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  • 特許-車両前部構造 図1
  • 特許-車両前部構造 図2
  • 特許-車両前部構造 図3
  • 特許-車両前部構造 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
B62D25/08 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022020977
(22)【出願日】2022-02-15
(65)【公開番号】P2023118177
(43)【公開日】2023-08-25
【審査請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】男谷 唯
(72)【発明者】
【氏名】中本 直希
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-010955(JP,A)
【文献】特開2008-230319(JP,A)
【文献】特開2007-203776(JP,A)
【文献】特開2007-246044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部に設けられ、熱交換器を支持する矩形枠状のバルクヘッドを有する車両前部構造において、
前記バルクヘッドは、
前記バルクヘッドを車体に固定するための車体固定部と、
前記車体固定部の下方側に設けられた段差部と、
を備え、
前記段差部の上側における前記バルクヘッドの車両前後方向の幅寸法は、前記段差部の下側における前記バルクヘッドの車両前後方向の幅寸法と同じとし、
前記バルクヘッドは、前記段差部よりも下側に、上下方向に延びるリブを備え、
前記バルクヘッドは、前記段差部よりも下方側の側面に、互いに逆方向に傾斜して交差する筋交い状のクロスリブを備え、
前記クロスリブの下方側に、車両前方から後方向側に向かって下方側に傾斜する傾斜辺を有する三角形状の下方リブを備える
ことを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
車両前部に設けられ、熱交換器を支持する矩形枠状のバルクヘッドを有する車両前部構造において、
前記バルクヘッドは、
前記バルクヘッドを車体に固定するための車体固定部と、
前記車体固定部の下方側に設けられた段差部と、
を備え、
前記段差部の上側における前記バルクヘッドの車両前後方向の幅寸法は、前記段差部の下側における前記バルクヘッドの車両前後方向の幅寸法と同じとし、
前記バルクヘッドは、前記段差部よりも下側に、上下方向に延びるリブを備え、
前記バルクヘッドは、前記段差部よりも下方側の側面に、互いに逆方向に傾斜して交差する筋交い状のクロスリブを備え、
前記リブは、車両が水平面に載置された状態で垂直に延びる縦リブであり、当該縦リブの後方側に前記クロスリブが設けられている
ことを特徴とする車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製バルクヘッドの両側面の下方側に段差部を有する車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前方に配置されてラジエータ等の熱交換器を支持するバルクヘッドは、車両左右側に配設された一対のサイドメンバに接続されている。この構造の一例として、特許文献1に記載の車両では、車体前方の樹脂製のバルクヘッドが、フロントサイドフレーム(サイドメンバ)に接続されている。そのバルクヘッドの両側面下方側には、車幅方向に段差が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-96280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の樹脂製のバルクヘッドでは、車両が坂道と平坦路との境を走行した際に車両前方下部が地面に接触した場合、車両構造によってはバルクヘッドが接触による荷重を受ける場合がある。その車両構造として、例えばバルクヘッドの下に柔らかいアンダーカバーが配設された構造の場合、アンダーカバーが柔らかいので、バルクヘッドに荷重が略直に伝達される。
【0005】
上記荷重を受けた場合、樹脂製のバルクヘッドの両側面下方側に段差が設けられているので、ベルクヘッドの側方部材が段差部分で割れたり折れたりすることがある。バルクヘッドの側方部材が割れたり折れたりすると熱交換器が支持できなくなる問題が生じる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、車両前方下部が地面に接触した場合でもバルクヘッドの熱交換器の支持構造を保持できる車両前部構造を提供し、ひいては交通の安全性、利便性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明の車両前部構造は、車両前部に設けられ、熱交換器を支持する矩形枠状のバルクヘッドを有する車両前部構造において、前記バルクヘッドは、前記バルクヘッドを車体に固定するための車体固定部と、前記車体固定部の下方側に設けられた段差部と、を備え、前記段差部の上側における前記バルクヘッドの車両前後方向の幅寸法は、前記段差部の下側における前記バルクヘッドの車両前後方向の幅寸法と同じとし、前記バルクヘッドは、前記段差部よりも下側に、上下方向に延びるリブを備え、前記バルクヘッドは、前記段差部よりも下方側の側面に、互いに逆方向に傾斜して交差する筋交い状のクロスリブを備え、前記クロスリブの下方側に、車両前方から後方向側に向かって下方側に傾斜する傾斜辺を有する三角形状の下方リブを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、車両前方下部が地面に接触した場合でもバルクヘッドの熱交換器の支持構造を保持できる車両前部構造を提供し、ひいては交通の安全性、利便性を向上できる車両前部構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】車両前部のフード内に配備されたバルクヘッドの後面の構造を示す斜視図である。
図2図1に示す実線枠内のバルクヘッドにおける左側柱部材の斜め裏面視による構成を示す斜視図である。
図3図1に示す破線線枠内のバルクヘッドにおける左側柱部材の斜め前面視による構成を示す斜視図である。
図4図3に示す左側柱部材の側面視による構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態の構成>
本発明の実施形態について、図1図4を参照して詳細に説明する。説明において、同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、各図中において、矢印で示す「前後」は自動車(図示せず)の前後方向、「左右」は自動車の幅方向、「上下」は鉛直上下方向をそれぞれ示している。
【0011】
図1は車両前部のフード内に配備されたバルクヘッド10の車両の後面視による構成を示す。バルクヘッド10は、樹脂製であり、車両の前部に配置され、後面視(又は前面視)で矩形枠状を成し、矩形枠内にラジエータ等の熱交換器11を支持する。バルクヘッド10の矩形枠は、上下に離間して車幅方向(横方向)に水平に延在する梁部材10b1,10b2と、上下の梁部材10b1,10b2の両端を上下方向(縦方向)に接続する左右の柱部材10a1,10a2とから成る。
【0012】
バルクヘッド10は、柱部材10a1,10a2の各々において、上下に離間する2か所の車体固定部10fで車体に固定されている。上下の車体固定部10fは、柱部材10a1,10a2の上下中間位置から下方側位置に所定長さ延び、柱部材10a1,10a2において車両前後方向を向く車体固定面部a1(図2又は図3参照)に設けられている。
【0013】
更に、上下の車体固定部10fは、後方を向く車体固定面部a1に形成された貫通孔にネジやボルト等を挿通して車体固定面部a1を車体に固定するように構成されている。車体固定面部a1は、車幅方向を向く柱側面部a2に直角に連続している(図2及び図3参照)。柱側面部a2は、上下の梁部材10b1,10b2間に延在している。柱側面部a2と車体固定面部a1との断面形状はL字形状を成す。
【0014】
図2図1に示す二点鎖線枠1内のバルクヘッド10における左側柱部材10a1の斜め裏面視による構成を示す。図3図1に示す破線線枠2内のバルクヘッド10における左側柱部材10a1の斜め前面視による構成を示す。図4図3に示す左側柱部材10a1の側面視による構成を示す。
【0015】
図2に示すように、左側の柱部材10a1において、柱側面部a2の車体固定面部a1への車内側の接合面a21よりも下方側の車内側の側面部a22は、車両前後方向の長さが接合面a21よりも短くなっている。下方側の側面部a22には、前後方向を向くポンプ支持面部a3(図3参照)が直角に接合されている。ポンプ支持面部a3は、柱部材10a1の前後方向の中間部から下部に渡って設けられている。ポンプ支持面部a3には、ウォータポンプ固定部10cが設けられたポンプ固定面部a4が接合されている。ポンプ固定面部a4は、板形状の中央部が車幅方向外側に突き出て湾曲しており、ポンプ支持面部a3に対して垂直に後方側に立設して接合されている。
【0016】
ポンプ支持面部a3と車体固定面部a1との間には、階段状の段差部10dが有る。段差部10dは、バルクヘッド10の左右両側の柱部材10a1,10a2(図1)において車体固定部10f(又は車体固定面部a1)の下方側に設けられている。段差部10dは、図3に示す斜め側面視では、車体固定面部a1に直角に接合された接合面a21と、この下方側のポンプ固定面部a4との境界に位置する。また、図1に示すように、バルクヘッド10が熱交換器11を横方向の軸で吊って支持する横吊り構造を有する場合、段差部10dは、その横吊り部分の位置よりも下方側に位置している。このため、車両が坂道と平坦路との境を走行時に車両前方下部が地面に接触した場合、接触による荷重が段差部10dで吸収されるため、段差部10dよりも上方の熱交換器11の横吊り部分の破損を防止可能となる。
【0017】
図3に示すように、柱部材10a1は、段差部10dを備えている。段差部10dは、平面視略台形状の水平面で構成されており、前後方向および車幅方向に延在している。段差部10dの車外側から見た前後方向の幅寸法W2は、柱部材10a1の前後方向の幅寸法W1よりも小さい。段差部10dは、柱部材10a1の後側に寄って配置されている。図4に示すように、段差部10dの上側における柱部材10a1の車両前後方向の幅寸法W1は、段差部10dの下側における柱部材10a1の車両前後方向の幅寸法W1と同じである。言い換えれば、バルクヘッド10の側面は、段差部10dを挟む上方側と下方側との車両前後方向の幅W1が同じとなっている。
【0018】
更に、段差部10dは、図2に示すように、車両前後方向及び車幅方向の両方に段差となるように設けられている。
詳しくは、車体固定面部a1とポンプ支持面部a3が、段差部10dによって前後方向にずれている。また、柱側面部a2とポンプ固定面部a4が、段差部10dによって車幅方向にずれている。
【0019】
図3に示すように、柱部材10a1の側面において、段差部10dよりも下側には、上下方向に延在する縦リブ10gが設けられている。
【0020】
縦リブ10gの後方側には、クロスリブ10hが設けられている。クロスリブ10hは、車両前後方向において縦リブ10gよりも段差部10dに近い位置に設けられている。クロスリブ10hは、図4に示すように、柱部材10a1の側面において、互いに逆方向に傾斜する2本の筋交い状のリブ10h,10hが交差する構成となっている。言い換えれば、柱部材10a1は、段差部10dよりも下方側で且つ縦リブ10gの後方側の側面に、互いに逆方向に傾斜して交差する筋交い状で剛性の高いクロスリブ10hを備える構成となっている。
【0021】
例えば、車両が坂道と平坦路との境を走行時に車両前方下部が地面に接触した場合、バルクヘッド10には、地面への接触時の荷重が斜め上後方側に向かって加わる。この際、前方側の縦リブ10gを経て後方側の剛性の高いクロスリブ10hに、より大きな荷重が伝達される。
【0022】
図1に示すように、バルクヘッド10の左右の柱部材10a1,10a2の下端部には、下側の梁部材10b2が架け渡されている。下側の梁部材10b2の下面の左右両側には、下方側に突き出る下方リブ10e(図2参照)が複数(3つ)設けられている。下方リブ10eは、図4に示すように、柱部材10a1の縦リブ10g及びクロスリブ10hの下方側において、車両前方から後方向側に向かって下方側に傾斜する傾斜辺を有する直角三角形状を成す。つまり、車両が平面に存在する状態において、下方リブ10eは前端から後端に向かって徐々に地面に近づく形状となっている。
【0023】
このため、車両が坂道と平坦路との境を走行時に車両前方下部が地面に接触した場合、下方リブ10eの前端側は接触せず、後方側が最初に接触して荷重を受ける。この荷重が、下方リブ10eの後方側の直上に位置する剛性の高いクロスリブ10hで伝達されるようになっている。
【0024】
<実施形態の効果>
次に、上述した本実施形態の車両前部構造の特徴構成及びその効果について説明する。
【0025】
(1)車両前部構造は、車両前部に設けられ、矩形枠状の熱交換器11を支持するバルクヘッド10を有する。バルクヘッド10は、バルクヘッド10を車体に固定するための車体固定部10fと、車体固定部10fの下方側に設けられた段差部10dとを備える。段差部10dの上側におけるバルクヘッド10の車両前後方向の幅寸法W1は、段差部10dの下側におけるバルクヘッド10の車両前後方向の幅寸法W1と同じである構成とした。
【0026】
この構成によれば、バルクヘッド10の段差部10dを挟む上方側と下方側との車両前後方向の幅W1が同じであるため、車両が坂道と平坦路との境を走行時に車両前方下部が地面に接触した場合、接触による荷重が満遍なく上方へ伝達されるため、荷重を柱部材10a1,10a2で満遍なく受けることができる。このため、荷重がバルクヘッド10全体に分散されるため、バルクヘッド10の曲がりを抑制できる。
【0027】
また、バルクヘッド10に段差部10dを設けることで、下方側から伝わる荷重が段差部10dで吸収されるため、段差部10dより上へ伝わり難くい。このため、荷重が強いと、バルクヘッド10の段差部10dよりも下側が割れるので、割れが段差部10dで止まって、段差部10dより上側の破損を防止できる。つまり、段差部10dよりも上方側にある車体固定部10fや熱交換器11の横吊り支持を破損無く保持できる。この車両前部構造の車両によれば、交通の安全性を向上させながら、交通の円滑性の低下を抑制できる。
【0028】
(2)段差部10dの上側と下側において、バルクヘッド10の前後方向を向く側面は、段差部10dを介して前後方向にずれて配置され、バルクヘッド10の車幅方向を向く側面は、段差部10dを介して車幅方向にずれて配置されている構成とした。
【0029】
この構成によれば、バルクヘッド10において、段差部10dが前後左右の両方に設けられるため、下から伝わる荷重が段差部10dより上へ、より伝わり難くなる。
【0030】
(3) バルクヘッド10は、段差部10dよりも下側に、上下方向に延びるリブ(縦リブ10g)を備える構成とした。
【0031】
この構成によれば、縦リブ10gは、上下方向の荷重に対する強度が強いので、段差部10dより下方側の剛性を高めることができる。
【0032】
(4)バルクヘッド10は、段差部10dよりも下方側の側面に、互いに逆方向に傾斜して交差する筋交い状のクロスリブ10hを備える構成とした。
【0033】
この構成によれば、段差部10dの下方側にクロスリブ10hを備えるので、段差部10dより下方側の剛性を、より高めることができる。このため、段差部10dの下方付近には、より大きな荷重が加わって、この荷重が後方側に、より大きく伝達されるが、この伝達荷重を剛性の高いクロスリブ10hで吸収できる。
【0034】
(5)クロスリブ10hの下方側に、車両前方から後方向側に向かって下方側に傾斜する傾斜辺を有する三角形状の下方リブ10eを備える構成とした。
【0035】
この構成によれば、車両が坂道と平坦路との境を走行時に車両前方下部が地面に接触した場合、下方リブ10eの前方側が接触せずに後方側が最初に接触して荷重を受ける。この荷重が下方リブ10eの後方側の直上に位置する剛性の高いクロスリブ10hへ伝達される。このため、バルクヘッド10の曲がりや破損を抑制できる。
【0036】
(6)上記(3)記載のリブは、車両が載置された水平面に載置された状態で垂直に延びる縦リブ10gであり、縦リブ10gの後方側直後にクロスリブ10hが設けられている構成とした。
【0037】
この構成によれば、車両が坂道と平坦路との境を走行時に車両前方下部が地面に接触した場合、バルクヘッド10には、地面への接触時の荷重が斜め上後方側に向かって加わる。このため、前方側の縦リブ10gを経て後方側のクロスリブ10hに、より大きい荷重が伝達される。つまり、荷重を、剛性の高いクロスリブ10hに、より多く伝達できるので、バルクヘッド10の曲がりや破損を抑制できる。
【0038】
以上、本実施形態に係る車体構造について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0039】
10 バルクヘッド
10a1,10a2 柱部材
a1 車体固定面部
a2 柱側面部
a21 接合面
a22 下方側の側面部
a3 ポンプ支持面部
a4 ポンプ固定面部
10b1,10b2 梁部材
10c ウォータポンプ固定部
10d 段差部
10e 下方リブ
10f 車体固定部
10g 縦リブ
10h クロスリブ
11 熱交換器
W1 バルクヘッドの車両前後方向の幅
図1
図2
図3
図4