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特許7398229主剤及び硬化剤のセット、防水材並びにその施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】主剤及び硬化剤のセット、防水材並びにその施工方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/10 20060101AFI20231207BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20231207BHJP
   C08G 18/75 20060101ALI20231207BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20231207BHJP
   C09D 175/08 20060101ALI20231207BHJP
   E04D 7/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C08G18/10
C08G18/48
C08G18/75 010
C09K3/18 101
C09D175/08
E04D7/00 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019166529
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021107467
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-06-29
(31)【優先権主張番号】 JP2018034673
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】392035064
【氏名又は名称】保土谷建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【弁理士】
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】林 健一
(72)【発明者】
【氏名】前畑 国光
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/059048(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107090069(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108239255(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107523205(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102757722(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103396527(CN,A)
【文献】特開2003-306526(JP,A)
【文献】特開2018-044068(JP,A)
【文献】特開2007-009101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G18
C09K3/18
C09D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート基末端プレポリマーを含有する主剤と、硬化剤とを備えるセットであって、
前記イソシアネート基末端プレポリマーは、ポリプロピレングリコールと、下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位のみを有するポリエーテルグリコールを含有するポリオールと、ポリイソシアネートとの反応生成物であり、
前記ポリプロピレングリコールの含有量は、前記ポリオール全量を基準として、25当量%以上95当量%以下であり、
前記ポリエーテルグリコールの含有量は、前記ポリオール全量を基準として、5当量%以上75当量%以下である、セット。
【化1】
【化2】
[式(2)中、R及びRの一方がメチル基を表し、他方が水素原子を表す。]
【請求項2】
前記ポリエーテルグリコールの数平均分子量が4000以下である、請求項1に記載のセット。
【請求項3】
前記ポリイソシアネートがイソホロンジイソシアネートである、請求項1又は2に記載のセット。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のセットにおける前記主剤及び前記硬化剤の混合物の硬化物を含む、防水材。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のセットにおける前記主剤及び前記硬化剤の混合物を得る工程と、
前記混合物を被塗物上に塗布する工程と、を備える、防水材の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主剤及び硬化剤のセット、防水材並びにその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン製の防水材(塗膜防水材)は、建物の屋上、ベランダ、廊下等の防水材として使用され、更には、塗床材、スポーツ施設の弾性舗装等の用途にも広く使用されている。ポリウレタン製の防水材としては、例えば、イソシアネート基末端プレポリマーを含む主剤を硬化剤と混合して塗工し、硬化させることによって得られる防水材が知られている。特許文献1には、ポリオキシプロピレンポリオールおよび/またはポリオキシエチレンプロピレンポリオールを主原料とするポリオールと、トリレンジイソシアネートとの反応によって得られるイソシアネート末端プレポリマーを主成分とする主剤と、所定の硬化剤とを混合して塗工、硬化せしめる常温硬化型速硬化性ポリウレタン塗膜防水材の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-143816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリウレタン塗膜防水材のような建築用塗膜防水材の物性には日本工業規格(JIS規格)が定められているが、近年ではより強度の高い塗膜防水材が求められ、JIS規格の改正もなされている。また、特に手塗りによる塗布(機械による塗布等を含む)が想定される防水材の原料には、十分な施工時間を確保するために適度な可使時間が得られることも求められる。
【0005】
そこで本発明は、引張強さ、引裂強さ、及び抗張積に優れた防水材を得ることができ、且つ、施工時に十分な可使時間を得ることができる、主剤及び硬化剤を備えるセットを提供することを目的とする。また、本発明は、当該セットを用いた防水材及びその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1の態様として、イソシアネート基末端プレポリマーを含有する主剤と、硬化剤とを備えるセットであって、イソシアネート基末端プレポリマーは、ポリプロピレングリコールと、下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位とを有するポリエーテルグリコールを含有するポリオールと、ポリイソシアネートとの反応生成物である、セットを提供する。
【化1】

【化2】

[式(2)中、R及びRの一方がメチル基を表し、他方が水素原子を表す。]
【0007】
第1の態様において、好ましくは、ポリエーテルグリコールの数平均分子量が4000以下である。ポリイソシアネートは、好ましくはイソホロンジイソシアネートである。
【0008】
本発明は、第2の態様として、上記のセットにおける、主剤及び硬化剤の混合物の硬化物を含む、防水材を提供する。
【0009】
本発明は、第3の態様として、上記のセットにおける、主剤及び硬化剤の混合物を得る工程と、混合物を被塗物上に塗布する工程と、を備える防水材の施工方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、引張強さ、引裂強さ、及び抗張積に優れた防水材を得ることができ、且つ、施工時に十分な可使時間を得ることができる、主剤及び硬化剤を備えるセットを提供することができる。また、本発明によれば、当該セットを用いた防水材及びその施工方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明において、数平均分子量は(Mn)は、ポリスチレンを標準物質として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される値を意味し、以下の条件で測定することができる。
装置:TOSOH HCL-8320(東ソー(株)製)
カラム:TSKgel G4000H+G2500H(7.5mmI.D×30cm)(東ソー(株)製)
検出器:RI
溶離液:THF
注入量:100μL
流速:1.0mL/分
測定温度:40℃
サンプル濃度:0.3wt/vol%
【0013】
一実施形態に係るセットは、イソシアネート基末端プレポリマーを含有する主剤と、硬化剤とを備える。このセットは、ポリウレタン製の防水材を得るためのセット(防水材用セット)として好適に用いられる。
【0014】
<主剤>
主剤は、イソシアネート基末端プレポリマーを含有する。イソシアネート基末端プレポリマーは、ポリプロピレングリコールと、下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位を有するポリエーテルグリコールとを含有するポリオールと、ポリイソシアネートとの反応生成物である。
【化3】

【化4】

式(2)中、R及びRの一方がメチル基を表し、他方が水素原子を表す。
【0015】
ポリオールは、ポリプロピレングリコール(以下、「PPG」ともいう。)を含有する。PPGの数平均分子量は、施工時の可使時間をより長くする観点、及び防水材の破断時の伸び率を向上させる観点から、好ましくは4000以下、より好ましくは2000以下、更に好ましくは1500未満である。PPGの数平均分子量は、例えば、400以上、700以上、又は1000以上であってよい。PPGの数平均分子量は、最も好ましくは1000である。
【0016】
ポリオール中のPPGの含有量は、施工時の可使時間をより長くする観点、及び防水材の破断時の伸び率を向上させる観点から、ポリオール全量(化学当量)を基準として、好ましくは、5当量%以上、10当量%以上、20当量%以上、25当量%以上、50当量%以上、又は65当量%以上である。PPGの含有量は、物性に優れた塗膜を得る観点から、好ましくは95当量%以下、より好ましくは90当量%以下、更に好ましくは85当量%以下である。
【0017】
ポリオールは、上述した式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位を有するポリエーテルグリコールを更に含有する。すなわち、ポリエーテルグリコールは、上記の式(1)で表される構造単位と、上記の式(2)で表される構造単位とを有する共重合体(以下、「共重合体A」ともいう。)である。共重合体Aは、両端に水酸基を有する。共重合体Aは、好ましくは、式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位のみを有する。共重合体Aは、ランダム共重合体であってよい。
【0018】
式(2)において、R及びRの一方がメチル基を表し、他方が水素原子を表す。すなわち、Rがメチル基であってRは水素原子であってよく、Rが水素原子であってRがメチル基であってもよい。共重合体Aに含まれる各構造単位において、R及びRの組み合わせは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0019】
共重合体Aにおいて、式(1)で表される構造単位の含有量は、経済的観点から、共重合体Aの構造単位全量を基準として、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上である。式(1)で表される構造単位の含有量は、共重合体Aの凝固点を低下させる観点から、好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは93質量%以下である。
【0020】
共重合体Aにおいて、式(2)で表される構造単位の含有量は、共重合体Aの凝固点を低下させる観点から、共重合体Aの構造単位全量を基準として、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上である。式(2)で表される構造単位の含有量は、経済的観点から、共重合体Aの構造単位全量を基準として、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0021】
共重合体Aの数平均分子量は、引張強さ、引裂強さ、及び抗張積に更に優れた防水材を得る観点から、好ましくは3500以下、より好ましくは3000以下、更に好ましくは2000以下である。共重合体の数平均分子量は、例えば、250以上、650以上、850以上、又は1000以上であってよい。
【0022】
共重合体Aは、テトラヒドロフラン及びメチルテトラヒドロフラン(2-メチルテトラヒドロフラン及び3-メチルテトラヒドロフランを含む)を開環重合させて得ることができる。共重合体Aとして、市販品を用いてもよい。
【0023】
共重合体Aの含有量は、引張強さ、引裂強さ、及び抗張積に更に優れた防水材を得る観点から、ポリオール全量(化学当量)を基準として、好ましくは、5当量%以上、10当量%以上、20当量%以上、25当量%以上、50当量%以上、又は65当量%以上である。共重合体Aの含有量は、経済的観点から、ポリオール全量を基準として、95当量%以下、90当量%以下、85当量%以下、80当量%以下、又は75当量%以下である。
【0024】
ポリオールは、上述のポリエーテルグリコール(共重合体A)及びポリプロピレングリコールの他に、他のポリオール成分を含有してもよい。他のポリオール成分は、例えば、炭素数2~20の多価アルコール、炭素数2~20の多価アルコール若しくは炭素数6~26の多価フェノールに炭素数2~4のアルキレンオキサイドが付加されたポリオキシアルキレンポリオール(上述のPPG、及び共重合体Aを除く)、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリジエンポリオール(ポリブタジエンポリオール等)、ポリジエンポリオールの水添物、アクリル系ポリオール、天然油系ポリオール(ヒマシ油等)、又は天然油系ポリオールの変性物であってよい。
【0025】
ポリイソシアネートは、分子内にイソシアネート基を2以上有する化合物であれば、特に限定されない。ポリイソシアネートとしては、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシネート等の芳香族ポリイソシアネート、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルネンメタンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の脂環式イソシアネート等が挙げられる。本発明におけるポリイソシアネートはポリイソシアネートの変性物も含む。ポリイソシアネートの変性物としては、ウレタン基、カルボジイミド基、アロハネート基、ウレア基、ビューレット基、ウレトジオン基、ウレトイミン基、イソシアヌレート基又はオキサゾリドン基含有変性物が挙げられる。ポリイソシアネートは、これらを1種単独で又は2種以上を混合して用いられてよい。
【0026】
ポリイソシアネートは、好ましくは脂環式ポリイソシアネートであり、より好ましくは脂環式ジイソシアネートであり、更に好ましくはイソホロンジイソシアネートである。
【0027】
イソシアネート基末端プレポリマーは、上述したポリオールとポリイソシアネートとの反応生成物である。イソシアネート基末端プレポリマーは、例えば、ポリオールに所定の当量比でポリイソシアネートを加え、加熱混合することにより反応させて得ることができる。
【0028】
ポリオール及びポリイソシアネートを混合する際、ポリオール中の水酸基(OH基)に対するポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)の当量比(NCO基/OH基)は、1.4以上、1.5以上、又は1.6以上であってよく、2.2以下、2.0以下、又は1.8以下であってよい。
【0029】
ポリオール及びポリイソシアネートの反応温度は、100℃以下、90℃以下、又は80℃以下であってよい。反応温度の下限は特に限定されないが、例えば30℃以上である。
【0030】
イソシアネート基末端プレポリマー中のイソシアネート基の含有量は、1質量%以上、2質量%以上、又は3質量%以上であってよく、8質量%以下、7質量%以下、又は6質量%以下であってよい。
【0031】
主剤は、主剤及び後述する硬化剤を混合した際の粘度調整等のために、イソシアネート基末端プレポリマーの他に、粘度調整剤として可塑剤、溶剤等を更に含有してもよい。主剤は、工業的及び経済的観点から、ポリイソシアネートのイソシアネート基とポリオールの水酸基とを効率的に反応させるための触媒及び/又は遅延剤を更に含有してもよい。主剤は、得られる防水材の仕上りや、耐久性、他材との密着性等を向上させる観点から、添加剤を含有してもよい。
【0032】
主剤の23℃における粘度は、主剤及び硬化剤の混合直後の混合物が施工時のレベリングを保持でき、塗膜の膜厚を確保できる程度の粘度を有する観点から、好ましくは1000mPa・s以上、より好ましくは3000mPa・s以上、更に好ましくは4000mPa・s以上、特に好ましくは5000mPa・s以上であり、また、好ましくは25000mPa・s以下、より好ましくは20000mPa・s以下、更に好ましくは15000mPa・s以下である。主剤の粘度は、JIS K 7301:1995の「熱硬化性ウレタンエラストマー用トリレンジイソシアネート型プレポリマー試験方法 6.2粘度」に準じて、回転粘度計を用いて測定することができる。
【0033】
<硬化剤>
硬化剤は、多価アルコール等のヒドロキシル化合物、ポリアミンなどの架橋剤を含有してよい。ポリアミンは、例えば、ジエチルトルエンジアミン(2,4-ジエチルトルエンジアミン、2,6-ジエチルトルエンジアミン)、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、2,4-トリレンジアミン、2,6-トリレンジアミン、MOCA系ポリアミン(MOCA及び変性MOCA)、ポリアルキレンエーテルポリオール-p-アミノベンゾエート、ポリテトラメチレングリコールアミノベンゾエート、1,3,5-トリイソプロピル-2,4-ジアミノベンゼン、1-メチル-3,5-ジイソプロピル-2,4-ジアミノベンゼン、1-メチル-3,5-ジイソプロピル-2,6-ジアミノベンゼン、1-エチル-3,5-ジイソプロピル-2,4-ジアミノベンゼン、1-エチル-3,5-ジイソプロピル-2,6-ジアミノベンゼン、メチレンビス(メチルチオ)ベンゼンジアミン、N,N’-ジセカンダリーブチル-p-フェニレンジアミン、4,4’-ビス(sec-ブチルアミン)ジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトライソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジイソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジイソブチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジエチル-5,5’-ジイソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジエチル-5,5’-ジイソブチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ポリアミン、N,N’ジ-sec-ブチル4,4‘-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、ノルボルネンジアミン、N,N‘-(ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイル)-ビスアスパラギン酸テトラエチルエステル等の脂環式ポリアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、トリアミノプロパン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、N,N‘-(2-メチルペンタン-1,5-ジイル)-ビスアスパラギン酸テトラエチルエステル、ポリオキシアルキレンアミン、ポリエーテルアミン等の脂肪族ポリアミンであってよい。これらの架橋剤は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いられてよい。硬化剤は、架橋剤として、好ましくは芳香族ポリアミンを含有し、より好ましくはジエチルトルエンジアミンを含有する。
【0034】
硬化剤は、架橋剤の他に、可塑剤;溶剤;触媒;炭酸カルシウム、タルク、カオリン、ゼオライト、ケイソウ土等の無機充填材;酸化クロム、ベンガラ、酸化鉄、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料;湿潤分散剤、沈降防止剤、光安定剤、消泡剤、表面調整剤、密着付与剤等の添加剤などを更に含有してもよい。
【0035】
<防水材>
以上説明したセットにおいては、主剤及び硬化剤を混合することにより、混合物が硬化する。得られた硬化物は、防水材として好適に用いられる。すなわち、一実施形態に係る防水材は、上述した主剤及び硬化剤の混合物の硬化物を含む。
【0036】
本実施形態に係る防水材は、引張強さ、引裂強さ、及び抗張積に優れており、高強度の防水材である。この防水材は、例えば、JIS A 6021:2011(建築用塗膜防水材、「高強度形」)に準ずる方法により評価した際に、当該規格に規定する以下の数値を満足できる程度に、引張強さ、引裂強さ、及び抗張積に優れている。
引張強さ(Tb):10N/mm以上
引裂強さ(Tt):30N/mm以上
抗張積(Tp):700N/mm以上
【0037】
本実施形態に係る防水材は、破断時の伸び率にも優れており、高伸長な防水材である。この防水材は、JIS A 6021:2011(建築用塗膜防水材、「高伸長形(旧1類)」)に準ずる方法により評価した際に、当該規格に規定する以下の数値を満足できる程度に、破断時の伸び率に優れている。
破断時の伸び率(Eb):450%以上
【0038】
上述したセットを用いた、防水材の施工方法の一実施形態について説明する。一実施形態に係る施工方法は、上述したセットにおける主剤及び硬化剤の混合物を得る工程(混合工程)と、混合物を被塗物に塗布する工程(塗布工程)と、を備える。
【0039】
混合工程において、主剤及び硬化剤を混合する際の温度(環境温度)は、例えば-5~40℃であってよい。
【0040】
硬化剤が架橋剤を含有する場合、硬化剤は、主剤中のNCO基含有量に対する架橋剤の活性水素基の当量比が、0.8以上、0.9以上、又は1.0以上となるように主剤と混合されてよい。硬化剤は、主剤中のNCO基含有量に対する架橋剤の活性水素基の当量比が、1.5以下、1.3以下、又は1.2以下となるように主剤と混合されてよい。
【0041】
硬化剤がポリアミンを含有する場合、混合工程において主剤及び硬化剤を混合する際には、所望の可使時間を得る観点から、主剤に含まれるイソシアネート基末端プレポリマーのNCO基と、硬化剤に含まれるアミノ基(NH基)との当量比(NCO基/NH基)を、所定の範囲になるように混合することが好ましい。NCO基/NH基は、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上、更に好ましくは1.0以上であり、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.3以下、更に好ましくは1.2以下である。
【0042】
塗布工程では、得られた混合物が硬化する前に、当該混合物を被塗物に塗布する。被塗物は特に限定されず、家屋又はビルディング等の建築物における壁面、床面等であってよい。本実施形態に係る主剤及び硬化剤の混合物は、十分な可使時間が得られるために、特に手塗りによる塗布(手塗り塗工)に適している。すなわち、混合工程においては、手塗り塗工がなされてよい。手塗りによる塗布には、スタティックミキサー、ダイナミックミキサー等の自動混合装置などの機械による塗布、ローラー、リシンガン、エアレスガン、刷毛等の道具を使用した塗布も含まれる。本実施形態に係る混合物は、スプレーによる塗布(スプレー塗工)がされてもよい。
【0043】
本実施形態に係る主剤及び硬化剤のセットを用いると、防水材を施工する際に十分に長い可使時間を得ることができる。より具体的には、本実施形態に係る主剤及び硬化剤のセットによれば、例えば、主剤及び硬化剤の混合物の23℃における粘度が6万mPa・sに達するまでに45分以上を要するため、十分に長い可使時間を得ることができる。本実施形態に係るセットにおいては、主剤及び硬化剤の混合物の23℃における粘度が10万mPa・sに達するまでに55分以上であると、可使時間の点でより好ましい。
【0044】
上述した方法によって得られる防水材は、防水材の用途以外にも、高強度性能、高負荷性能が要求されるスポーツ施設等の床材、建築物等の被覆材、更には防錆材などの用途にも使用することができる。なお、用途によっては、作業性に応じてキシレン等の有機溶剤を混合物に加えてから施工することも可能である。
【0045】
<他の実施形態(参考)>
主剤及び硬化剤を備えるセットの他の実施形態として、主剤が以下の実施形態である場合にも、引張強さ、引裂強さ、及び抗張積に優れた防水材を得ることができ、且つ、施工時に十分な可使時間を得ることができる。
【0046】
この実施形態に係るセットは、イソシアネート基末端プレポリマーを含有する主剤と、硬化剤とを備える。イソシアネート基末端プレポリマーは、ポリプロピレングリコールと、下記式(1)で表される構造単位及び下記式(3)で表される構造単位を有するポリエーテルグリコールとを含有するポリオールと、ポリイソシアネートとの反応生成物である。ポリイソシアネートとしては、上述した実施形態で示したものと同様のものを用いることができる。
【化5】

【化6】

式(3)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基を表す。R及びRは、好ましくはメチル基である。
【0047】
ポリプロピレングリコールの数平均分子量、及びポリオール全量(化学当量)を基準とする含有量は、上述した実施形態に係る態様と同様であってよい。
【0048】
ポリエーテルグリコールは、上述した式(1)で表される構造単位及び式(3)で表される構造単位を有する。すなわち、ポリエーテルグリコールは、上記の式(1)で表される構造単位と、上記の式(3)で表される構造単位とを有する共重合体(以下、「共重合体B」ともいう。)である。共重合体Bは、両端に水酸基を有する。共重合体Bは、好ましくは、式(1)で表される構造単位及び式(3)で表される構造単位のみを有する。共重合体Bは、ランダム共重合体であってよく、ブロック共重合体であってもよい。
【0049】
共重合体Bにおいて、式(1)で表される構造単位の含有量は、特に制限されないが、共重合体Bの構造単位全量を基準として、40モル%以上、50モル%以上、又は60モル%以上であってよく、95モル%以下、90モル%以下、又は80モル%以下であってもよい。
【0050】
共重合体Bにおいて、式(3)で表される構造単位の含有量は、特に制限されないが、共重合体Bの構造単位全量を基準として、5モル%以上、10モル%以上、又は20モル%以上であってよく、60モル%以下、50モル%以下または40モル%以下であってよい。
【0051】
共重合体Bの数平均分子量は、特に制限されないが、例えば3500以下、3000以下、又は2000以下であってよく、250以上、650以上、850以上、又は1000以上であってよい。
【0052】
共重合体Bは、ネオペンチルグリコールとテトラヒドロフランを原料として、テトラメチレングリコールの解重合が進行する反応条件下で製造できる。このとき、アルコール性水酸基の存在下で活性を示す触媒を添加してもよい。共重合体Bとしては、市販品を用いてもよい。
【0053】
共重合体Bの含有量は、ポリオール全量(化学当量)を基準として、5当量%以上、10当量%以上、20当量%以上であってよく、95当量%以下、90当量%以下、又は85当量%以下であってよい。
【0054】
ポリオールは、上述したポリプロピレングリコール及び共重合体Bの他、他のポリオール成分を含有してもよい。他のポリオール成分としては、上述したものを用いることができる。
【0055】
イソシアネート基末端プレポリマーは、上述のポリオール及びポリイソシアネートを用いて、上述した実施形態に係る方法と同様の方法によって得ることができる。
【0056】
主剤には、イソシアネート基末端プレポリマーの他、上述した他の原料(粘度調整剤、添加剤等)を更に含有してもよい。
【0057】
硬化剤としては、上述した実施形態と同様のものを用いることができる。
【0058】
この実施形態に係る主剤と硬化剤のセットによっても、主剤及び硬化剤を混合することにより硬化物が得られ、この硬化物が防水材として好適に用いられる。防水材の施工方法は、上述した実施形態と同様の方法であってよい。
【実施例
【0059】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
以下の表において、表中の略称は以下の成分を示す。
<ポリプロピレングリコール>
PPG-1000:ポリプロピレングリコール(数平均分子量1000、商品名「アクトコール D-1000」、三井化学SKCポリウレタン(株)製)
【0061】
<ポリエーテルグリコール>
PTG-L1000:THF/メチル基置換THFランダム共重合体(上述した式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位を有するランダム共重合体、数平均分子量1000、商品名「PTG-L1000」、保土谷化学工業(株)製)
PTG-L2000:THF/メチル基置換THFランダム共重合体(上述した式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位を有するランダム共重合体、数平均分子量2000、商品名「PTG-L2000」、保土谷化学工業(株)製)
PTG-L3000:THF/メチル基置換THFランダム共重合体(上述した式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位を有するランダム共重合体、数平均分子量3000、商品名「PTG-L3000」、保土谷化学工業(株)製)
【0062】
<主剤の調製>
実施例及び比較例においては、表1に示す組成に基づき、以下の方法により主剤を調製した。2リットルのガラスコルベンに、ポリエーテルグリコール及びポリプロピレングリコールを所定の当量比で仕込み、95~105℃で1時間、減圧脱水を実施した。液温が40℃以下になるまで冷却後、窒素気流下で触媒を加えて均一化した。その後、イソホロンジイソシアネート(商品名「VESTANAT IPDI」、EVONIC社製)を徐々に加え、反応が完結するまで、撹拌しながら60~80℃で2~4時間加熱した。反応後の液体を室温まで冷却し、粘度調整剤等を加え撹拌しながら均一化して、主剤(イソシアネート基末端プレポリマーを含む)を得た。実施例及び比較例に係る主剤は全て、ポリイソシアネートのNCO基と、ポリプロピレングリコール及びポリエーテルグリコールのOH基との当量比を調整したイソシアネート末端プレポリマー、粘度調整剤、添加剤及び触媒の含有量を調整することにより、NCO基含有量が4質量%となるように調製した。
【0063】
<可使時間の評価>
調製した主剤と、硬化剤(ジエチルトルエンジアミン(商品名「エタキュア100」、アルベマール・コーポレーション社製)を含む)とを、質量比が主剤:硬化剤=1:1となるように混合した(NCO基/NH基=1.1(当量比))。得られた混合物の23℃における粘度を、JIS K 7301:1995の「熱硬化性ウレタンエラストマー用トリレンジイソシアネート型プレポリマー試験方法 6.2粘度」に準じて、回転粘度計(東機産業(株)BH II形)を用いて測定した。粘度が6万mPa・s、及び10万mPa・sのそれぞれに達するまでの時間を可使時間とした。測定結果を表1に示す。粘度が6万mPa・sに達するまでの時間が45分以上であれば、施工に十分な可使時間を有しているといえる。
【0064】
<塗膜(硬化物)の物性評価(強度)>
可使時間の評価において優れていた実施例及び比較例については、JIS A 6021:2011(建築用塗膜防水材、高強度形)に準じて、上述の混合物から塗膜(硬化物)を作製し、23℃で7日経過後に、塗膜の引張強さ(Tb)、引裂強さ(Tt)、及び抗張積(Tp)を更に評価した。結果を表1に示す。Tbが10N/mm以上、Ttが30N/mm以上、Tpが700N/mm以上であれば、防水材として優れた物性であるといえる。
【0065】
【表1】
【0066】
<塗膜(硬化物)の物性評価(破断時伸び率)>
実施例1~6については、上述の塗膜(硬化物)について、JIS A 6021:2011(建築用塗膜防水材、高伸長形(旧1類))に準じて、23℃で7日経過後に、塗膜の破断時の伸び率(Eb)を評価した。結果を表2に示す。
【0067】
【表2】