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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】硫化物組成物の使用
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/075 20210101AFI20231206BHJP
   B01J 27/043 20060101ALI20231206BHJP
   B01J 27/057 20060101ALI20231206BHJP
   B01J 27/049 20060101ALI20231206BHJP
   C25B 11/047 20210101ALI20231206BHJP
   C25B 11/054 20210101ALI20231206BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20231206BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20231206BHJP
【FI】
C25B11/075
B01J27/043 M
B01J27/057 M
B01J27/049 M
C25B11/047
C25B11/054
C25B1/04
C25B9/00 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021549468
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-19
(86)【国際出願番号】 EP2020054633
(87)【国際公開番号】W WO2020169806
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】19158640.3
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518138893
【氏名又は名称】トリボテック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100204582
【弁理士】
【氏名又は名称】大栗 由美
(72)【発明者】
【氏名】ヘンセン,ラース
(72)【発明者】
【氏名】アプフェル,ウルフ-ペーター
(72)【発明者】
【氏名】スミアルコウスキー,マティアス
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/207156(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108380224(CN,A)
【文献】"FeCoNi sulphide-derived nanodots as electrocatalysts for efficient oxygen evolution reaction",Functional Materials Letters,2018年,Vol. 11, No. 3,p.1850058-1 - 1850058-6
【文献】"Crystal chemistry of natural pentlandites",Canadian Mineralogist,1973年,Vol.12, No.3,p.178-187
【文献】"Pentlandite rocks as sustainable and stable efficient electrocatalysts for hydrogen generation",Nature communications,2016年,Vol.7, article number: 12269,p.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B11/00-11/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】

Fe9-a-b-cNiCo8-dSe
[式中、
Mは、イオン状態において70~92pmの範囲の有効イオン半径を有する1種又は複数の元素を表し、
aは、2.5≦a≦3.5の範囲内の数であり、
bは、1.5≦b≦5.0の範囲内の数であり、
cは、0.0≦c≦2.0の範囲内の数であり、
dは、0.0≦d≦4.0の範囲内の数であり、
a、b、及びcの和は5≦a+b+c≦8の範囲内である]
の組成物であって、90wt.%以上が硫鉄ニッケル鉱相である、組成物の、電極触媒水分解における使用。
【請求項2】
水素発生反応における、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
Mが存在しない、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
組成物が、
FeNiCo
FeCoNi
FeCoNi
FeCoNi
FeNiCoSe
FeNiCoSe
及びそれらの混合物
からなる群から選択される、請求項に記載の使用。
【請求項5】
Mが存在する、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項6】
Mが、Nb、Cu、Mn、又はCr、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項に記載の使用。
【請求項7】
Mが、Mn、及びCr、並びにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
Mが、Crである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
組成物が、
CrFe2.5Co2.5Ni
MnFe2.5Co2.5Ni
Mn0.25Fe2.875Co2.875Ni
NbFe2.5Co2.5Ni
及びそれらの混合物
からなる群から選択される、請求項に記載の使用。
【請求項10】
組成物が、-10mA/cmの電流密度において、328mV以下水素発生反応(HER)の過電圧を示すことを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
過電圧が300mV以下である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の式Iの組成物を含む、電極。
【請求項13】
-10mA/cmの電流密度において、328mV以下の、水素発生反応(HER)の過電圧を示すことを特徴とする、請求項12に記載の電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒水分解のための硫化物組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は主に、水蒸気メタン改質により天然ガスから製造される。さらなる化石原料は他の炭化水素及び石炭である(例えばJohn A.Turner、Sustainable Hydrogen Production、Science、2004年、305巻、972~974を参照)。水素製造の持続可能な出発物質はバイオマス又は水である。出発物質としての水を使用した、様々な製造方法、例えば電気分解、熱分解、及び光電解がある。中程度の温度において2つの異なるタイプの電解装置:アルカリ電解装置及びプロトン交換膜(PEM)電解装置がある(例えばJamie D.Holladay、An overview of hydrogen production technologies、Catalysis Today、2009年、139、244~260を参照)。
【0003】
市販のPEM電解装置では、水素発生反応(HER)の電極触媒として白金を使用する(例えばPeter C.K.Vesborg、Recent Development in Hydrogen Evolution Reaction Catalysts and Their Practical Implementation、The Journal of Physical Chemistry Letters、2015年、6、951~957を参照)。
【0004】
例えば、EP3222752A1は、水から水素及び酸素を生成させる方法であって、可逆水素電極に対して+1.23ボルトを超える電位で酸素発生反応を触媒することが可能な電解装置アノード触媒を含む膜電極組立体を用意するステップであり、電解装置アノード触媒がPt及びIrを任意の順番でそれぞれ含む複数の交互層を自身の上に有するナノ構造ウィスカーを含み、膜電極組立体がカソードをさらに含む、ステップと;電解装置アノード触媒と接触する水を用意するステップと;膜電極組立体に十分な電流を伴う電位を与えて水の少なくとも一部をカソード及びアノード上でそれぞれ水素及び酸素へ変換するステップとを含む、方法を記載している。
【0005】
HERのための白金フリーの電極触媒を提供する努力が既になされてきた。特に金属硫化物、金属炭化物、金属セレン化物、金属窒化物、及び金属リン化物はこの反応において興味深い特性を示す(例えばXiaoxin Zou、Noble metal-free hydrogen evolution catalysts for water splitting、Chem.Soc.Rev.2015年、44、5148~5180を参照)。
【0006】
WO2017/062736A1は、電極触媒用途の構造化二硫化モリブデン材料を記載している。
【0007】
WO2018/098451A1は、水素発生反応のための遷移金属カルコゲナイド膜を含む触媒を開示している。
【0008】
US2015/0259810A1は、水素発生反応触媒を含むデバイスについて特許請求している。触媒は、ナノ粒子としての遷移金属リン化物、第一列遷移金属硫化物、及び遷移金属ヒ化物からなる群から選択される少なくとも1つの成分、特にCoPを含む。
【0009】
CN105132941Aは、モリブデン二セレン化物/カーボンブラック複合材の水素発生電極触媒材料及びその調製方法について特許請求している。
【0010】
WO2015/021019A1は、水素発生反応を促進するための触媒であって、触媒が式M’M’’[式中、M’はAg、Al、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、In、Li、Mg、Mn、Na、Ni、Sc、Ti、V、Y、及びZn、並びにそれらの混合物からなる群から選択され;M’’はHf、Mo、Nb、Re、Ru、Ta、W、及びZr、並びにそれらの混合物からなる群から選択され;xは0~1の数であり;yは1~2の数であり;zは1.8超2.2未満の数である]を有する金属窒化物を含み;金属窒化物が三角柱型配位のM’’金属と正八面体配位のM’又はM’及びM’’金属との交互層を有する混合最密充填構造の2つの化学式単位を含む4層の積層配列を有する六角格子を含む、触媒について特許請求している。
【0011】
EP2377971A1は、あらゆるpH値で活性を有するアモルファス遷移金属硫化物膜又は固体からなる、プロトンを還元してHを生成させるための電極触媒を記載している。さらにMoS及びWSが考えられる遷移金属硫化物として挙げられる。
【0012】
鉄-ニッケル-硫鉄ニッケル鉱がHER用の興味深い組成物として見出されている(Konkenaら、「Pentlandite rocks as sustainable and stable efficient electrocatalysts for hydrogen generation」、Nature Communication 2016年、7、記事番号12269を参照)。
【0013】
Kleinら((表A2)「Chemical composition of Pentlandite of ODP holes 209-1268A,209-1270D,209-1271B and 209-1274A」;2010年)、Schroeckeら(「Mineralogie: Ein Lehrbuch Auf Systematischer Grundlage」、137頁、1981年)、Mineral Data Publishing(「Pentlandite」、2001年)、及びRajamaniら(「Crystal Chemistry of Natural Pentlandites」、Canadian Mineralogist、12巻、178~187頁、1973年)は、天然に存在する硫鉄ニッケル鉱を開示している。
【0014】
Knopら(「Chalcogenides of the Transition Elements」、Can.J.Chem.、39巻、1961年)は、合成によって製造されるFeCoNiS-硫鉄ニッケル鉱を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
最新技術において開示される電極触媒水分解用の組成物は、触媒性能、硫黄化合物に対する耐性、触媒活性の安定性、及び/又はスタート-ストップ特性の要件をすべて満たしているわけではない。したがって、本発明の目的は、最新の材料と比較してより高い電流密度を有し、硫黄化合物に対するより良好な耐性を有し、より良好なスタート-ストップ特性を有するHER用の組成物の新規の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
一態様において、本発明は、式
Fe9-a-b-cNiCo8-dSe
[式中、
Mは、イオン状態において70~92pmの範囲の有効イオン半径を有する1種又は複数の元素を表し、
aは、2.5≦a≦3.5、より好ましくは2.7≦a≦3.3の範囲内の数であり、
bは、1.5≦b≦5.0、より好ましくは1.5≦b≦4.0、最も好ましくは2.5≦b≦3.5の範囲内の数であり、
cは、0.0≦c≦2.0、より好ましくは0.0≦c≦1.0の範囲内の数であり、
dは、0.0≦d≦4.0、より好ましくは0.0≦d≦1.0の範囲内の数であり、
a、b、及びcの和は5≦a+b+c≦8の範囲内である]
の組成物であって、90wt.%以上が硫鉄ニッケル鉱相である、組成物の、電極触媒水分解における、好ましくは水素発生反応における使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】0.5M硫酸中、室温で、RHEに対して0~-0.65Vのスキャン範囲で得られる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
図1B】0.5M硫酸中、室温で、RHEに対して0~-0.65Vのスキャン範囲で得られる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
図1C】0.5M硫酸中、室温で、RHEに対して0~-0.65Vのスキャン範囲で得られる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
図1D】0.5M硫酸中、室温で、RHEに対して0~-0.65Vのスキャン範囲で得られる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
図1E】0.5M硫酸中、室温で、RHEに対して0~-0.65Vのスキャン範囲で得られる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
図2】Pt(比較例6)及びFeCoNi電極(実施例1)についての、20時間、20℃及び60℃における、RHEに対して-0.5Vでの定電位クーロメトリー測定の結果を示す図である。
図3A】白金(比較例6)及びFeCoNi(実施例1)について、20時間の電気分解の前後で、20℃(A)及び60℃(B)で行われる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
図3B】白金(比較例6)及びFeCoNi(実施例1)について、20時間の電気分解の前後で、20℃(A)及び60℃(B)で行われる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
図4】FeCoNi(実施例1)及び白金(比較例6)について、72時間にわたり、60℃、RHEに対して-304mVで測定される、スタート及びストップモードの定電位クーロメトリーを示す図である。
図5】20時間にわたり、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下での定電位クーロメトリーを示す図である。
図6A】20時間の電気分解の前後で、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下で行われる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
図6B】20時間の電気分解の前後で、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下で行われる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
図7A】本発明及び比較例に従って使用される組成物の粉末X線(回折パターン、(Cu-Kα線))を示す図である。
図7B】本発明及び比較例に従って使用される組成物の粉末X線(回折パターン、(Cu-Kα線))を示す図である。
図7C】本発明及び比較例に従って使用される組成物の粉末X線(回折パターン、(Cu-Kα線))を示す図である。
図7D】本発明及び比較例に従って使用される組成物の粉末X線(回折パターン、(Cu-Kα線))を示す図である。
図7E】本発明及び比較例に従って使用される組成物の粉末X線(回折パターン、(Cu-Kα線))を示す図である。
図8】本発明及び比較例に従って使用される組成物により行われる試験において採用される、電気化学セルの断面図である。
図9A】72時間にわたり、60℃、RHEに対して-350mVで測定される、スタート及びストップモードの定電位クーロメトリーを示す図である。
図9B】72時間にわたり、60℃、RHEに対して-350mVで測定される、スタート及びストップモードの定電位クーロメトリーを示す図である。
図9C】72時間にわたり、60℃、RHEに対して-350mVで測定される、スタート及びストップモードの定電位クーロメトリーを示す図である。
図9D】72時間にわたり、60℃、RHEに対して-350mVで測定される、スタート及びストップモードの定電位クーロメトリーを示す図である。
図9E】72時間にわたり、60℃、RHEに対して-350mVで測定される、スタート及びストップモードの定電位クーロメトリーを示す図である。
図10】20時間にわたり、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下での定電位クーロメトリーを示す図である。
図11】20時間の電気分解の前後で、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下で行われる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
図12】20時間にわたり、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下での定電位クーロメトリーを示す図である。
図13】20時間の電気分解の前後で、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下で行われる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
図14】20時間にわたり、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下での定電位クーロメトリーを示す図である。
図15】20時間の電気分解の前後で、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下で行われる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
図16】20時間の電気分解の前後で、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下で行われる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
図17A】72時間にわたり、60℃、RHEに対して-350mVで測定される、スタート及びストップモードの定電位クーロメトリーを示す図である。
図17B】72時間にわたり、60℃、RHEに対して-350mVで測定される、スタート及びストップモードの定電位クーロメトリーを示す図である。
図17C】72時間にわたり、60℃、RHEに対して-350mVで測定される、スタート及びストップモードの定電位クーロメトリーを示す図である。
図17D】72時間にわたり、60℃、RHEに対して-350mVで測定される、スタート及びストップモードの定電位クーロメトリーを示す図である。
図18】20時間にわたり、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下での定電位クーロメトリーを示す図である。
図19A】20時間の電気分解の前後で、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下で行われる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
図19B】20時間の電気分解の前後で、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下で行われる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
図20】20時間にわたり、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下での定電位クーロメトリーを示す図である。
図21】20時間の電気分解の前後で、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下で行われる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
図22】20時間にわたり、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下での定電位クーロメトリーを示す図である。
図23】20時間の電気分解の前後で、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下で行われる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
図24】20時間の電気分解の前後で、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下で行われる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
図25】20時間の電気分解の前後で、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下で行われる線形掃引ボルタモグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
驚くことに、Fe,Ni-硫鉄ニッケル鉱へのCoの導入によって、本発明に従って使用される組成物が最新の硫鉄ニッケル鉱又は他の白金族金属(PGM)フリー材料と比較してHERにおいて低い過電圧を示すことが分かった。Fe2+、Ni2+、又はCo2+の有効イオン半径に匹敵する有効イオン半径を有するさらなる金属を組成物に加えることができることも分かった。さらに、驚くことに、Se2-はS2-と比較して異なるイオン半径を有する(198pm対184pm)にもかかわらず、硫鉄ニッケル鉱相の分子構造の完全性、電極触媒活性、又は安定性を失うことなく、最大で50%までのSをSeによって置き換えることが可能であることが分かった。
【0019】
金属イオンの有効イオン半径は、Hollemann、Wieberg、Lehrbuch der Anorganischen Chemie、Verlag:De Gruyter;第102版(2007)に記載の方法に従って決定することができる。
【0020】
本発明に従って使用される組成物は、数時間の電気分解後に白金系材料よりも高い電流密度を示し、水素製造の間に著しく活性を失わない。また、本発明に従って使用される組成物により製造される電極は、白金電極と比較して著しく良好なスタート/ストップ挙動を有する。最後に、本発明に従って使用される組成物は硫黄被毒に対して安定である。
【0021】
未改質硫鉄ニッケル鉱の結晶相は、例えばA.Pearson、M.Buerger、Am.Mineral.1956年、41、804~805に記載されている。本発明に従って使用される組成物において、組成物の90wt.%以上は硫鉄ニッケル鉱相である。
【0022】
本発明の一実施形態において、Mは式Iの組成物中に存在しない。
【0023】
この実施形態において、組成物は、
FeNiCo
FeCoNi
FeCoNi
FeCoNi
FeNiCoSe
FeNiCoSe
及びそれらの混合物
からなる群から選択されてもよい。
【0024】
本発明の別の実施形態において、Mは式Iの組成物中に存在する。
【0025】
Mは好ましくは、Fe2+、Ni2+、又はCo2+の有効イオン半径に匹敵する有効イオン半径を有する。
【0026】
特に、Mは、Nb、Cu、Mn、又はCr、及びそれらの混合物、より好ましくはMn、及びCr、並びにそれらの混合物からなる群から選択されてもよく、最も好ましくはCrであってもよい。
【0027】
特に、組成物は、
CrFe2.5Co2.5Ni
MnFe2.5Co2.5Ni
Mn0.25Fe2.875Co2.875Ni
NbFe2.5Co2.5Ni
及びそれらの混合物
からなる群から選択されてもよい。
【0028】
本発明に従って使用される組成物は好ましくは、-10mA/cmの電流密度において、特に下記に詳細に示す試験条件に従い、328mV以下、好ましくは300mV以下の、水素発生反応(HER)の過電圧を示すことを特徴とする。
【0029】
さらなる態様において、本発明に従って使用される組成物を含む電極が提供される。
【0030】
本発明による電極は、-10mA/cmの電流密度において、特に下記に詳細に示す試験条件に従い、328mV以下、好ましくは300mV以下の、水素発生反応(HER)の過電圧を示すことを特徴とする。
【0031】
さらなる態様において、本発明は、本発明に従って使用される組成物の調製のための様々な方法を提供する。第1の方法(以下の方法#1)は、組成物が酸素の排除下における真空中での熱合成において合成されることを特徴とする。第2の方法(方法#2)は、組成物が酸素の排除下における不活性ガス下での熱合成において合成されることを特徴とする。本発明に従って使用されるセレンフリーの組成物について、2つのさらなる方法が適切である。これらの方法の1つは、組成物が共沈法及び後処理ステップにより合成されることを特徴とする(方法#3)。他方の方法(方法#4)は、組成物がゾル-ゲル法及び後処理ステップにより合成されることを特徴とする。
【0032】
本発明に従って使用される組成物の調製のための、酸素の排除下における熱合成は、PiontekらACS Catalysis 2018年、8、987~996に記載される熱合成経路に類似した方法である。
【0033】
より詳細には、酸素の排除下における真空中での熱合成(方法#1)は以下のステップを含む:
a)Fe粉末、Ni粉末、Co粉末、S粉末、及び任意選択によりSe粉末、及び/又はM粉末の均質な混合物を混合又は粉砕により調製するステップ。最終混合物の平均粒径は好ましくは100μm未満である。
b)ステップa)で得られる混合物を密閉容器中に移し、30mbar~10-15mbar、好ましくは1mbar~10-7mbarの範囲の真空まで排気するステップ。
c)密閉容器を0.1~20K min-1の速度により600~1100℃の温度範囲で加熱し、1~120時間維持するステップ、好ましくは2~5K min-1の速度により、700~1100℃で1~10時間維持する、より好ましくは2~5K min-1の速度により600~800℃の第1の温度で3~10時間及び900~1100℃の第2の温度で10~20時間の2つの維持温度で維持する、最も好ましくは、700℃の第1の温度で3時間及び1000℃の第2の温度で10時間の2つの維持温度で維持するステップ。
【0034】
より詳細には、酸素の排除下における不活性ガス下での熱合成(方法#2)は、以下のステップを含む:
a)Fe粉末、Ni粉末、Co粉末、S粉末、及び任意選択によりSe粉末、及び/又はM粉末の均質な混合物を混合又は粉砕により調製するステップ。最終混合物の平均粒径は100μm未満でなければならない。
b)ステップa)で得られる混合物を密閉容器中に移し、空気を不活性ガスにより置換するステップ。
不活性ガスは、窒素、二酸化炭素、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、又はそれらの混合物、好ましくは窒素、二酸化炭素、及びアルゴン、より好ましくは窒素及びアルゴン、最も好ましくは窒素であってもよい。
c)密閉容器を0.1~20K min-1の速度により600~1100℃の温度範囲で加熱し、1~120時間維持するステップ、好ましくは2~5K min-1の速度により700~1100℃で1~10時間維持する、より好ましくは2~5K min-1の速度により600~800℃の第1の温度で3~10時間及び900~1100℃の第2の温度で10~20時間の2つの維持温度で維持する、最も好ましくは、700℃の第1の温度で3時間及び1000℃の第2の温度で10時間の2つの維持温度で維持するステップ。
【0035】
より詳細には、後処理ステップを伴う共沈法(方法#3)は、以下のステップを含む:
a)鉄塩、ニッケル塩、コバルト塩及び任意選択により式Iの化合物で定義されるMの1種又は複数の塩、及び任意選択により無機酸の、水中溶液を調製するステップ、
b)水中の1種又は複数の硫化物源を、任意選択により無機塩基と共に、1~120分、好ましくは10~60分にわたり添加するステップ。
c)沈殿物をろ過し水により洗浄するステップ、
d)60~120℃の温度範囲で1~120時間、好ましくは80~100℃で3~15時間乾燥させる、又は任意選択により凍結乾燥させるステップ、
e)水素及び硫化水素の雰囲気下で、沈殿物を0.1~20K min-1の速度により200~500℃の温度範囲で1~120時間、好ましくは2~5K min-1の速度により250~400℃で2~10時間加熱するステップ、
f)並びに、任意選択により不活性ガスで、例えばN又はArで希釈された水素の雰囲気下で、任意選択により、試料を0.5~20時間、好ましくは2~5時間加熱するステップ。
【0036】
この方法において、鉄、ニッケル、コバルト、及びMの適切な塩としては、例えば硝酸塩、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物、及びそれらの混合物、好ましくは硝酸塩、硫酸塩、及び酢酸塩、並びにそれらの混合物、最も好ましくは硝酸塩が挙げられる。
【0037】
この方法において、ステップa)の無機酸としては、適切な無機酸、例えば硝酸、硫酸、塩酸、及びそれらの混合物、好ましくは硝酸、及び硫酸、並びにそれらの混合物、最も好ましくは硝酸が挙げられる。
【0038】
この方法において、適切な硫化物源としては、硫化物の塩、例えば硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、硫化アンモニウム、硫化水素アンモニウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、及び硫化水素、好ましくは硫化ナトリウム、硫化水素、及び硫化アンモニウム、より好ましくは硫化ナトリウム及び硫化アンモニウム、最も好ましくは硫化ナトリウムが挙げられる。
【0039】
この方法において、ステップb)の無機塩基としては、適切な無機塩基、例えば水酸化ナトリウム、酸化ナトリウム、アンモニア、酸化カリウム、水酸化カリウム、好ましくは水酸化ナトリウム、酸化ナトリウム、及びアンモニア、より好ましくは水酸化ナトリウム及びアンモニア、最も好ましくは水酸化ナトリウムが挙げられる。
【0040】
水素及び硫化水素の混合物は、95:5~0:100、好ましくは90:10~50:50、より好ましくは90:10~80:20、例えば85:15の比であってもよい。この混合物は、不活性ガス、例えばアルゴン、窒素で希釈してもよい。
【0041】
後処理ステップを伴うゾル-ゲル法(方法#4)は、以下のステップを含む:
a)鉄塩、ニッケル塩、コバルト塩、及び任意選択により式Iの化合物で定義されるMの1種又は複数の塩、及び1種又は複数のポリマー前駆体、及び任意選択により1種又は複数の錯化剤の、水中溶液を調製するステップ。
b)任意選択により、ステップa)で得られる溶液へ無機酸を添加するステップ。
c)粘性ゲルが生成するまで溶液を90℃で1~120時間加熱するステップ。
d)300~700℃の温度範囲で1~120時間、好ましくは400~500℃の温度範囲で2~20時間、ゲルを空気中で焼成するステップ。
e)200~500℃の温度範囲で1~120時間、好ましくは250~400℃の温度範囲で2~10時間、水素及び硫化水素の雰囲気下で、混合酸化物を加熱するステップ。
f)並びに、任意選択により不活性ガスで、例えばN又はArで希釈された水素の雰囲気下で、任意選択により、試料を0.5~20時間、好ましくは2~5時間加熱するステップ。
【0042】
この方法において、錯化剤はポリマー前駆体としても機能し得る。
【0043】
この方法において、適切なポリマー前駆体は、ポリカルボン酸、ヒドロキシルカルボン酸、多価アルコール、及びそれらの混合物、好ましくは多価アルコール、及びポリカルボン酸、並びにそれらの混合物、より好ましくはポリカルボン酸、最も好ましくはクエン酸を含む。
【0044】
この方法において、適切な錯化剤は、有機化合物、例えば有機酸、ケトン、アルデヒド、アルコール、アミン、及びそれらの混合物、好ましくはポリカルボン酸、より好ましくはクエン酸及びシュウ酸、最も好ましくはクエン酸を含む。
【0045】
この方法において、鉄、ニッケル、コバルト、及びMの適切な塩としては、これらの元素の塩、例えば硝酸塩、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物、及びそれらの混合物、好ましくは硝酸塩、硫酸塩、及び酢酸塩、並びにそれらの混合物、最も好ましくは硝酸塩が挙げられる。
【0046】
この方法において、ステップa)の無機酸としては、適切な無機酸、例えば硝酸、硫酸、塩酸、及びそれらの混合物、好ましくは硝酸、及び硫酸、並びにそれらの混合物、最も好ましくは硝酸が挙げられる。
【実施例
【0047】
実施例1-方法#1による
FeCoNi
鉄粉末(0.43g、Sigma-Aldrich、99wt.%以上)、コバルト粉末(0.46g、ABCR、99.8wt.%)、ニッケル粉末(0.45g、ABCR、99.9wt.%)、及び硫黄(0.66g、Sigma-Aldrich、99.5wt.%~100.5wt.%)を、それらの元素の視覚的に均質な混合物が得られるまで、10分間混合した。元素の均質な混合物を石英アンプル(10mm直径、全体積:15mL)に充填し、これを4×10-2mbar未満の圧力で16時間排気し、次いで真空下で密封した。試料をオーブン内に置き、4.5K min-1の加熱速度で700℃に加熱した。容器を損傷させずに硫黄を金属混合物と反応させるために等温線を3時間維持した後、温度を1000℃まで上昇させて(加熱速度3.33K min-1)拡散を増大させた。次いで、試料をこの温度で10時間維持した。その後試料を室温まで冷却させた。
【0048】
実施例2~10
実施例1に記載される方法と同様に、以下の組成物を合成した。
【0049】
【表1a】
【0050】
【表1b】
【0051】
実施例11(方法#2による)
FeCoNi
鉄粉末(0.43g、Sigma-Aldrich、99wt.%以上)、コバルト粉末(0.46g、ABCR、99.8wt.%)、ニッケル粉末(0.45g、ABCR、99.9wt.%)、及び硫黄(0.66g、Sigma-Aldrich、99.5wt.%~100.5wt.%)を、それらの元素の視覚的に均質な混合物が得られるまで、10分間混合した。元素の均質な混合物を、石英アンプル(10mm直径、全体積:15mL)中に充填し、これを4×10-2mbar未満の圧力で排気し、アルゴンを充填し、次いで静的アルゴン雰囲気下で密封した。試料をオーブン内に置き、4.5K min-1の加熱速度で700℃まで加熱した。等温線を3時間維持した後、温度を1000℃まで上昇させた(加熱速度3.33K min-1)。次いで、試料をこの温度で10時間維持した。その後試料を室温まで冷却させた。
【0052】
実施例12(方法#3による)
FeCoNi
硝酸鉄(III)(Fe(NO・9HO、1.35g)、硝酸ニッケル(II)(Ni(NO・6HO、0.97g)、及び硝酸コバルト(II)(Co(NO・6HO、0.97g)を300mLの水に溶解させた。別の容器内で、硫化ナトリウム(NaS・9HO、4.80g)を200mLの水に溶解させた。硫化物溶液を強撹拌下、30分以内で硝酸塩溶液へ添加し、黒色沈殿物を形成させた。黒色沈殿物をろ過し、200mLの水で洗浄した。次いで残渣を凍結乾燥させた。次いでN流中で黒色粉末を40℃まで加熱し(10K min-1)、この温度で10分間維持した。その後、水素(85vol.%)/硫化水素(15vol.%)流を当てながら温度を300℃まで上昇させた(10K min-1)。そのような条件において4時間後、純粋な水素ガスを連続して4時間、試料に当てた。窒素の低温(25℃)ガス流を当てることにより、反応を急速に停止させた。実験全体を通して、ガス流を40mL min-1に調整し、一定に維持した。
【0053】
実施例13(方法#3による)
FeCoNi
硝酸鉄(III)(Fe(NO・9HO、1.35g)、硝酸ニッケル(II)(Ni(NO・6HO、0.97g)、及び硝酸コバルト(II)(Co(NO・6HO、0.97g)を300mLの水に溶解させた。別の容器内で、硫化アンモニウム((NHS(20wt.%、HO中)、20mmol、6.81g)を200mLの水に溶解させた。硫化物溶液を強撹拌下、30分以内で硝酸塩溶液へ添加し、黒色沈殿物を形成させた。黒色沈殿物をろ過し、200mLの水で洗浄した。次いで残渣を凍結乾燥させた。次いでN流中で黒色粉末を40℃まで加熱し(10K min-1)、この温度で10分間維持した。その後、水素(85vol.%)/硫化水素(15vol.%)流を当てながら温度を300℃まで上昇させた(10K min-1)。そのような条件において4時間後、純粋な水素ガスを連続して4時間、試料に当てた。窒素の低温(25℃)ガス流を当てることにより、反応を急速に停止させた。実験全体を通して、ガス流を40mL min-1に調整し、一定に維持した。
【0054】
実施例14(方法#4による)
FeCoNi
硝酸鉄(II)(Fe(NO・9HO、2.02g)、硝酸コバルト(II)(Co(NO・6HO、1.46g)、及び硝酸ニッケル(II)(Ni(NO・6HO、1.45g)を、2.88gのクエン酸を含有する15mLの水に溶解させた。溶液を90℃に2~6時間加熱し、粘性ゲルを形成させた。得られるゲルを500℃で18時間焼成し、得られる黒色固体を、オーブン内に置かれた石英ガラスホルダーに充填した。次いでオーブンを不活性ガス(N)により40℃で10分間パージした。次いでガス流を水素(85vol.%)及び硫化水素(15vol.%)の混合物に変え、10K min-1の加熱速度で温度を300℃まで上昇させた。水素(85vol.%)及び硫化水素(15vol.%)により300℃で15分間試料をパージした後、純粋な水素を300℃で4時間装置に通してパージした。その後、オーブンのスイッチを切り、試料を低温(25℃)のN流中で急速に冷却した。実験全体を通して、ガス流を40mL min-1に調整し、一定に維持した。
【0055】
比較例1
Fe4.5Ni4.5(PiontekらACS Catalysis 2018年、8、987~996)
鉄金属粉末(1.75g、Sigma-Aldrich、99wt.%以上)、ニッケル(1.75g、ABCR、99.9wt.%)、及び硫黄(1.70g、Sigma-Aldrich、99.5wt.%~100.5wt.%)を、元素の視覚的に均質な混合物が得られるまで、10分間混合した。この混合物を10mm石英管に入れた。その後、石英管を静的真空下で密封し、5℃ min-1で700℃まで加熱した。700℃での3時間のアニーリング後、温度を30分以内で1100℃まで上昇させた。1100℃で10時間後、混合物を室温まで冷却させた。
【0056】
比較例2
Co
コバルト粉末(1.35g、ABCR、99.8wt.%)、及び硫黄(0.66g、Sigma-Aldrich、99.5wt.%~100.5wt.%)を、元素の視覚的に均質な混合物が得られるまで、10分間混合した。元素の均質な混合物を、石英アンプル(10mm直径、全体積:15mL)中に充填し、これを4×10-2mbar未満の圧力で16時間排気し次いで真空下で密封した。試料をオーブン内に置き、4.5K min-1の加熱速度で700℃まで加熱した。容器を損傷させずに硫黄を金属混合物と反応させるために等温線を3時間維持した後、温度を1000℃まで上昇させて(加熱速度3.33K min-1)拡散を増大させた。次いで、試料をこの温度で10時間維持した。その後試料を室温まで冷却させた。
【0057】
実施例1~10及び比較例1~2の電極調製
真鍮ロッドを有するオーダーメイドのテフロン(登録商標)ケーシングを電極(直径3mm)の接点として使用した。電極(50mg)を作成するのに使用されるそれぞれの材料を粉砕して微細粉末材料を得た。粉砕した粉末を圧縮器具(直径3mm)に充填し、粉砕した粉末を800kg/cmの最大重量力(weight force)でプレスした。二液型銀-エポキシド接着剤をテフロンケーシングの空洞の中にある真鍮ロッドに塗布して真鍮の支持体を電極材料と接続させた。次いでペレットをテフロンケーシングの中に押し込み、テフロンケーシングのあらゆる汚れを除去した。電圧計により真鍮ロッドとペレットとの間の接触を試験して適切な導電性を確認した。その後、電極を60℃で12時間保存して二液型接着剤を硬化させた。室温まで冷却した後、電極をサンドペーパー(20μm、14μm、3μm、及び1μmグリット)で研磨してテフロンケーシング内の光沢のある同一面の平面を得た。表面を脱イオン水で洗浄し周囲条件下で乾燥させた後、さらなる加工を行わずに電極を使用することができた。
【0058】
比較例3
MoSナノシート
バルク状MoS結晶を化学蒸気輸送法により合成した。典型的な合成において、Mo及びSの元素粉末を化学量論比(1:1)で混合し、石英管に挿入した。石英管を約10-6mbarまで排気し密封した。結晶生成を確実にするように、密封した石英管を800℃の管状炉内に2週間置いた。石英管を室温まで冷却し、生成した結晶を収集するために開封した。
【0059】
CTAB界面活性剤溶液(2mg/ml)中の5mg/mlの結晶を水中に分散させることによりこれらのMoS結晶を剥離させ、続いて100Wの超音波処理器において10時間超音波処理を行った。超音波処理後、分散液に分画遠心分離を施してサイズ分布を狭めた。典型的な方法において、分散液を1,000rpmで1時間遠心分離した。上清を分離し、2,000及び4,000rpmにおいてそれぞれ2時間、連続して遠心分離を施した。この段階(4,000rpm)でプロセスを終了した。沈降物を収集し、超音波処理下で水中に再分散させた。超音波処理後、分散液はフロキュレーションを生じることなく3か月安定であり、さらなる研究に使用された。電極の調製において、1リットル当たりMoS5gの濃度の水性懸濁液を調製し、続いて30分超音波処理を行った。5mlの体積のこの懸濁液を、0.126cmの幾何学的面積を有する磨いたガラス状炭素電極上に滴下コーティングし、空気中で室温にて乾燥させた。再現性のあるボルタモグラムが得られるまで、改質した電極に、Ag/AgCl/3M KClに対して-0.5~0.5Vの電位窓の連続電位サイクリングを施した。
【0060】
比較例4
NiSナノシート
NiSナノシートをワンステップ水熱法により合成した。典型的な方法において、4mmolの塩化ニッケル六水和物(NiCl・6HO)及び4mmolのNa・5HOを、30mlのmilliQ水が入ったビーカー中で混合し、1時間撹拌した。混合溶液を60mlのテフロン加工ステンレス鋼オートクレーブへ移し、180℃で24時間加熱した。沈殿物を遠心分離により回収し、エタノール及び水(1:2)混合物で繰り返し洗浄し、次いで乾燥させた。電極の調製において、1リットル当たりMoS 5g毎の濃度の水性懸濁液を調製し、続いて30分超音波処理を行った。5mlの体積のこの懸濁液を、0.126cmの幾何学的面積を有する磨いたガラス状炭素電極上に滴下コーティングし、空気中で室温にて乾燥させた。再現性のあるボルタモグラムが得られるまで、改質した電極に、Ag/AgCl/3M KClに対して-0.5~0.5Vの電位窓の連続電位サイクリングを施した。
【0061】
比較例5
FeSナノシート
FeSナノシートをワンステップ水熱法により合成した。典型的な方法において、4mmolの塩化第2鉄四水和物(FeCl・4HO)及び4mmolのNa・5HOを、30mlのmilliQ水が入ったビーカー中で混合し、1時間撹拌した。混合溶液を60mlのテフロン加工ステンレス鋼オートクレーブへ移し、180℃で24時間加熱した。沈殿物を遠心分離により回収し、エタノール及び水(1:2)混合物で繰り返し洗浄し、次いで乾燥させた。電極の調製において、1リットル当たりMoS 5gの濃度の水性懸濁液を調製し、続いて30分超音波処理を行った。5mlの体積のこの懸濁液を、0.126cmの幾何学的面積を有する磨いたガラス状炭素電極上に滴下コーティングし、空気中で室温にて乾燥させた。再現性のあるボルタモグラムが得られるまで、改質した電極に、Ag/AgCl/3M KClに対して-0.5~0.5Vの電位窓の連続電位サイクリングを施した。
【0062】
比較例6
Pt
真鍮ロッドを有するオーダーメイドのテフロンケーシングを電極(直径3mm)の接点として使用した。200mgの微細メッシュの白金ネット(99.99wt.%)を粉砕して微細粉末材料を得た。微細に粉砕した粉末を圧縮器具(直径3mm)に充填し、粉末を800kg/cmの最大重量力でプレスした。二液型銀-エポキシド接着剤をテフロンケーシングの空洞の中にある真鍮ロッドに塗布して真鍮の支持体を電極材料と接続させた。次いでペレットをテフロンケーシングの中に押し込み、テフロンケーシングのあらゆる汚れを除去した。電圧計により真鍮ロッドとペレットとの間の接触を試験して適切な導電性を確認した。その後、電極を60℃で12時間保存して二液型接着剤を硬化させた。室温まで冷却した後、電極をサンドペーパー(20μm、14μm、3μm、及び1μmグリット)で研磨してテフロンケーシング内の光沢のある同一面の平面を得た。グリッドを最初のステップで濃塩酸により洗浄し、その後脱イオン水により洗浄し、周囲条件下で乾燥させた。さらなる加工を行わずに電極を使用することができた。
【0063】
電気化学的試験の条件
触媒材料の電気化学的研究のために、それぞれの触媒をプレスしてペレットとし、特注の電極に組み込んだ。これには以下のステップが含まれる:
a)触媒材料(50mg)を粉砕して微細粉末材料とし、オーダーメイドの圧縮器具(直径3mm)に充填し、次いで800kg/cmの最大重量力でプレスした。
b)オーダーメイドのテフロンケーシングを電極(3mm直径)の接点としての真鍮ロッドと接触させた。銀-エポキシド接着剤(Polytec EC 151 L)をテフロンケーシングの空洞の中にある真鍮ロッドに塗布して真鍮の支持体を電極材料と接続させた。
c)ペレットをテフロンケーシングの中に押し込み、テフロンケーシングのあらゆる汚れを除去した。
d)電圧計(VOLTCRAFT VC840)により真鍮ロッドとペレットとの間の接触を試験して適切な導電性を確認した。
e)電極を60℃で12時間保存して二液型接着剤を硬化させた。
f)電極を室温まで冷却し、サンドペーパー(20μm、14μm、3μm、及び1μmグリット、3M Lapping Film Bogen 261X/262X)で研磨してテフロンケーシング内の光沢のある同一面の平面を得た。表面を脱イオン水(Millipore Milli-Q Academic Water Purification System)で洗浄し周囲条件下で乾燥させた後、さらなる加工を行わずに電極を使用することができた。
【0064】
実験は、作用電極として調製電極(Ageom.=0.071cm)を、参照電極としてAg/AgCl(飽和KCl又は3M KCl溶液)電極を、及び対電極としてPtワイヤー(直径1mm)又はPtグリッド(Ageom.=1.25cm)を使用して、標準的な三電極セットアップにより実行された。次いで、オーダーメイドの気密性H型セルに撹拌棒を備え付け、あらゆる電気化学的実験のために0.5M HSOからなる電解質を充填した。電解質は電極の電気化学的試験の間に交換しなかった。特に断りのない限り、すべての電位はERHE=EAg/AgCl+X+0.059pH(式中、X=0.197V(飽和KCl)又はX=0.210V(3M KCl))に従う、ERHE(RHE=可逆水素電極)を基準とする。使用されるポテンシオスタットはGamry Reference 600+ instrumentとした。
【0065】
触媒性能の測定
電極触媒実験を以下のステップにより行った。
a)電解質(0.5M HSO、25mL)を電気化学セルに加え、電極が溶液中に完全に浸漬されていることを確実にするように電極を調整した。
b)磁気撹拌(IKA Topolino)のスイッチを入れた。
c)サイクリックボルタンメトリー(CV)実験を行って観測できる電気化学的プロセスについて迅速に概要を得た。
d)CV実験を繰り返して0.2~-0.2Vの電位範囲において迅速で電気化学的な表面の浄化を可能にした。100mV/sのスキャン速度(非触媒電位領域)で実験を行い、サイクルの数を20に設定した。実験を開始する前に、GAMRY Reference 600ポテンシオスタット及び備え付けのソフトウェアルーチンを使用することにより、電気化学的セットアップのiR補償値を決定した。線形掃引ボルタンメトリー(LSV)実験の電位範囲をRHEに対して-0.2~-0.8V、スキャン速度を5mV/sに設定し、iR低下を実験に組み入れる。線形掃引実験を少なくとも3回繰り返して再現性を確保した。
【0066】
安定性試験及びガス分析
実施例に従って材料の安定性を判断するために、電極を長時間(少なくとも12時間)にわたって一定の電位で維持した(CPC実験)。電極をRHEに対して-0.71Vの一定の電位で、0.5M HSO中で評価した。さらに、同時にガス試料をヘッドスペースから収集した。この目的のために、電気化学セルを、熱伝導度検出器を備えたガスクロマトグラフ(GC;JASインジェクションシステムを有するAgilent system)に接続した。GCのインジェクションループに連続的に電解装置からのヘッドスペースを送り込んだ。アルゴン(10~20mL min-1)をキャリアガスとして使用して反応器及びGCインジェクションループをパージした。電気分解中に生成した水素ガスをこのようにして定量しファラデー効率を計算し、CPC実験の間の流れた電荷から得られる測定量と最大の理論上可能な量を相関づけた。
【0067】
スタート/ストップ挙動
再生可能エネルギーを扱う場合、電気化学的プロセスをスタート及びストップさせる能力は最大限に重要である。したがって、硫鉄ニッケル鉱電極のスタート/ストップ特性を試験した。この目的のために、低い過電圧(RHEに対して-350mV又はRHEに対して-304mV)を用いた上記で報告される長時間の実験(安定性試験を参照)を、決められた中断を入れながら行った(表2)。その後、同一の条件下で測定を自動的に再開した。硫鉄ニッケル鉱電極についての測定を同じ電極直径の白金電極と標準的に比較した。
【0068】
【表2】
【0069】
毒作用実験
小分子(例えばHS)による毒作用は、多くの触媒を適用不可能にするか又は出発物質の入念な精製を必要とするので、発明者らは通常の触媒毒の存在下でも安定な電極触媒として作用する硫鉄ニッケル鉱の適用可能性を調べた。したがって、HSの存在下で長時間の実験(上記の「安定性試験及びガス分析」の実験手順を参照)を行った。この目的のために、電解質を絶えずHSでバージし、全体の圧力を1.5barで維持した。
【0070】
特性決定
本発明に従って使用される組成物を、部分的にXRD、DSC、ICP-OES、及びSEM-EDXの観点から特性決定した。
【0071】
走査電子顕微鏡(SEM)のLEO(Zeiss)1530 Gemini FESEMを20kV(SEM)及び4.4kV(エネルギー分散型X線分光法、EDX)の電圧で操作した。
【0072】
Mo-Kα線(0.709Å)でHUBERからの回折計を使用して及びCu-Kα線(0.154Å)でBruker Advance D8を使用して、0.03°/sのステップサイズで3~50°の角度範囲においてスキャンし、粉末X線回折(PXRD)を行った。ブラッグの法則によりすべての反射位置をMo線からCu線へ変換した。
【0073】
すべての異なる試料におけるFe及びNiの組成を、CETAC ASX 520オートサンプラーを備えたThermo Scientific iCAP 6500 Duoによる誘導結合プラズマ発光分析(ICP-OES)によって決定した。iTEVAにおいてデータ収集を行った。3vol%の硝酸を含む二重脱イオン水(ddw)中で、5000~100ppb(6点)の間の範囲において、検量線を準備した。3vol%の金属フリーの硝酸を含むddw中で標準試料及び試料を新たに調製した。ノーガスモードで読み取りを行った。試料(1mg)を3mLの金属フリーの王水中で希釈し、55mLのTFM容器に入れ、CEM Mars Xpress microwaveにおいて温浸した(160℃、15分の傾斜、15分維持)。次いで二重脱イオン水を添加することにより、温浸した混合物を希釈して10mLとした。
【0074】
NETZSCH STA 449 F3Jupiterを使用して示差走査熱量測定法(DSC)により材料を調べた。およそ50mgの試料を密閉したコランダムるつぼに入れ、連続Nガス流中で、10K min-1で室温から1000℃まで、及び逆もまた同様に処理した。
【0075】
電気化学セル
別段の記載がない場合はセルの大部分はオーダーメイドであり、セルの断面図を示す図8を参照して以下で説明される。オーダーメイドの電気化学セル1は、2つのガラス区画2、3からなる。右側区画3は作用電極32及び参照電極(36)を保持する。左側区画2は対電極24を保持する。セル1は、部品をつなぐPTFEバンド(一般的な密封テープ)で任意選択により巻かれたオーダーメイドのアルミニウム膜ホルダー4を備えている。膜ホルダー4は、カソードをアノードスペースから隔てる膜5(Fumatech FUMASEP F-10100)を、2つのゴムリング(18×5mm)6により固定する。膜ホルダー4はセル区画2、3のガラスフランジ間に置かれ、アルミニウム保持デバイス(neoLab KF16 3-point clamb)はあらゆるものを定位置に保持している。電気化学セル1の区画2、3は、液体再循環冷却装置又は加熱装置により調節することができる。セル区画のためのオーダーメイドの電極ホルダーはめ込み物21、31はPEEKポリマーでできており、電極24、32、36、及び温度センサー(任意選択)を電解質中に配置するためのドリル穴を有する。オーダーメイドのPEEKスクリュー23、33、及び圧縮リング(図示せず)を使用して電極24、32、36、及び任意選択の温度センサーを定位置に保持する。さらなるドリル穴が任意選択のガスフラッシングデバイス22、34のために作られている。キャップはめ込み物は切り取り部を有するGL45 SCHOTT Cap 25、35(Duran接続システム)により定位置に保持される。
【0076】
結果
過電圧
表3は、本発明及び比較例に従って使用される組成物を用いて測定される電位をまとめている。負の値は、電位が可逆水素電極に対して測定されたという事実から生じる。
【0077】
【表3】
【0078】
表3は、本発明に従って使用される組成物が白金系触媒と比較してより高い過電圧を示すが、驚くことにそれらは大部分が別の最新の触媒(比較例1)と比較してより低い過電圧をHERにおいて示すことを例証している。
【0079】
図1A~1Eは、0.5Mの硫酸中、室温で、RHEに対して0~-0.65Vのスキャン範囲で得られる線形掃引ボルタモグラムである。X軸は電位をVで示し、Y軸は電流密度をmA cm-2で示す。
【0080】
図1A:実施例1(実線)、比較例1(破線)、比較例2(点線)、比較例3(一点鎖線)、比較例4(二点鎖線)、比較例5(短破線)、及び比較例6(短点線)。
【0081】
図1B:実施例1(実線)、実施例3(点線)、実施例4(一点鎖線)、及び比較例6(短点線)。
【0082】
図1C:実施例1(実線)、実施例5(二点鎖線)、実施例6(短破線)、及び比較例6(短点線)。
【0083】
図1D:実施例1(実線)、実施例11(破線)、実施例12/13(点線)、実施例14(一点鎖線)、及び比較例6(短点線)。
【0084】
図1E:実施例1(実線)、実施例7(破線)、比較例1(短破線)、及び比較例6(短点線)。
【0085】
数時間の電気分解後の電流密度
本発明に従って使用される組成物は、白金系触媒と比較してより高い過電圧をHERにおいて示すが、驚くことにそれらは数時間の電気分解後に白金系材料よりも高い電流密度を示す。より高い電流密度によって、定量的なファラデー効率でより多量の水素を製造することが可能である。したがって、これらの組成物を採用する工業的水素製造は、市販の触媒を用いる場合よりも効率的で安価である。
【0086】
図2は、Pt(比較例6)及びFeCoNi電極(実施例1)についての、20時間、20℃及び60℃における、RHEに対して-0.5Vでの定電位クーロメトリー測定の結果を示す。20℃(格子柄)及び60℃(四角)における実施例1、並びに20℃(三角)及び60℃(丸)における比較例6の曲線を示す。
【0087】
X軸は時間を時間単位で示し、Y軸は電流密度をmA cm-2で示す。
【0088】
水素製造中の活性レベル
最新の材料は、その新しい状態と比較して使用中に多くの活性を失う。驚くことに、本発明に従って使用される組成物により製造される電極は、図3で証明されるように、水素製造中に著しく活性を失うことはない。
【0089】
図3は、白金(比較例6)及びFeCoNi(実施例1)について、20時間の電気分解の前後で、20℃(A)及び60℃(B)で行われる線形掃引ボルタモグラムを示す。
【0090】
図3A:20℃における、実施例1の電気分解の前(実線)及び後(一点鎖線)、並びに比較例6の電気分解の前(破線)及び後(点線)。
【0091】
図3B:60℃における、実施例1の電気分解の前(実線)及び後(一点鎖線)、並びに比較例6の電気分解の前(破線)及び後(点線)。
【0092】
X軸はそれぞれの場合で電位をVで示し、Y軸は電流密度をmA cm-2で示す。
【0093】
スタート/ストップ挙動
スタート/ストップ挙動-比較例6との比較
驚くべきことに、本発明に従って使用される組成物により製造される電極は、図4及び9により証明されるように、白金電極よりも著しく良好なスタート/ストップ挙動を有する。白金の電流密度はその初期の電流密度の20%未満まで減少するが、一方本発明に従って使用される組成物は大幅に高い量のそれらの初期の電流密度を維持することができる。これらの改善されたスタート/ストップ挙動により、再生可能エネルギーピーク(例えば風又は光起電力として)を持続可能な水素製造において最大限利用することが可能である。
【0094】
図4は、FeCoNi(実施例1、四角)及び白金(比較例6、格子柄)について、72時間にわたり、60℃、RHEに対して-304mVで測定される、スタート及びストップモードの定電位クーロメトリーを示す。
【0095】
X軸は時間を時間単位で示し、Y軸は電流密度をmA cm-2で示す。
【0096】
図9Aも、FeCoNi(実施例1、四角)及び白金(比較例6、格子柄)についての、スタート及びストップモードの定電位クーロメトリーを示すが、72時間にわたり、60℃、RHEに対して-350mVで測定される、定電位クーロメトリーを示す。図4の実施例1及び比較例6の電流密度は、図9Aの同じ触媒について得られる電流密度と比較してより低い。これらの違いは、図9A~9E(-350mV)と比較して図4の測定で印加されるより低い電位(-304mV)に起因している。しかしながら、両方の図(図4及び9A)は、スタート/ストップ挙動に関して実施例1が比較例6よりも優れていることを示す。
【0097】
図9B~9Eは、72時間の過程にわたり、60℃、RHEに対して-350mVで測定される、スタート及びストップモードの定電位クーロメトリーを示す。同じ一連のパラメーターを用いて測定されているので、図9Aと9B~9Eに示される結果は互いに比較することができる。
【0098】
図9B:実施例2(四角)及び比較例6(格子柄)。
【0099】
図9C:実施例4(四角)及び比較例6(格子柄)。
【0100】
図9D:実施例6(四角)及び比較例6(格子柄)。
【0101】
図9E:実施例7(四角)及び比較例6(格子柄)。
【0102】
X軸は時間を時間単位で示し、Y軸は電流密度をmA cm-2で示す。
【0103】
スタート/ストップ挙動-比較例1との比較
驚くべきことに、本発明に従って使用される組成物により製造される電極はまた、図17により証明されるように、別の最新の電極組成物、すなわちFe4,5Ni4,5(比較例1)と同等又はそれよりもさらに良好なスタート/ストップ挙動を有する。本発明に従って使用される組成物は、特に数回のスタート/ストップにおいて、比較例1の組成物と比較して同じ又はさらにより高い量のそれらの初期の電流密度を維持することができる。これらの改善されたスタート/ストップ挙動により、再生可能エネルギーピーク(例えば風又は光起電力として)を持続可能な水素製造において最大限利用することが可能である。
【0104】
図17A~17Dは、72時間にわたり、60℃、RHEに対して-350mVで測定される、スタート及びストップモードの定電位クーロメトリーを示す。
【0105】
図17A:実施例1(四角)及び比較例1(格子柄)。
【0106】
図17B:実施例2(四角)及び比較例1(格子柄)。
【0107】
図17C:実施例4(四角)及び比較例1(格子柄)。
【0108】
図17D:実施例7(四角)及び比較例1(格子柄)。
【0109】
X軸は時間を時間単位で示し、Y軸は電流密度をmA cm-2で示す。
【0110】
硫黄被毒に対する安定性
硫黄被毒に対する安定性-比較例6との比較
本発明に従って使用される組成物のさらなる利点は、硫黄被毒に対する安定性である(図5、6、及び10~16)。白金は硫黄化合物に対して非常に感受性が高く活性を失うが、一方本発明に従って使用される組成物は、硫黄化合物によって処理された場合、ほぼ同じ又はさらにより高い(例えば図10及び12)活性を示す。硫黄化合物のさらなる効果は、白金電極の被毒は不可逆的な効果であるが一方で硫黄化合物は本発明に従って使用される組成物に対して可逆的な効果を有することである。したがって、HERにおいて電極触媒として白金を有するPEM-電解装置では出発物質として非常に純度の高い水が必要であるが、一方本発明の革新に従って使用される組成物により様々な異なる水源を使用することが可能である。
【0111】
図5、10、12、及び14は、20時間にわたり、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下での定電位クーロメトリーを示す。
【0112】
図5:HSの非存在下(四角)及び存在下(格子柄)での実施例1、並びにHSの非存在下(丸)及び存在下(三角)での比較例6の曲線。
【0113】
図10:HSの非存在下(四角)及び存在下(格子柄)での実施例2、並びにHSの非存在下(丸)及び存在下(三角)での比較例6の曲線。
【0114】
図12:HSの非存在下(四角)及び存在下(格子柄)での実施例4、並びにHSの非存在下(丸)及び存在下(三角)での比較例6の曲線。
【0115】
図14:HSの非存在下(四角)及び存在下(格子柄)での実施例6、並びにHSの非存在下(丸)及び存在下(三角)での比較例6の曲線。
【0116】
X軸は時間を時間単位で示し、Y軸は電流密度をmA cm-2で示す。
【0117】
図6、11、13、15、及び16は、20時間の電気分解の前後で、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下で行われる線形掃引ボルタモグラムを示す。
【0118】
図6A:電気分解の前(点線)及び後(一点鎖線)におけるHSの存在下での実施例1の曲線に次いで、電気分解の前(実線)及び後(破線)におけるHSの非存在下での実施例1の曲線。
【0119】
図6B:電気分解の前(点線)及び後(一点鎖線)におけるHSの存在下での比較例6の曲線に次いで、電気分解の前(実線)及び後(破線)におけるHSの非存在下での比較例6の曲線。
【0120】
図11:電気分解の前(点線)及び後(一点鎖線)におけるHSの存在下での実施例2の曲線に次いで、電気分解の前(実線)及び後(破線)におけるHSの非存在下での実施例2の曲線。
【0121】
図13:電気分解の前(点線)及び後(一点鎖線)におけるHSの存在下での実施例4の曲線に次いで、電気分解の前(実線)及び後(破線)におけるHSの非存在下での実施例4の曲線。
【0122】
図15:電気分解の前(点線)及び後(一点鎖線)におけるHSの存在下での実施例6の曲線に次いで、電気分解の前(実線)及び後(破線)におけるHSの非存在下での実施例6の曲線。
【0123】
図16:電気分解の前(点線)及び後(一点鎖線)におけるHSの存在下での実施例7の曲線に次いで、電気分解の前(実線)及び後(破線)におけるHSの非存在下での実施例7の曲線。
【0124】
X軸はそれぞれの場合で電位をVで示し、Y軸は電流密度をmA cm-2で示す。
【0125】
硫黄被毒に対する安定性-比較例1との比較
本発明に従って使用される組成物の、硫黄被毒に対する安定性を、別の最新の電極組成物、すなわちFe4,5Ni4,5(比較例1)とさらに比較した(図18~25)。本発明に従って使用される組成物は比較例1と比較して、硫黄化合物によって処理された場合に、同等又はさらにより良好な活性を示す。
【0126】
図18、20、及び22は、20時間にわたり、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下での定電位クーロメトリーを示す。
【0127】
図18:HSの非存在下(四角)及び存在下(格子柄)での実施例1、並びにHSの非存在下(丸)及び存在下(三角)での比較例1の曲線。
【0128】
図20:HSの非存在下(四角)及び存在下(格子柄)での実施例2、並びにHSの非存在下(丸)及び存在下(三角)での比較例1の曲線。
【0129】
図22:HSの非存在下(四角)及び存在下(格子柄)での実施例4、並びにHSの非存在下(丸)及び存在下(三角)での比較例1の曲線。
【0130】
X軸は時間を時間単位で示し、Y軸は電流密度をmA cm-2で示す。
【0131】
図19、21、23、24、及び25は、20時間の電気分解の前後で、20℃、RHEに対して-350mVで測定される、触媒毒HSの存在下及び非存在下で行われる線形掃引ボルタモグラムを示す。
【0132】
図19A:電気分解の前(点線)及び後(一点鎖線)におけるHSの存在下での実施例1の曲線に次いで、電気分解の前(実線)及び後(破線)におけるHSの非存在下での実施例1の曲線。
【0133】
図19B:電気分解の前(点線)及び後(一点鎖線)におけるHSの存在下での比較例1の曲線に次いで、電気分解の前(実線)及び後(破線)におけるHSの非存在下での比較例1の曲線。
【0134】
図21:電気分解の前(点線)及び後(一点鎖線)におけるHSの存在下での実施例2の曲線に次いで、電気分解の前(実線)及び後(破線)におけるHSの非存在下での実施例2の曲線。
【0135】
図23:電気分解の前(点線)及び後(一点鎖線)におけるHSの存在下での実施例4の曲線に次いで、電気分解の前(実線)及び後(破線)におけるHSの非存在下での実施例4の曲線。
【0136】
図24:電気分解の前(点線)及び後(一点鎖線)におけるHSの存在下での実施例6の曲線に次いで、電気分解の前(実線)及び後(破線)におけるHSの非存在下での実施例6の曲線。
【0137】
図25:電気分解の前(点線)及び後(一点鎖線)におけるHSの存在下での実施例7の曲線に次いで、電気分解の前(実線)及び後(破線)におけるHSの非存在下での実施例7の曲線。
【0138】
X軸はそれぞれの場合で電位をVで示し、Y軸は電流密度をmA cm-2で示す。
【0139】
粉末X線(回折パターン)
図7は、本発明及び比較例に従って使用される組成物の粉末X線(回折パターン、(Cu-Kα線))を示す。
【0140】
図7A:実施例1(四角)、比較例1(三角)、比較例2(丸)、比較例3(格子柄)、比較例4(白四角)、及び比較例5(白丸)のパターン。
【0141】
図7B:実施例1(四角)、実施例3(丸)、及び実施例4(格子柄)。
【0142】
図7C:実施例1(四角)、実施例5(三角)、及び実施例6(丸)。
【0143】
図7D:実施例1(四角)、実施例11(三角)、実施例12/13(丸)、及び実施例14(格子柄)。
【0144】
図7E:実施例1(四角)及び実施例7(三角)。
【0145】
X軸はそれぞれの場合で角度2Θを°で示し、Y軸は無次元強度を示す。
【0146】
本発明に従って使用される組成物(実施例1など、四角)は未改質硫鉄ニッケル鉱(比較例1、三角)と非常に類似したXRDパターンを示すことが図7Aから明らかである。
【0147】
驚くことに、本発明に従って使用される組成物は高電位が印加される場合に0~14の広いpH領域で作動するが、鉄、コバルト、又はニッケルを有する他の硫化物組成物はそのような広いpH領域で安定ではない。結晶相としての硫鉄ニッケル鉱がこの高い安定性の理由であると思われる。
【0148】
本発明に従って使用される組成物は、PEM電解装置での水素発生反応において、電極触媒として、単独で又は導電性支持材料(例えばグラフェン)との組み合わせにおいて有用である。
【0149】
本発明に従って使用される組成物は、アルカリ水電気分解又は高圧電解装置における水素製造にも有用である場合がある。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図17C
図17D
図18
図19A
図19B
図20
図21
図22
図23
図24
図25