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特許7398015単結晶形多元正極材料、その製造方法及び使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】単結晶形多元正極材料、その製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20231206BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231206BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022581592
(86)(22)【出願日】2022-05-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 CN2022091942
(87)【国際公開番号】W WO2022207008
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】202111595596.0
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517232741
【氏名又は名称】ベイジン イースプリング マテリアル テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】ヂャオ,ティェンモン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,シュンリン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,ヤーフェイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,イェンビン
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108923041(CN,A)
【文献】特開2023-036062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/00-10/39
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)正極材料についてSEMにより測定された単結晶寸法DPS90、DPS10及びDPS50が0.1≦B90=(DPS90-DPS10)/DPS50≦1.5の関係を満たすこと、
(2)前記正極材料の凝集率が20%以下であることの条件を満たし、
PS90 正極材料の累積単結晶粒径分布の90%に達する割合に対応する粒径を表し、DPS50 正極材料の累積単結晶粒径分布の50%に達する割合に対応する粒径を表し、DPS10 正極材料の累積単結晶粒径分布の10%に達する割合に対応する粒径を表し、
前記正極材料の単結晶寸法D PS50 は1~3μmであり、
下記式I:
Li 1+a (A Ni Mn Co )E 式I
(式I中、-0.1≦a≦0.1、0≦m≦0.05、0≦n≦0.05、0.5≦x<1、0<y<0.5、0≦z<0.5、0≦i≦0.05であり、
AはV、Ta、Cr、La、Ce、Er及びYから選択される少なくとも1種であり、
DはMg、Sr、B、V、Al、Ca、Zn、Ba、Ra、Zr及びTiから選択される少なくとも1種であり、
EはAl、Nb、Co、Mn、Mo、W、Si、Mg、Ti及びZrから選択される少なくとも1種である。)
で示される組成を有することを特徴とする単結晶形多元正極材料。
【請求項2】
正極材料についてSEMにより測定された単結晶寸法DPS90、DPS10及びDPS50が0.1≦B90=(DPS90-DPS10)/DPS50≦1.3の関係を満たし、及び/又は
前記正極材料の凝集率が15%以下である請求項1に記載の単結晶形多元正極材料。
【請求項3】
前記正極材料の単結晶寸法DPS50 は1.2~2.8μmであり、及び/又は
前記正極材料は、0.1≦HPS≦0.5、又は0.1≦HPS≦0.4の条件を満たし、
PSは複数の結晶粒子HPSnを統計した平均値であり、HPSnは単一粒子の計算結果であり、HPSn=2(DPSLn-DPSSn)/(DPSLn+DPSSn)であり、DPSLnは正極材料についてSEMにより測定した単一結晶粒子nの最長対角線長さであり、DPSSnは正極材料についてSEMにより測定した単一結晶粒子nの最短対角線長さであり、及び/又は
前記正極材料のD50は2~5μm、又は2~4μmである請求項1に記載の単結晶形多元正極材料。
【請求項4】
ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体、リチウム源、及び任意のドーパントDを混合して、混合物Iを得るステップS1と、
酸素ガス又は空気雰囲気中で、前記混合物Iに対して第1高温焼結を行い、正極材料中間品Iを得るステップS2と、
酸素ガス又は空気雰囲気中で、前記正極材料中間品Iに対して第2高温焼結を行い、正極材料中間品IIを得るステップS3と、
前記正極材料中間品IIと任意の被覆剤Eとを混合して、混合物IIを得るステップS4と、
酸素ガス又は空気雰囲気中で、前記混合物IIに対して第3高温焼結を行い、前記単結晶形多元正極材料を得るステップS5と、を含み、
前記第1高温焼結の時間は2~8hであり、
前記第2高温焼結の温度は前記第1高温焼結の温度よりも高く、又は20~200℃高いことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の単結晶形多元正極材料の製造方法。
【請求項5】
ステップS1において、前記リチウム源は炭酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム及び酢酸リチウムから選択される少なくとも1種であり、及び/又は
前記リチウム源の添加量は化学量論比で0.9≦[n(Li)]/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]≦1.1となるように添加され、及び/又は
前記ドーパントDはMg、Sr、B、V、Al、Ca、Zn、Ba、Ra、Zr及びTiのうちの少なくとも1種の元素を含有する酸化物、オキシ水酸化物、水酸化物、炭酸塩及びシュウ酸塩から選択される少なくとも1種であり、及び/又は
前記ドーパントDの添加量は化学量論比で0≦[n(D)]/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]≦0.05となるように添加され、及び/又は
ステップS2において、前記第1高温焼結の条件は、焼結温度700~1000℃を含み、及び/又は
前記正極材料中間品IのD50が2~5μmであり、及び/又は
ステップS3において、前記第2高温焼結の条件は、焼結温度720~1200℃、焼結時間5~20hを含み、及び/又は
前記正極材料中間品IIのD50が2~5μmであり、及び/又は
ステップS4において、前記被覆剤EはAl、Nb、Co、Mn、Mo、W、Si、Mg、Ti及びZrのうちの少なくとも1種の元素を含有する酸化物、オキシ水酸化物、水酸化物、炭酸塩及びシュウ酸塩から選択される少なくとも1種であり、及び/又は
前記被覆剤Eの添加量は化学量論比で0≦[n(E)]/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]≦0.05となるように添加され、及び/又は
ステップS5において、前記第3高温焼結の条件は、焼結温度500~900℃、焼結時間3~10hを含む請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体は、
ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩を用いてNi:Co:Mn=x:z:yのモル比で混合塩溶液を調製し、ドーパントA、沈殿剤を用いてドーパントA塩溶液及び沈殿剤溶液をそれぞれ調製するステップ(1)と、
窒素雰囲気中で、混合塩溶液、沈殿剤溶液、アンモニア水及び任意のドーパントA塩溶液を反応釜に加えて連続反応と老化を行い、固液混合スラリーを得るステップ(2)と、
前記固液混合スラリーについて加圧ろ過、洗浄及びベークを行い、ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体を得るステップ(3)とにより製造される、請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記混合塩の濃度が1~3mol/Lであり、前記沈殿剤溶液の濃度が5~10mol/Lであり、前記アンモニア水の質量濃度が20~30wt%であり、及び/又は
前記ドーパントAはV、Ta、Cr、La、Ce、Er及びYのうちの少なくとも1種の元素を含有する可溶塩及び/又はゾルから選択され、及び/又は
前記ドーパントAの添加量は化学量論比で0≦[n(A)]/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]≦0.05となるように添加され、及び/又は
前記連続反応の条件は、pH値11~13、反応温度40~60℃、合流時間6~30hを含み、及び/又は
前記老化条件は、老化温度40~60℃、老化時間5~30hを含み、及び/又は
前記ドーパントAを含有するニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体は、D50が2~6μm、かさ密度が0.6~1g/cm、タップ密度が1.2~1.6g/cmである請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の単結晶形多元正極材料のリチウムイオン電池における使用。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は2021年12月24日に提出された中国特許出願202111595596.0の権利を主張しており、該出願の内容は引用によりここに組み込まれている。
【技術分野】
【0002】
本発明はリチウムイオン電池の技術分野に関し、具体的には、単結晶形多元正極材料、その製造方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0003】
エネルギーと環境の問題は今の社会の焦点である。中国の新エネルギー自動車市場の拡大に伴い、パワーリチウムイオン電池の需要が大幅に上昇している。また、携帯電話、カメラ、電気自動車、電動工具などの業界の急速な発展によっても、リチウムイオン電池の需要量が増え続けている。そのため、リチウムイオン電池の業界は将来性が期待できる。
【0004】
リチウムイオン電池はエネルギー密度が高く、ゼロ汚染、ゼロエミッション、小型などの利点があり、正極材料はリチウムイオン電池の主要な構成部分として、電池の容量、特性及びコストに対して決定的な役割を果たし、三元材料はそのエネルギー密度が高く、サイクル寿命が長く、コストパフォーマンスが高いため近年広く研究され、急速に発展している。
【0005】
三元リチウムイオン電池の正極材料は主にNi/Co/Mnから構成され、Ni含有量が高く、材料容量密度が高いが、ニッケル含有量の上昇により材料のサイクル寿命と安全性が悪くなり、主な原因はリチウムとニッケルの混合排出、多重相変化、正極材料と電解液との反応などにある。材料をより安定な単結晶構造に設計することで、材料のサイクル安定性及び熱安定性が向上する。単結晶構造の良否は材料の電気化学特性に直接影響し、単結晶の形態が丸く、粒子粒径が均一であり、凝集や粘着が少ない製品は、材料が電極を作る過程で締固め密度がより大きくなり、しかも、サイクル中で破裂や脱落が発生しにくく、それによって、材料のエネルギー密度とサイクル安定性が向上する。
【0006】
構造が安定した三元単結晶形正極材料を得るためには、合成過程を最適化する必要があり、焼結過程及びドーピング、被覆体系を最適化することにより格子欠陥を減少させ、材料表面構造を安定化し、材料の高容量を確保しつつ、材料の安定性を向上させ、電池特性を向上させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、単結晶形多元正極材料の粒子寸法が均一ではなく、粒子同士が粘着しやすく、単結晶の球形度が劣り、凝集率が高いという従来技術の問題を解決するために、単結晶形多元正極材料、その製造方法及び使用を提供することであり、該単結晶形多元正極材料は球状の形態をしており、粒子寸法が均一であり、凝集や粘着が少なく、締固め密度が高く、構造安定性に優れるような特徴があり、リチウムイオン電池に用いられると、リチウムイオン電池のエネルギー密度、レート特性、サイクル安定性及び安全性を大幅に向上させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成させるために、本発明の第1態様は、
(1)正極材料についてSEMにより測定された単結晶寸法DPS90、DPS10及びDPS50が、0.1≦B90=(DPS90-DPS10)/DPS50≦1.5の関係を満たすこと、
(2)前記正極材料の凝集率が20%以下であることの条件を満たし、
PS90正極材料の単結晶寸法の90%がDPS90よりも小さく、DPS50正極材料の単結晶寸法の50%がDPS50よりも小さく、DPS10正極材料の単結晶寸法の10%がDPS10よりも小さいことを特徴とする単結晶形多元正極材料を提供する。
【0009】
本発明の第2態様は、
ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体、リチウム源、及び任意のドーパントDを混合して、混合物Iを得るステップS1と、
酸素ガス又は空気雰囲気中で、前記混合物Iに対して第1高温焼結を行い、正極材料中間品Iを得るステップS2と、
酸素ガス又は空気雰囲気中で、前記正極材料中間品Iに対して第2高温焼結を行い、正極材料中間品IIを得るステップS3と、
前記正極材料中間品IIと任意の被覆剤Eとを混合して、混合物IIを得るステップS4と、
酸素ガス又は空気雰囲気中で、前記混合物IIに対して第3高温焼結を行い、前記単結晶形多元正極材料を得るステップS5と、を含むことを特徴とする単結晶形多元正極材料の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の第3態様は、上記製造方法によって製造される単結晶形多元正極材料を提供する。
【0011】
本発明の第4態様は、上記単結晶形多元正極材料のリチウムイオン電池における使用を提供する。
【発明の効果】
【0012】
上記の技術案によれば、本発明による単結晶形多元正極材料、その製造方法及び使用は以下の有益な効果がある。
【0013】
本発明による単結晶形多元正極材料は、球状の形態をしており、粒子寸法が均一であり、凝集や粘着が少なく、締固め密度が高く、構造安定性に優れるような特徴があり、リチウムイオン電池に用いられると、リチウムイオン電池のエネルギー密度、レート特性、サイクル安定性及び安全性を大幅に向上させることができる。
【0014】
本発明による単結晶形多元正極材料の製造方法では、ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体とリチウム塩との混合物に対して2回の高温焼結を行う。2回の高温焼結により、十分にリチウム化された正極材料中間品が単結晶になりやすく、材料がよりよく単結晶化する。さらに、第1高温焼結後、リチウムが材料の内部に入り、表面に残留されたリチウムがさらに減少し、粒子同士が粘着しにくく、独立性に優れ、内部の欠陥が少なく、大きさの分布が均一な単結晶化材料が形成されやすい。
【0015】
さらに、本発明による単結晶形多元正極材料の製造方法では、第1高温焼結において水や二酸化炭素が排出され、材料の重量及び体積が減少し、第2高温焼結において反応容器に再度投入する場合、より多くの反応物を投入することが可能になり、材料の収量及び生産効率が向上する。さらに、混合物Iは、第1高温焼結において短時間内で完全に反応することができ、第1高温焼結を行うと、第2高温焼結において単結晶が形成されやすく、しかも、単結晶化時間が短縮され、このため、反応時間の増加を引き起こさずに、収量を向上させ、生産効率を高めることができる。
【0016】
さらに、本発明による単結晶形多元正極材料の製造方法では、ドーパントDは融解補助作用を有し、ドーパントDを導入することにより、第2高温焼結の温度が下がり、エネルギーが節約され、また、材料の単結晶化の度合いが向上し、得られた単結晶材料の球形度がさらに向上する。粒子の球形度が高く、粒子寸法分布が均一であり、凝集率が低く、これにより、該単結晶正極材料で作製される電池の極板は締固め密度がより大きく、電池の作動中により安定的であり、脱落しにくく、材料のサイクル安定性が向上する。
【0017】
さらに、本発明による単結晶形多元正極材料の製造方法は、第2高温焼結により得られた正極材料中間品IIと被覆剤とを混合し、第3高温焼結を行い、被覆型単結晶正極材料を得るものであり、高温焼結により被覆剤がある程度結晶の内部に入り、このように材料の表面に勾配が得られ、材料構造が安定的になり、また、被覆物は高温で表面に残留されたリチウムと反応し、表面に残留されたリチウムを減らし、副反応を低減させることができ、高温焼結はまた単結晶内部の欠陥を修復し、材料の構造をより安定的にする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1で製造される正極材料中間品IのSEM像である。
図2】実施例1で製造される正極材料中間品IIのSEM像である。
図3】実施例1で製造される単結晶形多元正極材料のSEM像である。
図4】実施例12で製造される正極材料中間品IのSEM像である。
図5】実施例12で製造される正極材料中間品IIのSEM像である。
図6】実施例12で製造される単結晶形多元正極材料のSEM像である。
図7】比較例1で製造される単結晶形多元正極材料のSEM像である。
図8】実施例1及び比較例1の1.0C/1.0C@45℃、80サイクルにおける比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書で開示された範囲の端点及び任意の値はこの正確な範囲又は値に限定されるものではなく、これらの範囲又は値はこれらの範囲又は値に近い値として理解すべきである。数値の範囲の場合、各範囲の端点値同士、各範囲の端点値と個別の点値との間、及び個別の点値同士を互いに組み合わせて1つ又は複数の新しい数値の範囲としてもよく、これらの数値の範囲は本明細書で具体的に開示されるものとしてみなすべきである。
【0020】
本発明の第1態様は、
(1)正極材料についてSEMにより測定された単結晶寸法DPS90、DPS10及びDPS50が0.1≦B90=(DPS90-DPS10)/DPS50≦1.5の関係を満たすこと、
(2)前記正極材料の凝集率が20%以下であることの条件を満たし、
PS90正極材料の単結晶寸法の90%がDPS90よりも小さく、DPS50正極材料の単結晶寸法の50%がDPS50よりも小さく、DPS10正極材料の単結晶寸法の10%がDPS10よりも小さいことを特徴とする単結晶形多元正極材料を提供する。
【0021】
本発明では、上記条件を満たす正極材料は球状の形態をしており、粒子寸法が均一であり、凝集や粘着が少なく、締固め密度が高く、構造安定性に優れるような特徴があり、リチウムイオン電池に用いられると、リチウムイオン電池のエネルギー密度、レート特性、サイクル安定性及び安全性を大幅に向上させることができる。
【0022】
本発明では、前記正極材料は単結晶粒子からなる。
【0023】
本発明では、DPSは正極材料のSEM像におけるスケールを基準にして得られる単結晶寸法を表し、単一粒子のDPSは当該粒子の最長対角線と最短対角線との平均値である。正極材料粒子のDPS90、DPS10、DPS50、B90及びHPSはSEM像から300個の単結晶粒子をサンプルとしてランダムに選択して得られた統計結果である。SEM測定において正極材料をランダムにサンプリングしたり、領域をランダムにサンプリングしたりする必要があり、測定したSEM像は正極材料の平均なレベルを表す。単結晶の長軸対角線及び短軸対角線の値は任意のグラフィカル解析ソフトウェア又は手動測定により得られ、データ統計の結果DPS90、DPS10、DPS50、B90及びHPSは任意の統計ソフトウェアにより得られてもよい。
【0024】
本発明では、前記凝集率とは正極材料のSEM像における4個以上の粘着した単結晶粒子の総単結晶粒子に占める割合を指す。
【0025】
さらに、正極材料についてSEMにより測定された単結晶寸法DPS90、DPS10及びDPS50は、0.1≦B90=(DPS90-DPS10)/DPS50≦1.3、好ましくは、0.1≦B90=(DPS90-DPS10)/DPS50≦1.1、より好ましくは0.5≦B90=(DPS90-DPS10)/DPS50≦1.3、さらに好ましくは0.7≦B90=(DPS90-DPS10)/DPS50≦1.1を満たす。
【0026】
さらに、前記正極材料の凝集率は15%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下である。
【0027】
本発明によれば、前記正極材料の平均単結晶寸法(particle size)DPS50は1~3μm、好ましくは1.2~2.8μm、より好ましくは1.5~2.5μmである。
【0028】
本発明によれば、前記正極材料は、0.1≦HPS≦0.5の条件を満たし、
ここで、HPSは複数の結晶粒子HPSnを統計した平均値であり、HPSnは単一粒子の計算結果であり、HPSn=2(DPSLn-DPSSn)/(DPSLn+DPSSn)であり、DPSLnは正極材料についてSEMにより測定された単一結晶粒子nの最長対角線長さ、DPSSnは正極材料についてSEMにより測定された単一結晶粒子nの最短対角線長さである。
【0029】
本発明では、正極材料が上記条件を満たすとは、正極材料には粒子寸法が均一であり、球状の形態をしており、凝集や粘着が少ないような特徴があることを意味し、これにより、正極材料は締固め密度が高く、構造安定性に優れる利点があり、リチウムイオン電池に用いられると、リチウムイオン電池のエネルギー密度、レート特性、サイクル安定性及び安全性を大幅に向上させることができる。
【0030】
さらに、0.1≦HPS≦0.4、またさらに、0.1≦HPS≦0.3である。
【0031】
本発明によれば、前記正極材料のD50は2~5μm、好ましくは2~4μm、より好ましくは2.5~3.8μmである。
【0032】
本発明では、前記正極材料のD50はレーザ粒度計により測定された結果である。
【0033】
本発明によれば、前記正極材料は式Iで示される組成を有する。
Li1+a(ANiMnCo)E 式I
(式I中、-0.1≦a≦0.1、0≦m≦0.05、0≦n≦0.05、0.5≦x<1、0<y<0.5、0≦z<0.5、0≦i≦0.05であり、AはV、Ta、Cr、La、Ce、Er及びYから選択される少なくとも1種であり、DはMg、Sr、B、V、Al、Ca、Zn、Ba、Ra、Zr及びTiから選択される少なくとも1種であり、EはAl、Nb、Co、Mn、Mo、W、Si、Mg、Ti及びZrから選択される少なくとも1種である。)
【0034】
さらに、0≦a≦0.08、0.001≦m≦0.03、0.001≦n≦0.03、0.7≦x<0.9、0.1<y<0.3、0.1≦z<0.3、0.001≦i≦0.03であり、AはLa、Ce、Er及びYから選択される少なくとも1種であり、DはSr、B、V、Al及びCaから選択される少なくとも1種であり、EはW、Si、Mg、Ti及びZrから選択される少なくとも1種である。
【0035】
本発明では、前記単結晶形多元正極材料の締固め密度PDは3.3g/cm以上、好ましくは3.3~3.6g/cmである。
【0036】
本発明による単結晶形多元正極材料の製造方法では、前駆体材料とリチウム塩の混合物に対して2回の高温焼結を行う。
【0037】
前記第2高温焼結の温度が第1高温焼結の温度よりも20~200℃高く、これにより、第1高温焼結により正極材料中間品Iを得ることが確保され、リチウム化が十分に行われるとともに、二次粒子の球状形態が確保される。
【0038】
本発明の第2態様は、
ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体、リチウム源、及び任意のドーパントDを混合して、混合物Iを得るステップS1と、
酸素ガス又は空気雰囲気中で、前記混合物Iに対して第1高温焼結を行い、正極材料中間品Iを得るステップS2と、
酸素ガス又は空気雰囲気中で、前記正極材料中間品Iに対して第2高温焼結を行い、正極材料中間品IIを得るステップS3と、
前記正極材料中間品IIと任意の被覆剤Eとを混合して、混合物IIを得るステップS4と、
酸素ガス又は空気雰囲気中で、前記混合物IIに対して第3高温焼結を行い、前記単結晶形多元正極材料を得るステップS5と、を含むことを特徴とする単結晶形多元正極材料の製造方法を提供する。
【0039】
本発明では、ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体とリチウム塩との混合物に対して2回の高温焼結を行う。2回の高温焼結により、十分にリチウム化された正極材料中間品が単結晶になりやすく、材料がよりよく単結晶化する。さらに、第1高温焼結後、リチウムが材料の内部に入り、表面に残留されたリチウムがさらに減少し、粒子同士が粘着しにくく、独立性に優れ、内部の欠陥が少なく、大きさの分布が均一な単結晶化材料が形成されやすい。
【0040】
本発明によれば、ステップS1において、前記リチウム源は炭酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム及び酢酸リチウムから選択される少なくとも1種である。
【0041】
本発明によれば、前記リチウム源の添加量は化学量論比で0.9≦[n(Li)]/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]≦1.1となるように添加される。
【0042】
本発明では、前記リチウム源の添加量が上記の要件を満たすと、前駆体とリチウム源は十分に反応し、製造された単結晶形多元正極材料はより優れた特性を有する。
【0043】
さらに、前記リチウム源の添加量は化学量論比で1≦[n(Li)]/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]≦1.08、好ましくは1.02≦[n(Li)]/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]≦1.06である。
【0044】
本発明では、前記ドーパントDは第2高温焼結において融解補助作用を有し、焼結温度を下げ、コストを低下させることができ、これにより、確実に単結晶化した正極材料が得られる。
【0045】
本発明によれば、前記ドーパントDはMg、Sr、B、V、Al、Ca、Zn、Ba、Ra、Zr及びTiから選択される少なくとも1種の元素を含有する酸化物、オキシ水酸化物、水酸化物、炭酸塩及びシュウ酸塩から選択される少なくとも1種である。具体的には、前記ドーパントDは酸化バナジウム、水酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、ホウ酸、酸化カルシウム及び酸化バリウムから選択される少なくとも1種である。
【0046】
本発明によれば、前記ドーパントDの添加量は化学量論比で0≦[n(D)]/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]≦0.05となるように添加される。
【0047】
本発明では、前記ドーパントDの使用量が上記範囲を満たすと、製造された正極材料の構造が安定的になる。
【0048】
さらに、前記ドーパントDの添加量は化学量論比で0.001≦[n(M)]/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]≦0.03となるように添加される。
【0049】
本発明によれば、ステップS2において、前記第1高温焼結の条件は、焼結温度700~1000℃、焼結時間2~10hを含む。
【0050】
本発明では、上記条件下で混合物Iに対して第1高温焼結を行うことにより、正極材料の十分なリチウム化が確保され、製造された正極材料の総合的な特性がより優れるようになる。
【0051】
さらに、ステップS2において、前記第1高温焼結の条件は、焼結温度750~900℃、好ましくは800~900℃、焼結時間3~10h、好ましくは5~10hを含む。
【0052】
本発明によれば、前記正極材料中間品IのD50は2~5μmである。
【0053】
本発明では、前記正極材料中間品Iは一次粒子からなる十分にリチウム化された二次粒子球である。特に、前記正極材料中間品IのD50が上記範囲を満たす場合、このような中間品Iで製造される正極材料は適切な寸法を有し、しかも、締固め密度が高く、構造が安定しており、高い容量を維持することができる。
【0054】
さらに、前記正極材料中間品IのD50は2~4.5μm、好ましくは2~4μmである。
【0055】
本発明によれば、ステップS3において、前記第2高温焼結の条件は、焼結温度720~1200℃、焼結時間5~20hを含む。
【0056】
本発明では、上記条件下で正極材料中間品Iに対して第2高温焼結を行うことにより、製造された正極材料は適切な単結晶寸法を有し、しかも、正極材料の粒子寸法が均一であり、球形度が良好である。
【0057】
本発明では、好ましくは、正極材料中間品Iを破砕した後、前記第2高温焼結を行う。
【0058】
さらに、ステップS3において、前記第2高温焼結の条件は、焼結温度850~1150℃、好ましくは800~1100℃、焼結時間8~20h、好ましくは10~18hを含む。
【0059】
本発明によれば、前記第2高温焼結の温度は、前記第1高温焼結の温度よりも高く、好ましくは20~200℃、より好ましくは30~100℃、さらに好ましくは40~60℃高い。
【0060】
本発明では、第2高温焼結の温度を第1高温焼結の温度よりも20~200℃高くすることにより、第1高温焼結により正極材料中間品Iを得ることが確保され、リチウム化が十分に行われるとともに、二次粒子の球状形態が確保され、第1高温焼結の温度が低すぎると、リチウム化が十分に行われず、第1高温焼結の温度が高すぎると、正極材料中間品Iが単結晶構造となる。
【0061】
本発明によれば、前記正極材料中間品IIのD50は2~5μm、好ましくは2~4μmである。
【0062】
本発明によれば、ステップS4において、前記被覆剤EはAl、Nb、Co、Mn、Mo、W、Si、Mg、Ti及びZrから選択される少なくとも1種の元素を含有する酸化物、オキシ水酸化物、水酸化物、炭酸塩及びシュウ酸塩から選択される少なくとも1種である。具体的には、前記被覆剤Eは酸化マグネシウム、シリカ、酸化タングステン及び酸化ジルコニウムから選択される少なくとも1種である。
【0063】
本発明によれば、前記被覆剤Eの添加量は化学量論比で0≦[n(E)]/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]≦0.05となるように添加される。
【0064】
さらに、前記被覆剤Eの添加量は化学量論比で0.001≦[n(E)]/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]≦0.03となるように添加される。
【0065】
本発明によれば、ステップS5において、前記第3高温焼結の条件は、焼結温度500~900℃、焼結時間3~10hを含む。
【0066】
本発明では、上記条件下で正極材料中間品IIと被覆剤Eとの混合物に対して第3高温焼結を行うことにより、正極材料の表面欠陥を修復し、結晶の表面構造を安定化させる役割を果たす。
【0067】
本発明では、好ましくは、正極材料中間品IIを破砕して、被覆剤Eと混合した後、前記第3高温焼結を行う。
【0068】
さらに、ステップS5において、前記第3高温焼結の条件は、焼結温度600~900℃、好ましくは700~800℃、焼結時間4~10h、好ましくは6~10hを含む。
【0069】
本発明では、前記ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体は本分野において一般的に使用される前駆体であってもよく、好ましくは、前記ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体はNi、Co、Mn及びドーパントAを含有する水酸化物である。さらに、前記ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体は球状又は略球状の単一粒子である。
【0070】
本発明の1つの特定実施形態では、前記ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体は、
ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩を用いてNi:Co:Mn=x:z:yのモル比で混合塩溶液を調製し、ドーパントA、沈殿剤を用いてドーパントA塩溶液及び沈殿剤溶液をそれぞれ調製するステップ(1)と、
窒素雰囲気中で、混合塩溶液、沈殿剤溶液、アンモニア水及び任意のドーパントA塩溶液を反応釜に加えて連続反応と老化を行い、固液混合スラリーを得るステップ(2)と、
前記固液混合スラリーについて加圧ろ過、洗浄及びベークを行い、ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体を得るステップ(3)とにより製造される。
【0071】
本発明では、前記ニッケル塩、前記コバルト塩及び前記マンガン塩は本分野において一般的に使用されるニッケル塩、コバルト塩及びマンガン塩であってもよい。具体的には、前記ニッケル塩は硫酸ニッケル及び/又は塩化ニッケルから選択され、前記コバルト塩は硫酸コバルト及び/又は塩化コバルトから選択され、前記マンガン塩は硫酸マンガン及び/又は塩化マンガンから選択される。
【0072】
本発明では、前記沈殿剤は本分野において一般的に使用される沈殿剤、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸アンモニウムのうちの少なくとも1種であってもよい。前記錯化剤は本分野において一般的に使用される錯化剤、例えばアンモニア水である。
【0073】
本発明によれば、前記混合塩の濃度は1~3mol/Lであり、前記沈殿剤溶液の濃度は5~10mol/Lであり、前記アンモニア水の質量濃度は20~30wt%である。
【0074】
本発明によれば、前記ドーパントAはV、Ta、Cr、La、Ce、Er及びYから選択される少なくとも1種の元素を含有する可溶塩及び/又はゾルから選択される。具体的には、前記ドーパントAは硝酸エルビウム、硫酸イットリウム及び硝酸ランタンから選択される1種である。
【0075】
本発明によれば、前記ドーパントAの添加量は化学量論比で0≦[n(A)]/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]≦0.05となるように添加される。
【0076】
さらに、前記ドーパントAの添加量は化学量論比で0.001≦[n(A)]/[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]≦0.03となるように添加される。
【0077】
本発明によれば、前記連続反応の条件は、pH値11~13、反応温度40~60℃、溶液滞留時間6~30hを含む。
【0078】
本発明によれば、前記ドーパントAを含むニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体は、D50が2~6μm、かさ密度が0.6~1g/cm、タップ密度が1.2~1.6g/cmである。
【0079】
さらに、前記ドーパントAを含むニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体は、
50が2.5~5.5μm、かさ密度が0.6~0.9g/cm、タップ密度が1.2~1.55g/cmである。
【0080】
本発明の第3態様は、上記製造方法によって製造される単結晶形多元正極材料を提供し、
本発明によれば、前記正極材料は、
(1)正極材料についてSEMにより測定された単結晶寸法DPS90、DPS10及びDPS50が0.1≦B90=(DPS90-DPS10)/DPS50≦1.5の関係を満たすこと、
(2)前記正極材料の凝集率が20%以下であることの条件を満たし、
PS90正極材料の単結晶寸法の90%がDPS90よりも小さく、DPS50正極材料の単結晶寸法の50%がDPS50よりも小さく、DPS10正極材料の単結晶寸法の10%がDPS10よりも小さい。
【0081】
さらに、正極材料についてSEMにより測定された単結晶寸法DPS90、DPS10及びDPS50が、0.1≦B90=(DPS90-DPS10)/DPS50≦1.3、好ましくは、0.1≦B90=(DPS90-DPS10)/DPS50≦1.1の関係を満たす。
【0082】
さらに、前記正極材料の凝集率が15%以下、好ましくは10%以下である。
【0083】
本発明によれば、前記正極材料の平均単結晶寸法DPS50は1~3μmである。
【0084】
さらに、前記正極材料の平均単結晶寸法DPS50は1.2~2.8μm、好ましくは1.5~2.5μmである。
【0085】
本発明によれば、前記正極材料は、0.1≦HPS≦0.5の条件を満たし、
PSは複数の結晶粒子HPSnを統計した平均値であり、HPSnは単一粒子の計算結果であり、HPSn=2(DPSLn-DPSSn)/(DPSLn+DPSSn)であり、DPSLnは正極材料についてSEMにより測定した単一結晶粒子nの最長対角線長さであり、DPSSnは正極材料についてSEMにより測定した単一結晶粒子nの最短対角線長さである。
【0086】
さらに、0.1≦HPS≦0.4、またさらに、0.1≦HPS≦0.3である。
【0087】
本発明によれば、前記正極材料のD50は2~5μm、好ましくは2~4μm、より好ましくは2.5~3.8μmである。
【0088】
本発明によれば、前記正極材料は式Iで示される組成を有する。
Li1+a(ANiMnCo)E 式I
(式I中、-0.1≦a≦0.1、0≦m≦0.05、0≦n≦0.05、0.5≦x<1、0<y<0.5、0≦z<0.5、0≦i≦0.05であり、AはV、Ta、Cr、La、Ce、Er及びYから選択される少なくとも1種であり、DはMg、Sr、B、V、Al、Ca、Zn、Ba、Ra、Zr及びTiから選択される少なくとも1種であり、EはAl、Nb、Co、Mn、Mo、W、Si、Mg、Ti及びZrから選択される少なくとも1種である。)
【0089】
さらに、0≦a≦0.08、0.001≦m≦0.03、0.001≦n≦0.03、0.7≦x<0.9、0.1<y<0.3、0.1≦z<0.3、0.001≦i≦0.03であり、AはLa、Ce、Er及びYから選択される少なくとも1種であり、DはSr、B、V、Al及びCaから選択される少なくとも1種であり、EはW、Si、Mg、Ti及びZrから選択される少なくとも1種である。
【0090】
本発明では、前記単結晶形多元正極材料の締固め密度PDは3.3g/cm以上、好ましくは3.3~3.6g/cmである。
【0091】
本発明の第4態様は、上記単結晶形多元正極材料のリチウムイオン電池における使用を提供する。
【0092】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。以下の実施例では、
正極材料のD50はレーザ粒度計により測定された結果である。
正極材料の単結晶寸法はSEMスケールを基準にして得られる。
正極材料の締固め密度は締固め密度テスターにより測定される。
ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体のかさ密度、タップ密度はそれぞれタップ密度テスターにより測定される。
ボタン電池の電気化学的特性:
3.0~4.3Vの電圧下の0.1C初回放電比容量、1.0C放電比容量及び1C/1C@45℃の条件下で80サイクル後の容量維持率、
サイクル特性は以下のようにテストされる。活性化電池を用いて、1Cの電流密度で3.0~4.3Vの電圧区間において、45℃の温度で80サイクルし、材料の高温容量維持率を調べる。
【0093】
作製されたボタン電池の特性の評価は以下のように定義される。
ボタン電池を製造してから2h放置し、開回路電圧が安定になると、正極を0.1Cの電流密度でカットオフ電圧4.3Vまで充電し、次に、定電圧で30min充電し、その後、同じ電流密度でカットオフ電圧3.0Vまで放電し、同じ方式でもう1回繰り返し、このときの電池を活性化電池とする。
サイクル特性は以下のようにテストされる。活性化電池を用いて、1Cの電流密度で、3.0~4.3Vの電圧区間において、45℃の温度で80サイクルし、材料の高温容量維持率を調べる。
電気特性のテストパラメータは深セン新威社のCT-3008電池テストシステムによってテストされる。
LiCO及びLiOHの含有量は電位差滴定により得られる。
実施例及び比較例に使用される原料はすべて市販品である。
【0094】
実施例1
I:ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体の製造
(1)硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを原料として、Ni:Co:Mn=80:10:10のモル比で2mol/Lの均一なニッケル・コバルト・マンガン塩混合溶液を調製し、0.2mol/LのLa(SO溶液を調製し、8mol/LのNaOH溶液を沈殿剤として調製し、25wt%のアンモニア水をそのまま錯化剤として使用した。
(2)窒素保護下で、上記溶液を合流方式で反応釜に投入し、[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(La)=1:0.01、撹拌回転速度を200rpmに制御し、反応温度を55℃、pH値を12.3、合流時間を23hとして、20h老化し、固液混合スラリーを得た。
(3)前記固液混合スラリーについて加圧ろ過と洗浄を行い、120℃の温度で5hベークすると、D50が3.3μmのドーパントLaを含むニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体P1を得た。該前駆体は球状又は略球状の単一粒子であり、多孔質の構造を持ち、かさ密度が0.72g/cm、タップ密度が1.34g/cmである。

II:単結晶形多元正極材料の製造
S1、ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体P1、水酸化リチウム、酸化カルシウムを[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Li):n(Ca)=1:1.05:0.008の割合で高速混合機にて均一に混合し、混合物Iを得た。
S2、酸素ガス雰囲気中で、混合物Iに対して第1高温焼結を850℃で8h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、D503.2μmの正極材料中間品Iを得た。
S3、酸素ガス雰囲気中で、正極材料中間品Iに対して第2高温焼結を900℃で8h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、D50が3.2μmであり、一次粒子が互いに独立している正極材料中間品IIを得た。第2高温焼結の温度は第1高温焼結の温度よりも50℃高い。
S4、正極材料中間品II、酸化マグネシウムを[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Mg)=1:0.012の割合で高速混合機にて均一に混合し、混合物IIを得た。
S5、酸素ガス雰囲気中で、混合物IIに対して第3高温焼結を750℃で10h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、単結晶形多元正極材料A1を得た。その組成はLi1.05(La0.01Ca0.008Ni0.8Co0.1Mn0.1)Mg0.012である。正極材料A1の特性パラメータは表1に示される。
図1は実施例1で製造された正極材料中間品IのSEM像であり、図1から、正極材料中間品Iが凝集型化合物であることが分かる。図2は実施例1で製造された正極材料中間品IIのSEM像であり、図2から、正極材料中間品IIが単結晶形化合物であることが分かる。図3は単結晶形多元正極材料A1のSEM像であり、図3から、正極材料A1が表面被覆層を有する単結晶形化合物であることが分かる。
【0095】
実施例2
I:ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体の製造
(1)硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを原料として、Ni:Co:Mn=80:10:10のモル比で2mol/Lの均一なニッケル・コバルト・マンガン塩混合溶液を調製し、0.2mol/LのCe(SO溶液を調製し、8mol/LのKOH溶液を沈殿剤として調製し、25wt%のアンモニア水をそのまま錯化剤として使用した。
(2)窒素保護下で、上記溶液を合流方式で反応釜に投入し、[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Ce)=1:0.015、撹拌回転速度を200rpmに制御し、反応温度を55℃、pH値を12.3、合流時間を20hとして、20h老化し、固液混合スラリーを得た。
(3)前記固液混合スラリーについて洗浄と加圧ろ過を行い、110℃の温度で5.5hベークすると、D50が4μmのドーパントCeを含むニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体P2を得た。該前駆体は球状又は略球状の単一粒子であり、多孔質の構造を持ち、かさ密度が0.73g/cm、タップ密度が1.35g/cmである。

II:単結晶形多元正極材料の製造
S1、ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体、水酸化リチウム、酸化ストロンチウムを[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Li):n(Sr)=1:1.05:0.012の割合で高速混合機にて均一に混合し、混合物IIを得た。
S2、酸素ガス雰囲気中で、混合物Iに対して第1高温焼結を840℃で4h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、D503.1μmの正極材料中間品Iを得た。
S3、酸素ガス雰囲気中で、正極材料中間品Iに対して第2高温焼結を900℃で5h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、D50が3.0μmであり、一次粒子が互いに独立している正極材料中間品IIを得た。第2高温焼結の温度は第1高温焼結の温度よりも60℃高い。
S4、正極材料中間品II、シリカを[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Si)=1:0.01の割合で高速混合機にて均一に混合し、混合物IIを得た。
S5、酸素ガス雰囲気中で、混合物IIに対して第3高温焼結を720℃で10h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、単結晶形多元正極材料A2を得た。その組成はLi1.05(Ce0.015Sr0.012Ni0.8Co0.1Mn0.1)Si0.01である。正極材料A2の特性パラメータは表1に示される。
【0096】
実施例3
I:ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体の製造
(1)硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを原料として、Ni:Co:Mn=80:10:10のモル比で2mol/Lの均一なニッケル・コバルト・マンガン塩混合溶液を調製し、0.2mol/LのEr(NO溶液を調製し、8mol/LのNaOH溶液を沈殿剤として調製し、25wt%のアンモニア水をそのまま錯化剤として使用した。
(2)窒素保護下で、上記溶液を合流方式で反応釜に投入し、[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Er)=1:0.015、撹拌回転速度を200rpmに制御し、反応温度を56℃、pH値を12.4、合流時間を24hとして、20h老化し、固液混合スラリーを得た。
(3)前記固液混合スラリーについて洗浄と加圧ろ過を行い、120℃の温度で6hベークすると、D50が3.9μmのドーパントErを含むニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体P3を得た。該前駆体は球状又は略球状の単一粒子であり、多孔質の構造を持ち、かさ密度が0.71g/cm、タップ密度が1.33g/cmである。

II:単結晶形多元正極材料の製造
S1、ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体P3、水酸化リチウム、酸化ホウ素を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Li):n(B)=1:1.04:0.009の割合で高速混合機にて均一に混合し、混合物Iを得た。
S2、酸素ガス雰囲気中で、混合物Iに対して第1高温焼結を860℃で10h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、D503.8μmの正極材料中間品Iを得た。
S3、酸素ガス雰囲気中で、正極材料中間品Iに対して第2高温焼結を900℃で15h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、D50が3.7μmであり、一次粒子が互いに独立している正極材料中間品IIを得た。第2高温焼結の温度は第1高温焼結の温度よりも40℃高い。
S4、正極材料中間品II、酸化タングステンを[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(W)=1:0.01の割合で高速混合機にて均一に混合し、混合物IIを得た。
S5、空気雰囲気中で、混合物IIに対して第3高温焼結を780℃で6h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、単結晶形多元正極材料A3を得た。その組成は、Li1.04(Er0.0150.009Ni0.8Co0.1Mn0.1)W0.01である。正極材料A3の特性パラメータは表1に示される。
【0097】
実施例4
I:ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体の製造
(1)硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを原料として、Ni:Co:Mn=50:20:30のモル比で2mol/Lの均一なニッケル・コバルト・マンガン塩混合溶液を調製し、0.2mol/LのCr(SO溶液を調製し、8mol/LのNaOH溶液を沈殿剤として調製し、25wt%のアンモニア水をそのまま錯化剤として使用した。
(2)窒素保護下で、上記溶液を合流方式で反応釜に投入し、[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Cr)=1:0.005、撹拌回転速度を200rpmに制御し、反応温度を52℃、pH値を12.3、合流時間を19hとして、20h老化し、固液混合スラリーを得た。
(3)固液混合スラリーについて洗浄と加圧ろ過を行い、100℃の温度で7hベークすると、D50が4.1μmのドーパントCrを含むニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体P4を得た。該前駆体は球状又は略球状の単一粒子であり、多孔質の構造を持ち、かさ密度が0.70g/cm、タップ密度が1.31g/cmである。

II:単結晶形多元正極材料の製造
S1、ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体P4、炭酸リチウム、フッ化アルミニウムを[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Li):n(Al)=1:1.05:0.01の割合で高速混合機にて均一に混合し、混合物Iを得た。
S2、空気雰囲気中で、混合物Iに対して第1高温焼結を960℃で10h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、D503.4μmの正極材料中間品Iを得た。
S3、空気雰囲気中で、正極材料中間品Iに対して第2高温焼結を980℃で12h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、D50が3.3μmであり、一次粒子が互いに独立している正極材料中間品IIを得た。第2高温焼結の温度は第1高温焼結の温度よりも20℃高い。
S4、正極材料中間品II、酸化ジルコニウムを[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Zr)=1:0.015の割合で高速混合機にて均一に混合し、混合物IIを得た。
S5、空気雰囲気中で、混合物IIに対して第3高温焼結を820℃で9h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、単結晶形多元正極材料A4を得た。その組成は、Li1.05(Cr0.005Al0.01Ni0.5Co0.2Mn0.3)Zr0.015である。正極材料A4の特性パラメータは表1に示される。
【0098】
実施例5
I:ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体の製造
(1)硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを原料として、Ni:Co:Mn=95:3:2のモル比で2mol/Lの均一なニッケル・コバルト・マンガン塩混合溶液を調製し、0.2mol/LのY(NO溶液を調製し、8mol/LのNaOH溶液を沈殿剤として調製し、25wt%のアンモニア水をそのまま錯化剤として使用した。
(2)窒素保護下で、上記溶液を合流方式で反応釜に投入し、[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Y)=1:0.012、撹拌回転速度を200rpmに制御し、反応温度を55℃、pH値を12.3、合流時間を28hとして、20h老化し、固液混合スラリーを得た。
(3)固液混合スラリーについて洗浄と加圧ろ過を行い、120℃の温度で6hベークすると、D50が4μmのニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体P5を得た。該前駆体は球状又は略球状の単一粒子であり、多孔質の構造を持ち、かさ密度が0.71g/cm、タップ密度が1.32g/cmである。

II:単結晶形多元正極材料の製造
S1、ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体P5、水酸化リチウム、酸化亜鉛を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Li):n(Zn)=1:1.08:0.014の割合で高速混合機にて均一に混合し、混合物Iを得た。
S2、酸素ガス雰囲気中で、混合物Iに対して第1高温焼結を700℃で5h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、D503.9μmの正極材料中間品Iを得た。
S3、酸素ガス雰囲気中で、正極材料中間品Iに対して第2高温焼結を800℃で10h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、D50が4μmであり、一次粒子が互いに独立している正極材料中間品IIを得た。第2高温焼結の温度は第1高温焼結の温度よりも100℃高い。
S4、正極材料中間品II、酸化モリブデンを[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Mo)=1:0.008の割合で高速混合機にて均一に混合し、混合物IIを得た。
S5、酸素ガス雰囲気中で、混合物IIに対して第3高温焼結を600℃で10h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、単結晶形多元正極材料A5を得た。その組成は、Li1.080.012Zn0.014Ni0.95Co0.03Mn0.02)Mo0.008である。正極材料A5の特性パラメータは表1に示される。
【0099】
実施例6
I:ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体の製造
(1)硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを原料として、Ni:Co:Mn=80:10:10のモル比で2mol/Lの均一なニッケル・コバルト・マンガン塩混合溶液を調製し、8mol/LのNaOH溶液を沈殿剤として調製し、25wt%のアンモニア水をそのまま錯化剤として使用した。
(2)窒素保護下で、上記溶液を合流方式で反応釜に投入し、撹拌回転速度を200rpm、反応温度を55℃、pH値を12.3、合流時間を23hとして、20h老化し、固液混合スラリーを得た。
(3)前記固液混合スラリーについて加圧ろ過と洗浄を行い、120℃の温度で5hベークすると、D50が3.2μmのニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体P6を得た。該前駆体は球状又は略球状の単一粒子であり、多孔質の構造を持ち、かさ密度が0.71g/cm、タップ密度が1.33g/cmである。

II:単結晶形多元正極材料の製造
S1、ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体P6、水酸化リチウムを[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Li)=1:1.05の割合で高速混合機にて均一に混合し、混合物Iを得た。
S2、酸素ガス雰囲気中で、混合物Iに対して第1高温焼結を850℃で8h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、D503.1μmの正極材料中間品Iを得た。
S3、酸素ガス雰囲気中で、正極材料中間品Iに対して第2高温焼結を900℃で8h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、D50が3.3μmであり、一次粒子が互いに独立している正極材料中間品IIを得た。第2高温焼結の温度は第1高温焼結の温度よりも50℃高い。
S4、酸素ガス雰囲気中で、混合物IIに対して第3高温焼結を750℃で10h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、単結晶形多元正極材料A6を得た。その組成はLi1.05(Ni0.8Co0.1Mn0.1)Oである。正極材料A6の特性パラメータは表1に示される。
【0100】
実施例7
第2高温焼結の温度を変更せず、第2高温焼結の温度が第1高温焼結の温度よりも130℃高くなるように第1高温焼結温度を調整した以外、実施例1の方法と同様にして単結晶形多元正極材料を製造した。
単結晶形多元正極材料A7を製造し、その特性パラメータを表1に示す。
【0101】
実施例8
第2高温焼結の温度を変更せず、第2高温焼結の温度が第1高温焼結の温度よりも180℃高くなるように第1高温焼結温度を調整した以外、実施例1の方法と同様にして単結晶形多元正極材料を製造した。
単結晶形多元正極材料A8を製造し、その特性パラメータを表1に示す。
【0102】
実施例9
第2高温焼結の温度を変更せず、第2高温焼結の温度が第1高温焼結の温度よりも10℃高くなるように第1高温焼結温度を調整した以外、実施例1の方法と同様にして単結晶形多元正極材料を製造した。
単結晶形多元正極材料A9を製造し、その特性パラメータを表1に示す。
【0103】
実施例10
第2高温焼結の温度を変更せず、第2高温焼結の温度が第1高温焼結の温度よりも400℃高くなるように第1高温焼結温度を調整した以外、実施例1の方法と同様にして単結晶形多元正極材料を製造した。
単結晶形多元正極材料A10を製造し、その特性パラメータを表1に示す。
【0104】
実施例11
第2高温焼結の温度を変更せず、第2高温焼結の温度が第1高温焼結の温度よりも50℃低くなるように第1高温焼結温度を調整した以外、実施例1の方法と同様にして単結晶形多元正極材料を製造した。
単結晶形多元正極材料A11を製造し、その特性パラメータを表1に示す。
【0105】
実施例12
I:ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体の製造
(1)硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを原料として、Ni:Co:Mn=80:10:10のモル比で2mol/Lの均一なニッケル・コバルト・マンガン塩混合溶液を調製し、0.2mol/LのLa(SO溶液を調製し、8mol/LのNaOH溶液を沈殿剤として調製し、25wt%のアンモニア水をそのまま錯化剤として使用した。
(2)窒素保護下で、上記溶液を合流方式で反応釜に投入し、[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(La)=1:0.05、撹拌回転速度を200rpmに制御し、反応温度を55℃、pH値を12.3、合流時間を23hとして、20h老化し、固液混合スラリーを得た。
(3)前記固液混合スラリーについて加圧ろ過と洗浄を行い、120℃の温度で5hベークすると、D50が3.1μmのドーパントLaを含むニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体P1を得た。該前駆体は球状又は略球状の単一粒子であり、多孔質の構造を持ち、かさ密度が0.72g/cm、タップ密度が1.34g/cmである。

II:単結晶形多元正極材料の製造
S1、ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体P1、水酸化リチウム、酸化カルシウムを[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Li):n(Ca)=1:1.1:0.05の割合で高速混合機にて均一に混合し、混合物Iを得た。
S2、酸素ガス雰囲気中で、混合物Iに対して第1高温焼結を700℃で8h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、D503.2μmの正極材料中間品Iを得た。
S3、酸素ガス雰囲気中で、正極材料中間品Iに対して第2高温焼結を900℃で8h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、D50が3.2μmであり、一次粒子が互いに独立している正極材料中間品IIを得た。第2高温焼結の温度は第1高温焼結の温度よりも200℃高い。
S4、正極材料中間品II、酸化マグネシウムを[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Mg)=1:0.05の割合で高速混合機にて均一に混合し、混合物IIを得た。
S5、酸素ガス雰囲気中で、混合物IIに対して第3高温焼結を800℃で10h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、単結晶形多元正極材料A12を得た。その組成はLi1.1(La0.05Ca0.05Ni0.8Co0.1Mn0.1)Mg0.05である。正極材料A12の特性パラメータは表1に示される。
図4は実施例12で製造される正極材料中間品IのSEM像であり、図4から、正極材料中間品Iが凝集型化合物であることが分かる。図5は実施例12で製造された正極材料中間品IIのSEM像であり、図5から、正極材料中間品IIが単結晶形化合物であることが分かる。図6は単結晶形多元正極材料A12のSEM像であり、図6から、正極材料A12が表面被覆層を有する単結晶形化合物であることが分かる。
【0106】
比較例1
I:ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体の製造
実施例1の方法に従ってニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体を製造した。

II:単結晶形多元正極材料の製造
ステップS2を行わず、混合物Iに対して直接第2高温焼結を行った以外、実施例1の方法と同様にして単結晶形多元正極材料を製造した。単結晶形多元正極材料D1を製造した。その組成は、Li1.05(La0.01Ca0.008Ni0.8Co0.1Mn0.1)Mg0.012である。正極材料D1の特性パラメータは表1に示される。図7は正極材料D1のSEM像であり、図7から、該材料は大きさが不均一であり、凝集率が高く、単結晶化が劣ることが分かる。
【0107】
比較例2
I:ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体の製造
(1)硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを原料として、Ni:Co:Mn=50:20:30のモル比で2mol/Lの均一なニッケル・コバルト・マンガン塩混合溶液を調製し、0.2mol/LのCr(SO溶液を調製した。8mol/LのNaOH溶液を沈殿剤として調製し、25wt%のアンモニア水をそのまま錯化剤として使用した。
(2)窒素保護下で、上記溶液を合流方式で反応釜に投入し、[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Cr)=1:0.01、撹拌回転速度を200rpmに制御し、反応温度を55℃、pH値を12.3、合流時間を23hとして、20h老化し、固液混合スラリーを得た。
(3)固液混合スラリーについて洗浄と加圧ろ過を行い、100℃の温度で5hベークすると、D50が4.5μmのニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体PD2を得た。該前駆体は球状又は略球状の単一粒子であり、多孔質の構造を持ち、かさ密度が0.72g/cm、タップ密度が1.34g/cmである。

II:単結晶形多元正極材料の製造
S1、ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体PD2、水酸化リチウム、酸化アルミニウムを[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Li):n(Al)=1:1.06:0.01の割合で高速混合機にて均一に混合し、混合物Iを得た。
S2、空気雰囲気中で、混合物Iに対して第2高温焼結を980℃で12h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、D503.4μmの正極材料中間品IIを得た。
S3、正極材料中間品II、シリカを[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Zr)=1:0.01の割合で高速混合機にて均一に混合し、混合物IIを得た。
S4、空気雰囲気中で、混合物IIに対して第3高温焼結を820℃で9h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、単結晶形多元正極材料D2を得た。その組成は、Li1.06(Cr0.01Al0.01Ni0.5Co0.2Mn0.3)Zr0.01である。正極材料D2の特性パラメータは表1に示される。
【0108】
比較例3
I:ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体の製造
(1)硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを原料として、Ni:Co:Mn=95:3:2のモル比で2mol/Lの均一なニッケル・コバルト・マンガン塩混合溶液を調製し、0.2mol/LのY(NO溶液を調製した。8mol/LのNaOH溶液を沈殿剤として調製し、25wt%のアンモニア水をそのまま錯化剤として使用した。
(2)窒素保護下で、上記溶液を合流方式で反応釜に投入し、[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Y)=1:0.01、撹拌回転速度を200rpmに制御し、反応温度を55℃、pH値を12.3、合流時間を23hとして、20h老化し、固液混合スラリーを得た。
(3)固液混合スラリーについて洗浄と加圧ろ過を行い、100℃の温度で5hベークすると、D50が3.1μmのニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体PD3を得た。該前駆体は球状又は略球状の単一粒子であり、多孔質の構造を持ち、かさ密度が0.72g/cm、タップ密度が1.34g/cmである。

II:単結晶形多元正極材料の製造
S1、ニッケル・コバルト・マンガン水酸化物前駆体PD3、水酸化リチウム、酸化亜鉛を[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Li):n(Zn)=1:1.06:0.01の割合で高速混合機にて均一に混合し、混合物Iを得た。
S2、酸素ガス雰囲気中で、混合物Iに対して第2高温焼結を800℃で10h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、D503.0μmの正極材料中間品IIを得た。
S3、正極材料中間品II、酸化モリブデンを[n(Ni)+n(Co)+n(Mn)]:n(Mo)=1:0.01の割合で高速混合機にて均一に混合し、混合物IIを得た。
S4、酸素ガス雰囲気中で、混合物IIに対して第3高温焼結を600℃で7h行い、室温に自然冷却し、破砕して篩掛けし、単結晶形多元正極材料D3を得た。その組成は、Li1.06(Y0.01Zn0.01Ni0.95Co0.03Mn0.02)Mo0.01である。正極材料D3の特性パラメータは表1に示される。
【0109】
【表1】
【0110】
試験例
実施例及び比較例の正極材料を正極として、ボタン電池を製造し、具体的な製造方法は以下の通りである。
【0111】
ボタン電池の作製:
まず、非水系電解質二次電池用の複合ニッケル・コバルト・マンガン多元正極活性物質、アセチレンブラック及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を95:3:2の質量比で混合し、アルミニウム箔上に塗布してベークし、100MPaの圧力で直径12mm、厚さ120μmの正極極板に打ち抜き成形し、その後、正極極板を真空オーブンに入れて120℃で12hベークした。
負極として直径17mm、厚さ1mmのLi金属シート、セパレータとして厚さ25μmのポリエチレン多孔質フィルム、電解液として1mol/LのLiPF、炭酸エチレン(EC)及び炭酸ジエチル(DEC)の等量混合液を用いた。
正極極板、セパレータ、負極極板及び電解液を水の含有量と酸素の含有量がいずれも5ppmよりも小さいArガスグローブボックス内で組み立てて2025型ボタン電池とし、このときの電池を未活性化電池とした。
ボタン電池の電気化学的特性について試験し、試験結果を表2に示す。
【0112】
【表2】
【0113】
図8は実施例1及び比較例1の1C/1C@45℃、80サイクルの比較図であり、図8から分かるように、実施例1の容量は比較例1よりも僅かに高く、実施例1のサイクル維持率は比較例1よりも明らかに高く、しかも、サイクルの進行に伴い、実施例1の容量は安定的に低下した一方、比較例1の容量は明らかに急速に低下する傾向にある。
【0114】
実施例と比較例の結果から、以下のことが分かった。
(1)実施例1~3では、本発明の好ましい範囲内の条件を採用することにより、製造された正極材料はDPSが適切であり、B90及びHPSが小さく、このことから、単結晶が丸く、球形度が高く、サイズが均一であり、しかも凝集率が低く、容量が高く、サイクルに優れたことが示唆された。
(2)実施例7~12では、本発明の好ましい範囲内の条件を採用していないため、製造された正極材料は、単結晶化及び特性が実施例1~3より劣るが、比較例1~3よりは優れていた。
(3)比較例1~3では、本発明の製造方法が使用されておらず、その結果、得られた正極材料は特性が劣る。
【0115】
以上は本発明の好ましい実施形態を詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されない。本発明の技術的構想の範囲内で、本発明の技術案について各技術的特徴の任意の適切な組み合わせなど、様々な簡単な変形を行うことができ、これらの簡単な変形や組み合わせも本発明で開示された内容としてみなすべきであり、全て本発明の特許範囲に属する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8