(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】抗ストレス用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20231207BHJP
A61K 31/365 20060101ALI20231207BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231207BHJP
A61K 36/282 20060101ALN20231207BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K31/365
A61P25/00
A61K36/282
(21)【出願番号】P 2018239278
(22)【出願日】2018-12-21
【審査請求日】2021-12-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】福島 栄治
(72)【発明者】
【氏名】小貫 仁
(72)【発明者】
【氏名】小野里 美咲
(72)【発明者】
【氏名】大栗 弾宏
(72)【発明者】
【氏名】好田 裕史
(72)【発明者】
【氏名】津田 彰
(72)【発明者】
【氏名】岡村 尚昌
(72)【発明者】
【氏名】三原 健吾
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第01338303(EP,A1)
【文献】特表2017-511338(JP,A)
【文献】特開2004-357596(JP,A)
【文献】Anxiety Release Dietary Supplement,Mintel GNPD [online],2002年,https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/10111386/,[2022年10月25日検索]
【文献】シェヴァリエ アンドリュー,代表的な薬用植物100種,世界薬用植物百科事典,株式会社誠文堂新光社 瀧田実,2000年10月20日,p.63
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニガヨモギ抽出物を含み、ニガヨモギ抽出物由来のアブシンチンを4×10
-7重量%以上含有する、抗ストレス用組成物。
【請求項2】
ストレスが精神的ストレスである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ストレスに起因する疾患の予防及び/又は治療用である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
ストレスに起因する疾患が、うつ病、不安症、又は不眠症である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
食品組成物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
抗ストレスにより発揮される機能の表示を付した、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
機能の表示が、「ストレスを予防する」、「ストレスを軽減する」、「ストレスを緩和する」、「うつ症状を改善する」、「精神疲労を軽減する」、「神経機能を高める」、「不安を取り除く」、「気持ちを静める」、「リラックスできる」、「息切れや動悸を抑える」、「不眠を解消する」及び「頭痛を軽減する」からなる群から選択されるものである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
アブシンチンの含有量が4×10
-6重量%以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ストレス用組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、アブシンチンを含有する抗ストレス用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在社会において人は様々なストレスを受けており、ストレスに起因する疾患、例えば心身症、神経症、うつ病などのストレス病が増加している。特にストレスが原因となるうつ病の発症者は、働き盛りの世代で年々増加している傾向にある。このような背景から国内では労働安全衛生法が改正され、一部の企業に対して事業場内でのストレスチェックが義務付けられるようになっている。
【0003】
ストレスを予防又は解消する手段としては、旅行や温泉などのリラックスを伴う娯楽が挙げられるが、余暇を楽しむための時間や費用が必要とされる点を考慮すれば、飲食物を活用することが安価で手軽であると考えられる。そのようなストレスを緩和する飲食物の有効成分では、GABA(γ-アミノ酪酸)が代表例として挙げられる。現在では、GABAの他にもテアニン等を有効成分として含む飲食物が市販されており、そのストレス緩和効果が訴求されている。しかしながら、実質的に効果を体感することは難しく、また対人関係に起因するような、より精神的なストレスにまでは効果が知られていない。
【0004】
飲食物に関しては、お茶やコーヒー等の嗜好品が、精神的なストレスが負荷されたときに摂取されることが多く、これらの嗜好品は官能的に苦味を有することが特徴的である。ストレスと苦味との関係については、精神的ストレスを受けた人では苦味に対する感受性が低下することが報告されており(非特許文献1)、マウスでは精神的ストレスを与えた方が苦味溶液を多く摂取するという結果が報告されている(非特許文献2)。
【0005】
飲食物の他、ストレスを軽減するためには、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬や睡眠薬が使用されることもある。しかしながら、このような医薬品はめまいや集中力低下等の副作用を伴うことから、一時的なストレスに対して多用することは好ましくない。また、服用後の中断によって却って症状が悪化することもある。
【0006】
このように、年を追って増加傾向にあるストレス病を早急に減らすために、有効性が高く、且つ体感も十分にあり、そして安全面でも優れている抗ストレス用組成物の開発が強く望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Nakagawa M. et al., Chemical senses (1996) p.195-200
【文献】Scinska A. et al., Neurosci. Lett. (2009), Vol.461, p.285-288
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、有効性が高く、且つ安全面で優れている抗ストレス用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、アブシンチンにストレス緩和作用があることを見出した。かかる知見に基づき、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下に関するが、これらに限定されない。
(1)アブシンチンを含有する、抗ストレス用組成物。
(2)アブシンチンがニガヨモギ抽出物由来である、(1)に記載の組成物。
(3)ストレスが精神的ストレスである、(1)又は(2)に記載の組成物。
(4)ストレスに起因する疾患の予防及び/又は治療用である、(1)~(3)のいずれか1に記載の組成物。
(5)ストレスに起因する疾患が、うつ病、不安症、又は不眠症である、(4)に記載の組成物。
(6)食品組成物である、(1)~(5)のいずれか1に記載の組成物。
(7)抗ストレスにより発揮される機能の表示を付した、(1)~(6)のいずれか1に記載の組成物。
(8)機能の表示が、「ストレスを予防する」、「ストレスを軽減する」、「ストレスを緩和する」、「うつ症状を改善する」、「精神疲労を軽減する」、「神経機能を高める」、「不安を取り除く」、「気持ちを静める」、「リラックスできる」、「息切れや動悸を抑える」、「不眠を解消する」及び「頭痛を軽減する」からなる群から選択されるものである、(7)に記載の組成物。
(9)ストレスを予防、軽減又は緩和するための、アブシンチンの使用。
(10)アブシンチンを使用する、ストレスを予防、軽減又は緩和する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るアブシンチンを含有する抗ストレス用組成物は、ストレスを有効に予防及び軽減することができる。その結果として、本発明の抗ストレス用組成物は、ストレスに起因する疾患を有効に予防及び治療することができ、当該疾患の予防及び/又は治療用組成物として利用することができる。
【0012】
また、本発明において用いられるアブシンチンは、ニガヨモギからの抽出物に含まれる成分の一つである。ニガヨモギ抽出物は食品成分として使用可能な素材であることから、これに含まれるアブシンチンも飲食可能であり、その安全性は高いと考えられる。この点から、本発明の抗ストレス用組成物の安全性は高く、その副作用は従来の非天然化合物を含む医薬品に対して極めて少ないと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、抗ストレス効果を検証するためのヒト試験の結果を示す図である。グラフの縦軸は末梢血管抵抗値を示し、グラフの横軸は時間軸で、順応期、ストレス期(TSST)、及び回復期をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一態様は、アブシンチンを含有する抗ストレス用組成物である。
【0015】
1.アブシンチン
本発明の抗ストレス用組成物に含まれるアブシンチン(absinthin)は、IUPAC名として(1R,2R,5S,8S,9S,12S,13R,14S,15S,16R,17S,20S,21S,24S)-12,17-dihydroxy-3,8,12,17,21,25-hexamethyl-6,23-dioxaheptacyclo[13.9.2.01,16.02,14.04,13.05,9.020,24]hexacosa-3,25-diene-7,22-dioneと称される有機化合物であり、そのCAS登録番号は13624-21-0である。アブシンチンは、グアイアン(guaiane)系セスキテルペンの二量体であり、その構造はセスキテルペンラクトンに分類される。
【0016】
アブシンチンは、独特の味を呈し、特に、強い苦味を呈することを特徴としている。アブシンチンは強い苦味を有する物質であることから、本発明の抗ストレス用組成物を摂取することにより苦味を感じることができ、またストレスが緩和されている効果を十分に体感することができる。
【0017】
アブシンチンは、天然物から得られたものであってもよいし、或いは化学合成によって得られたものであってもよい。アブシンチンは、天然にも存在する有機化合物であり、ニガヨモギ(学名:Artemisia absinthium)に含まれている。ニガヨモギ(学名:Artemisia absinthium)は、キク科ヨモギ属の多年草又は亜灌木である。本発明においてアブシンチンは、特に限定されないが、ニガヨモギの全草から、或いはニガヨモギ抽出物から自体公知の方法で単離及び精製することによって入手することができる。本発明におけるアブシンチンは、ニガヨモギ抽出物由来であることが好ましい。アブシンチンはニガヨモギ抽出物に含まれることから、本発明ではニガヨモギ抽出物それ自体を有効成分として用いることも可能である。
【0018】
ニガヨモギ抽出物は、ニガヨモギの一部又は全体(全草)から抽出されることができ、好ましくはニガヨモギの全体(全草)から抽出される。ニガヨモギ抽出物の調製方法は特に限定されないが、例えば、乾燥したニガヨモギ全草を、30~120℃の水、食品の製造に許容される溶媒(エタノール等の有機溶媒)又はこれらの混合物で抽出することによって得ることができる。水と有機溶媒との混合物としては、例えば40~60%エタノール等が挙げられる。また、抽出処理に関する温度や時間は特に限定されず、例えば室温で3~12時間かけて抽出を行うことができる。
【0019】
本発明で用いられるアブシンチン及びニガヨモギ抽出物は商業的にも入手することができ、ヒトが飲食可能な程度に品質が保証されたもの(例えば、食品添加物として認定されているもの等)が好ましい。
【0020】
2.抗ストレス
本明細書において「抗ストレス」とは、ストレスの予防、軽減及び緩和のいずれか一以上が含まれる作用をいい、そのような作用を有する組成物を「抗ストレス用組成物」という。ストレスの予防とは、具体的には、これから受けるストレスの度合い(程度)を通常受ける度合いよりも低減させる作用のことをいう。
【0021】
また、本明細書において「ストレス」とは、ストレスの原因となる刺激(ストレッサーともいう)が生体に加わった際に、精神や身体に生ずるひずみをいう。そのような刺激としては、寒冷、騒音、放射線、気象変化などの物理的刺激;薬物、金属、酸素欠乏などの化学的刺激;細菌感染、炎症などの生物的刺激;痛みや発熱などの疾病や障害に起因する身体的刺激;社会や家庭における人間関係から生ずる緊張、不安、恐怖などの精神的刺激などが挙げられる。本発明の抗ストレス用組成物は、特に限定されないが、精神的刺激から生じたストレス(いわゆる精神的ストレス)の対処に好適であり、精神的ストレスの中でも人間関係によって引き起こされる精神的ストレスの対処に特に好適である。人間関係によって引き起こされる精神的ストレスとしては、対人型の面接や人前での演説(スピーチ)等によって生じる精神的ストレスが挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0022】
抗ストレス作用の評価は、特に限定されず、当業者に公知の方法を用いて行うことができる。例えば、血液中又は唾液中のコルチゾールの濃度を測定して、ストレスを負荷する前後で比較する方法が挙げられる。その場合、ストレス負荷後のコルチゾール濃度の上昇が抑制された場合は抗ストレス作用があると判断することができる。また、例えば、心電図を測定して交感又は副交感神経活動を調べたり、厚生労働省より提供されるストレスチェックリストを利用したりして抗ストレス作用の評価を行うこともできる。
【0023】
3.抗ストレス用組成物
本発明の抗ストレス用組成物には有効成分としてアブシンチンが含まれる。本発明の抗ストレス用組成物におけるアブシンチンの含有量は、その投与形態、投与方法などを考慮し、本発明の所望の効果が得られるような量であればよく、特に限定されるものではない。例えば、本発明の抗ストレス用組成物におけるアブシンチンの含有量は、4×10-7重量%以上、好ましくは1×10-6重量%以上、より好ましくは4×10-6重量%以上であり、100重量%以下、好ましくは1×10-4重量%以下、より好ましくは4×10-5重量%以下であり、典型的には、4×10-7~100重量%、好ましくは1×10-6~1×10-4重量%、より好ましくは4×10-6~4×10-5重量%である。本明細書において用いる「重量%」は、特に断りがない限り、重量/重量(w/w)の重量%を意味する。本発明におけるアブシンチンの含有量は、当業者に公知の方法に従って測定することができ、例えば、LC/MS、HPLC等を用いて適宜条件を設定して測定することができる。
【0024】
また、本発明の抗ストレス用組成物には、アブシンチンを含有する素材としてニガヨモギ抽出物を用いることもできる。本発明の抗ストレス用組成物にニガヨモギ抽出物を含有させる場合、その含有量は、上記のアブシンチンの含有量に基づいて設定することができる。即ち、事前にニガヨモギ抽出物に含まれるアブシンチンの量を測定しておき、本発明の抗ストレス用組成物におけるアブシンチンの含有量が上記の範囲となるようにニガヨモギ抽出物の量を算出して、組成物中のニガヨモギ抽出物の含有量を設定することができる。なお、ニガヨモギ抽出物の重量は、粉末化したニガヨモギ抽出物の重量で規定することができる。
【0025】
本発明の抗ストレス用組成物は、その形態に応じて、アブシンチンやニガヨモギ抽出物の他に、任意の添加剤や通常の組成物に用いられる任意の成分を含有することができる。これらの添加剤及び/又は成分の例としては、ビタミンE、ビタミンC等のビタミン類、ミネラル類、栄養成分、香料などの生理活性成分の他、製剤化において配合される賦形剤、結合剤、乳化剤、緊張化剤(等張化剤)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤、着色剤、凝固剤、又はコーティング剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
本発明の抗ストレス用組成物は、特に限定されないが、例えば、食品組成物や医薬組成物等として提供することができる。ここで、本明細書において食品組成物は、飲料(飲料組成物)も包含する概念である。本発明の抗ストレス用組成物は、好ましくは食品組成物である。
【0027】
本発明の抗ストレス用組成物が食品組成物である場合、その形態は、特に限定されないが、錠剤(被覆錠剤を含む)、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤又はドリンク剤等の健康食品の形態とすることができる。また、清涼飲料、茶飲料、ヨーグルトや乳酸菌飲料等の乳製品、調味料、加工食品、デザート類、菓子(例えば、ガム、キャンディ、ゼリー)等の形態とすることもできる。
【0028】
また、本発明の抗ストレス用組成物が医薬組成物である場合、投与経路は特に限定されないが、経口であることが好ましい。経口投与に適した医薬組成物の形態には、錠剤(被覆錠剤を含む)、顆粒剤、散剤、粉末剤、又はカプセル剤等の固形剤や、経口液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、又はドリンク剤等の液剤などが含まれる。
【0029】
本発明の抗ストレス用組成物はそのまま、或いは水等と共に服用することができる。また、特に限定されないが、本発明の抗ストレス用組成物は、容易に配合することが出来る形態(例えば、粉末形態や顆粒形態)に調製した後で、例えば、食品組成物や医薬組成物等の原材料として用いることもできる。
【0030】
4.用途
本発明の抗ストレス用組成物は、上述した通りストレスの予防、軽減及び緩和のいずれか一以上に対して有用である。その結果、本発明の抗ストレス用組成物は、ストレスに起因する疾患や症状の予防及び/又は治療用組成物ともなり得る。なお、本明細書における「治療」には、改善、回復、軽減、緩和等の概念も含まれ得る。
【0031】
ストレスに起因する疾患としては、特に限定されないが、例えば、気管支喘息、過喚起症候群等の呼吸器系疾患;本態性高血圧症、冠動脈疾患(狭心症,心筋梗塞)等の循環器系疾患;胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、心因性嘔吐等の消化器系疾患;単純性肥満症、糖尿病等の内分泌・代謝系疾患;筋収縮性頭痛、痙性斜頚、書痙等の神経・筋肉系疾患;慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症等の皮膚科領域疾患;慢性関節リウマチ、腰痛症等の整形外科領域疾患;夜尿症、心因性インポテンス等の泌尿・生殖器系疾患;眼精疲労、本態性眼瞼痙攣等の眼科領域疾患;メニエール病等の耳鼻咽喉科領域疾患;顎関節症等の歯科・口腔外科領域疾患等が挙げられる。また、その他には、例えば、うつ病(反応性うつ病、神経症的抑うつ状態等)、不安症、不眠症、精神疲労、自律神経失調症、更年期障害、神経性嘔吐等も挙げられる。本発明では、特に限定されないが、ストレスに起因する疾患としては好ましくはうつ病、不安症及び不眠症である。
【0032】
本発明の抗ストレス用組成物は、治療的用途(医療用途)又は非治療用途(非医療用途)のいずれにも適用することができる。具体的には、医薬品、医薬部外品、化粧品及び飲食品等に分類されるか否かによらず、ストレスの予防、軽減又は緩和を明示的又は暗示的に訴求する組成物としての使用が挙げられる。また、本発明の抗ストレス用組成物は、ストレスに起因する疾患だけでなく、ストレスに起因するパフォーマンスの低下を予防することもできる。かかるパフォーマンスとしては、例えばデスクワーク、肉体労働、プレゼンテーション、計算等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0033】
本発明は、別の側面では、抗ストレスにより発揮される機能の表示を付した組成物に関する。このような表示は機能性表示ともいい、その表示内容は特に限定されないが、例えば、「ストレスを予防する」、「ストレスを軽減する」、「ストレスを緩和する」、「うつ症状を改善する」、「精神疲労を軽減する」、「神経機能を高める」、「不安を取り除く」、「気持ちを静める」、「リラックスできる」、「息切れや動悸を抑える」、「不眠を解消する」及び「頭痛を軽減する」等、或いは、これらと同視できる機能性表示が挙げられる。本発明において、当該表示は組成物自体に付されてもよいし、組成物の容器又は包装に付されていてもよい。
【0034】
本発明の抗ストレス用組成物は、その形態に応じた適当な方法で摂取することができる。摂取方法は、本発明に係る有効成分が循環血中に移行できるものであれば特に限定はない。例えば、上述したような経口可能な製剤、或いは注射剤、外用剤、坐剤若しくは経皮吸収剤等の非経口用製剤などの形態とすることができるが、これらに限定されない。なお、本明細書において「摂取」とは、摂取、服用、又は飲用等の全態様を含むものとして用いられる。
【0035】
本発明の抗ストレス用組成物の適用量は、その形態、投与方法、使用目的及び投与対象である患者又は患獣の年齢、体重、症状によって適時設定され、一定ではない。本発明の抗ストレス用組成物の有効ヒト摂取量も一定ではなく、特に限定されない。本発明の抗ストレス用組成物の有効ヒト摂取量は、アブシンチンの重量として、例えば、体重50kgのヒトで一日あたり0.001mg以上、好ましくは0.004mg以上である。また、投与は所望の投与量範囲内において、1日内において単回又は数回に分けて行ってもよい。投与期間も任意である。なお、本明細書において有効ヒト摂取量とは、ヒトにおいて有効な効果を示す摂取量のことをいう。
【0036】
本発明の抗ストレス用組成物の適用対象は、好ましくはヒトであるが、ウシ、ウマ、ヤギ等の家畜動物、イヌ、ネコ、ウサギ等のペット動物、又は、マウス、ラット、モルモット、サル等の実験動物であってもよい。ヒト以外の動物を対象に投与する場合、本発明の抗ストレス用組成物の1日あたりの使用量は、組成物中の有効成分の含有量、適用対象の状態、体重、性別及び年齢等の条件により異なる。
【0037】
5.ストレスを予防、軽減又は緩和するためのアブシンチンの使用
本発明の一態様は、ストレスを予防、軽減又は緩和するためのアブシンチンの使用である。
【0038】
本発明のアブシンチンの使用には、ストレスの予防、軽減又は緩和(抗ストレス)の観点から、ストレスに起因する疾患の予防及び/又は治療のための使用も含まれる。ストレスに起因する疾患は上述した通りであるが、特に限定されるわけではない。また、本発明の使用は、ヒト又は非ヒト動物における使用であり、治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。ここで、「非治療的」とは、医療行為、即ち、治療による人体への処理行為を含まない概念である。
【0039】
6.ストレスを予防、軽減又は緩和する方法
本発明の一態様は、アブシンチンを使用する、ストレスを予防、軽減又は緩和する方法である。
【0040】
本発明の方法には、ストレスの予防、軽減又は緩和(抗ストレス)の観点から、ストレスに起因する疾患を予防及び/又は治療する方法も含まれる。ストレスに起因する疾患は上述した通りであるが、特に限定されるわけではない。
【0041】
また、本発明の別の態様は、ストレスの予防、軽減又は緩和を必要とする対象に、有効量のアブシンチンを投与することを含む、ストレスを予防、軽減又は緩和する方法である。当該方法においても、ストレスに起因する疾患を予防及び/又は治療する方法が含まれる。ストレスに起因する疾患は上述した通りであるが、特に限定されるわけではない。
【0042】
上記方法において、ストレスの予防、軽減又は緩和を必要とする対象とは、本発明の抗ストレス用組成物の前記適用対象と同様である。また、本明細書において有効量とは、本発明の抗ストレス用組成物を上記対象に投与した場合に、投与していない対象と比較して、ストレスが予防、軽減又は緩和される量のことである。具体的な有効量としては、投与形態、投与方法、使用目的及び対象の年齢、体重、症状等によって適時設定され一定ではない。
【0043】
本発明の方法においては、前記有効量となるよう、アブシンチンをそのまま、或いはアブシンチンを含有する組成物として投与してもよい。
【0044】
本発明の方法によれば、副作用を生じることなくストレスを予防、軽減又は緩和することが可能になる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、これにより本発明の範囲を限定するものではない。当業者は、本発明の方法を種々変更、修飾して使用することが可能であり、これらも本発明の範囲に含まれる。なお、特に断りがない限り、「%」の記載は「重量%(w/w)」を意味する。
【0046】
試験例1.抗ストレス効果検証ヒト試験
(1)試験食品
試験食品は以下の4種類とした。試験食品の容量はそれぞれ100 mLとした。各試験食品は、色調を含めた外観からは識別困難であり、香りにおいても区別ができなかった。ただし、アブシンチン高用量含有食品は苦味を呈した。
・プラセボ食品:アブシンチン非含有食品(水)
・アブシンチン高用量含有食品:0.04 mg/100 mL of water
・アブシンチン低用量含有食品:0.004 mg/100 mL of water
・テアニン含有食品:200 mg/100 mL of water
【0047】
アブシンチン含有食品は、9.2 %のアブシンチンを含むニガヨモギ抽出物を上記濃度で水に添加することにより作製した。ニガヨモギ抽出物はツヨンフリーのものを使用した。アブシンチンはLCMS-8050超高速トリプル四重極型LC/MS/MS(SHIMADZU)を使用して定量した。テアニンは太陽化学株式会社から購入した。
【0048】
(2)対象者
対象者は、この種の研究にナイーブかつ健康で自由志願し、研究責任者等により研究参加に適当と判断された20歳以上の大学生100名とし、コントロール(水)群25名、アブシンチン高用量群26名、アブシンチン低用量群24名、そしてテアニン群25名にそれぞれ無作為に分類した。本研究の内容についてインフォームドコンセントを受け、文書により本研究参加に同意する者とした。対象者には、実験実施2時間前に飲食、喫煙、運動を控えてもらった。
【0049】
(3)実験手順
対象者は、実験室に入室した後、身長と体重とを測定し、試験食品を飲用した。その後、10分間の順応期をおき、メンタルストレス・テストとしてTSST(Trier Social Stress Test)を実施した。その後、30分間の回復期をおき、実験中、ストレスマーカーとして末梢血管抵抗値を非観血的に連続測定した。末梢血管抵抗値の測定は連続血圧計:Finapres NOVA(Finapres Medical Systems)を用いて行った。
【0050】
(4)結果
プラセボ群に比べて、アブシンチン高用量群、アブシンチン低用量群、およびテアニン群はいずれもTSST負荷による急性ストレス反応を抑制した。課題期(ストレス期)から回復期にかけては、アブシンチン高用量群は、アブシンチン低用量群とテアニンに比べてよりストレス状態を回復させることが示された。また、プラセボ群も、課題期(ストレス期)から回復期にかけてアブシンチン低用量群とテアニン群に比べてストレス状態を回復させることが示された。これらの結果から、アブシンチン(高用量および低用量)並びにテアニンにはストレス反応を抑制する作用があることが示唆された。また、アブシンチン高用量においては、テアニンと比較してストレス負荷からの回復を促進する効果が高いことが示唆された。一方、プラセボ群ではストレスの回復が他の群よりも促進しているように見えるが、ストレス負荷を与えたときの反応性(ストレス状態)が著しく高かったことが影響しており、順応期の値までの回復には至っていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、アブシンチンを有効成分として含有する抗ストレス用組成物を提供するものである。本発明は、ストレスの予防、軽減又は緩和に資する新たな手段を提供するものであるため、産業上の利用性が高い。