(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】止水栓及び水栓
(51)【国際特許分類】
F16K 31/44 20060101AFI20231207BHJP
E03C 1/042 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
F16K31/44 B
E03C1/042 E
F16K31/44 F
(21)【出願番号】P 2019135771
(22)【出願日】2019-07-24
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000242378
【氏名又は名称】株式会社KVK
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】笠原 直之
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】実開平6-25683(JP,U)
【文献】特開2003-239335(JP,A)
【文献】特開2002-121786(JP,A)
【文献】特開2002-206262(JP,A)
【文献】実開昭55-175668(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/44-31/62
E03C 1/042
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のボンネットと、前記ボンネットの内周に螺合したスピンドルとを備え、前記スピンドルを回転させて前記ボンネットの軸方向に対して奥側と手前側とに移動させることによって吐止水を切り換えることができるように構成された止水栓であって、
前記ボンネットは、内周にネジ溝を有するとともに、前記ネジ溝よりも手前側に径方向内側に突出した段部を有しており、
前記スピンドルは、外周に前記ネジ溝に螺合するネジ溝を有するとともに、当該ネジ溝よりも手前側に径方向内側に凹んだ段部を有しており、
前記スピンドルの段部が、前記ボンネットの段部に当接することによって、前記ボンネットの手前側に対する前記スピンドルの移動が規制され、
前記スピンドルの手前側の端部には、前記スピンドルを回転させるための工具を係合させる係合部が設けられ、
前記スピンドルが最も手前側の位置にある状態において、前記スピンドルの手前側の端部が、前記ボンネットの手前側の端部よりも奥側に位置することを特徴とする止水栓。
【請求項2】
前記係合部は、前記スピンドルの手前側の端部における外周縁よりも内側に設けられている請求項1に記載の止水栓。
【請求項3】
前記係合部は、前記スピンドルの手前側の端部に設けられた溝である請求項1又は2に記載の止水栓。
【請求項4】
前記ボンネットの手前側の端部の内周には、奥側に向かうにつれて径方向内側に傾斜したテーパが設けられており、
前記スピンドルが最も手前側の位置にある状態において、前記スピンドルの手前側の端部は、前記テーパの奥側の端部と同じ位置にあるか、あるいは、前記テーパの奥側の端部よりも奥側に位置する請求項1~3のいずれか一項に記載の止水栓。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載された止水栓が取り付けられた水栓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止水栓及び止水栓が取り付けられた水栓に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、水栓に取り付けて用いられる止水栓について記載している。
図11に示すように、止水栓61は、水栓60の取付ベース62に取り付けて用いられる。取付ベース62内には、給水管(図示省略)に接続される第1流路60aと、弁機構(図示省略)に接続される第2流路60bと、第1流路60aと第2流路60bの間に位置する中間流路60cとを有する。中間流路60cに面する第1流路60aの端部が弁口60dとして機能している。
【0003】
止水栓61は、中間流路60c内に配置されており、筒状のボンネット70と、ボンネット70の内周に螺合したスピンドル80とを備えている。スピンドル80の軸方向における一端側の端部には、軸部材82が挿通されており、この軸部材82の一端側に弁体としてのパッキン81が取り付けられている。軸部材82に取り付けられたスプリング83により、パッキン81は弁口60dの周囲に当接した状態となるように付勢されている。スピンドル80の軸方向における他端側の端部には、スピンドル80を回転させるための工具を係合させる係合部としての溝80aが設けられている。この溝80aは、スピンドル80の径方向に沿って一本の直線状に延びており、溝80aの長手方向の両端部はスピンドル80の外周縁80bに達している。
【0004】
工具を用いてスピンドル80を回転させて、スピンドル80をボンネット70の軸方向に対して奥側に移動させると、スピンドル80の一端側の端部が軸部材82を介してパッキン81に当接する。これにより、パッキン81が、第1流路60a内の水圧に関わらず弁口60dを塞いだ状態になる。第1流路60aと中間流路60cとが連通しなくなるため、水栓60は止水状態になる。また、スピンドル80をボンネット70の軸方向に対して手前側に移動させると、パッキン81は第1流路60a内の水圧によってスピンドル80の他端側に移動可能になる。パッキン81がスピンドル80の他端側に移動することによって弁口60dが開放され、第1流路60aと中間流路60cとが連通することにより、止水状態が解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図11に示すように、スピンドル80が最も手前側の位置にある状態において、スピンドル80の手前側の端部は、ボンネット70の手前側の端部よりも手前側に突出している。
【0007】
止水栓61は、水栓60における外側から比較的目立ちにくい場所に取り付けられているため、作業者が溝80aに工具を係合させることが難しい場合がある。また、一旦係合した工具が溝80aから外れると、工具の係合を初めからやり直す必要があるため、作業性が悪いという課題を有している。
【0008】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、止水栓を操作する際の作業性が向上した止水栓及び止水栓が取り付けられた水栓を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための止水栓は、筒状のボンネットと、前記ボンネットの内周に螺合したスピンドルとを備え、前記スピンドルを回転させて前記ボンネットの軸方向に対して奥側と手前側とに移動させることによって吐止水を切り換えることができるように構成された止水栓であって、前記スピンドルの手前側の端部には、前記スピンドルを回転させるための工具を係合させる係合部が設けられ、前記スピンドルが最も手前側の位置にある状態において、前記スピンドルの手前側の端部が、前記ボンネットの手前側の端部よりも奥側に位置することを要旨とする。
【0010】
この構成によれば、スピンドルが最も手前側の位置にある状態であっても、係合部の周囲が、ボンネットの手前側の端部の内周に囲まれた状態となる。工具を係合部に係合させる際に、ボンネットの手前側の端部の内周に工具が接触することによって、目視のみに頼らず係合部の大まかな位置を把握したうえで、工具を係合させることができる。また、止水栓の操作中に工具が係合部から外れても、工具はボンネットの手前側の端部の内周に接触して止まるため、再度工具を係合させることが容易になる。これらにより、止水栓を操作する際の作業性を向上させることができる。
【0011】
上記止水栓について、前記係合部は、前記スピンドルの手前側の端部における外周縁よりも内側に設けられていることが好ましい。係合部がスピンドルの手前側の端部における外周縁に達している態様では、工具が、係合部における外周縁側から外れやすくなる虞がある。この構成によれば、係合部はスピンドルの手前側の端部における外周縁よりも内側に設けられており、係合部は端部の外周縁に達していないため、工具を係合部から外れにくくすることができる。そのため、止水栓を操作する際の作業性をより向上させることができる。
【0012】
上記止水栓について、前記係合部は、前記スピンドルの手前側の端部に設けられた溝であることが好ましい。この構成によれば、工具を溝の内部に係合させることによって外れにくくすることができる。また、スピンドルの手前側の端部に係合部を設けることが容易になる。
【0013】
上記止水栓について、前記ボンネットの手前側の端部の内周には、奥側に向かうにつれて径方向内側に傾斜したテーパが設けられており、前記スピンドルが最も手前側の位置にある状態において、前記スピンドルの手前側の端部は、前記テーパの奥側の端部と同じ位置にあるか、あるいは、前記テーパの奥側の端部よりも奥側に位置することが好ましい。この構成によれば、工具がボンネットの手前側の端部の内周に接触した際に、工具をテーパに沿って係合部側へ誘導することができる。そのため、工具を係合部に係合させることがより容易になる。
【0014】
上記止水栓が取り付けられた水栓であることが好ましい。この構成によれば、上記止水栓の効果を奏する水栓とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の止水栓によれば、止水栓を操作する際の作業性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
止水栓の実施形態を説明する。
図1に示すように、水栓10は、キッチンキャビネットのカウンタである壁部11に設置されている。水栓10は、壁部11上に配置される筒状の取付ベース12と、取付ベース12上に取り付けられる筒状の水栓本体13と、水栓本体13の上部に取り付けられる操作レバー14と、水栓本体13の斜め上方に突出する吐水ヘッド15とを備えており、シングルレバー水栓として構成されている。
【0018】
水栓本体13及び取付ベース12の内部には、給水路16(
図6参照)及び給湯路(図示省略)が形成されている。給水路16には、図示しない給水管の一端が接続されており、給水管の他端は給水源に接続されている。給湯路には、図示しない給湯管の一端が接続されており、給湯管の他端は給湯源に接続されている。
【0019】
水栓本体13の内部には、給水路16を流通した水と給湯路を流通した湯とを混合する弁機構(図示省略)と、弁機構を流通した混合水を吐水ヘッド15に供給する吐水路(図示省略)とを有する。操作レバー14を操作することにより、弁機構を操作して吐水ヘッド15からの吐止水、湯水の切り替え、及び、湯水の混合の調節を行うことができるように構成されている。
【0020】
図1に示すように、取付ベース12には、弁機構の操作に関わらず水栓10を止水状態にすることが可能な止水栓20が取り付けられている。止水栓20は、取付ベース12の径方向において略対向する2箇所にそれぞれ設けられている。
【0021】
図2に示すように、具体的には、取付ベース12の径方向の略対向する2箇所に開口12aが形成されており、各開口12aの内周に設けられたネジ溝12bに止水栓20の一端側の外周に設けられたネジ溝30bが螺合した状態で止水栓20は取り付けられている。2つの止水栓20は同一形状で構成されており、2つの止水栓20の一方は給水路16を止水状態にすることが可能に構成され、他方は給湯路を止水状態にすることが可能に構成されている。
【0022】
止水栓20について説明する。
図3に示すように、止水栓20は、筒状のボンネット30と、ボンネット30の内周に螺合した状態でボンネット30に取り付けられるスピンドル40とを備える。止水栓20は、さらにボンネット30に取り付けられるOリング31と、スピンドル40に取り付けられるOリング41、パッキン42、ネジ43とを備える。止水栓20は、以上の各部材が組み付けられた状態で構成されている。
【0023】
ボンネット30について説明する。
図3~5に示すように、ボンネット30の軸方向における中央部には、径方向外側に突出した鍔部30aが形成されている。鍔部30aよりもボンネット30の軸方向における一端側(以下、単に「ボンネットの一端側」ともいう。)の外周にはネジ溝30bが設けられている。このネジ溝30bと鍔部30aとの間にOリング31が取り付けられている。鍔部30aよりもボンネット30の軸方向における他端側(以下、単に「ボンネットの他端側」ともいう。)の外径は、ネジ溝30bの外径よりも若干小さく構成されている。
【0024】
図4に示すように、鍔部30aよりもボンネット30の他端側は、軸方向から見て略六角形状の外形を有している。
図6に示すように、ボンネット30の一端側の端部には、他端側に窪んだ凹部30cが設けられている。凹部30cは、ボンネット30の一端側に面する底壁30dを有し、底壁30dの中央部に、ボンネット30を軸方向に貫通する貫通孔30eが設けられている。ボンネット30の一端側において、貫通孔30eの内周にネジ溝30fが形成されている。後述のように、このネジ溝30fにスピンドル40が螺合した状態で取り付けられる。凹部30cの底壁30dの幅の寸法分だけ、ボンネット30の一端側の端部は貫通孔30eよりも開口が大きく構成されている。
【0025】
貫通孔30eのネジ溝30fよりもボンネット30の他端側であって、ボンネット30の軸方向における略中央部の内周には、径方向内側に突出した段部30gが設けられている。この段部30gからボンネット30の他端側の端部までの貫通孔30eの内径は略一定に構成されている。言い換えれば、ボンネット30の他端側の貫通孔30eの内径は、段部30gの突出高さの分だけ一端側のネジ溝30fの内径よりも小さく構成されている。
【0026】
ボンネット30の他端側の端部における貫通孔30eの内周には、他端側の端部に向かって貫通孔30eの径が大きく構成されたテーパ30hが設けられている。言い換えれば、テーパ30hは、ボンネット30の他端側の端部から一端側に向かうにつれて径方向内側に傾斜した状態で形成されている。
図6の断面において、テーパ30hは、直線状に形成されている。テーパ30hを形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、ボンネット30の他端側の端部における貫通孔30eの内周を研削する方法を採用することができる。
【0027】
スピンドル40について説明する。
図3、6に示すように、スピンドル40は円柱状に構成されており、スピンドル40の軸方向における一端側(以下、単に「スピンドルの一端側」ともいう。)の外周にはネジ溝40aが形成されている。このネジ溝40aは、ボンネットの一端側の内周に形成されたネジ溝30fに螺合することができるように構成されている。
【0028】
スピンドル40のネジ溝40aよりも軸方向の他端側であって、スピンドル40の軸方向における略中央部の外周には、径方向内側に凹んだ段部40bが設けられている。この段部40bよりもスピンドル40の軸方向における他端側(以下、単に「スピンドルの他端側」ともいう。)の外周には周溝40cが形成されており、この周溝40cにOリング41が取り付けられている。このOリング41によって、ボンネット30の他端側の内周とスピンドル40の他端側の外周との間がシールされる。
【0029】
スピンドル40の段部40bからスピンドル40の他端側の端部までの外径は、周溝40cを除いて略一定に構成されている。言い換えれば、スピンドル40の他端側の外径は、段部40bの凹み量の分だけ一端側のネジ溝40aの外径よりも小さく構成されている。スピンドル40をボンネット30に螺合させた際に、スピンドル40の段部40bがボンネット30の段部30gに当接することによって、ボンネット30の他端側に対するスピンドル40の移動が規制される。
【0030】
図6に示すように、スピンドル40の一端側の端部には、軸方向他端側に窪んだ円形状の凹部40dが形成されている。この凹部40dの略中央部に、他端側に向かってネジ孔40eが設けられている。この凹部40dに弁体としての円板状のパッキン42が嵌合している。パッキン42の中央部には貫通孔42aが設けられている。この貫通孔42aを貫通した状態でスピンドル40のネジ孔40eにネジ43が取り付けられている。ネジ43のネジ頭43aとスピンドル40の凹部40dとの間でパッキン42を挟持することにより、パッキン42はスピンドル40に固定される。スピンドル40に固定された状態で、パッキン42の厚さ方向の一部が、凹部40dから露出している。
【0031】
図8に示すように、スピンドル40の他端側の端部には、一端側に窪んだ溝40fが形成されている。この溝40fは、スピンドル40の径方向に沿って一本の直線状に延びており、溝40fの長手方向の両端部は、スピンドル40の外周縁40gよりも内側に位置している。すなわち、溝40fの長手方向の両端部は、スピンドル40の外周縁40gに達しない状態で形成されている。また、溝40fの長手方向の両端部は、スピンドル40の中心軸に対して対称となる位置に設けられている。溝40fの底面は、スピンドル40の軸方向に対して直交する方向に延びており、凹凸の無い平坦面で構成されている。後述のように、この溝40fは、スピンドル40を回転させるための工具を係合させる係合部として機能する。
【0032】
止水栓20を構成するボンネット30、スピンドル40、Oリング31、Oリング41、パッキン42、及び、ネジ43を組み付ける順序は特に限定されず、適宜組み付ける順序を選択することができる。
【0033】
Oリング31、Oリング41、及び、パッキン42の材質は特に限定されないが、ゴム製であるとシール性に優れているため好ましい。
止水栓20による止水機構について説明する。
【0034】
以下の説明では、水栓10に取り付けられた2つの止水栓20のうち、給水路16側に取り付けられる止水栓20について説明し、給湯路側に取り付けられる止水栓20については説明を省略する。
【0035】
まず、取付ベース12について説明する。
図6に示すように、取付ベース12内には、給水路16が設けられている。給水路16は、取付ベース12の下部から延びる第1流路16aと、取付ベース12の上部の弁機構に連通する第2流路16bと、第1流路16aと第2流路16bの間に位置して止水栓20が取り付けられる中間流路16cとを有する。中間流路16cは、第1流路16a及び第2流路16bよりも内径が大きく構成されており、中間流路16cに面する第1流路16aの端部が弁口16dとして機能する。給水源から供給された水は、第1流路16a、中間流路16c、第2流路16bを経由して、弁機構に到達する。取付ベース12内の給湯路も同様に構成されている。
【0036】
図6に示すように、ボンネット30の一端側外周のネジ溝30bを取付ベース12の開口12aのネジ溝12bに螺合させて、ボンネット30を取付ベース12に取り付ける。この際、ボンネット30の他端側が略六角形状の外形であることにより、スパナやレンチ等の締め付け工具を用いてボンネット30を容易に螺合させることができる。
【0037】
ボンネット30の外周に取り付けられたOリング31が、取付ベース12の開口12aの内周に当接することにより、取付ベース12の開口12aとボンネット30の一端側外周との間がシールされる。止水栓20は、取付ベース12内の中間流路16cに配置された状態となる。
【0038】
ボンネット30に対してスピンドル40が最も手前側の位置にある状態において、スピンドル40の手前側の端部は、ボンネット30の手前側の端部よりも奥側に位置している。言い換えれば、ボンネット30に対してスピンドル40が最も他端側の位置にある状態であっても、スピンドル40の他端側の端部は、ボンネット30の他端側の端部よりも一端側に位置している。これにより、スピンドル40の他端側の端部に位置する溝40fの周囲が、ボンネット30の他端側の端部の内周に囲まれた状態となる。
【0039】
さらに、スピンドル40の手前側の端部は、ボンネット30に設けられたテーパ30hの奥側の端部よりもボンネット30の奥側に位置している。言い換えれば、スピンドル40の他端側の端部は、ボンネット30に設けられたテーパ30hの一端側の端部よりも、ボンネット30の一端側に位置している。
【0040】
図6に示すように、ボンネット30に対してスピンドル40が最も手前側の位置にある状態において、ボンネット30の軸方向に沿うスピンドル40の他端側の端部と、ボンネット30の他端側の端部との距離Lは、特に限定されないが、2mm以上であることが好ましく、4mm以上であることがより好ましい。距離Lが上記数値範囲であることにより、スピンドル40の移動時においてスピンドル40の他端側の外周とボンネット30の他端側の内周との間にOリング41でシール可能な領域を好適に確保しつつ、ボンネット30の他端側の端部の内周に工具をより確実に接触させて止めることが可能になる。
【0041】
また、ボンネット30の軸方向に沿うテーパ30hの長さMは、特に限定されないが、2mm以上であることが好ましく、4mm以上であることがより好ましい。長さMが上記数値範囲であることにより、工具がボンネット30の他端側の端部の内周に接触した際に、工具をテーパ30hに沿って溝40f側へ誘導しやすくなる。
【0042】
スピンドル40の手前側の端部は、ボンネット30に設けられたテーパ30hの奥側の端部よりもボンネット30の奥側に位置しているため、距離Lは、長さMよりも大きく構成されている。
【0043】
図6に示すように、スピンドル40の一端側の端部に取り付けられたパッキン42は、取付ベース12内の第1流路16aの弁口16dから離間している。すなわち、弁口16dは開放された状態となっており、第1流路16aを流通する水は、弁口16dから中間流路16cを通って第2流路16bへと流通することができるように構成されている。そのため、水栓10は吐水可能な状態となっている。
【0044】
図7に示すように、水栓10を止水状態にする際には、スピンドル40の他端側の端部の溝40fに、マイナスドライバ等の回転動作によって締め付けを行う工具を係合させてスピンドル40を回転させる。スピンドル40を回転させることにより、ボンネット30の一端側にスピンドル40は移動する。スピンドル40の一端側の端部に取り付けられたパッキン42が第1流路16aの弁口16dの周囲に当接することによって、弁口16dが塞がれた状態となる。これにより、弁機構の操作に関わらず水栓10を止水状態にすることができる。
【0045】
本実施形態の作用について説明する。
図6に示すように、ボンネット30に対してスピンドル40が最も他端側の位置にある状態であっても、スピンドル40の他端側の端部は、ボンネット30の他端側の端部よりも一端側に位置している。すなわち、スピンドル40の他端側の端部に位置する溝40fの周囲が、ボンネット30の他端側の端部の内周に囲まれた状態となっている。作業者がスピンドル40を移動させるために工具を溝40fに係合させる際に、ボンネット30の他端側の端部の内周に工具が接触することによって、目視のみに頼らず溝40fの大まかな位置を把握したうえで、工具を係合させることができる。また、工具の操作中に工具が溝40fから外れても、工具はボンネット30の他端側の端部の内周に接触して止まるため、工具が止水栓20の他端側の端部から離脱することを抑制することができる。
【0046】
本実施形態の効果について説明する。
(1)作業者がスピンドル40を移動させるために工具を溝40fに係合させる際に、ボンネット30の他端側の端部の内周に工具が接触することによって、目視のみに頼らず溝40fの大まかな位置を把握したうえで、工具を係合させることができる。そのため、水栓10における外側から比較的目立ちにくい場所に止水栓20が取り付けられていたとしても、止水栓20の操作を効率良く行うことができる。さらに、止水栓20の操作中に工具が溝40fから外れても、工具が止水栓20の他端側の端部から離脱することを抑制することができるため、再度、工具を溝40fに係合させることが容易になる。したがって、止水栓20を操作する際の作業性を向上させることができる。
【0047】
(2)溝40fは、スピンドル40の他端側の端部における外周縁40gよりも内側に設けられている。溝40fがスピンドル40の他端側の端部における外周縁40gに達している態様では、工具が、外周縁40g側から外れやすくなる虞がある。これに対し、溝40fがスピンドル40の他端側の端部における外周縁40gよりも内側に設けられており、外周縁40gに達していないことによって、工具を溝40fから外れにくくすることができる。したがって、止水栓20を操作する際の作業性をより向上させることができる。さらに、溝40fの長手方向の両端部が、スピンドル40の中心軸に対して対称となる位置に設けられていることにより、溝40fに係合した工具を、スピンドル40の中心軸により近い位置に配置することができる。また、溝40fの底面が、スピンドル40の軸方向に対して直交する方向に延びており、凹凸の無い平坦面で構成されていることにより、工具の回転軸とスピンドル40の中心軸とが平行になりやすくなる。工具をスピンドル40の中心軸により近い位置に配置できること、及び、工具の回転軸とスピンドル40の中心軸とが平行になりやすいことのそれぞれの効果、又は両者の相乗効果により、工具の回転軸とスピンドル40の中心軸とが一致しやすくなるため、操作性が好適に向上する。
【0048】
(3)係合部が溝40fであることにより、研削加工によって溝40fを形成することができる。そのため、スピンドル40の他端側の端部に溝40fを設けることが容易になる。
【0049】
(4)ボンネット30の他端側の端部の内周には、一端側に向かうにつれて径方向内側に傾斜したテーパ30hが設けられており、スピンドル40が最も他端側の位置にある状態において、スピンドル40の他端側の端部は、ボンネット30に設けられたテーパ30hの一端側の端部よりもボンネット30の一端側に位置している。工具がボンネット30の他端側の端部の内周に接触した際に、工具をテーパ30hに沿って溝40f側へ誘導することができる。したがって、工具を溝40fに係合させることがより容易になる。
【0050】
(5)ボンネット30の一端側の端部に設けられた凹部30cの底壁30dの幅の寸法分、ボンネット30の一端側の端部は、ネジ溝30fが形成された部分よりも開口が大きく構成されている。これにより、取付ベース12内の第1流路16aの弁口16dが開放された状態において、第1流路16aから中間流路16cに水が流入する際の流通抵抗を低減して、中間流路16cから第2流路16bへと水を流通させやすくすることが可能になる。
【0051】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・本実施形態において、係合部としての溝40fは、一本の直線状に構成されていたが、溝40fの形状は一本の直線状に限定されない。例えば、互いに平行に並設された複数の直線状の溝で構成されていてもよいし、十字状に構成されていてもよい。多角形状の窪みで構成されていてもよい。
【0052】
・本実施形態において、係合部としての溝40fの長手方向の両端部は、スピンドル40の外周縁40gよりも内側に位置していたが、この態様に限定されない。
図9に示すように、例えば、溝40fの長手方向の両端部は、スピンドル40の外周縁40gに達していてもよい。溝40fの長手方向の両端部がスピンドル40の外周縁40gに達していることにより、溝40fの長さを相対的に長くすることができるため、工具を係合させやすくすることが可能になる。
【0053】
・係合部の形状は溝40fに限定されない。
図10に示すように、例えば、スピンドル40の他端側の端部に、長円の環状の凸部40hを設け、この凸部40hの内側に工具が係合するように構成してもよい。すなわち、長円の環状の凸部40hによって係合部が構成されていてもよい。また、凸部40hと溝40fの両方で係合部が構成されていてもよい。環状の凸部40hの形状は長円に限定されず、矩形状であってもよい。係合部が凸部40hによって構成されている態様では、凸部40hの先端である他端側の端部が、ボンネット30の他端側の端部よりも一端側に位置することが好ましい。すなわち、係合部を含んだスピンドル40の他端側の端部が、ボンネット30の他端側の端部よりも一端側に位置することが好ましい。
【0054】
・本実施形態では、ボンネット30に対してスピンドル40が最も他端側の位置にある状態において、スピンドル40の他端側の端部は、テーパ30hの一端側の端部よりも一端側に位置していたが、この態様に限定されない。スピンドル40の他端側の端部は、テーパ30hの一端側の端部と同じ位置であってもよい。
【0055】
・本実施形態では、
図6に示すように、止水栓20の断面視において、テーパ30hのテーパ面は、直線状に形成されていたが、この態様に限定されない。テーパ30hのテーパ面は曲線状に形成されていてもよい。
【0056】
・ボンネット30の他端側の端部における内周側に設けられたテーパ30hは、省略されていてもよい。
・ボンネット30の一端側の外周に取り付けられたOリング31は、省略されていてもよい。例えば、水栓10の取付ベース12の開口12aの内周にOリングが取り付けられており、このOリングによって、取付ベース12の開口12aとボンネット30の一端側外周との間がシールされるように構成されていてもよい。
【0057】
・スピンドル40の他端側の外周に取り付けられたOリング41は、省略されていてもよい。例えば、ボンネット30の他端側の内周にOリングが取り付けられており、このOリングによって、ボンネット30の他端側の内周とスピンドル40の他端側の外周との間がシールされるように構成されていてもよい。
【0058】
・スピンドル40の一端側の端部に取り付けられるネジ43は、省略されていてもよい。例えば、スピンドル40の一端側の端部に接着剤等を用いてパッキン42を固定することによって、ネジ43を省略することができる。
【0059】
・本実施形態では、スピンドル40の一端側の端部にパッキン42が直接取り付けられていたが、この態様に限定されない。例えば、
図11の従来技術の止水栓61のように、スピンドル40の一端側の端部に軸部材が挿通されており、軸部材の一端側にパッキン42が取り付けられていてもよい。そして、軸部材に取り付けられたスプリングによって、パッキン42が弁口16d側に付勢されていてもよい。
【0060】
・本実施形態の止水栓20は、ボンネット30に対してスピンドル40が一端側に移動した際に水栓10を止水状態にし、ボンネット30に対してスピンドル40が他端側に移動した際に水栓10を吐水可能にするように構成されていたが、この態様に限定されない。ボンネット30に対してスピンドル40が一端側に移動した際に水栓10を吐水可能にし、ボンネット30に対してスピンドル40が他端側に移動した際に水栓10を止水状態にするように構成されていてもよい。
【0061】
・本実施形態では、水栓本体13と取付ベース12は別部材で構成されていたが、水栓本体13と取付ベース12は一つの部材で構成されていてもよい。
・本実施形態の止水栓20が取り付けられる水栓10は、キッチン用のシングルレバー水栓に限定されない。例えば、浴室用や洗面化粧室用の水栓に取り付けられていてもよい。給湯路を有さず、給水路16のみを有する水栓に取り付けられていてもよい。また、水栓10に止水栓20が直接取り付けられた態様に限定されず、水栓10の給水路16に接続された給水管や、水栓10の給湯路に接続された給湯管に止水栓20が取り付けられていてもよい。
【符号の説明】
【0062】
20…止水栓、30…ボンネット、40…スピンドル、40f…溝(係合部)。