(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】鋳造装置
(51)【国際特許分類】
B22C 9/06 20060101AFI20231207BHJP
B22C 9/24 20060101ALI20231207BHJP
B22D 17/00 20060101ALI20231207BHJP
B22D 17/22 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B22C9/06 P
B22C9/24 A
B22D17/00 C
B22D17/22 B
B22D17/22 G
(21)【出願番号】P 2020059358
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】野原 庸平
(72)【発明者】
【氏名】臼▲崎▼ 賢佑
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-024431(JP,A)
【文献】特開2016-215208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/00,9/06,9/24
B22D 17/00,17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と、前記固定型に対して接近又は離間する可動型とを備え、前記固定型と前記可動型でシリンダブロックを得るためのキャビティを形成する鋳造装置において、
前記シリンダブロックにシリンダボアを形成するためのボア形成用中子と、
前記ボア形成用中子を外周側から囲繞し、前記シリンダボアの周囲にウォータジャケットを形成するためのウォータジャケット形成用中子と、
前記ボア形成用中子と前記ウォータジャケット形成用中子とを一体的に、前記キャビティに対して接近又は離間する方向に変位させるアクチュエータと、
前記ボア形成用中子と前記ウォータジャケット形成用中子との間の間隙に配設され、前記間隙を、前記キャビティに近接する近接側部分と、前記キャビティから離間する離間側部分とに区分するシール部材と、
前記近接側部分のガスを、前記ボア形成用中子に形成された流通路を介して吸引する吸引機と、
を備え、
前記ボア形成用中子は、前記近接側部分に臨み且つ前記キャビティ内の溶湯から常時露呈する近位部と、前記離間側部分に臨む遠位部と、前記近位部から前記キャビティに向かって突出し、前記キャビティ内の溶湯に埋没するボア形成部とを有し、
前記流通路が、前記近位部の外面に形成された第1開口と、前記遠位部の外面に形成されて前記吸引機に接続される第2開口とを有し、
前記第1開口が、前記間隙の前記近接側部分に開口する、鋳造装置。
【請求項2】
請求項1記載の鋳造装置において、前記ボア形成用中子は、前記ボア形成用中子の中心軸線が鉛直方向に対して交差するように配置されており、
前記ボア形成用中子の、前記中心軸線に垂直な断面であって前記第1開口を含む断面において、前記第1開口は、前記中心軸線を通る水平な直線よりも上方に位置する、鋳造装置。
【請求項3】
請求項1
又は2記載の鋳造装置において、前記第1開口が前記シール部材の近傍に形成されている鋳造装置。
【請求項4】
請求項1
~3のいずれか1項に記載の鋳造装置において、前記離間側部分から前記流通路を介して前記近接側部分にブロー流体を供給する流体供給機をさらに備える鋳造装置。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の鋳造装置において、前記第1開口が前記近位部の側壁に形成されるとともに、前記流通路が、前記ボア形成用中子の内部から前記第1開口に向かう傾斜路を含み、前記傾斜路は、前記遠位部側から前記近位部側に向かう方向に傾斜した鋳造装置。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の鋳造装置において、前記ボア形成用中子及び前記ウォータジャケット形成用中子を複数個備え、隣接する前記ボア形成用中子がV字形状をなす鋳造装置。
【請求項7】
請求項
6記載の鋳造装置において、隣接する前記ボア形成用中子同士が上下方向に沿って配置された鋳造装置。
【請求項8】
請求項
7記載の鋳造装置において、前記ボア形成用中子の前記遠位部が前記近位部に比して大径であり、且つ該遠位部の下部が前記ウォータジャケット形成用中子の内壁に当接するとともに、上部が前記ウォータジャケット形成用中子の内壁から離間する一方、前記近位部の側壁が全周にわたって前記ウォータジャケット形成用中子の内壁から離間する鋳造装置。
【請求項9】
請求項
8記載の鋳造装置において、前記近位部の下部と前記ウォータジャケット形成用中子の内壁との離間距離が、該近位部の上部と前記ウォータジャケット形成用中子の内壁との離間距離よりも小さい鋳造装置。
【請求項10】
請求項
9記載の鋳造装置において、該近位部の上部と前記ウォータジャケット形成用中子の内壁との離間距離が50μm以下である鋳造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックを得るための鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内燃機関の1種として、シリンダブロックに形成された複数個のシリンダボアの中の互いに隣接するもの同士がV字形状をなす、いわゆるV型のものが知られている。また、シリンダボアの周囲には、冷却水の通路であるウォータジャケットが形成されることが一般的である。このようなシリンダボア及びウォータジャケットが形成されたシリンダブロックは、例えば、特許文献1に記載されるような鋳造装置を用いて鋳造を行うことで得られる。
【0003】
この場合、鋳造装置は、位置決め固定された固定型と、該固定型に対して接近又は離間する可動型と、シリンダボアを形成するためのボア形成用中子と、ウォータジャケットを形成するためのウォータジャケット形成用中子とを備える。固定型と可動型により、キャビティが形成される。また、ボア形成用中子及びウォータジャケット形成用中子は、可動型を支持する可動盤に設けられる。
【0004】
特許文献2に記載されるように、ウォータジャケット形成用中子は、ボア形成用中子の外周側を囲繞するように設けられる。ここで、可動盤には、ボア形成用中子及びウォータジャケット形成用中子を一体的に変位させるアクチュエータが支持される。アクチュエータは、ボア形成用中子及びウォータジャケット形成用中子よりもキャビティから離間した位置に配設され、両中子をキャビティに対して向かって前進させる一方、キャビティから後退させる。換言すれば、ボア形成用中子及びウォータジャケット形成用中子は、アクチュエータの作用下に、キャビティに対して一体的に接近又は離間する。
【0005】
鋳造を行うときには、型閉じに先んじ、固定型、可動型、ボア形成用中子及びウォータジャケット形成用中子に離型材が塗布(例えば、スプレー塗布)される。この際に大気中に飛散した離型材が、可動盤とアクチュエータの間の間隙を介して鋳造装置内に侵入し、さらに、ボア形成用中子側に回り込むことが想定される。離型材がボア形成用中子からキャビティに侵入すると、キャビティ内の離型材が過剰量となる。
【0006】
これを回避するべく、特許文献1記載の技術では、ボア形成用中子(特許文献1においていう「ボアピン」)に圧縮エア用流通路を形成し、型開き状態でエアブローを行って離型材を吹き飛ばすことで、離型材がボア形成用中子を伝ってキャビティに侵入することを防止するようにしている。また、エアブローに代替し、ボア形成用中子の、キャビティに充填された溶湯に埋没しない部位にOリングを設け、ボア形成用中子とウォータジャケット形成用中子との間をシールすることも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実用新案登録第2510455公報
【文献】特開平8-132210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
キャビティに溶湯が充填される最中、キャビティ内のガスの大部分は、鋳造装置に形成されたベント孔から大気に排出される。しかしながら、ボア形成用中子とウォータジャケット形成用中子との間の間隙に存在するガスがベント孔に回り込むことは容易ではない。このため、ガスケット面の、シリンダボアの開口近傍等にガスが巻き込まれる。ガスの巻き込み量が過度に多いと鋳巣等の鋳造欠陥が形成され易くなるので、シリンダブロックの品質低下を招いてしまう。
【0009】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、溶湯にガスが巻き込まれることを回避し得、このために品質が良好なシリンダブロックを得ることが可能な鋳造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明の一実施形態によれば、固定型と、前記固定型に対して接近又は離間する可動型とを備え、前記固定型と前記可動型でシリンダブロックを得るためのキャビティを形成する鋳造装置において、
前記シリンダブロックにシリンダボアを形成するためのボア形成用中子と、
前記ボア形成用中子を外周側から囲繞し、前記シリンダボアの周囲にウォータジャケットを形成するためのウォータジャケット形成用中子と、
前記ボア形成用中子と前記ウォータジャケット形成用中子とを一体的に、前記キャビティに対して接近又は離間する方向に変位させるアクチュエータと、
前記ボア形成用中子と前記ウォータジャケット形成用中子との間の間隙に配設され、前記間隙を、前記キャビティに近接する近接側部分と、前記キャビティから離間する離間側部分とに区分するシール部材と、
前記近接側部分のガスを、前記ボア形成用中子に形成された流通路を介して吸引する吸引機と、
を備え、
前記ボア形成用中子は、前記近接側部分に臨み且つ前記キャビティ内の溶湯から常時露呈する近位部と、前記離間側部分に臨む遠位部と、前記近位部から前記キャビティに向かって突出し、前記キャビティ内の溶湯に埋没するボア形成部とを有し、
前記流通路が、前記近位部の外面に形成された第1開口と、前記遠位部の外面に形成されて前記吸引機に接続される第2開口とを有し、且つ、前記ボア形成用中子を側面視したとき、該ボア形成用中子の中心を通るとともに該ボア形成用中子の長手方向に沿って延在する仮想軸線よりも上方に位置する鋳造装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ボア形成用中子の所定箇所に形成される流通路により、キャビティに溶湯を充填する際、ボア形成用中子とウォータジャケット形成用中子との間の間隙に存在するガスを該間隙から除去することが可能となる。このため、溶湯にガスが巻き込まれることが回避されるので、鋳造製品であるシリンダブロックに鋳造欠陥が発生し難くなる。すなわち、シリンダブロックの品質が良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る鋳造装置の、型開き状態にあるときの概略縦断面図である。
【
図2】型閉じ状態にある鋳造装置の概略縦断面図である。
【
図3】鋳造装置を構成するボア形成用中子とウォータジャケット形成用中子の長手方向に沿う概略側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る鋳造装置につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下における「前」は、
図2に示すキャビティ22に近接する側を指す。また、「後」は、「前」とは逆方向、すなわち、キャビティ22から離間する側を指称する。
【0014】
図1及び
図2は、それぞれ、本実施の形態に係る鋳造装置10が型開き状態、型閉じ状態にあるときの要部概略縦断面図である。この鋳造装置10は、固定型12が設けられた固定盤14と、可動型16が設けられた可動盤18とを備える。可動盤18は、開閉用シリンダ20の作用下に、固定盤14に対して接近又は離間することが可能である。可動盤18が固定盤14に対して接近又は離間することにより、可動型16が固定型12に対して接近又は離間する。
【0015】
そして、型閉じ状態にある固定型12と可動型16により、
図2に示すキャビティ22が形成される。本実施の形態において、キャビティ22は、6気筒のV型内燃機関を構成するシリンダブロックを成形するためのものである。なお、可動盤18又は固定盤14の少なくともいずれか一方には、キャビティ22に溶湯が充填される際、該キャビティ22内のガスを大気に排出するためのベント孔(図示せず)が形成される。また、固定盤14には、図示しないエジェクタピンがキャビティ22に対して露呈又は退避可能に設けられる。
【0016】
可動盤18には、可動型16から放射状に延出する形状となるように第1摺動溝24及び第2摺動溝26が形成される。第1摺動溝24と第2摺動溝26は、横臥したV字形状をなすように連なる。第1摺動溝24と第2摺動溝26は、
図1及び
図2の紙面に垂直な方向に沿って並列するように3個ずつ形成されている。なお、
図1及び
図2では、3個の第1摺動溝24、第2摺動溝26の中の各1個が示されている。
【0017】
第1摺動溝24には、ボアピン変位用シリンダ30(アクチュエータ)が収容される。該ボアピン変位用シリンダ30を構成するロッドには、第1摺動溝24に沿って摺動する中子保持体32が連結される。
図3に示すように、中子保持体32のキャビティ22に臨む前端には、ボア形成用中子としてのボアピン34が設けられる。ボアピン34は、キャビティ22に近接する前端側から後端側に向かってボア形成部36、近位部38、遠位部40をこの順序で有する。この場合、ボア形成部36、近位部38、遠位部40の各々の直径は互いに相違する。具体的には、ボア形成部36が小径、遠位部40が大径であり、近位部38は遠位部40に比して若干小径である。
【0018】
近位部38からキャビティ22に向かって突出したボア形成部36は、キャビティ22内に溶湯が充填されたとき、溶湯に埋没する部位である。流動性がある程度消失した溶湯からボア形成部36が離脱することにより、シリンダボアが形成される。これに対し、近位部38及び遠位部40は、キャビティ22内の溶湯から常時露呈する。すなわち、近位部38及び遠位部40は、シリンダボアの形成に関与しない。
【0019】
ウォータジャケット形成用中子42の内径は、ボア形成部36及び近位部38に臨む部位で大きく、且つ遠位部40に臨む部位で小さく設定されている。そして、ボア形成部36及び近位部38の各側周壁(側壁)は、全周にわたってウォータジャケット形成用中子42の内周壁(内壁)から離間する。このため、ボアピン34の、ボア形成部36及び近位部38と、ウォータジャケット形成用中子42との間には間隙44が形成される。なお、以下では、ウォータジャケット形成用中子を「WJ用中子」と表記することもある。
【0020】
図3及び
図5に示すように、直径が最大である遠位部40の側周壁下部(側壁の下部)は、WJ用中子42の内周壁下部(内壁の下部)に当接する。この当接によってボアピン34がWJ用中子42に支持されることで、ボアピン34が位置決めされる。その一方で、遠位部40の側周壁上部(側壁の上部)は、
図4に示すようにWJ用中子42の内周壁上部(内壁の上部)から離間する。すなわち、前記間隙44の下部分は遠位部40の下部によって若干閉塞され、側方部分及び上部分は遠位部40の側方部及び上部によって狭小化される。
【0021】
遠位部40の側周壁には、周回方向に沿って第1環状溝46、第2環状溝48が形成される。これら第1環状溝46、第2環状溝48には、シール部材としての第1Oリング50、第2Oリング52が装着される。第1Oリング50、第2Oリング52は、ボアピン34の遠位部40の側周壁と、WJ用中子42の内周壁との間をシールする。
【0022】
ボアピン34の内部には、複数個(例えば、2個)の流通路56が形成される。個々の流通路56は、ボアピン34の遠位部40の、中子保持体32に臨む後端面から近位部38に向かって直線状に延在する内孔58と、近位部38の側周壁上部に向かって傾斜する傾斜路60とを含む(特に
図3参照)。傾斜路60は、遠位部40(後端)から近位部38(前端)側に向かうように傾斜し、近位部38の側周壁で開口する。このように、流通路56は、近位部38の側周壁に位置する第1開口62(特に
図4参照)と、遠位部40の後端面に位置する第2開口64(
図3参照)とを有する。なお、第1開口62は、第1Oリング50の近傍であり、且つ該第1Oリング50よりもボア形成部36に近接する前方の部位に形成される。
【0023】
図3には、ボアピン34を高さ方向に2分割する仮想軸線Xが示されている。この仮想軸線Xは、ボアピン34を側面視したとき、該ボアピン34の中心を通り且つ該ボアピン34の長手方向に沿って延在する。流通路56は、第1開口62、第2開口64を含めた全体が仮想軸線Xの上方に位置する。
【0024】
WJ用中子42の後端は、中子保持体32の前端に形成された嵌合凹部70に嵌合される。この嵌合と、必要に応じてWJ用中子42がボルト等を介して中子保持体32に連結されることとにより、WJ用中子42が中子保持体32に支持される。このように、中子保持体32には、ボアピン34とWJ用中子42の双方が支持される。従って、ボアピン変位用シリンダ30を構成するロッドが進退動作することに伴い、ボアピン34とWJ用中子42が中子保持体32とともに一体的に変位する。
【0025】
WJ用中子42は略円筒体形状をなし、ボアピン34を外周側から囲繞する。WJ用中子42はボアピン34に比して短寸であり、従って、ボアピン34のボア形成部36の一部はWJ用中子42の前端から露呈する。上記したように、WJ用中子42の内周壁と、ボアピン34の側周壁との間には間隙44が形成される。この間隙44は、第1Oリング50、第2Oリング52を境に、キャビティ22側に近接する近接側部分72と、キャビティ22から離間する離間側部分74とに区分される。
【0026】
第1Oリング50、第2Oリング52がボアピン34の遠位部40に設けられていることから、間隙44の近接側部分72が近位部38及びボア形成部36に臨む一方、離間側部分74が遠位部40に臨む。また、流通路56の第1開口62が近位部38に形成され且つ第2開口64が遠位部40に形成されていることから、流通路56は、近接側部分72から離間側部分74にわたって延在する。
【0027】
図1及び
図2に戻り、第2摺動溝26内にも、第1摺動溝24内と同様の構成が設けられている。従って、既述の構成要素と同一の構成要素には同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0028】
本実施の形態では、上下方向で隣接(ないし対向)するボアピン34同士が、横臥したV字形状をなすように傾斜している。すなわち、下方のボアピン34は前端が後端に比して高位置となるように傾斜しており、一方、上方のボアピン34は、後端が前端に比して高位置となるように傾斜している。なお、下方及び上方のボアピン34は、それぞれ、
図1及び
図2の紙面に垂直な方向に沿って3個ずつ並列配置されている。
【0029】
下方及び上方のボアピン34はいずれも、重力の影響を受け、第1環状溝46、第2環状溝48の延在方向に対して前端側が
上方に向かい且つ後端側が
下方に向かうように傾斜するような姿勢となる。このため、上記したようにボアピン34の遠位部40の側周壁下部がWJ用中子42の内周壁下部に当接する。また、ボアピン34の近位部38の側周壁とWJ用中子42の内周壁との間では、間隙44は、
図4に示すように、下部で小さく且つ上部で大きくなる。すなわち、下部側の離間距離D1は、上部側の離間距離D2に比して小である。
【0030】
近位部38の側周壁上部とWJ用中子42の近接側部分72の内周壁上部との離間距離D2は、50μm以下に設定される。なお、遠位部40の側周壁下部とWJ用中子42の内周壁下部とを当接させてボアピン34を位置決めしたことにより、離間距離D2を50μm以下と精度よく設定することができる。これにより、ボアピン34の近位部38の側周壁上部と、WJ用中子42の近接側部分72の内周壁上部とが十分に離間する。
【0031】
ボアピン34の各流通路56には、第2開口64を介して流通管76の前端がそれぞれ接続される。流通管76の後端は切替バルブ78に集束される。この切替バルブ78により、全ての流通管76が同時に、排気管80又は給気管82のいずれかに選択的に連通する。ここで、排気管80は、吸引機としての吸気ポンプ84に接続される。また、給気管82は、ブロー流体としての圧縮エアを供給する圧縮機86(流体供給機)に接続される。このため、吸気ポンプ84の作用下に間隙44内のガスを吸引することが可能であるとともに、圧縮機86の作用下に間隙44に圧縮エアを供給することが可能である。
【0032】
本実施の形態に係る鋳造装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその作用効果につき、鋳造装置10の動作との関係で説明する。なお、以下の動作は、基本的には、図示しない制御装置のシーケンス制御作用によって営まれる。
【0033】
鋳造作業に先んじ、
図1に示す型開き状態で固定型12、可動型16、ボアピン34、WJ用中子42等に離型材が塗布される。この塗布は、例えば、図示しないロボットの先端アームに設けられた塗布ガンから離型材を塗布する、スプレー塗布によってなされる。離型材の一部は大気中に霧状に飛散し、その後、鋳造装置10に付着する。
【0034】
そして、鋳造作業を実施するべく型閉じがなされる。すなわち、ボアピン変位用シリンダ30が付勢され、これによりボアピン34とWJ用中子42が中子保持体32と一体的に可動型16に接近する方向に変位する。ボアピン変位用シリンダ30が付勢された時点で、吸気ポンプ84を付勢するようにしてもよい。このとき、流通路56は、流通管76及び切替バルブ78を介して排気管80に連通している。
【0035】
次に、開閉用シリンダ20が付勢されることにより、可動盤18が固定盤14に向かって接近する。その結果、
図2に示すように可動型16と固定型12が合わさってキャビティ22が形成される。ここで、離型材の、鋳造装置10に付着した分が、可動盤18の内部に侵入して中子保持体32及びボアピン34を伝ってキャビティ22側に進行する可能性がある。しかしながら、そのような場合、第2Oリング52が離型材を堰き止める。従って、離型材がボアピン34の遠位部40よりも前方に進行することが阻害される。このため、キャビティ22内の離型材が過剰量となることが防止される。
【0036】
キャビティ22が形成された後、該キャビティ22に対して溶湯が充填される。溶湯が充填される最中、キャビティ22内のガスの大部分は、前記ベント孔を介してキャビティ22の外部の大気に排出される。
【0037】
また、ボアピン34の近位部38及びボア形成部36と、WJ用中子42との間の間隙44に存在するガスが、吸気ポンプ84の作用下に、流通路56の第1開口62を介して傾斜路60に吸引される。ここで、上記したように、ボアピン34の側周壁上部とWJ用中子42の内周壁上部との離間距離D2は、ボアピン34の側周壁下部とWJ用中子42の内周壁下部との離間距離D1に比して大きい。そして、流通路56は、ボアピン34の仮想軸線Xよりも上方に形成されることで、ボアピン34の上部側に偏倚している。このため、第1開口62の近傍では、ボアピン34の近位部38の側周壁上部と、WJ用中子42の近接側部分72の内周壁上部とが十分に離間する。従って、間隙44に存在するガスが容易に吸引される。
【0038】
ガスは、傾斜路60、内孔58の第2開口64を経て流通管76、排気管80を流通し、吸気ポンプ84を介して大気に排出される。本実施の形態では、流通路56の第1開口62が第1シール部材の近傍に形成されている。このため、間隙44に存在するガスがキャビティ22から離間する方向に円滑に流れるので、間隙44内でガスの渦流が生じることが抑制される。従って、ガスを間隙44から効率よく除去することができる。
【0039】
しかも、本実施の形態では、ボアピン34の近位部38の側周壁上部とWJ用中子42の近接側の内周壁上部との離間距離D2が50μm以下に設定される。また、ボアピン34の近位部38の側周壁下部とWJ用中子42の近接側の内周壁下部との離間距離D1は、離間距離D2よりも小さい。このため、粉バリが間隙44に侵入することが困難となる。すなわち、間隙44や第1開口62が粉バリで閉塞され難い。従って、間隙44に存在するガスを継続して吸引することが可能となる。
【0040】
以上のような理由から、溶湯の、ガスケット面となる部分や、シリンダボアとなる部分等に多量のガスが巻き込まれることが回避される。このため、シリンダブロックに鋳巣等の鋳造欠陥が発生することが抑制されるので、品質に優れたシリンダブロックが得られる。
【0041】
溶湯の充填が終了して所定時間が経過し、例えば、溶湯が流動性を喪失する程度に凝固した後、開閉用シリンダ20が付勢される。すなわち、可動盤18及び可動型16が、固定盤14及び固定型12に対して離間するように変位し、これにより型開きがなされる。その結果、鋳造装置10が
図1に示す状態に戻り、シリンダブロックが露呈する。シリンダブロックは、固定型12に付着している。
【0042】
開閉用シリンダ20が付勢されると略同時に前記切替バルブ78が作動し、流通管76と排気管80の連通(接続)が遮断されるとともに、流通管76と給気管82が連通(接続)される。なお、圧縮機86は、この切り替えに先んじて付勢されている。例えば、圧縮機86を、型閉じ開始時から付勢していてもよい。
【0043】
従って、圧縮機86からの圧縮エアが給気管82、流通管76を介して流通路56(内孔58)の第2開口64に流通する。圧縮エアは、さらに、傾斜路60の第1開口62から間隙44に向かって排出される。すなわち、いわゆるエアブローが開始される。間隙44に粉バリが侵入していたとしても、このエアブローによって粉バリが間隙44から排出される。また、この時点ではボアピン34がシリンダブロックから離脱していないので、圧縮エアがシリンダブロックに接触する。従って、シリンダブロックが効率よく冷却される。
【0044】
次に、ボアピン変位用シリンダ30が付勢されることに伴い、ボアピン34とWJ用中子42が中子保持体32と一体的に可動型16から離間する方向に変位する。さらに、固定盤14に設けられた前記エジェクタピンがキャビティ22から露呈するように変位し、シリンダブロックを固定型12から押し出す。これにより、シリンダブロックの離型がなされる。従って、第1開口62から排出される圧縮エアが、ボアピン34とWJ用中子42のみならず、可動型16、固定型12にも接触する。このため、可動型16と固定型12を効率よく冷却することができる。
【0045】
また、ボアピン34、WJ用中子42、可動型16及び固定型12に離型材や鋳造片等が残留していた場合、これらは圧縮エアによってブローされる。すなわち、圧縮エアによって鋳造装置10の清掃がなされる。このため、清掃作業を別途に行う必要がない。以上のことが相俟って、離型材の塗布開始から清掃作業終了までのサイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0046】
ここで、傾斜路60は、遠位部40側(後端)から近位部38側(前端)側に向かうように傾斜している。従って、粉バリや離型材、鋳造片等は、第1開口62よりも前方に向かうように圧縮エアに押圧される。このため、第1開口62が粉バリ、離型材、鋳造片等で閉塞されることが回避される。従って、エアブローを長時間にわたり継続して実施することができる。
【0047】
本発明は、上記した実施の形態に特に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0048】
例えば、鋳造装置10は、隣接(対向)するボアピン34同士が起立したV字形状をなすように配設されたものであってもよい。また、鋳造装置10は、複数個のシリンダボアが直線状に並列する、いわゆる直列型内燃機関を得るものであってもよい。
【0049】
さらに、仮想軸線Xよりも上方側に位置する流通路56が形成されているのであれば、この流通路56に加え、仮想軸線Xよりも下方側に位置する別の流通路を形成するようにしてもよい。
【0050】
さらにまた、特に図示していないが、ボアピン34にシリンダスリーブを外装するようにしてもよい。
【0051】
そして、この実施の形態では、シール部材として第1Oリング50、第2Oリング52を用いているが、シール部材の個数は1個でもよいし、3個以上であってもよい。3個以上の場合、最前方のシール部材よりも前方に第1開口62を形成すればよい。なお、この場合、間隙44は、最前方のシール部材よりも前方の近接側部分72と、最後方のシール部材よりも後方の離間側部分74とに区分される。
【符号の説明】
【0052】
10…鋳造装置 12…固定型
16…可動型 20…開閉用シリンダ
22…キャビティ 30…ボアピン変位用シリンダ
32…中子保持体 34…ボアピン
36…ボア形成部 38…近位部
40…遠位部 42…ウォータジャケット形成用中子
44…間隙 50、52…Oリング
56…流通路 58…内孔
60…傾斜路 62…第1開口
64…第2開口 72…近接側部分
74…離間側部分 76…流通管
78…切替バルブ 80…排気管
82…給気管 84…吸気ポンプ
86…圧縮機 D1、D2…離間距離
X…仮想軸線