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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】食品の塩味持続性向上剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/20 20160101AFI20231207BHJP
   A23L 27/40 20160101ALI20231207BHJP
【FI】
A23L27/20 D
A23L27/40
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019040783
(22)【出願日】2019-03-06
(65)【公開番号】P2020141598
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-03-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505126610
【氏名又は名称】株式会社ニチレイフーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】笹原 由雅
(72)【発明者】
【氏名】真部 真里子
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-138614(JP,A)
【文献】特開2008-237070(JP,A)
【文献】特開昭50-155668(JP,A)
【文献】特開2016-214211(JP,A)
【文献】日本家政学会誌,1997年,48(11),pp.1035-1039
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII),
CAplus/REGISTRY/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレアチンを含有する、塩味持続性向上剤。
【請求項2】
塩化ナトリウムをさらに含有する、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
食塩代替物である、請求項2に記載の剤。
【請求項4】
調味料である、請求項1~3のいずれか一項に記載の剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩味持続性向上剤、塩味の持続性が向上した飲食品およびその製造方法、飲食品の塩味の持続性の向上方法に関する。
【0002】
塩味は5つの基本味の1つであり、飲食品の美味しさを引き立て食欲増進効果もあることから、飲食品の風味として極めて重要である。
【0003】
飲食品に塩味を付与するには、通常、食塩、すなわち塩化ナトリウムが使用されるが、その主要構成成分であるナトリウムの過剰摂取は、高血圧をはじめとする多くの疾患の危険因子であることから、塩化ナトリウムの摂取量を抑制することが推奨されている。そのため、塩化ナトリウムの含有量を減じた様々な減塩飲食品が開発され、市販されている。
【0004】
しかしながら、単に塩化ナトリウムの含有量を減じただけでは、基本味の1つである塩味が減り、薄味となり、味のバランスや美味しさが損なわれてしまう。そのため、飲食品において、塩味を維持したまま、塩化ナトリウムの含有量を減じる方法の検討が多数行われてきた。
【0005】
その方法を大きく分類すると、塩化ナトリウム代替品を使用する方法と、塩味増強剤を使用する方法とに分けることができる。
【0006】
塩化ナトリウム代替品とは、塩化カリウムや有機酸のアルカリ金属塩に代表される、塩化ナトリウムに近似した塩味を持つ物質であり、飲食品に使用されている塩化ナトリウムの一部または全部をそれらの塩化ナトリウム代替品に置換することで、塩化ナトリウムの含有量を減少させる。
【0007】
しかしながら、塩化カリウムをはじめとする塩化ナトリウム代替品は、塩化ナトリウムに比べて塩味が弱いこと、および塩味に加えて渋味や苦味を呈するものであるため、置換量を増やすと、得られる飲食品の塩味が弱いものとなってしまうことに加え、味質も変わってしまうという問題があった。
【0008】
一方、塩味増強剤とは、それ自体は塩味を呈さないか、またはごく弱い塩味を呈するが、塩化ナトリウムにごく少量添加することで、塩化ナトリウムの塩味を強く感じさせる効果を有する物質である。そのため、塩化ナトリウムの含有量が低い飲食品に塩味増強剤を添加することによって、塩化ナトリウムの含有量がより高い飲食品と同等の塩味を持たせることができ、その結果、飲食品における塩化ナトリウムの含有量を減じることができる。
【0009】
これまでに、塩味増強剤として様々な物質が提案されているが、飲食品に添加した場合に味質の変化が生じたり、効果が必ずしも十分でない場合がある等、さらなる技術開発が求められている。
【0010】
ところで、従来、筋肉中に含まれる窒素化合物であるクレアチン(1-メチルグアニジノ酢酸)が、食品に様々な呈味を付与し得ることが知られている。クレアチンが付与し得る呈味としては、例えば、肉質様の呈味(例えば、特許文献1および2)、こく味(例えば、特許文献3および4)、あつみのある酸味(例えば、特許文献5)等が知られている。
【0011】
しかしながら、クレアチンと塩味の持続性向上効果との関係については何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2013-138614号公報
【文献】特開昭59-25663号公報
【文献】特開2011-125315号公報
【文献】特開2000-125804号公報
【文献】特開2001-245624号公報
【発明の概要】
【0013】
本発明者らは、クレアチンが飲食品における塩味の持続性を向上させる効果を有することを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0014】
従って、本発明は、飲食品における塩味の持続性を効果的に向上させることを一つの目的としている。
【0015】
本発明は、以下の発明を包含する。
(1)クレアチンを含有する、塩味持続性向上剤。
(2)塩化ナトリウムをさらに含有する、(1)に記載の剤。
(3)食塩代替物である、(2)に記載の剤。
(4)調味料である、(1)~(3)のいずれかに記載の剤。
(5)クレアチンを含有する、塩味持続性飲食品。
(6)クレアチンの含有量が、前記飲食品の総重量に対して0.005~0.1重量%である、(5)に記載の飲食品。
(7)塩化ナトリウムをさらに含有する、(5)または(6)に記載の飲食品。
(8)塩化ナトリウムの含有量が、前記飲食品の総重量に対して0.6~1.2重量%である、(7)に記載の飲食品。
(9)減塩飲食品である、(5)~(8)のいずれかに記載の飲食品。
(10)有効量のクレアチンを飲食品に含有させる工程を含んでなる、塩味持続性飲食品の製造方法。
(11)有効量のクレアチンを飲食品に含有させることを特徴とする、飲食品の塩味持続性向上方法。
【0016】
本発明によれば、クレアチンを用いて、飲食品における塩味の持続性を向上させることができる。また、本発明によれば、クレアチンを用いて、喫食時に持続的に塩味を感じるように飲食品を調整することができる。また、本発明によれば、飲食品にクレアチンを添加して、該飲食品の本来の味質を維持しつつ、塩化ナトリウムの含有量を減じた減塩飲食品を得ることができる。
【発明の具体的説明】
【0017】
塩味持続性向上剤
本発明の塩味持続性向上剤は、クレアチンを含有することを一つの特徴とする。本発明の剤は、好ましくは飲食品における塩味の持続性を向上させるために用いられ、より好ましくは塩化ナトリウムに起因する塩味の持続性を向上させるために用いられる。クレアチンが塩味の持続性向上効果を奏することは意外な事実である。
【0018】
本発明において用いられるクレアチンは、水和物、無水物および塩の形態で使用してもよく、クレアチンの水和物および塩としては、例えば、クレアチン一水和物、クレアチンピルビン酸塩、クレアチンクエン酸塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、好ましくはクレアチン一水和物が単独で用いられる。
【0019】
また、本発明において用いられるクレアチンとしては、クレアチンを含有する食品等の原料を用いてもよい。クレアチンを含有する食品としては、特に限定されないが、例えば、畜肉(牛肉、豚肉等)、鳥肉(鶏肉等)、魚肉(鰊、鮭、鮪、鱈等)等の食肉、ブイヨン等の食肉由来の成分を含有する調理品や抽出エキス等が挙げられる。
【0020】
本発明の剤におけるクレアチンの含有量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、剤形、他の成分の種類、含有量、剤を添加する飲食品の種類、量、目的とする塩味持続性の程度等に応じて適宜設定することができる。具体的には、例えば、剤の総重量に対して0.005~100重量%とすることができる。
【0021】
本発明におけるクレアチンの量は、アルカリピクリン酸法により測定・算出することができる。具体的な測定法は以下のとおりである。
【0022】
(クレアチニンの測定)
試料を2.5~5g採取し、水により50mlに定容後、ろ過し、適宜希釈の上クレアチニンの試験溶液を得る。次に、この試験溶液5mlにピクリン酸溶液(1%水酸化ナトリウム含有)2.5mlを加え、室温にて60分間放置後、吸光度(波長520nm)を測定する。クレアチニン標準溶液を試験溶液と同様に測定して得た吸光度との比較でクレアチニン量を算出する。
【0023】
(総クレアチニンの測定)
上記と同様の操作により得られたクレアチニンの試験溶液3mlに、6mol/l塩酸10mlを加え、加温乾固したのち、残渣に水を加え50mlに定容後、ろ過し、試験溶液を得る。この試験溶液5mlにピクリン酸溶液(1%水酸化ナトリウム含有)2.5mlを加え、室温60分間放置後、吸光度(波長520nm)を測定し、上記同様に総クレアチニン量を算出する。
【0024】
(クレアチン量の算出)
クレアチン量を、上記の測定により得た総クレアチニン量からクレアチニン量を差し引いた値に1.159を乗じて算出する。
【0025】
本発明の剤においては、クレアチンをそのまま使用してもよく、各種の他の成分と混合して使用してもよい。一つの態様において、本発明の剤は、塩化ナトリウムと組み合わせた組成物として提供することができる。すなわち、一つの態様において、本発明の剤は、塩化ナトリウムをさらに含有する。本発明の剤における塩化ナトリウムの含有量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、剤形、他の成分の種類、含有量、剤を添加する飲食品の種類、量、目的とする塩味持続性の程度等に応じて適宜設定することができる。
【0026】
本発明の剤は、塩化ナトリウムとクレアチンと組み合わせて、食塩に代えて用いることができる、塩味を付与し得る飲食品として使用することができる。具体的には、一つの態様によれば、本発明の剤は、食塩代替物として提供される。食塩代替物とは、食塩(塩化ナトリウム)を代替する目的で使用される飲食品を意味する。また、別の好ましい態様によれば、本発明の剤は、調味料として提供される。かかる調味料としては、例えば、醤油、ソース、ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシング、ブイヨン等の固形または液体調味料が挙げられる。食塩代替物または調味料にクレアチンを含有させることは、食塩代替物または調味料における塩化ナトリウムの使用量を低減しつつ、クレアチンを含まず塩化ナトリウムのみからなる食塩と同等の味質を維持したまま塩味の持続性を向上する上で特に有利である。
【0027】
本発明の剤が塩化ナトリウムを含有する場合、塩化ナトリウムとクレアチンとの重量比は、塩化ナトリウム100重量部に対して、クレアチンが、好ましくは0.42~12.5重量部であり、より好ましくは、0.625~12.5重量部である。さらに一層好ましくは1.25~12.5重量部である。
【0028】
本発明の剤には、塩化ナトリウムの含有量を減じる観点から、塩化ナトリウムに代えて公知の塩化ナトリウム代替物を含有させてもよい。本発明の剤における塩化ナトリウム代替物の含有量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、塩化ナトリウム代替物の種類、剤形、他の成分の種類、含有量、剤を添加する飲食品の種類、量、目的とする塩味持続性の程度等に応じて適宜設定することができる。
【0029】
上記塩化ナトリウムの代替物としては、公知の塩化ナトリウム代替物であれば特に限定されず、例えば、塩化カリウム、有機酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。これらの塩化ナトリウム代替物のうち、塩化ナトリウムと同等の味質と塩味を維持したまま塩化ナトリウムをより多く置換することが可能である点で、塩化カリウムを用いることが好ましい。
【0030】
本発明の剤は、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、糖類、固化防止剤、ビタミン類、香料、香辛料、着色料、酸化防止剤、光沢剤等の薬理上または食品衛生上許容される添加成分を含んでいてもよい。添加成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の剤における添加成分の含有量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、添加成分の種類、剤形、他の成分の種類、含有量、剤を添加する飲食品の種類、量、目的とする塩味持続性の程度等に応じて適宜設定することができる。
【0031】
本発明の剤においては、クレアチンを各種の添加成分と混合して、常法により粉剤、顆粒剤、錠剤、液剤等の剤形に製剤化して使用してもよい。
【0032】
粉剤、顆粒剤、錠剤等の剤形に製剤化するための成分(製剤化成分)としては、本発明の効果が妨げられない限り特に限定されないが、例えば、アルギン酸類、ペクチン、海藻多糖類、カルボキシメチルセルロース等の増粘多糖類;乳糖、デンプン、二酸化ケイ素等の賦形剤;グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、ソルビトール、ステビア等の甘味料;微粒二酸化ケイ素、炭酸マグネシウム、リン酸二ナトリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等の固化防止剤;ビタミン類;香料;酸化防止剤;光沢剤等が挙げられる。これらの製剤化成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の剤における製剤化成分の含有量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、製剤化成分の種類、剤形、他の成分の種類、含有量、剤を添加する飲食品の種類、量、目的とする塩味持続性の程度等に応じて適宜設定することができる。
【0033】
液剤は、クレアチンを溶媒に溶解または分散させることにより得られる。溶媒としては、本発明の効果が妨げられない限り特に限定されないが、例えば、水、エタノール等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組わせて用いてもよい。本発明の剤における溶媒の含有量は、溶媒の種類、他の成分の種類、含有量、剤を添加する飲食品の種類、量、目的とする塩味持続性の程度に応じて適宜調整することができる。
【0034】
飲食品
本発明において、クレアチンは、飲食品における塩味の持続性を向上させるために用いることができる。従って、本発明の別の態様によれば、クレアチンを含有する、塩味の持続性が向上した塩味持続性飲食品が提供される。
【0035】
本発明の飲食品におけるクレアチンの含有量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、飲食品の種類、食塩相当量、目的とする塩味持続性の程度等に応じて適宜設定することができる。具体的には、本発明の飲食品におけるクレアチンの含有量は、該飲食品の総重量に対するクレアチンの含有量として、好ましくは0.005重量%以上であり、より好ましくは0.01~0.1重量%であり、さらに一層好ましくは0.02~0.1重量%である。
【0036】
本発明の飲食品におけるクレアチンの含有量は、クレアチンまたはクレアチンを含有する飲食品原料等の添加量を増減させることにより調整することができる。
【0037】
本発明の飲食品は、該飲食品の本来の味質を維持しながら食塩相当量当たりの塩味の持続性が向上させることができる。すなわち、本発明の飲食品は、塩化ナトリウムの含有量が、該飲食品に本来含まれるべき塩化ナトリウムの量より低い場合であっても、本来含まれるべき量の塩化ナトリウムを含有する場合と同等の塩味の持続性を有し得る。換言すれば、本発明の飲食品は、塩味の持続性が向上していることにより、喫食時に塩味を継続的に感じ得ることから、塩化ナトリウムの含有量が低い場合であっても、塩化ナトリウムの含有量がより高い場合と同程度の十分な塩味を感じることができる。従って、一つの態様では、本発明の飲食品は、塩化ナトリウムの含有量を減じた減塩飲食品とすることができる。
【0038】
本発明の飲食品における塩化ナトリウムの含有量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、好ましくは0.1~20%、より好ましくは0.2~10%、さらに一層好ましくは0.6~1.2重量%である。
【0039】
また、本発明の飲食品における塩化ナトリウムの含有量は、該飲食品に本来含まれるべき塩化ナトリウム量の10~90重量%であることが好ましく、20~80重量%であることがより好ましく、30~70重量%であることがさらに一層好ましい。
【0040】
本発明の飲食品における塩化ナトリウムとクレアチンとの重量比は、塩化ナトリウム100重量部に対して、クレアチンとして、好ましくは0.42~12.5重量部、より好ましくは0.625~12.5重量部、さらに一層好ましくは1.25~12.5重量部である。
【0041】
本発明の飲食品は、クレアチンに加え、飲食品に使用可能なその他の成分を含んでいてもよい。飲食品に使用可能なその他の成分としては、例えば、砂糖、ハチミツ、メープルシロップ、スクロース、グルコース、フルクトース、マルトース、ラクトース、異性化糖、オリゴ糖等の糖類;ソルビトール、還元麦芽糖(マルチトール)、キシリトール、エリスリトール、トレハロース等の糖アルコール類;天然または高甘味度甘味料;グルタミン酸、グリシン等のアミノ酸類およびその塩;イノシン酸、グアニル酸、キサンチル酸等の核酸類およびその塩;食物繊維、pH緩衝剤、香料、食用油、エタノール、水等が挙げられる。これらのその他の成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
本発明の飲食品としては、塩味を有する飲食品であれば特に限定されず、例えば、おにぎり、ピラフ、チャーハン、混ぜご飯、雑炊、お茶漬け等の米飯調理品、コロッケ、春巻、唐揚げ等の油ちょう品、シュウマイ、餃子、カレー、シチュー、グラタン、煮物等の調理食品、ハンバーグ、ソーセージ、ハム、チーズ等の畜産加工品、鮭フレーク、辛子明太子、塩たらこ、焼き魚、ひもの、塩辛、魚肉ソーセージ、かまぼこ、煮魚、佃煮等の水産加工食品、キムチ、漬物等の野菜加工品、醤油、ソース、ドレッシング、味噌、マヨネーズ、トマトケチャップ、ブイヨン等の調味料、うどんつゆ、そばつゆ、ソーメンつゆ、ラーメンスープ、ちゃんぽんスープ、パスタソース等の麺類のつゆまたはソース、卵入りスープ、わかめ入りスープ、ふかひれ入りスープ、中華スープ、コンソメスープ、カレー風味スープ、お吸い物、みそ汁、コーンクリームスープ、ポタージュスープ等のスープ類、ポテトスナック、コーンスナック、小麦スナック、煎餅、あられ等のスナック菓子等が挙げられるが、好ましくは、米飯調理品、油ちょう品、スープ類である。また、本発明の飲食品としては、冷凍食品、レトルト食品、フリーズドライ食品等の形態の飲食品も包含される。なお、飲食前に塩化ナトリウムを含有しない飲食品であっても、飲食時に塩化ナトリウムが含まれる食品も本発明の飲食品に包含される。
【0043】
塩味の持続性が向上した飲食品の製造方法
本発明によれば、クレアチンを飲食品に添加して、塩味の持続性が向上した飲食品を製造することができる。従って、本発明によれば、有効量のクレアチンを飲食品に含有させる工程を含んでなる、塩味持続性飲食品の製造方法が提供される。
【0044】
本発明の製造方法において、クレアチンの有効量は、飲食品における塩味の持続性を向上させるための有効量であり、飲食品の種類、食塩相当量、目的とする塩味持続性の程度に応じて適宜設定することができる。
【0045】
飲食品における塩化ナトリウムの含有量および塩化ナトリウムとクレアチンとの重量比は、本発明の飲食品と同様とすることができる。
【0046】
クレアチンを飲食品に含有させる方法および時期は、本発明の効果が奏される限り特に限定されない。例えば、飲食品原料に予めクレアチンを添加してもよいし、本発明の飲食品の製造時のいずれかの工程においてクレアチンを添加してもよい。
【0047】
また、本発明の製造方法は、塩化ナトリウムや飲食品に使用可能なその他成分を飲食品に含有させる工程を含んでいてもよい。飲食品に使用可能なその他の成分としては、本発明の飲食品におけるものと同じものを用いることができる。
【0048】
飲食品の塩味の持続性の向上方法/使用
本発明の別の態様によれば、有効量のクレアチンを飲食品に含有させる工程を含んでなる、飲食品における塩味の持続性向上方法が提供される。
【0049】
また、本発明の別の態様によれば、飲食品における塩味持続性向上剤としての、クレアチンの使用が提供される。一つの態様によれば、上記塩味持続性向上剤は、塩化ナトリウムをさらに含んでなる。また、一つの態様よれば、上記塩味持続性向上剤は、食塩代替物である。また、一つの態様によれば、塩味持続性向上剤は、調味料である。
【0050】
また、本発明のさらに別の態様によれば、飲食品における塩味持続性向上剤の製造における、クレアチンの使用が提供される。一つの態様によれば、上記塩味持続性向上剤は、塩化ナトリウムをさらに含んでなる。また、一つの態様よれば、上記塩味持続性向上剤は、食塩代替物である。また、一つの態様によれば、塩味持続性向上剤は、調味料である。
【0051】
本発明の塩味の持続性向上方法および使用は、本発明の剤、飲食品および製造方法の記載に準じて実施することができる。
【実施例
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例においては、別に記載がない限り、食塩は日本食塩製造(株)の精製塩(塩分:99.9%以上)、クレアチンはユニテックフーズ(株)のクレアピュア(クレアチン・モノハイドレート含量:99.9%以上)を用いた。
【0053】
また、実施例において、クレアチンの量は、日本食品分析センターに依頼して測定した。具体的には、以下に示すアルカリピクリン酸法により測定・算出を行った。
(クレアチニンの測定)
試料を2.5~5g採取し、水により50mlに定容後、ろ過し、適宜希釈の上クレアチニンの試験溶液を得た。次に、この試験溶液5mlにピクリン酸溶液(1%水酸化ナトリウム含有)2.5mlを加え、室温にて60分間放置後、吸光度(波長520nm)を測定した。クレアチニン標準溶液を試験溶液と同様に測定して得た吸光度との比較でクレアチニン量を算出した。
(総クレアチニンの測定)
上記と同様の操作により得られたクレアチニンの試験溶液3mlに、6mol/l塩酸10mlを加え、加温乾固したのち、残渣に水を加え50mlに定容後、ろ過し、試験溶液を得た。この試験溶液5mlにピクリン酸溶液(1%水酸化ナトリウム含有)2.5mlを加え、室温60分間放置後、吸光度(波長520nm)を測定し、上記同様に総クレアチニン量を算出した。
(クレアチン量の算出)
クレアチン量を、上記の測定により得た総クレアチニン量からクレアチニン量を差し引いた値に1.159を乗じて算出した。
【0054】
実施例1:クレアチンの有無と塩味持続性の相関関係の検討
試験区1として、0.8重量%の食塩水溶液にクレアチンを0.02重量%となるように水溶液を調製した。比較区1として、クレアチン無添加の0.8重量%食塩水溶液を調製した。試験区1および比較区1について、それぞれ官能評価を実施した。官能評価は、一対比較法を用いて、基本五味の識別検査および濃度差識別検査に合格した社内味覚審査員24名によって実施した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1の結果から、試験区1では、比較区1と比較して塩味持続性が強いとする人数が優位に多く、クレアチンを添加することで塩味の持続性が向上することが確認された。
【0057】
実施例2:クレアチン濃度と塩味持続性との相関関係の検討
試験区2-1~2-5として、0.8重量%食塩水溶液に、クレアチンをそれぞれ0.005重量%、0.01重量%、0.02重量%、0.05重量%および0.1重量%となるように添加した水溶液を調製した。比較区2として、クレアチン無添加の0.8重量%食塩水溶液を調製した。各試験区および比較区について、それぞれ官能評価を実施した。官能評価は、社内味覚審査員5名によって、比較区2の「塩味持続性の強さ」を0として、各試験区について、下記の5段階の評点をつけることにより実施した。
2:比較区2より明瞭に強い
1:比較区2よりわずかに強い
0:比較区2との差がわからない
-1:比較区2よりわずかに弱い
-2:比較区2より明瞭に弱い
【0058】
【表2】
【0059】
表2の結果から、クレアチンの濃度をそれぞれ0.005~0.100重量%の範囲に調整した試験区2-1~2-5では、クレアチンを含まない比較区2と比較して塩味の持続性が向上することが確認された。
【0060】
実施例3:各塩化ナトリウム濃度におけるクレアチンの有無と塩味持続性との相関関係の検討
試験区3-1~3-4として、0.6重量%、0.8重量%、1.0重量%および1.2重量%の食塩水溶液に、それぞれクレアチンを0.05重量%となるように添加した水溶液を調製した。比較区3-1~3-4として、試験区3-1~3-4と同じ食塩濃度でクレアチン無添加の水溶液を調製した。各試験区および比較区について、それぞれ官能評価を実施した。官能評価は、社内味覚審査員4名によって、各比較区の「塩味持続性の強さ」を0として、対応する各試験区について、下記の5段階の評点をつけることにより実施した。
2:対応する比較区より明瞭に強い
1:対応する比較区よりわずかに強い
0:対応する比較区との差がわからない
-1:対応する比較区よりわずかに弱い
-2:対応する比較区より明瞭に弱い
【0061】
【表3】
【0062】
表3の結果から、食塩濃度をそれぞれ0.6~1.2重量%の範囲に調整し、クレアチン濃度を0.05重量%に調整した試験区3-1~3-5では、クレアチンを含まない対応する比較区と比較して塩味の持続性が向上することが確認された。また、食塩濃度が高くなるに従い、クレアチン添加の効果が明瞭になる傾向がみられた。
【0063】
実施例4:飲食品におけるクレアチンの有無と塩味持続性との相関関係の検討1
パック米飯(サトウのごはん 銀シャリ:サトウ食品工業(株))200gを電子レンジで600W・2分間加熱調理後、品温を40℃以下に下げた状態で、食塩およびクレアチンをそれぞれ1.0重量%および0.05重量%となるように添加・混合し、おにぎりを調製して試験区4とした。比較区4として、クレアチンを添加せず、食塩を1.0重量%添加・混合したおにぎりを調製した。試験区4および比較区4について、それぞれ官能評価を実施した。官能評価は、社内味覚審査員4名によって、比較区4の「塩味持続性の強さ」を0として、試験区4について、下記の5段階の評点をつけることにより実施した。
2:比較区4より明瞭に強い
1:比較区4よりわずかに強い
0:比較区4との差がわからない
-1:比較区4よりわずかに弱い
-2:比較区4より明瞭に弱い
【0064】
【表4】
【0065】
表4の結果、固形食品であるおにぎりにおいても、クレアチンを所定の濃度(0.05重量%)に調整した試験区4では、クレアチンを含まない比較区4と比較して、喫食中の塩味の持続性が強く感じられた。
【0066】
表5の結果、とりがらスープにおいても、クレアチン濃度を所定の範囲(0.05重量%)に調整した試験区5では、クレアチン濃度が低い(0.006重量%)の比較区5と比較して、塩味の持続性が向上することが確認された。
【0067】
実施例5:飲食品におけるクレアチン濃度と塩味持続性との相関関係の検討2
濃縮チキンスープ(「とりがらスープ」:(株)秋川牧園、原材料:鶏、食塩)を純水で5倍希釈したもの(クレアチン濃度0.006重量%)に、食塩およびクレアチンをそれぞれ1.0重量%および0.05重量%となるように添加・混合し、試験区5のチキンスープを調整した。比較区5として、試験区5と同様の5倍希釈濃縮チキンスープ(クレアチン濃度0.006重量%)に、クレアチンを添加せず、食塩を1.0重量%となるように添加・混合したとりがらスープを調製した。試験区5および比較区5について、それぞれ官能評価を実施した。官能評価は、社内味覚審査員4名によって、比較区5の「塩味持続性の強さ」を0として、試験区5について、下記の5段階の評点をつけることにより実施した。
2:比較区5より明瞭に強い
1:比較区5よりわずかに強い
0:比較区5との差がわからない
-1:比較区5よりわずかに弱い
-2:比較区5より明瞭に弱い
【0068】
【表5】
【0069】
表5の結果、とりがらスープにおいても、クレアチン濃度を所定の濃度(0.05重量%)に調整した試験区5では、クレアチン濃度が低い(0.006重量%)の比較区5と比較して、喫食中の塩味の持続性が向上することが確認された。
【0070】
実施例6:飲食品におけるクレアチン濃度と塩味持続性との相関関係の検討3
濃縮チキンブイヨン(「安心逸品チキンブイヨン」:(株)ニチレイフーズ、原材料:鶏骨、野菜(たまねぎ、にんじん、セロリ)、ローリエ、一部に鶏肉を含む)を純水で10倍希釈したもの(クレアチン含量0.012重量%)に、食塩を1.0重量%、クレアチンを0.05重量%となるように添加・混合したチキンブイヨンスープを調製して、試験区6-1とした。また、クレアチンを0.1重量%となるように添加・混合した以外は試験区6-1と同様にチキンブイヨンスープを調製して、試験区6-2とした。比較区6として、試験区6-1および6-2と同様の10倍希釈濃縮チキンブイヨン(クレアチン濃度0.012%)に、クレアチンを添加せず、食塩を1.0重量%となるように添加・混合したチキンブイヨンスープを調製した。試験区6-1および6-2、ならびに比較区6について、それぞれ官能評価を実施した。官能評価は、社内味覚審査員4名によって、比較区6の「塩味持続性の強さ」を0として、試験区6-1および6-2について、下記の5段階の評点をつけることにより実施した。
2:比較区6より明瞭に強い
1:比較区6よりわずかに強い
0:比較区6との差がわからない
-1:比較区6よりわずかに弱い
-2:比較区6より明瞭に弱い
【0071】
【表6】
【0072】
表6の結果、クレアチン濃度を所定の濃度(0.10重量%)に調整した試験区6-2では、クレアチン濃度が低い(0.012重量%)の比較区6と比較して、喫食中の塩味の持続性が向上することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、塩味持続性向上剤、塩味の持続性が向上した飲食品およびその製造方法、飲食品の塩味の持続性の向上方法を提供することができる。