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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】血管外壁ラッピング用器具
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/06 20060101AFI20231207BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20231207BHJP
   A61F 2/06 20130101ALI20231207BHJP
【FI】
A61L31/06
A61L31/14 400
A61F2/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022523620
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-26
(86)【国際出願番号】 KR2020014279
(87)【国際公開番号】W WO2021080275
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】10-2019-0130895
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521141040
【氏名又は名称】ティーエムディー ラブ カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】カン,ミ-ラン
(72)【発明者】
【氏名】イ,セ ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ジョン-キ
(72)【発明者】
【氏名】キム,デ-ヒョン
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0119908(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/00-31/18
A61F 2/06
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性高分子物質からなり、前記高分子物質は、x%PCL-co-y%PGMAであり、前記x%及びy%は、各単位体のモル%を示し、x+y=100であり、前記xは92~96である、多孔性血管外壁ラッピング用器具。
【請求項2】
前記血管外壁は、血管吻合部位の血管外壁であることを特徴とする、請求項1に記載の血管外壁ラッピング用器具。
【請求項3】
前記血管吻合部位は、静脈-動脈グラフト部位であることを特徴とする、請求項2に記載の血管外壁ラッピング用器具。
【請求項4】
前記血管外壁ラッピング用器具は、中空(hollow)が形成された円筒状の元の形態(original shape)を有し、前記中空に血管が挿入できるように一側が長さ(length)方向にカッティング(cutting)されていることを特徴とする、請求項1に記載の血管外壁ラッピング用器具。
【請求項5】
前記高分子物質は、生分解性(biodegradable)高分子物質であることを特徴とする、請求項1に記載の血管外壁ラッピング用器具。
【請求項6】
次の段階を含む血管外壁ラッピング用器具の製造方法:
(a)生体適合性高分子物質、光開始剤(photoinitiator)及びポロゲン(porogen)混合物をチューブ状に光架橋させるチューブタイプデバイスの製造段階、ここで前記高分子物質は、x%PCL-co-y%PGMAであり、前記x%及びy%は、各単位体のモル%を示し、x+y=100であり、前記xは92~96である
(b-1)製造されたチューブタイプデバイスからポロゲンを除去する段階;
(b-2)製造されたチューブタイプデバイスの一側をチューブ状の中心軸に並ぶ長さ(length)方向にカッティングする段階;及び
(c)一側がカッティングされたチューブタイプデバイスを、体温を超過する温度条件下で、血管の挿入が可能な臨時形態(temporary shape)として誘導した後、室温未満の温度で固定させる段階。
【請求項7】
前記ポロゲンは、ゼラチン、塩化ナトリウム、二炭酸ナトリウム、二炭酸アンモニウム、ポリエチレングリコール、及びヘキセンからなる群から選ばれるいずれか一つ以上であることを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記体温を超過する温度条件は、42℃~65℃であることを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記段階(a)~(c)のいずれか一段階の実施後に、追加の多孔性の付与段階をさらに含むことを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本特許出願は、2019年10月21日に大韓民国特許庁に提出された大韓民国特許出願第10-2019-0130895号に対して優先権を主張し、該特許出願の開示事項は本明細書に参照によって組み込まれる。
【0002】
本発明は、血管外壁をラッピングすることができるデバイス及びその製造方法に関する。
[背景技術]
血管ステントは、血管の閉塞部位に挿入して血液の開通を保持させる医療機器であって、金属又はプラスチックからなる網のチューブの形態を有し、カテーテルにより血管の狭まったところに挿入されて管内の流れを維持し、狭窄を緩和させる。血管ステントは、血管走路直径2~3mm、長さ10~30mmの範囲を有し、下肢動脈などの血管用ステントは、直径が10mm、長さが150mmに達することもある。
【0003】
血管に用いられる金属ステントは、網だけで構成されているため、血管内皮細胞がステントの内部に成長する再狭窄(restenosis)が発生するという短所があり、再狭窄率は20~30%であるが、これは風船カテーテルだけで血流を改善する従来の風船拡張術の再狭窄率(40~50%)より改善された数値である。しかしながら、金属ステントを用いた施術は、高危険群の患者群、特に、糖尿病、急性心筋梗塞症、多血管疾患、肝病変、小血管症、再狭窄病変、分枝部病変、完全閉塞病変、冠動脈主管部病変、伏在静脈病変のような複合的かつ高危険群の冠動脈病変において高い再狭窄率を示している。
【0004】
再狭窄率の短所を克服するために、ステントに薬物がコートされている薬物放出ステントが開発されたが、主に、細胞増殖抑制剤系列の薬物をステントにコートし、該薬物を一定の期間中に放出させることにより、血管内皮細胞がステントの内側に成長して再狭窄が発生することを防止するためのものである。ところが、薬物放出ステントに使用される細胞増殖抑制剤などによる炎症反応のため、血栓症(Thrombosis)が発生して血管などが再び塞がってしまうという短所が発生している。これをステント血栓症というが、薬物放出ステントが血管内皮細胞の増殖を抑制し、血小板及び血液凝固因子が血栓を形成してステントの内腔を塞いでしまう症状である。さらに、このような短所を克服するために、薬物放出ステントの施術後に抗血小板剤を長期間投与しなければならない。
【0005】
再狭窄がひどい場合には、左右内胸動脈、伏在静脈、右胃大網動脈、腰骨動脈などの代替血管を連結して心臓への血流の供給を円滑にさせる冠状動脈迂回術を行う。このとき、連結された2つの血管の圧力差により手術部位浮腫などの副作用が発生することがあり、長期的に手術部位の動脈及び静脈導管が塞がることがある。したがって、動脈と連結された静脈部位の血圧差による過膨脹及び浮腫を防止し、血流の逆流を防ぐことによって血栓の生成を防ぐことができる血管外壁ラッピング型ステントを考案した。
【0006】
この血管外壁ラッピング型ステントは、血液透析のための動静脈瘻手術にも適用可能であるが、動静脈瘻手術は、慢性腎不全患者の持続的な血液透析時に多量の血液が通るように静脈を拡張させ、静脈を動脈のように丈夫にするために動脈と表皮静脈とを連結する造成術である。このとき、連結された血管の圧力差による手術部位の浮腫又は静脈の過膨脹などの副作用が発生することがある。血管外壁ラッピング型ステントは、動静脈瘻施術部位の血管外壁を取り囲んで静脈を動脈のように丈夫に支え、手術部位の浮腫抑制及び静脈の過膨脹を防止することにより、長期的に透析患者の動静脈瘻の再手術率を低減させることができる。
[発明の概要]
[発明が解決しようとする課題]
本発明者らは、血管吻合部位での狭窄を防止し、吻合された血管間の特徴差により発生し得る血管膨脹(dilatation)を抑制できる装置を開発しようと鋭意研究努力した。その結果、生体適合性高分子物質から構成された多孔性チューブタイプのデバイスにて血管外壁をラッピングすると、血管吻合部位、具体的には静脈-動脈グラフト(vein to artery graft)部位での狭窄を防止し、血管の特徴差により発生し得る膨脹(dilatation)を抑制できることを究明し、本発明を完成するに至った。
【0007】
したがって、本発明の目的は、血管外壁ラッピング用器具を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、血管外壁ラッピング用器具の製造方法を提供することである。
[課題を解決するための手段]
本発明の一様態によれば、本発明は、生体適合性高分子物質からなる多孔性血管外壁ラッピング用器具を提供する。
【0009】
本発明者は、血管吻合部位での狭窄を防止し、吻合された血管間の特徴差により発生し得る血管膨脹(dilatation)を抑制できる装置を開発しようと鋭意研究努力した。その結果、生体適合性高分子物質からなる多孔性チューブタイプのデバイスにて血管外壁をラッピングすると、血管吻合部位、具体的には静脈-動脈グラフト(vein to artery graft)部位での狭窄を防止し、血管の特徴差により発生し得る膨脹(dilatation)を抑制できることを究明した。
【0010】
本発明の血管外壁ラッピング用器具と対比される概念として、血管の閉塞を防止するための様々な実施形態の血管内に挿入されるステントが公知されている。本発明の多孔性血管外壁ラッピング用器具は、体内血管の外部で血管の外壁をラッピングする方式で作動することが予定され、適用される血管の種類、直径、及び施術の目的などに応じて器具の内径(inside diameter;I.D.)、外径(O.D.)、長さ(length)などを適切に調節して製作することができる。具体的な実施例として、図1を参照することができる。
【0011】
本発明の用語“多孔性血管外壁ラッピング用器具”は、便宜のため、“血管外壁ラッピング用器具”、“多孔性血管ラッピング用器具”、“血管ラッピング用器具”、“血管ラッピング装置”などと称されてよい。
【0012】
本発明の一具現例において、本発明の血管外壁ラッピング用器具が適用される血管外壁は、血管吻合部位の血管外壁であってよい。血管吻合部位では、吻合される血管間の特性差、具体的には血流により発生する圧力に耐えられる耐圧特性差のため、一側の血管に血管膨脹(dilatation)の問題が発生し得る。本発明の一実施例に係る血管外壁ラッピング用器具を用いると、吻合部位の外壁を容易にラッピングすることが可能となり、前述した一側の血管膨脹の問題を効果的に解決することができる。
【0013】
本発明の一具体例において、本発明の血管外壁ラッピング用器具が適用される血管吻合部位は、静脈-動脈グラフト部位であってよい。
【0014】
本発明の一具現例において、本発明の血管外壁ラッピング用器具は、中空(hollow)が形成された円筒状の元の形態(original shape)を有し、前記中空に血管が挿入可能なように一側が長さ(length)方向にカッティング(cutting)されており、外部刺激の印加(apply)により一時的に形成可能な臨時形態(temporary shape)であって、前記カッティングにより形成された両末端が離隔した曲面又は平面状を有し、前記臨時形態は、前記印加(apply)された外部刺激の減少調節により血管外壁を取り囲むように曲率が増加する方向に曲がることによって元の形態に復元される。
【0015】
本明細書における用語“元の形態(original shape)”は、本発明の多孔性血管外壁ラッピング用器具の体内環境条件で形成及び保持される形状のことを意味する。具体的に、温度条件を取り上げると、体温の範囲を含む平均28~42℃の条件で形成される形状のことを意味する。
【0016】
本明細書における用語“臨時形態(temporary shape)”は、本発明の多孔性血管外壁ラッピング用器具の一般的な保管条件又は体内環境条件とは異なる所定の外部刺激の印加条件により形成される一時的な形状のことを意味する。前記外部刺激としては、具体的に、温度、物理的力(physical power)、pH、光(light)、電圧、又は滲透圧条件の変化などの刺激を挙げるこどができ、これに制限されない。
【0017】
本発明の一具現例において、外部刺激が温度条件の変化である場合、28℃より低い温度又は42℃より高い温度への変化であってよい。
【0018】
さらに具体的に、本発明の一実施例における外部刺激としての温度条件の変化は、体温と比べて相対的により高い温度への変化を意味できる。具体的には、本発明の一実施例において、“臨時形態”の形成を誘発できる外部刺激としての温度条件は、42℃以上、43℃以上、44℃以上、45℃以上、46℃以上、47℃以上、48℃以上、49℃以上、又は50℃以上の温度条件であってよく、これに制限されない。ただし、血管のラッピング後に、元の形態の安定した保持のために“臨時形態”の形成を誘発できる外部刺激としての温度条件は、約45℃以上が好ましい。
【0019】
本発明の一実施例において、本発明の血管外壁ラッピング用器具は、血管へのラッピング後に、体内環境条件において、復元された元の形態が保持される。
【0020】
本発明の一実施例において、本発明の高分子物質は、生分解性(biodegradable)高分子物質であってよい。
【0021】
本発明の一実施例において、本発明の高分子物質は、ε-カプロラクトン単量体とグリシジルメタクリレートとの共重合体であってよい。
【0022】
本発明の一具体例にいて、本発明の高分子物質としてx%PCL(ポリ-ε-カプロラクトン)-co-y%PGMA(ポリ-グリシジルメタクリレート)を用いることができる(前記x%及びy%は各単位体のモル%を表し、x+y=100であり、前記xは92~96である)。
【0023】
本発明の他の様態によれば、本発明は、下記の段階を含む血管外壁ラッピング用器具の製造方法を提供する:
(a)生体適合性高分子物質、光開始剤(photoinitiator)及びポロゲン(porogen)混合物をチューブ状に光架橋させるチューブタイプデバイスの製造段階;
(b-1)製造されたチューブタイプデバイスからポロゲンを除去する段階;
(b-2)製造されたチューブタイプデバイスの一側をチューブ状の中心軸と並ぶ長さ(length)方向にカッティングする段階;及び
(c)一側がカッティングされたチューブタイプデバイスを、28℃未満~42℃以上の温度条件下で血管の外壁に設置可能な臨時形態(temporary shape)で固定させる段階。
【0024】
本発明の一様態に係る血管外壁ラッピング用器具の製造方法を用いると、温度感応性の形状記憶血管外壁ラッピング用器具を製造することができる。より具体的に、本発明の製造方法により製造された血管ラッピング装置は、常温より低い温度条件(28℃未満)及び体温(約36.5~37℃)に比べて高い温度条件(42℃以上)で本発明の他の様態で説明した臨時形態(temporary shape)に転換されるが、体内の類似環境条件で元の形態(original shape)に復元し得る。さらに具体的に、本発明の製造方法により製造された血管ラッピング装置は、体温(約36.5~37℃)に比べて高い温度条件(42℃以上)で本発明の他の様態で説明した臨時形態(temporary shape)に転換されるが、体内の類似環境条件で元の形態(original shape)に復元し得る。
【0025】
本発明の一実施例としての製造方法について、以下各段階別に詳細に説明する。
【0026】
段階(a):生体適合性高分子、光開始剤(photoinitiator)及びポロゲン(porogen)混合物をチューブ状に光架橋させるチューブタイプデバイスの製造段階
本発明の一実施例において、生体適合性高分子とは、体内注入時に有意な拒絶反応を起こさず、体内に一時的でない悪影響を及ぼさない物質であって、安全性(safety)があると知られた物質のことを意味する。本発明で利用可能な生体適合性高分子は、血管ラッピング時に軽い炎症反応(mild inflamation)を発生させ、これによって新生外膜(neo-adventitia)を形成させ得る物質を含む。ただし、新生内膜症(neointimal formation)を発生させる程度の副反応を起こす高分子物質は使用するには不適切である。
【0027】
本発明の一実施例において、本発明の高分子物質は、ε-カプロラクトン単量体とグリシジルメタクリレートとの共重合体であってよい。
【0028】
本発明の一具体例において、本発明の高分子物質としてx%PCL(ポリ-ε-カプロラクトン)-co-y%PGMA(ポリ-グリシジルメタクリレート)を用いることができる(前記x%及びy%は各単位体のモル%を表し、x+y=100であり、前記xは92~96である)。
【0029】
本明細書における用語“光開始剤(photoinitiator)”は、高分子物質の光架橋を開始及び/又は促進できる物質のことを意味し、具体的には、UV架橋及び硬化をさせようとする組成物内に添加され、UV光源からエネルギーを吸収して高分子物質の架橋を開始させることができる物質を総称する。本発明の実施のために、既に公知された様々な光開始剤を制限なく用いることができる。さらに具体的には、商業的に利用可能な1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD;1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene)、スズ(II)(2-エチルヘキサノエート)(tin(II)(2-ethylhexanoate))、トリメチルプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)(trimethylopropane tris(3-mercaptopropionate))、コハク酸亜鉛(Zinc succinate)、又はフェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(Igacure;phenylbis(2,4,6-trimethylbenzoyl)phosphine oxide)を用いることができるが、これに制限されるものではない。
【0030】
本明細書における用語“ポロゲン(porogen)”は、硬化された高分子物質構造体の孔隙の形成のために用いられる物質のことを意味し、高分子物質の硬化後にポロゲンを除去することにより、ポロゲンが含入していた部分(portion)に該当する孔隙が形成された高分子物質構造体を得ることができる。
【0031】
本発明の一実施例において、本発明のポロゲンは、ゼラチン、塩化ナトリウム、二炭酸ナトリウム、二炭酸アンモニウム、ポリエチレングリコール、及びヘキセンからなる群から選ばれるいずれか一つ以上であってよい。具体的に、例えば、本発明のポロゲンとしてゼラチンが用いられる場合に、PCL-co-PGMA共重合体を光開始剤と共にUVで架橋させる過程でゼラチンを共に混ぜて架橋した後、40℃の水で24時間以上処理すれば、硬化された高分子物質構造体からゼラチンを溶かして除去することができる。本発明のポロゲンとして、塩化ナトリウム、二炭酸ナトリウム、二炭酸アンモニウム、ポリエチレングリコール、ヘキセンなどがそれぞれ用いられる場合、ゼラチンと同じ方法により当該ポロゲンを溶かして除去することができる。
【0032】
本段階の実施のために、生体適合性高分子は、一般に使用される商用化した溶媒、具体的にはジクロロメタン(dichloromethane)に40重量%~60重量%、より具体的に約50重量%を分散させて用いることができ、光開始剤も、一般に使用される商用化した溶媒、具体的にはジクロロメタン(dichloromethane)に5重量%~15重量%、より具体的に約10重量%を分散させ、前記分散させた溶液を15:1~5:1、より具体的に12:1~8:1、さらに具体的に10:1の体積比で混合して用いることができる。用意した混合物溶解液とポロゲン(porogen)を1:2~2:1、より具体的には約1:1の重量比(w/w%割合)で混合して最終の混合物を製造することができる。
【0033】
用意された最終の混合物は、チューブ状に固定させ、硬化させる準備をすることができる。最終の混合物をチューブ状に固定させるために、チューブ状の空き空間(empty space)が形成されたモールド(mold)の空き空間内に最終の混合物を噴射注入する方法を用いることができる。本発明の具体的な一実施例においては、チューブ状の空き空間が形成されたモールドとして、テフロンチューブの内部にシリコンチューブを嵌めて準備したモールドを用いたが、これに制限されるものではない(図2参照)。そして、これをUV架橋機内で架橋させた。用いられた高分子物質、光開始剤の特性に応じて光(UV)の硬化時間を適切に調節することができ、販売されているUV硬化ランプシステムを制限なく用いることができる。
【0034】
(b-1)製造されたチューブタイプデバイスからポロゲンを除去する段階;及び
b-2)製造されたチューブタイプデバイスの一側を、チューブ状の中心軸に並ぶ長さ(length)方向にカッティングする段階
段階(b-1)及び(b-2)は、段階の遂行のための時系列的順序が互いにいくら変わってもよい。
【0035】
前述したように、本発明の一実施例において、ポロゲンはゼラチン、塩化ナトリウム、二炭酸ナトリウム、二炭酸アンモニウム、ポリエチレングリコール、及びヘキセンからなる群から選ばれるいずれか一つ以上であってよい。具体的に、本発明のポロゲンとしてゼラチンが用いられる場合に、PCL-co-PGMA共重合体を光開始剤と共にUVで架橋させる過程でゼラチンを共に混ぜて架橋した後、40℃の水で一晩(overnight)処理すれば、硬化された高分子物質構造体からゼラチンを溶かして除去することができる。本発明のポロゲンとして、塩化ナトリウム、二炭酸ナトリウム、二炭酸アンモニウム、ポリエチレングリコール、ヘキセンなどが用いられる場合に、ゼラチンと同じ方法により当該ポロゲンを溶かして除去することができる。
【0036】
ポロゲンの除去を終えた後、硬化された高分子物質構造体をモールドから分離し、十分に洗浄する段階を行うことができる。
【0037】
ポロゲン除去段階の実施の前後に、チューブタイプデバイスの一側をチューブ状の中心軸に並ぶ長さ(length)方向にカッティングする段階を行うことができる。
【0038】
段階(c):一側がカッティングされたチューブタイプデバイスを、体温を超過する温度条件下で血管の挿入が可能な臨時形態(temporary shape)で固定させる段階
本発明の一実施例において、臨時形態の誘導のための“体温を超過する温度条件”は、42℃以上、43℃以上、44℃以上、45℃以上、46℃以上、47℃以上、48℃以上、49℃以上、又は50℃以上の温度条件であってよく、より具体的に42℃~65℃、さらに具体的に45℃~65℃、50℃~60℃で臨時形態を誘導することができる。その後、室温(1~30℃)未満の温度で固定させることができる。より好ましくは、十分に低い温度、例えば、ドライアイス条件の温度(約-70℃)で臨時形態を固定させることができる。
【0039】
本発明の一具現例によれば、本発明は、段階(a)~(c)のいずれか一段階を行った後、追加の多孔性の付与段階をさらに含むことができる。本発明の追加の多孔性の付与は、硬化された高分子物質構造体をパンチングすることによって行われてよく、例えば、生検パンチ(biopsy punch)により行ってよい。さらに他の実施例において、フェムト秒レーザー(femto second laser)光源技術を用てた追加の多孔性を付与するか、多孔性構造を形成できるモールドを用いて多孔を形成させることができる。前述の方法により形成された多孔構造の平均直径は、例えば、100μm~1000μm、200μm~700μm、300μm~500μmであってよい。このとき、多孔率(porosity)は、ステントの総面積の30~80%の範囲で調節されてよい。他の一実施例において、多孔率は40~75%、50~70%の範囲で調節されてよい。
【0040】
本発明の製造方法は、前述した本発明の他の様態である“多孔性血管外壁ラッピング用器具”を製造する方法の一つに関するところ、重複する内容についてはその内容を援用し、本明細書記載の過度な複雑性を解消するために重複記載を省くものとする。
【0041】
本発明の他の様態によれば、本発明は、前述した本発明の他の様態である“多孔性血管外壁ラッピング用器具の製造方法”により製造された多孔性血管外壁ラッピング用器具を提供する。
[発明の効果]
本発明の特徴及び利点を要約すれば、次の通りである:
(a)本発明は、血管外壁ラッピング用器具を提供する。
【0042】
(b)本発明は、血管外壁ラッピング用器具の製造方法を提供する。
【0043】
(c)本発明の血管外壁ラッピング用器具を用いると、血管の外部をラッピングすることによって、静脈-動脈グラフトモデルにおいて血管の特徴差により発生し得る異常血管膨脹を調節し、渦流の形成を顕著に低減させることができる。また、デバイスの材料による再生的な炎症反応によって血管外壁新生血管の生成を促進し、低酸素状態から血管を救出し、静脈血管筋肉細胞を外側に誘導することによって、血管狭窄の防止及び外側筋肉層の補強などの相乗効果を提供する。
【0044】
血管膨脹を物理的に効率よく抑制することができ、血管と血管ラッピング用器具との間の新生血管の形成を誘導し、新生外膜を形成させることができる。また、血管吻合において血管の狭窄を防止することができる。
[図面の簡単な説明]
図1]多孔性血管ラッピング装置の構造を示す。
【0045】
図2]チューブ状のモールド構造を示す。
【0046】
図3]多孔性血管ラッピング装置の作動原理を示す。
【0047】
図4]血管ラッピング装置上でhSMCsを培養し、細胞の付着及び増殖を観察した結果を示す。
【0048】
図5]血管ラッピング装置上で培養したヒト平滑筋細胞の形態及び円形性(circularity)の定量結果を示す。
【0049】
図6]組織学的な分析の結果を示す。ペンタクローム染色(Pentachrome staining)において、黒色は核(nuclei)及び弾性線維(elastic fibers)を示し、黄色はコラーゲン(collagen)を示し、青色は細胞間物質(ground substance)及び粘液(mucin)を示し、濃い赤色(intense red)はフィブリノイド(fibrinoid)及びフィブリン(fibrin)を示し、赤色(red)は筋肉(muscle)を示す。
【0050】
図7]免疫蛍光染色の結果を示す。軽い炎症反応(mild inflammation)の誘導による新生外膜(neoadventitia)及び新生血管形成(angiogenesis,neo-vasa vasorum)の実験結果を示す。
【0051】
図8A図8F]血管ラッピング術の狭窄防止メカニズムの確認結果を示す。
[発明を実施するための形態]
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0052】
実施例
実施例1:ε-カプロラクトン単量体(CL;caplolactone)とグリシジルメタクリレート(GMA)との共重合体を用いた多孔性血管ラッピング装置の製造
0.1w/v%光開始剤(photoinitiator)(Irgacure))を含むジクロロメタン(dichloromethane)に94%PCL-co-6%PGMAを溶解した後、ポロゲン(ゼラチン)と1:1w/w%の割合で混合した。設置しようとする血管の外径サイズに該当すテフロン(Teflon)チューブ(デバイス外側/外部)の内部にシリコンチューブを嵌めた後、それらの間の空間に混合高分子を噴射してチューブの形態を作り、UV硬化ランプシステム(UV curing lamp system)(OmniCure S2000)で紫外線架橋(UV crosslinking)を特定時間(600s)行った。40℃の蒸溜水で24時間以上放置し、ゼラチンを溶かして除去した。テフロンチューブ及びシリコンチューブを除去した後、25℃の蒸溜水で1週間撹拌洗浄(shaking washing)した。チューブタイプデバイス(Tube type device)をカッティング(cutting)方向に切った後(図1参照)、55℃で臨時形態(temporary shape)となるように誘導した後、ドライアイス(-80℃)で冷却及び固定させた。その後、生検パンチ(biopsy punch)を用いてデバイス単位面積当たりに一定個数のポア(pore size:300~500μm)を有する多孔性構造を作り、EOガス滅菌を行った。
【0053】
実施例2:多孔性血管ラッピング装置の効果の確認
2-1.多孔性血管ラッピング装置における細胞行動(cellular behaviors)の確認
多孔性血管ラッピング装置において、細胞毒性(cytotoxicity)、付着(adhesion)、そして増殖(proliferation)を、hSMCs(human venous smooth muscle cells)を用いてインビトロ(in vitro)において組織培養ポリスチレン(tissue culture polystyrene,TCPS)で培養した細胞との傾向性比較分析によって確認した。細胞親和性をLive&Dead assayアッセイにより確認した。また、CCK-8(cell counting kit-8)アッセイにより細胞の付着及び増殖を評価した。なお、F-アクチン染色(ファロイジン染色)をして細胞円形性(cell circularity)を確認した。
【0054】
細胞の分注後、3日目にLive&Deadアッセイ(Live&Dead assay)により、多孔性血管ラッピング装置はhSMCsの死滅を誘導しないことを確認した。細胞分注後1日目と3日目にそれぞれCCK-8アッセイを用いて、1日目の値を、付着した細胞量(relative cell adhesion)と、3日目の細胞数を1日目の細胞数で割った相対値を、増殖された細胞の割合(proliferation phenotype)と、それぞれ定義した。TCPSに比べて、多孔性血管ラッピング装置において細胞の付着及び増殖が低下する様相を示した。平滑筋細胞が健康であるほど増殖速度が遅いことからして、ラッピング装置は平滑筋細胞の挙動に悪い影響を及ぼさないことが間接的に確認できた(図4参照)。hSMCsの分注後3日目に固定させてF-アクチン染色(ファロイジン染色)を行って細胞の形状を観察した結果、TCPSと比べて形状の顕著な違いは発見されなかった。一般の平滑筋細胞は長く伸びた形状をしており、円形性(circularity)が低い方であるが、TCPS及び形状記憶高分子上で類似の円形性(circularity)を示した。結果的に、形状記憶高分子は、TCPSと比較して、平滑筋細胞の形質(phenotypic change)にさほど影響を及ぼさないことが確認できた(図5参照)。
【0055】
2-2.静脈-動脈グラフト(vein to artery graft)ウサギモデルの樹立及び多孔性血管ラッピング装置の導入
ウサギの頚静脈(jugular vein)の血流を遮断して2ケ所を切断し、これを摘出した。ウサギの頚動脈(carotid artery)の血流をクランプ(clamp)により遮断し、頚動脈の中央部位を切断した。切断された頚動脈部位に摘出した頚静脈を9-0糸で吻合した。その後、吻合部位の血流を確認した。多孔性血管ラッピング装置を吻合部位に装着し、40℃の生理食塩水(saline)を流して元の形態(original shape)に復元させた。
【0056】
2-3.多孔性血管ラッピング装置を用いた静脈-動脈グラフト(vein to artery graft)狭窄抑制効果の確認
ウサギモデルの血管ラッピング術の実施有無による4週間の血管狭窄程度を組織分析により観察した。静脈-動脈グラフト(vein to artery graft)モデルの製作直後に多孔性血管ラッピング装置を用いた血管ラッピング術を適用したとき、4週後に、吻合部位を含む静脈部位の狭窄防止効果を確認した。H&E染色により静脈の形態及び過膨脹による大きさを観察し、ペンタクローム染色(Pentachrome staining)により、静脈に生成された新生内膜(neointima)及び新生外膜(neoadventitia)の形成の程度を確認した。
【0057】
正常静脈と比べて、ラッピング術を行っていない群では(w/o external wrapping)、静脈ルーメン(lumen)及び血管壁の過膨脹が起きたことが観察された。この群における平均静脈の大きさは、[中膜(media layer)内径]1450mmと測定された。また、新生内膜症(neointimal formation)が観察された。これに対し、ラッピング術を行った群では(w/external wrapping)、ラッピング術の未実施群に比べて静脈の過膨脹が抑制され(平均中膜内径=1270mm)、新生内膜症も観察されなかった。一方、既存血管と多孔性ラッピング装置との間に、軽い炎症反応によって新生外膜(neo-adventitia)が形成されたことが確認された(図6参照)。
【0058】
新生血管形成の促進及び新生内膜形成の抑制効果を確認するために、Flk1、α-SMA(alpha smooth muscle actin)に対する免疫染色を行った。
【0059】
血管外膜には脈管壁血管(vasa vasorum)が存在し、静脈を剥離する過程で外膜及び脈管壁血管に損傷が発生し、血管壁に低酸素状態が誘導される。このような低酸素状態は、血管内の栄養及び酸素供給の不均衡を起こし、平滑筋細胞の内膜(intima)への流入を促進し、新生内膜症をもたらすので、血管外壁に新生血管の形成を誘導することが必要である。外部から異質物が生体に挿入されると、異物反応(foreign body response)による軽い炎症反応が自然に発生する。すなわち、血管ラッピング術の過程において、形状記憶高分子が体内に挿入されると、血管の周辺に軽い炎症反応が発生する。軽い炎症反応は新生血管の形成を誘導し、このような新生毛細血管は脈管壁血管(vasa vasorum)の役割を担う。毛細血管(Flk1)及び平滑筋細胞(α-SMA)の免疫染色の結果、一般静脈では毛細血管が存在し、平滑筋細胞は中膜及び外膜に存在した。静脈-動脈(Vein to artery)モデルの製作後、ラッピング術未実施群では、毛細血管が損傷して再生不能となり、これによって、平滑筋細胞の内膜への流入が促進され、血管狭窄が誘発された。これに対し、ラッピング術実施群では、多孔性構造内で微細血管構造が発見され、これによって、平滑筋細胞が外膜方向に移動して新生外膜を形成し、新生内膜の形成が抑制された(図7参照)。
【0060】
静脈-動脈(Vein to artery)モデルの製作後、静脈は動脈に比べて物性が足りないことから、相対的に強い動脈圧に耐えられず過膨脹する様相を示した。上で、血管ラッピング術は血管の過膨脹を抑制する効果があることを確認した。このような過膨脹及びその抑制は、動脈から膨脹した静脈、それて再び動脈に流れる血流のパターンに影響を及ぼすことがある。血流に渦流が生じると、血管内皮細胞の機能に異常が発生し(endothelial dysfunction)、このような異常現象は血管内皮細胞の抗血栓及び抗炎症機能を抑制させ、結果として、平滑筋細胞の内膜への流入を誘導して狭窄をもたらす。静脈-動脈(Vein to artery)手術直後及びラッピング術の実施有無による静脈-動脈(Vein to artery)の内壁の形状をCADファイルにより具現し、これを用いて、脈動流れ(pulsatile flow)による血流の様相変化を調べるためのCFDシミュレーションを行った。この際、血管内壁の形状だけを用いたシミュレーションを行ったので、血管及び高分子の物性、血流による血管の膨脹/収縮運動はないと仮定した。その結果、ラッピング術により発生した1270mm以下の静脈膨脹は、脈動流れの渦流を誘導しないことが確認されたが、ラッピング術未実施群で発生した1450mm程度の静脈膨脹では目立つ渦流が発生していることがシミュレーションにより確認された。すなわち、血管ラッピング術は、血管の過膨脹を防止して血流における渦流の生成を抑制し、狭窄を防止することが間接的に確認された。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】多孔性血管ラッピング装置の構造を示す。
図2】チューブ状のモールド構造を示す。
図3】多孔性血管ラッピング装置の作動原理を示す。
図4】血管ラッピング装置上でhSMCsを培養し、細胞の付着及び増殖を観察した結果を示す。
図5】血管ラッピング装置上で培養したヒト平滑筋細胞の形態及び円形性(circularity)の定量結果を示す。
図6】組織学的な分析の結果を示す。ペンタクローム染色(Pentachrome staining)において、黒色は核(nuclei)及び弾性線維(elastic fibers)を示し、黄色はコラーゲン(collagen)を示し、青色は細胞間物質(ground substance)及び粘液(mucin)を示し、濃い赤色(intense red)はフィブリノイド(fibrinoid)及びフィブリン(fibrin)を示し、赤色(red)は筋肉(muscle)を示す。
図7】免疫蛍光染色の結果を示す。軽い炎症反応(mild inflammation)の誘導による新生外膜(neoadventitia)及び新生血管形成(angiogenesis,neo-vasa vasorum)の実験結果を示す。
図8A】血管ラッピング術の狭窄防止メカニズムの確認結果を示す。
図8B】血管ラッピング術の狭窄防止メカニズムの確認結果を示す。
図8C】血管ラッピング術の狭窄防止メカニズムの確認結果を示す。
図8D】血管ラッピング術の狭窄防止メカニズムの確認結果を示す。
図8E】血管ラッピング術の狭窄防止メカニズムの確認結果を示す。
図8F】血管ラッピング術の狭窄防止メカニズムの確認結果を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8A
図8B
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