(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】熱硬化樹脂成形体の損傷個所の修復方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/00 20060101AFI20231207BHJP
B29C 73/00 20060101ALI20231207BHJP
C08G 59/20 20060101ALI20231207BHJP
C08L 61/04 20060101ALI20231207BHJP
C08L 61/28 20060101ALI20231207BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20231207BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20231207BHJP
B29K 63/00 20060101ALN20231207BHJP
【FI】
C08J5/00 CFC
B29C73/00
C08G59/20
C08L61/04
C08L61/28
C08L63/00 Z
C08L101/00
B29K63:00
(21)【出願番号】P 2020057461
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080609
【氏名又は名称】大島 正孝
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(72)【発明者】
【氏名】畳開 真之
(72)【発明者】
【氏名】野村 晃久
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-196921(JP,A)
【文献】特開2017-201027(JP,A)
【文献】特開2012-211255(JP,A)
【文献】特開2015-160867(JP,A)
【文献】木村肇,炭素繊維強化複合材料用新規熱硬化性マトリックス樹脂の創製およびその分子設計,ネットワークポリマー論文集,2019年,Vol.40 No.5,p.216-p.222
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 73/00-73/34
C08G 4/00-16/06
C08G 59/00-59/72
C08J 5/00-5/24
C08K 3/00-13/8
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化樹脂成形体(X)の損傷個所を修復する方法であって、
(i)熱硬化樹脂成形体(X)は、熱硬化性化合物(A成分)
としてエポキシ樹脂を下記式(
b)で表されるアルキニル基を有する化合物(B成分)の存在下で加熱成形したものであり、
【化1】
(式
(b)中、R
1
は、炭素数1~6のアルキル基で置換されていても良い、炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。R
3
は炭素数2~10の炭化水素基である。)
(ii)熱硬化樹脂成形体(X)の損傷個所を300~400℃で加熱して修復する、
ことを特徴とする前記修復方法。
【請求項2】
熱硬化性化合物(A成分)は、下記式(a)で表されるエポキシ樹脂である請求項1記載の方法。
【化2】
(式(a)中、R
2は炭素数6~20の炭化水素基、Nは、0~10である。)
【請求項3】
熱硬化樹脂成形体(X)は、150~280℃で加熱成形したものである請求項1記載の方法。
【請求項4】
熱硬化性化合物(A成分)
としてエポキシ樹脂を下記式(
b)
【化3】
(式
(b)中、R
1
は、炭素数1~6のアルキル基で置換されていても良い、炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。R
3
は炭素数2~10の炭化水素基である。)
で表されるアルキニル基を有する化合物(B成分)の存在下で加熱成形した、
修復機能を有する熱硬化樹脂成形体(X)。
【請求項5】
式(
b)で表されるアルキニル基を1000~3000eq/ton含む請求項
4記載の熱硬化樹脂成形体(X)。
【請求項6】
請求項
4記載の熱硬化樹脂成形体(X)の損傷個所を300~400℃で加熱した修復体(Y)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化樹脂成形体の損傷個所を修復する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂などに代表される熱硬化性化合物を加熱し、熱硬化した熱硬化樹脂は、成形性、耐熱性、機械強度などから炭素繊維複合材料、ガラス繊維複合材料等のマトリクス樹脂として用いられる。しかしながら熱硬化樹脂は成形後の流動性に乏しいため成形体に亀裂、破損などの損傷が生じた場合、修復することは困難である。
非特許文献1(Polymer Degradation and Stability 122 (2015) 66-76)には、エポキシ樹脂を熱硬化した熱硬化樹脂の耐熱性について検討されているが、熱硬化樹脂成形体の修復性に関する検討はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】PolymerDegradation and Stability 122 (2015) 66-76)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の目的は、熱硬化樹脂成形体の損傷個所を修復する方法を提供することにある。
本発明者は、熱硬化樹脂成形体に成形時の硬化温度以上の高温での架橋反応性構造を導入する方法について鋭意検討した。その結果、熱硬化性化合物を特定構造のアルキニル基を有する化合物の存在下で、加熱成形した熱硬化樹脂成形体を、成形時の加熱温度以上で加熱すると、アルキニル基が反応し架橋構造が形成されることにより熱硬化性化合物成形体の損傷個所が修復されることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本
発明は、熱硬化樹脂成形体(X)の損傷個所を修復する方法であって、
(i)熱硬化樹脂成形体(X)は、熱硬化性化合物(A成分)
としてエポキシ樹脂を下記式(
b)で表されるアルキニル基を有する化合物(B成分)の存在下で加熱成形したものであり、
【化1】
(式
(b)中、R
1
は、炭素数1~6のアルキル基で置換されていても良い、炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。R
3
は炭素数2~10の炭化水素基である。)
(ii)熱硬化樹脂成形体(X)の損傷個所を300~400℃で加熱して修復する、
ことを特徴とする前記修復方法である。
【0006】
また本発明は、熱硬化性化合物(A成分)
としてエポキシ樹脂を下記式(
b)
【化2】
(式
(b)中、R
1
は、炭素数1~6のアルキル基で置換されていても良い、炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。R
3
は炭素数2~10の炭化水素基である。)
で表されるアルキニル基を有する化合物(B成分)の存在下で加熱成形した、
修復機能を有する熱硬化樹脂成形体(X)である。
また本発明は、前記熱硬化樹脂成形体(X)の損傷個所を300~400℃で加熱した修復体(Y)である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、損傷個所を加熱することにより、熱硬化樹脂成形体(X)の損傷個所を修復することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<修復方法>
本発明は、熱硬化樹脂成形体(X)の損傷個所を修復する方法である。熱硬化樹脂成形体(X)は、熱硬化性化合物(A成分)を下記式(1)で表されるアルキニル基を有する化合物(B成分)の存在下で加熱成形したものである。
【0009】
(熱硬化性化合物(A成分))
熱硬化性化合物(A成分)には、熱硬化性樹脂などの高分子化合物や、メラミンなどの重縮合により、架橋する化合物が含まれる。熱硬化性化合物(A成分)として、エポキシ樹脂、メラミン、フェノール樹脂などが挙げられる。熱硬化性化合物(A成分)は、下記式(a)で表されるエポキシ樹脂であることが好ましい。
【化1】
式(a)中、R
2は炭素数6~20の炭化水素基、nは、0~10である。R
2は具体的には以下の構造を例示することが出来る。
【化2】
【0010】
(B成分)
B成分は、下記式(1)で表されるアルキニル基(alkynyl)を有する化合物である。
―C≡C―R
1 (1)
式中R
1は、炭素数1~6のアルキル基で置換されていても良い、炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。R
1の芳香族炭化水素基として、アリール基が挙げられる。アリール基として、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。芳香族炭化水素基は、置換基を有していても良い。置換基の炭素原子数1~6のアルキル基として、メチル基、エチル基などが挙げられる。
B成分は、下記式(b)で表される酸無水物であることが好ましい。B成分は、硬化剤としての機能を有する。
【化3】
(式(b)中、式中R
1は、炭素数1~6のアルキル基で置換されていても良い、炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。R
3は炭素数2~10の炭化水素基である。)
R
3として、無水フタル酸由来のベンゼントリイル基、無水コハク酸由来のエタントリイル基、無水マレイン酸由来のエテントリイル基などが挙げられる。
式(b)で表される好ましい化合物として、以下の(b-1)式で表されるような無水フタル酸のベンゼン環に、フェニル基で置換されたエチニル基(ethynyl基)が置換した4-フェニルエチニル無水フタル酸を挙げることが出来る。
【化4】
【0011】
A成分とB成分のモル比A/Bは、0.2~5であることが好ましい。A成分あたりのB成分の量が少ないと硬化物の物性が不十分となりやすい。一方、B成分が多すぎる、やはり得られる硬化物の物性が不十分となりやすい。A/Bは、より好ましくは0.3~2、さらに好ましくは0.4~1.0である。
【0012】
熱硬化樹脂成形体(X)は、熱硬化性化合物(A成分)をB成分の存在下に加熱成形することにより製造出来る。加熱温度は、好ましくは150℃~280℃、より好ましくは180℃~250℃である。
【0013】
(エポキシ樹脂)
熱硬化性化合物(A成分)として、下記式(a)で示すエポキシ樹脂を用い、B成分として下記式(b)で示す酸無水物を用いる場合、熱硬化樹脂成形体(X)は、スキーム1に示す反応により製造することができる。
【0014】
【0015】
(メラミン)
熱硬化性化合物(A成分)として、下記式で示すメラミンを用い、B成分として式(b)で示す酸無水物を用いる場合、熱硬化樹脂成形体(X)は、スキーム2に示す反応により製造することができる。すなわち、メラミンとホルムアルデヒドとを反応させヘキサメチロールメラミンを生成させ、ヘキサメチロールメラミンと式(b)で示す酸無水物とを反応させることにより、架橋した熱硬化樹脂成形体(X)を製造することが出来る。
【0016】
【0017】
(フェノール樹脂)
熱硬化性化合物(A成分)として、下記式で示すフェノール樹脂を用い、B成分として式(b)で示す酸無水物を用い、下記のスキーム3により架橋した熱硬化樹脂成形体(X)を製造することが出来る。
【0018】
【0019】
また本発明の熱硬化樹脂成形体(X)は,炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などと組み合わせることで繊維強化樹脂成形体を製造することが出来る。
【0020】
(修復)
熱硬化樹脂成形体(X)の亀裂部や破談部などの損傷個所は、該損傷個所を300~400℃で加熱することにより修復することができる。加熱は好ましくは330℃~380℃、より好ましくは340~360℃である。加熱温度は、熱硬化樹脂成形体(X)の作製時の温度より高温であることが好ましい。
修復時の詳細なメカニズムは不明であるが、下記スキーム4で表されるように、近接する芳香族アセチレン構造の架橋反応により、芳香族環が形成され、損傷個所が再構築されるものと考えられる。修復反応の進行はIRスペクトルにより2200cm-1付近のアルキン由来の吸収ピークの低減により確認することが出来る。
【0021】
【0022】
<熱硬化樹脂成形体(X)>
本発明は、熱硬化性化合物(A成分)を下記式(1)
―C≡C―R1 (1)
(式中R1は、炭素数1~6のアルキル基で置換されていても良い、炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。)
で表されるアルキニル基を有する化合物(B成分)の存在下で加熱成形した、
修復機能を有する熱硬化樹脂成形体(X)を包含する。
熱硬化樹脂成形体(X)中の式(1)で表されるアルキニル基の含有量は、好ましくは1000~3000eq/ton、より好ましくは2000~2800eq/tonである。
【0023】
<修復体(Y)>
本発明は、上記熱硬化樹脂成形体(X)の損傷個所を300~400℃で加熱した修復体(Y)を包含する。本発明は繊維強化樹脂成形体の修復体(Y)も含まれる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
<参考例1>熱硬化樹脂成形体(X)の製造
0.9重量部の下記式(a)で表される構造を有する三菱ケミカル製エポキシ樹脂jER825に対し、4-フェニルエチニル無水フタル酸1.31重量部を加え200℃で60分、220℃で90分加熱し、厚み0.74mmのシート状の熱硬化樹脂成形体(X)を得た。アルキニル基の含有量は、2388eq/tonであった。
【化9】
【0025】
<実施例1> 熱硬化樹脂修復体(Y)の製造
参考例1で得られた熱硬化樹脂成形体(X)のシート状樹脂成形体片を2枚重ね350℃で90分荷重下加熱処理を行った。得られた黒色上の樹脂片は接合が認められた。またIRスペクトルからは2200cm-1付近のC≡C結合由来のピークは観察されず、アルキニル基の反応の進行が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明方法は、亀裂、破損などの損傷が生じた熱硬化樹脂の修復に用いることができる。