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特許7397788全固体電池用活物質、全固体電池用電極及び全固体電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】全固体電池用活物質、全固体電池用電極及び全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20231206BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20231206BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20231206BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20231206BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231206BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231206BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20231206BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231206BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231206BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231206BHJP
【FI】
H01M4/36 C
H01M4/13
H01M4/36 A
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0562
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020501396
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 JP2019045545
(87)【国際公開番号】W WO2020105695
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2018218263
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】孫 仁徳
(72)【発明者】
【氏名】福井 弘司
(72)【発明者】
【氏名】中壽賀 章
(72)【発明者】
【氏名】澤田 裕樹
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-049001(JP,A)
【文献】特開2012-074323(JP,A)
【文献】国際公開第2012/157046(WO,A1)
【文献】特開2015-125877(JP,A)
【文献】国際公開第2019/240021(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36
H01M 4/13
H01M 4/38
H01M 4/48
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/58
H01M 4/62
H01M 10/052
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質の表面がアモルファスカーボンを含む被覆層で被覆された全固体電池用活物質であって、
前記被覆層は、前記活物質の表面の少なくとも一部を被覆するものであり、
前記活物質は、正極活物質、又は、負極活物質であり、
前記負極活物質は、ケイ素含有化合物である、
全固体電池用活物質。
【請求項2】
被覆層は、窒素原子を含有し、平均膜厚が200nm以下であり、膜厚の変動係数(CV値)が20%以下である、請求項1に記載の全固体電池用活物質。
【請求項3】
被覆層の表面に、更に、被覆層に含まれるアモルファスカーボンよりも導電性の高い導電性材料を有する、請求項1~2のいずれかに記載の全固体電池用活物質。
【請求項4】
導電性材料の体積抵抗率が、5.0×10-2Ω・cm以下である、請求項3に記載の全固体電池用活物質。
【請求項5】
導電性材料が、ナノカーボン材料である、請求項3~4のいずれかに記載の全固体電池用活物質。
【請求項6】
ナノカーボン材料が、カーボンナノ粒子、カーボン量子ドット、グラフェン量子ドット、多層グラフェン、単層グラフェン、グラフェンライク炭素、ナノサイズ化したグラファイト及び還元型酸化グラフェンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の全固体電池用活物質。
【請求項7】
活物質の導電率に対する導電率の比(全固体電池用活物質の導電率/活物質の導電率)が1.2以上である、請求項1~6のいずれかに記載の全固体電池用活物質。
【請求項8】
正極活物質は、リチウム金属酸化物である、請求項1~7のいずれかに記載の全固体電池用活物質。
【請求項9】
リチウム金属酸化物は、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiMnCoO、LiCoPO、LiMnCrO、LiNiVO、LiMn1.5Ni0.5、LiCoVO4、LiFePO、LiNi1-x-yCoMn(式中、xは0.1≦x≦0.4、yは0.1≦y≦0.4の関係を満たす)、及び、LiNiCo1.5Al0.5からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項に記載の全固体電池用活物質。
【請求項10】
請求項1~のいずれかに記載の全固体電池用活物質と、固体電解質とを含む全固体電池用電極。
【請求項11】
請求項10に記載の全固体電池用電極を含む全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池特性に優れた全固体電池を製造することが可能な全固体電池用活物質に関する。また、該全固体電池用活物質を含む全固体電池用電極、及び、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池等の、種々の蓄電装置の開発が盛んに行われている。特に、リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、高い電圧が得られるため、ノートパソコンや携帯電話等のバッテリーによく使われている。リチウムイオン二次電池は、一般的に、正極、液体の有機電解質、負極、及び正極と負極との間に設置される分離膜(セパレータ)により構成される。正極としては、リチウムイオンを含む正極活物質、導電助剤、及び有機バインダー等からなる電極合剤を金属箔(集電体)の表面に固着させたものが用いられ、負極としては、リチウムイオンの脱挿入可能な負極活物質、導電助剤、及び有機バインダー等からなる電極合剤を金属箔の表面に固着させたものが使用されている。
【0003】
しかしながら、液体の有機電解質を用いるリチウムイオン二次電池は、電池からの電解質の漏出や、短絡時の発火等の問題があり、さらなる安全性の向上が求められている。
このような問題に対応して、液体の有機電解質の代わりに無機材料や高分子材料等から構成される固体電解質を用いた全固体電池が開発されている(例えば、非特許文献1)。
一方、全固体電池の活物質としては、コバルト酸リチウム等のリチウム遷移金属複合酸化物が用いられているが、これらの活物質は電気抵抗が高く、導電性が不充分であるという問題があった。
【0004】
これに対して、特許文献1には、表面の少なくとも一部が炭素材料によって被覆されている正極材料を用いることで、正極材料の導電性を向上させることが記載されている。
また、特許文献2には、平均粒径が10μm以下であり、かつ、充電時にアルカリ金属、アルカリ土類金属を取り込むことができ、放電時にこれらを放出することができる特定の物質の粉末、及び、イオン導電性物質の粉末を含む負極合材を用いることで電圧異常を抑制できることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】小久見善八編著、「リチウム二次電池」、ローム社、2008年3月、pp.163-175
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-048890号公報
【文献】特開2013-69416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の材料を用いた全固体電池でも初期クーロン効率やサイクル特性が不充分であるという問題がある。
また、特許文献2に記載の材料を用いた全固体電池でも初期クーロン効率、サイクル特性が低く、高レートで安定な充放電ができないという課題がある。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、電池特性に優れた全固体電池を製造することが可能な全固体電池用活物質を提供することを目的とする。また、該全固体電池用活物質を含む全固体電池用電極、及び、全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、活物質の表面がアモルファスカーボンを含む被覆層で被覆された全固体電池用活物質であって、前記被覆層は、前記活物質の表面の少なくとも一部を被覆するものである全固体電池用活物質である。
以下、本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、初期クーロン効率やサイクル特性、レート特性の低下は、活物質同士や活物質と固体電解質との間の接合性が低く、その結果、活物質間の電子伝導性や活物質と固体電解質との間のイオン伝導性が不充分となっていることが大きな原因であると推測し、検討を進めた。その結果、全固体電池用活物質として、活物質の表面に特定の構造を有する被覆層を形成することで、活物質間、及び、活物質と固体電解質の界面の接合性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の全固体電池用活物質は、活物質の表面がアモルファスカーボンを含む被覆層で被覆されたものである。
【0012】
上記活物質としては、正極活物質、負極活物質が挙げられる。
上記正極活物質は、後述の負極活物質よりも電池反応電位が高い「貴」のものであればよい。その際、電池反応は、1族若しくは2族のイオンが関与していればよく、そのようなイオンとしては、例えば、Hイオン、Liイオン、Naイオン、Kイオン、Mgイオン、Caイオン、Alイオンが挙げられる。以下、Liイオンが電池反応に関与する系について詳細を例示する。
【0013】
Liイオンが電池反応に関与する系における上記正極活物質としては、例えば、リチウム金属酸化物、リチウム硫化物、硫黄が挙げられる。
上記リチウム金属酸化物としては、スピネル構造、層状岩塩構造、又はオリビン構造を有するものが挙げられる。
上記リチウム金属酸化物としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、コバルトマンガン酸リチウム(LiMnCoO)、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO)、クロム酸マンガンリチウム(LiMnCrO)、バナジウムニッケル酸リチウム(LiNiVO)、ニッケル置換マンガン酸リチウム(例えば、LiMn1.5Ni0.5)、バナジウムコバルト酸リチウム(LiCoVO)、鉄リン酸リチウム(LiFePO)からなる群より選ばれた少なくとも1種、または上記組成の一部を金属元素で置換した非化学量論的化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の何れか又は双方を含む化合物等が挙げられる。上記金属元素としては、Mn、Mg、Ni、Co、Cu、Zn、Al及びGeからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
上記組成の一部を金属元素で置換した非化学量論的化合物としては、例えば、LiNi1-x-yCoMn、LiNiCo1.5Al0.5等の三元系正極活物質が挙げられる。なお、LiNi1-x-yCoMn中、xは0.1≦x≦0.4、yは0.1≦y≦0.4の関係を満たすものである。
なかでも、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム及び鉄リン酸リチウムの群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0014】
上記正極活物質の形状としては、例えば、粒子状、薄片状、繊維状、管状、板状、多孔質状等が挙げられる。なかでも、正極活物質の充填密度を高める観点から、粒子状、薄片状であることが好ましい。
また、上記正極活物質が粒子状である場合、その平均粒子径は好ましい下限が0.02μm、より好ましい下限が0.05μm、更に好ましい下限が0.1μm、好ましい上限が40μm、より好ましい上限が30μm、更に好ましい上限が20μmである。
【0015】
上記負極活物質は、上述の正極活物質よりも電池反応電位が低い「卑」のものであればよい。その際、電池反応は、1族若しくは2族のイオンが関与していればよく、そのようなイオンとしては、例えば、Hイオン、Liイオン、Naイオン、Kイオン、Mgイオン、Caイオン、Alイオンが挙げられる。以下、Liイオンが電池反応に関与する系について詳細を例示する。
【0016】
Liイオンが電池反応に関与する系における負極活物質としては、例えば、金属、金属化合物、炭素材料、有機化合物等が挙げられる。
上記金属としては、例えば、Li、Mg、Ca、Al、Si、Ge、Sn、Pb、As、Sb、Bi、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Ti、In等が挙げられる。なかでも、体積エネルギー密度及び重量エネルギー密度の観点から、Li、Al、Si、Ge、Sn、Ti、Pb、Inが好ましく、Li、Si、Sn、Tiがより好ましい。また、リチウムイオンとの反応性がより一層高いことから、Si、Snがさらに好ましい。上記金属は、単独で用いてもよいし、上記金属が2種類以上含まれる合金でもよい。また、2種類以上の金属を混合したものでもよい。また、安定性をより一層向上させるために、上記金属以外の金属を含む合金や、PやB等の非金属元素がドープされたものでもよい。
【0017】
上記金属化合物としては、金属酸化物、金属窒化物又は金属硫化物が例示される。安定性をより一層高める観点から、金属酸化物が好ましい。金属酸化物としては、リチウムイオンとの反応性がより一層高いことから、シリコン酸化物、スズ酸化物、チタン酸化物、タングステン酸化物、ニオブ酸化物、又はモリブデン酸化物が好ましい。
なお、本明細書において、上記「チタン酸化物」には、チタン酸リチウム、HTi1225も含まれる。
上記金属化合物は、単独で用いてもよいし、2種類以上の金属で構成される合金の化合物であってもよい。2種類以上の金属化合物を混合したものであってもよい。さらに、安定性をより一層向上させるために、異種金属や、PやB等の非金属元素がドープされていてもよい。
また、上記負極活物質としては、ケイ素含有化合物が好ましい。上記ケイ素含有化合物としては、Si、シリコン含有合金、シリコン酸化物等が挙げられる。
【0018】
上記負極活物質の形状としては、例えば、粒子状、薄片状、繊維状、管状、板状、多孔質状等が挙げられる。なかでも、正極活物質の充填密度を高める観点から、粒子状、薄片状であることが好ましい。
また、上記負極活物質が粒子状である場合、その平均粒子径は好ましい下限が0.001μm、より好ましい下限が0.005μm、更に好ましい下限が0.01μm、好ましい上限が40μm、より好ましい上限が30μm、更に好ましい上限が10μm、特に好ましい上限が1.0μmである。
【0019】
本発明の全固体電池用活物質は、アモルファスカーボンを含む被覆層を有する。このような被覆層を有することで、活物質同士、及び、活物質と固体電解質との接合性を向上させて、電子伝導性、イオン伝導性を向上させることができる。
また、上記被覆層は、高温焼成プロセスを必要せず、簡易なプロセスで作製することができる。
【0020】
上記被覆層は、活物質の表面の少なくとも一部に形成されていればよい。被覆効果をより一層発揮させるためには、上記被覆層は、活物質の表面全体を被覆するように形成されていることが好ましい。
【0021】
上記被覆層は、緻密性が高いことがより好ましい。本発明では、緻密性の高い被覆層が形成されることで、活物質同士、及び、活物質と固体電解質との接合性をより向上させて、電子伝導性、イオン伝導性をより向上させることができる。
なお、緻密な被覆層としての“緻密性”の厳密な定義はないが、本発明では、高解像度の透過電子顕微鏡を用いて一個一個のナノ粒子を観察した時に、図1のように、粒子表面の被覆層がはっきり観察され、かつ、被覆層が連続に形成されていることを“緻密”と定義する。
【0022】
上記被覆層を構成するアモルファスカーボンは、sp2結合とsp3結合が混在したアモルファス構造を有し、炭素からなるものであるが、ラマンスペクトルを測定した場合のGバンドとDバンドのピーク強度比が1.0以上であることが好ましい。
上記アモルファスカーボンをラマン分光で測定した場合、sp2結合に対応したGバンド(1580cm-1付近)及びsp3結合に対応したDバンド(1360cm-1付近)の2つのピークが明確に観察される。なお、炭素材料が結晶性の場合には、上記の2バンドのうち、何れかのバンドが極小化してゆく。例えば、単結晶ダイヤモンドの場合は1580cm-1付近のGバンドが殆ど観察されない。一方、高純度グラファイト構造の場合は、1360cm-1付近のDバンドが殆ど現れない。
本発明では、特にGバンドとDバンドのピーク強度比(Gバンドでのピーク強度/Dバンドでのピーク強度)が1.5以上であることで、形成されたアモルファスカーボン膜の緻密性が高く、高温における粒子間の焼結抑制効果も優れることとなる。
上記ピーク強度比が1.0未満であると、膜の緻密性と高温における焼結抑制効果が不十分であることだけではなく、膜の密着性及び膜強度も低下することとなる。
上記ピーク強度比は1.2以上であることが好ましく、10以下であることが好ましい。
【0023】
GバンドとDバンドのピーク強度比を調整する方法としては、熱処理時の加熱温度の調整やアモルファスカーボンの原料の選択等が挙げられる。具体的には、熱処理時の加熱温度を高めることにより、Gバンドのピーク強度が増加する傾向にある。
【0024】
上記被覆層を構成するアモルファスカーボンは、ラマンスペクトルを測定した場合のGバンドのピークの半値幅の好ましい上限が200cm-1、より好ましい上限が180cm-1である。上記半値幅の下限は特に限定されず、小さいほどよい。
【0025】
上記被覆層は、密度の好ましい上限が2.0g/cm、より好ましい上限が1.8g/cmである。上記密度の下限は特に限定されないが、好ましい下限が0.5g/cmである。
上記密度は、例えば、X線反射率測定により求めることができる。
【0026】
上記被覆層を構成するアモルファスカーボンは、オキサジン樹脂が含有するカーボンに由来するものであることが好ましい。上記オキサジン樹脂は低温で炭化が可能であることから、コストを低減することが可能となる。
上記オキサジン樹脂は、一般にフェノール樹脂に分類される樹脂であるが、フェノール類とホルムアルデヒドに加えて、さらにアミン類を加えて反応させることで得られる熱硬化樹脂である。なお、フェノール類において、フェノール環にさらにアミノ基があるようなタイプ、例えば、パラアミノフェノールのようなフェノールを用いる場合には、上記反応でアミン類を加える必要はなく、炭化もしやすい傾向にある。炭化のしやすさでは、ベンゼン環ではなく、ナフタレン環を用いることで、さらに炭化がしやすくなる。
【0027】
上記オキサジン樹脂としては、ベンゾオキサジン樹脂、ナフトオキサジン樹脂があり、このうち、ナフトオキサジン樹脂は、最も低温で炭化しやすいため好適である。以下にオキサジン樹脂の構造の一部として、ベンゾオキサジン樹脂の部分構造を式(1)に、ナフトオキサジン樹脂の部分構造を式(2)に示す。
このように、オキサジン樹脂とは、ベンゼン環又はナフタレン環に付加した6員環をもつ樹脂のことをさし、その6員環には、酸素と窒素が含まれ、これが名前の由来となっている。
【0028】
【化1】
【0029】
上記オキサジン樹脂を用いることにより、エポキシ樹脂等の他の樹脂に比べてかなり低温でアモルファスカーボンの皮膜を得ることが可能となる。具体的には200℃以下の温度で炭化が可能である。特に、ナフトオキサジン樹脂を用いることで、より低温で炭化させることができる。
このように、オキサジン樹脂を用いて、より低温で炭化させることにより、アモルファスカーボンを有し、緻密性の高い被覆層を形成することができる。
アモルファスカーボンを有し、緻密性の高い被覆層を形成できる理由については明らかではないが、例えば、オキサジン樹脂としてナフトオキサジン樹脂を使用した場合、樹脂中のナフタレン構造が低温加熱によって局部的に繋がり、分子レベルで層状構造が形成されるためであると考えられる。上記層状構造は、高温処理されていないため、グラファイトのような長距離の周期構造までは進展しないため、結晶性は示さない。
得られたカーボンが、グラファイトのような構造であるか、アモルファス構造であるかは、後述するX線回折法によって、2θが26.4°の位置にピークが検出されるか否かにより確認することができる。
【0030】
上記ナフトオキサジン樹脂の原料として用いられるのは、フェノール類であるジヒドロキシナフタレンと、ホルムアルデヒドと、アミン類とである。なお、これらについては後に詳述する。
【0031】
上記アモルファスカーボンは、上記オキサジン樹脂を150~800℃の温度で熱処理することにより得られるものであることが好ましい。本発明では、低温で炭化が可能なナフトオキサジン樹脂を用いていることで、比較的低温でアモルファスカーボンとすることが可能となる。
このように低温で得られることで、従来より低コスト、且つ簡便なプロセスで作製できるという利点がある。
上記熱処理の温度は200~600℃であることがより好ましい。
【0032】
上記被覆層は、カーボン以外の元素を含有しても良い。カーボン以外の元素としては、例えば、窒素、水素、酸素等が挙げられる。このような元素の含有量は、カーボンとカーボン以外の元素との合計に対して、10原子%以下であることが好ましい。
【0033】
上記被覆層は、窒素原子を含有することが好ましい。窒素原子を含有することで、純粋なカーボン被覆よりも優れる物性を有する被覆層とすることができる。
上記被覆層の窒素含有量は、好ましい下限が0.05原子%、より好ましい下限が0.1原子%、好ましい上限が5.0原子%、より好ましい上限が3.0原子%である。
窒素含有量が上記範囲内であると、より優れた物性を有する被覆層とすることができる。
上記窒素含有量は、X線光電子分光法により測定することができる。X線光電子分光法による窒素含有量の測定の詳細としては、後述する実施例で示すとおりである。
【0034】
本発明の全固体電池用活物質において、上記被覆層の含有量は、好ましい下限が0.5重量%、より好ましい下限が1重量%、好ましい上限が50重量%、より好ましい上限が30重量%、さらに好ましい上限が20重量%、特に好ましい上限が15重量%である。
上記被覆層の含有量は、熱重量分析(TG-DTA)により測定することができる。
【0035】
上記被覆層の平均膜厚の好ましい上限は200nm、より好ましい上限は170nmである。また、上記平均膜厚の好ましい下限は0.5nm、より好ましい下限は1nmである。
被覆層の平均膜厚が上記範囲にすることで、活物質同士、及び、活物質と固体電解質との間の接合性を良好なものとすることができる。その結果、良好な初期クーロン効率と長期的なサイクル特性を得ることができる。
上記平均膜厚は、例えば、透過顕微鏡(FE-TEM)を用いて測定することができる。
【0036】
上記被覆層の平均膜厚は、上記活物質の粒子径に対して、好ましい上限が1/2、より好ましい上限が1/3であり、好ましい下限が1/2000、より好ましい下限が1/1000である。
【0037】
上記被覆層の膜厚の変動係数(CV値)は、20%以下であることが好ましい。
上記被覆層の膜厚のCV値が20%以下であると、被覆層の膜厚が均一でバラツキが少ないことから、薄い膜でも所望の機能(イオン伝導性と電子伝導性)を付与することができる。
上記被覆層の膜厚のCV値のより好ましい上限は15%である。なお、下限については特に限定されないが0.5%が好ましい。
膜厚のCV値(%)とは、標準偏差を平均膜厚で割った値を百分率で表したものであり、下記式により求められる数値のことである。CV値が小さいほど膜厚のばらつきが小さいことを意味する。
膜厚のCV値(%)=(膜厚の標準偏差/平均膜厚)×100
平均膜厚及び標準偏差は、例えば、FE-TEMを用いて測定することができる。
【0038】
上記活物質が粒子形状である場合、上記被覆層の平均膜厚と上記活物質の平均粒子径との比(被覆層の平均膜厚/活物質の平均粒子径)は、好ましい下限が0.0001、より好ましい下限が0.005、好ましい上限が1.0、より好ましい上限が0.5である。
【0039】
上記被覆層は、活物質との間に良好な密着性を有することが好ましい。密着性に関する明確な定義はないが、全固体電池の正極または負極を作製する際に、固体電解質や導電助剤の炭素材料と均一に混合するために、機械的な分散または混合手段(超音波、ミキサー、ジェットミル等)で処理しても被覆層が剥離しないことが好ましい。
【0040】
本発明では、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって被覆層を測定した場合、ベンゼン環に由来する質量スペクトル、及び、ナフタレン環に由来する質量スペクトルのうち少なくとも1つが検出されることが好ましい。
このようなベンゼン環、ナフタレン環に由来する質量スペクトルが検出されることで、オキサジン樹脂が含有するカーボンに由来するものであることを確認できる。
本願発明において、ベンゼン環に由来する質量スペクトルとは、77.12付近の質量スペクトルをいい、ナフタレン環に由来する質量スペクトルとは、127.27付近の質量スペクトルをいう。
なお、上記測定は、例えば、TOF-SIMS装置(ION-TOF社製)等を用いて行うことができる。
【0041】
本発明では、X線回折法によって被覆層を測定した場合、2θが26.4°の位置にピークが検出されないことが好ましい。
上記2θが26.4°の位置のピークは、グラファイトの結晶ピークであり、このような位置にピークが検出されないことで、被覆層を形成するカーボンがアモルファス構造であるということができる。
なお、上記測定は、例えば、X線回折装置(SmartLab Multipurpose、リガク社製)等を用いて行うことができる。
【0042】
本発明の全固体電池用活物質は、被覆層の表面に、更に、被覆層に含まれるアモルファスカーボンよりも導電性の高い導電性材料を有することが好ましい。
なお、上記導電性材料は、被覆層全体を覆ってもよく、被覆層の一部に付着していてもよい。
また、上記導電性材料は、被覆層の表面の1/4以上に付着していることが好ましい。
上記構成とすることで、電池特性、特にレート特性をより向上させることができる。
【0043】
本発明の全固体電池用活物質における上記導電性材料の含有量は、好ましい下限が0.5重量%、より好ましい下限が1.0重量%、好ましい上限が40重量%、より好ましい上限が30重量%、更に好ましい上限が20重量%である。
上記範囲とすることにより、得られる全固体電池の電池特性をより一層向上させることができる。
【0044】
また、上記導電性材料が、アモルファスカーボンを含有する被覆層の少なくとも一部を被覆するものである場合、導電性材料を含有する層の厚みは、好ましい下限が0.5nm、より好ましい下限が1.0nm、好ましい上限が100nm、より好ましい上限が80nm、更に好ましい上限が50nmである。
上記範囲とすることにより、得られる全固体電池の電池特性をより一層向上させることができる。
【0045】
上記導電性材料は、アモルファスカーボンよりも導電性が高いものであれば特に限定されないが、例えば、カーボンナノ粒子、カーボン量子ドット、グラフェン量子ドット、多層グラフェン、単層グラフェン、グラフェンライク炭素、ナノサイズ化したグラファイト、還元型酸化グラフェン、薄片状グラファイト等のナノカーボン材料が好ましく用いられる。なかでも、カーボンナノ粒子、グラフェン量子ドットがより好ましい。
【0046】
上記導電性材料の体積抵抗率は、5.0×10-2Ω・cm以下であることが好ましい。
なお、体積抵抗率は、例えば、粉体抵抗測定装置を用いて測定することができる。
上記導電性材料の導電率は、2.0×10S/cm以上であることが好ましい。
なお、導電率は、例えば、粉体抵抗測定装置を用いて測定することができる。
【0047】
本発明に係る全固体電池用活物質の導電率は、被覆されていない活物質の導電率に対する比(全固体電池用活物質の導電率/活物質の導電率)の好ましい下限が1.2であることが好ましい。
上記全固体電池用電解質の導電率が上記範囲であることにより、全固体電池の電池特性をより一層優れたものとすることができる。
上記導電率の比はより好ましい下限が1.5である。上記導電率の比の上限は特に限定されず、大きいほど好ましい。
上記導電率は、荷重16kNの条件で粉体抵抗測定システム(三菱ケミカルアナリテック社製、MCP-PD51型)により測定することができる。導電率の測定方法の詳細は、後述する実施例で示すとおりである。
【0048】
本発明の全固体電池用活物質を製造する方法としては、ホルムアルデヒド、脂肪族アミン及びジヒドロキシナフタレンを含有する混合溶液を調製する工程と、活物質を前記混合溶液に添加し、反応させる工程と、150~800℃の温度で熱処理する工程を有する方法を用いることができる。
また、本発明の全固体電池用活物質を製造する方法としては、上記ホルムアルデヒド、脂肪族アミン及びジヒドロキシナフタレンの3成分に代えて、1,3,5-トリアルキルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジンとジヒドロキシナフタレンの2成分を用いる方法が挙げられる。
上記1,3,5-トリアルキルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジンとしては、中のアルキル基がカーボン数1~20の脂肪族アルキル基を有するものを用いてよく、芳香族アルキル基を有するものを用いても良い。なかでも、成膜性の観点から、脂肪族アルキル基を有するものが好ましい。
【0049】
本発明の全固体電池用活物質の製造方法では、ホルムアルデヒド、脂肪族アミン及びジヒドロキシナフタレンを含有する混合溶液を調製する工程を行うことが好ましい。
上記ホルムアルデヒドは不安定であるので、ホルムアルデヒド溶液であるホルマリンを用いることが好ましい。ホルマリンは、通常、ホルムアルデヒド及び水に加えて、安定剤として少量のメタノールが含有されている。本発明で用いられるホルムアルデヒドは、ホルムアルデヒド含量が明確なものであれば、ホルマリンであっても構わない。
また、ホルムアルデヒドには、その重合形態としてパラホルムアルデヒドがあり、こちらの方も原料として使用可能であるが、反応性が劣るため、好ましくは上記したホルマリンが用いられる。
【0050】
上記脂肪族アミンは一般式R-NHで表され、Rは炭素数20以下のアルキル基であることが好ましい。炭素数20以下のアルキル基としては、以下に制限されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n―ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、シクロプロピルメチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、シクロプロピルエチル基、シクロブチルメチル基、ヘキシル基、ドデシル基、オクタデシル基が挙げられる。
分子量を小さくする方が好ましいので、置換基Rは、メチル基、エチル基、プロピル基等が好ましく、実際の化合物名としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン等が好ましく使用できる。最も好ましいものは、分子量が一番小さなメチルアミンである。
【0051】
上記ジヒドロキシナフタレンとしては、多くの異性体がある。例えば、1,3-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレンが挙げられる。
このうち、反応性の高さから、1,5-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレンが好ましい。さらに1,5-ジヒドロキシナフタレンが最も反応性が高いので好ましい。
【0052】
上記混合溶液中におけるジヒドロキシナフタレン、脂肪族アミン、ホルムアルデヒドの3成分の比率については、ジヒドロキシナフタレン1モルに対して、脂肪族アミンを1~2モル、ホルムアルデヒドを2~4モル配合することが最も好ましい。
反応条件によっては、反応中に揮発等により原料を失うので、最適な配合比は正確に上記比率とは限らないが、ジヒドロキシナフタレン1モルに対して、脂肪族アミンを0.8~2.2モル、ホルムアルデヒドを1.6~4.4モルの配合比の範囲で配合することが好ましい。
上記脂肪族アミンを0.8モル以上とすることにより、オキサジン環を十分に形成することができ、重合を好適に進めることができる。また2.2モル以下とすることにより、反応に必要なホルムアルデヒドを余計に消費することがないため、反応が順調に進み、所望のナフトオキサジンを得ることができる。同様に、ホルムアルデヒドを1.6モル以上とすることで、オキサジン環を充分に形成することができ、重合を好適に進めることができる。
また4.4モル以下とすることで、副反応の発生を低減できるため好ましい。
【0053】
上記混合溶液は、上記3原料を溶解し、反応させるための溶媒を含有することが好ましい。
上記溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等の通常樹脂を溶解するために用いられる溶媒が挙げられる。
上記混合溶液中の溶媒の添加量は特に限定されないが、ジヒドロキシナフタレン、脂肪族アミン及びホルムアルデヒドを含む原料を100質量部とした場合は、通常300~20000質量部で配合することが好ましい。300質量部以上とすることで、溶質を充分に溶解することができるため、皮膜を形成した際に均一な皮膜とすることができ、20000質量部以下とすることで、被覆層の形成に必要な濃度を確保することができる。
【0054】
本発明の全固体電池用活物質の製造方法では、活物質を上記混合溶液に添加し、反応させる工程を行う。反応を進行させることにより、上記活物質の表面にナフトオキサジン樹脂からなる層を形成することができる。
上記反応は常温でも進行するが、反応時間を短縮することができるため、40℃以上に加温することが好ましい。加温を続けることで、作製されたオキサジン環が開き、重合が起こると分子量が増加し、いわゆるポリナフトオキサジン樹脂となる。反応が進みすぎると溶液の粘度が増し被覆に適さないため注意を要する。
【0055】
また、例えば、ホルムアルデヒド、脂肪族アミン及びジヒドロキシナフタレンの混合液を一定時間反応させて後に正極活物質を添加する方法を用いてもよい。
また、粒子への被覆を均一に行うためには、被覆反応時に粒子が分散された状態が好ましい。分散方法としては、撹拌、超音波、回転等公知の方法が利用できる。また、分散状態を改善するために、適当な分散剤を添加しても良い。
更に、反応工程を行った後に、熱風等により溶媒を乾燥除去することにより、樹脂を活物質表面に均一に被覆してもよい。加熱乾燥方法についても特に制限はない。
【0056】
本発明の全固体電池用活物質の製造方法では、次いで、150~800℃の温度での熱処理する工程を行う。
これにより、前工程で被覆した樹脂が炭化されてアモルファスカーボンからなる被覆層とすることができる。
【0057】
上記熱処理の方法としては、特に限定されず、加熱オーブンや電気炉等を用いる方法等が挙げられる。
上記加熱処理は、空気中で行っても良いし、窒素、アルゴン等の不活性ガス中で行っても良い。熱処理温度が250℃以上の場合は、不活性ガス雰囲気の方がより好ましい。
【0058】
また、本発明の全固体電池用活物質が、被覆層の表面に更に導電性材料を有するものである場合、上記被覆層の表面に上記導電性材料を付着させる方法としては、湿式法を用いても良く、乾式法を用いてもよい。
湿式法の例としては、上記方法により得られたアモルファスカーボンを含む被覆層を有する活物質粒子を分散した溶液に、上記導電性材料を添加し、超音波、ミキサー、各種ミル(例えば、ボールミル、遊星ミル)等で処理する方法が挙げられる。また、上記導電性材料を含有する溶液に上記方法により得られたアモルファスカーボンからなる被覆層を含む活物質粒子を添加し、超音波等で処理する方法を用いても良い。超音波で処理する場合、周波数は20~100kHzであることが好ましく、処理時間は10分~10時間であることが好ましい。
乾式法の例としては、上記方法により得られたアモルファスカーボンを含む被覆層を有する活物質粒子と、上記導電性材料又は上記導電性材料の前駆体材料との混合物を、ミキサー、各種ミル(例えば、ボールミル、遊星ミル)等で処理する方法が挙げられる。ミルで処理する場合、必要に応じて分散媒体であるボールを添加してもよく、添加しなくてもよい。例えば、粒径がミクロンオーダー以上で、比重が導電性材料又はその前駆体材料よりも高い活物質粒子(例えば、正極材料)を用いる場合には、ボール媒体を添加しなくても、活物質粒子自体がボール媒体としての役割を果たし、ミルの機械的エネルギーによって、電電性材料が付着した構造とすることができる。例えば、アモルファスカーボンで被覆したコバルト酸リチウムに対して、導電性材料として薄片状グラファイトや多層グラフェンを付着させる場合、アモルファスカーボンで被覆されたコバルト酸リチウムに前駆体材料であるグラファイト粒子を所定の割合で混同し、遊星ミル装置によって処理する。この際、摩擦的相互作用によってグラファイトが多層グラフェンまで剥離され、多層グラフェンがアモルファスカーボンを含有する被覆層の表面に付着する。この際、多層グラフェンの大きさや層数は、前駆体材料であるグラファイトの大きさや処理時の回転数及び時間によって調整できる。この場合、ジルコニアボール等のボール媒体を用いないため、処理によるコバルト酸リチウム等の活物質の結晶性の低下を防止することができる。
一方、粒径が小さいものや比重や硬度の低い活物質(例えば、Si負極)を用いる場合、ボール媒体を添加した方がより効率よく導電性材料による被覆層を形成することができる。
【0059】
本発明の全固体電池用活物質は、産業用、民生用、自動車等の全固体電池等の用途に有用である。
【0060】
本発明の全固体電池用活物質及び固体電解質を用いることにより、全固体電池用電極及び全固体電池を作製することができる。
本発明の全固体電池用活物質及び固体電解質を含む全固体電池用電極もまた本発明の1つである。
【0061】
本発明の全固体電池用電極は、少なくとも、本発明の全固体電池用活物質及び固体電解質を含有する。
本発明の全固体電池用活物質を含有することにより、活物質間の電子伝導性、及び、活物質と固体電解質との界面のイオン電導性を向上させることができ、その結果、得られる全固体電池のクーロン効率やサイクル特性等の電池特性を向上させることができる。
【0062】
上記固体電解質は、電池反応において、周期律表1族若しくは2族のイオンが伝導できればよく、そのようなイオンとしては、例えば、Hイオン、Liイオン、Naイオン、Kイオン、Mgイオン、Caイオン、又はAlイオンが挙げられる。以下、Liイオンが電池反応に関与する系について詳細を例示する。
【0063】
Liイオンが電池反応に関与する系における上記固体電解質としては、無機系固体電解質、有機系固体電解質等が挙げられる。
無機系固体電解質としては、硫化物系固体電解質又は酸化物系固体電解質等、有機系固体電解質としては、高分子系固体電解質等が挙げられる。
【0064】
上記硫化物系固体電解質は、少なくともリチウム及び硫黄を含む化合物であり、Liで表される化合物が挙げられる。なお、Xは、Li及びS以外の1種類以上の元素であり、l、m、及びnは、0.5≦l≦10、0≦m≦10、1≦n≦10の範囲内にある。
硫化物系固体電解質の安定性及びリチウムイオン伝導度がより一層優れることから、上記式中、mが0ではない構造が好ましい。
上記Xは、12族、13族、14族、15族、16族、又は17族の元素のうち少なくとも1種類が好ましい。また、硫化物系固体電解質の安定性の向上の観点から、Xは、Zn、Al、Si、P、Ge、Sn、Sb、Cl、及びIからなる群から選択される少なくとも1種類であることがより好ましい。なお、Xは、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
上記式中、lは0.5≦l≦10を満たす。
上記範囲とすることで、リチウムイオンの伝導度を良好なものとすることができる。
リチウムイオンの伝導度をより一層向上させることができることから、0.5≦l≦8であることが好ましい。
また、固体電解質の安定性がより一層向上することから、1≦m,n≦6であることがより好ましい。
【0065】
上記硫化物固体電解質としては、例えば、LiS-P系電解質、LiI-LiS-P系電解質、LiI-LiS-B系電解質、LiI-LiS-SiS系電解質、チオリシコン系電解質等が挙げられる。
また、リチウムイオン伝導度が高い、Li10+δ1+δ2-δ12(0≦δ≦0.35、M=Ge、Si、Sn)、Li9.541.741.4411.7Cl0.3(M=Ge、Si、Sn)に代表されるLGPS型、あるいは、Li7-σPS6-σClσ(0<σ<1.8)に代表されるアルジロダイト型の電解質を用いることもできる。
【0066】
上記硫化物固体電解質としては、安定性及びリチウムイオン伝導度がより一層高いことに加え、電極の作製のしやすさから、(A)LiS-(1-A)GeS、(A)LiS-(B)GeS-(1-A-B)ZnS、(A)LiS-(1-A)Ga、(A)(B)LiS-(C)GeS-(1-A-B-C)Ga、(A)LiS-(B)GeS-(1-A-B)P、(A)LiS-(B)GeS-(1-A-B)Sb、(A)LiS-(B)GeS-(1-A-B)Al、(A)LiS-(1-A)SiS、(A)LiS-(1-A)P、(A)LiS-(1-A)Al、(A)LiS-(B)SiS-(1-A-B)Al、(A)LiS-(B)SiS-(1-A-B)P、Li10+δ1+δ2-δ12(0≦δ≦0.35、M=Ge、Si、Sn)、Li9.541.741.4411.7Cl0.3(M=Ge、Si、Sn)、Li7-σPS6-σClσ(0<σ<1.8)が好ましい。なお、A、B、及びCは、0≦A、B、C<1、かつA+B+C<1を満たす整数である。
なかでも、固体電解質の安定性及びリチウムイオン伝導度がより一層高いことに加えて、電極の作製のしやすさの観点から、LiS-P、LiS-GeS、LiS-SiS、または、Li10+δ1+δ2-δ12(0≦δ≦0.35、M=Ge、Si、Sn)、Li9.541.741.4411.7Cl0.3(M=Ge、Si、Sn)、あるいは、Li7-σPS6-σClσ(0<σ<1.8)が特に好ましい。
【0067】
上記酸化物系固体電解質は、少なくともリチウム及び酸素を含む化合物であり、例えばナシコン型構造を有するリン酸化合物又はその一部を他の元素で置換した置換体が挙げられる。また、LiLaZr12系リチウムイオン伝導体等のガーネット型構造又はガーネット型類似の構造を有するリチウムイオン伝導体、Li-La-Ti-O系リチウムイオン伝導体等のペロブスカイト構造又はペロブスカイト類似の構造を有する酸化物系固体電解質を用いることもできる。
上記酸化物固体電解質としては、具体的には、LiLaZr12、LiLaZr2-kNb12、LiLaZr2-kTa12、LiLaTa12、Li0.33La0.55TiO、Li1.5Al0.5Ge1.512、Li1.3Al0.3Ti1.712、LiPO、LiSiO-LiPO、LiSiO、LiBO等が挙げられる。なお、0<k<2である。
また、上記固体電解質には、これら元素以外の元素が微量含まれていてもよい。
【0068】
高分子系固体電解質としては、ポリエチレンオキシド、ポロプロピレンオキシド、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0069】
本発明の全固体電池用電極は、電子伝導性及びイオン導電性を向上させる観点から、導電助剤を含むことが好ましい。
上記導電助剤としては、例えば、グラフェン、黒鉛等の炭素材料等が挙げられる。
【0070】
また、全固体電池用電極をより一層容易に形成できることから、本発明の全固体電池用電極は、バインダーを含んでいてもよい。
上記バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム、ポリイミド、及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いることができる。
【0071】
本発明の全固体電池用電極を作製する方法としては、本発明の全固体電池用活物質、固体電解質及び導電助剤を混合した後に成型する方法、本発明の全固体電池用活物質-導電助剤複合体を作製した後に固体電解質を混合して成型する方法、本発明の全固体電池用活物質-固体電解質複合体を作製した後に導電助剤を混合して成型する方法等が挙げられる。
【0072】
上記活物質-導電助剤複合体を作製する方法としては、湿式法を用いてもよいし、乾式法を用いてもよい。
上記湿式法の例として、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、導電助剤である炭素材料を、溶媒に分散させた分散液(以下、炭素材料の分散液)を作製する。続いて、上記分散液とは別に、活物質を溶媒に分散させた活物質の分散液(以下、活物質の分散液)を作製する。次に、炭素材料の分散液と、活物質の分散液とを混合する。最後に、上記炭素材料及び活物質が含まれる分散液の混合液中の溶媒を除去することによって、電極に用いられる活物質と炭素材料との複合体を作製する。
また、炭素材料の分散液に活物質を加え、炭素材料及び活物質が含まれる分散液を作製した後に、溶媒を除去する方法、又は、炭素材料と活物質と溶媒との混合物をミキサーで混合する方法を用いてもよい。
【0073】
活物質又は導電助剤を分散させる溶媒は、水系、非水系、水系と非水系との混合溶媒、異なる非水系溶媒の混合溶媒のいずれでもよい。また、導電助剤の分散に用いる溶媒と、活物質を分散させる溶媒は同じでもよいし、異なっていてもよい。異なっている場合は、互いの溶媒に相溶性があることが好ましい。
非水系溶媒としては、特に限定されないが、分散のしやすさから、メタノール、エタノール、プロパノールに代表されるアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン又はN-メチル-2-ピロリドン等の非水系溶媒を用いることができる。また、分散性をより一層向上させるため、上記溶媒に、界面活性剤等の分散剤が含まれてもよい。
【0074】
上記活物質又は導電助剤を分散させる方法は、特に限定されないが、超音波による分散、ミキサーによる分散、ジェットミルによる分散、又は、攪拌子による分散が挙げられる。
【0075】
上記活物質-導電助剤複合体における活物質と導電助剤との比率は、活物質100重量部に対して、導電助剤が0.2重量部以上、100重量部以下であることが好ましい。
レート特性をより一層向上させる観点からは、導電助剤が0.3重量部以上、80重量部以下であることがより好ましい。
また、サイクル特性をより一層向上させる観点からは、導電助剤が0.5重量部以上、50重量部以下であることがさらに好ましい。
【0076】
上記活物質-固体電解質複合体を作製する方法としては、例えば、活物質と固体電解質とをミキサー等で混合する方法やメカニカルミリング等で混合する方法を用いることができる。
上記ミキサーとしては、特に限定されないが、プラネタリミキサー、ディスパー、薄膜旋回型ミキサー、ジェットミキサー、自公回転型ミキサー等が挙げられる。
上記メカニカルミリングとしては、ボールミル、ビーズミル、ロータリーキルン等を用いる方法が挙げられる。
上記活物質-固体電解質複合体を作製する方法では、活物質と固体電解質との密着性を向上させるために、加熱処理を加えてもよい。
【0077】
上記電極を成型する方法としては、例えば、活物質と固体電解質とをミキサーやメカニカルミリング等で混合した後に、プレスで成型する方法が挙げられる。
プレスによる成型は、電極のみを成形してもよいし、該電極が正極である場合には、後述の固体電解質及び負極を併せてプレスしてもよい。
また、固体電解質の成型性をより一層向上させるため、特に酸化物系固体電解質を用いた場合は、成型後に加熱処理を加えてもよい。
【0078】
本発明の全固体電池用電極において、本発明の全固体電池用活物質と固体電解質との比率は、本発明の全固体電池用活物質100重量部に対して、固体電解質が0.1重量部以上200重量部以下であることが好ましい。固体電解質の含有量が0.1重量部以上であると、電子伝導経路の形成やリチウムイオン伝導経路の形成が容易となる。また、固体電解質の含有量が200重量部以下であると、全固体電池のエネルギー密度を充分に向上させることができる。
【0079】
本発明の全固体電池用電極の厚みは、特に限定されないが、好ましい下限が10μm、好ましい上限が1000μmである。
上記厚みが10μm以上であると、得られる全固体電池の容量を充分に向上させることができる。上記厚みが1000μm以下であると、出力密度を充分に向上させることができる。
【0080】
本発明の全固体電池用電極が正極である場合、正極1cm当たりの電気容量は、好ましい下限が0.5mAh、好ましい上限が100mAhである。
上記電気容量が0.5mAh以上であると、所望の容量を得るための電池の増大を防止することができる。また、上記電気容量が100mAh以下であると、出力密度を好適なものとすることができる。
電池の体積及び出力密度の関係性がよりよいことから、正極1cm当たりの電気容量は0.8mAh以上、50mAh以下であることがより好ましく、1.0mAh以上、20mAh以下であることが更に好ましい。
なお、正極1cm当たりの電気容量は、全固体電池用正極を作製した後、リチウム金属を対極とした半電池を作製し、充放電特性を測定することによって算出することができる。
全固体電池用正極の正極1cm当たりの電気容量は、特に限定されないが、集電体単位面積あたりに形成させる正極の重量で制御することができる。
【0081】
本発明の全固体電池は、正極、固体電解質及び負極を有する。
上記正極又は負極としては、本発明の全固体電池用電極を用いることができる。
また、負極としては、リチウム金属又はリチウム合金を用いることもできる。
【0082】
本発明の全固体電池を作製する方法としては、例えば、正極及び負極を作製した後、正極及び負極の間に固体電解質を挟み、プレスする方法を用いることができる。また、各界面の一体化を促すために、プレスした後、加熱処理を加えてもよい。
本発明の全固体電池は、正極活物質及び/又は負極活物質の表面にアモルファスカーボンを含む被覆層を有するため、活物質同士間の電子伝導性、及び、活物質と固体電解質間のイオン伝導が改善され、サイクル特性等の電池特性に優れたものとなる。
【発明の効果】
【0083】
本発明によれば、電池特性に優れた全固体電池を製造することが可能な全固体電池用活物質を提供することができる。また、該全固体電池用活物質を含む全固体電池用電極、及び、全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
図1】実施例1で得られた全固体電池用正極活物質の断面写真(電子顕微鏡写真)である。
図2】実施例3で得られた全固体電池用負極活物質の断面写真(電子顕微鏡写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0085】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0086】
(実施例1)
(全固体電池用正極活物質の作製)
エタノール100mlに1,5-ジヒドロキシナフタレン(東京化成社製)0.48gを溶かして溶液Aを作製した。更に、エタノール100mlに1,3,5-トリメチルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン(東京化成社製)0.39gを溶かして溶液Bを作製した。
溶液Aに対して溶液Bを10分かけて滴下し、その後、30分間攪拌した。更に、正極活物質粒子3.0gを添加し、攪拌しながら60℃で4時間反応させた。反応後、溶液を濾過し、エタノールで3回洗浄した後に、100℃で3時間真空乾燥した。更に、上記乾燥した粒子を550℃で2時間加熱することにより、全固体電池用正極活物質(A)を得た。
なお、正極活物質としては、コバルト酸リチウム[LiCoO](平均粒径15μm)を用いた。粉体抵抗測定(装置:三菱ケミカルアナリテック社製 MCP-PD51型)を用い、正極活物質4.5gを測定セルに入れ、荷重16kNを印加した時の導電率・体積抵抗率を測定したところ、導電率は2.0×10-4S/cm、体積抵抗率は5.0×10Ω・cmであった。
【0087】
得られた全固体電池正極活物質(A)について、FE-TEMにより任意の20個の粒子の被覆層の断面写真を撮影した後、得られた断面写真から、各粒子の異なる10箇所の膜厚をランダムに測定し、平均膜厚、標準偏差を算出した。得られた数値から膜厚の変動係数(CV値)を算出した。平均膜厚は30nm、膜厚のCV値は7%であった。
得られた全固体電池用正極活物質(A)をAlmega XR(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてラマン分光で測定したところ、GバンドとDバンドのピーク強度比は1.56であった。なお、レーザー光は530nmとした。
X線光電子分光法(装置:アルバック・ファイ社製、多機能走査型X線光電子分光分析装置(XPS)、PHI 5000 VersaProbe III)によって被覆層の元素組成を分析したところ、被覆層の窒素含有量は1.2原子%であった。
また、コバルト酸リチウムの導電率・体積抵抗率の測定と同様の方法により全固体電池正極活物質(A)の導電率・体積抵抗率を測定したところ、導電率は3.2×10-4S/cm、体積抵抗率は3.1×10Ω・cmであった。
また、X線回折装置(SmartLab Multipurpose、リガク社製)を用い、X線波長:CuKα1.54A、測定範囲:2θ=10~70°、スキャン速度:4°/min、ステップ:0.02°の条件で被覆層を測定したところ、θ=26.4°の位置にピークが検出されず、アモルファスカーボン被覆された粒子であることを確認した。
また、得られた全固体電池用正極活物質の断面写真を図1に示した。
【0088】
(硫化物系固体電解質の作製)
アルゴン雰囲気のグローブボックス(美和製作所社製)中で、LiS(フルウチ化学社製)と、P(アルドリッチ社製)とを、モル比4:1で秤量した。
次いで、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、P-6型)を用いて、秤量した原料をジルコニアポット内にジルコニアボールと共に投入し、アルゴン雰囲気中、回転数540rpmで9時間、メカニカルミリングを行った。
その後、ジルコニアボールと分離することによって、硫化物系固体電解質である0.8LiS-0.2Pの粉末を作製した。
【0089】
(全固体電池正極の作製)
得られた全固体電池用正極活物質(A)2.4gと、導電助剤0.6gとを遊星式撹拌機(シンキー社製、あわとり練太郎)を用いて回転数2000rpmで4分間混合し、正極活物質-導電助剤複合体を得た。なお、導電助剤としては、炭素材料であるアセチレンブラック(デンカ社製)を用いた。
次いで、上記複合体と得られた硫化物系固体電解質とを重量比80:20となるようにメカニカルミリング(遊星ボールミル、フリッチュ社製、P-6型、回転数380rpm、1時間)により混合して、正極活物質-導電助剤-固体電解質の混合粉末を得た。
更に、得られた混合粉末25mgを、SUS製成形冶具(直径10mm)に置き、360Mpaでプレス成形することによって、正極(厚み0.5mm)を作製した。なお、各材料の秤量から、プレス成型までの工程、正極の保管は、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気下でおこなった。
【0090】
(全固体電池負極の作製)
負極活物質2.1gと、導電助剤0.9gとを遊星式撹拌機(シンキー社製、あわとり練太郎)を用いて回転数2000rpmで4分間混合し、負極活物質-導電助剤複合体を得た。なお、負極活物質としては、Si Powder(平均粒径100nm)、導電助剤としては、炭素材料であるアセチレンブラック(デンカ社製)を用いた。また、測定セルに添加する活物質の量を0.5gとした以外はコバルト酸リチウムの導電率・体積抵抗率と同様にSi Powderの導電率・体積抵抗率を測定したところ、導電率は6.2×10-7S/cm、体積抵抗率は1.6×10Ω・cmであった。
次いで、上記複合体と得られた硫化物系固体電解質とを重量比50:50となるようにメカニカルミリング(遊星ボールミル、フリッチュ社製、P-6型、回転数380rpm、1時間)により混合して、負極活物質-導電助剤-固体電解質の混合粉末を得た。
更に、得られた混合粉末25mgを、SUS製成形冶具(直径10mm)に置き、360Mpaでプレス成形することによって、負極(厚み0.5mm)を作製した。なお、各材料の秤量から、プレス成型までの工程、正極の保管は、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気下でおこなった。
【0091】
(全固体電池の作製)
全固体電池評価セルKP-SolidCell(宝泉株式会社)に、正極、固体電解質ペレット(直径10mm、厚み500μm)、及び、負極の順に積層しセットした。
次いで、上方から押さえ込みねじで締め、トルクレンチで50MPa相当の圧力を加え、各部材を固定して全固体電池を作製した。
【0092】
(実施例2)
(全固体電池用正極活物質の作製)
容量1Lの四つ口フラスコにエタノール100ml及び正極活物質3.0gを添加し、70℃の恒温槽にセットした。なお、正極活物質としては、コバルト酸リチウム[LiCoO](平均粒径15μm)を用いた。
エタノールに1,5-ジヒドロキシナフタレン(東京化成社製)を0.15mol/Lの濃度となるように添加して、溶液Cを作製した。また、エタノールに1,3,5-トリメチルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン(東京化成社製)を0.15mol/Lの濃度となるように添加して、溶液Dを作製した。
上記活物質/エタノール混合液が70℃になった後、溶液C及びDをそれぞれ滴下速度2ml/分で混合液へ同時に滴下した。30分後に滴下を停止し、1時間反応させた。更に、同様の条件で再度滴下し、30分後に滴下を停止して、1時間反応させる工程を5回行った。その後、溶液を濾過し、エタノールで3回洗浄した後に、100℃で3時間真空乾燥した。更に、上記乾燥した粒子を600℃で2時間熱処理することにより、全固体電池用正極活物質(B)を得た。
実施例1と同様に測定したところ、平均膜厚は150nm、膜厚のCV値は15%、GバンドとDバンドのピーク強度比は1.70、被覆層の窒素含有量は0.7原子%、導電率は9.1×10-4S/cm、体積抵抗率は1.1×10Ω・cmであった。2θ=26.4°の位置にピークが検出されなかった。
【0093】
(全固体電池用正極の作製)
全固体電池用正極活物質(A)に代えて、得られた全固体電池正極活物質(B)を用いた以外は実施例1と同様にして正極を作製した。
【0094】
(全固体電池の作製)
得られた正極を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0095】
(実施例3)
(全固体電池用負極活物質の作製)
1,5-ジヒドロキシナフタレン(東京化成社製)0.72gと、40%メチルアミン(富士フイルム和光純薬社製)0.36gと、37%ホルムアルデヒド水溶液(富士フイルム和光純薬社製)0.72gとをエタノールに順次溶解し、300gのエタノール混合溶液を作製した。
次に、得られた混合液に、負極活物質粒子6.0gを添加し、超音波と攪拌を同時に印加しながら50℃で4時間反応させた。反応後、溶液を濾過し、エタノールで3回洗浄した後に、100℃で12時間真空乾燥した。更に、上記乾燥した粒子を窒素雰囲気において500℃で2時間熱処理することにより、全固体電池用負極活物質(A)を得た。
なお、負極活物質としては、Si Powder(平均粒径100nm)を用いた。
実施例1と同様に測定したところ、平均膜厚は5nm、膜厚のCV値は8%、GバンドとDバンドのピーク強度比は1.40、被覆層の窒素含有量は1.5原子%であった。また、Si Powderと同様に導電率・体積抵抗率を測定したところ、導電率は9.9×10-7S/cm、体積抵抗率は1.0×10Ω・cmであった。更に、2θ=26.4°の位置にピークが検出されなかった。
また、得られた全固体電池用負極活物質の断面写真を図2に示した。
【0096】
更に、上記エタノール混合溶液に、負極活物質粒子を添加せず、超音波と攪拌を同時に印加しながら50℃で4時間反応させた。反応後、溶液を濾過し、エタノールで3回洗浄した後に、100℃で12時間真空乾燥した。更に、上記乾燥した粒子を窒素雰囲気において500℃で2時間熱処理することにより、アモルファスカーボンからなる粒子を得た。
得られたアモルファスカーボンからなる粒子の導電率・体積抵抗率を同様に測定したところ、導電率は2.0×10-6S/cm、体積抵抗率は5.0×10Ω・cmであった。
【0097】
(全固体電池用正極の作製)
全固体電池用正極活物質(A)に代えて、コバルト酸リチウム[LiCoO](平均粒径15μm)を用いた以外は実施例1と同様にして正極を作製した。
【0098】
(全固体電池用負極の作製)
Si Powder(平均粒径100nm)に代えて、得られた全固体電池負極用活物質(A)を用いた以外は実施例1と同様にして負極を作製した。
【0099】
(全固体電池の作製)
得られた正極及び負極を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0100】
(実施例4)
(全固体電池の作製)
実施例3で得られた負極を用いた以外は実施例1と同様にして同様にして全固体電池を作製した。
【0101】
(実施例5)
(全固体電池用負極活物質の作製)
1,5-ジヒドロキシナフタレン(東京化成社製)0.72gと、40%メチルアミン(富士フイルム和光純薬社製)0.36gと、37%ホルムアルデヒド水溶液(富士フイルム和光純薬社製)0.72gとをエタノールに順次溶解し、300gのエタノール混合溶液を作製した。
次に、得られた混合液に、負極活物質粒子3.0gを添加し、超音波と攪拌を同時に印加しながら60℃で6時間反応させた。反応後、溶液を濾過し、エタノールで3回洗浄した後に、100℃で12時間真空乾燥した。更に、上記乾燥した粒子を窒素雰囲気において500℃で10時間熱処理することにより、全固体電池用負極活物質(B)を得た。
なお、負極活物質としては、Si Powder(平均粒径100nm)を用いた。
実施例1と同様に測定したところ、平均膜厚は15nm、膜厚のCV値は13%、GバンドとDバンドのピーク強度比は1.50、被覆層の窒素含有量は1.3原子%であった。また、Si Powderと同様に導電率・体積抵抗率を測定したところ、導電率は1.9×10-6S/cm、体積抵抗率は5.2×10Ω・cmであった。更に、2θ=26.4°の位置にピークが検出されなかった。
【0102】
(全固体電池用負極の作製)
Si Powder(平均粒径100nm)に代えて、得られた全固体電池用負極活物質(B)を用いた以外は実施例1と同様にして負極を作製した。
【0103】
(全固体電池の作製)
得られた負極を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0104】
(実施例6)
(硫化物系固体電解質の作製)
アルゴン雰囲気のグローブボックス(美和製作所社製)中で、LiS(フルウチ化学社製)と、P(アルドリッチ社製)と、GeS(アルドリッチ社製)とを、モル比5:1:1で秤量した。
次いで、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、P-6型)を用いて、秤量した原料をジルコニアポット内にジルコニアボールと共に投入し、アルゴン雰囲気中、回転数540rpmで9時間、メカニカルミリングを行った。
更に、ペレットにした後、550℃で8時間加熱処理し、室温まで徐冷した。その後、粉砕することによって、LGPS型の硫化物系固体電解質であるLi10GeP12の粉末を作製した。
【0105】
(全固体電池用正極の作製)
0.8LiS-0.2Pの粉末に代えて、得られた硫化物系固体電解質を用いた以外は実施例1と同様にして正極を作製した。
【0106】
(全固体電池用負極の作製)
0.8LiS-0.2Pの粉末に代えて、得られた硫化物系固体電解質を用いた以外は実施例3と同様にして負極を作製した。
【0107】
(全固体電池の作製)
得られた正極、負極、及び、硫化物系固体電解質を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0108】
(実施例7)
(全固体電池用正極の作製)において、コバルト酸リチウム[LiCoO]に代えて、Li-In合金を用いた以外は、実施例3と同様にして全固体電池を作製した。
【0109】
(実施例8)
(全固体電池用負極活物質の作製)
実施例3の(全固体電池用負極活物質の作製)と同様の方法により、アモルファスカーボン被覆シリコン粒子を作製した。
また、カーボンブラック(Cabot社製、「BLACK PEARLS 2000」)0.5gを、1,3,5-トリメチルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン0.5gを溶解したエタノール500ml中に添加し、5時間超音波処理した。次いで、得られた溶液を濾過し、回収した固形分を再び適量のエタノールに分散した。分散後、更に0.05mmのジルコニアビーズを添加して、ビーズミル装置(THINKY社製、「Nano Pulverizer NP-100」)を用いて回転数2000rpmで5時間分散処理して、トリアジン修飾カーボンナノ粒子を得た。なお、得られたカーボンナノ粒子を粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、動的光散乱式(DLS)粒子径分布測定装置「Nanotrac Wave II」)で測定したところ、平均粒子径は20nmであった。なお、得られた粒子の導電率・体積抵抗率を同様に測定したところ、導電率は6.7×10S/cm、体積抵抗率は1.5×10-2Ωcmであった。
次いで、上記アモルファスカーボン被覆シリコン粒子0.5gをエタノール400mlに添加し、超音波により分散してA液を得た。また、上記トリアジン修飾カーボンナノ粒子0.05gをエタノール200mlに添加し、超音波により分散してB液を得た。A液に超音波を印加しながら、B液を5ml/分で添加し、添加終了後更に4時間超音波処理した。その後、分散液をPTFEメンブレンフィルター(細孔径0.5μm)でろ過し、ナノカーボン粒子が担持されたアモルファスカーボン被覆シリコン粒子である全固体電池用負極活物質(C)を得た。
【0110】
得られた全固体電池用負極活物質を透過型電子顕微鏡で観察したところ、アモルファスカーボン被覆シリコン粒子の表面にナノカーボン粒子が付着していることを確認した。
また、上記アモルファスカーボン被覆シリコン粒子を粉体抵抗測定装置(三菱ケミカルアナリテック社製、「MCP-PD51型」)で測定したところ、荷重16kNにおける低効率は測定レンジ(抵抗10-3~10Ω、低効率>10Ω・cm)を超えており、測定不能であった。一方、上記全固体電池用負極活物質を測定したところ、荷重16kNにおける体積抵抗率は5.0×10-1Ω・cmであり、導電性が大きく改善されたことが確認された。
【0111】
得られた全固体電池用負極活物質(C)を用いた以外は、実施例7と同様にして全固体電池を作製した。
【0112】
(実施例9)
(全固体電池用負極活物質の作製)
実施例3の(全固体電池用負極活物質の作製)と同様の方法により、アモルファスカーボン被覆シリコン粒子を作製した。
また、ソルボサーマル法によってグラフェン量子ドットを作製した。具体的には、酸化グラフェン(仁科マテリアル社製)0.3gをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)70mlに添加し、2時間超音波処理した。その後、分散液を100mlのテフロン(登録商標)内筒付ステンレス耐圧容器に移し、200℃で15時間加熱処理することで平均粒子径10nmのグラフェン量子ドットを得た。なお、平均粒子径は実施例8のカーボンナノ粒子の測定と同様の方法により測定した。なお、得られたグラフェン量子ドットの導電率・体積抵抗率を同様に測定したところ、導電率は1.8×10S/cm、体積抵抗率は5.5×10-3Ωcmであった。
更に、グラフェン量子ドットの分散液に上記アモルファスカーボン被覆シリコン粒子を重量比(グラフェン量子ドット:アモルファスカーボン被覆シリコン粒子)が1:10となるように添加し、4時間超音波処理した。その後、溶媒を除去して、グラフェン量子ドットが担持されたアモルファスカーボン被覆シリコン粒子である全固体電池用負極活物質(D)を得た。
実施例8と同様にして観察し、アモルファスカーボン被覆シリコン粒子の表面にグラフェン量子ドットが付着していることを確認した。
【0113】
得られた全固体電池用負極活物質(D)を用いた以外は、実施例7と同様にして全固体電池を作製した。
【0114】
(実施例10)
(全固体電池用負極活物質の作製)
実施例3の(全固体電池用負極活物質の作製)と同様の方法により、アモルファスカーボン被覆シリコン粒子を作製した。
次に、下記方法によって、上記アモルファスカーボン被覆シリコン粒子の表面に多層グラフェンを更に被覆した。具体的には、上記アモルファスカーボン被覆シリコン粒子5gと、膨張黒鉛(東洋炭素社製、商品名「PFパウダー8」)0.5gと、ジルコニアボール(Φ5mm)20個を混合し、遊星型ボールミル装置(Premium Line PL-7、Fritsch社製)を用いて、回転数500rpmで30分間の処理を2回行った。上記処理によって、膨張黒鉛の粒が見えなくなり、均一な粉末が得られた。この粉末を本実施例の全固体電池用負極活物質(E)とした。
上記処理した粒子を透過電子顕微鏡で観察したところ、シリコン粒子の表面に厚み約5nm(グラフェン15層程度に相当)の結晶性カーボン(薄片状グラファイト)が観察された。なお、結晶性については電子回折パターンにより確認した。また、上記粒子のラマンスペクトルを測定したところ、強いGバンドが観察され、この結晶性カーボンが膨張黒鉛由来であることが分かった。更に、X線回折装置により確認したところ、グラファイト由来のピーク(2θ=26.4°)が観察された。
上記遊星ミルで処理した混合粉末の導電率・体積抵抗率を同様に測定したところ、導電率は8.3×10S/cm、体積抵抗率は1.2×10-3Ωcmであった。
なお、用いた膨張黒鉛PFパウダー8の2.1×10S/cm、体積抵抗率は4.8×10-4Ωcmであった。
得られた全固体電池用負極活物質(E)を用いた以外は、実施例7と同様にして全固体電池を作製した。
【0115】
(比較例1)
実施例3で得られた正極を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0116】
(比較例2)
0.8LiS-0.2Pの粉末に代えて、実施例6で得られた硫化物系固体電解質を用いた以外は比較例1と同様にして正極、負極及び全固体電池を作製した。
【0117】
(比較例3)
全固体電池用正極活物質(A)に代えて、Li-In合金を用いた以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0118】
(評価)
実施例及び比較例で得られた全固体電池について、以下の評価を行った。結果を表1及び2に示した。
【0119】
(全固体電池特性評価)
(実施例1~6、比較例1、2)
実施例及び比較例で得られた全固体電池を25℃の恒温槽に入れ、充放電装置(HJ1005SD8、北斗電工社製)に接続した。次いで、以下の条件により充放電を100回繰り返すサイクル運転を行った。
初期充放電:定電流定電圧充電(電流値:0.1mA、充電終止電圧:4.25V、定電圧放電電圧:4.25V、定電圧放電終止条件:60時間経過、又は、電流値0.01mA)、定電流放電(電流値:0.1mA、放電終止電圧:2.5V)
2回目以降の充放電:定電流定電圧充電(電流値:1mA、充電終止電圧:4.25V、定電圧放電電圧:4.25V、定電圧放電終止条件:10時間経過、又は、電流値0.1mA)、定電流放電(電流値:1mA、放電終止電圧:2.5V)
以下の式に基づいて初期クーロン効率及び容量維持率(サイクル特性)を算出した。
[初期クーロン効率(%)=(1回目の放電容量/1回目の充電容量)×100]
[容量維持率(%)=(100回目の放電容量/1回目の放電容量)×100]
また、以下の基準により電池特性を評価した。
◎:初期クーロン効率が65%以上であり、容量維持率が80%以上である場合
○:初期クーロン効率が65%以上であり、容量維持率が80%未満ある場合、又は、初期クーロン効率が65%未満であり、容量維持率が80%以上である場合
×:初期クーロン効率が65%未満であり、容量維持率が80%未満である場合
【0120】
(実施例7~10、比較例3)
充放電の条件を以下の通りに変更し、充放電を10回繰り返すサイクル運転を行った。
初期充放電:定電流定電圧充電(電流値:0.1mA、充電終止電圧:-0.6V、定電圧放電電圧:-0.6V、定電圧放電終止条件:30時間経過、又は、電流値0.01mA)、定電流放電(電流値:0.1mA、放電終止電圧:0.9V)
2回目以降の充放電:定電流定電圧充電(電流値:1mA、充電終止電圧:-0.6V、定電圧放電電圧:-0.6V、定電圧放電終止条件:10時間経過、又は、電流値0.1mA)、定電流放電(電流値:1mA、放電終止電圧:0.9V)
また、2回目以降の充放電時の電流値を5mAとして同様にサイクル運転を行った。
以下の式に基づいて初期クーロン効率、容量維持率(サイクル特性)及びレート特性を算出した。
[初期クーロン効率(%)=(1回目の放電容量/1回目の充電容量)×100]
[容量維持率(%)=(10回目の放電容量/1回目の放電容量)×100]
[レート特性(%)=(5mAでの容量維持率/1mAでの容量維持率)×100]
また、以下の基準により電池特性を評価した。
◎:初期クーロン効率が70%以上であり、容量維持率及びレート特性が80%以上である場合
○:初期クーロン効率が70%以上であり、容量維持率又はレート特性が80%未満である場合
×:初期クーロン効率が70%未満であり、容量維持率又はレート特性が80%未満である場合
【0121】
【表1】
【0122】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によれば、電池特性に優れた全固体電池を製造することが可能な全固体電池用活物質を提供することができる。また、該全固体電池用活物質を含む全固体電池用電極、及び、全固体電池を提供することができる。
図1
図2