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特許7398042ポリエステルフィルム、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/305 20190101AFI20231207BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20231207BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B29C48/305
B29C48/08
C08L67/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019163171
(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公開番号】P2021041553
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 智子
(72)【発明者】
【氏名】久保 耕司
(72)【発明者】
【氏名】矢野 真司
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-302031(JP,A)
【文献】特開2010-229231(JP,A)
【文献】特開平04-170464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00-48/96,
C08J 5/18,
C08L 67/00-67/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリウム元素の含有量25ppm以上の第一ポリエステル、およびカリウム元素の含有量0ppm以上10ppm未満の第二ポリエステルを含む原料を溶融押出しして、カリウム元素の含有量が100ppm未満のポリエステルフィルムを得る工程を含み、
前記原料において、前記第一ポリエステルおよび前記第二ポリエステルの合計100質量%中の前記第二ポリエステルの量が82質量%以上98質量%以下であり、
前記第一ポリエステルが触媒を含み、前記触媒がチタン化合物を含む、
ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第二ポリエステルにおけるカリウム元素の含有量が0ppmである、請求項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記第一ポリエステルにおけるカリウム元素の含有量が5000ppm未満である、請求項1または2に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記第一ポリエステルが、酢酸カリウム、炭酸カリウム、安息香酸カリウム、リン酸カリウム、ホスホン酸カリウムおよび水酸化カリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種のカリウム化合物を含む、請求項1~3のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ポリエステルフィルムが、飲食品用の容器用である、請求項1~4のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ポリエステルフィルムが缶用である、請求項1~5のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記ポリエステルフィルムは、レトルト処理したときのアセトアルデヒドの溶出量が1.00ppm以下である、請求項1~6のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の方法で得られたポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルム、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板の腐食を防止するために、金属板にポリエステルフィルムをラミネートし、絞り加工などによって製缶する方法が知られている(たとえば特許文献1参照)。このような方法で製造された缶は、たとえば、飲食品用容器として好適に使用することができる。
【0003】
しかしながら、ポリエステルフィルムを有する缶では、ポリエステルフィルムからアセトアルデヒドが溶出することがある(たとえば特許文献2参照)。アセトアルデヒドの溶出量は少ないほど、缶内の飲食品の味の変化が小さい。よって、アセトアルデヒドの溶出量が少ないほど、保香性および保味性で構成されるフレーバー性に優れるため、望ましい。
【0004】
ポリエステルフィルムは、たとえば、シート状のポリエステル組成物(以下、「ポリエステルシート」)を溶融押出しし、ポリエステルシートを冷却ドラムに静電気作用で密着させる、という手順を踏んで製造することができる(たとえば特許文献3参照)。つまり、ポリエステルフィルムは、静電密着キャスト法で製造することができる。
【0005】
ポリエステルシートの冷却ドラムに対する密着性を向上させるために、酢酸カリウムのようなカリウム化合物を添加することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-166440号公報
【文献】特開2001-220435号公報
【文献】特開2011-26484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ポリエステルシートの冷却ドラムに対する密着性と、ポリエステルフィルムからのアセトアルデヒドの溶出量の低減とを両立することは容易ではなかった。
【0008】
本発明は、溶融押出されたポリエステルシートを、静電密着キャスト法で冷却ドラムに良好に密着させることができるとともに、レトルト処理におけるポリエステルフィルムからのアセトアルデヒドの溶出量を低減することが可能なポリエステルフィルムの製造方法を提供することを目的とする。これに加えて、本発明は、レトルト処理におけるポリエステルフィルムからのアセトアルデヒドの溶出量を低減することが可能なポリエステルフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明者は検討した結果、酢酸カリウムのようなカリウム化合物が、レトルト処理におけるポリエステルフィルムからのアセトアルデヒドの溶出量を増加させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、下記項1の構成を備える。
【0011】
項1
カリウム元素の含有量25ppm以上の第一ポリエステル、およびカリウム元素の含有量0ppm以上10ppm未満の第二ポリエステルを含む原料を溶融押出しして、カリウム元素の含有量が100ppm未満のポリエステルフィルムを得る工程を含み、
前記原料中、前記第二ポリエステルの量が、前記第一ポリエステルの量よりも多い、
ポリエステルフィルムの製造方法。
【0012】
項1によれば、カリウム元素の含有量25ppm以上の第一ポリエステルを含む原料を溶融押出しすることによって、カリウム元素を含むポリエステルシートを形成することができるので、ポリエステルシートを、静電密着キャスト法で冷却ドラムに良好に密着させることができる。
【0013】
さらに、項1によれば、第一ポリエステル、およびカリウム元素の含有量0ppm以上10ppm未満の第二ポリエステルを含む原料を溶融押出しすることによって、第一ポリエステルだけをポリエステルとして使用する場合にくらべて、レトルト処理におけるアセトアルデヒドの溶出量を低減することができる。その理由は、第二ポリエステルにおける触媒残渣の活性、具体的には、エステル結合部分に配位結合して、加水分解反応の速度を増加させる能力が、第一ポリエステルにおける触媒残渣の活性よりも高いので、レトルト処理における加水分解反応の割合を増加させることが可能であり、相対的に、レトルト処理におけるアセトアルデヒドの生成反応(たとえば、ポリエステル末端の-COOCHCHOHのβ水素が引き抜かれて、アセトアルデヒドが生成する反応)の割合を低減することができるためである、と考えられる。第二ポリエステルにおける触媒残渣の活性が、第一ポリエステルにおける触媒残渣の活性よりも高い理由は、次のように推測される。
------
ポリエステル中のカリウム元素は、ポリエステルを製造する際、たとえばポリエステルを重合する際に添加されるカリウム化合物に由来する。
ポリエステルを水の存在下で加熱すると、エステル結合部分に触媒残渣が配位結合し、エステルの加水分解反応が起こるところ、カリウム化合物は、触媒残渣の活性(具体的には、エステル結合部分に配位結合して、加水分解反応の速度を増加させる能力)を低下させる。なぜなら、カリウム化合物が、重合時や押出し時に、触媒残渣に配位結合することによって、触媒残渣が、エステル結合部分に配位結合することが難しくなるためである。
カリウム化合物の量が多いほど、触媒残渣に配位結合するカリウム化合物の量が増加するため、活性が低下した触媒残渣の割合が増加する。
カリウム化合物の量に関して、第二ポリエステルにおけるカリウム元素の含有量が、第一ポリエステルにおけるカリウム元素の含有量よりも少ないため、第二ポリエステルにおけるカリウム化合物の量は、第一ポリエステルにおけるカリウム化合物の量よりも少ない。
第二ポリエステルにおけるカリウム化合物の量が、第一ポリエステルにおけるカリウム化合物の量よりも少ないため、第二ポリエステルにおける活性が低下した触媒残渣の割合は、第一ポリエステルのそれよりも低い。
よって、第二ポリエステルにおける触媒残渣の活性は、第一ポリエステルにおける触媒残渣の活性よりも高い。
------
【0014】
しかも、項1によれば、第二ポリエステルの量が、第一ポリエステルの量よりも多いことによって、活性が低下した触媒残渣の割合を制限することができるため、レトルト処理におけるアセトアルデヒドの溶出量を効果的に低減することができる。
【0015】
これに加えて、項1によれば、ポリエステルフィルムにおけるカリウム元素の含有量が100ppm未満であることによって、レトルト処理におけるアセトアルデヒドの溶出量をいっそう効果的に低減することができる。なぜなら、カリウム化合物が、押出し時に触媒残渣に配位結合して、触媒残渣の活性を低下させるところ、ポリエステルフィルムにおけるカリウム元素の含有量が100ppm未満であることによって、押出し時のカリウム化合物の含有量を制限することが可能であるので、押出し時に触媒残渣に配位結合するカリウム化合物の量を制限することができるためである。
【0016】
本発明は、下記項2以降の構成をさらに備えることが好ましい。
【0017】
項2
前記第二ポリエステルにおけるカリウム元素の含有量が0ppmである、項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【0018】
項2によれば、第二ポリエステルにおけるカリウム元素の含有量が0ppmであることによって、レトルト処理におけるアセトアルデヒドの溶出量をいっそう効果的に低減することができる。なぜなら、第二ポリエステルがカリウム化合物を含有しない、または実質的に含有しないので、第二ポリエステルの触媒残渣が加水分解反応の速度を効果的に増大させることができるためである。
【0019】
項3
前記第一ポリエステルにおけるカリウム元素の含有量が5000ppm未満である、項1または2に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【0020】
カリウム化合物は、重合時に触媒に配位結合して、触媒本来の作用、つまり、重合反応の速度を増加させる作用を低下させる。もし、過剰のカリウム化合物をポリエステルの重合時または重合前に添加する場合には、重合度が過度に低下し、ポリエステルの粘度が過度に低下する。ポリエステルの粘度が過度に低いと、キャスティングを安定的におこなうことが難しい。
これに対して、項3によれば、第一ポリエステルにおけるカリウム元素の含有量が5000ppm未満であることによって、触媒本来の作用(つまり、重合反応の速度を増加させる作用)がカリウム化合物で過度に低下することを抑制できる。その結果、ポリエステルの粘度が過度に低下することを抑制できるので、キャスティングを安定的におこなうことができる。
【0021】
項4
前記第一ポリエステルおよび前記第二ポリエステルの合計100質量%中の前記第二ポリエステルの量が80質量%以上である、項1~3のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【0022】
項4によれば、第二ポリエステルの量が80質量%以上であることによって、相対的に第一ポリエステルの量を低減することができるので、活性が低下した触媒残渣の割合を制限することができるため、レトルト処理におけるアセトアルデヒドの溶出量を効果的に低減することができる。
【0023】
項5
前記第一ポリエステルが、酢酸カリウム、炭酸カリウム、安息香酸カリウム、リン酸カリウム、ホスホン酸カリウムおよび水酸化カリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種のカリウム化合物を含む、項1~4のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【0024】
酢酸カリウム、炭酸カリウム、安息香酸カリウム、リン酸カリウム、ホスホン酸カリウム、水酸化カリウムは、重合時や押出し時に、触媒残渣に配位結合するため、触媒残渣の活性、具体的には、エステル結合部分に配位結合して、加水分解反応の速度を増加させる能力を低下させると考えられる。
これに対して、項5によれば、これらのうち少なくとも1種のカリウム化合物を第一ポリエステルが含む場合に、レトルト処理におけるアセトアルデヒドの溶出量を低減することができる。
【0025】
項6
前記ポリエステルフィルムが、飲食品用の容器用である、項1~5のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【0026】
項6によれば、レトルト処理におけるポリエステルフィルムからのアセトアルデヒドの溶出量を低減することが可能であるため、ポリエステルフィルムを、飲食品用の容器を製造するために好適に使用できる。
【0027】
項7
前記ポリエステルフィルムが缶用である、項1~6のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【0028】
項7によれば、レトルト処理におけるポリエステルフィルムからのアセトアルデヒドの溶出量を低減することが可能であるため、ポリエステルフィルムを、缶を製造するために好適に使用できる。
【0029】
項8
項1~7のいずれかに記載の方法で得られたポリエステルフィルム。
【0030】
項8によれば、項1~7のいずれかに記載の方法で得られたポリエステルフィルムであるため、レトルト処理におけるポリエステルフィルムからのアセトアルデヒドの溶出量を低減することができる。
【0031】
項8に関して、プロダクト・バイ・プロセスで記載することは許されるべきである。なぜなら、項8に記載のポリエステルフィルムでは、第二ポリエステルにおける触媒残渣の活性が、第一ポリエステルにおける触媒残渣の活性よりも高いと考えられるところ、それを解析することに、著しく過大な経済的支出や時間を要することが明白であるためである。
【発明の効果】
【0032】
本発明におけるポリエステルフィルムの製造方法によれば、溶融押出されたポリエステルシートを、静電密着キャスト法で冷却ドラムに良好に密着させることができるとともに、レトルト処理におけるポリエステルフィルムからのアセトアルデヒドの溶出量を低減することができる。本発明のポリエステルフィルムによれば、レトルト処理におけるポリエステルフィルムからのアセトアルデヒドの溶出量を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0034】
<1.ポリエステルフィルムの製造方法>
本実施形態におけるポリエステルフィルムの製造方法は、第一ポリエステルおよび第二ポリエステルを含む原料を溶融押出しして、カリウム元素の含有量が100ppm未満のポリエステルフィルムを得る工程を含む。
【0035】
ポリエステルフィルムを得る工程は、具体的には、第一ポリエステルおよび第二ポリエステルを含む原料を溶融押出しして、ポリエステルシートを形成する工程(以下、「押出し工程」と言う。)と、ポリエステルシートを冷却ドラムに密着させる工程(以下、「冷却工程」と言う。)と、冷却ドラムを経たポリエステルシートを二軸延伸する工程(以下、「延伸工程」と言う。)とを含む。
【0036】
<1.1.押出し工程>
押出し工程では、第一ポリエステル(すなわち、カリウム元素の含有量25ppm以上のポリエステル)および第二ポリエステル(すなわち、カリウム元素の含有量0ppm以上10ppm未満のポリエステル)を含む原料を、押出機で溶融押出し、ポリエステルシートを形成する。なお、原料については、後ほど詳述する。
【0037】
カリウム元素の含有量25ppm以上の第一ポリエステルを含む原料を溶融押出しすることによって、カリウム元素を含むポリエステルシートを形成することができるので、ポリエステルシートを、静電密着キャスト法で冷却ドラムに良好に密着させることができる。
【0038】
さらに、第一ポリエステル、およびカリウム元素の含有量0ppm以上10ppm未満の第二ポリエステルを含む原料を溶融押出しすることによって、第一ポリエステルだけをポリエステルとして使用する場合にくらべて、レトルト処理におけるアセトアルデヒドの溶出量を低減することができる。その理由は、第二ポリエステルにおける触媒残渣の活性、具体的には、エステル結合部分に配位結合して、加水分解反応の速度を増加させる能力が、第一ポリエステルにおける触媒残渣の活性よりも高いので、レトルト処理における加水分解反応の割合を増加させることが可能であり、相対的に、レトルト処理におけるアセトアルデヒドの生成反応(たとえば、ポリエステル末端の-COOCHCHOHのβ水素が引き抜かれて、アセトアルデヒドが生成する反応)の割合を低減することができるためである、と考えられる。第二ポリエステルにおける触媒残渣の活性が、第一ポリエステルにおける触媒残渣の活性よりも高い理由は、次のように推測される。
------
ポリエステル中のカリウム元素は、ポリエステルを製造する際、たとえばポリエステルを重合する際に添加されるカリウム化合物に由来する。
ポリエステルを水の存在下で加熱すると、エステル結合部分に触媒残渣が配位結合し、エステルの加水分解反応が起こるところ、カリウム化合物は、触媒残渣の活性(具体的には、エステル結合部分に配位結合して、加水分解反応の速度を増加させる能力)を低下させる。なぜなら、カリウム化合物が、重合時や押出し時に、触媒残渣に配位結合することによって、触媒残渣が、エステル結合部分に配位結合することが難しくなるためである。
カリウム化合物の量が多いほど、触媒残渣に配位結合するカリウム化合物の量が増加するため、活性が低下した触媒残渣の割合が増加する。
カリウム化合物の量に関して、第二ポリエステルにおけるカリウム元素の含有量が、第一ポリエステルにおけるカリウム元素の含有量よりも少ないため、第二ポリエステルにおけるカリウム化合物の量は、第一ポリエステルにおけるカリウム化合物の量よりも少ない。
第二ポリエステルにおけるカリウム化合物の量が、第一ポリエステルにおけるカリウム化合物の量よりも少ないため、第二ポリエステルにおける活性が低下した触媒残渣の割合は、第一ポリエステルのそれよりも低い。
よって、第二ポリエステルにおける触媒残渣の活性は、第一ポリエステルにおける触媒残渣の活性よりも高い。
------
【0039】
ポリエステルシートを押し出すための押出機は、スクリューと、スクリューを取り囲むシリンダーとを備えることができる。押出機は、回転するスクリューによって、原料を移動させながら混練し、定量で押し出すことができる。押出機として、たとえば、単軸押出機、二軸押出機を挙げることができる。なかでも、二軸押出機が好ましい。
【0040】
押出機にはダイが取り付けられていることができる。ダイは、アダプタを介して、シリンダーに取り付けられていることができる。ダイは、押出機の出口から移動してきたポリエステル組成物が流れるための流路を有することができる。
【0041】
押出機で溶融混練された原料は、シート状のポリエステル組成物、つまりポリエステルシートとしてダイから押し出されることができる。
【0042】
<1.2.冷却工程>
冷却工程では、ポリエステルシートに電圧を印加しながらポリエステルシートを冷却ドラムに密着させる。ポリエステルシートに電圧を印加することによって、ポリエステルシートの表面に静電気を発生させることができるので、ポリエステルシートの冷却ドラムに対する密着性を向上させることができる。
【0043】
ポリエステルシートに電圧を印加するために、たとえば、ダイから冷却ドラムまでの区間において、冷却ドラムと、ポリエステルシートを介して冷却ドラムに対向するように配置された電極との間に直流電圧を印加する、という方法を採用することができる。冷却ドラムと電極との間に印加する直流電圧は、たとえば、1kV~50kVであることができる。
【0044】
<1.3.延伸工程>
延伸工程では、冷却ドラムを経たポリエステルシートを二軸延伸して、ポリエステルフィルムを得る。二軸延伸は、縦横同時二軸延伸であってもよく、逐次二軸延伸であってもよい。なかでも、逐次二軸延伸が好ましい。逐次二軸延伸では、たとえば、冷却ドラムで冷却されたポリエステルシートを、縦方向すなわちMachine Direction(以下、「MD」と言う。)方向に延伸し、MD方向延伸後のポリエステルシートを、横方向すなわちTransverse Direction(以下、「TD」と言う。)方向に延伸することが好ましい。MD方向の延伸倍率は2.3倍~4.2倍が好ましく、2.6倍~3.8倍がより好ましい。MD方向の延伸温度は80℃~110℃が好ましく、90℃~105℃がより好ましい。TD方向の延伸倍率は2.8倍~4.8倍が好ましく、3.0倍~4.5倍がより好ましい。TD方向の延伸温度は110℃~140℃が好ましく、110℃~135℃がより好ましい。なお、一回目の延伸(たとえばMD方向の延伸)と、二回目の延伸(たとえばTD方向の延伸)との間に、必要に応じてポリエステルシートに表面処理のような加工を施してもよい。
【0045】
ポリエステルフィルムを加熱し、二軸延伸配向、つまり面配向を固定してもよい。つまり、熱固定のために、ポリエステルフィルムを加熱してもよい。
【0046】
<1.5.原料>
原料は、上述のとおり、第一ポリエステルおよび第二ポリエステルを含む。原料が、添加剤(たとえば滑剤、カリウム加工物)をさらに含んでいてもよい。原料が、第一ポリエステルおよび第二ポリエステル以外の重合体を含んでいてもよい。そのような重合体として、たとえば、カリウム元素の含有量10ppm以上25ppm未満のポリエステルや、複数のエステル結合を有さない重合体を挙げることができる。
【0047】
<1.5.1.第一ポリエステル>
第一ポリエステルにおけるカリウム元素の含有量は25ppm以上であり、30ppm以上が好ましく、40ppm以上がより好ましく、50ppm以上がさらに好ましい。25ppm以上であることによって、第一ポリエステルの配合割合を低減することができる。その結果、ポリエステルシートの冷却ドラムに対する密着性を向上させることができる。第一ポリエステルにおけるカリウム元素の含有量は、5000ppm未満が好ましく、3000ppm未満がより好ましく、2000ppm未満がさらに好ましく、1000ppm未満がさらに好ましく、600ppm未満がさらに好ましい。5000ppm未満であると、カリウム化合物によって、触媒本来の作用(つまり、重合反応の速度を増加させる作用)が過度に低下することを抑制できる。その結果、第一ポリエステルの粘度が過度に低下することを抑制できるので、キャスティングを安定的におこなうことができる。
【0048】
第一ポリエステルにおけるチタン元素の含有量は、1ppm以上が好ましく、5ppm以上がより好ましい。第一ポリエステルにおけるチタン元素の含有量は、150ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましく、50ppm以下がさらに好ましい。なお、チタン元素は、触媒としてのチタン化合物に由来することができる。
【0049】
第一ポリエステルにおけるゲルマニウム元素の含有量は、1ppm以上が好ましく、5ppm以上がより好ましい。第一ポリエステルにおけるゲルマニウム元素の含有量は、150ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましく、50ppm以下がさらに好ましい。なお、ゲルマニウム元素は、触媒としてのゲルマニウム化合物に由来することができる。
【0050】
第一ポリエステルの固有粘度は、0.45以上が好ましく、0.52以上がより好ましい。0.45以上であると、キャスティングを安定的におこなうことができる。そのうえ、成形加工時に(たとえば、ポリエステルフィルムを金属板にラミネートして、これを缶に成形加工する際に)削れにくいポリエステルフィルムを得ることができる。よって、成形加工時における表面欠陥の発生を低減できる。第一ポリエステルの固有粘度は、0.80以下が好ましく、0.73以下がより好ましい。0.80以下であると、第一ポリエステルの生産性に優れるため経済的であるとともに、良好な品質のポリエステルフィルムを得ることができる。第一ポリエステルの固有粘度は、o-クロロフェノール/テトラクロロエタン(40/60質量比)の混合溶媒を用いて、35℃の雰囲気下で測定された値である。
【0051】
第一ポリエステルの製造方法は特に限定されないところ、たとえば、エステル交換法で製造されてもよく、直接重合法で製造されてもよい。
【0052】
第一ポリエステルを製造するために使用可能な触媒としては、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物などを挙げることができる。なかでも、チタン化合物、ゲルマニウム化合物が好ましい。具体的には、チタン化合物をエステル交換触媒として使用することが好ましく、ゲルマニウム化合物を重縮合反応触媒として使用することが好ましい。チタン化合物としては、たとえばトリメリット酸チタン、チタンアルコキシドまたは、チタンアルコキシドと芳香族多価カルボン酸(無水分を含む)とを反応させた生成物が挙げられる。チタンアルコキシドとしては、テトライソプロポキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ―n―ブトキシチタン、テトラエトキシチタンが好ましい。また、チタンアルコキシドと反応させる芳香族多価カルボン酸は、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸及びこれらの無水物からなる群より少なくとも1種であることが好ましい。上記の中で、トリメリット酸チタンが最も好ましい。ゲルマニウム化合物としては、たとえば、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、蓚酸ゲルマニウム、塩化ゲルマニウムなどを挙げることができる。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。
【0053】
第一ポリエステルを製造する際にカリウム化合物を使用することができる。カリウム化合物を使用することによって、ポリエステルシートの表面に静電気を効果的に帯電させることが可能となるので、ポリエステルシートの冷却ドラムに対する密着性を向上させることができる。カリウム化合物として、たとえば、酢酸カリウム、炭酸カリウム、安息香酸カリウム、リン酸カリウム、ホスホン酸カリウム、水酸化カリウムなどを挙げることができる。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。なかでも、酢酸カリウムが好ましい。なぜなら、ポリエステルシートの表面に静電気を効果的に帯電させることが可能であるとともに、保香性に優れるためである。
【0054】
第一ポリエステルを製造する際に、カリウム化合物を添加するタイミングは特に限定されない。たとえば、エステル化反応容器にカリウム化合物を添加してもよく、重縮合反応容器にカリウム化合物を添加してもよい。なかでも、エステル化反応容器にカリウム化合物を添加することが好ましい。なお、カリウム化合物は、粉末で添加してもよく、水溶液で添加してもよく、スラリーで添加してもよい。このようなスラリーは、たとえば、エチレングリコールにカリウム化合物を分散させることによって製造することができる。
【0055】
第一ポリエステルを製造する際に、安定剤などの添加剤を加えてもよい。安定剤としては、たとえば、トリエチルホスホノアセテートのようなリン化合物を挙げることができる。
【0056】
第一ポリエステルとしては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、共重合ポリエステルなどを挙げることができる。共重合ポリエステルとしては、たとえば、共重合ポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエチレンナフタレートなどを挙げることができる。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。
【0057】
ポリエチレンテレフタレートの製造方法は特に限定されないところ、たとえば、テレフタル酸ジメチルと、エチレングリコールとのエステル交換反応によって生成した反応生成物を重縮合することで、ポリエチレンテレフタレートを製造することができる。つまり、エステル交換法によってポリエチレンテレフタレートを製造することができる。いっぽう、テレフタル酸とエチレングリコールとをエステル化し、これによって生成した反応生成物を重縮合することで、ポリエチレンテレフタレートを製造することもできる。つまり、直接重合法によってポリエチレンテレフタレートを製造することもできる。
【0058】
共重合ポリエチレンテレフタレートの製造方法は特に限定されないところ、たとえば、共重合成分としてのジカルボン酸(たとえばイソフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸の少なくとも一方)と、エチレングリコールとをエステル化し、これによって生成した生成物の存在下で、上述の反応生成物を重縮合することで、共重合成分を含むポリエチレンテレフタレート、つまり共重合ポリエチレンテレフタレートを得ることができる。共重合ポリエチレンテレフタレートを得るための共重合成分、特にジカルボン酸としては、たとえば、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族カルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環族ジカルボン酸などを挙げることができる。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。共重合ポリエチレンテレフタレートを得るための共重合成分、特にジオールとしては、ブタンジオール、ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノールのような脂環族ジオールなどを挙げることができる。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。
【0059】
共重合ポリエチレンテレフタレートは、エチレンテレフタレートで構成される単位(以下、「エチレンテレフタレート単位」という。)を含む。エチレンテレフタレート単位は、全繰返し単位中、70モル%以上が好ましく、75モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。エチレンテレフタレート単位は、全繰返し単位中、98モル%以下であってもよく、95モル%以下であってもよく、90モル%以下であってもよい。
【0060】
<1.5.2.第二ポリエステル>
第二ポリエステルにおけるカリウム元素の含有量は0ppm以上10ppm未満であるところ、5ppm未満が好ましく、3ppm未満がより好ましく、1ppm未満がさらに好ましい。10ppm未満であることによって、レトルト処理におけるアセトアルデヒドの溶出量を低減することができる。なぜなら、第二ポリエステルにおけるカリウム化合物の含有量が少ないので、第二ポリエステルの触媒残渣が加水分解反応の速度を増大させることができるためである。第二ポリエステルにおけるカリウム元素の含有量は0ppmが特に好ましい。0ppmであると、レトルト処理におけるアセトアルデヒドの溶出量をいっそう効果的に低減することができる。なぜなら、第二ポリエステルがカリウム化合物を含有しない、または実質的に含有しないので、第二ポリエステルの触媒残渣が加水分解反応の速度を効果的に増大させることができるためである。
【0061】
第二ポリエステルにおけるチタン元素の含有量は、1ppm以上が好ましく、5ppm以上がより好ましい。第二ポリエステルにおけるチタン元素の含有量は、150ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましく、50ppm以下がさらに好ましい。なお、チタン元素は、触媒としてのチタン化合物に由来することができる。
【0062】
第二ポリエステルにおけるゲルマニウム元素の含有量は、1ppm以上が好ましく、5ppm以上がより好ましい。第二ポリエステルにおけるゲルマニウム元素の含有量は、150ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましく、50ppm以下がさらに好ましい。なお、ゲルマニウム元素は、触媒としてのゲルマニウム化合物に由来することができる。
【0063】
第二ポリエステルの固有粘度は、0.45以上が好ましく、0.52以上がより好ましい。0.45以上であると、キャスティングを安定的におこなうことができる。そのうえ、成形加工時に(たとえば、ポリエステルフィルムを金属板にラミネートして、これを缶に成形加工する際に)削れにくいポリエステルフィルムを得ることができる。よって、成形加工時における表面欠陥の発生を低減できる。第二ポリエステルの固有粘度は、0.80以下が好ましく、0.73以下がより好ましい。0.80以下であると、第二ポリエステルの生産性に優れるため経済的であるとともに、良好な品質のポリエステルフィルムを得ることができる。第二ポリエステルの固有粘度は、o-クロロフェノール/テトラクロロエタン(40/60質量比)の混合溶媒を用いて、35℃の雰囲気下で測定された値である。
【0064】
第二ポリエステルの製造方法は特に限定されないところ、たとえば、エステル交換法で製造されてもよく、直接重合法で製造されてもよい。
【0065】
第二ポリエステルを製造するために使用可能な触媒としては、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物などを挙げることができる。なかでも、チタン化合物、ゲルマニウム化合物が好ましい。具体的には、チタン化合物をエステル交換触媒として使用することが好ましく、ゲルマニウム化合物を重縮合反応触媒として使用することが好ましい。チタン化合物としては、たとえばトリメリット酸チタン、チタンアルコキシドまたは、チタンアルコキシドと芳香族多価カルボン酸(無水分を含む)とを反応させた生成物が挙げられる。チタンアルコキシドとしては、テトライソプロポキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラ―n―ブトキシチタン、テトラエトキシチタンが好ましい。また、チタンアルコキシドと反応させる芳香族多価カルボン酸は、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸及びこれらの無水物からなる群より少なくとも1種であることが好ましい。上記の中で、トリメリット酸チタンが最も好ましい。ゲルマニウム化合物としては、たとえば、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、蓚酸ゲルマニウム、塩化ゲルマニウムなどを挙げることができる。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。
【0066】
第二ポリエステルを製造する際にカリウム化合物を使用してもよいものの、カリウム化合物を使用しないことが好ましい。カリウム化合物としては、第一ポリエステルで説明したカリウム化合物を例示することができる。
【0067】
第二ポリエステルを製造する際に、安定剤などの添加剤を加えてもよい。安定剤としては、たとえば、トリエチルホスホノアセテートのようなリン化合物を挙げることができる。
【0068】
第二ポリエステルとしては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、共重合ポリエステルなどを挙げることができる。共重合ポリエステルとしては、たとえば、共重合ポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエチレンナフタレートなどを挙げることができる。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。
【0069】
ポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエチレンテレフタレートなどの製造方法としては、第一ポリエステルで説明した製造方法を例示することができる。
【0070】
共重合ポリエチレンテレフタレートは、エチレンテレフタレート単位を含む。エチレンテレフタレート単位は、全繰返し単位中、70モル%以上が好ましく、75モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。エチレンテレフタレート単位は、全繰返し単位中、98モル%以下であってもよく、95モル%以下であってもよく、90モル%以下であってもよい。
【0071】
<1.5.3.添加剤>
添加剤としては、たとえば、酸化防止剤、熱安定剤、粘度調整剤、可塑剤、色相改良剤、滑剤、核剤、紫外線吸収剤、カリウム化合物などを挙げることができる。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。滑剤としては、たとえば、無機系滑剤、無機系滑剤を挙げることができる。無機系滑剤としては、たとえば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどを挙げることができる。有機系滑剤としてはシリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子などを挙げることができる。なかでも、無機系滑剤が好ましい。なお、これらのうち一種または二種以上の滑剤を使用することができる。カリウム化合物としては、第一ポリエステルで説明したカリウム化合物を例示することができる。なお、添加剤を押出機へ投入する態様は特に限定されず、添加剤自身を押出機に投入してもよく、添加剤含有マスターバッチを押出機に投入してもよい。たとえば、添加剤が第一ポリエステルに分散した混合物を押出機に投入してもよく、添加剤が第二ポリエステルに分散した混合物を押出機に投入してもよい。
【0072】
<1.5.4.配合割合>
原料中、第二ポリエステルの量が、第一ポリエステルの量よりも質量基準で多い。第二ポリエステルの量が、第一ポリエステルの量よりも多いことによって、活性が低下した触媒残渣の割合を制限することができるため、レトルト処理におけるアセトアルデヒドの溶出量を効果的に低減することができる。
【0073】
第一ポリエステルおよび第二ポリエステルの合計100質量%中の第二ポリエステルの量は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、84質量%以上がさらに好ましく、88質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。60質量%以上であると、相対的に第一ポリエステルの量を低減することができるので、活性が低下した触媒残渣の割合を制限することができるため、レトルト処理におけるアセトアルデヒドの溶出量を効果的に低減することができる。80質量%以上であると、レトルト処理におけるアセトアルデヒドの溶出量をいっそう効果的に低減することができる。第一ポリエステルおよび第二ポリエステルの合計100質量%中の第二ポリエステルの量は、99質量%以下が好ましく、98質量%以下がより好ましく、97質量%以下がさらに好ましい。
【0074】
第一ポリエステルおよび第二ポリエステルの合計100質量%中の第一ポリエステルの量は、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、16質量%以下がさらに好ましく、12質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。第一ポリエステルおよび第二ポリエステルの合計100質量%中の第一ポリエステルの量は、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましい。
【0075】
第一ポリエステルおよび第二ポリエステルの合計量は、原料100質量%中、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。第一ポリエステルおよび第二ポリエステルの合計量は、原料100質量%中、100質量%未満が好ましい。
【0076】
<2.ポリエステルフィルム>
このようにして得られたポリエステルフィルムは単層であることができる。
【0077】
ポリエステルフィルムにおけるカリウム元素の含有量は100ppm未満であり、80ppm未満が好ましく、60ppm未満がより好ましく、50ppm未満がさらに好ましく、40ppm未満がさらに好ましく、30ppm未満がさらに好ましい。ポリエステルフィルムにおけるカリウム元素の含有量が100ppm未満であることによって、レトルト処理におけるアセトアルデヒドの溶出量をいっそう効果的に低減することができる。なぜなら、カリウム化合物が、押出し時に触媒残渣に配位結合して、触媒残渣の活性を低下させるところ、ポリエステルフィルムにおけるカリウム元素の含有量が100ppm未満であることによって、押出し時のカリウム化合物の含有量を制限することが可能であるので、押出し時に触媒残渣に配位結合するカリウム化合物の量を制限することができるためである。
【0078】
ポリエステルフィルムの厚みは、2μm以上が好ましく、4μm以上がより好ましく、8μm以上がさらに好ましく、12μm以上がさらに好ましい。2μm以上であると、破れが生じにくい。ポリエステルフィルムの厚みは、100μm以下が好ましく、75μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましく、50μm以下がさらに好ましい。100μm以下であると、原料の使用量を制限することができるので、経済的である。
【0079】
ポリエステルフィルムの溶融比抵抗は、2.0×10Ω・cm以下が好ましく、1.5×10Ω・cm以下がより好ましく、1.0×10Ω・cm以下がさらに好ましい。ポリエステルフィルムの溶融比抵抗は、たとえば、1.0×10Ω・cm以上であってもよく、1.5×10Ω・cm以上であってもよい。溶融比抵抗は、実施例に記載の方法で測定される。
【0080】
ポリエステルフィルムをレトルト処理したときのアセトアルデヒドの溶出量は、1.00ppm以下が好ましく、0.70ppm以下がより好ましく、0.50ppm以下がより好ましく、0.30ppm以下がさらに好ましく、0.20ppm以下がさらに好ましい。なぜなら、レトルト処理におけるアセトアルデヒドの溶出量が少ないほど、レトルト処理と似たような環境にポリエステルフィルムが置かれたときに、ポリエステルフィルムに接触する飲食品へのアルデヒドの溶出も少なくなるためである。つまり、アセトアルデヒドの溶出量が少ないほど、フレーバー性に優れるためである。アセトアルデヒドの溶出量は、実施例に記載の方法で測定される。
【0081】
ポリエステルフィルムの固有粘度は、0.50以上が好ましく、0.55以上がより好ましい。ポリエステルフィルムの固有粘度は、1.50以下が好ましく、1.00以下がより好ましい。ポリエステルフィルムの固有粘度は、o-クロロフェノール/テトラクロロエタン(40/60質量比)の混合溶媒を用いて、35℃の雰囲気下で測定された値である。
【0082】
ポリエステルフィルムは、飲食品用の容器を作製するために好適に使用でき、飲食品用の缶を作製するために特に好適に使用できる。なぜなら、レトルト処理におけるポリエステルフィルムからのアセトアルデヒドの溶出量を低減することが可能であるためである。たとえば、ポリエステルフィルムを金属板にくっつけ、これを、飲食品用の缶、または飲食品用の缶を構成する少なくとも一つの部材に成形することができる。金属板の材質としては、たとえば、ブリキ、ティンフリースチール、アルミニウムなどを挙げることができる。飲食品用の缶としては、たとえば飲料缶や食品缶などを挙げることができる。飲食品用の缶を構成する部材とは、たとえば、胴、底ふた、ふた、またはこれらの任意の組み合わせの複合などを挙げることができる。飲食品用の缶は、飲食品用の缶の内側、たとえば、胴の内面、底ふたの内面、ふたの内面にポリエステルフィルムが配置されるように成形されてもよく、飲食品用の缶の外側にポリエステルフィルムが配置されるように成形されてもよい。飲食品用の缶の内側にポリエステルフィルムが配置されるように、飲食品用の缶が成形されることが好ましい。ポリエステルフィルムを金属板にくっつけるために、金属板にポリエステルフィルムを融着してもよく、金属板にポリエステルフィルムを接着剤で貼ってもよい。金属板にポリエステルフィルムを融着する方法として、たとえば、ポリエステルフィルムの融点以上に加熱した金属板にポリエステルフィルムを圧着し、冷却する方法を挙げることができる。
【0083】
ポリエステルフィルムは、そのままの形態で、飲食品用の容器を作製するために使用できるものの、接着剤層付きポリエステルフィルム(以下、「接着フィルム」と言う。)という形態で使用してもよい。接着フィルムは、たとえば、ポリエステルフィルムと、ポリエステルフィルム上に設けられた接着剤層とを備えることができる。
【0084】
ポリエステルフィルムは、そのままの形態で、飲食品用の容器を作製するために使用できるものの、複合フィルム(具体的には、ポリエステルフィルムを備える複合フィルム)という形態で使用してもよい。複合フィルムは、たとえば、ポリエステルフィルムと、ポリエステルフィルム上に設けられた第二フィルムとを備えることができる。第二フィルムは、ポリエステルを含んでいてもよく、ポリエステル以外の樹脂を含んでいてもよい。このような複合フィルムは、たとえば、金属板に、第二フィルムを融着することによって、金属板にくっつけることができる。このように、第二フィルムが、金属板に密着する役割を担うことが好ましい。複合フィルムは、たとえば、ポリエステルフィルムと第二フィルムとの間に第三層をさらに備えていてもよい。複合フィルムは、ポリエステルフィルムを最外層として備えることが好ましい。
【0085】
<3.上述の実施形態には種々の変更を加えることができる>
上述の実施形態におけるポリエステルフィルムの製造方法には、種々の変更を加えることができる。たとえば、以下の変形例から、一つまたは複数を選択して、上述の実施形態に変更を加えることができる。
【0086】
上述の実施形態では、冷却ドラムを経たポリエステルシートを二軸延伸する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、冷却ドラムを経たポリエステルシートを一軸延伸してもよく、延伸を一切しなくともよい。
【0087】
上述の実施形態では、ポリエステルフィルムが単層として製造される、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、ポリエステルフィルムが、共押出しフィルムを構成する少なくとも一つのフィルムとして製造されてもよい。つまり、ポリエステルフィルムが、共押出しフィルムを構成する少なくとも一つのフィルムであってもよい。共押出しフィルムの構造としては、複合フィルムで説明した構造を挙げることができる。すなわち、共押出しフィルムは、たとえば、ポリエステルフィルムと、ポリエステルフィルム上に設けられた第二フィルムとを備えることができる。第二フィルムは、ポリエステルを含んでいてもよく、ポリエステル以外の樹脂を含んでいてもよい。共押出しフィルムは、たとえば、ポリエステルフィルムと第二フィルムとの間に第三層をさらに備えていてもよい。共押出しフィルムは、ポリエステルフィルムを最外層として備えることが好ましい。
【実施例
【0088】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ質量部および質量%を意味する。
【0089】
<各特性の測定方法>
(1)カリウム元素の含有量(以下、「カリウム含有量」と言うことがある。)
ポリエステル(IA10PET、IA12PET、NDC10PETおよびPET)またはポリエステルフィルムを灰化後、0.5N塩酸に溶解して、原子吸光分析装置(HITACHI製Z-2300)でカリウム含有量を測定した。カリウム含有量は、灰化前の質量を基準とした値で示す。
【0090】
(2)チタン元素の含有量およびゲルマニウム元素の含有量
ポリエステル(IA10PET、IA12PET、NDC10PETおよびPET)を溶融成型したのち、蛍光X線(リガク社製ZSX10e)用いて測定した。これらの含有量は、ポリエステルの質量を基準とした値で示す。
【0091】
(3)固有粘度
ポリエステルやポリエステルフィルムの固有粘度は、o-クロロフェノール/テトラクロロエタン(40/60質量比)の混合溶媒を用いて、35℃の雰囲気下で測定した。
【0092】
(4)溶融比抵抗
温調可能なステンレス製の加熱ステージ上に、ポリエステルフィルムを厚み150μmとなるように重ね合わせた。その上(つまり、ポリエステルフィルムの積層体の上)に、電極としての50mm角の銅板を載せた。その後、加熱ステージの温度を、表1に示す温度まで昇温して、ポリエステルフィルムを溶融させた。加熱ステージと電極との間に、60HzのAC100Vの電圧を加え、電流量を測定した。電流量に基づいて、抵抗値、つまり溶融比抵抗を算出した。
【0093】
(5)静電キャスト性
ダイから冷却ドラムまでの区間において、冷却ドラムと、ポリエステルシートを介して冷却ドラムに対向するように配置された電極との間に6kVの直流電圧を印加しながら、キャスト速度を少しずつ上昇させ、印加ムラが発生したときのキャスト速度(m/min)を求めた。印加ムラが発生したときのキャスト速度によって、静電キャスト性を、以下の基準で判定した。なお、判定A~Dのうち、判定Aがもっとも優れる。
判定A:60m/min以上
判定B:50m/min以上60m/min未満
判定C:30m/min以上50m/min未満
判定D:30m/min未満
【0094】
(6)アセトアルデヒド溶出量
適当な大きさにカットしたポリエステルフィルム1gに対して、2ccの蒸留水を用い、120℃で1時間浸漬溶出した。アセトアルデヒドの定量分析は、溶出抽出液を、2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)を用いて誘導体化して、高速クロマトグラフィーで測定した。
【0095】
<実施例1>
(1)ポリエステルAとしてのIA10PETの作製
ビス-(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート入りのエステル化反応容器に、イソフタル酸およびエチレングリコールをモル比1:2で混練することによって得た第一スラリーを、目標のイソフタル酸の共重合量(表1参照)となるように仕込んだ。このエステル化反応容器に、酢酸カリウムがエチレングリコール中に分散した第二スラリーを、最終生成ポリエステル(すなわちIA10PET)中のカリウム含有量が表1に示す量となるように加えた。このエステル化反応容器に、重縮合反応触媒としてのトリメリット酸チタンを、最終生成ポリエステル中のチタン含有量が表1に示す量となるように加えた。このエステル化反応容器に第一スラリーを連続的に供給しながら、250℃でエステル化反応を行ない、生成する水を精製塔頂部から留出させた。第一スラリーの供給が終了した後、さらにエステル化反応を続け、実質的に反応を完結させた。
このようにして得られたエステル化反応の反応生成物を重縮合反応容器に移行した後、反応生成物に、重縮合反応触媒としての二酸化ゲルマニウムを、最終生成ポリエステル中のゲルマニウム含有量が表1に示す量となるように添加し、トリエチルホスホノアセテートをさらに添加し、30Pa以下の高真空下で、270℃~300℃にて重縮合反応を行ない、ポリエステルAとしてのIA10PETを得た。
なお、トリメリット酸チタンは、次に示す手順で作製した。
エチレングリコール2.5質量部に無水トリメリット酸0.8質量部を溶解した。これによって得られたエチレングリコール溶液にチタンテトラブトキシド0.7質量部(無水トリメリット酸のモル量を基準として0.5モル%)を滴下し、この反応系を空気中、常圧下、80℃で60分間保持してチタンテトラブトキシドと無水トリメリット酸とを反応させ、トリメリット酸チタンを生じさせた。その後反応系を常温に冷却し、アセトン15質量部を加えて析出物をNo.5濾紙で濾過した後、100℃の温度で2時間乾燥した。このような手順で、トリメリット酸チタンを含有する生成物を得た。生成物中のチタン含有量は11.2質量%であった。
【0096】
(2)ポリエステルBとしてのIA10PETの作製
酢酸カリウムを使用せずに、表1にしたがった以外は、ポリエステルAと同じ要領でポリエステルBとしてのIA10PETを作製した。
【0097】
(3)ポリエステルフィルムの作製
ポリエステルAおよびポリエステルBを、表1に表すブレンド比で混合し、押出機で溶融押出しした。押出機に取り付けられたダイから押出されたポリエステルシートに、ワイヤ電極で6kVの直流電流を印加しながら、ポリエステルシートを冷却ドラムに接触させた。冷却ドラムを経たポリエステルシートを、表1に示す温度および倍率でロール延伸し、続いて、表1に示す温度および倍率でTD方向に延伸した。その後、200℃で2秒間熱固定して、厚み19μmのポリエステルフィルムを得た。ポリエステルフィルムの各特性を表1に示す。
【0098】
<実施例2~10および比較例1>
表1に示す組成および物性を有するポリエステルAおよびBを得るように変更したこと以外は、実施例1と同じ要領でポリエステルAおよびBを作製した。ポリエステルAおよびポリエステルBを、表1に表すブレンド比で混合し、押出機で溶融押出しした。押出機に取り付けられたダイから押出されたポリエステルシートに、ワイヤ電極で6kVの直流電流を印加しながら、ポリエステルシートを冷却ドラムに接触させた。冷却ドラムを経たポリエステルシートを、表1に示す温度および倍率でロール延伸し、続いて、表1に示す温度および倍率でTD方向に延伸した。その後、200℃で2秒間熱固定して、厚み19μmのポリエステルフィルムを得た。ポリエステルフィルムの各特性を表1に示す。
【0099】
<比較例2>
表1に示す組成および物性を有するポリエステルAを得るように変更したこと以外は、実施例1と同じ要領でポリエステルAを作製した。ポリエステルAを、押出機で溶融押出しした。押出機に取り付けられたダイから押出されたポリエステルシートに、ワイヤ電極で6kVの直流電流を印加しながら、ポリエステルシートを冷却ドラムに接触させた。冷却ドラムを経たポリエステルシートを、表1に示す温度および倍率でロール延伸し、続いて、表1に示す温度および倍率でTD方向に延伸した。その後、200℃で2秒間熱固定して、厚み19μmのポリエステルフィルムを得た。ポリエステルフィルムの各特性を表1に示す。
【0100】
<比較例3>
表1に示す組成および物性を有するポリエステルBを得るように変更したこと以外は、実施例1と同じ要領でポリエステルBを作製した。ポリエステルBを、押出機で溶融押出しした。押出機に取り付けられたダイから押出されたポリエステルシートに、ワイヤ電極で6kVの直流電流を印加しながら、ポリエステルシートを冷却ドラムに接触させた。冷却ドラムを経たポリエステルシートを、表1に示す温度および倍率でロール延伸し、続いて、表1に示す温度および倍率でTD方向に延伸した。その後、200℃で2秒間熱固定して、厚み19μmのポリエステルフィルムを得た。ポリエステルフィルムの各特性を表1に示す。
【0101】
表1に示す各ポリエステルの略称は、次のとおりの意味を有する。
PET ポリエチレンテレフタレート
IA10PET 全繰返し単位中、イソフタル酸およびエチレングリコー
ルで構成される単位を10モル%含む共重合ポリエチレ
ンテレフタレート
IA12PET 全繰返し単位中、イソフタル酸およびエチレングリコー
ルで構成される単位を12モル%含む共重合ポリエチレ
ンテレフタレート
NDC10PET 全繰返し単位中、2,6-ナフタレンジカルボン酸およ
びエチレングリコールで構成される単位を10モル%含
む共重合ポリエチレンテレフタレート
【0102】
なお、表1に示す溶融比抵抗に関して、たとえば、8.0E+07は、8.0×10を意味し、7.2E+08は、7.2×10を意味することを念のため断っておく。
【0103】
【表1】
【0104】
実施例1~10では、静電キャスト性に優れるとともに、レトルト処理におけるポリエステルフィルムからのアセトアルデヒドの溶出量が少なかった。
【0105】
いっぽう、比較例1では、レトルト処理におけるポリエステルフィルムからのアセトアルデヒドの溶出量が多かった。これは、ポリエステルフィルムにおけるカリウム元素の含有量が高すぎたためだと考えられる。
【0106】
比較例2では、静電キャスト性が悪かった。これは、比較例2のポリエステルフィルムがカリウム元素を含有しなかったので、ポリエステルシートの表面に静電気を充分に帯電させることが難しかったためだと考えられる。
【0107】
比較例3では、レトルト処理におけるポリエステルフィルムからのアセトアルデヒドの溶出量が多かった(たとえば、比較例3および実施例5参照)。これは、比較例3では、酢酸カリウムを用いて製造したポリエステル(具体的には、ポリエステルBとしてのNDC10PET)のみを樹脂材料として使用したので、レトルト処理におけるアセトアルデヒドの生成反応の割合が高かったためだと考えられる。