(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】二重特異性抗体及びその調製方法、使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20231206BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20231206BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20231206BHJP
C07K 1/22 20060101ALI20231206BHJP
C07K 1/18 20060101ALI20231206BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20231206BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20231206BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20231206BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20231206BHJP
A61P 35/02 20060101ALN20231206BHJP
A61P 37/00 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C12P21/08
C07K1/22
C07K1/18
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/63 Z
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/00
(21)【出願番号】P 2021561747
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 CN2019126066
(87)【国際公開番号】W WO2021000530
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2021-11-02
(31)【優先権主張番号】201910591110.2
(32)【優先日】2019-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520262652
【氏名又は名称】▲広▼州▲愛▼思▲邁▼生物医▲薬▼科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼文▲軍▼
(72)【発明者】
【氏名】李峰
(72)【発明者】
【氏名】▲華▼▲亜▼南
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼嘉熙
(72)【発明者】
【氏名】方春▲華▼
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-508188(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0093454(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD20に結合可能なドメイン、CD3に結合可能なドメイン及びヘテロ二量体Fc領域を含み、
前記CD20に結合可能なドメイン及びCD3に結合可能なドメインは、それぞれ独立してFab領域、ScFv領域またはsDab領域から選択され
、
前記CD20に結合可能なドメインは、第1の免疫グロブリンFab領域を含み、前記第1の免疫グロブリンFab領域は、互いに結合された第1の重鎖と第1の軽鎖とにより形成され、前記第1の重鎖の可変領域は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有し、前記第1の軽鎖の可変領域は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有し、
前記CD3に結合可能なドメインは、第2の免疫グロブリンFab領域を含み、前記第2の免疫グロブリンFab領域は、互いに結合された第2の重鎖と第2の軽鎖とにより形成され、前記第2の重鎖の可変領域は、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有し、前記第2の軽鎖の可変領域は、配列番号10に示されるアミノ酸配列を有し、
前記ヘテロ二量体Fc領域は、2つのポリペプチド鎖により構成され、各ポリペプチド鎖は、反対の電荷を持つ非対称アミノ酸修飾を含む、ことを特徴とする二重特異性抗体。
【請求項2】
前記第1の重鎖のCH1部分および第1の軽鎖のCL部分は、いずれも天然のシステイン残基を置き換える非システイン残基と、非システイン残基を置き換えるシステイン残基を含むことを特徴とする請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
前記第1の重鎖のCH1部分の、非システイン残基を置き換えるシステイン残基と、第1の軽鎖のCL部分の、非システイン残基を置き換えるシステイン残基とは、ジスルフィド結合を形成していることを特徴とする請求項2に記載の二重特異性抗体。
【請求項4】
前記第1の重鎖のCH1部分の、天然のシステイン残基を置き換える非システイン残基がC220Sであり、非システイン残基を置き換えるシステイン残基がL128Cであることを特徴とする請求項2
に記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
前記第1の軽鎖のCL部分の、天然のシステイン残基を置き換える非システイン残基がC214Sであり、非システイン残基を置き換えるシステイン残基がF118Cであることを特徴とする請求項2~請求項4のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
前記第2の免疫グロブリンFab領域は、天然のシステイン残基を置き換える非システイン残基を含まず、且つ非システイン残基を置き換えるシステイン残基を含まないことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項7】
前記CD20に結合可能なドメインは、第1の免疫グロブリンFab領域を含み、前記CD3に結合可能なドメインは、第2の免疫グロブリンFab領域を含み、前記第1の重鎖と第2の重鎖が互いに結合してヘテロ二量体Fc領域を形成することを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項8】
前記第1の重鎖と第2の重鎖は、ヒト抗体IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4に由来することを特徴とする請求項7に記載の二重特異性抗体。
【請求項9】
前記第1の重鎖は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有し、第1の軽鎖は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有し、前記第2の重鎖は、配列番号5または配列番号7に示されるアミノ酸配列を有し、第2の軽鎖は、配列番号9に示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項7に記載の二重特異性抗体。
【請求項10】
CD20に結合可能なドメイン、CD3に結合可能なドメイン及びヘテロ二量体Fc領域を含み、
前記CD20に結合可能なドメイン及びCD3に結合可能なドメインは、それぞれ独立してFab領域、ScFv領域またはsDab領域から選択され、
前記CD20に結合可能なドメインは、第1の免疫グロブリンFab領域を含み、前記CD3に結合可能なドメインは、scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖を含み、前記第1の免疫グロブリンFab領域は、互いに結合された第1の重鎖と第1の軽鎖とにより形成され、前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖のscFv領域の重鎖の可変領域は、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖の可変領域は、配列番号10に示されるアミノ酸配列を有し、前記第1の重鎖と前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖が互いに結合してヘテロ二量体Fc領域を形成し、
又は、前記CD20に結合可能なドメインは、scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖を含み、CD3に結合可能なドメインは、第2の免疫グロブリンFab領域を含み、前記第2の免疫グロブリンFab領域は、互いに結合された第2の重鎖と第2の軽鎖とにより形成され、前記第2の重鎖の可変領域は、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有し、前記第2の軽鎖の可変領域は、配列番号10に示されるアミノ酸配列を有し、前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖のscFv領域の重鎖の可変領域は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖の可変領域は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有し、前記第2の重鎖と前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖が互いに結合してヘテロ二量体Fc領域を形成することを特徴とする、二重特異性抗体。
【請求項11】
前記CD20に結合可能なドメインは、第1の免疫グロブリンFab領域を含み、前記CD3に結合可能なドメインは、scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖を含み、
前記第1の免疫グロブリンFab領域の重鎖の可変領域は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有し、前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖の重鎖の可変領域CDR3は、N106T変異を含み、変異後のCDR3配列がHGNFGTSYVSWFAであることを特徴とする請求項10に記載の二重特異性抗体。
【請求項12】
前記CD3に結合可能なドメインが第2の免疫グロブリンFab領域を含み、前記CD20に結合可能なドメインがscFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖を含む場合、前記第2の免疫グロブリンFab領域の重鎖は、配列番号7に示されるアミノ酸配列を有し、
前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖のscFv領域は、配列番号12、配列番号13、配列番号14に示されるアミノ酸配列を有し、または前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖のscFv可変領域は、配列番号2または配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する
ことを特徴とする請求項10に記載の二重特異性抗体。
【請求項13】
カップリング物質と請求項1~請求項12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体とがカップリングすることにより形成されることを特徴とする抗体コンジュゲート。
【請求項14】
前記カップリング物質は、細胞毒素、放射性同位元素、蛍光標識体、発光物質、発色物質または酵素であることを特徴とする請求項13に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項15】
請求項1~請求項12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項16】
腫瘍、関節リウマチ、多発性硬化症または全身性エリテマトーデスを治療する医薬品または医薬組成物の調製における請求項1~請求項12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体の使用。
【請求項17】
前記腫瘍は、CD20発現に関連する悪性腫瘍であることを特徴とする請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記悪性腫瘍は、急性Bリンパ性白血病、びまん性大B細胞リンパ腫、慢性リンパ芽球性白血病、濾胞性リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、慢性骨髄性白血病またはバーキットリンパ腫であることを特徴とする請求項17に記載の使用。
【請求項19】
請求項1~請求項12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体を調製するための方法において、
請求項1~請求項12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体をコードするヌクレオチドを基本ベクターに連結してなる発現ベクターを構築するステップ(a)と、
ステップ(a)で構築された発現ベクターを宿主細胞にトランスフェクトまたは形質転換し、宿主細胞を培養するステップ(b)と、
前記二重特異性抗体を分離および精製するステップ(c)と、を含む方法。
【請求項20】
前記二重特異性抗体を分離および精製するための方法は、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー、陽イオン交換法または陰イオン交換法である、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関係出願の相互参照
本出願は、2019年7月2日に中国専利局に提出された、出願番号201910591110.2であり、名称が「二重特異性抗体及びその調製方法、使用」である中国出願に基づいて優先権を主張し、その全ての内容が、参照により本明細書に取り込まれる。
【0002】
本開示は、抗体及びその調製方法、使用に関し、具体的に、二重特異性抗体及びその調製方法、使用に関する。
【背景技術】
【0003】
CD19、CD20、CD22、CD52などのB細胞の表面の特異性抗原は、B細胞関連疾患の潜在的な治療標的であり、その中で、CD20タンパク質は、Bリンパ球制限分化抗原、Bp35またはB1とも称され、ヒトMS4A1遺伝子によってコードされた、分子量が35kD程度の4回膜貫通型の高疎水性を有する非グリコシル化リンタンパク質である。CD20は、プレB細胞および成熟したB細胞の表面に特異性発現しているが、造血幹細胞、前駆細胞、形質細胞及びその他の正常な体細胞に発現していないものである。CD20は、非ホジキンリンパ腫(NHL)、慢性リンパ芽球性白血病(CLL)などのB細胞リンパ腫の細胞の表面にも同時に発現している。CD20には既知の天然のリガンドがない。しかし、研究により以下のことを発見した。CD20は、カルシウムイオンチャネル活性があり、細胞内のカルシウムイオン濃度を調節することによって細胞周期を調節し、B細胞の活性化であるG0期からG1期への分化・成長過程に特別な役割を果たすとともに、S期から有糸分裂へ細胞周期を調節し、細胞のアポトーシスを誘導することもできる。
【0004】
CD20は、様々なB細胞関連リンパ腫細胞の表面に特異的に発現され、プレB細胞とその他の体細胞では発現せず、且つ脱落や分泌しにくく、抗体と結合した後にエンドサイトーシスが起こらないので、B細胞関連疾患の治療に対して利用可能性を有する理想的なターゲットである。現在、CD20に対する様々なモノクローナル抗体類治療薬がすでに市販され、その作用機序によりI型とII型に分けられる。I型抗体は、主に補体依存性細胞障害活性(CDC)及び抗体依存性細胞障害活性(ADCC)により機能しており、II型は、主にプログラム細胞死(PCD)及びADCCにより機能している。ヒトマウスキメラ抗体リツキシマブ(Rituximab、商品名:Rituxian)は、第1の世代のCD20抗体(I型)であり、1997年にNHLの治療薬としてFDAにより承認され、その後、関節リウマチ、CLLなどの疾患の治療薬としても承認された。完全ヒトモノクローナル抗体オファツムマブ(Ofatumumab、商品名:Arzerra)は、第2の世代のCD20抗体(I型)であり、リツキシマブと比べて、CD20に対する親和性が高く、細胞試験でCDC応答も強く、ADCC応答がリツキシマブに似ており、2009年にフルダラビンまたはアレムツズマブに効果のないCLLの治療薬としてFDAにより迅速に承認され、その後、治療濾胞性リンパ腫、視神経脊髄炎、びまん性と再発性多発性硬化症などの疾患の治療薬として承認された。ヒト化モノクローナル抗体オビヌツズマブ(Obinutuzumab、商品名:Gazyva)は、第3の世代のCD20抗体(II型)であり、糖鎖修飾により、NK細胞、巨噬細胞及び樹突状細胞に対する抗体の親和性を高めるため、リツキシマブよりもADCC応答が強く、また、好中球によって引き起こされるエンドサイトーシス及び細胞死を介して、B細胞のアポトーシスをより効果的に誘導することができる。2013年に、クロラムブシルと組み合わせて過去未治療のCLLの治療薬としてFDAにより承認された。
【0005】
CD20を標的とするモノクローナル抗体薬は、従来の化学療法と比べて、より優れた臨床的利点を示しているが、多くの場合には化学薬品と組み合わせる必要があり、すべての患者がCD20抗体療法に反応できるわけではないものである。これは、CD20モノクローナル抗体の有効性が腫瘍細胞におけるCD20の発現レベルに関連しており、CLL細胞などの一部のタイプのCD20は、他のタイプのB細胞腫瘍よりもCD20の発現レベルが著しく低いため、CD20モノクローナル抗体の有効性が制限されるためである。また、モノクローナル抗体は、主に、FcγRとの結合によって生成されるADCC、ADCP、CDCなどの作用機序で腫瘍細胞を殺すが、FcγRは、人類に多型性を持ち、FcγRのFcに対する親和性に大きな差異をもたらし、薬物全体の有効性を減らし、再発や薬剤耐性につながり、一度再発すると治療がさらに難しくなり、予後が極めて悪く、生存期間の中央値はわずか2~8ヶ月である。腫瘍殺傷効果の高いT細胞は、FcγRを持たないため、効果的に活性化することができないので、T細胞を活性化して腫瘍細胞をより効率的に死滅させたり、2つ以上の抗原ターゲットに結合する多機能抗体を同時に開発したりして、現在の治療状況に合わせるより効果的な抗体医薬の設計が必要となっている。
【0006】
二重特異性抗体は、2つのエピトープまたは1つの抗原の2つのエピトープに同時に結合できるため、相乗効果によってより高い効力(potency)を達成できる。一部の二重特異性抗体は、エフェクター細胞(T細胞など)を標的標的に動員し、T細胞を活性化することで標的細胞を直接殺すことができる。現在、二重特異性抗体は、安全性と有効性が大幅に向上し、腫瘍や自己免疫疾患の治療に広く用いられ、腫瘍免疫療法の研究開発のホットスポットとなり、幅広い応用が期待されている。悪性腫瘍治療の実用化においては、通常、二重特異性抗体は、腫瘍細胞表面抗原と免疫細胞表面抗原に同時に結合し、自身の免疫系を活性化して腫瘍細胞を死滅させる。
【0007】
CD3は、ホモロガスまたはヘテロ二量体のタンパク質複合体であり、T細胞受容体(TCR)の重要な構成要素である。その細胞内領域には、免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)が含まれている。ITAMは、リン酸化されると、キナーゼZAP70に結合するので、T細胞活性化シグナルを下流に伝達する。CD3を標的とする抗体は、T細胞の表面にCD3を蓄積することよってT細胞を活性化することができる。このプロセスは、MHC抗原ペプチドのTCR認識プロセスを模倣している。CD3耐性と腫瘍特異的抗原耐性を持つ二重特異性抗体は、T細胞と腫瘍細胞に同時に結合し、T細胞を活性化・誘導してグランザイムやパーフォリンなどを分泌させ、腫瘍細胞を死滅させる。例えば、CD20分子とCD3分子に同時に結合する二重特異性抗体は、CD20タンパク質を発現する腫瘍細胞にT細胞を動員し、CD20陽性腫瘍細胞を殺して排除することができる。
【0008】
ほとんどの初期の二重特異性抗体は、精製されたモノクローナル抗体の化学的架橋、または2つの異なるモノクローナル抗体を発現するハイブリドーマ細胞の融合によって生成される。しかし、これらの方法で製造された製品には、安定性が低く、収量が低く、抗体修飾が不適切であり、免疫原性、製造・精製が難しいなどの多くの問題がある。近年の遺伝子工学技術の進歩に伴い、遺伝子工学技術により多くのBsAbが作製されており、現在60種類以上のバイスペシフィック抗体が存在し、主に、Fcを含まない二重特異性抗体と、Fc領域が含まれる二重特異性抗体との2種類に分けられる。BiTE、DART、TandAbs、Bi-NanobodyなどのFcを含まない二重特異性抗体は、分子量が小さく、原核細胞で発現可能であり、生産の複雑さを軽減し、組織や腫瘍細胞を容易に通過してターゲット到達することができるが、Fc関連の生物学的機能を媒介できず、半減期が短く、インビボで素早く排出されてしまう。抗体に非天然のペプチド鎖連結断片や付加構造を導入すると、相対分子量や物理化学的性質が天然の型IgG抗体とは大きく異なり、多量体を形成しやすく、免疫原性をもたらす。Fcを含む二重特異性抗体は、ADCCおよびCDCを媒介し、血中での抗体の半減期(FcRn媒介)、安定性および溶解性を増加させる。さらに、それは、プロテインA(プロテインA)とプロテインG(プロテインG)の結合領域でもあり、下流の製品の精製を容易にさせる。このタイプの二重特異性抗体技術には、TrioMab、Knob-into-hole、DVD-Ig、DuoBody、SEEDbody、BEATなどが含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示は、例えば、先行技術の上記の欠点を解消し、腫瘍細胞のT細胞特異的死滅を媒介できる、CD20とCD3を標的とする安定かつ効率的な二重特異性抗体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様において、本開示は、CD20に結合可能なドメイン、CD3に結合可能なドメインおよびヘテロ二量体Fc領域を含む二重特異性抗体を提供する。CD20に結合可能なドメインおよびCD3に結合可能なドメインは、それぞれ独立してFab領域、ScFv領域、またはsDab領域から選択される。
【0011】
最も理想的な二重特異性抗体は、IgG抗体の自然な構造を維持するものである。これは、抗体の調製プロセスに、重鎖と軽鎖の不一致の問題を解消する必要がある。本開示は、抗体の構造および機能に影響を与えることなく、抗体のFcおよび重鎖-軽鎖界面における少数のアミノ酸を変化させ、少数の部位変異を導入することにより、この人工的に改変されたペアリング法を用いて、白血球分化抗原20(CD20)と白血球分化抗原3(CD3)を同時に標的とする。従来のモノクローナル抗体と比べて、CD20×CD3二重特異性抗体は、以下の利点を有する。(1)CD4+和CD8+を活性化するT細胞は、CD20発現レベルが非常に低い腫瘍細胞を含むCD20陽性の腫瘍細胞を特異的に殺す。(2)非常に低い投与量でも、非常に効果的な腫瘍傷害効果を得られる。(3)低レベルのサイトカイン放出を引き起こすことができ、より安全である。(4)構造が天然のIgG抗体と類似しており、モノクローナル抗体と類似の安定性、半減期、物理的および化学的特性を有する。当該二重特異性抗体は、疾患の治療や診断などさまざまな応用分野で使用できる。
【0012】
本開示の二重特異性抗体は、CD20エピトープおよびCD3エピトープに特異的に結合し、抗原特異性を介してT細胞活性化を媒介することができる。二重特異性抗体は、T細胞を介して腫瘍細胞を特異的に死滅させることができ、CD20とCD3を安定的、効率的に標的とする新たな二重特異性抗体(即ち、CD20×CD3 BsAb)であり、ヒトおよび霊長類のCD20とCD3と交差反応できる。
【0013】
本開示の二重特異性抗体は、3本または4本のポリペプチド鎖からなり、3本鎖構造は重鎖、軽鎖およびscFv-Fc鎖を含む。4本鎖構造は、2本の重鎖および2本の軽鎖を含む。二重特異性抗体は、CD20に特異的に結合する免疫グロブリンドメイン、CD3に特異的に結合する免疫グロブリンドメイン、ならびにヘテロ二量体Fc領域を形成する。2本の重鎖(または1本の重鎖とscFv-Fc鎖)が相互作用し、結合してヘテロ二量体形態を形成し、前記のヘテロ二量体Fc領域を形成する。4本鎖二重特異性抗体では、2本の軽鎖が、それぞれ重鎖の1つに結合してCD20に特異的に結合するFab構造とCD3に特異的に結合するFab構造を形成する。なお、本開示に記載のCD20×CD3 BsAbは、インビボでの抗体の半減期および安定性を向上させることができるFc領域を含む。
【0014】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記CD20に結合可能なドメインは、第1の免疫グロブリンFab領域を含み、前記第1の免疫グロブリンFab領域は、互いに結合された第1の重鎖と第1の軽鎖とにより形成され、前記第1の重鎖の可変領域は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有し、前記第1の軽鎖の可変領域は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有し、および/または、前記CD3に結合可能なドメインは、第2の免疫グロブリンFab領域を含み、前記第2の免疫グロブリンFab領域は、互いに結合された第2の重鎖と第2の軽鎖とにより形成され、前記第2の重鎖の可変領域は、配列番号6又は8に示されるアミノ酸配列を有し、前記第2の軽鎖の可変領域は、配列番号10に示されるアミノ酸配列を有し、前記ヘテロ二量体Fc領域は、2つのポリペプチド鎖により構成され、各ポリペプチド鎖は、反対の電荷を持つ非対称アミノ酸修飾を含む。
【0015】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記第1の重鎖のCH1部分および第1の軽鎖のCL部分は、いずれも天然のシステイン残基を置き換える非システイン残基と、非システイン残基を置き換えるシステイン残基とを含む。
【0016】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記第1の重鎖のCH1部分の、非システイン残基を置き換えるシステイン残基と、第1の軽鎖のCL部分の、非システイン残基を置き換えるシステイン残基とは、ジスルフィド結合を形成している。
【0017】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記第1の重鎖のCH1部分の、天然のシステイン残基を置き換える非システイン残基がC220Sであり、非システイン残基を置き換えるシステイン残基がL128Cである。
【0018】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記第1の軽鎖のCL部分の、天然のシステイン残基を置き換える非システイン残基がC214Sであり、非システイン残基を置き換えるシステイン残基がF118Cである。
【0019】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記第2の免疫グロブリンFab領域は、天然のシステイン残基を置き換える非システイン残基を含まず、且つ非システイン残基を置き換えるシステイン残基を含まない。
【0020】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記CD20に結合可能なドメインは、第1の免疫グロブリンFab領域を含み、前記CD3に結合可能なドメインは、第2の免疫グロブリンFab領域を含み、前記第1の重鎖と第2の重鎖が互いに結合してヘテロ二量体Fc領域を形成する。
【0021】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記第1の重鎖のヒンジ領域および前記第2の重鎖のヒンジ領域は、少なくとも1つのジスルフィド結合を介して共有結合している。
【0022】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記第1の重鎖と第2の重鎖は、いずれもCH2ドメインと修飾されたCH3ドメインを含み、前記第1の重鎖のCH2ドメイン、修飾されたCH3ドメインは、前記第2の重鎖のCH2ドメイン、修飾されたCH3ドメインと互いに結合してヘテロ二量体Fc領域を形成する。
【0023】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記第1の重鎖と第2の重鎖のCH2ドメインのうち、少なくとも1つのCH2ドメインは、1つ、2つまたはそれ以上の変異部位を含む。変異部位は、Fcの受容体FcγRへの結合を減少させるために使用される。本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、当該変異の組み合わせは、L234A/L235Aである。
【0024】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記第1の重鎖の修飾されたCH3ドメインと第2の重鎖の修飾されたCH3ドメインは、ヘテロ二量体Fc領域を形成するための反対の電荷を持つ非対称アミノ酸修飾を含む。反対の電荷を持つ非対称アミノ酸修飾は、ヘテロ二量体の形成を促進できる。
【0025】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記第1の重鎖の修飾されたCH3ドメインは、P395K、P396K、V397K変異の少なくとも1つを含み、且つ前記第2の重鎖の修飾されたCH3ドメインは、T394D、P395D、P396D変異の少なくとも1つを含み、または、前記第1の重鎖の修飾されたCH3ドメインは、T394D、P395D、P396D変異の少なくとも1つを含み、前記第2の重鎖の修飾されたCH3ドメインは、P395K、P396K、V397K変異の少なくとも1つを含む。
【0026】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記第1の重鎖と第2の重鎖は、ヒト抗体IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4に由来する。本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記第1の重鎖と第2の重鎖は、ヒト抗体IgG1に由来する。
【0027】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記第1の重鎖は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有し、第1の軽鎖は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有し、前記第2の重鎖は、配列番号5または配列番号7に示されるアミノ酸配列を有し、第2の軽鎖は、配列番号9に示されるアミノ酸配列を有する。
【0028】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記CD20に結合可能なドメインは、第1の免疫グロブリンFab領域を含み、前記CD3に結合可能なドメインは、scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖を含み、前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖のscFv領域の重鎖の可変領域は、配列番号6又は8に示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖の可変領域は、配列番号10に示されるアミノ酸配列を有し、前記第1の重鎖と前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖が互いに結合してヘテロ二量体Fc領域を形成し、または、前記CD20に結合可能なドメインは、scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖を含み、CD3に結合可能なドメインは、第2の免疫グロブリンFab領域を含み、前記第2の免疫グロブリンFab領域の第2の重鎖は、配列番号7に示されるアミノ酸配列を有し、第2の軽鎖は、配列番号9に示されるアミノ酸配列を有し、前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖のscFv領域の重鎖の可変領域は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖の可変領域は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有し、前記第2の重鎖と前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖が互いに結合してヘテロ二量体Fc領域を形成する。
【0029】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記CD20に結合可能なドメインは、第1の免疫グロブリンFab領域を含み、前記CD3に結合可能なドメインは、scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖を含み、前記第1の重鎖の可変領域は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有し、前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖のscFv領域の重鎖の可変領域は、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有し、前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖の重鎖の可変領域CDR3は、N106T変異を含み、変異後のCDR3配列がHGNFGTSYVSWFAである。
【0030】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖のscFv領域は、配列番号11、配列番号12、配列番号13または配列番号14に示されるアミノ酸配列を有し、またはその可変領域は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8または配列番号10に示されるアミノ酸配列を有する。
【0031】
本開示は、第2の態様において、上記のアミノ酸配列に対応するDNA配列を基体に連結してなる発現ベクターを提供する。
【0032】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記発現ベクターは、プラスミド、ウイルスベクターまたは組換え発現ベクターである。
【0033】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記基本ベクターは、pFUSE-hIgG 1-Fc2である。
【0034】
本開示は、第3の態様において、上記の発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0035】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記宿主細胞は、哺乳動物細胞である。本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記宿主細胞は、CHO細胞またはHEK293細胞である。
【0036】
本開示は、第4の態様において、上記の二重特異性抗体を調製する方法を提供する。該方法は、
【0037】
請求項1~13のいずれか1項に記載の二重特異性抗体をコードするヌクレオチドを基本ベクターに連結してなる発現ベクターを構築するステップ(a)と、
【0038】
ステップ(a)で構築された発現ベクターを宿主細胞にトランスフェクトまたは形質転換し、宿主細胞を培養するステップ(b)と、
【0039】
二重特異性抗体を分離及び精製するステップ(c)とを含む。
【0040】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記二重特異性抗体を分離及び精製する方法は、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー、陽イオン交換法または陰イオン交換法である。
【0041】
本開示は、第5の態様において、カップリング物質と上記の二重特異性抗体とがカップリングすることにより形成される抗体コンジュゲートを提供する。
【0042】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記カップリング物質は、細胞毒素、放射性同位元素、蛍光標識体、発光物質、発色物質または酵素である。
【0043】
本開示は、第6の態様において、上記の二重特異性抗体を含む医薬組成物を提供する。
【0044】
本開示は、第7の態様において、腫瘍、関節リウマチ、多発性硬化症または全身性エリテマトーデスを治療する医薬品または医薬組成物の調製における上記の二重特異性抗体の使用を提供する。
【0045】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記腫瘍は、CD20発現に関連する悪性腫瘍である。
【0046】
本開示の二重特異性抗体の1つ以上の実施形態において、前記悪性腫瘍は、急性Bリンパ性白血病(B-ALL)、びまん性大B細胞リンパ腫(DLBCL)、慢性リンパ芽球性白血病(CLL)、濾胞性リンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)、慢性骨髄性白血病(CML)、バーキット(Burkitt)リンパ腫である。
【0047】
本開示は、第8の態様において、医薬品または医薬組成物における上記の二重特異性抗体の使用を提供する。
【0048】
本開示は、第9の態様において、腫瘍、関節リウマチ、多発性硬化症または全身性エリテマトーデスの治療における上記の二重特異性抗体の使用を提供する。
【0049】
従来技術と比べて、本開示は、以下の有益な効果を有する。
【0050】
(1)本開示に記載の前記CD20×CD3 BsAb分子は、天然のIgG抗体の構造あるいは天然のIgG抗体に近い構造を維持し、モノクローナル抗体と似ている安定性および理化学的性質を有する。
【0051】
(2)本開示は、二重特異性抗体の構築に関し、重鎖と軽鎖の少数のアミノ酸を変異させ、2つのポリペプチド鎖が反対の電荷を持ち、重鎖ヘテロ二量体の形成を促進し、非天然のジスルフィド結合を導入することで軽鎖のミスマッチを解消する。この方法は、突然変異がほとんどなく、Fc領域の機能にほとんど影響を与えず、真核細胞におけるタンパク質の発現と収量に影響を与えない。
【0052】
(3)モノクローナル抗体と比べて、本開示に記載の前記CD20×CD3 BsAb分子は、腫瘍細胞の表面抗原に結合することができるとともに、T細胞の表面CD3分子にも結合することができる。さらに、TCRの抗原特異的活性化に依存しているので、標的腫瘍殺傷を増加させることができる。したがって、少量の抗体で腫瘍細胞を顕著に殺す役割を果たすことができる。
【0053】
(4)BiTEなどの小分子二重特異性抗体と比べて、本開示の前記CD20×CD3 BsAb分子は、抗体のFc領域を含むので、抗体の半減期と安定性を向上させるとともに、既存のモノクローナル抗体の精製技術を利用でき、二重特異性抗体の製造プロセスが簡素化される。
【0054】
(5)CD20を標的としたキメラ抗原受容体T細胞免疫療法(CAR-T)と比べて、本開示は、外因性ウイルス、インビトロT細胞培養及び再注入などの操作を含まず、副作用がより少なく、より安全であり、より制御可能である。
【0055】
(6)本開示は、CD3類二重特異性抗体分子の安全性を改善するためのCD3親和性弱体化の改変に関する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】本開示の前記CD20×CD3 BsAb構造の一例の模式図である。
【
図2】プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって精製されたCD20×CD3 BsAbを示す。そのうち、
図2Aは、CD20×CD3 BsAb V1プロテインAワンステップ精製後の非還元および還元SDS-PAGE電気泳動ゲル図であり、
図2Bは、CD20×CD3 BsAb V2プロテインAワンステップ精製後の非還元および還元SDS-PAGE電気泳動ゲル図であり、
図2Cは、CD20×CD3 BsAb(3本鎖二重特異性抗体、anti-CD20ドメインがscFvであり、anti-CD3ドメインがFabである)プロテインAワンステップ精製後の非還元および還元SDS-PAGE電気泳動ゲル図である。
【
図3】陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)方法によって精製されたCD20×CD3 BsAb V1A280紫外線吸収ピークを示す図である。プロテインA精製後のサンプル(
図2A)を陽イオン交換カラムにローディングし、NaCl勾配によって溶出し、紫外光の280nmでの吸収値を検出することにより溶出したタンパク質を採取した。CD20×CD3 BsAb V1はCEXを介して1つのメイン溶出ピーク(ピークD)と4つの小さな二次溶出ピークを形成した。
【
図4】二重抗体精製の溶出曲線である。(A)濃度が1mg/mLのプロテインA精製サンプル(
図2A)1mLを取り、ゲルろ過クロマトグラフィー(SEC)によりタンパク質ワンステップ精製後サンプルの凝集体含有量を分析する。該図はA280紫外線吸収ピークを示す図である。(B)濃度が1mg/mLのプロテインA精製サンプル(
図2C、lane1)1mLを取り、ゲルろ過クロマトグラフィー(SEC)によりタンパク質ワンステップ精製後サンプルの量体含有量を分析する。該図はA280紫外線吸収ピークを示す図である。
【
図5】CD20×CD3二重特異性抗体の抗原CD3に対する結合能を検出する結果の図である。そのうち、
図5Aは、ELISAによるCD20×CD3 BsAb V1とV2とのCD3抗原分子への親和性の比較、CD3抗原に結合するCD20×CD3 BsAb V1のEC50濃度が0.8178μg/mLであり、CD3抗原に結合するCD20×CD3 BsAb V2のEC50濃度が2.097μg/mlである。
図5Bは、3本鎖二重特異性抗体のCD3抗原分子への結合能力を示す。そのうち、1は、4本鎖二重特異性抗体であり、CD20に結合したドメインがFabであり、CD3に結合したドメインがFabであり、CD3に結合したEC50濃度が4.9μg/mlである。2は、3本鎖二重特異性抗体であり、CD20に結合したドメインがscFvであり、CD3に結合したドメインがFabであり、CD3に結合したEC50濃度が4.9μg/mlである。3は、3本鎖二重特異性抗体であり、CD20に結合したドメインがFabであり、CD3に結合したドメインscFvであり、CD3に結合したEC50濃度が0.6μg/mlである。
【
図6】FACSにより検出されたCD20発現陽性細胞(Raji細胞)へのCD20×CD3 BsAb V1とCD20×CD3 BsAb V2の結合を示す図である。
【
図7】ADCC細胞傷害実験を示す図である。
図7Aと
図7Bは、CD20×CD3 BsAb V1とV2を介した標的細胞(RajiおよびDaudi細胞)への
ADCC活性を検出するための図であり、V1とV2は、CD20の発現が高い腫瘍細胞に対して傷害効果が顕著であり、EC50濃度がいずれも0.2ng/mlである。
図7Cは、CD20×CD3 3本鎖二重特異性抗体を介した標的細胞(Daudi細胞)への傷害
活性を検出するための図であり、そのうち、1は、3本鎖二重特異性抗体であり、CD20に結合したドメインがscFvであり、CD3に結合したドメインがFabである。2は、3本鎖二重特異性抗体であり、CD20に結合したドメインがFabであり、CD3に結合したドメインscFvである。3は、4本鎖二重特異性抗体であり、CD20に結合したドメインがFabであり、CD3に結合したドメインがFabである。
【
図8】タンパク質の熱安定性試験を示す図であり、タンパク質サンプルを37℃と40℃で異なる期間(0日間、1日間、4日間、7日間)置いた場合のタンパク質サンプルのSDS-PAGE電気泳動の図である。
【
図9】CD20×CD3 BsAbサイトカイン放出試験の結果を示す図である。
【
図10】CD20×CD3 BsAbを介したマウスにおける抗腫瘍活性の検出結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、本開示の目的、技術案および利点をよりよく説明するために、添付の図面および具体的な実施形態を参照しながらさらに説明する。さらに、本開示をよりよく理解させるために、以下、関連用語の定義および説明を提供する。
【0058】
BsAb:二重特異性抗体(bispecific antibody)
HC:重鎖(heavy chain)
LC:軽鎖(light chain)
VH:重鎖の可変領域(variable region of heavy chain)
VL:軽鎖の可変領域(variable region of light chain)
CH:重鎖定常領域(constant region of heavy chain)
CL:軽鎖定常領域(constant region of light chain)
CDR:抗原相補性決定領域(complementarity determining region)
scFv:1本鎖の可変領域抗体フラグメント(single-chain variable fragment)
ADCC:抗体依存性細胞介在性細胞傷害(antibody dependent cellular cytotoxicity)
ELISA:酵素免疫測定法(enzyme-linked immunosorbent assay)
FACS:蛍光活性化セルソーティング、即ち、フローサイトメトリー(Fluorescence-activated cell sorting)
EC50:50%効果濃度(half maximal effective concentration)
【0059】
特に断らない限り、本開示において使用される関連用語は、当該技術分野において一般的に理解される用語と同じ意味を有する。本開示に記載の前記分子クローニング、細胞培養、タンパク質精製、免疫学的実験、微生物学、動物モデルなどの試験の操作ステップは、当分野で広く使用されている一般的なステップである。特に断らない限り、本開示における単数形の用語の意味が複数の意味を含み、複数の意味が単数形の意味を含む。特に断らない限り、本開示に記載のヌクレオチド配列は、5’末端から3’末端の方向に左から右に並べて表記する。特に断らない限り、本開示に記載のアミノ酸配列は、アミノ末端(N末端)からカルボキシ末端(C末端)の方向に左から右に並べて表記する。本開示で言及されるアミノ酸の3文字の略語およびヌクレオチドの1文字の略称は、当分野で一般的に受け入れられるものであり、アミノ酸の1文字の略称は、IUPAC-IUB 生化学命名委員会(IUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commission)により推奨されるものである。
【0060】
「アミノ酸」という用語は、天然に存在する20種類のアミノ酸のうちの1つ、または、特定の定義された場所に存在する可能性のある非天然類似体である。本開示に記載の「アミノ酸の変異」という用語は、ポリペプチド配列におけるアミノ酸の置換、挿入、欠失および修飾、ならびにアミノ酸の置換、挿入、欠失および修飾の任意の組み合わせを指す。本発明の好ましいアミノ酸修飾は置換である。本開示において「アミノ酸の置換」または「置換」という用語は、親ポリペプチド配列における特定の位置でのアミノ酸の別のアミノ酸による置換を指す。例えば、置換C220Sとは、ポリペプチドの220位のアミノシステインがアミノ酸セリンで置換されたバリアントポリペプチドを指す。アミノ酸の変異は、分子クローニングまたは化学方法によって達成することができ、分子クローニング法は、PCR、部位特異的変異誘発、全遺伝子合成などを含む。
【0061】
「タンパク質」、「ペプチド鎖」、「ポリペプチド鎖」という用語は、2つ以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合した分子を指し、天然のタンパク質、人工タンパク質、タンパク質断片、突然変異タンパク質、融合タンパク質などが含まれる。
【0062】
「ドメイン」という用語は、生体高分子において独立した機能を有する特定の構造領域である。ドメインは、独立した三次構造を有し、その機能が生体高分子の他の部分に依存していない。本開示におけるドメインは、重鎖の可変領域VHドメイン、軽鎖の可変領域VLドメインなどのタンパク質における領域を指し、ドメインの組み合わせにより大きなドメインを形成できる。
【0063】
「CD3」という用語は、T細胞の表面に発現するT細胞受容体複合体(TCR)の構成成分である分化のクラスター-3タンパク質を指す。それは、CD3δ(ヒトCD3δUniProt Entry No.P0423)、CD3ε(ヒトCD3εUniProt Entry No.P07766)、CD3γ(ヒトCD3γUniProt Entry No.P09693)及びCD3ζ(ヒトCD3ζUniProt Entry No.P20963)の4本のペプチド鎖から構成されるホモロガスまたはヘテロ二量体である。「カニクイザルCD3」、「マウスCD3」のように明示的に指定されない限り、本開示で言及される「CD3」はヒトCD3である。
【0064】
本開示に記載の前記「CD3に結合するポリペプチド鎖」または「CD3に結合する抗体」には、CD3単鎖ユニットに特異的に結合する抗体または抗体フラグメント、ならびにCD3ホモダイマーまたはヘテロダイマーに特異的に結合する抗体または抗体フラグメントが含まれる。本開示に記載の前記CD3に特異的に結合する抗体は、CD3タンパク質分子に結合することができるし、細胞の表面上に発現されるCD3にも結合することができる。
【0065】
「CD20」という用語は、ヒトMS4A1遺伝子によってコードおよび発現されるBリンパ球制限分化抗原(ヒトCD20UniProt Entry No.P11836)を指し、細胞によって自然に発現されるか、トランスフェクトされた外来遺伝子によって発現されるヒトCD20タンパク質のバリアント、サブタイプ、および他の種からの相同タンパク質(カニクイザルCD20タンパク質など)を含む。
【0066】
「抗体」という用語は、少なくとも1つの抗原認識部位を含み、抗原に特異的に結合できる免疫グロブリン分子を指す。ここで、「抗原」は、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、炭水化物、ポリヌクレオチド、脂質、ハプテン、または上記の物質の組み合わせなどの、体内で免疫応答を誘導し、抗体に特異的に結合する物質を指す。抗体と抗原の結合は、両者の相互作用によって媒介されるものであり、水素結合、ファンデルワールス力、イオン結合、疎水性結合などを含む。抗原の表面にある抗体と結合する領域が、「抗原決定基」または「エピトープ」と称され、一般に各抗原には複数の決定基が存在している。本開示で言及される「抗体」は、望ましい生物活性を示す限り、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、抗体フラグメント、少なくとも2つの異なるエピトープ結合ドメインを含む多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、ヒト抗体、ヒト化抗体、翻訳後修飾抗体、ラクダ抗体、キメラ抗体、抗体エピトープを含む融合タンパク質、ならびに抗原認識部位を含むその他の修飾免疫グロブリン分子を含んでよい。具体的には、抗体には、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な断片、すなわち少なくとも1つの抗原結合部位を含む分子が含まれる。
【0067】
天然のヒト抗体の軽鎖は、2つのジスルフィド結合を介して重鎖に共有結合され、重鎖間で形成されたジスルフィド結合によって重鎖-軽鎖二量体が形成され、Yの文字に類似した抗体分子が形成される。異なるタイプのヒト抗体の重鎖間のジスルフィド結合の数は異なる。Yの文字の両アームと胴体の間の領域がヒンジ領域であり、ある程度の柔軟性がある。各抗体ポリペプチド鎖は、可変領域と定常領域を含み、空間的な折り畳みによって異なるドメイン単位を形成する。各軽鎖は、アミノ末端の可変領域ドメインVLとカルボキシ末端の定常領域ドメインCLから構成される。各重鎖は、アミノ末端可変領域ドメインVHと、それに続く3つまたは4つの定常領域ドメイン(CH1、CH2、CH3、CH4)から構成される。
【0068】
抗体の可変領域は、重鎖の可変領域(VH)と軽鎖の可変領域(VL)を含む抗原結合領域であり、VHとVLの構造は類似しており、重鎖と軽鎖の可変領域は、それぞれ3つの相補性決定領域(complementarity determining region、CDR)およびCDRに隣接する4つのフレームワーク領域(framework region、FR)で構成される。フレームワーク領域は、CDRをサポートし、CDR間の空間関係を限定する。可変領域のCDRはシーケンス内で非常に可変であるため、超可変領域(hypervariable region、HVR)とも称され、CDRは、特定の環構造を形成し、抗原認識に直接関与している。可変領域ドメインには、HVRの3つのセグメントが含まれており、VH上のHVRのそれぞれは、H1、H2、H3であり、VL上のHVRのそれぞれは、L1、L2、L3である。重鎖または軽鎖のCDRは、アミノ末端からそれぞれCDR1、CDR2、CDR3と表記される。重鎖と軽鎖の可変領域は、非共有結合で結合しており、重鎖の3つのCDRと軽鎖の3つのCDRにより抗原認識部位を構成している。アミノ酸残基のこの部分は、抗原結合に関与する抗体の本体であり、抗原を認識する抗体の特異性を構成する。
【0069】
「Fab」、「Fab領域」、「Fab断片」または「Fab分子」という用語は、抗原結合フラグメントであり、免疫グロブリン重鎖のVHドメイン、CH1ドメインおよび軽鎖のVLドメイン、CLドメインを含み、重鎖の第1の定常領域ドメインCH1は、軽鎖の定常領域ドメインCLと結合し、重鎖の可変領域ドメインVHは、軽鎖の可変領域ドメインVLと結合する。
【0070】
「Fc」、「Fc領域」、「Fc断片」または「Fc分子」という用語は、CDC、ADCC、ADCP、サイトカイン放出などを引き起こし得る抗体のエフェクター領域である。天然の抗体Fcは、通常、2つまたは3つの免疫グロブリン定常領域ドメインを含む2つの同一のタンパク質フラグメントを組み合わせて構成されている。本開示に記載の前記Fcは、天然型Fcおよび変異型Fcを含む。Fc領域の境界は変化する可能性があるが、ヒトIgG重鎖のFc領域は、通常、C22またはP230からそのカルボキシ末端までの残基を含むと定義される。実験条件下で、免疫グロブリンモノマーのパパイン消化によって生成されるフラグメントは、それぞれFabとFcである。抗体の「ヒンジ」または「ヒンジ領域」という用語は、抗体の第1のおよび第2の定常ドメイン(CH1およびCH2)間のアミノ酸を含む柔軟なポリペプチドを指す。
【0071】
本開示に記載の前記二重特異性抗体に含まれるFcは、ヒト免疫グロブリンFcである。通常、ヒト免疫グロブリンFc領域のポリペプチド配列は、野生型ヒト免疫グロブリンFc領域に由来する。野生型ヒト免疫グロブリンFcは、人類に遍在するアミノ酸配列を指し、特定の個体のFc領域の異なる位置における多型も含まれている。本開示に記載の前記ヒト免疫グロブリンFcは、野生型ヒト免疫グロブリンFcの個別のアミノ酸に行われる変更を含み、例えば、重鎖ヘテロダイマーを形成するために、Fc領域の界面アミノ酸の一部を変更する。
【0072】
特に明記しない限り、本開示に記載の前記抗体可変領域のアミノ酸番号付けは、1991年にKabatらによって記載されたコードスキーム、すなわち「Kabatインデックス」または「Kabat番号付け」を使用する。特に明記しない限り、本開示に記載の前記抗体定常領域のアミノ酸番号付けはEUインデックスを使用する。
【0073】
「抗原結合位点」という用語は、抗原結合分子と直接相互作用する1つまたは複数のアミノ酸残基を指す。抗体の抗原結合部位は、抗原相補性決定領域(CDR)で構成され、天然の免疫グロブリン分子は、通常2つの抗原結合部位を含み、Fab分子は、通常1つの抗原結合部位を含む。
【0074】
「T細胞活性化」という用語は、Tリンパ球、特に傷害性Tリンパ球の増値、分化、サイトカインの放出、キラーエフェクター分子の分泌、細胞傷害などを含む1つ以上の免疫応答を指す。
【0075】
「EC50」即ち50%効果濃度(half maximal effective concentration)は、最大効果の50%に相当する抗体濃度を指す。
【0076】
本明細書で使用される「特異性結合」という用語は、抗体とその標的抗原との間の反応などの、2つの分子間の非ランダム結合反応を指す。いくつかの実施形態では、特定の抗原に特異的に結合する抗体(または特定の抗原に特異的な抗体)は、抗体の比率が約10-5M未満、例えば約10-6M以下、10-7M以下、10-8M以下、10-9Mまたは10-10M未満、またはそれより小さい親和性(KD)が当該抗原に結合することを指す。本開示のいくつかの実施形態において、「ターゲティング」という用語は、特異的結合を指す。
【0077】
本明細書で使用される「KD」という用語は、抗体と抗原との間の結合親和性を説明するための特異的抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を指す。平衡解離定数が小さいほど、抗体と抗原の結合が強くなり、抗体と抗原の間の親和性が高くなる。通常、抗体は、約10-5M未満、例えば約10-6M、10-7M、10-8M、10-9Mまたは10-10M未満、またはそれより小さい解離平衡定数(KD)で抗原に結合している。
【0078】
「1本鎖の可変領域抗体フラグメント」または「scFv」という用語は、免疫グロブリン重鎖の可変領域VHと軽鎖の可変領域VLの融合タンパク質を指し、N末端がVHでありおよびN末端がVLである異なる組み合わせを含み、組換えタンパク質を構築するための従来の分子クローニング法によって調製することができる(Sambrook JF,E.F.et al.Molecular cloning:a laboratory manual.4th ed.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York:2012)。
【0079】
「ヒト化抗体」という用語は、ヒト免疫グロブリン(受容体抗体)のCDR領域の一部または全部を非ヒト抗体(ドナー抗体)のCDR領域で置き換えることによって得られる抗体または抗体フラグメントを指し、ここで、ドナー抗体は、所望の特異性、親和性、または反応性を有する非ヒト(マウス、ラット、またはウサギなど)抗体であり得る。さらに、アクセプター抗体のフレームワーク領域(FR)のいくつかのアミノ酸残基は、抗体の1つまたは複数の特性をさらに改善または最適化するために、対応する非ヒト抗体アミノ酸残基または他の抗体アミノ酸残基で置き換えることもでき、又は他の抗体のアミノ酸残基で置き換えることができる。
【0080】
「二重特異性抗体」という用語は、2つの独立した抗原に結合することができるか、または同じ抗原内の異なるエピトープに対して結合特異性を有することができる抗体分子を指す。例えば、いくつかの実施形態において、例えば、二重特異性抗体分子の一方のアームが腫瘍関連抗原に結合し、他方のアームが免疫細胞関連抗原(例えば、CD3分子)に結合し、このように、腫瘍細胞で細胞性免疫関連メカニズムを活性化および開始することができる。
【0081】
また、二重特異性抗体は、細胞毒素(例えば、放射性同位元素、ビンカアルカロイド、メトトレキサートなど)、放射性同位元素、蛍光標識体、発光物質、発色物質または酵素にカップリングすることができる。いくつかの実施形態において、抗体コンジュゲートを形成するために本開示の抗体または二重特異性抗体にコンジュゲートされる部分は、細胞毒素である。いくつかの実施形態において、前記細胞毒素は、細胞機能を阻害または防止する、および/または細胞破壊を引き起こす物質を指し、小分子細胞毒を含む。いくつかの実施形態において、前記細胞毒素は、コルヒチン、エムタンシン、メイタンシノイド、オーリスタチン、ビンデシン、ツブリシンなどから選択される。いくつかの実施形態において、抗体コンジュゲートを形成するために本開示の抗体または二重特異性抗体に結合される部分は、放射性同位元素である。いくつかの実施形態において、前記放射性同位元素には、例えばAt211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32およびLu的放射性同位元素が含まれる。いくつかの実施形態において、抗体コンジュゲートを形成するために本開示の抗体または二重特異性抗体に結合される部分は、蛍光標識体、発光物質および発色物質、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ルシフェラーゼ(luciferase)、ホースラディッシュペルオキシターゼ(HRP)などから選択される。いくつかの実施形態において、抗体コンジュゲートを形成するために本開示の抗体または二重特異性抗体に結合される部分は、活性フラグメントおよび/またはそれらの変異体を含む、細菌、真菌、植物または動物起源の酵素活性毒素などの酵素である。
【0082】
本開示は、本開示の抗体または抗体フラグメント、二重特異性抗体または抗体コンジュゲート、および任意選択で薬学的に許容されるベクター、界面活性剤および/または希釈剤を含む医薬組成物に関する。いくつかの実施形態において、前記医薬組成物は、本開示の抗体、二重特異性抗体または抗体コンジュゲート以外、1つ以上の追加の治療薬を含む。いくつかの実施形態において、前記追加の治療薬には、化学療法剤、成長阻害剤、細胞毒性剤、放射線療法用の薬剤、抗血管新生剤、アポトーシス剤、抗チューブリン剤、および癌の治療のための他の薬剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0083】
「多重特異性抗体」という用語は、二重特異性、三重特異性、または四特異性抗体を指す。多重特異性抗体は、2つ以上の異なる抗体のフラグメントで構成されているため、2つ、3つ、または4つの異なる抗原に結合することができる。
【0084】
本開示に記載の前記二重特異性抗体は、標準的な実験方法を使用して宿主細胞から抽出および精製することができる。例えば、包含抗体Fc部分的二重特異性抗体は、プロテインAまたはプロテインGアフィニティークロマトグラフィーで精製できる。精製方法には、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換、サイズ排除クロマトグラフィー、およびタンパク質限外濾過が含まれるが、これらに限定されない。本開示に記載の前記二重特異性抗体の分離・精製方法は、上記の方法の組み合わせを含む。本明細書で使用される「精製」という用語は、細胞、細胞培養物または他の天然成分からの標的成分の分離および/または回収を指す。特に明記しない限り、本開示に記載の前記抗体は、すべて精製された抗体である。使用される「単離抗体」という用語は、構造または抗原特異性の異なる他の分子を実質的に含まない抗体であり、二重特異性抗体分子は、他の抗体分子を実質的に含まない単離された抗体である。
【0085】
「宿主細胞」という用語は、外因性核酸が導入される細胞およびその子孫を指し、ポリペプチドをコードするヌクレオチドによる形質転換またはトランスフェクションによって外因性ポリペプチドを発現させることができる。本開示に記載の前記的宿主細胞は、CHO細胞(Chinese hamster ovary cells、チャイニーズハムスター卵巣)、HEK293細胞(Human embryonic kidney cells 293、ヒト胎児腎臓293)、BHK細胞(Baby Hamster Kidney、ベイビーハムスター細胞)、骨髄腫細胞、酵母、昆虫細胞または大腸菌(Escherichia coli)などの原核細胞を含むが、これらに限定されない。なお、本開示に記載の前記「宿主細胞」は、外因性核酸が導入される細胞を誘導するだけでなく、細胞の子孫も含む。子孫細胞が細胞分裂中に突然変異を受けるので、それらは依然として本開示に記載されている用語の範囲内にある。
【0086】
本開示は、これらのポリペプチド鎖をコードする核酸配列をさらに含む。抗体を発現させる過程で、核酸配列を適切なベクターに挿入し、ベクターは、プラスミド、ファージ発現ベクター、コスミド、人工染色体、バクテリオファージ、および動物ウイルスを含むが、これらに限定されない。発現ベクターは、発現を調節するための要素を含み、プロモーター、転写開始配列、エンハンサー、シグナルペプチド配列などを含むが、これらに限定されない。プロモーターは、T7プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーター、β-actinプロモーター、EF-1αプロモーター、CMVプロモーターおよびSV40プロモーターを含むが、これらに限定されない。当分野で知られている適切な方法を使用して、発現ベクターを宿主細胞に移すことができ、このような方法は、リン酸カルシウム沈殿法、リポソームトランスフェクション法、エレクトロポレーション法、PEI(ポリエチレンイミン)トランスフェクション法を含むが、これらに限定されない。
【実施例】
【0087】
実施例1 発現ベクターの構築
(1)CD20×CD3 BsAbの配列設計
本開示の実施形態における二重特異性抗体は、3本または4本のポリペプチド鎖(
図1)を含み、それぞれ、第1の重鎖(その可変領域は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する)、第1の軽鎖(その可変領域は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する)、第2の重鎖(その可変領域は、配列番号6
又は8に示されるアミノ酸配列を有する)、第2の軽鎖(その可変領域は、配列番号10に示されるアミノ酸配列を有する)及びscFv-Fc鎖(配列番号11、配列番号12、配列番号13または配列番号14に示されるアミノ酸配列を有し、あるいはその可変領域は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8または配列番号10に示されるアミノ酸配列を有する)として名付けられており、一つのCD20に特異的に結合する免疫グロブリンドメイン、一つのCD3に特異的に結合する免疫グロブリンドメイン、および一つのヘテロ二量体Fc領域を形成している。2本の重鎖の相互作用または1本の重鎖とscFv-Fc鎖との相互作用は、ヘテロダイマーの形態を構成し、前記のヘテロダイマーFc領域を形成している。
【0088】
ヒトCD20の細胞外領域に特異的に結合する二重特異性抗体の可変領域は、VH1とVL1で構成され(
図1)、この配列は、完全ヒトモノクローナル抗体オファツムマブ(Ofatumumab)(特許番号:US2014093454A1)に由来する。
【0089】
ヒトCD3の細胞外領域に特異的に結合する二重特異性抗体の可変領域は、VH2とVL2で構成され(
図1)、この配列は、特許(特許番号:CN201810263832.0)に開示されているマウスモノクローナル抗体のヒト化配列に由来する。
【0090】
CDR領域の脱アミノ化については、抗体の安定性と酸塩基ピークの比率に影響を与え、この開示のVH2のCDR3には、潜在的な脱アミノ化部位が含まれている(VH2-CDR3の元の配列がHGNFGNSYVSWFAである)。いくつかの実施形態において、アミノ酸変異による潜在的な脱アミノ化を排除する。脱アミノ化変異のないVH2-CDR3を含むCD20×CD3BsAb(VH2-CDR3配列がHGNFGNTYVSWFAである)をV1と名付け、N106T変異のあるVH2-CDR3を含むCD20×CD3BsAb(VH2-CDR3配列がHGNFGTSYVSWFA)をV2と名付ける。発現および精製後(実施例2と実施例3)、変異体V1とV2のCD3抗原結合能力(実施例4)および腫瘍傷害試験(実施例5)を検証した。
【0091】
抗体のFc部分は、公開されたPCT出願であるWO2017034770A1の方法に従って修飾された。一方の重鎖のFc部分には、P395K、P396K、V397Kという変異があり、変異はOA(配列番号1)とラベル付けられた。もう一方の重鎖のFc部分には、T394D、P395D、P396Dという変異があり、変異は、OB(配列番号7)とラベル付けられ、これによって、重鎖ヘテロ二量体を形成する。
【0092】
(2)発現プラスミドの分子クローニング
一般的な分子クローニング法を用いて、第1の重鎖核酸配列および第1の軽鎖核酸配列を人工合成した(Sambrook JF,E.F.et al.Molecular cloning:a laboratory manual.4th ed.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York:2012)。抗第1の軽鎖は、改変プラスミドpCDNA3.1(+)(Invitrogen、カタログ番号V790-20)にクローン化された。当該プラスミドは、マルチクローニングサイトのN末端にヒトインターロイキン-2(IL-2、Interleukin-2)シグナルペプチド配列を付加して、HEK293細胞で抗体を発現および分泌できるように改変されており、pCDNA3.1-CD20-LCとラベル付けられた発現プラスミドが得られた。第1の重鎖重鎖は、プラスミドpFUSE-hIgG1-Fc2(InvivoGene)にクローン化され、pFUSE-CD20-HC-OBとラベル付けられた発現プラスミドが得られた。
【0093】
一般的な分子クローニング法を用いて、第2の重鎖核酸配列および第2の軽鎖核酸配列を人工合成した。抗第2の軽鎖は、改変プラスミドpCDNA3.1(+)(Invitrogen、カタログ番号V790-20)にクローン化された。当該プラスミドは、マルチクローニングサイトのN末端にヒトインターロイキン-2(IL-2、Interleukin-2)シグナルペプチド配列を付加して、HEK293細胞で抗体を発現および分泌できるように改変されており、pCDNA3.1-CD3-LCとラベル付けられた発現プラスミドが得られた。第2の重鎖は、プラスミドpFUSE-hIgG1-Fc2(InvivoGene)にクローン化され、pFUSE-CD3-HC-OAおよびpFUSE-CD3-HC-OA-N106T(VH2-CDR3がN106T変異を含む)とラベル付けられた発現プラスミドが得られた。
【0094】
実施例2 二重特異性抗体の一過性トランスフェクションと発現
エンドトキシンフリープラスミド大規模抽出キット(Endo-Free-Plasmid Maxi Kit(100)、OMEGA社から購入、カタログ番号D6926-04)を使用して、大規模なプラスミド抽出を行った。その操作は、キットに記載されている手順に従って実行された。HEK293細胞を細胞密度が2.0~3.0×106/mLまで培養し、細胞懸濁液を1000rpmで5分間遠心分離した。古い培養上清を廃棄し、細胞を新しい培地(OPM-291CD05Medium、Shanghai Optima Biotech Co.,Ltd.から購入)で密度が1.0×106/mLとなるように細胞を再懸濁した。表1に示すプラスミド組み合わせに従ってコトランスフェクションを行い、トランスフェクトした細胞懸濁液を37℃、5%CO2、120rpmの培養シェーカーに5~7日間暗所に置き、4日目にフィードを追加した。
【0095】
【0096】
実施例3 二重抗体の精製
遠心分離により発現上清を回収し、0.22μmフィルターメンブレンで細胞上清をろ過し、バランスの取れたプロテインAアフィニティークロマトグラフィーフィラー(MabSelect SuRe
TM、GE Healthcare社から購入、カタログ番号17-5438-02)を使用して、上清におけるBsAbタンパク質を捕捉し、非特異的に結合したタンパク質を平衡化バッファー(137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na
2HPO
4、1.8mM KH
2PO
4)で洗い流した後(約10カラム容量)、溶出バッファー(100mMグリシン、pH 3.0-pH 3.5)で5~10カラム容量を溶出し、溶出液を回収し、中和バッファー(1M Tris-HCl、pH9.0)でpHを中性に調整した。溶出したタンパク質をSDS-PAGEで分析した。
図2におけるAと
図2におけるBは、4本鎖二重特異性抗体がプロテインAによってワンステップで精製された後、V1とV2の両方が高純度に達することができることを示しており、還元電気泳動は、2つの重鎖と2つの軽鎖の比率が1:1:1:1に近いことを示した。
図2におけるCは、3本鎖二重特異性抗体のプロテインAのワンステップ精製が行われた後、3本鎖二重特異性抗体の純度が非常に高くなったことを示しており、還元電気泳動は、重鎖、軽鎖、およびscFv-Fc鎖の比率が1:1:1に近いことを示した。
【0097】
次に、AKTAピュア25L1タンパク質精製システムを使用して、プロテインAの溶出後に得られたタンパク質をさらに精製して、溶出したサンプルを、平衡化した陽イオン交換カラムにロード(プレパックカラムResource
TMS、1mL,GE Healthcare、カタログ番号17-1178-01)し、平衡バッファーA(50mMリン酸ナトリウム、pH6.0)でUV吸収線が穏やかになるまで、非特異的に結合したタンパク質を洗い流し、溶出バッファーB(50mM リン酸ナトリウム、1M NaCl、pH 6.0)で15カラム容量を0%~50%から直線的に溶出し、溶出ピークを回収した。
図3は、溶出曲線を示す。
【0098】
1mLのプロテインA精製サンプル(濃度が1mg/mL)を取り、AKTAピュア25L1タンパク質精製システムの1mLローディングループで平衡化されたモレキュラーシーブプレパックカラム(Superdex200 10/300GL increase、GE Healthcare、カタログ番号28-9909-44)にサンプルをロードし、平衡バッファー(1×PBSバッファー:137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na
2HPO
4、1.8mM KH
2PO
4)で1.5カラム容量を溶出し、溶出ピークを回収した。
図4は、溶出曲線を示す。SEC分析では、CD20×CD3 BsAb V1サンプルがワンステップ精製(プロテインA)で精製されると、凝集体が非常に少なくなり、モノマー含有量が99%を超えていることが示された。
【0099】
実施例4 抗体結合の活性検出(ELISA)
(1)抗原CD3に対するCD20×CD3二重特異性抗体の結合能を検出するためのELISA
CD20×CD3BsAbの抗原結合能を検証するために、精製された二重特異性抗体を使用して、ELISAによって抗原-CD3結合を検出した。具体的な手順は次のとおりである。
【0100】
1)本実験で使用したCD3抗原は、Sino Biological Companyから購入したヒトCD3eタンパク質とヒトCD3dタンパク質の1:1混合物であった。
【0101】
2)抗原コーティング
0.1M重曹緩衝液(pH 9.5)で抗原を100ng/mLに希釈した。希釈した抗原を酵素標識プレートにウェルあたり200μLずつ加え、反応ウェルをシーリングフィルムでシールし、4℃で16時間置いた。プレートを0.05%PBSTで5回洗浄した。
【0102】
3)ブロッキング
脱脂粉乳とPBSバッファーで3%M-PBSブロッキング溶液を調製し、各ウェルに300μLの3%M-PBSを加え、シーリングフィルムで反応ウェルを密閉し、室温で1時間インキュベートした。プレートを0.05%PBSTで5回洗浄した。
【0103】
4)サンプルの追加
二重抗体サンプルをPBSで10μg/mlに希釈し、次に4倍勾配希釈で合計8つの濃度にした。希釈したサンプルを100μL/ウェルで加え、抗体濃度ごとに2つの複製ウェルを作成した。反応ウェルをシーリングフィルムでシールし、室温で1.5時間インキュベートした。プレートを0.05%PBSTで5回洗浄した。
【0104】
5)二次抗体の追加
HRP標識ヤギ抗ヒトIgG(Goat Anti-Human IgG)(H+L)(proteintech社から購入、カタログ番号SA00001-17)をPBSで1:2000に希釈した。各ウェルに100μLを加え、反応ウェルをシーリングフィルムでシールし、室温で1時間インキュベートした。プレートを0.05%PBSTで5回洗浄した。
【0105】
6)発色
各ウェルに100μLのTMB発色溶液を加え、室温および暗所で5~10分間インキュベートした。
【0106】
7)終了
50μLの停止液(1M HCl)を各ウェルに加えて色反応を終了させた。3分後、マイクロプレートリーダーで450nMの各ウェルの反応溶液のOD値を読み取った。
【0107】
8)データ分析
ソフトウェアGraphPad Prism 5を使用したデータ処理を行った後、log(サンプル濃度)を横軸とし、OD450を縦軸とする曲線を作成し、EC50データを取得した。
【0108】
図5に示すように、CD3抗原に結合するCD20×CD3 BsAb V1のEC50濃度が0.8178μg/mLであり、CD3抗原に結合するCD20×CD3 BsAb V2のEC50濃度が2.097μg/mlであり、V2のCD3抗原への結合力が弱くなり、したがって、N106Tの導入によりCD3に対する抗体の親和性が弱くなることを示した。実際の応用で、この機能は、T細胞の過剰な活性化を回避することに寄与できる。
【0109】
(2)FACSによる二重抗体サンプルのCD20陽性細胞との親和性の検出
本開示において、Raji細胞は、CD20発現陽性およびCD3発現陰性細胞(即ち、CD20+/CD3-)として使用される。Raji細胞を37°C、5%CO2インキュベーターで培養して、プーリング度が80%-90%になるとき細胞を回収した。同時に、CD20×CD3 BsAb V1とV2サンプルを20μg/mLに希釈して使用した。細胞を1%FBSを含むPBS緩衝液で2回洗浄し、細胞を1×107細胞/mLに再懸濁した。1.5mLの遠心チューブを取り、上記の細胞懸濁液100μLを各チューブに加え、希釈したサンプル100μLを加えた。よく混ぜ、氷上で1時間インキュベートした。遠心分離(400g、5分)し、上清を捨て、1%FBS/PBSバッファーを1mL加えて細胞を洗浄し、2回洗浄した。PE標識ヤギ抗ヒトIgG Fc(Invitrogen、Cat.12-4998-82)で細胞を再懸濁し、暗所で氷上で1時間インキュベートした。再度遠心分離(400g、5分)し、上清を捨て、1mLの1%FBS/PBSバッファーを加えて細胞を洗浄し、2回洗浄した。最後に、細胞を200μLの1%FBS/PBSバッファーで再懸濁し、サンプルとRaji細胞の結合活性をフローサイトメトリーで検出した。
【0110】
平均蛍光強度に基づいて、ソフトウェアGraphpad Prism 5.0を使用して、二重抗体サンプルのRaji細胞への結合活性を計算および分析した。
【0111】
図6に示すように、CD20×CD3 BsAb V1およびV2は、CD20陽性細胞Rajiと同じ結合活性を持っている。
【0112】
実施例5 CD20×CD3二重特異性抗体を介したインビトロ細胞毒性の検出
細胞レベルで腫瘍細胞に対するCD20×CD3BsAbV1およびV2の傷害活性をさらに比較するために、本開示は、精製された二重抗体サンプルに対してADCC毒性試験を実施した。
【0113】
具体的な手順は、次のとおりである。
【0114】
本開示において、Raji細胞は、CD20陽性腫瘍細胞として使用される。Raji単細胞の懸濁液を調整した。10%FBSを含むフェノールレッドを含まないRPMI1640培地で細胞密度を0.40×106/mLに調整し、96ウェルプレートに50μL/ウェルで入れ、2.0×104細胞/ウェルにした。この実験では、Raji細胞数の20倍のPBMC、つまり4.0×105細胞/ウェル、100μL/ウェルを加入し、細胞密度を4.0×106/mLに調整した。フェノールレッドを含まない10%FBS-RPMI 1640培地で抗体を0.1μg/mLに希釈してから、抗体を1:4の比率で希釈し、それぞれ100ng/mL、25ng/mL、6.25ng/mL、1.56ng/mL、0.39ng/mL、0.10ng/mL、0.02ng/mL、0.006ng/mLの10個の濃度の抗体を得た。実験計画によれば、50μL/ウェルの対応する抗体を添加し、添加する必要のないウェルに、10%FBSを含む同量のフェノールレッドを含まないRPMI1640培地を補充した。細胞と抗体を混合した後、5%CO2インキュベーター内で37°Cで一晩インキュベートした。約20時間後、乳酸脱水素酵素細胞毒性キット(Beyotimeから購入)を用いて細胞の毒性を検出し、さらにCD20×CD3 BsAbの傷害活性を検出した。
【0115】
計算式
傷害率(%)=(ODサンプル-S自発的)/(Max-S自発的)×100%
ただし、S自発的=OD自発放出ウェル(標的細胞+エフェクター細胞)、Max=OD最大放出ウェル(標的細胞)。
【0116】
図7に示すように、精製されたCD20×CD3 BsAb V1およびV2二重特異性抗体は、
いずれもPBMCを効果的に媒介して、CD20陽性腫瘍Raji細胞を殺した。腫瘍細胞は、その傷害能力が顕著であり、EC50濃度がそれぞれ0.21ng/mLと0.24ng/mlである。CD20×CD3 BsAb V2は、CD3に対して弱い親和性を示したが、標的細胞Rajiの傷害
活性には影響しなかった。
【0117】
実施例6 抗体安定性実験
プロテインAで精製したCD20×CD3BsAbV1サンプルを37°Cおよび40°Cに置いた。放置時間は、0d、1d、4d、7dを含む。異なる放置時間のサンプルをSDS-PAGEで分析し、異なる温度での抗体の分解と安定性を検出した。その結果として、V1サンプルが37°Cと40°Cで少なくとも7日間安定していることを示した。
【0118】
実施例7 サイトカイン放出の検出
本開示は、サイトカインの放出に対する二重特異性抗体の効果を決定するために、PBMC細胞を使用した。PBMC細胞をPBSで洗浄し、各ウェルに2×10
5個の細胞が含まれるように細胞密度を調整し、抗体を1640培地で0.25μg/mLに希釈し、勾配で希釈し、上記のウェルにそれぞれ添加した。96ウェルプレートを37℃、5%CO
2培養インキュベーターに41時間培養した。二重抗体サンドイッチELISA法を使用して、サンプルにおけるサイトカインの濃度を検出した。具体的な方法は、次のとおりである。PBMC細胞を含む96ウェルプレートを1000rpmで5分間遠心分離し、上清を取り、対応するウェルに80μL/ウェルで加え、反応ウェルをパラフィルムでシールし、室温で120分間インキュベートした。プレートを5回洗浄し、100μL/ウェルのビオチン化抗体を加え、反応ウェルをパラフィルムでシールし、室温で60分間インキュベートした。プレートを5回洗浄し、100μL/ウェルのHRP-ストレプトアビジンを加え、反応液をパラフィルムで十分にシールし、室温で10~20分間暗所でインキュベートした。プレートを5回洗浄し、100μL/ウェルの現像剤TMB溶液を加え、反応をパラフィルムで十分にシールし、暗所で室温で20分間インキュベートした。50μL/ウェルの停止液を加え、均一に混合したあとすぐにマイクロプレートリーダーを使用して、450nmでの吸光度値を検出した。実験の結果は、
図9A~9Bに示される。
【0119】
CD20×CD3 BsAb V1、CD20×CD3 BsAb V2、CD3モノクローナル抗体、IgGおよびさまざまな健康なドナーから
のPBMCを使用して、一晩インキュベートした。上清を取り、上記のELISAサンドイッチ法実験を行ってサイトカインIL-6およびIL-2の放出を検出し、T細胞
が活性化されて
サイトカイン放出を引き起こすかどうかを確認した。実験の結果として、標的細胞
(PBMCのうちのB細胞)の存在下で、CD20×CD3 BsAb V1およびCD20×CD3 BsAb V2抗体によっ
て、IL-
2の放出が引き起こされたが(図9A)、IL-6の放出
が引き起こされていなく、放出量は、CD3モノクローナル抗
体よりも低
い(図9B)。V2によ
るIL-6の
放出量が
最も少ない。
また、V2のCD3結合ドメインは、N106T変異を含み、CD3に対して低親和性を示す。その結果、本開示のCD20×CD3 BsAb特にV2
により、比較的低レベルのT細胞
の活性化
のみが引き起こさ
れる。本開示のCD20×CD3二重抗体がCD20陽
性のB細胞腫瘍を治療するために臨床的に使用される場合、サイトカインストームの発生を減少させることができ、抗体使用の安全性を
効果的に改善することができる。
【0120】
実施例8 マウスにおける抗腫瘍活性の検出
CD20×CD3BsAbのinvivo薬力学的評価は、CD20の陽性発現を伴う皮下異種移植Raji細胞腫モデルに基づいて完了した。
【0121】
動物モデルの構
築
対数増殖期のRaji細胞を採取し
、PBMCと混合し、NOD-SCIDマウスの背中の皮下に接種し、対照群と治療群にランダムに分けられた。治療は、分けられた群に対して、本開示の二重特異性抗体CD20×CD3 BsAb V1を、低用量(0.01mg/kgと0.05mg/mL)、中用量(0.1mg/kgと0.5mg/mL)及び高用量(2mg/kg)で1日目、3日目、5日目、および8日目に1回投与するように行われた。陰性対照群に対して等量の滅菌生理食塩水を与えた。グループ化(即ち、初回投与前)の際に1回、投与後週に2回、安楽死前に1回、それぞれ腫瘍の長径と短径を測定して記録し、腫瘍体積を計算し、腫瘍体積に基づいて腫瘍成長曲線を描き、グループ間の腫瘍成長曲線の相違を比較した。次の式に従って腫瘍体積を算出した。V=1/2×長径×短径2。
図10は、時間の経過に伴う腫瘍体積の曲線を示す。腫瘍体積を週に2回測定し、マウスの体重変化を記録した。実験後、腫瘍を剥がして重さを量った。
【0122】
図10に示すように、CD20×CD3 BsAb V1(2mg/kg、0.5mg/kg、0.1mg/kg、0.05mg/kg、0.01mg/kg)治療群は、治療開始から21日後に有意な抗腫瘍効果を示した。すべての治療群は、薬物治療による動物の死亡、明らかな薬物毒性、および重度の体重減少がなく、投与期間中の忍容性が良好であった。
【0123】
上記の実施形態は、本開示の技術案を説明するためのもの過ぎず、本開示の保護範囲を限定するものではない。本開示について、好ましい実施形態を参照しながら詳細に説明したが、当業者は、本開示の技術案の本質および範囲から逸脱しない範囲内で、本開示の技術案を修正または均等に置き換えることができる。
<付記>
本発明の態様は以下を含む。
<項1>
CD20に結合可能なドメイン、CD3に結合可能なドメイン及びヘテロ二量体Fc領域を含み、
前記CD20に結合可能なドメイン及びCD3に結合可能なドメインは、それぞれ独立してFab領域、ScFv領域またはsDab領域から選択されることを特徴とする二重特異性抗体。
<項2>
前記CD20に結合可能なドメインは、第1の免疫グロブリンFab領域を含み、前記第1の免疫グロブリンFab領域は、主に互いに結合された第1の重鎖と第1の軽鎖とにより形成され、前記第1の重鎖の可変領域は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有し、前記第1の軽鎖の可変領域は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有し、
および/または、前記CD3に結合可能なドメインは、第2の免疫グロブリンFab領域を含み、前記第2の免疫グロブリンFab領域は、主に互いに結合された第2の重鎖と第2の軽鎖とにより形成され、前記第2の重鎖の可変領域は、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有し、前記第2の軽鎖の可変領域は、配列番号10に示されるアミノ酸配列を有し、
前記ヘテロ二量体Fc領域は、2つのポリペプチド鎖により構成され、各ポリペプチド鎖は、反対の電荷を持つ非対称アミノ酸修飾を含む
ことを特徴とする項1に記載の二重特異性抗体。
<項3>
前記第1の重鎖のCH1部分および第1の軽鎖のCL部分は、いずれも天然のシステイン残基を置き換える非システイン残基と、非天然のシステインを置き換えるシステイン残基を含むことを特徴とする項2に記載の二重特異性抗体。
<項4>
前記第1の重鎖のCH1部分の、天然のシステイン残基を置き換える非システイン残基と、第1の軽鎖のCL部分の、非天然のシステイン残基を置き換えるシステイン残基とは、ジスルフィド結合を形成していることを特徴とする項3に記載の二重特異性抗体。
<項5>
前記第1の重鎖のCH1部分の、天然のシステイン残基を置き換える非システイン残基がC220Sであり、非天然のシステイン残基を置き換えるシステイン残基がL128Cであることを特徴とする項3または項4に記載の二重特異性抗体。
<項6>
前記第1の軽鎖のCL部分の、天然のシステイン残基を置き換える非システイン残基がC214Sであり、非天然のシステイン残基を置き換えるシステイン残基がF118Cであることを特徴とする項3~項5のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
<項7>
前記第2の免疫グロブリンFab領域は、天然のシステイン残基を置き換える非システイン残基を含まず、且つ非天然のシステイン残基を置き換えるシステイン残基を含まないことを特徴とする項2~項6のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
<項8>
前記CD20に結合可能なドメインは、第1の免疫グロブリンFab領域を含み、前記CD3に結合可能なドメインは、第2の免疫グロブリンFab領域を含み、前記第1の重鎖と第2の重鎖が互いに結合してヘテロ二量体Fc領域を形成することを特徴とする項2~項7のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
<項9>
前記第1の重鎖と第2の重鎖は、ヒト抗体IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4に由来することを特徴とする項8に記載の二重特異性抗体。
<項10>
前記第1の重鎖は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有し、第1の軽鎖は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有し、前記第2の重鎖は、配列番号5または配列番号7に示されるアミノ酸配列を有し、第2の軽鎖は、配列番号9に示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする項8に記載の二重特異性抗体。
<項11>
前記CD20に結合可能なドメインは、第1の免疫グロブリンFab領域を含み、前記CD3に結合可能なドメインは、scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖を含み、前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖のscFv領域の重鎖の可変領域は、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖の可変領域は、配列番号10に示されるアミノ酸配列を有し、前記第1の重鎖と前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖が互いに結合してヘテロ二量体Fc領域を形成し、
又は、前記CD20に結合可能なドメインは、scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖を含み、CD3に結合可能なドメインは、第2の免疫グロブリンFab領域を含み、前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有し、軽鎖の可変領域は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有し、前記第2の重鎖と前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖が互いに結合してヘテロ二量体Fc領域を形成する
ことを特徴とする項2に記載の二重特異性抗体。
<項12>
前記CD20に結合可能なドメインは、第1の免疫グロブリンFab領域を含み、前記CD3に結合可能なドメインは、scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖を含み、前記第1の重鎖の可変領域は、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有し、前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖のscFv領域は、配列番号11に示されるアミノ酸配列を有し、前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖の重鎖の可変領域CDR3は、N106T変異を含み、変異後のCDR3配列がHGNFGTSYVSWFAである
ことを特徴とする項11に記載の二重特異性抗体。
<項13>
前記CD20に結合可能なドメインが第1の免疫グロブリンFab領域を含み、前記CD3に結合可能なドメインがscFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖を含む場合、前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖のscFv領域の可変領域は、配列番号6または配列番号10に示されるアミノ酸配列を有し、
前記CD20に結合可能なドメインがscFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖を含み、CD3に結合可能なドメインが第2の免疫グロブリンFab領域を含む場合、前記scFv-Fc融合タンパク質のポリペプチド鎖のscFv領域は、配列番号12、配列番号13、配列番号14に示されるアミノ酸配列を有し、またはその可変領域は、配列番号4または配列番号8に示されるアミノ酸配列を有する
ことを特徴とする項11に記載の二重特異性抗体。
<項14>
カップリング物質と項1~項13のいずれか1項に記載の二重特異性抗体とがカップリングすることにより形成されることを特徴とする抗体コンジュゲート。
<項15>
前記カップリング物質は、細胞毒素、放射性同位元素、蛍光標識体、発光物質、発色物質または酵素であることを特徴とする項14に記載の抗体コンジュゲート。
<項16>
項1~項13のいずれか1項に記載の二重特異性抗体を含むことを特徴とする医薬組成物。
<項17>
腫瘍、関節リウマチ、多発性硬化症または全身性エリテマトーデスを治療する医薬品または医薬組成物の調製における項1~項13のいずれか1項に記載の二重特異性抗体の使用。
<項18>
前記腫瘍は、CD20発現に関連する悪性腫瘍であることを特徴とする項17に記載の使用。
<項19>
前記悪性腫瘍は、急性Bリンパ性白血病、びまん性大B細胞リンパ腫、慢性リンパ芽球性白血病、濾胞性リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、慢性骨髄性白血病またはバーキットリンパ腫であることを特徴とする項18に記載の使用。
<項20>
項1~項13のいずれか1項に記載の二重特異性抗体を調製するための方法において、項1~項13のいずれか1項に記載の二重特異性抗体をコードするヌクレオチドを基本ベクターに連結してなる発現ベクターを構築するステップ(a)と、
ステップ(a)で構築された発現ベクターを宿主細胞にトランスフェクトまたは形質転換し、宿主細胞を培養するステップ(b)と、
前記二重特異性抗体を分離および精製するステップ(c)と、を含む方法。
<項21>
前記二重特異性抗体を分離および精製するための方法は、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー、陽イオン交換法または陰イオン交換法である、項20に記載の方法。
【産業上の利用可能性】
【0124】
(1)モノクローナル抗体と比べて、本開示に記載の前記CD20×CD3 BsAb分子は、腫瘍細胞の表面抗原に結合することができるとともに、T細胞の表面CD3分子にも結合することができる。さらに、TCRの抗原特異的活性化に依存しているので、標的腫瘍殺傷を増加させることができる。したがって、少量の抗体で腫瘍細胞を顕著に殺す役割を果たすことができる。
【0125】
(2)BiTEなどの小分子二重特異性抗体と比べて、本開示のCD20×CD3 BsAb分子は、抗体のFc領域を含むので、抗体の半減期および安定性を向上させるとともに、既存のモノクローナル抗体精製技術を利用でき、二重特異性抗体の製造プロセスが簡素化される。
【0126】
(3)CD20を標的としたキメラ抗原受容体T細胞免疫療法(CAR-T)と比べて、本開示は、外因性ウイルス、インビトロT細胞培養および再注入などの操作を含まず、副作用がより小さく、より安全であり、より制御可能である。
【配列表】