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特許7398080レアメタルの浸出方法、レアメタルの分離方法及びレアメタル抽出用抽出剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】レアメタルの浸出方法、レアメタルの分離方法及びレアメタル抽出用抽出剤
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20231207BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20231207BHJP
   B01D 11/02 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/04
B01D11/02 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019166322
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021042444
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 絢祐
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/121086(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸と水とからなる溶液にレアメタルを含む物質を入れ、水熱処理する、レアメタルの浸出方法。
【請求項2】
前記アミノ酸は中性アミノ酸である、請求項1に記載のレアメタルの浸出方法。
【請求項3】
前記レアメタルが、コバルト、ニッケルのいずれかである、請求項1又は2に記載のレアメタルの浸出方法。
【請求項4】
アミノ酸を含む溶液に複数種のレアメタルを含む物質を入れ、第1条件で水熱処理する第1水熱処理と、
前記第1水熱処理後の水溶液を第1浸出液と第1濾物とに濾別する第1濾別処理と、
アミノ酸を含む溶液に前記第1濾物を入れ、前記第1条件より厳しい条件で水熱処理する第2水熱処理と、
前記第2水熱処理後の水溶液を第2浸出液と第2濾物とに濾別する第2濾別処理と、を有する、レアメタルの分離方法。
【請求項5】
前記第2水熱処理の温度は前記第1水熱処理の温度より高い、請求項4に記載のレアメタルの分離方法。
【請求項6】
アミノ酸と水とからなるレアメタル浸出用浸出剤であって、水熱処理によりレアメタルを含む物質からレアメタルを浸出する際に用いられる、レアメタル浸出用浸出剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レアメタルの浸出方法、レアメタルの分離方法及びレアメタル抽出用抽出剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車、モバイルバッテリー等の需要の増加に伴い、リチウムイオン二次電池の需要が増加している。リチウムイオン二次電池は、正極活物質等にCo、Ni、Mn、Li等のレアメタルを含んでいる。しかしながら、これらのレアメタルを含む鉱石は、地球上に偏在している。例えば、Coはコンゴが主要産地であり、鉱石生産量の50%近くを占める。生産国に予期せぬ天災や政情不安が生じると、レアメタルの安定供給を確保することが難しくなる。
【0003】
レアメタルの安定供給を実現する一つの手段として、使用済みリチウムイオン二次電池からレアメタルを取り出し、再利用する方法が検討されている。例えば、酸と還元剤とを含む溶液に金属成分を浸出させる湿式精錬法は、レアメタルを浸出させ取り出す方法の一つである。一方で、湿式精錬法は、大量の酸及び還元剤が必要であり、浸出に要する反応時間が長く、プロセス効率が低く、環境負荷も大きい。
【0004】
非特許文献1には、水熱処理を利用したレアメタルの浸出方法が記載されている。非特許文献1には、硫酸、硝酸又はクエン酸を用いて、コバルト酸リチウムからコバルトを浸出させ、取り出すことができることが記載されている。クエン酸を用いた水熱処理は、酸濃度が低く、還元剤を添加しない条件でも、良好にコバルトを取り出すことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】相川達也、渡邉賢、相田卓、Richard L. Smith Jr. 化学工業論文集、第43巻、第4号、pp.313-318、2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載のクエン酸を用いた水熱処理は、環境負荷も小さく、良好にコバルトを抽出できる。しかしながら、技術は日々進歩するものであり、非特許文献1に記載の方法よりさらに安価、かつ、より効率的にレアメタルを溶液中に浸出できる新たな方法が模索されている。すなわち、安価、かつ、より効率的にレアメタルを抽出できる新たな方法が求められている。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、新たなレアメタルの浸出方法及びレアメタルの分離方法を提供することを目的とする。また新たなレアメタルの抽出剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アミノ酸を用いて水熱処理を行うと、レアメタルを溶液中に浸出できることを見出した。すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0009】
(1)第1の態様にかかるレアメタルの浸出方法は、アミノ酸と水とからなる溶液にレアメタルを含む物質を入れ、水熱処理する。
【0010】
(2)上記態様にかかるレアメタルの浸出方法において、前記アミノ酸は中性アミノ酸であってもよい。
【0011】
(3)上記態様にかかるレアメタルの浸出方法において、前記レアメタルが、コバルト、ニッケルのいずれかであってもよい。
【0012】
(4)第2の態様にかかるレアメタルの分離方法は、アミノ酸を含む溶液に複数種のレアメタルを含む物質を入れ、第1条件で水熱処理する第1水熱処理と、前記第1水熱処理後の水溶液を第1浸出液と第1濾物とに濾別する第1濾別処理と、アミノ酸を含む溶液に前記第1濾物を入れ、前記第1条件より厳しい条件で水熱処理する第2水熱処理と、前記第2水熱処理後の水溶液を第2浸出液と第2濾物とに濾別する第2濾別処理と、を有する。
【0013】
(5)上記態様にかかるレアメタルの分離方法において、前記第2水熱処理の温度は前記第1水熱処理の温度より高くてもよい。
【0014】
(6)第3の態様にかかるレアメタル浸出用浸出剤は、アミノ酸と水とからなるレアメタル浸出用浸出剤であって、水熱処理によりレアメタルを含む物質からレアメタルを浸出する際に用いられる。
【発明の効果】
【0015】
新たなレアメタルの浸出方法及びレアメタルの分離方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例に用いた装置の模式図である。
図2】実施例1におけるLi及びCoの浸出率の反応条件依存性を示すグラフである。
図3】実施例1におけるCo錯体量の反応条件依存性を示すグラフである。
図4】実施例1におけるCo錯体量の反応条件依存性を示すグラフである。
図5】実施例2におけるLi及びNiの浸出率の反応条件依存性を示すグラフである。
図6】実施例2におけるNi錯体量の反応条件依存性を示すグラフである。
図7】実施例3におけるLi及びMnの浸出率の反応条件依存性を示すグラフである。
図8】実施例4におけるLi及びCoの浸出率の反応条件依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
「レアメタルの浸出方法」
本実施形態にかかるレアメタルの浸出方法は、アミノ酸を含む溶液にレアメタルを含む物質を入れ、水熱処理する方法である。
【0019】
まずレアメタルを含む物質を準備する。レアメタルは、Li、Be、B、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Ga、Ge、Se、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、In、Sb、Te、Cs、Ba、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、Ta、W、Re、Pt、Tl、Biである。
【0020】
レアメタルは、アミノ酸と錯体を形成しやすいことが好ましい。アミノ酸と錯体を形成しやすいレアメタルは、例えば、コバルト、ニッケルである。アミノ酸と錯体を形成しやすいとは、反応温度120℃以上180℃以下、反応時間5分以上90分以下、アミノ酸の濃度0.5Mの条件で水熱処理した場合に、レアメタルが錯体を形成できることを意味する。錯体の形成は、処理後の浸出液を紫外可視分光法により測定した際の錯体由来のピークの有無で確認できる。
【0021】
レアメタルを含む物質は、例えば、使用済みリチウムイオン二次電池の正極材である。レアメタルを含む物質は、使用済みリチウムイオン二次電池の正極材に限られない。レアメタルを含む物質は、例えば、レアメタルの酸化物又はリチウム複合酸化物である。レアメタルを含む物質は、レアメタルを1種以上含む。レアメタルを含む物質が2種以上のレアメタルを含む場合、レアメタルを含む物質は、1つの化合物中に2種のレアメタルを含んだものでも、異なるレアメタルを含む化合物が混合されたものでもよい。
【0022】
レアメタルを含む物質は、例えば、コバルト、ニッケル、マンガンからなる群から選択される1種以上の元素を含む。レアメタルを含む物質は、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn、又は、これらの混合物である。
【0023】
次いで、アミノ酸を含む溶液を準備する。アミノ酸を溶解する溶媒は、水である。アミノ酸を水に溶解することでアミノ酸を含む溶液が得られる。
【0024】
アミノ酸は中性アミノ酸であることが好ましい。溶液中のアミノ酸の濃度が高い場合でも、中性アミノ酸であれば溶液のpHを中性に保つことができる。溶液のpHが中性であれば、環境負荷も小さく、反応器の腐食等も抑制できる。中性アミノ酸は、分子内にアミノ基とカルボキシ基を1つずつ有するアミノ酸である。中性アミノ酸は、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンである。
【0025】
またアミノ酸は、水熱処理時に熱変性しにくいことが好ましい。熱変性しにくいアミノ酸は、例えば、グリシン、アラニンである。またアミノ酸は、側鎖が短く、分子量が小さいことが好ましい。側鎖が短く分子量の小さいアミノ酸は、溶液に溶解しやすく、溶液中で動きやすいため、レアメタルとの反応性が向上する。アミノ酸の側鎖を構成する炭素元素の数は、例えば、3以下であることが好ましい。アミノ酸は、アラニン又はグリシンであることが特に好ましい。またアラニン及びグリシンは、安価であり、入手しやすい。
【0026】
アミノ酸を含む溶液におけるアミノ酸の量は、溶液に入れる物質に含まれるレアメタルの量によって決定される。溶液に含まれるアミノ酸の量は、例えば、レアメタルとの錯体反応に必要分より過剰にする。1つのレアメタルに対してアミノ酸は、1配位から3配位して錯体を形成する。アミノ酸のモル比は、例えば、溶液に入れる物質に含まれるレアメタルのモル比の1.5倍以上とすることが好ましい。
【0027】
次いで、準備したアミノ酸を含む溶液に、レアメタルを含む物質を入れ、水熱処理を行う。
【0028】
水熱処理は、高温高圧の熱水の存在下で行われる処理のことである。高温高圧中では、水の電離が進み、水中の水素イオン濃度が高まる。水素イオンは、レアメタルの価数を小さくし(例えば、Co3+をCo2+にし)、レアメタルの溶液中への浸出が促進される。
【0029】
水熱処理の温度は、常温より高い温度であり、例えば90℃以上である。水熱処理の圧力は、処理温度において水が液体の状態を保つことができる圧力である。圧力は、外部から印加してもよいし、閉空間内で水熱処理を行うことで、溶液の蒸気によって閉空間内の圧力(蒸気圧)を高めてもよい。水熱処理の圧力は、例えば、1MPa以上である。水熱処理の雰囲気は、例えば、不活性ガス雰囲気である。不活性ガスは、例えば、窒素、アルゴンである。水熱処理は、大気雰囲気中で行ってもよい。
【0030】
水熱処理の反応温度、反応時間は、レアメタルの種類によって自由に設定できる。例えば、ニッケルはコバルトよりアミノ酸と錯体を形成しやすく、コバルトはマンガンよりアミノ酸と錯体を形成しやすい。レアメタルがニッケルの場合は反応温度を90℃以上にすることが好ましく、レアメタルがコバルトの場合は反応温度を120℃以上にすることが好ましく、レアメタルがマンガンの場合は反応温度を150℃以上にすることが好ましい。レアメタルがニッケルの場合は反応時間を5分以上にすることが好ましく、レアメタルがコバルトの場合は反応時間を30分以上にすることが好ましく、レアメタルがマンガンの場合は反応時間を60分以上にすることが好ましい。
【0031】
水熱処理の際は、溶液を攪拌してもよい。溶液の攪拌は、レアメタルとアミノ酸との錯体反応を促進する。攪拌は、例えばスターラーで行う。また溶液中に還元剤を別途添加してもよい。水熱合成は水の電離が進み、水中の水素イオン濃度が高いため、還元剤は基本的には不要である。しかしながら、溶液中に還元剤を添加することを否定するものではない。還元剤は、例えば、過酸化水素である。還元剤の添加量は、例えば、湿式精錬法と比較して少量となる。
【0032】
アミノ酸を含む溶液にレアメタルを含む物質を入れ、水熱処理をするとアミノ酸に含まれるカルボキシ基又はアミノ基は、物質に含まれるレアメタルに配位する。アミノ酸がレアメタルに配位すると、アミノ酸とレアメタルの錯体が形成される。例えば、グリシンとコバルトの錯体であるCo(II)-グリシン錯体、Co(III)-グリシン錯体、グリシンとニッケルの錯体であるNi(II)-グリシン錯体、Ni(III)-グリシン錯体、はいずれも水溶性である。そのため、物質に含まれるレアメタルは錯体として溶液中に浸出する。
【0033】
また水熱処理は、水の電離を促進し、水中の水素イオン濃度が高まる。水素イオンは、レアメタルを還元する。レアメタルは還元されると、溶解度が高まるため、レアメタルの浸出がより促される。その結果、本実施形態にかかるレアメタルの浸出方法によれば、レアメタルを溶液中に効率的に浸出させることができる。また本実施形態にかかるレアメタルの浸出方法は、アミノ酸を用いるため、環境負荷も小さい。
【0034】
最後に、処理後の浸出液を濾過する。濾過後の浸出液(濾液)には、レアメタルが含まれる。以上の手順で、レアメタルを含む物質からレアメタルを抽出できる。
【0035】
「レアメタルの分離方法」
本実施形態に係るレアメタルの分離方法は、第1水熱処理と、第1濾別処理と、第2水熱処理と、第2濾別処理と、をこの順で行う。本実施形態に係るレアメタルの分離方法は、複数種のレアメタルを含む物質からそれぞれのレアメタルを分けて取り出すことができる。
【0036】
まず第1水熱処理を行う。第1水熱処理は、アミノ酸を含む溶液に複数種のレアメタルを含む物質を入れ、第1条件で水熱処理する。複数種のレアメタルを含む物質は、1つの化合物中に2種のレアメタルを含んだものでも、異なるレアメタルを含む化合物が混合されたものでもよい。溶液に含まれるアミノ酸、物質に含まれるレアメタル、水熱処理の条件等は、上記のレアメタルの浸出方法と同様である。
【0037】
第1条件は、複数種のレアメタルのうち最もアミノ酸と錯体を形成しやすいレアメタルに合わせた条件とする。すなわち、第1条件は、複数種のレアメタルのうち最もアミノ酸と錯体を形成しやすいレアメタルは浸出するが、複数種のレアメタルのうち二番目にアミノ酸と錯体を形成しやすいレアメタルは浸出しにくい条件とする。浸出しにくい条件とは、例えば、浸出率が50%を下回る条件である。
【0038】
例えば、複数種のレアメタルを含む物質がコバルトとニッケルとマンガンを含む物質の場合、ニッケルは浸出するが、コバルト及びマンガンは浸出しにくい条件を第1条件とする。例えば、第1水熱処理の条件を、反応温度を120℃とし、反応時間を5分とする。この条件の場合、ニッケルは溶液中に浸出するが、コバルト及びマンガンは溶液中にほとんど浸出しない。
【0039】
次いで、第1濾別処理を行う。第1濾別処理は、第1水熱処理後の水溶液を濾別する。第1水熱処置後の水溶液を濾別すると、第1浸出液と第1濾物とが得られる。第1浸出液は、第1水熱処理で溶液中に浸出したレアメタルを含む。第1水熱処理で溶液中に浸出したレアメタルは、アミノ酸と錯体を形成し、溶液中に溶解している。第1濾物は、第1水熱処理で溶液中に浸出しなかったレアメタルを含む。例えば、複数種のレアメタルを含む物質がコバルトとニッケルとマンガンを含む物質の場合、ニッケルは第1浸出液に含まれ、コバルト及びマンガンは第1濾物に含まれる。第1濾別処理を行うと、複数種のレアメタルのうちの一つ(例えば、ニッケル)が第1浸出液として抽出される。
【0040】
次いで、第2水熱処理を行う。第2水熱処理は、アミノ酸を含む溶液に第1濾物を入れ、第2条件で水熱処理する。溶液に含まれるアミノ酸、物質に含まれるレアメタル、水熱処理の条件等は、上記のレアメタルの浸出方法と同様である。第2水熱処理に用いるアミノ酸は、第1水熱処理に用いるアミノ酸と同じでも異なっていてもよい。
【0041】
第2条件は、第1条件より厳しい条件とする。例えば、第2水熱処理の温度を第1水熱処理の温度より高くする。また例えば、第2水熱処理の反応時間を第1水熱処理の反応時間より長くする。また例えば、第2水熱処理のアミノ酸の濃度を第1水熱処理のアミノ酸の濃度より高くする。また例えば、第2水熱処理のアミノ酸の種類を第1水熱処理のアミノ酸の種類と変更する。
【0042】
例えば、第2条件は、複数種のレアメタルのうち二番目にアミノ酸と錯体を形成しやすいレアメタルに合わせた条件とする。すなわち、第2条件は、複数種のレアメタルのうち二番目にアミノ酸と錯体を形成しやすいレアメタルは浸出するが、複数種のレアメタルのうち三番目にアミノ酸と錯体を形成しやすいレアメタルは浸出しにくい条件とする。
【0043】
例えば、複数種のレアメタルを含む物質がコバルトとニッケルとマンガンを含む物質の場合、コバルトは浸出するが、マンガンは浸出しにくい条件を第2条件とする。例えば、第2水熱処理の条件を、反応温度を165℃とし、反応時間を30分とする。この条件の場合、コバルトは溶液中に浸出するが、マンガンは溶液中に浸出しにくい。なお、ニッケルは第1水熱処理で既に浸出しており、第1濾物にはほとんど含まれていない。
【0044】
次いで、第2濾別処理を行う。第2濾別処理は、第2水熱処理後の水溶液を濾別する。第2水熱処置後の水溶液を濾別すると、第2浸出液と第2濾物とが得られる。第2浸出液は、第2水熱処理で溶液中に浸出したレアメタルを含む。第2水熱処理で溶液中に浸出したレアメタルは、アミノ酸と錯体を形成し、溶液中に溶解している。第2濾物は、第2水熱処理で溶液中に浸出しなかったレアメタルを含む。例えば、第1濾物がコバルトとマンガンを含む場合、コバルトは第2浸出液に含まれ、マンガンは第2濾物に含まれる。第2濾別処理を行うと、複数種のレアメタルのうちの一つ(例えば、コバルト)が第2浸出液として抽出される。また複数種のレアメタルのうち一つ(例えば、マンガン)が第2濾物として抽出される。
【0045】
つまり、本実施形態にかかるレアメタルの抽出方法を用いると、第1のレアメタル(例えば、ニッケル)は第1浸出液として抽出され、第2のレアメタル(例えば、コバルト)は第2浸出液として抽出され、第3のレアメタル(例えば、マンガン)は第2濾物として抽出される。
【0046】
第1浸出液及び第2浸出液からレアメタルを抽出する際は、レアメタルの錯体を抽出できる溶剤で、錯体を逆抽出する。例えば、二酸化炭素を用いてレアメタルを逆抽出する。例えば、レアメタルの水酸化物が逆抽出により溶液中に沈殿する。沈殿物を分離し、焼成することで、レアメタルの酸化物が得られる。また第2濾物からレアメタルを抽出する際は、例えば、第2水熱処理より厳しい条件で水熱処理を行ってもよいし、湿式精錬法を用いてもよい。そして、得られた抽出液からレアメタルを抽出する際は、第1浸出液からレアメタルを抽出する方法と同様の手順で行うことができる。
【0047】
ここまで、物質に含まれるレアメタルの種類が3種類の場合を例に説明したが、レアメタルの種類が4種以上の場合は水熱処理と濾別処理とをさらに繰り返すことで、それぞれのレアメタルを分離できる。なお、水熱処理の処理条件は、先の条件より厳しくし、段階的に厳しくしていく。
【0048】
上述のように、本実施形態に係るレアメタルの分離方法によれば、複数種のレアメタルを含む物質からそれぞれのレアメタルを分離して抽出できる。
【0049】
また分離して抽出したレアメタルは、逆抽出工程と焼成工程とを経るだけでレアメタルの酸化物となる。例えば、酸を用いた湿式精錬法の場合、複数のレアメタルは一度に溶液中に浸出する。そのため、それぞれのレアメタルの酸化物を得る場合、有機溶媒を用いてそれぞれのレアメタルを単離する単離工程、酸を用いて単離したレアメタルを溶媒中に抽出する逆抽出工程、溶液中からレアメタルを析出させる電解析出工程、析出したレアメタルを再溶解しレアメタルの塩を形成する工程、レアメタルの塩を焼成しレアメタルの酸化物を作製する工程を経る必要がある。これに対し、本実施形態にかかるレアメタルの分離方法は、簡便にレアメタルの酸化物を得ることができる。
【0050】
リチウムイオン二次電池の正極において、レアメタルは酸化物として用いられることが多い。そのため、簡便な方法でレアメタルの酸化物を得られることは、有用性が高い。
【0051】
以上、本発明は上記の実施形態及び変形例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例
【0052】
(実施例1)
図1は、実施例に用いた装置の模式図である。図1に示す装置1は、反応器Rとガス供給部Gと真空ポンプVpと温度制御部Tcと冷却部Cと圧力計Pと温度計Tと複数のバルブvbとを有する。
【0053】
反応器Rは、容積300cmのガラス容器である。反応器Rは、真空ポンプVpとガス供給部Gに接続されている。反応器Rの内部の大気は、真空ポンプVpで排出し、ガス供給部Gから供給された窒素ガスで置換した。反応器R内の圧力は、圧力計Pで測定した。
【0054】
反応器R内の温度は、温度計Tで計測し、温度制御部Tcで調整した。冷却部Cは、処理後の反応器Rを冷却する。
【0055】
反応器R内には溶液sを注入した。溶液sは、5gのグリシンを100mLの水に加えた0.5Mのグリシン水溶液とした。実験に使用する水は、蒸留水製造装置(ヤマト株式会社製、WG-220)にて製造した蒸留水を、超純水製造装置(アドバンテック東洋株式会社製、CPW-100)にて水の抵抗率が18Ωcmになるまで精製したものを用いた。
【0056】
実施例1では、溶液sにリチウム金属酸化物を0.05g入れて、水熱処理を行った。実施例1におけるリチウム金属酸化物はLiCoOである。反応器Rの内部の圧力は、1MPaとした。反応器R内の温度条件は、120℃から180℃の範囲で変更させた。また反応時間は、5分、15分、30分、45分、60分、90分のそれぞれで行った。反応終了後に、反応器を冷却し、残圧を確認してから溶液sを回収した。回収した溶液は、0.45μmのフィルター及び超純水を用いて減圧濾過した。
【0057】
溶液中のLi及びCoをICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析法:Thermo Fisher, iCAP6500)により定量し、浸出率を算出した。図2は、実施例1におけるLi及びCoの浸出率の反応条件依存性を示すグラフである。図2において、横軸は反応時間、縦軸は浸出率であり、反応温度ごとにグラフを作成した。
【0058】
浸出率は、以下の定義に基づいて求めた。
「浸出率(%)」=「溶液中に存在する各金属質量(g)」/リチウム金属酸化物中の金属質量(g)」×100
【0059】
またUV-Vis(紫外可視分光法:JASCO, V-570)を用いて、走査速度2000nm/minで錯体の有無、錯体量の変化を確認した。図3及び図4は、実施例1におけるCo錯体量の反応条件依存性を示すグラフである。図3及び図4において、横軸は波長、縦軸は吸光度である。図3は反応温度120℃の結果であり、図4は反応温度135℃の結果である。
【0060】
図2に示すように、反応時間及び反応時間の増加に伴い、Co及びLiの浸出率は増加した。また図3及び図4では、波長373nmにCo(II)-グリシン錯体のピークが確認され、波長530nmにCo(III)-グリシン錯体のピークが確認された。また図3及び図4に示すように、反応時間及び反応時間の増加に伴い、Co錯体量は増加した。すなわち、リチウム金属酸化物中のCoが、Co錯体として溶液s中に浸出した。
【0061】
(実施例2)
実施例2は、リチウム金属酸化物をLiNiOに変更した点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同様とした。実施例2では、Li及びNiの浸出率及びNi錯体量の反応条件依存性を確認した。
【0062】
図5は、実施例2におけるLi及びNiの浸出率の反応条件依存性を示すグラフである。図5において、横軸は反応時間、縦軸は浸出率であり、反応温度ごとにグラフを作成した。図6は、実施例2におけるNi錯体量の反応条件依存性を示すグラフである。図6において、横軸は波長、縦軸は吸光度である。図6は反応温度90℃の結果である。
【0063】
図5に示すように、反応時間及び反応時間の増加に伴い、Li及びNiの浸出率は増加した。また図6では、波長600nmにNi(II)-グリシン錯体のピークが確認された。また図6に示すように、反応時間及び反応時間の増加に伴い、Ni錯体量は増加した。すなわち、リチウム金属酸化物中のNiが、Ni錯体として溶液s中に浸出した。実施例1と実施例2とを比較すると、実施例2のNiは実施例1のCoより低い反応温度、短い反応時間で抽出できた。
【0064】
(実施例3)
実施例3は、リチウム金属酸化物をLiMnOに変更した点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同様とした。実施例3では、Li及びMnの浸出率の反応条件依存性を確認した。
【0065】
図7は、実施例3におけるLi及びMnの浸出率の反応条件依存性を示すグラフである。図7において、横軸は反応時間、縦軸は浸出率であり、反応温度ごとにグラフを作成した。図7に示すように、Mnの場合は反応時間が60分の範囲内において、浸出率にばらつきがあった。Mnは、Co(実施例1)及びNi(実施例2)より抽出しにくかった。
【0066】
(実施例4)
実施例4は、溶液sを5gのアラニンを100mLの水に加えた0.5Mのアラニン水溶液とした点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同様とした。実施例4においても、実施例1と同様に、Li及びCoの浸出率及びCo錯体量の反応条件依存性を確認した。
【0067】
図8は、実施例4におけるLi及びCoの浸出率の反応条件依存性を示すグラフである。図8において、横軸は反応温度、縦軸は浸出率である。
【0068】
図8に示すように、アラニン水溶液の場合でもLi及びCoが進出した。図8に示すように、反応時間及び反応時間の増加に伴い、Li及びCoの浸出率は増加した。リチウム金属酸化物中のCoが、Co錯体として溶液s中に浸出した。
【符号の説明】
【0069】
C 冷却器、G ガス供給部、R 反応器、s 溶液、T 温度計、Tc 温度制御部、Vp 真空ポンプ、vb バルブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8