(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】射出成形型
(51)【国際特許分類】
B29C 45/44 20060101AFI20231207BHJP
B29C 45/33 20060101ALI20231207BHJP
B29C 33/44 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B29C45/44
B29C45/33
B29C33/44
(21)【出願番号】P 2019228048
(22)【出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】町田 大地
(72)【発明者】
【氏名】大野 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】金子 行裕
(72)【発明者】
【氏名】小沢 輝
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-306295(JP,A)
【文献】特開2005-178185(JP,A)
【文献】特開平06-126783(JP,A)
【文献】特開2002-361639(JP,A)
【文献】特開2007-160703(JP,A)
【文献】実開昭63-132721(JP,U)
【文献】実開平03-116907(JP,U)
【文献】実開平05-026330(JP,U)
【文献】特開2007-136809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/44
B29C 45/33
B29C 45/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と可動型との間に形成されたキャビティに樹脂を射出して樹脂成形品を成型する射出成形型であって、前記樹脂成形品が前記固定型と可動型との型開閉方向と交差する方向に曲がった屈曲部を有し、該樹脂成形品の屈曲部の膨出端からずれた位置で前記固定型と可動型とが突き合わされる射出成形型において、
前記可動型は、
前記固定型に対して離接方向に移動され、前記樹脂成形品の屈曲部の曲がり方向先方に配置される第1可動型部と、
前記第1可動型部に対して前記樹脂成形品の屈曲部の位置に配置され、前記樹脂成形品の屈曲部を保持した状態で前記第1可動型部に対して離接される第2可動型部と、
前記第2可動型部と前記第1可動型部との間に位置し、前記第1可動型部の移動とは別駆動によって前記離接方向に移動されて前記第2可動型部と第1可動型部との間の空間に挿抜される挿抜部材と、を備え
、
前記第2可動型部は、前記樹脂成形品の屈曲部を前記離接方向と直交する方向から挟み込む前記第1可動型部側の第1型部材及びその反対側の第2型部材を有し、該第1型部材及び第2型部材が別体的に前記第1可動型部に対して離間可能とされたことを特徴とする射出成形型。
【請求項2】
前記第2可動型部は、
前記挿抜部材が抜かれて前記空間が存在し且つ前記
樹脂成形品の屈曲部を挟み込んだ状態で前記第1型部材及び第2型部材が一体的に前記第1可動型部に接近する方向に移動され、次いで該第1型部材及び第2型部材が別体的に該第1可動型部から離間する方向に移動されることを特徴とする請求項
1に記載の射出成形型。
【請求項3】
前記第1型部材は、前記第1可動型部側の第1分割型部材とその反対側の第2分割型部材とに分割され、該第1分割型部材及び第2分割型部材が別体的に前記第1可動型部に対して離間可能とされ、前記第2型部材の第1可動型部からの離間移動に遅れて前記第2分割型部材を該第1可動型部から離間移動する遅延機構が設けられたことを特徴とする請求項
2に記載の射出成形型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形型、特に、固定型と可動型との間に形成されたキャビティに樹脂を射出して樹脂成形品を成型する射出成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形で樹脂成形品を成型する場合、成形品にアンダーカットが生じることがある。アンダーカットは、成形品を金型から取出すとき、そのままでは離型できない部分を指し、通常は、凸形状部や凹形状部からなる。射出成形型では、こうしたアンダーカットを解消(処理)する手法が広く且つ多様に用いられており、その一例として、例えば下記特許文献1に記載される射出成形型が挙げられる。この射出成形型を始めとして、多くの射出成形型では、可動型にアンダーカットを処理するための機構を設け、固定型と可動型を分離した後、アンダーカット処理機構を作動させて成形品を離型する。なお、アンダーカット処理とは、例えば下記特許文献1に見られるように、樹脂成形品の屈曲部などがアンダーカットになる場合に、その成形品を離型可能とする対応全般を指す。したがって、アンダーカットによって固定型と可動型を分離できない場合の対応もアンダーカット処理に含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、射出成形品には、例えば固定型と可動型の接合部や、可動型を構成する型部同士或いは型部材同士の接合部にパーティングラインと呼ばれる微小な突条部ができる。車両用の樹脂成形品では、彩色塗装を施して製品とするものもあるが、例えば、塗装後の製品でパーティングライン上の塗膜が薄くなり、その薄い塗膜の部分が異なる色のすじとして見えてしまうことがある。
【0005】
こうした場合に、製品の意匠性から、パーティングラインを見えない箇所に設定する要求が生じ、その結果、例えば、成形品が固定型と可動型の型開閉方向と交差する方向に曲がった屈曲部を有し、その屈曲部の膨出端からずれた位置で固定型と可動型を突き合わせる必要の生じることがある。そうした場合に、上記樹脂成形品の屈曲部の外側部分がアンダーカットとなり、固定型と可動型が分離できない可能性が生じる。このような場合には、固定型にアンダーカット処理機構を設ければアンダーカットを処理することは可能である。しかしながら、固定型は、一般に、成形品の外表面、いわば意匠面を形成するものであり、固定型にアンダーカット処理機構を固定型に設けると、その処理機構部で固定型の分割が必要となり、その分割部分、すなわち意匠面にパーティングラインができてしまって、やはり意匠性が低下してしまう。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、樹脂成形品の屈曲部の外側部分が固定型と可動型を分離する際のアンダーカットになる場合であっても、固定型にアンダーカット処理機構を設けることなく、そのアンダーカットを処理することが可能な射出成形型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の射出成形型は、
固定型と可動型との間に形成されたキャビティに樹脂を射出して樹脂成形品を成型する射出成形型であって、前記樹脂成形品が前記固定型と可動型との型開閉方向と交差する方向に曲がった屈曲部を有し、該樹脂成形品の屈曲部の膨出端からずれた位置で前記固定型と可動型とが突き合わされる射出成形型において、
前記可動型は、前記固定型に対して離接方向に移動され、前記樹脂成形品の屈曲部の曲がり方向先方に配置される第1可動型部と、前記第1可動型部に対して前記樹脂成形品の屈曲部の位置に配置され、前記樹脂成形品の屈曲部を保持した状態で前記第1可動型部に対して離接される第2可動型部と、前記第2可動型部と前記第1可動型部との間に位置し、前記第1可動型部の移動とは別駆動によって前記離接方向に移動されて前記第2可動型部と第1可動型部との間の空間に挿抜される挿抜部材と、を備え、
前記第2可動型部は、前記樹脂成形品の屈曲部を前記離接方向と直交する方向から挟み込む前記第1可動型部側の第1型部材及びその反対側の第2型部材を有し、該第1型部材及び第2型部材が別体的に前記第1可動型部に対して離間可能とされたことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、挿抜部材が抜かれて第2可動型部と第1可動型部の間に空間がある状態で、その空間側、すなわち第1可動型部側に第2可動型部を接近すると、その第2可動型部に保持されている上記樹脂成形品の屈曲部が第1可動型部側に移動され、これによりその樹脂成形品の屈曲部を含む部分がその曲がりの内側方向に弾性変形される。したがって、固定型と可動型の分離に際して上記樹脂成形品の屈曲部の外側部分がアンダーカットになる場合であっても、その部分を固定型から離間することが可能となり、その結果、アンダーカットを処理して固定型と可動型を分離することができる。また、樹脂の射出成形時のように可動型に剛性が必要な場合には、挿抜部材を空間内に差し込むことで第1可動型部と第2可動型部の間に可動隙間がなくなり、可動型の剛性が確保される。
【0010】
また、上記第1可動型部と第2可動型部の間に空間がある状態で、上記樹脂成形品の屈曲部を挟み込んだ第1型部材と第2型部材を一体的に第1可動型部側に接近させてその屈曲部を含む部分を弾性変形させ、その状態でアンダーカットを処理して固定型と可動型を分離し、その後、第1型部材とは別体的に第2型部材を第1可動型部から離間すれば、例えば、上記樹脂成形品の屈曲部を含む上記弾性変形部分が復元し、樹脂成形品を可動型から離型することが可能となる。
【0011】
本発明の更なる構成は、前記第2可動型部は、前記挿抜部材が抜かれて前記空間が存在し且つ前記樹脂成形品の屈曲部を挟み込んだ状態で前記第1型部材及び第2型部材が一体的に前記第1可動型部に接近する方向に移動され、次いで該第1型部材及び第2型部材が別体的に該第1可動型部から離間する方向に移動されることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、上記第1可動型部と第2可動型部の間に空間がある状態で、上記樹脂成形品の屈曲部を挟み込んだ第1型部材と第2型部材が一体的に第1可動型部側に接近されてその屈曲部を含む部分が弾性変形し、その状態でアンダーカットを処理して固定型と可動型を分離し、次いで、第1型部材とは別体的に第2型部材が第1可動型部から離間されることで、上記樹脂成形品の屈曲部を含む弾性変形部分が復元し、樹脂成形品を可動型から離型することが可能となる。
【0013】
本発明の更なる構成は、前記第1型部材は、前記第1可動型部側の第1分割型部材とその反対側の第2分割型部材とに分割され、該第1分割型部材及び第2分割型部材が別体的に前記第1可動型部に対して離間可能とされ、前記第2型部材の第1可動型部からの離間移動に遅れて前記第2分割型部材を該第1可動型部から離間移動する遅延機構が設けられたことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、第2分割型部材と上記第2型部材で上記樹脂成形品の屈曲部を挟み込む構成とすることで、上記第2型部材が第1可動型部から離間されるのに遅れて第2分割型部材が上記樹脂成形品の屈曲部を第1分割型部材から押し出すように第1可動型部から離間させることができ、これにより樹脂成形品の離型が容易になる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、樹脂成形品の屈曲部の外側部分が固定型と可動型を分離する際のアンダーカットになる場合であっても、固定型にアンダーカット処理機構を設けることなく、アンダーカットを処理することができ、これにより意匠性に優れた樹脂成形品を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の射出成形型の一実施の形態を示す断面図である。
【
図9】
図8の射出成形型で製造された樹脂成形品(製品)の説明図である。
【
図10】
図1の射出成形型で製造された樹脂成形品(製品)の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の射出成形型の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この実施の形態の射出成形型を用いて樹脂の射出成形が終わった状態を示す断面図である。この実施の形態の射出成形型は、既存の射出成形型と同様に、例えば、図の右半部の固定型1と、図の左半部の可動型2に大別される。周知のように、この固定型1と可動型2の間に形成されるキャビティ(空洞)3に樹脂を射出して樹脂成形品4を成型する。射出成形される成形品の形状は多種多様であり、この実施の形態の樹脂成形品4も、そうした多様な成形品の1つであるが、一般に、固定型1は雌型とも呼ばれ、成形品の外表面、すなわち意匠面を形成するのに用いられる。この実施の形態でも、固定型1は樹脂成形品4の外表面(意匠面)を形成する。
【0018】
可動型2は、図示しない駆動源によって、固定型1に対して離接方向、この場合は図の左右方向(以下、型開閉方向ともいう)に移動(スライド)される。この可動型2の上部は、上記固定型1との間でキャビティ3の主要部を形成する第1可動型部5(型の一部の意)となっており、主に、この第1可動型部5を図示しない駆動源によって移動させることで、後述する第2可動型部6を含む可動型2全体が固定型1に対して離接される。この実施の形態では、後述するように、樹脂成形品4のうち、図の上下方向中央部で図の右上から左下にかけて斜めになっている部分(以下、傾斜部)41と、その下端部から斜め上方に曲がっている部位(以下、屈曲部)42が、アンダーカット処理の対象となる。なお、上記樹脂成形品4の屈曲部42は、固定型1と可動型2の型開閉方向と交差する方向に曲がっており、上記第1可動型部5は、この樹脂成形品4の屈曲部42の曲がり方向先方に配置されている。そこで、この実施の形態では、第1可動型部5の、この部分(下部)を凹陥し、ここにアンダーカット処理機構を配設する。なお、第1可動型部5を構成する型部材は、図の左方において下方まで伸長している。
【0019】
上記第1可動型部5に形成された凹陥部内、すなわち上記第1可動型部5に対しては下方(=型開閉方向と直交する方向の何れか一方)に第2可動型部6が配設されている。この第2可動型部6は、後述するように、第1型部材7及び第2型部材8からなり、第1型部材7は、更に第1分割型部材9及び第2分割型部材10に分割され、それらの部材は、シリンダロッド13aが図の上下方向に伸長する油圧シリンダ13で一体的に移動されたり、別体的に移動したりする。その移動の詳細については、後段に説明するが、第2可動型部6全体は、上記油圧シリンダ13によって第1可動型部5に対して図の上下方向に離接される。なお、理解を容易にするために、上記各部材の配置について簡潔に説明すると、第2可動型部6は、第1可動型部5側の第1型部材7とその反対側の第2型部材8からなり、第1型部材7は、第1可動型部5側の第1分割型部材9とその反対側の第2分割型部材10に分割されている。また、上記油圧シリンダ13のシリンダロッド13aは、上記第2型部材8にのみ直接的に連結されている。
【0020】
上記第2可動型部6の上方、すなわち第1可動型部5との間には後述する空間11が設けられており、
図1では、その空間11内に挿抜部材12が挿し込まれている。図の状態では、挿抜部材12の下面は、第2可動型部6の図示最上部に配置されている上記第1分割型部材9の上面に当接されており、これにより第1可動型部5、挿抜部材12、第2可動型部6は互いに当接していて、それらの部材間、すなわち可動型2の内部に可動隙間はない。挿抜部材12は、上記第1可動型部5の駆動源とは個別の駆動源によって型開閉方向(と平行な方向)に図の左方から別駆動されて空間11内に挿抜される。したがって、挿抜部材12が図の左方に抜かれると、第2可動型部6の上方に空間11ができる。この実施の形態では、挿抜部材12の下面及び第2可動型部6の第1分割型部材9の上面は、共に、図の右上から左下に向かう勾配に形成されており、図の左方から挿抜部材12を空間11内にスムーズに挿抜できるように構成されている。
【0021】
前述した樹脂成形品4の屈曲部42の先端部は、図の左方向に少し延伸されている。
図2は、
図1における樹脂成形品4の傾斜部41の下方先端部及び屈曲部42を示す詳細図である。上記第2可動型部6は、この樹脂成形品4の屈曲部42の先端延伸部43を図の上下方向(=型開閉方向と直交する方向)から挟み込む上記第1型部材7と第2型部材8からなる。更に、第1型部材7は、上記樹脂成形品4の屈曲部42の先端延伸部43だけに図の上方から当接する上記第2分割型部材10と、その屈曲部42の内側面及び上記傾斜部41の内側面に当接する上記第1分割型部材9に分割される。これらの部材は、樹脂成形品4に対して「挟み込む」とか「当接する」と表現されているが、何れも型部材であることから、射出成形時には上記キャビティ3を形成する可動型2の一部として機能する。
【0022】
上記第2分割型部材10は、
図1に示すように、その上端部が第1分割型部材9の下面の窪み部内に嵌入可能となっており、キャビティ形成時には、窪み部内に嵌入している。また、この第2分割型部材10から部分的に下方に伸長される下方伸長部は第2型部材8内に差し込まれている。この第2分割型部材10の下方伸長部は第2型部材8内で上下方向に移動可能となっており、両者の間にはばね部材14が介装されている。このばね部材14により、第2分割型部材10と第2型部材8は互いに離間方向に付勢されており、ばね部材14が所定量だけ圧縮されると第2分割型部材10と第2型部材8が機械的に結合されて一体的に移動する。また、第2型部材8と第1分割型部材9の間にも、図示しないばね部材が介装されており、互いに離間する方向に付勢されている。なお、この実施の形態では、後述するように、キャビティ3における上記第2型部材8と固定型1は、上記樹脂成形品4の屈曲部42のやや先端部寄りで突き合わされている。すなわち、固定型1と可動型2は、樹脂成形品4の屈曲部42の膨出端(屈曲突出端)から、屈曲部42の先端部寄りにずれた位置で突き合わされている。
【0023】
上記樹脂成形品4の離型(取出)手順の説明の前に、この実施の形態におけるアンダーカットについて説明する。
図2から推察されるように、上記樹脂成形品4の傾斜部41から上方に立ち上がる屈曲部42(厳密には、その湾曲している部分)の外側部分は、固定型1内に入り込むようになっており、したがって可動型2を固定型1から離間する際、この入り込んでいる部分が型開閉方向に対するアンダーカットとなる。これより以前の射出成形型は、
図8のように、樹脂成形品4の屈曲部42の外側部分の最下部、すなわち屈曲部42の膨出端の位置で可動型2と固定型1が突き合わされるように型部材がレイアウトされていた。したがって、この屈曲部42の外側部分の最下部が型部材の分割線となり、この部分にパーティングラインが生じていた。この従前の型部材構成では、固定型1と可動型2の分離に際してアンダーカットは生じない。
【0024】
図9は、
図8の射出成形型で成型された樹脂成形品4を車両に搭載した状態の断面図である。図では、例えば
図1の樹脂成形品4が180°回転された状態で車両に組付けられており、この樹脂成形品4の傾斜部41の斜め上方には、その傾斜部41と連続するように鋼板製のパネル部材Pが配置されている。この樹脂成形品4は、彩色塗装が施されて製品化され、その塗装の施された製品4aが車両に搭載されている。
図8の射出成形型で成型された樹脂成形品4(製品4a)では、
図9の矢印部分にパーティングラインが位置する。前述のように、彩色塗装が施された製品4aでは、パーティングライン上の塗膜が薄くなり、その部分が黒いすじとして表れ(見え)、意匠性が劣る。そこで、
図10に矢印で示すように、樹脂成形品4(製品4a)のパーティングラインをパネル部材P側、すなわち上記屈曲部42の先端寄りに設定し、外からは見えなくして意匠性を確保する要求が生じた。
【0025】
以上より、
図2に明示するように、この実施の形態では、上記固定型1と可動型2、具体的には上記第2可動型部6の第2型部材8の突き合わせ部は樹脂成形品4の屈曲部42の膨出端から先端寄りに変更され、その結果、上記アンダーカットが生じる。以下では、この部分のアンダーカット処理を含む樹脂成形品4の離型手順を説明する。まず、
図1の状態から、上記挿抜部材12を
図1の左方に抜き、
図3に示すように、上記第2可動型部6の第1分割型部材9の上方に上記空間11を作り出す。次いで、上記第2可動型部6の第1分割型部材9、第2分割型部材10、第2型部材8が全て当接している状態で油圧シリンダ13のシリンダロッド13aを
図3の上方に延伸する。これにより、
図4に示すように、樹脂成形品4の屈曲部42の先端延伸部43が上記第2分割型部材10と第2型部材8で挟まれるようにして第1型部材7と第2型部材8に屈曲部42が保持されている状態で第2可動型部6全体が一体的に図の上方、すなわち上記空間11内に押し上げられる。
【0026】
図5は、
図4の状態における樹脂成形品4の傾斜部41の下方先端部及び屈曲部42を示す詳細図である。前述のように、屈曲部42の先端延伸部43が第2分割型部材10及び第2型部材8によって挟み込まれ、その屈曲部42全体が第1型部材7及び第2型部材8によって保持されて上方に押し上げられた樹脂成形品4は、
図5に示すように、上記傾斜部41の基部側が第1可動型部5と固定型1に保持された状態で、それより先端部側が上方に湾曲するように弾性変形する。これに伴って、上記樹脂成形品4の屈曲部42の外側部分も上方に持ち上げられ、固定型1との間に隙間が生じて、その部分のアンダーカットがなくなる。この状態で、
図6に示すように、可動型2を固定型1から離間することができ、アンダーカットが処理される。なお、樹脂成形品4は、上記屈曲部42が可動型2と係合しているので、可動型2側に残存する。
【0027】
この状態から油圧シリンダ13のシリンダロッド13aを収縮すると、まず、そのシリンダロッド13aに直接的に連結されている第2型部材8だけが第1型部材7(=第1分割型部材9+第2分割型部材10)とは別体的に
図6の下方に移動され、これにより、上記第2分割型部材10及び第2型部材8による上記樹脂成形品4の屈曲部42、特にその先端延伸部43の挟み込みが解除される。その後、上記第2型部材8と第2分割型部材10の間に介装されたばね部材14が所定量だけ圧縮されて、第2型部材8と第2分割型部材10が機械的に結合されると、上記第2型部材8の下降に遅れて第1型部材7の第2分割型部材10も
図6の下方に移動される。したがって、このばね部材14と、そのばね部材14の圧縮に伴う第2分割型部材10と第2型部材8の機械的結合構造が遅延機構を構成する。
【0028】
図7は、
図6の状態における樹脂成形品4の傾斜部41の下方先端部及び屈曲部42を示す詳細図である。前述のように、第2分割型部材10が下方に移動されると、これに押されて上記樹脂成形品4の屈曲部42、特にその先端延伸部43が下方に押し下げられ、その屈曲部42の内側部分と第1分割型部材9の係合が解除される。これにより、樹脂成形品4と可動型2の係合がすべて解除されるので、樹脂成形品4を離型する。なお、この実施の形態では、上記樹脂成形品4の屈曲部42の内側部分に第1分割型部材9は突出していないので、上記油圧シリンダ13によって第2型部材8が下方に移動されれば、樹脂成形品4に対する弾性変形力が解除されて、
図6の離型可能状態まで復元することもあり得る。この実施の形態では、第2型部材8に遅れて第2分割型部材10を引き下げ、これにより樹脂成形品4の屈曲部42の先端延伸部43を押し下げることで、樹脂成形品4が確実に離型できるようにしている。
【0029】
この射出成形型を
図1の状態に戻すには、先の手順と逆の手順で装置を作動すればよい。ちなみに、前述のように、
図1の状態に戻された射出成形型では、樹脂の射出前の可動型2内に型部材の可動隙間が存在しない。射出成形では、高い圧力で樹脂がキャビティ3内に射出されるので、特に可動型2内には、それを構成する型部材の可動隙間のないことが望まれる。すなわち、可動型2には、射出成形の高い圧力に耐え得る高い剛性が望まれるが、可動型2内に可動隙間のない実施の形態の射出成形型では、要求される剛性を確保することができる。
【0030】
このように、上記実施の形態の樹脂成形型では、挿抜部材12が抜かれて第2可動型部6と第1可動型部5の間に空間11がある状態で、その空間11側、すなわち第1可動型部5側に第2可動型部6を接近すると、その第2可動型部6に保持されている上記樹脂成形品4の屈曲部42が第1可動型部5側に移動され、これによりその樹脂成形品4の屈曲部42を含む部分がその曲がりの内側方向に弾性変形される。したがって、固定型1と可動型2の分離に際して上記樹脂成形品4の屈曲部42の外側部分がアンダーカットになる場合であっても、その部分を固定型1から離間することが可能となり、その結果、アンダーカットを処理して固定型1と可動型2を分離することができる。また、樹脂の射出成形時のように可動型2に剛性が必要な場合であっても、挿抜部材12を空間11内に差し込むことで第1可動型部5と第2可動型部6の間に可動隙間がなくなり、可動型2の剛性が確保される。
【0031】
また、上記第1可動型部5と第2可動型部6の間に空間11がある状態で、上記樹脂成形品4の屈曲部42を挟み込んだ第1型部材7と第2型部材8を一体的に第1可動型部5側に接近させてその屈曲部42を含む部分を弾性変形させ、その状態でアンダーカットを処理して固定型1と可動型2を分離し、その後、第1型部材7とは別体的に第2型部材8を第1可動型部5から離間すれば、例えば、上記樹脂成形品4の屈曲部42を含む上記弾性変形部分が復元して、樹脂成形品4を可動型2から離型することが可能となる。
【0032】
また、挿抜部材12が抜かれて上記空間11が存在し且つ射出成形品4の屈曲部42を挟み込んだ状態で第1型部材7及び第2型部材8が一体的に第1可動型部5に接近する方向、即ち空間11内に移動され、次いで第1型部材7及び第2型部材8が別体的に第1可動型部5から離間する方向に移動される。したがって、上記樹脂成形品4の屈曲部42を挟み込んだ第1型部材7と第2型部材8が一体的に第1可動型部5側に接近されてその屈曲部42を含む部分が弾性変形し、その状態でアンダーカットを処理して固定型1と可動型2を分離し、次いで、第1型部材7とは別体的に第2型部材8が第1可動型部5から離間されることで、上記樹脂成形品4の屈曲部42を含む弾性変形部分が復元し、樹脂成形品4を可動型2から離型することが可能となる。
【0033】
また、第2分割型部材10と上記第2型部材8で上記樹脂成形品4の屈曲部42を挟み込む構成とすることで、上記遅延機構により、上記第2型部材8が第1可動型部5から離間されるのに遅れて第2分割型部材10が上記樹脂成形品4の屈曲部42を第1分割型部材9から押し出すように第1可動型部5から離間させることができ、これにより樹脂成形品4の離型が容易になる。
【0034】
以上、実施の形態に係る樹脂成形型について説明したが、本件発明は、上記実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、本件発明の要旨の範囲内で種々変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、樹脂成形品4の離型に際し、第2型部材8が先に下降し、次いで第2分割型部材10が下降する構成としたが、例えば、第2型部材8と第2分割型部材10が同時に下降し、次いで第2型部材8のみが下降する構成とするなどしてもよい。
【0035】
また、上記実施の形態では、第1型部材7を第1分割型部材9と第2分割型部材10に分割したが、前述のように、第2型部材8のみを先行して下降した際、樹脂成形品4の弾性変形が円滑に復元して離型できるような場合には、第1型部材7の分割は必須ではない。
【符号の説明】
【0036】
1 固定型
2 可動型
3 キャビティ
4 成形品
5 第1可動型部
6 第2可動型部
7 第1型部材
8 第2型部材
9 第1分割型部材
10 第2分割型部材
11 空間
12 挿抜部材
13 油圧シリンダ
14 ばね部材
42 屈曲部