(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】超音波計測装置、超音波計測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/32 20060101AFI20231206BHJP
G01N 29/24 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
G01N29/32
G01N29/24
(21)【出願番号】P 2020138041
(22)【出願日】2020-08-18
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】溝田 裕久
(72)【発明者】
【氏名】北岡 雅則
(72)【発明者】
【氏名】高麗 友輔
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0290568(US,A1)
【文献】特開2014-173939(JP,A)
【文献】特開2004-097588(JP,A)
【文献】特開2000-287969(JP,A)
【文献】特開平05-084245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブを含む計測部と、
前記超音波プローブ内の圧電素子にパルス電圧を印加する送信部と、
前記圧電素子が超音波を受けて生成した電気信号を変換し波形データとして取得する受信部と、
前記送信部および前記受信部を制御する制御部と、を備え、
前記送信部および前記受信部のうち、少なくとも前記受信部に可変整合装置を有し、
前記制御部は、前記受信部が前記電気信号を受信する際の周波数成分値を入力する入力装置と、
前記超音波プローブに対応する整合値の周波数依存性データを格納する記憶装置と、
前記入力装置により入力された周波数成分値および前記記憶装置に格納された整合値の周波数依存性データを参照して前記可変整合装置を制御する整合制御装置と、を有することを特徴とする超音波計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波計測装置であって、
前記制御部は、
前記送信部から出力されるパルス電圧のパルス幅、繰り返し周波数、増幅値および前記受信部のサンプリング周波数を制御する送受信制御装置を有することを特徴とする超音波計測装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波計測装置であって、
前記制御部は、前記電気信号の特定の時間ゲートにおけるピークモニタ、或いは、前記電気信号の周波数解析結果のピーク分析を実施する受信波形評価装置を有することを特徴とする超音波計測装置。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波計測装置であって、
超音波の送受信の制御に必要な値、計測した生波形、処理後の波形を表示する表示部を有することを特徴とする超音波計測装置。
【請求項5】
請求項1に記載の超音波計測装置であって、
前記送信部から複数の異なる周波数のパルス電圧を前記圧電素子に順次印加し、
前記受信部で取得した波形データに基づき被検体を計測することを特徴とする超音波計測装置。
【請求項6】
請求項1に記載の超音波計測装置を用いて被検体の計測を行う超音波計測方法であって、
前記制御部が、超音波の
所望の受信周波数の入力を計測条件の一つとして読み込むステップと、
前記整合制御装置が、前記受信周波数に基づいて、
前記受信部の可変整合装置のインピーダンス調整を実施するステップと、
を有することを特徴とする超音波計測方法。
【請求項7】
請求項3に記載の超音波計測装置を用いて被検体の計測を行う超音波計測方法であって、
前記受信部が、前記圧電素子が超音波を受けて生成した電気信号を変換し受信波形データとして取得するステップと、
前記受信波形評価装置が、前記受信波形データを周波数解析するステップと、
前記受信波形評価装置が、前記周波数解析結果のピーク分析及び抽出を実施するステップと、
前記受信波形評価装置が、前記抽出した周波数を再度計測条件として入力するステップと、
前記整合制御装置が、前記抽出した周波数に基づいて
、前記受信部の可変整合装置のインピーダンス調整を実施するステップと、
を有することを特徴とする超音波計測方法。
【請求項8】
請求項6に記載の超音波計測方法であって、
前記超音波プローブが、複数の異なる周波数の超音波を前記被検体に印加し、
前記受信部で取得した波形データに基づき被検体を計測することを特徴とする超音波計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて計測を行う超音波計測装置及び超音波計測方法に係り、特に、鉄道レールや配管等の拘束された長尺物の計測及び高減衰材の計測に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波に関する技術は、医療・工業・漁業・資源探査と、数々の分野で応用されている。計測技術に限っても、例えば、腹部エコー、非破壊検査、ソナー、海底下構造の可視化などに用いられている。超音波による計測では大抵の場合、超音波プローブを計測対象に対向して配置して超音波を送受信し、音響インピーダンス(音速と密度の積)が異なる境界で発生した散乱波を受信し、受信した波形信号を処理して所望の結果を得る。
【0003】
この時、高シグナルかつ低ノイズな受信信号を得るには、終端部となるプローブのインピーダンスが、終端部までの配線の特性インピーダンス、すなわち、アンプやレシーバといった装置側のインピーダンスと同じ値であれば理想的である。ここで、インピーダンスとは、交流回路における電気抵抗成分のことであり、交流回路では、抵抗はもちろん、コイルやコンデンサも抵抗成分となる。以降、特に断らない場合、インピーダンスは、この電気的なインピーダンスのことを指す。
【0004】
これらのインピーダンスの値が完全に一致していれば、入力波の電気エネルギーが100%プローブに伝わり、強い超音波が発振する。装置側のインピーダンスと、配線の先に接続されるプローブのインピーダンスを合わせることを整合という。
【0005】
もし、インピーダンス値が大きく異なれば、終端部で強い反射が発生し、電気エネルギーがプローブに十分に伝わらず、さらには、反射波が入力波に重ね合わされた形で、プローブから超音波が発振することになり、強いノイズを発振する原因となることがある。
【0006】
医療用や一般工業用の超音波映像化装置/計測装置において利用する主な周波数帯域は、1MHz-15MHz程度である。この周波数帯域において使用するプローブのインピーダンスは、計測に大きな問題が生じるほど50Ωから大きく外れてはいない。このため、特に整合をとらずとも、計測上支障をきたすことは少ない。
【0007】
ところが、物理探査やコンクリート検査など、低周波帯域の超音波計測が主となる計測装置においては、散乱減衰を抑制するための低周波化と、拡散減衰を抑えるための指向性を両立させるため、超音波の発振源である圧電素子の厚さと面積(開口)は共に大きくなる傾向がある。このためインピーダンスはkΩオーダーとなって50Ωから乖離する傾向がある。このように装置側の特性インピーダンスと、配線の先に接続されるプローブのインピーダンスが乖離する(不整合が生じる)場合には、十分な送信性能を出すために整合回路を設ける必要がある。
【0008】
超音波を送受信する場合、プローブに内蔵する圧電素子の厚さが、超音波の発振・受信周波数帯域を決定する主要なファクターとなっている。例えば、公称周波数5MHzの超音波プローブであれば、5MHzが主となる帯域を有するパルス電圧やバースト電圧をプローブに印加して駆動し、プローブから発する5MHz帯域の超音波の反射波を受信し、圧電素子で機械振動を電気信号に変換して、受信波形を得る。このことは、整合回路を設けることになった場合、送信時も受信時も同一の伝送路となるため、当然、同一の整合回路を介することになる。プローブに固有の共振周波数と反共振周波数は比較的近いため、同一の整合回路であっても性能へ大きく影響しない。
【0009】
しかしながら、超音波の非線形現象を利用した計測技術では、高調波・分調波・差周波・和周波を発生させ、受信波より該当する周波数成分を抽出して分析する。このため、送信波の周波数帯域と受信波の周波数帯域は大きく異なることがある。この場合、送信時も受信時も同一の整合回路では、インピーダンス不整合が生じかねない。
【0010】
また、高減衰材を超音波で計測する場合、高減衰材内部を超音波が伝搬していく際に生じる散乱減少により、高周波成分がカットされ、低周波成分が主として残る場合がある。このような場合にも、送信時にはプローブに合わせた周波数となる強い超音波を送信し、受信時には検知したい周波数帯域で高感度となるように整合させる必要があり、同一の整合回路では不整合が生じかねない。
【0011】
さらには、共振周波数を大きく外して、任意の周波数で送受信するような利用方法を想定した場合においても、送信周波数に応じて送信側・受信側ともに不整合を生じかねない。
【0012】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1では、超音波の送受信で得られた波形の電気ノイズ(ホワイトノイズ)を抑制するために、通常であればソフトウェアで加算・平均化処理を実施するが、複数回の波形取得で時間を要するところを課題に挙げ、同時に使用するレシーバの数を増やしてハードウェアで加算・平均化処理することが開示されている。
【0013】
また、特許文献2では、送受信兼用型のプローブが示されており、圧電振動子の受信ラインに圧電振動子における共振周波数を低周波数側に変化させる制動容量消去回路を設け、超音波信号の送信時には圧電振動子を共振周波数で駆動し、超音波信号の受信時には制動容量消去回路によって圧電振動子における反共振周波数を低周波数側に変化させて最大限の受信感度を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2014-173939号公報
【文献】特開平11-153665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述したように、超音波計測において、送信波の周波数帯域と受信波の周波数帯域が大きく異なる場合、送信時にはプローブまでの装置側のインピーダンスとプローブのインピーダンスが整合していたとしても、受信側で不整合となり、超音波の計測感度の低下が生じる。
【0016】
上記特許文献1には、同時に使用するレシーバの数が増えてプローブとの電気整合の値が変わるため、このレシーバの数を元に可変整合回路を調整して送受信性能を改善する必要があると記載されている。しかしながら、特許文献1では、上記のような送信時と受信時の周波数の相違による課題については言及されていない。
【0017】
また、上記特許文献2では、送信波と受信波の周波数が同一であることを前提としており、特許文献1と同様に、送信時と受信時の周波数の相違による課題については触れられていない。
【0018】
そこで、本発明の目的は、超音波を用いて計測を行う超音波計測装置及び超音波計測方法において、計測対象や計測条件に応じて超音波の送信時及び受信時のインピーダンスをそれぞれ独立して整合可能な超音波計測装置及び超音波計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明は、超音波プローブを含む計測部と、前記超音波プローブ内の圧電素子にパルス電圧を印加する送信部と、前記圧電素子が超音波を受けて生成した電気信号を変換し波形データとして取得する受信部と、前記送信部および前記受信部を制御する制御部と、を備え、前記送信部および前記受信部のうち、少なくとも前記受信部に可変整合装置を有し、前記制御部は、前記受信部が前記電気信号を受信する際の周波数成分値を入力する入力装置と、前記超音波プローブに対応する整合値の周波数依存性データを格納する記憶装置と、前記入力装置により入力された周波数成分値および前記記憶装置に格納された整合値の周波数依存性データを参照して前記可変整合装置を制御する整合制御装置と、を有することを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、上記の特徴を有する超音波計測装置を用いて被検体の計測を行う超音波計測方法であって、前記制御部が、超音波の所望の受信周波数の入力を計測条件の一つとして読み込むステップと、前記整合制御装置が、前記受信周波数に基づいて、前記受信部の可変整合装置のインピーダンス調整を実施するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、超音波を用いて計測を行う超音波計測装置及び超音波計測方法において、計測対象や計測条件に応じて超音波の送信時及び受信時のインピーダンスをそれぞれ独立して整合可能な超音波計測装置及び超音波計測方法を提供することができる。
【0022】
これにより、送信時の出力と受信時の感度をそれぞれ最大化することができ、超音波による高精度な計測を実現できる。
【0023】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施例1に係る超音波計測装置の概略構成図である。
【
図3】本発明の実施例2に係る超音波計測方法を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の実施例3に係る送信側と受信側におけるインピーダンス整合方法を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の実施例3に係るインピーダンス整合値の周波数特性を示す図である。
【
図6】本発明の実施例4に係る超音波計測装置の概略構成図である。
【
図7】本発明の実施例4に係る超音波計測方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【実施例1】
【0026】
図1及び
図2を参照して、本発明の実施例1の超音波計測装置の構成と動作(作用)について説明する。
図1は、本実施例の超音波計測装置1の概略構成図である。本実施例の超音波計測装置1は、大別して、超音波プローブを含む計測部2と、送信部3と、受信部4と、制御・処理部(コンピュータ)5と、表示部6からなる。なお、
図1では、超音波計測装置1の構成として表示部6を含む例を示しているが、表示部6は超音波計測装置1とは独立に設置されていても良い。
【0027】
計測部2は、主に、超音波プローブ、被検体、及びそれらの固定治具(図示せず)からなる。超音波プローブは、単一素子の単一型のプローブでも良いし、複数の素子を備えたアレイプローブでも良い。
【0028】
送信部3と受信部4は、送信部3だけでなく受信部4も各々の線路上で整合をとることにより、送信時には超音波プローブに対して電力の伝達効率を最大にして強い超音波を発振するとともに、受信時には振動を電気信号に圧電素子(図示せず)で変換し、その電気信号をレシーバに効率良く伝達することができる。
【0029】
送信部3は、パルサ7とアンプ8と可変整合装置A(9)からなる。パルサ7では、制御・処理部(コンピュータ)5の入力装置10で受け付けた送信パルス、或いは記憶装置11に格納された送信パルスの形状及び電圧を繰り返し周波数等の値に基づいてアンプ8へ信号を送信する。アンプ8では、送信された信号を増幅値に基づいて増幅する。
【0030】
可変整合装置A(9)では、送信周波数の値を参照して、アンプ8と計測部2の超音波プローブのインピーダンスを整合する。整合が取れた状態で、超音波プローブ内の圧電素子に電圧を印加し超音波を発振する。
【0031】
受信部4は、もう一つの可変整合装置B(12)とレシーバ13からなる。可変整合装置B(12)では、受信周波数の値を参照して、超音波プローブとレシーバ13のインピーダンスを整合する。整合した状態で、超音波を圧電素子で受けて発生した電気信号を増幅・A/D変換等を行い波形データとして取得し、後述する制御・処理部(コンピュータ)5の受信波形データを格納するメモリへデータ転送する。
【0032】
可変整合は、可変コンデンサ、可変コイル、可変抵抗のいずれかを含む電子回路により連続的に調整するか、或いは、可変でないコンデンサ、コイル、抵抗などを複数個用いて整合回路を組んでおいてスイッチで接続制御することで離散的に調整することができる。
【0033】
制御・処理部(コンピュータ)5は、記憶装置11と、送受信制御装置14と、入力装置10と、整合制御装置15からなる。
【0034】
図2に、記憶装置11に格納するデータの概略図を示す。記憶装置11には、本発明の特徴となる受信周波数データをはじめ、
図1の入力装置10で受け付ける送受信条件としての値に加えて、送信周波数データ、プローブ仕様データ、表示(ゲート)条件、送信波形データ、受信波形データ、受信波形解析データなどを格納する。
【0035】
送受信制御装置14は、送信パルス電圧の電圧、パルス幅、繰り返し周波数、増幅値、サンプリング周波数、データ保存タイミング等を制御する機能を有する。
【0036】
入力装置10は、キーボード、マウス、タッチパネル等の手段を用いて入力する一般的な機器からなる。
【0037】
整合制御装置15は、送信部3にある可変整合装置A(9)と受信部4にあるもう一つの可変整合装置B(12)を、記憶装置11に格納された送信時に用いる周波数と、受信時に所望する周波数を用いて制御することができる。
【0038】
表示部6は、超音波の送受信の制御や収録条件に必要な値の他、計測した生波形、処理した後の波形、画像再構成結果などを表示する機能を有する。
【0039】
なお、本発明の構成としては必須ではないが、超音波プローブを走査する場合には、走査部が必要となる。走査部は、スキャナとスキャナ制御装置からなる。スキャナは超音波プローブや被検体を固定・走査・可動する。スキャナ制御装置は、制御・処理部(コンピュータ)5に格納された走査条件に基づき、定められたタイミング及び範囲で超音波プローブや被検体を走査・可動し、超音波プローブと被検体の相対的な位置関係を変えることができる。
【0040】
以上説明したように、本実施例の超音波計測装置1は、超音波プローブを含む計測部2と、超音波プローブ内の圧電素子にパルス電圧を印加する送信部3と、圧電素子が超音波を受けて生成した電気信号を変換し波形データとして取得する受信部4と、送信部3および受信部4を制御する制御部(制御・処理部5)を備えており、送信部3および受信部4のうち、少なくとも受信部4に可変整合装置B(12)を有しており、制御部(制御・処理部5)は、受信部4が電気信号を受信する際の周波数成分値を入力する入力装置10と、超音波プローブに対応する整合値の周波数依存性データを格納する記憶装置11と、電気信号の周波数を参照して可変整合装置B(12)を制御する整合制御装置15を有している。
【0041】
本実施例によれば、計測対象や計測条件に応じて超音波の送信時及び受信時のインピーダンスをそれぞれ独立して整合することができる。
【0042】
また、送信時の周波数帯域と受信時の周波数帯域が異なっていたとしても、送信時の出力と受信時の感度をそれぞれ最大化することにより、計測性能を向上させることができる。
【実施例2】
【0043】
図3を参照して、
図1で示した超音波計測装置1を用いた検査方法について説明する。
図3は、本実施例の超音波計測方法を示すフローチャートである。なお、ベースとなる基本的な検査方法は、一般の超音波映像化装置と同様である。
【0044】
先ず、ステップS000で、超音波計測を開始する。次に、ステップS001で、計測条件を読み込む。ここで、本発明の特徴となるステップS001で読み込むデータである受信周波数は、ステップS008で入力装置10から記憶装置11に入力しておく。受信周波数は、所望する受信信号に含まれる周波数分布のうち、特に着目したい周波数が予測できる場合に入力する値となる。
【0045】
例えば、送信波に含まれる主な周波数をfとして、送受信の間で生じた非線形現象によりf/2,2f,3f・・・という分調波・高調波を感度良く検出したい場合、2周波数(fa,fb:fb<fa)が混合するパラメトリック波を用いて2波の差周波成分となるfa-fbとなる周波数を感度良く検出したい場合が挙げられる。
【0046】
その他の読み込むべき一般的な計測条件としては、上述の通り、送受信の設定条件として、超音波プローブに印加する電圧波形、送受信を繰り返すための繰り返し周波数、また、必要に応じて、受信波形のピーク強度を抽出するための時間ゲート、周波数フィルタなどが挙げられる。
【0047】
なお、超音波プローブに印加する電圧波形は予め、ステップS007で特定の関数に定数を読み込んだり、任意の波形データを利用するなど送信波形を生成しておくと良い。
【0048】
ステップS001で計測条件の読み込みが完了した後、ステップS002で整合制御装置15により送信部3の可変整合装置A(9)と受信部4の可変整合装置B(12)の値を、後述する方法で、それぞれ送信部3と受信部4で整合させる。
【0049】
ステップS002で送信側及び受信側のインピーダンス整合(調整)が終了した後、ステップS003で被検体に対して超音波を送信し、ステップS004で超音波を受信し、ステップS005で受信波形を表示部6に表示、或いは、記憶装置11に保存して、ステップS006で計測を終了する。
【実施例3】
【0050】
図4及び
図5を参照して、実施例2(
図3)のステップS002における送信側及び受信側のインピーダンス調整について詳しく説明する。
図4は、本実施例の送信側と受信側におけるインピーダンス整合方法を示すフローチャートである。
図5は、インピーダンス整合値の周波数特性を示す図である。
【0051】
先ず、ステップS100で送信部3における整合を開始する。
【0052】
次に、ステップS101で入力波形(送信波形)に含まれる最も強い周波数成分を入力値として読み込む。大抵の場合、超音波プローブ内部にある圧電振動子の厚さに影響される共振周波数に近い値を入力することになる。但し、例外的に、共振周波数を大きく外れた周波数、例えば、共振周波数が5MHzであっても100kHz程度の電圧を与えるなど、故意に共振周波数から大きく外すことで、与えた周波数で超音波を発振することができる。
【0053】
いずれの場合にせよ、次のステップS102で、制御・処理部(コンピュータ)5の整合制御装置15に発振したい周波数を入力して、その周波数における超音波プローブのインピーダンスがアンプ8のインピーダンス(大抵50Ω)と合うように可変整合装置A(9)を整合制御装置15によってインピーダンス調整する。
【0054】
送信部3のインピーダンス調整が終了した後、ステップS103で受信部4における整合を開始する。
【0055】
続いて、ステップS104で、上述の通り、得られる受信信号で所望する周波数成分の値を入力値として読み込む。
【0056】
次に、ステップS105で、制御・処理部(コンピュータ)5の整合制御装置15に発振したい周波数を入力して、その周波数における超音波プローブのインピーダンスがレシーバ13のインピーダンス(同じく大抵50Ω)と合うように可変整合装置B(12)を整合制御装置15によってインピーダンス調整する。
【0057】
最後に、ステップS106で送信部3の可変整合装置A(9)及び受信部4の可変整合装置B(12)の調整を終了し、
図3におけるステップS003の超音波の送信に移ることになる。
【0058】
送信部3及び受信部4の可変整合のインピーダンス値を求める方法について、
図5に示すコイルとコンデンサを用いた代表的な整合回路を用いて説明する。インピーダンス整合に必要なコイル・コンデンサの値は、超音波プローブのインピーダンスの周波数特性をインピーダンスアナライザ等で予め把握しておき、超音波計測装置側のインピーダンス(大抵50Ω)と、整合させたい周波数における超音波プローブのインピーダンスを求め、連立方程式を解けば求めることができる。
【0059】
この連立方程式では、超音波プローブのインピーダンスのレジスタンス分とリアクタンス分について、同じく装置側のインピーダンスのレジスタンス分(大抵50Ω)とリアクタンス分(大抵0Ω)と整合するように各々の方程式を解くことになる。この連立方程式の解に従い、可変整合のインピーダンスを制御すれば良い。
【0060】
このため、超音波プローブのプローブ型番とインピーダンス周波数特性データを紐づけて記憶装置11に記憶しておき、計測準備段階においてプローブ型番を指定し、可変整合で調整すべき値を求めておくと良い。
【実施例4】
【0061】
図6及び
図7を参照して、本発明の実施例4の超音波計測装置の構成と動作(作用)について説明する。
図6は、本実施例の超音波計測装置1の概略構成図である。
図7は、本実施例の超音波計測方法を示すフローチャートである。
【0062】
本実施例では、送信信号に対して得られる受信信号が予測できない場合、すなわち、受信信号に含まれる周波数が予測できない場合について説明する。
【0063】
本実施例の超音波計測装置1は、
図6に示すように、実施例1(
図1)の制御・処理部(コンピュータ)5に替えて入力・制御部16を備える点において、実施例1とは異なっている。その他の構成は、実施例1(
図1)と同様である。
【0064】
入力・制御部16は、記憶装置11と、送信/受信周波数入力装置17と、入力波形制御装置18と、受信波形評価装置19と、可変整合制御装置20からなる。
【0065】
受信信号に含まれる周波数が予測できない場合、入力・制御部16に受信波形評価装置19を設け、受信波形を周波数解析すればよい。
【0066】
この時の計測方法について、
図7を用いて説明する。実施例2(
図3)に示したステップS005までは同一である。
【0067】
本実施例では、
図7に示すように、先ず、ステップS201で、受信波形をフーリエ変換に代表される周波数解析をする。
【0068】
次に、ステップS202で、周波数解析結果の周波数分布のピーク分析を実施し、ピークとなる周波数を抽出し、保存する。
【0069】
続いて、ステップS203で、ステップS202で得られた結果に基づき、受信周波数を再入力する。この時、ピークとなる周波数が複数あっても良い。
【0070】
次に、ステップS204で計測条件の再読み込みを行い、ステップS205で受信部4の可変整合装置B(12)のインピーダンスを再調整する。
【0071】
続いて、ステップS206で超音波を送信し、ステップS207で超音波を受信し、ステップS208で計測結果を表示・保存する。
【0072】
次に、ステップS209で、抽出された周波数全てにおいて受信部4の可変整合装置B(12)を再調整して測定が完了したかを判断する。完了していなければステップS203に戻り、完了していればステップS210で計測を終了する。
【0073】
このような方法をとることで、例えば、高減衰材を対象として超音波を伝搬さて計測を行うような場合、高周波成分の散乱減衰により、送信信号に含まれる周波数分布よりも受信信号に含まれる周波数分布が低周波側へシフトするような予測ができない場合にも対応することができる。
【実施例5】
【0074】
本発明の実施例5の超音波計測装置及び超音波計測方法について説明する。
【0075】
本実施例では、故意に共振周波数から大きく外すことで、与えた周波数で超音波を発振し、複数の異なる周波数帯域で計測する場合について一例をあげて説明を補足する。このような計測は、ガイド波検査などで実施されることがある。
【0076】
共振周波数が5MHzのプローブを20kHz,40kHz,60kHz,80kHz,100kHzで発振する場合、送信部3の可変整合装置A(9)と受信部4の可変整合装置B(12)を20kHzに合わせた値に調整し、送受信をして波形を保存する。40kHz,60kHz,80kHz,100kHzについても順次実施していくと良い。
【実施例6】
【0077】
本発明の実施例6の超音波計測装置及び超音波計測方法について説明する。
【0078】
送信部3及び受信部4の可変整合のインピーダンス値を連立方程式の解に従って調整しても、実際の値とのずれが生じることがある。この場合、例えば、明らかな反射信号、例えば、金属構造物における超音波検査でいうところの底面(形状)エコー、水浸法であれば被検体表面エコーを対象として受信波形に時間ゲートをかけて波高値をモニタリングしてそれぞれの整合回路を微調整すると良い。
【0079】
すなわち、連立方程式の解を初期値として、送信部3の可変整合装置A(9)を初期値周辺でスキャンして受信波形が最大の波高値となるところを最適値とする。次に、受信部4の可変整合装置B(12)においても、初期値周辺でスキャンして受信波形が最大の波高値となるところを最適値とする。このように送信側と受信側の可変整合のインピーダンスを独立に制御して最適となる値を見つけると良い。
【0080】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記の実施例は本発明に対する理解を助けるために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0081】
1…超音波計測装置、2…計測部、3…送信部、4…受信部、5…制御・処理部(コンピュータ)、6…表示部、7…パルサ、8…アンプ、9…可変整合装置A、10…入力装置、11…記憶装置、12…可変整合装置B、13…レシーバ、14…送受信制御装置、15…整合制御装置、16…入力・制御部、17…送信/受信周波数入力装置、18…入力波形制御装置、19…受信波形評価装置、20…可変整合制御装置。