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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】ヒータ制御装置、及び電力制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/324 20060101AFI20231207BHJP
   H01L 21/22 20060101ALI20231207BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20231207BHJP
   H05B 3/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
H01L21/324
H01L21/22 511A
H01L21/324 T
H01L21/324 J
H02M7/48 E
H05B3/00 310K
H05B3/00 310C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023516767
(86)(22)【出願日】2022-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2022034242
(87)【国際公開番号】W WO2023112410
(87)【国際公開日】2023-06-22
【審査請求日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/046389
(32)【優先日】2021-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】先田 成伸
(72)【発明者】
【氏名】木村 功一
(72)【発明者】
【氏名】板倉 克裕
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-123941(JP,A)
【文献】特開平07-324756(JP,A)
【文献】特開2004-013668(JP,A)
【文献】特開2004-194477(JP,A)
【文献】特開2000-268939(JP,A)
【文献】特開2010-097854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/324
H01L 21/22
H02M 7/48
H05B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状の形状を有する基体と、
前記基体の中心を含む領域に配置された第一発熱体と、前記第一発熱体と同心状に配置された一つ以上の第二発熱体と、を有する発熱体と、
前記第一発熱体に供給される交流電力である第一電力を制御する第一電力制御器を有する電力制御器と、を備え、
前記第一電力制御器は、位相制御方式にサイクリック制御方式が組み合わされた第一制御方式によって前記第一電力を制御し、
前記位相制御方式は、交流電圧波形の半周期毎に、トリガ信号がスイッチング素子に入力される時刻と前記交流電圧波形のゼロクロス点との間である通過時間において前記スイッチング素子に電流を通過させ、
前記サイクリック制御方式は、前記交流電圧波形の半周期毎に、前記スイッチング素子を通過した前記電流の出力の可否を制御し、
前記通過時間は、前記第一電力制御器が検出する前記ゼロクロス点の変動幅に対応して予め設定したカットオフ時間以上である、
ヒータ制御装置。
【請求項2】
前記一つ以上の第二発熱体に供給される電流を測定する一つ以上の電流センサと、
前記第二発熱体の温度を求める演算器と、を備え、
前記電力制御器は、前記第二発熱体に供給される第二電力を制御する第二電力制御器を有し、
前記第二電力制御器は、前記第一電力に対して予め設定された比率となるように前記第二電力を前記第一制御方式により制御し、
前記演算器は、前記電流センサの測定値に基づいて前記第二発熱体の温度を演算する、
請求項に記載のヒータ制御装置。
【請求項3】
前記サイクリック制御方式は、N回の半周期数のうちM回の出力割合で電流の出力を行い、
前記第一発熱体に供給される前記第一電力は、前記位相制御方式における前記通過時間と、前記出力割合とで決まる電力である、請求項1または請求項2に記載のヒータ制御装置。
【請求項4】
前記第一電力制御器は、前記カットオフ時間よりも短い時間に相当する電力を前記第一発熱体に供給する場合に前記第一制御方式を行う、請求項1または請求項2に記載のヒータ制御装置。
【請求項5】
前記トリガ信号の時間幅が前記通過時間よりも短い、請求項1または請求項に記載のヒータ制御装置。
【請求項6】
前記通過時間は、時間の長さが異なる複数の通過時間を有する、請求項1または請求項に記載のヒータ制御装置。
【請求項7】
ヒータ制御装置に供給される交流電力を制御する電力制御方法であって、
前記ヒータ制御装置は、
円板状の形状を有する基体と、
前記基体の中心を含む領域に配置された第一発熱体と、前記第一発熱体と同心状に配置された一つ以上の第二発熱体と、を有する発熱体と、
前記第一発熱体に供給される交流電力である第一電力を制御する第一電力制御器を有する電力制御器と、を備え、
前記電力制御方法は、位相制御方式にサイクリック制御方式が組み合わされた第一制御方式によって前記第一電力を制御し、
前記位相制御方式は、交流電圧波形の半周期毎に、トリガ信号がスイッチング素子に入力される時刻と前記交流電圧波形のゼロクロス点との間である通過時間において前記スイッチング素子に電流を通過させ、
前記サイクリック制御方式は、前記交流電圧波形の半周期毎に、前記スイッチング素子を通過した前記電流の出力の可否を制御し、
前記通過時間は、前記ゼロクロス点の変動幅に対応して予め設定したカットオフ時間以上である、
電力制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒータ制御装置、及び電力制御方法に関する。
本出願は、2021年12月15日付の国際出願のPCT/JP2021/046389に基づく優先権を主張し、前記国際出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、半導体ウエハの上に金属薄膜を設ける成膜装置を開示している。この成膜装置は、載置台に設けられた加熱手段と、載置台に載せられた半導体ウエハの温度を検出する温度検出部と、加熱手段の発熱量を制御する制御手段と、載置台の下部を支持する支持部材とを備える。加熱手段は、半導体ウエハの中央部と周縁部とをそれぞれ加熱するための第一のヒータ及び第二のヒータを備える。制御手段は、載置台の中央部の温度検出値に基づいて第一のヒータの供給電力を制御する。さらに制御手段は、第一のヒータの供給電力に対して予め定められた比率の電力を第二のヒータに供給するように構成されている。
【0003】
特許文献2は、交流電力制御として位相制御及びサイクル制御があり、それらを切り替えて使用することで互いの欠点を解消する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-74148号公報
【文献】実開昭63-122818号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示のヒータ制御装置は、
基体と、
前記基体に配置された発熱体と、
前記発熱体に供給される交流電力を制御する電力制御器と、を備え、
前記電力制御器は、位相制御方式にサイクリック制御方式が組み合わされた第一制御方式によって前記交流電力を制御し、
前記位相制御方式は、交流電圧波形の半周期毎に、トリガ信号がスイッチング素子に入力される時刻と前記交流電圧波形のゼロクロス点との間である通過時間において前記スイッチング素子に電流を通過させ、
前記サイクリック制御方式は、前記交流電圧波形の半周期毎に、前記スイッチング素子を通過した前記電流の出力の可否を制御し、
前記通過時間は、前記電力制御器が検出する前記ゼロクロス点の変動幅に対応して予め設定したカットオフ時間以上である。
【0006】
本開示の電力制御方法は、
負荷に供給される交流電力を制御する電力制御方法であって、
位相制御方式にサイクリック制御方式が組み合わされた第一制御方式によって前記交流電力を制御し、
前記位相制御方式は、交流電圧波形の半周期毎に、トリガ信号がスイッチング素子に入力される時刻と前記交流電圧波形のゼロクロス点との間である通過時間において前記スイッチング素子に電流を通過させ、
前記サイクリック制御方式は、前記交流電圧波形の半周期毎に、前記スイッチング素子を通過した前記電流の出力の可否を制御し、
前記通過時間は、前記ゼロクロス点の変動幅に対応して予め設定したカットオフ時間以上である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態1のヒータ制御装置の機能ブロック図である。
図2図2は、発熱体の配置領域を示す基体の平面図である。
図3図3は、基体内における発熱体の配置を示す縦断面図である。
図4図4は、通常の位相制御方式と第一制御方式との違いを説明する説明図である。
図5図5は、実施形態1において第二電力を出力するまでの処理手順を示すフローチャートである。
図6図6は、実施形態1において第二温度を出力するまでの処理手順を示すフローチャートである。
図7図7は、実施形態1における発熱体の温度プロファイルの一例を示すグラフである。
図8図8は、温度保持時における発熱体の温度プロファイルの一例を示すグラフである。
図9図9は、図8における処理状態での温度プロファイルの一例を拡大して示すグラフである。
図10図10は、実施形態2に係るヒータ制御装置の第一制御方式を説明する説明図である。
図11図11は、実施形態3に係るヒータ制御装置の機能ブロック図である。
図12図12は、実施形態3において第二電力を出力するまでの処理手順を示すフローチャートである。
図13図13は、変形例1において、発熱体の配置領域を示す基体の平面図である。
図14図14は、変形例1において、発熱体の配置領域を示す基体の縦断面図である。
図15図15は、変形例2に係るヒータ制御装置の機能ブロック図である。
図16図16は、変形例3に係るヒータ制御装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
成膜装置では、半導体ウエハの温度が所望の温度となるように、載置台に設けられたヒータに供給される電力を非常に細かい精度で制御することが求められている。つまり、電力制御の分解能が高く、小電力の制御が必要である。しかし、位相制御ではゼロクロス点の検出変動によって小電力の制御は困難である。
【0009】
本開示は、発熱体の電力制御の分解能が高く、小電力の制御が可能なヒータ制御装置を提供することを目的の一つとする。また、本開示は、負荷の電力制御の分解能が高く、小電力の制御が可能な電力制御方法を提供することを目的の一つとする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示のヒータ制御装置は、発熱体に供給される電力を細かく制御できる。本開示の電力変換方法は、負荷に供給される電力を細かく制御できる。
【0011】
《本開示の実施形態の説明》
以下、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
(1)本開示の一態様のヒータ制御装置は、
基体と、
前記基体に配置された発熱体と、
前記発熱体に供給される交流電力を制御する電力制御器と、を備え、
前記電力制御器は、位相制御方式にサイクリック制御方式が組み合わされた第一制御方式によって前記交流電力を制御し、
前記位相制御方式は、交流電圧波形の半周期毎に、トリガ信号がスイッチング素子に入力される時刻と前記交流電圧波形のゼロクロス点との間である通過時間において前記スイッチング素子に電流を通過させ、
前記サイクリック制御方式は、前記交流電圧波形の半周期毎に、前記スイッチング素子を通過した前記電流の出力の可否を制御し、
前記通過時間は、前記電力制御器が検出する前記ゼロクロス点の変動幅に対応して予め設定したカットオフ時間以上である。
【0013】
第一制御方式は、位相制御方式のみの場合に比較して、詳しくは後述するようにゼロクロス点が変動しても、操作量MVを時間平均値として実効的に小さくできる。そのため、第一制御方式は、位相制御方式のみの場合に比較して、発熱体に小電力を供給できる。よって、上記ヒータ制御装置は、発熱体の電力制御の分解能が高く、小電力の制御が可能なので、ウエハを所望の温度に制御し易い。
【0014】
(2)上記(1)のヒータ制御装置において、
前記サイクリック制御方式は、N回の半周期数のうちM回の出力割合で電流の出力を行い、
前記発熱体に供給される前記交流電力は、前記位相制御方式における前記通過時間と、前記出力割合とで決まる電力であってもよい。
【0015】
上記形態は、発熱体の電力制御の分解能が高く、小電力の制御が可能である。
【0016】
(3)上記(1)又は上記(2)のヒータ制御装置において、
前記電力制御器は、前記カットオフ時間よりも短い時間に相当する電力を前記発熱体に供給する場合に前記第一制御方式を行ってもよい。
【0017】
上記形態は、電力制御の分解能が高く、小電力の制御が可能であるため、ウエハを所望の温度により一層制御し易い。
【0018】
(4)上記(1)から上記(3)のいずれかのヒータ制御装置において、
前記トリガ信号の時間幅が前記通過時間よりも短くてもよい。
【0019】
上記形態は、上記電流を出力する時間が上記トリガ信号の時間幅よりも長いものの、電力を細かく制御できる。
【0020】
(5)上記(1)から上記(4)のいずれかのヒータ制御装置において、
前記通過時間は、時間の長さが異なる複数の通過時間を有していてもよい。
【0021】
上記形態は、通過時間の長さが単一である場合に比較して、発熱体の電力制御の分解能が高く、小電力の制御が可能である。
【0022】
(6)上記(1)から上記(5)のいずれかのヒータ制御装置において、
前記基体は、円板状の形状を有し、
前記発熱体は、
前記基体の中心を含む領域に配置された第一発熱体と、
前記第一発熱体と同心状に配置された一つ以上の第二発熱体と、を有し、
前記電力制御器は、前記第一発熱体に供給される第一電力を制御する第一電力制御器を有し、
前記第一電力制御器が前記第一制御方式によって前記第一電力を制御してもよい。
【0023】
上記形態は、第一発熱体に供給される第一電力が第一制御方式によって制御されることで、通常の位相制御方式のみによって電力を制御する場合に比較して、第一電力を細かく制御できる。
【0024】
(7)上記(6)のヒータ制御装置において、
前記一つ以上の第二発熱体に供給される電流を測定する一つ以上の電流センサと、
前記第二発熱体の温度を求める演算器と、を備え、
前記電力制御器は、前記第二発熱体に供給される第二電力を制御する第二電力制御器を有し、
前記第二電力制御器は、前記第一電力に対して予め設定された比率となるように前記第二電力を前記第一制御方式により制御し、
前記演算器は、前記電流センサの測定値に基づいて前記第二発熱体の温度を演算してもよい。
【0025】
上記形態は、第二発熱体の温度が電流センサの測定値に基づいて演算器により求められる。そのため、第二発熱体又は第二発熱体が配置されるゾーンの温度を検知する温度センサがなくても第二発熱体の温度を把握できる。第二発熱体に供給される第二電力は、第一電力に対して予め設定された比率となるように制御される。上記形態は、第二電力が第一制御方式によって制御されることで、通常の位相制御方式のみによって電力を制御する場合に比較して、第二発熱体の温度を細かく制御することができる。その結果、第二発熱体の温度も高精度に把握することができる。
【0026】
(8)本開示の一態様の電力制御方法は、
負荷に供給される交流電力を制御する電力制御方法であって、
位相制御方式にサイクリック制御方式が組み合わされた第一制御方式によって前記交流電力を制御し、
前記位相制御方式は、交流電圧波形の半周期毎に、トリガ信号がスイッチング素子に入力される時刻と前記交流電圧波形のゼロクロス点との間である通過時間において前記スイッチング素子に電流を通過させ、
前記サイクリック制御方式は、前記交流電圧波形の半周期毎に、前記スイッチング素子を通過した前記電流の出力の可否を制御し、
前記通過時間は、前記ゼロクロス点の変動幅に対応して予め設定したカットオフ時間以上である。
【0027】
第一制御方式は、位相制御方式のみの場合に比較して、操作量MVを時間平均値として実効的に小さくできる。そのため、上記電力制御方法は、位相制御方式のみの場合に比較して、負荷に小電力を供給できる。よって、上記電力制御方法は、負荷の電力制御の分解能が高く、小電力の制御が可能なので、負荷を所望の温度に制御し易い。
【0028】
《本開示の実施形態の詳細》
本開示の実施形態のヒータ制御装置の詳細を以下に説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にする目的で表現されており、必ずしも実際の寸法関係等を表すものではない。
【0029】
《実施形態1》
〔ヒータ制御装置〕
図1から図4を参照して、実施形態1のヒータ制御装置1を説明する。このヒータ制御装置1は、ウエハの表面に薄膜を形成する成膜装置に利用できる。成膜装置は、雰囲気ガスの制御ができるチャンバー内にヒータ制御装置1のうち基体10及び支持体20が配置されている。チャンバーの図示は省略する。図1において、各発熱体30は基体10の周方向の一部に配置されていない箇所があるが、実際の装置では基体10の全体に満遍なく発熱体30が配置されている。
【0030】
[全体構成]
図1に示すように、本例のヒータ制御装置1は、基体10と、支持体20と、複数の発熱体30と、温度センサ40と、電流センサ50と、制御器60とを備える。基体10は、図3に示すように、加熱対象Wが載置される第一面10aと、第一面10aに向かい合う第二面10bとを備える。以下の説明では、基体10の第一面10a側を「上」とし、第二面10b側を「下」ということがある。支持体20は、基体10の下方に取り付けられている。複数の発熱体30は、図1及び図3に示すように、基体10の内部に配置されている。本例の複数の発熱体30は、一つの第一発熱体31と一つ以上の第二発熱体32とを備える。本例では、説明の便宜上、一つの第二発熱体32を備える場合を例として説明する。温度センサ40は第一発熱体31の温度を検知する。電流センサ50は、第一発熱体31に流れる第一電流を測定する第一電流センサ51と、第二発熱体32に流れる第二電流を測定する第二電流センサ52とを備える。制御器60は、主に第一発熱体31及び第二発熱体32に供給される電力を制御する。実施形態1のヒータ制御装置1の特徴の一つは、発熱体30に供給される電力を制御する特定の電力制御器63を有する点にある。以下、各構成をより詳しく説明する。
【0031】
[基体]
本例の基体10は、円板状の形状を有する。基体10は、第一面10aと第二面10bとを備える。第一面10aと第二面10bとは互いに向かい合っている。第一面10aには、図3に示す加熱対象Wが載置される。加熱対象Wは、例えば、シリコン又は化合物半導体のウエハである。第二面10bには、後述する支持体20が取り付けられている。第二面10bには、図3に示す複数の端子30tが嵌め込まれる複数の穴が設けられている。
【0032】
本例の基体10は、図2に示すように、同心状に複数の領域に区切られている。基体10は、内側領域10iと外側領域10eとに区切られている。内側領域10iは、基体10の中心を中心とした円形状の領域である。基体10の中心とは、基体10を第一面10a側から平面視した基体10の輪郭で構成された円の中心のことである。内側領域10iの直径は、例えば、基体10の直径の80%以下である。内側領域10iの直径が基体10の直径の80%以下であることで、第一発熱体31の外側に一つ以上の第二発熱体32を配置可能な面積を確保できる。内側領域10iの直径は、さらに、基体10の直径の50%以下である。内側領域10iの直径は、例えば、基体10の直径の10%以上である。第一発熱体31の直径が基体10の直径の10%以上であることで、基体10の中心に第一発熱体31を配置可能な面積を確保できる。即ち、内側領域10iの直径は、基体10の直径の10%以上80%以下、10%以上50%以下である。外側領域10eは、内側領域10iの外側に位置する環状の領域である。複数の領域に対応して、後述する複数の発熱体30が配置されている。
【0033】
基体10の材質は、例えば、公知のセラミックスである。セラミックスは、例えば、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化珪素である。基体10の材質は、上記セラミックスと金属との複合材料で構成されていてもよい。金属は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金である。本例の基体10の材質は、セラミックスである。
【0034】
[支持体]
支持体20は、図1及び図3に示すように、基体10を第二面10b側から支持している。支持体20は、ヒータ制御装置1を第一面10a側から平面視したときに図3に示す複数の端子30tを囲むように第二面10bに取り付けられている。支持体20の形状は、特に限定されない。本例の支持体20は、円筒状部材である。支持体20は、基体10と同心状に配置されている。本例では、円筒状の支持体20の中心と、円板状の基体10の中心とが同軸となるように、基体10と支持体20とが接続されている。
【0035】
支持体20の上端部は、図3に示すように、外側に屈曲したフランジ部21を備える。本例では、上端部のフランジ部21と第二面10bとの間には、図示しないシール部材が配置されている。上記シール部材によって、支持体20の内部はシールされている。本例とは異なり、上記シール部材を用いずに気密を保つために、フランジ部21と第二面10bとが接合されていてもよい。基体10及び支持体20が配置されるチャンバー内には、代表的には、腐食性ガスが充満される。支持体20の内部の気密が保たれることで、支持体20の内部に収納された複数の端子30tや複数の電力線30c等を腐食性ガスから隔離することができる。
【0036】
支持体20の材質は、基体10の材質と同様に、公知のセラミックスである。支持体20の材質と基体10の材質とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0037】
[第一発熱体及び第二発熱体]
一つの第一発熱体31と一つ以上の第二発熱体32とは、基体10を介して加熱対象Wを加熱する熱源である。第一発熱体31は、図1及び図3に示すように基体10の中心を含む円形状の領域、即ち図2に示す内側領域10iに配置されている。一つ以上の第二発熱体32は、図1及び図3に示すように基体10及び第一発熱体31と同心状に配置されている。一つ以上の第二発熱体32は、基体10の中心と同心状の環状の領域、即ち図2に示す外側領域10eに配置されている。第一発熱体31と一つ以上の第二発熱体32とは、基体10の厚さ方向に互いに間隔をあけて層状に配置されている。第二発熱体32が複数設けられている場合、個々の第二発熱体32も基体10の厚さ方向に間隔をあけて層状に配置されている。第一発熱体31及び一つ以上の第二発熱体32の各々は、図3に示す端子30tを介して電力線30cにつながっている。電力線30cを介して第一発熱体31及び一つ以上の第二発熱体32の各々には図示しない交流電源から電力が供給される。本例では第二発熱体32は一つである。後述する変形例1で示すように、第二発熱体32は複数設けられていてもよい。
【0038】
第一発熱体31及び第二発熱体32の形状は、特に限定されない。基体10を第一面10a側から平面視したとき、第一発熱体31及び第二発熱体32の外周輪郭線の形状は、一般的には円形である。第一発熱体31及び第二発熱体32は、基体10及び支持体20と同心状に配置されている。第一発熱体31と第二発熱体32とは互いに同心状に配置されている。ここでの同心状とは、ヒータ制御装置1を第一面10a側から平面視したとき、第一発熱体31と第二発熱体32の各々の包絡円が共通する中心を有し、かつ各包絡円の直径が異なることを言う。各包絡円の中心は、基体10の中心と一致する。第二発熱体32の包絡円の直径は、第一発熱体31の包絡円の直径よりも大きい。基体10を第一面10a側から平面視したとき、第一発熱体31と第二発熱体32は、上記の各包絡円の径方向に部分的に重なって配置されていてもよいし、重なることなく間隔をあけて配置されていてもよい。本明細書において、中心側とは包絡円の中心側のこと、外側とは中心から包絡円の径方向に離れる側のことを言う。
【0039】
第一発熱体31及び第二発熱体32は、図1及び図3に示すように、基体10の内部に配置されている。第一発熱体31は、基体10の厚さ方向で最も第一面10a側に位置する第一層に配置されている。第一発熱体31が上記第一層に配置されていることで、第一発熱体31と第二面10bとの間の長さを長く確保できる。また、第一発熱体31が上記第一層に配置されていることで、第一発熱体31が上記第一層以外の層に配置されている場合に比較して、第二発熱体32に接続された端子30tの位置の影響を受け難く、第一発熱体31を配置し易い。第二発熱体32は、第一発熱体31よりも第二面10b側に配置されている。
【0040】
各発熱体30の材質は、加熱対象Wを所望の温度に加熱できる材質であれば特に限定されない。各発熱体30の材質は、抵抗加熱に好適な公知の金属である。金属は、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、銀、銀合金、タングステン、タングステン合金、モリブデン、モリブデン合金、クロム、及びクロム合金からなる群より選択される1種である。ニッケル合金は、例えば、ニクロムである。
【0041】
各発熱体30は、例えば、スクリーン印刷法とホットプレス接合法とを組み合わせて製造できる。本例の場合、以下の手順で製造できる。3枚のセラミックス基板と、各発熱体30を転写できるスクリーンマスクとを用意する。スクリーンマスクは、第一発熱体31、第二発熱体32の各回路パターンを作製可能なものを用いる。2枚のセラミックス基板の各々に、作製する回路パターンのスクリーンマスクを置く。発熱体30となるペーストをスクリーンマスクが載せられたセラミックス基板に塗布する。スキージを使用して発熱体30をセラミックス基板に転写する。発熱体30の転写後、スクリーンマスクを除去する。以上により、第一発熱体31が転写された第一基板と、第二発熱体32が転写された第二基板とが得られる。第一基板、第二基板、及び発熱体を転写していないセラミックス基板を順に貼り合わせてホットプレスで接合する。この接合によって、基体10の内部に各発熱体30が配置される。
【0042】
[温度センサ]
温度センサ40は、第一発熱体31の第一温度を測定するセンサである。温度センサ40は、市販の熱電対や測温抵抗体が好適に利用できる。測温抵抗体は、例えば、白金測温抵抗体であるPT100である。
【0043】
温度センサ40の配置箇所は、基体10の内部である。本例では、基体10の内部のうち、基体10を平面視したとき、支持体20の内周面よりも内側の領域に温度センサ40が配置されている。つまり、支持体20を軸方向に見た場合、支持体20の内周面の輪郭線よりも内側に温度センサ40が位置されている。特に、温度センサ40は、第一発熱体31の近傍に配置されていてもよい。第一発熱体31の近傍に設置した温度センサ40で測定される温度は、第一発熱体31自体の温度ではなく、第一発熱体31が配置される基体10の内側領域10iの温度である。但し、内側領域10iの温度も第一発熱体31の第一温度とみなす。
【0044】
[電流センサ]
電流センサ50は、発熱体30に流れる電流を測定するセンサである。本例では、電流センサ50は、第一電流センサ51と第二電流センサ52とを備える。第一電流センサ51は、第一発熱体31に流れる第一電流を検知する。第二電流センサ52は、第二発熱体32に流れる第二電流を検知する。第二発熱体32が複数ある場合、第二電流センサ52は、各第二発熱体32に設けられる。第一電流センサ51は第一発熱体31につながる電力線30cに設けられている。第二電流センサ52は第二発熱体32につながる電力線30cに設けられている。電流センサ50は、市販のCT(Current Tansmitter)で代表されるセンサが利用できる。本例において、第一電流又は第二電流は、第一発熱体31又は第二発熱体32に流れる電流の実効値を所定時間内に平均化して電気的雑音を除去した値としている。
【0045】
[制御器]
制御器60は、ヒータ制御装置1の動作に必要な各部の制御を行う。制御器60は、第一温度調節器61と、電力制御器63と、演算器65と、メモリ66とを備える。制御器60による各処理は、1又は複数のプロセッサを含む処理回路(Circuitry)により実現される。上記処理回路は、上記1又は複数のプロセッサに加え、1又は複数のメモリ66、各種アナログ回路、各種デジタル回路が組み合わされた集積回路等で構成されてもよく、入出力I/F(Interface)を含んでもよい。メモリ66は、上記各処理を上記1又は複数のプロセッサに実行させるプログラム(命令)を格納する。メモリ66は、代表的にはROM(Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)である。上記1又は複数のプロセッサは、上記1又は複数のメモリ66から読み出した上記プログラムに従い上記各処理を実行してもよいし、予め上記各処理を実行するように設計された論理回路に従って上記各処理を実行してもよい。上記プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等、コンピュータの制御に適合する種々のプロセッサであってよい。なお物理的に分離した上記複数のプロセッサが互いに協働して上記各処理を実行してもよい。例えば物理的に分離した複数のコンピュータのそれぞれに搭載された上記プロセッサがLAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット等のネットワークを介して互いに協働して上記各処理を実行してもよい。上記プログラムは、外部のサーバ装置等から上記ネットワークを介して上記メモリにインストールされても構わないし、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、半導体メモリ等の記録媒体に格納された状態で流通し、上記記録媒体から上記メモリにインストールされても構わない。本例の電力制御器63は、第一電力制御器631と第二電力制御器632とを有する。上記プログラムは、第一温度調節器61、第一電力制御器631、第二電力制御器632、及び演算器65での処理に関するプログラムコードを含む。
【0046】
(第一温度調節器)
第一温度調節器61は、上記第一温度が目標温度に近づくように第一制御信号を出力する。第一温度調節器61での制御には、PID制御が利用できる。PID制御は、フィードバック制御の一種であり、入力値の制御を出力値と目標値との偏差(P)、その積分(I)、及び微分(D)の3つの動作によって行う制御方法である。偏差に応じた操作量を出力する比例動作によりハンチングの小さい滑らかな温度制御が行える。積分動作でオフセットを自動的に修正できる。微分動作で外乱に対する応答を速くすることができる。
【0047】
目標温度はユーザにより設定された温度である。第一温度調節器61は、目標温度と第一発熱体31の現在温度、即ち第一温度を元にPID演算を行って、第一制御信号を第一電力制御器631に出力する。
【0048】
(第一電力制御器)
第一電力制御器631は、第一制御信号に応じて第一発熱体31に供給される交流電力である第一電力を制御する。第一制御信号が入力された第一電力制御器631は、第一制御信号に対応した第一電力を第一発熱体31に供給する。第一電力の制御は、第一制御方式により行われる。第一制御方式とは、位相制御方式にサイクリック制御方式が組み合わされた制御方式である。
【0049】
位相制御方式は、交流電圧波形の半周期毎に、トリガ信号がスイッチング素子に入力される時刻と交流電圧波形のゼロクロス点である時刻との間である通過時間において、スイッチング素子に電流を通過させるように制御する方式である。より具体的な一例として、位相制御方式は、交流電圧波形の半周期毎に、トリガ信号がスイッチング素子に入力されるタイミングに応じて点弧角を制御することによって、導通角を変化させて交流電圧波形のゼロクロス点まで電流を通過させるように制御する方式である。
【0050】
スイッチング素子の具体例は、サイリスタ又はトライアックである。トライアックは、2個のサイリスタを逆並列に接続した素子である。トライアックは、1つのゲートの開閉で交流の双方向の電流を制御できるので効率が良い。トリガ信号とは、一定の時間幅の信号である。トリガ信号の時間幅は上記通過時間よりも短い。トリガ信号の具体例は、ゲート信号である。点弧角とは、スイッチング素子がオフされている時間である。導通角とは、スイッチング素子がオンされている時間である。ゼロクロス点は、検出器64によって検出される。検出器64は、第一電力制御器631に備わる。検出器64の具体例は、フォトカプラであってもよいし、フォトカプラを使用しないAC電圧ゼロクロス検知ICであってもよい。AC電圧ゼロクロス検知ICは、例えばROHM社のBM1ZxxxFJシリーズである。AC電圧ゼロクロス検知ICを用いることで、ゼロクロス検知の精度が高まる等の利点がある。
【0051】
上記通過時間は、スイッチング素子がオンになっている時間であって、実際に電流が流れている時間tMVである。上記通過時間は、カットオフ時間以上である。カットオフ時間とは、後述するように検出器64によって検出されるゼロクロス点の変動幅に対応して予め設定した時間である。ゼロクロス点の変動幅は、ヒータ制御装置1の使用環境に応じて変わる。そのため、カットオフ時間は、ヒータ制御装置1の使用環境に応じて適宜設定できる。ゼロクロス点の変動幅は、上記使用環境によるものの、例えば±3Hzに相当する時間幅以下である。例えば、周波数が60Hzのときの周波数の変動幅が±3Hzである場合、ゼロクロス点の変動幅は、57Hzの半周期の時間と60Hzの半周期の時間との差の絶対値と、63Hzの半周期の時間と60Hzの半周期の時間との差の絶対値との合計値であり、0.835msecである。この場合、カットオフ時間は0.835msecとする。即ち、周波数が60Hzであり、ゼロクロス点の変動幅の上限が±3Hzに相当する時間幅であるとすれば、カットオフ時間は0.835msec以下である。
【0052】
位相制御時の出力モードは、電圧比例自乗制御である。電圧比例自乗制御は、ゲートの開き具合に対応する操作量MV(%)に対して出力電圧の実効値Vrmsの自乗が比例するモードである。図4の操作位相角θ(deg)が180degのとき、操作位相角θ(%)は100%とする。操作量MV(%)と操作位相角θ(%)とは、MV=θ/100-(1/2π)sin(2θπ/100)の関係にある。
【0053】
サイクリック制御方式は、交流電圧波形の半周期毎に、スイッチング素子を通過した電流の出力の可否を制御する方式である。具体的な一例は、サイクリック制御方式は、ゼロクロス点において、ゲートをオン又はオフすることによって、電力の出力の可否を制御する方式である。つまり、サイクリック制御方式は、N回の半周期数のうちM回の出力割合で電流の出力を行う。Nは、平均電圧として制御対象に許容される時定数と制御の分解能を考慮して定められる。Nは、例えば5以上1200以下の整数であり、さらに5以上120以下の整数、特に10以上30以下の整数である。Mは、1以上N未満の整数である。
【0054】
第一電力とは、位相制御方式における上記通過時間とサイクリック制御方式における上記出力割合とで決まる電力である。第一電力は、第一電流と第一電圧との積により演算される。第一電流は、上述したように第一電流センサ51の測定値である。第一電圧は、第一発熱体31に印加される電圧である。具体的には、第一電力は、第一電圧の二乗を抵抗で除することにより演算される。より具体的には、第一電力は、後述するトランス80の一次側である電源の電圧の二乗を抵抗で除した値と操作量MV(%)との積により演算される。この演算は、後述する演算器65により求められる。
【0055】
特に、第一制御方式による第一電力の制御は、上記カットオフ時間よりも短い時間に相当する第一電力を第一発熱体31に供給する場合に行われると効果的である。制御の目的とする通過時間がカットオフ時間よりも短い場合には後述するように誤作動が生じ易い。カットオフ時間よりも短い時間に相当する電力を発熱体に供給する場合に第一制御方式を用いると、小電力の制御に特に有効である。電力制御器63の構成によっては、カットオフ時間以上の時間に対応する制御では位相制御方式のみを用いてもよい。本実施形態においては、電力の制御は常に第一制御方式によって行われる。
【0056】
第一制御方式を説明する前に、図4の上段図に基づいて、通常の位相制御方式を説明する。その次に、図4の下段図に基づいて、第一制御方式を説明する。図4の上段図及び下段図は、交流電源からの供給電圧の波形を正弦波として示している。図4における正弦波のうち、ハッチングで示される領域の電流が出力される。
【0057】
図4の上段図に示す通常の位相制御方式では、各半周期の所定の時刻に時間幅twのゲート信号がトライアックのゲートに入力されると、ゲートが開く。ゲートが開くことで、トライアックがオンになり電流が流れる。時間幅twは、一定である。時間幅twのゲート信号が入力された後、ゲート信号はオフになる。ゲート信号がオフになっても、トライアックはオンのままであり電流は流れ続ける。トライアックが電圧ゼロを感知すると、トライアックは自動的にオフになり電流は流れなくなる。各半周期において、トライアックがオンになっている時間が、実際に電流が流れている時間tMV(msec)である。ゲート信号を与えるタイミングにより、トライアックは所定の範囲で所望の電流を出力できる。ゲート信号を与えるタイミングが次のゼロクロス点を検出する時刻に近い地点であるほど、出力される電流が小さくなり、次のゼロクロス点を検出する時刻から遠い地点であるほど、出力される電流が大きくなる。
【0058】
ゲート信号がオンになってから時間幅twの経過前に検出器64がゼロクロス点を検出した場合、つまり、0<tMV<twの場合、時間幅twの間、ゲート信号をオンし続けていると、ゼロクロス点を超えて、再びトライアックがオンになる場合がある。したがって、ゼロクロス点を検出した時には、ゲート信号をオフにする。しかし、電圧波形が歪んでいる等によってゼロクロス点が検出されない場合がある。この場合、実際のゼロクロス点を超えてしまうと、トライアックが再びオンになり、半周期分の時間にわたって電流が流れ続けるという誤動作が生じる。
【0059】
そこで、次のゼロクロス点となる予定時刻に強制的にゲート信号をオフにすることで、上記誤動作が生じることを防止することも考えられる。次のゼロクロス点となる予定時刻とは、例えば60Hzの場合、現ゼロクロス点の約8.33msec後である。しかし、次のゼロクロス点の実際の時刻は、予定時刻よりも前の時刻になったり後の時刻になったりする。ゼロクロス点の時刻が変動する理由は、周波数が乱れる場合と、電圧波形が外乱によって変形する場合とがあるからである。時間tMVが小さい時に、次のゼロクロス点の実際の時刻が予定時刻よりも早く来た場合、上記誤動作が生じ易い。そこで、位相制御方式において制御の目的とする時間tMVは、実用上の最小の時間tMVが存在する。この最小の時間tMVに相当する時間を考慮して予め定める時間がカットオフ時間である。つまり、操作量MVが最小の時間tMVに相当する値よりも小さくなる時には、ゲート信号をオンにしない工夫が必要である。カットオフ時間は、制御対象となる交流電力の周波数ゆらぎに基づいて定めてもよい。また、カットオフ時間は、実際にヒータ制御装置1が制御対象とする交流電圧波形を実測してゼロクロス点の変動幅を求めることで定めてもよい。
【0060】
図4の下段図に基づいて、第一制御方式を説明する。第一制御方式の位相制御方式は、図4の上段図に基づいて上述した通常の位相制御方式の通りである。第一制御方式の位相制御方式において、半周期毎にゲート信号が入力される時刻は、「時刻t+半周期(msec)-時間tMV」の時刻である。時刻tとは、検出器64によってゼロクロス点が検知された時刻である。ゲート信号の時間幅twは、時間tMVよりも短くしている。サイクリック制御方式は、上述したように、トライアックを通過した半周期毎の電流の出力の可否を制御する。
【0061】
図4の下段図では、説明の便宜上、5周期分の波形を示している。ここでは、5周期を1単位として説明する。なお、1単位あたりの周期の数は適宜設定できる。第一制御方式は、1単位あたりの周期の数と、サイクリック制御方式によって1単位あたりに電流の出力を許可する数とによって、操作量MVを調整できる。
【0062】
図4の下段図に示す第一制御方式では、トライアックを通過した10個の半周期の電流のうち、サイクリック制御方式によって、8個の半周期の電流の出力が許可され、2個の半周期の電流の出力が拒否されている。これに対し、図4の上段図に示す通常の位相制御方式では、10個の半周期の各々において電流が出力されている。即ち、図4の下段図に示す第一制御方式の操作量MVは、図4の上段図に示す通常の位相制御方式の操作量MVの8/10倍である。半周期単位における時間tMVを通常の位相制御方式から変えなくても、第一制御方式における操作量MVは、通常の位相制御方式における最小の操作量MVの8/10倍となる。よって、第一制御方式は、通常の位相制御方式のみよりも、操作量MVを小さくできる。
【0063】
図示は省略しているものの、第一制御方式は、例えば、サイクリック制御方式によって、トライアックを通過した10個の半周期の電流のうち、1個の半周期の電流の出力を許可し、9個の半周期の電流の出力を拒否してもよい。この場合、操作量MVは、通常の位相制御方式のみの場合の1/10倍にできる。そのため、電力制御の分解能は、通常の位相制御方式のみの場合の10倍に高めることができる。例えば60Hzの交流電力、つまり1秒間に60サイクルの交流電力の制御を考える場合、120個の半周期を一単位として扱うことで、通常の位相制御方式における最小の操作量MVの1/120の細かさで制御することが可能である。
【0064】
第一電力制御器631は、第一制御方式のみを用いてもよい。又は、第一電力制御器631は、操作量MVを通常の位相制御方式のみの操作量MVよりも小さくするときにのみ第一制御方式を用い、操作量MVを通常の位相制御方式のみの操作量MVよりも大きくするときに通常の位相制御方式又は通常のサイクリック制御方式を用いてもよい。
【0065】
第一制御方式は、通常の位相制御方式のみの場合に比較して、ゼロクロス点が変動しても、操作量MVを時間平均値として実効的に小さくできる。そのため、第一発熱体31に供給される第一電力が第一制御方式によって制御されることで、通常の位相制御方式のみによって電力を制御する場合に比較して、第一制御方式は第一発熱体31に小さな第一電力を供給できる。よって、第一制御方式は、第一発熱体31の電力制御の分解能が高く、小電力の制御が可能なので、ウエハを所望の温度に制御し易い。
【0066】
(第二電力制御器)
第二電力制御器632は、第二発熱体32に供給される交流電力である第二電力を制御する。より具体的には、第二電力制御器632は、第一電力に対して予め設定された比率となるように第二電力を制御する。電力比率による制御は、電流比率による制御に比べて各発熱体30の自己発熱による抵抗値の変化の影響を受けにくい。そのため、第二発熱体32の温度を正確に把握できる。この比率は、ユーザが予め設定する比率である。例えば、第一電力:第二電力が1.0:0.8となるように比率が設定される。第二発熱体32が複数ある場合、個々の第二発熱体32の第二電力も第一電力に対して予め設定された比率となるように制御される。例えば、第二発熱体32が2つある場合、第一電力:第二電力A:第二電力B=1.0:0.8:0.6とする。第二電力Aは、2つの第二発熱体32のうち、一方の第二発熱体32に供給される第二電力である。第二電力Bは、2つの第二発熱体32のうち、もう一方の第二発熱体32に供給される第二電力である。
【0067】
発熱体30の昇温、温度保持、降温の一連の温度プロファイルにおいて、異なる比率を設定することができる。通常、この比率は、昇温時、温度保持時、及び降温時の各段階で異なる。昇温時及び降温時は、各段階の開始から終了までの間において、温度域によって比率が異なってもよい。例えば、室温から400℃までの間は第一電力:第二電力を1.0:0.8とし、400℃から450℃までの間は第一電力:第二電力を1.0:0.9とする。同じ電力比率で昇温して高温になると、発熱体30がセンターホットになり過ぎて、自身の面内温度分布の内外差による熱応力で破損する可能性がある。そのため、高温で第二電力の比率を上げてもよい。
【0068】
第二電力の制御も、第一電力の制御と同様に、第一制御方式、即ち位相制御方式にサイクリック制御方式が組み合わされた制御方式により行われる。上述したように、第一制御方式は、通常の位相制御方式のみの場合に比較して、操作量MVを小さくできる。そのため、第二発熱体32に供給される第二電力が第一制御方式によって制御されることで、第一電力と同様、第二発熱体32に小さな第二電力を供給できる。よって、第二発熱体32の電力制御の分解能が高く、小電力の制御が可能なので、ウエハを所望の温度に制御し易い。第二電力は第二電流と第二電圧との積により求められる。第二電流は、第二電流センサ52の測定値である。第二電圧は、第二発熱体32に印加される電圧である。この演算は次述する演算器65で行われる。
【0069】
(演算器)
演算器65は、制御器60で必要な各種演算を行う。上述したように、第一電力及び第二電力の演算はいずれも演算器65で行われる。さらに、演算器65は第二発熱体32の温度である第二温度の演算も行う。そのため、第二発熱体32の温度又は第二発熱体32に対応するゾーンの温度を検知する温度センサがなくても、第二発熱体32の温度を把握できる。
【0070】
第二発熱体32の第二温度は、第二発熱体32の抵抗と、予め求められた第二発熱体32の抵抗と温度との関係を示す係数とを用いて求められる。つまり、第二温度は、温度センサを用いて測定された値ではなく、第一発熱体31に供給される電力に基づいて演算された値である。第二発熱体32の抵抗は、第二発熱体32の第二電圧を第二発熱体32に流れる第二電流で除することにより求められる。係数は、後述する予備試験により予め求めておく。この係数は、第二発熱体32の抵抗と温度との関係を示す関係式も含む。係数は、メモリ66に記憶されている。予め第二発熱体32の抵抗と温度との関係が既知であれば、第二発熱体32の抵抗が求められると、この抵抗を上記関係と参照することで、第二発熱体32の第二温度を演算して求めることができる。
【0071】
(メモリ)
メモリ66は、プログラムを記憶するメモリとして、各種不揮発性メモリが好適に利用できる。また、メモリ66は、一連の演算に必要な値を一時的に記憶する揮発性メモリを含んでいてもよい。
【0072】
[その他の構成部材]
その他の部材として、ヒータ制御装置1は外部出力装置70及びトランス80を備える。
【0073】
外部出力装置70は、上記のように求められた第二発熱体32の第二温度を出力する機器である。外部出力装置70は、例えば、第二温度を文字で表示したり、第二温度の経時変化をグラフで表示したりするディスプレイである。他の外部出力装置70は、第二温度に所定の処理を施した処理結果を出力する機器であってもよい。この処理結果を示す機器は、例えば警報装置である。警報装置は、例えば第二温度が設定された所定の範囲から外れた場合に警報を出す装置である。警報は、ユーザに第二温度の異常を知らせることができるものであれば特に限定されない。具体的な警報の種類は、ディスプレイへの文字表示、ランプの点灯、ブザーの鳴動である。さらに他の外部出力装置70は、図示しない通信機器である。この通信機器は、遠隔地のユーザが持つ外部装置との通信を行う。例えば、第二温度の情報を通信機器で外部装置へ送ったり、上記警報を通信機器でフラグの状態変化として外部装置に伝えたりすることができる。この情報の伝送により、遠隔地のユーザは第二温度や警報を認知できる。
【0074】
トランス80は、図示しない電源と制御器60とを電磁気的に結合して、第一発熱体31及び第二発熱体32への電力を供給するための部材である。トランス80の一次側である電源側と、トランス80の二次側である制御器60側とは、電気的には接続されることがなく互いに絶縁されている。電源と制御器60とが絶縁されていることで、各発熱体30に対する電力を制御し易い。本例では、二次側の電力線30cを第一発熱体31と第二発熱体32の各々に分岐させることで発熱体30の各々に電力供給を行っている。即ち、第一発熱体31と第二発熱体32とは互いに電気的に絶縁されていない。第一発熱体31と第二発熱体32とが絶縁されていないことで、両発熱体30を絶縁する場合に比べてトランス80の数を削減できる。
【0075】
さらに、その他の部材として、ヒータ制御装置1は図示していない入力部を備えていてもよい。入力部は、ユーザが設定する各種条件を入力するためのデバイスである。各種条件には、第二電力を規定するために第一電力に対して予め設定された比率が含まれる。入力部には、例えばテンキー、キーボード、タッチパネルの公知の入力機器が利用できる。入力部から入力された各種条件は、メモリ66に記憶される。
【0076】
[処理手順]
図5図6に基づいて、上記ヒータ制御装置1の処理手順を説明する。各構成部材については図1を参照する。
【0077】
まず、図5に基づいて、第一電力を第一発熱体31に出力し、第二電力を第二発熱体32に出力するまでの処理手順を説明する。ステップS1において、温度センサ40から第一温度を取得し、さらに第一電流センサ51から第一電流を取得する。ステップS2では、第一温度が目標温度に近づくように第一温度調節器61が第一制御信号を出力する。ステップS3では第一電力制御器631は第一制御信号に対応した第一電力を第一発熱体31に出力する。そして、ステップS4では、演算器65で第二電力を演算し、さらに第二電力を第二電力制御器632から第二発熱体32に出力する。このステップS1からステップS4の一連の処理は、ヒータ制御装置1を駆動している間、一定間隔で繰り返して行われる。
【0078】
次に、図6に基づいて、第二温度を求めて出力するまでの処理手順を説明する。ステップS11では、第二電流センサ52により第二電流を取得する。ステップS12では、演算器65により、第二電流と第二電圧とから第二発熱体32の抵抗である第二抵抗を演算する。ステップS13では、演算された第二抵抗と、予め求められた第二発熱体32の抵抗と温度との関係を示す係数とを用いて、演算器65により第二温度を演算する。ステップS14では、求められた第二温度を外部出力装置70に出力する。
【0079】
[予備試験]
予備試験は、第二発熱体32の抵抗と温度との関係を示す係数を予め求めるための試験である。予備試験は、昇温時及び降温時と、温度保持時とで異なる手法により行うことが好適である。つまり、昇温時及び降温時と、温度保持時とで異なる係数を用いることが好適である。
【0080】
この係数を求めるための手法を説明する前に、昇温から降温に至るまでの温度プロファイルを図7に基づいて説明する。図7は、本例のヒータ制御装置1における第一発熱体31の温度の経時変化を示すグラフである。
【0081】
まず、昇温過程では、室温から所定の保持温度まで、ほぼ一定の割合で発熱体30の温度が上昇する。この昇温過程の昇温速度は、発熱体30が損傷しないような速度が選択される。
【0082】
温度保持過程では、ほぼ一定の温度に発熱体30の温度が保持される。温度保持過程には、基体10上にウエハを載せていない状態であるアイドル状態と、基体10上にウエハを載せて、そのウエハに成膜を行う状態である処理状態とが含まれる。アイドル状態では、成膜装置におけるガスの出入りや上述した各発熱体30に供給する電力の制御に伴って、ごく微細な温度変動が生じている。図7のグラフでは、アイドル状態を水平に延びる直線で示しているが、実際には後述するように、ごく僅かに温度変動が生じている。一方、処理状態では、基体10上にウエハを出し入れして複数枚のウエハに順次成膜を行っていくため、アイドル状態に比べてより大きな温度変動が生じている。処理状態での温度変化は、図7において、アイドル状態の直線に続く波線で示している。
【0083】
降温時は、保持温度から室温まで、ほぼ一定の割合で発熱体30の温度が下降する。この降温過程の降温速度は、発熱体30が損傷しないような速度が選択される。
【0084】
以上の温度プロファイルにおいて、まず昇温時と降温時の係数の求め方を説明し、その後で温度保持時の係数の求め方を説明する。
【0085】
(昇温時及び降温時)
昇温時及び降温時では、温度保持時に比べて単位時間当たりの温度変化量が大きい。この昇温時及び降温時、ウエハへの成膜処理は行われない。この場合、室温から保持温度までの温度域又は保持温度から室温までの温度域をより狭い温度域ごとに区切り、区切られた各温度域ごとに第二発熱体32の抵抗と温度との関係を求める。例えば、50℃から100℃の範囲を有する区切られた温度域ごとに第二発熱体32の抵抗と温度との関係を求める。より具体的には、昇温時であれば、50℃以上100℃以下の第一温度域、100℃以上200℃以下の第二温度域、200℃以上300℃以下の第三温度域、300℃以上400℃以下の第四温度域、及び400℃以上保持温度以下の第五温度域の各々について第二発熱体32の抵抗と温度との関係を求める。保持温度の一例は450℃である。例えば、第一温度域においては、50℃と100℃の二点における抵抗と温度との関係を求める。ここで、二点の測定点、即ち低温側の抵抗R(T1)における第二発熱体32の温度T1と、高温側の抵抗R(T2)における第二発熱体32の温度T2とは、比例の関係式で表される。この関係式を用いれば、抵抗Rの第二発熱体32の温度Tは次式で求められる。
T={(T2-T1)/(R(T2)-R(T1))}×(R-R(T1))+T1
但し、T1≦T≦T2、R(T1)≦R≦R(T2)である。
【0086】
降温時も昇温時と同様の考え方により、第二発熱体32の抵抗と温度との関係を求めておけばよい。このように、昇温時、降温時の各々の各過程で、室温から保持温度までの間の温度域又は保持温度から室温までの間の温度域をより小さな温度域に区分けする。そして、区分けされた狭い範囲の温度域ごとに第二発熱体32の抵抗と温度との関係を求めておく。そうすれば、区分けされた温度域ごとに異なる係数を用いることができる。そのため、より高精度に第二発熱体32の温度を求めることができる。
【0087】
これに対し、例えば、抵抗R(Tr)における第二発熱体32の温度、即ち室温Trと、抵抗R(Tk)における第二発熱体32の保持温度Tkも比例の関係式で表される。この関係式を用いれば、抵抗Rの第二発熱体32の温度Tは、次式で求められる。
T={(Tk-Tr)/(R(Tk)-R(Tr))}×(R-R(Tr))+Tr
但し、Tr≦T≦Tk、R(Tr)≦R≦R(Tk)である。
この場合、室温と保持温度との二点から求めた第二発熱体32の抵抗と温度との関係式では、その中間の温度での抵抗値はその二点間の線形補間では表せない。そのため、精度よく第二発熱体32の温度を求めることは難しい。
【0088】
(温度保持時)
温度保持時は、昇温時や降温時に比べて単位時間当たりの温度変化の割合はごく僅かである。よって、温度保持時は、昇温時や降温時よりも狭い温度帯域における第二発熱体32の抵抗と温度との関係を求めてもよい。温度保持過程には、上述したように加熱対象Wのないアイドル状態と加熱対象Wのある処理状態の2つの温度プロファイルが含まれる。この温度プロファイルを図8に基づいて説明する。
【0089】
図8は、第一発熱体の温度と第二発熱体の温度の経時変化を示すグラフである。第一発熱体31の温度は、第一電流と第一電圧とから求めた第一発熱体31の抵抗と上記係数とに基づいて求めた温度である。第二発熱体32の温度は、第二電流と第二電圧とから求めた第二発熱体32の抵抗と上記係数とに基づいて求めた温度である。このグラフでは、さらに温度センサ40の測定値の経時変化も併せて示している。いずれのグラフも互いに線が重なっている。さらにこのグラフでは、アイドル状態の過程をCase1とし、処理状態の過程をCase2として示している。このグラフに示すように、アイドル状態では、成膜装置のチャンバー内にガスの出入りが行われ、第一温度調節器61による温度制御の結果、ごく僅かの温度の上下動が認められる。これに対し、処理状態では、チャンバー内にウエハを出し入れするため、アイドル状態に比べてより大きな温度の上下動が認められる。図8のグラフは複数の線が重なって示されるため、例えば複数の線が重なって示されたアイドル状態における温度の振れ幅は大きく見える。しかし、個々のグラフの線の振れ幅はもっと小さい。特に、個々のグラフの振れ幅は、処理状態よりもアイドル状態の方が明確に小さい。このような温度保持過程においては、処理状態での温度プロファイルに基づいて係数を求める方法と、アイドル状態での温度プロファイルに基づいて係数を求める方法とがある。以下、それぞれを順に説明する。
【0090】
〈方法A(処理状態:加熱対象あり)〉
まず、処理状態の所定時間内における温度センサ40の測定値の経時変化から、最大温度Tmaxの時点における各発熱体30の抵抗値Rmax、及び最小温度Tminの時点における各発熱体30の抵抗値Rminを確認する。所定時間は、500秒から1000秒程度の範囲から選択する。本例での所定時間は600秒である。この所定時間内に1枚のウエハに成膜が行われる。図9は、図8の処理状態における温度変化の一部を拡大して示したものである。最小温度Tminは、成膜処理済みのウエハが取り出され、今から成膜処理を行う現ウエハが基体10上に載置されるまでの間のバレー温度である。最大温度Tmaxは現ウエハに対して成膜処理が行われている間のピーク温度である。図9では、最小温度Tminが449.4℃、最大温度Tmaxが450.3℃であることを示している。各発熱体30の抵抗値Rmax及び抵抗値Rminは、上記各時点における第一電圧を第一電流で除した値、又は上記各時点における第二電圧を第二電流で除した値である。これら最大温度Tmax、抵抗値Rmax、最小温度Tmin、及び抵抗値Rminを用いて各発熱体30の温度と抵抗値の関係式を求める。この関係式は、昇温時及び降温時で示した関係式と同様の考え方により求められる。
【0091】
方法Aでは、ウエハの処理状態における抵抗値Rmaxと最大温度Tmax並びに最小温度Tminと抵抗値Rminに基づいて関係式を求めるため、その関係式を用いて得られる第二発熱体32の温度は高精度に把握することができる。
【0092】
予備試験を上記方法Aにより発熱体30の抵抗と温度の関係を求めれば、実際の成膜を模擬した状態での温度プロファイルに基づいて上記関係が求められるため、高い精度で第二発熱体32の温度を把握することができる。
【0093】
〈方法B(処理状態:加熱対象あり)〉
まず、処理状態の所定時間内における各発熱体30の抵抗値の経時変化から、所定時間内の平均抵抗Raveを求める。所定時間は、例えば5000秒から10000秒程度の範囲から適宜選択する。本例では所定時間は8000秒である。この所定時間内には、10枚以上のウエハに成膜が行われている。次に、所定時間内の各発熱体30の抵抗の変化率ΔR/Rを予め設定しておく。最初に所定時間内の最大抵抗Rmax、最小抵抗Rminを求めておき、さらに最大抵抗Rmaxと最小抵抗Rminとの差分ΔR、及び差分ΔRの平均抵抗Raveに対する比率ΔR/Raveを求める。この比率ΔR/Raveを変化率ΔR/Rとする。例えば、ここでは変化率ΔR/Rを0.02とする。一方、温度センサ40の測定値についても同様に、所定時間内の平均温度Taveを求める。また、所定時間内における温度変化量ΔTを予め設定しておく。温度変化量ΔTも最初に所定時間内の最大温度Tmaxと最小温度Tminとの差分を温度変化量ΔTとして求めておく。例えば、ここでは温度変化量ΔTは0.88℃とする。比率ΔR/Rと温度変化量ΔTは、保持温度が大きく変わらなければ、発熱体30ごとにほぼ一定と考えられる。保持温度が大きく変わらないとは、例えば保持温度の変化量が100℃以下であることを言う。
【0094】
次回以降の成膜においては、各発熱体30の平均抵抗Raveと平均温度Taveとを求めればよい。つまり、次回以降における最大抵抗Rmax、最小抵抗Rmin、最大温度Tmax、最小温度Tminは、次のように求める。
ΔR=Rave×0.02
最大抵抗Rmax=Rave+ΔR/2
最小抵抗Rmin=Rave-ΔR/2
最大温度Tmax=Tave+ΔT/2
最小温度Tmin=Tave-ΔT/2
【0095】
このように、1回目の成膜前には、事前に最大抵抗Rmax、最小抵抗Rmin、最大温度Tmax、最小温度Tminを求める必要がある。しかし、2回目以降の成膜時には、既知である抵抗変化率ΔR/R及び温度変化量ΔTを用いて最大抵抗Rmax、最小抵抗Rmin、最大温度Tmax、最小温度Tminを求めることができる。これらの各パラメータが求められれば、その発熱体30の抵抗と温度の相関関係を求めることができる。
【0096】
〈方法C(アイドル状態:加熱対象なし)〉
まず、アイドル状態の所定時間内における各発熱体30の抵抗値の経時変化から、所定時間内の平均抵抗Raveを求める。所定時間は、例えば5000秒から10000秒程度の範囲から適宜選択する。本例では所定時間は10000秒である。次に、所定時間内の各発熱体30の抵抗の変化率ΔR/Rを予め設定しておく。最初に所定時間内の最大抵抗Rmax、最小抵抗Rminを求めておき、さらに最大抵抗Rmaxと最小抵抗Rminとの差分ΔR、及び差分ΔRの平均抵抗Raveに対する比率ΔR/Raveを求める。このΔR/Raveを抵抗変化率ΔR/Rとする。例えば、ここでは変化率ΔR/Rを0.02とする。一方、温度センサ40の測定値についても同様に、所定時間内の平均温度Taveを求める。また、所定時間内における温度変化量ΔTを予め設定しておく。温度変化量ΔTも最初に所定時間内の最大温度Tmaxと最小温度Tminとの差分を温度変化量ΔTとして求めておく。例えば、ここでは温度変化量ΔTは0.88℃とする。比率ΔR/Rと温度変化量ΔTは、保持温度が大きく変わらなければ、発熱体30ごとにほぼ一定と考えられる。保持温度が大きく変わらないとは、例えば保持温度の変化量が100℃以下であることを言う。
【0097】
次回以降の成膜においては、各発熱体30の平均抵抗Raveと平均温度Taveとを求めればよい。つまり、次回以降における最大抵抗Rmax、最小抵抗Rmin、最大温度Tmax、最小温度Tminは、次のように求める。
ΔR=Rave×0.02
最大抵抗Rmax=Rave+ΔR/2
最小抵抗Rmin=Rave-ΔR/2
最大温度Tmax=Tave+ΔT/2
最小温度Tmin=Tave-ΔT/2
【0098】
このように、1回目の成膜前には、事前に最大抵抗Rmax、最小抵抗Rmin、最大温度Tmax、最小温度Tminを求める必要がある。しかし、2回目以降の成膜時には、既知である抵抗変化率ΔR/R及び温度変化量ΔTを用いて最大抵抗Rmax、最小抵抗Rmin、最大温度Tmax、最小温度Tminを求めることができる。しかも、アイドル状態で加熱対象Wのない場合において取得した係数に基づいて第二発熱体32の温度を求められるため、係数を求めるのに際し、ウエハを用意する必要もない。これらの各パラメータが求められれば、その発熱体30の抵抗と温度の相関関係を求めることができる。
【0099】
温度保持時、その過程での最大温度と最小温度という微細な温度域に応じた係数を用いることで、正確に第二発熱体32の温度を求めることができる。
【0100】
予備試験時、基体10上にウエハを載せない状態で係数を求めることで、ウエハを用意する必要がない。また、予備試験時に、ウエハを成膜して係数を求める場合に比べて、ウエハの浪費を削減できる。
【0101】
予備試験を上記方法B及び方法Cにより発熱体30の抵抗と温度の関係を求めれば、2回目以降のヒータ制御装置1の運転時、実際に最大抵抗Rmax、最小抵抗Rmin、最大温度Tmax、最小温度Tminを測定する必要がない。そのため、より簡便に第二発熱体32の温度を求めることができる。
【0102】
《実施形態2》
〔ヒータ制御装置〕
図10を参照して、実施形態2のヒータ制御装置を説明する。図10では、図4と同様、説明の便宜上、5周期分の波形を示している。実施形態1では、第一制御方式において、上記通過時間の長さ、即ち時間tMVの長さが一様である例を説明した。これに対し、実施形態2では、第一制御方式において、上記通過時間の長さ、即ち時間tMVの長さが異なる複数の通過時間を含む。以下の説明は、主に実施形態1との相違点について行う。実施形態1との共通点の説明は省略する。
【0103】
本実施形態の複数の通過時間は、第一の通過時間と第二の通過時間の2つの通過時間を含む。第一の通過時間は時間tMV1である。第二の通過時間は時間tMV2である。時間tMV2は時間tMV1よりも短い。本実施形態とは異なる他の実施形態では、複数の通過時間は、時間tMVの長さが異なる3つ以上の通過時間を含んでいてもよい。
【0104】
図10に示す第一制御方式では、図4の下段図と同様、トライアックを通過した10個の半周期の電流のうち、サイクリック制御方式によって、8個の半周期の電流の出力が許可され、2個の半周期の電流の出力が拒否されている。出力が許可された8個の半周期の電流のうち、6個の半周期の各々において電流が流れている時間が時間tMV1であり、2個の半周期の各々において電流が流れている時間が時間tMV2である。この場合の操作量MVは、「(第一の操作量MV1×6+第二の操作量MV2×2)/10」である。第一の操作量MV1は、第一の通過時間である時間tMV1に相当する値である。第二の操作量MV2は、第二の通過時間である時間tMV2に相当する値である。図10に示す時間tMV1図4の下段図の時間tMVと同じである場合、図10に示す第一制御方式の操作量MVは、図4の下段図に示す第一制御方式の操作量MVよりも小さくなる。即ち、本実施形態のヒータ制御装置は、実施形態1のヒータ制御装置よりも発熱体の電力制御の分解能を高められ、小電力の制御が可能である。時間tMVの長さが異なる3つ以上の通過時間を含む他の実施形態によるヒータ制御装置であれば、さらに発熱体の電力制御の分解能を高められ、小電力の制御が可能である。
【0105】
《実施形態3》
〔ヒータ制御装置〕
図11を参照して、実施形態3のヒータ制御装置1を説明する。実施形態1では、第二発熱体32の温度である第二温度を把握したり、第二温度が異常な温度となることを監視したりできるヒータ制御装置1を説明した。これに対し、実施形態3では、上述した比率を変えることにより第二電力を制御することで、第二発熱体32の温度を制御することができるヒータ制御装置1を説明する。以下の説明は、主に実施形態1との相違点について行う。実施形態1との共通点の説明は省略する。
【0106】
実施形態3のヒータ制御装置1は、実施形態1の構成に加え、さらに第二温度調節器62を備えている。第二温度調節器62は、第二温度が目標温度に近づくように、上記比率を調整するための第二制御信号を出力する。この比率を調整するための制御もPID制御を利用することができる。第二制御信号に応じて、第二電力制御器632は、第二電力を求めるための比率を調整する。上記比率が第一電力:第二電力=1.0:0.8であったが、第二温度が目標温度よりも低い場合、第二電力を上げる必要がある。その場合、例えば、第一電力:第二電力=1.0:0.81に変更する。逆に第二温度が目標温度よりも高い場合、第二電力を下げる必要がある。その場合、例えば、第一電力:第二電力=1.0:0.79に変更する。この比率の変動幅は適宜設定できるが、変更前の第二電力の比率の5%以内程度としてもよい。上記の例であれば、変更前の第二電力の比率は0.8なので、変更後の第二電力の比率は0.76から0.84までの間で変更する。この比率の変動幅を逸脱するような電力の変動が起こった場合は、図示しない警報装置によってユーザに警報を発する。この警報により、ユーザは異常を検知して適宜対処することが可能となる。
【0107】
実施形態3における処理手順を図12に基づいて説明する。この処理手順は、図5のステップS3に続いて行われる。ステップS21では、第二温度調節器62により、第二温度が目標温度に近づくように、上記比率を調整するための第二制御信号を出力する。ステップS22では、演算器65により、調整された比率に応じた第二電力を演算する。そして、第二電力が第二電力制御器632より第二発熱体32に出力される。
【0108】
実施形態3のヒータ制御装置1は、第二発熱体32の第二温度を外部出力装置70に表示したりするだけでなく、第二発熱体32を温度制御することができる。
【0109】
《実施形態4》
〔ヒータ制御装置〕
実施形態4では、第二温度と第一温度との差が可及的にゼロになるように、第二電力を求めるための比率を制御する。実施形態4のヒータ制御装置の構成は図11で説明した実施形態3のヒータ制御装置1の構成と同じである。実施形態3では、温度センサ40で測定した温度Tsを第一発熱体31自体の温度Thとみなして第一温度としている。つまり、厳密には第一発熱体31の温度Thは温度センサ40で測定される温度Tsとは異なる。これは、温度Tsには、第一発熱体31自身の発熱による温度上昇分が過渡的に含まれるためである。
【0110】
より精密に各発熱体30の温度分布を制御するためには、第一温度及び第二温度には、発熱体30の自己発熱による微小な温度上昇分が含まれることを考慮する必要がある。そこで、第二温度と第一温度との差を第一面10a内の温度分布の差とみなす。また、厳密には、第一温度と第二温度はそれぞれ異なる目標温度がある。上記温度分布の差が第二温度と第一温度のそれぞれの目標温度の差になるように上記比率を調整して第二電力を制御することで、さらに精密な各発熱体30の温度制御が可能になる。実施形態3と同様に、この比率の変動幅を逸脱するような電力の変動が起こった場合は、図示しない警報装置によってユーザに警報を発する。この警報により、ユーザは異常を検知して適宜対処することが可能となる。
【0111】
《変形例1》
〔ヒータ制御装置〕
図13及び図14を参照して、変形例1のヒータ制御装置1を説明する。変形例1は実施形態1から実施形態4のいずれにおいても適用できる構成である。変形例1では、基体10において独立して温度制御されるゾーンが6つある。つまり、基体10には、基体10の中央部に位置する円形の内側領域10i、内側領域10iの外側に位置する中間領域10m、中間領域10mの外側に位置する外側領域10eが設けられている。さらに、変形例1では外側領域10eが基体10の周方向に分割されている。分割された外側領域10eに設けられる第二発熱体32の数は複数であればよい。本例での分割数は4つである。外側領域10eの各ゾーンは環状の領域を4等分した扇形のゾーンである。内側領域10iには第一発熱体31が、中間領域10mには一つの第二発熱体32が、外側領域10eには4つの第二発熱体32が設けられている。4等分された外側領域10eの各ゾーンの各々に第二発熱体32が配置されている。各発熱体30は供給される電力を独立して制御できる。そして、各々の発熱体30につながる各電力線30cに図示しない電流センサが設けられている。
【0112】
変形例1のヒータ制御装置1は、第二電力制御器632を用いることで、実施形態1から実施形態3よりも多くの発熱体30を用いて基体10の均熱化を実現できる。
【0113】
《変形例2》
〔ヒータ制御装置〕
図15を参照して、変形例2のヒータ制御装置1を説明する。変形例2は実施形態1の変形例であり、第一発熱体31と第二発熱体32とを絶縁した構成である。
【0114】
図15に示すように、変形例2では、第一発熱体31と電源との間及び第二発熱体32と電源との間にそれぞれ第一トランス81と第二トランス82とが設けられている。つまり、第一トランス81と第二トランス82の一次側は電源から分岐された電力線につながっている。一方、第一トランス81と第二トランス82の二次側は互いに独立した電力線30cにつながっている。そのため、第一発熱体31と第二発熱体32とは互いに絶縁されている。
【0115】
変形例2のヒータ制御装置1は、実施形態1と同様の効果に加え、第一発熱体31と第二発熱体32とをより確実に絶縁することができる。
【0116】
《変形例3》
〔ヒータ制御装置〕
図16を参照して、変形例3のヒータ制御装置1を説明する。変形例3は実施形態3又は実施形態4の変形例であり、第一発熱体31と第二発熱体32とを絶縁した構成である。
【0117】
図16に示すように、変形例3では、第一発熱体31と電源との間及び第二発熱体32と電源との間にそれぞれ第一トランス81と第二トランス82とが設けられている。つまり、第一トランス81と第二トランス82の一次側は電源から分岐された電力線につながっている。一方、第一トランス81と第二トランス82の二次側は互いに独立した電力線30cにつながっている。そのため、第一発熱体31と第二発熱体32とは互いに絶縁されている。
【0118】
変形例3のヒータ制御装置1は、実施形態3又は実施形態4と同様の効果に加え、第一発熱体31と第二発熱体32とをより確実に絶縁することができる。
【0119】
《実施例1》
実施例1では、実施形態1で説明した第一制御方式と通常の位相制御方式とによる電力制御能力の違いを説明する。
【0120】
本例では、60Hzの交流電圧波形において、1単位あたりの半周期数を15とした例を説明する。ゼロクロス点の変動幅を±3Hzに相当する時間に設定する。即ち、カットオフ時間を±3Hzに相当する時間とする。具体的なカットオフ時間は、57Hzの半周期の時間と60Hzの半周期の時間との差の絶対値と、63Hzの半周期の時間と60Hzの半周期の時間との差の絶対値との合計値である。本例のカットオフ時間は0.835msecとする。このカットオフ時間に相当する操作量MVが0.649%であるため、トライアックの最小の設定操作量MVは0.65%とする。即ち、設定操作量MVを0.65%以上にすることはできるものの0.65%未満とすることはできない。
【0121】
通常の位相制御方式では、設定操作量MVと設定操作量MVのときに作成される想定操作量MVとは互いに同じ値となる。通常の位相制御方式では、トライアックを通過した15個の半周期の電流が全て出力されるからである。即ち、通常の位相制御方式では、例えば設定操作量MVを0.65%とすれば、想定操作量MVは0.65%となる。想定操作量MVとは、実際に出力される電力となる。上述したように設定操作量MVを0.65%未満にできないため、通常の位相制御方式のみでは想定操作量MVを0.65%未満にできない。想定操作量MVが0.65%のときに出力される想定電力を30.0Wとすると、通常の位相制御方式では想定電力を30.0W未満にできない。
【0122】
一方、第一制御方式では、設定操作量MVと想定操作量MVとを互いに異ならせることもできる。第一制御方式では、上述したように設定操作量MVを0.65%未満にはできないものの、通常の位相制御方式とは異なり、表1に示すように想定操作量MVを0.65%未満にもできる。表1には、想定操作量MVを0.65%から0.05%まで0.01%単位で変えられる例を示している。本例の第一制御方式では、表1に示すように、想定電力を30.0W未満にもできる。表1には、想定電力を30.0Wから2.3Wまで0.5W又は0.4W単位で変えられる例を示している。出力回数とは、トライアックを通過した15個の半周期の電流のうち、サイクリック制御方式によって電流の出力が許可された回数である。出力しない回数とは、トライアックを通過した15個の半周期の電流のうち、サイクリック制御方式によって電流の出力が拒否された回数である。例えば出力回数が14回であり、出力しない回数が1回であるとは、トライアックを通過した15個の半周期の電流のうち、サイクリック制御方式によって14個の半周期の電流の出力が許可され、1個の半周期の電流の出力が拒否されたことを意味する。
【0123】
例えば、表1の上から2段目に示すように、設定操作量MVを0.69%とし、出力回数を14回、出力しない回数を1回としたとき、想定操作量MVを0.64%(=0.69×(14/15))とすることができる。想定操作量MVが0.64%のときの想定電力は、29.5W(=30.0×(0.64/0.65))である。このように、位相制御方式による設定操作量MVとサイクリック制御方式による出力の制御の組み合わせによって、所望の電力を高分解能で出力することが可能である。
【0124】
【表1】
【0125】
このように、実施例1の第一制御方式によれば、カットオフ時間を±3Hzに相当する時間とすることで、上述した誤動作が生じることなく、かつ通常の位相制御方式に比較して想定操作量MVの分解能を高めることができ、小電力の制御ができた。なお、ヒータ制御装置1において第一制御方式であっても、±4Hzに相当する周波数変動を与えた場合には、上述した誤動作が生じた。
【0126】
《実施例2》
実施例2では、実施形態2で説明した第一制御方式による電力制御能力を説明する。
【0127】
本例では、実施例1と同様、60Hzの交流電圧波形において、1単位あたりの半周期数を15とした例を説明する。ゼロクロス点の変動幅を±3Hzに相当する時間に設定する。即ち、カットオフ時間を±3Hzに相当する時間とする。上述したように本例のカットオフ時間は0.835msecとする。このカットオフ時間に相当する操作量MVが0.649%であるため、トライアックの最小の設定操作量MVは0.65%とする。即ち、設定操作量MVを0.65%以上にすることはできるものの0.65%未満とすることはできない。
【0128】
本例の第一制御方式では、実施例1と同様、表2に示すように想定操作量MVを0.650%未満にもできる。本例では、実施例1とは異なり、表2に示すように想定操作量MVを0.650%から0.043%まで0.001%単位で変えられる例を示している。本例の第一制御方式では、表2に示すように、想定電力を30.00W未満にもできる。表2には、想定電力を30.00Wから1.98Wまで0.05W又は0.04W単位で変えられる例を示している。本例では、表2に示すように、設定操作量を第一の設定操作量MV1と第二の設定操作量MV2の2つの異なる設定操作量とする。MV1の出力回数とは、トライアックを通過した15個の半周期の電流のうち、サイクリック制御方式によって第一の設定操作量MV1に相当する電流の出力が許可された回数である。MV2の出力回数とは、トライアックを通過した15個の半周期の電流のうち、サイクリック制御方式によって第二の設定操作量MV2に相当する電流の出力が許可された回数である。出力しない回数とは、トライアックを通過した15個の半周期の電流のうち、サイクリック制御方式によって電流の出力が拒否された回数である。例えばMV1の出力回数が11回、MV2の出力回数が2回、出力しない回数が2回であるとは、トライアックを通過した15個の半周期の電流のうち、サイクリック制御方式によって11個の半周期の第一の設定操作量MV1に相当する電流の出力が許可され、2個の半周期の第二の設定操作量MV2に相当する電流の出力が許可され、2個の半周期の電流の出力が許可されなかったことを意味する。
【0129】
例えば、表2の上から2段目に示すように、第一の設定操作量MV1を0.75%、第二の設定操作量MV2を0.74%とし、MV1の出力回数を11回、MV2の出力回数を2回、出力しない回数を2回としたとき、想定操作量MVを0.649%(=(0.75×11+0.74×2)/15)とすることができる。想定操作量MVが0.649%のときの想定電力は、29.95W(=30.00×(0.649/0.650))である。このように、位相制御方式による第一の設定操作量MV1及び第二の設定操作量MV2とサイクリック制御方式による出力の制御の組み合わせによって、所望の電力を高分解能で出力することが可能である。
【0130】
【表2】
【0131】
このように実施例2の第一制御方式によれば、上述した誤動作が生じることなく、実施例1に比較して、想定操作量MVの分解能を1桁高めることができ、小電力の制御ができた。
【0132】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、第一制御方式は、逆位相制御方式にサイクリック制御方式を組み合わせた制御方式であってもよい。逆位相制御方式は、トリガ信号がスイッチング素子に入力されるタイミングを制御することで、交流電圧波形の半周期毎にスイッチング素子を通過した電流を遮断させるように制御する方式である。サイクリック制御方式は、スイッチング素子を通過した半周期毎の電流の出力の可否を制御する方式である。
【符号の説明】
【0133】
1 ヒータ制御装置
10 基体、10a 第一面、10b 第二面
10i 内側領域、10m 中間領域、10e 外側領域
20 支持体、21 フランジ部
30 発熱体、31 第一発熱体、32 第二発熱体
30t 端子、30c 電力線
40 温度センサ
50 電流センサ、51 第一電流センサ、52 第二電流センサ
60 制御器
61 第一温度調節器、62 第二温度調節器、63 電力制御器
631 第一電力制御器、632 第二電力制御器
64 検出器、65 演算器、66 メモリ
70 外部出力装置
80 トランス、81 第一トランス、82 第二トランス
W 加熱対象
tw 時間幅、tMV、tMV1、tMV2 時間、θ 操作位相角
図1
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図3
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