(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
E04G 9/10 20060101AFI20231207BHJP
E04G 21/02 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
E04G9/10 101B
E04G21/02 104
(21)【出願番号】P 2020066975
(22)【出願日】2020-04-02
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】濱田 那津子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢三
(72)【発明者】
【氏名】芦澤 良一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 祐麻
(72)【発明者】
【氏名】光山 恵生
(72)【発明者】
【氏名】向 俊成
(72)【発明者】
【氏名】坂井 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】安部 剛史
(72)【発明者】
【氏名】松浦 勇気
(72)【発明者】
【氏名】中谷 俊晴
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-214552(JP,A)
【文献】特開2016-061076(JP,A)
【文献】特開平10-025890(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0097813(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 9/00-19/00
E04G 21/02
C04B 40/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の貫通孔を有する板状部材
とコンクリート打設用の型枠とを含む型枠構造及び非透水性の養生シートを有し前記養生シートが前記板状部材に取り付けられた型枠組立体において前記養生シートがコンクリート打設側に位置するように前記型枠組立体を所定箇所に設置する設置工程と、
前記型枠組立体の前記養生シートにコンクリートが接するようにコンクリートの打設を行う打設工程と、
前記コンクリートの打設後に前記型枠構造の少なくとも一部を脱型する脱型工程と、
前記脱型工程の後に前記養生シートを前記コンクリートの表面に残置させて前記コンクリートを所定期間養生する養生工程と、を備え、
前記板状部材の前記多数の貫通孔は、前記板状部材の表面から逆の裏面に向かって当該板状部材を貫通し、
前記板状部材の前記多数の貫通孔の孔径は10mm以下であり、且つ、前記多数の貫通孔の中心ピッチは20mm以下であ
り、
前記多数の貫通孔は、前記型枠組立体において、前記表面側で前記型枠に接すると共に前記裏面側で前記養生シートに接し、
前記打設工程の終了後から24時間以内に前記脱型工程が実行される、コンクリート構造物の構築方法。
【請求項2】
前記板状部材の開孔率が10%以上で且つ40%以下である、請求項1に記載のコンクリート構造物の構築方法。
【請求項3】
前記板状部材の前記多数の貫通孔の孔径が5mm以下であり、且つ、前記多数の貫通孔の中心ピッチが10mm以下である、請求項1又は2に記載のコンクリート構造物の構築方法。
【請求項4】
前記打設工程の終了後から12時間以
上経ってから前記脱型工程が実行される、
請求項1~3の何れか一項に記載のコンクリート構造物の構築方法。
【請求項5】
前記型枠の打設面に固定された前記板状部材の上に前記養生シートを貼り付ける準備工程を更に備え、前記準備工程において、前記板状部材に貼り付けられた前記養生シート内に残存するエアだまりを取り除く、請求項1~4の何れか一項に記載のコンクリート構造物の構築方法。
【請求項6】
前記板状部材は、パンチングメタル、樹脂型枠、又は合板である、請求項1~5の何れか一項に記載のコンクリート構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁やダム等をはじめとするコンクリート構造物を構築するための施工方法として、特許文献1に記載の工法が新たに用いられるようになってきている。この工法では、コンクリート打設用の型枠を設置し、型枠の内面に予め非透水性・高撥水性の養生シートを貼り付けた状態でコンクリートの打設を行う。コンクリートの打設後に型枠は脱型するものの養生シートはコンクリート側に残置する。この養生シートで打設コンクリートをそのまま覆い、コンクリートを一度も外気に曝すことなく長期に渡って養生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5698304号
【文献】特開2015-206215号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記工法では、コンクリートを打設してから型枠の脱型までが5日の場合、打設コンクリートの強度が20N/mm2以上となり、養生シートと型枠との粘着力が250g程度であれば、脱型の際に養生シートがコンクリートに残置することが確認されている。一方、早期脱型として、例えばコンクリートを打設した翌日に脱型しようとした場合、打設コンクリートの強度が5N/mm2程度であり、養生シートと型枠との粘着力を50g以下にしないと、脱型の際に養生シートがコンクリートに適切に残置されない傾向がある。しかしながら、養生シートを型枠に粘着剤などで貼り付ける場合、粘着剤の粘着力や使用量(厚み)等を調整して養生シートと型枠との粘着力を250gではなく50g以下にするのは困難であり、上記工法における早期脱型は困難であった。また仮に養生シートと型枠との粘着力を50g以下に出来たとしても、粘着力の低下により型枠に貼り付けられた養生シートにシワが生じやすく、また施工途中で養生シートが型枠から剥がれてしまったりする虞がある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するために為されたものであり、養生シートが貼り付けられた型枠等にコンクリートを打設する工法において、早期脱型を実現することができる、コンクリート構造物の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るコンクリート構造物の構築方法は、多数の貫通孔を有する板状部材を少なくとも含む型枠構造及び非透水性の養生シートを有し当該養生シートが板状部材に取り付けられた型枠組立体において養生シートがコンクリート打設側に位置するように型枠組立体を所定箇所に設置する設置工程と、型枠組立体の養生シートにコンクリートが接するようにコンクリートの打設を行う打設工程と、コンクリートの打設後に型枠構造の少なくとも一部を脱型する脱型工程と、脱型工程の後に養生シートをコンクリートの表面に残置させてコンクリートを所定期間養生する養生工程と、を備える。板状部材の多数の貫通孔の孔径は10mm以下であり、且つ、多数の貫通孔の中心ピッチは20mm以下である。
【0007】
このコンクリート構造物の構築方法では、多数の貫通孔を有する板状部材に養生シートを取り付けるようにしている。この場合、養生シートを型枠構造に取り付ける際の接触面積を貫通孔の分、好適に低減することができる。その結果、養生シートの型枠等への粘着力の調整を粘着剤のみで行う場合に比べて、全体的な粘着力の調整を容易に行えるようになり、養生シートの型枠構造への粘着力を50g以下といった低い値に抑える必要がある早期脱型の場合であっても、養生シートをコンクリートにより確実に残置させることができる。しかも、このコンクリート構造物の構築方法では、使用する板状部材の多数の貫通孔の孔径を10mm以下とし、且つ、多数の貫通孔の中心ピッチを20mm以下としている。この工法は、多数の孔を有する板状部材が養生シートを介してコンクリートの打設面に面する工法であるものの、使用する板状部材の多数の貫通孔を所定の孔径以下でかつ所定の中心ピッチ以下とすることにより、打設されたコンクリート表面に板状部材の孔がそのまま転写されて凹凸が形成されてしまうことを抑制できる。従って、本工法によれば、凹凸の形成を抑制して綺麗なコンクリート表面としつつ、型枠の早期脱型を実現することが可能となる。なお、ここでいう「粘着力」は次の方法によって測定される。まず、測定対象となる養生シートを幅3cm長さ20cmの短冊状にカットし、短冊状の養生シートを粘着剤などで型枠構造(板状部材等)に貼り付ける。その後、型枠構造から養生シートを剥がすのに必要な重さをはかりで測定し、それを粘着力とする。
【0008】
また、このコンクリート構造物の構築方法では、養生シートを取り付ける部材に有孔の板状部材を用いているため、養生シートに生じたエアだまりやシワを打設コンクリートの側圧により板状部材の空隙部分(貫通孔)を用いて自然に取り除くことが可能となる。従って、本工法によれば、養生シートに形成されるシワ等のコンクリート表面への転写も抑制されるため、より一層綺麗なコンクリート表面とすることができる。また、本工法では、養生シートにおける各粘着領域(貫通孔以外の領域)での個別粘着力は高いままとすることができるため、養生シートの剥がれを起きにくくすることもできる。なお、本工法は、橋梁やダム等の大型・中型のコンクリート構造物を構築するための施工方法に適用できるだけでなく、プレキャストコンクリートなどのコンクリート構造物の構築方法に適用してもよい。
【0009】
上記のコンクリート構造物の構築方法において、板状部材の開孔率が10%以上で且つ40%以下であることが好ましい。板状部材の開孔率が40%以下であることにより、コンクリートの打設面に形成される凹凸を更に抑制して目立たなくすることができる。一方、板状部材の開孔率が10%以上であることにより、脱型の際に養生シートをコンクリートへより確実に残置させることができる。
【0010】
上記のコンクリート構造物の構築方法において、板状部材の多数の貫通孔の孔径が5mm以下であり、且つ、多数の貫通孔の中心ピッチが10mm以下であることが好ましい。この場合、コンクリートの打設面に形成される凹凸を更に抑制して目立たなくすることができる(
図9及び
図10を参照)。
【0011】
上記のコンクリート構造物の構築方法において、打設工程の終了後から12時間以上で且つ24時間以内に脱型工程が実行されてもよい。本工法によれば、このような早期脱型の場合であっても、養生シートを確実にコンクリート側に残置することができるため、早期脱型を実現することが可能となる。
【0012】
上記のコンクリート構造物の構築方法では、型枠構造は、コンクリート打設用の型枠を更に含み、型枠の打設面に固定された板状部材の上に養生シートを貼り付ける準備工程を更に備え、準備工程において、板状部材に貼り付けられた養生シート内に残存するエアだまりを取り除くことが好ましい。この場合、養生シート内に残存するエアだまりによって生じる養生シートのシワが打設コンクリートに転写されることを更に抑制して、より一層、綺麗なコンクリート表面とすることが可能となる。
【0013】
上記のコンクリート構造物の構築方法では、板状部材はパンチングメタルであり、パンチングメタルを型枠として用いてもよい。型枠構造としてパンチングメタルを合板等の型枠に固定する構造を利用した工法も可能であるが、パンチングメタルをそのまま型枠としても用いることにより、使用する部材点数を削減し、工数やコストを更に低減することができる。なお、板状部材は、パンチングメタル、樹脂型枠、又は合板であってもよい。パンチングメタルの場合、剛性を容易に確保することでき、また樹脂型枠の場合、軽量であることから作業軽減を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、養生シートが貼り付けられた型枠構造にコンクリートを打設する工法において、型枠の早期脱型を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図1に示す構築方法に用いられるパンチングメタルの例を示す平面図である。
【
図5】
図5は、
図4に示すパンチングメタルの一部を拡大して示す平面図である。
【
図6】
図6は、
図1に示す構築方法に用いられる養生シートの表面の水への接触角を示す模式図である。
【
図7】
図7は、
図1に示す構築方法における準備工程を説明するための模式的な斜視図である。
【
図8】
図8は、本工法における早期脱型を説明するための工程表を表す図である。
【
図9】
図9は、本工法(実施例1)によって作製したコンクリート供試体の打設面の一例を示す画像である。
【
図10】
図10は、本工法(実施例2)によって作製したコンクリート供試体の打設面の別の例を示す画像である。
【
図11】
図11は、比較例に係る工法によって作製したコンクリート供試体の打設面を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法について説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いる場合があり、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、本実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法は、コンクリート打設用の型枠にパンチングメタルを介して養生シートを取り付ける準備工程(ステップS1)と、養生シートが取り付けられた型枠を設置する設置工程(ステップS2)と、型枠の養生シートが取り付けられた側にコンクリートを打設する打設工程(ステップS3)と、コンクリートの打設後に型枠を脱型する脱型工程(ステップS4)と、型枠を脱型した際、養生シートをコンクリートの表面に残置し、コンクリート構造物を養生する養生工程(ステップS5)とを、を含む工法である。
【0018】
次に、
図2及び
図3を参照して、本実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法をより具体的に説明する。
図2及び
図3は、
図1に示す構築方法を順に示す断面図である。まず、
図2の(a)に示すように、コンクリート打設用の型枠10と、パンチングメタル20と、養生シート30と、を用意する。コンクリート打設用の型枠10は、打設面10aを有し、平面視した際に(
図2の右側から左側に向かって視た際に)矩形形状を呈する合板型枠である(
図7を参照)。型枠10は、例えば木製型枠から構成されるが、鋼製型枠であってもよい。型枠10とパンチングメタル20とから型枠構造K1が構成される。
【0019】
パンチングメタル20は、型枠10側の裏面20aと養生シート30側の表面20bとを有し、平面視した際に矩形形状を呈するメタル製の板状板材である。パンチングメタルは、例えば2mm~5mm程度の厚みを有する。パンチングメタル20には、
図4に示すように、表面20bから裏面20aに向かって貫通する多数の貫通孔20cが設けられている。貫通孔20cは、所定の規則に沿って設けられている。例えば、貫通孔20cは千鳥状になるように設けられていてもよいし、縦横ともに直線状(格子状)になるように設けられていてもよい。
図4及び
図5に示す例では、貫通孔20cは千鳥状に設けられており、
図5に示すように、1の貫通孔20cの中心と上下方向に隣接する2つの貫通孔20cの中心を結ぶ角度Aが60度であってもよいし、45度であってもよい。
【0020】
パンチングメタルの貫通孔20cの孔径Dは、例えば10mm以下であり、好ましくは5mm以下であり、より好ましくは3mm以下である。また、パンチングメタル20の貫通孔20cの縦横方向における中心ピッチPは、いずれの方向においても20mm以下となっている。貫通孔20cの中心ピッチPは、好ましくは10mm以下であり、より好ましくは5mm以下である。ここでいう中心ピッチPは、隣接する貫通孔20cの中心間の距離である。また、パンチングメタル20の開孔率は、好ましくは40%以下であり、より好ましくは35%以下又は30%以下である。なお、パンチングメタル20の開孔率は、養生シート30の打設コンクリートへの残置性を考慮し、10%以上であることが好ましい。ここでいう開孔率は、パンチングメタル20の平面方向における全面積に対する、多数の貫通孔20cの平面方向における面積の合計の比率(%)を示す。
【0021】
養生シート30は、パンチングメタル20側の裏面30aとコンクリート打設側の打設面30bとを有し、平面視した際に矩形形状を呈する非透水性の樹脂製シートである。養生シートは、例えば0.02mm~2.0mm程度の厚みを有する。養生シート30としては、熱可塑性樹脂シートを用いることが好ましい。ここで用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体、オレフィン系熱可塑性エラストマー等のオレフィン系樹脂;ポリアミド;ポリエチレンテレフタレート;ポリカーボネート;ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;フッ素系樹脂等が挙げられる。なお、養生シート30としては、オレフィン系熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。オレフィン系熱可塑性エラストマーとは、エチレンープロピレン共重合体又はポリプロピレンとエチレンープロピレンゴムの溶融混合物又は重合反応物であり、例えば、株式会社プライムポリマー製「プライムTPO(登録商標)」、日本ポリプロ株式会社製「ニューコン(登録商標)」、サンアロマー株式会社製「キャタロイ」、三菱化学社製「ゼラス(登録商標)」等を挙げることができる。
【0022】
養生シート30として特にこれに限定されるものではないが、高撥水性のシートとして、養生シート30のコンクリート側の打設面30b(表面)の水との接触角が50度以上であるものを採用することが好ましい。具体的には、養生シート30の表面の水との接触角θが69度以上であることが好ましく、接触角θが80度以上であることが更に好ましく、接触角θが90度以上であることがより一層好ましい。ここで、「接触角θ」とは、
図6の(a)に示されるように、液滴の接線と固体表面(養生シート30の表面)とのなす角度であり、以下の式(1)で示される。
【数1】
γS:固体の表面張力
γL:液体の表面張力
γSL:固体と液体の界面張力
【0023】
そして、「接触角θ」は、例えば、θ/2法で測定することができる。具体的には、
図6の(b)に示されるように、液滴の半径rと高さhを求める。そして、以下の式(2)、式(3)から、接触角θを求めることができる。
【数2】
【数3】
【0024】
続いて、
図2の(a)に示す用意が終了すると、
図2の(b)及び
図7に示すように、型枠10の打設面10a上にパンチングメタル20を配置し、ビス等の取り付け手段(不図示)によりパンチングメタル20を型枠10に固定する。パンチングメタル20は、その平面方向の大きさが型枠10の打設面10aと同じ大きさであり、パンチングメタル20の四隅とその長辺及び短辺に沿った所定箇所とがビス等によって型枠10に取り付けられる。後述するように、一旦パンチングメタル20が型枠10に取り付けられた後は、パンチングメタル20が取り付けられた型枠10(「型枠構造K1」とも言う)を繰り返し使用してもよい。
【0025】
続いて、
図2の(c)及び
図7に示すように、型枠10の打設面10aに固定されたパンチングメタル20の表面20bに養生シート30を貼り付ける(「型枠組立体K2」とも言う)。養生シート30の裏面30a側には所定の粘着力を有する粘着剤が所定の厚みで予め設けられており、それにより養生シート30をパンチングメタル20に貼り付ける。養生シート30は、例えばパンチングメタル20の平面方向の大きさに比べて若干小さくなるように形成されており、パンチングメタル20の周辺(4辺)が露出する周部分30c~30fに沿って両面粘着テープ(不図示)を貼り付ける。これにより養生シート30の縁(周部分30c~30f)を剥がれないように確実にパンチングメタル20に取り付けることができる。これら両面粘着テープは、型枠10等を脱型する際に養生シート30をコンクリートC側に残置するための残置テープとして機能する。以上の準備工程S1により、型枠組立体K2が組み立てられる。なお、上述した説明では、1枚の型枠10に1枚の養生シート30を取り付ける例で説明したが、これに限定されるわけではなく、複数の養生シート30を互いの縁が重なるようにラップさせて1枚または複数の型枠10に取り付けるようにしてもよい。
【0026】
続いて、型枠組立体K2が組み立てられると、型枠組立体K2の養生シート30がコンクリート打設側に位置するように型枠組立体K2を所定箇所に設置する(設置工程S2)。例えば直方体形状のコンクリート構造物を構築する場合、4つの型枠組立体K2を準備し、長辺方向に対向するように一対の型枠組立体K2を配置し、長辺方向に直交する短辺方向に対向するように一対の型枠組立体K2を配置する。この際、各型枠組立体K2の養生シート30が対向する型枠組立体K2の養生シート30に対向するように内側(コンクリート打設側)を向くように配置する。これにより、打設された際に直方体形状のコンクリートの側面はすべて養生シート30によって覆われることになる。
【0027】
続いて、型枠組立体K2の設置が終了すると、
図3の(a)に示すように、型枠組立体K2の養生シート30にコンクリートCが接するようにコンクリートCの打設を行う(打設工程S3)。その後、コンクリートCの締固めが終了すると、型枠10をはめたまま、コンクリートCの養生を例えば1日~10日程度、早期脱型の場合には1日~3日程度行い、コンクリートCを硬化させる。
【0028】
続いて、打設されたコンクリートCが硬化すると、その後、
図3の(b)に示すように、パンチングメタル20が固定された型枠10をパンチングメタル20と共に脱型する(脱型工程S4)。この際、養生シート30は、パンチングメタル20に貼り付けられているものの、多数の貫通孔20cの部分では貼り付けがされていないため、パンチングメタル20から容易に取り外されて、両面粘着テープによりコンクリートC側に残置される。なお、早期脱型として、上記の打設工程S3の終了後から12時間以上で且つ24時間以内にこの脱型工程S4を実行してもよい。この場合でも、所定以下の孔径、開孔率、中心ピッチ等のパンチングメタル20を用いているため、養生シート30を確実にコンクリートに残置させることができる。
【0029】
続いて、型枠10の脱型が完了すると、
図3の(c)に示すように、当該硬化したコンクリート構造物Caを養生シート30でそのまま養生する(養生工程S5)。養生シート30による養生は、型枠10の脱型後28日以上養生を続けてもよいし、型枠10の脱型後91日以上養生を続けてもよい。更に、コンクリート構造物Caの引き渡しに至るまで(例えば脱型後1年以上)養生を続けてももちろんよい。このように、コンクリートを一度も外気に曝すことなく長期の養生を続けることにより、コンクリート構造物Caの強度や耐久性を飛躍的に高めて、その品質を向上することができる。所定期間の養生が終了すると、養生シート30をコンクリート構造物Caから取り外して廃棄し、これにより、コンクリート構造物Caが完成する。
【0030】
一方、一旦、使用が終了した型枠10は、パンチングメタル20を取り外すことなく、型枠構造K1として、打設側の表面20bを綺麗に清掃する。そして、再度、別の養生シート30を粘着剤や両面粘着テープ等により貼り付けて型枠組立体K2と同様の構成とし、別のコンクリート打設に用いることができる。この場合、型枠10の打設面10aの清掃やケレンを簡略化できるので、施工性を向上させることができる。
【0031】
以上、本実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法では、多数の貫通孔20cを有するパンチングメタル20をその間に挟んで、養生シート30を型枠10に取り付けるようにしている。このように、多数の貫通孔20cを有するパンチングメタル20を養生シート30と型枠10との間に設けているため、養生シート30と型枠10(より具体的にはパンチングメタル20)との接触面積を貫通孔20cの分、好適に低減することができる。その結果、養生シートと型枠との粘着力の調整を粘着剤のみで行う場合に比べて、養生シート30と型枠10(パンチングメタル20)との粘着力の調整を容易に行えるようになり、養生シート30と型枠10との粘着力を50g以下といった低い値に抑える必要がある早期脱型の場合であっても、養生シート30をコンクリートにより確実に残置させることができる。
【0032】
しかも、このコンクリート構造物の構築方法では、使用するパンチングメタル20の多数の貫通孔20cの孔径Dを10mm以下とし、且つ、多数の貫通孔の中心ピッチPを20mm以下としている。この工法は、多数の貫通孔20cを有するパンチングメタル20が養生シート30を介してコンクリートの打設面に面する工法であるものの、使用するパンチングメタル20の多数の貫通孔20cを所定の孔径以下でかつ所定の中心ピッチ以下とすることにより、打設されたコンクリート表面にパンチングメタル20の孔がそのまま転写されて凹凸が形成されてしまうことを抑制できる。従って、本工法によれば、凹凸の形成を抑制して綺麗なコンクリート表面としつつ、型枠の早期脱型を実現することが可能となる。なお、ここでいう「養生シートと型枠構造との粘着力」は、次の方法によって測定される。まず、測定対象となる養生シートを幅3cm長さ20cmの短冊状にカットし、短冊状の養生シートを粘着剤などで型枠構造(パンチングメタル20)に貼り付ける。その後、型枠構造から養生シートを剥がすのに必要な重さをはかりで測定し、それを粘着力とする。
【0033】
また、型枠10と養生シート30との間にパンチングメタル20を用いているため、養生シート30に生じたエアだまりやシワを打設コンクリートの側圧によりパンチングメタル20の空隙部分(貫通孔)を用いて自然に(自重により)取り除くことが可能となる。従って、本工法によれば、養生シート30に形成されるシワ等のコンクリート表面への転写も抑制されるため、より一層綺麗なコンクリート表面とすることができる。
【0034】
本実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法では、パンチングメタル20の開孔率が10%以上で且つ40%以下であってもよい。パンチングメタル20の開孔率が40%以下であることにより、コンクリートCの打設面に形成される凹凸を更に抑制して目立たなくすることができる。一方、パンチングメタル20の開孔率が10%以上であることにより、脱型の際に養生シート30をコンクリートCへより確実に残置させることができる。
【0035】
本実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法では、パンチングメタル20の多数の貫通孔20cの孔径Dが5mm以下であり、且つ、多数の貫通孔20cの中心ピッチPが10mm以下であってもよい。この場合、コンクリートCの打設面に形成される凹凸を更に抑制して目立たなくすることができる。
【0036】
本実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法は、型枠10の打設面10aに固定されたパンチングメタル20の上に養生シート30を貼り付ける準備工程S1を更に備えており、この準備工程S1において、パンチングメタル20に貼り付けられた養生シート30内に残存するエアだまりを除去するようにしてもよい。この場合、養生シート30内に残存するエアだまりによって生じる養生シート30のシワが打設コンクリートに転写されることを更に抑制して、より一層、綺麗なコンクリート表面とすることが可能となる。
【0037】
本実施形態に係るコンクリート構造物の構築方法では、打設工程S3の終了後から12時間以上で且つ24時間以内に脱型工程S4が実行されてもよい。本工法によれば、このような早期脱型を実現することが可能となる。なお、脱型工程S4は、打設工程S3の終了から22時間以内に行われてもよいし、20時間以内に行われてもよいし、18時間以内に行われてもよい。
【0038】
ここで、上述した工法による早期脱型について
図8を参照して更に説明する。
図8の(b)に示すように、通常のコンクリート施工では、型枠の組立やコンクリートの打設を行った後、型枠や支保工の取り外しに必要なコンクリートの圧縮強度(例えば柱の側面として5N/mm
2)となるまで養生を行い、その後も湿潤養生を継続する必要性から型枠の脱型等ができずにそのまま(例えば3日~12日、平均気温やコンクリート材料等による)養生を続けることが多い。このため、従来の工法では、例えば1つのコンクリート体を形成するのに8日かかってしまうことがある。また、型枠の脱型後に型枠等の清掃やケレンを行う必要がある。
【0039】
これに対して、
図8の(a)に示すように、本工法では、型枠の組立やコンクリートの打設までは同様であるものの養生シートをそのまま型枠に残せる工法であることから、型枠がなくても、この養生シートにより、いわゆる湿潤養生を行うことができる。このため、本工法では、型枠や支保工の取り外しに必要なコンクリートの圧縮強度(例えば柱の側面として5N/mm
2)になった後は型枠を速やかに取り外すことができる。しかも、上述したように、パンチングメタル20を用いているため、養生シート30を確実にコンクリートに残置させることができる。このように、本工法によれば、打設後直ぐに(例えば1日で)脱型を行うことができ、例えば1つのコンクリート体を形成するのに3.5日程度で済む。つまり、従来の工法にくらべて2倍以上のペースでコンクリート構造物の構築を行うことが可能となる。なお、本工法では養生シートを予め型枠に取り付けているため、ノロ汚れも付きづらいため、清掃にかかる時間も短縮できる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく様々な実施形態に適用することができる。例えば、上述した実施形態では、多数の貫通孔を有する板状部材として、パンチングメタル20を用いたが、パンチングメタル20と同様の孔構成を有する樹脂型枠や合板(木製型枠等)の板状部材を用いてもよい。樹脂型枠を用いる場合には、軽量であることから作業の軽減を図ることができる。また、上述した実施形態では、パンチングメタル20を型枠10に固定した型枠構造K1を用いたが、パンチングメタル20は金属製であり剛性を有することから、パンチングメタル20に型枠10の機能も奏させるようにしてもよい。即ち、型枠10を用いずにパンチングメタル20のみからなる型枠構造K1として、上記の工法を行ってもよい。このようにパンチングメタル20をそのまま型枠10としても用いる場合には、部材を削減して、工数やコストを更に低減することができる。なお、型枠10として、セントル等の型枠を用いてもよい。また、例えば、上述したコンクリート構造物の製造方法は、橋梁やダム等の大型のコンクリート構造物を構築するための施工方法に適用できるだけでなく、プレキャストコンクリートなどに適用してもよい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
まず、実施例1として、4個の木製型枠、4枚のパンチングメタル、4枚の養生シートを準備した。各木製型枠の寸法は、900mm×1800mm×10mmであった。各パンチングメタルの寸法は、900mm×1800mm×2mmであった。パンチングメタルとしては、貫通孔の配置が千鳥状であり、孔径Dが5mmであり、中心ピッチPが10mmであり、開孔率が22.6%であるものを用いた。養生シートの寸法は、880mm×1800mm×0.2mmであり、ポリプロピレンからなる「美(うつく)シート(鹿島建設株式会社及び積水成型工業株式会社の商品名(鹿島建設株式会社の登録商標))」である樹脂シートを用いた。
【0043】
次に、各木製型枠に対して、
図7に示すように、パンチングメタル及び養生シートをこの順に取り付け(パンチングメタルはビスにより型枠に固定)、型枠組立体を4セット形成した。そして、直方体形状のコンクリート供試体を形成できるように型枠組立体を所定の位置に設置した。
【0044】
その後、以下の表1に記載のコンクリート材料を表2に示す配合にて混合して得たコンクリート材料をこの型枠内に打設し、コンクリートの固化後に型枠を脱型して、コンクリート供試体(コンクリート構造物に相当)を得た。
【0045】
【0046】
【0047】
実施例2として、使用するパンチングメタルの構成を変えたものを用い、それ以外は実施例1と同様の構成・条件でコンクリート供試体を得た。実施例2で用いたパンチングメタルでは、貫通孔の配置が千鳥状であり、孔径Dが3mmであり、中心ピッチPが5mmであり、開孔率が32.6%であった。
【0048】
比較例として、使用するパンチングメタルの構成を変えたものを用い、それ以外は実施例1と同様の構成・条件でコンクリート供試体を得た。比較例で用いたパンチングメタルでは、貫通孔の配置が千鳥状であり、孔径Dが20mmであり、中心ピッチPが30mmであり、開孔率が40.3%であった。
【0049】
実施例1、実施例2及び比較例に係るパンチングメタルを用いた何れの工法においても、コンクリートの強度が約5N/mm2程度(打設から21時間)で脱型したものの、パンチングメタルを用いていることから、養生シートは両面粘着テープによりコンクリートに確実に残置された。つまり、早期脱型を行うことができることが確認された。
【0050】
また、実施例1、実施例2及び比較例に係るパンチングメタルを用いた工法によって得られたコンクリート供試体のコンクリート表面を
図9~
図11に示す。
図11に示すように、比較例のパンチングメタルを用いた工法では、作製されたコンクリート供試体の表面にパンチングメタルの貫通孔の痕が目立つように形成されてしまい、また、その凹凸も容易に認識することができてしまう状態であった。一方、実施例1及び実施例2に示す構成のパンチングメタルを用いた工法では、作製されたコンクリート供試体の表面にパンチングメタルの貫通孔の痕がそれほど残ることもなく、しかもその凹凸が触ると若干分かる程度(実施例1)若しくはその凹凸が触っても分からないレベル(実施例2)であった。つまり、パンチングメタルの孔径を10mm以下とし、且つ、孔の中心ピッチを20mm以下とすることにより、より好ましくは、孔径を5mm以下とし、且つ、孔の中心ピッチを10mm以下とすることにより、凹凸の形成を抑制して綺麗なコンクリート表面としつつ、型枠の早期脱型を実現できることが確認できた。
【符号の説明】
【0051】
10…型枠、10a…打設面、20…パンチングメタル、20a…裏面、20b…表面、20c…貫通孔、30…養生シート、30a…裏面、30b…打設面、30c~30f…周部分、A…角度、C…コンクリート、Ca…コンクリート構造物、D…孔径、K1…型枠構造、K2…型枠組立体、P…中心ピッチ。