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特許7398209シール構造、減速機、およびシール構造の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】シール構造、減速機、およびシール構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3204 20160101AFI20231207BHJP
   F16H 1/28 20060101ALI20231207BHJP
   F16J 15/3256 20160101ALI20231207BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
F16J15/3204 201
F16H1/28
F16J15/3256
F16C33/78 Z
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019096640
(22)【出願日】2019-05-23
(65)【公開番号】P2020190308
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】四十 薫
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-338534(JP,A)
【文献】特開2008-128378(JP,A)
【文献】特開2009-197883(JP,A)
【文献】国際公開第2014/119204(WO,A1)
【文献】実開平05-003740(JP,U)
【文献】実開平05-061568(JP,U)
【文献】特開2007-056884(JP,A)
【文献】特開2002-228009(JP,A)
【文献】特開平03-020175(JP,A)
【文献】実開平04-050724(JP,U)
【文献】国際公開第2018/117100(WO,A1)
【文献】特開2013-092206(JP,A)
【文献】実開昭52-015657(JP,U)
【文献】特開2017-072240(JP,A)
【文献】実開平03-105767(JP,U)
【文献】国際公開第2016/084595(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204
F16J 15/3232
F16J 15/3256
F16C 33/72-33/82
F16H 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びる第1部材と、
前記第1部材の外周側に配置された第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間に配置され前記第2部材の内周面に密着するシール部材と、
前記シール部材と前記第1部材との間に前記軸方向の外側から挿入可能に形成され、前記シール部材の内周側に接触して配置されて前記第1部材の外周面に密着する環状部材と、
を備え、
前記シール部材が前記環状部材に接触する1以上のリップ部を有し、
前記1以上のリップ部の全てが前記軸方向の内側に延びているシール構造。
【請求項2】
前記第1部材が入力軸部材であり、
前記第2部材が出力軸として設けられたキャリアである請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
前記シール部材が環状である請求項1に記載のシール構造。
【請求項4】
前記環状部材が金属管およびシール管を備える請求項1に記載のシール構造。
【請求項5】
前記1以上のリップ部がリップ部を備え、
前記環状部材が前記リップ部で前記シール部材に接触する
請求項1に記載のシール構造。
【請求項6】
前記1以上のリップ部が前記リップ部よりも前記軸方向の外側で前記環状部材の外周面に接触する他のリップ部を有する
請求項5に記載のシール構造。
【請求項7】
前記環状部材のうち前記リップ部に接触する箇所の素材は前記第1部材の素材よりも熱伝導率が高い
請求項5に記載のシール構造。
【請求項8】
軸方向に延びる入力軸部材と、
出力軸として設けられ、前記入力軸部材の外周側に配置されたキャリアと、
1以上のリップ部を有し前記入力軸部材と前記キャリアとの間に配置され前記キャリアの内周面に密着する環状のシール部材と、
前記シール部材と前記入力軸部材との間に前記軸方向の外側から挿入可能に形成され、前記1以上のリップ部の全てに接触して配置されて前記入力軸部材の外周面に密着し金属管およびシール管を備える環状部材と、を備え、
前記1以上のリップ部がリップ部と、前記リップ部よりも前記軸方向の外側で前記環状部材の外周面に接触する他のリップ部を有し、
前記1以上のリップ部の全てが前記軸方向の内側に延びているシール構造。
【請求項9】
軸方向に延びる第1部材と、
前記第1部材の外周側に配置された第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間に配置され前記第1部材の外周面に密着するシール部材と、
前記シール部材と前記第2部材との間に前記軸方向の外側から挿入可能に形成され、前記シール部材の外周側に接触して配置されて前記第2部材の内周面に少なくとも一部で密着する環状部材と、
を備え、
前記シール部材が前記環状部材に接触する1以上のリップ部を有し、
前記1以上のリップ部の全てが前記軸方向の内側に延びているシール構造。
【請求項10】
前記第1部材が入力軸部材であり、
前記第2部材が出力軸として設けられたキャリアである請求項9に記載のシール構造。
【請求項11】
前記シール部材が環状である請求項9に記載のシール構造。
【請求項12】
前記環状部材が金属管およびシール管を備える請求項9に記載のシール構造。
【請求項13】
前記1以上のリップ部が前記シール部材の外周部に配置されて前記環状部材の内周面に接触しているリップ部を有する
請求項9に記載のシール構造。
【請求項14】
前記環状部材は内周部に前記リップ部よりも前記軸方向の外側で前記シール部材の外周面に接触する他のリップ部を有する
請求項13に記載のシール構造。
【請求項15】
前記環状部材のうち前記リップ部に接触する箇所の素材は前記第1部材の素材よりも熱伝導率が高い
請求項13に記載のシール構造。
【請求項16】
軸方向に延びる入力軸部材と、
出力軸として設けられ、前記入力軸部材の外周側に配置されたキャリアと、
1以上のリップ部を有し前記入力軸部材と前記キャリアとの間に配置され前記入力軸部材の外周面に密着し金属管およびシール管を備える環状のシール部材と、
前記シール部材と前記キャリアとの間に前記軸方向の外側から挿入可能に形成され、前記1以上のリップ部の全てに接触して配置されて前記キャリアの内周面に少なくとも一部で密着する環状部材と、を備え、
前記1以上のリップ部が前記シール部材の外周部に配置されて前記環状部材の内周面に接触しているリップ部を有し、
前記1以上のリップ部の全てが前記軸方向の内側に延びているシール構造。
【請求項17】
軸方向に延びる第1部材と、
前記第1部材の外周側に配置された第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間に配置されシール部材と、
前記シール部材と前記第1部材または前記第2部材との間に前記軸方向の外側から挿入可能に形成され、前記第1部材の外周面または前記第2部材の内周面の少なくとも一方に密着するとともに前記シール部材に接触した環状部材と、
を備え、
前記シール部材が前記環状部材に接触する1以上のリップ部を有し、
前記1以上のリップ部の全てが前記軸方向の内側に延びているシール構造。
【請求項18】
請求項1から請求項17のいずれか1項に記載のシール構造を備えた減速機。
【請求項19】
軸方向に延びる入力軸部材と出力軸として設けられ前記入力軸部材の外周側に配置されたキャリアとの間にシール部材を配置する工程と、
前記シール部材と前記入力軸部材または前記キャリアの少なくとも一方との間に環状部材を前記軸方向の外側から挿入し、前記シール部材が有する全てのリップ部を前記環状部材により引き摺って前記軸方向の内側に向ける工程と、をこの順番で備えるシール構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール構造、減速機、およびシール構造の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータ軸等に連結された入力軸の回転を減速して出力軸に出力する減速機がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、内歯歯車と、内歯歯車と僅少の歯数差の外歯歯車と、内歯歯車及び外歯歯車の収容されるケーシングと、を有し、内歯歯車と外歯歯車との相対回転成分を出力する揺動内接噛合型の減速機が開示されている。
【0003】
この種の減速機は、装置内部に封入されたオイルの漏出を抑制するためのシール構造を有する。シール構造は、入力軸に装着されて入力軸の外周面に摺接するシール部材を有する。シール部材は、シール性を高めるために、入力軸の外周面への接触部(リップ)を軸方向の内側(装置内部側)に向けた状態で配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4504899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、入力軸が高速回転すると、入力軸とシール部材との摺動部が発熱してスラッジが発生する場合がある。この場合、シール部材がスラッジによって損傷し、シール性が低下する可能性がある。このため、スラッジが発生した場合には、シール部材を交換する必要がある。
【0006】
しかしながら、減速機の所定位置に組み込まれた入力軸にシール部材を組み付けると、シール部材は入力軸の外周面に引き摺られて、入力軸の外周面に対して既定の状態で接触しない可能性がある。特にシール部材がリップを有する場合、リップは入力軸の外周面に引き摺られて軸方向の外側に捲れた状態となる可能性がある。このため、交換したシール部材を規定の状態で入力軸の外周面に接触させるために、シール部材が予め装着された入力軸を減速機に組み付けるための複雑な構造、およびシール部材を入力軸に装着するために入力軸を着脱する工程が必要となる。よって、従来技術の減速機にあっては、シール部材を容易に交換可能として、メンテナンス性の向上を図るという点で課題がある。
【0007】
そこで本発明は、シール部材を容易に交換可能なシール構造、減速機、およびそのシール構造の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るシール構造は、軸方向に延びる第1部材と、前記第1部材の外周側に配置された第2部材と、前記第1部材と前記第2部材との間に配置され前記第2部材の内周面に密着するシール部材と、前記シール部材と前記第1部材との間に前記軸方向の外側から挿入可能に形成され、前記シール部材の内周側に接触して配置されて前記第1部材の外周面に密着する環状部材と、を備え、前記シール部材が前記環状部材に接触する1以上のリップ部を有し、前記1以上のリップ部の全てが前記軸方向の内側に延びている。
【0009】
本発明の一態様に係るシール構造では、第1部材および第2部材に対して環状部材をシール部材よりも後に組み付けることで、シール部材と第1部材との間に環状部材が挿入される。このため、シール部材の内周部が環状部材によって軸方向の内側に引き摺られる。これにより、減速機の組み立て時において、第1部材および第2部材が所定の位置に組み付けられた状態でシール部材を組み付けても、シール部材の内周部を規定の状態にすることができる。よって、第1部材および第2部材を着脱することなくシール部材を交換することが可能となる。したがって、シール部材を容易に交換可能なシール構造を提供できる。
【0010】
上記態様の減速機のシール構造であって、前記第1部材が入力軸部材であり、前記第2部材が出力軸として設けられたキャリアであってもよい。
【0011】
上記態様の減速機のシール構造であって、前記シール部材が環状であってもよい。
【0012】
上記態様の減速機のシール構造であって、前記環状部材が金属管およびシール管を備えてもよい。
【0013】
上記態様の減速機のシール構造であって、前記1以上のリップ部がリップ部を備え、前記環状部材が前記リップ部で前記シール部材に接触してもよい。
【0014】
上記態様の減速機のシール構造であって、前記1以上のリップ部が前記リップ部よりも前記軸方向の外側で前記環状部材の外周面に接触する他のリップ部を有していてもよい。
【0015】
上記態様の減速機のシール構造であって、前記環状部材のうち前記リップ部に接触する箇所の素材は前記第1部材の素材よりも熱伝導率が高くてもよい。
【0016】
本発明の一態様に係るシール構造は、軸方向に延びる入力軸部材と、出力軸として設けられ、前記入力軸部材の外周側に配置されたキャリアと、1以上のリップ部を有し前記入力軸部材と前記キャリアとの間に配置され前記キャリアの内周面に密着する環状のシール部材と、前記シール部材と前記入力軸部材との間に前記軸方向の外側から挿入可能に形成され、前記1以上のリップ部の全てに接触して配置されて前記入力軸部材の外周面に密着し金属管およびシール管を備える環状部材と、を備え、前記1以上のリップ部がリップ部と、前記リップ部よりも前記軸方向の外側で前記環状部材の外周面に接触する他のリップ部を有し、前記1以上のリップ部の全てが前記軸方向の内側に延びている。
【0017】
本発明の一態様に係るシール構造では、入力軸部材およびキャリアに対して環状部材をシール部材よりも後に組み付けることで、シール部材のリップ部と入力軸部材との間に環状部材が挿入される。このため、シール部材のリップ部が環状部材によって軸方向の内側に引き摺られて軸方向の内側に向く。これにより、減速機の組み立て時において、入力軸部材およびキャリアが所定の位置に組み付けられた状態でシール部材を組み付けても、シール部材のリップ部が軸方向の外側に捲れた状態になることを抑制できる。よって、入力軸部材およびキャリアを着脱することなくシール部材を交換することが可能となる。したがって、シール部材を容易に交換可能なシール構造を提供できる。
【0018】
本発明の一態様に係るシール構造は、軸方向に延びる第1部材と、前記第1部材の外周側に配置された第2部材と、前記第1部材と前記第2部材との間に配置され前記第1部材の外周面に密着するシール部材と、前記シール部材と前記第2部材との間に前記軸方向の外側から挿入可能に形成され、前記シール部材の外周側に接触して配置されて前記第2部材の内周面に少なくとも一部で密着する環状部材と、を備え、前記シール部材が前記環状部材に接触する1以上のリップ部を有し、前記1以上のリップ部の全てが前記軸方向の内側に延びている。
【0019】
本発明の一態様に係るシール構造では、第1部材および第2部材に対して環状部材をシール部材よりも後に組み付けることで、シール部材と第2部材との間に環状部材が挿入される。このため、シール部材の外周部が環状部材によって軸方向の内側に引き摺られる。これにより、減速機の組み立て時において、第1部材および第2部材が所定の位置に組み付けられた状態でシール部材を組み付けても、シール部材の外周部を規定の状態にすることができる。よって、第1部材および第2部材を着脱することなくシール部材を交換することが可能となる。したがって、シール部材を容易に交換可能なシール構造を提供できる。
【0020】
上記態様の減速機のシール構造であって、前記第1部材が入力軸部材であり、前記第2部材が出力軸として設けられたキャリアであってもよい。
【0021】
上記態様の減速機のシール構造であって、前記シール部材が環状であってもよい。
【0022】
上記態様の減速機のシール構造であって、前記環状部材が金属管およびシール管を備えてもよい。
【0023】
上記態様の減速機のシール構造であって、前記1以上のリップ部が前記シール部材の外周部に配置されて前記環状部材の内周面に接触しているリップ部を有していてもよい。
【0024】
上記態様の減速機のシール構造であって、前記環状部材は内周部に前記リップ部よりも前記軸方向の外側で前記シール部材の外周面に接触する他のリップ部を有していてもよい。
【0025】
上記態様の減速機のシール構造であって、前記環状部材のうち前記リップ部に接触する箇所の素材は前記第1部材の素材よりも熱伝導率が高くてもよい。
【0026】
本発明の一態様に係るシール構造は、軸方向に延びる入力軸部材と、出力軸として設けられ、前記入力軸部材の外周側に配置されたキャリアと、1以上のリップ部を有し前記入力軸部材と前記キャリアとの間に配置され前記入力軸部材の外周面に密着し金属管およびシール管を備える環状のシール部材と、前記シール部材と前記キャリアとの間に前記軸方向の外側から挿入可能に形成され、前記1以上のリップ部の全てに接触して配置されて前記キャリアの内周面に少なくとも一部で密着する環状部材と、を備え、前記1以上のリップ部が前記シール部材の外周部に配置されて前記環状部材の内周面に接触しているリップ部を有し、前記1以上のリップ部の全てが前記軸方向の内側に延びている。
【0027】
本発明の一態様に係るシール構造では、入力軸部材およびキャリアに対して環状部材をシール部材よりも後に組み付けることで、シール部材のリップ部とキャリアとの間に環状部材が挿入される。このため、シール部材のリップ部が環状部材によって軸方向の内側に引き摺られて軸方向の内側に向く。これにより、減速機の組み立て時において、入力軸部材およびキャリアが所定の位置に組み付けられた状態でシール部材を組み付けても、シール部材のリップ部が軸方向の外側に捲れた状態になることを抑制できる。よって、入力軸部材およびキャリアを着脱することなくシール部材を交換することが可能となる。したがって、シール部材を容易に交換可能なシール構造を提供できる。
【0028】
本発明の一態様に係るシール構造は、軸方向に延びる第1部材と、前記第1部材の外周側に配置された第2部材と、前記第1部材と前記第2部材との間に配置されシール部材と、前記シール部材と前記第1部材または前記第2部材との間に前記軸方向の外側から挿入可能に形成され、前記第1部材の外周面または前記第2部材の内周面の少なくとも一方に密着するとともに前記シール部材に接触した環状部材と、を備え、前記シール部材が前記環状部材に接触する1以上のリップ部を有し、前記1以上のリップ部の全てが前記軸方向の内側に延びている。
【0029】
本発明の一態様に係るシール構造では、第1部材および第2部材に対して環状部材をシール部材よりも後に組み付けることで、シール部材と第1部材または第2部材との間に環状部材が挿入される。このため、シール部材の内周部または外周部が環状部材によって軸方向の内側に引き摺られる。これにより、減速機の組み立て時において、第1部材および第2部材が所定の位置に組み付けられた状態でシール部材を組み付けても、シール部材の内周部および外周部を規定の状態にすることができる。よって、第1部材および第2部材を着脱することなくシール部材を交換することが可能となる。したがって、シール部材を容易に交換可能なシール構造を提供できる。
【0030】
本発明の一態様に係る減速機は、上記態様のシール構造を備える。
【0031】
本発明の一態様に係る減速機によれば、シール部材の交換が容易とされているので、メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0032】
本発明の一態様に係るシール構造の製造方法は、軸方向に延びる入力軸部材と出力軸として設けられ前記入力軸部材の外周側に配置されたキャリアとの間にシール部材を配置する工程と、前記シール部材と前記第1部材または前記キャリアの少なくとも一方との間に環状部材を前記軸方向の外側から挿入し、前記シール部材が有する全てのリップ部を前記環状部材により引き摺って前記軸方向の内側に向ける工程と、をこの順番で備える。
【0033】
本発明の一態様に係るシール構造の製造方法によれば、シール部材と第1部材または第2部材との間に環状部材が軸方向の外側から挿入される。このため、シール部材の内周部または外周部が環状部材によって軸方向の内側に引き摺られる。これにより、減速機の組み立て時において、シール部材を規定の状態とすることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、シール部材を容易に交換可能なシール構造、減速機、およびそのシール構造の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】第1実施形態に係る減速機の一部を破断した側面図である。
図2】第1実施形態に係る減速機の一部を破断して拡大した側面図である。
図3】第2実施形態に係る減速機の一部を破断して拡大した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態に係るシール構造を備えた減速機1について添付の図面を参照して説明する。本実施形態の減速機1は、例えばロボットアームの関節部等に適用される偏心揺動型の歯車伝動装置である。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0037】
(第1実施形態)
最初に第1実施形態の減速機1の概略構成について図1を参照して説明する。
図1は、第1実施形態に係る減速機の一部を破断した側面図である。
図1に示すように、減速機1は、ギアケース2と、モータの回転軸等に連結される入力軸3(第1部材、入力軸部材)と、入力軸3の外周側に配置された出力軸としてのキャリア4(第2部材)と、ギアケース2に収容された減速機構5と、を有する。減速機1は、入力軸3を回転させることによって、減速機構5を介して入力軸3の回転をキャリア4に減速して伝達する。減速機1の内部には、潤滑油が充填されている。
【0038】
減速機1は、全体としての所定の軸線Oを中心とする円柱状に形成されている。ギアケース2は、軸線Oを中心とする円筒状に形成されている。キャリア4は、ギアケース2の内側に収容されている。キャリア4は、減速機構5を保持している。キャリア4は、ギアケース2と同軸の円筒状に形成されている。キャリア4は、ギアケース2から軸線Oの軸方向の両側に突出している。キャリア4は、ギアケース2および入力軸3に対して軸線O回りに相対回転する。
【0039】
入力軸3は、図示しないモータの駆動力が入力される入力部として機能する。入力軸3は、例えば鉄や鋼、ステンレス鋼によって形成されている。入力軸3は、キャリア4と同軸に延びている。入力軸3は、キャリア4の内側に挿入されている。入力軸3は、キャリア4に対して軸線O回りに相対回転する。入力軸3は、第1端部3aの外周面にギア6を備える。ギア6は、減速機構5の歯車に噛み合っている。入力軸3は、第1端部3aよりも第2端部3b側で軸受7を介してキャリア4に相対回転可能に支持されている。入力軸3とキャリア4との間には、シール部材10および円筒部材40(環状部材)が配置されている。
【0040】
続いて第1実施形態の減速機1におけるシール部材10および円筒部材40近傍の詳細構成について図2を参照して説明する。なお以下の説明では、入力軸3の軸方向(すなわち軸線Oに沿う方向)を単に軸方向という。
【0041】
図2は、第1実施形態に係る減速機の一部を破断して拡大した側面図である。
図2に示すように、キャリア4の内周面は、軸線Oの垂直面に沿って延びる段差面4aを有する。段差面4aは、軸受7よりも軸方向の外側に配置され、軸方向の外側に向いている。キャリア4の内周面は、段差面4aから軸方向の外側に向かって一定の内径で延びている。なお段差面4aは、軸線Oに対して傾斜していればよい。また段差面4aは、入力軸3の周囲を全周にわたって連続して延びていてもよいし、入力軸3の周囲の一部のみに設けられていてもよい。
【0042】
入力軸3の外周面は、軸線Oの垂直面に沿って延びる肩面3cを有する。肩面3cは、軸受7よりも軸方向の外側に配置され、軸方向の外側に向いている。入力軸3の外周面は、肩面3cから軸方向の外側に向かって一定の外径で延びている。なお肩面3cは、軸線Oに対して傾斜していればよい。また肩面3cは、入力軸3の周囲を全周にわたって連続して延びていてもよいし、入力軸3の周囲の一部のみに設けられていてもよい。
【0043】
シール部材10および円筒部材40は、減速機1の内部空間を外部空間から隔離する。シール部材10および円筒部材40は、それぞれ円環状に形成されて入力軸3を囲うように配置されている。シール部材10および円筒部材40は、それぞれ軸受7よりも入力軸3の第2端部3b側に配置されている。シール部材10は、キャリア4の内周面に密着している。シール部材10は、キャリア4の段差面4aよりも軸方向の外側に配置されている。円筒部材40は、シール部材10の内周側に配置されている。円筒部材40は、シール部材10と入力軸3との間に配置され、入力軸3の外周面に密着している。円筒部材40は、入力軸3の肩面3cよりも軸方向の外側に配置されている。シール部材10および円筒部材40は、軸受7および入力軸3がキャリア4に対して組み付けられた状態で入力軸3の第2端部3b側から取付可能となっている。
【0044】
シール部材10は、キャリア4の内周面に全周にわたって密着している。シール部材10は、内周部にメインリップ部23を有する円環状のオイルシール20と、内周部にダストリップ部33を有する円環状のダストシール30と、を備える。
【0045】
オイルシール20は、減速機1の内部からの潤滑油の漏出を抑制する。オイルシール20は、キャリア4に固定された円筒状の基部21と、基部21から径方向内方に延びたメインリップ支持部22と、メインリップ支持部22に支持されたメインリップ部23と、メインリップ部23を補強するスプリング24と、を備える。基部21は、キャリア4の段差面4aに軸方向の外側から接触している。これにより、オイルシール20は、キャリア4に対して軸線Oの軸方向で位置決めされている。基部21の外周面は、キャリア4の内周面に全周にわたって密着している。オイルシール20は、キャリア4に対して摩擦力によって固定されている。メインリップ支持部22は、基部21における軸方向の外側の端部から突出するとともに入力軸3の周囲を全周にわたって延びている。メインリップ支持部22の内周側の端部は、円筒部材40に対して径方向外方に隙間を設けて位置している。メインリップ部23は、メインリップ支持部22の内周側の端部の全体から軸方向の内側に延びている。メインリップ部23は、円筒部材40の外周面に密に接触している。スプリング24は、円環状に形成されて、メインリップ部23を囲うように配置されている。スプリング24は、メインリップ部23を円筒部材40の外周面に押し付けている。
【0046】
基部21およびメインリップ支持部22は、柔軟な可撓部材26と、可撓部材26の内部に配置されたフレーム27と、を備える。可撓部材26は、潤滑油を遮蔽可能な材料であって、かつ柔軟性を有した材料によって形成されている。例えば、可撓部材26は、ゴムによって形成されている。可撓部材26は、少なくともオイルシール20とキャリア4との接触部に配置されている。フレーム27は、可撓部材26よりも硬質な材料によって形成されている。フレーム27は、例えば金属材料や樹脂材料等によって形成されている。フレーム27の少なくとも一部は、可撓部材26によって覆われている。フレーム27は、基部21からメインリップ支持部22に亘って連続し、1つの部材として設けられている。なお、メインリップ部23は、メインリップ支持部22の可撓部材26に一体化している。すなわち、基部21およびメインリップ支持部22それぞれの可撓部材26とメインリップ部23とは、単一の材料により形成されて一体化している。
【0047】
ダストシール30は、オイルシール20よりも軸方向の内側に配置されている。ダストシール30は、装置内部側からオイルシール20と円筒部材40との摺接部位への異物の進入を抑制する。ダストシール30は、オイルシール20に固定された円筒状の固定部31と、固定部31から径方向内方に延びたダストリップ支持部32と、ダストリップ支持部32に支持されたダストリップ部33と、を備える。固定部31の外周面は、オイルシール20の基部21の内周面に全周にわたって密着している。ダストシール30は、オイルシール20に固定されている。例えば、ダストシール30は、オイルシール20に対して摩擦力によって固定されている。ダストリップ支持部32は、固定部31の軸方向の内側の端部から突出するとともに入力軸3の周囲を全周にわたって延びている。ダストリップ支持部32の内周側の端部は、円筒部材40に対して径方向外方に隙間を設けて位置している。ダストリップ部33は、ダストリップ支持部32の内周側の端部の全体から軸方向の内側に延びている。ダストリップ部33は、円筒部材40の外周面に密に接触している。
【0048】
固定部31およびダストリップ支持部32は、柔軟な可撓部材36と、可撓部材36の内部に配置されたフレーム37と、を備える。可撓部材36は、潤滑油を遮蔽可能な材料であって、かつ柔軟性を有した材料によって形成されている。例えば、可撓部材36は、ゴムによって形成されている。フレーム37は、可撓部材36よりも硬質な材料によって形成されている。フレーム37は、例えば金属材料や樹脂材料等によって形成されている。フレーム37の少なくとも一部は、可撓部材36によって覆われている。フレーム37は、固定部31からダストリップ支持部32に亘って連続し、1つの部材として設けられている。なお、ダストリップ部33は、ダストリップ支持部32の可撓部材36に一体化している。すなわち、固定部31およびダストリップ支持部32それぞれの可撓部材36とダストリップ部33とは、単一の材料により形成されて一体化している。
【0049】
円筒部材40は、入力軸3と同軸の円筒状に形成されている。円筒部材40は、入力軸3の外周面に密着するとともにメインリップ部23およびダストリップ部33に接触した環状部材である。円筒部材40は、入力軸3の肩面3cに軸方向の外側から接触している。これにより、円筒部材40は、入力軸3に対して軸線Oの軸方向で位置決めされている。円筒部材40は、金属管41と、金属管41の内周面に接合されたシール管42と、を備える。シール管42は、円筒部材40の内周部を構成している。シール管42は、潤滑油を遮蔽可能な材料であって、かつ柔軟性を有した材料によって形成されている。例えば、シール管42は、ゴムによって形成されている。シール管42の内周面は、入力軸3の外周面に対して全周にわたって密着している。円筒部材40は、入力軸3に対して摩擦力によって固定されている。金属管41は、円筒部材40の外周部を構成している。金属管41の素材は、入力軸3の素材よりも熱伝導率が高い。金属管41は、例えばアルミニウムによって形成されている。なお、金属管41は、例えば金や銀、銅によって形成されていてもよい。金属管41の外周面は、テーパー面43を備える。テーパー面43は、金属管41における軸方向の内側の端部に設けられている。テーパー面43は、軸方向の外側から内側に向かうに従い漸次縮径している。金属管41の外周面はテーパー面43を除き、一定の外径で延びている。金属管41の外周面には、メインリップ部23およびダストリップ部33がキャリア4および入力軸3の相対回転に伴って摺接する。
【0050】
続いて本実施形態の減速機1の製造方法の一部としてシール部材10および円筒部材40の組み付け方法について説明する。
上述したようにシール部材10および円筒部材40は、軸受7および入力軸3がキャリア4に対して組み付けられた状態で規定の位置に取り付けられる。具体的には以下の順でシール部材10および円筒部材40を組み付ける。
【0051】
最初にシール部材10を入力軸3とキャリア4との間に配置する。具体的に、シール部材10の内側に入力軸3の第2端部3bを挿入するようにして、シール部材10をキャリア4および入力軸3に対して軸方向の内側に移動させてキャリア4の規定の位置に組み付ける。例えば、シール部材10は、オイルシール20およびダストシール30を一体化した状態でキャリア4に組み付けられる。
【0052】
続いて、円筒部材40をシール部材10と入力軸3との間に軸方向の外側から挿入する。具体的に、円筒部材40の内側に入力軸3の第2端部3bを挿入するようにして、円筒部材40をキャリア4および入力軸3に対して軸方向の内側に移動させて入力軸3の規定の位置に組み付ける。この際、円筒部材40は、入力軸3とシール部材10との間に軸方向の外側から内側に挿入される。これにより、シール部材10のメインリップ部23およびダストリップ部33は、円筒部材40によって軸方向の外側から内側に引き摺られ、軸方向の内側に向いた状態となる。
以上により、シール部材10および円筒部材40の組み付けが完了する。
【0053】
以上に説明したように、本実施形態の減速機1のシール構造は、入力軸3とキャリア4との間に配置されキャリア4の内周面に密着するシール部材10と、シール部材10の内周側に接触して配置されて入力軸3の外周面に密着する円筒部材40と、を備える。
この構成では、入力軸3およびキャリア4に対して円筒部材40をシール部材10よりも後に組み付けることで、シール部材10と入力軸3との間に円筒部材40が挿入される。このため、シール部材10の内周部が円筒部材40によって軸方向の内側に引き摺られる。これにより、減速機1の組み立て時において、入力軸3およびキャリア4が所定の位置に組み付けられた状態でシール部材10を組み付けても、シール部材10の内周部を規定の状態にすることができる。よって、入力軸3およびキャリア4を着脱することなくシール部材10を交換することが可能となる。したがって、入力軸3に組み付けられたシール部材10を容易に交換可能な減速機1のシール構造を提供できる。
【0054】
特に本実施形態では、シール部材10は、内周部にダストリップ部33を備える。このため、入力軸3およびキャリア4に対して円筒部材40をシール部材10よりも後に組み付けることで、ダストリップ部33が円筒部材40によって軸方向の内側に引き摺られて軸方向の内側に向く。これにより、減速機1の組み立て時において、入力軸3およびキャリア4が所定の位置に組み付けられた状態でシール部材10を組み付けても、ダストリップ部33が軸方向の外側に捲れた状態になることを抑制できる。よって、入力軸3およびキャリア4を着脱することなくシール部材10を交換することが可能となる。したがって、シール部材10を容易に交換可能なシール構造を提供できる。
【0055】
また、シール部材10はキャリア4に密着し、円筒部材40はシール部材10の内周側に配置されて入力軸3の外周面に密着し、ダストリップ部33はシール部材10の内周部に配置されて円筒部材40の外周面に接触している。
この構成によれば、シール部材10がキャリア4に密着し、円筒部材40がシール部材10の内周側で入力軸3に密着し、ダストリップ部33が円筒部材40に接触しているので、シール部材10および円筒部材40によって入力軸3とキャリア4との間をシールできる。そして、シール部材10を入力軸3の外周側に組み付けた後、円筒部材40を入力軸3の外周側に組み付けることで、シール部材10のダストリップ部33が円筒部材40に引き摺られて軸方向の内側に向く。よって、減速機1の組み立て時において、入力軸3およびキャリア4が所定の位置に組み付けられた状態でシール部材10を組み付けても、ダストリップ部33が軸方向の外側に捲れた状態になることを抑制できる。
【0056】
また、シール部材10は、ダストリップ部33よりも軸方向の外側で円筒部材40の外周面に接触するメインリップ部23を有する。
この構成によれば、ダストリップ部33がメインリップ部23よりも軸方向の内側に配置されるので、メインリップ部23と円筒部材40との摺接部に軸方向の内側から異物が進入することをダストリップ部33によって抑制できる。したがって、シール性の向上を図ることができる。
さらに、円筒部材40を入力軸3に組み付ける際に、メインリップ部23も円筒部材40に引き摺られて軸方向の内側に向く。したがって、減速機1の組み立て時において、入力軸3およびキャリア4が所定の位置に組み付けられた状態でシール部材10を組み付けても、メインリップ部23が軸方向の外側に捲れた状態になることを抑制できる。
【0057】
また、円筒部材40のうちダストリップ部33に接触する箇所の素材は入力軸3の素材よりも熱伝導率が高い。
この構成によれば、ダストリップ部が入力軸に摺接する構成と比較して、ダストリップ部33の摺接箇所における冷却性能を向上させることができる。よって、ダストリップ部33の周辺が高温になることを抑制できる。
【0058】
また、本実施形態のシール構造の製造方法は、入力軸3とキャリア4との間にシール部材10を配置する工程と、シール部材10と入力軸3との間に円筒部材40を軸方向の外側から挿入する工程と、をこの順番で備える。
この方法によれば、シール部材10のダストリップ部33と入力軸3との間に円筒部材40が挿入される。このため、ダストリップ部33が円筒部材40によって軸方向の内側に引き摺られて軸方向の内側に向く。これにより、減速機1の組み立て時において、ダストリップ部33が軸方向の外側に捲れた状態になることを抑制できる。
【0059】
そして、本実施形態の減速機1は、シール部材10の交換が容易とされた上記シール構造を備えるので、メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0060】
(第2実施形態)
次に第2実施形態の減速機について図3を参照して説明する。
図3は、第2実施形態に係る減速機の一部を破断して拡大した側面図である。
図2に示す第1実施形態では、ダストシール30が円筒部材40とは別部品として設けられている。これに対して図3に示す第2実施形態では、ダストシール50が円筒部材40と一体化している点で、第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0061】
図3に示すように、本実施形態では、入力軸3とキャリア4との間に、第1実施形態のシール部材10および円筒部材40に代えて、第1シール部材11および第2シール部材12が配置されている。第1シール部材11および第2シール部材12は、減速機1の内部空間を外部空間から隔離する。第1シール部材11および第2シール部材12は、それぞれ円環状に形成されて入力軸3を囲うように配置されている。第1シール部材11および第2シール部材12は、それぞれ軸受7よりも入力軸3の第2端部3b側に配置されている。第1シール部材11は、入力軸3の外周面に密着している。第1シール部材11は、入力軸3の肩面3cよりも軸方向の外側に配置されている。第2シール部材12は、第1シール部材11の外周側に配置されている。第2シール部材12は、キャリア4と第1シール部材11との間に配置され、キャリア4の内周面に密着している。第2シール部材12は、キャリア4の段差面4aよりも軸方向の外側に配置されている。第1シール部材11および第2シール部材12は、軸受7および入力軸3がキャリア4に対して組み付けられた状態で入力軸3の第2端部3b側から取付可能となっている。
【0062】
第1シール部材11は、円筒部材40およびダストシール50を備える。円筒部材40は、第1実施形態の円筒部材40と同様の形状を有する。円筒部材40の外周面には、後述するオイルシール20のメインリップ部23がキャリア4および入力軸3の相対回転に伴って摺接する。なお、図示の例では円筒部材40が入力軸3の肩面3cに接触していないが、第1実施形態と同様に円筒部材40が肩面3cに接触していてもよい。
【0063】
ダストシール50は、円筒部材40と第2シール部材12との間に配置されている。ダストシール50は、外周部にダストリップ部53を有する。具体的に、ダストシール50は、円筒部材40に固定されたダストリップ支持部52と、ダストリップ支持部52に支持されたダストリップ部53と、を備える。ダストリップ支持部52は、円筒部材40の軸方向の内側の端部に固定されている。ダストリップ支持部52は、円筒部材40から径方向外方に延びている。ダストリップ支持部52は、円筒部材40の軸方向の内側の端部から突出するとともに入力軸3の周囲を全周にわたって延びている。ダストリップ支持部52の外周側の端部は、オイルシール20の基部21に対して径方向内方に隙間を設けて位置している。ダストリップ部53は、ダストリップ支持部52の外周側の端部の全体から軸方向の内側に延びている。ダストリップ部53は、オイルシール20の基部21の内周面に密に接触している。
【0064】
ダストリップ支持部52は、柔軟な可撓部材56と、可撓部材56の内部に配置されたフレーム57と、を備える。可撓部材56は、円筒部材40のシール管42と同一の材料により形成されて一体化している。フレーム57は、円筒部材40の金属管41と同一の材料により形成されて一体化している。フレーム57の全体は、可撓部材56によって軸方向の内側から覆われている。なお、ダストリップ部53は、ダストリップ支持部52の可撓部材56に一体化している。すなわち、円筒部材40のシール管42、ダストリップ支持部52の可撓部材56、およびダストリップ部53は、単一の材料により形成されて一体化している。以上により、ダストシール50および円筒部材40は、一体化した単一部品となっている。
【0065】
第2シール部材12は、オイルシール20を備える。オイルシール20は、第1実施形態のオイルシール20と同様の形状を有する。すなわち、オイルシール20は、基部21、メインリップ支持部22、メインリップ部23およびスプリング24を備える。本実施形態では、基部21は、キャリア4の内周面に密着するとともにダストリップ部53に接触した環状部材である。オイルシール20の構成は、以下の点で第1実施形態のオイルシール20と異なる。オイルシール20は、柔軟な可撓部材26と、可撓部材26の内部に配置されたフレーム27と、を備える。可撓部材26は、少なくともオイルシール20とキャリア4との接触部に配置されている。フレーム27の素材は、入力軸3の素材よりも熱伝導率が高い。フレーム27は、例えばアルミニウムによって形成されている。なお、フレーム27は、例えば金や銀、銅によって形成されていてもよい。フレーム27は、少なくとも基部21の内周面で径方向内方に露出している。つまり、基部21は、フレーム27により形成された金属管と、可撓部材26により形成され前記金属管の外周面に接合されたシール管と、を備える。基部21の内周面には、ダストリップ部53がキャリア4および入力軸3の相対回転に伴って摺接する。
【0066】
続いて本実施形態の減速機1Aの製造方法の一部として第1シール部材11および第2シール部材12の組み付け方法について説明する。
第1シール部材11および第2シール部材12は、軸受7および入力軸3がキャリア4に対して組み付けられた状態で規定の位置に取り付けられる。具体的に、以下の順で第1シール部材11および第2シール部材12を組み付ける。
【0067】
最初に、第1シール部材11を入力軸3とキャリア4との間に配置する。具体的に、円筒部材40の内側に入力軸3の第2端部3bを挿入するようにして、第1シール部材11をキャリア4および入力軸3に対して軸方向の内側に移動させて入力軸3の規定の位置に取り付ける。
【0068】
続いて、第2シール部材12を第1シール部材11とキャリア4との間に軸方向の外側から挿入する。具体的に、オイルシール20の内側に入力軸3の第2端部3bを挿入するようにして、第2シール部材12をキャリア4および入力軸3に対して軸方向の内側に移動させてキャリア4の規定の位置に組み付ける。この際、オイルシール20の基部21は、ダストシール50のダストリップ部53とキャリア4との間に軸方向の外側から内側に挿入される。これにより、ダストシール50のダストリップ部53は、オイルシール20によって軸方向の外側から内側に引き摺られ、軸方向の内側に向いた状態となる。
以上により、第1シール部材11および第2シール部材12の組み付けが完了する。
【0069】
以上に説明したように、本実施形態の減速機1Aのシール構造は、入力軸3とキャリア4との間に配置され入力軸3の外周面に密着する第1シール部材11と、第1シール部材11の外周側に接触して配置されてキャリア4の内周面に密着するオイルシール20の基部21と、を備える。
この構成では、入力軸3およびキャリア4に対してオイルシール20の基部21を第1シール部材11よりも後に組み付けることで、第1シール部材11とキャリア4との間にオイルシール20の基部21が挿入される。このため、第1シール部材11の外周部がオイルシール20の基部21によって軸方向の内側に引き摺られる。これにより、減速機1Aの組み立て時において、入力軸3およびキャリア4が所定の位置に組み付けられた状態で第1シール部材11を組み付けても、第1シール部材11の内周部を規定の状態にすることができる。よって、入力軸3およびキャリア4を分解することなく第1シール部材11を交換することが可能となる。したがって、入力軸3に組み付けられた第1シール部材11を容易に交換可能な減速機1のシール構造を提供できる。
【0070】
特に本実施形態では、第1シール部材11は、外周部にダストリップ部53を備える。このため、入力軸3およびキャリア4に対してオイルシール20の基部21を第1シール部材11よりも後に組み付けることで、ダストリップ部53がオイルシール20の基部21によって軸方向の内側に引き摺られて軸方向の内側に向く。これにより、減速機1Aの組み立て時において、入力軸3およびキャリア4が所定の位置に組み付けられた状態で第1シール部材11を組み付けても、ダストリップ部53が軸方向の外側に捲れた状態になることを抑制できる。よって、入力軸3およびキャリア4を着脱することなく第1シール部材11を交換することが可能となる。したがって、第1シール部材11を容易に交換可能なシール構造を提供できる。
【0071】
また、第1シール部材11は入力軸3の外周面に密着し、オイルシール20の基部21は第1シール部材11の外周側に配置されてキャリア4に密着し、ダストリップ部53は第1シール部材11の外周部に配置されてオイルシール20の基部21の内周面に接触している。
この構成によれば、第1シール部材11が入力軸3に密着し、オイルシール20の基部21が第1シール部材11の外周側でキャリア4に密着し、ダストリップ部53がオイルシール20の基部21に接触しているので、第1シール部材11およびオイルシール20の基部21によって入力軸3とキャリア4との間をシールできる。そして、第1シール部材11を入力軸3の外周側に組み付けた後、オイルシール20の基部21を入力軸3の外周側に組み付けることで、第1シール部材11のダストリップ部53がオイルシール20の基部21に引き摺られて軸方向の内側に向く。よって、減速機1Aの組み立て時において、入力軸3およびキャリア4が所定の位置に組み付けられた状態で第1シール部材11を組み付けても、ダストリップ部53が軸方向の外側に捲れた状態になることを抑制できる。
【0072】
また、減速機1Aのシール構造は、オイルシール20の基部21を含み入力軸3とキャリア4との間に配置された環状の第2シール部材12を備える。第2シール部材12は、内周部にダストリップ部53よりも軸方向の外側で第1シール部材11の外周面に接触するメインリップ部23を有する。
この構成によれば、ダストリップ部53がメインリップ部23よりも軸方向の内側に配置されるので、メインリップ部23と第2シール部材12との摺接部に軸方向の内側から異物が進入することをダストリップ部53によって抑制できる。したがって、シール性の向上を図ることができる。
【0073】
また、オイルシール20の基部21のうちダストリップ部53に接触する箇所(フレーム57)の素材は入力軸3の素材よりも熱伝導率が高い。
この構成によれば、ダストリップ部が入力軸に摺接する構成と比較して、ダストリップ部53の摺接箇所における冷却性能を向上させることができる。よって、ダストリップ部53の周辺が高温になることを抑制できる。
【0074】
また、本実施形態のシール構造の製造方法では、入力軸3とキャリア4との間に第1シール部材11を配置する工程と、第1シール部材11とキャリア4との間にオイルシール20の基部21を軸方向の外側から挿入する工程と、をこの順番で備える。
この方法によれば、第1シール部材11のダストリップ部53とキャリア4との間にオイルシール20の基部21が挿入される。このため、ダストリップ部53がオイルシール20の基部21によって軸方向の内側に引き摺られて軸方向の内側に向く。これにより、減速機1Aの組み立て時において、ダストリップ部53が軸方向の外側に捲れた状態になることを抑制できる。
【0075】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、オイルシール20および円筒部材40が別部品とされている。しかしながらこれに限定されず、オイルシールおよび円筒部材が一体化した単一部品となっていてもよい。
【0076】
また、上記第1実施形態では、オイルシール20およびダストシール30が互いに固定された別部品とされている。しかしながらこれに限定されず、オイルシールおよびダストシールが一体化した単一部品となっていてもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、入力軸3とキャリア4との間のシール構造を説明したが、本発明は入力軸とケースとの間のシール構造にも適用できる。
【0078】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0079】
1,1A…減速機 3…入力軸(第1部材、入力軸部材) 4…キャリア(第2部材) 10…シール部材 11…第1シール部材(シール部材) 12…第2シール部材(他のシール部材) 21…基部(環状部材) 23…メインリップ部(他のリップ部) 33,53…ダストリップ部 40…円筒部材(環状部材)
図1
図2
図3