(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】血液浄化器
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
A61M1/36 165
(21)【出願番号】P 2021512085
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014376
(87)【国際公開番号】W WO2020203923
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2019068818
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020004699
(32)【優先日】2020-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】大石 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】時水 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】松山 慶太朗
(72)【発明者】
【氏名】森田 直喜
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/013540(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/018242(WO,A2)
【文献】国際公開第2003/055545(WO,A1)
【文献】特開2004-161954(JP,A)
【文献】特開2019-018193(JP,A)
【文献】中岡 竜介,医療機器の承認審査に求められる生物学的安全性評価とその国際標準化状況,日本バイオマテリアル学会シンポジウム2016資料,日本,2016年11月21日
【文献】田中 賢, 外1名,新規バイオ・医療用高分子の熱分析,Netsu Sokutei,日本,2012年,Vol. 39,No. 4,pp. 151-157
【文献】小林 慎吾, 外1名,新規な医療用中間水含有ポリマーの精密合成技術,新技術説明会,日本,2015年01月22日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体容器、及び前記本体容器内に収容された多孔性成形体を有する、血液浄化器であって、
前記多孔性成形体は、疎水性ポリマー及び親水性ポリマーを含み
、前記多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量が0.12g以上2.00g以下であり、前記多孔性成形体の接触変化率が0%以上0.2%以下であり、
前記本体容器内の前記多孔性成形体が占める領域の、長手方向における長さLと、短手方向における断面の円相当直径Dとの比L/Dが1.00以上2.30以下であり、前記円相当直径Dは、下記式(1):
D=2√(V/L/3.14)・・・(1)
に基づいて算出され、前記式(1)において、Vは、前記本体容器内の前記多孔性成形体が占める領域の見かけ容積であり、
3.75mPa・s以上3.85mPa・s以下の粘度を有するポリビニルピロリドン水溶液を400mL/分の通液速度で前記血液浄化器に流したとき、血液処理前の前記血液浄化器の圧力損失が13kPa未満であり、かつ、血液処理後の前記血液浄化器の圧力損失が13kPa未満であ
り、
前記多孔性成形体は、球状粒子の形態であり、
前記低融点水分量は、下記のDSC測定で測定される値である、血液浄化器。
1.空パンの重量を量る。
2.パンに含水させた多孔性成形体を入れて密閉し、パンの重量を量る。
3.DSC測定を行う。
4.DSC測定後に密封パンに小さな穴を開け、80℃にて8時間以上真空乾燥する。
5.前記4に記載の真空乾燥後のパンの重量を量る。
6.前記5に記載の真空乾燥後のパンの重量から前記1に記載の空パンの重量を引くことにより、多孔性成形体の乾燥重量を算出する。
7.前記2に記載のパンの重量から前記5に記載の真空乾燥後のパンの重量を引くことにより、多孔性成形体の全水分量を算出する。
8.DSC測定後のヒートフロー(グラフの縦軸)を全水分量で規格化する。
9.DSC測定の吸収(吸熱)ピーク面積のうち、0.18℃以上をバルク水の融解熱量(全融解熱量)、0.18℃未満を低融点水の融解熱量(低融点水融解熱量)と定義する。
10.全水分量にDSCにて得られる低融点水分率(低融点水融解熱量/全融解熱量)をかけることにより、低融点水分量を算出する。
11.低融点水分量を多孔性成形体の乾燥重量で割ることにより、乾燥重量1gあたりの低融点水分量を算出する。
上記の測定を10回測行い、最大値と最小値を除いた8点の値の平均値を低融点水分量とする。測定条件は以下のとおりとする。
雰囲気:窒素(流量50mL/min.)
温度校正:シクロヘキサン6.71℃
熱量校正:シクロヘキサン31.9J/g
測定温度:-40℃~5℃
昇温速度:0.3℃/分(-30℃までの降温速度は-3℃/分)
【請求項2】
前記多孔性成形体が占める領域の見かけ容積Vが210mL以上500mL以下である、請求項1に記載の血液浄化器。
【請求項3】
前記多孔性成形体の面積平均粒子径は、300μm以上1,000μm以下である、請求項
1に記載の血液浄化器。
【請求項4】
前記多孔性成形体の5nm以上100nm以下の細孔直径の積算細孔容量が0.5cm
3/g以上であり、前記多孔性成形体の100nm以上200nm以下の細孔直径の積算細孔容量が0.2cm
3/g以下である、請求項1に記載の血液浄化器。
【請求項5】
前記多孔性成形体のアルブミン吸着量が13mg/mL以上90mg/mL以下である、請求項1に記載の血液浄化器。
【請求項6】
前記血液浄化器は全血を処理するための血液浄化器である、請求項1に記載の血液浄化器。
【請求項7】
前記疎水性ポリマーが、スチレン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー及びポリスルホン系ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項1に記載の血液浄化器。
【請求項8】
前記親水性ポリマーが、下記化学式(1):
【化1】
{化学式(1)中、R
1は、水素原子又はメチル基であり、R
2は、-CH
2(CH
2)
qOC
tH
2t+1又は-CH
2C
mH
2m+1であり、qは1~5であり、tは0~2であり、mは0~17である。}で表されるモノマーを単量体単位として含む、請求項1に記載の血液浄化器。
【請求項9】
サイトカインであるIL-1b、IL-6、IL-8及びIL-10の吸着率が50%以上である、請求項1に記載の血液浄化器。
【請求項10】
サイトカインであるTNF-αの吸着率が30%以上である、請求項1に記載の血液浄化器。
【請求項11】
アラーミンであるHMGB-1の吸着率が50%以上である、請求項1に記載の血液浄化器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液浄化器に関する。
【背景技術】
【0002】
敗血症をはじめとする虚血性疾患の治療においては、その原因物質と考えられる炎症性メディエーター、例えばサイトカイン及びアラーミン等を患者の血液中から除去する、種々のアフェレシス療法が行われている。近年、アフェレシス療法の一つとして、炎症性メディエーターを吸着により除去する、吸着型血液浄化器の開発が進んでいる。
【0003】
上市されている吸着型血液浄化器としては、例えば、エンドトキシン除去機能を有する繊維をロール状に巻き付けた吸着体を用いた、トレミキシン(登録商標)(東レ・メディカル株式会社);アラーミン(HMGB1)及びサイトカイン(IL-6等)吸着機能を有する中空糸を用いた、持続的血液浄化療法(CRRT)向け吸着型血液浄化器である、セプザイリス(登録商標)(バクスター株式会社);並びにサイトカイン除去機能を有する多孔性ポリマー多孔性成形体を用いた、CytoSorb(登録商標)(サイトソーベンツ社)等が挙げられる。
【0004】
血液浄化器は患者の血液に直接触れるため、生体適合性を有することが必要である。血液浄化器に生体適合性を付与するため、吸着体は、生体適合性ポリマー、典型的には親水性ポリマーでコーティングされる。
【0005】
例えば、特許文献1は、特定構造の単量体を含むメタノール溶液に特定のラジカル重合開始剤を加えて重合反応を行うことにより製造される、抗血栓性コーティング材を開示している。この抗血栓性コーティング材は、ePTFE製人工血管等の人工器官、及びカテーテル等の医療機器に塗布され、それらに生体適合性を与えることができる。
【0006】
特許文献2は、非イオン性基を有するモノマー単位と、塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位と、ホモポリマーを形成した場合にN値が2以下となるモノマー単位とを含む、特定構造の共重合体を開示している。この共重合体をフィルター上に担持することにより、赤血球へ悪影響を与えずに赤血球を含む生体由来液を処理することが可能な、生体由来液処理フィルターを提供することができる。
【0007】
特許文献3は、両性イオン部分およびオリゴエチレングリコール部分の少なくとも1つを複数有する架橋ポリマー材料を、吸着体としての多孔性成形体上にコーティングすることを開示している。
【0008】
特許文献4は、N-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン(CMB)と、二重結合1個及び有機基を有するアルケン化合物で表される生体適合性を有する重合性モノマーとを共重合させた、生体適合性ポリマーを開示している。
【0009】
特許文献5は、2-メトキシエチルアクリレート(MEA)と、N-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン(CMB)とを共重合させた生体適合性ポリマーであって、CMBが、全単量体単位中1~7モル%含まれる、生体適合性ポリマーを開示している。
【0010】
特許文献6は、2-メトキシエチルアクリレート(MEA)と、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド(SPB)、または[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド(SPBA)とを共重合させた生体適合性ポリマーであって、SBACが、全単量体単位中1~7モル%含まれる、生体適合性ポリマーを開示している。
【0011】
特許文献7は、有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含み、特定の最頻細孔径範囲を有する多孔性成形体を含有する血液処理用リン吸着剤を開示している。
【0012】
特許文献8は、有機高分子樹脂及び無機吸着体を含み、特定の最頻細孔径範囲を有する多孔性成形体の表面に生体適合性ポリマーをコートした血液処理用リン吸着剤を開示している。
【0013】
特許文献9は、リンのクリアランスを強化した無機イオン吸着体を含む中空糸状透析膜を有する血液浄化器を開示している。
【0014】
特許文献10及び11は、金属溶出物 微粒子を低減した無機イオン吸着体を含む多孔性成形体を有する血液浄化器を開示している。
【0015】
特許文献12は、血液中より、有用タンパク質の損失を少なく抑えつつ、サイトカイン及びHMGB1を同時に吸着除去するための吸着材を開示している。PES+PEG35000+水和酸化セリウム及びEVOH+PVP(K30)+水和酸化ジルコニウムの2つの実施例を開示しているが、PEG35000及び PVP(K30)は、水に可溶であるため本願のような血液濾過には向かない。
【0016】
特許文献7から11には、血液からリンを吸着除去する性能が特記されているが、血液からサイトカインを良好に吸着除去することについては何ら開示されていない。
【0017】
特許文献12には、疎水性ポリマー、親水性ポリマー及びサイトカイン吸着体を含む多孔性成形体が開示されているが、親水性ポリマーに重量平均分子量1,100,000以上のポリビニルピロリドンを用いていないためHMGB1の吸着率が60%未満と好ましくない。このような吸着型血液浄化器は、虚血性疾患の治療のほか、心臓手術及び臓器移植手術などの、炎症性メディエーターの過剰産生が問題となる場面での活用が期待されている。
【0018】
特許文献13には、血液透析治療時の透析液の中にリン吸着剤を含む透析組成物を循環させることにより、リン吸着剤を血液と直接接触させないで血液中のリンを効率的に除去することが開示されている。
【0019】
特許文献14には体外血液回路に血液中に蓄積されたリンを除去する、ポリカチオンポリマーからなるリン吸着剤を、血液透析器とは別に、配設した血液透析システムが開示されている。
【0020】
特許文献15には、リン等を高速に吸着除去できる吸着剤に適した多孔性成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】特開2017-025285号公報
【文献】特開2017-185037号公報
【文献】特表2016-514568号公報
【文献】特開2007-130194号公報
【文献】国際公開第2015/098763号
【文献】国際公開第2015/125890号
【文献】国際公開第2017/082423号
【文献】国際公開第2018/212269号
【文献】特開2019-177042号公報
【文献】国際公開第2019/189881号
【文献】国際公開第2019/189884号
【文献】特開2017-86563号公報
【文献】国際公開第2011/125758号
【文献】特開2002-102335号公報
【文献】特許第4671419号公報
【非特許文献】
【0022】
【文献】Shigeaki Morita, Masaru Tanaka 及び Yukihiro Ozaki, 「Time-Resolved In Situ ATR-IR Observations of the Process of Sorption of Water into a Poly(2-methoxyethyl acrylate) Film」, Langmuir, 2007, 23 (7), 公開日(ウェブ)2007年3月3日, pp.3750-3761
【文献】T. Tsuruta, J. Biomater.等, 「The roles of water molecules in the interfaces between biological systems and polymers」, Sci. Polvm. Ed., 21, 2010, pp.1827-1920
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、血小板が付き難いという血液適合性(以下、単に「血液適合性」という。)に優れ、良好なサイトカイン吸着性能を有し、血液処理前後の圧力損失が低く、かつ、安全に使用可能な、多孔性成形体を有する血液浄化器を提供することを目的の一つとする。
【0024】
一実施形態において、本発明は、多孔性成形体の吸着性を維持しつつ、改善された血液適合性を有する多孔性成形体を提供することを目的の一つとする。
【0025】
一実施形態において、本発明は、上記の特許文献1から6等に記載されている従来の生体適合性ポリマーを有する医療機器における一つ又は複数の課題を解決することを目的の一つとする。
【0026】
例えば、上記の特許文献1から3等に記載されているような従来の生体適合性ポリマーを、吸着体としての多孔性成形体にコーティング(本願明細書において「担持」ともいう。)すると、多孔性成形体の生体適合性を向上させることができるものの、多孔性成形体の表面が親水化され、疎水性蛋白質である炎症性メディエーターの吸着性が低下する。そのため、生体適合性の向上と吸着性の向上とはトレードオフの関係にあると考えられている。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは、多孔性成形体に含まれる低融点水分量を調整することにより、血液適合性に優れる血液浄化器が得られることを見いだし、血液浄化器の血液処理前後の圧力損失を低くすることに成功した。さらに、多孔性成形体に含まれる低融点水分量を調整することにより、良好なサイトカイン吸着性能を有する血液浄化器が得られ、かつ、多孔性成形体の接触変化率(「撹拌摩耗率」とも呼ばれる。)を調整することにより、安全に使用可能な血液浄化器が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0028】
以下、本発明の実施形態の例を列記する。
[1]
本体容器、及び上記本体容器内に収容された多孔性成形体を有する、血液浄化器であって、
上記多孔性成形体は、疎水性ポリマー及び親水性ポリマーを含み、上記多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量が0.12g以上2.00g以下であり、上記多孔性成形体の接触変化率が0%以上0.2%以下であり、
上記本体容器内の上記多孔性成形体が占める領域の、長手方向における長さLと、短手方向における断面の円相当直径Dとの比L/Dが1.00以上2.30以下であり、上記円相当直径Dは、下記式(1):
D=2√(V/L/3.14)・・・(1)
に基づいて算出され、上記式(1)において、Vは、上記本体容器内の上記多孔性成形体が占める領域の見かけ容積であり、
3.75mPa・s以上3.85mPa・s以下の粘度を有するポリビニルピロリドン水溶液を400mL/分の通液速度で上記血液浄化器に流したとき、血液処理前の上記血液浄化器の圧力損失が13kPa未満であり、かつ、血液処理後の上記血液浄化器の圧力損失が13kPa未満である、血液浄化器。
[2]
上記多孔性成形体が占める領域の見かけ容積Vが210mL以上500mL以下である、項目1に記載の血液浄化器。
[3]
上記多孔性成形体は、球状粒子の形態である、項目1に記載の血液浄化器。
[4]
上記多孔性成形体の面積平均粒子径は、300μm以上1,000μm以下である、項目3に記載の血液浄化器。
[5]
上記多孔性成形体の5nm以上100nm以下の細孔直径の積算細孔容量が0.5cm
3/g以上であり、上記多孔性成形体の100nm以上200nm以下の細孔直径の積算細孔容量が0.2cm
3/g以下である、項目1に記載の血液浄化器。
[6]
上記多孔性成形体のアルブミン吸着量が13mg/mL以上90mg/mL以下である、項目1に記載の血液浄化器。
[7]
上記血液浄化器は全血を処理するための血液浄化器である、項目1に記載の血液浄化器。
[8]
上記疎水性ポリマーが、スチレン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー及びポリスルホン系ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも一つである、項目1に記載の血液浄化器。
[9]
上記親水性ポリマーが、下記化学式(1):
【化1】
{化学式(1)中、R
1は、水素原子又はメチル基であり、R
2は、-CH
2(CH
2)
qOC
tH
2t+1又は-CH
2C
mH
2m+1であり、qは1~5であり、tは0~2であり、mは0~17である。}で表されるモノマーを単量体単位として含む、項目1に記載の血液浄化器。
[10]
サイトカインであるIL-1b、IL-6、IL-8及びIL-10の吸着率が50%以上である、項目1に記載の血液浄化器。
[11]
サイトカインであるTNF-αの吸着率が30%以上である、項目1に記載の血液浄化器。
[12]
アラーミンであるHMGB-1の吸着率が50%以上である、項目1に記載の血液浄化器。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る血液浄化器は、血液適合性に優れ、良好なサイトカイン吸着性能を有し、血液処理前後の圧力損失が低く、かつ、安全に使用可能である。
【0030】
好ましい実施形態において、本発明の血液浄化器は、体外循環治療時の高い血液流速の場合であっても、血液中のサイトカイン及びハイモビリティグループボックス1(HMGB1)の選択性及び吸着性に優れており、血液中の他の成分に影響を及ぼすことなく、血液中のサイトカイン及びハイモビリティグループボックス1(HMGB1)を必要量排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、アンバーライト
TMXAD
TM1180NのLog微分細孔容積分布及び積算細孔容量のグラフである。
【
図2】
図2は、多孔性成形体のDSC測定結果の一例である。
【
図3】
図3は、アンバーライト
TMXAD
TM1180Nの累計面積粒度分布のグラフである。
【
図4】
図4は、本実施形態の血液浄化器の、リン吸着量のカラムフロー試験装置の概要図である。
【
図5】
図5は、PMEAコート溶液の溶媒による、PMEA溶解性を示す図である。
【
図6】
図6は、PMEAコート後のPES及びMOXを含む多孔性成形体の、ATR/FT-IR分析の一例である。
【
図7】
図7は、PMEAコート溶液の溶媒による、PMEAコート量の違いを説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[血液浄化器]
本実施形態の血液浄化器は、本体容器、及び本体容器内に収容された多孔性成形体を有する。本体容器は、一般に、血液入口、内部空間、及び血液出口を有し、内部空間は多孔性成形体を収容することができる。血液浄化処理の際には、一般に、処理前の血液が血液入口を通って内部空間へと導入され、内部空間内に存在する本実施形態の多孔性成形体と接触することによって処理され、処理済み血液は血液出口を通って流出することができる。本体容器の形状としては、限定されないが、例えば、筒状、典型的には円筒状のカラム等を挙げることができる。
【0033】
[低融点水分量]
多孔性成形体は、疎水性ポリマー及び親水性ポリマーを含み、多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量が0.12g以上2.00g以下であり、好ましくは0.12g以上1.85g以下、より好ましくは0.37g以上1.85g以下である。一実施形態において、低融点水分量の上限は、1.35g以下であってもよい。
【0034】
多孔性成形体を構成するポリマー表面の親水基、例えばメトキシ基及びカルボニル基等の量に比例して、中間水が増加することが報告されている。中間水が多い程、血漿タンパク質の吸着及び変性が軽微になり、また、中間水が多い程、多孔性成形体への血小板の粘着性が低下し、血小板の活性化が低下することが知られている(例えば、非特許文献1)。多孔性成形体を構成するポリマー表面に吸着した水は、ポリマーの親水基と強く相互作用している「不凍水」と、親水基と相互作用のない「自由水」と、親水基と弱く相互作用している「中間水」とに分類される。中間水は、通常の0℃で凍る水とは、バイオ界面に与える影響が全く異なり、血液適合性に優れた材料は、中間水の存在が重要であると考えられている。一般的に、「中間水」とは、0℃未満で凍る水として定義されている(例えば、非特許文献2)。これに対して、本発明者等は、優先日における最新のDSC及び分析システムを用いて多孔性成形体中に含まれる水を解析した結果、多孔性成形体を構成するポリマー中の親水基と相互作用する、血液適合性に重要な影響を及ぼす水は、0.18℃未満で凍る水であることを解明した。本願明細書において、0.18℃未満で凍る水を「低融点水」と定義し、「低融点水分量」は、多孔性成形体に吸着する0.18℃未満で凍る水の量を意味する。
【0035】
従来、バイオ界面に影響を及ぼすのはポリマー表面に存在する水の「中間水」の割合であると考えられてきたため、多孔性成形体を構成するポリマー表面の水の解析において、通常の0℃で凍る水に対する「中間水」の割合にのみ着目してきた。本発明者等は、0.18℃未満で凍る水である「低融点水」の量が、溶血が少なく血小板付着量が少ないという血液適合性に重要であるだけでなく、多孔性成形体のリンイオン、サイトカイン及びアラーミン等の吸着率にも影響を及ぼすことを初めて見出した。
【0036】
多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量が0.12g以上2.00g以下であることにより、溶血が少なく血小板付着量が少ない等の血液適合性を示す理由としては、理論に拘束されないが、発明者らは以下のように推測している。すなわち、上述した血漿タンパク質の吸着及び血漿タンパク質の変性が軽微になることに起因する。サイトカイン及びアラーミンは低分子のタンパク質であることから、同様に「低融点水分量」に比例して多孔性成形体に吸着しやすくなると考えられる。比較的分子量の大きなTNF-α及びHMGB1の吸着も、「低融点水分量」がある程度高いことを必要とするが、分子量の影響により「低融点水分量」に比例して僅かに減少する傾向にある。以上から、低融点水分量が0.12g未満では多孔性成形体の血液適合性が悪化し、溶血の発生や、血小板付着量が増える等により血液浄化器の圧力損失が上昇する。低融点水分量が2.00gを超えるとサイトカインの一種であるTNF-αの吸着率とアラーミンであるHMGB1の吸着率が低下する傾向にある。
【0037】
本実施形態の血液浄化器の製造においては、血液適合性に優れ、かつ、良好なサイトカイン吸着性能を有する血液浄化器を得るために、多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量を0.12g以上2.00g以下の範囲に調節することが必要である。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量が0.12g未満では、血液適合性に優れないことから血液処理後の血液浄化器の圧力損失が大きく上昇する傾向にあり、さらに目的とするサイトカイン吸着性能が得られ難い傾向にある。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量が2.00gを超えると、サイトカインの中では比較的高分子量であるTNF-αの吸着率が低下する傾向にあり、アラーミンであるハイモビリティグループボックス1(HMGB1)の吸着率も低下する傾向にある。
【0038】
[サイトカイン吸着率]
TNF-αを除くサイトカイン吸着率は50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上であり、これらは、多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量を0.12g以上にすることで達成可能である。TNF-α吸着率は30%以上、好ましくは60%以上であり、これらは、多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量を0.12g以上2.00g以下にすることで達成可能である。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量が2.00gを超えると、TNF-α吸着率は30%未満になる傾向にあることから好ましくない。
【0039】
アラーミンであるハイモビリティグループボックス1(HMGB1)の吸着率は60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは90%以上であり、これらは、多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量を0.12g以上2.00g以下にすることで達成可能である。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量が2.00gを超えると、HMGB1吸着率は60%未満になる傾向にあることから好ましくない。
【0040】
好ましくは、後述する特定のサイトカイン吸着体を多孔性成形体に含有させることで、アラーミンであるハイモビリティグループボックス1(HMGB1)の吸着率を90%以上にすることが可能である。
【0041】
[接触変化率]
本実施形態の血液浄化器に用いられる多孔性成形体の接触変化率は、好ましくは0%以上0.2%以下、より好ましくは0%以上0.1%以下、さらに好ましくは0%である。接触変化率とは、多孔性成形体を撹拌し互いに接触させたときに、その一部が破損し微粒子となって減少する質量の変化率であり、多孔性成形体を多孔性成形体の強度又は脆さを示す指標である。これまで、多孔性成形体の強度又は脆さを的確に示す指標が存在しなかったところ、本願発明者らは、当該接触変化率が0.2%より高いと、血液浄化器を輸送する際、及び血液濾過に使用する際の多孔性成形体同士の接触により、多孔性成形体が破損し、血液浄化器の圧力損失の上昇の原因となり得ることを見いだした。接触変化率が0%以上0.2%以下の範囲内にあることにより、微粒子の発生を抑えられ、より安全性に優れた血液浄化器を提供することができる。
【0042】
接触変化率を0%以上0.2%以下の範囲内に調整するためには、多孔性成形体に親水性ポリマーをコーティングすることにより得られる多孔性成形体の場合、親水性ポリマーをコーティングする前の多孔性成形体が疎水性ポリマーからなることが好ましい。サイトカイン吸着体を含む多孔性成形体の場合、多孔性成形体の成形用スラリー溶液中に、水不溶性の(高分子量で架橋構造を含む。水に溶け難い)親水性ポリマーを含有することが好ましい。成形用スラリー溶液は、ポリビニルピロリドンを含んでもよい。ポリビニルピロリドンは水溶性であるが、疎水性ポリマーとの親和性が高いため、得られた多孔性成形体中に多くのポリビニルピロリドンが残存する傾向にある。ポリビニルピロリドンとしては、例えば、ポリビニルピロリドンK90(BASF社製、重量平均分子量1,200,000)が挙げられる。さらに、多孔性成形体を親水性ポリマーでコーティングすることがより好ましい。
【0043】
[本体容器]
一実施形態において、本実施形態の血液浄化器の有効長Lと断面直径Dとの比L/Dが1.00以上2.30以下であることが好ましい。L/Dが1.00以上であると、血液浄化器を製造しやすい。L/Dが2.30以下であると、血液処理後の血液浄化器の圧力損失の上昇を抑制することができる。
【0044】
本願明細書において、「有効長L」とは、本体容器の内部空間のうち多孔性成形体が占める領域の、長手方向(一般的に、血液の流れ方向)における長さを意味する。「円相当直径D」とは、本体容器の内部空間のうち多孔性成形体が占める領域の、短手方向(長手方向に垂直な方向)における断面の円相当直径を意味し、下記式(1):
D=2√(V/L/3.14)・・・(1)
に基づいて算出される。上記式(1)中、Vは、前記本体容器内の前記多孔性成形体が占める領域の見かけ容積を意味する。多孔性成形体が占める領域の見かけ容積Vは、多孔性成形体の実体積ではなく、多孔性成形体の空隙を含めた領域の容積を意味する。
【0045】
本実施形態の血液浄化器の見かけ容積Vは、好ましくは210mL以上500mL以下、より好ましくは260mL以上500mL以下、更に好ましくは310mL以上500mL以下、より更に好ましくは360mL以上500mL以下である。見かけ容積Vが210mL以上であることにより、血液をカラムに流した際に迅速な吸着性能を発揮することができる。見かけ容積Vが500mL以下であることにより、血液を血液浄化器に流す際のプライミングボリューム量を低減し、生体への負荷を低減することが可能である。
【0046】
[圧力損失]
一実施形態において、本実施形態の血液浄化器に3.75mPa・s以上3.85mPa・s以下の粘度を有するポリビニルピロリドン水溶液を400mL/分の通液速度で流したときの、血液処理前の血液浄化器の圧力損失が13kPa未満であって、かつ、血液処理後の血液浄化器の圧力損失が13kPa未満であることが好ましい。血液処理前後の圧力損失が13kPa未満であることは、血液を濾過(血液処理)しても血液浄化器が詰まり難く、血液の濾過(血液処理)がし易いことを意味する。
【0047】
良好なサイトカイン吸着性能を有する多孔性成形体は、赤血球や血小板もまた吸着しやすい。このとき多孔性成形体の血液適合性が低いと、血漿タンパク質の吸着及び変性により血液浄化器が詰まり、圧力損失が上昇する原因となる。そのため、従来は、良好なサイトカイン吸着性能を有し、かつ血液処理前後の圧力損失が低い多孔性成形体を有する血液浄化器を作製できなかった。これに対して、低融点水分量を0.12g以上にすることにより、血漿タンパク質の吸着及び変性を抑え、多孔性成形体の溶血がほとんど無く、血小板付着量も少ない等の血液適合性に優れた多孔性成形体が得られることから、良好なサイトカイン吸着性能を有しつつ、血液処理後の圧力損失を13kPa未満に調整することが可能である。
【0048】
上記ポリビニルピロリドン水溶液は、超純水1Lに対しポリビニルピロリドン(PVP、BASF社製、K90)を少量ずつ加え、完全に溶解するまで撹拌することにより得られた溶液の粘度を、粘度測定機(TVE-25L、東機産業社製)にて測定し、3.75mPa・s以上3.85mPa・s以下の粘度になるまで、ポリビニルピロリドンを加えることで調製することができる。本願明細書において、血液浄化器の圧力損失は、当該ポリビニルピロリドン水溶液を400mL/分の通液速度で血液浄化器の血液入側(入口)から血液出側(出口)に流したときの、血液浄化器の血液入圧と血液出圧の差を意味する。
【0049】
上記圧力損失は血液処理の前後で比較することができ、この文脈における「血液処理」とは、以下の手順で血液浄化器に血液を通液させることを意味する。まず、事前に生理食塩水(大塚生食注、大塚製薬工場社製)を充填し、一端を鉗子で止めた50cmの塩ビチューブ(浪速社製)2本を、血液浄化器の血液入側(入口)および血液出側(出口)に空気が混入しないように接続する。次に、それらの鉗子を外した後、2Lの生理食塩水を、血液ポンプを用いて100mL/分の通液速度で血液浄化器の血液入側から血液出側に通液することで、血液浄化器の生食プライミングを行う。この時、血液浄化器内に空気が混入しないように注意する。続いて、健常ボランティアから採血した人血液にヘパリンナトリウム(ヘパリンナトリウム注5万単位/50mL、ニプロ社製)を2000IU/L濃度になるように添加し、ヘパリン添加後人血液500mLを準備する。その人血液を充填し、一端を鉗子で止めた50cmの塩ビチューブ(浪速社製)1本を、空気が混入しないように注意しながら、血液浄化器の血液入側に接続されているチューブと交換する。新たに接続したチューブの鉗子を外した後、上記の人血液150mLを100mL/分の通液速度で血液浄化器の血液入側から血液出側に通液することで、血液浄化器およびチューブ内を人血液で置換する。最後に、残った人血液250mLをステンレスビーカーに加え、ビーカー内を緩やかに回転子で攪拌する。そのビーカー内の血液中に、血液浄化器の血液入側に接続されているチューブと血液出側に接続されているチューブを入れ、血液浄化器内に空気が混入しないように注意しながら、血液ポンプを用いて100mL/分の速度で血液を2時間循環することを意味する。
【0050】
血液処理後の圧力損失は下記の手順で測定する。
・血液処理後2分以内に血液浄化器に残存する血液を除去する。
・血液を除去後2分以内に血液浄化器を37℃の生理食塩水で100mL/分の通液速度で15分間血液浄化器の血液入側(入口)から血液出側(出口)にワンパスで通液する。
・残存した生理食塩水を除去後2分以内に、上記の方法にて血液浄化器の圧力損失を測定する。
上記の測定を3つの血液浄化器で行い、平均値を血液処理後の圧力損失とする。
【0051】
本実施形態の血液浄化器は、全血を処理するための血液浄化器であることが好ましい。本実施形態の血液浄化器は、人全血に接触させ、人全血からサイトカイン及びアラーミンであるハイモビリティグループボックス1(HMGB1)を除去することに適している。
【0052】
[血小板付着量]
一実施形態において、多孔性成形体に血液を接触させたときの血液1mL当たりの血小板付着量は、好ましくは4.00億個/mL以下、より好ましくは3.50億個/mL以下、更に好ましくは3.00億個/mL以下である。血小板付着量は多孔性成形体の血液適合性の指標である。多孔性成形体の血小板付着量が4.00億個/mL以下であることにより、血液処理後の血液浄化器の圧力損失の上昇を抑制することができる。低融点水分量を0.12g以上にすることにより、血漿タンパク質の吸着及び変性を抑え、多孔性成形体の溶血がほとんど無く、血小板付着量も少ない等の血液適合性に優れた多孔性成形体が得られることから、血小板付着量を4.00億個/mL以下に調整することが可能である。
【0053】
[積算細孔容量]
多孔性成形体の5nm以上100nm以下の細孔直径の積算細孔容量は、好ましくは0.5cm3/g以上、より好ましくは0.8cm3/g以上、更に好ましくは1.0cm3/g以上である。該積算細孔容量の上限値は、好ましくは3.5cm3/g以下、より好ましくは3.0cm3/g以下、更に好ましくは2.5cm3/g以下である。該積算細孔容量が上記範囲内である場合、ポリマーを担持させている多孔性成形体の吸着性がより向上し、多孔性成形体がより多くの疎水性蛋白質分子を除去することができるため好ましい。また該積算細孔容量が上記範囲内である場合、溶出する生体適合性ポリマーをその細孔内により効果的に吸着することができる。その結果、より良好な血液適合性を有しつつ、生体適合性ポリマーの血液中への溶出が低減された多孔性成形体を得ることができるため好ましい。
【0054】
多孔性成形体の100nm以上200nm以下の細孔直径の積算細孔容量は、好ましくは0.2cm3/g以下、より好ましくは0.1cm3/g以下、更に好ましくは0.05cm3/g以下である。該積算細孔容量が上記範囲内である場合、多孔性成形体は疎水性蛋白質分子の吸着に適したサイズの細孔を多く有し、その結果、より吸着性に優れた多孔性成形体を得ることができるため好ましい。
【0055】
[アルブミン吸着量]
多孔性成形体のアルブミン吸着量は、好ましくは13mg/mL以上90mg/mL以下、より好ましくは30mg/mL以上90mg/mL以下、更に好ましくは45mg/mL以上64mg/mL以下である。アルブミン吸着量が13mg/mL以上であることにより、多孔性成形体のサイトカインの吸着性能が向上し、アルブミン吸着量が90mg/mL以下であることにより、人体に有用なアルブミン量の低下を抑制することができる。
【0056】
[多孔性成形体の形状等]
本実施形態の多孔性成形体は、粒子状、糸状、シート状、中空糸状、円柱状、又は中空円柱状等の任意の形態であってよく、球状粒子の形態であることが好ましい。球状粒子は、粒子の形状が実質的に球形であることを意味し、真球状、楕円球状であってもよい。球状粒子の面積平均粒径は、好ましくは300μm以上1,000μm以下より好ましくは400μm以上800μm以下、更に好ましくは500μm以上700μm以下である。面積平均粒子径が300μm以上であることにより、血液をカラムに流した際の圧上昇を効果的に抑制することができる。面積平均粒子径が1,000μm以下であることにより、迅速な吸着性能を発揮することできる。
【0057】
[疎水性ポリマー]
多孔性成形体に含まれる疎水性ポリマーは、多孔性成形体を形成することができる疎水性のポリマーであればよい。疎水性ポリマーとしては、例えば、ポリスルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン(PES)系ポリマー、ポリエーテルイミド系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン系ポリマー、ポリ塩化ビニリデン系ポリマー、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、ポリアリールエーテルスルホン、ポリプロピレン系ポリマー、スチレンジビニルベンゼン共重合体等のポリスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、多種類等が挙げられる。中でも芳香族ポリスルホン、芳香族ポリエーテルスルホン、スチレンジビニルベンゼン共重合体等のポリスチレン系ポリマーは、熱安定性、耐酸性、耐アルカリ性及び機械的強度に優れるため好ましい。疎水性ポリマーの重合度や分子量は特に限定されない。
【0058】
芳香族ポリスルホンとしては、下記式(2):
-O-Ar-C(CH3)2-Ar-O-Ar-SO2-Ar- ・・・(2)
{式中、Arは、パラ位での2置換のフェニル基である。}で表される繰り返し単位を有するものが挙げられる。芳香族ポリスルホンの重合度や分子量は特に限定されない。
【0059】
芳香族ポリエーテルスルホンとしては、下記式(3):
-O-Ar-SO2-Ar- ・・・(3)
{式中、Arは、パラ位での2置換のフェニル基である。}で表される繰り返し単位を有するものが挙げられる。芳香族ポリエーテルスルホンの重合度や分子量は特に限定されない。
【0060】
[親水性ポリマー]
多孔性成形体に含まれる親水性ポリマーは、水中で膨潤するが、水に溶解しない生体適合性ポリマーであれば特に限定されない。本願明細書において、親水性ポリマーを「生体適合性ポリマー」ともいう。親水性ポリマーとしては、スルホン酸基、カルボキシル基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、アミド基、シアノ基、ヒドロキシル基、メトキシ基、リン酸基、オキシエチレン基、イミノ基、イミド基、イミノエーテル基、ピリジン基、ピロリドン基、イミダゾール基、4級アンモニウム基等を単独で又は複数種有するポリマーが挙げられる。
【0061】
疎水性ポリマーが芳香族ポリスルホンである場合、親水性ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン(PVP)系ポリマーが好ましい。
【0062】
ポリビニルピロリドン系ポリマーとしては、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合ポリマー、ビニルピロリドン・ビニルカプロラクタム共重合ポリマー、及びビニルピロリドン・ビニルアルコール共重合ポリマー等が挙げられ、親水性ポリマーは、これらのうち少なくとも1種を含んでいることが好ましい。中でも、ポリスルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマーとの相溶性という観点から、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合ポリマー、ビニルピロリドン・ビニルカプロラクタム共重合ポリマーが好適に用いられる。
【0063】
親水性ポリマーは、下記化学式(1)で表されるモノマーを単量体単位として含むポリマーであることが好ましい。
【化2】
{化学式(1)中、R
1は、水素原子又はメチル基であり、R
2は、-CH
2(CH
2)
qOC
tH
2t+1又は-CH
2C
mH
2m+1であり、qは1~5であり、tは0~2であり、mは0~17である。}
【0064】
化学式(1)で表されるモノマーは、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、2-メトキシエチルメタクリレート(MEMA)、n-ブチルメタクリレート(BMA)、及びラウリル酸メタクリレート(LMA)からなる群から選択される少なくとも一つであることがより好ましく、2-メトキシエチルメタクリレート(MEMA)であることが更に好ましい。これらのモノマーは、多孔性成形体への過度吸着性をより高く維持しつつ、血液適合性を向上させることができるため好ましい。
【0065】
一実施形態において、多孔性成形体は、疎水性ポリマーの多孔性成形体上に親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)が担持されていることが好ましく、化学式(1)で表される生体適合性ポリマーが担持されていることがより好ましい。
【0066】
化学式(1)で表されるモノマーの含有量は、生体適合性ポリマーを構成するモノマー全体を基準として、好ましくは40モル%以上、より好ましくは60モル%以上である。該モノマーの含有量の上限値は限定されず、生体適合性ポリマーを構成するモノマー全体を基準として、100モル%であってもよく、又は80モル%以下、若しくは60モル%以下であってもよい。
【0067】
生体適合性ポリマーは、化学式(1)で表されるモノマーと共重合可能な、電荷を有するモノマーを単量体単位として更に含むことが好ましい。本願明細書において、「電荷を有するモノマー」は、pH7.0の条件下で部分的もしくは完全に正電荷又は負電荷を帯びる官能基を有するモノマーである。生体適合性ポリマーが電荷を有するモノマーを単量体単位として更に含む場合、多孔性成形体との組み合わせにおいて、多孔性成形体上への生体適合性ポリマーの担持量が低減され、吸着性の低下を抑制できる。また、電荷を有するモノマーは高い親水性を有するため、生体適合性も向上する。その結果、より良好な吸着性及び血液適合性を有する多孔性成形体が得られる傾向にある。
【0068】
電荷を有するモノマーとしては、例えば、アミノ基(-NH2、-NHR3、NR3R4)、カルボキシル基(-COOH)、リン酸基(-OPO3H2)、スルホン酸基(-SO3H)、及び両性イオン基からなる群から選択される少なくとも一つの基を有するモノマーが挙げられる。アミノ基において、R3及びR4は、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基であることが好ましく、炭素数1又は2のアルキル基であることがより好ましい。
【0069】
これらの中でも、電荷を有するモノマーは、アミノ基、カルボキシル基、及び両性イオン基からなる群から選択される少なくとも一つの基を有するモノマーであることがより好ましい。電荷を有するモノマーは、アミノ基を有するカチオン性モノマー、カルボキシル基を有するアニオン性モノマー、アミノ基とカルボキシル基との両性イオン型モノマー、及びアミノ基とリン酸基との両性イオン型モノマーからなる群から選択される少なくとも一つであることが更に好ましい。電荷を有するモノマーがカルボキシル基を有する場合、多孔性成形体がCa2+を吸着し、血液凝固の亢進を抑制できる点で、更に好ましい。
【0070】
より具体的には、電荷を有するモノマーとしては、2-アミノエチルメタクリレート(AEMA)、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)、ジエチルアミノエチルメタクリレート(DEAEMA)、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム、アクリル酸(AAc)、メタクリル酸(MAc)、リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル、N-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン(CMB)、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド(SPB)、[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド(SPBA)、リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチル(MPC)、及び[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチル(3-スルホブチル)アンモニウムからなる群から選択される少なくとも一つであることがより好ましい。
【0071】
これらの中でも、電荷を有するモノマーは、メチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)、ジエチルアミノエチルメタクリレート(DEAEMA)、アクリル酸(AAc)、N-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン(CMB)、及びリン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチル(MPC)からなる群から選択される少なくとも一つであることがより好ましく、N-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン(CMB)であることが更に好ましい。
【0072】
電荷を有するモノマーの含有量は、生体適合性ポリマーを構成するモノマー全体を基準として、好ましくは10モル%以上60モル%以下、より好ましくは15モル%以上40モル%以下である。電荷を有するモノマーの含有量が上記範囲内である場合、多孔性成形体への含浸性及び親水性のバランスに優れ、より吸着性及び生体適合性に優れた多孔性成形体が得られる傾向にある。
【0073】
生体適合性ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5,000以上5,000,000以下、より好ましくは10,000以上1,000,000以下、更に好ましくは10,000以上300,000以下である。生体適合性ポリマーの重量平均分子量が上記範囲内であると、多孔性成形体への適度な含浸性、血液中への溶出の防止、及び担持量の低減等の観点から好ましい。生体適合性ポリマーの重量平均分子量(Mw)の分析方法は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)などにより測定することができる。
【0074】
PMEAの生体適合性(血液適合性)については、田中 賢,人工臓器の表面を生体適合化するマテリアル,BIO INDUSTRY,Vol20,No.12,59-70 2003に詳細に述べられている。
【0075】
ATR-IR法においては、試料に入射した波は試料に僅かにもぐり込んで反射するため、このもぐり込み深さ領域の赤外吸収を測定できることが知られているところ、本発明者らは、このATR-IR法の測定領域が、多孔性成形体の表面に相当する「表層」の深さとほぼ等しいことも見出した。すなわち、ATR-IR法の測定領域とほぼ等しい深さ領域における血液適合性が、多孔性成形体の血液適合性を支配し、その領域にPMEAを存在させることで、一定の血液適合性を有する血液浄化器を提供できることを見出した。PMEAを多孔性成形体の表面にコートすることで、長期保管後の血液浄化器からの微粒子の発生も抑制可能である。
【0076】
ATR-IR法による測定領域は、空気中での赤外光の波長、入射角、プリズムの屈折率、試料の屈折率等に依存し,通常、表面から1μm以内の領域である。
【0077】
PMEAが多孔性成形体の表面に存在することは、多孔性成形体の熱分解ガスクロマトグラフ質量分析により確認できる。PMEAの存在は多孔性成形体の表面に対する全反射赤外吸収(ATR-IR)測定で、赤外吸収曲線の1735cm-1付近にピークが見られれば推定されるが、この付近のピークは他の物質に由来する可能性もある。そこで、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析を行い、PMEA由来の2-メトキシエタノールを確認することでPMEAの存在を確認することができる。
【0078】
PMEAの溶媒に対する溶解性は特異なものがある。例えば、PMEAは100%エタノール溶媒、100%メタノール溶媒には溶解しないが、水/エタノール混合溶媒、或いは水/メタノール混合溶媒には、その混合比によって溶解する領域がある。そして、その溶解する領域内の混合比では、水の量が多いほど、PMEA由来のピーク(1735cm-1付近)のピーク強度は強くなる。メタノール:水の割合は、PMEAの溶解性、PMEAコート量の観点から、好ましくは80:20~40:60、より好ましくは70:30~45:55、さらに好ましくは60:40~45:55である。
【0079】
表面にPMEAを含む多孔性成形体においては、表面の細孔径の変化が小さいので、透水性能の変化があまりなく製品設計が簡単である。本実施形態においては、PMEAを多孔性成形体の表面に有するが、例えば、PMEAを多孔性成形体にコートした場合、PMEAが極薄膜状に付着し、細孔をほぼ塞がない状態で多孔性成形体表面をコートしていると考えられる。特に、PMEAは分子量が小さく、分子鎖が短いことから、被膜の構造が厚くなりにくく、多孔性成形体の構造を変化させにくいため好ましい。PMEAは他の物質との相溶性が高く、多孔性成形体の表面に均一に塗布することができ、血液適合性を向上させることができるため好ましい。
【0080】
また、PMEAを含む水/メタノール混合溶媒を用いて多孔性成形体の表面にPMEAを均一に塗布することにより多孔性成形体の溶血を無くすことが可能である。
【0081】
多孔性成形体の表面にPMEA被覆層を形成する方法としては、例えば、多孔性成形体を充填したカラム(容器)の上部からPMEAを溶解したコート液を流してコーティングする方法等が好適に用いられる。
【0082】
ポリビニルピロリドン(PVP)系ポリマーは、特に制限はないが、ポリビニルピロリドン(PVP)が好適に用いられる。
【0083】
[サイトカイン吸着体を含む多孔性成形体]
本発明者らは、一実施形態において、多孔性成形体が特定のサイトカイン吸着体を含む場合、如何なる疎水性ポリマー及び/又は親水性ポリマーを多孔性成形体材料として用いても、良好なサイトカイン吸着性能を有し、かつ良好なリン吸着性能を有する多孔性成形体が得られることを見出した。これは、上述した生体適合性ポリマーを疎水性ポリマー上に担持する方法とは全く異なる方法であり、良好なサイトカイン吸着性能及び良好なリン吸着性能を血液浄化器に付与するための、新たな方法である。
【0084】
正常に腎臓が機能している健常成人であれば、体内の過剰なリンは、主に尿として体外に排出される。他方、慢性腎不全患者等の腎機能に障害を有している腎疾患患者等は、過剰なリンを体外に適切に排出できないため、徐々に体内にリンが蓄積され、高リン血症等の疾患を引き起こす。高リン血症が持続すると、二次性副甲状腺機能亢進症が引き起こされ、骨が痛む、脆くなる、変形する、骨折しやすい等の症状を特徴とする腎性骨症となり、これに高カルシウム血症を合併した場合は、心血管系の石灰化による心不全発症のリスクが高くなる。心血管系の石灰化は慢性腎不全等の最も深刻な合併症の1つであるので、慢性腎不全患者において、高リン血症を防ぐために体内のリンの量を適切にコントロールすることは非常に重要である。
【0085】
血液透析患者においては、高リン血症に至らないよう、血液透析、血液ろ過透析及び血液ろ過等の透析療法により、体内に蓄積したリンを定期的に除去し、調節している。透析療法においては、一般に、週3回、1回4時間の治療時間を要する。しかしながら、健常成人が1日に摂取する1000mgのリンを、血液透析患者が摂取した場合、通常、腎臓から排出されるはずのリン(650mg)が体内に蓄積し、1週間で4550mgも蓄積する。通常の血液透析では、1回の透析で800~1000mg程度のリンの除去が可能であり、週3回の透析で約3000mgのリンを除去することが可能となる。透析療法で除去できるリンの量(3000mg)は、1週間で蓄積されたリンの量(4550mg)に至らないため、結果として体内にリンが蓄積される。また、中でも、慢性腎不全患者である維持透析患者は、リンの主排泄経路の腎機能を失っているため、尿中へのリンの排出機能はほぼ失われている。透析療法において、透析液中にリンが含まれていないため、透析液への拡散現象によりリンを体外に除去することができるが、現状の透析時間及び透析条件では十分な排出ができないのが実情である。以上のように、透析療法のみではリン除去効果が不十分であるため、リンをコントロールするために、透析療法に加え、食事療法とリン吸着剤の飲用による薬物療法とが挙げられるが、重要なのは、患者の栄養状態を評価して低栄養状態でないことを確認後、リン摂取量の制限を行うことである。
【0086】
リンのコントロールとして、CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常)ガイドラインにおいては、血清リン値は3.5~6.0mg/dLとされている。血清リン値が、3.5mg/dL以下になると低リン血症で、くる病や骨軟化症の原因となり、6.0mg/dL以上になると高リン血症となり心血管系の石灰化の原因となる。リンの摂取量を抑える食事療法については、患者の栄養状態との兼ね合いもあり、また患者自体の嗜好も考えなければならないため、食事療法での体内のリン濃度を管理することは難しい。また、薬物療法においては、消化管内で食物由来のリン酸イオンと結合して不溶性のリン酸塩を形成し、腸管からのリンの吸収を抑制するリン吸着剤経口薬を毎食事前又は食事中に服用することで、リン濃度の管理が行われる。しかしながら、薬物療法においては、毎食事時のリン吸着剤の飲用量は相当多くなる。そのため、リン吸着剤の服用時の副作用として、嘔吐、膨満感、便秘、体内への薬剤の蓄積等が高い確率で起こるため、それらに起因する服用コンプライアンスが非常に低く(50%以下だとも言われている)、リン濃度を薬剤により管理するのはドクターにとっても患者にとっても困難な状態にある。
【0087】
サイトカイン吸着体を含む多孔性成形体は、リン吸着性能を向上することが可能であるとともに、アラーミンであるハイモビリティグループボックス1(HMGB1)の吸着率を大きく向上することが可能である。一実施形態において、特定のサイトカイン吸着体と特定の親水性ポリマー、好ましくはポリビニルピロリドン(PVP)系ポリマーを含む多孔性成形体は、5nm以上100nm以下の細孔直径の積算細孔容量を低くすることが可能であり、その結果、人体に有用であるアルブミン吸着量を吸着し難くすることが可能である。さらに、特定のサイトカイン吸着体と特定の親水性ポリマー、好ましくはポリビニルピロリドン(PVP)系ポリマーを含む多孔性成形体は、HMGB1の吸着率を90%以上にすることが可能である。
【0088】
本発明が解決する課題の中で、血液適合性に優れる血液浄化器を得ること、及び血液処理前後の圧力損失が低い血液浄化器を得ることに対応する解決手段の例を、[血液浄化器]の欄で開示した。本発明が解決する課題の中で、安全に使用可能な血液浄化器を得ることに対応する解決手段の例を、[微粒子の除去]の欄で開示する。
【0089】
[サイトカイン吸着体]
本願明細書において、サイトカイン吸着体とは、サイトカインの吸着現象を示す無機物質を意味する。サイトカイン吸着体は、多孔性成形体に含有され、又はこれを構成することができる。
【0090】
天然物系のサイトカイン吸着体としては、例えば、ゼオライト、モンモリロナイト等の各種の鉱物性物質等が挙げられる。各種の鉱物性物質の具体例としては、アルミノケイ酸塩で単一層格子をもつカオリン鉱物、2層格子構造の白雲母、海緑石、鹿沼土、パイロフィライト、タルク、3次元骨組み構造の長石、ゼオライト、モンモリロナイト等が挙げられる。
【0091】
合成物系のサイトカイン吸着体としては、例えば、金属酸化物、多価金属の塩及び不溶性の含水酸化物等が挙げられる。金属酸化物としては、複合金属酸化物、複合金属水酸化物及び金属の含水酸化物等を含む。
【0092】
サイトカイン吸着体は、吸着対象物、中でも、サイトカインの吸着性能の観点で、下記式(4):
MNxOn・mH2O ・・・(4)
{式中、xは、0~3であり、nは、1~4であり、mは、0~6であり、そしてMとNは、Ti、Zr、Sn、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Si、Cr、Co、Ga、Fe、Mn、Ni、V、Ge、Nb、及びTaからなる群から選ばれる金属元素であり、互いに異なる。}で表される少なくとも一種の金属酸化物を含有することが好ましい。金属酸化物は、上記式(4)中のmが0である未含水(未水和)の金属酸化物であってもよいし、mが0以外の数値である金属の含水酸化物(水和金属酸化物)であってもよい。
【0093】
上記式(4)中のxが0以外の数値である場合の金属酸化物は、含有される各金属元素が規則性を持って酸化物全体に均一に分布し、金属酸化物に含有される各金属元素の組成比が一定に定まった化学式で表される複合金属酸化物である。具体的には、ペロブスカイト構造、スピネル構造等を形成し、ニッケルフェライト(NiFe2O4)、ジルコニウムの含水亜鉄酸塩(Zr・Fe2O4・mH2O、ここで、mは0.5~6である。)等が挙げられる。サイトカイン吸着体は、上記式(4)で表される金属酸化物を複数種含有していてもよい。
【0094】
サイトカイン吸着体としての金属酸化物は、吸着対象物、中でも、サイトカインの吸着性能に優れているという観点から、下記(a)~(c)群:
(a)水和酸化チタン、水和酸化ジルコニウム、水和酸化スズ、水和酸化セリウム、水和酸化ランタン及び水和酸化イットリウム
(b)チタン、ジルコニウム、スズ、セリウム、ランタン及びイットリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素と、アルミニウム、珪素及び鉄からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素との複合金属酸化物
(c)活性アルミナ
から選ばれることが好ましい。
【0095】
(a)~(c)群のいずれかの群から選択される材料であってもよく、(a)~(c)群のいずれかの群から選択される材料を組み合わせて用いてもよく、(a)~(c)群のそれぞれにおける材料を組み合わせて用いてもよい。組み合わせて用いる場合には、(a)~(c)群のいずれかの群から選ばれる2種以上の材料の混合物であってもよく、(a)~(c)群の2つ以上の群から選ばれる2種以上の材料の混合物であってもよい。
【0096】
サイトカイン吸着体は、安価で吸着性が高いという観点から、硫酸アルミニウム添着活性アルミナを含有してもよい。
【0097】
サイトカイン吸着体としては、上記式(4)で表される金属酸化物に加え、サイトカインの吸着性や製造コストの観点から、上記M及びN以外の金属元素がさらに固溶したものがより好ましい。例えば、ZrO2・mH2O(mが0以外の数値である。)で表される水和酸化ジルコニウムに、鉄が固溶したものが挙げられる。
【0098】
多価金属の塩としては、例えば、下記式(5):
M2+
(1-p)M3+
p(OH-)(2+p-q)(An-)q/r ・・・(5)
{式中、M2+は、Mg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+、及びCu2+からなる群から選ばれる少なくとも一種の二価の金属イオンであり、M3+は、Al3+及びFe3+からなる群から選ばれる少なくとも一種の三価の金属イオンであり、An-は、n価のアニオンであり、0.1≦p≦0.5であり、0.1≦q≦0.5であり、そしてrは、1又は2である。}で表されるハイドロタルサイト系化合物が挙げられる。上記式(5)で表されるハイドロタルサイト系化合物は、サイトカイン吸着体として原料が安価であり、吸着性が高いことから好ましい。
【0099】
不溶性の含水酸化物としては、例えば、不溶性のヘテロポリ酸塩及び不溶性ヘキサシアノ鉄酸塩等が挙げられる。
【0100】
サイトカイン吸着体として、金属炭酸塩は吸着性能の観点で優れた性能を有するが、溶出の観点からは炭酸塩を用いる場合は用途の検討が必要である。
【0101】
金属炭酸塩としては、炭酸イオンとのイオン交換反応が期待できるという観点から、下記式(6):
QyRz(CO3)s・tH2O ・・・(6)
{式中、yは、1~2であり、zは、0~1であり、sは、1~3であり、tは、0~8であり、そして、QとRは、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Mn、Fe、Co、Ni、Ag、Zn、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群から選ばれる金属元素であり、互いに異なる。}で表される少なくとも一種の金属炭酸塩を含有することができる。
【0102】
金属炭酸塩は、上記式(6)中のtが0である未含水(未水和)の金属炭酸塩であってもよいし、tが0以外の数値である水和物であってもよい。
【0103】
サイトカイン吸着体としては、溶出が少なく、リン、ホウ素、フッ素及び/又はヒ素の吸着性能に優れているという観点から、下記(d)群:
(d)炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、炭酸スカンジウム、炭酸マンガン、炭酸鉄、炭酸コバルト、炭酸ニッケル、炭酸銀、炭酸亜鉛、炭酸イットリウム、炭酸ランタン、炭酸セリウム、炭酸プラセオジム、炭酸ネオジム、炭酸サマリウム、炭酸ユウロピウム、炭酸ガドリニウム、炭酸テルビウム、炭酸ジスプロシウム、炭酸ホルミウム、炭酸エルビウム、炭酸ツリウム、炭酸イッテルビウム、及び炭酸ルテチウムから選ばれることが好ましい。
【0104】
金属炭酸塩のサイトカイン吸着機構としては、金属炭酸塩の溶出、金属炭酸塩上でのサイトカインと金属イオンの再結晶化が予想されるため、金属炭酸塩の溶解度が高いものほどサイトカイン吸着量は高く、優れた吸着性能を期待できる。また、サイトカイン吸着体からの金属溶出が懸念されるため、金属溶出が問題となる用途での使用においては充分な検討が必要となる。
【0105】
本実施形態における多孔性成形体を構成するサイトカイン吸着体は、その製造方法等に起因して混入する不純物元素を、多孔性成形体の機能を阻害しない範囲で含有していてもよい。混入する可能性がある不純物元素としては、例えば、窒素(硝酸態、亜硝酸態、アンモニウム態)、ナトリウム、マグネシウム、イオウ、塩素、カリウム、カルシウム、銅、亜鉛、臭素、バリウム及びハフニウム等が挙げられる。
【0106】
本実施形態における多孔性成形体を構成するサイトカイン吸着体は、その製造方法等に起因して混入する不純物元素を、多孔性成形体の機能を阻害しない範囲で含有していてもよい。混入する可能性がある不純物元素としては、例えば、窒素(硝酸態、亜硝酸態、アンモニウム態)、ナトリウム、マグネシウム、イオウ、塩素、カリウム、カルシウム、銅、亜鉛、臭素、バリウム、ハフニウム等が挙げられる。
【0107】
有機液体への置換方法は、特に限定されるものではなく、有機液体に水を含んだサイトカイン吸着体を分散させた後に遠心分離、濾過をしてもよいし、フィルタープレス等でろ過を行った後に有機液体を通液してもよい。置換率を高くするためには、有機液体へサイトカイン吸着体を分散後に濾過する方法を繰り返すことが好ましい。
【0108】
製造時に含有される水分の有機液体への置換率は、50質量%~100質量%であればよく、好ましくは70質量%~100質量%、より好ましくは80質量%~100質量%であればよい。有機液体の置換率とは、有機液体への置換率をSb(質量%)、水を含んだサイトカイン吸着体を有機液体で処理した後の濾液の水分率をWc(質量%)とするとき、下記式(7):
Sb=100-Wc ・・・(7)
で表される値をいう。
有機液体で処理した後の濾液の水分率(Wc)は、カールフィッシャー法で測定することができる。
【0109】
サイトカイン吸着体に含まれる水分を有機液体に置換した後に乾燥を行うことで、乾燥時の凝集を抑制することができ、サイトカイン吸着体の細孔体積を増加させることができ、その吸着容量を増加させることができる。有機液体の置換率が50質量%以上であることにより、乾燥時の凝集抑制効果が高くなり、サイトカイン吸着体の細孔体積が増加する。
【0110】
[多孔性成形体のリン吸着性能]
一実施形態において、本実施形態の多孔性成形体はサイトカイン吸着体を含み、透析患者の血液透析におけるリン吸着に好適に用いることができる。血液組成は血漿成分と血球成分に分かれ、血漿成分は水91%、タンパク質7%、脂質成分及び無機塩類で構成されており、血液中でリンは、リン酸イオンとして血漿成分中に存在する。血球成分は赤血球96%、白血球3%及び血小板1%で構成されており、赤血球の大きさは直径7~8μm、白血球の大きさは直径5~20μm、血小板の大きさは直径2~3μmである。
【0111】
一実施形態において、水銀ポロシメーターで測定した多孔性成形体の最頻細孔径が0.08~0.70μmであると、外表面の無機イオン吸着体の存在量が多いため、高速で通液処理してもリンイオンを確実に吸着でき、リンイオンの多孔性成形体内部への浸透拡散吸着性にも優れる。さらに、血球成分等の目詰り等による血液流れ性が低下することも少ない。そのような多孔性成形体の表面に生体適合性ポリマーを有すると、より好適な血液処理用リン吸着剤として用いることができる。
【0112】
一実施形態において、最頻細孔径が0.08~0.70μmである多孔性成形体を含有し、該多孔性成形体の表面に生体適合性ポリマーを有することにより、血液中のリンイオンを選択的に確実に吸着することで、体内に戻る血中リン濃度をほとんど0にすることができる。ほとんどリンを含まない血液を体内に戻すことで細胞内又は細胞外からの血中へのリンの移動が活発になり、リフィリング効果が大きくなることが考えられる。また、血中のリンを補おうとするリフィリング効果を誘発することで、通常排泄できない細胞外液、細胞内に存在するリンも排泄できる可能性がある。これにより、透析患者が、リン吸着剤経口薬を服用しないか、少量の服用(補助的な使用)に留めても、透析患者の副作用を起こさずに、体内血液中のリン濃度を適切に管理することができる。
【0113】
多孔性成形体を本体容器(カラム等)に充填した血液浄化器は、透析時のダイアライザー前後に直列又は並列等に繋いで使用することができる。一実施形態において、本実施形態の血液浄化器は、リン吸着用血液浄化器として用いることができ、血中のリン濃度が低く、空間速度が速い状態でも無機リンの選択性と吸着性能に優れる。リフィリング効果を誘発しやすくなる観点から、ダイアライザーの前後に本実施形態の血液浄化器を繋いで使用することが好ましい。
【0114】
リフィリング効果が期待できる観点から、リン吸着率(%)(血中のリンが吸着される割合)は、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、99%以上であることが好適である。
【0115】
[微粒子の除去]
本実施形態の血液浄化器は、安全に使用可能である。「安全に使用可能」であるとは、例えば、血液浄化器内に注射用生理食塩液を封入してから3月後及び6月後における注射用生理食塩液1mL中の10μm以上の微粒子数が25個以下であり、かつ、25μm以上の微粒子数が3個以下であり、さらに、溶出物試験液の吸光度が0.1以下であり、かつ、該溶出物試験液中に膜孔保持剤を含まないことが好ましい。
【0116】
本発明者らは、本実施形態の血液浄化器の製造において、多孔性成形体を超臨界流体又は亜臨界流体で洗浄することにより血液浄化器から発生する微粒子をほぼ完全に、好ましくは完全に除去することができることを見出した。
【0117】
超臨界流体とは、臨界圧力(以下、Pcともいう)以上、かつ、臨界温度(以下、Tcともいう)以上の条件の流体を意味する。亜臨界流体とは、超臨界状態以外の状態であって、反応時の圧力、温度をそれぞれP、Tとしたときに、0.5<P/Pc<1.0かつ0.5<T/Tc、又は0.5<P/Pcかつ0.5<T/Tc<1.0の条件の流体を意味する。亜臨界流体の好ましい圧力、温度の範囲は、0.6<P/Pc<1.0かつ0.6<T/Tc、又は0.6<P/Pcかつ0.6<T/Tc<1.0である。但し、流体が水である場合には、亜臨界流体となる温度、圧力の範囲は、0.5<P/Pc<1.0かつ0.5<T/Tc、又は、0.5<P/Pcかつ0.5<T/Tc<1.0であることができる。ここで温度は摂氏を表すが、Tc又はTのいずれかがマイナスである場合には、亜臨界状態を表す式はこの限りではない。
【0118】
超臨界流体又は亜臨界流体としては、水やアルコール等の有機媒体、二酸化炭素、窒素、酸素、ヘリウム、アルゴン、空気等の気体、又はこれらの混合流体が用いられる。二酸化炭素は、常温程度の温度下でも超臨界状態にでき、様々な物質を良く溶解することから、最も好ましい。
【0119】
[微粒子数]
透析用途の血液浄化器が透析型人工腎臓装置の製造(輸入)承認を得るためには、厚生労働省の定める人工腎臓装置承認基準を満たす必要がある。したがって、本実施形態の血液浄化器は、人工腎臓装置承認基準に記載の溶出物試験の基準を満たす必要がある。本実施形態の血液浄化器は、好ましくは、血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の10μm以上の微粒子数が25個以下で且つ前記食塩液1mL中の25μm以上の微粒子数が3個以下であり、さらに、溶出物試験液の吸光度が0.1以下である。
【0120】
血液浄化器中に封入した注射用生理食塩液中の微粒子数の測定方法は、以下のとおりである。
(1)ウエットタイプの血液浄化器における測定方法
ウエットタイプの血液浄化器は、出荷直前に溶液(例えば、UF濾過膜水等)を封入して、溶液中で放射線滅菌を行い、そのまま出荷される。このようなウエットタイプの血液浄化器では、溶液を完全に除去し、10Lの注射用生理食塩液で血液浄化器中の多孔性成形体に通液した後(多孔性成形体が中空糸膜の場合には膜内表面側から膜外表面側に濾過した後)、新たな注射用生理食塩液を封入してから25℃±1℃に保温して3ヶ月間静置状態で保管する。血液浄化器から食塩液のサンプリングは、血液浄化器から全ての溶液(充填液)を可能な限り取り出した後、均一に混合してから行う。例えば、3ヶ月時点の測定の為のサンプリング後、残りの食塩液を元の血液浄化器の中に入れ密封して更に3ヶ月間保管し、6ヶ月時点の測定に用いる。
【0121】
(2)ドライタイプの血液浄化器における測定方法
ドライタイプの血液浄化器では放射線滅菌を溶液中で行わない場合が多く、乾燥状態で出荷されることが多い。10Lの注射用生理食塩液で血液浄化器中の多孔性成形体に通液した後(孔性成形体が中空糸膜の場合には膜内表面側から膜外表面側に濾過した後)、新たな注射用生理食塩液を封入してから25℃±1℃に保温して3ヶ月間静置状態で保管する。血液浄化器から食塩液のサンプリングは、血液浄化器から全ての溶液(充填液)を可能な限り取り出した後、均一に混合してから行う。例えば、3ヶ月時点の測定の為のサンプリング後、残りの食塩液を元の血液浄化器の中に入れ密封して更に3ヶ月間保管し、6ヶ月時点の測定に用いる。
【0122】
サンプリングした溶液(又は充填液)中の微粒子数はパーティクルカウンターにて測定可能である。
【0123】
本実施形態の血液浄化器の容器(カラム)の素材に限定はなく、例えば、ポリスチレン系ポリマー、ポリスルホン系ポリマー、ポリエチレン系ポリマー、ポリプロピレン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリ四フッ化エチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとからなる共重合体等、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンブロックコポリマー(ABS)の様な混合樹脂等を用いることができる。素材のコストの観点からポリエチレン系ポリマー、ポリプロピレン系ポリマーが好ましく用いられる。また、封止のために熱硬化性樹脂、例えばポリウレタン、及びエポキシ等が用いられることもある。
【0124】
[多孔性成形体の製造方法]
本実施形態の多孔性成形体の製造方法は限定されない。例えば、本実施形態の多孔性成形体の製造方法は、疎水性ポリマーから構成される多孔性成形体の表面上に、親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)を担持することを含む方法が挙げられる。本実施形態における疎水性ポリマー及び生体適合性ポリマー、並びにこれらのモノマーについての詳細は上述したので、ここでは記載を省略する。
【0125】
本実施形態において、生体適合性ポリマーの製造方法は限定されない。例えば、生体適合性ポリマーの製造方法は、任意の溶媒中に化学式(1)のモノマーを含有するモノマー溶液を調整することと、上記モノマー溶液に任意の重合開始剤を添加して重合溶液を調整することと、上記モノマーを重合させることとを含む方法が挙げられる。
【0126】
化学式(1)のモノマーに加えて、電荷を有するモノマーを、上記モノマー溶液中及び/又は上記重合溶液中に更に添加して、化学式(1)のモノマーと共重合させてもよい。電荷を有するモノマーについての詳細は上述したので、ここでは記載を省略する。
【0127】
本実施形態において、重合された生体適合性ポリマーは、任意の精製方法、例えば、再沈澱法、透析法、限外濾過法、及び抽出法等によって精製することができる。精製された生体適合性ポリマーは、任意の乾燥方法、例えば、減圧乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥、及び加熱乾燥等によって乾燥させることができる。
【0128】
生体適合性ポリマーを多孔性成形体の表面上に担持する方法としては、任意の担持方法、例えば塗布法、スプレー法、及びディップ法等を用いることができる。
【0129】
例えば、ディップ法は、任意の溶媒、例えばアルコール、クロロホルム、アセトン、テトラヒドロフラン、及びジメチルホルムアミド等に上記生体適合性ポリマーを溶解したコーティング液を調整し、コーティング液に多孔性成形体を浸漬することを含む。含浸後、コーティング液から多孔性成形体を取り出して余分な溶液を取り除き、次いで任意の乾燥方法により乾燥させることができる。乾燥方法としては、乾燥気体中での風乾、減圧雰囲気中で常温又は加熱しながら乾燥を行う減圧乾燥等が挙げられる。減圧乾燥は、本実施形態における多孔性成形体1g当たりのポリマーの量を少なくする観点から好ましい。
【0130】
塗布法及びスプレー法では、例えば、上記コーティング液を多孔性成形体に塗布又はスプレーした後、上記のように乾燥させることを含む。
【0131】
[サイトカイン吸着体を含む多孔性成形体の製造方法]
次に、本実施形態のサイトカイン吸着体を含む多孔性成形体の製造方法を詳細に説明する。
【0132】
本実施形態のサイトカイン吸着体を含む多孔性成形体の製造方法は、例えば、
(1)サイトカイン吸着体を乾燥する工程、
(2)工程(1)で得られたサイトカイン吸着体を粉砕する工程、
(3)工程(2)で得られたサイトカイン吸着体、疎水性ポリマーの良溶媒、疎水性ポリマー、及び場合により親水性ポリマーを混合してスラリーを作製する工程、
(4)工程(3)で得られたスラリーを成形する工程、及び
(5)工程(4)で得られた成形品を貧溶媒中で凝固させる工程を含む。
【0133】
工程(1):サイトカイン吸着体の乾燥工程
工程(1)において、サイトカイン吸着体を乾燥させて粉体を得る。このとき、乾燥時の凝集を抑制するために、製造時に含有される水分を有機液体に置換した後に乾燥されることが好ましい。有機液体としては、サイトカイン吸着体の凝集を抑制される効果があれば特に限定されないが、親水性が高い液体を用いることが好ましい。例えば、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類等が挙げられる。
【0134】
有機液体への置換率は、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは70質量%~100質量%、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0135】
有機液体への置換方法は、特に限定されるものではなく、有機液体に水を含んだサイトカイン吸着体を分散させた後に遠心分離、濾過をしてもよいし、フィルタープレスなどでろ過を行った後に有機液体を通液してもよい。置換率を高くするためには、有機液体へサイトカイン吸着体を分散後に濾過する方法を繰り返すことが好ましい。有機液体への置換率は、濾液の水分率をカールフィッシャー法で測定することで求められる。
【0136】
サイトカイン吸着体に含まれる水分を有機液体に置換した後に乾燥を行うことで、乾燥時の凝集を抑制することができ、サイトカイン吸着体の細孔体積を増加させることができ、その吸着容量を増加させることができる。有機液体の置換率が50質量%以上であると、乾燥時の凝集抑制効果が高くなりサイトカイン吸着体の細孔体積が増加する。
【0137】
工程(2):サイトカイン吸着体の粉砕工程
工程(2)においては、工程(1)により得られたサイトカイン吸着体の粉末を粉砕する。粉砕の方法としては、特に限定されるものではなく、乾式粉砕や湿式粉砕を用いることができる。
【0138】
乾式粉砕方法は、特に限定されるものではなく、ハンマーミルなどの衝撃式破砕機、ジェットミルなどの気流式粉砕機、ボールミルなどの媒体式粉砕機、ローラーミルなどの圧縮式粉砕機などを用いることができる。中でも、粉砕したサイトカイン吸着体の粒子径分布をシャープにすることができることから、気流式粉砕機が好ましい。
【0139】
湿式粉砕方法は、サイトカイン吸着体及び疎水性ポリマーの良溶媒を合わせて粉砕、混合できるものであれば、特に限定されるものではなく、加圧型破壊、機械的磨砕、超音波処理等の物理的破砕方法に用いられる手段を用いることができる。
【0140】
粉砕混合手段の具体例としては、ジェネレーターシャフト型ホモジナイザー、ワーリングブレンダー等のブレンダー、サンドミル、ボールミル、アトライタ、多孔性成形体ミル等の媒体撹拌型ミル、ジェットミル、乳鉢と乳棒、らいかい器、超音波処理器等が挙げられる。中でも、粉砕効率が高く、粘度の高いものまで粉砕できることから、媒体撹拌型ミルが好ましい。
【0141】
媒体撹拌型ミルに使用するボール径は、特に限定されるものではないが、0.1mm~10mmであることが好ましい。ボール径が0.1mm以上であれば、ボール質量が充分あるので粉砕力があり粉砕効率が高く、ボール径が10mm以下であれば、微粉砕する能力に優れる。
【0142】
媒体攪拌型ミルに使用するボールの材質は、特に限定されるものではないが、鉄やステンレス等の金属、アルミナ、ジルコニア等の酸化物類、窒化ケイ素、炭化ケイ素等の非酸化物類の各種セラミック等が挙げられる。中でも、耐摩耗性に優れ、製品へのコンタミネーション(摩耗物の混入)が少ない点で、ジルコニアが優れている。
【0143】
粉砕後は疎水性ポリマーの良溶媒にサイトカイン吸着体が十分に分散した状態でフィルター等を用いて濾過精製することが好ましい。
【0144】
粉砕・精製したサイトカイン吸着体の粒子径は、0.001~10μm、好ましくは0.001~2μm、より好ましくは0.01~0.1μmである。製膜原液中でサイトカイン吸着体を均一に分散させるには、粒子径が小さい程良い。0.001μm未満の均一した微粒子を製造し難い傾向にある。10μmを超えるサイトカイン吸着体では、多孔性成形体を安定して製造し難い傾向にある。
【0145】
工程(3):スラリー作製工程
工程(3)においては、工程(2)により得られたサイトカイン吸着体と、疎水性ポリマーの良溶媒、疎水性ポリマー、場合により親水性ポリマーを混合してスラリーを作製する。
【0146】
工程(2)及び工程(3)に用いる疎水性ポリマーの良溶媒としては、多孔性成形体の製造条件において疎水性ポリマーを安定に1質量%を超えて溶解するものであれば、特に限定されるものではなく、従来公知のものを使用できる。
【0147】
良溶媒としては、例えば、N-メチル-2ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられる。良溶媒は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0148】
工程(3)における疎水性ポリマーの添加量は、疎水性ポリマー/(疎水性ポリマー+親水性ポリマー+疎水性ポリマーの良溶媒)の割合が、3質量%~40質量%となるようにすることが好ましく、4質量%~30質量%であることがより好ましい。疎水性ポリマーの含有率が3質量%以上であれば、強度の高い多孔性成形体が得られ、40質量%以下であれば、空孔率の高い多孔性成形体が得られる。
【0149】
工程(3)において、親水性ポリマーは必ずしも添加される必要は無いが、添加をすることで多孔性成形体の外表面及び内部に三次元的に連続した網目構造を形成する繊維状の構造体を含む多孔性成形体が均一に得られ、すなわち、孔径制御が容易になり、高速で通液処理してもイオンを確実に吸着できる多孔性成形体が得られる。
【0150】
工程(3)に用いる親水性ポリマーは、疎水性ポリマーの良溶媒と疎水性ポリマーとに対して相溶性のあるものであれば、特に限定されるものではない。親水性ポリマーとしては、天然高分子、半合成高分子、及び合成高分子のいずれも使用できる。
【0151】
天然高分子としては、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、カラーギナン、アラビアゴム、トラガント、ペクチン、デンプン、デキストリン、ゼラチン、カゼイン、コラーゲン等が挙げられる。
【0152】
半合成高分子としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、メチルデンプン等が挙げられる。
【0153】
合成高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール等のポリエチレングリコール類等が挙げられる。
【0154】
中でも、サイトカイン吸着体の担持性を高める点から、合成高分子が好ましく、多孔性が向上する点から、ポリビニルピロリドン(PVP)がより好ましい。
【0155】
ポリビニルピロリドン(PVP)の重量平均分子量は、1,100,000~35,000,000であることが好ましく、1,200,000~35,000,000であることがより好ましい。重量平均分子量は、1,100,000以上のポリビニルピロリドン(PVP)を用いないとサイトカイン吸着性能とHMGB1の吸着性能の両方に優れた多孔性成形体が得ら難い傾向にある。親水性ポリマーの質量平均分子量は、親水性ポリマーを所定の溶媒に溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析により測定できる。
【0156】
親水性ポリマーの添加量は、親水性ポリマー/(親水性ポリマー+疎水性ポリマー+疎水性ポリマーの良溶媒)の割合が、0.1質量%~40質量%となるようにすることが好ましく、0.1質量%~30質量%であることがより好ましく、0.1質量%~10質量%であることがさらに好ましい。
【0157】
親水性ポリマーの添加量が0.1質量%以上であれば、多孔性成形体の外表面及び内部に三次元的に連続した網目構造を形成する繊維状の構造体を含む多孔性成形体が均一に得られる。親水性ポリマーの添加量が40質量%以下であれば、外表面開口率が適当であり、多孔性成形体の外表面のサイトカイン吸着体の存在量が多いため、高速で通液処理してもイオンを確実に吸着できる多孔性成形体が得られる。
【0158】
工程(4):成形工程
工程(4)においては、工程(3)により得られたスラリー(成形用スラリー)を成形する。成形用スラリーは、疎水性ポリマーと、疎水性ポリマーの良溶媒と、サイトカイン吸着体と、必要により親水性ポリマーの混合スラリーである。
【0159】
本実施形態の多孔性成形体の形態は、成形用スラリーを成形する方法によって、粒子状、糸状、シート状、中空糸状、円柱状、中空円柱状等の任意の形態を採ることができる。粒子状、例えば、球状粒子の形態に成形する方法としては、特に限定されないが、例えば、回転する容器の側面に設けたノズルから、容器中に収納されている成形用スラリーを飛散させて、液滴を形成させる回転ノズル法等が挙げられる。回転ノズル法により、粒度分布が揃った粒子状の形態に成形することができる。回転ノズル法としては、具体的には、1流体ノズルや2流体ノズルから、成形用スラリーを噴霧して凝固浴中で凝固する方法が挙げられる。ノズルの径は、0.1mm~10mmであることが好ましく、0.1mm~5mmであることがより好ましい。ノズルの径が0.1mm以上であれば、液滴が飛散しやすく、10mm以下であれば、粒度分布を均一にすることができる。
【0160】
遠心力は、遠心加速度で表され、5G~1500Gであることが好ましく、10G~1000Gであることがより好ましく、10G~800Gであることがさらに好ましい。遠心加速度が5G以上であれば、液滴の形成と飛散が容易であり、1500G以下であえば、成形用スラリーが糸状にならずに吐出し、粒度分布が広くなるのを抑えることができる。粒度分布が狭いことにより、カラムに多孔性成形体を充填した時に水の流路が均一になるため、超高速通水処理に用いても通水初期からサイトカイン(吸着対象物)が漏れ出す(破過する)ことが無いという利点を有している。
【0161】
糸状又はシート状の形態に成形する方法としては、該当する形状の紡口、ダイスから成形用スラリーを押し出し、貧溶媒中で凝固させる方法が挙げられる。
【0162】
中空糸状の多孔性成形体を成形する方法としては、環状オリフィスからなる紡口を用いることで、糸状やシート状の多孔性成形体を成形する方法と同様にして成形できる。
【0163】
円柱状又は中空円柱状の多孔性成形体を成形する方法としては、紡口から成形用スラリーを押し出す際、切断しながら貧溶媒中で凝固させてもよいし、糸状に凝固させてから後に切断しても構わない。
【0164】
工程(5):凝固工程
工程(5)においては、工程(4)で得られた凝固が促進された成形品を貧溶媒中で凝固させて、多孔性成形体を得る。
【0165】
工程(5)における貧溶媒としては、工程(5)の条件において疎水性ポリマーの溶解度が1質量%以下の溶媒を使用することができ、例えば、水、メタノール及びエタノール等のアルコール類、エーテル類、n-ヘキサン及びn-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。中でも、貧溶媒としては、水が好ましい。
【0166】
工程(5)では、先行する工程から良溶媒が持ち込まれ、良溶媒の濃度が、凝固工程開始時と終点で、変化してしまう。そのため、予め良溶媒を加えた貧溶媒としてもよく、初期の濃度を維持するように水等を別途加えながら濃度を管理して凝固工程を行うことが好ましい。
【0167】
良溶媒の濃度を調整することで、多孔性成形体の構造(外表面開口率及び粒子形状)を制御できる。貧溶媒が水又は疎水性ポリマーの良溶媒と水の混合物の場合、凝固工程において、水に対する疎水性ポリマーの良溶媒の含有量は、0~80質量%であることが好ましく、0~60質量%であることがより好ましい。
【0168】
疎水性ポリマーの良溶媒の含有量が80質量%以下であれば、多孔性成形体の形状が良好になる効果が得られる。
【0169】
貧溶媒の温度は、以下に説明する液滴を遠心力で飛散させる回転容器においける空間部の温度と湿度を制御する観点から、40~100℃であることが好ましく、50~100℃であることがより好ましく、60~100℃であることがさらに好ましい。
【0170】
[粒子状多孔性成形体の製造装置]
本実施形態における多孔性成形体が粒子状の形態である場合、その製造装置は、液滴を遠心力で飛散させる回転容器と、凝固液を貯留する凝固槽と、を備え、回転容器と凝固槽の間の空間部分を覆うカバーを具備し、空間部の温度と湿度を制御する制御手段を備えた製造装置であることができる。
【0171】
液滴を遠心力で飛散させる回転容器は、成形用スラリーを球状の液滴にして遠心力で飛散する機能があれば、特定の構造からなるものに限定されず、例えば、周知の回転ディスク及び回転ノズル等が挙げられる。
【0172】
回転ディスクは、成形用スラリーが回転するディスクの中心に供給され、回転するディスクの表面に沿って成形用スラリーが均一な厚みでフィルム状に展開し、ディスクの周縁から遠心力で滴状に分裂して微小液滴を飛散させるものである。
【0173】
回転ノズルは、中空円盤型の回転容器の周壁に多数の貫通孔を形成するか、または周壁に貫通させてノズルを取付け、回転容器内に成形用スラリーを供給すると共に回転容器を回転させ、その際に貫通孔又はノズルから遠心力により成形用スラリーを吐出させて液滴を形成するものである。
【0174】
凝固液を貯留する凝固槽は、凝固液を貯留できる機能があれば、特定の構造からなるものに限定されず、例えば、周知の上面開口の凝固槽や、回転容器を囲むように配置した筒体の内面に沿って凝固液を重力により自然流下させる構造の凝固槽等が挙げられる。上面開口の凝固槽は、回転容器から水平方向に飛散した液滴を自然落下させ、上面が開口した凝固槽に貯留した凝固液の水面で液滴を捕捉する装置である。回転容器を囲むように配置した筒体の内面に沿って凝固液を重力により自然流下させる構造の凝固槽は、凝固液を筒体の内面に沿わせて周方向にほぼ均等な流量で流出させ、内面に沿って自然流下する凝固液流中に液滴を捕捉して凝固させる装置である。
【0175】
空間部の温度と湿度の制御手段は、回転容器と凝固槽の間の空間部を覆うカバーを具備し、空間部の温度と湿度を制御する手段である。空間部を覆うカバーは、空間部を外部の環境から隔離して、空間部の温度及び湿度を現実的に制御し易くする機能があれば、特定の構造からなるものに限定されず、例えば箱状、筒状及び傘状の形状とすることができる。カバーの材質は、例えば、金属のステンレス鋼やプラスチック等が挙げられる。外部環境と隔離する点で、公知の断熱剤で覆うこともできる。カバーには、一部開口部を設けて、温度及び湿度を調整してもよい。
【0176】
空間部の温度及び湿度の制御手段は、空間部の温度と湿度を制御する機能があればよく、特定の手段に限定されず、例えば、電気ヒーター及びスチームヒーター等の加熱機、超音波式加湿器、加熱式加湿器等の加湿器が挙げられる。構造が簡便であるという点で、凝固槽に貯留した凝固液を加温して、凝固液から発生する蒸気を利用して空間部の温度と湿度を制御する手段が好ましい。
【0177】
[親水性ポリマーの被覆層の形成方法]
以下、多孔性成形体の表面に、親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)の被覆層を形成する方法について説明する。
【0178】
一実施形態において、多孔性成形体の表面に、親水性ポリマーを含むコート液を塗布することによって、親水性ポリマーの被膜を形成することができる。以下、例えば、親水性ポリマーとしてPMEAを用いた場合について言及する。PMEAコート液は多孔性成形体に形成された細孔内に浸入し、多孔質な成形体表面の細孔径を大きく変化させずに、多孔性成形体の細孔表面全体にPMEAが含ませることもできる。
【0179】
PMEAコート液の溶媒としては、多孔性成形体を構成する疎水性ポリマーや親水性ポリマーといった高分子を溶解せず、PMEAを溶解する又は分散させることができる溶媒であれば特に限定されるものではない。溶媒としては、工程の安全性や、続く乾燥工程での取り扱いの良さから、水やアルコール水溶液が好ましい。沸点、毒性の観点から、溶媒としては、水、エタノール水溶液、メタノール水溶液、イソプロピルアルコール水溶液、水/エタノール混合溶媒、水/メタノール混合溶媒になどが好適に用いられる。コート液の溶媒の種類、溶媒の組成については、多孔性成形体を構成する高分子との関係で、適宜設定することができる。
【0180】
PMEAコート液のPMEAの濃度に限定はないが、例えば、コート液の0.001質量%~1質量%とすることができ、0.005質量%~0.2質量%であることがより好ましい。
【0181】
コート液の塗布方法に限定はないが、例えば、多孔性成形体を適当なカラム(容器)に充填し、上部からPMEAを含んだコート液を流し、次いで、圧縮空気を用いて余分な溶液を除去する方法を採用することができる。
【0182】
その後、蒸留水などで洗浄を行い残った不要な溶媒を置換除去した後、滅菌をすることで医療用具として用いることができる。
【0183】
親水性ポリマーを疎水性ポリマーにコーティングした後、血液浄化器を作製するまでに多孔性成形体を乾燥させると、0.12g以上の低融点水分量を得ることが困難である。乾燥により多孔性成形体を構成するポリマー中のメトキシ基及びカルボニル基の構造変化が起き、多孔性成形体を構成するポリマー中に低融点水を保持することができ難くなる傾向があるからである。したがって、親水性ポリマーを疎水性ポリマーにコーティングした後から血液浄化器を作製するまでの間に、乾燥工程を含まないことが好ましい。これにより、低融点水分量を向上でき、結果として血小板付着量を抑制することが容易である。
【実施例】
【0184】
以下、実施例及び比較例により本実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0185】
《評価及び測定方法》
[多孔性成形体の面積平均粒子径]
多孔質ビーズの面積平均粒子径は、超純水にて膨潤された多孔質ビーズを粒度分布測定装置(MT3300II、マイクロトラックベル社製)を用いて測定し、それらの面積平均を面積平均粒子径(μm)として算出した。
【0186】
[多孔性成形体の積算細孔容量]
超純水にて膨潤された多孔性成形体を凍結後24時間凍結乾燥し、多孔性成形体を乾燥させた。乾燥後の多孔性成形体に、VacPrep061(島津製作所-マイクロメリティックス社製)を用いて60℃で15時間の脱ガス処理(減圧乾燥)を行った。その後、TriStarII 3020(島津製作所-マイクロメリティックス社製)を用いてN2ガス吸着法にて積算細孔容量(cm3/g)の測定を行った。この際、積算細孔容量としてはBJH法によるDesorption Cumulative Pore Volumeを採用した。上記の測定を10回測行い、最大値と最小値を除いた8点の値の平均値を用いた。
【0187】
[多孔性成形体の比表面積]
上記の乾燥後の多孔性成形体に、VacPrep061(島津製作所-マイクロメリティックス社製)を用いて60℃で15時間の脱ガス処理(減圧乾燥)を行った。その後、TriStarII 3020(島津製作所-マイクロメリティックス社製)を用いてN2ガス吸着法にて比表面積(m2/g)の測定を行った。この際、比表面積としてはBETプロットによる値を採用した。上記の測定を10回測行い、最大値と最小値を除いた8点の値の平均値を用いた。
【0188】
[低融点水分量]
多孔性成形体の「乾燥重量1gあたりの低融点水分量」を下記の手順で測定した。
<手順>
1.空パンの重量を量る。
2.パンに含水させた多孔性成形体を入れて密閉し、パンの重量を量る。
3.DSC測定を行う。
4.DSC測定後に密封パンに小さな穴を開け、80℃にて8時間以上真空乾燥する。
5.前記4に記載の真空乾燥後のパンの重量を量る。
6.前記5に記載の真空乾燥後のパンの重量から前記1に記載の空パンの重量を引くことにより、「多孔性成形体の乾燥重量」を算出する。
7.前記2に記載のパンの重量から前記5に記載の真空乾燥後のパンの重量を引くことにより、多孔性成形体の全水分量を算出する。
8.DSC測定後のヒートフロー(グラフの縦軸)を全水分量で規格化する。
9.DSC測定の吸収(吸熱)ピーク面積のうち(
図2参照)、0.18℃以上をバルク水の融解熱量(全融解熱量)、0.18℃未満を低融点水の融解熱量(低融点水融解熱量)と定義する。
10.全水分量にDSCにて得られる低融点水分率(低融点水融解熱量/全融解熱量)をかけることにより、「低融点水分量」を算出する。
11.「低融点水分量」を「多孔性成形体の乾燥重量」で割ることにより、「乾燥重量1gあたりの低融点水分量」を算出する。
上記の測定を10回測行い、最大値と最小値を除いた8点の値の平均値を用いた。なお、使用した測定機器は以下のとおりである。
<使用機器>
装置:TAインスツルメント製DSC Q2000又は同等機
雰囲気:窒素(流量50mL/min.)
温度校正:シクロヘキサン 6.71℃
熱量校正:シクロヘキサン 31.9J/g
測定セル:Tzero Harmetic AI Pan(密閉パン)
リファレンス:空のTzero Harmetic Al Pan(空パン)
測定温度:-40℃~5℃
昇温速度:0.3℃/分(-30℃までの降温速度は-3℃/分)
サンプルの秤量:メトラートレド製ウルトラミクロ天秤
【0189】
[接触変化率]
湿潤状態にある多孔性成形体を、メスシリンダーに投入した。メスシリンダーを最低20回以上機械的にタップし、体積変化が見られなくなった時点での、見かけ容積10mLの多孔性成形体を、メスシリンダーの目盛りによって測定した。当該10mLの多孔性成形体を60℃で3時間乾燥し、乾燥重量を測定した。さらに、別の10mLの多孔性成形体を準備し、これを吸引ろ過した。吸引ろ過には、アスピレーター(ULVAC社製 MDA-015にて、0.01MPaで5分間吸引)、及びろ紙(Merck Millipore社製 PHWP04700 Mixed Cellulose Ester)を用いた。吸引ろ過した多孔性成形体の全量を、漏斗を用いて200mLの三口フラスコに入れた。ホールピペットにて測りとった大塚製薬製注射用水100mLを三口フラスコに加えた。スタンドにスリーワンモーター、クランプ、撹拌シャフト、撹拌羽を取り付けてフラスコにセットした。撹拌羽は、PTFE製、横幅52mm、縦幅14mm、厚み3.2mmのスクエア型、アズワンカタログ1-7733-01を用いた。撹拌シャフトは三口フラスコ内の中心に設置し、撹拌羽は、水面から3mmだけ出るように設置した。その後、スリーワンモーターにて400rpm、1時間撹拌した。予め、吸引ろ過にて100mLの注射用水をろ過したろ紙を2枚用意し、これら2枚のろ紙を60℃、3時間にて乾燥させ、その重量を3回測り取り平均値を算出した。重量測定にはSHIMADU製AUW120Dの精密天秤を用いた。上記実験が終了した撹拌後の液を、用意した2枚のろ紙を用いてろ過した。この際、三口フラスコ内の多孔性成形体が流れ出さないように注意した。その後、50mL×4の注射用水で壁全体を濡らしながらフラスコを2回、漏斗を2回洗浄した。上記ろ紙を80℃で3時間乾燥させ、その重量を3回測定し、平均値を算出した。この重量からろ紙の重量分を差し引いた重量を、接触変化重量とした。下記式から導かれる値を接触変化率(%)とした。
接触変化率(%)={接触変化重量/(見かけ容積10mLの多孔性成形体の乾燥重量)}×100
上記の測定を10回測行い、最大値と最小値を除いた8点の値の平均値を用いた。
【0190】
[微粒子量]
微粒子計測器(リオン社製 KL-04)を用いて、それぞれの評価用サンプルを測定した。測定値は1回目の測定値を廃棄し、2回目以降3回測定し、その平均値を正式な値とした。
【0191】
[多孔性成形体の血小板付着量]
上記の多孔性成形体を、2.5mLラボラトリーカラム(商品名:2.5m Laboratory Column、35μm Filter Pore Size、MoBiTec社製)の中に、カラムをタッピングしながら、カラム内の占有面積が0.8mLに達するまで加えることで、見かけ容積0.8mLの多孔性成形体を測り取った。多孔性成形体の見かけ容積は、空隙の体積を含み、その空隙率は32%以上35%以下であった。続いて健常ボランティアから採血した血液にヘパリンナトリウム(ヘパリンナトリウム注5万単位/50mL、ニプロ社製)を1000 IU/L濃度になるように添加した(これを「処理前血液」という)。処理前血液4.3mLに対し、上記の多孔性成形体0.8mLをポリプロピレン(PP)製の5mLチューブ内で混合した(このチューブを「サンプルチューブ」という)。また、別のPP製の5mLチューブに処理前血液のみを5.1mL加えた(このチューブを「Blankチューブ」という)。ROTATOR RT-5(タイテック社製)の直径20cmの円板状回転体上に、サンプルチューブとBlankチューブを回転体の半径方向に沿うよう放射状に取り付けた。円板状回転体の回転面の角度が水平から22度になるようにセットして、4rpmの速度で3時間、37℃で回転攪拌した。回転攪拌後のサンプルチューブとBlankチューブ内の血液を、セルストレーナー(ミニセルストレーナーII、ナイロンメッシュ70μm、フナコシ社製)にて濾過した(これらをそれぞれ、「処理後サンプル血液」、及び「処理後Blank血液」という)。処理後サンプル血液及び処理後Blank血液の血小板濃度を、ミクロセルカウンターXT-1800i(Sysmex社製)にて測定し、下記式から多孔性成形体への血小板付着量を算出した。
血小板吸着量(億個/多孔性成形体(ビーズ)mL)=(処理後Blank血液の血小板濃度(個/mL)-処理後サンプル血液の血小板濃度(個/mL))×4.3(mL)/0.8(多孔性成形体(ビーズ)mL)/100,000,000
ここで、異なる健常ボランティアから採取した血液を用いて同様の実験を10回行い、最大値と最小値を除いたその8点の血小板付着量の平均値を多孔性成形体の血小板付着量とした。
【0192】
[多孔性成形体のアルブミン吸着量測定]
上記の多孔性成形体を、2.5mLラボラトリーカラム(商品名:2.5m Laboratory Column、35μm Filter Pore Size、MoBiTec社製)の中に、カラムをタッピングしながら、カラム内の占有面積が1.0mLに達するまで加えることで、見かけ容積1.0mLの多孔性成形体を測り取った。多孔性成形体の見かけ容積は、空隙の体積を含み、その空隙率は32%以上35%以下であった。続いて、ヒトアルブミン(富士フィルム和光純薬社製)1.75gをリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS(-)、no Calcium、no Magnesium、pH7.4、Gibro社製)50mLに完全に溶解させ、35mg/mLヒトアルブミン溶液を調製した(これを「処理前溶液」という)。処理前溶液4.0mLに対し上記の多孔性成形体1.0mLをポリプロピレン(PP)製の5mLチューブ内で混合した(このチューブを「サンプルチューブ」という)。また、別のPP製の5mLチューブに処理前溶液のみを5.0mL加えた(このチューブを「Blankチューブ」という)。ROTATOR RT-50(タイテック社製)の直径20cmの円板状回転体上に、サンプルチューブとBlankチューブを回転体の半径方向に沿うよう放射状に取り付けた。円板状回転体の回転面の角度が水平から90度になるようにセットして、30rpmの速度で2時間、37℃で回転攪拌した。回転攪拌後のサンプルチューブとBlankチューブ内の溶液を、セルストレーナー(ミニセルストレーナーII、ナイロンメッシュ70μm、フナコシ社製)にて濾過した(これらをそれぞれ、「処理後サンプル溶液」、及び「処理後Blank溶液」という)。処理前溶液、処理後サンプル溶液、及び処理後Blank溶液を、PBS(-)溶液でそれぞれ10倍希釈し、10倍希釈後の溶液の278nmにおける吸光度を、島津紫外可視分光光度計UV-2600(島津製作所社製)にて測定した。多孔性成形体へのアルブミン吸着量は以下の式により算出した。
多孔性成形体へのアルブミン吸着量(mg/多孔性成形体(ビーズ)mL)=((10倍希釈後の処理後Blank溶液の278nmにおける吸光度)-(10倍希釈後の処理後サンプル溶液の278nmにおける吸光度))/(10倍希釈後の処理前溶液の278nmにおける吸光度)×35(mg/mL)×4(mL/多孔性成形体(ビーズ)mL)
上記の測定を10回測行い、最大値と最小値を除いた8点の値の平均値を用いた。
【0193】
[多孔性成形体の平均粒径及び無機イオン吸着体の平均粒径]
多孔性成形体の平均粒径及び無機イオン吸着体の平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA社製のLA-950(商品名))で測定した。分散媒体は水を用いた。無機イオン吸着体に水和酸化セリウムを使用したサンプルの測定時は、屈折率に酸化セリウムの値を使用して測定した。同様に、無機イオン吸着体に水和酸化ジルコニウムを使用したサンプルを測定する時は、屈折率に酸化ジルコニウムの値を使用して測定した。
【0194】
[牛血漿でのリン吸着量]
図4に示す装置を用いて、牛血漿を使用した低リン濃度血清によるカラムフロー試験により、リン吸着量を測定した。低リン濃度(0.7mg/dL)程度に調整した牛血漿を用いて、一般的な透析条件(空間速度SV=120,4時間透析)と同等な条件でカラム(容器)に充填した多孔性成形体のリン吸着量(mg-P/mL-Resin(多孔性成形体))を測定した。
リン酸イオン濃度は、モリブデン酸直接法にて測定した。
通液速度がSV120の時のリン吸着量が、1.5(mg-P/mL-Resin)以上であれば、吸着容量が大きく、リン吸着剤として良好であると判断した。
【0195】
[溶血の有無]
図4に示す装置を用いて、人血液を用いたカラムフロー試験により、リン吸着量を測定した。メスシリンダーを用いてタッピングを繰り返して秤量した多孔性成形体8mLを、カラム(内径10mm)に充填して、人血液(抗凝固剤を添加した採血後3時間以内の人新鮮血、ヘマトクリット値40~46%)を960mL/hr(SV120hr-1)の速度で、ワンパスで通液した。カラムからの流出血(処理血液)を2分毎に3回サンプリングした。3回サンプリングした流出血を以下の方法で溶血試験して、1つでも溶血が有れば、溶血有りとした。
(溶血試験方法)
濾過前後の人血液を3000回転/分(1700×g)15分間遠心分離した後、白い紙等を背景にして上清部分の着色を濾過前後で観察比較し、以下の評価基準で評価した。
溶血有り:(i)濾過前の血液製剤の上清と比べて濾過後の血液製剤の上清の赤色が明らかに濃いもの、又は(ii)濾過前の血液製剤の上清と比べて濾過後の血液製剤の上清に赤色着色が見られる。
溶血無し:(iii)濾過前の血液製剤の上清と比べて濾過後の血液製剤の上清に赤色着色が認められない。
【0196】
《実施例1-1》
[親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)の合成]
2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とN-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン(CMB)との共重合体を通常の溶液重合によって合成した。重合条件は、エタノール溶液中、開始剤としてアゾイソブチロニトリル(AIBN)0.0025モル/L存在下、各モノマー濃度を1モル/Lとし、反応温度60℃にて8時間重合反応を行い、ポリマー重合液を得た。得られたポリマー重合液をジエチルエーテルに滴下し、析出したポリマーを回収した。回収したポリマーを、ジエチルエーテルを用いて再沈殿操作を行うことで精製した。その後、得られたポリマーを減圧条件下で24時間乾燥して親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)を得た。
【0197】
親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)中のHEMAモノマー単位とCMBモノマー単位とのモル比は以下のように測定した。得られた親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)をジメチルスルホキシドへ溶解した後、1H-NMR測定を行うことにより算出したチャートにおける4.32ppm(CMBに固有のH原子由来)のピークと0.65から2.15ppm(全体のH原子量)の面積比から次の式により算出した。
CMBモノマーのモル比=(“4.32ppm領域の面積比”/2)/(“0.65-2.15ppm領域の面積比”/5)×100
HEMAモノマーのモル比=100-CMBモノマーのモル比
親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)におけるHEMAモノマー単位とCMBモノマー単位とのモル比は、65対35と算出された。
【0198】
[コーティング液の調製]
上記親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)を70W/W%のエチルアルコールへ添加した後、12時間撹拌し、親水性ポリマー濃度が0.1重量%のコーティング液を調整した。
【0199】
[疎水性ポリマーの調製]
疎水性ポリマーとしてアンバーライト
TMXAD
TM1180N(オルガノ社製、スチレン系ポリマービーズ、面積平均粒子径540μm、細孔直径5nm~100nmの積算細孔容量1.57cm
3/g、細孔直径100nm~200nmの積算細孔容量0.020cm
3/g)を用いた。アンバーライト
TMXAD
TM1180NのLog微分細孔容積分布及び積算細孔容量のグラフを
図1に、累計面積粒度分布のグラフを
図3に示す。
【0200】
[多孔性成形体の製造]
[親水性ポリマーを疎水性ポリマーにコーティングする方法]
超純水で膨潤された3LのアンバーライトTMXADTM1180Nを5Lとコーティング液1Lを5Lのビーカーに入れ、緩やかに12時間攪拌することでビーズへのポリマーコートを行った。続いて、コート処理後溶液を除去して得られたビーズを、ビーズセパウォッシュ(メッシュ目開き328μm、日本コークス社製)により分級および洗浄作業を行い、面積平均粒子径540μmのコート後のビーズを得た。
【0201】
[超臨界流体による洗浄]
得られた多孔性成形体(コート後のビーズ)を二酸化炭素からなる超臨界流体(臨界温度304.1K、臨界圧力7.38MPa、株式会社アイテック社製機器)にて1時間洗浄した。
【0202】
[多孔性成形体のサイトカイン吸着性能及びHMGB-1吸着性能]
健常ボランティアから採血した血液にヘパリンナトリウム(ヘパリンナトリウム注5万単位/50mL、ニプロ社製)を2000 IU/mL濃度になるように添加後、Escherichia coli O111:B4由来のリポポリサッカライド(LPS)(Sigma-Aldrich社製)を0.1μg/mL濃度になるように添加した。これを、振とう機(インビトロシェイカーWAVE-S1、TAITEC社製)を用いて振とう角度10度、10r/minで24時間、37℃で振とうさせた。その後、遠心機(ハイブリッド高速冷却遠心機 6200、久保田商事社製)を用いて、室温にて2,000gで20分間遠心し、上清を血漿サンプルとして取得した。取得した血漿サンプル3.6mLと上記の多孔性成形体(ビーズ)0.45mL(乾燥時0.10g)をポリプロピレン(PP)製の5mLチューブ内で混合した。これを、振とう機を用いて振とう角度10度、10r/minで2時間、37℃で振とうさせた(これを「多孔性成形体(ビーズ)接触有サンプル」という)。この時、取得した血漿サンプル3.6mLに多孔性成形体(ビーズ)を添加しないサンプルも準備し、多孔性成形体(ビーズ)接触有サンプルと同じ処理を行った(これを「多孔性成形体(ビーズ)接触無サンプル」という)。振とうさせた後のPP製チューブを、遠心機を用いて、室温にて2000gで1分間遠心し、多孔性成形体(ビーズ)接触有及び無サンプルの上清を取得した。取得した上清を用いて、各種サイトカイン濃度をBio-Plexシステム(Bio-Rad社製 Bio-Plex Pro ヒト サイトカイン GI27-plex パネル)を用いて、添付の取扱説明書に従い測定した。また、HMGB-1濃度はHMGB1 ELISAK Kit II(株式会社 シノテスト製)を用いて、添付の取扱説明書に従い測定した。ここで、ビーズのサイトカイン、HMGB-1吸着率は下記式にて算出した。
各種サイトカイン吸着率(%)=(“多孔性成形体(ビーズ)接触無サンプルのサイトカイン濃度”-“多孔性成形体(ビーズ)接触有サンプルのサイトカイン濃度”)/“多孔性成形体(ビーズ)接触無サンプルのサイトカイン濃度”×100
HMGB-1吸着率(%)=(“多孔性成形体(ビーズ)接触無サンプルのHMGB-1濃度”-“多孔性成形体(ビーズ)接触有サンプルのHMGB-1濃度”)/“ビーズ接触無サンプルのHMGB-1濃度”×100
尚、今回の実験における多孔性成形体(ビーズ)接触無サイトカイン濃度、多孔性成形体(ビーズ)接触無HMGB-1濃度は、IL-1b:3658pg/mL、IL-6:5540pg/mL、IL-8:6144pg/mL、IL-10:846pg/mL、TNF-α:8085pg/mL、HMGB-1:27ng/mLであった。
【0203】
[血液浄化器の作成]
脱気水により膨潤された上記の多孔性成形体(コート後のビーズ)を空気が入らないように脱気水を適宜充填しながらL/Dが1.80の血液の入口と出口を有する円筒型容器(底面にガラスフィルター設置したもの)に充填した。充填後、容器に蓋をして接合した。多孔性成形体が占める領域の見かけ容積Vは350mLであった。容器上部までビーズを充填後、容器本体側面にバイブレータを当て、本体をゆっくり回転させながらバイブレータを上下に2分間動かした。新たに生じたスペースに、更にコート後ビーズを充填し、ビーズが細密化されたカラムを作成した。最後に、得られたカラムを25Kgyでγ線照射を行った。
【0204】
得られた多孔性成形体及び血液浄化器の性能を以下の表1に示す。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は1.85gであった。得られた多孔性成形体の接触変化率は0.1%、血小板付着量は2.3億個/mLであった。TNF-αを除くサイトカインの吸着率が50%以上であり、TNF-αの吸着率が62%、HMGB1の吸着率が65%と良好であった。得られた血液浄化器の血液処理前の圧力損失は7.1kPa、血液処理後の圧力損失は8.8kPaであった。得られた血液浄化器は、血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の10μm以上の微粒子数がそれぞれ6個、8個、9個と何れも25個以下で、且つ血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の25μm以上の微粒子数がそれぞれ1個、1個、1個と何れも3個以下であり、厚生労働省の定める人工腎臓装置承認基準を満たした。以上から、得られた血液浄化器は、血液適合性に優れ、良好なサイトカイン吸着性能を有し、血液処理前後の圧力損失が低く、かつ、微粒子数が人工腎臓装置承認基準を満たす安全に使用可能な、多孔性成形体を有する血液浄化器であった。
【0205】
《実施例1-2》
[親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)の合成]においてラウリル酸メタクリレート(LMA)、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート(DEAEMA)及びN-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン(CMB)との共重合体を用いたこと以外は、実施例1-1と同様に球状の多孔性成形体を得て、実施例1-1と同様に血液浄化器を作成した。
親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)中のLMAモノマー単位と、DEAEMAモノマー単位と、CMBモノマー単位とのモル比は以下のように測定した。得られた親水性ポリマーをジメチルスルホキシドへ溶解した後、1H-NMR測定を行うことにより算出したチャートにおける4.32ppm(CMBに固有のH原子由来)のピーク及び2.63ppm(DEAEMAに固有のH原子由来)のピークと、0.65-2.15ppm(全体のH原子量)の面積比から次の式により算出した。
DEAEMAモノマーのモル比=(“2.63ppm領域の面積比”/2)/(“0.65-2.15ppm領域の面積比”/5-“2.63ppm領域の面積比”×0.3)×100
CMBモノマーのモル比=(“4.32ppm領域の面積比”/2)/(“0.65-2.15ppm領域の面積比”/5-“2.63ppm領域の面積比”×0.3)×100
LMAモノマーのモル比=100-DEAEMAモノマーのモル比-CMBモノマーのモル比
親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)におけるLMAモノマー単位と、DEAEMAモノマー単位と、CMBモノマー単位とのモル比は、75/15/10と算出された。
【0206】
得られた多孔性成形体及び血液浄化器の性能を以下の表1に示す。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は0.15gであった。得られた多孔性成形体の接触変化率は0%、血小板付着量は3.9億個/mLであった。TNF-αを除くサイトカインの吸着率が50%以上であり、TNF-αの吸着率が85%、HMGB1の吸着率が76%と良好であった。得られた血液浄化器の血液処理前の圧力損失は7.1kPa、血液処理後の圧力損失は12.5kPaであった。得られた血液浄化器は、血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の10μm以上の微粒子数がそれぞれ8個、9個、10個と何れも25個以下で、且つ血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の25μm以上の微粒子数がそれぞれ0個、1個、1個と何れも3個以下であり、厚生労働省の定める人工腎臓装置承認基準を満たした。以上から、得られた血液浄化器は、血液適合性に優れ、良好なサイトカイン吸着性能を有し、血液処理前後の圧力損失が低く、かつ、微粒子数が人工腎臓装置承認基準を満たす安全に使用可能な、多孔性成形体を有する血液浄化器であった。
【0207】
《実施例1-3》
[親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)の合成]においてラウリル酸メタクリレート(LMA)、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート(DEAEMA)及びN-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン(CMB)との共重合体を用いたこと、親水性ポリマーの溶液として70W/W%のエチルアルコールの代わりに100W/W%のn-ブチルアルコールを用いたこと以外は、実施例1-2と同様に球状の多孔性成形体を得て、実施例1-1と同様に血液浄化器を作成した。
親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)におけるLMAモノマー単位と、DEAEMAモノマー単位と、CMBモノマー単位とのモル比は、65/15/20と算出された。
【0208】
得られた多孔性成形体及び血液浄化器の性能を以下の表1に示す。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は0.70gであった。得られた多孔性成形体の接触変化率は0%、血小板付着量は3.5億個/mLであった。TNF-αを除くサイトカインの吸着率が50%以上であり、TNF-αの吸着率が70%、HMGB1の吸着率が78%と良好であった。得られた血液浄化器の血液処理前の圧力損失は7.1kPa、血液処理後の圧力損失は12.0kPaであった。得られた血液浄化器は、血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の10μm以上の微粒子数がそれぞれ7個、8個、10個と何れも25個以下で、且つ血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の25μm以上の微粒子数がそれぞれ0個、0個、1個と何れも3個以下であり、厚生労働省の定める人工腎臓装置承認基準を満たした。以上から、得られた血液浄化器は、血液適合性に優れ、良好なサイトカイン吸着性能を有し、血液処理前後の圧力損失が低く、かつ、微粒子数が人工腎臓装置承認基準を満たす安全に使用可能な、多孔性成形体を有する血液浄化器であった。
【0209】
《実施例1-4》
[親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)の合成]において2-メトキシエチルメタクリレート(MEMA)とN-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン(CMB)との共重合体を用いたこと以外は、実施例1-1と同様に球状の多孔性成形体を得て、実施例1-1と同様に血液浄化器を作成した。親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)におけるMEMAモノマー単位とCMBモノマー単位とのモル比は、73対27と算出された。
【0210】
得られた多孔性成形体及び血液浄化器の性能を以下の表1に示す。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は1.20gであった。得られた多孔性成形体の接触変化率は0%、血小板付着量は2.9億個/mLであった。TNF-αを除くサイトカインの吸着率が50%以上であり、TNF-αの吸着率が66%、HMGB1の吸着率が80%と良好であった。得られた血液浄化器の血液処理前の圧力損失は7.1kPa、血液処理後の圧力損失は10.5kPaであった。得られた血液浄化器は、血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の10μm以上の微粒子数がそれぞれ6個、6個、9個と何れも25個以下で、且つ血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の25μm以上の微粒子数がそれぞれ0個、1個、1個と何れも3個以下であり、厚生労働省の定める人工腎臓装置承認基準を満たした。以上から、得られた血液浄化器は、血液適合性に優れ、良好なサイトカイン吸着性能を有し、血液処理前後の圧力損失が低く、かつ、微粒子数が人工腎臓装置承認基準を満たす安全に使用可能な、多孔性成形体を有する血液浄化器であった。
【0211】
《比較例1-1》
[親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)の合成]において3口ナスフラスコに3-メトキシプロピルアクリレート(MC3A)7.50g、1,4-ジオキサン30.2g、及びアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)7.5mgを加えた。乾燥窒素ガスを反応溶液中に通しながら30分間攪拌し、反応系を窒素置換した。3口ナスフラスコの下部温度を75℃に設定したオイルバスに浸漬し、窒素気流下、6時間攪拌することで重合を行った。重合反応の進行を1H NMRによって確認し、十分に高い反応転化率(90%前後)であることを確認した後、重合系を室温まで放冷することで反応を停止した。重合溶液をヘキサンに滴下することでポリマーを沈殿させ、デカントによって上澄みを除き、沈殿物をテトラヒドロフランに溶解させて回収した。テトラヒドロフランに溶解した後、ヘキサンで再沈殿させる作業を2回繰り返して精製を行い、得られた沈殿物を更に水中で24時間攪拌した。デカントによって水を取り除き、沈殿物をテトラヒドロフランに溶解させて回収した。溶媒を減圧留去した後、真空乾燥機で乾燥し、重合体を得た。得られた重合体の一部を用いて、分子量を測定したところ、数平均分子量(Mn)31000及び分子量分布(Mw/Mn)2.5であった。
【0212】
得られた多孔性成形体及び血液浄化器の性能を以下の表1に示す。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は0.10gであった。得られた多孔性成形体の接触変化率は0%、血小板付着量は4.2億個/mLであった。TNF-αを除くサイトカインのうちIL-6とIL-10の吸着率が50%未満であった。血小板付着量、血液浄化器の血液処理前の圧力損失、及びTNF-αを除くサイトカイン吸着率が悪い結果となった。
【0213】
《比較例1-2》
[親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)の合成]において2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とN-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン(CMB)との共重合体を用いたこと以外は、実施例1-1と同様に球状の多孔性成形体を得て、実施例1-1と同様に血液浄化器を作成した。親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)におけるHEMAモノマー単位とCMBモノマー単位とのモル比は、58対42と算出された。
【0214】
得られた多孔性成形体及び血液浄化器の性能を以下の表1に示す。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は2.20gであった。得られた多孔性成形体の接触変化率は0.2%、血小板付着量は1.0億個/mLであった。TNF-αを除くサイトカインの吸着率が50%以上と良好であったが、TNF-αの吸着率が24%、HMGB1の吸着率が53%と悪い結果となった。
【0215】
《実施例1-5》
[親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)の合成]において2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とN-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン(CMB)との共重合体を用いたこと以外は、実施例1-1と同様に球状の多孔性成形体を得て、実施例1-1と同様に血液浄化器を作成した。親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)におけるHEMAモノマー単位とCMBモノマー単位とのモル比は、60対40と算出された。
【0216】
得られた多孔性成形体及び血液浄化器の性能を以下の表1に示す。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は1.95gであった。得られた多孔性成形体の接触変化率は0.2%、血小板付着量は1.5億個/mLであった。TNF-αを除くサイトカインの吸着率が50%以上であり、TNF-αの吸着率が35%、HMGB1の吸着率が60%と良好であった。得られた血液浄化器の血液処理前の圧力損失は7.1kPa、血液処理後の圧力損失は7.6kPaであった。得られた血液浄化器は、血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の10μm以上の微粒子数がそれぞれ5個、6個、7個と何れも25個以下で、且つ血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の25μm以上の微粒子数がそれぞれ0個、1個、1個と何れも3個以下であり、厚生労働省の定める人工腎臓装置承認基準を満たした。以上から、得られた血液浄化器は、血液適合性に優れ、良好なサイトカイン吸着性能を有し、血液処理前後の圧力損失が低く、かつ、微粒子数が人工腎臓装置承認基準を満たす安全に使用可能な、多孔性成形体を有する血液浄化器であった。
【0217】
《実施例1-6》
[血液浄化器の作成]で血液の入口と出口を有する円筒型容器(底面にガラスフィルター設置したもの)のL/Dを1.20にしたこと以外は、実施例1-1と同様の操作を行った。
【0218】
得られた多孔性成形体及び血液浄化器の性能を以下の表1に示す。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は1.85gであった。得られた多孔性成形体の接触変化率は0.1%、血小板付着量は2.3億個/mLであった。TNF-αを除くサイトカインの吸着率が50%以上であり、TNF-αの吸着率が62%、HMGB1の吸着率が65%と良好であった。得られた血液浄化器の血液処理前の圧力損失は4.1kPa、血液処理後の圧力損失は4.3kPaであった。得られた血液浄化器は、血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の10μm以上の微粒子数がそれぞれ5個、6個、8個と何れも25個以下で、且つ血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の25μm以上の微粒子数がそれぞれ1個、1個、1個と何れも3個以下であり、厚生労働省の定める人工腎臓装置承認基準を満たした。以上から、得られた血液浄化器は、血液適合性に優れ、良好なサイトカイン吸着性能を有し、血液処理前後の圧力損失が低く、かつ、微粒子数が人工腎臓装置承認基準を満たす安全に使用可能な、多孔性成形体を有する血液浄化器であった。
【0219】
《実施例1-7》
[血液浄化器の作成]で血液の入口と出口を有する円筒型容器(底面にガラスフィルター設置したもの)のL/Dを2.20にしたこと以外は、実施例1-1と同様の操作を行った。
【0220】
得られた多孔性成形体及び血液浄化器の性能を以下の表2に示す。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は1.85gであった。得られた多孔性成形体の接触変化率は0.1%、血小板付着量は2.3億個/mLであった。TNF-αを除くサイトカインの吸着率が50%以上であり、TNF-αの吸着率が62%、HMGB1の吸着率が65%と良好であった。得られた血液浄化器の血液処理前の圧力損失は9.3kPa、血液処理後の圧力損失は12.5kPaであった。得られた血液浄化器は、血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の10μm以上の微粒子数がそれぞれ5個、6個、7個と何れも25個以下で、且つ血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の25μm以上の微粒子数がそれぞれ0個、1個、1個と何れも3個以下であり、厚生労働省の定める人工腎臓装置承認基準を満たした。以上から、得られた血液浄化器は、血液適合性に優れ、良好なサイトカイン吸着性能を有し、血液処理前後の圧力損失が低く、かつ、微粒子数が人工腎臓装置承認基準を満たす安全に使用可能な、多孔性成形体を有する血液浄化器であった。
【0221】
《比較例1-3》
[血液浄化器の作成]で血液の入口と出口を有する円筒型容器(底面にガラスフィルター設置したもの)のL/Dを2.40にしたこと以外は、実施例1-1と同様の操作を行った。
【0222】
得られた多孔性成形体及び血液浄化器の性能を以下の表2に示す。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は1.85gであった。得られた多孔性成形体の接触変化率は0.1%、血小板付着量は2.3億個/mLであった。TNF-αを除くサイトカインの吸着率が50%以上であり、TNF-αの吸着率が62%、HMGB1の吸着率が65%と良好であった。得られた血液浄化器の血液処理前の圧力損失は10.5kPa、血液処理後の圧力損失は13.5kPaと悪い結果であった。
【0223】
《比較例1-4》
[疎水性ポリマーの調製]において、疎水性ポリマーであるアンバーライトTMXADTM1180Nの代わりに、親水性ポリマーであるピュロソーブTMPAD950(ピュロライト社製、アクリル系ポリマービーズ、面積平均粒子径621μm、細孔直径5nm~100nmの積算細孔容量0.823cm3/g、細孔直径100nm~200nmの積算細孔容量0.038cm3/g)を使用したこと以外は、実施例1-7と同様の操作を行った。
【0224】
得られた多孔性成形体及び血液浄化器の性能を以下の表2に示す。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は1.85gであった。得られた多孔性成形体の接触変化率は0.3%と悪い結果であった。接触変化率が悪かったのは、親水性ポリマーをコーティングする前の多孔性成形体が脆いビーズであり、かつ疎水性ポリマーではなかったことが一因であると考えられる。
【0225】
《実施例1-8》
[多孔性成形体の製造]
以下の手順で作成したポリエーテルイミド(PEI)及びポリビニルピロリドン(PVP)を含む球状の多孔性成形体を用いた。
硫酸セリウム4水和物(和光純薬(株))2000gを50Lの純水中に投入し、撹拌羽を用いて溶解させた後、8M苛性ソーダ(和光純薬(株))3Lを20ml/minの速度で滴下し、水和酸化セリウムの沈殿物を得た。得られた沈殿物をフィルタープレスにてろ過した後、純水500Lを通液して洗浄し、さらにエタノール(和光純薬(株))80Lを通液して水和酸化セリウムに含まれる水分をエタノールに置換した。このとき、濾過終了時の濾液10mlを採取し、カールフィッシャー水分率計((株)三菱ケミカルアナリテック社製のCA-200(商品名))にて水分率の測定を行ったところ、水分率は5質量%であり、有機液体の置換率は95質量%であった。得られた有機液体を含む水和酸化セリウムを風乾し、乾燥した水和酸化セリウムを得た。得られた乾燥水和酸化セリウムを、ジェットミル装置(日清エンジニアリング(株)社製のSJ-100(商品名))を用いて、圧気圧力0.8MPa、原料フィード速度100g/hrの条件で粉砕し、粒子径平均1.2μmの水和酸化セリウム粉末を得た。
N-メチル-2ピロリドン(NMP、三菱化学(株)製)220gと、粉砕した水和酸化セリウム粉末(MOX)120g、疎水性ポリマーとしてポリエーテルイミド(PEI、GENERAL ELECTRIC Co.Ultem1010)28g、親水性ポリマーとしてポリビニルピロリドン(PVP、BASF社製K90、重量平均分子量1,200,000)32gを加えて、溶解槽中にて、60℃に加温して撹拌羽根を用いて撹拌・溶解し、均一な成形用スラリー溶液を得た。
得られた成形用スラリーを側面に直径4mmのノズルを開けた円筒状回転容器の内部に供給し、この容器を回転させ、遠心力(15G)によりノズルから液滴を形成させた。水に対するNMPの含有量が50質量%の凝固液を60℃に加温して貯留した、上面開口の凝固槽中に液滴を着水させ、成形用スラリーを凝固させた。さらに、エタノール置換後にアルカリ洗浄、分級を行い、ポリエーテルイミド(PEI)及びポリビニルピロリドン(PVP)を含む、球状の多孔性成形体を得た。多孔性成形体の粒径は537μmであった。
【0226】
[超臨界流体による洗浄]
得られた多孔性成形体を二酸化炭素からなる超臨界流体(臨界温度304.1K、臨界圧力7.38MPa、株式会社アイテック社製機器)にて1時間洗浄した。これを2回繰り返し行った。
【0227】
[PMEAコーティング]
得られた多孔性成形体をL/Dが1.80の血液の入口と出口を有する円筒型容器(底面にガラスフィルター設置したもの)に充填した。多孔性成形体が占める領域の見かけ容積Vは350mLであった。次いで、PMEA(Mn20,000,Mw/Mn2.4)0.2gをメタノール45g/水55gの水溶液(100g)中に溶解させ、コート液を作製した。多孔性成形体を充填した容器を垂直に把持しその上部からコート液を流速100mL/minで流し多孔性成形体にコート液を接触させ、その後、純水で洗浄した。純水洗浄後、0.1KMpaのエアーで容器内のコート液を吹き飛ばし、真空乾燥機内にモジュールを入れて35℃で15時間真空乾燥させ、大気雰囲気下、25Kgyでガンマ線滅菌を実施して実施例1-1と同様な血液浄化器を作製した。
【0228】
得られた多孔性成形体及び血液浄化器の性能を以下の表2に示す。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は0.62gであった。得られた多孔性成形体の接触変化率は0.2%、血小板付着量は3.6億個/mLであった。TNF-αを除くサイトカインの吸着率が50%以上であり、TNF-αの吸着率が30%、HMGB1の吸着率が95%と良好であった。得られた血液浄化器の血液処理前の圧力損失は7.2kPa、血液処理後の圧力損失は12.0kPaであった。得られた血液浄化器は、血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の10μm以上の微粒子数がそれぞれ2個、4個、6個と何れも25個以下で、且つ血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の25μm以上の微粒子数がそれぞれ1個、1個、2個と何れも3個以下であり、厚生労働省の定める人工腎臓装置承認基準を満たした。以上から、得られた血液浄化器は、血液適合性に優れ、良好なサイトカイン吸着性能を有し、血液処理前後の圧力損失が低く、かつ、微粒子数が人工腎臓装置承認基準を満たす安全に使用可能な、多孔性成形体を有する血液浄化器であった。
【0229】
《実施例1-9》
[多孔性成形体の製造]において、疎水性ポリマーの良溶媒としてN-メチル-2ピロリドン(NMP、三菱化学(株)製)NMP217.6g、親水性ポリマーとしてポリビニルピロリドン(PVP、BASF社製K90、重量平均分子量1,200,000)31.6g、MOXの代わりに酸化ランタン(ナカライテスク社製)119.2g、疎水性ポリマーとしてポリエーテルスルホン(PES、住友化学(株)製)31.6gを用い、ポリビニルピロリドン(PVP)及びポリエーテルスルホン(PES)を含む球状の多孔性成形体を得たこと以外は、実施例1-8と同様に血液浄化器を作成した。
【0230】
得られた血液浄化器の性能を以下の表2に示す。リン吸着能が高く、溶血が無く、微粒子数が人工腎臓装置承認基準を満たす安全に使用可能な血液浄化器であった。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は0.62gであった。得られた多孔性成形体の接触変化率は0.2%、血小板付着量は3.6億個/mLであった。TNF-αを除くサイトカインの吸着率が50%以上であり、TNF-αの吸着率が38%、HMGB1の吸着率が95%と良好であった。得られた血液浄化器の血液処理前の圧力損失は7.3kPa、血液処理後の圧力損失は12.2kPaであった。得られた血液浄化器は、血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の10μm以上の微粒子数がそれぞれ6個、7個、10個と何れも25個以下で、且つ血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の25μm以上の微粒子数がそれぞれ0個、1個、2個と何れも3個以下であり、厚生労働省の定める人工腎臓装置承認基準を満たした。以上から、得られた血液浄化器は、血液適合性に優れ、良好なサイトカイン吸着性能を有し、血液処理前後の圧力損失が低く、かつ、微粒子数が人工腎臓装置承認基準を満たす安全に使用可能な、多孔性成形体を有する血液浄化器であった。
【0231】
《実施例1-10》
[多孔性成形体の製造]において、疎水性ポリマーとしてポリスルホン(PSf、Amoco Engineering Polymers社製 P-1700)を用いて、ポリスルホン(PSf)及びポリビニルピロリドン(PVP)を含む球状の多孔性成形体を得たこと以外は、実施例1-9と同様に血液浄化器を作成した。
【0232】
得られた多孔性成形体及び血液浄化器の性能を以下の表2に示す。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は0.62gであった。得られた多孔性成形体の接触変化率は0.2%、血小板付着量は3.6億個/mLであった。TNF-αを除くサイトカインの吸着率が50%以上であり、TNF-αの吸着率が40%、HMGB1の吸着率が97%と良好であった。得られた血液浄化器の血液処理前の圧力損失は7.3kPa、血液処理後の圧力損失は12.2kPaであった。得られた血液浄化器は、血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の10μm以上の微粒子数がそれぞれ6個、8個、10個と何れも25個以下で、且つ血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の25μm以上の微粒子数がそれぞれ0個、1個、1個と何れも3個以下であり、厚生労働省の定める人工腎臓装置承認基準を満たした。以上から、得られた血液浄化器は、血液適合性に優れ、良好なサイトカイン吸着性能を有し、血液処理前後の圧力損失が低く、かつ、微粒子数が人工腎臓装置承認基準を満たす安全に使用可能な、多孔性成形体を有する血液浄化器であった。
【0233】
《実施例1-11》
[親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)の合成]において2-メトキシエチルメタクリレート(MEMA)とN-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン(CMB)との共重合体を用いたこと以外は、実施例1-1と同様に球状の多孔性成形体を得て、実施例1-1と同様に血液浄化器を作成した。親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)におけるMEMAモノマー単位とCMBモノマー単位とのモル比は、98対2と算出された。
【0234】
得られた多孔性成形体及び血液浄化器の性能を以下の表2に示す。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は0.43gであった。得られた多孔性成形体の接触変化率は0%、血小板付着量は3.6億個/mLであった。TNF-αを除くサイトカインの吸着率が50%以上であり、TNF-αの吸着率が75%、HMGB1の吸着率が70%と良好であった。得られた血液浄化器の血液処理前の圧力損失は7.1kPa、血液処理後の圧力損失は10.8kPaであった。得られた血液浄化器は、血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の10μm以上の微粒子数がそれぞれ5個、5個、7個と何れも25個以下で、且つ血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の25μm以上の微粒子数がそれぞれ0個、1個、1個と何れも3個以下であり、厚生労働省の定める人工腎臓装置承認基準を満たした。以上から、得られた血液浄化器は、血液適合性に優れ、良好なサイトカイン吸着性能を有し、血液処理前後の圧力損失が低く、かつ、微粒子数が人工腎臓装置承認基準を満たす安全に使用可能な、多孔性成形体を有する血液浄化器であった。
【0235】
《実施例1-12》
[親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)の合成]において、ラウリル酸メタクリレート(LMA)とN-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン(CMB)との共重合体をさらにコートしたこと以外は、実施例1-1と同様に球状の多孔性成形体を得て、実施例1-1と同様に血液浄化器を作成した。LMAモノマー単位とCMBモノマー単位とのモル比は、98対2と算出された。
【0236】
得られた多孔性成形体及び血液浄化器の性能を以下の表2に示す。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は0.37gであった。得られた多孔性成形体の接触変化率は0%、血小板付着量は3.7億個/mLであった。TNF-αを除くサイトカインの吸着率が50%以上であり、TNF-αの吸着率が79%、HMGB1の吸着率が72%と良好であった。得られた血液浄化器の血液処理前の圧力損失は7.1kPa、血液処理後の圧力損失は10.9kPaであった。得られた血液浄化器は、血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の10μm以上の微粒子数がそれぞれ6個、6個、8個と何れも25個以下で、且つ血液浄化器中に注射用生理食塩液を封入してから1週間後、3月後及び6月後における前記食塩液1mL中の25μm以上の微粒子数がそれぞれ0個、1個、1個と何れも3個以下であり、厚生労働省の定める人工腎臓装置承認基準を満たした。以上から、得られた血液浄化器は、血液適合性に優れ、良好なサイトカイン吸着性能を有し、血液処理前後の圧力損失が低く、かつ、微粒子数が人工腎臓装置承認基準を満たす安全に使用可能な、多孔性成形体を有する血液浄化器であった。
【0237】
【0238】
【0239】
《実施例2-1》
硫酸セリウム4水和物(和光純薬(株))2000gを50Lの純水中に投入し、撹拌羽を用いて溶解させた後、8M苛性ソーダ(和光純薬(株))3Lを20ml/minの速度で滴下し、水和酸化セリウムの沈殿物を得た。得られた沈殿物をフィルタープレスにてろ過した後、純水500Lを通液して洗浄し、さらにエタノール(和光純薬(株))80Lを通液して水和酸化セリウムに含まれる水分をエタノールに置換した。このとき、濾過終了時の濾液10mlを採取し、カールフィッシャー水分率計((株)三菱ケミカルアナリテック社製のCA-200(商品名))にて水分率の測定を行ったところ、水分率は5質量%であり、有機液体の置換率は95質量%であった。得られた有機液体を含む水和酸化セリウムを風乾し、乾燥した水和酸化セリウムを得た。得られた乾燥水和酸化セリウムを、ジェットミル装置(日清エンジニアリング(株)社製のSJ-100(商品名))を用いて、圧気圧力0.8MPa、原料フィード速度100g/hrの条件で粉砕し、粒子径平均1.2μmの水和酸化セリウム粉末を得た。
【0240】
ジメチルスルホキシド(DMSO、関東化学社製)220gと、粉砕した水和酸化セリウム粉末(MOX)120g、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA、三菱化学社製 商品名:ダイヤナールBR-77)28g、親水性ポリマー(水溶性高分子)としてポリビニルピロリドン(PVP、BASF社製K90)32gを加えて、溶解槽中にて、60℃に加温して撹拌羽根を用いて撹拌・溶解し、均一な成形用スラリー溶液を得た。
【0241】
得られた成形用スラリーを側面に直径4mmのノズルを開けた円筒状回転容器の内部に供給し、この容器を回転させ、遠心力(15G)によりノズルから液滴を形成させた。水に対するNMPの含有量が50質量%の凝固液を60℃に加温して貯留した、上面開口の凝固槽中に液滴を着水させ、成形用スラリーを凝固させた。さらに、エタノール置換後にアルカリ洗浄、分級を行い、球状の多孔性成形体を得た。多孔性成形体の粒径は537μmであった。
【0242】
[超臨界流体による洗浄]
得られた多孔性成形体を二酸化炭素からなる超臨界流体(臨界温度304.1K、臨界圧力7.38MPa、株式会社アイテック社製機器)にて1時間洗浄した。
【0243】
[PMEAコーティング]
得られた多孔性成形体1mLを円筒型容器(底面にガラスフィルターを設置したもの、L(長さ)/D(円筒直径)は1.5)に充填した。次いで、PMEA(Mn20,000,Mw/Mn2.4)0.2gをメタノール40g/水60gの水溶液(100g)中に溶解させ、コート液を作製した。多孔性成形体を充填した容器を垂直に把持しその上部からコート液を流速100mL/minで流し多孔性成形体にコート液を接触させ、その後、純水で洗浄した。
【0244】
純水洗浄後、0.1KMpaのエアーで容器内のコート液を吹き飛ばし、真空乾燥機内にモジュールを入れて35℃で15時間真空乾燥させ、大気雰囲気下、25Kgyでガンマ線滅菌を実施して血液浄化器を作製した。
【0245】
[牛血漿を使用した低リン濃度血清によるカラムフロー試験]
透析治療時にダイアライザーの後にリン吸着器を使用する場合を考えて、透析治療時のダイアライザー出口の血中無機リン濃度0.2~1.0mg/dLでのリン吸着量を測定することにした。そのため、試験血漿液のリン濃度の調整を行った。市販品の牛血清を遠心分離(3500rpm、5min)してその上澄み液である血漿を2000mL作製した。血漿中のリン濃度は10.8mg/dLであった。得られた血漿の半分(1000mL)に実施例2-1で得られた多孔性成形体を加え、室温で2時間攪拌処理を行い、遠心分離(3500rpm、5min)をしてリン濃度0の血漿約950mLを得た。リン濃度10.8mg/dLの血漿35mLとリン濃度0の血漿465mLを混合し遠心分離(3500rpm、5min)をかけて上澄み液としてリン濃度0.8mg/dL、495mLの血漿を得た。
図1に示すように、実施例2-1で得られた多孔性成形体を用いて血液浄化器を組み込み、得られた血漿450mLを2mL/minの流速で通液し、1フラクション目は10mLでそれ以降は1サンプルあたり20mLずつ採取した。通常、平均的な透析条件は流速Qb=200mL/minで4時間透析を行うことから、200mL×4時間=48000mLの全血流量となり、血球成分をHt=30%とすると血漿としては33600mLの流量となる。今回は1/100スケールでの実験としたので340mLの通液を目安とした。血漿フロー量350mLでの多孔性成形体のリン吸着量は1.54mg-P/mL-Resinであった。得られた多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は0.62gであった。得られた血液浄化器の性能を以下の表3に示す。リン吸着能が高く、溶血が無く、微粒子数が人工腎臓装置承認基準を満たす安全に使用可能な血液浄化器であった。
【0246】
《実施例2-2》
有機高分子樹脂の良溶媒としてN-メチル-2ピロリドン(NMP、三菱化学(株)製)217.6g、親水性ポリマー(水溶性高分子)としてポリビニルピロリドン(PVP、BASF社製K90)31.6g、MOXの代わりに酸化ランタン(ナカライテスク社製)119.2g、疎水性ポリマーとしてポリエーテルスルホン(PES、住友化学(株)製)31.6gを加えて、実施例2-1と同様操作を行い球状の多孔性成形体を得た。多孔性成形体の粒径は533μmであった。PMEAコート後の多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は0.14gであった。また、リン吸着量は9.88mg-P/mL-Resinであった。得られた血液浄化器の性能を以下の表3に示す。リン吸着能が高く、溶血が無く、微粒子数が人工腎臓装置承認基準を満たす安全に使用可能な血液浄化器であった。
【0247】
《実施例2-3》
PMEAコートにおいて、PMEA1.0gをメタノール40g/水60gの水溶液(100g)中に溶解させ、コート液を作製した以外は、実施例2-1と同様操作を行い球状の多孔性成形体を得た。得られた血液浄化器の各種特性を以下の表3に示す。PMEAコート後の多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は1.30gであった。また、リン吸着量は1.55mg-P/mL-Resinであった。得られた血液浄化器の性能を以下の表3に示す。リン吸着能が高く、溶血が無く、微粒子数が人工腎臓装置承認基準を満たす安全に使用可能な血液浄化器であった。
【0248】
《比較例2-1》
PMEAコートを行わなかった以外は、実施例2-2と同様操作を行い球状の多孔性成形体を得た。得られた血液浄化器の性能を以下の表3に示す。多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は0.10gであった。低融点水分量が低く、多孔性成形体に溶血がある結果となった。
【0249】
《比較例2-2》
PMEAコートにおいて、PMEA1.2gをメタノール40g/水60gの水溶液(100g)中に溶解させ、コート液を作製した以外は実施例2-1と同様操作を行い球状の多孔性成形体を得た。得られた血液浄化器の性能を以下の表3に示す。PMEAコート後の多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は1.40gであった。また、リン吸着量は1.45mg-P/mL-Resinであった。低融点水分量が高すぎるため、リン吸着量が低い結果となった。
【0250】
《比較例2-3》
超臨界流体による洗浄を行わなかった以外は、実施例2-1と同様に血液浄化器を作製した。得られた血液浄化器の各種特性を以下の表3に示す。微粒子数が多い結果となった。
【0251】
【0252】
《比較例3-1》
[親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)の合成]
2-メトキシエチルメタクリレート(MEMA)と、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート(DEAEMA)と、N-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン(CMB)との共重合体を通常の溶液重合によって合成した。重合条件は、エタノール溶液中、開始剤としてアゾイソブチロニトリル(AIBN)0.0025モル/L存在下、各モノマー濃度を1モル/Lとし、反応温度60℃にて8時間重合反応を行い、ポリマー重合液を得た。得られたポリマー重合液をジエチルエーテルに滴下し、析出したポリマーを回収した。回収したポリマーを、ジエチルエーテルを用いて再沈殿操作を行うことで精製した。その後、得られたポリマーを減圧条件下で24時間乾燥して親水性ポリマー(生体適合性ポリマー)を得た。
【0253】
親水性ポリマー中のMEMAモノマー単位と、DEAEMAモノマー単位と、CMBモノマー単位とのモル比は以下のように測定した。得られた親水性ポリマーをジメチルスルホキシドへ溶解した後、1H-NMR測定を行うことにより算出したチャートにおける4.32ppm(CMBに固有のH原子由来)のピーク及び2.63ppm(DEAEMAに固有のH原子由来)のピークと、0.65-2.15ppm(全体のH原子量)の面積比から次の式により算出した。
DEAEMAモノマーのモル比=(“2.63ppm領域の面積比”/2)/(“0.65-2.15ppm領域の面積比”/5-“2.63ppm領域の面積比”×0.3)×100
CMBモノマーのモル比=(“4.32ppm領域の面積比”/2)/(“0.65-2.15ppm領域の面積比”/5-“2.63ppm領域の面積比”×0.3)×100
MEMAモノマーのモル比=100-DEAEMAモノマーのモル比-CMBモノマーのモル比
親水性ポリマーにおけるMEMAモノマー単位と、DEAEMAモノマー単位と、CMBモノマー単位とのモル比は、80/10/10と算出された。
【0254】
[コーティング液の調製]
上記親水性ポリマーを70W/W%のエチルアルコールへ添加した後、12時間撹拌し、親水性ポリマー濃度が0.1重量%のコーティング液を調整した。
【0255】
[ポリマービーズの調製]
親水性ポリマーであるピュロソーブTMPAD950(ピュロライト社製、アクリル系ポリマービーズ、体積平均粒子径621μm、細孔径5nm~100nmの積算細孔容量0.823cm3/g、細孔径100nm~200nmの積算細孔容量0.038cm3/g)を用いた。超純水で膨潤されたビーズ2mL(乾燥時0.44g)をポリプロピレン(PP)製の15mLコニカルチューブに入れた後、70W/W%のエチルアルコール10mLを加えた。振とう機(インビトロシェイカーWAVE-S1、TAITEC社製)を用いて振とう角度10度、40r/minで12時間振とう後、振とう後の溶液をセルストレーナー(ミニセルストレーナーII、ナイロンメッシュ70μm、フナコシ社製)にて濾過した。濾過後の溶液の220nmにおける吸光度を島津紫外可視分光光度計UV-2600(島津製作所社製)にて測定後、濾過にて得られたビーズを再度15mLコニカルチューブに加えた。このコニカルチューブへの70W/W%のエチルアルコールの添加、振とう機による12時間の振とう、セルストレーナーによる溶液除去の一連の作業を、濾過後溶液の220nmにおける吸光度が0.03以下になるまで繰り返し行った。
【0256】
[コーティング方法]
上記処理により得られたポリマービーズ2mLを含有した15mLコニカルチューブに、上記コーティング液10mLを加え、振とう機(インビトロシェイカーWAVE-S1、TAITEC社製)を用いて振とう角度10度、40r/minで3時間振とうさせた。その後、コート処理後溶液をセルストレーナー(ミニセルストレーナーII、ナイロンメッシュ70μm、フナコシ社製)にて濾過し、コート後ビーズを得た。濾過後のコート処理後溶液の220nmにおける吸光度を島津紫外可視分光光度計UV-2600にて測定後、濾過にて得られたコート後ビーズを再度15mLコニカルチューブに加えた。ここでポリマービーズへの親水性ポリマーのコーティング量(mg/ビーズ乾燥g)を下記式により算出した結果、コーティング量は14mg/ビーズ乾燥gであった。
処理後溶液内親水性ポリマー重量(mg)=処理前溶液内親水性ポリマー重量(mg)×処理後溶液の220nmの吸光度/処理前溶液内の220nmの吸光度
コーティング量(mg/ビーズ乾燥g)=(処理前溶液内親水性ポリマー重量-処理後溶液内親水性ポリマー重量)/使用ビーズ乾燥g
【0257】
続いて、上記のコート後ビーズを含有した15mLコニカルチューブを、50℃で15時間真空乾燥(絶対圧力0.003MPa以下)を行った後、コニカルチューブ内に20W/W%のエチルアルコールを12mL加えた。振とう機(インビトロシェイカーWAVE-S1、TAITEC社製)を用いて振とう角度10度、40r/minで12時間振とう後、ビーズが浸潤した溶液をセルストレーナー(ミニセルストレーナーII、ナイロンメッシュ70μm、フナコシ社製)にて除去し、得られたビーズを再度15mLコニカルチューブに加えた。その後、15mLコニカルチューブへの超純水12mLの添加、振とう機による3時間の振とう、セルストレーナーによる溶液除去の一連の作業を計5度繰り返し行った。最後にコニカルチューブに生理食塩水(大塚生食注、大塚製薬工場社製)を12mL充填し、γ線照射により滅菌作業を行い、多孔性成形体を得た。
【0258】
得られた多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は0.10gと低く、多孔性成形体の接触変化率は0.3%と悪い結果であった。低融点水分量が低かったのは、親水性ポリマーをコーティングした後に乾燥工程を行ったことが一因であると考えられる。接触変化率が悪かったのは、親水性ポリマーをコーティングする前の多孔性成形体が脆いビーズであり、かつ疎水性ポリマーではなかったことが一因であると考えられる。
【0259】
《比較例3-2》
[多孔性成形体の作製]
N-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱化学(株))110gと、平均粒径30μmの水和酸化セリウム粉末(高南無機(株))150gを、直径5mmφのステンレス製ボール1.5kgを充填した容積1Lのステンレス製ボールミルポットに投入し、75rpmの回転数で150分間粉砕・混合処理を行い黄色のスラリーを得た。得られたスラリーに、ポリエーテルスルホン(住友化学(株)、スミカエクセル5003PS(商品名)、OH末端グレード、末端水酸基組成90(モル%))15g、水溶性高分子であるポリエチレングリコール(PEG35,000、メルク(株))2gを加えて、溶解槽中にて、60℃に加温して撹拌羽根を用いて撹拌・溶解し、均一な成形用スラリー溶液を得た。
【0260】
得られた成形用スラリー溶液を60℃に加温し、側面に直径5mmのノズルを開けた円筒状回転容器の内部に供給し、この容器を回転させ、遠心力(15G)によりノズルから液滴を形成させた。続いて、回転容器と凝固槽の間の空間部をポリプロピレン製のカバーで覆って空間部の温度を50℃、相対湿度を100%に制御した空間部を飛行させ、凝固液としての水を80℃に加温して貯留した、上面開口の凝固槽中に着水させ、成形用スラリーを凝固させた。さらに、洗浄、分級を行い、球状の多孔性成形体を得た。
【0261】
[多孔性成形体へのPMEAコーティング]
得られた多孔性成形体50mLを円筒型カラム(底面にガラスフィルター設置したもの)に充填した。次いでPMEA(Mn20,000,Mw/Mn2.4)0.2gをエタノール40g/水60gの水溶液(100g)中に溶解させ、コート液を作製した。多孔性成形体を充填したカラムを垂直に把持しその上部からコート液を流速100mL/minで流し多孔性成形体にコート液を接触させ、その後、純水で洗浄した。純水洗浄後、0.1KMpaのエアーでモジュール内のコート液を吹き飛ばし、真空乾燥機内にモジュールを入れて35℃15時間真空乾燥させ、大気雰囲気下、25Kgyでガンマ線滅菌を実施した。
【0262】
得られた多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は0.01gと低く、多孔性成形体の接触変化率は0.4%と悪い結果であった。多孔性成形体の成形用スラリー溶液中に用いられたポリエチレングリコール(PEG35,000、メルク(株))が水溶性であるため、多孔性成形体中に残存していなかったからであると考えられる。多孔性成形体の中のPMEA量をATR-IRで確認した結果、多孔性成形体の中のPMEA量は25%程度であることを確認した。
【0263】
《比較例3-3》
NMPを147gとし、水和酸化セリウム粉末(高南無機(株))を80.5gとし、粉砕・混合処理を200分間行い、得られたスラリーに、ポリエーテルスルホン(住友化学(株)、スミカエクセル5003PS(商品名)、OH末端グレード、末端水酸基組成90(モル%))21.3g、水溶性高分子としてポリビニルピロリドン(PVP、BASFジャパン(株)、Luvitec K30 Powder(商品名))21.3gを加えたこと以外は、比較例3-2に記載の方法と同様にして、球状の多孔性成形体を得た。
【0264】
得られた多孔性成形体の乾燥重量1gあたりの低融点水分量は0.01gと低く、多孔性成形体の接触変化率は0.4%と悪い結果であった。多孔性成形体の成形用スラリー溶液中に用いられたポリビニルピロリドン(PVP、BASFジャパン(株)、Luvitec K30 Powder(商品名))が水溶性であるため、多孔性成形体中に残存していなかったからであると考えられる。多孔性成形体の中のPMEA量をATR-IRで確認した結果、多孔性成形体の中のPMEA量は25%程度であることを確認した。
【0265】
《PMEAコート液における溶媒の影響》
上記比較例3-2及び3-3では、PMEAコート溶液として、エタノール40g/水60gの水溶液を用いている。これに対して、本願実施例1-8では、メタノール45g/水55gの水溶液を用い、本願実施例2-1~2-3では、メタノール40g/水60gの水溶液を用いている。
図5は、PMEAコート溶液の溶媒による、PMEA溶解性を示す図である。
図6は、PMEAコート後のポリエーテルスルホン(PES)及びMOXを含む多孔性成形体の、ATR/FT-IR分析の一例である。
図6中、C1は、PESのC=C結合に由来するピークであり、C2は、PMEAのC=O結合に由来するピークを示す。
図7は、PMEAコート溶液の溶媒による、PMEAコート量の違いを示す。同程度のPMEA濃度であっても、用いる溶媒の種類によって、コート量に大幅な違い(4倍にも及ぶ)があることが分かる。なお、UV計測定によるコート量とATRのC2/C1比は同じ傾向が見られた。そのため、PMEAのコート溶液の溶媒としては、メタノール:水の割合が、好ましくは80:20~40:60、より好ましくは70:30~45:55、さらに好ましくは60:40~45:55である。
【産業上の利用可能性】
【0266】
本発明に係る血液浄化器は、血液適合性に優れ、良好なサイトカイン吸着性能を有し、血液処理前後の圧力損失が低く、かつ、安全に使用可能であるため、体内のサイトカイン及びHMGB1を除去するための療法に好適に利用可能である。一実施形態において、リン吸着能が高く、溶血が無く、かつ、安全に使用可能であるため、体内に蓄積したリンを定期的に除去するための療法に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0267】
1 恒温槽
2 実験台
3 ポンプ
4 多孔性吸収体(リン吸収剤)入りカラム
5 圧力計
6 サンプリング