(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】車両用アンダーカバー
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
B62D25/20 N
(21)【出願番号】P 2020176067
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【氏名又は名称】江口 基
(74)【代理人】
【識別番号】100147854
【氏名又は名称】多賀 久直
(72)【発明者】
【氏名】中村 光児
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴史
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 拓哉
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-131624(JP,A)
【文献】特開平7-64564(JP,A)
【文献】特開平10-76979(JP,A)
【文献】特開2007-262904(JP,A)
【文献】特開2018-2124(JP,A)
【文献】特開2009-96438(JP,A)
【文献】特開2017-81103(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0309442(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1870732(KR,B1)
【文献】独国特許出願公開第102017111703(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08,25/14-29/04,35/02
B60K 11/00-11/08,13/00-13/06
B60R 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂部と、
前記樹脂部で区画される開口部分を塞ぐように設けられ、多数の空隙を有する吸音部と、
前記樹脂部を上下方向に貫通するように設けられた排水孔部と、を備え、
前記吸音部は、その上面に、前記排水孔部側が傾斜下端になるように傾く排水案内部を有している
ことを特徴とする車両用アンダーカバー。
【請求項2】
前記排水案内部は、車両の左右方向へ傾いている請求項1記載の車両用アンダーカバー。
【請求項3】
前記吸音部は、不織布で構成されている請求項1または2記載の車両用アンダーカバー。
【請求項4】
前記吸音部の一部が、前記樹脂部の内側に入り込んで溶着している請求項1~3の何れか一項に記載の車両用アンダーカバー。
【請求項5】
前記吸音部の上面に撥水加工が施されている請求項1~4の何れか一項に記載の車両用アンダーカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンアンダーカバーなどの車両用アンダーカバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両におけるエンジンの下側には、エンジン音を低減するために、エンジンアンダーカバーが設置されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1のエンジンアンダーカバーは、繊維層と発泡体層とが積層する吸音構造部分によって、エンジン音の吸音を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両が冠水路を走行した場合、エンジンアンダーカバーにおける吸音構造部分の上に水が溜まることがある。吸音構造部分に水が溜まっていると、吸音性が悪化してしまう。また、吸音構造部分を貫通した排水孔を設けると、その排水孔からエンジン音が漏れて、吸音構造部分の吸音性が悪化するおそれがある。
【0005】
本発明は、従来の技術に係る前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、吸音性を保ちつつ円滑に排水できる車両用アンダーカバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係る車両用アンダーカバーは、
樹脂部と、
前記樹脂部で区画される開口部分を塞ぐように設けられ、多数の空隙を有する吸音部と、
前記樹脂部を上下方向に貫通するように設けられた排水孔部と、を備え、
前記吸音部は、その上面に、前記排水孔部側が傾斜下端になるように傾く排水案内部を有していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る車両用アンダーカバーによれば、吸音性を保ちつつ円滑に排水できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例に係る車両用アンダーカバーを示す概略斜視図である。
【
図2】実施例に係る車両用アンダーカバーを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明に係る車両用アンダーカバーにつき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。なお、本発明の車両用アンダーカバーは、エンジンアンダーカバー、フロアアンダーカバー、フェンダーライナーなどの車両外装部材に適用可能である。
【実施例】
【0010】
図1に示すように、車両用アンダーカバー10(以下、単にアンダーカバーという。)は、樹脂部12と、樹脂部12で区画される開口部分14を塞ぐように設けられた吸音部16と、アンダーカバー10の上側にのった水を排出するための排水構造18,20とを備えている。アンダーカバー10は、樹脂部12と吸音部16とが、樹脂部12の成形時に一体化したり、接着剤で接着したり、熱等により溶着したりするなどによって互いに接続されている。アンダーカバー10では、吸音部16よりも硬質な樹脂部12によって、剛性が主に担保されている。アンダーカバー10は、樹脂部12に設けられた取付部分を用いて、自動車等の車両の車体に取り付けられる。
【0011】
樹脂部12は、合成樹脂の射出成形等による成形品である。合成樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン (ABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)などを用いることができる。
【0012】
図1および
図2に示すように、実施例の樹脂部12は、車体への取付部分が形成された外周部12aと、外周部12aの内側において前後左右方向へ延びる格子状に形成された枠部12bとを備えている。樹脂部12には、開口部分14が、4本の枠部12b、あるいは外周部12aおよび枠部12bに囲まれて形成されている。実施例では、複数の開口部分14が、樹脂部12において前後左右に並ぶように配置されている。
【0013】
吸音部16は、多数の空隙を有する不織布や発泡体などで構成することができる。アンダーカバー10は、多数の空隙を有する吸音部16によって、エンジン音や走行音などの車外騒音を抑えている。吸音部16を構成する不織布としては、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維などからなるものを用いることができる。また、吸音部16を構成する発泡体としては、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリスチレン系などの発泡体を用いることができる。
【0014】
実施例のアンダーカバー10は、吸音部16の上面に撥水加工が施されている。撥水加工としては、例えばシリコーン樹脂やフッ素樹脂などの撥水材料を吸音部16の上面(車体側)または上面を含めた全体に付与したり、撥水性を有する繊維等の素材で吸音部16を構成したりすることなどが挙げられる。なお、吸音部16において後述する排水案内部20となる部分だけに撥水加工を施してもよい。
【0015】
吸音部16は、1層で構成してもよいが、2層以上で構成してもよい。例えば、吸音部16を2層とする場合、上側(車体側)の第1層を吸音部16に求められる主機能(吸音)を担保するための層とし、下側(地面側)の第2層を吸音部16に付加する補助機能(実施例では耐水)を担保するための層とすることができる。この場合、第2層を第1層よりも密度が高く設定するとよく、例えば、第1層の密度を165kg/m3程度とし、第2層の密度を400kg/m3程度に設定することができる。第2層に撥水加工を施してもよく、第2層の撥水加工としては、例えばシリコーン樹脂やフッ素樹脂などの撥水材料を不織布に付与することが挙げられる。アンダーカバー10は、吸音部16の下面に撥水性が付与されていることで、吸音部16に水が浸入したり、吸音部16に雪が付いたり、吸音部16に着氷したりすることを防止できる。
【0016】
アンダーカバー10の排水構造について説明する。アンダーカバー10は、排水構造として、樹脂部12を上下方向に貫通するように設けられた排水孔部18と、吸音部16の上面に形成されて、排水孔部18側が傾斜下端になるように傾く排水案内部20とを有している。排水孔部18は、外周部12aおよび枠部12bに、複数形成されている。排水孔部18は、開口部分14(吸音部16)に対応して、1箇所以上設けるとよい。排水孔部18は、外周部12aおよび枠部12bにおける開口部分14(吸音部16)に近接する位置に配置されている。
【0017】
図3および
図4に示すように、排水案内部20は、排水孔部18に向けて水を導くことができる程度に傾いた傾斜面である。排水案内部20は、例えば、1°~3°の傾きとすることができる。ここで、排水案内部20は、車両の左右方向へ傾けることが好ましい。実施例では、排水案内部20の形態として、吸音部16の左右方向中央部から右側に向かうにつれて下方傾斜する傾斜面と、吸音部16の左右方向中央部から左側に向かうにつれて下方傾斜する傾斜面とで山形に形成されたものを備えている。また、実施例では、排水案内部20の別の形態として、吸音部16の左右方向の一方から他方へ向かうにつれて下方傾斜する傾斜面で形成されたものを備えている。吸音部16は、板状の吸音部16自体を山形に成形することで排水案内部20を設けても(
図3(a)参照)、吸音部16の上面だけを山形に成形することで排水案内部20を設けても(
図3(b)参照)、何れであってもよい。
【0018】
実施例のアンダーカバー10は、吸音部16となるシート材をセットした成形型において樹脂部12を成形するインサート成形によって得ることができる。インサート成形では、シート材の端部を、樹脂部12をなすキャビティに臨ませた状態で、樹脂部12を射出成形する。これにより、吸音部16の端部(一部)が、樹脂部12の内側に入り込んだ状態で溶着し、吸音部16の端部と樹脂部12とが一体化される。インサート成形に際して、成形型で挟んで吸音部16を成形することで排水案内部20を形成してもよい。また、アンダーカバー10は、樹脂部12を成形した後、吸音部16を樹脂部12に接着剤で接着したり、吸音部16を樹脂部12に超音波等により溶着したりすることなどによっても得ることができる。
【0019】
例えば、車両が冠水路等を通過してアンダーカバー10の上側に水Wが入った場合、吸音部16の上面に形成された排水案内部20の傾斜で水Wを導き、水Wを排水孔部18に案内することができる(
図4参照)。そして、水Wを排水孔部18からアンダーカバー10の外部へ排出することができる。このように、排水案内部20を設けることで、水Wを吸音部16の上側から円滑に排除することができ、吸音部16に水Wが浸入することを防止して、吸音性が低下することを回避できる。また、吸音部16に侵入した水Wが凍ること等による吸音部16の破損を防止することができる。しかも、アンダーカバー10は、樹脂部12に排水孔部18を形成し、吸音部16に排水のための孔をあけないので、吸音部16にあけた孔に起因して吸音部16の吸音性を損なうことを回避できる。
【0020】
アンダーカバー10は、排水案内部20を、車両の左右方向へ傾けて形成することで、アンダーカバー10の上側を前後方向に通る風に対して、排水案内部20が邪魔にならないようにすることができる。
【0021】
吸音部16を不織布で構成することで、軽量で、かつ耐久性に優れたアンダーカバー10とすることができる。
【0022】
吸音部16の端部を、樹脂部12の内側に入り込んだ状態で溶着すると、樹脂部12と吸音部16との接合強度を向上することができる。このように樹脂部12の内側に吸音部16の端部を入り込ませるためには、前述したインサート成形になるので、アンダーカバー10をより簡単に得ることができる。
【0023】
吸音部16の上面に撥水加工が施してあることで、排水案内部20によって水Wを吸音部16の上側から円滑に排除することができると共に、吸音部16に水Wが浸入することを防止することができる。
【0024】
(変更例)
前述した事項に限らず、例えば以下のように変更してもよい。なお、本発明は、実施例および以下の変更例の具体的な記載のみに限定されるものではない。
(1)吸音部の上面全体を排水案内部としても、吸音部の上面の一部を排水案内部としてもよい。
(2)排水案内部は、直線的な傾斜面に限らず、例えば弧を描くように曲がった傾斜面であってもよい。
(3)排水案内部は、1つの傾斜面で構成することに限らず、複数の傾斜面で構成してもよい。例えば、1の傾斜面の傾斜下端に別の傾斜面の傾斜上端が連なって、樹脂部の排水孔部に最終的に案内される構成などが挙げられる。
【符号の説明】
【0025】
12 樹脂部,14 開口部分,16 吸音部,18 排水孔部,20 排水案内部