(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/20 20060101AFI20231206BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20231206BHJP
F17C 1/16 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C08G59/20
C08J5/24 CFC
F17C1/16
(21)【出願番号】P 2023545992
(86)(22)【出願日】2023-05-16
(86)【国際出願番号】 JP2023018273
【審査請求日】2023-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2022093342
(32)【優先日】2022-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若原 大暉
(72)【発明者】
【氏名】大西 展義
(72)【発明者】
【氏名】池内 孝介
(72)【発明者】
【氏名】岡田 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】松本 信彦
(72)【発明者】
【氏名】印南 亨
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-533643(JP,A)
【文献】特開2020-138989(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057561(WO,A1)
【文献】特開2012-063015(JP,A)
【文献】国際公開第2021/200028(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08L 63/00-63/10
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、及びエポキシ樹脂硬化剤(B)を含有するエポキシ樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂(A)が、エポキシ樹脂(A1)とエポキシ樹脂(A2)を含み、
前記エポキシ樹脂(A1)が、レゾルシノールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂であり、
前記エポキシ樹脂(A2)が、ビスフェノールFから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a21)、ビスフェノールAから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a22)、ノボラックフェノールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a23)、トリフェニルメタン型フェノールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a24)、ナフタレン骨格を有するポリオールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a25)、及びアミノグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a26)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記エポキシ樹脂硬化剤(B)が、レゾルシノール(B1
)を含み、
エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)の合計量を100質量%としたときのエポキシ樹脂硬化剤(B)の含有量が7~60質量%である、エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂硬化剤(B)が、エポキシ樹脂硬化剤(B3)を更に含み、
前記エポキシ樹脂硬化剤(B3)が、レゾルシノール(B1)以外のフェノール系硬化剤(b31)、及びジヒドラジド系硬化剤(b32)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記レゾルシノール(B1)以外のフェノール系硬化剤(b31)が、ビスフェノールF、ビスフェノールA、ノボラックフェノール、及びトリフェニルメタン型フェノールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂(A)に含まれるエポキシ樹脂(A1)とエポキシ樹脂(A2)の質量比[(A1)/(A2)]が、1/99~90/10である、請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂(A)に含まれるエポキシ樹脂(A1)とエポキシ樹脂(A2)の質量比[(A1)/(A2)]が、20/80~90/10である、請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
硬化促進剤(C)を更に含み、
前記硬化促進剤(C)が、イミダゾール類、第3級アミン類、及びリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
応力緩和成分(D)を更に含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂組成物の硬化物の23℃での水素ガス透過係数が8.4×10
-11[cc・cm/(cm
2・s・cmHg)]以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させたプリプレグ。
【請求項11】
前記強化繊維が炭素繊維、ガラス繊維、及びバサルト繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項
10に記載のプリプレグ。
【請求項12】
トウプリプレグである、請求項
10に記載のプリプレグ。
【請求項13】
前記プリプレグがUDテープである、請求項
10に記載のプリプレグ。
【請求項14】
請求項
10に記載のプリプレグの硬化物である、繊維強化複合材。
【請求項15】
請求項
14に記載の繊維強化複合材を含む、高圧ガス容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物及びその硬化物、プリプレグ、繊維強化複合材、並びに、該繊維強化複合材を含む高圧ガス容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に配慮した天然ガス自動車(CNG車)や燃料電池自動車(FCV)の普及が進んでいる。燃料電池自動車は燃料電池を動力源としており、その燃料となる水素を高圧に圧縮して自動車に充填する水素ステーションの整備が不可欠である。
燃料電池自動車用の水素ステーション、あるいは、CNG車、燃料電池自動車等の車載用燃料タンクとして用いられる高圧ガス貯蔵タンクとして、これまで鋼製のタンクが使用されてきたが、タンクのライナーあるいはその外層に樹脂材料を用いた、より軽量な高圧ガス貯蔵タンクの開発が進められてきている。車載用燃料タンクを軽量化することにより、搭載車の燃費を改善できるなどのメリットがある。
【0003】
高圧ガス貯蔵タンクを構成する樹脂材料として、ガスバリア性を有する樹脂、及び、該樹脂を強化繊維に含浸させた繊維強化複合材(FRP)を用いることが知られている。例えば特許文献1には、ライナーと、該ライナーの外層とを有し、外層が強化繊維及びマトリクス樹脂を含む複合材料から構成される圧力容器の製造方法として、フィラメントワインディング法やテープワインディング法を採用して、ライナーの外周に複合材料を巻き付けて外層を成形することが開示されている。
【0004】
複合材料におけるマトリクス樹脂が熱可塑性樹脂ではなく熱硬化性樹脂の硬化物である場合も、同様にワインディング法を採用できる。この場合は、連続強化繊維束に熱硬化性樹脂を含浸させたもの(トウプリプレグ)をライナーの外周に巻き付け、次いで加熱硬化させて成形する。
マトリクス樹脂としてエポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグも知られている。例えば特許文献2には、エポキシ樹脂、分子内にエポキシ基と反応する活性水素を1個有する官能基を2個有する化合物、及び硬化剤を含んでなるエポキシ樹脂組成物、該エポキシ樹脂組成物が強化繊維に含浸されてなるプリプレグ及び繊維強化複合材料が開示されている。
【0005】
また、ガスバリア性を有する熱硬化性樹脂組成物として、例えば特許文献3には、電気部品のための酸素バリア組成物として、メタ置換芳香族樹脂、ならびに追加の芳香族エポキシ樹脂を含んでなり、所定値以下の酸素透過性を有する組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/084475号
【文献】特開2002-284852号公報
【文献】特表2012-533643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱硬化性樹脂組成物を強化繊維糸に含浸させたトウプリプレグの作製においては、例えば、熱硬化性樹脂組成物を貯留した樹脂槽に強化繊維糸を浸漬させることにより熱硬化性樹脂組成物を含浸させる方法が採られる。フィラメントワインディング法やテープワインディング法を採用した圧力容器の製造においても同様の工程が行われる。
しかしながら上記方法において、熱硬化性樹脂組成物が高粘度であると強化繊維糸中に十分に熱硬化性樹脂組成物を含浸させることができず、更に脱泡が困難であるという問題があった。また、ポットライフ及びシェルフライフが短い熱硬化性樹脂組成物は、保存中、あるいは製造工程中(例えば樹脂槽に貯留している間)に硬化してしまうため適用できないという問題があった。また、熱硬化性樹脂組成物の硬化が速すぎると硬化時に発熱して、得られる成形体にコゲが発生するなどの不具合が生じることがある。
加えて、燃料電池自動車用の水素ステーション、あるいは、CNG車、燃料電池自動車等の車載用燃料タンク等、水素ガス貯蔵用の高圧ガス容器においては、水素ガスに対する高いバリア性が要求される。しかしながら特許文献1~3に開示された熱硬化性樹脂組成物を用いても前記問題に対しては不十分であった。
【0008】
そこで、本発明の課題は、ポットライフが長く、低粘度であることからフィラメントワインディング成形、レジントランスファーモールド成形、トウプレグ作製に適しており、またシェルフライフも長く、成形時のコゲの発生も少なく、かつ高い水素ガスバリア性を達成できるエポキシ樹脂組成物及びその硬化物、該エポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグ、繊維強化複合材及び高圧ガス容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、主剤エポキシ樹脂として、2種の特定のエポキシ樹脂を用い、更にエポキシ樹脂硬化剤としてレゾルシノール、又はレゾルシノール、エポキシ樹脂及び硬化促進剤との事前反応生成物を所定量含有するエポキシ樹脂組成物が上記課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は、下記に関する。
[1]エポキシ樹脂(A)、及びエポキシ樹脂硬化剤(B)を含有するエポキシ樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂(A)が、エポキシ樹脂(A1)とエポキシ樹脂(A2)を含み、前記エポキシ樹脂(A1)が、レゾルシノールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂であり、前記エポキシ樹脂(A2)が、ビスフェノールFから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a21)、ビスフェノールAから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a22)、ノボラックフェノールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a23)、トリフェニルメタン型フェノールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a24)、ナフタレン骨格を有するポリオールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a25)、及びアミノグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a26)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記エポキシ樹脂硬化剤(B)が、レゾルシノール(B1)、並びにレゾルシノール(B1)、前記エポキシ樹脂(A)及び硬化促進剤(C)の事前反応生成物(B2)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、前記事前反応生成物(B2)は、前記レゾルシノール(B1)100質量部に対して、前記エポキシ樹脂(A)を1~40質量部、硬化促進剤(C)を0.01~5質量部反応させて得られる反応生成物であり、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)の合計量を100質量%としたときのエポキシ樹脂硬化剤(B)の含有量が7~60質量%である、エポキシ樹脂組成物。
[2]前記エポキシ樹脂硬化剤(B)が、エポキシ樹脂硬化剤(B3)を更に含み、前記エポキシ樹脂硬化剤(B3)が、レゾルシノール(B1)以外のフェノール系硬化剤(b31)、及びジヒドラジド系硬化剤(b32)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記[1]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[3]前記レゾルシノール(B1)以外のフェノール系硬化剤(b31)が、ビスフェノールF、ビスフェノールA、ノボラックフェノール、及びトリフェニルメタン型フェノールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記[2]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[4]前記エポキシ樹脂(A)に含まれるエポキシ樹脂(A1)とエポキシ樹脂(A2)の質量比[(A1)/(A2)]が、1/99~90/10である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
[5]前記エポキシ樹脂(A)に含まれるエポキシ樹脂(A1)とエポキシ樹脂(A2)の質量比[(A1)/(A2)]が、20/80~90/10である、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
[6]前記エポキシ樹脂硬化剤(B)に含まれるレゾルシノール(B1)と事前反応生成物(B2)の合計量とエポキシ樹脂硬化剤(B3)の質量比[((B1)+(B2))/(B3)]が、8/92~100/0である、上記[2]~[5]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
[7]硬化促進剤(C)を更に含み、前記硬化促進剤(C)が、イミダゾール類、第3級アミン類、及びリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記[1]~[6]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
[8]応力緩和成分(D)を更に含む、上記[1]~[7]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
[9]前記エポキシ樹脂組成物の硬化物の水素ガス透過係数が8.4×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下である、上記[1]~[8]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
[10]上記[1]~[9]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物。
[11]上記[1]~[9]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させたプリプレグ。
[12]前記強化繊維が炭素繊維、ガラス繊維、及びバサルト繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記[11]に記載のプリプレグ。
[13]トウプリプレグである、上記[11]又は[12]に記載のプリプレグ。
[14]前記プリプレグがUDテープである、上記[11]又は[12]に記載のプリプレグ。
[15]上記[10]~[14]のいずれか1項に記載のプリプレグの硬化物である、繊維強化複合材。
[16]上記[15]に記載の繊維強化複合材を含む、高圧ガス容器。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポットライフが長く、低粘度であることからフィラメントワインディング成形、レジントランスファーモールド成形、トウプレグ作製に適しており、またシェルフライフも長く、成形時のコゲの発生も少なく、かつ高い水素ガスバリア性を達成できるエポキシ樹脂組成物及びその硬化物、該エポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグ、繊維強化複合材及び高圧ガス容器を提供することができる。該高圧ガス容器は高い水素ガスバリア性を有し、高圧水素ガス貯蔵用の容器として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[エポキシ樹脂組成物]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、及びエポキシ樹脂硬化剤(B)を含有するエポキシ樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂(A)が、エポキシ樹脂(A1)とエポキシ樹脂(A2)を含み、
前記エポキシ樹脂(A1)が、レゾルシノールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂であり、
前記エポキシ樹脂(A2)が、ビスフェノールFから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a21)、ビスフェノールAから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a22)、ノボラックフェノールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a23)、トリフェニルメタン型フェノールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a24)、ナフタレン骨格を有するポリオールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a25)、及びアミノグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a26)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記エポキシ樹脂硬化剤(B)が、レゾルシノール(B1)、並びにレゾルシノール(B1)、前記エポキシ樹脂(A)及び硬化促進剤(C)の事前反応生成物(B2)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、前記事前反応生成物(B2)は、前記レゾルシノール(B1)100質量部に対して、前記エポキシ樹脂(A)を1~40質量部、硬化促進剤(C)を0.01~5質量部反応させて得られる反応生成物であり、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂硬化剤(B)の含有量が7~60質量%である、エポキシ樹脂組成物である。
本発明のエポキシ樹脂組成物は上記構成を有することにより、ポットライフが長く、低粘度であり、シェルフライフも長く、成形時のコゲの発生も少なく、かつ高い水素ガスバリア性を達成できる。
【0012】
本発明において上記効果が得られる理由については定かではないが、次のように考えられる。
レゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂(A1)(以下、単に「エポキシ樹脂(A1)」又は「成分(A1)」ともいう。)は、エポキシ樹脂の中でも速硬化性であり、且つ、高い水素ガスバリア性を発現することが本発明者らにより見出された。
一方でエポキシ樹脂(A1)はエポキシ当量が低く、速硬化性であることから、加熱硬化時にエポキシ樹脂硬化剤と急激に反応して発熱しやすいという傾向がある。そのため、エポキシ樹脂中のエポキシ樹脂(A1)の含有量が多すぎると、加熱成形する際に変色やコゲが発生するという不具合が生じることが判明した。また、得られるエポキシ樹脂組成物のポットライフ及びシェルフライフが短くなり、トウプリプレグの作製、及び、フィラメントワインディング法等を採用した高圧ガス容器の製造に適さないという問題もあった。
【0013】
ここで、ビスフェノールFから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂などのエポキシ樹脂(A2)(以下、単に「エポキシ樹脂(A2)」又は「成分(A2)」ともいう。)は、エポキシ樹脂の中でも比較的水素ガスバリア性を発現しやすく、さらに、エポキシ樹脂(A1)と比較して加熱硬化時の発熱も抑えることができる。
さらに本発明では、エポキシ樹脂硬化剤としてレゾルシノール(B1)、又はレゾルシノール(B1)、前記エポキシ樹脂(A)及び硬化促進剤(C)の事前反応生成物(B2)を用いることにより、低粘度化することができるとともに、水素ガスバリア性を損なわずに、ポットライフ及びシェルフライフを向上させることができると考えられる。
【0014】
<エポキシ樹脂(A)>
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いるエポキシ樹脂(A)は、エポキシ樹脂(A1)とエポキシ樹脂(A2)を含み、前記エポキシ樹脂(A1)が、レゾルシノールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂であり、前記エポキシ樹脂(A2)が、ビスフェノールFから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a21)、ビスフェノールAから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a22)、ノボラックフェノールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a23)、トリフェニルメタン型フェノールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a24)、ナフタレン骨格を有するポリオールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a25)、及びアミノグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a26)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。これにより、成形時のコゲの発生を抑制しつつ、高い水素ガスバリア性を達成できるエポキシ樹脂組成物が得られると考えられる。
【0015】
(エポキシ樹脂(A1))
エポキシ樹脂(A1)は、レゾルシノールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂(A)がエポキシ樹脂(A1)を含有することで、高い水素ガスバリア性を達成できるエポキシ樹脂組成物が得られる。
エポキシ樹脂(A1)は典型的にはレゾルシノールジグリシジルエーテルであり、レゾルシノールジグリシジルエーテル以外に、オリゴマーを含有していてもよい。
エポキシ樹脂(A1)としては、ナガセケムテックス株式会社製「デナコール(登録商標)EX-201」等の市販品を用いることができる。
【0016】
エポキシ樹脂(A)中のエポキシ樹脂(A1)の含有量は、好ましくは1~90質量%、より好ましくは10~90質量%であり、更に好ましくは20~90質量%であり、より更に好ましくは20~85質量%であり、より更に好ましくは20~80質量%であり、より更に好ましくは25~80質量%であり、より更に好ましくは25~75質量%であり、より更に好ましくは30~75質量%であり、より更に好ましくは40~70質量%であり、より更に好ましくは40~65質量%である。エポキシ樹脂(A)中のエポキシ樹脂(A1)の含有量が前記範囲であれば、高い水素ガスバリア性を発現しやすく、かつ成形時のコゲの発生を抑制できる。
【0017】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ樹脂(A1)のエポキシ当量は、好ましくは200g/当量以下であり、より好ましくは150g/当量以下であり、更に好ましくは120g/当量以下である。また、好ましくは90g/当量以上であり、より好ましくは100g/当量以上であり、更に好ましくは110g/当量以上である。
【0018】
(エポキシ樹脂(A2))
エポキシ樹脂(A2)は、ビスフェノールFから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a21)、ビスフェノールAから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a22)、ノボラックフェノールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a23)、トリフェニルメタン型フェノールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a24)、ナフタレン骨格を有するポリオールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a25)、及びアミノグリシジル基を有するエポキシ樹脂(a26)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。エポキシ樹脂(A2)は、1種又は2種以上を用いることができる。エポキシ樹脂(A2)を用いることで成形時のコゲの発生を抑制しつつ、高い水素ガスバリア性を達成できるエポキシ樹脂組成物が得られると考えられる。
【0019】
〔エポキシ樹脂(a21)〕
エポキシ樹脂(a21)は、ビスフェノールFから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂(a21)は典型的にはビスフェノールFジグリシジルエーテルであり、ビスフェノールFジグリシジルエーテル以外に、オリゴマーを含有していてもよい。エポキシ樹脂(a21)は、1種又は2種以上を用いることができる。
エポキシ樹脂(a21)としては、三菱ケミカル株式会社製「jER(登録商標)807」、「jER(登録商標)4005P」等の市販品を用いることができる。
【0020】
〔エポキシ樹脂(a22)〕
エポキシ樹脂(a22)は、ビスフェノールAから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂(a22)は典型的にはビスフェノールAジグリシジルエーテルであり、ビスフェノールAジグリシジルエーテル以外に、オリゴマーを含有していてもよい。エポキシ樹脂(a22)は、1種又は2種以上を用いることができる。
エポキシ樹脂(a22)としては、三菱ケミカル株式会社製「jER828」、「jER(登録商標)834」、「jER(登録商標)1001」等の市販品を用いることができる。
【0021】
〔エポキシ樹脂(a23)〕
エポキシ樹脂(a23)は、ノボラックフェノールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂(a23)は典型的にはフェノ-ルノボラック樹脂とエピクロルヒドリンを用いて合成される樹脂である。
エポキシ樹脂(a23)は、1種又は2種以上を用いることができる。
エポキシ樹脂(a23)の中でも、低粘度のエポキシ樹脂組成物を得る観点から、低分子量のエポキシ樹脂(a23)が好ましい。エポキシ樹脂(a23)の分子量は、好ましくは400~1500であり、より好ましくは400~1000であり、更に好ましくは400~900である。また、取扱い性の観点から、低粘度のエポキシ樹脂(a23)が好ましい。エポキシ樹脂(a23)の溶融粘度(150℃)は、好ましくは9.0Pa・s以下であり、より好ましくは6.0Pa・s以下であり、更に好ましくは3.0Pa・s以下である。
エポキシ樹脂(a23)としては、DIC株式会社製のEPICLON(登録商標)シリーズ「N730A」、「N740」、「N770」、「N775」、「N865」等の市販品を用いることができる。
【0022】
〔エポキシ樹脂(a24)〕
エポキシ樹脂(a24)は、トリフェニルメタン型フェノールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂(a24)は、1種又は2種以上を用いることができる。
エポキシ樹脂(a24)としては、DIC株式会社製のEPICLON(登録商標)シリーズ「HP7250」、「HP7241」等の市販品を用いることができる。
【0023】
〔エポキシ樹脂(a25)〕
エポキシ樹脂(a25)は、ナフタレン骨格を有するポリオールから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂である。ナフタレン骨格を有するポリオールは、ナフタレン骨格を1以上有していればよく、好ましくはナフタレン骨格を1又は2有するポリオールである。
また、該エポキシ樹脂中のグリシジルオキシ基数は、ポットライフ及びシェルフライフが長く、且つ高い水素ガスバリア性を達成できるエポキシ樹脂組成物を得る観点から、好ましくは2~4、より好ましくは2~3である。
エポキシ樹脂(a25)としては、好ましくは下記一般式(a251)又は(a252)のいずれかで示されるエポキシ樹脂が挙げられる。
【化1】
(式中、nは1~3である。)
【化2】
(式中、m1は0~2、m2は0~2であり、m1とm2の合計は0~3である。)
一般式(a251)において、nは好ましくは1又は2であり、より好ましくは1である。
一般式(a252)において、m1は好ましくは0又は1、m2は好ましくは0又は1であり、m1とm2の合計は、好ましくは0~2、より好ましくは0である。
【0024】
エポキシ樹脂(a25)としては、より詳細には、下記式(a253)~(a256)のいずれかで示されるエポキシ樹脂が挙げられる。
【化3】
【化4】
【0025】
エポキシ樹脂(a25)として、市販品を用いることもできる。例えば、DIC株式会社製のEPICLON(登録商標)シリーズ「HP-4032SS」(式(a253)で示されるエポキシ樹脂)、「HP-4700」、「HP-4710」(以上、式(a256)で示されるエポキシ樹脂)、「EXA-4750」(式(a255)で示されるエポキシ樹脂)、「HP-4770」(式(a254)で示されるエポキシ樹脂)、「HP-5000」、「HP-9900-75M」、「HP-9500」等が挙げられる。
【0026】
エポキシ樹脂(a25)は、1種又は2種以上を用いることができる。上記の中でも、ポットライフ及びシェルフライフが長く、且つ高い水素ガスバリア性を達成できるエポキシ樹脂組成物を得る観点から、エポキシ樹脂(a25)としては、前記一般式(a251)で示されるエポキシ樹脂が好ましく、上記式(a253)で示されるエポキシ樹脂がより好ましい。
【0027】
〔エポキシ樹脂(a26)〕
エポキシ樹脂(a26)は、アミノグリシジル基を有するエポキシ樹脂である。
エポキシ樹脂(a26)としては、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂(a26)は、1種又は2種以上を用いることができる。
エポキシ樹脂(a26)としては、三菱瓦斯化学株式会社製「TETRAD-X(登録商標)」(N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン)、「TETRAD(登録商標)-C」(1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン)等の市販品を用いることができる。
【0028】
エポキシ樹脂(A2)は、高い水素ガスバリア性を達成でき、低粘度であるエポキシ樹脂組成物を得る観点から、好ましくはエポキシ樹脂(a21)及びエポキシ樹脂(a23)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、より好ましくはエポキシ樹脂(a23)を含み、更に好ましくはエポキシ樹脂(a21)及びエポキシ樹脂(a23)を含む。
【0029】
エポキシ樹脂(A)中のエポキシ樹脂(A2)の含有量は、好ましくは10~99質量%であり、より好ましくは10~90質量%であり、更に好ましくは10~80質量%であり、より更に好ましくは15~80質量%であり、より更に好ましくは20~80質量%であり、より更に好ましくは25~80質量%であり、より更に好ましくは25~70質量%であり、より更に好ましくは30~60質量%であり、より更に好ましくは40~60質量%である。エポキシ樹脂(A)中のエポキシ樹脂(A2)の含有量が10質量%以上であれば、成形時のコゲの発生を抑制することができ、99質量%以下であれば、エポキシ樹脂(A1)由来の水素ガスバリア性を損なうことのないエポキシ樹脂組成物が得られる。
【0030】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ樹脂(A2)のエポキシ当量は、好ましくは1200g/当量以下であり、より好ましくは500g/当量以下であり、更に好ましくは250g/当量以下であり、より更に好ましくは220g/当量以下であり、より更に好ましくは200g/当量以下である。また、好ましくは120g/当量以上であり、より好ましくは130g/当量以上であり、更に好ましくは140g/当量以上であり、より更に好ましくは150g/当量以上であり、より更に好ましくは170g/当量以上である。
【0031】
エポキシ樹脂(A)に含まれるエポキシ樹脂(A1)とエポキシ樹脂(A2)の質量比[(A1)/(A2)]は、好ましくは1/99~90/10であり、より好ましくは10/90~90/10であり、更に好ましくは15/85~90/10であり、より更に好ましくは20/80~90/10であり、より更に好ましくは20/80~85/15であり、より更により好ましくは25/75~80/20であり、更に好ましくは30/70~75/25であり、より更に好ましくは40/60~70/30であり、より更に好ましくは40/60~65/35であり、より更に好ましくは40/60~60/40である。
【0032】
エポキシ樹脂(A)は、エポキシ樹脂(A1)及びエポキシ樹脂(A2)以外のエポキシ樹脂を含むこともできる。エポキシ樹脂(A1)及びエポキシ樹脂(A2)以外のエポキシ樹脂としては、芳香環を有さない脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。芳香環を有さない脂肪族エポキシ樹脂としては、鎖状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式構造を有する脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。
但し、高い水素ガスバリア性を発現する観点から、エポキシ樹脂(A)中のエポキシ樹脂(A1)とエポキシ樹脂(A2)の合計含有量は、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、より更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%以下である。
【0033】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、硬化性の観点から、好ましくは400g/当量以下であり、より好ましくは300g/当量以下であり、更に好ましくは250g/当量以下であり、より更に好ましくは220g/当量以下であり、より更に好ましくは200g/当量以下である。また、成形時のコゲの発生を抑制する観点から、好ましくは100g/当量以上であり、より好ましくは110g/当量以上であり、更に好ましくは120g/当量以上である。
【0034】
<エポキシ樹脂硬化剤(B)>
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いるエポキシ樹脂硬化剤(B)は、レゾルシノール(B1)、並びにレゾルシノール(B1)、前記エポキシ樹脂(A)及び硬化促進剤(C)の事前反応生成物(B2)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、前記事前反応生成物(B2)は、前記レゾルシノール(B1)100質量部に対して、前記エポキシ樹脂(A)を1~40質量部、硬化促進剤(C)を0.01~5質量部反応させて得られる反応生成物であり、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂硬化剤(B)の含有量は7~60質量%である。これにより、低粘度とすることができ、成形時の発熱を抑えるとともに、ポットライフ及びシェルフライフを向上させることができると考えられる。
【0035】
(レゾルシノール(B1)、並びにレゾルシノール(B1)、前記エポキシ樹脂(A)及び硬化促進剤(C)の事前反応生成物(B2))
本発明において、エポキシ樹脂硬化剤(B)は、レゾルシノール(B1)、並びにレゾルシノール(B1)、前記エポキシ樹脂(A)、及び硬化促進剤(C)の事前反応生成物(B2)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、これらのなかではレゾルシノール(B1)が好ましい。
レゾルシノール(B1)は、1,3-ジヒドロキシベンゼンである。
【0036】
レゾルシノール(B1)、前記エポキシ樹脂(A)及び硬化促進剤(C)の事前反応生成物(B2)は、レゾルシノール(B1)100質量部に対して、前記エポキシ樹脂(A)を1~40質量部、硬化促進剤(C)を0.01~5質量部反応させて得られる反応生成物である。
ここで、硬化促進剤(C)とは、後述の本発明のエポキシ樹脂組成物に任意に含んでもよい硬化促進剤(C)と同様である。事前反応生成物(B2)に用いられる硬化促進剤(C)としては、イミダゾール類、第3級アミン類、及びリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
イミダゾール類としては、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。
第3級アミン類としては、フェノール系硬化剤による硬化を促進し得る第3級アミン又はその塩が挙げられ、例えば、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-ノネン-5(DBN)、トリス(ジメチルアミノメチルフェノール)等が挙げられる。
リン化合物としては、トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等のホスホニウム塩が挙げられる。
レゾルシノール(B1)と反応させるエポキシ樹脂(A)の量は、レゾルシノール(B1)100質量部に対して、好ましくは1~40質量部であり、より好ましくは1~35質量部であり、更に好ましくは1~30質量部であり、より更に好ましくは1~25質量部である。
レゾルシノール(B1)と反応させる硬化促進剤(C)の量は、100質量部に対して、好ましくは0.01~5質量部であり、より好ましくは0.01~4質量部であり、更に好ましくは0.01~3質量部であり、より更に好ましくは0.01~2質量部である。
事前反応生成物(B2)の製造方法、すなわち、レゾルシノール(B1)、前記エポキシ樹脂(A)及び硬化促進剤(C)を反応させる方法としては、好ましくは0~160℃、より好ましくは0~140℃の条件下で、レゾルシノール(B1)と前記エポキシ樹脂(A)と硬化促進剤(C)を混合し、好ましくは1~24時間、より好ましくは1~15時間、成分(A)と成分(B)と硬化促進剤(C)を撹拌しながら、付加反応を行う方法が挙げられる。
【0037】
エポキシ樹脂硬化剤(B)中のレゾルシノール(B1)と、レゾルシノール(B1)、前記エポキシ樹脂(A)及び硬化促進剤(C)の事前反応生成物(B2)の合計の含有量は、低粘度とする観点、成形時の発熱を抑える観点、ポットライフ及びシェルフライフを向上させる観点から、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上であり、より更に好ましくは80質量%以上であり、より更に好ましくは85質量%以上であり、より更に好ましくは90質量%以上であり、より更に好ましくは95質量%以上であり、また、100質量%以下である。
【0038】
エポキシ樹脂硬化剤(B)は、本発明の効果を損なわない範囲で、レゾルシノール(B1)、又はレゾルシノール(B1)、前記エポキシ樹脂(A)及び硬化促進剤(C)の事前反応生成物(B2)以外のエポキシ樹脂硬化剤を含有することもできる。レゾルシノール(B1)、又はレゾルシノール(B1)、前記エポキシ樹脂(A)及び硬化促進剤(C)の事前反応生成物(B2)以外のエポキシ樹脂硬化剤としては、エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基と反応し得る活性水素を有する基を2以上有する化合物が挙げられる。該エポキシ樹脂硬化剤の種類としては、レゾルシノール(B1)以外のフェノール系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、酸無水物系硬化剤等が挙げられる。これらのなかでも、レゾルシノール(B1)以外のフェノール系硬化剤、及びヒドラジド系硬化剤が好ましい。次にこれらについて説明する。
【0039】
(エポキシ樹脂硬化剤(B3))
エポキシ樹脂硬化剤(B)は、レゾルシノール(B1)、又はレゾルシノール(B1)、前記エポキシ樹脂(A)及び硬化促進剤(C)の事前反応生成物(B2)以外のエポキシ樹脂硬化剤として、エポキシ樹脂硬化剤(B3)を更に含み、前記エポキシ樹脂硬化剤(B3)が、レゾルシノール(B1)以外のフェノール系硬化剤(b31)、及びジヒドラジド系硬化剤(b32)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。これらの硬化剤を含むことで、低粘度を維持しつつ、成形時の発熱を抑えるとともに、ポットライフ及びシェルフライフを向上させることができると考えられる。エポキシ樹脂硬化剤(B3)は、レゾルシノール(B1)以外のフェノール系硬化剤(b31)がより好ましい。
【0040】
(レゾルシノール(B1)以外のフェノール系硬化剤(b31))
フェノール系硬化剤(b31)としては、好ましくはビスフェノールF、ビスフェノールA、ノボラックフェノール、及びトリフェニルメタン型フェノールからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、硬化性の観点、及び高い水素ガスバリア性を発現する観点から、フェノール系硬化剤(b31)としてはノボラックフェノールがより好ましい。
【0041】
フェノール系硬化剤(b31)の水酸基当量は、通常、90g/当量以上であり、好ましくは100g/当量以上であり、硬化性の観点、及び高い水素ガスバリア性を発現する観点から、好ましくは160g/当量以下であり、より好ましくは150g/当量以下であり、更に好ましくは130g/当量以下であり、より更に好ましくは120g/当量以下である。
【0042】
フェノール系硬化剤の軟化点は、硬化性の観点、及び高い水素ガスバリア性を発現する観点から、好ましくは70~250℃であり、より好ましくは75~240℃であり、更に好ましくは75~200℃であり、より更に好ましくは75~120℃であり、より更に好ましくは75~100℃である。上記軟化点は、例えば熱機械分析装置(TMA)により測定できる。
【0043】
フェノール系硬化剤として、市販品を用いることもできる。例えば、DIC株式会社製のPHENOLITE(登録商標)シリーズ「TD-2131」、「TD-2106」、「TD-2093」、「TD-2091」、「TD-2090」、「VH-4150」、「VH-4170」、「KH-6021」、「KA-1160」、「KA-1163」、「KA-1165」等が挙げられる。
【0044】
(ジヒドラジド系硬化剤(b32))
ジヒドラジド系硬化剤(b32)としては、アジピン酸ジヒドラジド等のカルボン酸ヒドラジド、ジイソシナネートとヒドラジンを反応させたビスセミカルバジド等が挙げられ、好ましくはカルボン酸ヒドラジドであり、より好ましくはアジピン酸ジヒドラジドである。
【0045】
エポキシ樹脂硬化剤(B3)は、レゾルシノール(B1)以外のフェノール系硬化剤(b31)とジヒドラジド系硬化剤(b32)をそれぞれ単独で、また両方を使用してもよいが、エポキシ樹脂硬化剤(B3)中のレゾルシノール(B1)以外のフェノール系硬化剤(b31)の含有量は、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、より更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%以下である。
【0046】
前記エポキシ樹脂硬化剤(B)に含まれるレゾルシノール(B1)と事前反応生成物(B2)の合計量とエポキシ樹脂硬化剤(B3)の質量比[((B1)+(B2))/(B3)]は、好ましくは8/92~100/0であり、より好ましくは50/50~100/0であり、より更に好ましくは60/40~100/0であり、より更に好ましくは70/30~100/0であり、より更に好ましくは80/20~100/0である。
特に前記エポキシ樹脂硬化剤(B)に含まれるレゾルシノール(B1)とエポキシ樹脂硬化剤(B3)の質量比[(B1)/(B3)]は、好ましくは8/92~100/0であり、より好ましくは50/50~100/0であり、より更に好ましくは60/40~100/0であり、より更に好ましくは70/30~100/0であり、より更に好ましくは80/20~100/0である。
【0047】
<硬化促進剤(C)>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、硬化促進剤(C)を更に含んでもよく、硬化を促進させる観点から、硬化促進剤(C)を更に用いることが好ましい。
硬化促進剤(C)としては、イミダゾール類、第3級アミン類、及びリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
イミダゾール類としては、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。
第3級アミン類としては、フェノール系硬化剤による硬化を促進し得る第3級アミン又はその塩が挙げられ、例えば、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-ノネン-5(DBN)、トリス(ジメチルアミノメチルフェノール)等が挙げられる。
リン化合物としては、トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等のホスホニウム塩が挙げられる。
【0048】
硬化促進剤(C)は、1種又は2種以上を用いることができる。上記の中でも、硬化性向上の観点から、好ましくはイミダゾール類及び第3級アミン類からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはイミダゾール類であり、更に好ましくは1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール及び2-エチル-4-メチルイミダゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0049】
<溶剤>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、プリプレグの作製に用いる際に組成物を低粘度化して強化繊維への含浸性を高める観点から、さらに溶剤を含有することができる。
溶剤としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-プロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-プロポキシ-2-プロパノール等のアルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶剤;トルエン等の炭化水素系溶剤等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を用いることができる。
エポキシ樹脂組成物に含まれる成分(A)~(C)の溶解性の観点、並びに溶剤の除去し易さの観点からは、溶剤としては炭素数8以下の、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、及び炭化水素系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びトルエンからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0050】
<各成分の含有量及びその他の成分>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)の合計量を100質量%としたときのエポキシ樹脂硬化剤(B)の含有量が7~60質量%である。つまり、エポキシ樹脂硬化剤(B)の含有量は、エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)の合計量を100質量%としたとき、7~60質量%である。エポキシ樹脂硬化剤(B)の含有量をこの範囲とすることで、水素ガスバリア性に優れ、低粘度であるエポキシ樹脂組成物とすることができる。併せて、シェルフライフを向上させ、成形時のコゲの発生も低減できる。
エポキシ樹脂硬化剤(B)の含有量は、エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)の合計量を100質量%としたとき、好ましくは10~60質量%であり、より好ましくは15~60質量%であり、更に好ましくは20~50質量%であり、より更に好ましくは20~40質量%であり、より更に好ましくは25~40質量%であり、より更に好ましくは30~40質量%である。
【0051】
また、エポキシ樹脂硬化剤(B)として、レゾルシノール(B1)、並びにレゾルシノール(B1)、前記エポキシ樹脂(A)及び硬化促進剤(C)の事前反応生成物(B2)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる場合、本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)の合計量を100質量%としたときのレゾルシノール(B1)、並びにレゾルシノール(B1)、前記エポキシ樹脂(A)及び硬化促進剤(C)の事前反応生成物(B2)の合計の含有量が好ましくは7~60質量%である。つまり、レゾルシノール(B1)、並びにレゾルシノール(B1)、前記エポキシ樹脂(A)及び硬化促進剤(C)の事前反応生成物(B2)の含有量は、エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)の合計量を100質量%としたとき、好ましくは7~60質量%である。レゾルシノール(B1)と前記事前反応生成物(B2)の合計の含有量をこの範囲とすることで、水素ガスバリア性に優れ、低粘度であるエポキシ樹脂組成物とすることができる。併せて、シェルフライフを向上させ、成形時のコゲの発生も低減できる。
レゾルシノール(B1)と前記事前反応生成物(B2)の合計の含有量は、エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)の合計量を100質量%としたとき、好ましくは10~60質量%であり、より好ましくは15~60質量%であり、更に好ましくは20~50質量%であり、より更に好ましくは20~40質量%であり、より更に好ましくは25~40質量%であり、より更に好ましくは30~40質量%である。
【0052】
更に、エポキシ樹脂硬化剤(B)として、レゾルシノール(B1)のみを用いる場合、本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)の合計量を100質量%としたときのレゾルシノール(B1)の含有量が好ましくは7~60質量%である。つまり、レゾルシノール(B1)の含有量は、エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)の合計量を100質量%としたとき、好ましくは7~60質量%である。レゾルシノール(B1)の含有量をこの範囲とすることで、水素ガスバリア性に優れ、低粘度であるエポキシ樹脂組成物とすることができる。併せて、シェルフライフを向上させ、成形時のコゲの発生も低減できる。
エポキシ樹脂硬化剤(B)として、レゾルシノール(B1)のみを用いる場合、レゾルシノール(B1)の含有量は、エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)の合計量を100質量%としたとき、好ましくは10~60質量%であり、より好ましくは15~60質量%であり、更に好ましくは20~50質量%であり、より更に好ましくは20~40質量%であり、より更に好ましくは30~40質量%である。
【0053】
本発明のエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)との含有量比は、エポキシ樹脂中のエポキシ基の数に対するエポキシ樹脂硬化剤中の活性水素数の比(エポキシ樹脂硬化剤中の活性水素数/エポキシ樹脂中のエポキシ基数)が、好ましくは1/0.5~1/2、より好ましくは1/0.75~1/1.5、さらに好ましくは1/0.8~1/1.2となる量である。当該比は最終的に上記範囲となればよく、エポキシ樹脂組成物の成形中一定であってもよいし、成形中に変動させてもよい。
【0054】
本発明のエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)の含有量は、エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)との含有量比が好ましくは前記範囲となる範囲であれば制限されないが、エポキシ樹脂組成物中の固形分100質量%中、好ましくは40~90質量%、より好ましくは50~80質量%、更に好ましくは60~75質量%である。なお、「エポキシ樹脂組成物中の固形分」とは、エポキシ樹脂組成物の全量から水及び有機溶剤を除いた量である。
エポキシ樹脂組成物が溶剤を含有しない場合には、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)の含有量が、好ましくは40~90質量%、より好ましくは50~80質量%、更に好ましくは60~75質量%である。
【0055】
本発明のエポキシ樹脂組成物中の硬化促進剤(C)の含有量は、硬化性向上の観点から、エポキシ樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは0.01~10質量部であり、より好ましくは0.01~5質量部であり、更に好ましくは0.05~1質量部である。
なお、ここで示す硬化促進剤(C)の含有量には、事前反応生成物(B2)に含まれる硬化促進剤(C)の量は含まない。
【0056】
エポキシ樹脂組成物が溶剤を含有する場合、その含有量は特に制限されないが、プリプレグの作製に用いる際に組成物を低粘度化して強化繊維への含浸性を高める観点から、エポキシ樹脂組成物中、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、更に好ましくは15質量%以上であり、溶剤の除去し易さの観点から、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下であり、更に好ましくは80質量%以下であり、より更に好ましくは70質量%以下である。
【0057】
本発明のエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、及び硬化促進剤(C)の合計含有量は、本発明の効果を有効に発現する観点から、エポキシ樹脂組成物中の固形分100質量%中、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、より更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%以下である。エポキシ樹脂組成物が溶剤を含有しない場合には、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、及び硬化促進剤(C)の合計含有量が好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、より更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%以下である。
【0058】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、さらに、充填材、可塑剤などの改質成分、揺変剤などの流動調整成分、反応性又は非反応性希釈剤、顔料、レベリング剤、粘着付与剤、難燃剤、応力緩和成分などのその他の成分を用途に応じて含有させてもよい。これらのなかでも、本発明のエポキシ樹脂組成物には、好ましくは応力緩和成分(D)を更に含む。応力緩和成分(D)を含むことで、弾性率を低減し、クラック発生を抑制できるため、好ましい。
応力緩和成分(D)は、好ましくはシリコーン系樹脂、ブチルアクリレート系樹脂、ポリエーテルアミン系樹脂、エラストマー粒子、熱可塑性樹脂、官能基変性熱可塑性樹脂、ゴム樹脂、官能基変性ゴム樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはエラストマー粒子、官能基変性ゴム樹脂である。
エラストマー粒子は、好ましくはシリコーン系粒子、ポリジエン系粒子、ブチルアクリレート系粒子、ポリエーテルアミン系、その他ゴム粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、シリコーン系粒子、ポリジエン系粒子がより好ましい。
官能基変性ゴム樹脂は、好ましくはエポキシ化ポリジエン樹脂である。
【0059】
本発明のエポキシ樹脂組成物中の応力緩和成分(D)の含有量は、弾性率低減の観点から、エポキシ樹脂組成物中の固形分100質量%中、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、更に好ましくは4質量%以上であり、より更に好ましくは8質量%以上である。また、弾性率低減の観点から、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下であり、更に好ましくは15質量%以下であり、より更に好ましくは12質量%以下である。
【0060】
なお、本発明のエポキシ樹脂組成物を後述するプリプレグ及び繊維強化複合材の作製に用いる観点からは、強化繊維への含浸性を高める観点から、エポキシ樹脂組成物中の充填材の含有量が少ないことが好ましい。エポキシ樹脂組成物中の充填材の含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下であり、より更に好ましくは0質量%である。充填材としては、例えば、シリカ粉末、アルミナ粉末等の無機粉末が挙げられる。
【0061】
<水素ガス透過係数>
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物は、高い水素ガスバリア性を発現する。本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物の23℃での水素ガス透過係数は、好ましくは8.4×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下であり、より好ましくは7.0×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下であり、更に好ましくは6.0×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下であり、より更に好ましくは5.0×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下であり、より更に好ましくは3.5×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下であり、より更に好ましくは3.0×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下であり、より更に好ましくは2.0×10-11[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]以下である。
エポキシ樹脂組成物の硬化物の水素ガス透過係数は、JIS K 7126-1に準拠し、23℃の乾燥条件下(23℃、湿度0%)で、測定する。具体的には、実施例に記載の方法により測定できる。
【0062】
<ポットライフ>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、ポットライフ(可使時間)が長い。例えば23℃におけるエポキシ樹脂組成物のポットライフは、好ましくは3時間以上であり、より好ましくは6時間以上であり、更に好ましくは12時間以上であり、より更に好ましくは24時間以上である。エポキシ樹脂組成物のポットライフは、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0063】
<シェルフライフ>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、シェルフライフ(貯蔵寿命)が長い。例えば0℃におけるエポキシ樹脂組成物のシェルフライフは、好ましくは7日以上であり、より好ましくは14日以上であり、更に好ましくは30日以上である。エポキシ樹脂組成物のシェルフライフは、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0064】
本発明のエポキシ樹脂組成物の調製方法には特に制限はなく、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)及び必要に応じ他の成分を公知の方法及び装置を用いて混合し、調製することができる。エポキシ樹脂組成物に含まれる各成分の混合順序にも特に制限はなく、エポキシ樹脂(A)を構成する成分(A1)及び成分(A2)を混合した後、これを他の成分と混合してもよく、エポキシ樹脂(A)を構成する成分(A1)、成分(A2)、並びにその他の成分とを同時に混合して調製してもよい。
使用前にゲル化が進行するのを避ける観点から、エポキシ樹脂組成物に含まれる各成分は使用直前に接触させて混合することが好ましい。エポキシ樹脂組成物に含まれる各成分を混合する際の温度は、エポキシ樹脂の粘度に応じて適宜調整できるが、粘度上昇を抑制する観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下であり、エポキシ樹脂の混和性の観点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上である。また、混合時間は好ましくは0.1~15分、より好ましくは0.2~10分、さらに好ましくは0.3~5分の範囲である。
【0065】
[硬化物]
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物(以下、単に「本発明の硬化物」ともいう)は、上述した本発明のエポキシ樹脂組成物を公知の方法で硬化させたものである。エポキシ樹脂組成物の硬化条件は用途、形態に応じて適宜選択され、特に限定されない。
本発明の硬化物の形態も特に限定されず、用途に応じて選択することができる。例えばエポキシ樹脂組成物の用途が塗料である場合、当該組成物の硬化物は通常、膜状である。なお本発明の効果を有効に発揮する観点からは、本発明の硬化物は後述する繊維強化複合材のマトリクス樹脂であることが好ましい。
【0066】
[プリプレグ]
本発明のプリプレグは、前記エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させたものである。
【0067】
<強化繊維>
プリプレグに用いる強化繊維の形態としては、短繊維、長繊維、連続繊維が挙げられる。これらの中でも、得られるプリプレグを用いて、フィラメントワインディング法やテープワインディング法により高圧ガス容器を製造する観点からは、長繊維又は連続繊維が好ましく、連続繊維がより好ましい。
なお本明細書において、短繊維とは繊維長が0.1mm以上10mm未満、長繊維とは繊維長が10mm以上100mm以下のものをいう。また連続繊維とは、100mmを超える繊維長を有する繊維束をいう。
【0068】
連続繊維の形状としては、トウ、シート、テープ等が挙げられ、シート又はテープを構成する連続繊維としては、一方向(UD)材、織物、不織布等が挙げられる。
プリプレグを用いて、フィラメントワインディング法やテープワインディング法により高圧ガス容器を製造する観点からは、連続繊維の形状としてはトウ又はテープが好ましく、トウがより好ましい。トウを構成する連続繊維束の本数(フィラメント数)は、高強度及び高弾性率が得られやすいという観点から、好ましくは3K~50K、より好ましくは6K~40Kである。
【0069】
連続繊維において、連続繊維束の平均繊維長には特に制限はないが、成形加工性の観点から、好ましくは1~10,000m、より好ましくは100~10,000mである。
連続繊維束の平均繊度は、成形加工性の観点、高強度及び高弾性率が得られやすいという観点から、好ましくは50~2000tex(g/1000m)、より好ましくは200~1500tex、さらに好ましくは500~1500texである。
また連続繊維束の平均引張弾性率は、好ましくは50~1000GPaである。
【0070】
強化繊維の材質としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、金属繊維、ボロン繊維、セラミック繊維等の無機繊維;アラミド繊維、ポリオキシメチレン繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の有機繊維が挙げられる。これらの中でも、高強度を得る観点からは無機繊維が好ましい。軽量で且つ高強度、高弾性率であることから、強化繊維は、好ましくは炭素繊維、ガラス繊維、及びバサルト繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、強度及び軽量性の観点からは、より好ましくは炭素繊維である。
炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。また、リグニンやセルロースなど、植物由来原料の炭素繊維も用いることができる。
【0071】
強化繊維は、処理剤で処理されたものでもよい。処理剤としては、表面処理剤又は集束剤が例示される。
上記表面処理剤としては、シランカップリング剤が好ましい。例えば、ビニル基を有するシランカップリング剤、アミノ基を有するシランカップリング剤、エポキシ基を有するシランカップリング剤、(メタ)アクリル基を有するシランカップリング剤、メルカプト基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
【0072】
上記集束剤としては、例えば、ウレタン系集束剤、エポキシ系集束剤、アクリル系集束剤、ポリエステル系集束剤、ビニルエステル系集束剤、ポリオレフィン系集束剤、ポリエーテル系集束剤、及びカルボン酸系集束剤等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上を組み合わせた集束剤としては、例えば、ウレタン/エポキシ系集束剤、ウレタン/アクリル系集束剤、ウレタン/カルボン酸系集束剤等が挙げられる。
【0073】
前記処理剤の量は、エポキシ樹脂組成物の硬化物との界面接着性を向上させ、得られるプリプレグ及び複合材の強度、耐衝撃性をより向上させる観点から、強化繊維に対し、好ましくは0.001~5質量%、より好ましくは0.1~3質量%、さらに好ましくは0.5~2質量%である。
【0074】
強化繊維として市販品を用いることもできる。連続炭素繊維(トウ)の市販品としては、例えば東レ株式会社製のトレカ(登録商標)糸「T300」、「T300B」、「T400HB」、「T700SC」、「T800SC」、「T800HB」、「T830HB」、「T1000GB」、「T100GC」、「M35JB」、「M40JB」、「M46JB」、「M50JB」、「M55J」、「M55JB」、「M60JB」、「M30SC」、「Z600」の各シリーズ等;帝人株式会社製のテナックス(登録商標)「HTA40」シリーズ、「HTS40」シリーズ、「HTS45」シリーズ、「HTS45P12」シリーズ、「STS40」シリーズ、「UTS50」シリーズ、「ITS50」シリーズ、「ITS55」シリーズ、「IMS40」シリーズ、「IMS60」シリーズ、「IMS65」シリーズ、「IMS65P12」シリーズ、「HMA35」シリーズ、「UMS40」シリーズ、「UMS45」シリーズ、「UMS55」シリーズ、「HTS40MC」シリーズ等;三菱ケミカル株式会社製のPYROFIL(登録商標)「HT」、「IM」、「HM」シリーズ、GRAFIL(登録商標)「HT」シリーズ、「DIALEAD(登録商標)」シリーズの炭素繊維トウ;等が挙げられる。
また、トウ以外の連続炭素繊維の市販品としては、東レ株式会社製のトレカ(登録商標)クロス「CO6142」「CO6151B」、「CO6343」、「CO6343B」、「CO6347B」、「CO6644B」、「CK6244C」、「CK6273C」、「CK6261C」、「UT70」シリーズ、「UM46」シリーズ、「BT70」シリーズ、「T300」シリーズ、「T300B」シリーズ、「T400HB」シリーズ、「T700SC」シリーズ、「T800SC」シリーズ、「T800HB」シリーズ、「T1000GB」シリーズ、「M35JB」シリーズ、「M40JB」シリーズ、「M46JB」シリーズ、「M50JB」シリーズ、「M55J」シリーズ、「M55JB」シリーズ、「M60JB」シリーズ、「M30SC」シリーズ、「Z600GT」シリーズ;三菱ケミカル株式会社製のPYROFIL(登録商標)「TR3110M」、「TR3523M」、「TR3524M」、「TR6110HM」、「TR6120HM」、「TRK101M」、「TRK510M」、「TR3160TMS」、「TRK979PQRW」、「TRK976PQRW」、「TR6185HM」、「TRK180M」等の炭素繊維ファブリック;等が挙げられる。
【0075】
<含有量>
本発明のプリプレグ中の強化繊維の含有量は、高強度及び高弾性率を得る観点から、プリプレグ中の強化繊維の体積分率が、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.20以上、更に好ましくは0.30以上、より更に好ましくは0.40以上となる範囲である。また、水素ガスバリア性、耐衝撃性及び成形加工性の観点からは、好ましくは0.85以下、より好ましくは0.80以下、更に好ましくは0.70以下となる範囲である。
プリプレグ中の強化繊維の体積分率Vf1は下記式から算出することができる。
Vf1={強化繊維の質量(g)/強化繊維の比重}÷[{強化繊維の質量(g)/強化繊維の比重}+{含浸させたエポキシ樹脂組成物の固形分の質量(g)/エポキシ樹脂組成物の固形分の比重}]
【0076】
また、本発明のプリプレグを構成するエポキシ樹脂組成物の固形分及び強化繊維の合計含有量は、本発明の効果を得る観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0077】
<プリプレグの形状、製造方法>
プリプレグの形状は、使用する強化繊維の形態によっても異なるが、フィラメントワインディング法やテープワインディング法により高圧ガス容器を製造する観点からは、プリプレグは、トウプリプレグであることが好ましい。
その他、一方向(UD、Uni-directional)材、織物、不織布等の形態の連続繊維を用いた場合には、シート形状のプリプレグとすることもできる。
シート形状のプリプレグのなかでも、本発明のプリプレグは、UDテープであることが好ましい。UDテープは、テープ形状であるため、特にテープワインディング法に好適に用いられる。なお、切断して小片として用いてもよい。
【0078】
プリプレグの製造方法には特に制限されず、常法に従って製造できる。例えば、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、硬化促進剤(C)、及び、必要に応じて用いられる溶剤を含有するエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させた後、乾燥工程に供して溶剤を除去し、プリプレグを得ることができる。
【0079】
エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させる方法は特に制限されず、強化繊維の形態等に応じて、適宜、公知の方法を用いることができる。例えばトウプリプレグを製造する場合は、前述したエポキシ樹脂組成物を充填した樹脂浴に、ロールから巻き出した連続繊維束を浸漬させ、該組成物を含浸させた後に樹脂浴から引き上げる方法が挙げられる。その後、絞りロール等を用いて余剰のエポキシ樹脂組成物を除去する工程を行ってもよい。
エポキシ樹脂組成物の含浸は、必要に応じ加圧条件下、又は減圧条件下で行うこともできる。
【0080】
次いで、必要に応じ、エポキシ樹脂組成物を含浸させた上記強化繊維を乾燥工程に供して溶剤を除去する。乾燥工程における乾燥条件は特に制限されないが、溶剤を除去することが可能であって、且つエポキシ樹脂組成物の硬化が過度に進行しない条件であることが好ましい。この観点から、例えば乾燥温度は30~120℃の範囲で、乾燥時間は10秒~5分の範囲で選択できる。
【0081】
上記乾燥工程を経て得られたプリプレグは、一旦巻き取り等を行ってプリプレグ製品としてもよく、巻き取り等を行わず、乾燥工程を行った後に連続的に繊維強化複合材の製造に供することもできる。特にテープ形状やシート形状のプリプレグ製品とする場合には、巻き取りをおこない、ロール状の製品とすることが好ましい。
【0082】
[繊維強化複合材]
本発明の繊維強化複合材(FRP、以下単に「複合材」ともいう)は、前記プリプレグの硬化物であり、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物と、強化繊維とを含むものである。本発明の繊維強化複合材は前記エポキシ樹脂組成物の硬化物を含むことにより、高い水素バリア性を有する。複合材の製造に用いるプリプレグ、エポキシ樹脂組成物、強化繊維、並びにこれらの好適態様については、前記と同じである。
【0083】
繊維強化複合材中の強化繊維の含有量は、高強度及び高弾性率を得る観点から、繊維強化複合材中の強化繊維の体積分率が、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.20以上、更に好ましくは0.30以上、より更に好ましくは0.40以上となる範囲である。また、水素ガスバリア性、耐衝撃性及び成形加工性の観点からは、好ましくは0.85以下、より好ましくは0.80以下、更に好ましくは0.70以下となる範囲である。
繊維強化複合材中の強化繊維の体積分率Vfは下記式から算出することができる。
Vf={強化繊維の質量(g)/強化繊維の比重}÷[{強化繊維の質量(g)/強化繊維の比重}+{エポキシ樹脂組成物の硬化物の質量(g)/エポキシ樹脂組成物の硬化物の比重}]
【0084】
<繊維強化複合材の製造方法>
複合材の製造は、前記プリプレグを用いて所望の形状となるようプレ成形を行った後、該プリプレグを硬化させることにより行うことができる。例えば、本発明の複合材をパイプ、シャフト、ボンベ、タンク等の中空形状を有する成形体に適用する場合は、トウプリプレグを用いて、フィラメントワインディング法、ブレーディング法、3Dプリンター法等により成形し、複合材を製造することができる。
フィラメントワインディング法では、具体的には、トウプリプレグをバルーン、マンドレル、又はライナーの外表面に巻き付け、次いで加熱硬化させることにより、所望の形状の複合材を製造できる。
ブレーディング法では、例えば、バルーン又はマンドレルを用いて、トウプリプレグを一方向あるいは組紐構造となるようブレーダーによりブレーディングしてプリプレグを成形し、次いで、該プリプレグを加熱硬化させる工程を行う。なお、ブレーディング法においては、バルーン又はマンドレルを使用せずにトウプリプレグを製紐し、成形することもできる。
【0085】
UDテープ等の一方向(UD)材、織物、不織布等、シート形状のプリプレグを用いる場合には、金型内にプリプレグを1枚又は複数枚重ねて載置し、真空条件下、又は加圧条件下で加熱硬化させ、複合材を製造することができる。
【0086】
複合材の製造におけるプリプレグの硬化方法も特に制限されず、プリプレグに含まれるエポキシ樹脂組成物を硬化させるのに十分な温度及び時間において、公知の方法により行われる。プリプレグの硬化条件はプリプレグ及び形成される複合材の厚さ等にも依存するが、例えば、硬化温度は10~180℃の範囲で、硬化時間は5分間~200時間の範囲で選択でき、生産性の観点から、好ましくは、硬化温度は80~180℃、硬化時間は10分間~5時間の範囲である。
【0087】
本発明の複合材は、トウプリプレグを用いて製造する観点からは、パイプ、シャフト、ボンベ、タンク、シリンダー(両端が二つの円板によって閉じられた円筒)等の中空形状を有する成形体に好適に用いられる。該複合材は水素ガスバリア性に優れることから、特に、高圧ガス容器を形成する材料として好適である。
【0088】
[高圧ガス容器]
本発明の高圧ガス容器は、前記繊維強化複合材を含むものである。本発明の高圧ガス容器は、少なくとも一部が前記繊維強化複合材で構成されていればよい。例えば、ライナーと、該ライナーの外表面を覆うように設けられる外層とを有する高圧ガス容器であれば、ライナー及び外層の少なくとも一方が前記繊維強化複合材で構成されたものが挙げられる。また、ライナーレスの高圧ガス容器であれば、該容器全体が前記繊維強化複合材で構成されたものが挙げられる。
【0089】
繊維強化複合材を含む高圧ガス容器の具体的な態様としては、(1)金属製のライナーと、本発明の繊維強化複合材からなる外層とを有する構成、(2)樹脂製のライナーと、本発明の繊維強化複合材からなる外層とを有する構成、(3)本発明の繊維強化複合材からなるライナーと、該繊維強化複合材以外の材料からなる外層とを有する構成、(4)本発明の繊維強化複合材からなる容器のみ(ライナーレス)の構成、等が挙げられる。
【0090】
前記(1)の「金属製のライナー」に用いる金属としては、アルミニウム合金やマグネシウム合金等の軽合金を例示することができる。
【0091】
前記(2)の「樹脂製のライナー」に用いる樹脂としては、水素ガスバリア性及び耐圧性に優れる樹脂であれば特に制限されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の硬化物、光硬化性樹脂の硬化物等が挙げられる。これらの中でも、ライナーを容易に成形できるという観点から、好ましくは熱可塑性樹脂である。
当該熱可塑性樹脂としては、例えばポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
水素ガスバリア性及び耐圧性の観点から、熱可塑性樹脂の中でも好ましくはポリアミド樹脂及びポリオレフィン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはポリアミド樹脂である。
その他、耐衝撃性を高める観点から、樹脂ライナーには前述した応力緩和成分を含有させることもできる。
【0092】
前記(3)の「該繊維強化複合材以外の材料からなる外層」とは、補強性向上の観点から、好ましくは、本発明の繊維強化複合材以外の繊維強化複合材からなる外層が挙げられる。
【0093】
前記(1)~(3)の態様において、外層は、ライナーの本体部分の外表面を隙間なく覆うように形成することができる。
外層は、ライナー外表面に直接設けてもよい。あるいは、ライナーの外表面に1層又は2層以上の他の層を設け、該他の層の表面に設けてもよい。例えば、ライナーと外層の密着性を向上させるため、ライナーと外層との間に接着層を設けることができる。
【0094】
高圧ガス容器が前記(1)又は(2)の態様である場合、本発明の繊維強化複合材からなる外層の厚さは、高圧ガス容器の容量、形状等に応じて適宜選択することができるが、高い水素ガスバリア性及び耐衝撃性を付与する観点から、好ましくは100μm以上、より好ましくは200μm以上、更に好ましくは400μm以上であり、高圧ガス貯蔵タンクの小型化及び軽量化の観点からは、好ましくは80mm以下、より好ましくは60mm以下である。
【0095】
高圧ガス容器が前記(3)の態様である場合、本発明の繊維強化複合材からなるライナーの厚さは、高圧ガス容器の容量、形状等に応じて適宜選択することができるが、水素ガスバリア性及び耐圧性の観点から、好ましくは100μm以上、より好ましくは200μm以上、更に好ましくは400μm以上であり、高圧ガス容器の小型化及び軽量化の観点からは、好ましくは60mm以下、より好ましくは40mm以下である。
【0096】
高圧ガス容器が前記(4)の態様である場合、本発明の繊維強化複合材からなる容器の厚さは、高圧ガス容器の容量、形状等に応じて適宜選択することができるが、水素ガスバリア性及び耐圧性の観点から、好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上、更に好ましくは5mm以上であり、高圧ガス容器の小型化及び軽量化の観点からは、好ましくは80mm以下、より好ましくは60mm以下である。
【0097】
本発明の繊維強化複合材からなるライナー、外層又は高圧ガス容器中の強化繊維の含有量は、高強度及び高弾性率を得る観点から、強化繊維の体積分率が、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.20以上、更に好ましくは0.30以上、より更に好ましくは0.40以上となる範囲である。また、水素ガスバリア性、耐衝撃性及び成形加工性の観点からは、好ましくは0.85以下、より好ましくは0.80以下、更に好ましくは0.75以下、より更に好ましくは0.70以下となる範囲である。
上記強化繊維の体積分率は、前記と同様の方法で算出することができる。
【0098】
上記の中でも、軽量性の観点、及び、繊維強化複合材に対し高い水素バリア性が要求されるという観点からは、高圧ガス容器は前記(2)、(3)又は(4)のいずれかの態様であることが好ましく、(3)又は(4)の態様がより好ましい。
【0099】
なお、高圧ガス容器は口金、バルブ等の、繊維強化複合材以外の材料で構成される部品をさらに有していてもよい。また高圧ガス容器の表面には、保護層、塗料層、錆止含有層等の任意の層が形成されていてもよい。
【0100】
高圧ガス容器の貯蔵対象となるガスは、25℃、1atmで気体のものであればよく、水素の他、酸素、二酸化炭素、窒素、アルゴン、LPG、代替フロン、メタン等が挙げられる。これらの中でも、本発明の有効性の観点から、好ましくは水素である。
【0101】
<高圧ガス容器の製造方法>
本発明の高圧ガス容器の製造方法としては、使用する強化繊維又はプリプレグの形態に応じて、前述した繊維強化複合材の製造方法において記載した製造方法を適宜用いることができる。トウプリプレグを用いて高圧ガス容器を製造する場合は、フィラメントワインディング法、ブレーディング法、3Dプリンター法等によりトウプリプレグを成形し、高圧ガス容器を製造することができる。
高圧ガス容器が前記(1)又は(2)の態様である場合には、フィラメントワインディング法を用いて、トウプリプレグを金属製又は樹脂製のライナーの外表面を覆うように巻き付け、次いで加熱硬化させることにより、繊維強化複合材からなる外層を形成し、高圧ガス容器を製造することができる。
高圧ガス容器が前記(3)又は(4)の態様である場合には、フィラメントワインディング法、ブレーディング法、3Dプリンター法等によりトウプリプレグを容器形状に成形し、次いで加熱硬化させることにより、高圧ガス容器を製造できる。
【実施例】
【0102】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、本実施例における測定及び評価は以下の方法で行った。
【0103】
<水素ガス透過係数[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]>
各例で調製したエポキシ樹脂組成物を、離型剤(Henkel社製「FREKOTE(登録商標)770-NC」)を塗布した金型(120mm×120mm×1mm)に流し込み、80~160℃の条件下で2時間、加熱硬化を行い、厚さ1mmの板状成形体を作製した。この板状成形体から厚さ1mm、直径20mmの円形の試験片を作製した。該試験片について、気体透過率測定装置(GTRテック株式会社製「GTR-30X」)を使用して、差圧法にて、JIS K 7126-1(23℃、湿度0%)に則り、23℃における水素ガス透過係数[cc・cm/(cm2・s・cmHg)]を測定した。
【0104】
<成形性>
各例で調製したエポキシ樹脂組成物を、離型剤(Henkel社製「FREKOTE(登録商標)770-NC」)を塗布した金型(50mm×50mm×2mm)に流し込み、80~160℃の条件下で2時間、加熱硬化を行い、厚さ2mmの板状成形体を作製した。得られた成形体の外観を目視観察し、下記基準で評価を行った。
(評価基準)
A:成形体のコゲ、変色がなく、外観良好である
B:成形体の変色が見られるが、コゲはほぼ抑えられている
C:成形体にコゲが見られ、褐色に変化しており外観性を損なっている
【0105】
<ポットライフ>
各例で調製したエポキシ樹脂組成物の23℃における初期粘度を測定した後、該エポキシ樹脂組成物10gをプラスティックカップ(径46mm)に入れ、23℃で保管した。エポキシ樹脂組成物の粘度が初期粘度の2倍以上となる時間[h]を測定し、表に示した。表中、ポットライフが24時間を超えたものについては「>24」と表記した。時間が長いものほど、ポットライフが優れる。
エポキシ樹脂組成物の粘度は、E型粘度計「TV-100型粘度計 コーンプレートタイプ」(東機産業株式会社製)を用いて測定した。
【0106】
<シェルフライフ>
各例で調製したエポキシ樹脂組成物10gを、プラスティックカップ(径46mm)に入れ、0℃で保管した。一定時間経過毎にエポキシ樹脂組成物を室温(23℃)に戻して、流動性を目視観察し、0℃保管にて流動がなくなり出すまでの日数[day]を表に示した。表中、シェルフライフが30日を超えたものについては「>30」と表記した。時間が長いものほど、シェルフライフが優れる。
【0107】
<硬化物のガラス転移温度(Tg)>
各例で調製したエポキシ樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)は、80~180℃で、各例のエポキシ樹脂組成物ごとの所定時間(10分間~5時間)加熱して、示差走査熱量測定(DSC)における硬化反応由来のピークが消失するまで完全に硬化させた。硬化後のエポキシ樹脂組成物について、動的粘弾性測定装置「DMA7100」(日立ハイテクサイエンス製)を用いて、昇温速度5℃/分の条件で30~200℃の条件にて動的粘弾性を測定し、その際得られたtanδの最大値をガラス転移温度(Tg)とした。硬化物のガラス転移温度(Tg)が高いものほど、耐熱性に優れる。
【0108】
<硬化物の弾性率(GPa)>
各例で調製したエポキシ樹脂組成物の硬化物の弾性率(GPa)は、次のようにして測定した。各例で調製したエポキシ樹脂組成物を80~180℃で、各例のエポキシ樹脂組成物ごとの所定時間(10分間~5時間)加熱して、示差走査熱量測定(DSC)における硬化反応由来のピークが消失するまで完全に硬化させた。硬化後のエポキシ樹脂組成物について、動的粘弾性測定装置「DMA7100」(日立ハイテクサイエンス製)を用いて、30℃における弾性率を測定した。弾性率の値が小さいほど、弾性率が低減され、クラック等が生じにくくなり、好ましい。
【0109】
<粘度>
各例で調製したエポキシ樹脂組成物の60℃における粘度は、E型粘度計「TV-100型粘度計 コーンプレートタイプ」(東機産業株式会社製)を用いて測定した。エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤を混合後に測定を開始し、60℃120秒後の値を読み取った。表中、粘度が1Pa・s以下のものについては「A」と表記した。粘度が1Pa・sを超えるものについては「B」と表記した。粘度が低いものほど、低粘度であり、優れている。特に粘度が1Pa・s以下のものが良好である。
【0110】
実施例1(エポキシ樹脂組成物の調製及び評価)
エポキシ樹脂(A)として、成分(A1):レゾルシノールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製「デナコール(登録商標)EX-201」、エポキシ当量:115g/当量)及び成分(a21):ビスフェノールFジグリシジルエーテル(三菱ケミカル株式会社製「jER(登録商標)807」、エポキシ当量:168g/当量)を用い、エポキシ樹脂硬化剤(B)として成分(B1):レゾルシノールを用いた。また、硬化促進剤(C)として、2-エチル-4-メチルイミダゾール(東京化成工業株式会社製)を用いた。これらを表1に示す質量部で配合して混合し、エポキシ樹脂組成物を得た。エポキシ樹脂中のエポキシ基の数に対するエポキシ樹脂硬化剤中の活性水素数の比(エポキシ樹脂硬化剤中の活性水素数/エポキシ樹脂中のエポキシ基数)とは1/1であった。
得られたエポキシ樹脂組成物について、前述の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
実施例2~8、17~26及び比較例1~8
エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤((B)又はテトラエチレンペンタミン)、及び硬化促進剤(C)の種類及び配合量を表1、3及び4に記載の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物の調製及び評価を行った。結果を表1、3及び4に示す。なお、比較例7及び8はポットライフが非常に短く、評価に必要な試験片を得ることができなかったため、一部の評価を行わなかった。
【0112】
実施例9~16
エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、及び硬化促進剤(C)の種類及び配合量を表2に記載の通りに変更し、これらを配合する際に、応力緩和成分(D)として表2に記載の成分も配合して混合したこと以外は、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物の調製及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
表1~4に記載の成分は下記である。
<エポキシ樹脂(A)>
(A1)レゾルシノールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製「デナコール(登録商標)EX-201」、エポキシ当量:115g/当量)
(a21)ビスフェノールFジグリシジルエーテル(jER807)(三菱ケミカル株式会社製「jER(登録商標)807」、エポキシ当量:168g/当量)
(a21)ビスフェノールFジグリシジルエーテル(jER4005P)(三菱ケミカル株式会社製「jER(登録商標)4005P」、エポキシ当量:1026g/当量、オリゴマー型)
(a22)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(jER828)(三菱ケミカル株式会社製「jER(登録商標)828」、エポキシ当量:186g/当量)
(a22)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(jER1001)(三菱ケミカル株式会社製「jER(登録商標)1001」、エポキシ当量:483g/当量、オリゴマー型)
(a23)フェノールノボラック型エポキシ(DIC株式会社製「N730A」、エポキシ当量:176g/当量)
(a24)トリフェニルメタン型エポキシ(DIC株式会社製「HP7241」、エポキシ当量:171g/当量)
(a25)ナフタレンエポキシ樹脂(DIC株式会社製「HP-4032SS」、式(a253)で示されるエポキシ樹脂、エポキシ当量:143g/当量)
【0118】
<エポキシ樹脂硬化剤>
(b1)レゾルシノール
(b31)ノボラックフェノール(TD-2131)(DIC株式会社製「TD-2131」、水酸基価当量:104g/当量、軟化点:78~82℃)(フェノール系硬化剤(b31))
(b32)アジピン酸ジヒドラジド(ジヒドラジド系硬化剤(b32))
テトラエチレンペンタミン(アミン系硬化剤)
【0119】
<硬化促進剤(C)>
2-エチル-4-メチルイミダゾール(東京化成工業株式会社製)
【0120】
<応力緩和成分(D)>
カネエース MX-136:コアシェルゴム粒子分散エポキシ樹脂マスターバッチ(株式会社カネカ製「カネエース(登録商標)MX-136」、エポキシタイプBis-F型、粒子ポリブタジエン/シリコーン、粒子配合量25%)
エポリード PB4700:エポキシ化ポリブタジエン(株式会社ダイセル製「エポリード(登録商標)PB4700」、分子量2000~3500)
アデカレジン ERP-2000:ゴム変性エポキシ樹脂(株式会社ADEKA製「アデカレジン(登録商標)ERP-2000」、分子量400~500)
エポリード PB3600:エポキシ化ポリブタジエン(株式会社ダイセル製「エポリード(登録商標)PB3600」、分子量5900)
【0121】
<パイプ状成形体(強化繊維として炭素繊維を含む繊維強化複合材)の製造(フィラメントワインディング成形)>
実施例3、実施例8、及び実施例12のエポキシ樹脂組成物、炭素繊維(T700SC12K)を用いてフィラメントワインディング成形を行った。
前記エポキシ樹脂組成物を連続して12時間塗工を行い、炭素繊維に樹脂を含浸した。その後、80~180℃で加熱し、パイプ状成形体を得た。
得られた成形体は、成形体中の強化繊維(炭素繊維)の体積分率は0.40以上であり、樹脂の変色もなく、外観が良好であり、ボイドもないパイプ状成形体であった。
このことから本発明のエポキシ樹脂組成物は、フィラメントワインディング成形にも適するため、高圧ガス貯蔵用の容器の製造用に適することがわかる。
一方、比較例7、比較例8のエポキシ樹脂組成物を用いた場合には、塗工から30分で増粘し樹脂量の制御が困難になり、塗工から2時間で硬化がはじまり塗工を継続できなくなった。
【0122】
<パイプ状成形体の製造(強化繊維としてガラス繊維を含む繊維強化複合材)(フィラメントワインディング成形)>
実施例3、実施例8、及び実施例12のエポキシ樹脂組成物、ガラス繊維(日東紡績社製、ECG 75 1/0 0.7Z、繊度687dtex、繊維数400f)を用いてフィラメントワインディング成形を行った。
前記エポキシ樹脂組成物を連続して12時間塗工を行い、強化繊維であるガラス繊維に樹脂を含浸した。その後、80~180℃で加熱し、パイプ状成形体を得た。
得られた成形体は、成形体中の強化繊維(ガラス繊維)の体積分率は0.40以上であり、樹脂の変色もなく、外観が良好であり、ボイドもないパイプ状成形体であった。
【0123】
上記実施例の結果より、実施例のエポキシ樹脂組成物は、粘度、特に60℃における粘度が低く、160℃に加熱して成形してもコゲ、変色の発生が少なく、得られる硬化物は水素ガスバリア性が高いものである。また、エポキシ樹脂組成物のポットライフ、シェルフライフも十分に長いことがわかる。このように、本発明のエポキシ樹脂組成物は、ポットライフが長く、低粘度であることからフィラメントワインディング成形、レジントランスファーモールド成形、トウプレグ作製に適しており、またシェルフライフも長く、成形時のコゲの発生も少なく、かつ高い水素ガスバリア性を達成できるため、特に高圧水素ガス貯蔵用の容器の製造用として好適である。
【要約】
エポキシ樹脂(A)、及びエポキシ樹脂硬化剤(B)を含有するエポキシ樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂(A)が、レゾルシノールから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂(A1)とビスフェノールFから誘導されたグリシジル基を有するエポキシ樹脂等であるエポキシ樹脂(A2)を含み、前記エポキシ樹脂硬化剤(B)が、レゾルシノール(B1)等を含み、エポキシ樹脂硬化剤(B)の含有量が7~60質量%である、エポキシ樹脂組成物。