(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/16 20060101AFI20231207BHJP
H01T 13/36 20060101ALI20231207BHJP
H01T 13/20 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
H01T13/16
H01T13/36
H01T13/20 B
(21)【出願番号】P 2019132570
(22)【出願日】2019-07-18
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 大介
(72)【発明者】
【氏名】石田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】林 真人
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-013667(JP,A)
【文献】特開2017-152143(JP,A)
【文献】特開昭61-029085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00 - 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のハウジング(2)と、
前記ハウジングの内側に保持された絶縁碍子(3)と、
先端部が突出するように前記絶縁碍子の内側に保持された中心電極(5)と、
前記ハウジングに接続された接地電極(6)と、を備え、
前記ハウジングは、部分的に内周側に突出するハウジング係止部(21)を有し、
前記絶縁碍子は、前記ハウジング係止部の基端側の座面に係止される碍子係止部(31)を有し、
前記接地電極は、前記ハウジングから先端側へ立設した立設部(61)と、前記立設部から内周側に延設されるとともに、前記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する延設部(62)とを有し、
前記ハウジングの内周面における前記ハウジング係止部よりも先端側の領域である先端筒面(22)には、基端側に隣接する部位よりも突出する
一対の突起部(221)が、プラグ周方向に部分的に設けられて
おり、
プラグ軸方向(Z)から見たとき、一対の前記突起部は、前記立設部とプラグ中心軸(C)との並び方向(X)に直交するとともにプラグ中心軸を通る仮想直線(VL)上において、プラグ中心軸の両側のそれぞれに形成されており、
前記放電ギャップの周辺を通過する気流(F1)の一部は、前記立設部に沿って基端側に向かい、前記先端筒面と前記絶縁碍子との間に形成されるポケット(P)に進入し、さらに前記突起部を避けるようにプラグ周方向に導かれて、プラグ周方向に流れる気流(F3)となる、スパークプラグ(1)。
【請求項2】
前記ポケットは、基端側へ向かうほど、プラグ軸方向に直交する断面積が小さくなる、請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記ポケットにおいて、プラグ周方向に流れる前記気流は、前記ポケットにおける前記突起部の基端側の領域に前記突起部の先端側の領域よりも多く流れる、請求項
1又は2に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
プラグ軸方向における前記ハウジングの先端から前記座面の先端までの長さ(L1)に対する、プラグ軸方向における前記突起部の基端と前記ハウジングの先端との間の長さ(L2)の割合(L2/L1)が、0.75以下となる前記突起部を備える、請求項1~3のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
【請求項5】
プラグ軸方向における前記ハウジングの先端から前記座面の先端までの長さ(L1)に対する、プラグ軸方向における前記突起部の長さ(L3)の割合(L3/L1)が0.1以上となる前記突起部を備える、請求項1~4のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
【請求項6】
前記突起部は、少なくとも前記先端筒面に形成されており、前記先端筒面に形成された前記突起部の内周面である突起内周面(221a)に隣接する角部(E1、E2)の少なくとも一部は、曲面状に形成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
【請求項7】
プラグ径方向における前記突起部のプラグ径方向の厚みTは、プラグ軸方向における当該突起部が形成された領域であって、プラグ周方向における前記突起部が形成されていない領域における、前記先端筒面と前記先端筒面に対向する前記絶縁碍子の碍子対向面(321)との最短距離(K)の半分以上の厚みを有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、プレイグニッションの発生を抑制するためのスパークプラグが開示されている。特許文献1に記載されたスパークプラグのハウジングは、スパークプラグが内燃機関に取り付けられた状態において燃焼室内に露出する先端筒部を有する。そして、先端筒部には、その外周面から内周面まで貫通する貫通孔が形成されている。当該貫通孔は、絶縁碍子の先端部に向かって開口している。これにより、貫通孔を通って絶縁碍子の先端部に流れる混合気の気流を確保し、絶縁碍子の先端部が高温化することに起因するプレイグニッションの発生を抑制しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のスパークプラグにおいては、ハウジングと絶縁碍子の先端部との間に形成されるポケット内に混合気が滞留し、滞留した混合気が高温化し、プレイグニッションが発生することが懸念される。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、プレイグニッションの発生を抑制しやすいスパークプラグを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、筒状のハウジング(2)と、
前記ハウジングの内側に保持された絶縁碍子(3)と、
先端部が突出するように前記絶縁碍子の内側に保持された中心電極(5)と、
前記ハウジングに接続された接地電極(6)と、を備え、
前記ハウジングは、部分的に内周側に突出するハウジング係止部(21)を有し、
前記絶縁碍子は、前記ハウジング係止部の基端側の座面に係止される碍子係止部(31)を有し、
前記接地電極は、前記ハウジングから先端側へ立設した立設部(61)と、前記立設部から内周側に延設されるとともに、前記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する延設部(62)とを有し、
前記ハウジングの内周面における前記ハウジング係止部よりも先端側の領域である先端筒面(22)には、基端側に隣接する部位よりも突出する一対の突起部(221)が、プラグ周方向に部分的に設けられており、
プラグ軸方向(Z)から見たとき、一対の前記突起部は、前記立設部とプラグ中心軸(C)との並び方向(X)に直交するとともにプラグ中心軸を通る仮想直線(VL)上において、プラグ中心軸の両側のそれぞれに形成されており、
前記放電ギャップの周辺を通過する気流(F1)の一部は、前記立設部に沿って基端側に向かい、前記先端筒面と前記絶縁碍子との間に形成されるポケット(P)に進入し、さらに前記突起部を避けるようにプラグ周方向に導かれて、プラグ周方向に流れる気流(F3)となる、スパークプラグ(1)にある。
【発明の効果】
【0007】
前記態様のスパークプラグにおいて、先端筒面には、基端側に隣接する部位よりも突出する突起部が、プラグ周方向に部分的に設けられている。それゆえ、先端筒面と絶縁碍子との間に形成されるポケットに流れる混合気は、突起部をかわすように流れるため、突起部周囲に流れる混合気の流量、流速を確保することができる。これにより、ポケット内に混合気の気流の流速が速い部分を形成することができ、ポケット内の混合気の気流の停滞を防止し、ポケット内の掃気を促進することができる。その結果、ポケット内が高温化してプレイグニッションが発生することを抑制することができる。
【0008】
以上のごとく、前記態様によれば、プレイグニッションの発生を抑制しやすいスパークプラグを提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1における、スパークプラグのプラグ軸方向に平行な半断面図。
【
図2】実施形態1における、スパークプラグのプラグ軸方向に平行な全断面図。
【
図3】実施形態1における、スパークプラグを先端側から見た図。
【
図4】実施形態1における、ハウジングのプラグ軸方向に平行な断面図。
【
図5】実施形態1における、スパークプラグを備えた内燃機関の断面図であって、ポケット内を流れる気流の説明をするための説明図。
【
図6】実施形態1における、スパークプラグを備えた内燃機関を先端側から見た図であって、ポケット内を流れる気流の説明をするための説明図。
【
図7】実験例1における、比率L2/L1とポケット流速との関係を示すグラフ。
【
図8】実験例2における、比率L3/L1とポケット流速との関係を示すグラフ。
【
図9】実施形態2における、ハウジングのプラグ軸方向に平行な断面図。
【
図10】実施形態3における、ハウジングのプラグ軸方向に平行な断面図。
【
図11】実施形態4における、ハウジングのプラグ軸方向に平行な断面図。
【
図12】実施形態4における、スパークプラグを先端側から見た図。
【
図13】実施形態5における、ハウジングのプラグ軸方向に平行な断面図。
【
図14】
参考形態6における、スパークプラグのプラグ軸方向に平行な全断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
スパークプラグの実施形態につき、
図1~
図6を用いて説明する。
本実施形態のスパークプラグ1は、
図1、
図2に示すごとく、筒状のハウジング2と、ハウジング2の内側に保持された絶縁碍子3と、を備える。
【0011】
図1、
図2、
図4に示すごとく、ハウジング2は、部分的に内周側に突出するハウジング係止部21を有する。絶縁碍子3は、ハウジング係止部21の基端側の座面211に係止される碍子係止部31を有する。ハウジング2の内周面におけるハウジング係止部21よりも先端側の領域である先端筒面22には、基端側に隣接する部位よりも内周側に突出する突起部221が、プラグ周方向に部分的に設けられている。
以後、本形態につき詳説する。
【0012】
スパークプラグ1は、例えば、自動車、コージェネレーション等の内燃機関における着火手段として用いることができる。プラグ軸方向におけるスパークプラグ1の一端は、図示しない点火コイルと接続され、プラグ軸方向におけるスパークプラグ1の他端は、内燃機関の燃焼室内に配される。
【0013】
なお、スパークプラグの中心軸をプラグ中心軸Cという。また、プラグ軸方向とは、プラグ中心軸Cが延在する方向であり、以後Z方向という。また、Z方向の一方側であり、スパークプラグ1における点火コイルと接続される側(すなわち、
図1、
図2、
図4の上側)を基端側といい、その反対側であり、スパークプラグ1における燃焼室内に配される側(すなわち、
図1、
図2、
図4の下側)を先端側という。また、スパークプラグ1の周方向をプラグ周方向といい、スパークプラグ1の径方向をプラグ径方向という。また、Z方向に直交する方向であって、プラグ中心軸Cと後述の接地電極6の立設部61とが並ぶ方向をX方向という。そして、X方向とZ方向との双方に直交する方向をY方向という。
【0014】
ハウジング2は、鉄、ニッケル、鉄ニッケル合金、ステンレス等の耐熱性金属材料を筒状に形成してなる。スパークプラグ1は、ハウジング2において内燃機関のプラグホールに取り付けられる。
【0015】
図1、
図2に示すごとく、ハウジング2の先端部の外周部には、取付ネジ部23が形成されている。
図5に示すごとく、取付ネジ部23は、スパークプラグ1が取り付けられるエンジンヘッド11のプラグホールに形成された雌ネジ穴111に螺合できるよう構成されている。スパークプラグ1は、取付ネジ部23をプラグホールの雌ネジ穴111に螺合することにより、エンジンヘッド11に取り付けられる。スパークプラグ1がエンジンヘッド11に取り付けられた状態においては、スパークプラグ1の先端部が燃焼室内に曝される。
【0016】
前述のごとく、ハウジング2の内周面のうち、ハウジング係止部21の先端位置から先端側の部位を先端筒面22とする。
図1、
図2、
図4に示すごとく、先端筒面22の主面220、すなわち先端筒面22における最も大きな面は、円筒状に形成されている。先端筒面22の主面220は、Z方向の各位置において、同等の内径を有する。
【0017】
先端筒面22には、突起部221が形成されている。
図1、
図2に示すごとく、突起部221は、先端筒面22の主面220よりも内周側に突出している。
図4に示すごとく、突起部221は、プラグ径方向の内周側から見た形状が、角部E1が丸まった正方形(いわゆる角丸正方形)である。
【0018】
また、突起部221の内周面である突起内周面221aに隣接する角部E2の少なくとも一部は、曲面状に形成されている。本形態において、突起部221は、突起内周面221aと、これに隣接する4つの突起側面221bとのそれぞれの間の角部E2が、曲面状に形成されている。すなわち、本形態においては、突起内周面221aに隣接する全ての角部E2が曲面状に形成されている。角部E2は、突起内周面221aと突起側面221bとを滑らかにつなぐよう、滑らかな曲面状に形成されている。
【0019】
突起部221の突起内周面221aと絶縁碍子3との間の隙間は、比較的狭くなるよう構成されている。ここで、先端筒面22にプラグ径方向に対向する絶縁碍子3の外周面を碍子対向面321とする。
図2に示すごとく、本形態において、プラグ径方向における突起部221のプラグ径方向の厚みTは、Z方向における当該突起部221が形成された領域であって、プラグ周方向における突起部221が形成されていない領域における、先端筒面22と碍子対向面321との最短距離Kの半分以上の厚みを有する。突起部221の厚みTは、突起部221と先端筒面22の主面220との境界部と、突起内周面221aとの間のプラグ径方向の長さである。最短距離Kは、突起部221と先端筒面22の主面220との境界部のうちの基端側端部と絶縁碍子3の外周面との間のプラグ径方向の長さである。
【0020】
図3に示すごとく、Z方向から見たとき、突起部221は、後述の接地電極6の立設部61とプラグ中心軸Cとの並び方向に直交するとともにプラグ中心軸Cを通る仮想直線VL上に形成されている。つまり、Z方向から見たとき、突起部221の少なくとも一部は、仮想直線VLと同位置に形成されている。突起部221は、プラグ周方向の2か所に形成されている。一対の突起部221は、Z方向から見たとき、仮想直線VL上における、プラグ中心軸Cの両側のそれぞれに形成されている。すなわち、突起部221は、Y方向において、プラグ中心軸Cを挟んで互いに反対側に配されている。
【0021】
図1、
図2、
図4に示すごとく、Z方向において、突起部221は、Z方向における先端筒面22の略中央位置に形成されている。そして、突起部221のZ方向の両側、及びプラグ周方向の両側には、先端筒面22の主面220が隣接している。
【0022】
図2に示すごとく、Z方向におけるハウジング2の先端からハウジング2の座面211の先端までの長さをL1[mm]とする。Z方向における突起部221の基端とハウジング2の先端との間の長さをL2[mm]とする。このとき、先端筒面22は、長さL1に対する長さL2の割合L2/L1が、0.75以下となる突起部221を備える。本形態においては、一対の突起部221のそれぞれが、割合L2/L1≦0.75を満たす。すなわち、各突起部221とハウジング係止部21との間にはある程度のZ方向の長さをもつ空間が確保される。
【0023】
また、
図2に示すごとく、Z方向における突起部221の長さをL3[mm]とする。このとき、先端筒面22は、長さL1に対する長さL3の割合L3/L1が0.1以上となる突起部221を備える。本形態においては、一対の突起部221のそれぞれが、割合L3/L1≧0.1を満たす。すなわち、Z方向において、突起部221は、先端筒面22の長さに対して、ある程度以上の長さを有する。突起部221の長さL3は、突起部221のZ方向の最長長さである。
【0024】
図1、
図2、
図4に示すごとく、ハウジング2の内周面は、先端筒面22の基端側に隣接する位置に、ハウジング係止部21を有する。ハウジング係止部21は、ハウジング2の内周面の一部が先端筒面22の主面220よりも内周側に突出している。ハウジング係止部21は、取付ネジ部23の内周側の部位に形成されている。ハウジング係止部21は、ハウジング2の内周面の全周にわたって形成されており、全体として円環状を呈している。
【0025】
ハウジング係止部21の基端側の面である座面211は、Z方向の先端側へ向かうほど、プラグ径方向の内周側へ向かうテーパ状に形成されている。座面211は、プラグ周方向の全周にわたって形成されている。座面211は、円環状に形成されている。
図2に示すごとく、座面211は、パッキン4を介して絶縁碍子3を係止している。
【0026】
絶縁碍子3は、アルミナ等の絶縁材を筒状に形成してなる。絶縁碍子3は、先端側の部位と基端側の部位とをハウジング2から突出させつつ、碍子係止部31においてハウジング2に保持されている。
【0027】
碍子係止部31は、Z方向の先端側へ向かうほど、プラグ径方向の内周側へ向かうテーパ状に形成されている。碍子係止部31は、プラグ周方向の全周にわたって形成されている。碍子係止部31は、円環状に形成されている。ハウジング係止部21は、円環状の碍子係止部31とのシール性を確保すべく円環状に形成されている。
【0028】
座面211と碍子係止部31との間に挟まれたパッキン4は、円環状を呈しており、全周にわたって座面211と碍子係止部31との双方に密着している。つまり、座面211と碍子係止部31との間は、パッキン4により、全周にわたってシールされている。
図1、
図2に示すごとく、絶縁碍子3は、碍子係止部31から先端側に形成された碍子脚部32を有する。
【0029】
碍子脚部32は、Z方向の先端側へ向かうほど縮径するよう形成されている。碍子脚部32の先端部位は、ハウジング2の先端から突出している。碍子脚部32の外周面は、Z方向に直交する断面形状が円形である。
【0030】
プラグ径方向のハウジング2と絶縁碍子3との間に、先端側が開放されたポケットPが形成されている。本形態において、ハウジング2の先端筒面22の主面220は、Z方向において一定の内径を有する一方、絶縁碍子3の碍子脚部32の外周面が、先端側に向かうほど縮径している。そのため、ポケットPにおける先端筒面22と碍子脚部32との間の部位は、基端側に向かうほど、Z方向に直交する断面積が小さくなっている。
【0031】
また、本形態において、ハウジング2の先端筒面22には、突起部221が形成されている。そのため、Z方向の突起部221が存在する領域において、ポケットPは、径方向の寸法がプラグ周方向で異なる。すなわち、
図3に示すごとく、Z方向の先端筒面22が存在する領域において、ポケットPの径方向の寸法は、プラグ周方向における先端筒面22の突起部221が位置する領域が最も小さい。なお、
図3において、絶縁碍子3は、絶縁碍子3の先端部のみを表しており、ハウジング2は、その先端面と突起部221のみを表している。
【0032】
図1、
図2に示すごとく、絶縁碍子3の内側には、中心電極5が配されている。中心電極5は、Ni基合金等の導電材料からなる円柱体であり、内部にCu等の熱伝導性に優れた金属材料が配されている。中心電極5は、絶縁碍子3の先端の領域に配されており、絶縁碍子3に保持されている。中心電極5は、先端部を絶縁碍子3から先端側に突出させている。
【0033】
また、
図1~
図4に示すごとく、ハウジング2の先端面には、接地電極6が接続されている。接地電極6は、中心電極5との間に、放電ギャップGを形成している。
【0034】
接地電極6は、ハウジング2の先端面から先端側に向かってZ方向に形成された立設部61と、立設部61から屈曲部を介して内周側に向かってプラグ径方向に延設された延設部62とを備える。延設部62の一部は、中心電極5の先端面とZ方向に対向しており、Z方向における中心電極5の先端面と接地電極6との間に放電ギャップGが形成されている。スパークプラグ1は、放電ギャップGにおいて火花放電を行うことにより、燃焼室内の混合気に着火する。
【0035】
図5、
図6に示すごとく、内燃機関におけるスパークプラグ1の取付姿勢は、エンジン点火時期に、スパークプラグ1の先端部周囲を通る混合気の主流MSの上流側が、立設部61に対して延設部62が延設される側となる姿勢である。スパークプラグ1がこの姿勢で内燃機関に取り付けられた場合、混合気の主流MSが立設部61に衝突して主流がポケットP内に導かれやすいことが分かっている。また、これに伴い、スパークプラグ1がこの姿勢で内燃機関に取り付けられた場合、ポケットP内に混合気が滞留しやすく、プレイグニッションの発生を招きやすいことが分かっている。そこで、本形態は、最もプレイグニッションの発生が懸念される姿勢で内燃機関に取り付けられた場合であっても、ハウジング2の先端筒面22に突起部221を設けることで、ポケットP内の掃気を促進している。この原理の詳細は、後述する。
【0036】
なお、前記主流MSの向きは、例えばスパークプラグ1が取り付けられる内燃機関の吸気バルブと排気バルブとが並ぶ向きとすることができる。また、内燃機関に対する、スパークプラグ1のプラグ周方向の姿勢は、例えば、ハウジング2の取付ネジ部23のネジの切り方等により、調整することができる。その他にも、例えば、取付ネジ部23の基端側に、エンジンヘッド11とハウジング2とで挟持されるスペーサ又はガスケットを配し、エンジンヘッド11に対するスパークプラグ1の螺合の止まり位置を調整することで、スパークプラグ1のプラグ周方向の姿勢を調整してもよい。
【0037】
次に、本形態の作用効果につき説明する。
本形態のスパークプラグ1において、ハウジング2の内周面におけるハウジング係止部21よりも先端側の領域である先端筒面22には、基端側に隣接する部位よりも内周側に突出する突起部221が、プラグ周方向に部分的に設けられている。それゆえ、先端筒面22と絶縁碍子3との間に形成されるポケットPに流れる混合気は、突起部221をかわすように流れるため、突起部221周囲に流れる混合気の流量、流速を確保することができる。これにより、ポケットP内に混合気の気流の流速が速い部分を形成することができ、ポケットP内の混合気の気流の停滞を防止し、ポケットP内の掃気を促進することができる。その結果、ポケットP内が高温化してプレイグニッションが発生することを抑制することができる。この原理については、次のように推測することが可能である。
【0038】
図5、
図6に示すごとく、スパークプラグ1の先端部周囲を通る混合気の主流MSの上流側が、立設部61に対して延設部62が延設される側となる姿勢で取り付けられた場合、放電ギャップG周辺をX方向に通過する気流F1は、接地電極6の立設部61に衝突し、Z方向に沿うよう曲げられ、ポケットPの開放部からポケットPに進入する。ポケットPに進入した気流F2は、ポケットPの奥側に向かってZ方向に進入する。
【0039】
ポケットPは、ポケットPの奥側に向かうほどZ方向に直交する断面積が小さくなるため、ポケットP内をポケットPの奥側に向かって進入する気流は、ポケットPの奥側(基端側)において、プラグ周方向に曲げられ、プラグ周方向の両側に流れるようになる。
【0040】
ここで、突起部221と絶縁碍子3との間の隙間は比較的狭く形成されているため、ポケットPをプラグ周方向に流れる気流F3は、突起部221を避けるように導かれる。これにより、ポケットPをプラグ周方向に流れる気流F3は、ポケットPにおける突起部221の基端側の領域に多く流れ、突起部221の基端側の領域を流れる気流F3の流速が確保される。これにより、ポケットPの奥側の流速が確保され、ポケットPの奥側に気流が滞留することが抑制される。
【0041】
そして、プラグ周方向の両側に流れる気流F3は、ポケットPにおける、プラグ中心軸Cを挟んで立設部61と反対側の領域でぶつかり、次はポケットPの開放側に向かってZ方向に曲げられる。曲げられた気流F4は、ポケットPの開放部からポケットPの外部へ流出する。
【0042】
以上の原理から、特にポケットPにおける突起部221の基端側の領域の流速が確保され、ポケットP内の混合気の気流の停滞を防止し、ポケットP内の掃気を促進することができる。
【0043】
また、本形態においては、特に-180°ATDC付近(例えば-130~-230°ATDC)で、ポケットP内の気流の流速を確保することができることをシミュレーションにて確認している。
【0044】
また、Z方向から見たとき、突起部221は、立設部61とプラグ中心軸Cとの並び方向に直交するとともにプラグ中心軸Cを通る仮想直線VL上に形成されている。それゆえ、前述のごとく、立設部61に衝突して立設部61周囲からポケットP内にZ方向に進入し、その後、ポケットPの奥側でプラグ周方向に流れる気流は、突起部221を通過する。それゆえ、立設部61に衝突してポケットP内に流れる気流の流速を確保しやすく、ポケットP内の掃気を一層促進しやすい。
【0045】
さらに、突起部221は、一対の突起部221を有し、一対の突起部221は、Z方向から見たとき、仮想直線VL上における、プラグ中心軸Cの両側のそれぞれに形成されている。これにより、ポケットPの奥側でプラグ周方向の両側に流れる気流の流速を確保することができ、一層ポケットP内の掃気を促進しやすい。
【0046】
また、Z方向におけるハウジング2の先端から座面211の先端までの長さL1に対する、Z方向における突起部221の基端とハウジング2の先端との間の長さL2の割合L2/L1が、0.75以下となる突起部221を備える。すなわち、突起部221とハウジング2座面211との間には、ある程度のZ方向の長さをもつポケットPの空間が確保される。それゆえ、ポケットP内をプラグ周方向に流れる気流が、ポケットPにおける突起部221の基端側の領域に導かれやすく、かかる領域の流速を確保しやすい。
【0047】
また、Z方向におけるハウジング2の先端から座面211の先端までの長さL1に対する、Z方向における突起部221の長さL3の割合L3/L1が0.1以上となる突起部221を備える。それゆえ、Z方向において、突起部221は、先端筒面22の長さに対して、ある程度以上の長さが確保される。これにより、ポケットP内をプラグ周方向に流れる気流が、突起部221に衝突しやすく、ポケットPにおける突起部221の基端側の領域に導かれやすい。それゆえ、特にポケットPにおける突起部221の基端側の領域の流速を確保しやすい。
【0048】
また、先端筒面22に形成された突起部221の内周面である突起内周面221aに隣接する角部E2の少なくとも一部は、曲面状に形成されている。これにより、突起部221の周囲の電界集中を抑制でき、例えば中心電極5と突起部221との間で絶縁破壊が生じることを防止することができる。
【0049】
プラグ径方向における突起部221のプラグ径方向の厚みTは、Z方向における当該突起部221が形成された領域であって、プラグ周方向における突起部221が形成されていない領域における、先端筒面22と碍子対向面321との最短距離Kの半分以上の厚みを有する。つまり、突起部221は、ある程度以上突出しているため、突起部221と絶縁碍子3との間の空間の体積を小さくすることができる。これにより、ポケットP内をプラグ周方向に流れる気流が、突起部221に衝突しやすく、ポケットPにおける突起部221の基端側の領域に導かれやすい。それゆえ、特にポケットPにおける突起部221の基端側の領域の流速を確保しやすい。
【0050】
以上のごとく、前記態様によれば、プレイグニッションの発生を抑制しやすいスパークプラグを提供することができる。
【0051】
(実験例1)
本例は、基本構成を実施形態1のスパークプラグ1と同様としつつ、長さL1に対する、長さL2の割合L2/L1を種々変更したときの、ポケットPにおける突起部221より基端側領域の流速をシミュレーションにより評価した例である。前述のごとく、長さL1は、Z方向におけるハウジング2の先端から座面211の先端までの長さであり、長さL2は、Z方向における突起部221の基端とハウジング2の先端との間の長さである。なお、以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0052】
本例においては、各スパークプラグ1を取り付けたエンジンを、回転数5200r/min
-1で運転した場合を想定した。この回転数は、プレイグニッションが懸念されやすい高回転のエンジン回転数である。そして、各スパークプラグ1において、ポケットPにおける突起部221より基端側領域の所定の一点の流速を評価した。前記流速は、吸気行程及び圧縮行程の平均の流速とした。結果を
図7に示す。
図7において、前述の流速を、ポケット流速と表記している。
【0053】
図7から分かるように、割合L2/L1が小さい程、ポケット流速が確保されることが分かる。それゆえ、割合L2/L1がある程度以下であると、ポケットP内の掃気が促進されることが分かる。それゆえ、例えば割合L2/L1を0.75以下とすると、ポケットP内の掃気が促進される。
【0054】
(実験例2)
本例は、基本構成を実施形態1のスパークプラグ1と同様としつつ、長さL1に対する、長さL3の割合L3/L1を種々変更したときの、ポケットPにおける突起部221より基端側領域の流速をシミュレーションにより評価した例である。前述のごとく、長さL1は、Z方向におけるハウジング2の先端から座面211の先端までの長さであり、長さL3は、Z方向における突起部221の長さである。
【0055】
本例におけるシミュレーションの条件は、実施例1と同様とした。
本例の結果を
図8に示す。
【0056】
図8から分かるように、割合L3/L1が大きい程、ポケット流速が確保されることが分かる。それゆえ、割合L3/L1がある程度以上であると、ポケットP内の掃気が促進されることが分かる。それゆえ、例えば割合L3/L1を0.1以下とすると、ポケットP内の掃気が促進される。
【0057】
(実施形態2)
本形態は、
図9に示すごとく、実施形態1に対して、プラグ径方向の内周側から見たときの突起部221の形状を変更した形態である。
【0058】
本形態において、突起部221の4つの突起側面221bのうち、基端側の突起側面221cは、プラグ周方向において、接地電極6の立設部61から遠ざかるほど、Z方向の基端側に向かうようテーパ状に形成されている。
その他は、実施形態1と同様である。
【0059】
本形態においても、実施形態1と同様の作用効果が得られる。
【0060】
(実施形態3)
本形態は、
図10に示すごとく、実施形態1に対して、プラグ径方向の内周側から見たときの突起部221の形状を変更した形態である。
【0061】
本形態において、突起部221の4つの突起側面221bのうち、基端側の突起側面221cは、プラグ周方向において、接地電極6の立設部61から遠ざかるほど、Z方向の先端側に向かうようテーパ状に形成されている。
その他は、実施形態1と同様である。
【0062】
本形態においても、実施形態1と同様の作用効果が得られる。
【0063】
(実施形態4)
本形態は、
図11、
図12に示すごとく、実施形態1に対して、突起部221の形状を変更した形態である。
【0064】
本形態において、突起部221の内周面である突起内周面221aは、プラグ周方向の両端が、先端筒面22の主面220と接している。そして、突起部221の突起内周面221aの先端縁と基端縁とは、Z方向に直交する突起側面221bを介して先端筒面22の主面220に繋がっている。
その他は、実施形態1と同様である。
【0065】
本形態においても、実施形態1と同様の作用効果が得られる。
【0066】
なお、実施形態1~4において、クランク角度-360°ATDC~0°ATDCまでの前述のポケットP内の突起部221よりも基端側の領域のポケット流速は、互いに同等であることをシミュレーションで確認している。
【0067】
(実施形態5)
本形態は、
図13に示すごとく、基本構成を実施形態1と同様としつつ、Z方向の複数箇所に突起部221を形成した形態である。
【0068】
本形態においても、実施形態1と同様、プラグ周方向の2か所に突起部221が形成されている。プラグ周方向における突起部221が形成された領域のそれぞれには、Z方向に並ぶ2つの突起部221が形成されている。Z方向に並ぶ2つの突起部221のうち、基端側の突起部221は、Z方向における先端筒面22の略中央位置に形成されており、基端側の突起部221の基端側には、先端筒面22の主面220が存在する。
その他は、実施形態1と同様である。
【0069】
本形態においても、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0070】
(
参考形態6)
本形態は、
図14に示すごとく、絶縁碍子3に突起部321aを形成した
参考形態である。
【0071】
本形態において、絶縁碍子3の碍子脚部32における先端筒面22にプラグ径方向に対向する碍子対向面321に、突起部321aが形成されている。突起部321aは、碍子脚部32の外周面の主面320よりも外周側に突出している。その他、突起部321aの形成箇所、形状等については、実施形態1で示した突起部と同様である。
【0072】
本形態において、ハウジング2の先端筒面22は、全体的に円筒状に形成されており、突起部は形成されていない。
その他は、実施形態1と同様である。
【0073】
本形態においても、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0074】
本発明は、前記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 スパークプラグ
2 ハウジング
21 ハウジング係止部
211 座面
22先端筒面
221 突起部
3 絶縁碍子
31 碍子係止部