(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】医用画像診断装置およびイベント発生予測方法
(51)【国際特許分類】
G06F 11/34 20060101AFI20231207BHJP
G06F 11/07 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
G06F11/34 176
G06F11/07 140A
G06F11/07 151
G06F11/34 147
(21)【出願番号】P 2019183630
(22)【出願日】2019-10-04
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩井 春樹
(72)【発明者】
【氏名】小高 達昭
(72)【発明者】
【氏名】小島 訓
(72)【発明者】
【氏名】小島 勝則
(72)【発明者】
【氏名】伊東 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】野地 隆史
(72)【発明者】
【氏名】殿塚 浩規
(72)【発明者】
【氏名】倉富 奈央子
【審査官】渡辺 一帆
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-184818(JP,A)
【文献】特開2019-008675(JP,A)
【文献】特開2019-159730(JP,A)
【文献】特開2016-173782(JP,A)
【文献】特開2007-252415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 11/34
G06F 11/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自装置のログと、前記自装置と協働して動作する周辺機器のログおよび環境のログの少なくとも一方と、にもとづいて前記周辺機器に関するイベントの発生予測結果を出力する学習済みモデルに対して前記自装置のログと前記周辺機器のログおよび前記環境のログの少なくとも一方とを入力することにより、前記周辺機器に関する前記イベントの発生予測結果を出力する予測部、
を備えた医用画像診断装置。
【請求項2】
前記予測部は、
前記自装置のログと前記周辺機器のログおよび前記環境のログの少なくとも一方とにもとづいて前記周辺機器の故障発生予測結果を出力する学習済みモデルに対して前記自装置のログと前記周辺機器のログおよび前記環境のログの少なくとも一方とを入力することにより、前記周辺機器の故障発生予測結果を出力する、
請求項1記載の医用画像診断装置。
【請求項3】
前記環境のログは、
周辺環境のログ、電源環境のログ、および前記自装置および前記周辺機器がともに検診車に設けられる場合は前記検診車の運転環境のログ、の少なくとも1つを含む、
請求項2記載の医用画像診断装置。
【請求項4】
前記予測部は、
前記周辺機器の故障発生予測結果に応じて、前記周辺機器に故障発生が予測された旨の情報をユーザに通知する、
請求項2または3に記載の医用画像診断装置。
【請求項5】
前記予測部は、
前記自装置のログと前記周辺機器のログおよび前記環境のログの少なくとも一方とにもとづいて前記周辺機器が関わるヒヤリハットの発生予測結果を出力する学習済みモデルに対して前記自装置のログと前記周辺機器のログおよび前記環境のログの少なくとも一方とを入力することにより、前記周辺機器が関わるヒヤリハットの発生予測結果を出力する、
請求項1記載の医用画像診断装置。
【請求項6】
前記環境のログは、
周辺環境のログ、前記自装置および前記周辺機器がともに検診車に設けられる場合は前記検診車の運転環境のログ、前記周辺機器を含む所定領域を撮影する撮影装置のログ、前記周辺機器を含む所定領域で発生した音声のログ、の少なくとも1つを含む、
請求項5記載の医用画像診断装置。
【請求項7】
前記自装置のログ、ならびに前記周辺機器のログおよび前記環境のログの少なくとも一方、のそれぞれを、ログの種別ごとに設定された期間だけ記憶部に一時記憶させる収集部と、
前記周辺機器に関する前記イベントが発生した旨の情報を受け付けると、この情報を受け付けた時点で前記記憶部に一時記憶されている前記自装置のログと前記周辺機器のログおよび前記環境のログの少なくとも一方とを、前記期間の経過後も利用可能なよう記憶部に保存させる保存部と、
をさらに備え、
受け付けた前記周辺機器に関する前記イベントが発生した旨の情報は教師データとして、前記保存部により保存された前記自装置のログと前記周辺機器のログおよび前記環境のログの少なくとも一方とを学習用データとして、それぞれ前記学習済みモデルの学習に用いられる、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の医用画像診断装置。
【請求項8】
前記学習済みモデルは、
学習用データと教師データからなるトレーニングデータセットであって、受け付けた前記周辺機器に関する前記イベントが発生した旨の情報を前記教師データとし、前記保存部により保存された前記自装置のログと前記周辺機器のログおよび前記環境のログの少なくとも一方とを前記学習用データとするトレーニングデータセット、を用いて学習を行ったモデルである、
請求項7記載の医用画像診断装置。
【請求項9】
前記学習済みモデルが用いる前記自装置のログと前記周辺機器のログおよび前記環境のログの少なくとも一方とは、
現在の時点で前記収集部によって前記記憶部に一時記憶されている前記自装置のログと前記周辺機器のログおよび前記環境のログの少なくとも一方である、
請求項7または8に記載の医用画像診断装置。
【請求項10】
自装置のログと、前記自装置と協働して動作する周辺機器のログおよび環境のログの少なくとも一方と、にもとづいて前記周辺機器に関するイベントの発生予測結果を出力する学習済みモデル
を利用する予測
部を備えた医用画像診断装置
で用いられるイベント発生予測方法であって、
前記自装置のログと、前記自装置と協働して動作する
前記周辺機器のログおよび
前記環境のログの少なくとも一方とを取得するステップと、
前記予測部が、前記自装置のログと前記周辺機器のログおよび前記環境のログの少なくとも一方とにもとづいて前記周辺機器に関するイベントの発生予測結果を出力する
前記学習済みモデルに対して前記自装置のログと前記周辺機器のログおよび前記環境のログの少なくとも一方とを入力することにより、前記周辺機器に関する前記イベントの発生予測結果を出力するステップと、
を有するイベント発生予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、医用画像診断装置およびイベント発生予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医用画像診断装置は、電源装置などの周辺機器と協働して動作することがある。たとえば、車載のX線診断装置は、電源装置のほか、バリウムのシェーカー、ブッキー装置などの周辺機器とともに検診車に設けられる。この場合、X線診断装置は、検診車の車内にあっても周辺機器の機能を利用することができるため、非常に利便性が高い。
【0003】
しかし、周辺機器には自らの故障予測機能を持たないものがある。特に、小規模な周辺機器の場合は故障予測機能ばかりでなくこの場合、たとえX線診断装置自身に自装置の故障予測機能が備わっていても、周辺機器の故障を予測することは極めて難しい。このため、ユーザは始業点検時に周辺機器の目視や試運転などを行うことにより故障の有無を確認する必要があり、煩雑である。
【0004】
また、この種の確認では、確認時点での故障の有無を知ることしかできず、故障のイベント発生を予測することは難しい。このため、確認時点で故障のなかった周辺機器であっても、X線診断装置の運転開始後に故障することがある。この場合、当該周辺機器の復旧のために検査を停止しなければならず、ダウンタイムが発生してしまう。
【0005】
また、検診車のように比較的狭い空間に自装置とともに複数の周辺機器が設けられている場合、機器の部材やケーブルが干渉、衝突する、あるいはユーザが動かした部材が他の部材や他のユーザに干渉、衝突するなどの危険がある。しかしこれらのヒヤリハットのイベント発生を予測することは難しく、危険回避は各ユーザの注意に任されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】クリストファー M. ビショップ(Christopher M. Bishop)著、「パターン認識と機械学習(上)(Pattern recognition and machine learning)」、(米国)、第1版、スプリンガー(Springer)、2006年、P.225-290
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、自装置のログと周辺機器のログおよび環境のログの少なくとも一方とを用いて、周辺機器に関するイベントの発生を予測することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係る医用画像診断装置は、予測部を備える。予測部は、自装置のログと、自装置と協働して動作する周辺機器のログおよび環境のログの少なくとも一方と、にもとづいて周辺機器に関するイベントの発生予測結果を出力する学習済みモデルに対して自装置のログと周辺機器のログおよび環境のログの少なくとも一方とを入力することにより、周辺機器に関するイベントの発生予測結果を出力する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係る医用画像診断装置を含む車載検診システムの一構成例を示すブロック図。
【
図2】ログ収集機能により収集されて一時記憶されるログについて説明するための図。
【
図3】イベントが故障である場合に、イベント発生検知をトリガとしてバッファログが保存されることを説明するための図。
【
図4】バッファログおよび保存ログの変形例を説明するための図。
【
図5】周辺機器の故障発生を予測するための予測機能の学習時におけるデータフローの一例を示す説明図。
【
図6】周辺機器の故障発生を予測するための予測機能の運用時におけるデータフローの一例を示す説明図。
【
図7】イベントがヒヤリハットである場合に、ヒヤリハット発生検知をトリガとしてバッファログが保存されることを説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、医用画像診断装置およびイベント発生予測方法の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
一実施形態に係る医用画像診断装置としては、X線診断装置、X線CT(Computed Tomography)装置、磁気共鳴イメージング(MRI:Magnetic Resonance Imaging)装置など種々の装置を用いることができる。以下の説明では、本発明に係る医用画像診断装置として、電源装置などの周辺機器と協働して動作する車載の医用画像診断装置を用いる場合の一例について示す。
【0013】
図1は、一実施形態に係る医用画像診断装置10を含む車載検診システム1の一構成例を示すブロック図である。
【0014】
車載検診システム1は、車載の医用画像診断装置10、周辺機器群40、およびセンサ群45を有する。
【0015】
医用画像診断装置10は、被検体の医用撮影を行う撮影装置20とコンソール30とを備える。撮影装置20は、被検体に関する医用画像データを生成するよう構成される。
【0016】
コンソール30は、医用画像データにもとづく医用画像を生成して表示を行なう。コンソール30は、ディスプレイ31、入力インターフェース32、記憶回路33、通信回路34、および処理回路35を有する。
【0017】
周辺機器群40は、医用画像診断装置10と協働して動作する種々の機器を含みうる。
図1には、周辺機器群40が、周辺機器としての電源装置41、バリウムのシェーカー42、散乱X線の入射を防止するグリッドが画像に与える影響を低減するようグリッドを等速度で動かすためのブッキー43、およびワークステーション44を含む場合の例を示した。
【0018】
センサ群45は、たとえば加速度センサ、温度センサ、湿度センサなどの、収集対象となるログの種別に応じたセンサを含み、周辺機器41-44のログおよび環境のログを収集するために用いられる。
【0019】
コンソール30のディスプレイ31は、たとえば液晶ディスプレイやOLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイなどの一般的な表示出力装置により構成され、処理回路35の制御に従って処理回路35が生成した医用画像などの各種情報を表示する。
【0020】
入力インターフェース32は、たとえばトラックボール、スイッチ、ボタン、マウス、キーボード、操作面へ触れることで入力操作を行なうタッチパッド、光学センサを用いた非接触入力インターフェース、および音声入力インターフェース等などの一般的な入力装置により実現され、ユーザの操作に対応した操作入力信号を処理回路35に出力する。
【0021】
記憶回路33は、磁気的もしくは光学的記録媒体または半導体メモリなどの、プロセッサにより読み取り可能な記録媒体を含んだ構成を有する。記憶回路33の記憶媒体内のプログラムおよびデータの一部または全部は、電子ネットワークを介した通信によりダウンロードされてもよいし、光ディスクなどの可搬型記憶媒体を介して記憶回路33に与えられてもよい。
【0022】
通信回路34は、周辺機器群40を構成する周辺機器41-44との接続形態およびセンサ群45を構成する各センサとの接続形態に応じた種々の情報通信用プロトコルを実装する。通信回路34は、この各種プロトコルに従って自装置と他の電気機器とデータ送受信可能に接続する。医用画像診断装置10とは、他の機器とネットワークを介して接続されてもよい。この場合、ネットワークは、たとえばクラウドネットワークなどの電気通信技術を利用した情報通信網全般を意味し、病院基幹LAN(Local Area Network)などの無線/有線LANやインターネット網のほか、電話通信回線網、光ファイバ通信ネットワーク、ケーブル通信ネットワークおよび衛星通信ネットワークなどを含む。
【0023】
処理回路35は、医用画像診断装置10を統括制御する機能を実現する。また、処理回路35は、記憶回路33に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、医用画像診断装置10のログと周辺機器群40の各周辺機器41-44のログおよび環境のログの少なくとも一方とを用いて、各周辺機器41-44に関するイベントの発生を予測する。
【0024】
処理回路35のプロセッサは、
図1に示すように、ログ収集機能351、イベント発生検知機能352、ログ保存機能353、および予測機能354を実現する。これらの各機能はそれぞれプログラムの形態で記憶回路33に記憶されている。なお、処理回路35の機能351-354の一部は、ネットワークを介してコンソール30にデータ送受信可能に接続された外部のプロセッサにより実現されてもよい。
【0025】
図2は、ログ収集機能351により収集されて一時記憶されるログについて説明するための図である。
【0026】
ログ収集機能351は、医用画像診断装置10が収集可能なログを収集する。具体的には、ログ収集機能351は、医用画像診断装置10自体のログ、ならびに周辺機器41-44のログおよび環境のログの少なくとも一方、のそれぞれを、ログの種別ごとに設定されたバッファ期間だけ、記憶回路33または医用画像診断装置10に接続された他の記憶媒体等の記憶媒体に一時記憶させる。以下の説明では、一時記憶されたログをバッファログという。なお、バッファ期間はログの種別にかかわらず同一としてもよい。ログ収集機能351は、収集部の一例である。
【0027】
図2には、ログが時系列的な生データである場合の例を示したが、ログは時系列的なデータに限られない。たとえば、ログとしてイベントログを用いる場合は、イベント数の情報をログとして保持してもよい。また、元となる生データ時系列的な信号値であっても、当該信号値が閾値を超えた時間とそのときの信号値の離散的なデータをログとして保持してもよい。
【0028】
医用画像診断装置10が収集可能なログには、医用画像診断装置10自体のログ、周辺機器41-44のログ、環境のログが挙げられる。医用画像診断装置10自体のログには、検査フローの情報が含まれてもよい。
【0029】
周辺機器41-44のログは、周辺機器41-44のそれぞれがログ記憶機能およびログ出力機能を有する場合は当該ログを収集すればよい。一方、周辺機器41-44のそれぞれがログ出力機能を有しない場合は、周辺機器41-44のログは、ユーザによる目視により収集されてもよいし、アナログ信号出力が得られる場合は当該信号出力にもとづいてログ収集してもよい。また、周辺機器のログ収集対象データに応じたセンサを設けて当該センサの出力にもとづいて周辺機器のログを収集してもよい。
【0030】
環境のログは、電源環境のログを含むとよい。また、環境のログは、周辺環境のログを含めてもよい。周辺環境のログは、振動や音、車内温度、車外温度、湿度などを含みうる。周辺環境のログは、たとえばセンサ群45を構成するセンサを用いて取得することができる。
【0031】
また、
図1に示す例のように医用画像診断装置10と周辺機器群40とがともに検診車に設けられる場合は、環境のログは検診車の運転環境のログを含めてもよい。運転環境のログは、運転状況や路面状況などを含みうる。運転状況や路面状況は、たとえばセンサ群45を構成する加速度センサなどを用いて取得することができる。また、運転環境のログは、時系列的なデータではないが、走行距離、ドライバの情報などのイベント発生の頻度等に寄与しうる情報を含んでもよい。
【0032】
図3は、イベントが故障である場合に、イベント発生検知をトリガとしてバッファログが保存されることを説明するための図である。
【0033】
イベント発生検知機能352は、周辺機器41-44のいずれかに関するイベントが発生したことを検知し、その旨の情報をログ保存機能353に与える。イベントには、故障、ヒヤリハット、および、いわゆる異常検知(anormaly detection)技術による異常検知が含まれる。また、イベントにはさらに、通信障害を含めてもよい。
【0034】
イベント発生検知機能352は、ユーザによる入力にもとづいて、または周辺機器41-44のいずれかが自らに生じたイベントの情報を出力する機能を備える場合は、当該機器から直接にイベント発生の旨の情報を受けて、周辺機器41-44のいずれかに関するイベントが発生したことを検知する。
【0035】
たとえば、イベントが故障であって、ユーザによる入力にもとづいて故障発生を検知する場合、イベント発生検知機能352は、
図3の上段に一例を示したような故障発生受付画面51を生成してディスプレイ31に表示させるとよい。周辺機器41-44のいずれかが故障発生を通知する機能を備える場合は、イベント発生検知機能352は、周辺機器41-44のいずれかから当該通知を受けることで故障発生を検知してもよい。
【0036】
ログ保存機能353は、周辺機器41-44のいずれかに関するイベントが発生した旨の情報を受け付けると、この情報を受け付けた現在の時点で記憶回路33等の記憶媒体に一時記憶されている医用画像診断装置10のログと周辺機器41-44のログおよび環境のログの少なくとも一方とを、バッファ期間の経過後も利用可能なよう記憶回路33等の記憶媒体に保存させる。以下の説明では、ログ保存機能353によって保存されたログを保存ログ611という。ログ保存機能353は、保存部の一例である。
【0037】
ログ保存機能353によって保存された保存ログ611は機械学習の学習用データとして、保存ログ611に対応する発生イベントの情報は機械学習の教師データとして、互いに関連付けられて蓄積される。
【0038】
なお、
図3には故障が発生したか否かの情報を受け付ける場合の例を示したが、さらに故障を細分化して情報を収集してもよい。
【0039】
図4は、バッファログおよび保存ログ611の変形例を説明するための図である。
【0040】
バッファログを一時保存しておく期間の終端は現在である必要はなく、たとえば現在から所定期間未来であってもよい(
図4参照)。保存ログ611も同様に、イベントが発生した旨の情報を受け付けた時点から所定期間未来の時点までのログを保存ログ611としてもよい。また、
図4には所定期間未来とする期間をログ種別によらず一定とする場合の例を示したが、ログ種別ごとに異ならせてもよい。
【0041】
予測機能354は、医用画像診断装置10のログと、周辺機器41-44のログおよび環境のログの少なくとも一方と、にもとづいて周辺機器41-44に関するイベントの発生予測結果を出力する学習済みモデルに対して医用画像診断装置10のログと周辺機器41-44のログおよび環境のログの少なくとも一方とを入力することにより、周辺機器41-44に関するイベントの発生予測結果を出力する。学習済みモデルを構築するための機械学習としては、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)や畳み込み深層信念ネットワーク(CDBN:Convolutional Deep Belief Network)などの、多層のニューラルネットワークを用いた深層学習を用いることができる。
【0042】
また、予測機能354は、イベントの発生予測結果が、イベントが発生する旨の予測結果だった場合は、イベント発生が予測された旨の情報、対応する周辺機器の情報をユーザに通知するとよい。通知方法は、たとえばディスプレイ31を介して画像で、または図示しないスピーカを介して音声で、通知する方法を用いることができる。予測機能354は、予測部の一例である。
【0043】
上述の通り、イベントには、故障、ヒヤリハット、および、いわゆる異常検知(anormaly detection)技術による異常検知が含まれる。
【0044】
図5は、周辺機器の故障発生を予測するための予測機能354の学習時におけるデータフローの一例を示す説明図である。予測機能354は、トレーニングデータセットを多数入力されて深層学習を行うことにより、パラメータデータ72を逐次的に更新する。トレーニングデータセットは、学習用データ群61を構成する学習用データとしての保存ログ611、612、613・・・、と、各学習用データに対応する教師データ群62を構成し各学習用データに対応する教師データとしての発生イベント情報621、622、623、・・・、により構成される。
【0045】
なお、
図5において、発生イベント情報621の「フラグ」の「1」は故障が発生したことを意味し、「0」は故障が発生していないことを意味する。
【0046】
予測機能354は、トレーニングデータセットが与えられるごとに、学習用データをニューラルネットワーク71で処理した結果が教師データに近づくようにパラメータデータ72を更新していく、いわゆる学習を行う。一般に、パラメータデータ72の変化割合が閾値以内に収束すると、学習は終了と判断される。以下、学習後のパラメータデータ72を特に学習済みパラメータデータ72tという。
【0047】
図6は、周辺機器の故障発生を予測するための予測機能354の運用時におけるデータフローの一例を示す説明図である。運用時には、予測機能354は、あらかじめ設定された周期または時刻で、あるいはユーザに指示されたタイミングで、バッファログ81(
図2、
図4参照)を入力されて、学習済みモデル70を用いて、周辺機器41-44の故障発生予測結果82を出力する。故障発生予測結果82の「フラグ」の「1」は、当該フラグに対応する周辺機器に故障が発生する、と予測機能354が予測したことを意味し、「0」は故障が発生しないと予測したことを意味する。また、予測機能354は、故障発生予測結果82の「フラグ」に追加的にまたは代替的に、故障発生予測の確信度(予測スコア、コンフィデンススコア、確度とも呼ばれる)を出力してもよい。フラグが1か0かは、故障発生予測の確信度が、あらかじめ定められた閾値を超えたか否かによって決定される。
【0048】
なお、ニューラルネットワーク71と学習済みパラメータデータ72tは、学習済みモデル70を構成する。この種の学習の方法および学習済みモデルの構築方法については、非特許文献1に開示された方法など種々の方法が知られている。ニューラルネットワーク71は、プログラムの形態で記憶回路33に記憶される。学習済みパラメータデータ72tは、記憶回路33に記憶されてもよいし、ネットワークを介して処理回路35と接続された記憶媒体に記憶されてもよい。学習済みモデル70(ニューラルネットワーク71と学習済みパラメータデータ72t)が記憶回路33に記憶される場合、処理回路35のプロセッサにより実現される予測機能354は、記憶回路33から学習済みモデル70を読み出して実行することで、周辺機器41-44の故障発生予測結果82を出力する。
【0049】
なお、学習済みモデル70は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路によって構築されてもよい。
【0050】
また、上記例では周辺機器群40を構成する周辺機器41-44のすべてに関するイベント発生を予測可能な学習済みモデル70の例を示したが、周辺機器ごとに学習済みモデルを1つ用意してもよいし、任意の組の周辺機器に1つ用意してもよい。
【0051】
以上、イベントが故障である場合の学習済みモデル70については
図5、
図6を参照し説明したが、イベントがヒヤリハットや異常検知であっても、予測機能354は同様に学習および運用を行えばよい。
【0052】
図7は、イベントがヒヤリハットである場合に、ヒヤリハット発生検知をトリガとしてバッファログが保存されることを説明するための図である。ヒヤリハットとしては、たとえば部材が他の部材を巻き込みそうになった、あるいは衝突しそうになった、被検体が転びそうになった、などが挙げられる。
【0053】
イベントがヒヤリハットである場合、衝突などの視覚的に判別可能なイベントであれば、可視光カメラ画像の画像解析や衝突音などの音声解析によってヒヤリハット発生を検知してもよい。また、イベントがヒヤリハットであって、ユーザによる入力にもとづいてヒヤリハット発生を検知する場合には、イベント発生検知機能352は、
図7の上段に一例を示したようなヒヤリハット発生受付画面91を生成してディスプレイ31に表示させるとよい。
【0054】
イベントがヒヤリハットである場合は、医用画像診断装置10は、ログとして、車載検診システム1の各コンポーネントのレイアウト、各コンポーネントの導入からの期間や使用回数などの積算値を、保存ログ611として収集してもよい。レイアウトは、たとえば撮影装置20の天板の位置、高電圧発生器の位置などを含む。
【0055】
イベントがヒヤリハットである場合も、ログ保存機能353は、周辺機器41-44のいずれかに関するヒヤリハットが発生した旨の情報を受け付けると、バッファログを保存ログ92として記憶回路33等の記憶媒体に保存させる。ログ保存機能353によって保存された保存ログ92は機械学習の学習用データとして、保存ログ92に対応するヒヤリハット発生の情報は機械学習の教師データとして、互いに関連付けられて蓄積される。そして、
図5および
図6に示した例と同様の手順により、ヒヤリハット発生予測結果を出力するための学習モデルが構築され、運用される。
【0056】
なお、イベントがヒヤリハットである場合、ヒヤリハットの発生と関連しうるログとして、周辺機器を含む所定領域を撮影するビデオカメラなどの撮影装置のログ、および周辺機器を含む所定領域で発生した音声のログを含めてもよい(
図7の中段参照)。音声の発生源としては、部材どうしの衝突音や、ユーザの悲鳴等が考えられる。
【0057】
また、イベントが異常検知である場合は、たとえば故障発生受付画面51で「問題なし」の入力を受け付けた時や、故障の旨のユーザ入力がなく装置が通常のシャットダウンを開始した時に、バッファログを保存ログ611として保存するとともにこの保存ログ611に対応する教師データとして正常である旨の情報を関連付けて蓄積しておくとよい。このように蓄積したトレーニングデータセットを用いて学習済みモデルを構築することにより、周辺機器の正常性が今までの正常性と同様であることを検知することができ、したがって正常から逸脱した時に異常検知しユーザに通知することができる学習済みモデルを得ることができる。
【0058】
本実施形態に係る医用画像診断装置10によれば、周辺機器群40のログおよび環境のログの少なくとも一方を一元的に収集管理し、自装置のログとこれらのログにもとづいて周辺機器41-44のイベント発生を予測することができる。このため、たとえば故障発生予測機能を備えていない周辺機器であっても、医用画像診断装置10は当該周辺機器の故障発生予測を行うことができる。
【0059】
したがって、通常運転時における周辺機器の突然の故障によるダウンタイムを未然に防ぐことができる。また、始業点検時における周辺機器の目視や試運転による故障の確認の重要性を大幅に低減することができる。特に、正常性を検知することができる場合は、予測機能354は、正常であるとの予測結果をユーザに通知してもよい。この場合、ユーザは正常である旨の通知にもとづいて安心して始業点検時の確認作業を省略することができる。
【0060】
また、バッファログのバッファ期間は、学習済みモデルによるイベント発生予測に必要な期間であればよく、数年などの長期間にわたって半永久的に保存しておく必要はまったくない。
【0061】
また、医用画像診断装置10はヒヤリハットを予測することができる。ヒヤリハット発生の予測結果は、当該システムを多く利用しているユーザによって蓄積されたログにもとづいて構築された学習済みモデルによって出力され、通知される。このため、たとえば装置を初めて利用するユーザであって周辺機器との位置関係が理解しきれていないユーザであっても、ヒヤリハット発生の予測結果を通知されることで、安全に装置を利用することができる。
【0062】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、自装置のログと周辺機器のログおよび環境のログの少なくとも一方とを用いて、周辺機器に関するイベントの発生を予測することができる。
【0063】
なお、上記実施形態において、「プロセッサ」という文言は、たとえば、専用または汎用のCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、または、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(たとえば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、およびFPGA)等の回路を意味するものとする。プロセッサは、記憶媒体に保存されたプログラムを読み出して実行することにより、各種機能を実現する。
【0064】
また、上記実施形態では処理回路の単一のプロセッサが各機能を実現する場合の例について示したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサが各機能を実現してもよい。また、プロセッサが複数設けられる場合、プログラムを記憶する記憶媒体は、プロセッサごとに個別に設けられてもよいし、1つの記憶媒体が全てのプロセッサの機能に対応するプログラムを一括して記憶してもよい。
【0065】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0066】
1 車載検診システム
10 医用画像診断装置
20 撮影装置
30 コンソール
31 ディスプレイ
32 入力インターフェース
33 記憶回路
35 処理回路
40 周辺機器群
41-44 周辺機器
51 故障発生受付画面
61 学習用データ群
62 教師データ群
81 バッファログ
82 故障発生予測結果
91 ヒヤリハット発生受付画面
92 保存ログ
351 ログ収集機能
352 イベント発生検知機能
353 ログ保存機能
354 予測機能