(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】新規接着材料
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20231207BHJP
C09J 7/24 20180101ALI20231207BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20231207BHJP
【FI】
B32B27/00 M
C09J7/24
C09J7/38
(21)【出願番号】P 2019062799
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】506056871
【氏名又は名称】公立大学法人公立千歳科学技術大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】下村 政嗣
(72)【発明者】
【氏名】平井 悠司
(72)【発明者】
【氏名】大滝 晋平
(72)【発明者】
【氏名】桑田 恒太郎
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特許第4472785(JP,B2)
【文献】特開2018-172613(JP,A)
【文献】特開2015-202609(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169662(WO,A1)
【文献】特開2018-172614(JP,A)
【文献】国際公開第2019/017247(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
C09J 7/00 - 7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本数密度が10
3~10
11本/mm
2であり、長さ方向に配向した柱状構造のポリスチレン及び/またはポリブタジエンからなる繊維を少なくとも有する繊維構造体と、
光硬化性アクリル樹脂、及び熱硬化性シリコーンエラストマーからなる群より選ばれる1種以上の樹脂を含む樹脂層と、
を含む成形体。
【請求項2】
前記長さ方向に配向した柱状構造の繊維の長さが10μm以上1000μm以下である、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記繊維構造体
を形成する樹脂の引張弾性率が200MPa以上である、請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項4】
前記繊維構造体が、ポリスチレンから形成された繊維を有する、請求項1又は2に記載の成形体
【請求項5】
前記樹脂層に含まれる樹脂の硬度(ショアA)が80以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項6】
前記樹脂層の厚みから繊維の長さを引いた値が、0μm以上50μm以下である、請求項1~5のいずれか1項記載の成形体。
【請求項7】
大気中でのガラスに対する接着力が5N/cm
2以上であり、且つ、水中でのガラスに対する接着力が5N/cm
2以上である、請求項1~6のいずれか1項記載の成形体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載の成形体を含む、粘着材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維構造体と樹脂層とを含む成形体に関する。本発明の成形体は粘着材料として特に有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば医療用等の人体の皮膚等への貼付用途の粘着テープとして、布・和紙・プラスチックフィルム・不織布等の支持体に、ゴム系あるいはアクリル系の粘着剤を塗布した粘着テープが広く供給されている。これらの粘着テープに使用される粘着剤は、柔軟性、強度、風合、透明性、被着面との密着性、薬剤との相互作用等の観点から適宜選択されている。上記ゴム系あるいはアクリル系の粘着剤は経時劣化や皮膚へのかぶれが問題となることがある。
【0003】
一方で、粘着剤を含有しなくとも被着面に粘着する能力(以下、自己粘着性という。)を有する軟質樹脂やゲルが、人体の皮膚等に粘着する用途として知られている。
例えば、特許公報1には、本質的に粘着性のポリウレタンゲルからなり、ポリウレタン残基とアクリレート残基との両者を含有し、皮膚上で使用するのに適切な物質が開示されている。これらの物質は単独で形状安定性を有しているため、不織布やフィルム等の支持体を有しなくとも皮膚等の被着面に貼付することが可能である。
【0004】
また、特許文献2には、官能基数2.4~3、分子量3,000~6,000の主成分となるポリオールとポリオールの一部に高級モノアルコールを粘着付与剤として用いたことを特徴とするゴム硬度30以下の粘着性を有する軟質樹脂用の組成物および軟質樹脂が開示されている。かかる軟質樹脂は自己粘着性を有しており、また単独で形状安定性を有しているため、粘着剤を介さずとも人体の皮膚等に貼付することが可能である。
【0005】
一方、新規な粘着剤として、微細な直径を有する柱状の繊維構造体が接着特性を示すことが知られている。繊維構造体はミクロオーダー、ナノオーダーの直径を有するため、被着体の表面凹凸に追従し、ファンデルワールス力によって接着力を発現することが明らかになっている。例えば、特許文献3には、カーボンナノチューブからなり複数の直径を有する繊維状柱状構造体集合体を用いた粘着部材について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63-225679号公報
【文献】特許第3914373号公報
【文献】特許第4472785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、人体の皮膚に貼付するという用途に鑑みると、長時間の貼付による発汗・蒸れへの耐性、水濡れによる接着力の低下への耐性、水中使用(例えば風呂やシャワー)に対する耐性等の課題は未だ解決されていない。
すなわち、上記特許文献1~3に開示された粘着材料は、皮膚への長時間の貼付や、皮膚に貼ったままでシャワーを浴びたり入浴したりした場合にはその接着力が低下し、実際に使用するに際しては未だ改善の余地がある。
【0008】
また、打設後間もないコンクリート表面への養生テープ等、含水率が著しく高い被着面への貼付の需要も従来から存在する。すなわち、打設後間もないコンクリート表面は含水率が高く、且つ常時脱水しているため、従来の粘着テープをしっかり粘着固定させることは困難である。そのため、このような含水率が極めて高い被着面への貼付が可能な粘着テープ等の開発が要望されている。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は、大気中のみならず、水濡れ面および水中の使用においても優れた接着力を発揮する成形体及びその成形体を用いた粘着材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、本数密度が103~1011本/mm2であり、長さ方向に配向した柱状構造の繊維を有する繊維構造体と、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び光硬化性樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を含む樹脂層と、を含む成形体により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]
本数密度が103~1011本/mm2であり、長さ方向に配向した柱状構造の繊維を有する繊維構造体と、
熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び光硬化性樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を含む樹脂層と、
を含む成形体。
[2]
前記長さ方向に配向した柱状構造の繊維の長さが10μm以上1000μm以下である、上記[1]に記載の成形体。
[3]
前記繊維構造体が、引張弾性率が200MPa以上である熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び光硬化性樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂を含む樹脂組成物から形成されている、上記[1]又は[2]に記載の成形体。
[4]
前記繊維構造体が、カーボンナノチューブから形成された繊維を有する、上記[1]又は[2]に記載の成形体
[5]
前記樹脂層に含まれる樹脂の硬度(ショアA)が80以下である、上記[1]~[4]のいずれか記載の成形体。
[6]
前記樹脂層の厚みが、前記長さ方向に配向した柱状構造の繊維の長さに対して0μm以上200μm以下である、上記[1]~[5]のいずれか記載の成形体。
[7]
大気中でのガラスに対する接着力が5N/cm2以上であり、且つ、水中でのガラスに対する接着力が5N/cm2以上である、上記[1]~[6]のいずれか記載の成形体。
[8]
上記[1]~[7]のいずれか記載の成形体を含む、粘着材料。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、大気中のみならず、水濡れ面および水中の使用においても優れた接着力を発揮する成形体及びその成形体を用いた粘着材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態における成形体の概略断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
本実施形態の成形体は、
本数密度が103~1011本/mm2であり、長さ方向に配向した柱状構造の繊維を有する繊維構造体と、
熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び光硬化性樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を含む樹脂層と、を含む。
【0016】
図1は、本実施形態における成形体10の概略断面図を示す。成形体10は、繊維構造体2と、樹脂層1と、を少なくとも備えている。繊維構造体に含まれる繊維2aは、長さ方向Lに配向しており、繊維構造体の繊維2aは、樹脂層1に固定されている。繊維は、好ましくは、樹脂層に対して略垂直方向に配向している。3は粘着面を示す。
【0017】
なお、本明細書において「繊維構造体」とは、
図1に示すとおり、柱状構造の繊維2aと、繊維と同じ材料からなる2bとを含む構造体を示すだけでなく、柱状構造の繊維が直接樹脂層に固定されている場合には、繊維構造体は柱状構造の繊維のみを示す。
【0018】
[繊維構造体]
本実施形態の成形体は、本数密度が103~1011本/mm2であり、長さ方向に配向した柱状構造の繊維(以下、単に「繊維」とも言う。)を有する繊維構造体を含む。
【0019】
長さ方向に配向した柱状構造の繊維の本数密度は103~1011本/mm2であり、好ましくは104~1010本/mm2であり、より好ましくは105~109本/mm2であり、さらに好ましくは106~108本/mm2である。本数密度が103本/mm2未満であると成形体の接着力が不十分となり、1011本/mm2を超えると樹脂が含侵しづらくなり、樹脂層の形成が困難になる。
ここで、繊維の本数密度は、実施例に記載された方法に従って測定することができる。
【0020】
繊維の形状の横断面は、任意の適切な形状を有していればよく、例えば、略円形、楕円形、n角形(nは3以上の整数)等が挙げられる。また、繊維は、中空であってもよいし、充填材料であってもよい。
【0021】
繊維の長さは、特に限定されないが、好ましくは10μm以上1000μm以下であり、より好ましくは20μm以上700μm以下であり、さらに好ましくは20μm以上500μm以下である。繊維の長さが10μm以上であると、接着力が一層向上する傾向にあり、1000μm以下であると、接着状態を保持しやすくなる傾向にある。
ここで、繊維の長さは、実施例に記載された方法に従って測定することができる。
【0022】
繊維構造体の材料としては、特に限定されず、例えば、アルミ、鉄などの金属;シリコンなどの無機材料;カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどのカーボン材料;汎用プラスチック、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックなどの樹脂;などが挙げられる。樹脂の具体例としては、ポリスチレン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリエチレンテレフタレート、アセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリアミドなどが挙げられる。樹脂の分子量などの各種物性は、本発明の課題を解決し得る範囲において、任意の適切な物性を採用することができる。
【0023】
本実施形態においては、長さ方向に配向した柱状構造の繊維を有する繊維構造体が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び光硬化性樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂を含む樹脂組成物から形成されており、これらの樹脂の引張弾性率が200MPa以上であることが好ましい。繊維構造体を形成する樹脂の引張弾性率が200MPa以上であることにより、接着後も繊維構造体の構造を維持することができ、接着状態を保持しやすくなる傾向にある。
ここで、樹脂の引張弾性率は、実施例に記載された方法に従って測定することができる。
【0024】
繊維構造体を形成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン―酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、スチレン―アクリロニトリル共重合体、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリイミド等が挙げられ、接着力の観点から、好ましくはポリエチレン、ポリスチレン、スチレン―アクリロニトリル共重合体、ポリカーボネート、ポリブタジエンであり、より好ましくはポリスチレン、スチレン―アクリロニトリル共重合体である。
繊維構造体を形成する熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、シリコーン樹脂等が挙げられる。
繊維構造体を形成する光硬化性樹脂としては、例えば、アクリレート樹脂、エポキシ系アクリレート樹脂、ウレタン系アクリレート樹脂、エステル系アクリレート樹脂等が挙げられ、接着力の観点から、好ましくはアクリレート樹脂、ウレタン系アクリレート樹脂であり、より好ましくはアクリレート樹脂である。
【0025】
また、導電性付与の観点からは、繊維構造体は、カーボンナノチューブからなる繊維を有することが好ましい。
【0026】
また、繊維構造体を形成する樹脂組成物には、上述した樹脂以外のその他の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては、例えば、酸化防止剤、光安定化剤、無機充填材、難燃剤、カーボン系フィラー、金属系フィラー等が挙げられる。
【0027】
[樹脂層]
本実施形態の成形体は、長さ方向に配向した柱状構造の繊維を有する繊維構造体と、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び光硬化性樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を含む樹脂層と、を少なくとも有する。即ち、上述した
図1で示すとおり、成形体は、樹脂層と、繊維構造体を備え、繊維構造体は、樹脂層に固定されている。
【0028】
本実施形態の樹脂層を形成する樹脂は、硬度(ショアA)が80以下であることが好ましい。樹脂層を形成する樹脂の硬度(ショアA)が80以下であることにより、水中における接着力が高まる傾向にある。樹脂の硬度(ショアA)は、より好ましくは60以下であり、さらに好ましくは50以下である。
ここで、樹脂の硬度(シェアA)は、実施例に記載された方法に従って測定することができる。
【0029】
樹脂層は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び光硬化性樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を含む。ここで、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び光硬化性樹脂としては、特に限定されないが、上述した繊維構造体を形成する樹脂として列挙した樹脂と同様のものが挙げられる。中でも、繊維構造体へ樹脂を含侵させる観点から、熱可塑性ポリウレタン、光硬化性アクリル樹脂、熱硬化型シリコーンエラストマー等が好ましく、光硬化性アクリル樹脂、熱硬化性シリコーンエラストマーがより好ましく、熱硬化性シリコーンエラストマーがさらに好ましい。
【0030】
また、樹脂層には、樹脂以外のその他の成分が含まれていてもよく、その他の成分としては、例えば、上述した繊維構造体を形成する樹脂組成物に含まれるその他の成分と同様のものが挙げられる。
【0031】
樹脂層の厚みは、長さ方向に配向した柱状構造の繊維の長さに対して0μm以上200μm以下であることが好ましく、20μm以上150μm以下であることがより好ましく、25μm以上120μm以下であることがさらに好ましい。
樹脂層の厚みが、長さ方向に配向した柱状構造の繊維の長さに対して0μm以上200μm以下である場合、接着力が高まる傾向にある。
ここで、樹脂層の厚みは、実施例に記載された方法に従って測定することができる。
【0032】
[成形体]
本実施形態の成形体は、上述した長さ方向に配向した柱状構造の繊維が、特定の密度範囲で樹脂層に固定されたものであり、従来の成形体と比較して、大気中のみならず、水濡れ面および水中の使用においても優れた接着力を発揮する。
【0033】
本実施形態の成形体の大気中及び水中での接着力をより十分なものとする為には、大気中でのガラスに対する接着力が5N/cm2以上であり、且つ、水中でのガラスに対する接着力が5N/cm2以上であることが好ましい。大気中でのガラスに対する接着力はより好ましくは10N/cm2以上であり、さらに好ましくは15N/cm2以上である。また、水中でのガラスに対する接着力はより好ましくは8N/cm2以上であり、さらに好ましくは10N/cm2以上である。
ここで、大気中及び水中におけるガラスに対する接着力は、実施例に記載された方法に従って測定することができる。
【0034】
[粘着部材]
本実施形態の成形体は、大気中及び水中での接着力に優れているため、粘着部材として特に好適に用いることができる。本実施形態の粘着部材は、好ましくは、本実施形態の繊維構造体と樹脂層を含む成形体に、さらに基材が備えられたものである。粘着部材としては、具体的には、例えば、粘着シート、粘着フィルム等が挙げられる。
【0035】
粘着部材の基材としては、石英ガラス、シリコン(シリコンウェハなど)、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックなどが挙げられる。エンジニアリングプラスチックおよびスーパーエンジニアリングプラスチックの具体例としては、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、アセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミドが挙げられる。分子量などの諸物性は、本発明の目的を達成し得る範囲において、任意の適切な物性を採用し得る。
【0036】
基材の厚みは、目的に応じて、任意の適切な値に設定され得る。例えば、シリコン基板の場合は、好ましくは100~10000μm、より好ましくは100~5000μm、さらに好ましくは100~2000μmである。例えば、ポリプロピレン基板の場合は、好ましくは1~1000μm、より好ましくは1~500μm、さらに好ましくは5~100μmである。
【0037】
基材の表面は、隣接する層との密着性、保持性などを高めるために、慣用の表面処理、例えば、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、イオン化放射線処理などの化学的または物理的処理、下塗剤(例えば、上記粘着性物質)によるコーティング処理が施されていてもよい。
【0038】
基材は単層であってもよいし、多層体であってもよい。
【0039】
本実施形態の成形体を基材に固定する場合、その方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。例えば、成形体の製造に使用した樹脂層を基材としてそのまま用いてもよい。また、基材に接着層を設けて固定してもよい。さらに、基材が熱硬化性樹脂の場合は、反応前の状態で薄膜を作製し、繊維の一端を薄膜層に圧着させた後、硬化処理を行って固定すればよい。また、基材が熱可塑性樹脂や金属などの場合は、溶融した状態で成形体の一端を圧着させた後、室温まで冷却して固定すればよい。
【0040】
[成形体の製造方法]
本実施形態の成形体の製造方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。本実施形態の成形体に含まれる繊維が樹脂組成物から形成される場合、繊維の柱状構造に対応した反転構造を有するモールドを用いて、この構造を転写する転写法などを用いることができる。具体的には、陽極酸化アルミナ等のモールドを用いて、熱可塑性、熱硬化性または光硬化性の樹脂に微細凹凸構造を転写する方法を用いることができる。
【0041】
具体的な方法としては、例えば、モールドと透明基材とを対向させ、これらの間に樹脂組成物を充填、配置する。この際、モールドの微細凹凸構造が形成された側の面、すなわちモールド表面が、透明基材と対向するようにする。ついで、充填された樹脂組成物に、透明基材を介して活性エネルギー線(可視光線、紫外線、電子線、プラズマ、赤外線等の熱線)を例えば高圧水銀ランプやメタルハライドランプにより照射したり、加熱したりして、樹脂組成物を硬化し、その後、モールドを剥離又は溶解する。この際、必要に応じて、剥離又は溶解後に再度活性エネルギー線を照射したり、加熱したりしてもよい。
【0042】
あるいは、透明基材上に固体状の未硬化の樹脂組成物をコーティングしておき、この樹脂組成物に対してロール型とされたモールドを圧接して微細凹凸構造を転写した後、未硬化の樹脂組成物に活性エネルギー線を照射したり加熱したりして硬化する方法によっても、同様に柱状構造の繊維を有する繊維構造体が得られる。
【0043】
なお、樹脂組成物の硬化反応とモールドの剥離の順番に関しては、結果として微細凹凸構造が転写できていればどのような順番でもよく、例えば、完全に樹脂組成物を硬化させた後にモールドを剥離する方法や、ある程度樹脂組成物を硬化させた段階でモールドを剥離し、さらに硬化させる方法を選択して用いてもよい。
【0044】
樹脂組成物をモールドと透明基材との間に充填、配置する際には、例えばローラーコート法、バーコート法、エアーナイフコート法等により、樹脂組成物を透明基材やモールドに塗布する方法が挙げられる。また、その際、樹脂組成物が適当な粘度となるように、増粘剤や溶剤等を添加したり、樹脂組成物の温度を調整したりしてもよい。
【0045】
透明基材の材質は特に限定されないが、例えば、ガラス等の無機材料、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、スチレン樹脂等が挙げられる。
【0046】
次いで、得られた繊維構造体から透明基材をはがした後、繊維構造体の片面に樹脂層を積層することにより、本実施形態の成形体を得ることができる。樹脂層の積層方法としては、特に限定されず、例えば、スピンコート、スリットコート、ブレードコート、プレス成形等の方法を用いることができる。
【0047】
また、本実施形態の繊維としてカーボンナノチューブを用いる場合の成形体の製造方法としては、例えば、特許第4472785に記載された方法を採用することができる。
【実施例】
【0048】
本発明を実施例及び比較例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら限定されるものではない。実施例、比較例における各種物性の測定方法および評価方法は以下のとおりである。
【0049】
(接着力の評価)
作製した成形体をスチロール角型ケースに両面粘着テープで固定し、大気下および水中での接着力を引張試験機(デジタルフォースゲージ、MX2-500N、IMADA)を用いて測定した。このとき、接着圧子として紫外オゾン処理で洗浄した10φのガラス板を用い、30mm/minの速度で圧子を近づけて5Nの力がかかった時に停止させ、50秒圧縮した。その後、10mm/minで引張った際の最小値の絶対値を接着力(N)とし、断面積で割ることで単位面積あたりの接着力(N/cm2)を算出した。水中での試験には純水を用い、成形体が浸かるまで純粋を加えた後に大気下と同じ条件で評価した。
【0050】
(繊維の長さ、樹脂層の厚みの測定)
作製した成形体を手でカットし、その断面を電界放出型走査型電子顕微鏡(JSM-7800F、日本電子株式会社)で観察することで、繊維の長さと樹脂層の厚みを測定した。
【0051】
(繊維の本数密度)
樹脂層を導入する前の成形体表面を電界放出型走査型電子顕微鏡で観察することで、繊維の本数密度を測定した。
【0052】
(引張弾性率)
JIS K 7161に準拠して、23℃の条件下で引張弾性率を測定した。
【0053】
(シェアA硬度)
JIS K 6253に準拠して、23℃の条件下で樹脂層単体のショアA硬度を測定した。
【0054】
[実施例1]
ポリスチレン(引張弾性率3000MPa、JISK7161)をクロロホルムに溶解させ、100g/Lの溶液を調製した。調製したクロロホルム溶液を4cm角のガラス基板上に1.2mL塗布し、乾燥させてポリスチレン薄膜を作製した。その後、200nmの細孔を有する50μm厚の陽極酸化アルミナをポリスチレン薄膜に載せて180℃で7分間、5MPaの圧力で熱プレスを行った。熱プレス後は1Mの水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬することで陽極酸化アルミナを溶解させ、ポリスチレンの繊維構造体を作製した。作製した繊維構造体をガラス基板から剥がして両面粘着テープの片面に接着した後、熱硬化型シリコーンエラストマー(熱硬化後のショアA硬度43)を繊維構造体に塗布して、5000rpmで1分間スピンコートした(スピンコーター:1H-D7、MIKASA SPINCOATER)。スピンコート後は70℃で12時間、シリコーンエラストマーを熱架橋させることで、フィルム状の成形体1を作製した。
接着力を測定した結果、大気中では10N/cm2、水中では10N/cm2であった。このとき、繊維の長さは35μm、樹脂層の厚み-繊維の長さは1μmであった。
成形体の各種物性および評価結果を表1に示した。
【0055】
[実施例2]
スピンコートの回転スピードを調節したこと以外は実施例1と同様にしてフィルム状の成形体2を作製した。
接着力を測定した結果、大気中では12N/cm2、水中では11N/cm2であった。このとき、繊維の長さは30μm、樹脂層の厚み-繊維の長さは24μmであった。
【0056】
[実施例3]
スピンコートの回転スピードを調節したこと以外は実施例1と同様にしてフィルム状の成形体3を作製した。
接着力を測定した結果、大気中では16N/cm2、水中では11N/cm2であった。このとき、繊維の長さは53μm、樹脂層の厚み-繊維の長さは59μmであった。
【0057】
[実施例4]
スピンコートの回転スピードを調節したこと以外は実施例1と同様にしてフィルム状の成形体4を作製した。
接着力を測定した結果、大気中では10N/cm2、水中では8N/cm2であった。このとき、繊維の長さは21μm、樹脂層の厚み-繊維の長さは90μmであった。
【0058】
[実施例5]
スピンコートの回転スピードを調節したこと以外は実施例1と同様にして、フィルム状の成形体5を作製した。
接着力を測定した結果、大気中では5N/cm2、水中では5N/cm2であった。このとき、繊維の長さは17μm、樹脂層の厚み-繊維の長さは133μmであった。
【0059】
[比較例1]
樹脂層を形成させなかったこと以外は実施例1と同様にしてフィルム状の成形体6を作製した。
接着力を測定した結果、大気中では0N/cm2、水中下では0N/cm2であった。
【0060】
[比較例2]
繊維構造体を用いずに、厚み1500μmの熱硬化性シリコーンエラストマーからなるフィルム状の成形体7を作製した。
接着力を測定した結果、大気中では4N/cm2、水中下では2N/cm2であった。
【0061】
【0062】
上記表に示すとおり、実施例1~5の成形体は、大気中のみならず、水中の使用においても優れた接着力を発揮した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、大気中のみならず、水濡れ面および水中の使用においても優れた接着力を発揮する成形体及びその成形体を用いた粘着材料としての産業上利用可能性を有する。