(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】抗体の作製方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20231206BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20231206BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20231206BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
C07K16/46
C12P21/08
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2021565744
(86)(22)【出願日】2020-05-07
(86)【国際出願番号】 US2020031914
(87)【国際公開番号】W WO2020227554
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-01-04
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジョシ, カマル キショール
(72)【発明者】
【氏名】カーター, ポール ジェー.
(72)【発明者】
【氏名】イン, イーユアン
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-500024(JP,A)
【文献】特表2016-508117(JP,A)
【文献】特表2018-516546(JP,A)
【文献】BRINKMANN, U., et al.,"The making of bispecific antibodies.",MABS,2017年,Vol.9, No.2,pp.182-212,DOI: 10.1080/19420862.2016.1268307
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12P 21/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体の重鎖と軽鎖との優先的対合を改善する方法であって、軽鎖可変ドメイン(V
L)の94位またはV
Lの96位の少なくとも1つのアミノ酸を、非荷電残基から、アスパラギン酸(D)、アルギニン(R)、グルタミン酸(E)およびリジン(K)からなる群から選択される荷電残基に置換するステップを含み、アミノ酸番号付けはKabatに従って
おり、
(i)前記94位のアミノ酸がDに置換される、
(ii)前記96位のアミノ酸がRに置換される、または、
(iii)前記94位のアミノ酸がDに置換され、かつ、前記96位のアミノ酸がRに置換される、
方法。
【請求項2】
前記94位のアミノ酸がDに置換される、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記96位のアミノ酸がRに置換される、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記94位のアミノ酸がDに置換され、
かつ、前記96位のアミノ酸がRに置換される、請求項1から
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
重鎖可変ドメイン(V
H)の95位のアミノ酸が、非荷電残基から、アスパラギン酸(D)、アルギニン(R)、グルタミン酸(E)およびリジン(K)からなる群から選択される荷電残基に置換され、アミノ酸番号付けはKabatに従っている、請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記V
Lの前記94位のアミノ酸がDに置換され、前記V
Lの前記96位のアミノ酸がRに置換され、
かつ、前記V
Hの前記95位のアミノ酸がDに置換される、請求項1から
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体を少なくとも1つの親和性成熟ステップに供することをさらに含み、前記V
Lの前記94位の置換されたアミノ酸がランダム化されていない、請求項1から
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記V
Lの前記96位の置換されたアミノ酸がランダム化されていない、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記V
Hの前記95位の置換されたアミノ酸がランダム化されていない、請求項
7または
8に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体が、Fab、Fab’、F(ab’)
2、1アーム抗体、およびscFvからなる群から選択される抗体断片、またはFvである、請求項1から
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記抗体が、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体である、請求項1から
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記抗体が、ヒトIgG Fc領域を含む、請求項1から
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ヒトIgG Fc領域が、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3またはヒトIgG4 Fc領域である、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体が単一特異性抗体である、請求項1から
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記抗体が多重特異性抗体である、請求項1から
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記多重特異性抗体が二重特異性抗体である、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
前記二重特異性抗体が、第1のC
H2ドメイン(C
H2
1)、第1のC
H3ドメイン(C
H3
1)、第2のC
H2ドメイン(C
H2
2)および第2のC
H3ドメインを含み、
C
H3
2が、C
H3
1/C
H3
2界面内で、1つ以上のアミノ酸残基が、より大きな側鎖体積を有する1つ以上のアミノ酸残基に置換され、それにより、C
H3
1と相互作用するC
H3
2の表面上に突起を生成するように変更され、かつ
C
H3
1が、C
H3
1/C
H3
2界面内で、1つ以上のアミノ酸残基が、より小さい側鎖体積を有する置換されたアミノ酸残基に置換され、それにより、C
H3
2と相互作用するC
H3
1の表面上に空洞を生成するように変更される、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
前記二重特異性抗体が、第1のC
H2ドメイン(C
H2
1)、第1のC
H3ドメイン(C
H3
1)、第2のC
H2ドメイン(C
H2
2)および第2のC
H3ドメインを含み、
C
H3
1が、C
H3
1/C
H3
2界面内で、1つ以上のアミノ酸残基が、より大きな側鎖体積を有する1つ以上のアミノ酸残基に置換され、それにより、C
H3
2と相互作用するC
H3
1の表面上に突起を生成するように変更され、かつ
C
H3
2が、C
H3
1/C
H3
2界面内で、1つ以上のアミノ酸残基が、より小さい側鎖体積を有する置換されたアミノ酸残基に置換され、それにより、C
H3
1と相互作用するC
H3
2の表面上に空洞を生成するように変更される、請求項
16に記載の方法。
【請求項19】
前記突起がノブ変異である、請求項
17または
18に記載の方法。
【請求項20】
前記ノブ変異がT366Wを含み、アミノ酸番号付けがEUインデックスに従っている、請求項
19に記載の方法。
【請求項21】
前記空洞が、ホール変異である、請求項
17から
20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記ホール変異が、T366S、L368AおよびY407Vのうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つ全てを含み、アミノ酸番号付けがEUインデックスに従っている、請求項
21に記載の方法。
【請求項23】
請求項1から
22のいずれか一項に記載の方法によって
抗体の重鎖と軽鎖との優先的対合を改善することを含む、抗体
を製造するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年5月9日に出願された米国仮特許出願第62/845,594号に対する優先権を主張するものであり、その開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。
ASCIIテキストファイルでの配列表の提出
【0002】
ASCIIテキストファイルでの以下の提出内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる:コンピュータ可読形態(computer readable form:CRF)の配列表(ファイル名:146392047740SEQLIST.TXT、データ記録日:2020年5月4日、サイズ:9KB)。
【背景技術】
【0003】
ヒト疾患の治療剤としての二重特異性抗体の開発は、大きな臨床的可能性を有する。しかしながら、抗体重鎖が比較的無差別な様式で抗体軽鎖に結合するように進化しているので、IgG形式の二重特異性抗体の産生は困難であった。この無差別な対合の結果として、単一細胞における2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖の同時発現は、天然では、例えば、重鎖ホモ二量体化および重鎖/軽鎖の対合のスクランブルをもたらす。
【0004】
「ノブ・イントゥ・ホール(knobs-into-hole)」として知られる重鎖ホモ二量体化の問題を回避するための1つのアプローチは、接触界面を改変するためにCH3ドメインに突然変異を導入することによって2つの異なる抗体重鎖の対合を強制することを目的としている。1つの重鎖上で、元のアミノ酸を、短側鎖を有するアミノ酸に置換して「ホール」を作製した。逆に、大きな側鎖を有するアミノ酸を他のCH3ドメインに導入して、「ノブ」を作製した。これらの2つの重鎖(および両方の重鎖に対して適切でなければならない2つの同一の軽鎖)を共発現させることにより、ホモ二量体形成(「ホール-ホール」または「ノブ-ノブ」)に対するヘテロ二量体形成(「ノブ-ホール」)の高収率が観察された(Ridgway,J.B.,Protein Eng.9(1996)617-621、Merchant et al「An efficient route to human bispecific IgG」.Nat Biotechnol.1998、16:677-81、Jackman et al.「Development of a two-part strategy to identify a therapeutic human bispecific antibody that inhibits IgE receptor signaling.」J Biol Chem.2010、285:20850-9、および国際公開第96/027011号)。
【0005】
重鎖/軽鎖のスクランブルを最小限に抑えることは、抗体Fab内の複雑なマルチドメインヘテロ二量体相互作用のために、より困難であった。重鎖/軽鎖スクランブリングに対処することを目的とした二重特異性抗体フォーマットには、以下が含まれる、DVD-Ig(二重可変ドメインIg)(Nature Biotechnology 25,1290-1297(2007))、クロスオーバーIg(CROSSMAB(商標))(Schaefer W et al(2011)PNAS 108(27):11187-11192)、ツー-イン-ワンIg(Science 2009,323,1610)、BiTE(登録商標)抗体(PNAS 92(15):7021-7025;1995)およびLewis et al.2014)「Generation of bispecific IgG antibodies by structure-based design of an orthogonal Fab interface」 Nat Biotechnol 32、191-8;Liu et al.(2015)「A Novel Antibody Engineering Strategy for Making Monovalent Bispecific Heterodimeric IgG Antibodies by Electrostatic Steering Mechanism.」J Biol Chem.オンライン公開2015年1月12日、doi:10.1074/jbc.M114.620260;Mazor et al.、2015.「Improving target cell specificity using a novel monovalent bispecific IgG design.」Mabs.オンライン公開2015年1月26日、doi:10.1080/19420862.2015.1007816、国際公開第2014/081955号、国際公開第2014/082179号、国際公開第2014/150973号に記載されている戦略。
【0006】
それにもかかわらず、当技術分野では、誤対合した重鎖/軽鎖副産物を減少させ、正しく集合した二重特異性抗体の収率を上昇させる方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
抗体の重鎖と軽鎖との優先的対合を改善する方法であって、軽鎖可変ドメイン(VL)の94位またはVLの96位の少なくとも1つのアミノ酸を、非荷電残基から、アスパラギン酸(D)、アルギニン(R)、グルタミン酸(E)およびリジン(K)からなる群から選択される荷電残基に置換するステップを含み、アミノ酸番号付けがKabatに従っている、方法が提供される。いくつかの実施形態において、本方法は、94位および96位のアミノ酸のそれぞれを非荷電残基から荷電残基に置換するステップを含む。いくつかの実施形態において、94位のアミノ酸はDに置換される。いくつかの実施形態において、96位のアミノ酸はRに置換される。いくつかの実施形態において、94位のアミノ酸はDに置換され、96位のアミノ酸はRに置換される。いくつかの実施形態において、重鎖可変ドメイン(VH)の95位のアミノ酸は、非荷電残基から、アスパラギン酸(D)、アルギニン(R)、グルタミン酸(E)、およびリジン(K)からなる群から選択される荷電残基に置換され、アミノ酸番号付けはKabatに従っている。いくつかの実施形態において、VLの94位のアミノ酸はDに置換され、VLの96位のアミノ酸はRに置換され、VHの95位のアミノ酸はDに置換される。
【0008】
いくつかの実施形態において、本明細書中に提供される方法は、抗体(例えば、重鎖と軽鎖の優先的対合を改善するように改変された抗体)を少なくとも1つの親和性成熟ステップに供することをさらに含み、ここで、VLの94位の置換されたアミノ酸はランダム化されない。追加的または代替的に、いくつかの実施形態において、VLの96位の置換されたアミノ酸はランダム化されない。追加的または代替的に、いくつかの実施形態において、VHの95位の置換されたアミノ酸はランダム化されない。
【0009】
いくつかの実施形態において、抗体は、Fab、Fab’、F(ab’)2、1アーム抗体、およびscFvからなる群から選択される抗体断片、またはFvである。いくつかの実施形態において、抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体である。いくつかの実施形態において、抗体は、IgG Fc領域を含む。いくつかの実施形態において、ヒトIgG Fc領域はヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3またはヒトIgG4 Fc領域である。いくつかの実施形態において、抗体は、単一特異性抗体である。いくつかの実施形態において、抗体は、多重特異性抗体である。
【0010】
いくつかの実施形態において、多重特異性抗体は、二重特異性抗体である。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、第1のCH2ドメイン(CH21)、第1のCH3ドメイン(CH 31)、第2のCH2ドメイン(CH22)および第2のCH3ドメインを含み;ここで、CH32は、CH31/CH32界面内で、1つ以上のアミノ酸残基が、より大きな側鎖体積を有する1つ以上のアミノ酸残基に置換され、それにより、CH31と相互作用するCH32の表面上に突起を生成するように変更され、かつ、CH31は、CH31/CH32界面内で、1つ以上のアミノ酸残基が、より小さい側鎖体積を有する置換されたアミノ酸残基に置換される、それにより、CH32と相互作用するCH31の表面上に空洞を生成するように変更される。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、第1のCH2ドメイン(CH21)、第1のCH3ドメイン(CH31)、第2のCH2ドメイン(CH22)および第2のCH3ドメインを含み;ここで、CH31は、CH31/CH32界面内で、1つ以上のアミノ酸残基が、より大きな側鎖体積を有する1つ以上のアミノ酸残基で置換され、それにより、CH32と相互作用するCH31の表面上に突起を生成するように変更され、かつ、CH32は、CH31/CH32 界面内で、1つ以上のアミノ酸残基が、より小さい側鎖体積を有する置換されたアミノ酸残基に置換され、それにより、CH31と相互作用するCH32の表面上に空洞が生成されるように変更される。いくつかの実施形態において、突起はノブ変異である。いくつかの実施形態において、ノブ変異は、T366Wを含み、アミノ酸番号付けは、EUインデックスに従っている。いくつかの実施形態において、空洞は、ホール変異である。いくつかの実施形態において、ホール変異は、T366S、L368AおよびY407Vの少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つ全てを含み、ここで、アミノ酸番号付けは、EUインデックスに従っている。
【0011】
本明細書中に記載の方法のいずれか1つ(または組み合わせ)によって産生される抗体も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1Aおよび
図1Bは、抗LGR5/抗IL4二重特異性抗体、すなわち低収率BsIgGの代表例についての高分解能液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)データを提供する。
図1Aは、電荷状態38+および39+の質量包絡線を示す。
図1Bは、対応するデコンボリューションされたデータを示す。
【0013】
図1Cおよび
図1Dは、抗SIRPα/抗IL4二重特異性抗体、すなわち中間収量BsIgGの代表例についての高分解能LCMSデータを提供する。
図1Cは、電荷状態38+および39+の質量包絡線を示す。
図1Dは、対応するデコンボリューションされたデータを示す。
【0014】
図1Eおよび
図1Fは、抗Met/抗DR5二重特異性抗体、すなわち高収率BsIgGの代表例についての高分解能LCMSデータを提供する。
図1Eは、電荷状態38+および39+の質量包絡線を示す。
図1Fは、対応するデコンボリューションされたデータを示す。
【0015】
図2は、C
H1/C
L電荷対置換変異を組み込むと、強い固有のHC/LC対合優先性を示すBsIgGの収率が上昇するかどうかを決定するために行った実験の結果を提供する。
【0016】
図3は、抗EGFR/抗MET BsIgGおよび抗IL-4/抗IL-13 BsIgGにおける優先的なHC/LC対合の機構的基礎を調べるために行った実験の設計を示す。この実験の結果を表Cに示す。
【0017】
図4Aは、抗MET抗体オナルツズマブ(Merchant et al.(2013)PNAS USA 110:E2987-2996を参照)(配列番号1)および抗EGFR抗体D1.5(Schaefer et al.(2011)Cancer Cell 20:472-486を参照)(配列番号2)の軽鎖可変ドメイン(V
L)のアラインメントを提供する。アミノ酸残基はKabatに従って番号付けする。Kabat et al.Sequences of Proteins of Immunological InterestBethesda,MD:NIH,1991の配列定義およびChothia and Lesk(1987)J Mol Biol 196:901-917の構造定義からのCDRを網掛けで示す。
【0018】
図4Bは、抗MET抗体オナルツズマブ(配列番号3)および抗EGFR抗体D1.5(配列番号4)の重鎖可変ドメイン(V
H)のアラインメントを提供する。アミノ酸残基はKabatに従って番号付けする。Kabat et al.Sequences of Proteins of Immunological InterestBethesda,MD:NIH,1991の配列定義およびChothia and Lesk(1987)J Mol Biol 196:901-917の構造定義からのCDRを網掛けで示す。
【0019】
図5Aは、BsIgG収率に対する抗EGFR/抗MET二重特異性抗体の抗EGFRアームの相補性決定領域(CDR)L3およびCDR H3の寄与を評価するために行った実験の結果を提供する。BsIgG収率に対する抗EGFR/抗MET二重特異性抗体の抗METアームのCDR L3およびCDR H3の寄与を評価するために行った実験の結果も提供される。
【0020】
図5Bは、BsIgG収率に対する抗IL-4/抗IL-13二重特異性抗体の抗IL-4アームのCDR L3およびCDR H3の寄与を評価するために行った実験の結果を提供する。BsIgG収率に対する抗IL-4/抗IL-13二重特異性抗体の抗IL-13アームのCDR L3およびCDR H3の寄与を評価するために行った実験の結果も提供される。
【0021】
図6は、抗EGFR/抗MET二重特異性抗体のBsIgG収率に対するCDR-L1+CDR-H1、CDR-L2+CDR-H2およびCDR-L3+CDR-H3の寄与を評価するために行った実験の結果を提供する。
【0022】
図7は、CDR L3およびCDR H3接触残基を強調する抗MET Fab(PDB 4K3J)のX線構造を提供する。
【0023】
図8Aは、抗IL-13抗体レブリキズマブ(Ultsch et al.(2013)J Mol Biol 425:1330-1339を参照)(配列番号5)および抗IL-4抗体19C11(Spiess et al.(2013)J Biol Chem 288:265:83-93を参照)(配列番号6)の軽鎖可変ドメイン(V
L)のアラインメントを提供する。Kabatの配列定義およびChothiaおよびLeskの構造定義からのCDRを網掛けで示す。
【0024】
図8Bは、抗IL-13抗体レブリキズマブ(配列番号7)および抗IL-4抗体19C11(配列番号8)の重鎖可変ドメイン(V
H)のアラインメントを提供する。アミノ酸残基はKabatに従って番号付けする。Kabatの配列定義およびChothiaおよびLeskの構造定義からのCDRを網掛けで示す。
【0025】
図9は、CDR L3およびCDR H3接触残基を強調する抗IL-13 Fab(PDB 4I77)のX線構造を提供する。
【0026】
図10Aは、(a)抗CD3/抗HER2二重特異性抗体の抗CD3アームのCDR L3およびCDR H3を抗METのCDR L3およびCDR H3に置換すること;(b)抗CD3/抗HER2二重特異性抗体の抗HER2アームのCDR L3およびCDR H3を抗METのCDR L3およびCDR H3に置換すること、(c)抗CD3/抗HER2二重特異性抗体の抗CD3アームのCDR L3およびCDR H3を抗IL-13のCDR L3およびCDR H3に置換すること、(d)抗CD3/抗HER2二重特異性抗体の抗HER2アームのCDR L3およびCDR H3を抗IL-13のCDR L3およびCDR H3に置換することの、BsIgG収率に対する影響を評価するために行った実験の結果を提供する。
【0027】
図10Bは、(a)抗VEGFA/抗ANG2二重特異性抗体の抗VEGFAアームのCDR L3およびCDR H3を抗METのCDR L3およびCDR H3に置換すること;(b)抗VEGFA/抗ANG2二重特異性抗体の抗ANG2アームのCDR L3およびCDR H3を抗METのCDR L3およびCDR H3で置換すること、(c)抗VEGFA/抗ANG2二重特異性抗体の抗VEGFAアームのCDR L3およびCDR H3を抗IL-13のCDR L3およびCDR H3で置換すること、(d)抗VEGFA/抗ANG2二重特異性抗体の抗ANG2アームのCDR L3およびCDR H3を抗IL-13のCDR L3およびCDR H3に置換することの、BsIgG収率に対する効果を評価するために行った実験の結果を提供する。
【0028】
図11は、以下の二重特異性抗体のBsIgG収率に対する鎖間ジスルフィド結合の寄与を評価するために行った実験の結果を提供する:(1)抗HER2/抗CD3、(2)抗VEGFA/抗VEGFC、(3)抗EGFR/抗MET、および(4)抗IL13/抗IL-4。
【発明を実施するための形態】
【0029】
二重特異性抗体は、その二重特異性により、例えば、標的部位へのペイロードの送達、2つのシグナル伝達経路の同時遮断、腫瘍細胞への免疫細胞の送達などが可能になるため、有望なクラスの治療剤である。しかしながら、二重特異性抗体(例えば、二重特異性IgGまたは「BsIgG」)の産生は、単一細胞における2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖の共発現が、例えば、重鎖ホモ二量体化および重鎖/軽鎖対合のスクランブルを天然ではもたらし得るために、技術的課題のままである。本明細書に記載の方法は、優先的な抗体重鎖/抗体軽鎖が、CDR-H3およびCDR-L3における特定のアミノ酸位置の残基によって強く影響され得るという出願人の知見に基づいている。さらに、出願人は、他の無関係な抗体の対応するアミノ酸位置へのそのような残基の転移が、多くの場合、正しく集合したBsIgGの収率を上昇させることを見出した。
【0030】
別段の定義がない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。Singleton,et al.,DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY,2D Ed.,John Wiley and Sons,New York(1994)およびHale&Margham,THE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY,Harper Perennial,NY(1991)は、本発明で使用される多くの用語の一般的な辞書を当業者に提供している。本明細書中に記載されるのと同様または等価の任意の方法および材料もまた、本発明の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法および材料をここに記載する。数値範囲は、範囲を定義する数を含む。別段示されない限り、核酸は、5’から3’方向に左から右に書かれ;アミノ酸配列は、それぞれアミノからカルボキシへの方向で左から右に書かれている。専門家は、当技術分野の定義および用語については、特にSambrook et al.,1989およびAusubel FM et al.,1993を対象とする。本発明は、記載する特定の方法論、プロトコル、および試薬に限定されるものではなく、これらは変化し得ることを理解されたい。
【0031】
数値範囲は、範囲を定義する数を含む。
【0032】
別段示されない限り、核酸は、5’から3’方向に左から右に書かれ;アミノ酸配列は、それぞれアミノからカルボキシへの方向で左から右に書かれている。
【0033】
本明細書で提供される見出しは、全体として本明細書を参照することによって有することができる様々な態様または実施形態の限定ではない。したがって、すぐ下に定義される用語は、全体として本明細書を参照することによってより完全に定義される。
定義
【0034】
本明細書における「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、所望の生物学的活性(例えば、エピトープ結合活性)を示す限り、2つの重鎖および2つの軽鎖を含む任意の免疫グロブリン(Ig)分子、ならびにその任意の断片、変異体、バリアントまたは誘導体を指す。抗体の例としては、本明細書に記載のモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体断片が挙げられる。抗体は、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体および/または親和性成熟抗体であり得る。
【0035】
参照フレームとして、本明細書で使用される場合、免疫グロブリンは、免疫グロブリンG(IgG)の構造を指す。しかしながら、当業者は、任意の免疫グロブリンクラスの抗体が、本明細書中に記載される本発明の方法において利用され得ることを理解/認識するであろう。明確にするために、IgG分子は、一対の重鎖(HC)および一対の軽鎖(LC)を含む。各LCは、1つの可変ドメイン(VL)および1つの定常ドメイン(CL)を有し、各HCは、1つの可変ドメイン(VH)および3つの定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3)を有する。CH1およびCH2ドメインは、ヒンジ領域によって連結されている。バイオマーカーは、当技術分野において周知である。
【0036】
簡潔には、塩基性4鎖抗体単位は、2つの軽(L)鎖および2つの重(H)鎖から構成されるヘテロ四量体糖タンパク質である(IgM抗体は、J鎖と呼ばれるさらなるポリペプチドと共に5つの塩基性ヘテロ四量体単位からなり、したがって10個の抗原結合部位を含み、一方、分泌されるIgA抗体は、重合して、J鎖と共に2~5個の塩基性4鎖単位を含む多価集合体を形成することができる)。IgGの場合、4鎖単位は、一般的に、約150,000ダルトンである。各L鎖は、1つのジスルフィド共有結合によってH鎖に連結されているが、一方で2つのH鎖は、H鎖アイソタイプに応じて1つ以上のジスルフィド結合によって互いに連結されている。H鎖およびL鎖はそれぞれ、規則的に離間した鎖間ジスルフィド架橋も有する。各H鎖は、N末端に可変ドメイン(VH)を有し、続いてα鎖およびγ鎖のそれぞれについては3つの定常ドメイン(CH)、ならびにμおよびεアイソタイプについては4つのCHドメインを有する。各L鎖は、N末端に可変ドメイン(VL)を有し、続いてその反対側の端部に定常ドメイン(CL)を有する。VLは、VHと整列しており、CLは、重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)と整列している。特定のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの間に界面を形成すると考えられている。VHとVLとが共に対合することにより、単一の抗原結合部位が形成される。様々なクラスの抗体の構造および特性については、例えば、Basic and Clinical Immunology,8 th edition,Daniel P.Stites,Abba I.Terr and Tristram G.Parslow(eds.),Appleton&Lange,Norwalk,CT,1994,page 71 and Chapter 6を参照されたい。
【0037】
任意の脊椎動物種に由来するL鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパおよびラムダと呼ばれる2つの明確に異なる種類の1つに割り当てられ得る。その重鎖(CH)の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは、異なるクラスまたはアイソタイプに割り当てられ得る。免疫グロブリンには5つのクラス:それぞれα、δ、γ、ε、μと指定された重鎖を有するIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがある。γおよびαクラスは、CHの配列および機能の比較的軽微な違いに基づいて、さらにサブクラスに分けられ、例えば、ヒトは以下のサブクラス:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2を発現する。
【0038】
「CLドメイン」という用語は、例えばKabat位置約107A~216(EU位置108~214(カッパ))から延びる免疫グロブリン軽鎖の定常領域ドメインを含む。カッパCドメインのEu/Kabat変換表は、www(dot)imgt(dot)org/IMGTScientificChart/Numbering/Hu_IGKCnber.htmlでオンライン利用可能であり、ラムダCドメインのEu/Kabat変換表は、www(dot)imgt(dot)org/IMGTScientificChart/Numbering/Hu_IGLCnber.htmlでオンライン利用可能である。CLドメインは、VLドメインに隣接し、免疫グロブリン軽鎖のカルボキシ末端を含む。
【0039】
本明細書で使用される場合、ヒトIgGの「CH1ドメイン」という用語は、例えば、Kabat番号付けシステムの約114~223の位置(EU位置118~215)から延びる免疫グロブリン重鎖の第1の(最もアミノ末端の)定常領域ドメインを含む。CH1ドメインは、VHドメインおよび免疫グロブリン重鎖分子のヒンジ領域のアミノ末端に隣接し、免疫グロブリン重鎖のFc領域の一部を形成せず、免疫グロブリン軽鎖定常ドメイン(すなわち、「CL」)と二量体化することができる。IgG1重鎖のEU/Kabat変換表は、www(dot)imgt(dot)org/IMGTScientificChart/Numbering/Hu_IGHGnber.htmlでオンライン利用可能である。
【0040】
ヒトIgG Fc領域の「CH2ドメイン」という用語は、通常、EU番号付けシステムに従ってIgGの残基約231~340を含む。CH2ドメインは、他のドメインと密接に対に合していないという点で特有である。むしろ、2つのN-連結分岐炭水化物鎖が、インタクトなネイティブIgG分子の2つのCH2ドメインの間に介在している。炭水化物は、ドメイン-ドメイン対合の代替物を提供し、CH2ドメインの安定化を助け得ることが推測されている。Burton,Mol.lmmunol.22:161-206(1985).
【0041】
用語「CH3ドメイン」は、Fc領域中のCH2ドメインに対するC末端残基を含む(すなわち、EU番号付けシステムによるIgGのアミノ酸残基約341~アミノ酸残基約447)。
【0042】
本明細書中で使用される「Fc領域」という用語は、一般的に、免疫グロブリン重鎖のC末端ポリペプチド配列を含む二量体複合体を指し、C末端ポリペプチド配列は、インタクトな抗体のパパイン消化によって得ることができるものである。Fc領域は、ネイティブまたはバリアントFc配列を含み得る。免疫グロブリン重鎖のFc配列の境界は変動し得るが、ヒトIgG重鎖Fc配列は、Fc配列の約226位のCys、または約230位のProから、カルボキシル末端までを含む。本明細書中で別段明記されない限り、Fc領域または定常領域におけるアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載される、EU番号付けシステム(EUインデックスとも呼ばれる)に従っている。免疫グロブリンのFc配列は、一般的に、2つの定常ドメイン、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含み、任意にCH4ドメインを含む。本明細書中において「Fcポリペプチド」とは、Fc領域、例えば単量体Fcを構成する、ポリペプチドの1つを意味する。Fc領域は、ヒトIgG1 IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ、IgA、IgE、IgD、またはIgM等の任意の好適な免疫グロブリンから得ることができる。Fcポリペプチドは、マウス、例えばマウスIgG2aから得ることができる。Fc領域は、ジスルフィドによって共に保持された両方のH鎖のカルボキシ末端を含む。抗体のエフェクター機能は、Fc領域における配列によって決定され;この領域はまた、特定の細胞種に見られるFc受容体(FcR)によって認識される部分でもある。いくつかの実施形態において、Fcポリペプチドは、野生型ヒンジ配列の一部または全てを(一般に、そのN末端に)含む。いくつかの実施形態において、Fcポリペプチドは、機能的または野生型のヒンジ配列を含まない。
【0043】
本明細書中で使用される「Fc構成要素」とは、Fc領域のヒンジ領域、CH2ドメインまたはCH3ドメインを指す。
【0044】
特定の実施形態において、Fc領域は、好ましくは野生型ヒトIgG Fc領域に由来するIgG Fc領域を含む。特定の実施形態において、Fc領域は、「野生型」マウスIgG、例えばマウスIgG2aに由来する。「野生型」ヒトIgG Fcまたは「野生型」マウスIgG Fcとは、それぞれヒト集団またはマウス集団内で天然に生じるアミノ酸の配列を意味する。もちろん、Fc配列は個体間でわずかに異なり得るのと同様に、野生型配列に対して1つ以上の改変が行われてもよく、依然として本発明の範囲内にあり得る。例えば、Fc領域は、グリコシル化部位の突然変異または非天然アミノ酸の包含などの改変を含み得る。
【0045】
「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、抗体の抗原への結合に関与する抗体重鎖または軽鎖のドメインを指す。ネイティブ抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)は、一般的に類似の構造を有しており、各ドメインは、4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と、3つの超可変領域(HVR)とを含む。(例えば、Kindt et al.Kuby Immunology,61st ed.,W.H.Freeman and Co.,page 91(2007)を参照されたい)。単一のVHまたはVLドメインは、抗原結合特異性を付与するために充分であり得る。さらに、特定の抗原に結合する抗体は、抗原に結合する抗体のVHまたはVLドメインを使用して単離され、それぞれ、相補的VLまたはVHドメインのライブラリをスクリーニングすることができる。例えば、Portolano et al.,J.Immunol.150:880-887(1993);Clarkson et al.,Nature 352:624-628(1991)を参照されたい。
【0046】
本明細書中で使用する、「超可変領域」または「HVR」という用語は、配列内で超可変性であり、抗原結合特異性を決定する、抗体可変ドメインの各領域、例えば「相補性決定領域」(「CDR」)を意味する。
【0047】
一般的に、抗体は6つのCDRを含み:3つがVH中(CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3)、3つがVL中にある(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3)。本明細書における例示的なCDRとしては:
【0048】
(a)アミノ酸残基26-32(L1)、50-52(L2)、91-96(L3)、26-32(H1)、53-55(H2)および96-101(H3)で生じる超可変ループ(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987));
【0049】
(b)アミノ酸残基24-34(L1)、50-56(L2)、89-97(L3)、31-35b(H1)、50-65(H2)および95-102(H3)で生じるCDR(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991));および
【0050】
(c)アミノ酸残基27c-36(L1)、46-55(L2)、89-96(L3)、30-35b(H1)、47-58(H2)および93-101(H3)において生じる抗原接触部(MacCallum et al.J.Mol.Biol.262:732-745(1996))が挙げられる。
【0051】
別段示されない限り、CDRは、上記のKabatらに従って決定される。当業者は、CDR指定が、上記Chothia、上記McCallum、または任意の他の科学的に許容された命名システムに従って決定され得ることを理解するであろう。
【0052】
「フレームワーク」または「FR」は、相補性決定領域(CDR)以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般的に4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、およびFR4からなる。したがって、CDRおよびFR配列は、一般的に、VH(またはVL)において、以下の順序:FR1-CDR-H1(CDR-L1)-FR2-CDR-H2(CDR-L2)-FR3-CDR-H3(CDR-L3)-FR4で現れる。
【0053】
本明細書中で使用される「抗原結合アーム」、「標的分子結合アーム」、「標的結合アーム」という語句およびそれらの変形は、目的の標的に特異的に結合する能力を有する抗体(例えば二重特異性抗体)の構成部分を指す。一般的に、および好ましくは、抗原結合アームは、免疫グロブリンポリペプチド配列、例えば免疫グロブリン軽鎖および重鎖のCDRおよび/または可変ドメイン配列の複合体である。
【0054】
「標的」または「標的分子」は、抗体(例えば二重特異性抗体)の結合アームによって認識される部分を指す。例えば、抗体が多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)である場合、標的は、状況に応じて、単一分子もしくは異なる分子上のエピトープ、または病原体もしくは腫瘍細胞であり得る。当業者は、標的が標的結合アームの結合特異性によって決定され、異なる標的結合アームが異なる標的を認識し得ることを理解するであろう。標的は、好ましくは、(本明細書に記載の方法を含む、当技術分野で公知の方法によれば)1μM Kdより高い親和性で抗体(例えば、二重特異性抗体)に結合する。標的分子の例としては、血清可溶性タンパク質および/またはその受容体、例えばサイトカインおよび/またはサイトカイン受容体、アドヘシン、成長因子および/またはその受容体、ホルモン、ウイルス粒子(例えば、RSV Fタンパク質、CMV、A型ブドウ球菌、インフルエンザ、C型肝炎ウイルス)、微生物(例えば、細菌細胞タンパク質、真菌細胞)、アドヘシン、CDタンパク質およびその受容体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
本明細書中で使用される「界面」という用語は、第1の抗体ドメイン中の1つ以上のアミノ酸と第2の抗体ドメインの1つ以上のアミノ酸との相互作用から生じる会合表面を指す。例示的な界面としては、例えば、H1/CL、VH/VLおよびCH3/CH3が挙げられる。いくつかの実施形態において、界面は、例えば、界面を形成するアミノ酸間の水素結合、静電相互作用、または塩架橋を含む。
【0056】
「インタクト」または「全長」抗体の一例は、抗原結合アームならびにCLならびに少なくとも重鎖定常ドメイン、CH1、CH2、およびCH3を含むものである。定常ドメインは、天然配列の定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列の定常ドメイン)またはそのアミノ酸配列バリアントであり得る。
【0057】
本明細書中で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集合から得られる抗体を指し、すなわち、その集合を構成する個々の抗体は、同一である、および/または同一のエピトープに結合するが、ただし、例えば、天然に存在する変異またはモノクローナル抗体製剤の製造中に生じる変異を含む、可能なバリアント抗体は例外であり、このようなバリアントは、通常少量で存在する。典型的には異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体製剤とは対照的に、モノクローナル抗体製剤のそれぞれのモノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。したがって、修飾詞「モノクローナル」は、抗体の実質的に均一な集合から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするように構築されない。例えば、本発明によるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全てまたは一部を含むトランスジェニック動物を利用する方法を含むが、これらに限定されない種々の技術によって作製することができ、このような方法およびモノクローナル抗体を作製するための他の例示的な方法は本明細書に記載されている。
【0058】
「ネイキッド抗体」とは、異種部分(例えば、細胞毒性部位)または放射性標識に結合していない抗体を指す。ネイキッド抗体は、医薬組成物中に存在し得る。
【0059】
「ネイティブ抗体」は、種々の構造を有する天然に生じる免疫グロブリン分子を指す。例えば、ネイティブIgG抗体は、ジスルフィド結合されている2つの同一の軽鎖および2つの同一の重鎖から構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に向かって、各重鎖は、可変重ドメインまたは重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)を有し、これに3つの定常重ドメイン(CH1、CH2、およびCH3)が続く。同様に、N末端からC末端に向かって、各軽鎖は、可変軽ドメインまたは軽鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VL)を有し、これに定常軽(CL)ドメインが続く。
【0060】
「単一特異性」とは、1つのエピトープのみに結合する抗体の能力を指す。「二重特異性」は、2つの異なるエピトープに結合する抗体の能力を指す。「多重特異性」は、2つ以上のエピトープに結合する抗体の能力を指す。特定の実施形態において、多重特異性抗体は、二重特異性抗体を含む。二重特異性および多重特異性抗体の場合、エピトープは同じ抗原上にあっても、または各エピトープは異なる抗原上にあってもよい。特定の実施形態において、二重特異性抗体は、2つの異なる抗原に結合する。特定の実施形態において、二重特異性抗体は、1つの抗原上の2つの異なるエピトープに結合する。特定の実施形態において、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)は、約1μM以下、約100nM以下、約10nM以下、約1nM以下、約0.1nM以下、約0.01nM以下、または約0.001nM以下(例えば、約10-8M以下、例えば、約10-8M~約10-13M、例えば、約10-9M~約10-13M)の解離定数(Kd)で各エピトープに結合する。
【0061】
本明細書中で使用する「多重特異性抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、2つ以上の抗原に結合することができる抗体を指す。特定の態様において、多重特異性抗体は、二重特異性抗体、例えば、ヒト二重特異性抗体、ヒト化二重特異性抗体、キメラ二重特異性抗体、またはマウス二重特異性抗体を指す。
【0062】
「抗体断片」は、インタクト抗体の一部、好ましくはインタクト抗体のVHおよびVLを含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、ScFv、およびFv断片:1アーム抗体、および抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられる。
【0063】
抗体は、重鎖および/または軽鎖の一部が、特定の種に由来する抗体または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同であり、鎖の残りが、他の種に由来する抗体または他の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体、ならびにそのような抗体の断片の対応する配列と同一または相同であり、ただしそれらが所望の生物学的活性を示す「キメラ」抗体であり得る(米国特許第4,816,567号、およびMorrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851-6855(1984))。本明細書中の目的のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿等)に由来する可変ドメイン抗原結合配列およびヒト定常領域配列を含む霊長類化抗体が含まれる。
【0064】
非ヒト(例えば、げっ歯類)抗体の「ヒト化」形態とは、非ヒト抗体に由来する最小配列を含むキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域からの残基が、所望の抗体特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類等の非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域からの残基によって置換されている、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの事例において、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基に置換されている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体には見られない残基を含み得る。これらの改変は、抗体の性能をさらに改良するために行われる。一般的に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、ここで、超可変ループの全てまたは実質的に全ては、非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、FRのうちの全てまたは実質的に全てはヒト免疫グロブリン配列のFRである。ヒト化抗体はまた、場合によっては、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部も含むであろう。さらなる詳細については、Jones et al.,Nature 321:522-525(1986)、Riechmann et al.,Nature 332:323-329(1988)、およびPresta,Curr.Op.Struct.Biol.2:593-596(1992)を参照のこと。
【0065】
「医薬組成物」または「医薬製剤」という用語は、含まれる有効成分の生物学的活性が有効になるような形態をしており、かつ、前記医薬組成物が投与されるであろう対象に対して許容できないほど毒性のある追加の成分を含まない、調製物を指す。
【0066】
「薬学的に許容され得る担体」は、有効成分以外の医薬組成物または製剤中の成分であって、対象にとって非毒性である成分を指す。薬学的に許容され得る担体には、緩衝剤、賦形剤、安定剤、または保存剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0067】
本明細書中で使用される「複合体」または「複合体化された」とは、ペプチド結合ではない会合および/または力(例えば、ファンデルワールス力、疎水性力、親水性力)を介して互いに相互作用する2つ以上の分子の結合を指す。一実施形態において、複合体はヘテロ多量体である。本明細書中で使用される「タンパク質複合体」または「ポリペプチド複合体」という用語は、タンパク質複合体中のタンパク質に共役した非タンパク質実体を有する複合体(例えば、毒素または検出剤のような化学分子を含むが、これらに限定されない)を含むことは理解されるべきである。
【0068】
「目的の抗原に結合する」抗体(例えば単一特異性または多重特異性抗体)は、タンパク質または前記タンパク質を発現する細胞もしくは組織を標的とする際の診断および/または治療剤として有用であり、他のタンパク質と有意には交差反応しないように、十分な親和性で抗原、例えばタンパク質に結合する抗体である。そのような実施形態において、「非標的」タンパク質への抗体の結合の程度は、蛍光活性化細胞選別(FACS)分析または放射性免疫沈降(RIA)またはELISAによって決定される場合、その特定の標的タンパク質への抗体の結合の約10%未満である。標的分子への抗体の結合に関して、特定のポリペプチドまたは特定のポリペプチド標的上のエピトープに「特異的に結合する」または「特異的に結合する」または「特異的である」という用語は、非特異的相互作用と測定可能に異なる結合を意味する(例えば、非特異的相互作用は、ウシ血清アルブミンまたはカゼインへの結合であり得る)。特異的結合は、例えば、分子の結合を対照分子の結合と比較して決定することによって測定し得る。例えば、特異的結合は、標的に類似である対照分子、例えば、過剰な非標識標的との競合によって決定し得る。この場合、標識した標的のプローブに対する結合が、過剰な非標識標的によって競合的に阻害される場合に、特異的結合が示される。本明細書中で使用される特定のポリペプチドまたは特定のポリペプチド標的上のエピトープに対する、「特異的結合」または「特異的に結合する」または「特異的である」という用語は、例えば、少なくとも約200nM、あるいは少なくとも約150nM、あるいは少なくとも約100nM、あるいは少なくとも約60nM、あるいは少なくとも約50nM、あるいは少なくとも約40nM、あるいは少なくとも約30nM、あるいは少なくとも約20nM、あるいは少なくとも約10nM、あるいは少なくとも約8nM、あるいは少なくとも約6nM、あるいは少なくとも約4nM、あるいは少なくとも約2nM、あるいは少なくとも約1nMの標的に対するKdまたはそれを超える親和性を有する分子によって示すことができる。一実施形態において、「特異的結合」という用語は、多重特異性抗体が任意の他のポリペプチドまたはポリペプチドエピトープに実質的に結合することなく、特定のポリペプチドまたは特定のポリペプチド上のエピトープに結合する場合の結合を指す。
【0069】
「結合親和性」は、一般的に、分子(例えば、二重特異性抗体または多重特異性抗体等の抗体)の単一の結合部位と、その結合パートナー(例えば、抗原)との間の非共有結合相互作用の総和の強度を指す。別段示されない限り、本明細書で使用される、「結合親和性」は、結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原)間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般的に、解離定数(Kd)によって表され得る。例えば、Kdは、約200nM以下、約150nM以下、約100nM以下、約60nM以下、約50nM以下、約40nM以下、約30nM以下、約20nM以下、約10nM以下、約8nM以下、約6nM以下、約4nM以下、約2nM以下、または約1nM以下であり得る。親和性は、本明細書に記載するものを含め、当技術分野で公知の一般的な方法によって測定し得る。低親和性抗体は、一般的に、抗原とゆっくり結合し、容易に解離する傾向にあるが、高親和性抗体は、一般的に、抗原と迅速に結合し、より長く結合したままの傾向にある。結合親和性の種々の測定方法が当技術分野で公知であり、これらはいずれも、本発明の目的のために使用することができる。
【0070】
一実施形態において、「Kd」または「Kd値」は、表面プラズモン共鳴アッセイを使用することによって測定される。例えば、Kd値は、BIAcore(商標)-2000またはBIAcore(商標)-3000(BIAcore,Inc.,Piscataway,NJ.)を用いて25°Cで、-10応答単位(RU)の固定化標的(例えば、抗原)CM5チップを用いて決定することができる。簡潔に述べると、一例において、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサチップ(CM5、BIAcore Inc.)を、供給業者の指示に従って、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を用いて活性化させる。抗原を、pH4.8、10mMの酢酸ナトリウムによって、5μg/ml(約0.2μM)に希釈した後、5μl/分の流速で注入し、カップリングされたタンパク質のおよそ10応答ユニット(RU)を達成する。抗原注入後、1Mのエタノールアミンを注入し、未反応基をブロックする。動態測定のために、Fabの二倍連続希釈物(例えば、0.78nM~500nM)を、0.05% Tween 20を含むPBS中(PBST)中で、25°Cで約25μ/分の流速で注入する。会合速度(kon)および解離速度(koff)は、単純な1対1ラングミュア結合モデル(BIACORE評価ソフトウェアバージョン3.2)を使用して、会合および解離センサーグラムを同時にフィッティングすることによって、算出する。平衡解離定数(Kd)は、koff/kon比率として算出する。例えば、Chen et al.,J.Mol.Biol.293:865-881(1999)を参照のこと。上記の表面プラズモン共鳴アッセイによる会合速度が106M-1s-1を超える場合、会合速度は、ストップフローを備えた分光光度計(Aviv Instruments)または撹拌キュベットを有する8000シリーズSLM-AMINCO分光光度計(ThermoSpectronic)等の分光計で測定して、上昇する抗原濃度の存在下、25℃で、PBS、pH7.2中20nMの抗-抗原抗体(Fab形態)の蛍光発光強度(励起=295nm;発光=340nm、16nmバンドパス)の増加または減少を測定する蛍光消光技術を使用して決定することができる。
【0071】
本明細書で提供される方法に従って作製された抗体(例えば、修飾二重特異性抗体などの修飾抗体)、例えば抗体(例えば二重特異性抗体)、その断片または誘導体に関して「生物学的に活性な」および「生物学的活性」および「生物学的特性」は、特に明記しない限り、生物学的分子に結合する能力を有することを意味する。
【0072】
「単離された」は、種々のヘテロ多量体ポリペプチドを記載するために使用される場合、それが発現される細胞または細胞培養物から分離および/または回収されたヘテロ多量体を意味する。その天然環境の混入成分は、ヘテロ多量体の診断的および治療的使用を妨害するであろう物質であり、これらとしては、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性もしくは非タンパク質性溶質が挙げられ得る。特定の実施形態において、ヘテロ多量体は、(1)Lowry法によって決定された場合に、タンパク質95重量%超の、および最も好ましくは99重量%超に、(2)回転カップ配列決定装置の使用によりN末端もしくは内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで、または(3)クマシーブルーもしくは好ましくは銀染色を使用した還元もしくは非還元条件下でSDS-PAGEによって均質になるように、精製される。しかしながら、通常、単離されたポリペプチドは、少なくとも1つの精製ステップにより調製される。
【0073】
抗体(例えば二重特異性抗体)は、一般的に、実質的に均一になるまで精製される。「実質的に均質」、「実質的に均質な形態」および「実質的な均質性」という語句は、生成物が望ましくないポリペプチドの組合せ(例えば、重鎖ホモ二量体および/またはスクランブルされた重鎖/軽鎖対)に由来する副生成物を実質的に含まないことを示すために使用される。
【0074】
純度の観点から表現すると、実質的な均質性とは、副生成物の量が10重量%、9重量%、8重量%、7重量%、6重量%、4重量%、3重量%、2重量%もしくは1重量%を超えないか、または1%重量未満であることを意味する。一実施形態において、副生成物は5%未満である。
【0075】
「生物学的分子」は、核酸、タンパク質、炭水化物、脂質、およびそれらの組合せを指す。一実施形態において、生物学的分子は自然界に存在する。
【0076】
文脈により別段の指示がある場合を除き、用語「第1の」ポリペプチド(例えば、重鎖(HC1またはHC1)または軽鎖(LC1またはLC1))および「第2の」ポリペプチド(例えば、重鎖(HC2またはHC2)または軽鎖(LC2またはLC2))およびそれらの変形は、単に一般的な識別子であり、本明細書で提供される方法を使用して生成された抗体(例えば二重特異性抗体)の特異的または特定のポリペプチドまたは成分を同定するものと解釈されるべきではない。
【0077】
実施例で言及した市販の試薬は、別段示されない限り、製造者の指示に従って使用した。以下の実施例および本明細書全体を通して、ATCCアクセッション番号によって特定される細胞の供給源は、バージニア州マナッサスのAmerican Type Culture Collectionである。別段明記しない限り、本発明は、組換えDNA技術の標準的な手順、例えば本明細書の上記および以下の教科書に記載されている手順を使用する:前出のSambrook et al、Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology(Green Publishing Associates and Wiley Interscience,NY,1989)、Innis et al.,PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications(Academic Press,Inc.,NY,1990)、Harlow et al.,Antibodies:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,1988)、Gait,Oligonucleotide Synthesis(IRL Press,Oxford,1984)、Freshney,Animal Cell Culture,1987、Coligan et al.,Current Protocols in Immunology,1991。
【0078】
本明細書中における値またはパラメータについての「約」の言及は、この技術分野の当業者に容易に知られているそれぞれの値の通常の誤差範囲を指す。本明細書中における、値またはパラメータについての「約」の言及は、その値またはパラメータ自体を対象とする態様を含む(および記載する)。例えば、「約X」について言及する記載は、「X」の記載を含む。
【0079】
本明細書に記載の本発明の態様および実施形態は、態様および実施形態「を含む」、「からなる」、および「から本質的になる」を含むことが理解される。
【0080】
特許出願および公報を含む、本明細書で引用される全ての参照文献は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
重鎖/軽鎖対合選択性を改善する方法
【0081】
本出願は、優先的な重鎖/軽鎖対合において役割を果たす、(例えば、抗体軽鎖またはその断片の)VLおよび(例えば、抗体重鎖またはその断片の)VHのアミノ酸位置の残基の同定に基づく。
【0082】
以下にさらに詳細に記載されるように、本明細書中に提供される方法は、重鎖および/または軽鎖ポリペプチドの可変ドメイン内、例えば、特にCDR配列内の特定の残基に1つ以上の置換を導入することを含む。当技術分野の当業者が理解するように、抗体可変領域配列内の特定のアミノ酸残基を指定するために、様々な番号付け規則を使用し得る。一般的に使用される番号付け規則としては、KabatおよびEUインデックス番号付け(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)を参照のこと)が挙げられる。可変ドメインについての修正または代替の番号付けシステムを含む他の規則としては、Chothia(Chothia C,Lesk AM(1987),J Mal Biol 196:901-917、Chothia,et al.(1989),Nature 342:877-883),IMGT(Lefranc,et al.(2003),Dev Comp Immunol 27:55-77)およびAHo(Honegger A,Pluckthun A(2001)J Mol Biol 309:657-670)が挙げられる。これらの参照文献は、抗体配列の可変領域アミノ酸残基の位置を定義する免疫グロブリン可変領域についてのアミノ酸配列番号付けスキームを提供する。
【0083】
本明細書中で別段明記しない限り、実施例および特許請求の範囲に現れる免疫グロブリン重鎖可変領域(すなわち、VH)アミノ酸残基についての全ての言及(すなわち番号)、特に明記しない限り、VL残基についての全ての言及と同様に、Kabat番号付けシステムに基づいている。実施例および特許請求の範囲に現れる免疫グロブリン重鎖定常領域CH1、CH2およびCH3残基についての全ての言及(すなわち、数)は、別段示されない限り、CL残基についての全ての言及と同様に、EUシステムに基づいている。KabatまたはEUインデックス番号付けによる残基番号の知識により、当業者は、任意の一般的に使用される番号付け規則に従って、本明細書中に記載のアミノ酸配列改変を特定することができる。
【0084】
本明細書で提供される項目、構成要素、または要素(例えば「抗体」、「置換」、「置換変異」)は、単数形で記載または特許請求し得るが、単数形への限定が明示的に述べられていない限り、複数形はその範囲内にあると考えられる。
【0085】
以下により詳細に記載されるように、VHおよび/またはVLに1つ以上の置換を導入することを含む、抗体(二重特異性抗体を含む)における正しい重鎖/軽鎖対合を改善する方法が本明細書中に提供される。抗体のVHおよび/またはVLに1つ以上の置換を導入することを含む抗体(例えば、正しく集合した二重特異性抗体)の収率を改善する方法も提供され、ここで、特定の方法(例えば、当技術分野で公知の方法)を使用して生成された置換を含む抗体(例えば、二重特異性抗体)の収率は、同じ方法を使用して生成された非置換抗体(例えば、二重特異性抗体)の収率よりも高い。以前の取り組みは、可変ドメインのフレームワーク領域に1つ以上のアミノ酸置換を導入することに集中していた。例えば、Froning et al.,Protein Science,2017,26:2021-38.Liu et al.,J.Biol.Chem.2015,290:7535-62.Lewis et al.,Nature Biotechnology,2014,32:191-202を参照のこと。
【0086】
いくつかの実施形態において、本明細書中に提供される方法は、抗体(例えば、二重特異性抗体)の2つの重鎖のヘテロ二量体化を促進するために、Fc領域に改変を導入することをさらに含む。
重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインにおける置換突然変異
【0087】
軽鎖可変ドメイン(VL)の94位またはVLの96位の少なくとも1つのアミノ酸(例えば、「元のアミノ酸」)を、非荷電残基から、アスパラギン酸(D)、アルギニン(R)、グルタミン酸(E)およびリジン(K)から選択される荷電残基に置換するステップを含む、抗体の重鎖と軽鎖との対合(例えば優先的対合)を改善する方法であって、アミノ酸番号付けはKabatに従っている方法が本明細書中に提供される。いくつかの実施形態において、本方法は、94位および96位におけるアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)の両方を、非荷電残基から荷電残基、例えば、D、R、EまたはKに置換するステップを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、上記の置換が導入された抗体を提供することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、本明細書の他の箇所に記載される1つ(または複数)の例示的な標的に結合する抗体(例えば、二重特異性または多重特異性抗体)を提供することを含む。
【0088】
優先的対合は、対合が第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとの間で起こるのと同時に、1つ以上のさらなる別個のポリペプチド(例えば、さらなる重鎖および/または軽鎖)が存在する場合の、第1のポリペプチド(例えば重鎖)と第2のポリペプチド(例えば軽鎖)との対合パターンを記載する。いくつかの実施形態において、優先的な対合は、HC1が少なくともLC1およびLC2と共発現しているとき、HC1/LC1重鎖-軽鎖の対合の量がHC1/LC2対合の量よりも多い場合、例えば抗体(例えば二重特異性抗体)のHC1とLC1との間で生じる。同様に、優先的な対合は、HC2が少なくともLC1およびLC2と共発現している場合、HC2/LC2重鎖-軽鎖の対合の量がHC2/LC1対合の量よりも多い場合、例えば抗体(例えば二重特異性抗体)のHC2とLC2との間で生じる。HC1/LC1、HC1/LC2、HC2/LC1およびHC2/LC2の対合は、本明細書中の他の箇所にさらに詳細に記載されているように、当技術分野で公知の方法、例えば液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)によって測定し得る。
【0089】
いくつかの実施形態において、「元のアミノ酸」という用語は、例えば荷電アミノ酸(例えば、D、R、E、またはK)による置換の直前に、VLの特定の位置、例えば94位および/または96位に存在するアミノ酸を指す。いくつかの実施形態において、「非荷電アミノ酸」または「非荷電残基」という用語は、生理学的pH、例えば、約6.8~約7.5、約6.9~約7.355、または約6.95~7.45のpHで正電荷(例えば、プロトン化)も負電荷(例えば、脱プロトン化)も有さないアミノ酸を指す。いくつかの実施形態において、「荷電アミノ酸」は、生理学的pH、例えば、約6.8~約7.5、約6.9~約7.355、または約6.95~7.45のpHで正電荷(例えば、プロトン化されている)または負電荷(例えば、脱プロトン化されている)を有するアミノ酸を指す。いくつかの実施形態において、非荷電アミノ酸残基は、D、R、EまたはKではないアミノ酸残基である。いくつかの実施形態において、94位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はDに置換される。いくつかの実施形態において、96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はRに置換される。いくつかの実施形態において、94位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はDに置換され、96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はRに置換される。
【0090】
いくつかの実施形態において、本方法は、重鎖可変ドメイン(VH)の95位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)を、非荷電残基から、アスパラギン酸(D)、アルギニン(R)、グルタミン酸(E)、およびリジン(K)から選択される荷電残基に置換することをさらに含み、ここで、アミノ酸番号付けはKabatに従っている。いくつかの実施形態において、95位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はDに置換される。いくつかの実施形態において、VLの94位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はDに置換され、VLの96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はRに置換され、VHの95位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はDに置換される。
【0091】
重鎖可変ドメイン(VH)の95位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)を非荷電残基からアスパラギン酸(D)、アルギニン(R)、グルタミン酸(E)およびリジン(K)から選択される荷電残基に置換するステップを含む、抗体の重鎖と軽鎖の対合(例えば、同族対合、すなわち、同族HおよびVL、Fab、ならびにHCおよびLCの優先的対合)を改善する方法も提供され、ここで、アミノ酸番号付けはKabatに従っている。いくつかの実施形態において、95位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はDに置換される。
【0092】
軽鎖可変ドメイン(VL)の91位、VLの94位またはVLの96位の少なくとも1つのアミノ酸(例えば、「元のアミノ酸」)を、非芳香族残基から、トリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)およびチロシン(Y)から選択される芳香族残基へと置換するステップを含む、抗体の重鎖と軽鎖との対合(例えば、同族対合)を改善する方法も本明細書中に提供され、ここで、アミノ酸番号付けはKabatに従っている。いくつかの実施形態において、本方法は、91位、94位、または96位の少なくとも2つのアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)を非芳香族残基からW、F、およびYから選択される芳香族残基に置換するステップを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、94位および96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)を非芳香族残基からW、FおよびYから選択される芳香族残基に置換するステップを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、91位、94位置および96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)のそれぞれを非芳香族残基からW、F、およびYから選択される芳香族残基に置換するステップを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、上記の置換が導入された抗体を提供することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、本明細書の他の箇所に記載される1つ(または複数)の例示的な標的に結合する抗体(例えば、二重特異性または多重特異性抗体)を提供することを含む。
【0093】
いくつかの実施形態において、「元のアミノ酸」は、芳香族アミノ酸(例えば、W、F、およびY)による置換の直前にVLの91、94および/または96位に存在するアミノ酸(例えば、非芳香族アミノ酸)を指す。いくつかの実施形態において、「非芳香族アミノ酸」または「非芳香族残基」という用語は、芳香環を含まないアミノ酸を指す。いくつかの実施形態において、「非芳香族残基」は、W、FまたはYではないアミノ酸残基を指す。
【0094】
いくつかの実施形態において、91位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はYに置換される。いくつかの実施形態において、94位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はYに置換される。いくつかの実施形態において、96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はWに置換される。いくつかの実施形態において、91位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はYに置換され、94位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はYに置換される。いくつかの実施形態において、91位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はYに置換され、96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はWに置換される。いくつかの実施形態において、94位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はYに置換され、96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はWに置換される。いくつかの実施形態において、91位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はYに置換され、94位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はYに置換され、96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はWに置換される。
【0095】
いくつかの実施形態において、本方法は、重鎖可変ドメイン(VH)の95位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)を、非荷電残基から、アスパラギン酸(D)、アルギニン(R)、グルタミン酸(E)、およびリジン(K)から選択される荷電残基に置換することをさらに含み、ここで、アミノ酸番号付けはKabatに従っている。いくつかの実施形態において、本方法は、重鎖可変ドメイン(VH)の95位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)を非芳香族残基からトリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)およびチロシン(Y)から選択される芳香族残基に置換することをさらに含む。
【0096】
いくつかの実施形態において、上記の1つ以上の置換は、抗体断片、例えば、VLドメインおよびVHドメインを含む抗体断片に導入される。そのような抗体断片としては、例えば、Fab、Fab’、単一特異性F(ab’)2、二重特異性F(ab’)2、1アーム抗体、ScFv、Fv等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0097】
いくつかの実施形態において、上記の1つ以上の置換が導入される抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体である。いくつかの実施形態において、抗体はカッパ軽鎖を含む。いくつかの実施形態において、抗体はラムダ軽鎖を含む。特定の実施形態において、VLは、KV1またはKV4ヒト生殖系列ファミリーのフレームワーク配列を含む。いくつかの実施形態において、VHは、HV2またはHV3ヒト生殖系列ファミリーのフレームワーク配列を含む。いくつかの実施形態において、抗体は、マウスFc領域を含む。いくつかの実施形態において、抗体はヒトFc領域、例えばヒトIgG Fc領域、例えばヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3mまたはヒトIgG4 Fc領域を含む。いくつかの実施形態において、抗体は、単一特異性抗体である。いくつかの実施形態において、抗体は多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体である。
【0098】
特定の実施形態において、上記の1つ以上の置換が導入される抗体は、第1のVH(VL1)と対合する第1のVL(VL1)および第2のVH(VH2)と対合する第2のVL(VL2)を含む二重特異性抗体であり、ここで、VL1はQ38K置換変異を含み、VH1はQ39E置換変異を含み、VL2はQ38E置換変異を含み、VH2はQ39K置換変異を含み、アミノ酸番号付けはKabatに従っている。いくつかの実施形態において、VL1は、Q38E置換変異を含み、VH1は、Q39K置換変異を含み、VL2は、Q38K置換変異を含み、VH2は、Q39E置換変異を含み、アミノ酸番号付けは、Kabatに従っている。「VL1」、「VH1」、「VL2」、および「VH2」という用語は任意の呼称であり、例えば、本明細書中の実施形態のいずれかにおける「VL1」および「VL2」は逆にすることができることが当業者には明らかであろう。
【0099】
加えて、または、代替的に、いくつかの実施形態において、上記の1つ以上の置換が導入される抗体は、第1のCH1ドメイン(CH11)を含む第1の重鎖(HC1)と、第1のCLドメイン(CL1)を含む第1の軽鎖(LC1)と、第2のCH1ドメイン(CH12)を含む第2の重鎖(HC2)と、第1のCLドメイン(CL2)を含む第2の軽鎖(LC2)とを含む二重特異性抗体である。「HC1」、「HC2」、「LC1」、「LC2」等の用語は任意の名称であり、例えば、本明細書中の実施形態のいずれかにおける「HC1」および「HC2」は逆にすることができることは当業者には明らかであろう。すなわち、H1のCH1ドメインおよびL1のCLドメイン中にあると上に記載された突然変異のいずれかは、あるいは、H2のCH1ドメインおよびL2のCLドメイン中にあってもよい。いくつかの実施形態において、本方法は、CH11中のS183をEで置換し、CL1中のV133をKで置換し、CH12中のS183をKで置換し、CL2中のV133をEで置換することをさらに含み、ここで、アミノ酸番号付けはEUインデックスに従っている。いくつかの実施形態において、本方法は、CH11中のS183をKに置換し、CL1中のV133をEに置換し、CH12中のS183をEに置換し、CL2中のV133をKに置換することをさらに含み、ここで、アミノ酸番号付けはEUインデックスに従っている。例えば、Dillon et al.(2017)MABS 9(2):213-230および国際公開第2016/172485号を参照のこと。いくつかの実施形態において、HC1は、第1のCH2(CH21)ドメインおよび/または第1のCH3(CH31)ドメインをさらに含む。追加的または代替的に、いくつかの実施形態において、HC2は、第2のCH2(CH22)ドメインおよび/または第2のCH3(CH32)ドメインをさらに含む。いくつかの実施形態において、CH32は、CH31/ CH32界面内で、1つ以上の アミノ酸残基がより大きな側鎖体積を有する1つ以上のアミノ酸残基に置換され、それにより、CH31と相互作用するCH32の表面上に突起が生成されるように変更され、かつ、CH31は、CH31/ CH32界面内で、1つ以上のアミノ酸残基がより小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置換され、それにより、CH32と相互作用するCH31の表面上に空洞が生成されるように変更される。いくつかの実施形態において、CH31は、CH31/CH32界面内で、1つ以上のアミノ酸残基が、より大きな側鎖体積を有する1つ以上のアミノ酸残基に置換され、それにより、CH32と相互作用するCH31の表面上に突起が生成されるように変更され、かつ、CH32は、/CH31/CH32 界面内で、1つ以上のアミノ酸残基がより小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基に置換され、それにより、CH31と相互作用するCH32の表面上に空洞が生成されるように変更される。いくつかの実施形態において、突起は、ノブ変異、例えばT366Wを含むノブ変異であり、ここで、アミノ酸番号付けはEUインデックスに従っている。いくつかの実施形態において、空洞は、ホール変異、例えば、T366S、L368AおよびY407Vの少なくとも1つ、少なくとも2つまたは3つ全てを含むホール変異であり、ここで、アミノ酸番号付けは、EUインデックスに従っている。ノブ・イン・ホール変異に関するさらなる詳細は、例えば、米国特許第5,731,168号、米国特許第5,807,706号、米国特許第7,183,076号に提供されており、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体のHC1/LC1対は第1の抗原に結合し、二重特異性抗体のHC2/LC2対は第2の抗原に結合する。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体のHC1/LC1対は第1の抗原の第1のエピトープに結合し、二重特異性抗体のHC2/LC2対は第1の抗原の第2のエピトープに結合する。
【0100】
軽鎖可変ドメイン(VL)の94位および/またはVLの96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)を非荷電残基からアスパラギン酸(D)、アルギニン(R)、グルタミン酸(E)およびリジン(K)から選択される荷電残基に置換して、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)を得ることを含む、優先的な重鎖/軽鎖対合が改善された改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)を得るための、抗体(例えば、二重特異性抗体)の作製(例えば、改変または操作)方法が提供され、ここで、アミノ酸番号付けは、Kabatに従っている。いくつかの実施形態において、本方法は、94位および96位の少なくとも両方のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)を非荷電残基から荷電残基、例えばD、R、EまたはKに置換して、改変抗体(例えば、二重特異性抗体)を得るステップを含む。いくつかの実施形態において、改変された抗体(例えば、二重特異性または多重特異性抗体)は、本明細書の他の箇所に記載される例示的な標的に結合する。多くの場合、そのような標的に結合する抗体の重鎖および軽鎖の配列は公的に入手可能であり、Kabat番号付けスキームにアラインおよびマッピングし、次いでKabat配列データベースに対してスキャンして、置換される位置を特定することができる。
【0101】
いくつかの実施形態において、94位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はDに置換されて、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)が得られる。いくつかの実施形態において、96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はRに置換されて、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)が得られる。いくつかの実施形態において、94位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はDに置換され、96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はRに置換されて、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)が得られる。
【0102】
いくつかの実施形態において、本方法は、重鎖可変ドメイン(VH)の95位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)を非荷電残基からアスパラギン酸(D)、アルギニン(R)、グルタミン酸(E)およびリジン(K)から選択される荷電残基に置換して、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)を得ることをさらに含み、ここで、アミノ酸番号付けはKabatに従っている。いくつかの実施形態において、95位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はDに置換されて、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)が得られる。いくつかの実施形態において、VLの94位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)がDに置換され、VLの96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)がRに置換され、VHの95位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)がDに置換されて、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)が得られる。
【0103】
重鎖可変ドメイン(VH)の95位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)を非荷電残基からアスパラギン酸(D)、アルギニン(R)、グルタミン酸(E)およびリジン(K)から選択される荷電残基に置換して、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)を得ることを含む、優先的な重鎖/軽鎖の対合が改善された改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)を得るための、抗体(例えば、二重特異性抗体)の作製(例えば、改変または操作)方法も提供され、ここで、アミノ酸番号付けはKabatに従っている。いくつかの実施形態において、95位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)がDに置換されて、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)が得られる。
【0104】
軽鎖可変ドメイン(VL)の91位、VLの94位、および/またはVLの96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)を非芳香族残基からトリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)およびチロシン(Y)から選択される芳香族残基に置換して、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)を得ることを含む、優先的な重鎖/軽鎖対合が改善された改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)を得るための、抗体(例えば、二重特異性抗体)の作製(例えば、改変または操作)方法も提供され、ここで、アミノ酸番号付けはKabatに従っている。いくつかの実施形態において、本方法は、91位、94位、または96位の少なくとも2つのアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)を非芳香族残基からW、F、およびYから選択される芳香族残基に置換して、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)を得るステップを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、94位および96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)を非芳香族残基からW、FおよびYから選択される芳香族残基に置換して、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)を得るステップを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、91位、94位、および96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)のそれぞれを、非芳香族残基からW、F、およびYから選択される芳香族残基に置換して、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)を得るステップを含む。いくつかの実施形態において、改変された抗体(例えば、二重特異性または多重特異性抗体)は、本明細書の他の箇所に記載される例示的な標的に結合する。
【0105】
いくつかの実施形態において、91位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はYに置換されて、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)が得られる。いくつかの実施形態において、94位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はYに置換されて、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)が得られる。いくつかの実施形態において、96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はWに置換されて、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)が得られる。いくつかの実施形態において、91位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はYに置換され、94位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はYに置換されて、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)が得られる。いくつかの実施形態において、91位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)がYに置換され、96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)がWで置換されて、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)が得られる。いくつかの実施形態において、94位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はYに置換され、96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はWに置換されて、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)が得られる。いくつかの実施形態において、91位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はYに置換され、94位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はYに置換され、96位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)はWに置換され、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)が得られる。
【0106】
いくつかの実施形態において、本方法は、重鎖可変ドメイン(VH)の95位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)を非荷電残基からアスパラギン酸(D)、アルギニン(R)、グルタミン酸(E)およびリジン(K)から選択される荷電残基に置換して、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)を得ることをさらに含み、ここで、アミノ酸番号付けはKabatに従っている。いくつかの実施形態において、本方法は、重鎖可変ドメイン(VH)の95位のアミノ酸(例えば、元のアミノ酸)を非芳香族残基からトリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)、およびチロシン(Y)から選択される芳香族残基に置換して、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)を得ることをさらに含む。
【0107】
いくつかの実施形態において、抗体(例えば、二重特異性抗体)を作製する(例えば、改変または操作する)方法は、例えば、上記の置換の1つ以上をVHおよび/またはVLに導入することによって、VHおよび/またはVLを改変して、改変VHおよび/または改変VLを得、改変VHおよび/または改変VLを抗体(例えば、二重特異性抗体)にグラフトして、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)を得ることを含む。
【0108】
いくつかの実施形態において、本明細書中に記載される方法に従って置換、改変および/または操作されたVH/VL対は、少なくとも1つの親和性成熟ステップ(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または10を超える親和性成熟ステップ)に供される。親和性成熟は、例えば、本明細書中に記載される方法によって得られる抗体の重鎖/軽鎖対を、標的(例えば、以下にさらに詳細に記載されるような標的リガンドまたは標的抗原)に対する親和性の上昇を選択するスキームに供するプロセスである(Wu et al.(1998)Proc Natl Acad Sci USA.95,6037-42を参照)。抗体の親和性成熟に関する詳細は、例えばMerchant et al.(2013)Proc Natl Acad Sci U S A.110(32):E2987-96、Julian et al.(2017)Scientific Reports.7:45259、Tiller et al.(2017)Front.Immunol.8:986、Koenig et al.(2017)Proc Natl Acad Sci U S A.114(4):E486-E495、Yamashita et al.(2019)Structure.27,519-527、Payandeh et al.(2019)J Cell Biochem.120:940-950、Richter et al.(2019)mAbs.11(1):166-177、および Cisneros et al.(2019)Mol.Syst.Des.Eng.4:737-746にも詳細に記載されている。特定の実施形態において、本明細書中の方法によって得られる重鎖/軽鎖対のVHおよび/またはVL中の1つ以上のアミノ酸位置をランダム化して(すなわち、上記、すなわち、VLの91位、94位、および/または96位、ならびに任意選択的に、VHの95位以外の位置)、重鎖/軽鎖バリアントのライブラリを作製する。次いで、VH/VLバリアントのライブラリをスクリーニングして、標的に対する所望の親和性を有するそれらのバリアントを同定する。したがって、特定の実施形態において、本明細書中に記載される方法は、(a)本明細書中の方法によって得られる重鎖/軽鎖対のCDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2および/またはCDR-L3を1つ以上の位置において変異誘発またはランダム化して、VH/VLバリアントのライブラリを作製すること、(b)VH/VLバリアントのライブラリを標的(例えば、標的リガンドまたは標的抗原)と接触させること、(c)VH/VLバリアントに対する標的の結合を検出すること、および(d)標的に特異的に結合するVH/VLバリアントを得ることをさらに含む。上記のように、抗原結合ドメインバリアント中のVLの91位、94位および/または96位、ならびに任意選択的に、VH中の95位は、さらなるランダム化の標的とされない。抗体(またはその断片抗原結合断片)のCDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2および/またはCDR-L3を変異誘発する方法は当技術分野で公知であり、本明細書の他の箇所で論じられる。ライブラリおよびライブラリスクリーニングに関する詳細は、本明細書の他の箇所に提供される。
【0109】
特定の実施形態において、本明細書中に記載の方法は、(e)標的に特異的に結合するVH/VLバリアント(すなわち、親和性成熟VH/VL対)の核酸配列を決定するステップをさらに含む。いくつかの実施形態において、本明細書中に記載される方法は、(f)親和性成熟VH/VL対を、抗体(例えば、二重特異性抗体)上にグラフトし、親和性成熟改変抗体(例えば、親和性成熟改変二重特異性抗体)とするステップをさらに含む。いくつかの実施形態において、本明細書中に記載される方法は、(g)親和性成熟VH/VL対が、例えば、下記の方法を使用して、優先的対合/優先的集合を示す程度を評価するステップをさらに含む。
【0110】
上記の方法のいずれか1つまたは組合せに従って産生された抗体(例えば、単一特異性、二重特異性または多重特異性抗体)または抗体断片もまた本明細書で提供される。
抗体重鎖および軽鎖の優先的対合/優先的集合
【0111】
上記のように、優先的対合は、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとの間で対合が起こる際に、1つ以上のさらなる別個のポリペプチド(例えば、さらなる重鎖および/または軽鎖)が同時に存在する場合の、第1のポリペプチド(例えば、重鎖)と第2のポリペプチド(例えば、軽鎖)との対合パターンを表す。優先的対合(例えば、同族対合)は、HC1を少なくともLC1およびLC2と共発現させた場合の、HC1/LC1重鎖-軽鎖の対合の量がHC1/LC2の対合の量よりも多い場合、例えば抗体(例えば二重特異性抗体)のHC1とLC1との間で生じる。同様に、優先的対合(例えば、同族対合)は、HC2が少なくともLC1およびLC2と共発現している場合に、HC2/LC2重鎖-軽鎖の対合の量がHC2/LC1対合の量よりも多い場合、例えば多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)のHC2とLC2との間で生じる。HC1/LC1、HC1/LC2、HC2/LC1およびHC2/LC2の対合は、本明細書の他の箇所にさらに詳細に記載されているように、当技術分野で公知の方法、例えば液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)によって測定し得る。
【0112】
特定の実施形態において、本明細書中に提供される方法は、HC1がLC1と優先的に対合する抗体(例えば二重特異性抗体)を生成する(例えば、産生する)ために使用される。追加的または代替的に、本明細書中に提供される方法は、HC2がLC2と優先的に対合する抗体(例えば二重特異性抗体)を生成する(例えば、産生する)ために使用される。特定の実施形態において、本明細書中に提供される方法は、HC1がLC1と優先的に対合し、HC2がLC2と優先的に対合する抗体(例えば二重特異性抗体)を生成する(例えば、産生する)ために使用される。特定の実施形態において、本明細書中に提供される方法によって生成された抗体(例えば二重特異性抗体)のHC1が、HC2、LC1およびLC2と共発現される場合、所望の対合(例えば、HC1/LC1およびHC2/LC2)を含む二重特異性抗体が、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約71%、少なくとも約71%、少なくとも約72%、少なくとも約73%、少なくとも約74%、少なくとも約75%、少なくとも約76%、少なくとも約77%、少なくとも約78%、少なくとも約79%、少なくとも約80%、少なくとも約81%、少なくとも約82%、少なくとも約83%、少なくとも約84%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約99%または約99%超の相対的収率で産生され、これらの値の間の任意の範囲も含まれる。所望の対合(例えば、HC1/LC1およびHC2/LC2)を含む二重特異性抗体の相対的収率は、実施例に記載されるように、例えば質量分析を使用して決定し得る。
【0113】
特定の実施形態において、本明細書中に提供される方法を使用して生成される抗体(例えば、二重特異性抗体)の発現ポリペプチドは、誤対合した重鎖および軽鎖の生成を減少させるために改善された特異性で集合する。特定の実施形態において、本明細書中に提供される抗体(例えば、二重特異性抗体)のCH1のVHドメインは、産生中にLC1のVLドメインと集合する(例えば、優先的に集合する)。
正しい対合/優先的対合/優先的集合を評価する方法
【0114】
本明細書中に記載の方法に従って作製された改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)のLC1とのHC1の優先的対合、正しい対合および/または優先的集合は、当技術分野の当業者に周知の種々の方法のいずれか1つを使用して決定し得る。例えば、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)におけるHC1とLC1との優先的対合の程度は、軽鎖競合アッセイ(LCCA)によって決定し得る。2013年10月3日に出願された国際特許出願PCT/US2013/063306は、LCCAの種々の実施形態を記載しており、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられる。この方法は、共発現されたタンパク質の混合物内における、重鎖と特定の軽鎖との対合の定量的分析を可能にし、重鎖と軽鎖が共発現されたときに、1つの特定の免疫グロブリン重鎖が2つの免疫グロブリン軽鎖のいずれかと選択的に会合するかどうかを決定するために使用し得る。この方法を以下のように簡単に説明する:少なくとも1つの重鎖および2つの異なる軽鎖が、重鎖が制限対合反応物質であるような比率で細胞中に共発現され、任意選択的に、分泌されたタンパク質を細胞から分離し、重鎖に結合した免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドを分泌されたタンパク質の残りから分離して、単離された重鎖対合分画を生成し、単離された重鎖画分中の異なる軽鎖のそれぞれの量を検出し、単離された重鎖画分中の異なる軽鎖のそれぞれの相対量を分析して、少なくとも1つの重鎖が軽鎖の1つと選択的に対合する能力を決定する。
【0115】
特定の実施形態において、本明細書中に提供される方法に従って作製された改変抗体(例えば、改変二重特異性または多重特異性抗体)のLC1とHC1との優先的対合は、質量分析(例えば、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)、ネイティブ質量分析、酸性質量分析などである。)によって測定される。質量分析を使用して、分子量の差を使用して各軽鎖を含む相対的なヘテロ二量体集団を定量し、それぞれの異なる種を同定する。特定の実施形態において、正しいまたは優先的な対合は、本明細書中に記載のLC-MSによって決定される。特定の実施形態において、FvまたはFabの正しいまたは優先的な対合が測定される。
多重特異性抗体フォーマット
【0116】
本明細書中で提供される方法に従って作製された改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)は、当技術分野で公知の種々の二重特異性または多重特異性抗体フォーマットのいずれか1つと共に使用することができる。複数の結合特異性を有する分子によってもたらされる治療機会に対処するために、多数のフォーマットが当技術分野で開発されている。特定の抗体軽鎖または断片が特定の抗体重鎖または断片と対合する二重特異性抗体を調製するためのいくつかのアプローチが記載されている。
【0117】
例えば、同族FabまたはHCとLCとの対合の選択的対合を促進するCH1/CL界面における突然変異は、Dillon et al.(2017)MABS 9(2):213-230および国際公開第2016/172485号に記載されており、その内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0118】
ノブ・イントゥ・ホールは、抗体のCH3ドメインについてのヘテロ二量体化技術である。これまで、ノブ・イントゥ・ホール技術は、単一の共通軽鎖(LC)を有するヒト全長二重特異性抗体の産生に適用されてきた(Merchant et al.「An efficient route to human bispecific IgG.」 Nat Biotechnol.1998;16:677-81、Jackman et al.「Development of a two-part strategy to identify a therapeutic human bispecific antibody that inhibits IgE receptor signaling.」 J Biol Chem.2010;285:20850-9)。国際公開第1996027011号もまた参照されたく、これはあらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0119】
本明細書中で提供される方法を使用して生成された抗体(例えば、二重特異性抗体)は、ホモ二量体よりもヘテロ二量体を形成することに対して強い優先性を有する他のヘテロ二量体化ドメインを含むようにさらに改変することができる。例示的な例としては、例えば、国際公開第2007147901号(Kjaergaard et al.-Novo Nordisk:イオン相互作用を記載);国際公開第2009089004号(Kannan et al.-Amgen:静電ステアリング効果を記載)、国際公開第2010/034605号(Christensen et al.-Genentech、コイルドコイルを記載)。例えば、ロイシンジッバーを記載しているPack,P.&Pluckthun,A.,Biochemistry 31,1579-1584(1992)、またはヘリックス-ターン-ヘリックスモチーフを記載しているPack et al.,Bio/Technology 11,1271-1277(1993)も参照のこと。「ヘテロ多量体化ドメイン」および「ヘテロ二量体化ドメイン」という語句は、本明細書で同義に使用される。特定の実施形態において、本明細書中に提供される方法を使用して産生される抗体(例えば、二重特異性抗体)は、1つ以上のヘテロ二量体化ドメインを含む。
【0120】
米国特許出願公開第2009/0182127号(Novo Nordisk,Inc.)は、一方の対の軽鎖が他方の対の重鎖と相互作用する能力を低下させる、軽重鎖対のFc界面およびCH1:CL界面のアミノ酸残基を改変することによる、二重特異性抗体の生成を記載している。
【0121】
多重特異性抗体を作製するための技術としては、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え共発現(Milstein and Cuello,Nature 305:537(1983)を参照)および「ノブ・イン・ホール」操作(例えば、米国特許第5,731,168号およびAtwell et al.,J.Mol.Biol.270:26-35(1997)を参照)が挙げられるが、これらに限定されない。多重特異性抗体はまた、抗体Fc-ヘテロ二量体分子を作製するために静電ステアリング効果を操作すること(例えば、国際公開第2009/089004号を参照);2つ以上の抗体または断片を架橋すること(例えば、米国特許第4,676,980号およびBrennan et al.,Science,229:81(1985)を参照);および、二重特異性抗体を作製するためにロイシンジッパーを使用すること(例えば、Kostelny et al.,J.Immunol.,148(5):1547-1553(1992)および国際公開第2011/034605号を参照)によっても作製し得る。
【0122】
多重特異性抗体はまた、同一の抗原特異性の1つ以上の結合アームにドメインクロスオーバーを持つ非対称形態で、すなわちVH/VLドメイン(例えば、国際公開第2009/080252号および国際公開第2015/150447号を参照)、CH1/C)ドメイン(例えば、国際公開第2009/080253号を参照)または完全なFabアーム(例えば、国際公開第2009/080251号、国際公開第2016/016299号を参照、Schaefer et al,PNAS,108(2011)1187-1191、およびKlein at al.,MAbs 8(2016)1010-20も参照)を交換することによっても提供され得る。一態様において、多重特異性抗体はクロス-Fab断片を含む。「クロス-Fab断片」または「xFab断片」または「クロスオーバーFab断片」という用語は、重鎖および軽鎖の可変領域または定常領域のいずれかが交換されているFab断片を指す。クロスFab断片は、軽鎖可変領域(VL)と重鎖定常領域1(CH1)とで構成されるポリペプチド鎖、および重鎖可変領域(VH)と軽鎖定常領域(CL)とで構成されるポリペプチド鎖を含む。非対称Fabアームは、荷電または非荷電アミノ酸変異をドメイン界面に導入して、正しいFab対合に向かわせることによって操作することもできる。例えば、国際公開第2016/172485号を参照のこと。
【0123】
種々の二重特異性および多重特異性抗体フォーマットの総説は、Klein et al.,(2012)mAbs 4:6,653-663およびSpiess et al.(2015)“Alternative molecular formats and therapeutic applications for bispecific antibodies.” Mol.Immunol.67(2015)95-106に提供されている。
【0124】
いくつかの実施形態において、本明細書中に提供される方法によって作製された改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)は、正しい重鎖/軽鎖の対合をさらに確実にするために、上記の多重特異性抗体フォーマットのいずれかに再フォーマットされる。
抗体の産生および精製
宿主細胞の培養
【0125】
特定の実施形態において、本明細書中に提供される方法に従って作製された改変抗体(例えば、改変二重特異性または多重特異性抗体)は、(a)HC1、HC2、LC1およびLC2をコードするポリヌクレオチドのセットを宿主細胞に導入すること;および(b)前記宿主細胞を培養して、抗体(例えば、二重特異性または多重特異性抗体)を産生することによって産生し得る。特定の実施形態において、LC1およびLC2をコードするポリヌクレオチドを、所定の比率(例えば、モル比または重量比)で宿主細胞に導入する。一定の実施形態において、LC1およびLC2をコードするポリヌクレオチドは、LC1:LC2の比(例えば、モル比または重量比)が約1:1、約1:1.5、約1:2、約1:2.5、約1:3、約1:3.5、約1:4、約1:4.5、約1:5、約1:5.5、約1.5:1、約2:1、約2.5:1、約3:1、約3.5:1、約4:1、約4.5:1、約5:1または約5.5:1になるように導入され、ここで、これらの値の間の任意の範囲も含まれる。特定の実施形態において、比はモル比である。特定の実施形態において、比は重量比である。特定の実施形態において、HC1およびHC2をコードするポリヌクレオチドは、所定の比(例えば、モル比または重量比)で宿主細胞に導入される。一定の実施形態において、HC1およびHC2をコードするポリヌクレオチドは、HC1:HC2 の比(例えば、モル比または重量比)が約1:1、約1:1.5、約1:2、約1:2.5、約1:3、約1:3.5、約1:4、約1:4.5、約1:5、約1:5.5、約1.5:1、約2:1、約2.5:1、約3:1、約3.5:1、約4:1、約4.5:1、約5:1または約5.5:1になるように宿主細胞に導入され、ここで、これらの値の間の任意の範囲も含まれる。特定の実施形態において、比はモル比である。特定の実施形態において、比は重量比である。特定の実施形態において、HC1、HC2、LC1およびLC2をコードするポリヌクレオチドは、所定の比(例えば、モル比または重量比)で宿主細胞に導入される。一定の実施形態において、HC1、HC2、LC1およびLC2をコードするポリヌクレオチドは、HC1+HC2:LC1、+LC2の比(例えば、モル比または重量比)が約5:1、約5:2、約5:3、約5:4、約1:1、約4:5、約3:5、約2:5または約1:5になるように宿主細胞に導入され、これらの値の間の任意の範囲も含まれる。特定の実施形態において、LC1、LC2、HC1およびHC2をコードするポリヌクレオチドは、LC1+LC2:HC1、+HC2の比(例えば、モル比または重量比)が約1:1:1:1、約2.8:1:1:1、約1.4:1:1:1、約1:1.4:1:1、約1:2.8:1:1、約1:1:2.8:1、約1:1:1.4:1、約1:1:1:2.8または約1:1:1:1.4になるように宿主細胞に導入され、これらの値の間の任意の範囲も含まれる。特定の実施形態において、比はモル比である。特定の実施形態において、比は重量比である。
【0126】
特定の実施形態において、本明細書中に提供される方法に従って作製された改変抗体(例えば、改変二重特異性または多重特異性抗体)を産生することは、細胞への導入のためのポリヌクレオチドの最適比を決定することをさらに含む。特定の実施形態において、質量分析を使用して抗体収率(例えば、二重特異性抗体収率)を決定し、最適な鎖比を調整してタンパク質収率(例えば、二重特異性抗体収率)を最大化する。特定の実施形態において、本明細書中に提供した方法に従って生成された抗体(例えば、二重特異性または多重特異性抗体)を産生することは、細胞培養物から抗体を採取または回収することをさらに含む。特定の実施形態において、本明細書中に提供される方法に従って生成される抗体(例えば、二重特異性抗体または多重特異性抗体)を産生することは、採取または回収された抗体を精製することをさらに含む。
【0127】
本明細書で提供される方法に従って作製された改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)を産生するために使用される宿主細胞は、種々の培地中で培養し得る。市販の培地、例えば、ハムF10(Sigma)、最小必須培地((MEM)、(Sigma)、RPMI-1640(Sigma)、およびダルベッコ改変イーグル培地((DMEM)、Sigma)が、宿主細胞の培養に好適である。さらにHam et al.,Meth.Enz.58:44(1979),Barnes et al.,Anal.Biochem.102:255(1980),、米国特許第4,767,704号、米国特許第4,657,866号、米国特許第4,927,762号、米国特許第4,560,655号、または米国特許第5,122,469号、国際公開第90/03430号、国際公開第87/00195号、または米国再特許第30,985号に記載される培地のいずれも、宿主細胞の培養培地として使用し得る。これらの培地のうちのいずれかには、必要に応じて、ホルモンおよび/または他の成長因子(例えば、インスリン、トランスフェリン、または上皮成長因子)、塩(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩)、緩衝液(例えば、HEPES)、ヌクレオチド(例えば、アデノシンおよびチミジン)、抗生物質(例えば、GENTAMYCIN(商標)薬物)、微量元素(通常マイクロモル範囲の最終濃度で存在する無機化合物と定義される)、ならびにグルコースまたは等価エネルギー源を補充し得る。任意の他の必要な補充物も当技術分野の当業者に公知であろう適切な濃度で含まれ得る。培養条件、例えば、温度、pH等は、発現のために選択された宿主細胞で既に使用したものであり、当業者には明らかであろう。
抗体の採取または回収および精製
【0128】
関連する態様において、本明細書中に記載される方法に従って作製された改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)を産生することは、上記の宿主細胞を、改変抗体の発現を可能にする条件下で培養すること、および改変抗体を回収する(例えば、採取する)ことを含む。特定の実施形態において、本明細書中に記載される方法に従って作製された改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)を産生することは、例えば、さらなるアッセイおよび使用のために、実質的に均一な調製物を得るために、採取された改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)を精製することをさらに含む。
【0129】
本明細書に記載の方法に従って作製された改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)は、細胞内で産生されても、または培地中に直接分泌されてもよい。かかる改変抗体が細胞内で産生される場合、第1のステップとして、微粒子残渣、宿主細胞または溶解断片のいずれかが、例えば、遠心分離または限外濾過によって除去される。本明細書中に記載の方法に従って作製された改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)が培地に分泌される場合、そのような発現系からの上清は、一般的に、市販のタンパク質濃縮フィルタ、例えばAmiconまたはMillipore Pellicon限外濾過ユニットを用いて最初に濃縮される。タンパク質分解を阻害するために、PMSF等のプロテアーゼ阻害剤が前述のステップのいずれかに含まれていてもよく、外来性混入物の増殖を防止するために、抗生物質が含まれていてもよい。
【0130】
当技術分野で公知の標準的なタンパク質精製方法を使用して、本明細書中に記載の方法に従って作製された改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)の実質的に均一な調製物を細胞から得ることができる。以下の手順は、好適な精製手順の例である:免疫親和性またはイオン交換カラム上での分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカまたは陽イオン交換樹脂、例えば、DEAE等上でのクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、硫酸アンモニウム沈殿、および、例えばSephadex G-75を使用したゲル濾過。
【0131】
追加的または代替的に、本明細書中に記載される方法を使用して作製された改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)は、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析および親和性クロマトグラフィーを使用して精製することができ、親和性クロマトグラフィーが好ましい精製技術である。
【0132】
特定の態様において、上記の細胞培養培地に由来する調製物を固相に固定化したプロテインA上に適用して、プロテインAへの改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)の特異的結合を可能にする。次いで、固相を洗浄し、固相に非特異的に結合した混入物を除去する。改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)は、カオトロピック剤または中性洗剤を含む溶液への溶出によって固相から回収される。例示的なカオトロピック剤および中性洗剤としては、グアニジン-HCl、尿素、過塩素酸リチウム、アルギニン、ヒスチジン、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、Tween、Triton、およびNP-40が含まれるが、これらに限定されるものではなく、これらは全て市販されている。
【0133】
プロテインAの親和性リガンドとしての好適性は、抗体(例えば、二重特異性抗体)中に存在する任意の免疫グロブリンFcドメインの種およびアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2またはγ4重鎖に基づく抗体を精製するために使用し得る(Lindmark et al.,J.Immunol.Meth.62:1-13(1983))。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプおよびヒトγ3に対して推奨される((Guss et al.,EMBO J.5:15671575(1986))。親和性リガンドが結合するマトリックスは、ほとんどの場合、アガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。制御細孔ガラスまたはポリ(スチレンジビニル)ベンゼン等の機械的に安定なマトリックスにより、アガロースで達成され得るよりも速い流速および短いプロセシング時間が可能になる。改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX(商標)樹脂(J.T.Baker,Phillipsburg,NJ)は、精製に有用である。タンパク質精製のための他の技術、例えば、イオン交換カラム上での分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカ上でのクロマトグラフィー、アニオンまたはカチオン交換樹脂(例えば、ポリアスパラギン酸カラム)上でのヘパリンSEPHAROSE(商標)上でのクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、および硫酸アンモニウム沈殿も、回収される抗体(例えば、二重特異性抗体)に応じて利用可能である。
【0134】
任意の予備精製ステップ後、改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)および混入物を含む混合物は、約2.5~4.5のpHの溶出緩衝液を使用して、好ましくは、低塩濃度(例えば、約0~0.25Mの塩)で行われる、低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーに供され得る。改変抗体(例えば、改変二重特異性抗体)の産生は、(前述の特定の方法のいずれかに対して)代替的または追加的に、ポリペプチドの混合物を含む溶液を透析することを含み得る。
ライブラリおよびライブラリスクリーニング
【0135】
優先的対合を示す重鎖/軽鎖対(またはその抗原結合断片)のライブラリも本また明細書中に提供される。
【0136】
例えば、複数の抗原結合ドメインバリアントであって、それぞれが、異なる抗体重鎖ドメイン(VH)および異なる抗体軽鎖ドメイン(VL)を含む抗原結合ドメインバリアントを含むライブラリが本明細書中に提供され、ここで、各VHは、異なるCDR-H1、CDR-H2およびCDR-H3配列を含み、各VLは、異なるCDR-L1、CDR-L2およびCDR-L3配列を含み、各VLの94位または各VLの96位の少なくとも1つのアミノ酸は、アスパラギン酸(D)、アルギニン(R)、グルタミン酸(E)、およびリジン(K)から選択される荷電残基であり、アミノ酸番号付けはKabatに従っている。いくつかの実施形態において、各VLの94位および96位置における2つアミノ酸は共に、D、R、EおよびKから独立して選択される荷電残基である。いくつかの実施形態において、各VLの94位におけるアミノ酸は、Dである。いくつかの実施形態において、各VLの96位におけるアミノ酸は、Rである。いくつかの実施形態において、各VLの94位のアミノ酸はDであり、各VLの96位のアミノ酸は、Rである。いくつかの実施形態において、各VHの95位におけるアミノ酸は、D、R、EおよびKから選択される荷電残基である。いくつかの実施形態において、各VHの95位のアミノ酸はDである。いくつかの実施形態において、各VLの94位のアミノ酸はDであり、各VLの96位のアミノ酸はRであり、各VHの95位のアミノ酸はDである。
【0137】
複数の抗原結合ドメインバリアントであって、それぞれが異なる抗体重鎖ドメイン(VH)および異なる抗体軽鎖ドメイン(VL)を含む抗原結合ドメインバリアントを含むライブラリも本明細書中に提供され、ここで、各VHは、異なるCDR-H1、CDR-H2およびCDR-H3配列を含み、各VLは、異なるCDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3配列を含み、各VLの91位、各VLの94位、または各VLの96位の少なくとも1つのアミノ酸は、トリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)およびチロシン(Y)から選択される芳香族残基であり、ここで、アミノ酸番号付けはKabatに従っている。いくつかの実施形態において、各VLの91位、94位、または96位の少なくとも2つのアミノ酸(例えば、91位および94、91位および96位、または94位および96位)は、W、FおよびYから選択される芳香族残基である。いくつかの実施形態において、各VLの91位のアミノ酸はYである。いくつかの実施形態において、各VLの94位のアミノ酸はYである。いくつかの実施形態において、各VLの96位のアミノ酸はWである。いくつかの実施形態において、各VLの91位のアミノ酸はYであり、各VLの94位のアミノ酸はYである。いくつかの実施形態において、各VLの91位のアミノ酸はYであり、各VLの96位のアミノ酸はWである。いくつかの実施形態において、各VLの94位のアミノ酸はYであり、各VLの96位のアミノ酸はWである。いくつかの実施形態において、各VLの91位のアミノ酸はYであり、各VLの94位のアミノ酸はYであり、各VLの96位のアミノ酸はWである。いくつかの実施形態において、各VHの95位のアミノ酸は、アスパラギン酸(D)、アルギニン(R)、グルタミン酸(E)、およびリジン(K)から選択される荷電残基であり、アミノ酸番号付けはKabatにしたがっている。いくつかの実施形態において、各VHの95位のアミノ酸は、トリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)、およびチロシン(Y)から選択される芳香族残基である。
【0138】
特定の実施形態において、ライブラリは、ポリペプチドライブラリ(例えば、本明細書中に記載される任意の複数のポリペプチド)である。特定の実施形態において、本明細書中に提供されるポリペプチドライブラリは、ポリペプチドディスプレイライブラリである。そのようなポリペプチドディスプレイライブラリをスクリーニングして、治療、予防、獣医学、診断、試薬または材料用途を含むがこれらに限定されない多種多様な有用性について所望の特性を有する結合タンパク質を選択および/または進化させることができる。特定の実施形態において、ライブラリは、核酸ライブラリ(本明細書に記載の核酸のいずれかの複数など)であり、ここで、各核酸(または核酸の群)が本明細書中に記載の異なる抗原ドメイン結合バリアントをコードする。いくつかの実施形態において、ライブラリは、それぞれが異なる核酸(または核酸の群)を含む(および、例えば、発現する)複数の宿主細胞(例えば、原核宿主細胞または真核宿主細胞)であり、ここで、それぞれの異なる核酸(または核酸の群)は、本明細書中に記載の異なる抗原ドメイン結合バリアントをコードする。
【0139】
特定の実施形態において、本明細書中に提供されるライブラリは、少なくとも2、3、4、5、10、30、100、250、500、750、1000、2500、5000、7500、10000、25000、50000、75000、100000、250000、500000、750000、1000000、2500000、5000000、7500000、10000000または10000000超の異なる抗原結合ドメイン含み、これらの値の間の任意の範囲も含まれる。特定の実施形態において、本明細書中に提供されるライブラリは、約2、約5、約10、約50、約100、約250、約500、約750、約103、約104、約105、約106、約107、約108、約109、約1010、約1011、約1012、約1013、約1014、または約1014超(例えば、約1015または約1016)の配列多様性を有し、これらの値の間の任意の範囲も含まれる。
【0140】
特定の実施形態において、本明細書中に提供されるライブラリは、遺伝子工学によって作製される。突然変異誘発およびその後のライブラリ構築のための種々の方法が以前に(スクリーニングまたは選択のための適切な方法と共に)記載されている。そのような突然変異誘発方法としては、例えば、エラープローンPCR、ループシャッフリング、またはオリゴヌクレオチド指向突然変異誘発、ランダムヌクレオチド挿入、または組換え前の他の方法が挙げられるが、これらに限定されない。これらの方法に関するさらなる詳細は、例えば、Abou-Nadler et al.(2010)Bioengineered Bugs 1,337-340、Firth et al.(2005)Bioinformatics 21,3314-3315、Cirino et al.(2003)Methods Mol Biol 231,3-9、Pirakitikulr(2010)Protein Sci 19,2336-2346、Steffens et al.(2007)J.Biomol Tech 18,147-149、およびその他に記載されている。したがって、特定の実施形態において、遺伝子工学技術を介して作製された多重特異性抗原結合タンパク質ライブラリが提供される。
【0141】
特定の実施形態において、本明細書中に提供されるライブラリは、インビトロ翻訳によって作製される。簡潔には、インビトロ翻訳は、タンパク質コード配列を、プロモーターを含有するベクターにクローニングすること、クローニングされた配列をRNAポリメラーゼを用いて転写することによってmRNAを産生すること、および例えば無細胞抽出物を使用してインビトロでこのmRNAを翻訳することによってタンパク質を合成することを伴う。所望の変異タンパク質は、クローニングされたタンパク質コード配列を変更するだけで生成することができる。多くのmRNAは、小麦胚芽抽出物またはウサギ網状赤血球溶解物において効率的に翻訳し得る。インビトロ翻訳に関するさらなる詳細は、例えば、Hope et al.(1985)Cell 43,177-188、Hope et al.(1986)Cell 46,885-894、Hope et al.(1987)EMBO J.6,2781-2784、Hope et al.(1988)Nature 333,635-640、および Melton et al.(1984)Nucl.Acids Res.12,7057-7070に記載されている。
【0142】
したがって、本明細書中に記載のポリペプチドディスプレイライブラリをコードする複数の核酸分子が提供される。複数の核酸分子に作動可能に連結された発現ベクターもまた本明細書中に提供される。本明細書中に記載の複数の抗原結合ドメインをコードする複数の核酸を提供し、核酸を発現させることによって、本明細書中に提供されるライブラリを作製する方法も提供される。
【0143】
特定の実施形態において、本明細書中に提供されるライブラリは、化学合成によって作製される。固相および液相ペプチド合成の方法は当技術分野で周知であり、例えば、Methods of Molecular Biology,35,Peptide Synthesis Protocols,(M.W.Pennington and B.M.Dunn Eds),Springer,1994、Welsch et al.(2010)Curr Opin Chem Biol 14,1-15、Methods of Enzymology,289,Solid Phase Peptide Synthesis,(G.B.Fields Ed.),Academic Press,1997、Chemical Approaches to the Synthesis of Peptides and Proteins,(P.Lloyd-Williams,F.Albericio,and E.Giralt Eds),CRC Press,1997、Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis,A Practical Approach,(W.C.Chan,P.D.White Eds),Oxford University Press,2000、Solid Phase Synthesis,A Practical Guide,(S.F.Kates,F Albericio Eds),Marcel Dekker,2000、P.Seneci,Solid-Phase Synthesis and Combinatorial Technologies,John Wiley&Sons,2000、Synthesis of Peptides and Peptidomimetics(M.Goodman,Editor-in-chief,A.Felix,L.Moroder,C.Tmiolo Eds),Thieme,2002、N.L.Benoiton,Chemistry of Peptide Synthesis,CRC Press,2005、Methods in Molecular Biology,298,Peptide Synthesis and Applications,(J.Howl Ed)Humana Press,2005、およびAmino Acids,Peptides and Proteins in Organic Chemistry,Volume 3,Building Blocks,Catalysts and Coupling Chemistry,(A.B.Hughs,Ed.)Wiley-VCH,2011に記載されている。したがって、特定の実施形態において、化学合成技術によって作製された多重特異性抗原結合タンパク質ライブラリが提供される。
【0144】
特定の実施形態において、本明細書中に提供されるライブラリは、ディスプレイライブラリである。特定の実施形態において、ディスプレイライブラリは、ファージディスプレイライブラリ、ファージミドディスプレイライブラリ、ウイルスディスプレイライブラリ、細菌ディスプレイライブラリ、酵母ディスプレイライブラリ、λgt11ライブラリ、CISディスプレイライブラリおよびインビトロ区画化ライブラリ、またはリボソームディスプレイライブラリである。そのようなディスプレイライブラリを作製およびスクリーニングする方法は当技術分野の当業者に周知であり、例えばMolek et al.(2011)Molecules 16,857-887、Boder et al.,(1997)Nat Biotechnol 15,553-557、Scott et al.(1990)Science 249,386-390、Brisette et al.(2007)Methods Mol Biol 383,203-213、Kenrick et al.(2010)Protein Eng Des Sel 23,9-17、Freudl et al.(1986)J Mol Biol 188,491-494、Getz et al.(2012)Methods Enzymol 503,75-97、Smith et al.(2014)Curr Drug Discov Technol 11,48-55、Hanes,et al.(1997)Proc Natl Acad Sci USA 94,4937-4942、Lipovsek et al.,(2004)J Imm Methods 290,51-67、Ullman et al.(2011)Brief.Funct.Genomics,10,125-134、Odegrip et al.(2004)Proc Natl Acad Sci USA 101,2806-2810、およびMiller et al.(2006)Nat Methods 3,561-570に記載されている。
【0145】
特定の実施形態において、本明細書中に提供されるライブラリは、例えば、Szostak et al.、米国特許第6258558号、米国特許第6261804号、米国特許第5643768号および米国特許第5658754号に記載される技術によって作製されるRNA-タンパク質融合ライブラリである。特定の実施形態において、本明細書中に提供されるライブラリは、例えば、米国特許第6416950号に記載されるようなDNA-タンパク質ライブラリである。
スクリーニング方法
【0146】
本明細書中で提供されるライブラリをスクリーニングして、目的の標的(例えば、抗原)に対して高い親和性を有する抗原結合バリアントを同定することができる。したがって、目的の標的(例えば、本明細書の他の箇所に記載されている目的の標的)に結合する抗原結合バリアントを得る方法が本明細書中に提供される。
【0147】
特定の実施形態において、本方法は、a)目的の標的と、前記標的に特異的に結合するライブラリ中の抗原結合ドメインバリアントとの結合を可能にする条件下で、本明細書中に記載するライブラリを接触させること、b)標的と、前記標的に特異的に結合する抗原結合ドメインバリアントとの結合を検出すること(例えば、前記標的と、前記標的に特異的に結合する前記抗原結合ドメインバリアントとを含む複合体を検出すること)、およびc)標的に特異的に結合する抗原結合ドメインバリアントを得ることを含む。いくつかの実施形態において、方法は、このようにして同定された抗原結合ドメインバリアントを少なくとも1つの親和性成熟ステップに供することをさらに含み、ここで、抗原結合ドメインバリアントのVLにおける91位、94位および/または96位のアミノ酸はランダム化のために選択されない。いくつかの実施形態において、VH中の95位のアミノ酸は、ランダム化のために選択されない。
【0148】
いくつかの実施形態において、本方法は、目的の標的に結合する抗原結合ドメインバリアント(例えば、目的の標的に結合する親和性成熟抗原結合ドメインバリアント)を含む抗体(例えば、二重特異性抗体または多重特異性抗体)を作製することをさらに含む。
【0149】
特定の実施形態において、標的と、標的に特異的に結合する抗原結合ドメインバリアントとを含む複合体が提供される。特定の実施形態において、本方法は、抗原結合ドメインバリアントのVHおよび/またはVLの核酸配列を決定することをさらに含む。
【0150】
親和性成熟は、抗原結合ドメインバリアントが、標的(例えば、標的リガンドまたは標的抗原)に対する親和性の上昇を選択するスキームに供されるプロセスである(Wu et al.(1998)Proc Natl Acad Sci USA.95,6037-42参照)。特定の実施形態において、第1の標的リガンドに特異的に結合する抗原結合ドメインバリアントは、ライブラリスクリーニングからの同定後にさらにランダム化される(すなわち、上記の位置すなわち、VLの91位、94位、および/または96位、ならびに任意選択で、VHの95位以外の位置)。例えば、特定の実施形態において、第1の標的リガンドに特異的に結合する抗原結合ドメインバリアントを得る方法は、(e)さらなる抗原結合ドメインバリアントを作製するために、以前に同定された抗原結合ドメインバリアントのCDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2および/またはCDR-L3を突然変異誘発またはランダム化すること、(f)第1の標的リガンドをさらなるランダム化抗原結合ドメインバリアントと接触させること、(g)さらなるランダム化抗原結合ドメインバリアントに対する標的の結合を検出すること、ならびに(h)標的に特異的に結合するさらなるランダム化抗原結合ドメインバリアントを得ることをさらに含む。上記のように、抗原結合ドメインバリアント中のVL中の91位、94位および/または96位、ならびに任意選択的に、VH中の95位は、さらなるランダム化の標的とされない。抗原結合ドメインのCDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2および/またはCDR-L3を変異誘発する方法は当技術分野で公知であり、例えば、ランダム変異誘発、CDRウォーキング変異誘発または逐次並行最適化、構造ベースの合理的設計による変異誘発、部位特異的変異誘発、酵素ベースの変異誘発、化学ベースの変異誘発、および合成抗体遺伝子産生のための遺伝子合成方法が挙げられる。例えば、e.g.,Yang et al.,1995,CDR Walking Mutagenesis for the Affinity Mutation of a Potent Human Anti-HIV-1 Antibody into the Picomolar Range,J.Mol.Biol.254:392-40、およびLim et al.,2019,Review:Cognizance of Molecular Methods for the Generation of Mutagenic Phage Display Antibody Libraries for Affinity Maturation,Int.J.Mol.Sci,20:1861を参照されたく、その内容はいずれも参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0151】
特定の実施形態において、本方法は、(i)標的に特異的に結合する抗原結合ドメインバリアントの核酸配列を決定することをさらに含む。
【0152】
特定の実施形態において、さらなるランダム化された抗原結合ドメインバリアントは、第1のライブラリにおいて以前にランダム化されていない少なくとも1つまたは少なくとも2つのランダム化CDRを含む。標的に対して十分な親和性を有する抗原結合ドメインバリアントが得られるまで、複数回のランダム化(すなわち、VL内の91位、94位、および/または96位、ならびに任意選択的に、VH内の95位以外)、スクリーニングおよび選択を行うことができる。したがって、特定の実施形態において、ステップ(e)~(h)またはステップ(e)~(i)を、第1の標的リガンドに特異的に結合する抗原結合ドメインバリアントを同定するために、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回または10回超繰り返す。いくつかの実施形態において、2回以上のランダム化、スクリーニングおよび選択を受けた抗原結合ドメインバリアントは、1回のランダム化、スクリーニングおよび選択を受けた抗原結合ドメインバリアントの親和性と少なくとも同程度の親和性で標的に結合する。
【0153】
本明細書中に記載の抗原結合ドメインバリアントのライブラリは、標的リガンドに特異的に結合する新規または改善された結合タンパク質を進化させるために、当技術分野で公知の任意の技術によってスクリーニングし得る。特定の実施形態において、標的リガンドを固体支持体(例えば、カラム樹脂またはマイクロタイタープレートウェル)に固定化し、標的リガンドを、候補多重特異性抗原結合タンパク質のライブラリ(例えば、本明細書中に記載の任意のライブラリ)と接触させる。選択技術は、例えば、ファージディスプレイ(Smith(1985)Science 228,1315-1317)、mRNAディスプレイ(Wilson et al.(2001)Proc Natl Acad Sci USA 98:3750-3755)細菌ディスプレイ(Georgiou,et al.(1997)Nat Biotechnol 15:29-34.)、酵母ディスプレイ(Boder and Wittrup(1997)Nat.Biotechnol.15:553-5577)またはリボソームディスプレイ(Hanes and Pluckthun(1997)Proc Natl Acad Sci U S A 94:4937-4942および国際公開第2008/068637号)であり得る。
【0154】
特定の実施形態において、抗原結合ドメインバリアントのライブラリはファージディスプレイライブラリである。特定の実施形態において、本明細書中に記載の抗原結合ドメインバリアントを提示するファージ粒子が提供される。特定の実施形態において、標的リガンドに結合することができる本明細書中に記載の抗原結合ドメインバリアントを提示するファージ粒子が提供される。
【0155】
ファージディスプレイは、複数の多重特異性抗原結合タンパク質バリアントを、バクテリオファージ粒子表面のコートタンパク質との融合タンパク質として提示する技術である(Smith,G.P.(1985)Science,228:1315-7、Scott,J.K.and Smith,G.P.(1990)Science 249:386、Sergeeva,A.,et al.(2006)Adv.Drug Deliv.Rev.58:1622-54)。ファージディスプレイの有用性は、ランダム化されたタンパク質バリアントの大きいライブラリが標的抗原に高親和性で結合する配列のために迅速かつ効率的に選別され得るという事実にある。
【0156】
ファージ上のペプチド(Cwirla,S.E.et al.(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:6378)またはタンパク質(Lowman,H.B.et al.(1991)Biochemistry,30:10832、Clackson,T.et al.(1991)Nature,352:624、Marks,J.D.et al.(1991),J.Mol.Biol.,222:581、Kang,A.S.et al.(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:8363)ライブラリの提示は、特異的結合特性を有するものについて数百万のポリペプチドまたはオリゴペプチドをスクリーニングするために使用されてきた(Smith,G.P.(1991)Current Opin.Biotechnol.,2:668、Wu et al.(1998)Proc Natl Acad Sci USA.May 95,6037-42)。多価ファージディスプレイ法は、線維状ファージの遺伝子IIIまたは遺伝子VIIIのいずれかへの融合によりランダム小ペプチドおよび小タンパク質を提示するために使用されている(Wells and Lowman,Curr.Opin.Struct.Biol.,3:355-362(1992)、およびそこに引用されている参照文献)。一価ファージディスプレイにおいて、タンパク質またはペプチドライブラリは、遺伝子IIIまたはその一部に融合され、野生型遺伝子IIIタンパク質の存在下で、低レベルで発現され、これにより、ファージ粒子が融合タンパク質を1コピー提示するか、または全く提示しないようになっている。結合力効果は、選別が内因性リガンド親和性に基づくように多価ファージに対して低減され、ファージミドベクターが使用され、これにより、DNA操作が簡略化される(Lowman and Wells,Methods:A companion to Methods in Enzymology,3:205-0216(1991).)。
【0157】
抗原結合ドメインバリアントのファージライブラリの選別は、多数のバリアントの構築および増殖、標的リガンドを使用した親和性精製の手順、および結合富化の結果を評価する手段を必要とする(例えば、米国特許第5223409号、米国特許第5403484号、米国特許第5571689号書、および米国特許第5663143号を参照のこと)。
【0158】
ほとんどのファージディスプレイ法は、繊維状ファージ(例えば、M13ファージ)を使用する。ラムドイドファージディスプレイシステム(国際公開第1995/34683号、米国特許第5627024号参照)、T4ファージディスプレイシステム(Ren et al.(1998)Gene 215:439、Zhu et al.(1998)Cancer Research,58:3209-3214、Jiang et al.,(1997)Infection&Immunity,65:4770-4777、Ren et al.(1997)Gene,195:303-311、Ren(1996)Protein Sci.,5:1833、Efimov et al.(1995)Virus Genes,10:173)およびT7ファージディスプレイシステム(Smith and Scott(1993)Methods in Enzymology,217:228-257、米国特許第5766905号)も公知である。
【0159】
基本的なファージディスプレイ概念の他の多くの改善および変形が現在開発されている。これらの改善は、ディスプレイシステムが、選択された標的分子に結合するためのペプチドライブラリをスクリーニングし、所望の特性についてこれらのタンパク質をスクリーニングする可能性を有する機能性タンパク質を提示する能力を高める。ファージディスプレイ反応のためのコンビナトリアル反応デバイスが開発され(国際公開第1998/14277号)、ファージディスプレイライブラリを使用して、二分子相互作用(国際公開第1998/20169号、国際公開第1998/20159号)および拘束ヘリカルペプチドの特性(国際公開第1998/20036号)が分析および制御されている。国際公開第1997/35196号は、ファージディスプレイライブラリを、リガンドが標的分子に結合する1の溶液および親和性リガンドが標的分子に結合しない第2の溶液と接触させて、結合リガンドを選択的に単離する、親和性リガンドを単離する方法を記載している。国際公開第1997/46251号は、親和性精製抗体を用いてランダムファージディスプレイライブラリをバイオパニングし、次いで結合ファージを単離し、続いてマイクロプレートウェルを使用してマイクロパニングプロセスを行って高親和性結合ファージを単離する方法を記載している。そのような方法は、本明細書中に開示される抗原結合ドメインバリアントのライブラリに適用され得る。親和性タグとして黄色ブドウ球菌プロテインAを使用することも報告されている(Li et al.(1998)Mol Biotech.9:187)。国際公開第1997/47314号は、ファージディスプレイライブラリであり得るコンビナトリアルライブラリを使用して酵素特異性を区別するための基質減算ライブラリの使用を記載している。特異的結合タンパク質を選択するさらなる方法は、米国特許第5498538号、米国特許第5432018号および国際公開第1998/15833号に記載されている。ペプチドライブラリを作製し、これらのライブラリをスクリーニングする方法は、米国特許第5723286号、米国特許第5432018号、米国特許第5580717号、米国特許第5427908号、米国特許第5498530号、米国特許第5770434号、米国特許第5734018号、米国特許第5698426号、米国特許第5763192号および米国特許第5723323号にも開示されている。
例示的な抗原/標的分子
【0160】
本明細書中に提供される方法を使用して産生される抗体(例えば、二重特異性または多重特異性抗体)によって標的化され得る分子の例としては、可溶性血清タンパク質およびその受容体ならびに他の膜結合タンパク質(例えば、アドヘシン)が含まれるが、これらに限定されない。他の実施形態において、本明細書中に提供される多重特異性抗原結合タンパク質は、8MPI、8MP2、8MP38(GDFIO)、8MP4、8MP6、8MP8、CSFI(M-CSF)、CSF2(GM-CSF)、CSF3(G-CSF)、EPO、FGF1(αFGF)、FGF2(βFGF)、FGF3(int-2)、FGF4(HST)、FGF5、FGF6(HST-2)、FGF7(KGF)、FGF9、FGF1 0、FGF11、FGF12、FGF12B、FGF14、FGF16、FGF17、FGF19、FGF20、FGF21、FGF23、IGF1、IGF2、IFNA1、g1
【0161】
IFNA2、IFNA4、IFNA5、IFNA6、IFNA7、IFN81、IFNG、IFNWI、FEL1、FEL1(EPSELON)、FEL1(ZETA)、IL 1A、IL 1B、IL2、IL3、IL4、IL5、IL6、IL7、IL8、IL9、IL1 0、IL 11、IL 12A、IL 12B、IL 13、IL 14、IL 15、IL 16、IL 17、IL 17B、IL 18、IL 19、IL20、IL22、IL23、IL24、IL25、IL26、IL27、IL28A、IL28B、IL29、IL30、PDGFA、PDGFB、TGFA、TGFB1、TGFB2、TGFBb3、LTA(TNF-β)、LTB、TNF(TNF-α)、TNFSF4(OX40リガンド)、TNFSF5(CD40リガンド)、TNFSF6(FasL)、TNFSF7(CD27リガンド)、TNFSF8(CD30リガンド)、TNFSF9(4-1 BBリガンド)、TNFSF10(TRAIL)、TNFSF11(TRANCE)、TNFSF12(APO3L)、TNFSF13(April)、TNFSF13B、TNFSF14(HVEM-L)、TNFSF15(VEGI)、TNFSF18、HGF(VEGFD)、VEGF、VEFGA、VEGFB、VEGFC、IL1R1、IL1R2、IL1RL1、IL1RL2、IL2RA、IL2RB、IL2RG、IL3RA、IL4R、IL5RA、IL6R、IL7R、IL8RA、IL8RB、IL9R、IL10RA、IL10RB、IL11RA、IL12RB1、IL12RB2、IL13RA1、IL13RA2、IL15RA、IL17R、IL18R1、IL20RA、IL21R、IL22R、IL1HY1、IL1RAP、IL1RAPL1、IL1RAPL2、IL1RN、IL6ST、IL18BP、IL18RAP、IL22RA2、AIF1、HGF、LEP(レプチン)、PTN、およびTHPOからなる群から選択される1つ、2つまたはそれより多くのサイトカイン、サイトカイン関連タンパク質およびサイトカイン受容体に結合することができる。
【0162】
他の実施形態において、標的分子は、CCLI(1-309)、CCL2(MCP-1/MCAF)、CCL3(MIP-1α)、CCL4(MIP-Iβ)、CCL5(RANTES)、CCL7(MCP-3)、CCL8(mcp-2)、CCL11(エオタキシン)、CCL13(MCP-4)、CCL15(MIP-Iδ)、CCL 16(HCC-4)、CCL17(TARC)、CCL18(PARC)、CCL19(MDP-3b)、CCL20(MIP-3α)、CCL21(SLC/exodus-2)、CCL22(MDC/STC-1)、CCL23(MPIF-1)、CCL24(MPIF-2/エオタキシン-2)、CCL25(TECK)、CCL26(エオタキシン-3)、CCL27(CTACK/ILC)、CCL28、CXCLI(GROI)、CXCL2(GR02)、CXCL3(GR03)、CXCL5(ENA-78)、CXCL6(GCP-2)、CXCL9(MIG)、CXCL10(IP10)、CXCL11(1-TAC)、CXCL12(SDFI)、CXCL13、CXCL14、CXCL16、PF4(CXCL4)、PPBP(CXCL7)、CX3CL 1(SCYDI)、SCYEI、XCLI(リンホタクチン)、XCL2(SCM-Iβ)、BLRI(MDR15)、CCBP2(D6/JAB61)、CCRI(CKRI/HM145)、CCR2(mcp-IRB IRA)、CCR3(CKR3/CMKBR3)、CCR4、CCR5(CMKBR5/ChemR13)、CCR6(CMKBR6/CKR-L3/STRL22/DRY6)、CCR7(CKR7/EBII)、CCR8(CMKBR8/TER1/CKR-L1)、CCR9(GPR-9-6)、CCRL1(VSHK1)、CCRL2(L-CCR)、XCR1(GPR5/CCXCR1)、CMKLR1、CMKOR1(RDC1)、CX3CR1(V28)、CXCR4、GPR2(CCR10)、GPR31、GPR81(FKSG80)、CXCR3(GPR9/CKR-L2)、CXCR6(TYMSTR/STRL33/Bonzo)、HM74、IL8RA(IL8Rα)、IL8RB(IL8Rβ)、LTB4R(GPR16)、TCP10、CKLFSF2、CKLFSF3、CKLFSF4、CKLFSF5、CKLFSF6、CKLFSF7、CKLFSF8、BDNF、C5R1、CSF3、GRCC10(C10)、EPO、FY(DARC)、GDF5、HDF1、HDF1α、DL8、PRL、RGS3、RGS13、SDF2、SLIT2、TLR2、TLR4、TREM1、TREM2、およびVHLからなる群から選択される、ケモカイン、ケモカイン受容体、またはケモカイン関連タンパク質である。
【0163】
他の実施形態において、本明細書中に提供される方法を使用して産生される抗体(例えば、二重特異性または多重特異性抗体)は、ABCF1;ACVR1;ACVR1B;ACVR2;ACVR2B;ACVRL1;ADORA2A;アグリカン;AGR2;AICDA;AIF1;AIG1;AKAP1;AKAP2;AMH;AMHR2;ANGPTL;ANGPT2;ANGPTL3;ANGPTL4;ANPEP;APC;APOC1;AR;AZGP1(亜鉛-a-糖タンパク質);B7.1;B7.2;BAD;BAFF(BLys);BAG1;BAI1;BCL2;BCL6;BDNF;BLNK;BLRI(MDR15);BMP1;BMP2;BMP3B(GDF10);BMP4;BMP6;BMP8;BMPR1A;BMPR1B;BMPR2;BPAG1(プレクチン);BRCA1;C19orf10(IL27w);C3;C4A;C5;C5R1;CANT1;CASP1;CASP4;CAV1;CCBP2(D6/JAB61);CCL1(1-309);CCL11(エオタキシン);CCL13(MCP-4);CCL15(MIP1δ);CCL16(HCC-4);CCL17(TARC);CCL18(PARC);CCL19(MIP-3β);CCL2(MCP-1);MCAF;CCL20(MIP-3α);CCL21(MTP-2);SLC;exodus-2;CCL22(MDC/STC-1);CCL23(MPIF-1);CCL24(MPIF-2/エオタキシン-2);CCL25(TECK);CCL26(eotaxin-3);CCL27(CTACK/ILC);CCL28;CCL3(MTP-Iα);CCL4(MDP-Iβ);CCL5(RANTES);CCL7(MCP-3);CCL8(mcp-2);CCNA1;CCNA2;CCND1;CCNE1;CCNE2;CCR1(CKRI /HM145);CCR2(mcp-IRβ/RA);CCR3(CKR/ CMKBR3);CCR4;CCR5(CMKBR5/ChemR13);CCR6(CMKBR6/CKR-L3/STRL22/DRY6);CCR7(CKBR7/EBI1);CCR8(CMKBR8/TER1/CKR-L1);CCR9(GPR-9-6);CCRL1(VSHK1);CCRL2(L-CCR);CD164;CD19;CD1C;CD20;CD200;CD22;CD24;CD28;CD3;CD37;CD38;CD3E;CD3G;CD3Z;CD4;CD40;CD40L;CD44;CD45RB;CD52;CD69;CD72;CD74;CD79A;CD79B;CDS;CD80;CD81;CD83;CD86;CDH1(E-カドヘリン);CDH10;CDH12;CDH13;CDH18;CDH19;CDH20;CDH5;CDH7;CDH8;CDH9;CDK2;CDK3;CDK4;CDK5;CDK6;CDK7;CDK9;CDKN1A(p21/WAF1/Cip1);CDKN1B(p27/Kip1);CDKN1C;CDKN2A(P16INK4a);CDKN2B;CDKN2C;CDKN3;CEBPB;CER1;CHGA;CHGB;Chitinase;CHST10;CKLFSF2;CKLFSF3;CKLFSF4;CKLFSF5;CKLFSF6;CKLFSF7;CKLFSF8;CLDN3;CLDN7(クローディン-7);CLN3;CLU(クラスタリン);CMKLR1;CMKOR1(RDC1);CNR1;COL 18A1;COL1A1;COL4A3;COL6A1;CR2;CRP;CSFI(M-CSF);CSF2(GM-CSF);CSF3(GCSF);CTLA4;CTNNB1(b-カテニン);CTSB(カテプシンB);CX3CL1(SCYDI);CX3CR1(V28);CXCL1(GRO1);CXCL10(IP-10);CXCL11(I-TAC/IP-9);CXCL12(SDF1);CXCL13;CXCL14;CXCL16;CXCL2(GRO2);CXCL3(GRO3);CXCL5(ENA-78/LIX);CXCL6(GCP-2);CXCL9(MIG);CXCR3(GPR9/CKR-L2);CXCR4;CXCR6(TYMSTR/STRL33/Bonzo);CYB5;CYC1;CYSLTR1;DAB2IP;DES;DKFZp451J0118;DNCLI;DPP4;E2F1;ECGF1;EDG1;EFNA1;EFNA3;EFNB2;EGF;EGFR;ELAC2;ENG;ENO1;ENO2;ENO3;EPHB4;EPO;ERBB2(Her-2);EREG;ERK8;ESR1;ESR2;F3(TF);FADD;FasL;FASN;FCER1A;FCER2;FCGR3A;FGF;FGF1(αFGF);FGF10;FGF11;FGF12;FGF12B;FGF13;FGF14;FGF16;FGF17;FGF18;FGF19;FGF2(bFGF);FGF20;FGF21;FGF22;FGF23;FGF3(int-2);FGF4(HST);FGF5;FGF6(HST-2);FGF7(KGF);FGF8;FGF9;FGFR3;FIGF(VEGFD);FELl(EPSILON);FILl(ZETA);FLJ12584;FLJ25530;FLRTI(フィブロネクチン);FLT1;FOS;FOSL1(FRA-1);FY(DARC);GABRP(GABAa);GAGEB1;GAGEC1;GALNAC4S-6ST;GATA3;GDF5;GFI1;GGT1;GM-CSF;GNASI;GNRHI;GPR2(CCR10);GPR31;GPR44;GPR81(FKSG80);GRCCIO(C10);GRP;GSN(ゲルソリン);GSTP1;HAVCR2;HDAC4;HDAC5;HDAC7A;HDAC9;HGF;HIF1A;HOP1;ヒスタミンおよびヒスタミン受容体;HLA-A;HLA-DRA;HM74;HMOXI;HUMCYT2A;ICEBERG;ICOSL;1D2;IFN-a;IFNA1;IFNA2;IFNA4;IFNA5;IFNA6;IFNA7;IFNB1;IFNガンマ;DFNW1;IGBP1;IGF1;IGF1R;IGF2;IGFBP2;IGFBP3;IGFBP6;IL-l;IL10;IL10RA;IL10RB;IL11;IL11RA;IL-12;IL12A;IL12B;IL12RB1;IL12RB2;IL13;IL13RA1;IL13RA2;IL14;IL15;IL15RA;IL16;IL17;IL17B;IL17C;IL17R;IL18;IL18BP;IL18R1;IL18RAP;IL19;IL1A;IL1B;ILIF10;IL1F5;IL1F6;IL1F7;IL1F8;IL1F9;IL1HY1;IL1R1;IL1R2;IL1RAP;IL1RAPL1;IL1RAPL2;IL1RL1;IL1RL2,ILIRN;IL2;IL20;IL20RA;IL21 R;IL22;IL22R;IL22RA2;IL23;IL24;IL25;IL26;IL27;IL28A;IL28B;IL29;IL2RA;IL2RB;IL2RG;IL3;IL30;IL3RA;IL4;IL4R;IL5;IL5RA;IL6;IL6R;IL6ST(糖タンパク質130);EL7;EL7R;EL8;IL8RA;DL8RB;IL8RB;DL9;DL9R;DLK;INHA;INHBA;INSL3;INSL4;IRAK1;ERAK2;ITGA1;ITGA2;ITGA3;ITGA6(a6インテグリン);ITGAV;ITGB3;ITGB4(b4インテグリン);JAG1;JAK1;JAK3;JUN;K6HF;KAI1;KDR;KITLG;KLF5(GC Box BP);KLF6;KLKIO;KLK12;KLK13;KLK14;KLK15;KLK3;KLK4;KLK5;KLK6;KLK9;KRT1;KRT19(ケラチン19);KRT2A;KHTHB6(毛髪特異的H型ケラチン);LAMAS;LEP(レプチン);Lingo-p75;Lingo-Troy;LPS;LTA(TNF-b);LTB;LTB4R(GPR16);LTB4R2;LTBR;MACMARCKS;MAGまたはOMgp;MAP2K7(c-Jun);MDK;MIB1;ミッドカイン;MEF;MIP-2;MKI67;(Ki-67);MMP2;MMP9;MS4A1;MSMB;MT3(メタロチオネクチン-111);MTSS1;MUC1(ムチン);MYC;MY088;NCK2;ニューロカン;NFKB1;NFKB2;NGFB(NGF);NGFR;NgR-Lingo;NgR-Nogo66(Nogo);NgR-p75;NgR-Troy;NME1(NM23A);NOX5;NPPB;NR0B1;NR0B2;NR1D1;NR1D2;NR1H2;NR1H3;NR1H4;NR112;NR113;NR2C1;NR2C2;NR2E1;NR2E3;NR2F1;NR2F2;NR2F6;NR3C1;NR3C2;NR4A1;NR4A2;NR4A3;NR5A1;NR5A2;NR6A1;NRP1;NRP2;NT5E;NTN4;ODZI;OPRD1;P2RX7;PAP;PART1;PATE;PAWR;PCA3;PCNA;POGFA;POGFB;PECAM1;PF4(CXCL4);PGF;PGR;ホスファカン;PIAS2;PIK3CG;PLAU(uPA);PLG;PLXDC1;PPBP(CXCL7);PPID;PRI;PRKCQ;PRKDI;PRL;PROC;PROK2;PSAP;PSCA;PTAFR;PTEN;PTGS2(COX-2);PTN;RAC2(p21 Rac2);RARB;RGSI;RGS13;RGS3;RNF110(ZNF144);ROBO2;S100A2;SCGB1D2(リポフィリンB);SCGB2A1(マンマグロビン2);SCGB2A2(マンマグロビン1);SCYEI(内皮単球活性化サイトカイン);SDF2;SERPINA1;SERPINA3;SERP1NB5(マスピン);SERPINE1(PAI-1);SERPDMF1;SHBG;SLA2;SLC2A2;SLC33A1;SLC43A1;SLIT2;SPPI;SPRR1B(Sprl);ST6GAL1;STABI;STAT6;STEAP;STEAP2;TB4R2;TBX21;TCPIO;TOGFI;TEK;TGFA;TGFBI;TGFB1II;TGFB2;TGFB3;TGFBI;TGFBRI;TGFBR2;TGFBR3;THIL;THBSI(トロンボスポンジン-1);THBS2;THBS4;THPO;TIE(Tie-1);TMP3;組織因子;TLR1;TLR2;TLR3;TLR4;TLR5;TLR6;TLR7;TLR8;TLR9;TLR10;TNF;TNF-a;TNFAEP2(B94);TNFAIP3;TNFRSFIIA;TNFRSF1A;TNFRSF1B;TNFRSF21;TNFRSF5;TNFRSF6(Fas);TNFRSF7;TNFRSF8;TNFRSF9;TNFSF10(TRAIL);TNFSF11(TRANCE);TNFSF12(AP03L);TNFSF13(April);TNFSF13B;TNFSF14(HVEM-L);TNFSF15(VEGI);TNFSF18;TNFSF4(OX40リガンド);TNFSF5(CD40リガンド);TNFSF6(FasL);TNFSF7(CD27リガンド);TNFSFS(CD30リガンド);TNFSF9(4-1 BBリガンド);TOLLIP;Toll様受容体;TOP2A(トポイソメラーゼEa);TP53;TPM1;TPM2;TRADD;TRAF1;TRAF2;
TRAF3;TRAF4;TRAF5;TRAF6;TREM1;TREM2;TRPC6;TSLP;TWEAK;VEGF;VEGFB;VEGFC;ベルシカン;VHL C5;VLA-4;XCL1(リンホタクチン);XCL2(SCM-1b);XCRI(GPR5/CCXCRI);YY1;およびZFPM2からなる群から選択される1つ以上の標的に結合することができる。
【0164】
本明細書中に提供される方法を使用して産生される抗体(例えば、二重特異性抗体または多重特異性抗体)についての好ましい分子標的分子としては、CDタンパク質、例えば、CD3、CD4、CDS、CD16、CD19、CD20、CD34;CD64、ErbB受容体ファミリーのCD200メンバー、例えば、EGF受容体、HER2、HER3またはHER4受容体;細胞接着分子、例えば、LFA-1、Mac1、p150.95、VLA-4、ICAM-1、VCAM、アルファまたはベータサブユニットを含むアルファ4/ベータ7インテグリン、およびアルファv/ベータ3インテグリン(例えば、抗CD11a、抗CD18、または抗CD11b抗体);成長因子、例えば、VEGF-A、VEGF-C;組織因子(TF);アルファインターフェロン(アルファIFN);TNF-α、インターロイキン、例えばIL-1β、IL-3、IL-4、IL-5、IL-S、IL-9、IL-13、IL 17 AF、IL-1S、IL-13Rα1、IL13Rα2、IL-4R、IL-5R、IL-9R、IgE;血液型抗原;flk2/flt3受容体;肥満(OB)受容体;mpl受容体;CTLA-4;RANKL、RANK、RSV Fタンパク質、プロテインCなどが挙げられる。
【0165】
一実施形態において、本明細書中に提供する方法を用いて産生される抗体(例えば、二重特異性または多重特異性抗体)は、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質(LRP)-1またはLRP-8またはトランスフェリン受容体、および、1)ベータ-セクレターゼ(BACE1またはBACE2)、2)アルファ-セクレターゼ、3)ガンマ-セクレターゼ、4)タウ-セクレターゼ、5)アミロイド前駆体タンパク質(APP)、6)デスレセプター6(DR6)、7)アミロイドベータペプチド、8)アルファ-シヌクレイン、9)パーキン、10)ハンチンチン、11)p75 NTR、および12)カスパーゼ-6からなる群から選択される少なくとも1つの標的に結合する。
【0166】
一実施形態において、本明細書中に提供される方法を使用して産生された抗体(例えば、二重特異性または多重特異性抗体)は、以下からなる群から選択される少なくとも2つの標的分子に結合する:IL-1アルファおよびIL-1ベータ、IL-12およびIL-1S;IL-13およびIL-9;IL-13およびIL-4;IL-13およびIL-5;IL-5およびIL-4;IL-13およびIL-1ベータ;IL-13およびIL-25;IL-13およびTARC;IL-13およびMDC;IL-13およびMEF;IL-13およびTGF-~;IL-13およびLHRアゴニスト;IL-12およびTWEAK;IL-13およびCL25;IL-13およびSPRR2a;IL-13およびSPRR2b;IL-13およびADAMS;IL-13およびPED2;IL17AおよびIL17F;CD3およびCD19;CD138およびCD20;CD138およびCD40;CD19およびCD20;CD20およびCD3;CD3SおよびCD13S;CD3SおよびCD20;CD3SおよびCD40;CD40およびCD20;CD-SおよびIL-6;CD20およびBR3;TNFアルファおよびTGF-ベータ、TNFアルファおよびIL-1ベータ;TNFアルファおよびIL-2、TNFアルファおよびIL-3、TNFアルファおよびIL-4、TNFアルファおよびIL-5、TNFアルファおよびIL6、TNFアルファおよびIL8、TNFアルファおよびIL-9、TNFアルファおよびIL-10、TNFアルファおよびIL-11、TNFアルファおよびIL-12、TNFアルファおよびIL-13、TNFアルファおよびIL-14、TNFアルファおよびIL-15、TNFアルファおよびIL-16、TNFアルファおよびIL-17、TNFアルファおよびIL-18、TNFアルファおよびIL-19、TNFアルファおよびIL-20、TNFアルファおよびIL-23、TNFアルファおよびIFNアルファ、TNFアルファおよびCD4、TNFアルファおよびVEGF、TNFアルファおよびMIF、TNFアルファおよびICAM-1、TNFアルファおよびPGE4、TNFアルファおよびPEG2、TNFアルファおよびRANKリガンド、TNFアルファおよびTe38、TNFアルファおよびBAFF、TNFアルファおよびCD22、TNFアルファおよびCTLA-4、TNFアルファおよびGP130、TNFaおよびIL-12p40、VEGFおよびHER2、VEGF-AおよびHER2、VEGF-AおよびPDGF、HER1およびHER2、VEGFAおよびANG2、VEGF-AおよびVEGF-C、VEGF-CおよびVEGF-D、HER2およびDR5、VEGFおよびIL-8、VEGFおよびMET、VEGFRおよびMET受容体、EGFRおよびMET、VEGFRおよびEGFR、HER2およびCD64、HER2およびCD3、HER2およびCD16、HER2およびHER3、EGFR(HER1)およびHER2、EGFRおよびHER3、EGFRおよびHER4、IL-14およびIL-13、IL-13およびCD40L、IL4およびCD40L、TNFR1およびIL-1R、TNFR1およびIL-6RならびにTNFR1およびIL-18R、EpCAMおよびCD3、MAPGおよびCD28、EGFRおよびCD64、CSPGsおよびRGM A;CTLA-4およびBTN02;IGF1およびIGF2;IGF1/2およびErb2B;MAGおよびRGM A;NgRおよびRGM A;NogoAおよびRGM A;OMGpおよびRGM A;POL-lおよびCTLA-4;ならびにRGM AおよびRGM B。
【0167】
任意選択的に他の分子にコンジュゲートする可溶性抗原またはその断片は、抗体を生成するための免疫原として使用し得る。受容体などの膜貫通分子の場合、これらの断片(例えば、受容体の細胞外ドメイン)が免疫原として使用し得る。あるいは、膜貫通分子を発現する細胞が免疫原として使用し得る。このような細胞は、天然源(例えば、がん細胞株)由来であっても、または膜貫通分子を発現するように組換え技術によって形質転換された細胞であってもよい。抗体の作製に有用な他の抗原およびその形態は、当技術分野の当業者には明らかであろう。
活性アッセイ
【0168】
本明細書中に提供される方法を使用して産生された抗体(例えば、二重特異性または多重特異性抗体)は、当技術分野で公知の種々のアッセイによって、その物理的/化学的特性および生物学的機能について特徴付けることができる。そのようなアッセイとしては、N末端配列決定、アミノ酸分析、非変性サイズ排除高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、質量分析、イオン交換クロマトグラフィーおよびパパイン消化が挙げられるが、これらに限定されない。
【0169】
特定の実施形態において、本明細書中に提供される方法を使用して産生される抗体(例えば、二重特異性または多重特異性抗体)は、その生物学的活性について分析される。いくつかの実施形態において、本明細書中に提供される方法を使用して産生された抗体(例えば、二重特異性または多重特異性抗体)は、その抗原結合活性について試験される。当技術分野で公知であり、かつ本明細書中で使用し得る抗原結合アッセイとしては、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、「サンドイッチ」免疫アッセイ、免疫沈降アッセイ、蛍光免疫アッセイ、およびプロテインA免疫アッセイ等の技法を使用した任意の直接または競合結合アッセイが挙げられるが、これらに限定されない。
【0170】
前述の記述は、当業者が本発明を実施することを可能にするのに十分であると見なされる。以下の実施例は、例示のみを目的として提供され、決して本発明の範囲を限定することを意図するものではない。実際に、本明細書中において提示および記載される改変に加えて、種々の改変は上記の記述から当業者には明らかとなり、これらは添付の特許請求の範囲に含まれる。
【実施例】
【0171】
実施例1:方法および材料
抗体構築物の設計および合成
以下の実施例における全ての抗体は、それぞれ可変ドメインおよび定常ドメインについてKabat(Kabat et al.「Sequences of Proteins of Immunological Interest.」 Bethesda,MD:NIH,1991)およびEU(Edelman et al.「The covalent structure of an entire gammaG immunoglobulin molecule.」 Proc Natl Acad Sci U S A 1969;63:78-85)番号付けシステムを使用して番号付けされる。抗体構築物を遺伝子合成(GENEWIZ(登録商標))によって作製し、適用可能な場合はいつでも、前述のように発現プラスミド(pRK5)にサブクローニングした(Dillon et al.「Efficient production of bispecific IgG of different isotypes and species of origin in single mammalian cells.」 MAbs 2017;9:213-30)。この研究における全ての抗体HCを非グリコシル化し(N297G変異)、カルボキシ末端リジンを欠失させて(ΔK447)、生成物の不均一性を低下させ、それによってLCMSによるBsIgGの正確な定量を容易にした(Dillon et al.,下記、Yin et al.「Precise quantification of mixtures of bispecific IgG produced in single host cells by liquid chromatography-Orbitrap high-resolution mass spectrometry.」 MAbs 2016;8:1467-76)。この研究における全てのBsIgGの2構成要素HCを、最初に列挙された抗体における「ノブ」変異(例えば、T366W)または2番目に列挙された抗体における「ホール」変異(例えば、T366S:L368A:Y407V)のいずれかを含有するように操作し、HCヘテロ二量体化を促進した(Atwell et al.「Stable heterodimers from remodeling the domain interface of a homodimer using a phage display library.J Mol Biol 1997;270:26-35)。
【0172】
この研究における少数のBsIgGについて、LCMS分析によるより正確な定量のために、正しく対合したBsIgG種と、誤対合したBsIgG種との間に十分な質量差を提供するために、FR変異を賢明に作製した。二重特異性IgG収率の正確な定量に必要な質量差は≦118 Daである(Yin et al.,下記)。具体的には、抗体および変異は、抗CD3またはバリアント(表A)、抗IL-1βまたは抗GFRα(表B)と組み合わせる場合、抗HER2 V
L R66G;抗ANG2またはバリアントと組み合わせる場合(表F)、抗VEGFA V
L F83A、抗D因子25D7 v1または抗IL-33または抗HER2と組み合わせる場合(表G2)、抗CD3 V
L N34A:F83A、抗CD3と組み合わせる場合、抗RSPO3 V
L F83A、抗SIRPαまたは抗D因子20D12 v1と組み合わせる場合、抗EGFR V
L F83A、加えて、抗GFRα1と組み合わせる場合、抗IL-4V
L N31A:F83A(表Bまたは
図1A-
図1F)である。選択された残基は、親抗体との比較に基づいて、BsIgG収率に検出可能な影響を及ぼさなかった。
抗体の発現および精製
【0173】
全てのBsIgGは、以前に記載されたように((Dillon et al.,上記)、HEK293由来EXPI293 F(商標)細胞において一過性に発現させた。2つのLCおよび2つのHCに対応する4つのプラスミドをEXPI293F(商標)細胞(Thermo Fisher Scientific)にコトランスフェクションした。LC DNAを各実験について変化させ、最適なHC:LC比での最も高い二重特異性収率を以前に記載されたように報告した(Dillon et al.,上記)。2つのHCの比は1:1に固定した。トランスフェクションした細胞培養物(30mL)を振盪しながら37℃で7日間増殖させた。フィルタにかけた細胞培養上清からのBsIgGを、プロテインA親和性クロマトグラフィー(TOYOPEARL(登録商標)AF-rProtein A、Tosoh Bioscience)によってハイスループット様式で精製した。ZENIX(登録商標)-C SEC-300カラム(10mm×300mm、粒径3μm、Sepax Technology)を使用したサイズ排除クロマトグラフィーによって、凝集体および半IgG1等の不純物を除去した。IgG1濃度は、1.5の吸光係数A0.1%
280nmを用いて計算した。精製収率は、プロテインAクロマトグラフィー後に、タンパク質濃度に溶出体積を乗算することによって推定した。
SEC HPLCによるBsIgGの分析的特徴付け
【0174】
BsIgG試料(20μL)を、HPLCカラム(DIONEX(商標)UltiMate 3000、Thermo Fisher Scientific)に接続したTSKGEL(登録商標)SuperSW3000カラム(4.6×150 mm、4μm)(Tosoh Bioscience)上のサイズ排除クロマトグラフィーによって定組成条件下でクロマトグラフィーにかけた。移動相はpH7.2の200mMリン酸カリウムおよび250mM塩化カリウムであり、流速は0.3 mL/分であり、波長280nmで吸光度測定を行った。
高分解能LCMSによるBsIgG収率の決定
【0175】
BsIgG収率(3つ全ての誤対合したIgG1種を上回って正しく対合されたLC種の強度)の定量化を、以前に記載されたように質量分析(Thermo Fisher EXACTIVE(商標)Plus Extended Mass Range ORBITRAP(商標))を介して行い、異なる質量ピーク間に応答バイアスはないと仮定した(Yin et al.、下記を参照)。
【0176】
変性質量分析のために、Dionex ULTIMATE(商標)3000高速分離液体クロマトグラフィー(RSLC)システムを使用して80℃に加熱した逆相液体クロマトグラフィーカラム(MABPAC(商標)、Thermo Fisher Scientific、2.1mm×50mm)に試料(3μg)を注入した。二成分勾配ポンプを使用して、溶媒A(0.1%ギ酸および0.02%トリフルオロ酢酸を含有する99.88%水)および溶媒B(9.88%水および0.1%ギ酸および0.02%トリフルオロ酢酸を含有する90%アセトニトリル)を、300μL/分で4.5分間にわたって20%~65%溶媒Bの勾配として送達した。溶媒を0.1分かけて90%溶媒Bに段階的に変更し、90%で6.4分間保持してカラムを洗浄した。最後に、溶媒を0.1分間かけて20%溶媒Bに段階的に変更し、再平衡化のために3.9分間保持した。試料は、データ取得のために以下のパラメータを使用して、質量分析計へのエレクトロスプレーイオン化を介してオンラインで分析した、3.90kVスプレー電圧、325℃キャピラリー温度、200S-レンズRFレベル、ESI源における15シースガス流量および4AUXガス流量、1,500-6,000m/zの走査範囲、脱溶媒、ソース内CID 100 eV、CE 0、m/z 200で17,500の分解能、正極性、10マイクロスキャン、3E6 AGC標的、固定AGCモード、0平均化、25V電源DCオフセット、8V噴射フラットポールDC、7Vフラタポール間レンズ、6V屈曲フラットポールDC、0Vトランスファ多極DCチューンオフセット、0V Cトラップ入射レンズ調整オフセット、トラップガス圧力設定、2。
【0177】
ネイティブ質量分析のために、Dionex ULTIMATE(商標)3000 RSLCシステムを使用して30°Cに加熱したAcquity UPLC(商標)BEHサイズ排除クロマトグラフィーカラム(Waters、4.6mm×150mm)に試料(10μg)を注入した。定組成クロマトグラフィーの実行(10分)は、300μL/分の流速でpH7.0の50mM酢酸アンモニウムを含有する水性移動相を利用した。
【0178】
データ取得のために以下のパラメータを使用して、質量分析計へのエレクトロスプレーイオン化を介して試料をオンラインで分析した、4.0kVスプレー電圧、320°Cキャピラリー温度、200SレンズRFレベル、ESI源における4シースガス流速度および0AUXガス流速、300~20,000m/zの走査範囲、脱溶媒、ソース内CID 100eV、CE 0、m/z 200における分解能17,500、正極性、10マイクロスキャン、1E6 AGCターゲット、固定AGCモード、0平均化、25V電源DCオフセット、8V噴射フラットポールDC、7Vフラタポール間レンズ、6V屈曲フラットポールDC、0Vトランスファ多極DCチューンオフセット、0V Cトラップ入射レンズ調整オフセット、およびトラップガス圧力設定2。
【0179】
取得した質量スペクトルデータを、Protein Metrics Intact Mass(商標)ソフトウェアおよびThermo Fisher BIOPHARMA FINDER(商標)3.0ソフトウェアを用いて分析した。各試料のデコンボリューションされたスペクトルからの正確に対合したLC種のシグナル強度を、3つの誤対合したIgG1種に対する定量に使用した。HCホモ二量体および半IgGは、検出不能であるか、または微量で存在し、計算から除外した。正確にLC対合したBsIgGは、以前に記載された代数式(Yin et al、下記を参照)を使用することによって、BsIgGと二重LC誤対合IgG1との等圧混合物から推定された。
BsIgGのSDS-PAGEゲル分析
【0180】
プロテインAおよびサイズ排除クロマトグラフィーによって精製されたBsIgGをSDS-PAGEによって分析した。還元条件および非還元条件の両方でそれぞれ電気泳動移動度を分析するために、DTTの存在下および非存在下で試料を調製した。試料色素と混合した試料をDTTと共に5分間、またはDTTなしで1分間95℃で加熱し、4~20%トリス-グリシンゲル(Bio-Rad)上で120Vで電気泳動した。次いで、ゲルをGELCODE(商標)青色タンパク質染色剤(Thermo Fisher Scientific)で染色し、水中で脱染した。等量のタンパク質(6μg)を各試料についてロードした。
速度論的結合実験:
【0181】
速度論的結合実験を、BIAcore T 200装置(GE Healthcare)における表面プラズモン共鳴を使用して行った。抗Fab(GE Healthcare)をCM5センサーチップ上に固定化した [約12000共鳴単位(RU)]。固定化表面上に親Fabおよび変異Fabを捕捉し、分析物の結合を評価した。HER2-ECD(インハウス)およびVEGF-C(Cys156Ser、R&D Systems、カタログ番号752-VC)についての0、0.293、1.17、4.6875、18.75、75、300nM、0、0.0195、0.0781、0.3125、1.25、5、20mMのVEGF165(R&D Systems、カタログ番号293-VE)およびIL-13(社内)、0、0.0732、0.293、1.17、4.6875、18.75、75nMのET-R Fc(R&D Systems、カタログ番号8614-MT)、IL-1β(R&D Systems、カタログ番号201-LB/CF)、EGFR Fc(R&D Systems、カタログ番号344-ER)、0、0.976、3.906、15.625、62.5、250nMのビオチン化CD3(インハウス)の分析物の濃度のセンサーグラムを、注入時間3分、流速50μl/分を用いて、温度25℃で作製した。分析物の注入後、解離を900秒間モニタリングした。使用したランニング緩衝液は、10mM HEPES、pH7.4、150mM NaCl、0.003% EDTA、0.05% Tween(HBS-EP+、GE Healthcare)であった。各注入後に、10mMグリシン、pH2.1を用いてチップ表面を再生した。二重ブランク参照(ゼロ分析物濃度のサブステーションおよびブランク参照セル)を使用して、センサーグラムを補正した。次いで、製造業者によって提供されるソフトウェアによって1:1ラングミュアモデルを使用して、センサーグラムを分析した。
実施例2:単一細胞における二重特異性IgGのアセンブリを容易にするための重鎖/軽鎖対合優先性の解明
導入
【0182】
本明細書に記載の研究において、ハイスループット生産および高分解能LCMS分析Dillon et al.「Efficient production of bispecific IgG of different isotypes and species of origin in single mammalian cells.」MAbs 2017;9:213-30、Yin et al.Precise quantification of mixtures of bispecific IgG produced in single host cells by liquid chromatography-Orbitrap high-resolution mass spectrometry」 MAbs 2016;8:1467-76)を利用して、BsIgGの収率についてノブ・イン・ホールHCを有するがFab変異を有しない99個の異なる抗体対を調査した。抗体対の1/3が高い(>65%)BsIgG収率を示し、これは強い固有の同族HC/LC鎖対合優先性と一致した。そのような抗体対について、2つのCH1/CLドメイン界面((Dillon et al.「Efficient production of bispecific IgG of different isotypes and species of origin in single mammalian cells」” MAbs 2017;9:213-30)における以前に同定された電荷変異の組み込みを使用して、BsIgGの産生を増強した。次に、本発明者らは、一方または両方のアームにおける同族鎖対合優先性がBsIgGの高収率のために必要であるかどうかを調べた。変異分析を使用して、高BsIgG収率に寄与するCDR H3およびL3中の特定の残基を同定した。次いで、CDR H3およびL3ならびに同定された特定の残基を、ランダムなHC/LC鎖対合を示す他の利用可能な無関係の抗体に挿入して、BsIgG収率に対するそれらの効果を決定した。最後に、変異分析を使用して、BsIgGの収率に対する鎖間ジスルフィド結合の効果を調べた。
BsIgGの収率に対する構成抗体対の影響
【0183】
以前に、ノブ・イン・ホール重鎖(HC)変異を有するがFabアーム変異を有しない高収率のBsIgG(>65%)が、2つの二重特異性、すなわち抗EGFR/METおよび抗IL-13/IL-4について観察された(Dillon et al.、下記)。同族重鎖/軽鎖(HC/LC)対合優先性の発生の強度および頻度を調査するために、抗体対の大きなパネル(n=99)を使用してBsIgGを生成した。簡略化のために、この研究における全ての二重特異性をヒトIgG
1 HC定常ドメインを用いて構築した。IL-13、IL-4、MET、EGFR、HER2またはCD3のいずれかに結合する6つの抗体(Dillon et al.、下記)を使用して、15個全ての可能なBsIgG
1のマトリックスを構築した。次に、これらの6つの抗体を、主に3つのλLCアイソタイプ(抗DR5、抗α
5β
1、抗RSPO2)を有するκLCアイソタイプである14個のさらなる抗体で置換した(下記表Aを参照)。表Aにおいて、独自のアライメントツールを使用して、LCおよびHC配列をヒト抗体生殖系列遺伝子レパートリーと比較することによって、生殖系列遺伝子ファミリーを同定した。生殖系列遺伝子セグメントと最も近い一致が報告された。この研究で使用した抗体は全て、3つの完全ヒト抗体(抗CD33、抗PDGF-C、抗Flu B)を除いてヒト化抗体であった。
KV=κ変数、LV=λ可変、HV=重可変、na=該当なし。
1.Merchant M,Ma X,Maun HR,Zheng Z,Peng J,Romero M,Huang A,Yang NY,Nishimura M,Greve J,et al.Monovalent antibody design and mechanism of action of onartuzumab,a MET antagonist with anti-tumor activity as a therapeutic agent.Proc Natl Acad Sci U S A 2013;110:E2987-96.
2.Schaefer G,Haber L,Crocker LM,Shia S,Shao L,Dowbenko D,Totpal K,Wong A,Lee CV,Stawicki S,et al.A two-in-one antibody against HER3 and EGFR has superior inhibitory activity compared with monospecific antibodies.Cancer Cell 2011;20:472-86.
5.Ultsch M,Bevers J,Nakamura G,Vandlen R,Kelley RF,Wu LC,Eigenbrot C.Structural basis of signaling blockade by anti-IL-13 antibody lebrikizumab.J Mol Biol 2013;425:1330-9.
6.Spiess C,Bevers J,3rd,Jackman J,Chiang N,Nakamura G,Dillon M,Liu H,Molina P,Elliott JM,Shatz W,et al.Development of a human IgG4 bispecific antibody for dual targeting of interleukin-4(IL-4)and interleukin-13(IL-13)cytokines.J Biol Chem 2013;288:26583-93.
8.Carter P,Presta L,Gorman CM,Ridgway JB,Henner D,Wong WL,Rowland AM,Kotts C,Carver ME,Shepard HM.Humanization of an anti-p185HER2 antibody for human cancer therapy.Proc Natl Acad Sci U S A 1992;89:4285-9.
9.Rodrigues ML,Shalaby MR,Werther W,Presta L,Carter P.Engineering a humanized bispecific F(ab’)2 fragment for improved binding to T cells.Int J Cancer Suppl 1992;7:45-50.
10.Bhakta S,Crocker LM,Chen Y,Hazen M,Schutten MM,Li D,Kuijl C,Ohri R,Zhong F,Poon KA,et al.An anti-GDNF family receptor alpha 1(GFRA1)antibody-drug conjugate for the treatment of hormone receptor-positive breast cancer.Mol Cancer Ther 2018;17:638-49.
11.Adams C,Totpal K,Lawrence D,Marsters S,Pitti R,Yee S,Ross S,Deforge L,Koeppen H,Sagolla M,et al.Structural and functional analysis of the interaction between the agonistic monoclonal antibody Apomab and the proapoptotic receptor DR5.Cell Death Differ 2008;15:751-61.
【0184】
次に、以下の表Bに示す抗体対を、HEK293由来EXPI 293F(商標)細胞において最適化された鎖比で共発現させ、BsIgGの収率を、以前に記載された方法の改良版(Dillon et al.、Yin et al.、下記を参照)を用いて決定した。Dillon et al.(下記)に記載されているFab変異を含む抗体対はなかった。全ての二重特異性抗体対は、重鎖ヘテロ二量体化のためのノブ・イン・ホール変異を含んでいた。
【0185】
抗体対の共発現およびプロテインAクロマトグラフィー後、精製したIgG
1プールをサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によってさらに精製して、高分解能LCMSによる定量の前に、存在する任意の少量の凝集体および半IgG
1を除去した。LCスクランブルされたIgG
1も含有した等圧基(すなわち、同じ分子量)混合物中の正しく集合したBsIgGの収率を、以前に開発された代数式(Yin et al.、下記を参照)を使用して推定した。表Bに示すデータは、最適化されたLC DNA比からのBsIgGの収率である。BsIgGの収率>65%を太字で示す。mAb-1のHCは「ホール」変異(T366S:S368A:Y407V)を含み、mAb-2のHCは「ノブ」変異(T366W)を含んでいた(Atwell et al.「Stable heterodimers from remodeling the domain interface of a homodimer using a phage display library.」 J Mol Biol 1997;270:26-35)。
NA=該当せず;単一特異性抗体。
【0186】
99個の特有の抗体対についてのBsIgG1の収率は、非常に広い範囲にわたって変動した:22~95%(表B参照)。驚くべきことに、非ランダムHC/LC対合(BsIgG1の30%超の収率)が抗体対の大部分(80%超)で観察され、BsIgG1の高(65%超)および中間(30~65%)収率がそれぞれ33および48の抗体対で見られた。BsIgG1のほぼ定量的な(90%超)形成を、2つの抗体対(抗MET/DR5および抗IL-13/DR5)について測定した。
【0187】
図1A-1Fは、低収率(30%未満、例えば、抗LGR5/IL-4、
図1Aおよび1B)中間体収率(30%-65%、例えば、抗SIRPα/IL-4、
図1Cおよび1Dを参照)および高収率(65%超、例えば、抗MET/DR5、
図1Eおよび1Fを参照)についてのBsIgG
1の代表的な例についての高分解能LCMSデータを示す。対応する抗体対をHEK293由来EXPI293F(商標)細胞に一過性にコトランスフェクションした。Dillon et al.、下記およびYin et al.、下記に記載されているように、高分解能LCMSによるBsIgG
1収率の定量化の前に、IgG
1種をプロテインAクロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。
図1A、
図1C、および
図1Eに示すデータは、電荷状態38+および39+の質量エンベロープであり、
図1B、
図1Dおよび
図1Fは、対応するデコンボリューションされたデータを示し、存在する異なるIgG
1種を表すカートゥーンを提供する。
【0188】
試験した各抗体のBsIgG1収率は、そのパートナー抗体に応じて広範囲にわたって変動した。例えば、抗MET抗体についてのBsIgG1収率は、抗IL-33と対にした場合の約21%程度のわずかなものから、抗DR5と対にした場合の約95%程度の高さまで変動した(表B)。同族HC/LC対合優先性に対する「ノブ」および「ホール」変異の影響を調査するために、mAb1中に「ノブ」変異およびmAb2中に「ホール」変異またはその逆を含むHCを用いてBsIgG1を産生した(表B)。BsIgG1の収率は、試験した全ての場合(n=15)において、どのHCが「ノブ」および「ホール」変異を含むかの影響を最小限にしか受けなかった(表B)。プロテインAクロマトグラフィーによる30mL培養物からのIgG種の回収は、約5倍(1.5-8.0mg)にわたって変動した。
【0189】
上記の結果は、Fab変異を有しないBsIgG1の高収率が、構成抗体対に依存する一般的な現象であることを示した。
同族HC/LC対合優先性を有する抗体対に対するBsIgG1の収率に対するC
H
1/C
L
界面電荷変異の効果
【0190】
以前、ノブ・イントゥ・ホールHC変異と併せた全部で4つのドメイン/ドメイン界面(すなわち、両方のV
H/V
Lと両方のC
H1/C
L)における変異の組合せを、単一の哺乳動物宿主細胞における異なるアイソタイプのBsIgGのほぼ定量的な集合のために使用した(Dillon et al.、下記を参照)。ここでは、Fab変異のないBsIgG
1の高収率を与える抗体対を同定した(表B)。これらの抗体対はそれらの可変ドメイン配列が異なるが、定常ドメイン、すなわちIgG
1 C
H1および k C
Lはほとんどの場合同一であった。そのような抗体対について、2つのC
H1/C
L界面における変異のみで、正しく集合した二重特異性の収率を約100%まで高めるのに十分であり得ると仮定された。11の異なる抗体対を選択し、BsIgG
1の収率を、以前に報告されたC
H1/C
Lドメイン界面電荷変異(Dillon et al.、下記を参照)の存在下または非存在下で比較した。具体的には、「ノブ」アームをC
L V133EおよびC
H1 S183K変異で操作し、「ホール」アームをC
L V133KおよびC
H1 S183E変異で操作した(Dillon et al.、下記を参照)。2つのC
H1/C
L界面における電荷変異は、大部分の場合(9/11)において、全抗体対のBsIgG
1収率を約12-34%から90%以上にBsIgG
1収率を上昇させた(
図2)。
図2の電荷対バリアントの場合、対の最初に列挙された抗体は C
L V133EおよびC
H1 S183K変異を含み、2番目に列挙された抗体は C
L V133Kおよび C
H1 S183E変異を含む(Dillon et al.、下記を参照)。BsIgG
1の収率90%を
図2の点線の横線で示す。C
L V133EおよびC
H1 S183K変異は、それらの標的抗原に対する抗体の親和性に影響を及ぼさなかった(データは示さない)。
BsIgGの収率に対するBsIgGの1つのアームにおける同族HC/LC対合優先性の効果
【0191】
いくつかの抗体対について観察されたBsIgG
1の高収率の機構的塩基を調べた。2つの抗体対、すなわち、抗EGFR/METおよび抗IL-4/IL-13を、Fab変異を有しないBsIgG
1のその高い収率に基づいてこの研究のために選択した(表BおよびDillon et al.、下記を参照)。先験的に、一方または両方のFabは、BsIgG
1の高収率に寄与する同族HC/LC対合優先性を示し得る。これらの可能性を区別するために、3鎖共発現実験を行った。「ノブ」または「ホール」変異を有する単一のHC(HC1)を、Expi293F(商標)細胞においてその同族LC(LC1)および競合する非同族LC(LC2)と一過性に共発現させた(
図3)。
図3のアスタリスクは、HCにおける「ノブ」または「ホール」変異の存在を示す。(抗EGFR、抗IL13および抗HER2のHCは「ノブ」変異(T366W)を含有し、抗MET、抗IL4および抗CD3のHCは「ホール」変異(T366S:S368A:Y407V)を含有する(Atwell et al.“Stable heterodimers from remodeling the domain interface of a homodimer using a phage display library.J Mol Biol 1997;270:26-35)を参照)。得られた半IgG種を、プロテインA親和性クロマトグラフィーによって対応する細胞培養上清から精製し、同族および非同族HC/LCの対合の程度を高分解能LCMS(Dillon et al.およびYin et al.、下記)によって評価した。同族HC/LC対合のパーセント比率を、半IgG
1種を定量することによって計算した。
【0192】
以下の表Cに示すように、抗MET HCは、非同族抗EGFR LCよりもその同族LCについて強い優先性を示す(約71%)のに対して、抗EGFR HCは、非同族抗MET LCよりもその同族LCについてわずかな優先性を示す(約56%)のみである。抗IL-13 HCは、非同族抗IL-4 LCよりもその同族LCについて強い優先性を示す(81%)のに対して、抗IL-4 HCはその同族LCに対する優先性を示さない(49%)。これらのデータは、抗EGFR/METについての高いBsIgG
1収率が、それぞれ抗METおよび抗EGFR抗体に対する強いおよび弱い同族HC/LC対合優先性に起因するという考えと一致している。対照的に、抗IL-13/IL-4についての高いBsIgG
1収率は、明らかに、抗IL-13抗体単独に対する強い同族HC/LC対合優先性を反映している。したがって、一方または両方のアームにおける同族HC/LC対合優先性は、Fab変異を必要とすることなく、単一細胞におけるBsIgG
1の高収率にとって明らかに十分であり得る。
【0193】
抗HER2/CD3を、その低いBsIgG1収率(表BおよびDillon et al.、下記を参照)に基づいてこの研究の対照として選択した。抗HER2 HCは、非同族抗CD3 LCよりも同族LCに対する対合優先性を示さない。同様に、抗CD3 HCは、非同族抗HER2 LCよりも同族LCについて対合優先性を示さない(表C参照)。
【0194】
単一の宿主細胞で共発現させた場合のその同族軽鎖(LC)または非同族LCとのHC対合も評価した。簡潔には、各HCを、その同族LCまたは非同族LCのいずれかと共にHEK293由来EXPI293F(商標)細胞にコトランスフェクションした。IgG1および半IgG1種を、プロテインAクロマトグラフィーによって細胞培養上清から精製し、LC-MSによって分析した。(Labrijn et al.「Efficient generation of stable bispecific IgG1 by controlled Fab-arm exchange.」 Proc Natl Acad Sci U S A 2013;110:5145-50;Spiess C et al.「Bispecific antibodies with natural architecture produced by co-culture of bacteria expressing two distinct half-antibodies.」 Nat Biotechnol 2013;31:753-8)。同族HC/LC対合のパーセント比率を、半IgG1種を定量化することによって計算した。タンパク質発現収率を、抗体濃度にハイスループットプロテインAクロマトグラフィーステップから得られた溶出体積を乗算することによって推定した。抗EGFR、抗IL-13および抗HER2のHCは「ノブ」変異(T366W)を含有し、抗MET、抗IL-4および抗CD3のHCは「ホール」変異(T366S:S368A:Y407V)を含有する(Spiess et al.「Alternative molecular formats and therapeutic applications for bispecific antibodies.」Mol Immunol 2015;67:95-106を参照)。競合が存在しない場合、試験した6つの異なるミスマッチHC/LC対全てによって判断されるように、HCは非同族LCと効率的に集合することができる(以下の表D参照)。
抗EGFR/MET BsIgG
1
の収率に対する抗MET CDR L3およびCDR H3の寄与
【0195】
抗EGFR/MET BsIgG
1の高い二重特異性収率に寄与する抗MET抗体の配列決定因子を調べた。抗EGFR抗体と抗MET抗体との間のアミノ酸配列の相違は、完全にCDRの内部に位置し、加えてCDR H3に直接隣接する1つのさらなるフレームワーク領域(FR)残基であるVH94(
図4)。これらの抗体の残りのFR、ならびにC
kおよび
H1定常ドメイン配列は同一である(
図4)。CDR L3およびH3は、その抗原と複合体形成した抗MET FabのX線結晶構造によって証明されるように(タンパク質データバンク(PDB)識別コード4K3J)、抗MET抗体の V
H/V
L ドメイン界面に最も広く関与するCDRである(Merchant et al.「Monovalent antibody design and mechanism of action of onartuzumab,a MET antagonist with anti-tumor activity as a therapeutic agent.」Proc Natl Acad Sci U S A 2013;110:E2987-96を参照)。これらの所見は、抗MET抗体のCDR L3およびH3が抗EGFR/MET BsIgG
1の高い二重特異性収率に寄与し得るという仮説を導いた。この考えと一致して、抗MET抗体のCDR L3およびH3の両方を抗CD3抗体からの対応する配列で置換することにより、二重特異性収率が実質的に失われた(約85%から33%、
図5A)。対照的に、抗EGFR/MET二重特異性の抗EGFRアームのCDR L3およびH3の両方の置換は、BsIgG収率のわずかな低下しかもたらさなかった(約85%から75%、
図5A)。抗EGFRアームおよび抗METアームの両方に対するCDR L3およびH3の置換は、ランダムなHC/LC対合をもたらした。これらのデータは、抗METのCDR L3およびH3が、抗EGFR/MET BsIgG
1について観察された高い二重特異性収率に大きく寄与する一方で、抗EGFRのCDR L3およびH3は寄与が小さいという考えを支持している。抗MET抗体からのCDR L1およびH1またはCDR L2およびH2を、対応する抗CD3抗体配列に置換することは、抗EGFR/MET BsIgGの二重特異性収率にほとんどまたは全く影響を及ぼさなかった(
図6)。
抗EGFR/MET BsIgG
1
の収率に対する抗METCDR L3およびCDR H3内の残基の寄与
【0196】
次に、抗EGFR/MET BsIgG
1の高い二重特異性収率に寄与する抗MET抗体のCDR L3およびH3内の残基を調べた。抗MET FabのX線結晶構造(PDBアクセッションコード4K3J)により、CDR L3とH3(
図7)との間の接触残基が明らかになり、変異分析のための残基の選択を導くために使用した。抗MET CDR L3およびH3のアラニンスキャニング変異誘発(Cunningham et al.「High-resolution epitope mapping of hGH-receptor interactions by alanine-scanning mutagenesis.」Science 1989;244:1081-5)を使用して、抗EGFR/MET BsIgG
1の高い二重特異性収率に寄与する残基をマッピングした。
表E1:以下に対するCDR L3およびH3接触残基のアラニンスキャニング変異誘発
抗MET抗体
【0197】
上記の表E1に示されるように、CDR L3におけるVL Y91A変異は、試験した12の単一アラニン変異体のいずれにおいても二重特異性収率の最大の低下(84%から57%)をもたらした。CDR L3におけるわずか2つのアラニン置換、すなわちVL Y91A:Y94Aは、高い二重特異性収率を無効にした(84%から23%)。したがって、CDR L3残基VL Y91およびY94は、抗EGFR/MET BsIgG1の高い二重特異性収率に決定的な寄与をすると考えられる。全ての変異体の発現力価は、プロテインAクロマトグラフィーからの回収収率によって推定され、親BsIgG1に匹敵した(データは示さない)。表E1に示されるデータは、最適化されたHC/LC DNA比を使用した2つの独立した実験の+標準偏差を表す(表Bを参照)。
【0198】
METに対する表E1の親抗MET Fabおよび抗MET Fabバリアントのサブセットの親和性を、表面プラズモン共鳴(SPR)によって決定した。会合速度(k
on)、解離速度(k
off)および結合親和性(K
D)を表E2に示す(n.d.は、結合が検出されなかったことを示す)。CDR L3におけるP95A置換は、METに対する抗MET Fabバリアントの結合に影響を及ぼさなかった。CDR L3における他の単一アラニン置換は、親和性を様々な程度に低下させた。CDR L3におけるY91A:Y94AまたはY91A:W96Aの二重置換を有する抗Met Fabバリアントについては、抗原への結合は検出されなかった。
抗IL13/IL14 BsIgG
1
の収率に対する抗IL13 CDR L3およびCDR H3の寄与
【0199】
抗MET抗体のCDR L3中の特定の残基が抗EGFR/MET BsIgG
1の高い二重特異性収率のために重要であることが判明したことを考えると、同様の原理が抗IL-13/IL-4 BsIgG
1の高い二重特異性収率に寄与することにおいて抗IL-13抗体に適用され得ると仮定された。類似の実験戦略を使用して、この可能性を調査した。これらの2つの抗体対の間の注目すべき違いの1つは、抗IL-13および抗IL-4抗体はそのCDRおよびFR配列の両方が異なる(
図8)のに対して、抗METおよび抗EGFR抗体は同一のFR配列を有し(V
H94を除く)、そのCDR配列が異なることである(
図4)。
【0200】
抗IL-13抗体のCDR L3およびH3を抗CD3抗体由来の対応する配列で置換することにより、抗IL-13/IL-4 BsIgG
1の二重特異性収率が実質的に失われた(約72%から37%、
図5B)。対照的に、抗IL-4抗体のCDR L3およびH3を同様に置換した場合、わずかな上昇が観察された(
図5B)。これらの結果から、抗IL-13抗体のCDR L3およびH3は、抗IL-13/IL-4 BsIgG
1の高い二重特異性収率に寄与することが示唆された。
【0201】
抗IL-13 CDR L3およびH3のアラニンスキャニング変異分析(Cunningham et al.下記)を使用して、抗IL-13/IL-4 BsIgG
1の高い二重特異性収率に寄与する残基をマッピングした。IL-13と複合体を形成した抗IL-13 FabのX線結晶構造(PDBアクセッションコード4I77、Ultsch et al.「Structural basis of signaling blockade by anti-IL-13 antibody lebrikizumab.」J Mol Biol 2013;425:1330-9参照)により、CDR L3とH3との間の接触残基が明らかになり(
図9)、変異分析のための残基を選択するために使用した(下記表F1)。CDR L3変異V
L R96Aは、CDR L3およびH3について試験した9つの単一アラニン変異体のいずれにおいても二重特異性収率の最大の低下をもたらし、高い二重特異性収率を無効にした(72%から29%)。CDR H3におけるわずか2つのアラニン置換、すなわちV
H D95A:P99Aもまた、高い二重特異性収率を無効にした(72%から26%)。全ての変異体の発現力価は、プロテインAクロマトグラフィーからの回収収率によって推定され、親BsIgG
1に匹敵した(データは示さない)。表F1に示されるデータは、最適化されたHC/LC DNA比を使用した2つの独立した実験の
+標準偏差を表す(表Bを参照)。
表F1:以下についてのCDR L3およびH3接触残基のアラニンスキャニング変異誘発
抗IL13抗体
【0202】
したがって、本明細書で研究される抗EGFR/METおよび抗IL-13/IL-4 BsIgG1の両方によって判断されるように、高い二重特異性収率への重要な寄与は、CDR L3および/またはH3によってなされ得る。
【0203】
IL-13についての表F1の親抗IL-13 Fabおよび抗IL-13 Fabバリアントのサブセットの親和性を、SPRによって決定した。会合速度(k
on)、解離速度(k
off)および結合親和性(K
D)を表F2に示す(n.d.は結合が検出されなかったことを示す)。CDR L3におけるN92A置換もD94A置換も、IL-13に対する抗IL-13 Fabバリアントの結合に影響を及ぼさなかった。CDR L3のR96A置換は、CDR L3におけるD94:R96Aの二重置換と同様に、結合親和性の約10倍の損失をもたらした。CDR H3における他の単一アラニン置換は、親和性を様々な程度に低下させた。抗原への結合は、CDR H3のD95A:P99A二重置換については検出されなかった。
BsIgG
1
の収率に対するCDR L3およびCDR H3の効果
【0204】
次に、これらの抗体からのCDR L3およびH3が他の抗体対に高い二重特異性収率を提供するのに十分であり得るかどうかを決定するために一連の実験を行った。低い二重特異性収率を有する2つの抗体対、すなわち抗HER2/CD3(22-24%)および抗VEGFA/ANG2(24%)(表Bおよび Dillon et al.、下記を参照)を選択し、これら2つのBsIgG
1のそれぞれ1つのアームについてのCDR L3およびH3を、抗MET抗体または抗IL-13抗体のいずれかからの対応するCDR配列に置換した。抗HER2/CD3(
図10A)および抗VEGFA/ANG2(
図10B)の両方について、4つのCDR L3およびH3のリクルートの場合の3つにおいて、BsIgG
1の収率の実質的な上昇(約24%から40-65%まで)が観察された。
図10Aおよび
図10Bに示されるデータは、最適化されたLC DNA比からのものである。
図10Aおよび
図10Bのデータは、同族HC/LC対合優先性を有する抗体からのCDR L3およびH3のリクルートは、対合優先性のないBsIgG
1の収率を高めることができるが、常にそうであるとは限らないことを示す。
【0205】
BsIgG1収率に対する抗IL-13抗体から他の抗体への単一の重要な残基のリクルートの効果を調べた。以下の表G1を参照されたい。アミノ酸番号付けはKabatに従っている。可変ドメイン変異を含む抗体を太字で示す。示されるデータは、最適化されたLC DNA比からのものである。95位にアスパラギン酸残基を有する抗VEGFC(D95)は変異しなかった。
表G1:BsIgG
1収率に対する効果を調べるための抗IL13抗体からの単一の重要な残基の他の抗体へのリクルート
【0206】
抗IL-13に対する対合優先性についての2つ以上の重要な残基を抗HER2抗体、抗VEGFA抗体または抗VEGFC抗体の対応する位置に移植すると、親抗IL-13/IL-4 BsIgG
1の場合よりも低いにもかかわらず、二重特異性収率のいくらかの上昇が観察された(以下表G2を参照)。表G2において、可変ドメイン変異を含む抗体を太字で示し、アミノ酸番号付けはKabatに従っている。可変ドメイン変異を含む抗体は太字で下線の引かれた文字である。示されるデータは、最適化されたLC DNA比を使用した2つの独立した実験の平均±SDを表す。95位にアスパラギン酸残基(D95)を有する抗VEGFCは変異しなかった。
表G2:BsIgG
1収率に対する効果を調べるための抗IL13抗体からの重要な残基の他の抗体へのリクルート
【0207】
まとめると、これらの結果は、CDR L3の94位および96位(Kabat番号付け)およびCDR H3の95位(Kabat番号付け)の荷電残基(例えば、DおよびR)が、全てではないが一部の抗体対に対して対合優先性を付与し得ることを示唆した。
【0208】
それぞれの標的に対する表G1およびG2の親抗HER2、抗VEGFAおよび抗VEGFC Fabならびに抗HER2、抗VEGFAおよび抗VEGFC Fabバリアントのサブセットの親和性をSPRによって決定した。会合速度(k
on)、解離速度(k
off)および結合親和性(K
D)を表G3に示す(n.d.は結合が検出されなかったことを示す)。重要な残基を抗IL13から他の抗体に転移すると、結合親和性が失われた。特に、抗HER2のCDR-L3におけるT94D置換は、抗HER2/抗CD3 BsAbのBsIgG
1収率を24%からほぼ50%に上昇させたが、HER2に対する抗HER2の親和性を20倍しか低下させなかった。同様に、VEGFAのCDR-L3におけるV94D:W96Rの二重置換は、抗VEGFA/抗ANG2 BsAbのBsIgG
1収率を約22%から約52%に上昇させたが、VEGFAに対する抗VEGFAの親和性を約20倍低下させただけであった
【0209】
表G1および表G2に示される結果とは対照的に、抗cMetに対する対合優先性のための重要な残基を抗HER2抗体、抗VEGFA抗体または抗VEGFC抗体の対応する位置に移植した場合、ほとんどの場合において二重特異性収率の上昇はわずかにしか観察されなかった。以下の表G4を参照のこと。表G4では、可変ドメイン変異を含む抗体を太字で示し、アミノ酸番号付けはKabatに従っている。
表G4:BsIgG
1収率に対する効果を調べるための抗cMet抗体から他の抗体への重要な残基のリクルート
BsIgG
1
の収率に対する鎖間ジスルフィド結合の寄与
【0210】
以前、HCとLCとの間の鎖間ジスルフィド結合の形成は、鎖交換を防ぐ動力学的トラップとして作用すると仮定された(Dillon et al.、下記)。顕著な同族鎖優先性を有する2つのBsIgG
1(抗EGFR/METおよび抗IL-13/IL-4)およびランダムなHC/LC対合を有する2つの対照(抗HER2/CD3および抗VEGFA/VEGFC)を用いて、HCとLCとの間のジスルフィド結合が二重特異性収率に影響を及ぼすかどうかを調べるために実験を行った。簡潔には、システインからセリンへの変異を使用して、鎖間ジスルフィド結合を欠くBsIgG
1バリアントを生成した:LC C214SおよびHC C220S。操作されたバリアントにおける鎖間ジスルフィド結合の除去をSDS PAGEによって検証した。
図11に示すように、還元条件下または非還元条件下のいずれかで試料を電気泳動した。4つの異なるBsIgG1を分析した:抗HER2/CD3(レーン1);抗VEGFA/VEGFC(レーン2);抗EGFR/MET(レーン3);および抗IL13/IL14(レーン4)。下記の表Hに示されるように、鎖間ジスルフィド結合が、ネイティブ質量分析によって判断されるように、試験された4つの抗体対のいずれについてもBsIgG
1収率に影響を及ぼすという明確な証拠は見出されなかった。親およびジスルフィド結合操作バリアントのBsIgG
1の収率は類似していた。表Hのデータは、最適化されたDNA軽鎖比を用いた3回の生物学的複製の平均
+標準偏差である。
表H:BsIgG
1収率に対するHCとLCとの間のジスルフィド結合の効果を決定するための変異分析。
【0211】
要約すると、この研究は、単一細胞でBsIgGを産生する際の同族HC/LC対合優先性が、特定の抗体対に高度に依存する一般的な現象であることを実証している。機構的には、この鎖対合優先性は、CDR H3およびL3中の残基によって強く影響され得る。実際には、この対合優先性を利用して、単一細胞におけるBsIgG1および潜在的な他のアイソタイプのBsIgGの産生を駆動するために使用されるFab変異の数を低下させることができる。
追加の参考文献
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実施例3:実施例2で生成された改変抗体の親和性成熟
【0212】
実施例2で生成された表Iの例示的抗体は、それぞれの標的抗原に対する親和性を改善するために親和性成熟に供される。
*アミノ酸番号付けはKabatに従っている。
**表G3を参照のこと。
【0213】
簡潔には、各抗体について1つ以上のポリペプチドライブラリ(例えば、ファージディスプレイまたは細胞表面ディスプレイライブラリ)を作製するために、表Iの抗体のCDRに変異を導入する。二重特異性収率を改善するために各抗体のCDR-L3および/またはCDR-H3に導入されたアミノ酸置換(表Iを参照のこと)は、固定されたままであり、ライブラリ構築中にランダム化されない。次いで、例えば、Wark et al.(2006)Adv Drug Deliv Rev.58:657-670、Rajpal et al.(2005)Proc Natl Acad Sci U S A.102:8466-8471に記載されているように、パニングまたは細胞選別によってスクリーニングし、標的抗原(すなわち、HER2、VEGFAまたはVEGFC)に高親和性で結合する抗体バリアントを同定する。次いで、そのようなバリアントを単離し、それらの標的抗原に対するそれらの親和性を、例えば表面プラズモン共鳴によって決定し、表Iに示される抗体および表I中の抗体が由来する親抗体の親和性と比較する(例えば、表G3を参照のこと)。少なくとも1回(例えば、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、または10回の少なくともいずれか1つ)の親和性成熟を行って、高親和性抗HER2バリアント、高親和性抗VEGFAバリアントおよび高親和性抗VEGFCバリアントを同定する。それぞれの標的抗原に対して高い親和性を有する抗体バリアントの配列を決定する。
【0214】
次に、上記のスクリーニングで同定されたバリアントをさらに分析して、二重特異性抗体収率に対するそれらの効果を評価する。完結には、高親和性抗HER2、抗VEGFAおよび抗VEGFCバリアントを二重特異性抗体として再フォーマットする。例示的な二重特異性抗体としては、例えば、抗HER2/抗CD3、抗VEGFA/抗ANG2および抗VEGFC/抗CD3が含まれるが、これらに限定されない(上記の表G1および表G2を参照)。二重特異性抗体は、例えば、実施例1に詳述されている方法に従って発現および精製される。正しく集合した二重特異性抗体の収率を、例えば、実施例1に詳述されているように、サイズ排除クロマトグラフィー、高分解能LCMSおよび/またはSDS-PAGEゲル分析によって評価する。例えば、表G1および表G2に示される二重特異性抗体を使用する対照実験が並行して行われる。ライブラリスクリーニングによって特定される高親和性抗HER2抗体バリアント、高親和性抗VEGFAバリアントまたは抗VEGFCバリアントを含む二重特異性抗体の収率が、表Iに示される抗HER2抗体、抗VEGFA抗体または抗VEGFC抗体を含む二重特異性抗体の収率と比較される。1つ以上の親和性成熟ステップに供され、改善された親和性およびBsAb収率についてさらにアッセイされる、すなわち、上記のような、さらなる改変抗体を表G3に示す。
追加の参照文献
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Payandeh et al.(2019)J Cell Biochem.120:940-950
Richter et al.(2019)mAbs.11(1):166-177
Cisneros et al.(2019)Mol.Syst.Des.Eng.4:737-746
【0215】
前述の実施例は、例示目的のためのみに提供されており、決して、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書に示され、記載される改変に加えて、本発明の種々の改変は、前述の記載から当技術分野の当業者には明らかになり、これらは添付の特許請求の範囲内にある。
【配列表】