(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】等速ジョイント
(51)【国際特許分類】
F16D 3/205 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
F16D3/205 M
(21)【出願番号】P 2020055218
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】日比野 祐介
(72)【発明者】
【氏名】中村 昌由
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-148276(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0071382(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0287202(US,A1)
【文献】特開2011-185346(JP,A)
【文献】米国特許第05989124(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1伝達軸と第2伝達軸の間に介在し、前記第1伝達軸から前記第2伝達軸へ回転駆動力を伝達する等速ジョイントにおいて、
互いに所定間隔で離間し且つ軸線方向に沿って延在する複数個の案内溝が内方側壁に形成され、前記第1伝達軸に連結されるアウタ部材と、
円環状部から前記案内溝に指向して突出し、前記円環状部側の端部を基端、前記案内溝側の端部を先端とする保持部を有し、前記第2伝達軸に連結されて前記アウタ部材の内部に挿入されるインナ部材と、
前記保持部に回転可能に装着されるとともに、内側ローラと、転動部材を介して
前記内側ローラの外方に装着された外側ローラとを有するローラ組立体と、
を具備し、
前記保持部に、前記内側ローラの内周壁に対して当接する接触部位と、離間する非接触部位とがそれぞれ複数個設けられ、且つ接触部位と非接触部位とが交互に配置され、
前記接触部位は、少なくとも、仮想接線が前記案内溝の長手方向と平行となり互いの位相差が180°である第1平行部位及び第2平行部位と、該接触部位における仮想接線が前記案内溝の長手方向に対して直交し互いの位相差が180°である第1直交部位及び第2直交部位であり、
前記第1平行部位、前記保持部の径方向中心、前記第2平行部位を通る正面断面では、前記第1平行部位及び前記第2平行部位の側壁が直線形状をなし、
且つ前記第1直交部位、前記保持部の径方向中心、前記第2直交部位を通る側面断面では、前記第1直交部位及び前記第2直交部位の側壁が曲面形状をなし、
前記第1伝達軸と前記第2伝達軸が同一軸線上に位置した状態の、前記第1直交部位及び前記第2直交部位の各側壁の、前記内側ローラの内周壁に対して当接する箇所を頂部、該第1直交部位及び該第2直交部位の前記曲面中の前記基端側から前記頂部に向かって延在する曲面を第1曲面、前記頂部から前記先端側に向かって延在する曲面を第2曲面とするとき、前記第2曲面の曲率半径が前記第1曲面の曲率半径に比して大であ
り、
前記第1伝達軸が前記第2伝達軸に対して相対的に傾斜した状態の、前記第1直交部位及び前記第2直交部位の側壁の、前記内側ローラの内周壁に対して当接する箇所を接点、前記第1直交部位及び前記第2直交部位の前記頂部同士の距離をL1、前記第1直交部位及び前記第2直交部位の前記接点同士の距離をL2とするとき、L1とL2が等しい等速ジョイント。
【請求項2】
請求項
1記載の等速ジョイントにおいて、前記第1直交部位の前記第1曲面の曲率中心と前記第2直交部位の前記第2曲面の曲率中心とが一致し、且つ前記第1直交部位の前記第2曲面の曲率中心と前記第2直交部位の前記第1曲面の曲率中心とが一致する等速ジョイント。
【請求項3】
請求項1
又は2記載の等速ジョイントにおいて、前記内側ローラの内径が前記保持部の前記基端から前記先端に向かうに従って変化するとともに、該内側ローラの、内径が最小である部位が、前記第1直交部位及び前記第2直交部位に当接する等速ジョイント。
【請求項4】
請求項
3記載の等速ジョイントにおいて、前記内側ローラの内径が、前記基端から前記先端に向かう中間部で最小となる等速ジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1伝達軸と第2伝達軸の間に介在し、前記第1伝達軸から前記第2伝達軸へ回転駆動力を伝達する等速ジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
トリポート型等速ジョイントは、周知の通り、伝達軸部及び有底のカップ部を有し且つ前記カップ部の内壁に複数個(典型的には3個)の案内溝が形成されたアウタ部材と、駆動力伝達軸の先端に嵌合されたインナ部材とを有する。この構成において、前記駆動力伝達軸から伝達軸部、又はその逆方向に回転駆動力が伝達される。
【0003】
ここで、インナ部材は、前記案内溝に進入する保持部を有するとともに、前記保持部に、前記案内溝内を摺動するローラが回転可能に保持される。駆動力伝達軸が伝達軸部に対して所定の作動角で傾斜したときには、アウタ部材内でインナ部材が傾斜することに追従し、インナ部材の、ローラの内周壁に当接した部位が変化する。特許文献1に記載されるように、この変化により、誘起スラスト力が大きくなることが想定される。
【0004】
特許文献1記載の技術は、保持部(特許文献1においていう「トリポード軸」)の湾曲した側壁に突出部を設けるものである。そして、突出量が最大である最凸部を、ローラの内周壁に当接させるようにしている。
【0005】
これに対し、本出願人は、特許文献2において、簡素であり鍛造等で成形することが容易であるとともに、誘起スラスト力を増大させる一因であるスライド抵抗を低減し得る構成を提案している。スライド抵抗が低減することにより、振動や異音が低減すると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は特に特許文献2記載の技術に関連してなされたもので、保持部とローラとの接触荷重を安定させることが可能であり、このためにローラの回転が促進されて該ローラと案内溝の壁面との摩擦抵抗が低減する等速ジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明の一実施形態によれば、第1伝達軸と第2伝達軸の間に介在し、前記第1伝達軸から前記第2伝達軸へ回転駆動力を伝達する等速ジョイントにおいて、
互いに所定間隔で離間し且つ軸線方向に沿って延在する複数個の案内溝が内方側壁に形成され、前記第1伝達軸に連結されるアウタ部材と、
円環状部から前記案内溝に指向して突出し、前記円環状部側の端部を基端、前記案内溝側の端部を先端とする保持部を有し、前記第2伝達軸に連結されて前記アウタ部材の内部に挿入されるインナ部材と、
前記保持部に回転可能に装着されるとともに、内側ローラと、転動部材を介して内側ローラの外方に装着された外側ローラとを有するローラ組立体と、
を具備し、
前記保持部に、前記内側ローラの内周壁に対して当接する接触部位と、離間する非接触部位とがそれぞれ複数個設けられ、且つ接触部位と非接触部位とが交互に配置され、
前記接触部位は、少なくとも、仮想接線が前記案内溝の長手方向と平行となり互いの位相差が180°である第1平行部位及び第2平行部位と、該接触部位における仮想接線が前記案内溝の長手方向に対して直交し互いの位相差が180°である第1直交部位及び第2直交部位であり、
前記第1平行部位、前記保持部の径方向中心、前記第2平行部位を通る正面断面では、前記第1平行部位及び前記第2平行部位の側壁が直線形状をなし、
且つ前記第1直交部位、前記保持部の径方向中心、前記第2直交部位を通る側面断面では、前記第1直交部位及び前記第2直交部位の側壁が曲面形状をなし、
前記第1伝達軸と前記第2伝達軸が同一軸線上に位置した状態の、前記第1直交部位及び前記第2直交部位の各側壁の、前記内側ローラの内周壁に対して当接する箇所を頂部、該第1直交部位及び該第2直交部位の前記曲面中の前記基端側から前記頂部に向かって延在する曲面を第1曲面、前記頂部から前記先端側に向かって延在する曲面を第2曲面とするとき、前記第2曲面の曲率半径が前記第1曲面の曲率半径に比して大である等速ジョイントが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、保持部の、径が最大である頂部から先端側に向かって延在する第2曲面の曲率半径が、基端側から頂部に向かって延在する第1曲面の曲率半径に比して大きく設定される。このため、第2伝達軸が第1伝達軸に対して所定のジョイント角をなすように傾斜した場合、特に位相角が高角であるときに、第1直交部位の第1曲面又は第2曲面と、第2直交部位の第2曲面又は第1曲面とが内側ローラの内周壁に当接する。
【0011】
従って、等速ジョイントにおいて接触荷重が安定する。その結果、案内溝内でローラ組立体の回転が促進される。しかも、第1直交部位及び第2直交部位が内側ローラの内周壁に当接するので、ローラ組立体が案内溝に対して平行な姿勢となる。以上のような理由から、ローラ組立体と案内溝の壁面との摩擦抵抗が低減する。これによりスライド抵抗が低減することから、誘起スラスト力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る等速ジョイントの概略分解斜視図である。
【
図2】
図1の等速ジョイントの概略正面断面図である。
【
図3】ローラ組立体が装着されたトラニオン(保持部)の平面図である。
【
図4】ローラ組立体を分解状態としてトラニオンとともに示した分解斜視図である。
【
図7】
図3中のVII-VII線矢視断面図である。
【
図8】直径が均等である一般的な保持部を有するインナ部材の位相角に対する姿勢の変化を示す概略フローである。
【
図9】
図4~
図7に示す保持部を有するインナ部材の位相角に対する姿勢の変化を示す概略フローである。
【
図10】本実施の形態に係る等速ジョイントの保持部の位相角と、接触荷重との関係を示すグラフである。
【
図11】位相角が0°~360°間で変化したときの、第1直交部位又は第2直交部位の接触範囲を角度で表したグラフである。
【
図12】本実施の形態に係る等速ジョイント、及び一般的な等速ジョイントの誘起スラスト力と、ジョイント角との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る等速ジョイントにつき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1及び
図2は、それぞれ、本実施の形態に係る等速ジョイント10の概略分解斜視図、概略正面断面図である。この等速ジョイント10は、アウタ部材12とインナ部材14を有する。なお、
図1中の矢印Xはアウタ部材12の幅方向を表し、矢印Yは長手方向を表す。X方向とY方向は、互いに直交する。
【0015】
アウタ部材12は有底円筒形状のカップ部16を有し、該カップ部16の内壁には、3本の案内溝18が120°の位相差となるように設けられている。各案内溝18は、カップ部16の一端で開口するとともに、カップ部16の長手方向に沿って底壁まで延在する。また、底壁の外方には、アウタ部材12の長手方向に沿って延在する軸部20(第1伝達軸)が設けられる。該軸部20は、例えば、図示しないミッションの回転軸に連結され、その回転駆動力を、カップ部16及びインナ部材14を介して第2伝達軸22に伝達する。
【0016】
一方、インナ部材14は、円盤形状体に貫通孔24が形成されることでリング形状をなす円環状部26と、該円環状部26の側壁に突出形成された3本のトラニオン28(保持部)とを有する。なお、前記貫通孔24は、カップ部16及び第2伝達軸22の延在方向に沿う方向に延在するように形成される。この貫通孔24の内壁には、該貫通孔24の軸線方向に沿って延在するスプライン30が設けられる。以下、トラニオン28の、円環状部26に近接する側の端部、離間する側(案内溝18に近接する側)の端部を、それぞれ、基端部、先端部と表記することもある。また、基端部から先端部に向かう方向、又はその逆方向を「軸線方向」とも指称する。
【0017】
このスプライン30には、貫通孔24に前記第2伝達軸22の先端部が通される際、該第2伝達軸22の側周壁に設けられたスプライン32が噛合する。このようにしてスプライン30、32同士が噛合されることにより、第2伝達軸22とインナ部材14が連結される。
【0018】
隣接するトラニオン28同士は互いに120°で離間しており、従って、トラニオン28同士の位相差は、案内溝18同士の位相差と一致する。そして、各トラニオン28は、案内溝18に向かって延在する。また、各トラニオン28には、ローラ組立体38が回転自在に装着される。
【0019】
図3は、ローラ組立体38が装着されたトラニオン28の平面図であり、
図4は、ローラ組立体38を分解状態としてトラニオン28とともに示した分解斜視図である。なお、
図3及び
図4中のX方向、矢印Y方向は、
図1中のX方向、Y方向に対応する。
【0020】
トラニオン28の形状につき詳述すると、トラニオン28は、第1凸部40、第1凹部42、第2凸部44、第2凹部46、第3凸部48、第3凹部50、第4凸部52及び第4凹部54が連なることで形成される。すなわち、この場合、凸部と凹部が交互に配置されており、従って、トラニオン28の側壁は、径方向に沿って起伏している。この起伏により、該トラニオン28は、平面視で略十字形状をなす(
図3参照)。第1凸部40と第3凸部48は回転対称形状の関係にあり、互いの位相差は180°である。同様に、第2凸部44と第4凸部52も回転対称形状の関係にあり、互いの位相差は180°である
【0021】
トラニオン28は、第1凸部40、第2凸部44、第3凸部48及び第4凸部52の湾曲した側面のみが、ローラ組立体38を構成する内側ローラ68の内周壁に当接する。一方、第1凹部42、第2凹部46、第3凹部50及び第4凹部54は、内側ローラ68の内周壁から離間する。すなわち、第1凸部40、第2凸部44、第3凸部48及び第4凸部52は、内側ローラ68の内周壁に当接する接触部位であり、第1凹部42、第2凹部46、第3凹部50及び第4凹部54は、内側ローラ68の内周壁から離間する(内周壁に当接しない)非接触部位である。
【0022】
図3に示すように、第1凸部40、第2凸部44、第3凸部48及び第4凸部52には、それぞれ、仮想接線M1、M2、M3、M4を引くことができる。第1凸部40の仮想接線M1、及び第3凸部48の仮想接線M3は、Y方向に平行となり、一方、第2凸部44の仮想接線M2、及び第4凸部52の仮想接線M4は、X方向に平行となる。X方向がY方向に直交することから、仮想接線M2、M4はY方向に直交する。
【0023】
このことから諒解されるように、第1凸部40及び第3凸部48は、各仮想接線M1、M3が案内溝18の長手方向と平行となる第1平行部位、第2平行部位である。一方、第2凸部44及び第4凸部52は、各仮想接線M2、M4が案内溝18の長手方向と直交する第1直交部位、第2直交部位である。結局、トラニオン28においては、第1平行部位である第1凸部40、第2平行部位である第3凸部48、第1直交部位である第2凸部44、第2直交部位である第4凸部52が内側ローラ68の内周壁に当接する。
【0024】
図5~
図7は、それぞれ、
図3中のV-V線矢視断面図、VI-VI線矢視断面図、VII-VII線矢視断面図である。なお、
図3に示すように、全ての線はトラニオン28の径中心である中心点Oを通っている。また、
図5からも、非接触部位である第2凹部46及び第4凹部54が内側ローラ68の内周壁に対して離間していることが諒解される。
【0025】
図6に示すように、第1凸部40(第1平行部位)及び第3凸部48(第2平行部位)は、円環状部26に近接する基端部から先端部に至るまで、略等径である。このため、第1凸部40、中心点O、第3凸部48を通るVI-VI線矢視断面、すなわち、正面断面では、第1凸部40及び第3凸部48の側壁は直線形状となる。
【0026】
一方、第2凸部44(第1直交部位)及び第4凸部52(第2直交部位)は、
図4に示すように、トラニオン28の軸線方向に沿って径が変化する。従って、第2凸部44、中心点O、第4凸部52を通るVII-VII線矢視断面、すなわち、側面断面では、
図7に示すように、第2凸部44及び第4凸部52の側壁は、円弧形状の曲面となる。
【0027】
軸部20、第2伝達軸22が同一軸線上に位置するとき(
図1参照)、トラニオン28の軸線方向は、案内溝18の延在方向であるY方向に略直交する(
図2参照)。このとき、第2凸部44、第4凸部52の、径が最大である部位が内側ローラ68の内周壁に当接する。以下、この接触部位を頂部と表記し、その参照符号を56とする。
【0028】
第2凸部44、第4凸部52の曲面は、頂部56を境界として第1曲面58と第2曲面60に区分される。第1曲面58は、基端から頂部56に向かう曲面であり、第2曲面60は、頂部56から先端に向かう曲面である。第2凸部44における第1曲面58の曲率中心は点P1であり、第2曲面60の曲率中心は点P2である。また、第4凸部52における第1曲面58の曲率中心は点P2であり、第2曲面60の曲率中心は点P1である。このように、第2凸部44における第1曲面58の曲率中心と、第4凸部52における第2曲面60の曲率中心は点P1で一致する。同様に、第2凸部44における第2曲面60の曲率中心と、第4凸部52における第1曲面58の曲率中心は、点P2で一致する。
【0029】
曲率中心P1から頂部56までの距離と、曲率中心P2から頂部56までの距離は互いに等しい。また、曲率中心P1から頂部56までの距離は、第1曲面58の曲率半径である。以下、第1曲面58の曲率半径をR1とし、曲率中心P1と曲率中心P2の間の距離をDとする。第2凸部44における第2曲面60の曲率半径R2は、曲率中心P2から第2凸部44の頂部56までの距離であるから、DとR1の和である。
【0030】
また、第4凸部52における第2曲面60の曲率半径R2は、曲率中心P1から第4凸部52の頂部56までの距離であるから、上記と同様にDとR1の和である。すなわち、曲率半径R1、R2、距離Dとの間には、以下の関係式が成り立つ。
R2=R1+D
この関係式から理解されるように、第2曲面60の曲率半径R2は、第1曲面58の曲率半径よりも大である。
【0031】
ローラ組立体38は、前記内側ローラ68と、複数本のニードルベアリング70を介して該内側ローラ68に外嵌される円筒状の外側ローラ72とを有する。本実施の形態において、内側ローラ68の内周壁は、
図4~
図7に示すように、高さ方向(軸線方向)中間部に向かうに従ってトラニオン28側に膨出するような円弧形状をなす。すなわち、内側ローラ68の内径は、高さ方向中間部で最小となる。以下、当該部位を最小内径部と表記し、その参照符号を73とする。この最小内径部73が、第1凸部40、第2凸部44、第3凸部48及び第4凸部52に当接する。
【0032】
外側ローラ72の内周壁には、環状溝74が形成される。この環状溝74にサークリップ76が嵌合されることにより、保持リング78が外側ローラ72内で位置決め固定される。前記複数本のニードルベアリング70は、この保持リング78と、外側ローラ72に形成されたフランジ部80とによって、外側ローラ72内に転動自在に保持されている。
【0033】
なお、図示しないが、カップ部16から第2伝達軸22に至るまでは、グリースを封入した継手用ブーツによって囲繞される。
【0034】
本実施の形態に係る等速ジョイント10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0035】
等速ジョイント10は、例えば、四輪自動車の車体に設けられ、内燃機関やモータの回転駆動力を走行輪(タイヤ)に伝達する媒体として機能する。そして、軸部20に前記回転駆動力が入力されると、軸部20、ひいてはアウタ部材12が回転を開始する。さらに、回転駆動力は、アウタ部材12の案内溝18に係合したトラニオン28を介してインナ部材14に伝達され、その後、インナ部材14が外嵌された第2伝達軸22に伝達される。その結果、該第2伝達軸22が軸部20(第1伝達軸)と同一方向に回転する。
【0036】
また、第2伝達軸22がその軸線方向に沿って変位した場合には、ローラ組立体38が、案内溝18に拘束された状態で該案内溝18に沿って摺動する。
【0037】
自動車の進行方向を変更するべく運転者によってステアリングホイールが操舵されると、第2伝達軸22が軸部20に対して傾斜する。このときの軸部20と第2伝達軸22の交差角度は、ジョイント角として定義される。また、第2伝達軸22が傾斜することから、インナ部材14がアウタ部材12に対して相対的に傾斜する(
図9参照)。等速ジョイント10は、この状態で回転する。以下、例えば、
図2に示されるように、3個の案内溝18中の任意の1個が鉛直方向の最高点(上死点)に位置するときを初期位相、すなわち、0°とし、初期位相からの回転角度を位相角と表す。要するに、等速ジョイント10が1/4回転、1/2回転したときの位相角は、それぞれ、90°、180°である。
【0038】
図8に、直径が均等な球形状をなす一般的なトラニオン28aが、ジョイント角が12°であるときに位相角0°、90°、180°に位置した際の姿勢を示す。この構成では、位相角が0°~90°の範囲内である場合には、トラニオン28aの曲面と内側ローラ68の最小内径部73とが容易に接触する。なお、トラニオン28aの曲面の中で最小内径部73に対する当接箇所は、0°では接点Q2’、90°では頂部56aである。
【0039】
一方、位相角が90°を超えると、270°を超えるまでは、トラニオン28aの曲面が最小内径部73に対して接触し難くなる。例えば、位相角が180°であるときには、最小内径部73と、トラニオン28aの曲面の中で最小内径部73に対向する点Q4’とが若干離間する。
【0040】
位相角270°におけるトラニオン28aの姿勢は、90°と略同様である。位相角が270°を超えて360°に向かう(0°に戻る)とき、トラニオン28aの側壁、特に頂部56aの近傍が最小内径部73を押し上げることがあり得る。このような事態が発生すると、ローラ組立体38がトラニオン28aに対して傾斜する。すなわち、ローラ組立体38が案内溝18に対して傾斜した姿勢となる。
【0041】
このとき、ローラ組立体38の一部が案内溝18の内壁等に局所的に当接することがある。この当接により、ローラ組立体38が案内溝18に沿って円滑に摺動することが困難となるので、回転抵抗が大きくなる。その結果として、ローラ組立体38が案内溝18に沿って移動すること、ひいてはインナ部材14がカップ部16の有底穴から突出又は挿入される方向に移動することに対して抵抗が生じる。すなわち、いわゆる誘起スラスト力が発生する。
【0042】
次に、
図9に、本実施の形態に係る等速ジョイント10を構成するトラニオン28が、ジョイント角が12°であるときに位相角0°、90°、180°に位置した際の姿勢を示す。この場合、位相角が90°となったときにトラニオン28の第2凸部44、第4凸部52の曲面における頂部56が、内側ローラ68の最小内径部73に接触する。
【0043】
上記したように、第2凸部44の第1曲面58、第2曲面60のそれぞれの曲率中心は点P1、P2であり、第4凸部52の第1曲面58、第2曲面60のそれぞれの曲率中心は点P2、P1である。このため、第2曲面60の曲率半径R2が、第1曲面58の曲率半径R1と、曲率中心P1、P2間の距離Dとの和となる。そして、位相角90°では、最小内径部73に接触した頂部56同士の間の距離L1は、第2凸部44における第1曲面58の曲率半径R1、曲率中心P1、P2間の距離D、第4凸部52における第1曲面58の曲率半径R1の総和となる。すなわち、下記の関係式が成り立つ。
L1=R1+D+R1
【0044】
式中の(R1+D)は、R2に等しい。結局、L1は、R1、R2を用いて下記のように定義される。
L1=R2+R1
【0045】
位相角が0°であるとき、第2凸部44では第2曲面60の接点Q1、第4凸部52では第1曲面58の接点Q2が最小内径部73に接触する。接点Q1、Q2はいずれも、点P2を曲率中心とする円弧の一部であるから、接点Q1、Q2間の距離L2は、R2とR1の和である。従って、L2=L1が導き出される。
【0046】
また、位相角が180°であるとき、第2凸部44では第1曲面58の接点Q3、第4凸部52では第2曲面60の接点Q4が最小内径部73に接触する。接点Q3、Q4は双方とも、点P1を曲率中心とする円弧の一部である。従って、接点Q3、Q4間の距離L2’は、R1とR2の和である。すなわち、L2とL2’は互いに等しく、また、L1とも等しい。結局、L2=L1=L2’が成り立つ。
【0047】
以上のように、本実施の形態では、位相角の値に拘わらず、第2凸部44における最小内径部73に対する接点と、第4凸部52における最小内径部73に対する接点とが等しくなる。すなわち、位相角が変化する間、換言すれば、等速ジョイント10が回転する間、第2凸部44、第4凸部52、さらには、第1凸部40、第3凸部48が最小内径部73に接触した状態が保たれる。このため、接触荷重が安定する。
【0048】
図10は、トラニオン28a、28における位相角と接触荷重との関係を示したグラフである。この
図10から、特に位相角が大きい領域で、トラニオン28における接触荷重がトラニオン28aに比して安定していることが分かる。この理由は、
図10中に「曲面接触範囲」としても表したように、トラニオン28では第2凸部44、第4凸部52が位相角に拘わらずに最小内径部73に接触するのに対し、トラニオン28aでは第2凸部44、第4凸部52が最小内径部73に接触しない領域があるからであると推察される。
【0049】
図8及び
図9は、ジョイント角が12°である場合であるが、6°、8°、10°の場合において、位相角が0°から360°まで変化した(換言すれば、等速ジョイント10が1回転した)ときの第2凸部44、又は第4凸部52の、最小内径部73に対する接触範囲を、12°の場合と併せ、角度として
図11に示す。例えば、接触範囲が300°である場合、位相角が0°から360°に変化する間の300°にわたって第2凸部44、又は第4凸部52が最小内径部73に接触していたことを表す。
【0050】
この
図11から、ジョイント角の値に拘わらず、トラニオン28における第2凸部44又は第4凸部52の最小内径部73に対する接触範囲が、トラニオン28aに比して大きいことが明らかである。
【0051】
しかも、本実施の形態においては、
図9に示すように、第2凸部44、第4凸部52の最小内径部73に対する接点同士の間の距離が、位相角に拘わらず等しくなる。このため、第2凸部44、第4凸部52が最小内径部73を押し上げることが回避される。従って、ローラ組立体38の回転抵抗が大きくなることが回避される。
【0052】
加えて、第2凸部44、第4凸部52が最小内径部73に接触するので、ローラ組立体38が案内溝18に対して平行な姿勢が維持されるとともに、軸部20の駆動力がインナ部材14のトラニオン28及びローラ組立体38を介してアウタ部材12、さらには第2伝達軸22に伝達される。これにより、スライド抵抗が小さく、しかも、耐久性に優れた等速ジョイント10が構成される。
【0053】
トラニオン28を有する等速ジョイント10、トラニオン28aを有する一般的な等速ジョイントの誘起スラスト力を、ジョイント角との関係でグラフとして
図12に示す。この
図12から、本実施の形態に係る等速ジョイント10では、大部分のジョイント角において、一般的な等速ジョイントに比して誘起スラスト力が小さくなることが分かる。この理由として、トラニオン28では上記したようにトラニオン28aに比してスライド抵抗が低減するので、その分、誘起スラスト力が低減したことが挙げられる。
【0054】
本発明は、上記した実施の形態に特に限定されるものではなく、その主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0055】
例えば、第1凸部40と第2凸部44との間、第2凸部44と第3凸部48との間、第3凸部48と第4凸部52との間、及び第4凸部52と第1凸部40との間等にさらなる凸部を設け、内側ローラ68とトラニオン28との接触箇所を増加させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10…等速ジョイント 12…アウタ部材
14…インナ部材 16…カップ部
18…案内溝 22…第2伝達軸
26…円環状部 28…トラニオン
38…ローラ組立体 40、44、48、52…凸部
42、46、50、54…凹部 56…頂部
58…第1曲面 60…第2曲面
68…内側ローラ 70…ニードルベアリング
72…外側ローラ 73…最小内径部
M1~M4…仮想接線 P1、P2…曲率中心
R1、R2…曲率半径