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特許7398022情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20120101AFI20231206BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20231206BHJP
   G06Q 40/08 20120101ALI20231206BHJP
【FI】
G06Q50/06
G06Q10/04
G06Q40/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023075841
(22)【出願日】2023-05-01
【審査請求日】2023-05-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595140170
【氏名又は名称】東京海上日動火災保険株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】古川 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】川村 雅之
【審査官】渡邉 加寿磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-57089(JP,A)
【文献】特開2021-43764(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第115470946(CN,A)
【文献】特開2023-29017(JP,A)
【文献】特開2007-141016(JP,A)
【文献】特開2021-179693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G06F 16/00-16/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備における稼動状態値の時系列変化を示す設備稼動データを取得する取得部と、
前記設備稼動データから、評価対象期間において前記稼動状態値が異常閾値未満である異常発生期間を抽出する抽出部と、
前記異常発生期間における前記異常閾値と前記稼動状態値との差分値に基づいて、前記設備の劣化度合いを算出する算出部と、
を有し、
前記算出部は、前記異常発生期間における前記差分値の時系列変化を、前記異常発生期間で積分することで得られる値を、前記設備の劣化度合いとして算出する、
情報処理装置。
【請求項2】
前記算出部は、所定期間における前記設備稼動データから、前記稼動状態値の確率密度を算出し、
前記確率密度に対し、前記稼動状態値を所定値から最大値まで積分することで得られる累積確率が所定確率になるときの所定値を、前記異常閾値として決定する決定部、を有する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記決定部は、更新後の前記所定期間における前記設備稼動データを用いて、前記異常閾値を更新する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記設備の劣化度合い及び係数を所定の計算式に入力することで保険金支払額を算出する、保険金算出部を有する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項5】
情報処理装置が実行する情報処理方法であって、
設備における稼動状態値の時系列変化を示す設備稼動データを取得するステップと、
前記設備稼動データから、評価対象期間において前記稼動状態値が異常閾値未満である異常発生期間を抽出するステップと、
前記異常発生期間における前記異常閾値と前記稼動状態値との差分値に基づいて、前記設備の劣化度合いを算出するステップと、
を含み、
前記算出するステップは、前記異常発生期間における前記差分値の時系列変化を、前記異常発生期間で積分することで得られる値を、前記設備の劣化度合いとして算出する、
情報処理方法。
【請求項6】
設備における稼動状態値の時系列変化を示す設備稼動データを取得するステップと、
前記設備稼動データから、評価対象期間において前記稼動状態値が異常閾値未満である異常発生期間を抽出するステップと、
前記異常発生期間における前記異常閾値と前記稼動状態値との差分値に基づいて、前記設備の劣化度合いを算出するステップと、
をコンピュータに実行させ
前記算出するステップは、前記異常発生期間における前記差分値の時系列変化を、前記異常発生期間で積分することで得られる値を、前記設備の劣化度合いとして算出する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みが活性化している。例えば特許文献1には、電力部門の脱素化を実現するため、再生可能エネルギー等の非化石電源から発電された、二酸化炭素を排出しない電力を用いる電気炉が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2023-007360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カーボンニュートラルの実現に向けて、極力二酸化炭素を排出しないように設計された設備を利用することで、排出する二酸化炭素の量を削減することができる。しかしながら、導入した設備は徐々に劣化することから、時間の経過と共に、当初の性能を発揮することができなくなることが考えられる。そのため、設備がどの程度劣化しているのかを定量的に評価可能な仕組みが望まれている。なお、このような課題は、脱素を目的とする設備に限られず、どのような設備にも生じ得る。
【0005】
そこで、本発明は、設備の劣化度合いを定量的に把握することを可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る情報処理装置は、設備における稼動状態値の時系列変化を示す設備稼動データを取得する取得部と、前記設備稼動データから、評価対象期間において前記稼動状態値が異常閾値未満である異常発生期間を抽出する抽出部と、前記異常発生期間における前記異常閾値と前記稼動状態値との差分値に基づいて、前記設備の劣化度合いを算出する算出部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、設備の劣化度合いを定量的に把握することを可能とする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る管理システムの一例を示す図である。
図2】設備の設備稼動データの一例を説明するための図である。
図3】異常閾値の決定方法の一例を示す図である。
図4】情報処理装置のハードウェア構成例を示す図である。
図5】情報処理装置の機能ブロック構成例を示す図である。
図6】情報処理装置が異常閾値を決定及び更新する処理手順の一例を示すフローチャートである。
図7】情報処理装置が設備の劣化度合いを算出する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0010】
<システム構成>
図1は、本実施形態に係る管理システム1の一例を示す図である。管理システム1は、情報処理装置10と1以上の設備20を含む。情報処理装置10と設備20は、無線又は有線の通信ネットワークを介して接続され、相互に通信を行うことが可能であってもよい。
【0011】
情報処理装置10は、設備20の稼動状態を管理する装置である。設備20は、稼動することで何らかの能力を発揮する機械設備であり、土地及び建物のように稼動しない設備は含まれない。設備20の一例としては、脱炭素社会の実現及びカーボンニュートラルの実現に資する機器及び装置等が挙げられる。具体的には、太陽光発電設備、LNG(Liquefied Natural Gas)使用ボイラー、バイオマス燃料製造装置等が挙げられる。太陽光発電装置は、二酸化炭素を排出せずに発電をすることが可能である。LNG使用ボイラーは、重油等を利用するボイラーと比較して二酸化炭素の排出量を削減することができる。バイオマス燃料製造装置は、バイオマス燃料を製造することでバイオマス燃料の利用を促進することから、カーボンニュートラルの実現に貢献することができる。
【0012】
なお、本実施形態に係る設備20は、必ずしも脱炭素社会の実現及びカーボンニュートラルの実現に資する機器及び装置に限られない。設備20は、稼動状態を数値で表すこと可能な設備であれば、どのような設備20であってもよい。
【0013】
設備20の稼動状態とは、設備20が稼動することで所定の能力を発揮している状態を意味する。本実施形態では、設備20の稼動状態を数値で表現する。本実施形態では、設備20が発揮している能力を示す値を「稼動状態値」と言う。稼動状態値は、設備20が発揮可能な最大の能力を100%として、パーセントで表現されてもよい。また、パーセントに限定されず、絶対値で表現されてもよい。例えば、太陽光発電設備の場合、稼動状態値は、発電量(例えばW)で表現されてもよいし、最大発電能力に対するある時点の発電量の割合(例えば30%など)で表現されてもよい。また、バイオマス燃料製造装置の場合、稼動状態値は、所定時間における生産量(例えばXkg/日)で表現されてもよいし、最大生産能力に対するある時点の生産量の割合(例えば90%など)で表現されてもよい。
【0014】
図2は、設備20の設備稼動データの一例を説明するための図である。設備稼動データは、稼動状態値の時系列変化を表すデータである。図2のAに示すグラフの縦軸は稼動状態値(図2の例ではパーセント)を表しており、横軸は時間を表している。設備稼動データは、多数のサンプル(1つのサンプルは、稼動状態値とタイムスタンプのペア)から構成されていてもよい。t4~t5の期間は、設備点検等により意図的に設備20を停止させていた期間を示す。意図的に設備20を停止させていた期間を表す情報は、例えば、設備20の管理者等により情報処理装置10に入力されてもよい。
【0015】
ここで、異常閾値は、設備20の稼動状態値が異常であることを判定するための閾値である。本実施形態では、稼動状態値が異常閾値未満である場合、設備20に異常が生じていると判断する。一方、稼動状態値が異常閾値以上である場合、設備20は正常であると判断する。異常閾値は、管理者等によって予め定められてもよいし、所定の決定方法により決定されてもよい。異常閾値を決定する方法については後述する。設備稼動データのうちt1~t3の期間は、稼動状態値が異常閾値未満である。つまり、設備稼動データのうちt1~t3の期間は、設備20において何らかの異常が生じていたことを表している。
【0016】
図2のBに示す確率密度関数f(x)は、所定期間(例えば、1か月前から現在まで等)における稼動状態値のうち、意図的に設備20を停止させていた期間を除いた期間の稼動状態値についての確率密度分布を示す。確率密度関数f(x)の形状は、設備20によって異なる。例えば、常時フル稼動しているような設備20であれば、稼動状態値が常に100%に近い値を示すことから、確率密度関数f(x)の形状は図2のBに示すような形状になることが想定される。一方、平均すると50%程度で稼動しているが、時期に応じて稼動量を上下させるような設備20である場合、確率密度関数f(x)の形状は正規分布に近くなることが想定される。確率密度分布は、例えば、設備稼動データに含まれるサンプルの個数を、稼動状態値ごとにカウントすることでヒストグラムを作成し、作成したヒストグラムをグラフ化することで求めるようにしてもよい。
【0017】
また、本実施形態において、稼動状態値が異常閾値未満である場合、異常閾値から稼動状態値を減算した値を「異常度」と言う。つまり、時刻tにおける異常度(t)は、異常度(t)=異常閾値-稼動状態値(t)の式で計算することができる。図2のAに示す異常度の大きさは、時刻(t2)における異常度を示している。異常度は、設備20が異常閾値から稼動状態値を減算した値であることから、値が大きいほど、設備20に生じた異常の程度が大きいことを示す。
【0018】
図3は、異常閾値の決定方法の一例を示す図である。例えば、異常閾値は、稼動状態値の確率密度関数f(x)に対し、稼動状態値xの値を所定値から最大値まで積分することで得られる累積確率(つまり、上側確率)が所定確率になるときの当該所定値を、異常閾値とするようにしてもよい。例えば、図3の例では稼動状態値を所定値から最大値まで積分することで得られる累積確率が95%になる場合(つまり、図3のグラフ内部の右部分の面積が95%になる場合)の稼動状態値x1を、異常閾値として決定している。なお、所定確率は95%に限定されない。例えば、80%でもよいし、99%としてもよい。
【0019】
また、本実施形態では、設備20の劣化を評価する期間(以下、「評価対象期間」という。)のうち、稼動状態値が異常閾値未満であった期間について異常値を積分した値を「設備の劣化度合い」と定義する。具体的には、設備の劣化度合いは以下の式(1)により算出することができる。
【数1】
式(1)において、ts及びteは、それぞれ、異常開始時間及び異常終了時間に対応する。もし、評価対象期間において、稼動状態値が異常である期間が複数存在する場合、設備の劣化度合いは、期間ごとに式(1)を用いて求めた値を合計した値になる。式(1)を用いて設備の劣化度合いを算出することで、異常が発生する頻度が多いほど、及び、異常度の値が大きいほど(つまり異常時における稼動状態値が小さいほど)、設備20の劣化が進んでいることを表現することができる。
【0020】
例えば、直近1年間における設備20の劣化を評価したい場合(つまり、評価対象期間を直近1年間とした場合)、1年前から現在までの期間において、稼動状態値が異常閾値未満であった期間について異常値を積分することで、直近1年間における「設備の劣化度合い」を算出することができる。また、2年前から1年前までの期間における設備20の劣化を評価したい場合(つまり、評価対象期間を2年前から1年前までとした場合)、2年前から1年前までの期間において、稼動状態値が異常閾値未満であった期間を異常値で積分することで、2年前から1年前までの期間における「設備の劣化度合い」を算出することができる。このように、異なる評価対象期間における「設備の劣化度合い」を比較することで、設備20の劣化がどの程度進んだのかを把握することが可能になる。また、機械学習技術を用いて、複数の評価対象期間を対象とした「設備の劣化度合い」の変化の傾向を分析することで、未来における「設備の劣化度合い」を推定することも可能になる。
【0021】
また、情報処理装置10は、保険金の算出に関する機能を備えていてもよい。情報処理装置10が保険金を算出する保険の一例として、例えば、設備20が劣化したことを保険の対象とする保険が考えられる。例えば、情報処理装置10は、設備の劣化度合いに基づいて、被保険者に支払うべき保険金の額を算出するようにしてもよい。通常、損害保険には、免責事由として設備20の劣化等が明記されているから、保険金支払いの対象になっていなかった。しかしながら、本実施形態によれば、設備20における設備の劣化度合いを算出できることから、設備20の劣化を対象とした保険を提供することが可能になる。
【0022】
<ハードウェア構成>
図4は、情報処理装置10のハードウェア構成例を示す図である。情報処理装置10は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphical Processing Unit)等のプロセッサ11、メモリ(例えばRAM又はROM)、HDD(Hard Disk Drive)及び/又はSSD(Solid State Drive)等の記憶装置12、有線又は無線通信を行うネットワークIF(Network Interface)13、入力操作を受け付ける入力装置14、及び情報の出力を行う出力装置15を有する。入力装置14は、例えば、キーボード、タッチパネル、マウス及び/又はマイク等である。出力装置15は、例えば、ディスプレイ、タッチパネル及び/又はスピーカ等である。
【0023】
情報処理装置10は、1又は複数の物理的なサーバから構成されていてもよいし、ハイパーバイザー(hypervisor)上で動作する仮想的なサーバを用いて構成されていてもよいし、クラウドサーバを用いて構成されていてもよい。
【0024】
<機能ブロック構成>
図5は、情報処理装置10の機能ブロック構成例を示す図である。情報処理装置10は、記憶部100と、取得部101と、抽出部102と、算出部103と、決定部104と、保険金算出部105とを含む。記憶部100は、情報処理装置10が備える記憶装置12を用いて実現することができる。また、取得部101と、抽出部102と、算出部103と、決定部104と、保険金算出部105とは、情報処理装置10のプロセッサ11が、記憶装置12に記憶されたプログラムを実行することにより実現することができる。また、記憶部100は、記憶装置12により実現することができる。また、当該プログラムは、記憶媒体に格納することができる。当該プログラムを格納した記憶媒体は、コンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体(Non-transitory computer readable medium)であってもよい。非一時的な記憶媒体は特に限定されないが、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ又はCD-ROM(Compact Disc Read-Only Memory)等の記憶媒体であってもよい。
【0025】
記憶部100は、設備稼動DB(Data Base)100aを記憶する。設備稼動DB100aは、設備20ごとの設備稼動データを格納するデータベースである。
【0026】
取得部101は、設備稼動DB100aから、設備20における稼動状態値の時系列変化を示す設備稼動データを取得する。
【0027】
抽出部102は、取得部101で取得した設備稼動データから、評価対象期間において稼動状態値が異常閾値未満である期間(異常発生期間)を抽出する。例えば、抽出部102は、図2のAに示す設備稼動データから異常発生期間を抽出する場合、異常発生期間として、t1~t3の期間を抽出する。
【0028】
算出部103は、異常発生期間における異常閾値と稼動状態値との差分値(すなわち異常度)に基づいて、設備の劣化度合いを算出する。
【0029】
また、算出部103は、所定期間における設備稼動データから、稼動状態値の確率密度分布(確率密度)を生成する。
【0030】
決定部104は、算出部103で算出された確率密度分布に対し、稼動状態値を所定値から最大値まで積分することで得られる累積確率が所定確率になるときの所定値を、異常閾値として決定する。また、決定部104は、更新後の所定期間における設備稼動データを用いて、異常閾値を更新するようにしてもよい。
【0031】
保険金算出部105は、設備の劣化度合いに基づいて保険金支払額を算出する。
【0032】
<処理手順>
(異常閾値の決定)
図6は、情報処理装置10が異常閾値を決定及び更新する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0033】
ステップS100で、取得部101は、設備稼動DB100aにアクセスし、所定期間における設備20の設備稼動データを取得する。所定期間は、過去から現在までの期間内で設定されていれば、期間の長さは任意である。所定期間は、設備20の劣化速度に応じて設定されてもよい。例えば、高負荷で稼動するために劣化が激しいような設備20であれば、異常閾値の更新頻度は多いことが好ましい。したがって、所定期間は短い期間(例えば過去1か月や過去1週間など)に設定されてもよい。一方、それほど劣化しないような設備20であれば、異常閾値の更新頻度を多くする必要性は低いと考えられる。したがって、所定期間は長い期間(例えば過去半年や過去1年など)に設定されてもよい。
【0034】
ステップS101で、算出部103は、ステップS100で取得された設備稼動データのうち意図的に設備20を停止させていた期間を除く期間の設備稼動データから、確率密度分布を生成する。確率密度分布を生成することは、確率密度関数f(x)を求めることと同義である。確率密度分布は、例えば既存のライブラリ等を利用することで生成するようにしてもよい。また、確率密度分布は、前述した通り、設備稼動データに含まれるサンプルの個数を、稼動状態値ごとにカウントすることで生成するようにしてもよい。
【0035】
ステップS102で、決定部104は、ステップS101で算出された確率密度分布に対し、上側確率が所定確率になるときの稼動状態値を、異常閾値として決定する。所定確率は任意であるが、例えば、80%、95%、99%などに設定することが考えられる。なお、所定確率は、設備20の種類等に応じて定められていてもよい。
【0036】
なお、確率密度分布が正規分布で近似可能である場合、決定部104は、マハラノビス距離を用いて異常閾値を決定するようにしてもよい。具体的には、確率密度分布におけるマハラノビス距離が所定の負の値(例えば上側確率が95%になることに対応する-1.96)になる位置に対応する稼動状態値を、異常閾値とするようにしてもよい。
【0037】
(異常閾値の更新)
続いて、情報処理装置10が異常閾値を更新する際の処理手順について説明する。設備20は、メンテナンス等により処理能力の改善が図られること、設備更改により新たな装置に更新されること、及び、処理能力を向上させるために設備増強等が行われることがある。このような場合、過去に算出された確率密度分布に基づく異常閾値を使用すると、設備20の異常を正しく判断することが困難になる可能性がある。そこで、情報処理装置10は、確率密度分布を更新するとともに、更新後の確率密度分布を用いて異常閾値を更新する。
【0038】
確率密度分布及び異常閾値の更新は、図6に示す処理手順を所定周期で繰り返すことで行われてもよい。つまり、情報処理装置10の取得部101は、ステップS100の処理手順で、再度、設備稼動DB100aにアクセスして所定期間における設備20の設備稼動データ(つまり更新後の設備稼動データ)を取得するようにしてもよい。また、算出部103は、ステップS101の処理手順で、更新後の設備稼動データを用いて確率密度分布を更新するようにしてもよい。また、決定部104は、ステップS102の処理手順で、更新後の確率密度に基づいて、異常閾値を更新するようにしてもよい。
【0039】
例えば、情報処理装置10は、最初に「1月1日~1月31日」の設備稼動データを用いて異常閾値を決定したとする。この場合、情報処理装置10は、1か月後に、「2月1日~2月28日」の設備稼動データを用いて異常閾値を決定する処理を行うことで、異常閾値を更新するようにしてもよい。以降、情報処理装置10は、1か月ごとに、直近1か月の設備稼動データを用いて異常閾値を決定する処理を繰り返すことで、異常閾値の更新を繰り返すようにしてもよい。これにより、例えば4月に設備更改が行われたとしても、情報処理装置10は、6月に、「5月1日~5月31日」の設備稼動データを用いて異常閾値を決定することで、異常閾値を、設備更改後の設備20状態を反映させた値に更新することが可能になる。
【0040】
なお、情報処理装置10は、ステップS100及びステップS101の処理手順において、ベイズ更新を利用して、確率密度分布を更新するようにしてもよい。式(2)は、ベイズ更新を表す一般的な式である。
【数2】
【0041】
もし、確率密度分布が正規分布である場合、算出部103は、更新後の確率密度分布における平均及び分散を、それぞれ、以下の式(3)及び式(4)で算出するようにしてもよい。
【数3】
【数4】
なお、平均η及び分散τ2は、それぞれ、更新前の確率密度分布の平均及び分散である。また、サンプル数nは、ステップS100の処理手順で得られた更新後の設備稼動データに含まれるサンプル数である。平均m及び分散σ2は、それぞれ、更新後の設備稼動データに含まれる各サンプルの稼動状態値の平均及び分散である。ベイズ更新を用いた場合、更新前の確率密度分布及び更新後の確率密度分布の両方が考慮された確率密度分布を生成することができる。
【0042】
(設備の劣化度合いの算出)
図7は、情報処理装置10が設備の劣化度合いを算出する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0043】
ステップS200で、算出部103は、評価対象期間において、稼動状態値が異常閾値未満である期間(異常発生期間)が存在するか否かを判定する。異常発生期間が存在しない場合は処理を終了し、存在する場合はステップS201の処理手順に進む。
【0044】
ステップS201で、算出部103は、異常発生期間における異常度に基づいて、設備の劣化度合いを算出する。より具体的には、算出部103は、異常発生期間における異常度の時系列変化を、異常発生期間で積分することで得られる値を、設備の劣化度合いとして算出する。
【0045】
例えば、評価対象期間が「1月1日~1月31日」であるとする。また、1月5日10時~11時の間、及び、1月20日8時~10時までの間、稼動状態値が異常閾値未満であったとする。この場合、算出部103は、1月5日10時~11時について異常度(t)を積分した値、及び、1月20日8時~10時について異常度(t)を積分した値を合算した値を、設備の劣化度合いとする。
【0046】
<保険金の算出>
保険金算出部105は、設備の劣化度合いに基づいて保険金支払額を算出する。例えば、保険金算出部105は、以下の式(5)に基づいて、設備20の劣化を補償する保険についての保険金支払額を算出するようにしてもよい。
保険金支払額=設備の劣化度合い×係数 ・・・(5)
係数は、例えば、設備20の種類、機種、導入年月日等に基づいて予め決定された値であってもよい。
【0047】
また、保険金算出部105は、以下の式(6)に基づいて、設備20の故障を補償する保険についての保険金支払額を算出するようにしてもよい。また、式(6)に代入する「設備のメーカ公表性能」の値及び「設備の劣化度合い」の値は、正規化された値としてもよい。式(6)を用いることで、保険金支払額は、設備20が劣化するほど減ることになる。
保険金支払額=(「設備のメーカ公表性能」-「設備の劣化度合い」)×係数 ・・・ (6)
【0048】
<まとめ>
以上説明した実施形態によれば、情報処理装置10は、評価対象期間における稼動状態値のうち、異常閾値未満の稼動状態値を積分した値を、設備の劣化度合いとして定義するようにした。これにより、徐々に進んでいく設備20の劣化度合いを定量的に把握することが可能になる。
【0049】
また、情報処理装置10は、異常閾値を用いて、設備20の稼動状態が異常であるか否かを識別するようにした。通常、設備20が稼動している間、稼動状態値は一定にはならず、ある程度の変動(ブレ)が生じることが一般的である。本実施形態では、設備20の稼動状態が異常閾値未満にならない限り、設備20は正常に動作していると判断するようにしたことで、設備20が正常動作している場合における稼動状態のブレを、誤って異常と判断してしまうことを排除することが可能になる。
【0050】
また、情報処理装置10は、新たに収集された最新の設備稼動データを用いて、設備20の稼動状態値の確率密度分布を更新し、更新した確率密度分布に基づいて異常閾値を更新するようにした。設備20は、メンテナンス等により処理能力の改善が図られたり、設備更改により新たな装置に更新されたり、及び、処理能力を向上させるために設備増強等が行われたりすることがある。このような場合であっても、異常閾値をより適正な値に更新することが可能になる。
【0051】
従来の保険商品は、設備故障や事故の有無を確認した上で、保険金の支払い可否及び保険金支払額を決定していたことから、保険金の支払いに時間を要していた。一方、本発明の実施形態としての一例として保険を考えた場合、設備の劣化度合いに応じた異常な劣化に対して保険金支払額を決定することが可能になる。そのため、従来よりも設備故障や事故の有無を確認する必要性が低下し、保険金支払額の決定を迅速に行うことが可能になる。
【0052】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態で説明したフローチャート、シーケンス、実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 管理システム、10 情報処理装置、11 プロセッサ、12 記憶装置、13 ネットワークIF(Network Interface)、14 入力装置、15 出力装置、20 設備、101 取得部、102 抽出部、103 算出部、104 決定部、105 保険金算出部
【要約】
【課題】設備の劣化度合いを定量的に把握すること。
【解決手段】設備における稼動状態値の時系列変化を示す設備稼動データを取得する取得部と、前記設備稼動データから、評価対象期間において前記稼動状態値が異常閾値未満である異常発生期間を抽出する抽出部と、前記異常発生期間における前記異常閾値と前記稼動状態値との差分値に基づいて、前記設備の劣化度合いを算出する算出部と、を有する、情報処理装置。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7