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  • 特許-摩擦ダンパおよび制振方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】摩擦ダンパおよび制振方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 7/09 20060101AFI20231207BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20231207BHJP
   F16F 1/32 20060101ALI20231207BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
F16F7/09
F16F15/02 E
F16F1/32
E04H9/02 311
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020149812
(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公開番号】P2022044267
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】久保田 淳
(72)【発明者】
【氏名】栗野 治彦
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】実公昭46-9172(JP,Y1)
【文献】特開2006-77877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 7/09
F16F 15/02
F16F 1/32
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の外殻部と、
前記外殻部の内部に挿入され、ネジを有する軸部と、
前記軸部のネジに螺合し、間隔を空けて配置される一組のナットと、
各ナットの内側に配置され、内側に向かって折れ曲がった折曲部を両端に有する一組のサポート材と、
一組の前記サポート材の前記折曲部の先端に当接し、前記外殻部の内面に接する摩擦部と、
を有し、
前記ナットを締め込んで前記サポート材を内側に押し込むことで、前記折曲部が広がろうとすることにより前記摩擦部が前記外殻部の内面に押し付けられることを特徴とする摩擦ダンパ。
【請求項2】
前記ナットと当該ナットの内側のサポート材との間に、弾性体が配置されたことを特徴とする請求項1記載の摩擦ダンパ。
【請求項3】
建物の振動時に請求項1または請求項2記載の摩擦ダンパの前記軸部が前記外殻部内で進退することにより、前記摩擦部と前記外殻部の内面との間に生じる摩擦力により振動エネルギーが吸収されることを特徴とする制振方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦ダンパおよびこれを用いた制振方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、建物架構のブレース同士を接合するボルト接合部の制振構造として、摩擦力によって振動エネルギーを吸収する摩擦ダンパを用いることが記載されている。
【0003】
この摩擦ダンパは、ブレースのウェブをスプライスプレートで挟み込み、ウェブとスプライスプレートの間に摩擦板等を設けたものであり、ウェブ、スプライスプレート、摩擦板等を貫通する高力ボルトにナットを締め込んで面圧力を導入することで、面圧力に応じた摩擦力を確保する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-352113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ただし、特許文献1の摩擦ダンパは、導入する面圧力がナットを締め込む力と同じ値になるため、この力に対応した摩擦力しか得ることができない。
【0006】
また、特許文献1の摩擦ダンパでは、高力ボルトを通すための長孔がブレースのウェブに設けられるが、この長孔の範囲でしかブレースの変位を許容できない。そのため、大変形の生じ得る免震層や建物間等では使用し難いという課題もある。
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、大きな摩擦力を効率良く得ることのできる摩擦ダンパ等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するための第1の発明は、筒状の外殻部と、前記外殻部の内部に挿入され、ネジを有する軸部と、前記軸部のネジに螺合し、間隔を空けて配置される一組のナットと、各ナットの内側に配置され、内側に向かって折れ曲がった折曲部を両端に有する一組のサポート材と、一組の前記サポート材の前記折曲部の先端に当接し、前記外殻部の内面に接する摩擦部と、を有し、前記ナットを締め込んで前記サポート材を内側に押し込むことで、前記折曲部が広がろうとすることにより前記摩擦部が前記外殻部の内面に押し付けられることを特徴とする摩擦ダンパである。
【0009】
本発明の摩擦ダンパでは、ナットを締め込んでサポート材を内側に押し込む力(プレストレス力)を、サポート材によって摩擦部を外殻部の内面に向かって押し付ける力(スラスト力)に変換し、この力に応じた摩擦力を確保することができる。特に本発明では、サポート材の折曲部という形状的特徴により、摩擦部を外殻部の内面に向かって押し付ける力が、ナットを締め込んでサポート材を内側に押し込む力より大きくなり、大きな摩擦力を効率良く得ることができる。そのため、部材数が少なく簡易な機構で、コンパクトな構成の摩擦ダンパを提供できる。また本発明の摩擦ダンパは、前記した長孔等によるストロークの制限も無く、小変形から大変形まで対応可能できる。
【0010】
前記ナットと当該ナットの内側の前記サポート材との間に、弾性体が配置されることが望ましい。
これにより、外力作用時に、サポート材のプレストレス力の変動を抑制することができ、安定した摩擦力を確保することができる。
【0011】
第2の発明は、建物の振動時に第1の発明の摩擦ダンパの前記軸部が前記外殻部内で進退することにより、前記摩擦部と前記外殻部の内面との間に生じる摩擦力により振動エネルギーが吸収されることを特徴とする制振方法である。
第2の発明は第1の発明の摩擦ダンパを用いた制振方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、大きな摩擦力を効率良く得ることのできる摩擦ダンパ等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る摩擦ダンパ1を示す図。
図2】実施形態に係る摩擦ダンパ1の適用例を示す図。
図3】変形例に係る摩擦ダンパ1aを示す図。
図4】変形例に係る摩擦ダンパ1bを示す図。
図5】変形例に係る摩擦ダンパ1cを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る摩擦ダンパ1を示す図である。この摩擦ダンパ1は、図1に示すように、外殻部10、軸部20、押圧部30、取付部40等を有する。
【0016】
外殻部10は筒状の部材であり、軸方向の両端部が端板11a、11bで閉じられる。一方の端板11aには孔111が設けられる。
【0017】
また外殻部10内には、外殻部10の内部空間において軸部20を真っ直ぐに保持するための保持板12が設けられており、当該保持板12は軸部20を挿通させるための孔121を有する。
【0018】
外殻部10内には軸部20が挿入される。軸部20は、上記した端板11aの孔111に通して外殻部10内に挿入され、その先端が保持板12の孔121を貫通し、外殻部10内の端板11b側の室に突出する。軸部20の基端は外殻部10の端板11aの外側に位置し、板材22が設けられる。軸部20の基端と先端の間には、ネジ21が設けられる。
【0019】
取付部40は、摩擦ダンパ1を取り付けるためのものであり、軸部20の基端の板材22と、外殻部10の端板11bとに設けられる。
【0020】
押圧部30は、軸部20に取り付けて外殻部10内に収納される。押圧部30は、外殻部10の内面を摩擦部35により押圧するものであり、摩擦部35の他、ダブルナット31、皿バネ32、サポート材33、厚板34等を有する。また摩擦部35はスライダ351と摩擦材352を有する。
【0021】
ダブルナット31(ナット)は、軸部20のネジ21に螺合するように設けられる。本実施形態ではダブルナット31が軸部20の基端側と先端側に間隔を空けて一組配置される。
【0022】
これらのダブルナット31の間の中央部では、軸部20に厚板34が設けられる。厚板34は、軸部20から外殻部10の内面に向かって軸部20の両側に突出するように設けられる。各厚板34の両端は、軸部20とスライダ351に設けた凹部23、353のそれぞれに挿入される。
【0023】
スライダ351の凹部353と反対側の面には、摩擦材352が取り付けられており、この摩擦材352が外殻部10の内面に接する。
【0024】
軸部20の基端側と先端側のダブルナット31の間では、皿バネ32とサポート材33が軸部20の基端側と先端側に一組配置される。
【0025】
皿バネ32とサポート材33はダブルナット31から内側へとこの順に設けられる。ここで、内側とは、軸部20に沿って厚板34に向かう方向をいい、その反対の方向は外側というものとする。
【0026】
皿バネ32は、軸部20の軸方向に伸縮する弾性体である。皿バネ32は、軸部20を通すための孔321を有する。
【0027】
サポート材33は、摩擦部35を外殻部10の内面に押し付けるものである。サポート材33は例えば帯状の鋼板の両端を折り曲げて形成され、鋼板には例えばSS400、SM490などの鋼材が用いられる。サポート材33には、軸部20を通すための孔331も設けられる。
【0028】
サポート材33は、両端の折曲部が内側に折れ曲がるように配置される。折曲部の先端は、摩擦部35のスライダ351に当接している。
【0029】
摩擦ダンパ1では、軸部20の基端側と先端側のダブルナット31のそれぞれについて、内側と外側のナットを順に締め込むことで、これら一組のダブルナット31の間隔を小さくできる。ダブルナット31の間隔が縮まることで、皿バネ32を介してサポート材33が内側に押し込められる。ダブルナット31のうち外側のナットは、内側のナットの位置を固定する役割を有し、これによりダブルナット31間の間隔を維持できる。ただし、ダブルナット31に代えて通常の(一重の)ナットを用いてもよい。
【0030】
ダブルナット31によりサポート材33が内側に押し込められることで、サポート材33の折曲部が矢印aに示すように広がろうとする。これにより、摩擦部35を外殻部10の内面に向かって押し付ける力が発生する。
【0031】
地震や強風時に建物が振動し、外力が矢印bに示すように軸部20の軸方向に働いた際は、軸部20が外殻部10内で進退する。この際、軸部20からの力が厚板34に伝わり、摩擦部35が外殻部10の内面に沿って往復移動するように働く。摩擦材352と外殻部10の内面の間には摩擦力が生じ、振動エネルギーがこの摩擦力により吸収され、建物の振動が抑制される。
【0032】
前記した皿バネ32は、外力作用時に、ダブルナット31によりサポート材33を内側に押し込む力(プレストレス力)の変動を抑制するために設けられる。
【0033】
すなわち、外力作用時には、ダブルナット31から厚板34の範囲で生じる微小変形(例えば軸部20のたわみ等)により、サポート材33のプレストレス力が抜ける恐れがあるが、本実施形態では上記の微小変形に応じた皿バネ32の伸縮により、サポート材33のプレストレス力の変動がほぼゼロに抑制される。
【0034】
本実施形態の摩擦ダンパ1は、図2(a)に側面を示すように、例えば、両端の取付部40を柱100と梁200の接合箇所に設けたジョイント部300に取付けて、建物の架構内や免震層等に設置することができる。その他、図2(b)に平面で示すように、両端の取付部40を建物の柱100と梁200の接合箇所に設けたジョイント部300に取付けるなどして、隣り合う建物同士の間に設置してもよい。
【0035】
また、図2(c)に側面を示すように、摩擦ダンパ1の一方の取付部40を省略してブレースなどの軸状部材400を直接摩擦ダンパ1に剛接合し、残りの取付部40を柱100と梁200の接合箇所に設けたジョイント部300に取付けて、摩擦ダンパ1を建物の架構内や免震層等に設置することもできる。これは、建物間に摩擦ダンパ1を設置する図2(b)のケースにおいても同様である。
【0036】
さらに、図2(d)に側面を示すように、柱100と梁200による構面内において、摩擦ダンパ1の一方の取付部40を柱100(または梁200)に設けたジョイント部300に取付け、他方の取付部40をV字型ブレース500の頂点のプレート501に設けたジョイント部300に取付けることで、摩擦ダンパ1の設置を行ってもよい。
【0037】
以上説明したように、本実施形態の摩擦ダンパ1では、ナットを締め込んでサポート材33を内側に押し込む力(プレストレス力)を、サポート材33によって摩擦部35を外殻部10の内面に向かって押し付ける力(スラスト力)に変換し、この力に応じた摩擦力を確保することができる。
【0038】
特に本実施形態では、サポート材33の折曲部という形状的特徴により、摩擦部35を外殻部10の内面に向かって押し付ける力が、ナットを締め込んでサポート材33を内側に押し込む力より大きくなり、大きな摩擦力を効率良く得ることができる。そのため、部材数が少なく簡易な機構で、コンパクトな構成の摩擦ダンパ1を提供できる。摩擦部35を外殻部10の内面に向かって押し付ける力が、ナットを締め込んでサポート材33を内側に押し込む力からどの程度大きくなるかは、サポート材33の折曲部の角度等によって変化し、任意に調整が可能である。
【0039】
また本実施形態の摩擦ダンパ1は、前記した長孔等によるストロークの制限も無く、外殻部10、軸部20等の設計により小変形だけでなく大変形まで対応可能である。すなわち、本実施形態の摩擦ダンパ1の機構であれば、必要なストロークに合わせてダブルナット31と端板11a(又は保持板12)までの離隔を設計すれば良く、それにより免震層や建物間などに設置するダンパに求められるロングストロークを容易に確保することができる。
【0040】
また本実施形態では、外力作用時のサポート材33のプレストレス力の変動を皿バネ32により緩和することができ、プレストレス力の変動を、皿バネ32を入れない場合に比べてほぼゼロとみなせるほどに抑制し、安定した摩擦力を確保することができる。
【0041】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限らない。例えば変形例に係る図3の摩擦ダンパ1aの押圧部30aに示すように、厚板34を省略することも可能である。図3の例では、サポート材33の折曲部の先端が、摩擦部35aのスライダ351aに設けた突起部354の両側で、スライダ351aに当接している。
【0042】
係る構成により厚板34を省略し、部材数を減らすことでよりシンプルな構成となり、摩擦ダンパ1aの製作が容易でコストも低減できる。この摩擦ダンパ1aでは、厚板34を省略することで、サポート材33の変形によるプレストレス力の変動が生じるため、その低減のために皿バネ32が必須となる。一方、第1の実施形態では、剛性の高い厚板34を用いることで、外力作用時の摩擦部35への外力伝達系の構成(軸部20-厚板34-摩擦部35)が剛となり、サポート材33のプレストレス力の変動をより低減することができる。
【0043】
その他、変形例に係る図4の摩擦ダンパ1bに示すように、複数の押圧部30を軸部20の軸方向に沿って設け、より大きな摩擦力を確保することもできる。この場合の摩擦力は押圧部30の数に比例し、例えば押圧部30を2つ設けた場合の摩擦力は、押圧部30を1つ設けた場合の2倍になり、押圧部30を3つ設けた場合の摩擦力は、押圧部30を1つ設けた場合の3倍になる。押圧部30を設ける数は、必要な摩擦力や摩擦ダンパ1の長さなどにより定められ、特に限定されない。
【0044】
さらに、変形例に係る図5の摩擦ダンパ1cに示すように、複数のサポート材33を軸部20の軸方向に重ねて用いてもよく、これにより摩擦部35を外殻部10の内面に大きな力で押し付け、大きな摩擦力を確保できる。この場合の摩擦力もサポート材33の数に比例し、例えばサポート材33を2つ重ねて配置した場合の摩擦力は、サポート材33を1つ配置した場合の2倍になり、サポート材33を3つ重ねて配置した場合の摩擦力は、サポート材33を1つ配置した場合の3倍になる。図5の例では3枚のサポート材33を重ねているが、重ねて配置するサポート材33の数は必要な摩擦力等に応じて定めることができ、軸部20の基端側と先端側で同数であれば任意に設定可能である。さらに、サポート材33と厚板34との間の摩擦力が、摩擦部35を外殻部10の内面に押し付ける力を減殺するような場合は、サポート材33と厚板34との間にステンレス板などの滑動材を設けることも可能である。
【0045】
また図5のようにサポート材33の枚数を増やす場合には、これに応じて皿バネ32の耐力を向上させるか、または複数の皿バネ32を直列配置することも可能である。このように、皿バネ32の枚数も、軸部20の基端側と先端側で同数であれば特に限定されることはない。
【0046】
また、摩擦ダンパ1を適用する建物やその構造形式なども特に限定されず、どのような建物、構造形式でもジョイント部300等を設ければ取り付けることが出来る。また摩擦ダンパ1は新築時に設けることも可能であるし、改修工事、補強工事において既存の建物に設けることも可能である。
【0047】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0048】
1、1a、1b、1c:摩擦ダンパ
10:外殻部
20:軸部
21:ネジ
30:押圧部
31:ダブルナット
32:皿バネ
33:サポート材
34:厚板
35:摩擦部
351:スライダ
352:摩擦材
40:取付部
100:柱
200:梁
300:ジョイント部
400:軸状部材
図1
図2
図3
図4
図5