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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】躯体の撤去方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/08 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
E04G23/08 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023146871
(22)【出願日】2023-09-11
【審査請求日】2023-09-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新原 正臣
(72)【発明者】
【氏名】松本 尚
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-70309(JP,A)
【文献】特開2021-59894(JP,A)
【文献】特開2015-183498(JP,A)
【文献】特開2010-240990(JP,A)
【文献】特開2007-255081(JP,A)
【文献】特開2004-270295(JP,A)
【文献】米国特許第4832411(US,A)
【文献】中国特許出願公開第111395799(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/00-23/08
B28D 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
躯体の撤去方法であって、
前記躯体を撤去する撤去範囲を決定する第1工程と、
前記撤去範囲の下端部に、一部が互いに重なるように複数の水平孔を前記撤去範囲の幅方向に順次穿孔する第2工程と、
前記撤去範囲の背面部における前記撤去範囲の幅方向両端に、鉛直方向に延び、かつ、前記複数の水平孔のうち両端の前記水平孔それぞれに連通する一対の鉛直孔を上方から下方に向かって穿孔する第3工程と、
前記鉛直孔及び当該鉛直孔に連通する前記水平孔に亘ってワイヤーソーを設置し、当該ワイヤーソーによって前記撤去範囲の両側面部を切断する第4工程と、
前記一対の鉛直孔及び前記複数の水平孔に亘ってワイヤーソーを設置し、当該ワイヤーソーによって前記撤去範囲の前記背面部を切断する第5工程と、を含む躯体の撤去方法。
【請求項2】
請求項1に記載された躯体の撤去方法であって、
前記第3工程を行う前に、前記鉛直孔に交差する位置まで延びる水抜き用の水抜き孔を穿孔する第6工程をさらに含み、
前記第3工程では、前記鉛直孔をウォータージェットを用いた穿孔機によって穿孔する躯体の撤去方法。
【請求項3】
請求項1に記載された躯体の撤去方法であって、
前記躯体の前記撤去範囲を切断したときに当該切断した部分の転倒を防止するための転倒防止部材を設置する第7工程をさらに含む躯体の撤去方法。
【請求項4】
請求項1に記載された躯体の撤去方法であって、
前記躯体は、山留壁に隣接した鉄筋コンクリート壁であり、
前記鉛直孔は、前記鉄筋コンクリート壁における前記山留壁と前記鉄筋コンクリート壁の境界近傍に穿孔される躯体の撤去方法。
【請求項5】
請求項1に記載された躯体の撤去方法であって、
前記複数の水平孔の一部に前記撤去範囲を切断した際に落下することを防止する下がりずれ防止材を設置する第8工程をさらに含み、
前記下がりずれ防止材は、前記水平孔を穿孔することにより生じたコアガラである躯体の撤去方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、躯体の撤去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、山留壁と鉄筋コンクリート壁とを一体化してなる合成地下壁を備えた構造物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-62745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された構造体の鉄筋コンクリート壁を、例えば、ブレーカを備えた重機を用いて撤去しようとすると、近隣への騒音や振動が問題となるおそれがある。これに対し、鉄筋コンクリート壁を、打撃工具を用いて人力によって撤去しようとすると、多大な作業時間が必要となる。
【0005】
本発明は、騒音及び振動を抑制しつつ、効率的に躯体を撤去することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、躯体の撤去方法であって、躯体を撤去する撤去範囲を決定する第1工程と、撤去範囲の下端部に、一部が互いに重なるように複数の水平孔を撤去範囲の幅方向に順次穿孔する第2工程と、撤去範囲の背面部における撤去範囲の幅方向両端に、鉛直方向に延び、かつ、複数の水平孔のうち両端の水平孔それぞれに連通する一対の鉛直孔を上方から下方に向かって穿孔する第3工程と、鉛直孔及び当該鉛直孔に連通する水平孔に亘ってワイヤーソーを設置し、当該ワイヤーソーによって撤去範囲の両側面部を切断する第4工程と、一対の鉛直孔及び複数の水平孔に亘ってワイヤーソーを設置し、当該ワイヤーソーによって撤去範囲の背面部を切断する第5工程と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ワイヤーソーによって躯体を切断するため、騒音及び振動を抑制しつつ、効率的に躯体を撤去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る構造物の概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る躯体の撤去方法の流れを示すフローチャートである。
図3】本発明の実施形態に係る躯体の撤去方法におけるステップS1での作業を説明するための図である。
図4】本発明の実施形態に係る躯体の撤去方法におけるステップS2での作業を説明するための図である。
図5】本発明の実施形態に係る躯体の撤去方法におけるステップS3での作業を説明するための図である。
図6】本発明の実施形態に係る躯体の撤去方法におけるステップS4での作業を説明するための図である。
図7】本発明の実施形態に係る躯体の撤去方法におけるステップS5での作業を説明するための図である。
図8】本発明の実施形態に係る躯体の撤去方法におけるステップS6での作業を説明するための図である。
図9】本発明の実施形態に係る躯体の撤去方法におけるステップS7での作業を説明するための図である。
図10】本発明の実施形態に係る躯体の撤去方法におけるステップS8での作業を説明するための図である。
図11】本発明の実施形態に係る躯体の撤去方法の変形例を説明するための図である。
図12】本発明の実施形態に係る躯体の撤去方法の変形例を説明するための図である。
図13】本発明の実施形態に係る躯体の撤去方法の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る躯体の撤去方法について説明する。
【0010】
本発明の実施形態に係る躯体の撤去方法は、例えば、既設の構造物100の一部を撤去する場合に用いられる。具体的には、既設の構造物100の地下部分における山留壁1に一体的に接合された鉄筋コンクリート壁2を撤去する場合に用いられる。
【0011】
構造物100の改修、あるいは再建築などを行う際には、山留壁1を撤去せずにそのまま使用することがある。この場合には、山留壁1を残しつつ、鉄筋コンクリート壁2のみを撤去することになる。
【0012】
始めに、図1を参照して構造物100の構造について、簡単に説明する。
【0013】
図1に示すように、構造物100は、地下部分と地上部分とを有する鉄筋コンクリート製の構造体である。構造物100の地下部分には、地盤を掘削するときに周りの地盤が崩れることを防止する山留壁1が設けられている。
【0014】
本実施形態の山留壁1は、親杭横矢板工法によって形成される。具体的には、山留壁1は、一定の間隔で地中に打ち込まれた複数の親杭と、隣り合う親杭の間に並んで嵌め込まれた複数の横矢板と、によって構成される。親杭は、H形鋼,I形鋼,レールなどによって構成され、横矢板は、木製の板材によって構成される。なお、山留壁1は、これに限らず、鋼矢板工法、鋼管矢板工法、ソイルセメント連続壁(SMW)工法、あるいは、地中連続壁工法等によって形成されるものであってもよい。
【0015】
山留壁1の内側には、鉄筋コンクリート壁2が一体に形成される。山留壁1の親杭には、シアコネクタ(例えば、頭付きスタッド)が設けられており、このシアコネクタによって、鉄筋コンクリート壁2が山留壁1から剥離することが防止される。
【0016】
次に、図2から図13を参照して、鉄筋コンクリート壁2(躯体)の撤去方法について、具体的に説明する。図2は、撤去作業の工程を示すフローチャートである。また、図3から図13では、山留壁1の親杭10のみ図示し、横矢板の図示を省略している。
【0017】
ステップS1では、撤去する撤去範囲Rを決定する。ここでいう撤去範囲Rとは、必ずしも、撤去する鉄筋コンクリート壁2の全体を意味するものではなく、1回の撤去作業で切り離す鉄筋コンクリート壁2の範囲を意味する。図3に示す例では、鉄筋コンクリート壁2のうち点線で囲まれた範囲が撤去範囲Rに該当する。なお、このステップS1における作業が、特許請求の範囲の「第1工程」に相当する。
【0018】
ステップS2では、複数の水平孔31を穿孔する。具体的には、撤去範囲Rの下端部に、一部が互いに重なるようにして複数の水平孔31を撤去範囲Rの幅方向に順次穿孔する(図4参照)。これにより、撤去範囲Rの下端部が切り離される。なお、このステップS2における作業が、特許請求の範囲の「第2工程」に相当する。
【0019】
ステップS3では、下がりずれ防止材33を設置する。本実施形態では、撤去範囲Rを切断した際(撤去範囲Rを鉄筋コンクリート壁2の他の領域から完全に切り離した際)に、撤去範囲Rの鉄筋コンクリート壁2が落下する(ずれ落ちる)ことを防止するために、複数の水平孔31の一部に下がりずれ防止材33を設置する。下がりずれ防止材33には、例えば、水平孔31を穿孔した際に生じたコアガラが用いられる。コアガラを水平孔31内に詰め込むことで、撤去範囲Rの鉄筋コンクリート壁2が落下する(ずれ落ちる)ことを防止できる。下がりずれ防止材33は、切断された鉄筋コンクリート壁2を下端側から支持できる強度を有していれば、どのような材料で形成されていてもよい。なお、このステップS3における作業が、特許請求の範囲の「第8工程」に相当する。
【0020】
ステップS4では、水抜き孔35を穿孔する(図6参照)。具体的には、撤去範囲Rの正面部(山留壁1と反対側に位置する面)から後述する鉛直孔32に交差する位置まで延びる水抜き用の水抜き孔35を穿孔する。図6に示す例では、1つの鉛直孔32に対して、水抜き孔35を鉛直方向に2つ設けているが、水抜き孔35の個数は、必要に応じて適宜設定できる。また、水抜き孔35が不要であれば、水抜き孔35を設けなくてもよい。なお、このステップS4における作業が、特許請求の範囲の「第6工程」に相当する。
【0021】
ステップS5では、一対の鉛直孔32を穿孔する(図7参照)。具体的には、撤去範囲Rの背面部(山留壁1側の側面)における撤去範囲Rの幅方向両端それぞれに、鉛直方向に延びるように、かつ、複数の水平孔31のうち両端の水平孔31それぞれに連通するようにして鉛直孔32を穿孔する。一対の鉛直孔32は、鉄筋コンクリート壁2における山留壁1と鉄筋コンクリート壁2の境界近傍に穿孔される。本実施形態では、鉛直孔32は、ウォータージェットを用いた穿孔機によって上方から下方に向かって穿孔することにより形成される。鉛直孔32を穿孔している際に発生する濁水は、水抜き孔35を通じて外部に排出される。なお、このステップS5における作業が、特許請求の範囲の「第3工程」に相当する。
【0022】
ステップS6では、撤去範囲Rの両側面部を切断する(図8参照)。具体的には、まず、一方の鉛直孔32と、この一方の鉛直孔32に連通する水平孔31と、に亘ってワイヤーソー40を設置する。次いで、ワイヤーソー40の駆動装置(図示せず)を作動させて設置したワイヤーソー40のワイヤー41を回転させることによって、撤去範囲Rの側面部を切断する。この作業を撤去範囲Rの他方側(他方の鉛直孔32)に対しても行う。なお、このステップS6における作業が、特許請求の範囲の「第4工程」に相当する。
【0023】
ステップS7では、転倒防止部材50を設置する(図9参照)。転倒防止部材50は、例えば、金属製のプレートによって形成され、撤去範囲Rを完全に切断したときに、撤去範囲R(切断された部分)が転倒することを防止する。転倒防止部材50は、撤去範囲Rと構造物100(図9に示す例では、鉄筋コンクリート壁2の残存部分)とに跨るようにボルト止めされる。なお、このステップS7における作業が、特許請求の範囲の「第7工程」に相当する。
【0024】
ステップS8では、撤去範囲Rの背面部を切断する。具体的には、まず、一対の鉛直孔32及び複数の水平孔31に亘ってワイヤーソー40を設置する。より具体的には、撤去範囲Rの上部から、一方の鉛直孔32、複数の水平孔31(撤去範囲Rの下端部)、及び他方の鉛直孔32にワイヤーソー40を挿通する。次いで、駆動装置(図示せず)を作動させて設置したワイヤーソー40のワイヤー41を回転させることによって、撤去範囲Rの背面部を切断する。これにより、撤去範囲Rが鉄筋コンクリート壁2から完全に切り離される(図10参照)。なお、このステップS8における作業が、特許請求の範囲の「第5工程」に相当する。このようにして切り離された鉄筋コンクリート壁2(撤去範囲R)は、フォークリフトやクレーンなどにより搬出される。以降は、これらの作業を順次繰り返し行う。
【0025】
なお、上記実施形態では、撤去範囲Rが、鉄筋コンクリート壁2の上端部から下端部(床に接続する部分)を含むように設定されている場合を例に示している。しかしながら、これに限らず、撤去範囲Rは、鉄筋コンクリート壁2のどのような部分において設定してもよい。具体的には、例えば、運搬上の理由により、撤去範囲Rを小さく設定する必要がある場合には、図11に示すように、鉛直方向(上下方向)及び幅方向において、撤去範囲Rを複数に分けて設定してもよい。この場合には、上下方向の撤去範囲Rは、複数の水平孔31を穿孔することによって切り離される。また、このように複数の撤去範囲Rを設定した場合には、例えば、図11に示す3段に亘る全ての水平孔31の穿孔作業を終えてから、次の工程に移るようにする。これにより、個々の撤去範囲R毎に撤去作業を行う場合に比べて、作業効率が向上する。なお、図11に示す例では、鉛直孔32は、鉛直方向に並ぶ複数の水平孔31が交差することになる。これにより、これらの水平孔31が水抜き孔35として機能するので、別途水抜き孔35を設けなくてもよい。
【0026】
なお、図11のように複数の撤去範囲Rを設定した場合であっても、個々の撤去範囲R毎に撤去作業を行う、より具体的には、1つの撤去範囲Rの鉄筋コンクリート壁2を図2に示す工程によって撤去した後、次の撤去範囲Rの鉄筋コンクリート壁2を撤去することは、もちろん可能である。また、図11のように複数の撤去範囲Rを設定した場合において、設定した複数の撤去範囲Rのうちの一部(例えば、鉛直方向の一列、あるいは、幅方向の一列)を同時に撤去するようにしてもよい。
【0027】
撤去範囲Rを設定する際に、構造物100の地上部分が残存している場合には、撤去範囲Rから地下の柱や梁に相当する部分(構造フレーム)を除外することが好ましい。理由としては、柱や梁に相当する部分は、構造物100の地上部分を支持しており、この部分を撤去してしまうと、予期せぬ大地震等が発生した際に、地上部分を安全に支持出来なくなるおそれがあるからである。したがって、構造物100の地上部分が残存している場合には、まず、地下部分においては、壁に相当する部分を撤去する。そして、柱や梁に相当する部分については、地上部分の撤去が完了した後に撤去する。
【0028】
また、図12に示すように、鉄筋コンクリート壁2が厚い場合には、撤去範囲Rを厚さ方向に複数(図12に示す例では、撤去範囲R1、R2の2つ)に設定するようにしてもよい。この場合には、鉛直孔32は、鉄筋コンクリート壁2における山留壁1と鉄筋コンクリート壁2の境界近傍だけでなく、撤去範囲R1と撤去範囲R2との境界の両端近傍にも穿孔される。そして、撤去範囲R1と撤去範囲R2との境界の両端近傍に穿孔された鉛直孔32にワイヤーソー40のワイヤー41を挿通して、撤去範囲R1と撤去範囲R2とを切断する。
【0029】
また、図12に示す例では、山留壁1と鉄筋コンクリート壁2の境界近傍の鉛直孔32を、撤去範囲R1の鉄筋コンクリート壁2を撤去した後に穿孔するようにしてもよい。なお、図12に示す例では、撤去範囲R1及び撤去範囲R2に穿孔される水平孔31及び水抜き孔35については、一体の孔をして形成することが好ましい。これにより、穿孔に係る作業時間を短縮することができる。
【0030】
上記実施形態では、撤去する躯体として、山留壁1に一体的に構築された鉄筋コンクリート壁2を例に説明した。しかしながら、本実施形態の撤去方法は、例えば、上述のような厚みのある鉄筋コンクリート壁2を撤去する場合や、コンクリート製の擁壁などを撤去する場合に適用することもできる。
【0031】
また、上記実施形態における撤去作業の手順は、適宜入れ替えることが可能である。例えば、水抜き孔35を穿孔する工程(ステップS4)をステップS2やステップS3の前に行ってもよい。また、鉛直孔32を水平孔31より前に穿設してもよい。この場合には、ステップS4及びステップS5に係る工程がステップS2及びステップS3の前に行われる。また、下がりずれ防止材33を設置(ステップS3)は、ステップS4やステップS5の後に行ってもよい。
【0032】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0033】
本実施形態の躯体の撤去方法では、鉄筋コンクリート壁2をワイヤーソー40によって切断している。これにより、鉄筋コンクリート壁2をブレーカを備えた重機を用いて撤去する場合に比べ、騒音や振動の発生を抑制できる。また、鉄筋コンクリート壁2を打撃工具を用いて人力によって撤去しようとする場合に比べ、作業時間を大幅に短縮できる。つまり、本実施形態の躯体の撤去方法によれば、ワイヤーソー40によって鉄筋コンクリート壁2(躯体)を切断しているので、騒音及び振動を抑制しつつ、効率的に躯体を撤去することができる。
【0034】
また、本実施形態の躯体の撤去方法では、ウォータージェットを用いた穿孔機によって鉛直孔32を穿孔しているので、鉛直孔32の穿孔時の振動や騒音を低減することができる。
【0035】
通常のコア穿孔機を用いて一定以上の長さの孔を穿孔する場合には、ロッドを延長しながら穿孔する必要がある。これに対し、本実施形態の躯体の撤去方法では、ウォータージェットを用いた穿孔機を用いて鉛直孔32を先行しているので、このようなロッドの延長作業が不要となり、作業効率が向上する。
【0036】
さらに、本実施形態の躯体の撤去方法では、水抜き孔35を設けているので、鉛直孔32の穿孔中に発生する濁水の処理を容易にすることができる。
【0037】
本実施形態の躯体の撤去方法では、撤去範囲Rを切断する際に、下がりずれ防止材33を設置している。これにより、撤去範囲Rを切断した際に、切断した部分の落下を防止することができ、作業者の安全性を確保することができる。さらに、本実施形態の躯体の撤去方法では、下がりずれ防止材33を水平孔31を穿孔することにより生じたコアガラで形成している。これにより、下がりずれ防止材33の製作や搬送が必要ないので、コストの上昇を抑制できる。
【0038】
また、本実施形態の躯体の撤去方法では、撤去範囲Rを切断する際に、転倒防止部材50を設置している。これにより、撤去範囲Rを切断したときに切断した部分の転倒を防止することができ、作業者の安全性を確保することができる。
【0039】
本実施形態の躯体の撤去方法では、構造物100の地下部分における山留壁1に一体的に接合された鉄筋コンクリート壁2を撤去する際に、鉛直孔32を鉄筋コンクリート壁2における山留壁1と鉄筋コンクリート壁2の境界近傍に穿孔している。この鉛直孔32を利用してワイヤーソー40によって鉄筋コンクリート壁2を切断することで、鉄筋コンクリート壁2を山留壁1との境界近傍で切断することができる。つまり、本実施形態の躯体の撤去方法では、鉛直孔32を鉄筋コンクリート壁2における山留壁1と鉄筋コンクリート壁2の境界近傍に穿孔しているので、鉄筋コンクリート壁2を山留壁1との境界近傍で切断することができ、鉄筋コンクリート壁2を効率よく撤去できる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0041】
上記実施形態では、構造物100が鉄筋コンクリート造(RC造)である場合を例に説明したが、上記撤去方法は、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)である場合にも適用できる。なお、この場合には、例えば撤去範囲Rに梁を含む場合、鉛直孔32を梁内部の鉄骨を避けた位置に設ける必要がある。これは、ウォータージェットを用いた穿孔機では、鉄骨の穿孔が出来ないためである。
【0042】
また、上記実施形態(図9に示す実施例)では、撤去範囲Rの背面部を切断する際に、ワイヤーソー40の駆動装置を撤去範囲Rの上部に設ける場合を例に説明したが、撤去範囲Rの上部にワイヤーソー40の駆動装置を設けるスペースがない場合には、変換プーリーなどを用いることにより、駆動装置の設置位置をずらすようにしてもよい。例えば、撤去範囲Rの横にスペースがある場合には、ワイヤーソー40の駆動装置を撤去範囲Rの横に設置してもよい。
【0043】
さらに、図13に示すように、撤去範囲Rが存在する階(地下部分)と上の階(地上部分)とで壁位置がずれている場合に、鉛直孔32を、撤去範囲Rが存在する階(地下部分)の上の階(地上部分)の床部分から穿孔し、ワイヤーソー40の駆動装置を上の階(地上部分)に設置して、撤去範囲Rの背面部を切断するようにしてもよい。なお、図13に示す例では、撤去範囲Rの上端部(梁下部分)にも、撤去範囲Rの下端部と同様に、一部が互いに重なるように複数の水平孔31を穿孔して、撤去範囲Rの上端部を切断している。このような方法を採用することにより、撤去範囲Rの直上にスペースが存在しない場合であっても、撤去範囲Rを切断することが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
100・・・構造物
1 ・・・山留壁
2 ・・・鉄筋コンクリート壁(躯体)
10 ・・・親杭
31 ・・・水平孔
32 ・・・鉛直孔
33 ・・・下がりずれ防止材
35 ・・・水抜き孔
40 ・・・ワイヤーソー
41 ・・・ワイヤー
50 ・・・転倒防止部材
R ・・・撤去範囲
R1 ・・・撤去範囲
R2 ・・・撤去範囲


【要約】
【課題】騒音及び振動を抑制しつつ、効率的に躯体を撤去する。
【解決手段】躯体の撤去方法であって、躯体を撤去する撤去範囲Rを決定する第1工程と、撤去範囲Rの下端部に、一部が互いに重なるように複数の水平孔31を撤去範囲Rの幅方向に順次穿孔する第2工程と、撤去範囲Rの背面部における撤去範囲Rの幅方向両端に、鉛直方向に延び、かつ、複数の水平孔31のうち両端の水平孔31それぞれに連通する一対の鉛直孔32を上方から下方に向かって穿孔する第3工程と、鉛直孔32及び当該鉛直孔32に連通する水平孔31に亘ってワイヤーソー40を設置し、当該ワイヤーソー40によって撤去範囲Rの両側面部を切断する第4工程と、一対の鉛直孔32及び複数の水平孔31に亘ってワイヤーソー40を設置し、当該ワイヤーソー40によって撤去範囲Rの背面部を切断する第5工程と、を含む。
【選択図】図9
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13