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特許7398294ポリアミド系樹脂発泡粒子、ポリアミド系樹脂発泡粒子成形体およびポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法
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  • 特許-ポリアミド系樹脂発泡粒子、ポリアミド系樹脂発泡粒子成形体およびポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】ポリアミド系樹脂発泡粒子、ポリアミド系樹脂発泡粒子成形体およびポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/18 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
C08J9/18 CFG
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020025728
(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公開番号】P2021130755
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100123009
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】林 達也
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/50301(WO,A1)
【文献】特開2016-188342(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052387(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/147582(WO,A1)
【文献】特開2018-044127(JP,A)
【文献】国際公開第2020/031803(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/009094(WO,A1)
【文献】特開2021-130754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J9/00-9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系樹脂を基材樹脂とするポリアミド系樹脂発泡粒子であって、
該発泡粒子は、下記の条件1にて得られるDSC曲線において、ポリアミド系樹脂に固有の融解ピーク(固有ピーク)と、該固有ピークの頂点温度よりも高温側に頂点温度を有する融解ピーク(高温ピーク)とが現れる結晶構造を有し、
該高温ピークの融解熱量が5J/g以上50J/g以下の範囲であるとともに、該高温ピークの融解熱量の変動係数が20%以下である
ことを特徴とするポリアミド系樹脂発泡粒子。
(条件1)
JIS K7122-1987の熱流束示差走査熱量測定法に基づき、ポリアミド系樹脂発泡粒子を試験片とし、加熱速度10℃/分にて30℃から融解ピーク終了時よりも30℃高い温度まで加熱溶融させ、前記DSC曲線を得る。
【請求項2】
前記ポリアミド系樹脂は、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物及びエポキシ化合物から選択される1種以上の化合物で改質された変性ポリアミド系樹脂である請求項1に記載のポリアミド系樹脂発泡粒子。
【請求項3】
前記ポリアミド系樹脂発泡粒子の独立気泡率が85%以上である請求項1または2に記載のポリアミド系樹脂発泡粒子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリアミド系樹脂発泡粒子を型内成形してなる、ポリアミド系樹脂発泡粒子成形体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法であって、
密閉容器内で、水性分散媒にポリアミド系樹脂粒子を分散させる分散工程と、
ポリアミド系樹脂粒子に、発泡剤を含有させる発泡剤付与工程と、
水性分散媒中に分散しているポリアミド系樹脂粒子を加熱して高温ピークを形成する結晶化処理工程と、
前記発泡剤を含む前記ポリアミド系樹脂粒子を水性分散媒とともに、前記密閉容器から当該密閉容器内の圧力よりも低い圧力下に放出して発泡させる発泡工程と、を含み、
前記発泡工程において、前記発泡剤を含む前記ポリアミド系樹脂粒子が前記密閉容器から放出されている時、当該密閉容器内の温度を10分あたり0.3℃以上1.5℃以下昇温させる昇温調整を実施することを特徴とするポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項6】
前記ポリアミド系樹脂粒子が、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物及びエポキシ化合物から選択される1種以上の化合物で改質された変性ポリアミド系樹脂を基材樹脂とする請求項5に記載のポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項7】
前記結晶化処理工程において、ポリアミド系樹脂の固有の融点(Tm)よりも90℃低い温度(Tm-90℃)以上50℃低い温度(Tm-50℃)未満で、1分以上60分以下保持することにより高温ピークを形成する請求項5または6に記載のポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド系樹脂発泡粒子、ポリアミド系樹脂発泡粒子成形体およびポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用部品に適用される材料には、高強度、高靭性であること等が求められる。また、燃料コスト低減の観点から車両用部品に適用される材料には、軽量であることも求められる。そのような求めに応じるために、車両用部品に適用される材料では、金属から樹脂材料への代替が検討されている。ポリアミド系樹脂は、一般的な樹脂材料の中では耐熱性が高く、また耐摩耗性、耐薬品性等にも優れた樹脂として知られている。このポリアミド系樹脂を発泡させた発泡成形体は、それらの優れた特性を保ちつつ、より軽量化を図ることが可能である。そのため、ポリアミド系樹脂発泡成形体は、自動車部品その他の用途への展開が期待される。
【0003】
たとえば、特許文献1には、ポリアミド系予備発泡粒子の発明(以下、従来粒子1ともいう)が提案されている。また、同文献において、ポリアミド系樹脂粒子、揮発性発泡剤及び水等の分散媒を密閉容器内に入れ、容器内の温度をポリアミド系樹脂粒子の融点より50℃低い温度から、当該融点より50℃の高い温度範囲に保持しながら容器の一端を解放し、発泡剤を含む粒子を低圧雰囲下に取り出して発泡させて従来粒子1を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】昭61-268737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法によって得られたポリアミド系樹脂発泡粒子は、成形性が充分でないことがわかった。
【0006】
本発明は、上記背景に鑑みなされたものであって、従来よりも成形性に優れたポリアミド系樹脂発泡粒子、上記ポリアミド系樹脂発泡粒子を用いて成形されたポリアミド系樹脂発泡粒子成形体、および上記ポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法の提供に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子は、ポリアミド系樹脂を基材樹脂とするポリアミド系樹脂発泡粒子であって、該発泡粒子は、下記の条件1にて得られるDSC曲線において、ポリアミド系樹脂に固有の融解ピーク(固有ピーク)と、該固有ピークの頂点温度よりも高温側に頂点温度を有する融解ピーク(高温ピーク)とが現れる結晶構造を有し、該高温ピークの融解熱量が5J/g以上50J/g以下の範囲であるとともに、該高温ピークの融解熱量の変動係数が20%以下であることを特徴とする。
(条件1)
JIS K7122-1987の熱流束示差走査熱量測定法に基づき、ポリアミド系樹脂発泡粒子を試験片とし、加熱速度10℃/分にて30℃から融解ピーク終了時よりも30℃高い温度まで加熱溶融させ、上記DSC曲線を得る。
【0008】
本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子成形体は、本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子を型内成形して得られる。
【0009】
本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法は、本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法であって、密閉容器内で、水性分散媒にポリアミド系樹脂粒子を分散させる分散工程と、ポリアミド系樹脂粒子に、発泡剤を含有させる発泡剤付与工程と、水性分散媒中に分散しているポリアミド系樹脂粒子を加熱して高温ピークを形成する結晶化処理工程と、前記発泡剤を含むポリアミド系樹脂粒子を、前記密閉容器から水性分散媒とともに、当該密閉容器内の圧力よりも低い圧力下に放出して発泡させる発泡工程と、を含み、前記発泡工程において、前記発泡剤を含むポリアミド系樹脂粒子が前記密閉容器から放出されている時、当該密閉容器内の温度を10分あたり0.3℃以上1.5℃以下昇温させる昇温調整を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子は、所定の条件(上記条件1)にて得られるDSC曲線において、固有ピークと、上記固有ピークの頂点温度より高温側に頂点温度を有する高温ピークとが現れる結晶構造を有し、上記高温ピークの融解熱量が5J/g以上50J/g以下であることで、良好な成形性を示す発泡粒子成形体を提供可能である。
かかる高温ピークを有する本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子は、該高温ピークの融解熱量の変動係数が20%以下である。これによって、発泡粒子成形体のさらなる成形性の向上が可能となる。具体的には、本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子は、型内成形において二次発泡性の均一性に優れるとともに、粒子間の融着性の均一性にも優れる。そのため、より成形性に優れた発泡粒子成形体を提供可能であり、またこれにより得られた発泡粒子成形体は圧縮時の初期弾性に優れる。
【0011】
したがって、上述する本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子の型内成形物である本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子成形体は、圧縮時の初期弾性に優れる。
【0012】
また、本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子成形体の製造方法は、上述する本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子を容易に製造することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子の熱流束示差走査熱量測定法に基づき測定されたDSC曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子、ポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法(以下、本発明の製造方法ともいう)、およびポリアミド系樹脂発泡粒子成形体(以下、本発明の発泡粒子成形体ともいう)について順に説明する。以下の説明において重複する用語、測定方法、使用する材料などの技術内容は、適宜、それぞれの記載を参照することができる。
尚、以下の説明において、適宜、本発明の好ましい数値範囲を示す場合がある。この場合に、数値範囲の上限および下限に関する好ましい範囲、より好ましい範囲、特に好ましい範囲は、上限および下限のすべての組み合わせから決定することができる。
【0015】
本発明は、ポリアミド系樹脂特有の性質が充分に検討され、なされたものである。即ち、上述するとおり、ポリアミド系樹脂は、強度や耐熱性に優れ、発泡粒子成形体の原料として種々の分野への展開が期待される材料である。しかし実際には、発泡粒子成形体の分野において、ポリプロピレン系樹脂などが汎用されるのに比べ、ポリアミド系樹脂は利用度が顕著に低い。その要因として、ポリアミド系樹脂特有の性質により、他の樹脂を用いた発泡粒子成形体に関する技術が適用し難いという点が考えられる。ポリプロピレン系樹脂に比べて、ポリアミド系樹脂は、加熱時の結晶化速度が遅く、かつ吸水性が高いという特徴がある。本発明者らはこれらの特徴によりポリアミド系樹脂が、ポリプロピレン系樹脂よりも良好な発泡粒子成形体を得ることを困難なものにしていることを見出し、鋭意検討の末、本発明の完成に至ったものである。以下に、本発明の詳細を説明する。
【0016】
[1]ポリアミド系樹脂発泡粒子
本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子は、ポリアミド系樹脂を基材樹脂とし、下記条件1にて得られるDSC曲線において、ポリアミド系樹脂に固有の融解ピーク(固有ピーク)と、該固有ピークの頂点温度よりも高温側に頂点温度を有する融解ピーク(高温ピーク)とが現れる結晶構造を有する。
(条件1)
JIS K7122-1987の熱流束示差走査熱量測定法に基づき、ポリアミド系樹脂発泡粒子を試験片とし、加熱速度10℃/分にて30℃から融解ピーク終了時よりも30℃高い温度まで加熱溶融させ、上記DSC曲線を得る。
【0017】
本明細書において、DSC曲線の測定には、以下に示す状態調節を行った試験片を用いる。まず、得られたポリアミド系樹脂発泡粒子を24時間以上温度60℃の環境下に置き、その後、室温(23℃)まで徐冷する。次に、温度23℃、相対湿度50%の環境下で24時間以上静置することにより状態調節を行う。上記DSC測定の試験片としてはこのように状態調節された発泡粒子1~3mgを用いる。発泡粒子1個当たりの質量が1mg未満の場合は、総質量が1~3mgとなる複数個の発泡粒子をそのまま測定に使用すればよく、また、発泡粒子1個当たりの質量が1~3mgの場合には、発泡粒子1個をそのまま測定に使用すればよく、また、発泡粒子1個当たりの質量が3mgを超える場合には、1個の発泡粒子を切断して得た質量が1~3mgとなる切断試料1個を測定に使用すればよい。測定装置として、たとえば高感度型示差走査熱量計「EXSTAR DSC7020」(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)などを使用することができる。
【0018】
本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子は、上記高温ピークの融解熱量が5J/g以上50J/g以下の範囲であるとともに上記高温ピークの融解熱量の変動係数が20%以下に調整される。
【0019】
かかる構成を備える本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子は、成形性の良好な発泡粒子成形体を提供可能であり、特に、二次発泡性の均一性および融着性の均一性に優れており、さらに圧縮時の初期弾性に優れた発泡粒子成形体を提供可能である。尚、本発明に関し、二次発泡とは、製造された発泡粒子を用い、型内成形を行う際、当該発泡粒子が二次的に発泡することを意味する。
【0020】
図1に本発明の一実施形態であるポリアミド系樹脂発泡粒子の、条件1で得られたDSC曲線を示す。図1に示すとおり、本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子は、熱流束示差走査熱量測定法に基づき測定されたDSC曲線における融解ピークとして、固有ピークaだけでなく、当該固有ピークaの頂点温度よりも高温側に頂点温度を有する高温ピークbを示す。図1では高温ピークbは1つであるが、高温ピークbは、条件1の範囲において2以上のピークであってもよい。
かかる高温ピークbの融解熱量は、5J/g以上50J/g以下である。高温ピークbが2以上のピークである場合には、それらの各ピークの融解熱量の合計が、5J/g以上50J/g以下となるように調整される。かかる範囲の融解熱量を示す高温ピークbを備えるポリアミド系樹脂発泡粒子は、型内成形する際に成形性に優れる。上記観点から、融解熱量は、6J/g以上であることが好ましく、7J/g以上であることがより好ましい。また、上記観点から融解熱量は、25J/g以下であることが好ましく、20J/g以下であることがより好ましい。
【0021】
ポリアミド系樹脂発泡粒子の高温ピークの融解熱量(吸熱エネルギー)は、例えば図1に示すDSC曲線において、固有ピークaの頂点温度よりも高温側に頂点温度を有する高温ピークbの面積に相当し、次のようにして求めることができる。まず図1に示すようにDSC曲線上の150℃の点Iと、DSC曲線上の融解ピーク終了時の温度を示す点IIとを結ぶ直線を引く。次に固有ピークa(ポリアミド系樹脂に固有の融解ピーク)と高温ピークb(固有ピークaの頂点温度よりも高温側に頂点温度を有する融解ピーク)との間の谷部にあたるDSC曲線上の点IIIを通りグラフ横軸の温度に対して垂直な直線と、点Iと点IIとを結んだ直線との交点を点IVとする。このようにして求めた点IVと点IIとを結ぶ直線、点IIIと点IVを結ぶ直線及び点IIIと点IIを結ぶDSC曲線によって囲まれる部分(斜線部分)の面積が高温ピークの吸熱エネルギーに相当する。上記高温ピークbは、上記のようにして1回目のDSC曲線を求めた後、次いで融解ピーク終了時よりも30℃高い温度にて10分間保った後、冷却速度10℃/分にて30℃まで冷却し、再度、加熱速度10℃/分で融解ピーク終了時よりも30℃高い温度まで加熱する際に測定される2回目のDSC曲線には現れない。しかし、固有ピークaは、1回目のDSC曲線にも2回目のDSC曲線にも現れる。発泡粒子の1回目のDSC曲線に高温ピークbが現れる現象は、樹脂粒子を発泡させて発泡粒子を得るまでの熱履歴により形成される二次結晶に起因するものである。また、1回目のDSC曲線において、高温ピークbが2つ以上現れる場合には、該高温ピークbの融解熱量は、全ての高温ピークbの合計熱量を意味する。なお、DSC曲線上の融解ピーク終了時の温度とは、最も高温側の高温ピークbの融解ピーク終了時の温度をいう。
尚、2回目のDSC曲線は、後述する条件2により得られる。
【0022】
固有ピークは、発泡粒子の原料として用いられるポリアミド系樹脂に固有の結晶構造に起因する融解ピークである。一方、高温ピークは、樹脂粒子を発泡させて発泡粒子を得るまでの熱履歴により形成される二次結晶に起因する融解ピークである。固有ピークの頂点温度と高温ピークの頂点温度との差は、好ましくは10℃以上であり、より好ましくは12℃以上であり、さらに好ましくは15℃以上である。一方、固有ピークの頂点温度と高温ピークの頂点温度との差は、好ましくは40℃以下であり、より好ましくは30℃以下であり、さらに好ましくは25℃以下である。尚、固有ピークと高温ピークの頂点温度の差の比較において、1回目のDSC曲線において、高温ピークが2つ以上現れる場合には、最も低温側の高温ピークの頂点温度と固有ピークの頂点温度とを比較する。
【0023】
ポリアミド系樹脂を用いて発泡粒子を製造する際には、発泡前のポリアミド系樹脂に対する加熱条件を適宜に設定するなどして、上述する固定ピークおよび高温ピークを示す特徴的な結晶構造を有するポリアミド系樹脂発泡粒子を製造することができる。
【0024】
尚、上述する条件1に基づき、試験片を、加熱速度10℃/分にて30℃から融解ピーク終了時よりも30℃高い温度まで加熱し、上記DSC曲線を測定した後、下記条件2により2回目のDSC曲線を得ることができる。
(条件2)
上述の条件1のとおり1回目のDSC曲線を得た後、試験片を、その温度にて10分間保ち、次いで冷却速度10℃/分にて30℃まで冷却し、再度、加熱速度10℃/分にて融解ピーク終了時よりも30℃高い温度まで加熱溶融させ、2回目のDSC曲線を得る。
【0025】
2回目のDSC曲線には、固有ピーク(2回目固有ピーク)しか示されず、高温ピークは示されない。上記2回目のDSC曲線の固有ピークの頂点温度はポリアミド系樹脂発泡粒子を製造するための原料であるポリアミド系樹脂の固有の融点に相当する。固有ピ-クは1回目のDSC曲線にも2回目のDSC曲線にも現われ、固有ピ-クの頂点温度は、1回目と2回目で多少異なる場合があるが、その差は5℃以下、通常は2℃以下である。なお、2回目のDSC曲線で示された固有ピークの頂点温度よりも、1回目のDSC曲線で示された高温ピークの頂点温度は、高温側に位置する。
【0026】
ところで、発泡粒子を商業的に使用する場合には、量産性が求められる。発泡粒子を量産するためには、容積の大きい密閉容器の使用が一般的である。上記密閉容器の容積は特に限定されないが、例えば400L~5000L程度である。このような大容量の密閉容器を用いて製造されたポリアミド系樹脂発泡粒子を用いて発泡粒子成形体を製造した場合、成形性の良好な発泡粒子成形体が得られ難い場合があった。特に、型内成形時におけるアミド系樹脂発泡粒子の二次発泡性の均一性および粒子間の融着性の均一性、並びに得られた発泡粒子成形体の圧縮時の初期弾性に関し改善する余地があることがわかった。
【0027】
かかる問題について検討したところ、特に密閉容器の容量が大きくなり、発泡工程における発泡粒子の放出時間が長くなることで、発泡工程の前半に放出されたポリアミド系樹脂発泡粒子と、発泡工程の後半に放出されたポリアミド系樹脂発泡粒子とでは、結晶性の差異が大きいことがわかった。かかる知見から、本発明は、一連の発泡工程において放出されたポリアミド系樹脂発泡粒子の結晶性に大きな差異が生じないよう、上記高温ピークの融解熱量の変動係数を20%以下に留めるものである。これによって、本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子は、上記二次発泡性の均一性、融着性の均一性、および圧縮時の初期弾性が向上した発泡粒子成形体を提供することができる。上記変動係数は、15%以下であることが好ましく、9%以下であることがより好ましく、6%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子は、高温ピークの融解熱量の変動係数が小さいため、型内成形する際、二次発泡性の均一性及び融着性の均一性に優れる。その結果、広い成形範囲で良好な成形体を得ることが可能である。特にポリアミド系樹脂は、ポリプロピレン系樹脂に比べて水蒸気の透過性が非常に高い性質があるため、スチームを用いた型内成形時に二次発泡力が弱い傾向がある。よって、ポリアミド系樹脂発泡粒子の型内成形性を向上させるためには、発泡粒子の高温ピークの融解熱量の変動係数を小さく抑えることが重要となる。
【0029】
本発明に関し、高温ピークの融解熱量の変動係数Cは、以下の式(1)、式(2)より求められる。
【数1】
【数2】
発泡工程開始時間から発泡工程終了時間までに得られたポリアミド系樹脂発泡粒子から50個以上を採取し、これらをサンプルとして、式(1)、式(2)より、高温ピークの融解熱量の変動係数Cを求める。またTavは、上記50個以上のサンプルの融解熱量の算術平均値を示す。nはサンプル数を示す。
【0030】
本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子は、発泡粒子間の融解熱量の差が小さいことが好ましい。具体的には、前記にて採取した発泡粒子内で、最も大きい高温ピークの融解熱量のものと最も小さい高温ピークの融解熱量のものとの融解熱量の差は、5J/g以下であることが好ましく、3J/g以下であることがより好ましく、2J/g以下であることがさらに好ましい。
【0031】
本発明において、ポリアミド系樹脂は、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物及びエポキシ化合物から選択される1種以上の化合物(以下、改質剤ともいう)で改質された変性ポリアミド系樹脂であることが好ましい。上記化合物で改質されることにより、ポリアミド系樹脂の分子鎖末端の一部または全てが封鎖される。改質剤として、上記化合物の中でも、カルボジイミド化合物が好ましい。具体的には、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド(例えば、ラインケミー社製「Stabaxol 1-LF」)等の芳香族モノカルボジイミド、芳香族ポリカルボジイミド(例えば、ラインケミー社製「Stabaxol P」、「Stabaxol P100」、「Stabaxol P400」等)、ポリ(4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)等の脂肪族ポリカルボジイミド(例えば、日清紡ケミカル(株)製「カルボジライトLA-1」)等が挙げられる。
【0032】
カルボジイミド化合物の中でも、上記芳香族ポリカルボジイミド及び上記脂肪族ポリカルボジイミドなどのポリマータイプであることが好ましい。ポリマータイプのカルボジイミド化合物であれば、例えば、ポリアミド系樹脂を押出機中で改質する場合に、カルボジイミド化合物がポリアミド系樹脂を改質する前に揮発することを防止できる。なお、ポリマータイプのカルボジイミド化合物とは、数平均分子量が概ね1000以上であるものをいう。また、カルボジイミド化合物の中でも、上記芳香族ポリカルボジイミド及び上記脂肪族ポリカルボジイミドなどの多官能タイプのカルボジイミド化合物であることが好ましい。これらの改質剤は単独で使用してもよく、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
上記改質剤による改質されたポリアミド樹脂とは、分子鎖末端の官能基が、上記改質剤で封鎖された樹脂を指す。改質されたポリアミド系樹脂は、加水分解がより抑制される。これにより、型内成形に耐えうるポリアミド系樹脂発泡粒子が得られやすくなる。ポリアミド系樹脂の分子鎖の末端基が改質剤により封鎖されている割合(末端封鎖率)としては、加水分解を抑制する観点から50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。上記末端封鎖率の測定は、以下のようにして求められる。ポリアミド系樹脂の数平均絶対分子量(Mn)をGPC-MALS等で測定し、分子鎖末端基総数(eq/g)=2/Mnの関係式を用いて分子鎖末端基総数を算出する。滴定により当該ポリアミド系樹脂のカルボキシル基末端の数(eq/g)[ポリアミドのベンジルアルコール溶液を0.1N水酸化ナトリウムで滴定]及びアミノ基末端の数(eq/g)[ポリアミドのフェノール溶液を0.1N塩酸で滴定]を測定し、下記式(3)により、末端封止率を求めることができる。
【数3】
前記式(3)中、Aは分子鎖末端基総数(これは通常、ポリアミド分子の数の2倍に等しい)を表し、Bは封鎖されずに残ったカルボキシル基末端およびアミノ基末端の合計数を表す。
【0034】
ポリアミド系樹脂が、上記変性ポリアミド系樹脂であると発泡工程において二次結晶化の進行がより抑制されると考えられる。そのため、発泡工程が長時間になった場合であっても、発泡粒子の結晶性との差異をより小さく抑え得る。尚、ここでいう発泡工程における二次結晶化とは、発泡工程前において結晶化処理工程などにより結晶化されたポリアミド系樹脂が、さらに発泡工程において結晶化することを指す。
【0035】
上記変性ポリアミド系樹脂であると発泡工程における二次結晶化の進行がより抑制される理由は明らかになっていないが、以下の理由が考えられる。
1つは、改質剤によりポリアミド系樹脂に分岐鎖が導入されていることが理由であると考えられる。例えば、多官能タイプからなる改質剤でポリアミド系樹脂に分子鎖が導入されたポリアミド系樹脂粒子は、分岐鎖の導入により結晶化過程における分子鎖の運動を妨げ、発泡工程における加熱条件下での結晶化の進行が抑制されると考えられる。
また、2つ目としては、改質剤によりポリアミド系樹脂が高分子量化することが理由であると考えられる。例えば、2官能タイプの改質剤では、ポリアミド系樹脂の分子鎖末端同士が改質剤を介して結合するため分子量が大きくなる。また、分子量が大きい改質剤でポリアミド系樹脂を改質することにより改質剤の分子量の分だけ分子量が大きなポリアミド系樹脂となる。上記改質剤で封鎖されたポリアミド系樹脂粒子は、高分子量のポリアミド系樹脂の比率が増えるため、発泡工程における加熱下で結晶化の進行が抑制されると考えられる。
【0036】
なお、ポリアミド系樹脂の結晶化の速さは、半結晶化時間で評価することができる。ポリアミド系樹脂の半結晶化時間は、ポリアミド系樹脂発泡粒子の融点-20℃の条件における半結晶化の時間から求めることができる。半結晶化時間は、たとえば、ホモポリマーからなるポリアミドの場合には、280秒以上であることが好ましく、290秒以上であることが好ましい。また、ポリアミド共重合体からなるポリアミドの場合には、350秒以上であることが好ましく、400秒以上であることがより好ましい。なお、ポリアミド系樹脂発泡粒子の融点は、上記条件2の2回目固有ピークの頂点温度から求められる。
半結晶化時間は、ポリアミド系樹脂発泡粒子を構成するポリアミド系樹脂の融点よりも高い温度で10分以上加熱プレスして0.1mm程度のフィルム状とし、このフィルム状の試料を保持した支持体を、上記結晶化温度に保持されたオイルバス中に浸漬して試料の結晶化に伴い増加する透過光を測定し、アブラミ式から半結晶化時間を算出することができる。測定装置として、例えば、コタキ製作所製の結晶化速度測定器(MK-801)を用いることができる。上記半結晶化時間の測定は、ポリアミド系樹脂に固有の結晶構造に起因する結晶化速度を求めるものである。ポリアミド系樹脂に固有の結晶構造に起因する結晶化速度が遅いということは、発泡粒子を得る際の熱履歴により形成される二次結晶に起因する結晶構造の結晶化速度も遅くなると考えられる。よって、上記半結晶化時間から、ポリアミド系樹脂発泡粒子の製造に起因する結晶構造の結晶化の進行抑制の程度を予測することが可能である。
【0037】
改質によって、ポリアミド系樹脂に分岐鎖が導入されていることを確かめる方法としては、例えば、ポリアミド系樹脂の収縮因子から確認することができる。一般的に、分岐を有する樹脂は、同一の絶対分子量である直鎖状の樹脂と比較した場合に、分子の大きさが小さくなる傾向にある。収縮因子は、想定上同一の絶対分子量である直鎖状重合体に対する、分子の占める大きさの比率の指標である。すなわち、樹脂の分岐度が大きくなれば、収縮因子は小さくなる傾向にある。このことから、収縮因子が1.0未満のポリアミド系樹脂である場合、分岐状ポリアミド系樹脂であることがわかる。上記収縮因子を求める方法としては、例えば、GPC-MALS法を採用することができる。
【0038】
ポリアミド系樹脂発泡粒子の独立気泡率は、85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。上記独立気泡率は、基材樹脂のポリアミド系樹脂として変性ポリアミド系樹脂を用いることにより向上させることができる。上記範囲の独立気泡率を満たす発泡粒子は、発泡粒子成形体の成形性が特に良好なものとなる。上記独立気泡率は、発泡粒子中の全気泡の容積に対する独立気泡の容積の割合であり、ASTM-D2856-70に基づき空気比較式比重計を用いて求めることができる。
【0039】
ポリアミド系樹脂発泡粒子の見掛け密度は、10kg/m3以上であることが好ましく、30kg/m3以上であることがより好ましく、50kg/m3以上であることがさらに好ましい。そして、ポリアミド系樹脂発泡粒子の見掛け密度は、300kg/m3以下であることが好ましく、250kg/m3以下であることがより好ましく、200kg/m3以下であることが更に好ましく、150kg/m3以下であることがより更に好ましい。発泡粒子の見掛け密度が上記範囲であれば、発泡粒子や発泡粒子からなる成形体が過度に収縮することを抑制し、良好な発泡粒子成形体が得られ易くなる。なお、ポリアミド系樹脂発泡粒子の見掛け密度は、以下の方法で測定される。
得られたポリアミド系樹脂発泡粒子を24時間温度60℃の環境下に置き、その後、常温(23℃)まで徐冷した後、相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて24時間放置して状態調節をする。次に、温度23℃の水の入ったメスシリンダーを用意し、該メスシリンダーに、嵩体積で約500cm3の発泡粒子の質量W1を測定し、金網を使用して沈める。金網の体積を考慮して、水位上昇分より読みとられる発泡粒子の容積V1[cm3]を測定し、発泡粒子の質量W1[g]を容積V1で割り算し(W1/V1)、単位を[kg/m3]に換算することにより、発泡粒子の見掛け密度を求められる。
【0040】
ポリアミド系樹脂発泡粒子は、水分率が1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、3%以上であることがさらに好ましい。ポリアミド系樹脂発泡粒子の水分率の上限は概ね20%程度であり、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
ポリアミド系樹脂発泡粒子が上記水分率を満足すると、ポリアミド系樹脂発泡粒子を構成するポリアミド系樹脂が水により可塑化されているため、ポリアミド系樹脂発泡粒子を型内成形する際、低い成形スチーム圧で充分に融着させることが可能となる。
発泡粒子中の水分率は、カールフィッシャー水分測定装置により求めることができ、具体的には以下の方法によって求めることができる。ポリアミド系樹脂粒子またはポリアミド系樹脂発泡粒子を秤量し、次いで加熱水分気化装置を用いてポリアミド系樹脂粒子またはポリアミド系樹脂発泡粒子を加熱することにより、内部の水分を気化させ、カールフィッシャー水分測定装置を用いて、カールフィッシャー滴定(電量滴定法)により、水分率を測定する。
【0041】
本明細書中におけるポリアミド系樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリアミド共重合体が挙げられる。
上記ポリアミドとしては、例えば、ポリ(カプロラクタム)としても知られるポリ(6-アミノヘキサン酸)(ポリカプロアミド、ナイロン6)、ポリ(ラウロラクタム)(ナイロン12)、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)(ナイロン66)、ポリ(7-アミノヘプタン酸)(ナイロン7)、ポリ(8-アミノオクタン酸)(ナイロン8)、ポリ(9-アミノノナン酸)(ナイロン9)、ポリ(10-アミノデカン酸)(ナイロン10)、ポリ(11-アミノウンデカン酸)(ナイロン11)、ポリ(ヘキサメチレンセバカミド)(ナイロン610)、ポリ(デカメチレンセバカミド)(ナイロン1010)、ポリ(ヘキサメチレンアゼラミド)(ナイロン69)、ポリ(テトラメチレンアジパミド)(ナイロン46)、ポリ(テトラメチレンセバカミド)(ナイロン410)、ポリ(ペンタメチレンアジパミド)(ナイロン56)、及びポリ(ペンタメチレンセバカミド)(ナイロン510)等のホモポリマーが挙げられる。
上記ポリアミド共重合体とは、2種以上の繰り返し単位を有し、それぞれの繰り返し単位の少なくとも一部にアミド結合を有するものを意味する。
上記ポリアミド共重合体としては、例えば、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸(ナイロン6/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミノアジピン酸/ラウリルラクタム(ナイロン6/66/12)、及びカプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)等が挙げられる。
以上のポリアミド系樹脂の中でも、ナイロン6、ナイロン66、及びナイロン6/66から選択されるポリアミド系樹脂であることが好ましい。
【0042】
ポリアミド共重合体は、ある一定量同じ繰り返し単位のアミドが続いた後に異なる種類のアミドがある一定量続くブロック共重合体であってもよく、また異なる種類のアミドがそれぞれランダムに配列されるランダム共重合体であってもよい。特に、ポリアミド共重合体は、ランダム共重合体であることが好ましい。ポリアミド共重合体がランダム共重合体であれば、ポリアミド系樹脂発泡粒子を型内成形する際に比較的低い成形スチーム圧で成形することが可能となる。
【0043】
またポリアミド系樹脂発泡粒子は、本発明の目的、効果を阻害しない範囲において、他の熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーを含有してもよい。他の熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、酢酸ビニル樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、およびメタクリル酸エステル樹脂、エチレン-プロピレン系ゴム、エチレン-1-ブテンゴム、プロピレン-1-ブテンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム、イソプレンゴム、ネオプレンゴム、ニトリルゴムなどのゴム、スチレン-ジエンブロック共重合体やスチレン-ジエンブロック共重合体の水添物等から選択される1種以上が挙げられる。他の熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーの配合量としては、ポリアミド系樹脂100質量部に対して20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましく、ポリアミド系樹脂のみからなることが特に好ましい。
【0044】
ポリアミド系樹脂発泡粒子には、ポリアミド系樹脂の他に、通常使用される気泡調整剤、帯電防止剤、導電性付与剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、金属不活性化剤、着色剤(顔料、染料等)、結晶核剤、及び充填材等の各種の添加剤を、必要に応じて1種以上、適宜配合することができる。気泡調整剤としては、タルク、塩化ナトリウム、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、石膏、ゼオライト、ホウ砂、水酸化アルミニウム、ミョウバン、及びカーボン等の無機系気泡調整剤、並びに、リン酸系化合物、アミン系化合物、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の有機系気泡調整剤が挙げられる。これらの各種添加剤の添加量は、発泡粒子成形体の使用目的により異なるが、ポリアミド系樹脂粒子を構成するポリマー成分100質量部に対して20質量部以下であることが好ましい。上記添加量は、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0045】
本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子を構成するポリアミド系樹脂粒子の融点は、特に限定されないが175℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、185℃以上であることがさらに好ましい。一方、発泡工程の温度コントロールが容易であるという観点からは、上記融点は、280℃以下であることが好ましく、260℃以下であることがより好ましく、240℃以下であることがさらに好ましく、230℃以下であることが更に好ましい。ポリアミド系樹脂発泡粒子の融点が上記範囲を満足すると、見掛け密度が低いポリアミド系樹脂発泡粒子が得られやすいとともに、耐熱性に優れるポリアミド系樹脂発泡粒子が得られやすくなることから好ましい。
上記ポリアミド系樹脂粒子の融点は、ポリアミド系樹脂粒子を試験片として、上記条件2により得られる2回目のDSC曲線の固有ピークの頂点温度から求めることができる。
【0046】
本明細書中におけるポリアミド系樹脂は、曲げ弾性率が1000MPa以上であることが好ましく、1200MPa以上であることがより好ましく、1500MPa以上であることがさらに好ましい。ポリアミド系樹脂の曲げ弾性率が上記範囲であれば、曲げ弾性率が高いことに由来して発泡後に常温に晒されても過度な収縮を抑制し、高倍率の発泡粒子が得られ易くなるため好ましい。また、曲げ弾性率が高いことにより型内成形性に優れるため好ましい。なお、ポリアミド系樹脂の曲げ弾性率の上限は概ね3000MPa程度である。
【0047】
ポリアミド系樹脂の曲げ弾性率は、ポリアミド系樹脂を温度23℃、相対湿度50%の状態で24時間静置した後、JIS K7171:2016に準拠して測定することにより求めることができる。
【0048】
ポリアミド系樹脂の密度は、1.05g/cm3以上であることが好ましく、1.1g/cm3以上であることが好ましい。密度は、ISO 1183-3の方法に基づいて求めることができる。
【0049】
[2]ポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法
以下に、本発明の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、上述する本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法の望ましい態様である。ただし、以下の説明は、上述する本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法を何ら限定するものではない。
【0050】
本発明の製造方法は、分散工程と、発泡剤付与工程と、結晶化処理工程と、発泡工程とを含む。
上記分散工程は、密閉容器内で、水性分散媒にポリアミド系樹脂粒子を分散させる工程である。上記発泡剤付与工程は、ポリアミド系樹脂に対し、発泡剤を含有させる工程である。上記結晶化処理工程は、水性分散媒中に分散しているポリアミド系樹脂粒子を加熱して高温ピークを形成する工程である。また上記発泡工程は、高温ピークが形成され、発泡剤を含むポリアミド系樹脂粒子を、水性分散媒とともに密閉容器から、当該密閉容器内の圧力よりも低い圧力下に放出して発泡させる工程である。発泡工程において、発泡剤を含むポリアミド系樹脂粒子を上記密閉容器から放出している時、当該密閉容器内の温度を10分あたり0.3℃以上1.5℃以下昇温させる昇温調整を実施する。
かかる製造方法によれば、本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子を良好に製造することができる。
以下に本発明の製造方法について、詳細に説明する。
【0051】
本発明の製造方法では、ポリアミド系樹脂粒子が、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物及びエポキシ化合物から選択される1種以上の化合物で改質された変性ポリアミド系樹脂を基材樹脂とすることが好ましい。
【0052】
かかる改質は、発泡工程前に行われればよい。たとえばポリアミド系樹脂粒子を製造する際に改質剤と未改質のポリアミド系樹脂とを押出機で混錬しポリアミド系樹脂を改質してポリアミド系樹脂粒子とすることが好ましいが、予め改質された変性ポリアミド系樹脂を原料として用いて造粒してもよいし、あるいは、分散工程または後述する結晶化処理工程において、改質剤を添加し、ポリアミド系樹脂粒子の改質を行ってもよい。上記化合物で改質することによりポリアミド系樹脂の分子鎖末端の一部または全てを封鎖することができる。改質剤の配合量は、ポリアミド系樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下の範囲で添加することが好ましく、0.5質量部以上3質量部以下の範囲で添加することがより好ましい。改質剤の詳細は、上述する本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子の説明における記載が参照される。
【0053】
〔分散工程〕
分散工程は、密閉容器内でポリアミド系樹脂粒子を水などの水性分散媒中に分散させ、分散液を得る工程である。密閉容器は、たとえば加圧可能なオートクレーブ等が挙げられる。ポリアミド系樹脂粒子を分散媒中に分散させる方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、撹拌機を備える密閉容器を用い、当該容器に仕込まれた水性分散媒にポリアミド系樹脂粒子を添加し、撹拌することによって、分散液を得ることができる。水性分散媒とは、水または水を主体とする液状体が挙げられ、それらの中でも水を用いることが好ましい。
【0054】
必要に応じて、上記分散媒には、酸化アルミニウム、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、酸化亜鉛、カオリン、マイカ、タルク、スメクタイト等の無機物質等の分散剤、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤等の分散助剤を添加してもよい。ポリアミド系樹脂粒子と分散剤との質量比(樹脂粒子/分散剤)は、20~2000とすることが好ましく、より好ましくは30~1000である。また、分散剤と分散助剤との質量比(分散剤/分散助剤)は、1~500とすることが好ましく、より好ましくは1~100である。
【0055】
本発明で用いられるポリアミド系樹脂粒子の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法により製造することができる。例えば、ストランドカット法、ホットカット法、アンダーウォーターカット法(UWC法)などの方法により、ポリアミド系樹脂粒子を製造することができる。上記ストランドカット法は、ポリアミド系樹脂と、必要に応じて気泡調整剤、着色剤等の添加剤とを押出機に投入し、混練して溶融混練物とし、押出機先端に付設されたダイの小孔からストランド状に溶融混練物を押し出し、該ストランドをペレタイザーで所定の質量となるように切断して粒状物を得る方法である。またホットカット法は、溶融混練物を気相中に押出した直後に切断して粒状物を得る方法である。またアンダーウォーターカット法(UWC法)は、溶融混練物を水中に押出した直後に切断して粒状物を得る方法である。
【0056】
〔発泡剤付与工程〕
発泡剤付与工程は、ポリアミド系樹脂粒子に発泡剤を含有させる工程である。ポリアミド系樹脂粒子に発泡剤を含有させる方法としては、ポリアミド系樹脂粒子を製造する際に、ポリアミド系樹脂と発泡剤を混練してポリアミド系樹脂粒子に発泡剤を含有させる方法、分散工程の容器とは別の容器にてポリアミド系樹脂粒子に発泡剤を含有させる方法、分散工程を行う容器と同一容器内でポリアミド系樹脂粒子に発泡剤を含有させる方法が挙げられる。
つまり本製造方法において、分散工程、結晶化処理工程、発泡工程をこの順で実施するとともに、発泡剤付与工程を発泡工程より前の任意の段階で実施することができる。また発泡剤を付与するタイミングは、複数に分かれてもよい。
発泡剤付与工程に用いられる発泡剤としては、物理発泡剤を用いることができる。物理発泡剤としては、有機系物理発泡剤として、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、クロロフルオロメタン、トリフルオロメタン、1,1-ジフルオロエタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のジアルキルエーテル等が挙げられる。また、無機系物理発泡剤として、二酸化炭素、窒素、ヘリウム、アルゴン、空気等が挙げられる。物理発泡剤の中でも、環境への影響が少ないとともに可燃性がなく安全性に優れるという観点から、無機系物理発泡剤が好ましく、二酸化炭素又は窒素がより好ましく、二酸化炭素が更に好ましい。
【0057】
以下の説明では、同一の密閉容器内において分散工程、発泡剤付与工程、結晶化処理工程および発泡工程を連続して行う例を用いて説明する。これらの工程は、互いに独立して行われてもよいし、互いの工程の少なくとも一部が重複していてもよい。
【0058】
発泡剤付与工程の実施に際し、密閉容器内に発泡剤を添加するタイミングとしては、分散工程からポリアミド系樹脂粒子を放出する前(即ち発泡工程前)までの間であればよく、例えば、分散工程中、分散工程終了時、分散工程終了後から結晶化処理工程開始までの間、結晶化処理工程中が挙げられる。上記の中でも含浸圧力を調整し易いという観点から、少なくとも結晶化処理工程の直前に発泡剤を添加することが好ましい。
【0059】
発泡剤付与工程において、発泡剤をポリアミド系樹脂粒子に短時間で十分に含浸させる観点から、分散液が入った容器に発泡剤を添加することにより、密閉容器内の圧力が、1.5MPa(G)以上となるようにすることが好ましく、2.5MPa(G)以上となるようにすることがより好ましく、7MPa(G)以下となるようにすることが好ましく、5MPa(G)以下となるようにすることがより好ましい。この圧力を含浸圧力という。なお、「1.5MPa(G)」は、ゲージ圧で1.5MPaであることを意味する。
【0060】
〔結晶化処理工程〕
結晶化処理工程は、密閉容器内において、分散液を結晶化処理温度T1まで昇温させた後、一定温度範囲で一定時間、当該分散液の温度を保持する(以下、結晶化処理ともいう)工程である。これによって、発泡粒子を得る際の熱履歴により形成される二次結晶に起因する融解ピーク(高温ピーク)の結晶化を充分に促進させることが可能であり、高温ピークの融解熱量を上述する範囲に調整することができる。また結晶化処理を実施することで、ポリアミド系樹脂粒子に対し、発泡剤を良好に含浸させることができ、かつ製造されるポリアミド系樹脂発泡粒子の独立気泡率を上述する望ましい範囲に調整し易い。
なお、上述する変性ポリアミド系樹脂を基材樹脂とするポリアミド系樹脂粒子を用いる場合であっても、結晶化処理における温度保持の時間を長くし、あるいは結晶化処理工程における昇温速度を緩やかにするなどして、結晶化を充分に促進させ所望の高温ピークを形成することが可能である。
【0061】
上記結晶化処理における一定温度範囲とは、ポリアミド系樹脂の固有の融点(Tm)よりも90℃低い温度(Tm-90℃)以上であることが好ましく、80℃低い温度(Tm-80℃)以上であることがより好ましく、70℃低い温度(Tm-70℃)以上であることがさらに好ましく、65℃低い温度(Tm-65℃)以上であることが特に好ましく、また50℃低い温度(Tm-50℃)未満であることが好ましく、55℃低い温度(Tm-55℃)以下であることがより好ましく、57℃低い温度(T3-57℃)以下であることがさらに好ましく、59℃低い温度(Tm-59℃)以下であることが特に好ましい。ここで、ポリアミド系樹脂の固有の融点とは、上述する2回目のDSC曲線に現れる固有ピークの頂点温度である。
【0062】
上記結晶化処理における一定時間とは、上記所定範囲の融解熱量を示す高温ピーク有するポリアミド系樹脂発泡粒子を得る観点から、1分以上であることが好ましく、3分以上であることがより好ましく、5分以上であることが更に好ましい。そして、ポリアミド系樹脂発泡粒子の生産性の観点、及びポリアミド系樹脂の加水分解を防ぐ観点から、一定時間とは、60分以下であることが好ましく、40分以下であることがより好ましく、30分以下であることが更に好ましく、20分以下であることが特に好ましい。
【0063】
通常、ポリプロピレン系樹脂等の汎用樹脂を基材樹脂とする発泡粒子を製造する際、原材料の樹脂の融点付近で温度保持がなされる。かかる温度は、発泡温度と同じかほぼ等しい。しかしながら、本発明の製造方法においては、ポリアミド系樹脂の吸水性を活かし、分散液として用いる水などの水性分散媒によりポリアミド系樹脂を可塑化させることができる。この結果、ポリアミド系樹脂粒子の融点(可塑化後の融点)が当該樹脂の固有の融点と比べて大幅に下がり、上述する低い温度(即ち、結晶化処理温度T1)における温度保持で、上記範囲の融解熱量を示す高温ピークを有するポリアミド系樹脂発泡粒子を得ることができる。
【0064】
なお、結晶化処理工程中の分散液の温度(結晶化処理温度T1)は、一定であってもよいし、上述する範囲内において変動してもよい。結晶化処理工程における分散液の温度は、上述する温度範囲内で多段階に設定することもでき、また、該温度範囲内で適度な時間をかけて連続的に昇温させることも可能である。発泡粒子を得る際の熱履歴により形成される二次結晶をより安定して形成させやすいという観点からは、前記温度範囲内で一段階(保持温度が一定)に設定し、上記時間保持することが好ましい。また、ポリアミド系樹脂粒子を十分に吸水させて可塑化させる観点から、常温から結晶化処理温度T1まで加熱する際に、昇温速度を10℃/分以下とすることが好ましく、7℃/分以下とすることがより好ましい。一方、ポリアミド系樹脂発泡粒子の生産性の観点から、上記昇温速度は、1℃/分以上とすることが好ましく、2℃/分以上とすることがより好ましい。
【0065】
〔発泡工程〕
発泡工程は、高温ピークが形成され、発泡剤を含む発泡性ポリアミド系樹脂粒子を、密閉容器から水性分散媒とともに、当該密閉容器内の圧力よりも低い圧力下(通常は大気圧下)に放出して発泡させる工程である。発泡工程において、多数の発泡性ポリアミド系樹脂粒子を順次、上記密閉容器から放出させている時、当該密閉容器内の温度を10分あたり0.3℃以上1.5℃以下昇温させる昇温調整を実施する。
【0066】
ポリアミド系樹脂は、ポリプロピレン系樹脂と比較し、吸水性が高い。そのため、分散媒として水などの水性分散媒を用いる本発明の製造方法では、ポリアミド系樹脂粒子を吸水により可塑化させることが可能である。可塑化したポリアミド系樹脂の融点(以下、可塑化後融点ともいう)は、可塑化前の樹脂固有の融点Tmよりも低くなる。そのため、可塑化したポリアミド系樹脂を発泡させる発泡工程では、可塑化後の融点を基準として発泡温度T2を設定すればよく、特許文献1に記載される温度よりも有意に低い温度で発泡工程を実施することが可能である。
【0067】
発泡させる直前の分散液の温度(発泡温度T2)は、ポリアミド系樹脂の固有の融点(Tm)よりも90℃低い温度(Tm-90℃)以上であることが好ましく、80℃低い温度(Tm-80℃)以上であることがより好ましく、70℃低い温度(Tm-70℃)以上であることがさらに好ましく、65℃低い温度(Tm-65℃)以上であることが特に好ましく、また50℃低い温度(Tm-50℃)未満であることが好ましく、55℃低い温度(Tm-55℃)以下であることがより好ましく、57℃低い温度(Tm-57℃)であることがさらに好ましく、59℃低い温度(Tm-59℃)であることが特に好ましい。たとえば、発泡温度T2は、ポリアミド系樹脂の固有の融点温度Tmに対し、下記式(4)の範囲であることが好ましい。また、このとき、発泡温度T2と結晶化処理温度T1との関係は、T2≧T1であることが好ましい。
【数4】
【0068】
ところで、上述したとおり、発泡工程を実施した場合、発泡工程に要する時間によっては、発泡工程前半に放出された発泡粒子と、発泡工程後半に放出された発泡粒子とでは、結晶性に差異が生じる場合があった。この結果、製造された発泡粒子を用いて型内成形した際の成形性が劣る虞があった。これは、発泡工程時、相対的に長く容器にとどまるポリアミド系樹脂粒子の結晶性が変化することに起因すると推察された。
本発明の製造方法は、発泡工程中の結晶性の変化を抑制するために、発泡工程において、発泡温度T2(即ち、容器内の分散液の温度)を、適度に昇温させる昇温調整を行う。
発泡工程における粒子の放出時間が長くなることにより、特に結晶化が進みやすくなると考えらえる。発泡工程において、発泡温度T2を適度に昇温させることにより、結晶の成長と結晶の融解とのバランスをとり、一定の融解熱量の値を維持することができる。その結果、得られる発泡粒子は、高温ピークの融解熱量の変動係数が小さな発泡粒子とすることができると考えらえる。
【0069】
上記昇温調整は、特に限定されないが、製造されるポリアミド系樹脂発泡粒子の高温ピークの融解熱量の変動係数が20%以下に調整し易いという観点から、10分あたり0.3℃以上昇温することが好ましく、10分あたり0.4℃以上昇温することがより好ましく、10分あたり0.6℃以上昇温することがさらに好ましい。また、昇温調整は、10分あたり1.5℃以下昇温することが好ましく、10分あたり1℃以下昇温することがより好ましい。たとえば、上記昇温調整は、10分あたり0.3℃以上1.5℃以下昇温することが好ましい。
【0070】
たとえば、発泡開始から発泡終了までの間、連続的に昇温を実施することが好ましいが、段階的に昇温を実施することもできる。なお、段階的に昇温を実施する場合には、一段の保持時間が10分以下となるように多段階とすることが好ましい。
【0071】
発泡工程における放出直前の密閉容器内の圧力(発泡圧力)は、好ましくは0.5MPa(G)以上、より好ましくは1.5MPa(G)以上、更に好ましくは2.5MPa(G)以上である。また、発泡圧力は、好ましくは7.0MPa(G)以下、更に好ましくは5MPa(G)以下である。
【0072】
[ポリアミド系樹脂発泡粒子成形体]
本発明の発泡粒子成形体は、本発明のポリアミド系樹脂発泡粒子を用いて製造される。発泡粒子成形体の製造方法は、ポリアミド系樹脂発泡粒子を型内成形して型内成形体を得る型内成形法が好ましい。特にスチームを利用した型内成形法によれば、ポリアミド系樹脂発泡粒子を構成するポリアミド系樹脂が、吸水し可塑化する為、成形スチーム圧を低くすることが可能となる。なお、得られた発泡粒子成形体を乾燥させれば、ポリアミド系樹脂本来の物性に戻り、高い耐熱性を有する発泡粒子成形体となる。
上記発泡粒子成形体は、耐熱性が高く、また耐摩耗性および耐薬品性等にも優れる上、成形品融着性にも優れる。そのため上記発泡粒子成形体は、自動車部品、または電気製品等の部材として適している。
【0073】
また、高温ピークの融解熱量の変動係数が小さな発泡粒子を型内成形してなる発泡粒子成形体は、圧縮時の初期弾性に優れる。具体的には、圧縮試験機を用いて圧縮モードで測定したときの5%圧縮応力を50%圧縮応力で割った値〔(5%圧縮応力)/(50%圧縮応力)〕が優れる。ここで当該値が優れるとは、当該値がより大きいことを意味する。発泡粒子成形体の5%圧縮応力は、当該発泡粒子成形体の初期の潰れ難さ、撓み難さを表す。高温ピークの融解熱量の変動係数が大きいほど発泡粒子成形体の5%圧縮応力は小さくなりやすい。しかし、発泡粒子成形体の5%圧縮応力は、発泡倍率や高温ピークの融解熱量の大きさによる影響も大きく受ける。そのため、5%圧縮応力のみで発泡粒子成形体同士を対比することは困難である。そこで、発泡粒子成形体の5%圧縮応力を50%圧縮応力で割ることによって、発泡倍率や高温ピークの融解熱量の大きさによる影響を無視できる程度に小さくし、高温ピークの融解熱量の変動係数による発泡粒子成形体の圧縮歪に対する圧縮応力の大きさを評価することが可能となる。すなわち、5%圧縮応力を50%圧縮応力で割った値〔(5%圧縮応力)/(50%圧縮応力)〕に優れる発泡粒子成形体は、圧縮時の初期のエネルギー吸収効率に優れる。上記圧縮時の初期弾性に優れる発泡粒子成形体は、自動車用バンパーなどの緩衝材料に好適に使用可能である。なお、上記圧縮応力の測定には、発泡粒子群を24時間温度60℃の環境下に置き、その後、室温(23℃)まで徐冷し、温度23℃、相対湿度50%の恒温室で24時間以上静置した発泡粒子成形体のサンプルを用いるものとする。
【実施例
【0074】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。表1に、各実施例および各比較例の製造に用いた樹脂の詳細を示す。各実施例および各比較例のポリアミド系樹脂粒子発泡粒子の製造に関する製造条件等は適宜、表2に示す。また、各実施例および各比較例の樹脂発泡粒子、およびこれを用いて製造した発泡粒子成形体の物性および評価結果は、表3に示す。表3には、各実施例および各比較例の発泡粒子成形体の製造時の成形スチーム圧も示した。
【0075】
(実施例1)
[ペレット状のポリアミド系樹脂粒子の製造]
押出機に、表1に示すポリアミド系樹脂を供給し、気泡調整剤として「タルカンパウダーPK-S」(林化成株式会社製)を、ポリアミド系樹脂100質量部に対して0.8質量部添加し、末端封鎖剤としてカルボジイミド化合物(「Stabaxol P」ラインケミー社製)をポリアミド系樹脂100質量部に対して1質量部添加し、溶融混練し溶融混練物を得た。上記溶融混練物は、押出機先端に取り付けた口金の細孔から断面円形状のストランド状に押出し、押出されたストランドを水冷した後、ペレタイザーで1個当たりの平均質量が2mgとなるように切断し、乾燥してペレット状のポリアミド系樹脂粒子を得た。
【0076】
[ポリアミド系樹脂発泡粒子の製造]
上述のとおり得られたポリアミド系樹脂粒子50kgと、分散媒として水2200リットルとを、撹拌機を備えた3000リットルのオートクレーブ内に仕込み、更に、ポリアミド系樹脂粒子100質量部に対して、分散剤としてカオリン3.0質量部と、界面活性剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.08質量部とを分散媒に添加した。オートクレーブ内の内容物を撹拌しながら室温(23℃)から昇温し、結晶化処理温度(保持温度、136℃)に到達する前(約131℃)に、該オートクレーブ内に発泡剤として二酸化炭素を、オートクレーブ内の圧力が4.0MPa(G)となるまで圧入した。室温(23℃)から結晶化処理温度に到達するまでの昇温時間は30分であった。昇温速度は、結晶化処理温度から室温(23℃)を引いた値を該昇温時間で割った平均速度とした。保持温度136℃に到達後、オートクレーブ内の圧力が4.0MPa(G)に維持されるように二酸化炭素を圧入しつつ、温度136℃、保持時間(温度保持)5分間、オートクレーブ内の環境を維持し、高温ピークを形成するとともにポリアミド系樹脂粒子中に二酸化炭素を十分に含浸させた。その後、耐圧容器下部のバルブを開くことにより、発泡剤が含浸されたポリアミド系樹脂粒子を分散液とともに大気圧(約0.1MPa(絶対圧))下に放出した。放出開始から完了までの時間は約30分であり、放出開始(発泡開始)から完了(発泡終了)まで耐圧容器内を10分あたり0.6℃で昇温し続けた。発泡開始温度が136℃、発泡終了温度が137.8℃であった。得られたポリアミド系樹脂発泡粒子を60℃の網槽内にて24時間置き、その後常温(23℃)まで徐冷することによりポリアミド系樹脂発泡粒子を得た。
【0077】
[ポリアミド系樹脂発泡粒子成形体の製造]
次に、上述のとおり得られたポリアミド系樹脂発泡粒子を温度23℃、相対湿度50%の環境下で24時間静置して状態調節した後、そのポリアミド系樹脂発泡粒子を用いてポリアミド系樹脂発泡粒子成形体を作製した。なお、ポリアミド系樹脂発泡粒子は、後述する高温ピークの融解熱量の測定において記載した時間帯T1~T5それぞれで得られた発泡粒子を均一になるように混合した発泡粒子群を用いた。また、上記状態調節された成形前のポリアミド系樹脂発泡粒子の水分率は3.5%であった。水分率の測定は後述する方法により測定した。まず、ポリアミド系樹脂発泡粒子を縦200mm×横250mm×厚さ50mmの平板成形型に充填し、スチーム加熱による型内成形を行なって板状の発泡粒子成形体を得た。加熱方法は両面の型のドレン弁を開放した状態でスチームを5秒間供給して予備加熱(排気工程)を行った後、表3に示す成形スチーム圧より0.08MPa(G)低い圧力で一方加熱を行い、さらに表3に示す成形スチーム圧より0.04MPa(G)低い圧力で逆方向から一方加熱を行った後、表3に示す成形スチーム圧で、両面から本加熱を行った。
加熱終了後、放圧し、成形体の発泡力による表面圧力が0.02MPa(ゲージ圧)に低下するまで水冷したのち、型を開放し成形体を型から取り出した。得られた成形体は80℃のオーブンにて12時間養生し、その後、室温(23℃)まで徐冷し、温度23℃、相対湿度50%の環境下で24時間静置して状態調節した。このようにして、ポリアミド系樹脂発泡粒子成形体を得た。なお、状態調節後のポリアミド系樹脂発泡粒子成形体の水分率は3.5%であった。水分率の測定は後述する方法により測定した。
【0078】
(実施例2~4)
実施例2~4は、表2に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にポリアミド系樹脂発泡粒子を製造し、これを用いてポリアミド系樹脂発泡粒子成形体を製造した。
尚、実施例3には改質剤として、エポキシ化合物(「アルフォン UG4035」東亞合成社製)を用いた。
【0079】
(比較例1)
比較例1は、表2に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にポリアミド系樹脂発泡粒子を製造し、これを用いてポリアミド系樹脂発泡粒子成形体を製造した。比較例1は、発泡工程時の昇温を実施しなかった。
【0080】
上述のとおり得られた各実施例および比較例のポリアミド系樹脂発泡粒子、およびポリアミド系樹脂発泡粒子成形体の各種物性の測定および評価は、以下のとおり実施した。測定結果および評価結果は、表1から表3に示す。
【0081】
[ポリアミド系樹脂粒子の評価]
<融点(℃)>
JIS K7121-1987に基づき、熱流束示差走査熱量測定法により、ポリアミド系樹脂の融点を測定した。窒素流入量30mL/分の条件下で、10℃/分の加熱速度で30℃から融解ピーク終了時よりも30℃高い温度まで加熱溶融(1回目の昇温)させてから、次いでその温度にて10分間保った後、10℃/分の冷却速度で30℃まで冷却し、再度、加熱速度10℃/分で融解ピーク終了時よりも30℃高い温度まで加熱して得られる2回目のDSC曲線の融解ピークのピーク頂点温度として求めた。なお、測定装置として、高感度型示差走査熱量計「EXSTAR DSC7020」(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を使用した。融点の測定には、温度23℃、相対湿度50%の環境下で24時間静置したポリアミド系樹脂粒子を用いた。
<密度(g/cm)>
ISO 1183-3に記載の方法に基づいて求められたカタログ値である。
<曲げ弾性率(MPa)>
ポリアミド系樹脂の曲げ弾性率は、JIS K7171:2016に準拠して測定することにより求めた。曲げ弾性率は、厚み4mm、幅10mm、長さ80mmの樹脂試験片を作製し、試験片を室温23℃、相対湿度50%の状態で72時間静置した後、支点間距離64mm、圧子の半径R15.0mm、支持台の半径R25.0mm、試験速度2mm/min、室温23℃、相対湿度50%の条件で、オートグラフAGS-10kNG(島津製作所製)試験機により測定し、算出された値(5点)の平均値を採用した。なお、アミド系エラストマー(アルケマ社製、製品名「PEBAX5533」、融点159℃、密度1.01g/cm3)の曲げ弾性率を上記方法に基づき測定したところ、150MPaであった。
【0082】
[ポリアミド系樹脂発泡粒子の評価]
<高温ピークの融解熱量(J/g)>
各実施例、比較例の発泡工程において、発泡工程開始時間から発泡工程終了時間までを5等分し、5つの時間帯(開始から順にT1、T2、T3、T4、T5)とした。そして各時間帯T1~T5で得られたポリアミド系樹脂発泡粒子をそれぞれサンプル1~5とした。なお、サンプル1~5は、各時間帯において、中間となる時間で10個のポリアミド系樹脂発泡粒子を採取した。各時間帯における10個の発泡粒子それぞれの高温ピークの融解熱量の値を以下のとおり測定し、時間帯毎に融解熱量を算術平均し、その算術平均値を各時間帯の融解熱量とした。また全ての発泡粒子の融解熱量を算術平均し、融解熱量全体の平均値Tavを算出した。
即ち、上記発泡粒子を用い、JIS K7122-1987の熱流束示差走査熱量測定法に基づき、窒素流入量30mL/分の条件下で、加熱速度10℃/分にて30℃から融解ピーク終了時よりも30℃高い温度まで加熱溶融させ、DSC曲線を得た。DSC曲線の測定には、以下に示す状態調節を行った発泡粒子を用いた。まず、得られたポリアミド系樹脂発泡粒子を24時間温度60℃の環境下に置き、その後、室温(23℃)まで徐冷した。次に、温度23℃、相対湿度50%の環境下で24時間静置して状態調節をした。なお、上記DSC測定に用いた発泡粒子は約2mgであった。測定装置として、高感度型示差走査熱量計「EXSTAR DSC7020」(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を使用した。
得られたDSC曲線において、図1と同様に、固有ピークaの頂点温度よりも高温側に頂点温度が現れる高温ピークbの面積を求め、高温ピークの融解熱量(吸熱エネルギー)[J/g]とした。
<半結晶化時間>
ポリアミド系樹脂発泡粒子をヒートプレス(プレス温度230℃)により、フィルム状にした試料を用意した。フィルム状試料の厚みは0.1±0.02mmのものとし、その寸法は15×15mmの四角形状とした。これを顕微鏡用カバーガラスに挟み込んだものを測定試料として使用した。半結晶化時間は、前記フィルム状の試料を保持したカバーガラスを、結晶化速度測定器(コタキ社製MK-801)のエアバス内に入れて試料を完全に溶融させ、次いで溶融試料を支持体ごと融点-20℃に保持されたオイルバス中で、直交した偏光板の間に置き、試料の結晶化に伴い増加する光学異方性結晶成分による透過光を測定(脱偏光強度(Depolarization)法)し、以下に示すアブラミ式(下記式(5))を用いて結晶化度が1/2となる時間から半結晶化時間を算出した。
【数5】
<高温ピークの融解熱量の標準偏差および変動係数>
上述で得られた50個のサンプルの高温ピークの融解熱量を用いて、下記式(7)に示す式から標準偏差Vを求めた。そして得られた標準偏差Vの値を用いて、下記式(6)に示す式を用いて、変動係数Cを求めた。上述のとおり得られた標準偏差および変動係数は、表3に示した。
【数6】
【数7】
上記式において、Tは、サンプルとして採取した50個の発泡粒子のそれぞれの融解熱量を示し、Tavは、これらの融解熱量の平均値を示し、nはサンプル数(50)を示す。
<見掛け密度(kg/m)>
温度23℃の水の入ったメスシリンダーを用意し、該メスシリンダーに、嵩体積が約500cm3のポリアミド系樹脂発泡粒子の質量W1を測定し、金網を使用して沈めた。金網の体積を考慮して、水位上昇分より読みとられるポリアミド系樹脂発泡粒子の容積V1[cm3]を測定し、ポリアミド系樹脂発泡粒子の質量W1[g]を容積V1で割り算し(W1/V1)、単位を[kg/m3]に換算することにより、発泡粒子の見掛け密度を求めた。
なお、見掛け密度の測定には、上記高温ピークの融解熱量の測定において記載した時間帯T1~T5それぞれで得られた発泡粒子を均一になるように混合した発泡粒子群を用いた。また、発泡粒子群を以下の状態調節を行った後に測定を行った。発泡粒子群を24時間温度60℃の環境下に置き、その後、室温(23℃)まで徐冷し、温度23℃、相対湿度50%の環境下で24時間静置して状態調節を行った。
<独立気泡率>
ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに準じ、空気比較式比重計を用い、発泡粒子の真の体積(発泡粒子を構成する樹脂の容積と、発泡粒子内の独立気泡部分の気泡全容積との和)の値Vxを測定した。この真の体積Vxの測定には、東芝・ベックマン(株)製の空気比較式比重計「930」を用いた。次いで、下記の式(8)により独立気泡率を算出し、5回の測定結果の算術平均値を求めた。
【数8】
なお、独立気泡率の測定には、上記見掛け密度の測定と同様に、時間帯T1~T5それぞれで得られた発泡粒子を均一になるように混合し、上記と同様に状態調節した発泡粒子群を用いた。
<水分率>
ポリアミド系樹脂発泡粒子を秤量し、次いで加熱水分気化装置を用いてポリアミド系樹脂粒子またはポリアミド系樹脂発泡粒子を加熱することにより、内部の水分を気化させ、カールフィッシャー水分測定装置を用いて、カールフィッシャー滴定(電量滴定法)により、水分率を測定した。
水分率の測定には、上記見掛け密度の測定と同様に、時間帯T1~T5それぞれで得られた発泡粒子を均一になるように混合し、上記と同様に状態調節した発泡粒子群を用いた。ポリアミド系樹脂発泡粒子成形体の水分率も上述と同様に測定した。なお、水分率は、実施例1のみ測定した。
【0083】
[ポリアミド系樹脂発泡粒子成形体の評価]
上記により得られた各発泡粒子成形体サンプルについて以下の評価をした。
<回復性>
得られた発泡粒子成形体を次のようにして評価した。型内成形で用いた平板形状の金型の寸法に対応する発泡粒子成形体における端部(端より10mm内側)と中心部(縦方向、横方向とも2等分する部分)の厚みを計測した。次いで、発泡粒子成形体の厚み比(成形体中心部の厚み/成形体端部の厚み×100(%))を算出し、以下のように評価した。
A:厚み比が95%以上
B:厚み比が90%以上95%未満
C:厚み比が90%未満
<二次発泡性の評価>
得られた発泡粒子成形体を次のようにして評価した。
A:発泡粒子成形体内部と発泡粒子成形体表面の発泡粒子間隙が完全に埋まっていた。
B:発泡粒子成形体内部の発泡粒子間隙は完全に埋まっているが、発泡粒子成形体表面に発泡粒子間隙がやや認められた。
C:発泡粒子成形体内部、および発泡粒子成形体表面ともに発泡粒子間隙が認められた。
<融着性>
ポリアミド系樹脂発泡粒子成形体の融着性を判断するため、発泡粒子成形体の融着率を以下のとおり測定し、評価した。融着率は、発泡粒子成形体を破断した際の破断面に露出した発泡粒子のうち、材料破壊した発泡粒子の数の割合に基づいて求めた。具体的には、まず、発泡粒子成形体から試験片(縦100mm×横100mm×厚み:発泡粒子成形体の厚み)を切り出し、カッターナイフで各試験片の厚み方向に約5mmの切り込みを入れた後、切り込み部から試験片を破断させた。次に、発泡粒子成形体の破断面に存在する発泡粒子の個数(n)と、材料破壊した発泡粒子の個数(b)を測定し、(b)と(n)の比(b/n)を百分率で表して融着率(%)とした。そして求められた融着率(%)から融着性を以下のとおり評価した。
A:融着率(%)が80%以上であった。
B:融着率(%)が60%以上、80%未満であった。
C:融着率(%)が40%以上、60%未満であった。
<5%圧縮応力/50%圧縮応力>
各実施例、比較例において、上記発泡粒子成形体の評価で最も優れる発泡粒子成形体を選択し、発泡粒子成形体の中央部から、全ての面が切り出し面となるように成形スキンを取り除いて、縦50mm、横50mm、厚さ25mmの直方体状のサンプルを切り出した。このサンプルを、温度23℃、相対湿度50%の恒温室で24時間静置した後、JIS K6767:1999に準拠して発泡粒子成形体の圧縮特性(応力-ひずみ曲線)を測定した。測定装置として、「オートグラフ AGS-X」(株式会社島津製作所製)を用いて、圧縮速度10mm/分でサンプルを圧縮し、5%および50%ひずみ時の圧縮応力を算出した。上記操作を5つの試験片について行い、5つ試験片の値の算術平均値をそれぞれ5%圧縮応力、50%圧縮応力とした。上記により求めた5%圧縮応力の値を50%圧縮応力の値で割ることにより5%圧縮応力/50%圧縮応力の比を算出した。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)ポリアミド系樹脂を基材樹脂とするポリアミド系樹脂発泡粒子であって、
該発泡粒子は、下記の条件1にて得られるDSC曲線において、ポリアミド系樹脂に固有の融解ピーク(固有ピーク)と、該固有ピークの頂点温度よりも高温側に頂点温度を有する融解ピーク(高温ピーク)とが現れる結晶構造を有し、
該高温ピークの融解熱量が5J/g以上50J/g以下の範囲であるとともに、該高温ピークの融解熱量の変動係数が20%以下である
ことを特徴とするポリアミド系樹脂発泡粒子。
(条件1)
JIS K7122-1987の熱流束示差走査熱量測定法に基づき、ポリアミド系樹脂発泡粒子を試験片とし、加熱速度10℃/分にて30℃から融解ピーク終了時よりも30℃高い温度まで加熱溶融させ、前記DSC曲線を得る。
(2)前記ポリアミド系樹脂は、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物及びエポキシ化合物から選択される1種以上の化合物で改質された変性ポリアミド系樹脂である上記(1)に記載のポリアミド系樹脂発泡粒子。
(3)前記ポリアミド系樹脂発泡粒子の独立気泡率が85%以上である上記(1)または(2)に記載のポリアミド系樹脂発泡粒子。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載のポリアミド系樹脂発泡粒子を型内成形してなる、ポリアミド系樹脂発泡粒子成形体。
(5)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載のポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法であって、
密閉容器内で、水性分散媒にポリアミド系樹脂粒子を分散させる分散工程と、
ポリアミド系樹脂粒子に、発泡剤を含有させる発泡剤付与工程と、水性分散媒中に分散しているポリアミド系樹脂粒子を加熱して高温ピークを形成する結晶化処理工程と、
前記発泡剤を含む前記ポリアミド系樹脂粒子を水性分散媒とともに、前記密閉容器から当該密閉容器内の圧力よりも低い圧力下に放出して発泡させる発泡工程と、を含み、
前記発泡工程において、前記発泡剤を含む前記ポリアミド系樹脂粒子が前記密閉容器から放出されている時、当該密閉容器内の温度を10分あたり0.3℃以上1.5℃以下昇温させる昇温調整を実施することを特徴とするポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法。
(6)前記ポリアミド系樹脂粒子が、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物及びエポキシ化合物から選択される1種以上の化合物で改質された変性ポリアミド系樹脂を基材樹脂とする上記(5)に記載のポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法。
(7)前記結晶化処理工程において、ポリアミド系樹脂の固有の融点(Tm)よりも90℃低い温度(Tm-90℃)以上50℃低い温度(Tm-50℃)未満で、1分以上60分以下保持することにより高温ピークを形成する上記(5)または(6)に記載のポリアミド系樹脂発泡粒子の製造方法。
【符号の説明】
【0088】
a・・・固有ピーク
b・・・高温ピーク
I、II、III、IV・・・点
図1