(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20231206BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20231206BHJP
C07F 9/38 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
G02B5/22
C09K3/00 105
C09K3/00 104Z
C07F9/38 A
C07F9/38 Z
(21)【出願番号】P 2021520827
(86)(22)【出願日】2020-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2020020005
(87)【国際公開番号】W WO2020235610
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2019096708
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】久保 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】新毛 勝秀
(72)【発明者】
【氏名】蔡 雷
(72)【発明者】
【氏名】増田 一瞳
【審査官】小久保 州洋
(56)【参考文献】
【文献】特許第6232161(JP,B1)
【文献】特開2012-201865(JP,A)
【文献】特開2012-087243(JP,A)
【文献】特開2002-069305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G02B 5/22
C09K 3/00
C07F 9/38
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光吸収性組成物であって、
下記式(A)で表されるホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤と、
硬化性樹脂と、を含有
し、
当該光吸収性組成物の塗膜を硬化させて得られる光吸収膜は、0°の入射角度で波長300nm~1200nmの光を入射させたときに、下記の(i)~(iii)の条件を満たす、光吸収性組成物。
(i)波長350nm~450nmにおいて分光透過率が50%を示すUVカットオフ波長が波長400nm~450nmの範囲内に存在する。
(ii)波長600nm~750nmにおいて分光透過率が50%を示すIRカットオフ波長が波長700nm以下である。
(iii)前記IRカットオフ波長から前記UVカットオフ波長を差し引いた差が240nm以上である。
【化1】
[式(A)中、R
1
~R
5
のそれぞれは、独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又はニトロ基を表し、nは1~3の整数を表す。]
【請求項2】
前記光吸収膜は、0°の入射角度で波長300nm~1200nmの光を入射させたときに、下記の(iv)~(vii)の条件をさらに満たす、請求項
1に記載の光吸収性組成物。
(iv)波長300nm~350nmにおける分光透過率が1%以下である。
(v)波長450nm~600nmにおける平均透過率が75%以上である。
(vi)波長800nm~1100nmにおける分光透過率が10%以下である。
(vii)波長800nm~1150nmにおける分光透過率が15%以下である。
【請求項3】
前記銅イオンの含有量に対する前記ホスホン酸の含有量の比は、物質量基準で、0.7~0.9である、請求項1
又は2に記載の光吸収性組成物。
【請求項4】
下記式(A)で表されるホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤と、
硬化性樹脂の硬化物と、を含有
し、
0°の入射角度で波長300nm~1200nmの光を入射させたときに、下記の(i)~(iii)の条件を満たす、光吸収膜。
(i)波長350nm~450nmにおいて分光透過率が50%を示すUVカットオフ波長が波長400nm~450nmの範囲内に存在する。
(ii)波長600nm~750nmにおいて分光透過率が50%を示すIRカットオフ波長が波長700nm以下である。
(iii)前記IRカットオフ波長から前記UVカットオフ波長を差し引いた差が240nm以上である。
【化2】
[式(A)中、R
1~R
5のそれぞれは、独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又はニトロ基を表し、nは1~3の整数を表す。]
【請求項5】
0°の入射角度で波長300nm~1200nmの光を入射させたときに、下記の(iv)~(vii)の条件をさらに満たす、請求項
4に記載の光吸収膜。
(iv)波長300nm~350nmにおける分光透過率が1%以下である。
(v)波長450nm~600nmにおける平均透過率が75%以上である。
(vi)波長800nm~1100nmにおける分光透過率が10%以下である。
(vii)波長800nm~1150nmにおける分光透過率が15%以下である。
【請求項6】
前記銅イオンの含有量に対する前記ホスホン酸の含有量の比は、物質量基準で、0.7~0.9である、請求項
4又は5に記載の光吸収膜。
【請求項7】
下記式(A)で表されるホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤と、硬化性樹脂の硬化物と、を含有する光吸収膜を備え、
0°の入射角度で波長300nm~1200nmの光を入射させたときに、下記(I)~(III)の条件を満たす、光学フィルタ。
(I)波長350nm~450nmにおいて分光透過率が50%を示すUVカットオフ波長が波長400nm~450nmの範囲内に存在する。
(II)波長600nm~750nmにおいて分光透過率が50%を示すIRカットオフ波長が波長700nm以下である。
(III)前記IRカットオフ波長から前記UVカットオフ波長を差し引いた差が240nm以上である。
【化3】
[式(A)中、R
1
~R
5
のそれぞれは、独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又はニトロ基を表し、nは1~3の整数を表す。]
【請求項8】
0°の入射角度で波長300nm~1200nmの光を入射させたときに、下記の(IV)~(VII)の条件をさらに満たす、請求項
7に記載の光学フィルタ。
(IV)波長300nm~350nmにおける分光透過率が1%以下である。
(V)波長450nm~600nmにおける平均透過率が75%以上である。
(VI)波長800nm~1100nmにおける分光透過率が10%以下である。
(VII)波長800nm~1150nmにおける分光透過率が15%以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
CCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の固体撮像素子を用いた撮像装置において、良好な色再現性を有する画像を得るために様々な光学フィルタが固体撮像素子の前面に配置されている。一般的に、固体撮像素子は紫外線領域から赤外線領域に至る広い波長範囲で分光感度を有する。一方、人間の視感度は可視光の領域にのみに存在する。このため、撮像装置における固体撮像素子の分光感度を人間の視感度に近づけるために、固体撮像素子の前面に赤外線又は紫外線の一部の光を遮蔽する光学フィルタを配置する技術が知られている。
【0003】
従来、そのような光学フィルタとしては、誘電体多層膜による光反射を利用して赤外線又は紫外線を遮蔽するものが一般的であった。一方、近年、光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタが注目されている。光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタの透過率特性は入射角の影響を受けにくいので、撮像装置において光学フィルタに斜めに光が入射する場合でも色味の変化が少ない良好な画像を得ることができる。また、光反射膜を用いない光吸収型光学フィルタは光反射膜による多重反射を原因とするゴーストやフレアの発生を抑制することができるため、逆光状態や夜景の撮影において良好な画像を得やすい。加えて、光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタは、撮像装置の小型化及び薄型化の点でも有利である。
【0004】
そのような光吸収剤として、ホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤が知られている。例えば、特許文献1には、フェニル基又はハロゲン化フェニル基を有するホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含有する光吸収層を備えた、光学フィルタが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、赤外線及び紫外線を吸収可能なUV‐IR吸収層を備えた光学フィルタが記載されている。UV‐IR吸収層は、ホスホン酸と銅イオンとによって形成されたUV‐IR吸収剤を含んでいる。光学フィルタが所定の光学特性を満たすように、UV‐IR吸収性組成物は、例えば、フェニル系ホスホン酸と、アルキル系ホスホン酸とを含有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6339755号公報
【文献】特許第6232161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の光学フィルタにおいて、UVカットオフ波長は400nm未満である。加えて、特許文献1に記載の技術は、波長1000nmを超える範囲において光吸収性能を高める余地を有する。一方、特許文献2に記載の技術は、光学フィルタが所定の光学特性を満たすために、UV‐IR吸収性組成物がフェニル系ホスホン酸及びアルキル系ホスホン酸を含有している。
【0008】
そこで、本開示は、フェニル系ホスホン酸及びアルキル系ホスホン酸を含有していなくても所望の光学特性を有する光吸収膜を提供するのに有利な光吸収性組成物を提供する。また、本発明は、そのような光吸収膜及び光吸収膜を備えた光学フィルタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
下記式(A)で表されるホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤と、
硬化性樹脂と、を含有する、
光吸収性組成物を提供する。
【化1】
[式(A)中、R
1~R
5のそれぞれは、独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又はニトロ基を表し、nは1~3の整数を表す。]
【0010】
本発明は、
下記式(A)で表されるホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤と、
硬化性樹脂の硬化物と、を含有する、
光吸収膜を提供する。
【化2】
[式(A)中、R
1~R
5のそれぞれは、独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又はニトロ基を表し、nは1~3の整数を表す。]
【0011】
また、本発明は、上記の光吸収膜を備えた、光学フィルタを提供する。
【発明の効果】
【0012】
上記の光吸収性組成物は、所望の光学特性を有する光吸収膜を提供するのに有利である。上記の光吸収膜及び上記の光学フィルタは、所望の光学特性を有しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係る光吸収膜の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る光学フィルタの一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1に係る光学フィルタの透過率スペクトルである。
【
図4】
図4は、実施例2に係る光学フィルタの透過率スペクトルである。
【
図5】
図5は、実施例3に係る光学フィルタの透過率スペクトルである。
【
図6】
図6は、比較例1に係る光学フィルタの透過率スペクトルである。
【
図7】
図7は、比較例2に係る光学フィルタのスペクトルである。
【
図8】
図8は、透明ガラス基板の透過率スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
フェニル系ホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤は、紫外線に対応する波長の範囲と、近赤外線において比較的短い波長の範囲とに属する光を吸収する特性を有しやすい。一方、アルキル系ホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤は、近赤外線において比較的長い波長の範囲に属する光を吸収する特性を有しやすい。このため、例えば、撮像装置に用いられる光学フィルタにおいて所望の分光透過率を実現するためには、フェニル系ホスホン酸及びアルキル系ホスホン酸を含有する光吸収組成物を使用されていたものがあった。
【0015】
一方、本発明者らは、異なる吸収特性を備える光吸収性組成物を組み合わせて使用するほか、このような特定のホスホン酸を含有していなくても所望の光学特性を有する光吸収膜を実現できないか鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者らは、所定のホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含有する光吸収性組成物が、所望の光学特性を有する光吸収膜を実現するうえで有利であることを新たに見出した。この新たな知見に基づいて、本発明者らは本発明に係る光吸収性組成物を案出した。
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明は、本発明の一例に関するものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0017】
本発明に係る光吸収性組成物は、光吸収剤と、硬化性樹脂とを含有している。光吸収剤は、下記式(A)で表されるホスホン酸と、銅イオンとによって形成されている。
【0018】
【化3】
[式(A)中、R
1~R
5のそれぞれは、独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又はニトロ基を表し、nは1~3の整数を表す。]
【0019】
式(A)で表されるホスホン酸は、例えばアラルキル基を有するホスホン酸である。式(A)で表されるホスホン酸は、その分子構造上、ベンゼン環である環状炭化水素基と、環状でない炭化水素基を有する。このため、光吸収剤は、それぞれの官能基の光吸収に関する特徴を有すると考えられる。その結果、光吸収性組成物は、所望の光学特性を有する光吸収膜を実現するうえで有利である。なお、アラルキル基(aralkyl group)とは、アルキル基(-Cn’H2n’+1(n’は1以上の整数を表す))の水素原子の1つがフェニル基などのアリール基で置換されているアルキル基をいう。アラルキル基の具体例としては、ベンジル基(フェニルメチル基(-CH2-C6H5(式(A)中、n=1))及びフェネチル基(フェニルエチル基(-C2H4-C6H5(式(A)中、n=2))等の基を例示できる。
【0020】
式(A)で表されるホスホン酸は、例えば、ベンジル基、ベンジル基のベンゼン環における少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子に置換されているハロゲン化ベンジル基、ベンジル基のベンゼン環における少なくとも1つの水素原子がヒドロキシ基に置換されているヒドロキシベンジル基、又はベンジル基のベンゼン環における少なくとも1つの水素原子がニトロ基に置換されているニトロベンジル基を有するホスホン酸である。また、式(A)で表されるホスホン酸は、フェネチル基、フェネチル基のベンゼン環における少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子に置換されているハロゲン化フェネチル基、フェネチル基のベンゼン環における少なくとも1つの水素原子がヒドロキシ基に置換されているヒドロキシフェネチル基、又はフェネチル基のベンゼン環における少なくとも1つの水素原子がニトロ基に置換されているニトロフェネチル基を有するホスホン酸であってもよい。これらは式(A)で表されるホスホン酸の一例である。
【0021】
式(A)で表されるホスホン酸において、ベンジル基、ハロゲン化ベンジル基、ヒドロキシベンジル基、ニトロベンジル基、フェネチル基、ハロゲン化フェネチル基、ヒドロキシフェネチル基、及びニトロフェネチル基等のアラルキル基又は変性アラルキル基は、例えば、リン原子に直接結合している。一方、式(A)で表されるホスホン酸において、これらのアラルキル基又は変性アラルキル基と、リン原子との間に更に1~3個以下の炭素原子を有する炭化水素基が介在していてもよい。
【0022】
式(A)で表されるホスホン酸は、例えば、ベンジルホスホン酸、フルオロベンジルホスホン酸、ジフルオロベンジルホスホン酸、クロロベンジルホスホン酸、ジクロロベンジルホスホン酸、ブロモベンジルホスホン酸、ジブロモベンジルホスホン酸、ヨードベンジルホスホン酸、ジヨードベンジルホスホン酸、ヒドロキシベンジルホスホン酸、ニトロベンジルホスホン酸、フェネチルホスホン酸、フルオロフェネチルホスホン酸、ジフルオロフェネチルホスホン酸、クロロフェネチルホスホン酸、ジクロロフェネチルホスホン酸、ブロモフェネチルホスホン酸、ジブロモフェネチルホスホン酸、ヨードフェネチルホスホン酸、ジヨードフェネチルホスホン酸、ヒドロキシフェネチルホスホン酸、及びニトロフェネチルホスホン酸からなる群より選ばれる少なくとも1つである。
【0023】
光吸収性組成物において、銅イオンの含有量に対する式(A)で表されるホスホン酸の含有量の比は、特定の値に限定されない。その比は、例えば、物質量基準で、0.7~0.9である。この場合、光吸収性組成物によって所望の光学特性を有する光吸収膜をより実現しやすい。
【0024】
光吸収性組成物において、銅イオンの含有量に対する式(A)で表されるホスホン酸の含有量の比は、望ましくは0.75~0.85である。
【0025】
光吸収性組成物は、式(A)で表されるホスホン酸以外のホスホン酸と、銅イオンとによって形成された光吸収剤とを含有していてもよい。この場合、式(A)で表されるホスホン酸以外のホスホン酸は、下記式(B)で表されるホスホン酸である。式(B)で表されるホスホン酸は、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、ブチルホスホン酸などのアルキル基を有するホスホン酸、又は、フェニル基(ベンゼン環の水素原子の一部がハロゲン原子に置換されたハロゲン化フェニル基も含む)を有するホスホン酸であってもよい。式(B)で表されるホスホン酸と銅成分とからなる光吸収剤が発揮する特徴に基づいて、それらの特徴に応じた性能が助長されることが期待される。
【0026】
【化4】
[式(B)中、R
21は、アルキル基、フェニル基、少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子に置換されているハロゲン化アルキル基若しくはハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基、又はヒドロキシフェニル基を表す。]
【0027】
光吸収性組成物の塗膜を硬化させて得られる光吸収膜に、0°の入射角度で波長300nm~1200nmの光を入射させたときに、例えば、下記の(i)~(iii)の条件が満たされる。
(i)波長350nm~450nmにおいて分光透過率が50%を示すUVカットオフ波長が波長400nm~450nmの範囲内に存在する。
(ii)波長600nm~750nmにおいて分光透過率が50%を示すIRカットオフ波長が波長700nm以下である。
(iii)IRカットオフ波長からUVカットオフ波長を差し引いた差ΔT50%が240nm以上である。
【0028】
光吸収性組成物の塗膜を硬化させて得られる光吸収膜に、0°の入射角度で波長300nm~1200nmの光を入射させたときに、例えば、下記の(iv)~(vii)の条件がさらに満たされる。
(iv)波長300nm~350nmにおける分光透過率が1%以下である。
(v)波長450nm~600nmにおける平均透過率が75%以上である。
(vi)波長800nm~1100nmにおける分光透過率が10%以下である。
(vii)波長800nm~1150nmにおける分光透過率が15%以下である。
【0029】
典型的には、光吸収性組成物において光吸収剤が分散している。例えば、光吸収性組成物において光吸収剤を少なくとも含む微粒子が形成されている。この微粒子の平均粒子径は、例えば5nm~200nmである。微粒子の平均粒子径が5nm以上であれば、微粒子の微細化のために特別な工程を要さず、光吸収剤を少なくとも含む微粒子の構造が壊れる可能性が小さい。また、光吸収性組成物において微粒子が良好に分散する。また、微粒子の平均粒子径が200nm以下であると、ミー散乱による影響を低減でき、光吸収膜において可視光の透過率を向上させることができ、撮像装置で撮影された画像のコントラスト及びヘイズなどの特性の低下を抑制できる。微粒子の平均粒子径は、望ましくは100nm以下である。この場合、レイリー散乱による影響が低減されるので、光吸収性組成物を用いて形成された光吸収膜において可視光に対する透明性が高まる。また、微粒子の平均粒子径は、より望ましくは75nm以下である。この場合、光吸収性組成物を用いて作製された光吸収膜の可視光に対する透明性がとりわけ高い。なお、微粒子の平均粒子径は、動的光散乱法によって測定できる。
【0030】
光吸収性組成物において、硬化性樹脂は、特定の樹脂に限定されない。硬化性樹脂は、例えば、シリコーン樹脂である。
【0031】
硬化性樹脂は、望ましくはフェニル基等のアリール基を含んでいるシリコーン樹脂である。光吸収膜に含まれる樹脂が硬い(リジッドである)と、その樹脂を含む層の厚みが増すにつれて、光吸収膜の作製中に硬化収縮によりクラックが生じやすい。硬化性樹脂がアリール基を含むシリコーン樹脂であると、光吸収性組成物によって形成される光吸収膜が良好な耐クラック性を有しやすい。また、アリール基を含むシリコーン樹脂は、式(A)で表されるホスホン酸と高い相溶性を有し、光吸収剤を凝集させにくい。マトリクス樹脂として使用されるシリコーン樹脂の具体例としては、KR-255、KR-300、KR-2621-1、KR-211、KR-311、KR-216、KR-212、KR-251、及びKR-5230を挙げることができる。これらはいずれも信越化学工業社製のシリコーン樹脂である。
【0032】
光吸収性組成物は、例えば、リン酸エステルをさらに含有していてもよい。リン酸エステルの働きにより、光吸収性組成物、又は、それを硬化させた光吸収膜において光吸収剤が適切に分散しやすい。
【0033】
リン酸エステルは、例えば、ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステルである。ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステルは、特定のリン酸エステルに限定されない。ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステルは、例えば、プライサーフA208N:ポリオキシエチレンアルキル(C12、C13)エーテルリン酸エステル、プライサーフA208F:ポリオキシエチレンアルキル(C8)エーテルリン酸エステル、プライサーフA208B:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、プライサーフA219B:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、プライサーフAL:ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、プライサーフA212C:ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル、又はプライサーフA215C:ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステルである。これらはいずれも第一工業製薬社製の製品である。また、リン酸エステルは、例えば、NIKKOL DDP-2:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、NIKKOL DDP-4:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、又はNIKKOL DDP-6:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルであってもよい。これらは、いずれも日光ケミカルズ社製の製品である。
【0034】
光吸収性組成物は、必要に応じて、アルコキシシランをさらに含有していてもよい。この場合、アルコキシシランの加水分解縮重合によりシロキサン結合(-Si-O-Si-)が形成され、光吸収膜が緻密な構造を有しやすい。アルコキシシランは、モノマーであってもよく、ある程度加水分解と縮重合が進展したオリゴマーやポリマーの形態でもよく、それらの混合物であってもよい。
【0035】
光吸収性組成物の調製方法の一例を説明する。酢酸銅一水和物などの銅塩をテトラヒドロフラン(THF)などの所定の溶媒に添加して撹拌し、銅塩の溶液であるA液を調製する。A液の調製において、リン酸エステルが添加されてもよい。次に、ベンジルホスホン酸等の式(A)で表されるホスホン酸をTHFなどの所定の溶媒に加えて撹拌し、B液を調製する。複数種類のホスホン酸を用いる場合、各ホスホン酸をTHFなどの所定の溶媒に加えたうえで撹拌して各ホスホン酸の種類ごとに調製した複数の予備液を混合してB液を調製してもよい。A液を撹拌しながら、A液にB液を加えて所定時間撹拌する。次に、この溶液にトルエンなどの所定の溶媒を加えて撹拌し、C液を得る。次に、C液を加温しながら所定時間脱溶媒処理を行って、D液を得る。これにより、THFなどの溶媒及び酢酸(沸点:約118℃)などの銅塩の解離により発生する成分が除去され、式(A)で表されるホスホン酸と銅イオンとによって光吸収剤が生成される。C液を加温する温度は、銅塩から解離した除去されるべき成分の沸点に基づいて定められている。なお、脱溶媒処理においては、C液を得るために用いたトルエン(沸点:約110℃)などの溶媒も揮発する。この溶媒は、光吸収性組成物においてある程度残留していることが望ましいので、この観点から溶媒の添加量及び脱溶媒処理の時間が定められているとよい。なお、C液を得るためにトルエンに代えてo‐キシレン(沸点:約144℃)を用いることもできる。この場合、o‐キシレンの沸点はトルエンの沸点よりも高いので、添加量をトルエンの添加量の4分の1程度に低減できる。
【0036】
次に、D液と、シリコーン樹脂等の硬化性樹脂とを混合して所定時間撹拌することにより、光吸収性組成物を調製できる。
【0037】
光吸収性組成物を用いて、例えば、
図1に示す光吸収膜10を提供できる。光吸収膜10は、例えば、上記の式(A)で表されるホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤と、硬化性樹脂の硬化物とを含有している。典型的には、硬化物の中に光吸収剤が分散している。光吸収膜10は、例えば、光吸収性組成物の塗膜を硬化させることによって得られる。
【0038】
光吸収膜10において、銅イオンの含有量に対する式(A)で表されるホスホン酸の含有量の比は、物質量基準で、0.7~0.9である。この比は、望ましくは、0.75~0.85である。
【0039】
光吸収膜10は、0°の入射角度で波長300nm~1200nmの光を入射させたときに、例えば、上記の(i)~(iii)の条件を満たす。
【0040】
光吸収膜10が(i)の条件を満たすことにより、ヒトの視感度の限界に対応する波長より短い波長域の光の遮蔽性が高い。加えて、近年の撮像素子のセンサーの感度の変化、特に紫外側の波長域におけるセンサーの感度の向上に伴い、可視光領域の下限付近(約400nm近傍)の紫外線を効果的にカットできることが有利である。このような観点からも、光吸収膜10が(i)の条件を満たすことが望ましい。(i)の条件に関し、光吸収膜10において、望ましくは、UVカットオフ波長が波長400nm~430nmの範囲内に存在する。(i)の条件に関し、光吸収膜10において、例えば、波長350nm~450nmの範囲で波長の増加に伴い分光透過率が増加する。
【0041】
光吸収膜10が(ii)の条件を満たすことにより、ヒトの視感度の限界に対応する波長より長い波長域の光の遮蔽性が高い。(ii)の条件に関し、望ましくは、光吸収膜10において、IRカットオフ波長が波長690nm以下である。(ii)の条件に関し、光吸収膜10において、例えば、波長600nm~750nmの範囲で波長の増加に伴い分光透過率が減少する。
【0042】
光吸収膜10が(iii)の条件を満たすことにより、光吸収膜10において50%以上の透過率を示す波長域がヒトの視感度のレンジに対応する波長域と合致しやすい。(iii)の条件に関し、光吸収膜10において、差ΔT50%は、望ましくは250nm以上であり、より望ましくは260nm以上である。
【0043】
光吸収膜10は、0°の入射角度で波長300nm~1200nmの光を入射させたときに、例えば、上記の(iv)~(vii)の条件をさらに満たす。
【0044】
光吸収膜10が(iv)の条件を満たすことにより、ヒトの視感度外の紫外線領域における光を効果的にカットできる。(iv)の条件に関し、光吸収膜10は、望ましくは、波長300nm~360nmにおいて1%以下の分光透過率を有する。
【0045】
光吸収膜10が(v)の条件を満たすことにより、可視光領域に属する光の透過率が高い。このことは、撮像素子によって画像を形成するうえで有利である。(v)の条件に関し、光吸収膜10において、波長450nm~600nmにおける平均透過率は、望ましくは78%以上であり、より望ましくは80%以上である。
【0046】
光吸収膜10が(vi)及び(vii)の条件を満たすことにより、ヒトの視感度に属さない赤外線領域における光を効果的にカットできる。(vi)の条件に関し、光吸収膜10において、波長800nm~1100nmにおける分光透過率は、望ましくは5%以下であり、より望ましくは3%以下である。(vii)の条件に関し、光吸収膜10において、波長800nm~1150nmにおける分光透過率は、望ましくは10%以下であり、より望ましくは5%以下である。
【0047】
図1に示す通り、光吸収膜10を備えた光学フィルタ1aを提供できる。
【0048】
光学フィルタ1aは、例えば、0°の入射角度で波長300nm~1200nmの光を入射させたときに、例えば、下記の(I)~(III)の条件を満たす。
(I)波長350nm~450nmにおいて分光透過率が50%を示すUVカットオフ波長が波長400nm~450nmの範囲内に存在する。
(II)波長600nm~750nmにおいて分光透過率が50%を示すIRカットオフ波長が波長700nm以下である。
(III)IRカットオフ波長からUVカットオフ波長を差し引いた差ΔT50%が240nm以上である。
【0049】
(I)の条件に関し、光学フィルタ1aにおいて、望ましくは、UVカットオフ波長が波長400nm~430nmの範囲内に存在する。(I)の条件に関し、光学フィルタ1aにおいて、例えば、波長350nm~450nmの範囲で波長の増加に伴い分光透過率が増加する。
【0050】
(II)の条件に関し、望ましくは、光学フィルタ1aにおいて、IRカットオフ波長が波長690nm以下である。(II)の条件に関し、光学フィルタ1aにおいて、例えば、波長600nm~750nmの範囲で波長の増加に伴い分光透過率が減少する。
【0051】
(III)の条件に関し、光学フィルタ1aにおいて、差ΔT50%は、望ましくは250nm以上であり、より望ましくは260nm以上である。
【0052】
光学フィルタ1aは、例えば、0°の入射角度で波長300nm~1200nmの光を入射させたときに、下記の(IV)~(VII)の条件をさらに満たす。
(IV)波長300nm~350nmにおける分光透過率が1%以下である。
(V)波長450nm~600nmにおける平均透過率が75%以上である。
(VI)波長800nm~1100nmにおける分光透過率が10%以下である。
(VII)波長800nm~1150nmにおける分光透過率が15%以下である。
【0053】
(IV)の条件に関し、光学フィルタ1aは、望ましくは、波長300nm~360nmにおいて1%以下の分光透過率を有する。
【0054】
(V)の条件に関し、光学フィルタ1aにおいて、波長450nm~600nmにおける平均透過率は、望ましくは78%以上であり、より望ましくは80%以上である。
【0055】
(VI)の条件に関し、光学フィルタ1aにおいて、波長800nm~1100nmにおける分光透過率は、望ましくは5%以下であり、より望ましくは3%以下である。(VII)の条件に関し、光学フィルタ1aにおいて、波長800nm~1150nmにおける分光透過率は、望ましくは10%以下であり、より望ましくは5%以下である。
【0056】
光学フィルタ1aは、例えば、光吸収膜10単体で構成されている。この場合、光学フィルタ1aは、例えば、撮像素子又は光学部品とは別体で使用されている。光学フィルタ1aは、撮像素子及び光学部品に対して接合されていてもよい。一方、上記の光吸収性組成物を撮像素子又は光学部品に塗布して、光吸収性組成物を硬化させることによって、光学フィルタ1aが構成されていてもよい。
【0057】
光学フィルタ1aは、例えば、基板上に形成された光吸収膜10を基板から剥離することによって作製できる。この場合、基板の材料は、ガラスであってもよく、樹脂であってもよく、金属であってもよい。基板の表面には、フッ素含有化合物を用いたコーティング等の表面処理が施されていてもよい。
【0058】
光学フィルタ1aは、例えば、
図2に示す光学フィルタ1bのように変更されてもよい。光学フィルタ1bは、特に説明する場合を除き、光学フィルタ1aと同様に構成されている。光学フィルタ1aの構成要素と同一又は対応する光学フィルタ1bの構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。光学フィルタ1aに関する説明は技術的に矛盾しない限り光学フィルタ1bにも当てはまる。
【0059】
図2に示す通り、光学フィルタ1bは、光吸収膜10と、透明誘電体基板20とを備えている。光吸収膜10は、透明誘電体基板20の一方の主面と平行に形成されている。光吸収膜10は、例えば、透明誘電体基板20の一方の主面に接触していてもよい。この場合、例えば、透明誘電体基板20の一方の主面に上記の光吸収性組成物を塗布して光吸収性組成物を硬化させることによって光吸収膜10が形成される。
【0060】
透明誘電体基板20の種類は、特定の種類に限定されない。透明誘電体基板20は、赤外線領域に吸収能を有していてもよい。透明誘電体基板20は、例えば波長350nm~900nmにおいて90%以上の平均分光透過率を有していてもよい。透明誘電体基板20の材料は、特定の材料に制限されないが、例えば、所定のガラス又は樹脂である。透明誘電体基板20の材料がガラスである場合、透明誘電体基板20は、例えば、ソーダ石灰ガラス及びホウケイ酸ガラスなどのケイ酸塩ガラスでできた透明なガラス又は赤外線カットガラスである。赤外線カットガラスは、例えば、CuOを含むリン酸塩ガラス又はフツリン酸塩ガラスである。
【0061】
透明誘電体基板20の材料が樹脂である場合、その樹脂は、例えば、ノルボルネン系樹脂等の環状オレフィン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、又はシリコーン樹脂である。
【0062】
光学フィルタ1a及び1bのそれぞれは、赤外線反射膜等の他の機能膜をさらに備えるように変更されてもよい。
【実施例】
【0063】
実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0064】
<実施例1>
(光吸収性組成物の調整)
酢酸銅一水和物4.500gとテトラヒドロフラン(THF)240gとを混合して、3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208N(第一工業製薬社製)を4.333g加えて30分間撹拌してA1液を得た。ベンジルホスホン酸(富士フイルム和光純薬社製)3.144gにTHF120gを加えて30分間撹拌してB1液を得た。A1液を撹拌しながらA1液にB1液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン120gを加えた後、室温で1分間撹拌し、C1液を得た。このC1液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB-2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N-1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の液体を取り出し、ベンジルホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤の分散液であるD1液を得た。
【0065】
D1液にシリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR-300)を8.80g添加し30分間撹拌して、ベンジルホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含有する実施例1に係る光吸収性組成物を得た。実施例1に係る光吸収性組成物において、リン酸エステル化合物の含有量に対するベンジルホスホン酸の含有量の質量比は0.726であり、銅イオンの含有量に対するベンジルホスホン酸の含有量のモル比は0.810であった。
【0066】
(光学フィルタの作製)
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)の一方の主面の中心部の40mm×40mmの範囲にディスペンサを用いて実施例1に係る光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成した。得られた塗膜を室温で十分に乾燥させた後、オーブンに入れて45℃で2時間、85℃で30分間の熱処理行い、溶媒を揮発させた。さらに125℃で3時間、150℃で1時間、170℃で3時間の焼成処理を塗膜に対して行い、十分に塗膜を硬化させた。このようにして、実施例1に係る光吸収膜を形成し、実施例1に係る光学フィルタを得た。
【0067】
<実施例2>
酢酸銅一水和物4.500gとテトラヒドロフラン(THF)240gとを混合して、3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208N(第一工業製薬社製)を4.333g加えて30分間撹拌してA2液を得た。4-クロロベンジルホスホン酸(城北化学工業社製)3.774gにTHF120gを加えて30分間撹拌してB2液を得た。A2液を撹拌しながらA2液にB2液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン120gを加えた後、室温で1分間撹拌し、C2液を得た。このC2液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB-2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N-1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の液体を取り出し、4-クロロベンジルホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤の分散液であるD2液を得た。
【0068】
D2液にシリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR-300)を8.80g添加し30分間撹拌して、4-クロロベンジルホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含有する実施例2に係る光吸収性組成物を得た。実施例2に係る光吸収性組成物において、リン酸エステル化合物の含有量に対する4-クロロベンジルホスホン酸の含有量の質量比は0.871であり、銅イオンの含有量に対する4-クロロベンジルホスホン酸の含有量のモル比は0.811であった。
【0069】
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)の一方の主面の中心部の40mm×40mmの範囲にディスペンサを用いて実施例2に係る光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成した。得られた塗膜を室温で十分に乾燥させた後、オーブンに入れて45℃で2時間、85℃で30分の熱処理行い溶媒を揮発させた。さらに125℃で3時間、150℃で1時間、170℃で3時間の焼成処理を塗膜に対して行って十分に塗膜を硬化させた。このようにして、実施例2に係る光吸収膜を形成し、実施例2に係る光学フィルタを得た。
【0070】
<実施例3>
酢酸銅一水和物4.500gとテトラヒドロフラン(THF)240gとを混合して、3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208N(第一工業製薬社製)を4.333g加えて30分間撹拌してA3液を得た。4-クロロベンジルホスホン酸(城北化学工業社製)3.774gにTHF120gを加えて30分間撹拌してB3液を得た。A3液を撹拌しながらA3液にB3液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン120gを加えた後、室温で1分間撹拌し、C3液を得た。このC3液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB-2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N-1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の液体を取り出し、4-クロロベンジルホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤の分散液であるD3液を得た。D3液において、リン酸エステル化合物の含有量に対する4-クロロベンジルホスホン酸の含有量の質量比は0.871であり、銅イオンの含有量に対するホスホン酸の含有量のモル比は0.811であった。
【0071】
酢酸銅一水和物4.500gと、テトラヒドロフラン(THF)240gとを混合して3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208N(第一工業製薬社製)を2.572g加えて30分間撹拌してA4液を得た。また、n‐ブチルホスホン酸2.886gにTHF40gを加えて30分間撹拌してB4液を得た。A4液を撹拌しながらA4液にB4液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン100gを加えた後、室温で1分間撹拌し、C4液を得た。このC4液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB-2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N-1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の液体を取り出し、n-ブチルホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤の分散液であるD4液を得た。D4液において、リン酸エステル化合物の含有量に対するn-ブチルホスホン酸の含有量の質量比は1.123であり、銅イオンの含有量に対するホスホン酸の含有量のモル比は0.927であった。
【0072】
D3液に、D4液全量の20質量%に相当する量のD4液と、シリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR-300)8.80gを添加して30分間撹拌して、4-クロロベンジルホスホン酸とn-ブチルホスホン酸と銅イオンからなる光吸収剤を含有する実施例3に係る光吸収性組成物を得た。実施例3に係る光吸収性組成物において、リン酸エステル化合物の含有量に対する4-クロロベンジルホスホン酸とn-ブチルホスホン酸の合計の含有量の質量比は0.898であり、銅イオンの含有量に対する4-クロロベンジルホスホン酸とn-ブチルホスホン酸の合計の含有量のモル比は0.833であった。
【0073】
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)の一方の主面の中心部の40mm×40mmの範囲にディスペンサを用いて実施例3に係る光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成した。得られた塗膜を室温で十分に乾燥させた後、オーブンに入れて45℃で2時間、85℃で30分間の熱処理行い、溶媒を揮発させた。さらに125℃で3時間、150℃で1時間、170℃で3時間の焼成処理を塗膜に対して行い、十分に塗膜を硬化させた。このようにして、実施例3に係る光吸収膜を形成し、実施例3に係る光学フィルタを得た。
【0074】
<比較例1>
酢酸銅一水和物4.500gとテトラヒドロフラン(THF)240gとを混合して、3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208F(第一工業製薬社製)を7.172g加えて30分間撹拌してA5液を得た。フェニルホスホン酸(日産化学工業社製)2.508gにTHF40gを加えて30分間撹拌してB5液を得た。A5液を撹拌しながらA5液にB5液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン180gを加えた後、室温で1分間撹拌し、C5液を得た。このC5液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB-2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N-1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、120℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の液体を取り出し、フェニルホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤の分散液であるD5液を得た。
【0075】
D5液にシリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR-300)を17.60g添加し30分間撹拌して、フェニルホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含有する比較例1に係る光吸収性組成物を得た。比較例1に係る光吸収性組成物において、リン酸エステル化合物の含有量に対するフェニルホスホン酸の含有量の質量比は0.350であり、銅イオンの含有量に対するフェニルホスホン酸の含有量のモル比は0.704であった。
【0076】
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)の一方の主面の中心部の40mm×40mmの範囲にディスペンサを用いて比較例1に係る光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成した。得られた塗膜を室温で十分に乾燥させた後、オーブンに入れて85℃で3時間の熱処理行い溶媒を揮発させた。さらに125℃で3時間、150℃で1時間、170℃で8時間の焼成処理を塗膜に対して行って十分に塗膜を硬化させた。このようにして、比較例1に係る光吸収膜を形成し、比較例1に係る光学フィルタを得た。
【0077】
<比較例2>
酢酸銅一水和物4.500gとテトラヒドロフラン(THF)240gとを混合して、3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208F(第一工業製薬社製)を4.333g加えて30分間撹拌してA6液を得た。n-ブチルホスホン酸(城北化学工業社製)2.523gにTHF40gを加えて30分間撹拌してB6液を得た。A6液を撹拌しながらA6液にB6液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン120gを加えた後、室温で1分間撹拌し、C6液を得た。このC6液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB-2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N-1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の液体を取り出し、n-ブチルホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤の分散液であるD6液を得た。
【0078】
D6液にシリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR-300)を8.80g添加し30分間撹拌して、n-ブチルホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含有する比較例2に係る光吸収性組成物を得た。比較例2に係る光吸収性組成物において、リン酸エステル化合物の含有量に対するn-ブチルホスホン酸の含有量の質量比は0.582であり、銅イオンの含有量に対するn-ブチルホスホン酸の含有量のモル比は0.811であった。
【0079】
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)の一方の主面の中心部の40mm×40mmの範囲にディスペンサを用いて比較例2に係る光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成した。得られた塗膜を室温で十分に乾燥させた後、オーブンに入れて45℃で2時間、85℃で30分間の熱処理行い溶媒を揮発させた。さらに125℃で3時間、150℃で1時間、170℃で3時間の焼成処理を行って十分に塗膜を硬化させた。このようにして、比較例2に係る光吸収膜を形成し、比較例2に係る光学フィルタを得た。
【0080】
<使用材料の添加量>
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、及び比較例2に係る光吸収性組成物の調製に使用した材料の添加量を表1に示す。加えて、各光吸収性組成物における、リン酸エステルの含有量に対するホスホン酸の含有量の質量基準の比と、銅イオンの含有量に対するホスホン酸の含有量の物質量基準の比とを表1に示す。
【0081】
<透過率スペクトル測定>
紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製、製品名:V-670)を用いて、各実施例及び各比較例に係る光学フィルタの0°の入射角における透過率スペクトルを測定した。実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、及び比較例2に係る光学フィルタの透過率スペクトルをそれぞれ
図3、
図4、
図5、
図6、及び
図7に示す。また、
図3~7から読み取った透過率に関する特性を表2に示す。
【0082】
<厚み測定>
レーザー変位計(キーエンス社製、製品名:LK-H008)を用いて、光学フィルタの表面との距離を測定し、透明ガラス基板の厚みを差し引くことによって、光吸収膜の厚みを測定した、結果を表2に示す。
【0083】
図3~5並びに表2に示す通り、実施例1~3に係る光学フィルタは、透過率スペクトルに関し、上記の(I)~(VII)のすべての条件を満たしていた。加えて、透明ガラス基板の透過率特性を考慮すると、実施例1~3に係る光吸収膜は、上記の(i)~(vii)のすべての条件を満たすことが示唆された。一方、比較例1に係る光学フィルタは、上記の(II)の条件を満たしていなかった。また、比較例2に係る光学フィルタは、上記の(I)、(II)、及び(IV)の条件を満たしていなかった。
【0084】
さらに、実施例1~3に係る光学フィルタは、透明ガラス基板から光吸収膜をはがして、光吸収膜のみからなる光学フィルタとして用いることができる。
図8に透明ガラス基板の透過率スペクトルを示す。透明ガラス基板の透過率スペクトルは波長約350nm以上の範囲では、ほとんど吸収がない(透過率が92%前後であるのは、表面のフレネル反射による低下である)ため、光吸収膜のみからなる光学フィルタについても上記の(I)~(VII)の条件を満たし得ることが示唆される。
【0085】
透明ガラス基板から光吸収膜を剥がすことを企図する場合は、これに限られないが、光吸収性組成物を透明ガラス基板上に塗布する前に、フッ素化合物などを含有する剥離剤または離型剤などを塗布しておくことなど公知の方法を使用できる。このような作業を前もって施すことにより剥離作業が容易になる。さらに、光吸収膜のみを光学フィルタとして提供する場合は、これらに限られないが、例えば金属や樹脂、さらにはフッ素含有樹脂などを塗膜形成のための基材として用いることが可能である。
【0086】
さらに、光吸収膜、光吸収膜が形成された透明基板上に反射防止膜を形成することで、所定の波長の範囲(例えば可視光域)の透過率を高めることができることも当業者の慣用的な技術である。反射防止膜は、MgF2やSiO2などの低屈折率材料からなる層や、低屈折率の材料からなる層とTiO2などの高屈折率材料からなる層との積層からなる構成であってもよく、誘電体多層膜であってもよい。このような反射防止膜は、真空蒸着やスパッタ法などの物理的な手段や、CVD法やゾルゲルプロセスによる化学的な手段によって形成される。
【0087】
また、本発明に係る光吸収膜は、CuやCoなどの着色性の成分を含有するリン酸塩ガラスや弗燐酸塩ガラスを基板として形成する。これらの基板としては例えば赤外線吸収性ガラスなどである。光吸収膜が形成された赤外線吸収性ガラスを使用する場合は、双方の光吸収性やスペクトルを調整して、所望のスペクトルを備える光吸収性フィルタを得ることができる。
【0088】
本発明に係る光吸収膜は、例えば二枚の複数の板状のガラスに挟み込んで光学フィルタとして使用する。光学フィルタの剛性や機械的強度が向上し、さらに主面が硬質であるのでキズ防止などにメリットがある。特に比較的柔軟性の高い硬化性樹脂をバインダーやマトリクスとして用いた場合は、このような観点において得られるメリットが大きい。
【0089】
【0090】