許文献1に記載の放射線測定装置は、中性子吸収断面積の大きなカドミウムやホウ素で構成される中性子遮へい被膜を用いることで、周囲からの中性子を吸収し遮断することができるとされている。
【0005】
特許文献2には、高速中性子を放出する中性子源を有する中性子源装置と、中性子入射開口部を有し、放射線遮へい材で構成されたコリメータ、および前記コリメータ内に配置され、熱中性子を検出する中性子検出器を有する中性子検出装置と、前記中性子検出器から出力される信号を処理するデータ処理装置とを備え、放射線遮へい材で構成された少なくとも1つの仕切り部材を前記中性子入射開口部内に設置し、この仕切り部材によって仕切られた、前記中性子検出器に入射される前記熱中性子が通過する複数のスリットを、前記中性子入射開口部内に形成し、それぞれの前記スリットの前面で移動され、各前記スリットの開放および封鎖を行う遮へい蓋と、前記コリメータに設けられて、前記遮へい蓋を、前記中性子検出器から前記スリットの先端に向かう方向と直交する方向で且つ前記仕切り部材の表面に垂直な方向に移動させる遮へい蓋移動装置とを備える装置が記載されている。特許文献2に記載の装置は、遮へい蓋でスリット先端を覆うことで、中性子検出器に到達するバックグラウンドを把握することができ、遮へい蓋でスリット先端を覆わない場合の計数値との差分を測定することで、水分測定精度を向上させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-121895号公報
【文献】特許第5350112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ウランやプルトニウム、使用済み核燃料を取り扱う施設や研究用原子炉、商用原子力プラントにおいて、中性子を利用した核燃料分析をフィールドで実施するには、周辺に配置された他の放射線源の影響を低減可能な放射線計測装置およびその方法が必要となる。
特許文献1の技術は、中性子吸収断面積の大きなカドミウムやホウ素で構成される中性子遮へい被膜を用いることで、周囲からの中性子を吸収し遮断することができるが、遮へいの対象となる中性子は主に熱中性子となる。高速中性子が支配的な中性子源が周辺由来のバックグラウンドである場合には、中性子遮へい被膜を透過した高速中性子が中性子減速材で熱化されて熱中性子となり、中性子検出器において計測される。したがって、中性子遮へい被膜では、周辺バックグラウンド由来の高速中性子の影響を低減させることは困難である。
【0008】
特許文献2の技術は、遮へい蓋でスリット先端を覆い、遮へい蓋でスリット先端を覆わない場合の計数値との差分を測定することで、中性子検出器に到達するバックグラウンドを把握することができる。特許文献2において測定対象になるのは熱中性子であり、スリットや遮へい蓋を利用して、中性子検出器に入射する熱中性子束を制御することから、特許文献2で取り扱う遮へい蓋における中性子遮へい材の機能には熱中性子の遮へい性能が求められる。この遮へい蓋を高速中性子が支配的な中性子源に対して使用する場合には、前述したように、高速中性子が遮へい蓋を透過する。したがって、遮へい蓋を用いた計数値の差分測定では、周辺バックグラウンド由来の高速中性子の影響を低減させることは困難である。
【0009】
ウランやプルトニウム、使用済み核燃料を取り扱う施設や研究用原子炉、商用原子力プラントにおいて、中性子を利用した核燃料分析をフィールドで行うことができる放射線計測装置およびその方法があれば、リアルタイム性が高い監視や測定対象物の性状把握が可能となる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、測定対象物由来の中性子と周辺バックグラウンド由来の中性子とを弁別可能な放射線計測装置および放射線計測方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の放射線計測装置は、中性子を検知する放射線計測装置であって、2台以上の中性子検出器と、前記中性子検出器を移動させる移動手段と、1回の反応で同時に放出した複数の中性子を前記中性子検出器で同時に計数する同時計数信号計測装置と、前記中性子検出器の位置情報を取得する位置情報装置と、前記位置情報装置で取得した位置における前記同時計数信号計測装置で得られた同時計数値を処理する同時計数値処理装置と、前記同時計数値処理装置で処理された同時計数値の位置依存性曲線から測定対象物由来の同時計数値を演算する同時計数値曲線演算装置と、を備えることを特徴とする。
本発明のその他の態様については、後記する実施形態において説明する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、測定対象物由来の中性子と周辺バックグラウンド由来の中性子とを弁別可能な放射線計測装置および放射線計測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示す図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る放射線計測装置の同時計数信号計測装置の信号計測を示す図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る放射線計測装置の中性子検出器が単一である場合の単一検出器における計数値と同時計数値の距離依存性の比較を示す図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る放射線計測装置の同時計数値処理装置における測定結果処理を示す図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る放射線計測装置の同時計数値曲線演算装置における測定対象物による同時計数値曲線の抽出を示す図である。
図6】本発明の第1の実施形態に係る放射線計測装置を用いた放射線計測方法の測定フローチャートである。
図7】本発明の第2の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示す図である。
図8】本発明の第2の実施形態に係る放射線計測装置の波高値利用同時計数信号計測装置における信号計測を示す図である。
図9】本発明の第3の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示す図である。
図10】本発明の第3の実施形態に係る放射線計測装置の同時計数値曲線演算装置における演算範囲を限定した測定対象物による同時計数値曲線の抽出を示す図である。
図11】本発明の第4の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示す図である。
図12】本発明の第5の実施形態に係る放射線計測装置を用いた放射線計測方法の測定フローチャートである。
図13】本発明の第6の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示す図である。
図14】本発明の第7の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示す図である。
図15】本発明の第7の実施形態に係る放射線計測装置の中性子検出器の構成を示す図である。
図16】本発明の第7の実施形態に係る放射線計測装置の周囲全域を囲わない中性子検出器の構成を示す図である。
図17】本発明の第8の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示す図である。
図18】本発明の第8の実施形態に係る放射線計測装置の多チャンネル中性子検出器の構成を示す図である。
図19】本発明の第8の実施形態に係る放射線計測装置の多チャンネル中性子検出器の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示す図である。本実施形態の放射線計測装置および放射線計測方法は、ウランやプルトニウム、使用済み核燃料を取り扱う施設や研究用原子炉、商用原子力プラントにおいて、測定対象物と周辺由来の中性子を弁別する非破壊検査装置および放射線計測方法に適用した例である。
[放射線計測装置100]
放射線計測装置100は、中性子検出器101と、移動機構102(移動手段)と、同時計数信号計測装置103と、位置情報装置104と、同時計数値処理装置105と、同時計数値曲線演算装置106と、を備える。
【0015】
中性子検出器101は、2台以上の中性子検出器であり、移動機構102に搭載され、測定対象物107に含有した中性子源108から放出される中性子109を検知する。
移動機構102は、中性子検出器101をステージ上に載置して、中性子検出器101を手動または自動で移動させる。
【0016】
同時計数信号計測装置103は、中性子検出器101の信号を同時計数として測定する。具体的には、同時計数信号計測装置103は、1回の反応で同時に放出した複数の中性子を中性子検出器101で同時に計数する。
位置情報装置104は、中性子検出器101の位置情報を取得する。位置算出装置104は、位置座標を測定するための手段として、例えば、ある初期値を定めた上で、光学カメラやレーザ、超音波、レーダなどを利用した距離計測装置を備える。
【0017】
同時計数値処理装置105は、位置情報装置104で得られた位置情報と合わせて各測定位置での同時計数値を算出する。すなわち、同時計数値処理装置105は、位置情報装置104で取得した位置における同時計数信号計測装置103で得られた同時計数値を処理する。ここで、同時計数値の単位は、個数であり、具体的にはカウント数(カウント)を計数する。
【0018】
同時計数値曲線演算装置106は、測定対象物107から放出された中性子による同時計数値曲線を演算する。具体的には、同時計数値曲線演算装置106は、同時計数値処理装置105で処理された同時計数値の位置依存性曲線から測定対象物由来の同時計数値を演算する。
【0019】
なお、中性子源108の位置を点線源として測定対象物107の内部に図示したが、これは一例であり、中性子源108の位置は測定対象物107の内部や表面であってよく、更に点線源や面線源、体積線源であってもよい。
【0020】
<中性子検出器101>
中性子検出器101は、2台以上で構成され、移動機構102と組み合わせて使用される。図1では、一例として2台の中性子検出器101を搭載した構成を示したが、これに限るものではない。中性子検出器101は、1回の反応で同時に放出した複数の中性子を同時計数するために、位置的に離れた2台以上で構成される。
【0021】
中性子検出器101は、その種類によって熱中性子や熱外中性子を計測する検出器、もしくは高速中性子を計測する検出器、もしくはその両方を計測する検出器が適用される。代表的な熱中性子検出器の種類として、ガス検出器やシンチレーション検出器、半導体検出器が存在する。これらの検出器には熱中性子有感材として、リチウムやボロン、ガドリニウム、カドミウム、ウラン、プルトニウムなどが適用される。ガス検出器には、He-3比例計数管やBF3比例計数管、B-10塗布型比例計数管、核分裂計数管などが適用される。
【0022】
シンチレーション検出器には、リチウム6やボロン10、ガドリニウムなどの熱中性子の反応断面積が大きい元素を含んだシンチレータを搭載しており、シンチレータの種類として、例えば、LiI:Euや、ZnS:Ag、ボロン10含有プラスチックシンチレータ、リチウム6もしくはボロン10含有ガラスシンチレータ、LiCaAlF、GdAlGa3O12、Gd2SiO:Ce、CsLiLaBr:Ce、CsLiYCl:Ce、CsLiLaCl:Ce、CsLiLaBr-xClx:Ce、CsLiYBr:Ceなどがある。また、シンチレータの表面に熱中性子に有感な元素を塗布する手法もあり、その場合には上述したシンチレータだけでなく、LaBrやCsBr、LYSO、LSO、GAGG、CsI、NaI、BGO、GPS、La-GPS、LuAG、SrI、プラスチックシンチレータなどの放射線検出器として利用されるシンチレータ全般を中性子検出器として取り扱うことが可能となる。
【0023】
半導体検出器も同様に、リチウム6やボロン10、ガドリニウムなどの熱中性子の反応断面積が大きい元素を含んだ半導体を搭載しており、半導体の種類として、CdTeやCdZnTeがある。更に半導体の表面に熱中性子に有感な元素を塗布する手法もあり、その場合にはCdTeやCdZnTeだけでなく、シリコンやゲルマニウム、ダイヤモンド、シリコンカーバイド、Perovskite構造を有するCsPbCl,CsPbBr,LiTaO等の半導体検出器などの半導体検出器を利用することができる。
【0024】
熱外中性子検出器には、ガス検出器として、水素ガスやメタンガスを有感部として、中性子と水素の反応による反跳陽子によるエネルギー付与を計測する反跳陽子計数管がある。また、高速中性子検出器には、しきい検出器が適用される。主に使用される種類の一つとして核分裂計数管があり、中性子有感部としてウラン234やウラン236、ウラン238、ネプツニウム237、トリウム232などが適用される。また、アントラセンやスチルベンなどの有機シンチレータも利用される。
【0025】
以下、上述のように構成された放射線計測装置100の動作について説明する。
<同時計数信号計測装置103の信号計測>
図2は、放射線計測装置100の同時計数信号計測装置103の信号計測を示す図である。横軸に検出時間をとり、縦軸に同時計数信号計測装置103の出力信号の波高値をとる。
同時計数信号計測装置103は、中性子検出器101から出力された信号を計測し、同時性を有する信号を認識した場合に信号を出力する。ここでは、2台の中性子検出器101を中性子検出器101a、中性子検出器101bとする。
【0026】
中性子検出器101aによる出力信号110と中性子検出器101bによる出力信号111は、中性子109が各々の中性子検出器に到達したときに出力される。このうち、中性子源108が1回の反応で複数の中性子を放出し、それら中性子が中性子検出器101で検知される場合がある。1回の反応で複数の中性子を放出するケースとして、例えば核分裂に伴い複数の中性子を放出する場合や、加速器等を利用した核反応によって複数の中性子が放出する場合が存在する。このような状態において、中性子検出器101aと中性子検出器101bにおいて、任意の検知時間幅113において同時刻に信号が検知されたと判定した場合、この信号を中性子検出器101aと中性子検出器101bで1回の反応で放出された複数の中性子を検知したとする。同時刻に信号を検知したことを同時計数信号112として出力する。
なお、図2(c)において、同時計数信号112は、中性子検出器101aによる出力信号110と中性子検出器101bによる出力信号111とが同時に検出された時の出力であり、2つ出力されている。
【0027】
同時計数値処理装置105は、位置情報装置104で得られた位置情報と同時計数信号計測装置103で得られた同時計数値を組み合わせて、各測定位置での同時計数値として算出する。
【0028】
<計数値と同時計数値の距離依存性>
図3は、中性子検出器101が単一である場合の単一検出器における計数値と同時計数値の距離依存性の比較を示す図である。横軸に測定対象物からの距離をとり、縦軸に同時計数値、計数値(単一検出器)(Logスケール)をとる。
【0029】
単一検出器を利用して計数値を取得する場合、中性子源108(図1参照)を点線源と仮定すると、計数値曲線114(図3参照)における計数値は、距離の二乗に反比例することで表現される。一方で、同時計数値処理装置105(図1参照)が、同時計数値を利用する場合、同一の仮定において同時計数値曲線115(図3参照)は距離の四乗に反比例することで表現される。
【0030】
なお、ここでは点線源を測定する場合を説明したが、面線源もしくは体積線源が測定対象になる場合、各々の乗数は小さくなる。同時計数値曲線の変化率に着目したとき、同時計数値曲線を取得することで、単一検出器で得られた計数値曲線と比較して、変化率が大きいことから、中性子源108の存在の有無を検知することが容易になることがわかる。
【0031】
<同時計数値処理装置105の測定結果処理>
図4は、放射線計測装置100の同時計数値処理装置105における測定結果処理を示す図である。横軸に測定対象物からの距離をとり、縦軸に同時計数値(Logスケール)をとる。
図4は、各測定位置における同時計数値116を距離と同時計数値の図面に表示したものである。ここでは一例として、中性子検出器101(図1参照)が測定対象物107(図1参照)と周辺バックグラウンド線源との間に配置した状態を設定した。
図4に示すように、測定対象物107から距離を離すことで同時計数値116は、急激に低下する(図4左側参照)。一方で、同時計数値116は、周辺バックグラウンド線源に近づくため、ある一定の距離から同時計数値が増加する(図4右側参照)。
【0032】
<同時計数値曲線の抽出>
図5は、放射線計測装置100の同時計数値曲線演算装置106における測定対象物による同時計数値曲線の抽出を示す図である。横軸に測定対象物からの距離をとり、縦軸に同時計数値(Logスケール)をとる。
同時計数値曲線演算装置106(図1参照)は、同時計数値の距離依存性を利用することで、測定対象物107(図1参照)由来の中性子による同時計数値曲線117(図5参照)と、周辺バックグラウンド線源由来の中性子による同時計数値曲線118(図5参照)とを分別する。
【0033】
この抽出操作によって、測定対象物107から放出された中性子による同時計数値曲線117を演算する。同時計数値曲線117を取得することによって、周辺バックグラウンド線源が存在する場合においても、測定対象物107由来の中性子の有無やその強度を評価することが可能となる。
【0034】
<測定のフローチャート>
図6は、放射線計測装置100を用いた放射線計測方法の測定フローチャートである。
まず、放射線計測装置100をセットアップして測定を開始する。
ステップS1001で、移動機構102(図1参照)が測定位置に中性子検出器101(図1参照)を配置する。
ステップS1002で、位置情報装置104は、中性子検出器102の位置情報を取得する。
ステップS1003で、同時計数信号計測装置103は、中性子を同時計数する。
ステップS1004で、測定完了を判定する。測定完了でない場合(S1004:No)、上記ステップS1001に戻る。
【0035】
測定完了の場合(S1004:Yes)、ステップS1005で、同時計数値処理装置105は、各測定位置で取得した同時計数値を算出する。
ステップS1006で、同時計数値曲線演算装置106は、同時計数値曲線を算出する。
ステップS1007で、同時計数値処理装置105は、測定対象による同時計数値を演算する。
ステップS1008で、放射線計測装置100は、演算完了を判定する。演算完了でない場合(S1008:No)、上記ステップS1007に戻る。演算完了の場合(S1008:Yes)、放射線計測装置100は、全測定および演算を完了する。
【0036】
なお、ここで示した放射線計測方法では、中性子検出器の位置情報を取得し(ステップS1002)、中性子を同時計数する(ステップS1003)手順を説明したが、これに限るものではない。例えば、中性子検出器の位置情報を取得するステップ(ステップS1002)を、中性子を同時計数するステップ(ステップS1003)と測定完了を判定するステップ(ステップS1004)の間に入れることも可能である。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係る放射線計測装置100は、2台以上の中性子検出器101と、中性子検出器を移動させる移動機構102と、1回の反応で同時に放出した複数の中性子を中性子検出器101で同時に計数する同時計数信号計測装置103と、中性子検出器の位置情報を取得する位置情報装置104と、位置情報装置で取得した位置における同時計数信号計測装置103で得られた同時計数値を処理する同時計数値処理装置105と、同時計数値処理装置105で処理された同時計数値の位置依存性曲線から測定対象物由来の同時計数値を演算する同時計数値曲線演算装置106と、を備える。
【0038】
この構成により、測定対象物由来の中性子と周辺バックグラウンド由来の中性子とを弁別することができる。例えば、測定対象物の周辺にバックグラウンド線源の影響が強い環境であっても、測定対象物由来の中性子と周辺バックグラウンド由来の中性子とを弁別することができる。この演算結果を利用することで、装置の小型化や、測定対象物の性状を高精度且つ高速に把握することができ、その情報をマッピングすることができる。その結果、中性子を利用した核燃料分析をフィールドで行うことが可能となり、ウランやプルトニウム、使用済み核燃料を取り扱う施設や研究用原子炉、商用原子力プラントにおいても、リアルタイム性が高い監視や測定対象物の性状把握を実現することができる。
【0039】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、1つの中性子によって生じる中性子検出器の信号の検出時刻と波高値を記録し、任意の検出時刻領域および任意の波高値領域で検出された信号を同時計数値として計数する波高値利用同時計数信号計測装置を備える。
図7は、本発明の第2の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示す図である。図1と同一構成部分には同一符号を付して重複箇所の説明を省略する。
【0040】
図7に示すように、放射線計測装置200は、図1の放射線計測装置100の中性子検出器101、移動機構102、位置情報装置104、同時計数値処理装置105、および同時計数値曲線演算装置106に加えて、波高値利用同時計数信号計測装置119を備える。
【0041】
波高値利用同時計数信号計測装置119は、中性子検出器101から出力された信号の検知時刻と波高値を計測し、検知時刻および波高値ともに任意の範囲で検出された場合に信号を出力する。ここでは、図7に示すように、2台の中性子検出器101を中性子検出器101a、中性子検出器101bとする。中性子検出器101aによる出力信号120と中性子検出器101bによる出力信号121は、中性子109が各々の中性子検出器に到達したときに出力される。
測定対象物の周辺にバックグラウンド線源があり、それがγ線などの他線種の放射線を放出する場合、これら他線種の放射線を中性子検出器で検知することがある。他線種による出力信号はノイズ成分であることから、高精度の中性子計測を実現するには、ノイズ成分を低減させる必要がある。
【0042】
図8は、放射線計測装置200の波高値利用同時計数信号計測装置119における信号計測を示す図である。横軸に検出時間をとり、縦軸に中性子検出器101aの出力信号の波高値をとる。
放射線計測装置200は、波高値利用同時計数信号計測装置119が任意の検知時間幅123aおよび検知時間幅123bだけでなく、各中性子検出器の出力信号の波高値を測定し、中性子検出器101aにおける検知波高値幅124aおよび中性子検出器101bにおける検知波高値幅124bの範囲内で検知された出力信号を同時計数信号122として出力する。
【0043】
例えば、図8(a)に示す中性子検出器101aによる出力信号120の検知時間幅123aおよび検知時間幅123bにおける波高値(2つ)は、いずれも、図8(a)に示す検知波高値幅124aの中にある。一方、図8(b)に示す中性子検出器101bによる出力信号121の検知時間幅123aおよび検知時間幅123bにおける波高値(2つ)は、1つのみが、図8(b)に示す検知波高値幅124bの中にある。したがって、中性子検出器101bの出力信号121のうち、検知時間幅123aの出力信号波高値のものはノイズとみなすことができる。
【0044】
このように、放射線計測装置200は、同時計数信号計測装置103が、1つの中性子によって生じる中性子検出器の信号の検出時刻と波高値(図8の波高値参照)を記録し、任意の検出時刻領域及び任意の波高値領域で検出された信号を同時計数値として計数する。すなわち、任意の検知時間幅123aおよび検知時間幅123bだけでなく、各中性子検出器の出力信号の波高値を測定し、中性子検出器101aにおける検知波高値幅124aおよび中性子検出器101bにおける検知波高値幅124bの範囲内で検知された出力信号を同時計数信号122として出力する(図8(c))。
図8(c)の同時計数信号122で出力されるパルスは、中性子検出器101aにおける検知波高値幅124aおよび中性子検出器101bにおける検知波高値幅124bのうち、いずれの波高値も所定値以上の場合の組み合わせの、1つのみを示している。
【0045】
これにより、測定対象物の周辺にバックグラウンド線源が存在し、ノイズ成分が多い環境であっても、測定対象物由来の中性子と周辺バックグラウンド由来の中性子とを弁別することができる(図8参照)。そして、この演算結果を利用することで、測定対象物の性状を高精度に把握することができる。
【0046】
(第3の実施形態)
図9は、本発明の第3の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示す図である。図1と同一構成部分には同一符号を付して重複箇所の説明を省略する。
【0047】
図9に示すように、放射線計測装置300は、図1の放射線計測装置100の中性子検出器101、移動機構102、同時計数信号計測装置103、位置情報装置104、および同時計数値処理装置105に加えて、演算対象となる同時計数値を限定する機能を有する同時計数値曲線演算装置125を備える。
【0048】
図10は、放射線計測装置300の同時計数値曲線演算装置125における演算範囲を限定した測定対象物による同時計数値曲線の抽出を示す図である。横軸に測定対象物からの距離をとり、縦軸に同時計数値(Logスケール)をとる。
図10に示すように、各測定位置における同時計数値116に対して、距離幅126を設定する。距離幅126の設定範囲の考え方として、図3に示したように、同時計数値は測定対象物117(図5参照)から離れると低減することから、測定対象物117に近い測定位置で得られた同時計数値を利用することが望ましい。距離幅126(図10参照)における各測定位置における同時計数値116(図10参照)を利用することで、測定対象物107(図1参照)から放出された中性子109(図1参照)による同時計数値曲線127(図10参照)を演算する。
【0049】
距離幅126(図10参照)に基づいた同時計数値曲線127(図10参照)を取得することによって、周辺バックグラウンド線源による同時計数値曲線の影響を受けやすい距離における同時計数値の利用を避けることができる。
【0050】
このように、放射線計測装置300は、同時計数値曲線演算装置106が、同時計数値処理装置105で処理された同時計数値の位置依存性曲線のうち、測定対象物との任意の距離領域における同時計数値を利用して測定対象物由来の同時計数値を演算する。
【0051】
これにより、周辺バックグラウンド線源による同時計数値曲線の影響を受けやすい距離における同時計数値の利用を避けることができ、測定対象物の周辺にバックグラウンド線源の影響が強い環境であっても、測定対象物由来の中性子と周辺バックグラウンド由来の中性子とを弁別することができる。そして、この演算結果を利用することで、測定対象物の性状を高精度に把握することができる。
【0052】
(第4の実施形態)
図11は、本発明の第4の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示す図である。図1と同一構成部分には同一符号を付して重複箇所の説明を省略する。
【0053】
図11に示すように、放射線計測装置400は、図1の放射線計測装置100の中性子検出器101、移動手段102、同時計数信号計測装置103、位置情報装置104、同時計数値処理装置105、および同時計数値曲線演算装置106に加えて、演算情報格納装置128を備える。なお、第5の実施形態の放射線計測装置500も同一構成である。
【0054】
演算情報格納装置128は、測定対象物または周辺バックグラウンド線源による同時計数値曲線を抽出するための演算情報として、演算式や放射線輸送計算で事前に解析された解析情報を格納する。上記演算式には、線形関数や多項関数や指数関数、対数関数、累乗関数やこれらの関数を組み合わせた数式を用いる。
【0055】
図3で示したように、測定対象物の中性子源が点線源である場合には距離の四乗に反比例するが、面線源や体積線源である場合には、より乗数が小さい関数が適合しやすい。このことから、測定対象物の線源の状態に合った関数を適用する。
【0056】
放射線輸送計算で事前に解析する場合には、測定対象物や周辺バックグラウンド線源から放射線計測装置400に至るまでの中性子の挙動を3次元的に解析する。さらに、放射線計測装置400は、事前解析のパラメータとして、測定対象物や周辺バックグラウンド線源の組成やその分布、測定環境における物質の3次元的な形状・組成の構成を組み込み、それぞれの状態に応じた放射線輸送計算を実行する。これらの解析で得られた解析情報を演算情報格納装置128に格納する。
【0057】
同時計数値曲線演算装置106は、これらの演算式や解析情報と各測定位置における同時計数値116をフィッティングすることで、測定対象物107から放出された中性子109による同時計数値曲線127(図10参照)を演算する。
【0058】
このように、放射線計測装置400は、同時計数値曲線演算装置106が、演算した演算情報を格納する演算情報格納装置128を備える。同時計数値曲線演算装置106は、演算情報格納装置128に格納された演算式や解析情報と各測定位置における同時計数値116をフィッティングすることで、測定対象物107から放出された中性子109による同時計数値曲線127を演算する。
【0059】
これにより、測定対象物由来の中性子と周辺バックグラウンド由来の中性子とを高精度に弁別することができる。そして、この演算結果を利用することで、測定対象物の性状を高精度に把握することができる。
【0060】
(第5の実施形態)
第5の実施形態は、放射線計測装置の放射線計測方法について説明する。
図12は、放射線計測装置500(図11参照)を用いた放射線計測方法の測定フローチャートである。図6のフローと同一処理ステップには同一符号を付して重複箇所の説明を省略する。
ステップS1006で、同時計数値処理装置105は、測定対象による同時計数値を演算すると、ステップS2001で、演算領域(距離幅)を設定する。すなわち、ステップS2001では、同時計数値の位置依存性曲線における演算領域として測定対象物との距離領域を設定する。
ステップS2002で、演算情報をフィッティングする。すなわち、ステップS2002では、同時計数値曲線演算ステップで演算して演算情報格納装置に格納した演算情報と同時計数値の位置依存性曲線をフィッティングする。
【0061】
ステップS2003で、フィッティング完了を判定する。完了していない場合には、ステップS2001に戻る。フィッティング完了の場合には、ステップS7に進み、ステップS1007で測定対象による同時計数値を演算する。
【0062】
このように、本実施形態に係る放射線計測装置500(図11参照)は、さらに、同時計数値の位置依存性曲線における演算領域として測定対象物との距離領域を設定するステップS2001と、演算情報格納装置128(図11参照)に格納した演算情報と同時計数値の位置依存性曲線をフィッティングするステップS2002と、フィッティング完了を判定するステップS2003と、測定対象による同時計数値曲線を抽出するステップS7と、を備える。
【0063】
これにより、測定対象物の周辺にバックグラウンド線源の影響が強い環境であっても、測定対象物由来の中性子と周辺バックグラウンド由来の中性子とを高精度に弁別することができる放射線計測装置およびその方法を提供できる。そして、この演算結果を利用することで、測定対象物の性状を高精度に把握することができる。
【0064】
(第6の実施形態)
図13は、本発明の第6の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示す図である。図1と同一構成部分には同一符号を付して重複箇所の説明を省略する。
【0065】
図13に示すように、放射線計測装置600は、図1の放射線計測装置100の中性子検出器101、移動手段102、同時計数信号計測装置103、位置情報装置104、同時計数値処理装置105、および同時計数値曲線演算装置106に加えて、中性子束変換係数129aを記憶する中性子束変換係数記憶部129と、中性子束演算装置130と、を備える。
【0066】
中性子束変換係数記憶部129は、測定した同時計数値を熱中性子束、もしくは熱外中性子束、もしくは高速中性子束に変換する中性子束変換係数129aを格納する。
ここで、変換可能な中性子束は、使用した中性子検出器の種類や測定構成に依存するものである。測定対象物との距離xにおける中性子変換係数129aとして、熱中性子束変換係数Athermal(x)、熱外中性子束変換係数Aepi(x)、高速中性子変換係数Afast(x)を備える。これらの変換係数には、事前に実験や解析で取得したものを利用する。
【0067】
同時計数値曲線演算装置106で得られた同時計数値曲線において、測定対象物との距離xにおける同時計数値NCOIN(x)とする。
【0068】
中性子束演算装置130は、同時計数値NCOIN(x)と、中性子束変換係数129aに格納されたそれぞれのエネルギーの中性子変換係数とを乗ずることで、各エネルギーの中性子束を演算する。演算式には、数式(1)~(3)を用いる。
【0069】
thermal(x)=Athermal(x)×NCOIN(x) …(1)
epi(x)=Aepi(x)×NCOIN(x) …(2)
fast(x)=Afast(x)×NCOIN(x) …(3)
【0070】
上述したように、変換可能な中性子束は、使用した中性子検出器の種類や測定構成に依存する。数式(1)~(3)を利用することで、測定対象のエネルギーにおける中性子束を演算することができる。
【0071】
このように、本実施形態に係る放射線計測装置600(図13参照)は、測定対象物由来の同時計数値を中性子束に変換する中性子束変換係数129aを記憶する中性子束変換係数記憶部129と、測定対象物由来の同時計数値と中性子束変換係数129aから測定位置における中性子束を演算する中性子束演算装置130を備える。また、測定対象による同時計数値曲線を演算した結果を利用して、測定対象による同時計数値と中性子束変換係数129aから中性子束を演算するステップを実行する。
【0072】
これにより、測定対象物由来の中性子束を測定可能な放射線計測装置およびその方法を提供できる。そして、この演算結果を利用することで、測定対象物の性状を把握することができる。
【0073】
(第7の実施形態)
図14は、本発明の第7の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示す図である。図1と同一構成部分には同一符号を付して重複箇所の説明を省略する。
【0074】
図14に示すように、放射線計測装置700は、図1の放射線計測装置100の中性子検出器101、移動手段102、同時計数信号計測装置103、位置情報装置104、同時計数値処理装置105、および同時計数値曲線演算装置106に加えて、中性子検出器131を備える。
【0075】
図15は、中性子検出器131の構成を示す図である。
図15に示すように、中性子検出器131は、熱中性子遮へい材134と、中性子減速材133と、熱中性子検出器132と、を備えて構成される。
測定対象物107に含まれる中性子源108から高速中性子135が放出されるとき、測定対象物自体との相互作用で中性子が熱化され、熱中性子136となることがある。熱化は、物質との散乱によって引き起こされることから、中性子源108と中性子検出器131の立体角の情報が失われる。このため、測定対象物107で熱化された中性子(熱中性子136)を中性子検出器101で測定するとノイズ成分となる。
【0076】
第7の実施形態では、測定対象物107で熱化された中性子(熱中性子136)の影響を低減するために、熱中性子遮へい材134を設ける。熱中性子遮へい材134は、測定対象物107で熱化された中性子(熱中性子136)を遮へいする。
【0077】
さらに、第7の実施形態では、測定対象物107で熱化されなかった高速中性子135を熱化させ熱中性子137を得るために、中性子減速材133を設ける。中性子減速材133は、熱中性子検出器132の周囲に備えられる。
【0078】
ここで、熱中性子遮へい材134には、ボロンやリチウム、カドミウム、ガドリニウムなどの熱中性子の吸収断面積が大きい元素を含んだ材料を利用することが望ましい。中性子減速材133には、水やポリエチレンなどの水素を高密度に含んだ材料を利用することが望ましい。
【0079】
図15では、熱中性子検出器132の周囲全域に中性子減速材133と熱中性子遮へい材134を備える構成を示したが、周囲全域を囲わない構成も適用することができる。
【0080】
図16は、周囲全域を囲わない中性子検出器131の構成を示す図である。一例として、一台の中性子検出器の構成を示す。
図16に示すように、熱中性子検出器131は、熱中性子検出器132と半割れの中性子減速材138を熱中性子遮へい材139で全面を囲う構成とする。
測定対象物107で熱化された中性子(熱中性子136)を熱中性子遮へい材139で遮へいする。
【0081】
熱中性子遮へい材139を透過した高速中性子135を熱化させ熱中性子137を取得し、熱中性子検出器132で測定する。
【0082】
このように、放射線計測装置700は、中性子検出器131が、熱中性子遮へい材134,139と、中性子減速材133と、熱中性子検出器132と、を備える。
【0083】
これにより、放射線計測装置700は、図16に示す中性子検出器131の構成が図15に示す中性子検出器131の構成と比較して容量が小さくなることから、装置の小型化に有利である。
放射線計測装置700を用いることで、測定対象物起因のノイズ成分を低減することができ、さらに装置を小型化した測定対象物由来の中性子と周辺バックグラウンド由来の中性子とを高精度に弁別することができる。その結果、装置の小型化や高精度な測定対象物の性状把握を実現することができる。
【0084】
(第8の実施形態)
図17は、本発明の第8の実施形態に係る放射線計測装置の構成を示す図である。図1と同一構成部分には同一符号を付して重複箇所の説明を省略する。
【0085】
図17に示すように、放射線計測装置800は、図1の放射線計測装置100の中性子検出器101、移動手段102、同時計数信号計測装置103、位置情報装置104、同時計数値処理装置105、および同時計数値曲線演算装置106に加えて、多チャンネル中性子検出器140と、多チャンネル対応同時計数信号計測装置141と、を備える。
【0086】
図18は、多チャンネル中性子検出器140(線形配置)の構成を示す図である。
多チャンネル中性子検出器140として、ここでは中性子検出器を線形に配置した構成を示す。線形配置の中性子検出器142は、1次元方向に複数の中性子検出器を配列し、多チャンネル対応同時計数信号計測装置141に接続される。
【0087】
図18では、表示の簡略化のために移動機構102(図1参照)の図示を省略するが、実際には、移動機構102に搭載して使用される。
【0088】
図19は、多チャンネル中性子検出器140(アレイ配置)の構成を示す図である。
多チャンネル中性子検出器140として、ここでは中性子検出器を2次元に配置した構成図を示す。アレイ配置の中性子検出器143は2次元方向に複数の中性子検出器を配列し、多チャンネル対応同時計数信号計測装置141に接続される。
図18と同様に、図18には移動機構102の図示を省略する。
【0089】
このように、放射線計測装置800は、線形配置またはアレイ配置された多チャンネル中性子検出器140を備える。
【0090】
これにより、1次元以上の領域における中性子計測を同時に実施できる放射線計測装置およびその方法を提供できる。この装置を利用することで、測定の高速化や測定対象物のマッピングを実現することができる。
【0091】
[変形例]
第1の実施形態~第8の実施形態の放射線計測装置および放射線計測方法を組み合わせて統合する。
上記各実施形態に係る放射線計測装置および放射線計測方法を統合することで、様々な実行環境に応じて測定対象物の周辺にバックグラウンド線源の影響が強い環境であっても、測定対象物由来の中性子と周辺バックグラウンド由来の中性子とを弁別することができる。
【0092】
なお、本発明は、上記各実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、適宜その構成を変更することができる。
【0093】
上記した各実施形態例は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態例の構成の一部を他の実施形態例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態例の構成に他の実施形態例の構成を加えることも可能である。また、各実施形態例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0094】
100,200,300,400,500,600,700,800 放射線計測装置
101,101a,101b,131 中性子検出器
102 移動機構(移動手段)
103 同時計数信号計測装置
104 位置情報装置
105 同時計数値処理装置
106,125 同時計数値曲線演算装置
107 測定対象物
108 中性子源
109 中性子
110,120,中性子検出器101aによる出力信号
111,121 中性子検出器101bによる出力信号
112,122 同時計数信号
113,123a,123b 検知時間幅
114 計数値曲線
115 同時計数値曲線
116 各測定位置における同時計数値
117,127 測定対象物由来の中性子による同時計数値曲線
118 周辺バックグラウンド線源由来の中性子による同時計数値曲線
119 波高値利用同時計数信号計測装置
124a 中性子検出器101aにおける検知波高値幅
124b 中性子検出器101bにおける検知波高値幅
126 距離幅
128 演算情報格納装置
129 中性子束変換係数記憶部
129a 中性子束変換係数
130 中性子束演算装置
132 熱中性子検出器
133 中性子減速材
134,139 熱中性子遮へい材
135 高速中性子
136 137 熱中性子
138 半割れの中性子減速材
140 多チャンネル中性子検出器
141 多チャンネル対応同時計数信号計測装置
142 線形配置の中性子検出器
143 アレイ配置の中性子検出器
S1001 中性子検出器を移動させる移動ステップ
S1002 中性子検出器の位置情報を取得する位置情報取得ステップ
S1003 1回の反応で同時に放出した複数の中性子を中性子検出器で同時に計数する同時計数信号計測ステップ
S1005 情報取得ステップで取得した位置における同時計数信号計測ステップで得られた同時計数値を処理する同時計数値処理ステップ
S1006,S1007 同時計数値処理ステップで処理された同時計数値の位置依存性曲線から測定対象物由来の同時計数値を演算する同時計数値曲線演算ステップ
S2001 同時計数値の位置依存性曲線における演算領域として測定対象物との距離領域を設定するステップ
S2002 同時計数値曲線演算ステップで演算して演算情報格納装置に格納した演算情報と同時計数値の位置依存性曲線をフィッティングするステップ
S2003 測定対象による同時計数値曲線を抽出するステップ
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