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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】ベルト式無段変速機及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 9/12 20060101AFI20231207BHJP
   F16H 55/52 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
F16H9/12 B
F16H55/52
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020002461
(22)【出願日】2020-01-09
(65)【公開番号】P2021110389
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】上田 修治
(72)【発明者】
【氏名】金原 茂
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 博彦
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-118535(JP,A)
【文献】特開2004-293635(JP,A)
【文献】特開2018-008357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 9/12
F16H 55/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のプーリの間に無端状の金属ベルトを巻き掛けて構成され、一方の前記プーリの回転を無段階に変速して他方の前記プーリへと伝達するベルト式無段変速機のベルト式無段変速機の製造方法であって、
前記金属ベルトを、金属プレート素材を複数の微小凹凸が形成された金型で打ち抜いて得られる複数のエレメントを環状に連結して製造するとともに、
前記プーリを、熱処理された金属素材を鍛造によって所定の形状に成形する鍛造工程と、該鍛造工程によって成形された中間成形品に表面処理を施して該中間成形品の表面に多数の微小凹凸を形成する表面処理工程と、該表面処理工程によって形成された前記微小凹凸の凸部先端を研磨によって除去して該微小凹凸に平坦面を形成する研磨工程を経て製造するベルト式無段変速機の製造方法において、
前記プーリは、前記金型の摩耗の進行に伴って、製造した前記金属ベルトとの接触面積が大きくなるほど、当該金属ベルトとの接触面の表面粗さが大きくなるように製造する
ことを特徴とするベルト式無段変速機の製造方法。
【請求項2】
前記プーリの前記表面粗さは、径方向外方に向かって大きくする
ことを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機の製造方法。
【請求項3】
前記プーリの前記金属ベルトとの円錐状の接触面を、境界線を境として内径側を平坦な傾斜面、外径側を凸曲面とする複合面とし、
該複合面の内径側の前記傾斜面と外径側の前記凸曲面の各表面粗さを径方向外方に向かって大きくするとともに、外径側の前記凸曲面の前記境界線における表面粗さを内径側の前記傾斜面の前記境界線における表面粗さよりも小さくする
ことを特徴とする請求項1または2に記載のベルト式無段変速機の製造方法。
【請求項4】
前記金型が劣化するほど、前記プーリの製造における前記研磨工程の時間を短縮するようにする
ことを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のベルト式無段変速機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対のプーリの間に無端状の金属ベルトを巻き掛けて構成されるベルト式無段変速機及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車以外の機構を用いて変速比(レシオ)を連続的に変化させる無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)は、車両等の変速手段として用いられている。例えば、車両にはベルト式無段変速機(ベルト式CVT)が用いられる場合がある。このベルト式無段変速機は、駆動側のドライブプーリと従動側のドリブンプーリとの間に無端状の金属ベルトを巻き掛けて構成されており、ドライブプーリとドリブンプーリに油圧によって作用する軸方向の推力を調整することによって、これらのドライブプーリとドリブンブーリへの金属ベルトの巻き掛け径を変化させて変速比を連続的に変化させるものである。
【0003】
このようなベルト式無段変速機においては、ドライブプーリ及びドリブンプーリ(以下、単に「プーリ」と称する)と金属ベルトとの接触面における摩擦力によって動力が伝達される。したがって、プーリと金属ベルトとの接触面には所要の摩擦力が発生する必要があり、そのためにプーリの金属ベルトとの接触面には適当な表面粗さとなるような研磨加工が施されている。
【0004】
また、プーリと金属ベルトとの間には、焼き付き防止や冷却のために潤滑油が供給されるが、この潤滑油が多過ぎるとプーリと金属ベルト間にスリップが発生して動力伝達効率の低下を招くため、余分な潤滑油を効率良く排出する必要がある。そして、高い耐久寿命を確保する観点から、プーリと金属ベルトとの接触面には高い耐磨耗性が要求される。
【0005】
そこで、特許文献1,2には、プーリの金属ベルトとの接触面に多数の微小凹凸を形成し、この微小凹凸の先端部を研磨して平坦面とする技術が提案されている。また、特許文献3には、プーリの金属ベルトとの接触面に切削加工によって螺旋状の溝部を形成した後に仕上げ研磨を行う技術が提案されている。
【0006】
さらに、特許文献4には、金属ベルトを構成する多数のエレメントまたはプーリのエレメントとの接触面に、互いに交差し、且つ、幅と深さとがほぼ同じ寸法となる複数の溝を設ける技術が提案され、特許文献5には、プーリの金属ベルトとの接触面の算術平均粗さと表面硬さをそれぞれ所定値以内とする技術も提案されている。
【0007】
また、特許文献6には、プーリの金属ベルトとの接触面に所要の摩擦係数と高い耐磨耗性や疲労強度を確保するために、プーリの接触面の表面から所定深さまでの領域に超音波ラッピング処理によって表面改質層を形成し、この表面改質層に所定の値(例えば、1200MPa)以上の残留応力を付与する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭60-109661号公報
【文献】特開平5-010405号公報
【文献】特許第2686973号公報
【文献】特開昭62-184270号公報
【文献】特開2000-130527号公報
【文献】特開2018-004036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、金属ベルトは、金属プレート素材を複数の微小凹凸が形成された金型で打ち抜いて得られる複数のエレメントを環状に連結して構成されている。そのため、各エレメントのプーリとの接触面には多数の微小凹凸が形成されるが、この微小凹凸の深さが浅くなり、各エレメントのプーリとの接触長さ(接触面積)は、金型の劣化と共に大きくなる。このため、金型の劣化と共に各エレメントのプーリとの接触面の面圧が低下する。
【0010】
他方、プーリは、熱処理された金属素材を鍛造によって所定の形状に成形する鍛造工程と、該鍛造工程によって成形された中間成形品に切削加工やショットブラストなどの表面処理を施して該中間成形品の表面に多数の微小凹凸を形成する表面処理工程と、該表面処理工程によって形成された前記微小凹凸の凸部先端を研磨によって除去して該微小凹凸に平坦面を形成する研磨工程を経て製造される。このため、プーリの金属ベルトとの接触面は、金属ベルトとの間に所定の摩擦力が得られる表面粗さとされている。
【0011】
しかしながら、前述のように金属ベルトの各エレメントの成形に用いられる金型の劣化に伴って各エレメントの接触面に形成される微小凹凸の深さが浅くなるため、各エレメントのプーリとの接触長さ(接触面積)が次第に大きくなる。そして、このように各エレメントのプーリとの接触面積が大きくなると、各エレメントのプーリとの接触面の面圧が金型の劣化と共に次第に低下する。
【0012】
したがって、プーリと金属ベルトとの接触面にスリップが発生しない程度の摩擦力を発生させるためには、金型の劣化に伴う接触面の面圧の低下に応じてプーリの接触面の表面粗さを変化させる必要がある。さもなければ、金型の劣化によってプーリと金属ベルトとの間にスリップが発生し、動力伝達効率の低下を招くという問題が発生する。
【0013】
上記問題を解決する方法として、金型を新しいものと頻繁に交換することが考えられるが、このように金型を新しいものと頻繁に交換すれば金型費が嵩み、製造コストの高騰を招くという問題が発生する。
【0014】
なお、前記特許文献1~6には、金属ベルトのエレメントの成形に用いられる金型の劣化に伴う問題を解決する技術についての開示はなされていない。
【0015】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたもので、その目的は、金属ベルトの成形に用いられる金型の劣化に応じてプーリの接触面の表面粗さを調整して該プーリと金属ベルト間に所定の摩擦力を確保することによって両者間のスリップの発生を防ぎ、高い動力伝達効率の確保と金型の耐久寿命の延長を図ることができるベルト式無段変速機及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明は、一対のプーリ(3,5)の間に無端状の金属ベルト(6)を巻き掛けて構成され、一方の前記プーリ(3)の回転を無段階に変速して他方の前記プーリ(5)へと伝達するベルト式無段変速機(1)であって、前記金属ベルト(6)の前記プーリ(3,5)との接触面積が大きいほど、前記プーリ(3,5)の前記金属ベルト(6)との接触面(3a,3b,5a,5b)の表面粗さを大きく設定したことを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、金属ベルトのエレメントのプーリとの接触面積が大きいほど、つまり、エレメントの成形に使用される金型の耐久による劣化によって該エレメントのプーリ面圧が低下するほど、プーリのエレメントとの接触面の表面粗さを大きく設定するようにしたため、次のような効果が得られる。すなわち、金型の劣化と共にプーリの接触面の表面粗さを大きくすると、該プーリとエレメントとの接触面の摩擦力が高められるため、金型の劣化によってエレメントのプーリ面圧が低下しても、金属ベルトのスリップの発生が防がれて高い動力伝達効率が確保され、一方のプーリから金属ベルトを経て他方のプーリへと動力が確実且つ効率良く伝達される。
【0018】
また、金型が劣化しても、プーリ側でその接触面の表面粗さを調整(粗さが大きくなる方向に調整)することによって、金型を新しいものと交換することなく同じ金型を引き続き使用することができるため、金型の耐久寿命を延長することができて経済的である。
【0019】
上記ベルト式無段変速機(1)において、前記プーリ(3,5)の前記金属ベルト(6)との接触面(3a,3b、5a,5b)の表面粗さを径方向外方に向かって大きく設定してもよい。
【0020】
さらに、前記ベルト式無段変速機(1)において、前記プーリ(3,5)の前記金属ベルト(6)との円錐状の接触面(3b)を、境界線(M1)を境として内径側を平坦な傾斜面(3b1)、外径側を凸曲面(3b2)とする複合面とし、該複合面の内径側の前記傾斜面(3b1)と外径側の前記凸曲面(3b2)の各表面粗さを径方向外方に向かって大きく設定するとともに、外径側の前記凸曲面(3b2)の前記境界線(M1)における表面粗さを内径側の前記傾斜面(3b1)の前記境界線(M1)における表面粗さよりも小さく設定してもよい。
【0021】
上記構成によれば、プーリと金属ベルトとの接触面に作用する面圧は、径方向外方に向かって小さくなるため、プーリの接触面の表面粗さを径方向外方に向かって大きく設定することによって、プーリと金属ベルトとの接触面に常に必要十分な摩擦力を発生させて金属ベルトのスリップを防ぐことができ、高い動力伝達効率を維持することができる。
【0022】
また、本発明は、前記金属ベルト(6)を、金属プレート素材を複数の微小凹凸が形成された金型で打ち抜いて得られる複数のエレメント(6A)を環状に連結して製造するとともに、前記プーリ(3,5)を、熱処理された金属素材を鍛造によって所定の形状に成形する鍛造工程と、該鍛造工程によって成形された中間成形品に表面処理を施して該中間成形品の表面に多数の微小凹凸(9)を形成する表面処理工程と、該表面処理工程によって形成された前記微小凹凸(9)の凸部先端を研磨によって除去して該微小凹凸(9)に平坦面(9a)を形成する研磨工程を経て製造するベルト式無段変速機(1)の製造方法において、前記金型が劣化するほど、前記プーリ(2,3)の製造における前記研磨工程の時間を短縮するようにしたことを特徴とする。
【0023】
本発明に係るベルト式無段変速機の製造方法によれば、金型の劣化が進むにしたがってプーリの製造における研磨工程の時間を短縮することによって該プーリの表面粗さを大きくすることができ、金型が劣化しても、プーリと金属ベルトとの間に必要十分な摩擦力を確保して金属ベルトのスリップの発生を防ぎ、高い動力伝達効率を確保することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、金属ベルトの成形に用いられる金型の劣化に応じてプーリの接触面の表面粗さを調整して該プーリと金属ベルト間に所定の摩擦力を確保することによって両者間のスリップの発生を防ぎ、高い動力伝達効率の確保と金型の耐久寿命の延長を図ることができるという効果が得られる。また、本発明は、金属ベルトのエレメントの接触面の大きさにより、プーリの表面粗さを的確に変化させることができるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係るベルト式無段変速機の基本構成を模式的に示す図である。
図2】本発明に係るベルト式無段変速機の金属ベルトの部分斜視図である。
図3】(a)は本発明に係るベルト式無段変速機の金属ベルトを構成するエレメント単体の斜視図、(b)は(a)のX部拡大詳細図である。
図4】ドライブプーリの接触面の形状と該接触面への金属ベルトの各レシオにおける当接位置を示す部分断面図である。
図5】(a)は表面処理(ショットブラスト)によってプーリ接触面に形成された微小凹凸を示す図、(b)は研磨(ラッピング)によって微小凹凸の凸部先端が除去された状態を示す図である。
図6】ドライブプーリの耐久前負荷特性を示す図である。
図7】劣化の程度が異なる金型A,B,Cによって成形されたエレメントのプーリ接触長さを示す部分断面図である。
図8】劣化の程度が異なる金型A,B,Cによって成形されたエレメントの摩耗量とプーリ接触長さとの関係を示す図である。
図9】プーリとエレメント間の面圧バランスを保つためのプーリ表面粗さとエレメントのプーリ接触長さとの関係を示す図である。
図10】劣化の程度が異なる金型A,B,Cを用いてエレメントを成形した場合のプーリの表面粗さの設定方法(耐久前負荷曲線の有効負荷粗さRkの選定方法)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0027】
[ベルト式無段変速機の構成と作用]
図1は本発明に係るベルト式無段変速機の基本構成を模式的に示す図、図2は同ベルト式無段変速機の金属ベルトの部分斜視図、図3(a)は同ベルト式無段変速機の金属ベルトを構成するエレメント単体の斜視図、図3(b)は図3(a)のX部拡大詳細図、図4はドライブプーリの接触面の形状と該接触面への金属ベルトの各レシオにおける当接位置を示す部分断面図である。
【0028】
図1に示すベルト式無段変速機1は、回転可能なドライブシャフト2上に設けられたドライブプーリ3と回転可能なドリブンシャフト4上に設けられたドリブンプーリ5との間に無端状の金属ベルト6を巻き掛けて構成されている。
【0029】
ここで、上記ドライブシャフト2とドリブンシャフト4は、互いに平行に配されており、ドライブプーリ3は、ドライブシャフト2に固定された固定シーブ(固定プーリ半体)3Aと、ドライブシャフト2に沿って軸方向(図1の左右方向)に摺動可能な可動シーブ(可動プーリ半体)3Bとを軸方向に対向配置して構成されている。そして、このドライブプーリ3の可動シーブ3Bの背面側には油室S1が形成されている。同様に、ドリブンプーリ5は、ドリブンシャフト4に固定された固定シーブ(固定プーリ半体)5Aと、ドリブンシャフト4に沿って軸方向に摺動可能な可動シーブ(可動プーリ半体)5Bとを軸方向に対向配置して構成されており、可動シーブ5Bの背面側には油室S2が形成されている。
【0030】
そして、ドライブプーリ3の可動シーブ3Bの背面側に形成された油室S1とドリブンプーリ5の可動シーブ5Bの背面側に形成された油室S2には、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)U1からの指令によって作動する油圧制御ユニットU2から延びる油路7,8がそれぞれ接続されている。
【0031】
ところで、ドライブプーリ3の固定シーブ3Aと可動シーブ3Bの軸方向に相対向する円錐状の斜面は、金属ベルト6との接触面3a,3bをそれぞれ構成しており、これらの接触面3a,3bの間にはV溝が形成されている。同様に、ドリブンプーリ5の固定シーブ5Aと可動シーブ5Bの軸方向に相対向する円錐状の斜面は、金属ベルト6との接触面5a,5bをそれぞれ構成しており、これらの接触面5a,5bの間にはV溝が形成されている。そして、ドライブプーリ3に形成されたV溝とドリブンプーリ5に形成されたV溝には、金属ベルト6が挟持された状態で巻き掛けられている。
【0032】
ここで、金属ベルト6は、図2に示すように、金属プレート製の複数のエレメント6Aを無端状の一対の金属製フープ6Bによって環状に連結して構成されており、各エレメント6Aは、図3(a)に示すような形状に成形されている。
【0033】
ところで、図4に示すように、例えば、ドライブプーリ3の可動シーブ3Bの円錐面状の接触面3bは、図示の境界線M1を境として内径側を傾斜角θの平坦な傾斜面3b1、外径側を極率半径rの凸曲面3b2とする複合面とされており、これに対応して金属ベルト6の各エレメント6Aの側面(可動シーブ3Bの接触面3bに接触する面)は、図3(b)に示すように、境界線M2を境として内径側を曲面6a、外径側を平坦な傾斜面6bとする複合面とされている。なお、図示しないが、ドライブプーリ3の固定シーブ3Aの接触面3aとドリブンプーリ5の固定シーブ5A及び可動シーブ5Bの各接触面5a,5bも複合面とされている。また、金属ベルト6の各エレメント6Aの他方の側面(図3(a)の左端面)も複合面とされている。
【0034】
以上のように構成されたベルト式無段変速機1において、例えば、エンジンや電動モータなどの駆動源の回転がドライブシャフト2に入力されて該ドライブシャフト2が回転駆動されると、このドライブシャフト2の回転は、ベルト式無段変速機1の作用によって無段階に変速されて金属ベルト6を介してドリブンシャフト4へと伝達され、このドリブンシャフト4が所定の速度で回転する。
【0035】
すなわち、ベルト式無段変速機1においては、ドライブプーリ3とドリブンプーリ5に設けられた各油室S1,S2内の油圧が、電子制御ユニット(ECU)U1からの指令によって作動する油圧制御ユニットU2によって制御されることによって変速比(レシオ)が無段階に調整される。具体的には、ドライブプーリ3の油室S1の油圧に対してドリブンプーリ5の油室S2の油圧を相対的に増加させれば、ドリブンプーリ5の可動シーブ5Bに軸方向に作用する推力(プーリ推力)がドライブプーリ3の可動シーブ3Bに軸方向に作用する推力(プーリ推力)よりも相対的に大きくなる。このため、ドリブンプーリ5の固定シーブ5Aと可動シーブ5B間のV溝幅が減少して金属ベルト6のドリブンプーリ5への巻き掛け径(有効半径)が増加する一方、ドライブプーリ3の固定シーブ3Aと可動シーブ3B間のV溝幅が増加して金属ベルト6のドライブプーリ3への巻き掛け径(有効半径)が減少するため、当該ベルト式無段変速機1の変速比(レシオ)が減速(LOW)方向に向かって無段階に変化する。なお、この状態では、金属ベルト6は、ドライブプーリ3の可動シーブ3Bの接触面3bにおいて例えば図4に破線にて示す位置にある。
【0036】
逆に、ドリブンプーリ5の油室S2の油圧に対してドライブプーリ3の油室S1の油圧を相対的に増加させれば、ドライブプーリ3の可動シーブ3Bに軸方向に作用する推力(プーリ推力)がドリブンプーリ5の可動シーブ5Bに軸方向に作用する推力(プーリ推力)よりも相対的に大きくなる。このため、ドライブプーリ3の固定シーブ3Aと可動シーブ3B間のV溝幅が減少して金属ベルト6のドライブプーリ3への巻き掛け径(有効半径)が増加する一方、ドリブンプーリ5の固定シーブ5Aと可動シーブ5B間のV溝幅が増加して金属ベルト6のドリブンプーリ5への巻き掛け径(有効半径)が減少するため、当該ベルト式無段変速機1の変速比(レシオ)が増速(HIGH)方向に向かって無段階に変化する。なお、この状態では、金属ベルト6は、ドライブプーリ3の可動シーブ3Bの接触面3bにおいて例えば図4に鎖線にて示す位置にある。また、図4に実線にて示す金属ベルト6の位置は、ベルト式無段変速機1が減速(LOW)と増速(HIGH)の中間にあるときの位置である。
【0037】
次に、以上のように構成されたベルト式無段変速機1の製造方法について説明する。
【0038】
[ベルト式無段変速機の製造方法]
<プーリの製造方法>
ベルト式無段変速機1を構成するドライブプーリ3とドリブンプーリ5(以下、これらを単に「プーリ3,5」と略称する)は、以下の鍛造工程と表面処理工程及び研磨工程を経て製造される。
【0039】
1)鍛造工程:
鍛造工程においては、焼き入れ・焼き戻しなどの熱処理が施されたSCM420~SCM435(JIS規格)の浸炭材または浸炭窒化材を鍛造によってプーリ3,5の固定シーブ3A,5Aと可動シーブ3B,5Bの形状に成形して中間成形品を得る。
【0040】
2)表面処理工程:
表面処理工程においては、前工程である前記鍛造工程において得られた固定シーブ3A,5Aと可動シーブ3B,5Bの各中間成形品の円錐面状の接触面(金属ベルト6との接触面)にショットブラストや切削加工などの表面処理を施すことによって、図5(a)に示すように、接触面に摩擦係数を調整するための高さ20μm以上の無数の微小凹凸9がランダムに形成される。
【0041】
上述のようにショットブラストや切削加工などの表面処理によって各中間成形品の接触面に無数の微小凹凸9を形成することによって該接触面の表面粗さが大きくなり、接触面の金属ベルト6との接触面圧が増えて摩擦係数が高められる。また、ショットブラストや切削加工などの表面処理によって各中間成形品の接触面が塑性変形し、加工硬化によって表面の硬度が高められるとともに、接触面の表面に残留応力が付与されるため、接触面の耐磨耗性が高められる。そして、無数の微小凹凸9によって接触面における排油性が高められ、接触面に潤滑油が多量に残留することによる金属ベルト6のスリップの発生が防がれる。
【0042】
3)研磨工程:
研磨工程においては、前工程である前記表面処理工程において中間成形品の接触面に形成された無数の微小凹凸9の凸部先端をラッピングなどの研磨処理によって除去し、図5(b)に示すように、微小凹凸9の凸部先端を平坦面9aとすることによって最終製品である固定シーブ3A,5Aと可動シーブ3B,5Bがそれぞれ製造される。
【0043】
表面処理工程において中間成形品の接触面に形成された微小凹凸9の凸部先端を研磨工程によって除去することによって、各凸部の先端に形成される平坦面9aの面積率(接触面の全表面積に占める平坦面9aの面積の割合)を所定の範囲内に設定することによって、接触面の摩耗が軽減されるとともに、大きな摩擦係数が得られ、二次摩耗による摩擦係数の低下が回避される。
【0044】
ここで、プーリ3,5の耐久前負荷特性を図6に示す。
【0045】
図6の横軸は負荷長さ率Mr(%)、縦軸は表面粗さR(μm)であり、図中のmは負荷曲線、縦軸上のRk(μm)は有効負荷粗さ(プーリ3,5の接触面3a,3b及び5a,5bが長期間の摩耗で使用することができなくなるまでの摩耗量(図5参照))、Rpk(μm)は微小凹凸9の凸部先端の研磨によるカット量(図5(a)参照)、Rvk(μm)は油溜り深さである。
【0046】
ここで、有効負荷粗さRkとカット量Rpk及び油溜り深さRvkの図6中での求め方について説明する。
【0047】
図6に示す負荷曲線m上の点で負荷長さ率Mrの差が40%になるような点a,bを通る直線(等価直線)nと負荷長さ率Mr=0%、100%との交点をそれぞれ点c,dとし、点c,dを通る切断レベルの線s,tと負荷曲線mとの交点を点e,fとし、負荷曲線mと負荷長さ率Mr=0%、100%との交点をそれぞれ点g,hとする。
【0048】
そして、線分cgと線分ce及び曲線egによって囲まれる領域の面積と三角形ceiの面積(図6に斜線にて示す領域の面積)とが等しくなるような負荷長さ率Mr=0%上の点iを求める。また、線分fdと線分dh及び曲線fhによって囲まれる領域の面積と三角形fdjの面積(図6に斜線にて示す領域の面積)とが等しくなるような負荷長さ率Mr=100%上の点jを求める。このとき、点cと点dとの切断レベルの差が有効負荷長さRk、線分cgの長さがカット量Rpk、線分djの長さが油溜り深さRvkとして求められる。
【0049】
<金属ベルトの製造方法>
金属ベルト6は、前述のように(図2参照)、複数のエレメント6Aを無端状の一対の金属製フープ6Bによって環状に連結して構成されているが、各エレメント6Aは、焼き入れ・焼き戻しなどの熱処理が施されたSUJ2(JIS規格)などの金属プレート素材を金型で打ち抜いて図3(a)に示すような形状に成形される。ここで、金型には、多数の微小凹凸が形成されており、この金型で金属プレート素材を打ち抜くことによって成形されるエレメント6Aの左右両側面(プーリ3,5との接触面)には、多数の微小凹凸が形成される。
【0050】
ところで、金型は、耐久によって摩耗が進むために経時的に劣化する。このため、金型に形成されている微小凹凸の凸部(山型の突起)10が図7に示すように摩耗によってその高さが次第に低くなる。すなわち、新しい金型Aに形成された凸部10の高さは高いが、耐久によって摩耗が進むと金型B→金型Cと凸部10の高さが次第に低くなる。
【0051】
したがって、新しい金型Aによってエレメント6Aに微小凹凸が形成される場合、エレメント6Aのプーリ接触長さ(プーリ3,5への接触長さ)LAは比較的短く、したがって、エレメント6Aのプーリ接触面積も比較的小さいために該エレメント6Aのプーリ面圧が比較的大きくなる。
【0052】
そして、金型の使用によって凸部10が摩耗してその高さが金型B→金型Cと次第に低くなると、金型Bによって成形されたエレメント6Aのプーリ接触長さLBは、金型Aによって成形されたエレメント6Aのプーリ接触長さLAよりも長くなり(LB>LA)、したがって、プーリ接触面積が大きくなって、その分だけプーリ面圧が金型Aによって成形されたエレメント6Aのプーリ面圧よりも小さくなる。
【0053】
同様に、使用によって最も劣化した金型Cによって成形されたエレメント6Aのプーリ接触長さLCは、金型Bによって成形されたエレメント6Aのプーリ接触長さLBよりも長くなり(LC>LB)、したがって、プーリ接触面積が大きくなって、その分だけプーリ面圧が金型Bによって成形されたエレメント6Aのプーリ面圧よりも小さくなる。すなわち、エレメント6Aのプーリ面圧は、金型A→金型B→金型Cによって成形されたエレメント6Aの順に次第に小さくなる。
【0054】
図8に金型A,B,Cによって成形されたエレメント6Aの摩耗量とプーリ接触長さとの関係を示す。金型A,B,Cによって成形されたエレメント6Aは、共に摩耗量が所定量Mで初期摩耗が終了し、その後は定常摩耗に移行する。この定常摩耗においては、同一摩耗量に対して金型A→金型B→金型Cによって成形されたエレメント6Aの順にプーリ接触長さが増加する。したがって、この順にプーリ面圧が低下する。
【0055】
[本発明の特徴]
前述のように、金属ベルト6の各エレメント6Aの成形に使用される金型が耐久によって劣化し、該金型によって成形されるエレメント6Aのプーリ接触長さ(接触面積)が次第に増加するために該エレメント6Aのプーリ面圧が経時的に低下すると、エレメント6Aとプーリ3,5との接触面3a,3b及び5a,5bにおける摩擦力が低下し、金属ベルト6にスリップが発生し、動力伝達効率の低下を招くことは前述の通りである。
【0056】
そこで、本実施の形態では、金属ベルト6のエレメント6Aのプーリ3,5との接触面積が大きいほど、つまり、エレメント6Aの成形に使用される金型の耐久による劣化によって該エレメント6Aのプーリ面圧が低下するほど、プーリ3,5のエレメント6Aとの接触面3a,3b及び5a,5bの表面粗さを大きく設定するようにした。このように、金型の劣化と共にプーリ3,5の接触面3a,3b及び5a,5bの表面粗さを大きくすると、該プーリ3,5とエレメント6Aとの間の摩擦力が高められるため、金型の劣化によってエレメント6Aのプーリ面圧が低下しても、金属ベルト6のスリップの発生が防がれて高い動力伝達効率が確保され、ドライブプーリ3から金属ベルト6を経てドリブンプーリ5へと動力が確実且つ効率良く伝達される。
【0057】
また、金型が劣化しても、プーリ3,5側でその接触面3a,3b及び5a,5bの表面粗さを調整(粗さが大きくなる方向に調整)することによって、金型を新しいものと交換することなく同じ該金型を引き続き使用することができるため、金型の耐久寿命を延長することができて経済的である。
【0058】
なお、プーリ3,5の接触面3a,3b及び5a,5bの表面粗さを大きくする具体的な方法としては、本実施の形態では、金型が劣化するほど、プーリ3,5の製造における研磨工程の時間を短縮するようにしている。このように、プーリ3,5の製造における研磨工程の時間を短縮すると、プーリ3,5の接触面3a,3b及び5a,5bにショットブラストや切削加工などの表面処理によって形成される微小凹凸9の凸部先端が次工程でのラッピングなどによる研磨によってカットされる量が少なくなって該プーリ3,5の接触面3a,3b及び5a,5bの表面粗さが大きくなる。
【0059】
ここで、図9にプーリ3,5と金属ベルト6との間において面圧バランスを保つためのプーリ3,5の接触面3a,3b及び5a,5bの表面粗さとエレメント6Aの接触長さ(面圧)との関係を示すが、同図から明らかなように、面圧バランスを保つためには、エレメント6Aのプーリ接触長さが長くなる(金型の劣化によってプーリ面圧が低下する)ほどプーリ3,5の接触面3a,3b及び5a,5bの表面粗さを大きくする必要がある。
【0060】
また、図10(a)~(c)に金型A,B,Cを用いてエレメント6Aを成形した場合のプーリ3,5の表面粗さの設定方法(耐久前負荷曲線の有効負荷粗さRkの選定方法)を示すが、図10(a)に示すように、新しくて劣化の少ない金型Aを用いてエレメント6Aを成形する場合には、プーリ3,5の表面粗さとして、耐久前負荷曲線中の実線にて示す等価曲線にて表示される比較的小さな有効負荷粗さRkを選定する。
【0061】
そして、図10(b)に示すように、劣化による摩耗が或る程度進んだ金型Bを用いてエレメント6Aを成形する場合には、プーリ3,5の表面粗さとして、耐久前負荷曲線中の実線にて示す等価曲線にて表示される図10(a)にて示す有効負荷粗さRkよりも大きな中程度の有効負荷粗さRkを選定する。
【0062】
その後、図10(c)に示すように、劣化による摩耗が相当程度進んだ金型Cを用いてエレメント6Aを成形する場合には、プーリ3,5の表面粗さとして、耐久前負荷曲線中の実線にて示す等価曲線にて表示される図10(b)にて示す有効負荷粗さRkよりも大きな有効負荷粗さRkを選定する。
【0063】
ところで、プーリ3,5と金属ベルト6との間に作用する面圧は、径方向外方に向かって小さくなるため、プーリ3,5の接触面3a,3b及び5a,5bの表面粗さを径方向外方に向かって大きく設定することが望ましい。このようにすることによって、プーリ3,5と金属ベルト6との接触面3a,3b及び5a,5bに常に必要十分な摩擦力を発生させて金属ベルト6のスリップを防ぐことができ、高い動力伝達効率を確保することができる。
【0064】
また、本実施の形態のように、プーリ3,5の接触面3a,3b及び5a,5bが複合面で構成されて場合には、例えば、ドライブプーリ3については、複合面の内径側の傾斜面3b1と外径側の凸曲面3b2(図4参照)の各表面粗さを径方向外方に向かって大きく設定するとともに、外径側の凸曲面3b2の境界線M1における表面粗さを内径側の傾斜面3b1の境界線M1における表面粗さよりも小さく設定することが望ましい。このようにすることによって、プーリ3,5と金属ベルト6との接触面3a,3b及び5a,5bに常に必要十分な摩擦力を発生させて金属ベルト6のスリップを防ぎ、高い動力伝達効率を維持することができる。
【0065】
なお、本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 ベルト式無段変速機
3 ドライブプーリ
3A ドライブプーリの固定シーブ
3B ドライブプーリの可動シーブ
3a,3b ドライブプーリの接触面
3b1 ドライブプーリの傾斜面
3b2 ドライブプーリの凸曲面
5 ドリブンプーリ
5A ドリブンプーリの固定シーブ
5B ドリブンプーリの可動シーブ
5a,5b ドリブンプーリの接触面
6 金属ベルト
6A 金属ベルトのエレメント
9 プーリの微小凹凸
9a 微小凹凸の平坦面
10 金型の微小凹凸の凸部
LA~LC エレメントの接触長さ
M1,M2 境界線
Rk 有効負荷粗さ
Rpk カット量
Rvk 油溜り深さ
S1,S2 油室
U1 電子制御ユニット
U2 油圧制御ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10