(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】集積回路装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/54 20200101AFI20231206BHJP
【FI】
G01R31/54
(21)【出願番号】P 2022532267
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2021004251
(87)【国際公開番号】W WO2021260991
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2020107204
(32)【優先日】2020-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋 康夫
(72)【発明者】
【氏名】小森山 恵士
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋一郎
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-133815(JP,A)
【文献】特開2015-136078(JP,A)
【文献】特開2019-204985(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2100861(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/50
G01R 31/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷と接続されて前記負荷に供給される負荷電流を制御する集積回路装置であって、
スイッチ素子を有し、前記スイッチ素子を用いて前記負荷電流の導通と遮断を切り替える駆動回路と、
前記駆動回路の動作を制御する制御回路と、
第1のグランド接続端子を介して前記集積回路装置の外部に設けられた共通グランドに接地され、前記駆動回路と接続される第1のグランド線と、
第2のグランド接続端子を介して前記共通グランドに接地され、前記制御回路と接続される第2のグランド線と、
前記第1のグランド線に所定の診断電流を供給する診断電流供給回路と、
前記第1のグランド線と前記第2のグランド線の間に接続された双方向の整流素子と、
前記第1のグランド線と前記第2のグランド線の電位差を測定し、前記電位差を所定の比較電圧と比較して前記第1のグランド線の接地状態を診断する診断回路と、を備える集積回路装置。
【請求項2】
請求項1に記載の集積回路装置において、
前記スイッチ素子は、ON状態またはOFF状態にそれぞれ切り替え可能なハイサイドスイッチ素子およびローサイドスイッチ素子を含み、
前記駆動回路は、前記ハイサイドスイッチ素子を用いて、前記負荷電流を供給する電源と前記負荷との間で前記負荷電流を導通または遮断させるとともに、前記ローサイドスイッチ素子を用いて、前記第1のグランド線と前記負荷との間で前記負荷電流を導通または遮断させ、
前記制御回路は、前記ハイサイドスイッチ素子および前記ローサイドスイッチ素子を交互に相補的にON状態またはOFF状態に切り替える制御を、前記駆動回路に対して繰り返し実施する集積回路装置。
【請求項3】
請求項2に記載の集積回路装置において、
前記ハイサイドスイッチ素子および前記ローサイドスイッチ素子は、MOSトランジスタを用いて構成される集積回路装置。
【請求項4】
請求項1に記載の集積回路装置において、
前記診断電流供給回路は、前記駆動回路の動作状態に応じて前記診断電流を変化させる集積回路装置。
【請求項5】
請求項1に記載の集積回路装置において、
前記診断回路は、前記整流素子の順方向電圧の温度依存性に基づき、前記整流素子の温度に応じて前記比較電圧を変化させる集積回路装置。
【請求項6】
請求項2に記載の集積回路装置において、
前記負荷は誘導性負荷であり、
前記負荷は、前記駆動回路と前記共通グランドの間に接続されており、
前記診断回路は、前記ハイサイドスイッチ素子がON状態からOFF状態に切り替えられたときに、前記電位差の極性を反転して前記比較電圧と比較する集積回路装置。
【請求項7】
請求項1に記載の集積回路装置において、
前記制御回路は、前記診断回路により前記第1のグランド線の接地状態が異常であると診断された場合に、前記駆動回路の動作を停止させる集積回路装置。
【請求項8】
請求項1に記載の集積回路装置において、
前記負荷は、車両の自動変速機を動作させるためのソレノイドであり、
前記ソレノイドに流れる前記負荷電流を制御することで前記自動変速機を制御する集積回路装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集積回路装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動変速機などに使用されるソレノイド等の負荷への電流供給を制御する電子制御装置が広く利用されている。こうした電子制御装置は、車両用バッテリからの電源供給を受けて通電を制御するスイッチ素子をON、OFFしソレノイドへ電流を供給する駆動回路と、駆動回路の動作制御に必要な基準電圧や電気信号を生成する制御回路とを備えて構成される。電子制御装置に適用するデバイスとして、駆動回路と制御回路が集積化されたIC(集積回路装置)が知られている。集積回路装置を用いてソレノイドを制御する電子制御装置を実現する場合、駆動回路のグランド線には大電流が流れるため、この影響による制御回路の誤動作や特性劣化を防止する必要がある。その手法として、集積回路装置内で駆動回路のグランド線と制御回路のグランド線とを分離し、各々異なるGND端子を経由して集積回路装置のグランドに接続する構造が推奨される。
【0003】
集積回路装置のグランドは、駆動回路と制御回路のそれぞれの動作点を与える基準電位であり、これらの回路のグランド線に別々のGND端子を介して接続される。しかしながら、GND端子の接続不良やグランド線の断線等、何らかの原因で各回路のグランド線にオープン不良が発生すると、各回路のグランド線の電位が変動し、誤動作や回路特性の低下を引き起こす。特に、駆動回路のグランド線には大電流が流れるため、オープン不良による電位変動の影響が大きい。
【0004】
そこで従来より、負荷への電流供給を制御する集積回路装置におけるグランド線のオープン不良の検出方法が提案されている。特許文献1には、ロジックグランドとパワーグランドの電位に対して電圧シフトをそれぞれ設け、ESDダイオードの順方向電圧Vfに対して、大きい電圧と小さい電圧となるよう設定し、コンパレータで電圧シフトとパワーグランドの電圧比較を行い、ロジックグランドとパワーグランドお互いのグランドオープンを判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている技術は、パワーグランドがオープンとなった場合、パワーグランドに流れる電流がESDダイオードを介してロジックグランドに流れることにより、パワーグランドの電位がESDダイオードの順方向電圧Vfまで上昇することを検知して、パワーグランドのオープン不良を検出するものである。しかしながら、駆動回路(ハイサイドゲート、ローサイドゲート)が停止している場合は、駆動回路に電流が流れないためパワーグランドの電位上昇が安定せず、確実で信頼性の高い判定結果を得ることができない。また、負荷の接続状態によっては、パワーグランドがオープンとなった場合、パワーグランドに流れる電流がロジックグランドではなく、駆動回路を経由して負荷に流れてしまうため、オープン不良を検出できない。このように、特許文献1の技術では、負荷の接続状態や駆動回路の動作状態によっては、必ずしも確実で信頼性の高いオープン不良の検出結果が得られないことがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による集積回路装置は、負荷と接続されて前記負荷に供給される負荷電流を制御するものであって、スイッチ素子を有し、前記スイッチ素子を用いて前記負荷電流の導通と遮断を切り替える駆動回路と、前記駆動回路の動作を制御する制御回路と、第1のグランド接続端子を介して前記集積回路装置の外部に設けられた共通グランドに接地され、前記駆動回路と接続される第1のグランド線と、第2のグランド接続端子を介して前記共通グランドに接地され、前記制御回路と接続される第2のグランド線と、前記第1のグランド線に所定の診断電流を供給する診断電流供給回路と、前記第1のグランド線と前記第2のグランド線の間に接続された双方向の整流素子と、前記第1のグランド線と前記第2のグランド線の電位差を測定し、前記電位差を所定の比較電圧と比較して前記第1のグランド線の接地状態を診断する診断回路と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、負荷の接続状態や駆動回路の動作状態に関わらず、集積回路装置のグランド線に対して確実で信頼性の高いオープン不良検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る集積回路装置の構成図である。
【
図2】制御信号の入力側に保護ダイオードを配置した例を示す図である。
【
図3】整流素子の電気的特性の一例を示した図である。
【
図5】負荷終端が共通グランドに接続されている場合のオープン不良の検出方法の説明図である。
【
図6】負荷終端が車両用バッテリに接続されている場合のオープン不良の検出方法の説明図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る集積回路装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。なお、図面は簡略的なものであるから、この図面の記載を根拠として本発明の技術的範囲を狭く解釈してはならない。また、同一の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について、
図1~
図6を参照して以下に説明する。
【0012】
(集積回路装置の構成)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る集積回路装置の構成図である。本実施形態に係る集積回路装置10は、自動車等の車両システムに搭載される電子制御装置1内に設けられており、ソレノイド等の負荷50に接続されて負荷50に供給される負荷電流を制御するものである。負荷50は、例えば車両の自動変速機を動作させるためのソレノイドであり、集積回路装置10は、この負荷50に流れる負荷電流を制御することで自動変速機の制御を行う。集積回路装置10は、制御回路20、駆動回路30、整流回路60、診断回路70および診断電流供給回路90を備えて構成される。
【0013】
なお、一般的に車両用の電子制御装置では複数の負荷を制御可能であるが、本実施形態では集積回路装置10の動作を分かりやすく説明するために、集積回路装置10には一つの負荷50が接続されており、この負荷50に流れる負荷電流を一つの駆動回路30により制御する例を説明する。
【0014】
制御回路20は、駆動回路30の動作に必要な動作電源25や制御信号26を生成し、駆動回路30へ出力する。制御回路20は、車両システムに搭載された不図示の車両用バッテリから電源端子15を介して電源供給を受け、この電源を用いて動作する。制御回路20はグランド線21と接続されており、グランド線21はGND端子22を介して、集積回路装置10の外部に設けられた電子制御装置1の共通グランドに接続されている。この接続により、制御回路20はグランド線21およびGND端子22を介して接地されている。
【0015】
駆動回路30は、制御回路20から供給される動作電源25を用いて、制御回路20からの制御信号26に応じて動作する。駆動回路30は、電源端子16とGND端子32の間に直列接続されたハイサイドスイッチ素子40およびローサイドスイッチ素子45を有しており、これらのスイッチ素子を用いて、不図示の車両用バッテリから負荷50に供給される負荷電流の導通と遮断、及び導通経路を切り替える。ハイサイドスイッチ素子40をON状態、ローサイドスイッチ素子45をOFF状態にすることで、電源端子16と負荷50に接続されたLOAD出力47間が低損失に導通され、ローサイドスイッチ素子45をON状態、ハイサイドスイッチ素子40をOFF状態にすることで、GND端子32とLOAD出力47間が低損失に導通される。これにより、負荷50に流れる負荷電流の導通と遮断、及び負荷電流の導通経路を切り替えることができる。
【0016】
駆動回路30はスイッチ素子制御回路35を有している。スイッチ素子制御回路35は、制御回路20からの制御信号26に応じて、ハイサイドスイッチ素子40とローサイドスイッチ素子45へスイッチ制御信号36、37をそれぞれ出力する。これにより、ハイサイドスイッチ素子40およびローサイドスイッチ素子45をそれぞれON状態またはOFF状態に切り替え、上記のような負荷電流の制御を行うことができる。
【0017】
駆動回路30はグランド線31と接続されており、グランド線31はGND端子32を介して、集積回路装置10の外部に設けられた電子制御装置1の共通グランドに接続されている。この接続により、駆動回路30はグランド線31およびGND端子32を介して接地されている。
【0018】
一般的に、負荷50のように車両用の電子制御装置によって制御される負荷には、アンペアオーダーの電流供給が必要となる。本実施形態では、この電流によって発生するグランドノイズによる制御回路20の性能低下や誤動作を防止するため、制御回路20のグランド線21と駆動回路30のグランド線31とは集積回路装置10内で分離されている。
これらのグランド線は、前述のように互いに異なるGND端子22、32をそれぞれ介して、電子制御装置1の共通グランドに接続される。
【0019】
整流回路60は、グランド線21とグランド線31の間に接続されている。本実施形態の集積回路装置10では、互いに独立して共通グランドに接続されているグランド線21、31間の静電耐圧保護の観点から、これらのグランド線の間に整流回路60が挿入されている。整流回路60は、互いに逆向きに接続されたダイオード等の整流素子61、62を用いて構成されており、双方向の整流機能を有している。これにより、GND端子22、32の接続不良等により一方のグランド線と共通グランドの間がオープン(非導通)状態となり、グランド線間に一定の電位差が生じた場合には、高電位側のグランド線から整流回路60を介して低電位側のグランド線の方向に電流を流し、電荷が放流されるようにしている。
【0020】
なお、GND端子22、32の接続不良等によりグランド線21やグランド線31の電位が上昇した場合に、制御回路20や駆動回路30を保護するため、これらの間のインターフェースとなる制御信号26の入力側に保護ダイオードを配置してもよい。
図2は、制御信号26の入力側に保護ダイオードを配置した例を示す図である。
図2の例では、制御回路20と駆動回路30において、制御信号26とグランド線21、31の間に保護ダイオード65、66がそれぞれ配置されている。
【0021】
ここで、グランド線21、31と電子制御装置1の共通グランドとの間がGND端子22、32を介してそれぞれ導通状態となっている通常時には、整流回路60や保護ダイオード65、66に電流が流れることはほぼない。この場合、制御回路20で消費される電流は、グランド線21からGND端子22を介して共通グランドに流れる。また、駆動回路30で消費される電流は、グランド線31からGND端子32を介して共通グランドに流れる。
【0022】
負荷50の両端のうち、LOAD出力47が接続されている方とは反対側の負荷終端51は、車両用バッテリまたは共通グランドのいずれかに接続されている。負荷終端51の接続先が車両用バッテリである場合、駆動回路30が動作している状態では、スイッチ素子制御回路35の消費電流や、ローサイドスイッチ素子45がON状態に切り替えられることで負荷50に供給される負荷電流が、グランド線31に流入する。一方、負荷終端51の接続先が共通グランドである場合、駆動回路30が動作している状態では、ハイサイドスイッチ素子40がOFF状態に切り替えられることで、スイッチ素子制御回路35の消費電流がグランド線31に流入する。これらの状態において、GND端子32の接続不良等によりグランド線31と共通グランドの接続が遮断され、グランド線31がオープンになると、グランド線31に流入した電流がGND端子32を介して共通グランドに流出されなくなり、グランド線31の電位が上昇する。これにより、整流素子62に対してグランド線31からグランド線21に向かう方向への順方向バイアスがかかる。整流素子62は、この順方向電圧に応じた電流をグランド線31からグランド線21へ流し、GND端子22を介して電子制御装置1の共通グランドへ放出する。換言すると、整流素子62はグランド線31からグランド線21に電流を流すように電圧を発生し、グランド線31とグランド線21間に電位差を発生するように働く。
【0023】
そこで診断回路70は、グランド線31とグランド線21の電位差を測定し、この電位差が上記の整流素子62に発生する順方向電圧に相当するか否かを判定することで、グランド線31の接地状態を診断する。診断回路70は、モニタ回路71と比較判定回路74を用いて構成されている。モニタ回路71は、グランド線31とグランド線21の電位差を測定し、その測定結果をモニタ回路出力72として出力する。比較判定回路74は、モニタ回路71から出力されるモニタ回路出力72を所定の比較電圧73と比較し、その比較結果をグランド線31の接地状態に対する診断結果75として出力する。具体的には、モニタ回路出力72が比較電圧73以下であれば、グランド線31の接地状態が正常であると判定し、その判定結果を診断結果75として出力する。一方、モニタ回路出力72が比較電圧73より大きければ、グランド線31の接地状態が異常であり、GND端子32の接続不良等によるオープン不良がグランド線31において発生していると判定し、その判定結果を診断結果75として出力する。
【0024】
診断回路70の比較判定回路74から出力される診断結果75は、制御回路20に入力される。制御回路20は、診断結果75を記録し、電子制御装置1内に集積回路装置10とは別に設けられた不図示の他装置へ出力したり、診断結果75に基づく所定の安全処置を実施したりする。例えば、グランド線31の接地状態が異常であることを示す診断結果75が入力された場合、駆動回路30を停止して、負荷50への負荷電流の供給を遮断する。
【0025】
ここで、診断回路70における比較電圧73には、グランド線31の接地状態が正常時にグランド線31とグランド線21の間に発生する電位差よりも大きな値を設定することが好ましい。前述のように、集積回路装置10から負荷50に供給される負荷電流は、アンペアオーダーに達することがある。そのため、グランド線31の接地状態が正常な状態においても、グランド線31とGND端子32の間、およびGND端子32から共有グランドまでの間の寄生インピーダンスによって、グランド線31の電位上昇が発生する。例えば、0.1Ωの寄生インピーダンスがあれば、2Aの負荷電流に対して、グランド線31に200mVの電位上昇が発生する。これをオープン不良として誤検知しないように、比較電圧73を十分に大きくする必要がある。なお、特に
図1では図示していないが、瞬時的な電流変動等によりグランド線31に発生するスパイクノイズや、制御切替時に発生するノイズ等を除去するために、比較判定回路74の後段にフィルタ回路等を付加してもよい。
【0026】
診断電流供給回路90は、グランド線31に接続されており、グランド線31に所定の診断電流を供給する。集積回路装置10が負荷50の制御を行わず、駆動回路30が停止している状態では、スイッチ素子制御回路35において消費電流が発生しないため、スイッチ素子制御回路35からグランド線31に流入する電流が0であるか、あるいは微小である。そのため、グランド線31がオープンになった場合でも、グランド線31とグランド線21間に十分な電位差が発生せず、診断回路70においてオープン不良の検出が確実にできないことがある。そこで本実施形態では、集積回路装置10内に診断電流供給回路90を設け、この診断電流供給回路90からグランド線31に所定の診断電流を供給することで、グランド線31がオープンになった場合に、駆動回路30の動作状態に関わらず、グランド線31とグランド線21間に十分な電位差を発生させ、診断回路70においてオープン不良を確実に検出できるようにしている。
【0027】
集積回路装置10や電子制御装置1内の他の装置へのダメージを考慮すると、集積回路装置10が負荷50へ供給する負荷電流の制御を開始する前に、グランド線31のオープン不良を検出できることが好ましい。本実施形態では、集積回路装置10内に診断電流供給回路90を設置することで、上記のように駆動回路30の動作状態に関わらず、診断回路70においてオープン不良を確実に検出できるようにしている。そのため、負荷50に負荷電流が流れる前に、グランド線31の接地状態が正常であることを保証できるというメリットがある。
【0028】
(比較電圧)
次に、診断回路70における比較電圧73について説明する。前述のように、GND端子32の接続不良等によってグランド線31がオープンになると、整流素子62の順方向電圧に応じた電位差がグランド線31とグランド線21間に発生する。一方、グランド線31の接地状態が正常な状態であっても、グランド線31とGND端子32の間、およびGND端子32から共有グランドまでの間の寄生インピーダンスに応じた電位上昇が、グランド線31において発生する。そのため、診断回路70がグランド線31のオープン不良を正確に検出するためには、整流素子62の順方向電圧よりも小さく、かつ、上記の寄生インピーダンスによる電位上昇よりも十分に大きな値で、比較電圧73を設定する必要がある。
【0029】
図3は、整流素子62の電気的特性の一例を示す図である。
図3において、符号101に示す実線グラフは、標準温度での整流素子62の順方向電圧と順方向電流の関係を示している。一方、符号102に示す一点鎖線グラフは、低温時の整流素子62の順方向電圧と順方向電流の関係を示しており、符号103に示す破線グラフは、高温時の整流素子62の順方向電圧と順方向電流の関係を示している。これらのグラフにおいて、横軸は順方向電流値を、縦軸は順方向電圧値をそれぞれ表している。
【0030】
図3のグラフ101~103に示すように、順方向電流が大きい程、また温度が低い程、整流素子62において発生する順方向電圧が大きくなる。すなわち、整流素子62の順方向電圧は、電流依存性および温度依存性を有している。したがって、これらの関係性を考慮して、グランド線31がオープンとなったときに整流素子62に流れる最小の順方向電流に対して、整流素子62において発生する順方向電圧の最小値が、比較電圧73よりも大きくなるように、比較電圧73の値を設定する。
【0031】
例えば、整流素子62に流れる順方向電流の最小値が100μAの場合、
図3のグラフ103と点線104の交点から、比較電圧73の値を0.4V以下で設定すればよい。モニタ回路71により測定したグランド線31とグランド線21間の電位差が、この比較電圧73の設定値よりも大きければ、グランド線31がオープン不良であると判定できる。
このようにすれば、所定範囲内の順方向電流と温度に対して、グランド線31のオープン不良の有無を確実に検知できることが分かる。
【0032】
ただし、同じ順方向電流を同じ温度で整流素子62に印加した場合でも、製造プロセスのバラツキ等により、整流素子62において発生する順方向電圧には個体差が生じる。そこで、こうした個体差を考慮して比較電圧73の設定値を定めることが好ましい。例えば、整流素子62と同じ製造プロセスで製造された半導体素子を診断回路70内に設け、この半導体素子に整流素子62と同じ順方向電流を流したときの電圧により、比較電圧73を生成する。このようにして生成された比較電圧73を用いることで、整流素子62の順方向電圧の温度依存性に基づき、整流素子62の温度に応じて比較電圧73を変化させることができる。その結果、整流素子62の個体差や温度依存性に対して寛容性が高い診断回路70を実現することができる。
【0033】
(診断電流)
次に、診断電流供給回路90がグランド線31に供給する診断電流について説明する。
集積回路装置10において、グランド線31の接地状態が正常である場合、診断電流供給回路90からグランド線31に供給される診断電流は、グランド線31からGND端子32を経由して電子制御装置1の共通グランドに流れ出る無駄な消費電流となる。そのため、診断電流供給回路90は、グランド線31がオープンとなった場合に、グランド線31とグランド線21の間に比較電圧73以上の電位差を生じさせるのに必要な最小限の電流を、診断電流として供給することが好ましい。
【0034】
ここで、駆動回路30の動作状態や、診断回路70によるオープン診断の実施状況に応じて、診断電流供給回路90が供給する診断電流の電流値を変化させてもよい。例えば、駆動回路30が動作中であり、その消費電流に応じた整流素子62の順方向電圧によってグランド線31とグランド線21の間に比較電圧73以上の電位差が得られる場合は、診断電流供給回路90を停止して診断電流を0とする。一方、駆動回路30の動作が停止している場合や、駆動回路30の消費電流ではグランド線31とグランド線21の間に比較電圧73以上の電位差が得られない場合は、その電流不足分に応じた診断電流を診断電流供給回路90から供給する。さらに、診断回路70がオープン診断を実施していないときには診断電流供給回路90を停止することで、診断実施時にのみ診断電流を供給する。このようにすれば、より一層の効率向上を図ることができる。
【0035】
(スイッチ素子)
次に、ハイサイドスイッチ素子40およびローサイドスイッチ素子45の構成について説明する。一般的に、集積回路装置10内に搭載されて負荷電流の制御に用いられるハイサイドスイッチ素子40およびローサイドスイッチ素子45は、MOSトランジスタを用いて構成される。
【0036】
図4は、MOSトランジスタによるスイッチ素子の構成例を示す図である。
図4に示すように、MOSトランジスタで構成されたハイサイドスイッチ素子40およびローサイドスイッチ素子45には、ローサイドからハイサイド方向に寄生ダイオード41、46がそれぞれ形成されている。なお
図4において、ハイサイドスイッチ素子40とローサイドスイッチ素子45以外の部分は、
図1に示した集積回路装置10の構成図と共通である。
【0037】
ローサイドスイッチ素子45が寄生ダイオード46を有することにより、負荷終端51の接続先が共通グランドである場合には、ローサイドスイッチ素子45がOFF状態であっても、グランド線31から寄生ダイオード46を経由し、さらにLOAD出力47および負荷50を通って共通グランドに至る電流経路が形成されることがある。このときにグランド線31とグランド線21の間に生じる電位差は、整流素子62ではなく、寄生ダイオード46に流れる電流によって発生する順方向電圧が支配的になる。
【0038】
そこで、負荷50が誘導負荷のソレノイドであり、負荷終端51の接続先が共通グランドである場合において、駆動回路30が停止状態で診断回路70がオープン診断を実施するときには、寄生ダイオード46の順方向電圧と電流の特性に応じて設定された診断電流を診断電流供給回路90から供給する。これにより、グランド線31の接地状態がオープンである場合に、寄生ダイオード46に流れる電流によってグランド線31とグランド線21の間に発生する電位差が比較電圧73以上となるようにして、診断回路70がグランド線31のオープン不良を確実に検知できるようにしている。
【0039】
(負荷終端が共通グランドに接続されている場合のオープン不良検出方法)
次に、負荷終端51が共通グランドに接続されている場合のオープン不良の検出方法について、
図5を参照して説明する。なお以下の説明では、集積回路装置10が
図4の構成を有しており、駆動回路30においてスイッチ素子制御回路35は、制御回路20からの制御信号26に応じて、一定の周期でハイサイドスイッチ素子40とローサイドスイッチ素子45を交互に相補的排他的にON状態またはOFF状態に切り替える動作を繰り返し実施するものとする。また、負荷50は誘導負荷のソレノイドであり、負荷終端51が共通グランドに接続されているものとする。
【0040】
図5において、符号111は、集積回路装置10がまだ負荷50の制御を開始せず、駆動回路30が動作停止している状態を示している。この状態では、スイッチ素子制御回路35の消費電流が0であり、ハイサイドスイッチ素子40とローサイドスイッチ素子45は両方ともOFF状態になっている。このとき、グランド線31には診断電流供給回路90からの診断電流が流入する。
【0041】
上記の状態111において、GND端子32と共通グランド間に接続異常が生じてグランド線31がオープンになったとする。この場合、グランド線31に流入した診断電流は、図中に点線で示したように、整流素子62、グランド線21およびGND端子22を経由して共通グランドに至る電流経路と、ローサイドスイッチ素子45の寄生ダイオード46、LOAD出力47および負荷50を経由して共通グランドに至る電流経路とに分かれて流れる。
【0042】
ローサイドスイッチ素子45は、負荷50の還流電流としてアンペアオーダーの大電流を導通させる必要があるため、整流素子62と比べてサイズが大きい。そのため、同じ順方向電圧に対して流れる電流の大きさをローサイドスイッチ素子45内の寄生ダイオード46と整流素子62とで比較すると、寄生ダイオード46の方が整流素子62よりも大きくなる。よって、グランド線31に流入した診断電流の大部分は、寄生ダイオード46、LOAD出力47および負荷50を経由して共通グランドに至る電流経路を流れる。このときにグランド線31とグランド線21の間に生じる電位差は、診断電流に対する寄生ダイオード46の順方向電圧にほぼ等しい。
【0043】
以上説明したように、負荷終端51が共通グランドに接続されており、駆動回路30が動作停止している状態でグランド線31がオープンになると、グランド線31とグランド線21の間に、診断電流に応じた寄生ダイオード46の順方向電圧にほぼ等しい電位差が発生する。診断電流供給回路90では、この電位差をグランド線31の接地状態異常として診断回路70が検出できるように、診断電流の値を設定する必要がある。例えば、寄生ダイオード46の順方向電圧と電流の特性を元に、寄生ダイオード46の順方向電圧が比較電圧73以上となる電流値を予め計算しておき、その電流値を診断電流供給回路90において予め記憶しておく。駆動回路30が動作停止しているときには、これを診断電流の設定値として、診断電流供給回路90からグランド線31へ診断電流を供給する。これにより、グランド線31がオープンになった場合には、グランド線31とグランド線21の間に比較電圧73以上の電位差が生じるため、診断回路70によってグランド線31のオープン不良を確実に検出することができる。
【0044】
図5において、符号112は、集積回路装置10が駆動回路30を動作させて負荷50の制御を実施中であり、不図示の車両用バッテリから負荷50に負荷電流を供給している状態を示している。この状態では、スイッチ素子制御回路35によってハイサイドスイッチ素子40がOFF状態からON状態に切り替えられることで、図中に点線で示したように、不図示の車両用バッテリから電源端子16、ハイサイドスイッチ素子40およびLOAD出力47を経由して、負荷50に負荷電流が供給される。このとき、グランド線31には診断電流供給回路90からの診断電流に加えて、スイッチ素子制御回路35の消費電流が流入する。
【0045】
上記の状態112において、GND端子32と共通グランド間に接続異常が生じてグランド線31がオープンになったとする。この場合、グランド線31に流入した電流は、図中に点線で示したように、整流素子62、グランド線21およびGND端子22を経由して共通グランドに至る電流経路を流れる。そのため、診断電流とスイッチ素子制御回路35の消費電流の合計値に対する整流素子62の順方向電圧に相当する電位差が、グランド線31とグランド線21の間に生じる。
【0046】
なお、上記の状態ではハイサイドスイッチ素子40がON状態であるため、LOAD出力47の電位は電源端子16と同等レベルに達する。したがって、グランド線31に流入する電流によって寄生ダイオード46に順方向バイアスがかかることはなく、グランド線31から負荷50への電流経路は形成されない。
【0047】
以上説明したように、負荷終端51が共通グランドに接続されており、駆動回路30の動作中にハイサイドスイッチ素子40がON状態、ローサイドスイッチ素子45がOFF状態にそれぞれ切り替えられている状態でグランド線31がオープンになると、グランド線31とグランド線21の間に、診断電流とスイッチ素子制御回路35の消費電流の合計値に応じた整流素子62の順方向電圧に相当する電位差が発生する。したがって、診断電流供給回路90では、この電位差をグランド線31の接地状態異常として診断回路70が検出できるように、診断電流の値を設定すればよい。なお、スイッチ素子制御回路35の消費電流によって十分な電位差が得られる場合には、診断電流供給回路90を停止して診断電流を0としてもよい。
【0048】
図5において、符号113は、集積回路装置10が駆動回路30を動作させて負荷50の制御を実施中であり、不図示の車両用バッテリから負荷50への負荷電流の供給を遮断している状態を示している。この状態では、スイッチ素子制御回路35によってハイサイドスイッチ素子40がON状態からOFF状態に切り替えられるとともに、ローサイドスイッチ素子45がOFF状態からON状態に切り替えられることで、車両用バッテリから負荷50に供給される負荷電流が遮断される。このとき負荷50が誘導性負荷であることにより、負荷50に蓄積されたエネルギーが放出され、図中に点線で示したように、グランド線31からローサイドスイッチ素子45およびLOAD出力47を経由して、負荷50に還流電流が流れる。これにより、LOAD出力47の電位が低下する。
【0049】
なお、
図5では図示を省略したが、状態112から状態113へ移行する際には、ハイサイドスイッチ素子40とローサイドスイッチ素子45がともにOFF状態に切り替えられるデッドタイムが設けられる。このデッドタイム中は、グランド線31からローサイドスイッチ素子45の寄生ダイオード46を介して、負荷50に還流電流が流れる。
【0050】
上記の状態113において、GND端子32と共通グランド間に接続異常が生じてグランド線31がオープンになったとする。この場合、共通グランドからGND端子32を介してグランド線31に至る還流経路が遮断され、LOAD出力47とともにグランド線31の電位が低下する。これによって、整流素子61に対してグランド線21からグランド線31方向への順方向バイアスがかかり、その順方向電圧に応じた電流が整流素子61に流れる。その結果、図中に点線で示したように、共通グランドよりGND端子22、グランド線21、グランド線31、ローサイドスイッチ素子45およびLOAD出力47を経由して、負荷50に還流電流が流れる。
【0051】
診断回路70は、グランド線21の電位に対するグランド線31の電位の上昇を検知することで、グランド線31の接地状態が異常であると判断する回路である。ここで、状態112からハイサイドスイッチ素子40がOFFに切り替えられ、さらにローサイドスイッチ素子45がONに切り替えられて状態113へ移行した直後には、前述のようにLOAD出力47の電位が低下することでグランド線31の電位も低下する。また、状態113ではグランド線31がローサイドスイッチ素子45と負荷50を介して共通グランドに接続されているため、時間の経過とともにグランド線31の電位はグランドレベルに収束していく。そのため、状態113ではグランド線31がオープンになっても、診断回路70はグランド線31の接地状態異常を検知することができない。しかしながら、集積回路装置10による負荷電流制御の実施中には、ハイサイドスイッチ素子40とローサイドスイッチ素子45がそれぞれ周期的にON,OFFを繰り返すことで、状態112と状態113が交互に現れる。そのため、状態112のときにグランド線31の接地状態異常を検知することが可能であり、運用上の問題が生じることはない。
【0052】
(負荷終端が車両用バッテリに接続されている場合のオープン不良検出方法)
次に、負荷終端51が不図示の車両用バッテリに接続されている場合のオープン不良の検出方法について、
図6を参照して説明する。なお以下の説明でも、
図5の場合と同様に、集積回路装置10が
図4の構成を有しており、駆動回路30においてスイッチ素子制御回路35は、制御回路20からの制御信号26に応じて、一定の周期でハイサイドスイッチ素子40とローサイドスイッチ素子45を交互に相補的にON状態またはOFF状態に切り替える動作を繰り返し実施するものとする。また、負荷50は誘導負荷のソレノイドであり、負荷終端51が不図示の車両用バッテリに接続されているものとする。
【0053】
図6において、符号121は、集積回路装置10がまだ負荷50の制御を開始せず、駆動回路30が動作停止している状態を示している。この状態では、スイッチ素子制御回路35の消費電流が0であり、ハイサイドスイッチ素子40とローサイドスイッチ素子45は両方ともOFF状態になっている。このとき、グランド線31には診断電流供給回路90からの診断電流が流入する。
【0054】
上記の状態121において、GND端子32と共通グランド間に接続異常が生じてグランド線31がオープンになったとする。この場合、グランド線31に流入した診断電流は、図中に点線で示したように、整流素子62、グランド線21およびGND端子22を経由して共通グランドに至る電流経路を流れる。そのため、診断電流に対する整流素子62の順方向電圧に相当する電位差が、グランド線31とグランド線21の間に生じる。したがって、診断電流供給回路90では、この電位差をグランド線31の接地状態異常として診断回路70が検出できるように、診断電流の値を設定すればよい。なお、このときの診断電流の値は、
図5の状態111で必要な診断電流よりも小さくすることができる。
【0055】
図6において、符号122は、集積回路装置10が駆動回路30を動作させて負荷50の制御を実施中であり、不図示の車両用バッテリから負荷50に負荷電流を供給している状態を示している。この状態では、スイッチ素子制御回路35によってローサイドスイッチ素子45がOFF状態からON状態に切り替えられることで、不図示の車両用バッテリから負荷50に供給される負荷電流が、LOAD出力47およびローサイドスイッチ素子45を経由してグランド線31に流れ込む。さらに加えて、診断電流供給回路90からの診断電流とスイッチ素子制御回路35の消費電流も、グランド線31に流入する。
【0056】
上記の状態122において、GND端子32と共通グランド間に接続異常が生じてグランド線31がオープンになったとする。この場合、グランド線31に流入した電流は、図中に点線で示したように、整流素子62、グランド線21およびGND端子22を経由して共通グランドに至る電流経路を流れる。そのため、負荷電流、診断電流およびスイッチ素子制御回路35の消費電流の合計値に対する整流素子62の順方向電圧に相当する電位差が、グランド線31とグランド線21の間に生じる。したがって、診断電流供給回路90では、この電位差をグランド線31の接地状態異常として診断回路70が検出できるように、診断電流の値を設定すればよい。一般的には負荷電流が十分に大きいため、診断電流の値を0とすることができる。
【0057】
図6において、符号123は、集積回路装置10が駆動回路30を動作させて負荷50の制御を実施中であり、不図示の車両用バッテリから負荷50への負荷電流の供給を遮断している状態を示している。この状態では、スイッチ素子制御回路35によってハイサイドスイッチ素子40がOFF状態からON状態に切り替えられるとともに、ローサイドスイッチ素子45がON状態からOFF状態に切り替えられることで、車両用バッテリから負荷50に供給される負荷電流が遮断される。このとき負荷50が誘導性負荷であることにより、負荷50に蓄積されたエネルギーが放出され、図中に点線で示したように、車両用バッテリと負荷50の間で、ハイサイドスイッチ素子40および電源端子16を経由して還流電流が流れる。また、グランド線31には診断電流供給回路90からの診断電流に加えて、スイッチ素子制御回路35の消費電流が流入する。
【0058】
上記の状態123において、GND端子32と共通グランド間に接続異常が生じてグランド線31がオープンになったとする。この場合、グランド線31に流入した電流は、図中に点線で示したように、整流素子62、グランド線21およびGND端子22を経由して共通グランドに至る電流経路を流れる。そのため、診断電流とスイッチ素子制御回路35の消費電流の合計値に対する整流素子62の順方向電圧に相当する電位差が、グランド線31とグランド線21の間に生じる。したがって、診断電流供給回路90では、この電位差をグランド線31の接地状態異常として診断回路70が検出できるように、診断電流の値を設定すればよい。スイッチ素子制御回路35の消費電流によって十分な電位差が得られる場合には、診断電流供給回路90を停止して診断電流を0としてもよい。
【0059】
なお、上記の状態ではハイサイドスイッチ素子40がON状態であるため、LOAD出力47の電位は電源端子16と同等レベルに達する。したがって、グランド線31に流入する電流によって寄生ダイオード46に順方向バイアスがかかることはなく、グランド線31から負荷50への電流経路は形成されない。
【0060】
以上説明したように、負荷終端51が車両用バッテリに接続されている場合、駆動回路30が停止、あるいは動作中であっても、LOAD出力47の電位がグランド線31より低くならず、寄生ダイオード46に順方向バイアスはかからない。よって、GND端子32の接続異常等によりグランド線31がオープンとなると、グランド線31に流入する電流は、整流素子62を介してグランド線21へ流出し、GND端子22より共通グランドに放出される。したがって、診断電流供給回路90が供給する診断電流により、グランド線31に流入する電流が保証されていれば、駆動回路30の動作状態に関わらず、診断回路70においてオープン検出が可能である。
【0061】
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、負荷終端51の接続先や駆動回路30の動作状態に関わらず、より簡易な方法で、確実で信頼性のあるグランド線31の接地状態診断を行い、オープン不良検出を行うことができる。これによって、早期に異常を発見できるため、損失の大きい異常状態での集積回路装置10の動作期間を抑制し、電子制御装置1に搭載される集積回路装置10や他の装置の損傷を防止することが可能となる。
【0062】
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0063】
(1)集積回路装置10は、負荷50と接続されて負荷50に供給される負荷電流を制御する。集積回路装置10は、駆動回路30と、駆動回路30の動作を制御する制御回路20と、グランド線21,31と、診断電流供給回路90と、双方向の整流素子61,62と、診断回路70とを備える。駆動回路30は、スイッチ素子40,45を有し、スイッチ素子40,45を用いて負荷電流の導通と遮断を切り替える。グランド線31は、GND端子32を介して集積回路装置10の外部に設けられた共通グランドに接地され、駆動回路30と接続される。グランド線21は、GND端子22を介して共通グランドに接地され、制御回路20と接続される。診断電流供給回路90は、グランド線31に所定の診断電流を供給する。整流素子61,62は、グランド線21とグランド線31の間に接続されている。診断回路70は、グランド線31とグランド線21の電位差を測定し、その電位差を所定の比較電圧73と比較してグランド線31の接地状態を診断する。このようにしたので、負荷50の接続状態や駆動回路30の動作状態に関わらず、集積回路装置10のグランド線31に対して確実で信頼性の高いオープン不良検出を行うことができる。
【0064】
(2)駆動回路30のスイッチ素子は、ON状態またはOFF状態にそれぞれ切り替え可能なハイサイドスイッチ素子40およびローサイドスイッチ素子45を含む。駆動回路30は、ハイサイドスイッチ素子40を用いて、負荷電流を供給する車両用バッテリと負荷50との間で負荷電流を導通または遮断させるとともに、ローサイドスイッチ素子45を用いて、グランド線31と負荷50との間で負荷電流を導通または遮断させる。制御回路20は、ハイサイドスイッチ素子40およびローサイドスイッチ素子45を交互に相補的にON状態またはOFF状態に切り替える制御を、駆動回路30に対して繰り返し実施する。このようにしたので、集積回路装置10により、負荷50に流れる負荷電流を適切に制御することができる。
【0065】
(3)ハイサイドスイッチ素子40およびローサイドスイッチ素子45は、例えばMOSトランジスタを用いて構成される。このようにしたので、負荷50に流れる負荷電流の制御において用いられるハイサイドスイッチ素子40およびローサイドスイッチ素子45を、妥当なコストで容易に実現できる。
【0066】
(4)診断電流供給回路90は、駆動回路30の動作状態に応じて診断電流を変化させることができる。このようにすれば、無駄な消費電流を削減して効率向上を図ることができる。
【0067】
(5)診断回路70は、整流素子62の順方向電圧の温度依存性に基づき、整流素子62の温度に応じて比較電圧を変化させることができる。このようにすれば、温度の変動に対してもグランド線31の接地状態を正確に診断することができる。
【0068】
(6)制御回路20は、診断回路70によりグランド線31の接地状態が異常であると診断された場合に、駆動回路30の動作を停止させてもよい。このようにすれば、GND端子32の接続不良等によってグランド線31がオープンになった場合に、安全性を確保することができる。
【0069】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態について、
図7を参照して以下に説明する。
【0070】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る集積回路装置の構成図である。本実施形態に係る集積回路装置10Aは、第1の実施形態で説明した集積回路装置10と同様に、自動車等の車両システムに搭載される電子制御装置1内に設けられており、ソレノイド等の負荷50に接続されて負荷50に供給される負荷電流を制御するものである。
【0071】
本実施形態の集積回路装置10Aには、第1の実施形態で説明した集積回路装置10の診断回路70に替えて、診断回路70Aが設けられている。診断回路70Aは、モニタ回路71の入力側に入力極性切替部76が設けられている点以外は、診断回路70と同様の構成を有している。
【0072】
入力極性切替部76は、スイッチ素子制御回路35から出力される切替状態信号38に基づいて、モニタ回路71に入力される電圧の極性を切り替える。切替状態信号38は、ハイサイドスイッチ素子40とローサイドスイッチ素子45の切り替え状態を示す信号である。具体的には、負荷終端51が共通グランドに接続されている場合、ハイサイドスイッチ素子40がOFF、ローサイドスイッチ素子45がONに切り替わった際に、入力極性切替部76において、モニタ回路71への入力電圧極性の切り替えを行う。これにより、第1の実施形態で説明した
図5の状態113において、GND端子32と共通グランド間に接続異常が生じてグランド線31がオープンになった場合に、整流素子61に生じる順方向電圧に応じてグランド線21とグランド線31の間に発生する電位差を、モニタ回路71が検知して比較電圧73と比較できるようにしている。
【0073】
以上説明したように、本発明の第2の実施形態によれば、負荷50は駆動回路30と共通グランドの間に接続されており、診断回路70Aは、ハイサイドスイッチ素子40がON状態からOFF状態に切り替えられたときに、グランド線31とグランド線21の電位差の極性を反転して比較電圧73と比較する。このようにしたので、負荷終端51が共通グランドに接続されており、車両用バッテリから負荷50への負荷電流の供給を遮断して負荷50に還流電流が流れている状態のときでも、グランド線31の接地状態の診断を実施することができる。
【0074】
なお、以上説明した各実施形態では、本発明を分かりやすく説明するために、駆動回路30や負荷50を一つの代表例で記載したが、これらは複数個存在してもよい。駆動回路30や負荷50の個数に関わらず、各々が同様の構成により本発明を適用することが可能である。また、各実施形態では、制御線や信号線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や信号線を示しているとは限らない。
【0075】
以上説明した各実施形態や各種変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、上記では種々の実施形態や変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0076】
1 電子制御装置
10,10A 集積回路装置
15,16 電源端子
20 制御回路
21 グランド線
22 GND端子
30 駆動回路
31 グランド線
32 GND端子
35 スイッチ素子制御回路
40 ハイサイドスイッチ素子
41 寄生ダイオード
45 ローサイドスイッチ素子
46 寄生ダイオード
47 LOAD出力
50 負荷
51 負荷終端
60 整流回路
61,62 整流素子
65,66 保護ダイオード
70,70A 診断回路
71 モニタ回路
72 モニタ回路出力
73 比較電圧
74 比較判定回路
75 診断結果
76 入力極性切替部
90 診断電流供給回路