(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】ディスクブレーキ及び遊星歯車減速機構
(51)【国際特許分類】
F16D 65/18 20060101AFI20231207BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20231207BHJP
F16H 1/28 20060101ALI20231207BHJP
F16D 121/24 20120101ALN20231207BHJP
F16D 125/50 20120101ALN20231207BHJP
【FI】
F16D65/18
B60T13/74 G
F16H1/28
F16D121:24
F16D125:50
(21)【出願番号】P 2020130369
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】茂田 潤
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-214830(JP,A)
【文献】特開2017-180617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
B60T 13/00-13/74
F16H 1/28
F16D 121/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の非回転部に固定され、ディスクロータの外周側を跨いで設けられる取付部材と、
該取付部材に移動可能に設けられ、前記ディスクロータの軸方向における一方の面と対向して配置される第1の摩擦パッドと、
前記取付部材に移動可能に設けられ、前記ディスクロータの軸方向における他方の面と対向して配置される第2の摩擦パッドと、
前記第1の摩擦パッドを押圧するピストンと、
該ピストンを前記ディスクロータの軸方向に移動可能に収容するキャリパと、
該キャリパに設けられるハウジングと、
該ハウジングに収容されるモータと、
前記ハウジングに収容され、前記モータからの回転を伝達する遊星歯車減速機構と、
前記キャリパに設けられ、前記遊星歯車減速機構からの回転力を前記ピストンの推進力に変換するピストン推進機構と、
前記ハウジングの開口を覆うように取り付けられるカバーハウジングと、を備え、
前記遊星歯車減速機構は、
前記モータからの回転が伝達される第1ギヤ、及び該第1ギヤの軸心部から前記第1ギヤの軸方向に延出した第2ギヤを有するサンギヤと、
前記第2ギヤと噛み合い、前記第2ギヤを囲むように配置される複数のプラネタリギヤと、
前記複数のプラネタリギヤと噛み合い、前記複数のプラネタリギヤを囲むように配置されるインターナルギヤと、
前記各プラネタリギヤの公転運動が伝達されるキャリアと、を備え、
前記インターナルギヤは、
前記サンギヤを回転可能に支持する支持部と、
前記第1ギヤの軸方向において前記第1ギヤと所定距離離間して対向配置される平面部と、
前記第1ギヤの径方向からみて前記第1ギヤと重なるように配置される、前記サンギヤの回転に伴う反力を受け
て、当該インターナルギヤを前記ハウジングに対して相対回転不能に支持する反力受け部と、を有し
、
前記ピストン推進機構は、前記キャリアの回転が伝達されるスピンドルを有し、前記スピンドルからの回転力を前記ピストンの推進力に変換することを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
請求項1に記載のディスクブレーキであって、
前記反力受け部は、前記ハウジングから反力を受けることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項3】
請求項1に記載のディスクブレーキであって、
前記反力受け部は、前記カバーハウジングから反力を受けることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項4】
請求項1に記載のディスクブレーキであって、
前記反力受け部は、前記第1ギヤの径方向からみて、前記平面部から前記第1ギヤの軸方向の中心位置を超える位置まで延出して、前記第1ギヤと重なるように配置されることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項5】
請求項4に記載のディスクブレーキであって、
前記反力受け部は、前記第1ギヤの径方向からみて、前記平面部から前記第1ギヤの軸方向の中心位置を超え、かつ前記第1ギヤの軸方向端部以下の位置まで延出して、前記第1ギヤと重なるように配置されることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項6】
請求項1に記載のディスクブレーキであって、
前記反力受け部は、前記インターナルギヤの、前記ハウジングまたは前記カバーハウジングに対する相対回転を規制する回り止め部に設けられていることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項7】
請求項6に記載のディスクブレーキであって、
前記回り止め部は、前記インターナルギヤの周方向において等間隔で複数配置されていることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項8】
請求項6に記載のディスクブレーキであって、
前記回り止め部は、前記ハウジングまたは前記カバーハウジングに対して、すきまばめにて係合されていることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項9】
請求項1に記載のディスクブレーキであって、
前記カバーハウジングは、前記ハウジングに対して振動溶着により固定されていることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項10】
駆動源からの回転が伝達される第1ギヤ、及び前記第1ギヤの軸心部から前記第1ギヤの軸方向に延出した第2ギヤを有するサンギヤと、
前記第2ギヤと噛み合い、前記第2ギヤを囲むように配置される複数のプラネタリギヤと、
前記複数のプラネタリギヤと噛み合い、前記複数のプラネタリギヤを囲むように配置されるインターナルギヤと、
前記各プラネタリギヤの公転運動が伝達されるキャリアと、
を備え
、ハウジングに収容される遊星歯車減速機構であって、
前記インターナルギヤは、
前記サンギヤを回転可能に支持する支持部と、
前記第1ギヤの軸方向において前記第1ギヤと所定距離離間して対向配置される平面部と、
前記第1ギヤの径方向からみて前記第1ギヤと重なるように配置される、前記サンギヤの回転に伴う反力を受け
て、当該インターナルギヤを前記ハウジングに対して相対回転不能に支持する反力受け部と、を有し
、
前記駆動源からの回転が増力されつつ前記キャリアに伝達されて出力されることを特徴とする遊星歯車減速機構。
【請求項11】
請求項10に記載の遊星歯車減速機構であって、
前記反力受け部は、前記第1ギヤの径方向からみて、前記平面部から前記第1ギヤの軸方向の中心位置を超える位置まで延出して、前記第1ギヤと重なるように配置されることを特徴とする遊星歯車減速機構。
【請求項12】
請求項11に記載の遊星歯車減速機構であって、
前記反力受け部は、前記第1ギヤの径方向からみて、前記平面部から前記第1ギヤの軸方向の中心位置を超え、かつ前記第1ギヤの軸方向端部以下の位置まで延出して、前記第1ギヤと重なるように配置されることを特徴とする遊星歯車減速機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動に用いられるディスクブレーキ、及び該ディスクブレーキに備えられる遊星歯車減速機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載されたディスクブレーキは、ロータを挟んでそのロータ軸方向両側に配置される一対のパッドと、該一対のパッドのうち一方を前記ロータに押し付けるピストンと、該ピストンが移動可能に収められるシリンダを有するキャリパ本体と、該キャリパ本体に設けられるモータと、該モータの回転を増力して伝達する遊星歯車減速機構と、該遊星歯車減速機構からの回転が伝達されて、ピストンを制動位置に推進させるピストン推進機構と、を備えている。
【0003】
遊星歯車減速機構は、モータからの回転が伝達される平歯車と噛み合う入力歯車部、及び入力歯車部の径方向中央部から軸方向に沿って延びる出力歯車部を有するサンギヤと、該サンギヤの出力歯車部に噛み合い、該出力歯車部を囲むように周方向に間隔を置いて複数配置されるプラネタリギヤと、各プラネタリギヤに内歯が噛み合い、各プラネタリギヤを囲むように配置されるインターナルギヤとから構成される。
【0004】
サンギヤは、インターナルギヤの円筒状支持部により回転自在に支持されている。また、インターナルギヤの円筒状係合部の外周面に設けた各突起部が、ハウジングに設けた各係合溝に係合されることで、インターナルギヤは、ハウジングに対して相対回転不能に支持される。また、ハウジングの一端開口はカバー部材により閉塞される。遊星歯車減速機構は、ハウジングとカバー部材との間に挟まれるように配置され、サンギヤの軸方向の移動が規制される。なお、サンギヤとカバー部材との間には、サンギヤの回転を許容するように若干の隙間が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に記載されたディスクブレーキでは、モータからの回転トルクが平歯車に入力されたとき、サンギヤの入力歯車部が平歯車から受ける荷重の位置と、インターナルギヤの各突起部がハウジングの各係合溝から反力を受ける位置とが、サンギヤ(インターナルギヤ)の軸方向においてオフセットされている。そのために、サンギヤ及びインターナルギヤに対して、これらの径方向に沿う任意の直線を中心に回転する方向のモーメントが発生する虞がある。これにより、サンギヤとカバー部材との間には若干の隙間があり、その隙間に相当する分だけ、サンギヤ及びインターナルギヤが前記回転方向に傾き、遊星歯車減速機構等の噛み合い状態を悪化させる虞がある。このように、遊星歯車減速機構等の噛み合い状態が悪化する、すなわち、各歯車の歯面同士の接触が不均一となると、回転トルクの伝達に係る性能、強度、作動音等へ悪影響を与えることになる。
【0007】
そして、上述した問題に鑑みて、本発明は、作動時における、各歯車の噛み合い状態を良好にする遊星歯車減速機構、及び該遊星歯車減速機構を備えたディスクブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段として、本発明に係るディスクブレーキは、車両の非回転部に固定され、ディスクロータの外周側を跨いで設けられる取付部材と、該取付部材に移動可能に設けられ、前記ディスクロータの軸方向における一方の面と対向して配置される第1の摩擦パッドと、前記取付部材に移動可能に設けられ、前記ディスクロータの軸方向における他方の面と対向して配置される第2の摩擦パッドと、前記第1の摩擦パッドを押圧するピストンと、該ピストンを前記ディスクロータの軸方向に移動可能に収容するキャリパと、該キャリパに設けられるハウジングと、該ハウジングに収容されるモータと、前記ハウジングに収容され、前記モータからの回転を伝達する遊星歯車減速機構と、前記キャリパに設けられ、前記遊星歯車減速機構からの回転力を前記ピストンの推進力に変換するピストン推進機構と、前記ハウジングの開口を覆うように取り付けられるカバーハウジングと、を備え、前記遊星歯車減速機構は、前記モータからの回転が伝達される第1ギヤ、及び該第1ギヤの軸心部から前記第1ギヤの軸方向に延出した第2ギヤを有するサンギヤと、前記第2ギヤと噛み合い、前記第2ギヤを囲むように配置される複数のプラネタリギヤと、前記複数のプラネタリギヤと噛み合い、前記複数のプラネタリギヤを囲むように配置されるインターナルギヤと、前記各プラネタリギヤの公転運動が伝達されるキャリアと、を備え、前記インターナルギヤは、前記サンギヤを回転可能に支持する支持部と、前記第1ギヤの軸方向において前記第1ギヤと所定距離離間して対向配置される平面部と、前記第1ギヤの径方向からみて前記第1ギヤと重なるように配置される、前記サンギヤの回転に伴う反力を受けて、当該インターナルギヤを前記ハウジングに対して相対回転不能に支持する反力受け部と、を有し、前記ピストン推進機構は、前記キャリアの回転が伝達されるスピンドルを有し、前記スピンドルからの回転力を前記ピストンの推進力に変換することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明に係る遊星歯車減速機構は、駆動源からの回転が伝達される第1ギヤ、及び前記第1ギヤの軸心部から前記第1ギヤの軸方向に延出した第2ギヤを有するサンギヤと、前記第2ギヤと噛み合い、前記第2ギヤを囲むように配置される複数のプラネタリギヤと、前記複数のプラネタリギヤと噛み合い、前記複数のプラネタリギヤを囲むように配置されるインターナルギヤと、前記各プラネタリギヤの公転運動が伝達されるキャリアと、を備え、ハウジングに収容される遊星歯車減速機構であって、前記インターナルギヤは、前記サンギヤを回転可能に支持する支持部と、前記第1ギヤの軸方向において前記第1ギヤと所定距離離間して対向配置される平面部と、前記第1ギヤの径方向からみて前記第1ギヤと重なるように配置される、前記サンギヤの回転に伴う反力を受けて、当該インターナルギヤを前記ハウジングに対して相対回転不能に支持する反力受け部と、を有し、前記駆動源からの回転が増力されつつ前記キャリアに伝達されて出力されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のディスクブレーキ及び遊星歯車減速機構によれば、作動時における、歯車の噛み合い状態を良好にすることができ、結果として、歯車の性能、強度、作動音等への悪影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】本実施形態に係るディスクブレーキの断面図。
【
図4】本実施形態に係るディスクブレーキであって、カバーハウジングの図示を省略した平面図。
【
図6】他の実施形態に係るディスクブレーキであって、
図5と同様の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態を
図1~
図6に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、車両内側(インナ側)を一端側(カバーハウジング29側)と称し、車両外側(アウタ側)を他端側(ディスクロータD側)と称して、適宜説明する。つまり、
図2、
図3、
図5及び
図6において、右側を一端側と称し、左側を他端側として称して、適宜説明する。
【0013】
本実施形態に係るディスクブレーキ1は、
図1及び
図2に示すように、車両の回転部に取り付けられたディスクロータDを挟んで軸方向両側に配置された一対のインナブレーキパッド2、及びアウタブレーキパッド3と、キャリパ4と、を備えている。本ディスクブレーキ1は、キャリパ浮動型として構成されている。なお、一対のインナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3と、キャリパ4とは、ブラケット5にディスクロータDの軸方向へ移動自在に支持されている。ブラケット5は、車両のナックル等の非回転部に固定され、ディスクロータDの外周側を跨ぐように設けられている。
【0014】
図1及び
図2に示すように、ブラケット5は、後述するシリンダ部16から外方に延びる一対のキャリパ腕部8、8にそれぞれ固定されるスライドピン9、9と、該スライドピン9、9が軸方向に沿って摺動自在に挿通され、ディスクロータDの外周側を跨ぐように延びる一対のピン挿嵌部10、10と、一対のピン挿嵌部10、10に一体的に接続され、インナブレーキ2をディスクロータDの軸方向に沿って移動自在に支持するインナ側支持部11と、一対のピン挿嵌部10、10に一体的に接続され、アウタブレーキパッド3をディスクロータDの軸方向に沿って移動自在に支持するアウタ側支持部12と、を概略備えている。
【0015】
インナブレーキパッド2は、ディスクロータDの軸方向におけるインナ側の面と対向して配置される。一方、アウタブレーキパッド3は、ディスクロータDの軸方向におけるアウタ側の面と対向して配置される。そして、ブラケット5のインナ側支持部11が、車両の非固定部に固定される。なお、インナブレーキパッド2が第1の摩擦パッドに相当して、アウタブレーキパッド3が第2の摩擦パッドに相当する。また、ブラケット5が、取付部材に相当する。
【0016】
図2に示すように、キャリパ4の主体であるキャリパ本体15は、インナブレーキパッド2に対向する基端側に配置され、該インナブレーキパッド2に対向して開口する有底円筒状のシリンダ部16と、該シリンダ部16からディスクロータDを跨いでアウタ側へ延び、アウタブレーキパッド3に対向する、先端側に配置される一対の爪部17、17と、を備えている。キャリパ本体15のシリンダ部16内、すなわちシリンダ部16のシリンダボア20に、ピストン21がシリンダ部16に対して相対回転不能に、且つ軸方向に移動可能に収容されている。ピストン21は、インナブレーキパッド2を押圧するものであって、有底のカップ状に形成される。該ピストン21は、その底部がインナブレーキパッド2に対向するように、シリンダ部16のシリンダボア20内に収容されている。ピストン21は、その底部とインナブレーキパッド2との間の回り止め係合によって、シリンダボア20、ひいてはキャリパ本体15に対して相対回転不能に支持される。
【0017】
シリンダ部16のシリンダボア20には、その他端側の内周面にシール部材(図示略)が配置されている。ピストン21は、このシール部材に接触した状態で軸方向に移動可能にシリンダボア20に収容される。ピストン21とシリンダ部16の底面との間には、シール部材によって区画された液圧室24が形成される。該液圧室24には、シリンダ部16に設けられた液圧回路(図示省略)を介して、マスタシリンダ、液圧制御ユニット等の液圧源(図示省略)から液圧が供給される。ピストン21の底部側の外周面と、シリンダボア20の他端側の内周面との間にはダストブーツ25が介装されている。これらシール部材及びダストブーツ25により、シリンダ部16のシリンダボア20内への異物の侵入を防ぐようにしている。
【0018】
キャリパ本体15のシリンダ部16の底部には、ハウジング28が取り付けられている。ハウジング28の一端側の開放部分は、カバーハウジング29により気密的に閉塞されている。具体的には、ハウジング28の一端側の開放部分は、カバーハウジング29をハウジング28に振動溶着により固定することで閉塞されている。ハウジング28の嵌合凹部34とシリンダ部16との間にはシール部材36が設けられている。ハウジング28内は、このシール部材36によって気密性が保持されている。ハウジング28は、シリンダ部16の底部の外周を覆うようにして、後述する遊星歯車減速機構55を収容する第1ハウジング部31と、第1ハウジング部31と並ぶように一体的に接続され、他端側に有底円筒状で突設され、後述する電動モータ53を収容する第2ハウジング部32と、を備えている。
【0019】
図2及び
図3に示すように、第1ハウジング部31は、一端側が開放され、他端側に開口部38を有する略円筒状に形成される。上述したように、第1ハウジング部31の内部には、遊星歯車減速機構55が収容されている。第1ハウジング部31の他端側には嵌合凹部34が形成される。該嵌合凹部34に、シリンダ部16の底部がシール部材36により気密的に嵌合される。嵌合凹部34の底部に開口部38が形成される。
図3を参照して、当該開口部38から一端側には、第1環状面40及び周壁面41を有する段部42が形成される。当該段部42の一端側に、第2環状面43が形成される。該段部42の第1環状面40に、後述する遊星歯車減速機構55のキャリア85が回転自在に支持される。段部42の周壁面41により、遊星歯車減速機構55のキャリア85の径方向の移動が規制される。
【0020】
図4及び
図5も参照して、第1ハウジング部31の内壁面であって、対向する位置に一対の係合凹部46、46がそれぞれ形成される。言い換えれば、各係合凹部46、46は、第1ハウジング部31の内壁面において周方向に沿って180°ピッチで形成されている。係合凹部46は、第1ハウジング部31の内壁面から径方向内側に突設される回り止め凸部47、47をその周方向に沿って間隔を置いて2箇所形成することで構成される。
図5を参照して、第1ハウジング部31において、これら回り止め凸部47、47(係合凹部46)が形成される範囲においては、その内壁部がカバーハウジング29の周壁部の内側に重なるように一端側に突設される。各回り止め凸部47、47(係合凹部46)の軸方向に沿う長さは、後で詳述するインターナルギヤ84に設けた回り止め部113の軸方向の長さ相当分となる。
図4を参照して、各係合凹部46、46における周方向に沿う位置は、後述する減速歯車68の径方向中心(シャフト80の径方向中心)と、後述するサンギヤ82の径方向中心とを結んだ直線L1に対して直交する方向に延びる直線L2に沿う位置にそれぞれ形成される。
図2を参照して、第2ハウジング部32は、他端側を開放する有底円筒状に形成される。第2ハウジング部32の他端開口は、キャップ部材49より閉塞されている。第2ハウジング部32の底部(一端部)には、貫通孔50が形成される。
【0021】
図2に示すように、キャリパ本体15には、電動モータ53と、電動モータ53からの回転トルクを増力する平歯多段減速機構54及び遊星歯車減速機構55と、これら平歯多段減速機構54及び遊星歯車減速機構55からの回転運動を直線運動に変換して、ピストン21に推力を付与すると共に、推進したピストン21を制動位置に保持するピストン推進機構56と、が備えられている。電動モータ53には、その回転を制御するための電子制御ユニット(ECU)60が電気的に接続される。電子制御ユニット60には、パーキングブレーキのON/OFF時に操作されるパーキングスイッチ61が電気的に接続される。なお、電子制御ユニット60は、パーキングスイッチ61の操作によらず、車両側からの信号に基づいてパーキングブレーキを作動させることもできる。
【0022】
電動モータ53は、上述したように、ハウジング28の第2ハウジング部32内に収容されている。電動モータ53の回転軸63は、第2ハウジング部32の底部に設けた貫通孔50に挿通されて一端側に延びている。電動モータ53とキャップ部材49との間にはスプリング65が配置されている。その結果、電動モータ53は、スプリング65の付勢力により一端側(カバーハウジング29側)に付勢されている。なお、
図2から解るように、キャリパ本体15のシリンダ部16と電動モータ53とは並ぶように配置されている
【0023】
図2及び
図3に示すように、平歯多段減速機構54は、カバーハウジング29内に収容されている。平歯多段減速機構54は、ピニオンギヤ67と、減速歯車68と、を備えている。ピニオンギヤ67は、円筒状に形成されて、電動モータ53の回転軸63が圧入固定される孔部70と、外周に形成される歯車71と、を有している。減速歯車68は、その径方向中心に軸方向に延びるシャフト用孔74が形成される。該減速歯車68は、ピニオンギヤ67の歯車71に噛合する大径の大歯車77と、大歯車77から同心状に軸方向に向かって延びる小径の小歯車78とが一体的に接続されて構成されている。小歯車78は、大歯車77から他端側に向かって一体的に延びている。減速歯車68のシャフト用孔74にシャフト80が回転自在に挿通される。該シャフト80は、その他端がハウジングの第1ハウジング部31と第2ハウジング部32との間の壁部に一体的に固定される。その結果、減速歯車68は、シャフト80により回転自在に支持される。減速歯車68の小歯車78は、遊星歯車減速機構55と噛合している。
【0024】
遊星歯車減速機構55は、ハウジング28の第1ハウジング部31内に収容されている。遊星歯車減速機構55は、サンギヤ82と、複数個(本実施形態では4個)のプラネタリギヤ83と、インターナルギヤ84と、キャリア85と、を備えている。サンギヤ82と、インターナルギヤ84と、キャリア85とは、互いに同心状に配置される。サンギヤ82は、減速歯車68の小歯車78に噛合する大径の大歯車88と、大歯車88から同心状に軸方向に沿って延びる小径の小径軸歯車89と、から構成される。大歯車88には、径方向内側で環状に延びる円環状壁部90が一体的に備えられている。小径軸歯車89は、大歯車88の円環状壁部90の径方向内側端部から同心状に他端側に向かって一体的に延びている。小径軸歯車89は、一端側に位置する大径軸部92と、該大径軸部92から連続して他端側に同心状にて延びる小歯車93と、から構成される。小径軸歯車89には、その径方向中央部に軸方向に延びる貫通孔96が形成される。小径軸歯車89の一端面は、カバーハウジング29の内壁面と限りなく近接して配置されている。大径軸部92は、小歯車93よりも大径である。なお、サンギヤ82の大歯車88が第1ギヤに相当して、サンギヤ82の小歯車93が第2ギヤに相当する。
【0025】
プラネタリギヤ83は、サンギヤ82の小歯車93に噛合される歯車100と、キャリア85から立設されるピン106が回転自在に挿通されるピン用孔部101と、を有している。各プラネタリギヤ83は、後述のキャリア85の円周上であって、サンギヤ82の小歯車93の周りを囲むように等間隔に配置される。キャリア85は、円板状に形成される。キャリア85は、第1ハウジング部31に設けた段部42の第1環状面40に回転自在に支持される。キャリア85の径方向略中央には多角形孔104が貫通して形成される。該キャリア85の外径は、各プラネタリギヤ83の公転軌跡の外径と略同一である。キャリア85の外周側には、複数のピン106が一端側に向かってそれぞれ突設されている。各ピン106は周方向に沿って間隔を置いて突設されている。各ピン106は、各プラネタリギヤ83のピン用孔部101に回転自在にそれぞれ挿通される。これにより、各プラネタリギヤ83の公転運動がキャリア85に伝達される。
図2及び
図3に示すように、キャリア85の多角形孔104には、後述するピストン推進機構56(回転直動変換機構)のスピンドル125の多角形軸部126が嵌合される。これにより、キャリア85とスピンドル125との間で互いに回転トルクを伝達できるようになる。
【0026】
図3に示すように、インターナルギヤ84は、各プラネタリギヤ83の歯車100がそれぞれ噛合される内歯110と、該内歯110の軸方向一端から連続して径方向内側に同心状で平面状に延びる円環状壁部111と、該円環状壁部111の径方向内側端部から一端側に連続して同心状に延びる円筒状支持部112と、内歯110が形成される部位の外周面から円環状壁部111を経て一端側に連続して延びる一対の回り止め部113、113(
図4及び
図5参照)と、を備えている。円環状壁部111は、サンギヤ82の軸方向において、サンギヤ82の大歯車88、具体的には大歯車88の円環状壁部111と所定距離離間して対向するように配置されている。円筒状支持部112は、サンギヤ82の小径軸歯車89に設けた大径軸部92の径方向外側に同心状に配置される。該円筒状支持部112とサンギヤ82の大径軸部92との間には、すべり軸受120が配置されている。該すべり軸受120は、円筒状の軸受部121と、該軸受部121の一端から径方向外方に延びる環状鍔部122と、から構成される。該軸受部121が、インターナルギヤ84の円筒状支持部112の内周面と、サンギヤ82の大径軸部92の外周面との間に配置される。
【0027】
すべり軸受120の環状鍔部122は、インターナルギヤ84の円筒状支持部112の一端面と、サンギヤ82の円環状壁部90の他端面との間に挟持される。このすべり軸受120により、サンギヤ82の大径軸部92が、インターナルギヤ84の円筒状支持部112に対して回転自在に支持される。ひいては、サンギヤ82がインターナルギヤ84に対して回転自在に支持される。なお、円筒状支持部112が支持部に相当する。円環状壁部111が平面部に相当する。
図4及び
図5に示すように、インターナルギヤ84には、一対の回り止め部113、113が、内歯110が形成される部位の外周面から径方向外方に突設され、且つその円環状壁部111から一端側に連続して延出している。一対の回り止め部113、113は、第1ハウジング部31に設けた一対の係合凹部46、46に対応する位置であって、具体的には、インターナルギヤ84の周方向に沿って180°ピッチで形成される。一対の回り止め部113、113は、第1ハウジング部31に設けた一対の係合凹部46、46に係合されるので、遊星歯車減速機構55が第1ハウジング部31に組み込まれた状態において、減速歯車68の径方向中心(シャフト80の径方向中心)と、サンギヤ82の径方向中心とを結んだ直線L1に対して直交する方向に延びる直線L2に沿う位置に配置される。
【0028】
回り止め部113は、その断面が略矩形状に形成される。回り止め部113は、上述したように、インターナルギヤ84の内歯110が形成される部位の外周面から径方向外方に突設され、且つその円環状壁部111から一端側に連続して延出している。詳しくは、
図5を参照して、回り止め部113は、インターナルギヤ84の円環状壁部111から大歯車88の軸方向中心位置を超え、かつ大歯車88の軸方向一端以下の位置まで延出している。言い換えれば、回り止め部113は、その一端が大歯車88の軸方向中心位置と、大歯車88の軸方向一端との間に位置するように一端側に延びている。そして、回り止め部113の円環状壁部111から一端側に延出した部分は、サンギヤ82の大歯車88の径方向からみて、大歯車88と重なるように配置される。また、インターナルギヤ84の一対の回り止め部113、113は、第1ハウジング部31の各係合凹部46、46に対して、すきまばめによりそれぞれ係合される。
【0029】
すなわち、インターナルギヤ84の回り止め部113が、第1ハウジング部31の係合凹部46に係合された際、回り止め部113と、各回り止め凸部47、47との間に僅かなクリアランスが設けられるように、はめ合い寸法公差が設定されると共に、回り止め部113の頂面と係合凹部46の底面との間に僅かなクリアランスが設けられるように、はめ合い寸法公差が設定される。そして、インターナルギヤ84の他端面を第1ハウジング部31の第2環状面43に当接させると共に、インターナルギヤ84の一対の回り止め部113、113を、第1ハウジング部31の各係合凹部46、46に係合させ、インターナルギヤ84の円筒状支持部112の一端面がすべり軸受120の環状鍔部122を介してサンギヤ82の円環状壁部90に当接することで、インターナルギヤ84は第1ハウジング部31に対して、軸方向及び径方向への移動が規制されると共に、相対回転不能に支持される。
【0030】
また、
図4から解るように、インターナルギヤ84の一対の回り止め部113、113と、第1ハウジング部31の各係合凹部46、46との係合箇所は、減速歯車68の径方向中心(シャフト80の径方向中心)と、サンギヤ82の径方向中心とを結んだ直線L1に対して直交する方向に延びる直線L2に沿う位置になる。さらに、
図4及び
図5に示すように、インターナルギヤ84の回り止め部113において、第1ハウジング部31に設けた各回り止め凸部47、47との当接部が、サンギヤ82の回転に伴う第1ハウジング部31からの反力を受ける反力受け部114、114として作用する。
【0031】
次に、ピストン推進機構56は、回転直動変換機構にて構成される。
図2に示すように、ピストン推進機構56は、平歯多段減速機構54及び遊星歯車減速機構55からの回転運動、すなわちスピンドル125の回転運動を直線運動に変換し、その直動部材(図示略)の移動によりピストン21に推力を付与して、ピストン21を推進させる(他端側へ移動させる)と共に、該ピストン21を制動位置に保持するものである。スピンドル125は、その一端部に多角形軸部126を有している。該多角形軸部126が遊星歯車減速機構55のキャリア85に設けた多角形孔104に嵌合される。ピストン推進機構56は、シリンダボア20内であって、その底面とピストン21との間に配置される。そして、キャリア85の回転に伴ってスピンドル125が回転すると、ピストン推進機構56の作用により、その直動部材が他端側に向かって前進することで、該ピストン21が前進し、該ピストン21によってインナブレーキパッド2をディスクロータDに押し付けて、その制動状態を保持することができる。
【0032】
次に、本実施形態に係るディスクブレーキ1の作用を説明する。
まず、ブレーキペダル(図示略)の操作による通常の液圧ブレーキとしてのディスクブレーキ1の制動時における作用を説明する。
運転者によりブレーキペダルが踏み込まれると、ブレーキペダルの踏力に応じた液圧がマスタシリンダ等の液圧源から液圧回路(共に図示省略)を経て、キャリパ本体15のシリンダ部16(シリンダボア20)内の液圧室24に供給される。これにより、ピストン21がシール部材を弾性変形させながら非制動時の原位置から前進(
図2の左方向に移動)して、インナブレーキパッド2をディスクロータDに押し付ける。そして、ピストン21によるインナブレーキパッド2への押圧力に対する反力により、キャリパ本体15がブラケット5に対してインナ側(
図2における右方向)に移動して、各爪部17、17によってアウタブレーキパッド3をディスクロータDに押し付ける。その結果、ディスクロータDが一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3により挟みつけられて摩擦力が発生し、ひいては、車両の制動力が発生することになる。
【0033】
そして、運転者がブレーキペダルを解放すると、マスタシリンダ等の液圧源からの液圧の供給が途絶えて液圧室24内の液圧が低下する。これにより、ピストン21は、シール部材の弾性変形の復元力によって原位置まで後退して、制動力が解除される。ちなみに、インナ及びアウタブレーキパッド2、3の摩耗に伴いピストン21の移動量が増大して、シール部材の弾性変形の限界を越えると、ピストン21とシール部材との間に滑りが生じる。この滑りによってキャリパ本体15に対するピストン21の原位置が移動して、パッドクリアランスが一定に調整されるようになっている。
【0034】
次に、車両の停止状態を維持するための作用の一例である駐車ブレーキとしての作用を説明する。
まず、駐車ブレーキの解除状態からパーキングスイッチ61が操作されて駐車ブレーキを作動(アプライ)させる際に、電子制御ユニット60からの指令により、電動モータ53をアプライ方向に駆動させて、平歯多段減速機構54を介して遊星歯車減速機構55のサンギヤ82を回転させる。このサンギヤ82の回転により、各プラネタリギヤ83が自身の軸心を中心に自転しながらサンギヤ82の軸心を中心に公転することで、キャリア85が回転する。そして、キャリア85からの回転がスピンドル125に伝達される。
【0035】
そこで、電動モータ53からの回転が平歯多段減速機構54を介して遊星歯車減速機構55に伝達される際には、インターナルギヤ84に設けた一対の回り止め部113、113は、インターナルギヤ84の径方向中心に対して対称する位置であって、減速歯車68の径方向中心と、サンギヤ82の径方向中心とを結んだ直線L1に対して直交する方向に延びる直線L2に沿う位置にて、第1ハウジング部31の各回り止め凸部47、47から反力を受け、また、インターナルギヤ84の回り止め部113(反力受け部114)は、サンギヤ82の大歯車88の径方向からみて、大歯車88と重なる位置にて、第1ハウジング部31の各回り止め凸部47、47から反力を受ける。
【0036】
そして、またインターナルギヤ84は、その円筒状支持部112によってサンギヤ82を回転自在に支持しているので、遊星歯車減速機構55の作動時、サンギヤ82の大歯車88が減速歯車68の小歯車78から受ける荷重もインターナルギヤ84にて支持することになるが、サンギヤ82の大歯車88が減速歯車68の小歯車78から受ける荷重の位置と、インターナルギヤ84の回り止め部113(反力受け部114)が第1ハウジング部31の各回り止め凸部47、47から反力を受ける位置とが、インターナルギヤ84の軸方向に沿って略同じ位置となる。その結果、インターナルギヤ84に対して、その径方向に沿う任意の直線を中心に回転するモーメントの発生を抑制することができる。
【0037】
続いて、遊星歯車減速機構55の作動に伴って、スピンドル125が回転すると、ピストン推進機構56の作用により、その直動部材が前進してピストン21を前進させる。このピストン21が前進することで、インナブレーキパッド2をディスクロータDに押し付ける。そして、ピストン21によるインナブレーキパッド2への押圧力に対する反力により、キャリパ本体15がブラケット5に対してインナ側(
図2における右方向)に移動して、各爪部17、17によってアウタブレーキパッド3をディスクロータDに押し付ける。
【0038】
その結果、ディスクロータDが一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3により挟みつけられて摩擦力が発生し、ひいては、車両の制動力が発生して、その制動状態を保持することができる。なお、電子制御ユニット60では、一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3からディスクロータDへの押圧力が所定値に到達するまで、例えば、電動モータ53の電流値が所定値に達するまで電動モータ53を駆動させる。その後、電子制御ユニット60は、ディスクロータDへの押圧力が所定値に到達したことを電動モータ53の電流値が所定値に達したことによって検出すると、電動モータ53への通電が停止される。
【0039】
一方、制動解除時には、電子制御ユニット60からの指令により、電動モータ53の回転軸63が逆方向、すなわちリリース方向に回転すると共に、その逆方向の回転が平歯多段減速機構54及び遊星歯車減速機構55を介してスピンドル125に伝達される。その結果、スピンドル125の逆方向への回転に伴って、ピストン推進機構56の作用により、その直動部材が後退して初期状態に戻り、ディスクロータDへの一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3による制動力が解除される。
【0040】
なお、本実施形態に係るディスクブレーキ1では、
図4及び
図5に示すように、ハウジング28の第1ハウジング部31の内壁面に、インターナルギヤ84に設けた回り止め部113が係合する係合凹部46(一対の回り止め凸部47、47)を設けているが、
図6に示すように、カバーハウジング29の内壁面に、インターナルギヤ84に設けた回り止め部113が係合する係合凹部46(一対の回り止め凸部47、47)を設けてもよい。この実施形態の場合、
図6から解るように、カバーハウジング29において、各回り止め凸部47、47(係合凹部46)が形成される範囲においては、その内壁部が第1ハウジング部31の周壁部の内側に重なるように他端側に突設される。
【0041】
以上説明したように、本実施形態に係るディスクブレーキ1に採用した遊星歯車減速機構55では、インターナルギヤ84に、サンギヤ82の回転に伴う反力を受ける反力受け部114、114を有する回り止め部113を設けており、該回り止め部113は、サンギヤ82の大歯車88の径方向からみて、該大歯車88と重なるように配置される。その結果、遊星歯車減速機構55の作動時、サンギヤ82の大歯車88が減速歯車68の小歯車78から受ける荷重の位置と、インターナルギヤ84の回り止め部113(反力受け部114)が第1ハウジング部31の各回り止め凸部47、47から反力を受ける位置とが、インターナルギヤ84の軸方向に沿って略同じ位置となる。
【0042】
これにより、遊星歯車減速機構55の作動時、サンギヤ82及びインターナルギヤ84に対して、これらの径方向に沿う任意の直線を中心に回転する方向のモーメントの発生を抑制することができる。そして、サンギヤ82及びインターナルギヤ84の傾きを抑制でき、ひいては、遊星歯車減速機構55の噛み合い状態が良好となり、歯車としての性能、強度、作動音等への悪影響を抑え、その信頼性を向上させることができる。
【0043】
また、本実施形態に係るディスクブレーキ1では、インターナルギヤ84に設けた回り止め部113は、インターナルギヤ84の円環状壁部111から大歯車88の軸方向中心位置を超え、かつ大歯車88の軸方向一端以下の位置まで延びている。その結果、回り止め部113の円環状壁部111から一端側に延出した部分が、サンギヤ82の大歯車88の径方向からみて、大歯車88の軸方向において最大限重なるように配置されるので、遊星歯車減速機構55の作動時、サンギヤ82及びインターナルギヤ84に対して、これらの径方向に沿う任意の直線を中心に回転する方向のモーメントの発生を最大限抑制することができる。
【0044】
さらに、本実施形態に係るディスクブレーキ1では、インターナルギヤ84において、サンギヤ82の回転に伴う反力を受ける反力受け部114を回り止め部113に設け、反力受け部114を新設することなく、既設の回り止め部113に設けているので、その構造を簡素化することができる。
【0045】
さらにまた、本実施形態に係るディスクブレーキ1では、インターナルギヤ84において、反力受け部114、114を有する回り止め部113を周方向に沿って等間隔で複数(180°ピッチで2個)配置しているので、サンギヤ82の回転に伴う第1ハウジングまたはカバーハウジング29からの反力を略均等に各係合部(各回り止め部113、113及び各係合凹部46、46)に分散させることができ、係合部における耐久性を向上させることができる。
【0046】
さらにまた、本実施形態に係るディスクブレーキ1では、インターナルギヤ84に設けた回り止め部113は、第1ハウジング部31またはカバーハウジング29に設けた係合凹部46にすきまばめにより係合されるので、組み付け作業が容易となり、組立工数の削減によって製造コストを削減することができる。
【0047】
さらにまた、本実施形態に係るディスクブレーキ1では、カバーハウジング29は、ハウジングに対して振動溶着により固定されている。この方式を採用する場合には、カバーハウジング29側には、平歯多段減速機構54(減速歯車68)及び遊星歯車減速機構55を回転自在に支持させることができず、ハウジング29側に回転自在に支持する必要がある。この場合、特に、遊星歯車減速機構55において噛み合い不良が発生する虞があり、この課題を解決すべく本実施形態を採用したものである。要するに、本実施形態によれば、平歯多段減速機構54(減速歯車68)及び遊星歯車減速機構55をハウジング29側に回転自在に支持させた場合でも、特に、遊星歯車減速機構55の噛み合い不良の発生を抑制することが可能になる。
【0048】
なお、以上の説明では、本実施形態を、駐車ブレーキ時等に使用するパーキングディスクブレーキを作動させる際に、電動モータ53を駆動させて制動力を発生させるディスクブレーキ1に採用しているが、本実施形態を、通常制動時に、電動モータ53を駆動させて制動力を発生させる電動ディスクブレーキに採用してもよい。
【0049】
また、本実施形態に係る遊星歯車減速機構55は、上述したディスクブレーキ1だけでなく、モータからの回転等を増力させて出力する他の装置に適用してもよい。
【0050】
以上説明した、本実施形態に基づくディスクブレーキ1として、例えば、以下に述べる態様のものが考えられる。
第1の態様は、車両の非回転部に固定され、ディスクロータ(D)の外周側を跨いで設けられる取付部材(5)と、該取付部材(5)に移動可能に設けられ、前記ディスクロータ(D)の軸方向における一方の面と対向して配置される第1の摩擦パッド(2)と、前記取付部材(5)に移動可能に設けられ、前記ディスクロータ(D)の軸方向における他方の面と対向して配置される第2の摩擦パッド(3)と、前記第1の摩擦パッド(2)を押圧するピストン(21)と、該ピストン(21)を前記ディスクロータ(D)の軸方向に移動可能に収容するキャリパ(4)と、該キャリパ(4)に設けられるハウジング(28)と、該ハウジング(28)に収容されるモータ(53)と、前記ハウジング(28)に収容され、前記モータ(53)からの回転を伝達する遊星歯車減速機構(55)と、該遊星歯車減速機構(55)からの回転力を前記ピストン(21)の推進力に変換するピストン推進機構(56)と、前記ハウジング(28)の開口を覆うように取り付けられるカバーハウジング(29)と、を備え、前記遊星歯車減速機構(55)は、前記モータ(53)からの回転が伝達される第1ギヤ(88)、及び該第1ギヤ(88)の軸心部から前記第1ギヤ(88)の軸方向に延出した第2ギヤ(93)を有するサンギヤ(82)と、前記第2ギヤ(93)と噛み合い、前記第2ギヤ(93)を囲むように配置される複数のプラネタリギヤ(83)と、前記複数のプラネタリギヤ(83)と噛み合い、前記複数のプラネタリギヤ(83)を囲むように配置されるインターナルギヤ(84)と、を備え、該インターナルギヤ(84)は、前記サンギヤ(82)を回転可能に支持する支持部(112)と、前記第1ギヤ(88)の軸方向において前記第1ギヤ(88)と所定距離離間して対向配置される平面部(111)と、前記第1ギヤ(88)の径方向からみて前記第1ギヤ(88)と重なるように配置される、前記サンギヤ(82)の回転に伴う反力を受ける反力受け部(114)と、を有する。
【0051】
第2の態様は、第1の態様において、前記反力受け部(114)は、前記ハウジング(28)から反力を受ける。
第3の態様は、第1の態様において、前記反力受け部(114)は、前記カバーハウジング(29)から反力を受ける。
【0052】
第4の態様は、第1の態様において、前記反力受け部(114)は、前記第1ギヤ(88)の径方向からみて、前記平面部(111)から前記第1ギヤ(88)の軸方向の中心位置を超える位置まで延出して、前記第1ギヤ(88)と重なるように配置される。
第5の態様は、第4の態様において、前記反力受け部(114)は、前記第1ギヤ(88)の径方向からみて、前記平面部(111)から前記第1ギヤ(88)の軸方向の中心位置を超え、かつ前記第1ギヤ(88)の軸方向端部以下の位置まで延出して、前記第1ギヤ(88)と重なるように配置される。
【0053】
第6の態様は、第1の態様において、前記反力受け部(114)は、前記インターナルギヤ(84)の、前記ハウジング(28)または前記カバーハウジング(29)に対する相対回転を規制する回り止め部(113)に設けられている。
第7の態様は、第6の態様において、前記回り止め部(113)は、前記インターナルギヤ(84)の周方向において等間隔で複数配置されている。
【0054】
第8の態様は、第6の態様において、前記回り止め部(113)は、前記ハウジング(28)または前記カバーハウジング(29)に対して、すきまばめにて係合されている。
第9の態様は、第1の態様において、前記カバーハウジング(29)は、前記ハウジング(28)に対して振動溶着により固定されている。
【0055】
また、本実施形態に基づくディスクブレーキ1に備えた遊星歯車減速機構55として、例えば、第10の態様は、駆動源(53)からの回転が伝達される第1ギヤ(88)、及び前記第1ギヤ(88)の軸心部から前記第1ギヤ(88)の軸方向に延出した第2ギヤ(93)を有するサンギヤ(82)と、前記第2ギヤ(93)と噛み合い、前記第2ギヤ(93)を囲むように配置される複数のプラネタリギヤ(83)と、前記複数のプラネタリギヤ(83)と噛み合い、前記複数のプラネタリギヤ(83)を囲むように配置されるインターナルギヤ(84)と、を備えた遊星歯車減速機構(55)であって、前記インターナルギヤ(84)は、前記サンギヤ(82)を回転可能に支持する支持部(112)と、前記第1ギヤ(88)の軸方向において前記第1ギヤ(88)と所定距離離間して対向配置される平面部(111)と、前記第1ギヤ(88)の径方向からみて前記第1ギヤ(88)と重なるように配置される、前記サンギヤ(82)の回転に伴う反力を受ける反力受け部(114)と、を有する。
【0056】
第11の態様は、第10の態様において、前記反力受け部(114)は、前記第1ギヤ(88)の径方向からみて、前記平面部(111)から前記第1ギヤ(88)の軸方向の中心位置を超える位置まで延出して、前記第1ギヤ(88)と重なるように配置される。
第12の態様は、第11の態様において、前記反力受け部(114)は、前記第1ギヤ(88)の径方向からみて、前記平面部(111)から前記第1ギヤ(88)の軸方向の中心位置を超え、かつ前記第1ギヤ(88)の軸方向端部以下の位置まで延出して、前記第1ギヤ(88)と重なるように配置される。
【符号の説明】
【0057】
1 ディスクブレーキ,2 インナブレーキパッド(第1の摩擦パッド),3 アウタブレーキパッド(第2の摩擦パッド),4 キャリパ,5 ブラケット(取付部材),21 ピストン,28 ハウジング,29 カバーハウジング,53 電動モータ(モータ、駆動源),55 遊星歯車減速機構,56 ピストン推進機構,88 大歯車(第1ギヤ),93 小歯車(第2ギヤ),82 サンギヤ,83 プラネタリギヤ,84 インターナルギヤ,111 円環状壁部(平面部),112 円筒状支持部(支持部),113 回り止め部,114 反力受け部,D ディスクロータ