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  • 特許-口腔用貼付シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】口腔用貼付シート
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/02 20060101AFI20231206BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20231206BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20231206BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20231206BHJP
   A61K 8/65 20060101ALI20231206BHJP
   A61K 8/39 20060101ALI20231206BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
A61K8/02
A61Q11/00
A61K9/70
A61K8/60
A61K8/65
A61K8/39
A61K8/81
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021082058
(22)【出願日】2021-05-14
(65)【公開番号】P2022175551
(43)【公開日】2022-11-25
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】筒井 生
(72)【発明者】
【氏名】山岸 敦
(72)【発明者】
【氏名】永田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】小野尾 信
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 悠介
(72)【発明者】
【氏名】千賀 由香
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-200303(JP,A)
【文献】国際公開第2014/069595(WO,A1)
【文献】特開2005-263704(JP,A)
【文献】特開2006-117682(JP,A)
【文献】特開2010-168370(JP,A)
【文献】特表2016-502415(JP,A)
【文献】特表2016-538260(JP,A)
【文献】特開2010-163367(JP,A)
【文献】特開2012-140341(JP,A)
【文献】特許第3988387(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K9/00
A61K47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貼付シートと、剥離シートとが積層されてなる口腔用貼付シートであって、
貼付シートは、水分量が5質量%以上13質量%以下であり、さらに水溶性高分子を30質量%以上70質量%以下、及びノニオン界面活性剤を0.8質量%以上20質量%以下含有し、かつ厚みが30μm以上250μm以下であって、水溶性高分子がプルラン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びゼラチンから選ばれる1種又は2種以上であり、ノニオン界面活性剤がポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種又は2種以上であるシートであり、
剥離シートは、貼付シートと接する面において、下記式(I):
輝度差(ΔL)=L(P)-L(X)・・・(I)
(式(I)中、L(P)は、剥離シートにおける貼付シートと接する面に対して45°入射光を左右から照射し、18%グレーの標準反射板の輝度が120となるように、画像解析を行ったときの、貼付シートと接する面の反射画像Pの輝度を示す。L(X)は、前記画像解析を行ったときの、貼付シートと接する面の無反射画像Xの輝度を示す。)
により求められる輝度差(ΔL)が10以上19.5以下であり、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン及びこれらの混合物から選ばれる1種又は2種以上により形成されてなるシートである、口腔用貼付シート。
【請求項2】
貼付シートの20MPa引張応力でのひずみが、2%以上12%以下である請求項1に記載の口腔用貼付シート。
【請求項3】
剥離シートの厚みが、20μm以上100μm以下である請求項1又は2に記載の口腔用貼付シート。
【請求項4】
剥離シートの面積(b)と貼付シートの面積(a)との比(b/a)が、1.3以上10以下である請求項1~のいずれか1項に記載の口腔用貼付シート。
【請求項5】
貼付シートにおける剥離シートと接する面の面積が、500mm2以上3000mm2以下である請求項1~のいずれか1項に記載の口腔用貼付シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔用貼付シートに関する。
【背景技術】
【0002】
歯牙や歯肉、口蓋や舌等の口腔を構成する器官は、分泌される唾液によって潤いを与えられながら、食物を咀嚼し飲み込む機能、味わう機能や言葉を発する機能等を発揮する、全身の健康にも関わる重要な器官である。そのため、これらの器官が異常をきたすと、種々の疾患や食事等の機能的な障害を引き起こしかねない上、審美面も損なわれるおそれもあり、機能の維持や改善、回復のためのケアが欠かせない。
【0003】
口腔を構成する器官の一つである歯牙は、その表面に付着・堆積した歯石や汚れを放置すると、不要な着色や歯肉の退色、或いは歯周病や歯肉炎等の原因ともなることが知られている。こうした歯牙の適切なケアを実現するには、常に唾液に満たされた部位であることも加味する必要があり、所定の機能成分を作用させることのできる種々の貼付シートが開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ホワイトニング剤等を含む、口腔環境の唾液により溶解される、歯のホワイトニングのためのストリップ(乾燥フィルム)が開示されている。また、特許文献2~3には、付着層とバッキング層を有し、歯牙に貼付すると歯牙表面の水分によって接着力と美白剤の放出が始まるドライタイプの歯牙美白用パッチが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2007-531771号公報
【文献】特表2003-526648号公報
【文献】特表2006-509036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献に記載の貼付シートは、いずれも乾燥状態(ドライタイプ)のシートであり、口腔内の所望の部位へ貼付したときに唾液等の水分によって溶解し、接着性が発現するとともに機能成分を放出するよう設計されている。
このような貼付シートは、操作性の向上や貼付面の保護等を目的として剥離シートに積層され、使用時には剥離シートを剥がすことによって、露出された面を口腔内の所望の部位へ貼付する使用方法が採用される場合がある。一方、このような貼付シートと剥離シートとが積層されたシートは、その工程において、貼付シートが剥離シートから意図せず脱離することによって、生産収率が低下してしまう場合がある。
【0007】
しかしながら、上記いずれの特許文献においても、こうした問題が生じ得ることについては、何ら記載されていない。
本発明は、製造時には良好な接着性を発現しつつ、使用時には良好な剥離性を発現することのできる、貼付シートと剥離シートとを積層させてなる口腔用貼付シートに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、種々検討したところ、剥離シートと貼付シートとを積層させてなる口腔用貼付シートにおいて、特定の剥離シートと特定の貼付シートとを積層することにより、製造時における貼付シートの剥離シートからの脱離を有効に防止しつつ、使用時における貼付シートの剥離シートからの剥離性の良好な口腔用貼付シートが得られることを見出した。
【0009】
したがって、本発明は、貼付シートと、剥離シートとが積層されてなる口腔用貼付シートであって、
貼付シートは、水分量が5質量%以上13質量%以下であり、かつ厚みが30μm以上250μm以下であり、
剥離シートは、貼付シートと接する面において、下記式(I):
輝度差(ΔL)=L(P)-L(X)・・・(I)
(式(I)中、L(P)は、剥離シートにおける貼付シートと接する面に対して45°入射光を左右から照射し、18%グレーの標準反射板の輝度が120となるように、画像解析を行ったときの、貼付シートと接する面の反射画像Pの輝度を示す。L(X)は、前記画像解析を行ったときの、貼付シートと接する面の無反射画像Xの輝度を示す。)により求められる輝度差(ΔL)が4.5以上19.5以下である、口腔用貼付シートを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の口腔用貼付シートによれば、限られた水分量を有する貼付シートと剥離シートとを積層させてなるシートでありながら、製造時において貼付シートの剥離シートからの脱離を有効に防止することができるとともに、使用時において貼付部位に貼付しようとする際に、貼付シートを剥離シートから良好に剥離することができる。すなわち、本発明の口腔用貼付シートは、製造時には良好な接着性を発現する性質と、使用時には良好な剥離性を発現する性質とを併せ持つ性質(以下、「接着剥離性」ともいう)を有する。
したがって、貼付部位に応じた様々な形状を付与した口腔用貼付シートを容易かつ効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の口腔用貼付シートの一実施態様である。貼付対象を歯牙周辺部とする口腔用貼付シートにより、実際の使用場面を示すための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
ここで、本発明の口腔用貼付シートが貼付対象とする部位は、口腔内を構成する器官であり、具体的には、歯牙、歯肉を含む歯牙の周辺に位置する器官、口蓋、舌、及び口底等である。なお、これらの部位のなかでも、歯牙、及び歯肉を含む歯牙の周辺に位置する口腔内の器官を特に「歯牙周辺部」とも称する。
【0013】
本発明の口腔用貼付シートを構成する貼付シートは、剥離シートと積層されてなり、水分量が5質量%以上13質量%以下であり、かつ厚みが30μm以上250μm以下のシートである。すなわち、本発明の口腔用貼付シートにおいて、貼付シートは、水分量の低い乾燥状態、いわゆるドライタイプの極薄シートである。かかる本発明の口腔用貼付シートは、特定物性の貼付シートと、特異な凹凸表面を有する剥離シートとが積層されてなることにより、本発明の口腔用貼付シートの使用前には剥離シートに積層されていることで脱離することなく安定に保持され、本発明の口腔用貼付シートの使用時には剥離シートから適度な剥離性で良好に剥離することが可能である。このように、本発明の口腔用貼付シートは、良好な接着剥離性を発現することができるとともに、口腔内の所望の部位に優れた追随性にて貼付され、唾液等の水分によって良好に溶解し、密着することができる。
【0014】
貼付シートの水分量は、製造時において貼付シートの剥離シートからの脱離を有効に防止することができるとともに、使用時において貼付部位に貼付しようとする際に、貼付シートを剥離シートから良好に剥離することができる観点、及び口腔内の所望の部位に良好に追随して貼付することができ、貼付後に唾液等の水分によって良好に密着する性状を付与する観点から、貼付シート全量中に、5質量%以上であって、好ましくは6質量%以上であり、より好ましくは7質量%以上であり、13質量%以下であって、好ましくは12.5質量%以下であり、より好ましくは12質量%以下である。
なお、貼付シートの水分量とは、貼付シート全体中に含まれる全水分量であり、カールフィッシャー法を利用した水分計を用いた測定方法に基づき、得られる値を意味する。
【0015】
貼付シートの厚みは、製造時において貼付シートの剥離シートからの脱離を有効に防止することができるとともに、使用時において貼付部位に貼付しようとする際に、貼付シートを剥離シートから良好に剥離することができる観点、及び貼付した所望の部位に対し、その形状に応じた良好な追随性及び密着性を発現する観点から、30μm以上であって、好ましくは35μm以上であり、より好ましくは50μm以上であり、さらに好ましくは60μm以上であり、250μm以下であって、好ましくは150μm以下であり、より好ましくは70μm以下である。
なお、貼付シートの厚みとは、マイクロメータを用いて貼付シートの任意の3か所で測定された厚みの平均値(μm)を意味する。
【0016】
貼付シートの20MPa引張応力でのひずみは、製造時において貼付シートの剥離シートからの脱離を有効に防止することができるとともに、使用時において貼付部位に貼付しようとする際に、貼付シートを剥離シートから良好に剥離することができる観点、及び貼付部位での良好な追随性及び密着性を発現し得る適度な柔軟性を確保しつつ、操作時の破損や破断を防止する観点から、好ましくは2%以上であり、より好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは4%以上であり、好ましくは12%以下であり、より好ましくは11%以下である。
なお、貼付シートの20MPa引張応力でのひずみとは、レオメーターを用いて測定対象のシートをひずみの測定のための治具にセットし、せん断応力を1~2×107Paまで変化させたときのひずみを測定し、せん断応力20MPaでのひずみを初期長さからの変化量(%)に換算して求めた値である。
【0017】
貼付シートにおける剥離シートと接している面、すなわち、使用時において貼付シートを剥離シートから剥離したときに露出される面は、衛生面や操作性の観点から、口腔内の所望の部位へ貼付される面であると好ましい。
【0018】
貼付シートにおける剥離シートと接する面の面積は、貼付する口腔内の所望の部位等に応じて適宜選択し得るが、かかる所望の部位の大きさに適切に対応する観点、及び貼付時における良好な取扱い性を確保する観点から、好ましくは500mm2以上であり、より好ましくは900mm2以上であり、さらに好ましくは1500mm2以上であり、よりさらに好ましくは1800mm2以上であり、好ましくは3000mm2以下であり、より好ましくは2500mm2以下であり、さらに好ましくは2400mm2以下であり、よりさらに好ましくは2300mm2以下である。
【0019】
貼付シートは、口腔内に貼付される面に機能成分を含有する作用層を有していることが好ましい。これにより、本発明の口腔用貼付シートにおける貼付シートを所望の部位に貼付した際、唾液等の水分により貼付シートが密着し、溶解しながら、含有する機能成分を所望の部位へと送達・拡散させることが可能となり、機能成分による所望の作用をもたらすことができる。
【0020】
機能成分としては、貼付する所望の部位や所望の作用により適宜選択し得るが、口腔への適用可能な有効成分又は薬用成分として一般に用いられているものを適宜選択することができる。例えば、抗炎症・消炎鎮痛剤;抗真菌剤・殺菌剤;知覚過敏、歯周病や歯肉炎等の予防又は治療に有効な成分;虫歯予防に有効な成分;美白作用をもたらす成分等が挙げられる。
【0021】
具体的には、アラントイン、ε-アミノカプロン酸、トラネキサム酸、等の抗炎症・消炎鎮痛剤;
ミコナゾール、エコナゾール、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール(IPMP)、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、チモール、ヒノキチオール等の抗真菌剤・殺菌剤;
フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム等のフッ素イオン供給化合物、及びモノフルオロリン酸ナトリウム、硝酸カリウム等の虫歯予防に有効な成分;
グリチルレチン酸、グリチルリチン酸及びこれらの塩等の歯周病や歯肉炎等の予防又は治療に有効な成分;
フィチン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、及びこれらの塩等の美白作用をもたらす成分から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0022】
これら機能成分の含有量は、選択した成分によっても変動し得るが、貼付シート全量中に、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.07質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下である。
【0023】
貼付シートは、上記機能成分のほか、製造時において貼付シートの剥離シートからの脱離を有効に防止することができるとともに、使用時において貼付シートを貼付部位に貼付しようとする際に、剥離シートから良好に剥離することができる観点、及び貼付部位への良好な追随性及び密着性とともに、良好な取扱い性をもたらす柔軟性を確保する観点から、さらには唾液等の水分への良好な溶解性を発現する観点から、水溶性高分子を含有するのが好ましい。
なお、水溶性高分子とは、25℃における水に対する溶解度が0.1質量%以上の水溶性高分子を意味する。
【0024】
かかる水溶性高分子としては、具体的には、プルラン、ヒドロキシエチルセルロース、グアガム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、及び寒天から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
なかでも、製造時において貼付シートの剥離シートからの脱離を有効に防止することができるとともに、使用時において貼付部位に貼付しようとする際に、貼付シートを剥離シートから良好に剥離することができる観点、及び貼付部位への良好な追随性及び密着性とともに、良好な取扱い性をもたらす柔軟性を確保する観点から、さらには唾液等の水分への良好な溶解性を発現する観点から、プルラン、ヒドロキシエチルセルロース、グアガム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、及び寒天から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、プルラン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びゼラチンから選ばれる1種又は2種以上がより好ましい。
【0025】
水溶性高分子の含有量は、製造時において貼付シートの剥離シートからの脱離を有効に防止することができるとともに、使用時において貼付部位に貼付しようとする際に、貼付シートを剥離シートから良好に剥離することができる観点、及び貼付部位への良好な追随性及び密着性、良好な取扱い性等を付与する観点から、貼付シート全量中に、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上であり、さらに好ましくは45質量%以上であり、好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは65質量%以下であり、さらに好ましくは60質量%以下である。
【0026】
貼付シートは、製造時において貼付シートの剥離シートからの脱離を有効に防止することができるとともに、使用時において貼付部位に貼付しようとする際に、貼付シートを剥離シートから良好に剥離することができる観点、及び含有する機能成分や水溶性高分子の分散性・拡散性を高めつつ、シートに良好な柔軟性を付与する観点から、さらにノニオン界面活性剤を含有するのが好ましい。かかるノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンフィトステロール及びフィトスタノール、ポリオキシエチレンラノリン及びラノリンアルコール、ポリオキシエチレンアルキルアミン及び脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル及び脂肪酸エタノールアミド等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選択される1種又は2種が好ましく、ポリオキシエチレン硬化ひまし油及びポリグリセリン脂肪酸エステルのいずれか1種を含有するのがより好ましく、ポリオキシエチレン硬化ひまし油及びポリグリセリン脂肪酸エステルの両方を含有するのがさらに好ましい。
【0027】
かかるノニオン界面活性剤の含有量は、製造時において貼付シートの剥離シートからの脱離を有効に防止することができるとともに、使用時において貼付部位に貼付しようとする際に、貼付シートを剥離シートから良好に剥離することができる観点、及び機能成分等の分散性・拡散性を確保しつつ、シートに良好な柔軟性を付与する観点から、貼付シート全量中に、好ましくは0.8~20質量%であり、より好ましくは2~10質量%であり、さらに好ましくは3~5質量%である。
【0028】
貼付シートは、上記成分のほか、本発明の効果を損なわない限りにおいて、例えば、上記機能成分以外の薬用成分;上記ノニオン界面活性剤以外の界面活性剤;香料;pH調整剤;湿潤剤;甘味料;色素;保存料等を含有することができる。
【0029】
貼付シートは、上記作用層のみを備えるシートであってもよいが、作用層を形成する面とは反対側の面にさらに保護層を有していてもよい。これにより、本発明の口腔用貼付シートの取り扱い性を高めることができる。例えば、保護層を作用層よりも唾液等の水分への溶解性が低い層とすると、作用層中の機能成分を滞留させたり持続的に放出させたりすることが可能となる。
【0030】
かかる保護層は、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートフタレート、ヒプロメロースフタル酸エステル、セラック、ポリビニルアセテート、ポリメチルメタクリレート、メタクリロイルエチルベタイン/メタクリレート共重合体、メタクリル酸共重合体、アミノアルキルメタクリレート共重合体、及び寒天から選ばれる1種又は2種以上の水不溶性高分子を含有するのが、作用層よりも唾液等の水分への溶解性を低める観点からは好ましい。なかでも、本発明の口腔用貼付シートの良好な追随性、密着性及び柔軟性を確保しつつ、所望の部位への貼付中において、違和感や不快感を有効に低減する観点から、保護層は、エチルセルロース、セラックから選ばれる1種又は2種以上の水不溶性高分子が好ましい。
【0031】
貼付シートは、上記作用層及び保護層のほか、さらに作用層と保護層の層間において中間層を備えてもよい。これにより、例えば作用層から機能成分を徐々に放出させつつ貼付部位へ滞留させ、続いて中間層が含有する所望の成分を口腔内に放出させることが可能となり、また段階的かつ継続的な溶解性を付与することも容易となる。中間層が含有する所望の成分としては、上記機能成分と同様のものが挙げられ、作用層が含有する機能成分とは異なる機能成分を選択することもできる。
かかる中間層は、作用層と同様の水溶性高分子を用いて形成されていてもよい。
【0032】
本発明の口腔用貼付シートを構成する剥離シートは、貼付シートと接する面において、後述の特定輝度差(ΔL)を示すシートである。このように、特定物性の貼付シートと、貼付シートと接する面に特定の輝度差(ΔL)を示す特異な凹凸表面を有する剥離シートとを積層することにより、剥離シートと貼付シートとの間に適切な接着剥離性を発現することができる。そのため、本発明の口腔用貼付シートの製造時においては、口腔内貼付シートがテンションロールや巻取り等の際に、引張応力や曲げ応力等の負荷がかけられても、貼付シートの剥離シートからの脱離を有効に防止することができる。一方、本発明の口腔用貼付シートの使用時においては、貼付シートの剥離シートからの剥離性に優れ、貼付シートを所望の部位に容易に貼付することができる。
上記輝度差(ΔL)とは、下記式(I):
輝度差(ΔL)=L(P)-L(X)・・・(I)
(式(I)中、L(P)は、剥離シートにおける貼付シートと接する面に対して45°入射光を左右から照射し、18%グレーの標準反射板の輝度が120となるように、画像解析を行ったときの、貼付シートと接する面の反射画像Pの輝度を示す。L(X)は、前記画像解析を行ったときの、貼付シートと接する面の無反射画像Xの輝度を示す。)
により求められる値を意味し、剥離シートの貼付シートと接する面において、かかる輝度差(ΔL)が4.5以上19.5以下である。
【0033】
輝度差(ΔL)を求めるにあたり、具体的には、次のような画像解析の方法を用いる。まず、剥離シートにおける貼付シートと接する面を上面とし、無反射黒色植毛布の上に、剥離シートを水平になるように配置した後、直線偏光板の偏光軸を同じ向きに装着した2灯の照明(LEDライト)を用い、この面に対して45°の光(偏光)を左右双方から照射する。次いで、デジタル一眼レフカメラと直線偏光板を装着した接写用レンズを用い、レンズに装着した偏光板の偏光軸を照明の偏光板と平行にして、剥離シートの反射画像Pを貼付シートと接する面の法線方向から撮影する。撮影した画像は8bitグレースケールに変換し、画像処理に用いる。なお、撮影の際には、18%グレーの標準反射板の輝度が120となるように光量および露出を調整する。
次に、反射画像Pを得たのと同様の設定で、レンズに装着した偏光板の偏光軸を照明の偏光板と垂直にして、剥離シートの無反射画像Xを撮影し、同様にグレースケール画像に変換する。反射画像P及び無反射画像Xにおいて任意に選択した同一かつ一定領域の画像解析を行い、反射画像Pの輝度(L(P))及び無反射画像Xの輝度(L(X))を算出する。得られた(L(P))及び(L(X))を上記式(I)に導入して、輝度差(ΔL)を求める。
【0034】
このような画像解析の方法により撮影される上記反射画像Pは、剥離シートにおける剥離シートの表面で鏡面反射した光(偏光)と剥離シートの内部で拡散反射した光(非偏光)が存在する画像に相当する。一方、上記無反射画像Xは、剥離シートにおける剥離シートの内部で拡散反射した光(非偏光)のみが存在する画像に相当する。
したがって、これらの輝度(L(P))及び(L(X))を用いて上記式(I)から求められる輝度差(ΔL)とは、表面反射光と内部での拡散反射光から内部での拡散反射光を除いた光の強度の指標、すなわち表面反射光の強度の指標となる値であり、表面の形状により左右される値である。
【0035】
本発明の口腔用貼付を構成する剥離シートの貼付シートと接する面において、上記式(I)により求められる輝度差(ΔL)は、4.5以上19.5以下である。かかる輝度差(ΔL)がこのように限られた範囲内の値であることにより、本発明の口腔用貼付シートの製造時における貼付シートの脱離を有効に防止しつつ、かかる口腔用貼付シートの使用時における剥離シートの剥離性を良好に保持することが可能となる。
剥離シートの貼付シートと接する面において、上記式(I)により求められる輝度差(ΔL)は、貼付シートと剥離シートとの間での適切な接着剥離性を発現する観点から、4.5以上であって、好ましくは5以上であり、より好ましくは7以上であり、さらに好ましくは10以上であり、19.5以下であって、好ましくは19以下であり、より好ましくは18.5以下であり、さらに好ましくは18以下である。
【0036】
なお、このような輝度差(ΔL)を有する剥離シートを得るには、剥離シートの少なくとも一方の面においてサンドブラスト加工を施すのが好ましい。サンドブラスト加工において用いるブラストの材料としては、珪砂、アルミナ、炭化ケイ素、ガラスビーズ、及びセラミックビーズ等の非金属材料や、鉄、錫、及びニッケル等の金属材料が挙げられる。なかでも、上記範囲の輝度差(ΔL)に制御する観点から、珪砂が好ましい。
【0037】
よって、本発明は、貼付シートと、剥離シートとが積層されてなる口腔用貼付シートであって、貼付シートは、水分量が5質量%以上13質量%以下であり、かつ厚みが30μm以上250μm以下であり、剥離シートは、貼付シートと接する面において、サンドブラスト加工されたものである、口腔用貼付シートである。
【0038】
剥離シートの面積は、貼付シートの面積に応じて適宜選択し得るが、貼付時における良好な取扱い性を確保する観点、及び貼付シートとの接着剥離性を充分に確保する観点から、貼付シートとの接合面が、剥離シートの一部の領域であることが好ましい。すなわち、剥離シートの面積は、貼付シートの面積よりも大きい値であることが好ましい。具体的には、剥離シートの面積と貼付シートの面積との比(b/a)は、好ましくは1.3以上であり、より好ましくは1.8以上であり、好ましくは10以下であり、より好ましくは5以下である。
このように面積を設定することによって、剥離シートにおいて貼付シートとの積層部以外の余剰の領域を設けることができるため、貼付時における良好な取扱い性等を高めることが可能となる。例えば、本発明の口腔用貼付シートの使用時に貼付シートから剥離シートを剥離する際、剥離シートにおける貼付シートとの積層部以外の余剰の領域を触指等することにより、特定の輝度差(ΔL)を示す特異な凹凸表面を認識することができるため、貼付シートを容易に判別して取り扱うことが可能となる。
【0039】
より具体的には、剥離シートにおける貼付シートが積層されてなる側の面の面積は、貼付シートの面積に応じつつ、貼付する口腔内の所望の部位に応じて適宜選択し得るが、かかる所望の部位の大きさに適切に対応する観点、及び貼付時における良好な取扱い性を確保する観点から、より具体的には、好ましくは650mm2以上であり、より好ましくは1000mm2以上であり、さらに好ましくは2000mm2以上であり、よりさらに好ましくは3000mm2以上であり、好ましくは30000mm2以下であり、より好ましくは20000mm2以下であり、さらに好ましくは10000mm2以下であり、よりさらに好ましくは5000mm2以下である。
【0040】
剥離シートの厚みは、製造時において貼付シートの剥離シートからの脱離を有効に防止することができるとともに、使用時において貼付部位に貼付しようとする際に、貼付シートを剥離シートから良好に剥離することができる観点、及び貼付シートの良好な追随性を確保する観点から、好ましくは20μm以上であり、より好ましくは30μm以上であり、さらに好ましくは40μm以上であり、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは80μm以下であり、さらに好ましくは70μm以下である。
【0041】
剥離シートは、製造時において貼付シートの剥離シートからの脱離を有効に防止することができるとともに、使用時において貼付部位に貼付しようとする際に、貼付シートを剥離シートから良好に剥離することができる観点、及び貼付シートとの適切な接着剥離性を発現する観点、及び上記輝度差(ΔL)を有する面を容易に形成する観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、及びこれらの混合物から選ばれる1種又は2種以上により形成されてなるのが好ましく、ポリエチレンテレフタレートにより形成されてなるのがより好ましい。
【0042】
剥離シートは、貼付シートと接する面とは反対側の面が、平滑な表面を有することが好ましい。これにより、剥離シートの表裏の判別が可能となる。その結果、本発明の口腔用貼付シートの使用時に剥離シートから貼付シートを剥離する際、まず第一に剥離シートにおける平滑な表面を触指等することにより表裏を判別し、次に剥離シートにおける貼付シートとの積層部以外の余剰の領域を触指等することにより、特定の輝度差(ΔL)を示す特異な凹凸表面を認識し、貼付シートと剥離シートとの境界を容易にすることができるため、貼付シートを一層容易に判別して取り扱うことが可能となる。
【0043】
貼付シートの剥離シートからの剥離力は、本発明の口腔用貼付シートの製造時において貼付シートの脱離を有効に防止するとともに、かかる口腔用貼付シートの使用時において剥離シートを良好に剥離することを可能とする観点から、好ましくは0.01N以上であり、より好ましくは0.03N以上であり、さらに好ましくは0.05N以上であり、好ましくは0.3N以下であり、より好ましくは0.25N以下であり、さらに好ましくは0.2N以下である。
なお、貼付シートの剥離シートからの剥離力とは、圧力ゲージを用い、貼付シートから剥離シートを剥離した際に測定される最大圧力(N)の値を意味する。
【0044】
本発明の口腔用貼付シートの使用態様は、まず剥離シートから貼付シートを剥離する。次いで、貼付シートを口腔内の貼付部位へ貼付する。具体的には、例えば、図1に示す歯牙周辺部を貼付対象とする口腔用貼付シート1のように、本発明の口腔用貼付シート1は、貼付シート2と剥離シート3とが積層されてなり、上の歯に貼付する貼付シート2aと下の歯に貼付する貼付シート2bとにより構成されてなる。使用時には、まず剥離シート3から貼付シート2を剥離して、貼付シート2aの面2xを露出させ、かかる面2xを貼付対象である歯牙周辺部に貼付する。
この場合、剥離シート3を剥離したときにはじめて、口腔内の所望の部位へ貼付する貼付シートの面2xが露出されるので、衛生的な使用が可能となる。
【0045】
本発明の口腔用貼付シートを構成する貼付シートの形状は、貼付対象とする歯牙、歯肉を含む歯牙の周辺に位置する器官(歯牙周辺部)、口蓋、舌、及び口底等から選ばれる部位の形状に応じて、使用時における操作性を考慮し、適宜決定すればよい。
【実施例
【0046】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。なお、表中に特に示さない限り、各成分の含有量は質量%を示す。
なお、シートの各物性については、以下の方法により測定した。
【0047】
《貼付シートの水分量》
自動水分測定装置(AQV-300シリーズ、平沼社製)を用い、貼付シートの水分量を測定した。
【0048】
《貼付シートの20MPa引張応力でのひずみ》
レオメーター(MCR502、AntonPaar社製)を用いて測定対象のシートをひずみの測定のための治具にセットし、せん断応力を1~2×107Paまで変化させたときのひずみを測定し、せん断応力20MPaでのひずみを、初期長さからの変化量(%)に換算して求めた。
【0049】
《剥離シートにおけるL(P)及びL(X)の測定、輝度差(ΔL)の算出》
剥離シートを、貼付シートと接する面を上面とし、無反射黒色植毛布上に平坦になるように配置し、上記記載の方法にしたがって測定を行った。
なお、画像の撮影には、デジタル一眼レフカメラ(D1X、Nicon社製)、及び接写用レンズ(Ai AF ZOOM Micro Nikkor ED 70-180mm F4.5-F5.6D、Nicon社製)を用い、18%グレーの標準反射板としてグレタグ・マクベス社製の標準反射板を用いた。
また、画像解析には、画像解析ソフト(Image J、v1.53, 米国国立衛生研究所NIH)を用い、一定領域のROIにおける各輝度(L(P)及びL(X))を算出し、上記式(I)に導入して、輝度差(ΔL)を求めた。
【0050】
《貼付シートの剥離シートからの剥離力の測定》
圧力ゲージ(FGP-0.2、日本電産社製)を用い、剥離シートから貼付シートを剥離した際の最大圧力(N)を測定した。
【0051】
[実施例1~4]
表1に示す作用層が形成されるよう、貼付シートとしての固形分を勘案しつつ水の量を適宜調整しながら、各成分を混合して原液を調製し、得られた原液を剥離シート上に塗工し、乾燥させて作用層を形成した後、作用層上に保護層を塗工して表1に示す口腔用貼付シートを作製した。
なお、剥離シートとして、貼付シートと接する面における輝度差(ΔL)が4.5以上19.5以下であるサンドブラスト加工が施されたシートを用いた。
【0052】
[実施例5~6]
作用層に対して保護層を積層しなかった以外、実施例1と同様にして口腔用貼付シートを作製した。
【0053】
[比較例1]
剥離シートとして、貼付シートと接する面が未加工の平滑シート(輝度差(ΔL)4.5未満)を用いた以外、実施例1と同様にして口腔用貼付シートを作製した。
【0054】
[比較例2]
剥離シートとして、貼付シートと接する面にサンドブラスト加工(輝度差(ΔL)20以上)が施されたシートを用いた以外、実施例1と同様にして口腔用貼付シートを作製した。
【0055】
《製造時における剥離・脱落の有無の評価》
表2に示す口腔用貼付シートを5000枚以上製造し、貼付シートの剥離や脱離が発生した枚数をカウントし、全枚数中における剥離・脱落が発生した枚数の割合(%)を求め、下記基準にしたがって評価した。
1:ない(1%未満)
2:ほぼない(1%以上5%未満)
3:ある(5%以上10%未満)
4:ある(10%以上)
【0056】
《使用時における剥離性の評価》
表1に示す口腔用貼付シートを使用し、貼付シートを剥離シートから剥離する際における剥離のし易さの程度や、変形やひずみ等のシート形状への影響の有無について確認し、下記基準にしたがって評価した。
1:剥離しやすく、製品形状への影響もない
2:剥離がややしやすく、製品形状への影響もない
3:剥離がややしやすいが、製品形状への影響がある
4:剥離がしにくく、製品形状への影響がある
5:剥離しにくい
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
本発明の口腔用貼付シートの処方例について、表3に示す。
【0060】
【表3】
図1