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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20231207BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20231207BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20231207BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20231207BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231207BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/134
H01M4/40
H01M4/80 C
H01M10/052
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019231843
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2021099958
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高田 晴美
(72)【発明者】
【氏名】中野 健志
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-500737(JP,A)
【文献】特開2006-260887(JP,A)
【文献】特開平05-144426(JP,A)
【文献】特表2007-529095(JP,A)
【文献】特表2016-517146(JP,A)
【文献】特開2017-208250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/40
H01M 4/80
H01M 4/134
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含有する正極と、
金属リチウムまたはリチウム含有合金からなる負極活物質粒子を含有する負極と、
前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に介在し、硫化物固体電解質を含有する固体電解質層と、
を有する発電要素を備え、
前記負極は、導電性を有する多孔体と、前記多孔体の空隙中に保持された前記負極活物質粒子と、を有し、かつ、前記負極活物質粒子を保持していない状態の前記多孔体の空隙率が前記固体電解質層の空隙率よりも大きい、全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記多孔体が、リチウムと合金化しうる元素を含む、請求項1に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記固体電解質層の空隙率をx[%]とし、前記多孔体の空隙率をy[%]としたときに、2x+5<yの関係を満足する、請求項1または2に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記固体電解質層が、前記発電要素の積層方向に空隙率の勾配を有し、前記固体電解質層の前記負極に面する領域の空隙率が前記固体電解質層の平均空隙率よりも小さい、請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池などの非水電解質二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して極めて高い出力特性、および高いエネルギーを有することが求められている。したがって、現実的な全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
ここで、現在一般に普及しているリチウムイオン二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いている。このような液系リチウムイオン二次電池では、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められる。
【0005】
そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体リチウムイオン二次電池等の全固体電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウムイオン二次電池においては、従来の液系リチウムイオン二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度およびエネルギー密度の大幅な向上が図れる。正極活物質として硫黄単体(S)や硫化物系材料を用いた全固体リチウムイオン二次電池は、その有望な候補である。
【0006】
ところで、リチウムイオン二次電池においては、その充電の進行に伴って負極電位が低下する。負極電位が低下して0V(vs. Li/Li)を下回ると、負極において金属リチウムが析出してデンドライト(樹枝状)結晶が析出する(この現象を金属リチウムの電析とも称する)。金属リチウムの電析が発生すると、析出したデンドライトが電解質層を貫通することで電池の内部短絡が引き起こされるという問題がある。この内部短絡の問題は、電池のエネルギー密度の向上の観点から固体電解質層を薄膜化した場合に特に顕著に発現する。
【0007】
このような金属リチウムの電析を防止することを目的として、例えば特許文献1には、負極活物質として粒状の金属リチウムとカーボンブラックとの混合体を使用し、これらの混合比を特定の範囲に制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-218005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、特許文献1に開示された技術においては、カーボンブラックを併用することにより、極めて高い容量を有する金属リチウムの特性を犠牲にしている。このため、金属リチウムが本来有している高い容量を有効に活用することができず、しかも不可逆容量が大きいため、電池のエネルギー密度を十分に向上させることができないという問題がある。
【0010】
そこで本発明は、全固体リチウムイオン二次電池において、金属リチウムが有している高容量を有効に活用しつつ、金属リチウムの電析に起因する内部短絡の発生を防止しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一形態によれば、正極活物質を含有する正極と、金属リチウムまたはリチウム含有合金からなる負極活物質粒子を含有する負極と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に介在し、固体電解質を含有する固体電解質層とを有する発電要素を備える全固体リチウムイオン二次電池が提供される。当該電池においては、前記負極が、導電性を有する多孔体と、前記多孔体の空隙中に保持された前記負極活物質粒子とを有し、かつ、前記負極活物質粒子を保持していない状態の前記多孔体の空隙率が前記固体電解質層の空隙率よりも大きい点に特徴がある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、全固体リチウムイオン二次電池において、金属リチウムが有している高容量を有効に活用しつつ、金属リチウムの電析に起因する内部短絡の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る全固体電池の一実施形態である扁平積層型電池の外観を表した斜視図である。
図2図2は、図1に示す2-2線に沿う断面図である。
図3図3は、図1および図2に示す積層型電池の発電要素を構成する単電池層の断面図である。
図4図4は、本発明に係る全固体電池の一実施形態である双極型(バイポーラ型)の全固体リチウムイオン二次電池を模式的に表した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
《全固体リチウムイオン二次電池》
本発明の一形態は、正極活物質を含有する正極と、金属リチウムまたはリチウム含有合金からなる負極活物質粒子を含有する負極と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に介在し、固体電解質を含有する固体電解質層とを有する発電要素を備え、前記負極は、導電性を有する多孔体と、前記多孔体の空隙中に保持された前記負極活物質粒子と、を有し、かつ、前記負極活物質粒子を保持していない状態の前記多孔体の空隙率が前記固体電解質層の空隙率よりも大きい、全固体リチウムイオン二次電池である。
【0015】
以下、図面を参照しながら、上述した本形態の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0016】
図1は、本発明に係る全固体電池の一実施形態である扁平積層型電池の外観を表した斜視図である。図2は、図1に示す2-2線に沿う断面図である。積層型とすることで、電池をコンパクトにかつ高容量化することができる。なお、本明細書においては、図1および図2に示す扁平積層型の双極型でないリチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」とも称する)を例に挙げて詳細に説明する。ただし、本形態に係る全固体電池の内部における電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用しうるものである。
【0017】
図1に示すように、積層型電池10aは、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極集電板25、負極集電板27が引き出されている。発電要素21は、積層型電池10aの電池外装材(ラミネートフィルム29)によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素21は、正極集電板25および負極集電板27を外部に引き出した状態で密封されている。
【0018】
なお、本形態に係る全固体電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型の全固体電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装材にラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムを含むラミネートフィルムの内部に収容される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
【0019】
また、図1に示す集電板(25、27)の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極集電板25と負極集電板27とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極集電板25と負極集電板27をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図1に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
【0020】
図2に示すように、本実施形態の積層型電池10aは、実際に充放電反応が進行する扁平略矩形の発電要素21が、電池外装材であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極と、固体電解質層17と、負極とを積層した構成を有している。正極は、正極集電体11の両面に正極活物質を含有する正極活物質層13が配置された構造を有する。負極は、負極集電体12の両面に負極活物質を含有する負極活物質層15が配置された構造を有する。具体的には、1つの正極活物質層13とこれに隣接する負極活物質層15とが、固体電解質層17を介して対向するようにして、正極、固体電解質層および負極がこの順に積層されている。これにより、隣接する正極、固体電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図1に示す積層型電池10aは、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。
【0021】
図2に示すように、発電要素21の両最外層に位置する最外層正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。
【0022】
正極集電体11および負極集電体12は、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板(タブ)25および負極集電板(タブ)27がそれぞれ取り付けられ、電池外装材であるラミネートフィルム29の端部に挟まれるようにしてラミネートフィルム29の外部に導出される構造を有している。正極集電板25および負極集電板27はそれぞれ、必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11および負極集電体13に超音波溶接や抵抗溶接などにより取り付けられていてもよい。
【0023】
図3は、図1および図2に示す積層型電池10aの発電要素21を構成する単電池層19の断面図である。図3では、単電池層19を構成する正極集電体11と、正極活物質層13と、固体電解質層17と、負極活物質層15と、負極集電体12と、がこの順に積層されている。そして、図3に示す実施形態において、負極活物質層15は、導電性を有する多孔体(導電性多孔体)であるステンレス(ここでは、SUS304)製の多孔体によってその形状が規定されている。ここで、当該導電性多孔体(ステンレス製多孔体)の空隙率は例えば60%であり、固体電解質層の空隙率(例えば、5%)よりも大きい値となるように構成されている。また、上記導電性多孔体(ステンレス製多孔体)の空隙中には負極活物質粒子(例えば、金属リチウム粒子)が保持されている。なお、上述した導電性多孔体の空隙率の値は、負極活物質粒子を保持していない状態で測定される値である。
【0024】
図3に示す実施形態において、例えば積層型電池10aの充電時には、負極活物質層15と固体電解質層17との界面において電析により金属リチウムからなるデンドライトが発生することがある。このデンドライトは正極活物質層13側に向かって成長するが、本実施形態においては負極活物質層15を構成する導電性多孔体の空隙率が固体電解質層17の空隙率よりも大きいため、発生したデンドライトは固体電解質層17側(すなわち、正極活物質層13側)よりも導電性多孔体側に成長しやすい。したがって、図3に示す実施形態においては、固体電解質層17側(すなわち、正極活物質層13側)へのデンドライトの成長が抑制され、内部短絡の発生が防止されうるのである。このように、本形態に係る全固体リチウムイオン二次電池においては、特許文献1に記載の技術のように金属リチウムよりも低容量の負極活物質を用いる必要がない。したがって、本形態に係る電池によれば、金属リチウムが潜在的に有している高容量を十分に活用することもできることから、全固体電池のエネルギー密度の向上にも資するものである。
【0025】
以下、本形態に係る全固体電池の主要な構成部材について説明する。
【0026】
[集電体]
集電体は、電極活物質層からの電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はない。集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
【0027】
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
【0028】
また、後者の導電性を有する樹脂としては、非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。
【0029】
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
【0030】
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。
【0031】
導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、およびSbからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくは、アセチレンブラック、バルカン(登録商標)、ブラックパール(登録商標)、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。
【0032】
導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、集電体の全質量100質量%に対して5~80質量%である。
【0033】
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。また、本形態に係る全固体リチウムイオン二次電池において、負極活物質層は導電性多孔体によってその形状が規定されている。したがって、場合によっては、負極集電体を別途設けることなく、導電性多孔体に負極集電体としての機能を担わせることも可能である。この場合には、導電性多孔体に直接、後述する負極リードを接続すればよい。
【0034】
[負極活物質層]
本形態に係る全固体リチウムイオン二次電池において、負極活物質層は、導電性多孔体と、当該導電性多孔体の空隙中に保持された負極活物質粒子とを含む。そして、当該負極活物質粒子は、金属リチウムまたはリチウム含有合金からなるものである。なお、負極集電体を別途用いずに導電性多孔体自体に負極集電体としての機能を担わせる場合には、負極活物質層がそのまま負極となる。
【0035】
(導電性多孔体)
導電性多孔体は、多孔質構造(多数の空隙)を内部に有し、導電性を有する部材である。導電性多孔体を構成する材料は、導電性を有する材料であればよく、集電体の構成材料として上述した材料が同様に採用されうる。なかでも、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス(SUS304、SUS316L等)、チタン、銅などの金属材料が好ましく用いられうる。
【0036】
好ましい実施形態において、導電性多孔体は、リチウムと合金化しうる元素を含む。リチウムと合金化しうる元素としては、例えば、リチウムと合金化しうる元素としては、Al、Mg、Zn、Bi、Sn、Pb、In、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Cd、Ga、Tl、Si、Ge等が挙げられる。これらの中でも、容量およびエネルギー密度に優れた電池を構成できる観点から、リチウムと合金化しうる材料は、Si、Au、In、Ge、Sn、Pb、AlおよびZnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことが好ましく、Si、AuまたはInを含むことがより好ましい。これらのリチウムと合金化しうる元素は、それ自体からなる導電性多孔体の形態で用いられてもよいし、リチウムと合金化しない材料からなる導電性多孔体の表面に形成されたコーティングの形態で用いられてもよい。ただし、リチウムと合金化しない材料からなる導電性多孔体の表面に形成されたコーティングの形態で用いられることが好ましい。
【0037】
上記のように導電性多孔体がリチウムと合金化しうる元素を含むことで、全固体リチウムイオン二次電池の充電時に正極から負極へ移動してきたリチウムイオンがリチウム含有合金の形態で存在するようになる。その結果、金属リチウムの形態で存在する場合と比較して負極活物質層と固体電解質層との間の界面抵抗が低下し、より大きい電流密度を実現することが可能となる。すなわち、急速充電時における高レートでの充電にも十分に対応可能な電池が提供されうる。
【0038】
上述したように、導電性多孔体は多孔質構造(多数の空隙)を内部に有するが、その空隙率の値は、固体電解質層の空隙率よりも大きければ特に制限されない。導電性多孔体の空隙率は、好ましくは5~95%であり、より好ましくは30~90%であり、さらに好ましくは50~70%である。なお、導電性多孔体の空隙率の値は、従来公知の手法を適宜採用することによって制御することが可能である。
【0039】
導電性多孔体の厚みについても特に制限はないが、好ましくは20~300μmであり、より好ましくは30~250μmであり、さらに好ましくは50~200μmである。
【0040】
(負極活物質粒子)
上述したように、負極は、金属リチウムまたはリチウム含有合金からなる負極活物質粒子を必須に含有する。このような負極活物質粒子を構成する負極活物質の種類としては、特に制限されないが、リチウム含有合金としては、例えば、リチウムと、リチウムと合金化しうる材料の少なくとも1種との合金が挙げられる。ここで、リチウムと合金化しうる
材料としては、上述したものが同様に用いられうる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。なお、金属リチウムまたはリチウム含有合金を必須に含むのであれば、上記以外の負極活物質(例えば、炭素材料、ケイ素含有合金など)からなる粒子が用いられてもよいことは勿論である。ただし、電池のエネルギー密度を向上させるという観点から、負極活物質粒子の構成材料に占める金属リチウムまたはリチウム含有合金の含有割合は、好ましくは50~100質量%であり、より好ましくは80~100質量%であり、さらに好ましくは90~100質量%であり、いっそう好ましくは95~100質量%であり、特に好ましくは98~100質量%であり、最も好ましくは100質量%である。
【0041】
負極活物質粒子の形状は、粒子状(球状、繊維状)であればよい。負極活物質粒子の平均粒径(D50)は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
【0042】
負極活物質層(負極)において導電性多孔体の空隙中に保持される負極活物質粒子の含有量は、特に限定されず、電池の容量またはエネルギー密度を考慮して適宜決定されうる。また、負極活物質層において、導電性多孔体の空隙中には、本発明の作用効果に悪影響を及ぼさない範囲で、負極活物質粒子以外の成分(例えば、バインダや固体電解質)が含まれていてもよい。ただし、導電性多孔体の空隙中に含まれる成分に占める負極活物質粒子の含有割合は、好ましくは50~100質量%であり、より好ましくは80~100質量%であり、さらに好ましくは90~100質量%であり、いっそう好ましくは95~100質量%であり、特に好ましくは98~100質量%であり、最も好ましくは100質量%である。
【0043】
[固体電解質層]
本形態に係る全固体リチウムイオン二次電池において、固体電解質層は、固体電解質を主成分として含有し、上述した正極活物質層と負極活物質層との間に介在する層である。固体電解質層に含有される固体電解質の具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられるが、硫化物固体電解質であることが好ましい。
【0044】
硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS4、LiPS4、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(ただし、x、yは正の数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである)等が挙げられる。なお、「LiS-P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
【0045】
硫化物固体電解質は、例えば、LiPS骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよい。LiPS骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS4、LiPSが挙げられる。また、Li骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質(例えば、Li11)が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。なかでも、硫化物固体電解質は、P元素を含む硫化物固体電解質であることが好ましく、硫化物固体電解質は、LiS-Pを主成分とする材料であることがより好ましい。さらに、硫化物固体電解質は、ハロゲン(F、Cl、Br、I)を含有していてもよい。
【0046】
また、硫化物固体電解質がLiS-P系である場合、LiSおよびPの割合は、モル比で、LiS:P=50:50~100:0の範囲内であることが好ましく、なかでもLiS:P=70:30~80:20であることが好ましい。
【0047】
また、硫化物固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラスであってもよく、固相法により得られる結晶質材料であってもよい。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質の常温(25℃)におけるイオン伝導度(例えば、Liイオン伝導度)は、例えば、1×10-5S/cm以上であることが好ましく、1×10-4S/cm以上であることがより好ましい。なお、固体電解質のイオン伝導度の値は、交流インピーダンス法により測定することができる。
【0048】
酸化物固体電解質としては、例えば、NASICON型構造を有する化合物等が挙げられる。NASICON型構造を有する化合物の一例としては、一般式Li1+xAlGe2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LAGP)、一般式Li1+xAlTi2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LATP)等が挙げられる。また、酸化物固体電解質の他の例としては、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.51TiO)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.30.46)、LiLaZrO(例えば、LiLaZr12)等が挙げられる。
【0049】
固体電解質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状、薄膜形状等が挙げられる。固体電解質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、特に限定されないが、40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。一方、平均粒径(D50)は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
【0050】
固体電解質層は、上述した固体電解質に加えて、バインダをさらに含有していてもよい。固体電解質層に含有されうるバインダとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。
【0051】
ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(水素原子が他のハロゲン元素にて置換された化合物を含む)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。
【0052】
固体電解質層の空隙率の値は、負極を構成する導電性多孔体の空隙率よりも小さければ特に制限されない。固体電解質層の空隙率は、理想的には0%に近いほど好ましい。一方、固体電解質層の空隙率の上限値は、好ましくは25%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。なお、固体電解質層が後述するように空隙率が異なる複数のサブ固体電解質層の積層体である場合、固体電解質層の空隙率の値は、積層体としての固体電解質層全体の平均空隙率を指すものとする。また、固体電解質層の空隙率の値は、従来公知の手法を適宜採用することによって制御することが可能である。一例として、固体電解質の粉末を圧粉成形することによって固体電解質層を作製する場合には、当該圧粉成形の際に印加される圧力を調節することによって固体電解質層の空隙率を制御することができる。また、固体電解質をアモルファス(非晶質)化したり、有機固体電解質とのハイブリッドの形態としたりすることで、固体電解質の緻密度が向上し、結果的として空隙率を低下させることができる。
【0053】
ここで、固体電解質層の空隙率をx[%]とし、上述した導電性多孔体の空隙率をy[%]としたときに、2x+5<yの関係を満足することが好ましい。このような構成とすることにより、本発明の作用効果をよりいっそう効果的に発現させることが可能である。
【0054】
固体電解質層は、組成や密度(空隙率)などが均一な単層から構成されていてもよいし、組成や密度(空隙率)などが異なる複数の層の積層体であってもよい。好ましい一実施形態において、固体電解質層は、発電要素の積層方向に空隙率の勾配を有し、当該固体電解質層の負極に面する領域の空隙率が当該固体電解質層の平均空隙率よりも小さくなっている。このような実施形態によれば、固体電解質層全体の空隙率をある程度確保してリチウムイオンの拡散抵抗の上昇を抑制しつつ、固体電解質層と負極との界面において発生したデンドライトの固体電解質層側への成長を確実に防止することが可能となる。このような実施形態の一例としては、空隙率が異なる複数のサブ固体電解質層が積層されることによって固体電解質層が構成され、この際、空隙率が正極側から負極側に向かうに従ってより小さくなるようにサブ固体電解質層が配置される形態が例示される。ただし、このような形態のみに限定されず、可能であれば空隙率が連続的に変化するように構成されてもよい。
【0055】
固体電解質層の厚みは、目的とする全固体リチウムイオン二次電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましく、0.1~500μmの範囲内であることがより好ましい。なお、固体電解質層が異なる複数のサブ固体電解質層の積層体である場合、固体電解質層の厚みの値は、すべてのサブ固体電解質層の子厚みの合計値とする。
【0056】
[正極活物質層]
正極活物質層は、硫黄を含む正極活物質を含むことが好ましい。硫黄を含む正極活物質の種類としては、特に制限されないが、硫黄単体(S)のほか、有機硫黄化合物または無機硫黄化合物の粒子または薄膜が挙げられ、硫黄の酸化還元反応を利用して、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であればよい。有機硫黄化合物としては、ジスルフィド化合物、国際公開第2010/044437号パンフレットに記載の化合物に代表される硫黄変性ポリアクリロニトリル、硫黄変性ポリイソプレン、ルベアン酸(ジチオオキサミド)、ポリ硫化カーボン等が挙げられる。なかでも、ジスルフィド化合物および硫黄変性ポリアクリロニトリル、およびルベアン酸が好ましく、特に好ましくは硫黄変性ポリアクリロニトリルである。ジスルフィド化合物としては、ジチオビウレア誘導体、チオウレア基、チオイソシアネート、またはチオアミド基を有するものがより好ましい。ここで、硫黄変性ポリアクリロニトリルとは、硫黄粉末とポリアクリロニトリルとを混合し、不活性ガス下もしくは減圧下で加熱することによって得られる、硫黄原子を含む変性されたポリアクリロニトリルである。その推定構造は、例えばChem. Mater. 2011,23,5024-5028に示されているように、ポリアクリロニトリルが閉環して多環状になるとともに、Sの少なくとも一部はCと結合している構造である。この文献に記載されている化合物はラマンスペクトルにおいて、1330cm-1と1560cm-1付近に強いピークシグナルがあり、さらに、307cm-1、379cm-1、472cm-1、929cm-1付近にピークが存在する。一方、無機硫黄化合物は安定性に優れることから好ましく、具体的には、硫黄単体(S)、S-カーボンコンポジット、TiS、TiS、TiS、NiS、NiS、CuS、FeS、LiS、MoS、MoS等が挙げられる。なかでも、S、S-カーボンコンポジット、TiS、TiS、TiS、FeSおよびMoSが好ましく、硫黄単体(S)、S-カーボンコンポジット、TiSおよびFeSがより好ましく、硫黄単体(S)が特に好ましい。ここで、S-カーボンコンポジットとは、硫黄粉末と炭素材料とを含み、これらを加熱処理または機械的混合に供することによって複合化した状態のものである。より詳細には、炭素材料の表面や細孔内に硫黄が分布している状態、硫黄と炭素材料がナノレベルで均一に分散し、それらが凝集して粒子となっている状態、細かな硫黄粉末の表面や内部に炭素材料が分布している状態、または、これらの状態が複数組み合わさった状態のものである。
【0057】
正極活物質層は、硫黄を含む正極活物質に代えて、硫黄を含まない正極活物質を含んでもよい。硫黄を含まない正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、Li(Ni-Mn-Co)O等の層状岩塩型活物質、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型活物質、LiFeSiO、LiMnSiO等のSi含有活物質等が挙げられる。また上記以外の酸化物活物質としては、例えば、LiTi12が挙げられる。
【0058】
場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0059】
正極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。正極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
【0060】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~99質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。なお、正極活物質層は、導電助剤および/またはバインダをさらに含んでもよい。
【0061】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板27と負極集電板25とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0062】
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体(11、12)と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0063】
[電池外装材]
電池外装材としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、図1および図2に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができることから、外装体はアルミニウムを含むラミネートフィルムがより好ましい。
【0064】
本形態に係る積層型電池は、複数の単電池層が並列に接続された構成を有することにより、高容量でサイクル耐久性に優れるものである。したがって、本形態に係る積層型電池は、EV、HEVの駆動用電源として好適に使用される。
【0065】
以上、全固体リチウムイオン二次電池の一実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0066】
例えば、本発明に係る全固体リチウムイオン二次電池が適用される電池の種類として、集電体の一方の面に電気的に結合した正極活物質層と、集電体の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層とを有する双極型電極を含む、双極型(バイポーラ型)の電池も挙げられる。
【0067】
図4は、本発明に係る全固体電池の一実施形態である双極型(バイポーラ型)の全固体リチウムイオン二次電池(以下、単に「双極型二次電池」とも称する)を模式的に表した断面図である。図4に示す双極型二次電池10bは、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、電池外装体であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。
【0068】
図4に示すように、本形態の双極型二次電池10bの発電要素21は、集電体11の一方の面に電気的に結合した正極活物質層13が形成され、集電体11の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層15が形成された複数の双極型電極23を有する。各双極型電極23は、固体電解質層17を介して積層されて発電要素21を形成する。なお、固体電解質層17は、固体電解質が層状に成形されてなる構成を有する。図4に示すように、一の双極型電極23の正極活物質層13と前記一の双極型電極23に隣接する他の双極型電極23の負極活物質層15との間に固体電解質層17が挟まれて配置されている。
【0069】
隣接する正極活物質層13、固体電解質層17、および負極活物質層15は、一つの単電池層19を構成する。したがって、双極型二次電池10bは、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の最外層に位置する正極側の最外層集電体11aには、片面のみに正極活物質層13が形成されている。また、発電要素21の最外層に位置する負極側の最外層集電体11bには、片面のみに負極活物質層15が形成されている。
【0070】
さらに、図4に示す双極型二次電池10bでは、正極側の最外層集電体11aに隣接するように正極集電板(正極タブ)25が配置され、これが延長されて電池外装体であるラミネートフィルム29から導出している。一方、負極側の最外層集電体11bに隣接するように負極集電板(負極タブ)27が配置され、同様にこれが延長されてラミネートフィルム29から導出している。
【0071】
なお、単電池層19の積層回数は、所望する電圧に応じて調節する。また、双極型二次電池10bでは、電池の厚みを極力薄くしても十分な出力が確保できれば、単電池層19の積層回数を少なくしてもよい。双極型二次電池10bでも、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、発電要素21を電池外装体であるラミネートフィルム29に減圧封入し、正極集電板25および負極集電板27をラミネートフィルム29の外部に取り出した構造とするのがよい。
【0072】
[組電池]
組電池は、電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
【0073】
電池が複数、直列にまたは並列に接続して装脱着可能な小型の組電池を形成することもできる。そして、この装脱着可能な小型の組電池をさらに複数、直列にまたは並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池(電池モジュール、電池パックなど)を形成することもできる。何個の電池を接続して組電池を作製するか、また、何段の小型組電池を積層して大容量の組電池を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
【0074】
[車両]
電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を車両に搭載することができる。本発明では、長期信頼性に優れた高寿命の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を、例えば、自動車ならばハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
【実施例
【0075】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0076】
《試験用セルの作製例》
[実施例1]
リチウムイオン伝導性の固体電解質であるLPS(LiS-P(混合比80:20(モル%)))の所定量を秤量した。次いで、これを300[MPa]の成形圧で圧粉成形することにより、固体電解質層(直径10mmおよび厚み500μmの円板形状、空隙率15%)を作製した。
【0077】
その後、上記で作製した固体電解質層の一方の面に導電性多孔体(SUS304製、厚み100μm、空隙率90%)を載置した。また、当該成形体の他方の面に、同様の導電性多孔体の空隙に金属リチウム粒子を充填したものを載置して、本実施例の試験用セルを作製した。
【0078】
[実施例2]
導電性多孔体の厚みを変えずに空隙率を50%としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0079】
[実施例3]
導電性多孔体の露出表面にアルミニウムをコーティングしたものを本実施例の導電性多孔体として用いたこと以外は、上述した実施例2と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0080】
[実施例4]
固体電解質層の厚みを変えずに空隙率を5%としたこと以外は、上述した実施例3と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0081】
[実施例5]
固体電解質層の厚みを変えずに空隙率を5%とし、導電性多孔体の厚みを変えずに空隙率を30%としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0082】
[実施例6]
固体電解質層の厚みを変えずに空隙率を10%とし、導電性多孔体の厚みを変えずに空隙率を40%としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0083】
[実施例7]
固体電解質層の厚みを変えずに空隙率を5%とし、導電性多孔体の厚みを変えずに空隙率を60%としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0084】
[実施例8]
固体電解質層の厚みを変えずに空隙率を10%とし、導電性多孔体の厚みを変えずに空隙率を70%としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0085】
[実施例9]
空隙率15%の固体電解質層の厚みを490μmとし、その一方の表面に同じ材料(LPS)からなる保護層(厚み10μm、空隙率2%)を貼り付けたものを本実施例の固体電解質層とした。そして、金属リチウムが充填されていない導電性多孔体を保護層の表面に載置し、金属リチウムが充填された導電性多孔体を固体電解質層の保護層が設けられていない側の表面に載置したこと以外は、上述した実施例2と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0086】
[比較例1]
導電性多孔体の厚みを変えずに空隙率を0%としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0087】
[比較例2]
固体電解質層の厚みを変えずに空隙率を20%とし、導電性多孔体の厚みを変えずに空隙率を20%としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例の試験用セルを作製した。
【0088】
《試験用セルの試験例(溶解析出サイクル試験)》
上述した実施例および比較例において作製された試験用セルのそれぞれを直流電源に接続し、25℃に設定された恒温槽中に静置して、電流の向きを交互に変化させつつ20サイクル(逆向きの電流印加を1サイクルとした)の充放電が可能か否かを調べた。この際、試験用セルの電圧および交流インピーダンスをモニターしながら、印加電流値を徐々に増大させて同様の試験を実施し、20サイクルの充放電が可能となる最大の電流密度を測定した。この電流密度が大きいほど、内部短絡が発生しにくい試験用セルであることを意味する。結果を下記の表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示す結果からわかるように、比較例1~2では0.9~1[mA/cm]の電流密度を超えると、内部短絡の発生によって20サイクルの充放電が実施できなくなった。これに対し、各実施例においては、10[mA/cm]以上の電流密度でも20サイクルの充放電が可能であった。このことから、本発明が適用されてなる試験用セルにおいては、内部短絡の発生が有意に抑制されたことがわかる。また、各実施例においては、活物質として金属リチウムのみが用いられており、これよりも低容量であるカーボンブラック等の活物質を併用しなくとも内部短絡の発生が抑制された。このように、本発明は金属リチウムが潜在的に有している高容量を十分に活用することもできることから、全固体電池のエネルギー密度の向上にも資するものである。
【符号の説明】
【0091】
10 積層型電池、
11 正極集電体、
12 負極集電体、
13 正極活物質層、
15 負極活物質層、
17 固体電解質層、
19 単電池層、
21 発電要素、
25 正極集電板、
27 負極集電板、
29 ラミネートフィルム。
図1
図2
図3
図4