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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】免震構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20231207BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
E04H9/02 331A
E04H9/02 331E
F16F15/02 M
F16F15/02 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020195477
(22)【出願日】2020-11-25
(65)【公開番号】P2022083883
(43)【公開日】2022-06-06
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】石川 義幸
(72)【発明者】
【氏名】道越 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】欄木 龍大
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-220064(JP,A)
【文献】特開平10-339053(JP,A)
【文献】特開2017-096084(JP,A)
【文献】特開2001-073586(JP,A)
【文献】特開2019-085738(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0005477(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
F16F 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震装置と、前記免震装置を冷却する冷却装置と、を備える免震構造であって、
前記免震装置は、下部基礎上に設けられたすべり板と、前記すべり板上を摺動可能でかつ上部基礎を支持する弾性すべり支承と、を備え、
前記冷却装置は、冷却液が収容された冷却液タンクと、前記冷却液タンク内の冷却液を前記免震装置に供給する冷却液供給機構と、を備え、
前記冷却液供給機構は、前記弾性すべり支承と前記すべり板との相対変位が所定値を超えた場合、あるいは、前記弾性すべり支承と前記すべり板との相対変位に伴って発生する摩擦熱が所定値を超えた場合に、冷却液を前記すべり板の上面に供給することを特徴とする免震構造。
【請求項2】
前記冷却液供給機構は、前記冷却液タンクから前記すべり板上まで延びる冷却液供給管と、前記冷却液タンク内に設けられて前記冷却液供給管を塞ぐ閉塞材と、前記閉塞材と前記すべり板または前記弾性すべり支承とを連結する連結材と、を備え、前記すべり板と前記弾性すべり支承との相対移動が所定値以上になると、前記連結材が前記閉塞材を上方に引っ張り上げて、冷却液が前記冷却液供給管を通して前記すべり板の上面に供給される、
あるいは、前記冷却液供給機構は、前記冷却液タンクの底面の貫通孔を塞ぐ閉塞材と、前記閉塞材と前記すべり板または前記弾性すべり支承とを連結する連結材と、を備え、前記すべり板と前記弾性すべり支承との相対移動が所定値以上になると、前記連結材が前記閉塞材を下方に引っ張ることで、前記閉塞材が取り外されて、冷却液が前記貫通孔を通して前記すべり板の上面に供給されることを特徴とする請求項1に記載の免震構造。
【請求項3】
前記冷却液供給機構は、前記冷却液タンクから前記すべり板の上面まで延びる冷却液供給管と、前記弾性すべり支承の前記すべり板に対する相対移動を低減する摩擦ダンパと、前記冷却液供給管を塞ぐ開閉弁と、前記摩擦ダンパに接して設けられて前記開閉弁に連結された形状記憶金属と、を備え、前記弾性すべり支承と前記すべり板との相対移動により前記摩擦ダンパに熱が発生すると、前記形状記憶金属が変形して前記開閉弁を移動させ、冷却液が前記冷却液供給管を通して前記すべり板の上面に供給される、
あるいは、前記冷却液供給機構は、前記冷却液タンクから前記すべり板の上面まで延びる冷却液供給管と、前記弾性すべり支承の前記すべり板に対する相対移動を低減する摩擦ダンパと、前記冷却液供給管を塞いで熱で溶解可能な可溶栓と、を備え、前記弾性すべり支承と前記すべり板との相対移動により前記摩擦ダンパに熱が発生すると、前記可溶栓が溶解して、冷却液が前記冷却液供給管を通して前記すべり板の上面に供給されることを特徴とする請求項1に記載の免震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置と、免震装置を冷却する冷却装置と、を備える免震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、すべり板と、すべり板上に摺動可能に設けられた弾性すべり支承(積層ゴム)と、を備える免震すべり支承が提案されている。
ところで、過去の多くの地震では、地震動が建物に2分程度(約100秒)作用していた。しかし、今後、南海トラフ地震のような巨大地震が発生すると予測されている。この巨大地震では、長周期長時間地震として、地震動が建物に10分程度(約600秒)作用すると予測されている。
このような長周期地震動が上述の免震すべり支承に作用すると、弾性すべり支承とすべり板との摺動が繰り返されて、すべり板の表面温度が上昇する。すると、すべり板の摩擦係数が低下し、弾性すべり支承の変位が増大する、という問題があった。
【0003】
そこで、以下のような免震すべり支承が提案されている。
特許文献1には、すべり板と、すべり板上を水平方向に摺動自在なすべり材と、を備えた免震装置が示されている。この免震装置は、すべり板に接して配設されて内部にすべり板から熱を吸収する冷却液が循環される冷却液配管と、この冷却液配管に介装されて冷却液の熱を放熱する放熱器と、冷却液配管内の冷却液を循環させるポンプと、を備える。
特許文献2には、建物基礎と建物躯体との間に設置された積層ゴム型免震支承が示されている。この積層ゴム型免震支承には、筐体が装着されており、この筐体内に冷却液を供給しつつ、その冷却液が気化したガスを筐体外へ排出することで、冷却液の気化に伴う吸熱効果により積層ゴム型免震支承を冷却する。
特許文献3には、溝部が形成されたホルダと、上面が溝部の底面に対向して溝部に嵌め込まれて下面が摺動面とされたすべり材と、を備えるすべり材ユニットが示されている。すべり材の上面は、窪み部を有し、溝部の底面は、窪み部の形状に沿って窪み部に嵌合されるように形成された突出部を有している。このすべり材ユニットによれば、窪み部および突出部が無い場合に比べて、溝部の底面とすべり材の上面との接触面積を増加させることができる。これにより、すべり材の摺動面で発生する摩擦熱を、窪み部および突出部を介してホルダへ効率的に伝熱させることができるため、すべり材の温度が上昇するのを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-339053号公報
【文献】特開2017-160734号公報
【文献】特開2019-19923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、建物に地震動が長時間作用する場合に、免震装置の温度上昇を抑制し、免震性能を安定して発揮可能な、免震構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の免震構造(例えば、後述の免震構造1、1A~1E)は、免震装置(例えば、後述の免震装置2)と、前記免震装置を冷却する冷却装置(例えば、後述の冷却装置3、3A~3D)と、を備える免震構造であって、前記免震装置は、下部基礎(例えば、後述の下部基礎4)上に設けられたすべり板(例えば、後述のすべり板10)と、前記すべり板上を摺動可能でかつ上部基礎(例えば、後述の上部基礎5)を支持する弾性すべり支承(例えば、後述の弾性すべり支承20)と、を備え、前記冷却装置は、冷却液(例えば、後述の冷却液C)が収容された冷却液タンク(例えば、後述の冷却液タンク30、30A~30D)と、前記冷却液タンク内の冷却液を前記免震装置に供給する冷却液供給機構(例えば、後述の冷却液供給機構31、31A~31E)と、を備え、前記冷却液供給機構は、前記弾性すべり支承と前記すべり板との相対変位が所定値を超えた場合、あるいは、前記弾性すべり支承と前記すべり板との相対変位に伴って発生する摩擦熱が所定値を超えた場合に、冷却液を前記すべり板の上面に供給することを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、弾性すべり支承とすべり板との相対変位が所定値を超えた場合、あるいは、弾性すべり支承とすべり板との相対変位に伴って発生する摩擦熱が所定値を超えた場合に、冷却液を免震装置に供給する。すべり板の上面に冷却液が供給されると、この冷却液に弾性すべり支承とすべり板との間に生じた摩擦熱が吸収されるから、弾性すべり支承とすべり板との間の摩擦係数の低下を抑制できる。したがって、建物に地震動が長時間作用する場合でも、免震装置の温度上昇を抑制し、免震性能を安定して発揮できる。
【0008】
第2の発明の免震構造は、前記冷却液供給機構(例えば、後述の冷却液供給機構31)は、前記冷却液タンクから前記すべり板上まで延びる冷却液供給管(例えば、後述の冷却液供給管40)と、前記冷却液タンク内に設けられて前記冷却液供給管を塞ぐ閉塞材(例えば、後述の閉塞材41)と、前記閉塞材と前記すべり板または前記弾性すべり支承とを連結する連結材(例えば、後述のワイヤ42)と、を備え、前記すべり板と前記弾性すべり支承との相対移動が所定値以上になると、前記連結材が前記閉塞材を上方に引っ張り上げて、冷却液が前記冷却液供給管を通して前記すべり板の上面に供給される、あるいは、前記冷却液供給機構(例えば、後述の冷却液供給機構31A、31B、31C)は、前記冷却液タンクの貫通孔(例えば、後述の貫通孔50)を塞ぐ閉塞材(例えば、後述の閉塞材52)と、前記閉塞材と前記すべり板または前記弾性すべり支承とを連結する連結材(例えば、後述のワイヤ53)と、を備え、前記すべり板と前記弾性すべり支承との相対移動が所定値以上になると、前記連結材が前記閉塞材を引っ張ることで、前記閉塞材が取り外されて、冷却液が前記貫通孔を通して前記すべり板の上面に供給されることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、弾性すべり支承とすべり板との相対移動により、連結材が閉塞材を上方に引っ張り上げることで、冷却液が冷却液供給管を通してすべり板の上面に供給される、あるいは、弾性すべり支承とすべり板との相対移動により、連結材が閉塞材を引っ張ることで、閉塞材が取り外されて、冷却液がすべり板の上面に供給される。よって、この冷却液にすべり板の摩擦熱が吸収されるので、弾性すべり支承とすべり板との間の摩擦係数の低下を抑制できる。
【0010】
第3の発明の免震構造は、前記冷却液供給機構(例えば、後述の冷却液供給機構31D)は、前記冷却液タンクから前記すべり板の上面まで延びる冷却液供給管(例えば、後述の冷却液供給管60)と、前記弾性すべり支承の前記すべり板に対する相対移動を低減する摩擦ダンパ(例えば、後述の摩擦ダンパ61)と、前記冷却液供給管を塞ぐ開閉弁(例えば、後述の開閉弁64)と、前記摩擦ダンパに接して設けられて前記開閉弁に連結された形状記憶金属(例えば、後述のばね65)と、を備え、前記弾性すべり支承と前記すべり板との相対移動により前記摩擦ダンパに熱が発生すると、前記形状記憶金属が変形して前記開閉弁を移動させ、冷却液が前記冷却液供給管を通して前記すべり板の上面に供給される、あるいは、前記冷却液供給機構は、前記冷却液タンクから前記すべり板の上面まで延びる冷却液供給管と、前記弾性すべり支承の前記すべり板に対する相対移動を低減する摩擦ダンパと、前記冷却液供給管を塞いで熱で溶解可能な可溶栓(例えば、後述の可溶栓70)と、を備え、前記弾性すべり支承と前記すべり板との相対移動により前記摩擦ダンパに熱が発生すると、前記可溶栓が溶解して、冷却液が前記冷却液供給管を通して前記すべり板の上面に供給されることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、弾性すべり支承とすべり板との相対移動により摩擦ダンパに熱が発生すると、この熱により形状記憶金属が変形して開閉弁を移動させ、冷却液供給管を通して冷却液がすべり板の上面に供給される、あるいは、弾性すべり支承とすべり板との相対移動により摩擦ダンパに熱が発生すると、この熱により可溶栓が溶解して、冷却液供給管を通して冷却液がすべり板の上面に供給される。よって、この冷却液にすべり板の摩擦熱が吸収されるので、弾性すべり支承とすべり板との間の摩擦係数の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、建物に地震動が長時間作用する場合に、免震装置の温度上昇を抑制し、免震性能を安定して発揮可能な、免震構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係る免震構造の模式図である。
図2】第1実施形態に係る免震構造の動作を説明するための模式図である。
図3】動的加振試験に用いた試験体の側面図である。
図4】動的加振試験の試験結果を示す図である
図5】すべり板の温度とすべり材の単位面積当たり吸収エネルギー量との関係を示す図である。
図6】すべり板の温度と摩擦係数変化率との関係を示す図である。
図7】時刻歴応答解析に用いる建物の解析モデルを示す図である。
図8】時刻歴応答解析の解析結果を示す図である。
図9】本発明の第2実施形態に係る免震構造の模式図である。
図10】第2実施形態に係る免震構造の動作を説明するための模式図である。
図11】本発明の第3実施形態に係る免震構造の模式図である。
図12】第3実施形態に係る免震構造の動作を説明するための模式図である。
図13】本発明の第4実施形態に係る免震構造の模式図である。
図14】第4実施形態に係る免震構造の動作を説明するための模式図である。
図15】本発明の第5実施形態に係る免震構造の模式図である。
図16】第5実施形態に係る免震構造を構成する開閉機構の模式図である。
図17】本発明の第6実施形態に係る免震構造を構成する開閉機構の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、免震装置およびこの免震装置を冷却する冷却装置を備える免震構造である。免震装置は、下部基礎上に設けられるすべり板と、このすべり板上を摺動可能でかつ上部基礎を支持する弾性すべり支承と、を備える。冷却装置は、弾性すべり支承とすべり板との相対変位、または弾性すべり支承とすべり板との相対変位に伴って発生する摩擦熱が閾値を上回ると、すべり板の上面に冷却液を流入させることで、免震装置を冷却する。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る免震構造1の模式図である。
免震構造1は、建物の免震層に設けられた免震装置2と、この免震装置2を冷却する冷却装置3と、を備える。
免震装置2は、鉄筋コンクリート造の下部基礎4に設けられて、上部基礎5を支持するものである。この免震装置2は、免震すべり支承であり、下部基礎4上に設けられたすべり板10と、すべり板10上を摺動可能でかつ上部基礎5を支持する弾性すべり支承20と、を備える。
弾性すべり支承20は、すべり板10の上に設けられたすべり材21と、このすべり材21の上に設けられた下部鋼板22と、下部鋼板22の上に設けられた積層ゴム23と、積層ゴム23の上に設けられた上部鋼板24と、を備える。
【0015】
以上の免震装置2は、下部基礎4に反力をとって上部基礎5を下から支持しつつ、上部基礎5が下部基礎4に対して水平方向に移動可能な状態を保持している。
そして、地震時において、上部基礎5に小さな地震力が加わった場合には、弾性すべり支承20の積層ゴム23が変形して、地震力を緩和し、大きな地震力が加わった場合には、弾性すべり支承20がすべり板10の上を摺動して、地震力を緩和する。
【0016】
冷却装置3は、弾性すべり支承20の四方に設けられる。この冷却装置3は、上部基礎5に設けられて冷却液Cが収容された冷却液タンク30と、冷却液タンク30内の冷却液Cを免震装置2に供給する冷却液供給機構31と、を備える。
冷却液供給機構31は、弾性すべり支承20とすべり板10との相対変位が所定値を超えた場合に、冷却液Cをすべり板10の上面に供給するものである。この冷却液供給機構31は、冷却液タンク30の底面からすべり板10上まで延びる冷却液供給管40と、冷却液タンク30内に設けられて冷却液供給管40を上から塞ぐ閉塞材41と、冷却液タンク30の上部に設けられた貫通孔43に挿通されて閉塞材41とすべり板10とを連結する連結材としてのワイヤ42と、を備える。
【0017】
この冷却液供給機構31では、図2に示すように、すべり板10と弾性すべり支承20との相対移動が所定値(変位量閾値)以上になると、ワイヤ42が引っ張られて、閉塞材41を上方に引っ張り上げる。これにより、冷却液供給管40を通して冷却液Cがすべり板10の上面に供給され、冷却液Cが弾性すべり支承20とすべり板10との間の摩擦熱を吸収する。ここで、上述の変位量閾値は、例えば、外径800mmの弾性すべり支承の場合、200mmとする。また、冷却液Cには、沸点が100℃の水、あるいは、水より沸点が低くかつ不燃で引火点がない高機能性液体ハイドロフルオロエーテル液(例えば、スリーエムジャパン株式会社製のNoVec700)を使用する。
なお、すべり板10と弾性すべり支承20との相対移動の所定値は、ワイヤ42の長さを調整することで、適宜設定される。
【0018】
また、すべり板10には、外周に沿って外周壁11が設けられており、外周壁11の所定高さには、外部に連通する排水管12が設けられている。すべり板10の上面に冷却液Cが供給されると、この冷却液Cは、外周壁11で囲まれた内側に溜まるが、冷却液Cの水面が排水管12の高さに達すると、冷却液Cは、この排水管12を通して外部に排出される。
【0019】
〔既往の動的加振試験〕
以下、弾性すべり支承を対象とする、既往の動的加振試験について説明する。
既往の動的加振試験は、次の文献に示されている。免震部材の多数回繰り返し特性と免震建築物の地震応答性状への影響に関する研究、第III部 免震部材の特性評価と応答評価、建築研究資料、第170号、(国開)建築研究所、平成28年4月)。
図3は、既往の動的加振試験に用いた試験体の側面図である。この試験体は、弾性すべり支承の上にすべり板を配置した免震すべり支承である。この試験体に5000kNの荷重(面圧10N/mm)を加えて、この状態で、弾性すべり支承に、400mmの振幅による5回の振動を1サイクルとして、全部7サイクル加振した。
図4は、動的加振試験の試験結果である。図4より、各サイクルにおいて、加振数が増加するに従って摩擦係数が低下することが判る。また、サイクルが増加するに従って、全体的に摩擦係数が低下することが判る。図5および図6は、今回の試験結果に基づいて、摩擦係数の温度依存性を定式化したものである。図5は、すべり板の温度とすべり材の単位面積当たり吸収エネルギー量との関係を示す図である。図6は、すべり板の温度と摩擦係数変化率との関係を示す図である。図6では、すべり板の温度が上昇するに従って、摩擦係数が低下する性状が定式化されている。
このように、免震装置を構成する免震材料について、長時間(多数回)地震荷重が作用した場合の繰返し依存性の評価式が提案されている。
【0020】
〔時刻歴応答解析〕
次に、弾性すべり支承に多数回繰返し加振を行った場合について、時刻歴応答解析を行った。具体的には、免震すべり支承をモデル化し、この免震すべり支承モデルに多数回繰返し加振を行い、弾性すべり支承とすべり板との最大相対変位を求めた。
図7は、時刻歴応答解析に用いる建物の解析モデルを示す図である。この解析モデルは、建物を1質点系パラメータでモデル化したものである。この建物は、基礎の上に積層ゴム(弾性支承)および免震すべり支承を配置し、これら積層ゴムおよび免震すべり支承で建物本体を支持するものである。
具体的には、建物本体の質量を53960tとし、この建物本体の質量の70%である38650tを積層ゴムで支持し、建物本体の質量の30%である15300tを免震すべり支承で支持するものとした。また、建物固有周期を、滑動前が2.1秒、滑動後が6.0秒、40cm変位時が4.7秒(等価周期)とした。さらに、降伏ベースシアCiを0.032、摩擦係数μを0.112、減衰定数hを0%とした。入力する地震波は、基整促波CH1、基整促波OS1とした。
【0021】
図8は、時刻歴応答解析の解析結果を示す図である。図8の「温度依存なし」とは、免震すべり支承のすべり板と弾性すべり支承との間の摩擦熱を考慮しない場合における、弾性すべり支承のすべり板上の移動距離である。一方、「温度依存有り」とは、免震すべり支承のすべり板と弾性すべり支承との間の摩擦熱を考慮した場合における、弾性すべり支承のすべり板上の移動距離である。「温度依存有り」では、「温度依存なし」と比べて、摩擦熱により摩擦係数が低下しているため、弾性すべり支承の移動距離が長くなっていることが判る。また、「温度依存有り」では、すべり板上の温度は300℃以上に達することが確認された。
【0022】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)弾性すべり支承20とすべり板10との相対変位が所定値を超えた場合に、冷却液Cを免震装置2に供給する。すべり板10の上面に冷却液Cが供給されると、この冷却液Cに弾性すべり支承20とすべり板10との間に生じた摩擦熱が吸収されるから、弾性すべり支承20とすべり板10との間の摩擦係数の低下を抑制できる。したがって、建物に地震動が長時間作用する場合でも、免震装置2の温度上昇を抑制し、免震性能を安定して発揮できる。
【0023】
(2)弾性すべり支承20とすべり板10との相対移動により、ワイヤ42が閉塞材41を上方に引っ張り上げることで、冷却液Cが冷却液供給管40を通してすべり板10の上面に供給される。よって、この冷却液Cにすべり板10の摩擦熱が吸収されるので、弾性すべり支承20とすべり板10との間の摩擦係数の低下を抑制できる。
【0024】
〔第2実施形態〕
図9は、本発明の第2実施形態に係る免震構造1Aの模式図である。
本実施形態では、冷却装置3Aの構成が、第1実施形態と異なる。
冷却装置3Aは、上部基礎5に設けられて冷却液Cが収容された冷却液タンク30Aと、冷却液タンク30A内の冷却液Cを免震装置2に供給する冷却液供給機構31Aと、を備える。
冷却液タンク30Aの下面には、貫通孔50が設けられるとともに、この貫通孔50を通って下方に流れ出た冷却液Cをすべり板10上に誘導する誘導板51が設けられている。
【0025】
冷却液供給機構31Aは、冷却液タンク30の底面の貫通孔50を塞ぐ閉塞材52と、閉塞材52とすべり板10側の下部基礎4とを連結する所定長さの連結材としてのワイヤ53と、を備える。冷却液供給機構31Aでは、図10に示すように、すべり板10と弾性すべり支承20との相対移動が所定値以上になると、ワイヤ53が閉塞材52を下方に引っ張ることで、閉塞材52が取り外されて、冷却液Cが冷却液タンク30の貫通孔50を通して下方に流れ出て、誘導板51の上面を流れてすべり板10の上面に供給される。ここで、すべり板10と弾性すべり支承20との相対移動の所定値とは、ワイヤ53の長さを調整することで、適宜設定される。
なお、本実施形態では、ワイヤ53の一端側を下部基礎4に連結したが、これに限らず、下部基礎4に付勢力で巻き取るドラムを設け、ワイヤ53の一端側をこのドラムに連結してもよい。この場合、ドラムの巻き出し長さが所定長さ以上になると、巻き出しにロックがかかるようにする。
本実施形態によれば、上述の(1)、(2)と同様の効果がある。
【0026】
〔第3実施形態〕
図11は、本発明の第3実施形態に係る免震構造1Bの模式図である。
本実施形態では、冷却装置3Bの構成が、第1実施形態と異なる。
冷却装置3Aは、下部基礎4上に設けられて冷却液Cが収容された冷却液タンク30Bと、冷却液タンク30B内の冷却液Cを免震装置2に供給する冷却液供給機構31Bと、を備える。
冷却液タンク30Bの側面には、貫通孔50が設けられるとともに、この貫通孔50を通って側方に流れ出た冷却液Cをすべり板10上に誘導する誘導板51が設けられている。
【0027】
冷却液供給機構31Bは、冷却液タンク30の側面の貫通孔50を塞ぐ閉塞材52と、閉塞材52と弾性すべり支承20側の上部基礎5とを連結する所定長さの連結材としてのワイヤ53と、を備える。冷却液供給機構31Bでは、図12に示すように、すべり板10と弾性すべり支承20との相対移動が所定値以上になると、ワイヤ53が閉塞材52を側方に引っ張ることで、閉塞材52が取り外されて、冷却液Cが冷却液タンク30の貫通孔50を通して側方に流れ出て、誘導板51の上面を流れてすべり板10の上面に供給される。ここで、すべり板10と弾性すべり支承20との相対移動の所定値とは、ワイヤ53の長さを調整することで、適宜設定される。
なお、本実施形態では、ワイヤ53の一端側を上部基礎5に連結したが、これに限らず、上部基礎5に付勢力で巻き取るドラムを設け、ワイヤ53の一端側をこのドラムに連結してもよい。この場合、ドラムの巻き出し長さが所定長さ以上になると、巻き出しにロックがかかるようにする。
本実施形態によれば、上述の(1)、(2)と同様の効果がある。
【0028】
〔第4実施形態〕
図13は、本発明の第4実施形態に係る免震構造1Cの模式図である。
本実施形態では、冷却装置3Cの構成が、第1実施形態と異なる。
冷却装置3Cは、下部基礎4上に設けられて冷却液Cが収容された冷却液タンク30Cと、冷却液タンク30C内の冷却液Cを免震装置2に供給する冷却液供給機構31Cと、を備える。
冷却液タンク30Bの底面には、貫通孔50が設けられるとともに、この貫通孔50を通って下方に流れ出た冷却液Cをすべり板10上に誘導する誘導板51が設けられている。
【0029】
冷却液供給機構31Cは、冷却液タンク30の下面の貫通孔50を塞ぐ閉塞材52と、閉塞材52と弾性すべり支承20側の上部基礎5とを連結する所定長さの連結材としてのワイヤ53と、を備える。冷却液供給機構31Cでは、図14に示すように、すべり板10と弾性すべり支承20との相対移動が所定値以上になると、ワイヤ53が閉塞材52を側方に引っ張ることで、閉塞材52が取り外されて、冷却液Cが冷却液タンク30の貫通孔50を通して下方に流れ出て、誘導板51の上面を流れてすべり板10の上面に供給される。ここで、すべり板10と弾性すべり支承20との相対移動の所定値とは、ワイヤ53の長さを調整することで、適宜設定される。
なお、本実施形態では、ワイヤ53の一端側を上部基礎5に連結したが、これに限らず、上部基礎5に付勢力で巻き取るドラムを設け、ワイヤ53の一端側をこのドラムに連結してもよい。この場合、ドラムの巻き出し長さが所定長さ以上になると、巻き出しにロックがかかるようにする。
本実施形態によれば、上述の(1)、(2)と同様の効果がある。
【0030】
〔第5実施形態〕
図15は、本発明の第5実施形態に係る免震構造1Dの模式図である。
本実施形態では、冷却装置3Dの構成が、第1実施形態と異なる。
冷却装置3Dは、下部基礎4上に設けられて冷却液Cが収容された冷却液タンク30Dと、冷却液タンク30D内の冷却液Cを免震装置2に供給する冷却液供給機構31Dと、を備える。
冷却液供給機構31Dは、弾性すべり支承20とすべり板10との相対変位に伴って発生する摩擦熱が所定値を超えた場合に、冷却液Cをすべり板10の上面に供給するものである。この冷却液供給機構31Dは、冷却液タンク30の底面からすべり板10上まで延びる冷却液供給管60と、下部基礎4上に設けられて弾性すべり支承20のすべり板10に対する相対移動を低減する摩擦ダンパ61と、摩擦ダンパ61の上に設けられて冷却液供給管60を開閉する開閉機構62と、を備える。
【0031】
図16(a)は、開閉機構62の構成を示す模式図である。
開閉機構62は、冷却液供給管60に交差する方向に延びる空間である開閉弁収容部63と、この開閉弁収容部63内を移動可能に収容されて冷却液供給管60を塞ぐ開閉弁64と、開閉弁収容部63に収容されてこの開閉弁64を両側から付勢する一対のばね65、66とを備える。ばね65は、温度が所定温度(変態点)以上まで上昇すると付勢力が低下する形状記憶金属で形成されており、摩擦ダンパ61に接して設けられている。具体的に、例えば、ばね65を、熱で剛性が変化するNi-Ti合金で形成し、ばね66を、鋼製のコイルスプリング等の弾性ばねとする。
【0032】
摩擦ダンパ61には、図示しないシリンダと、このシリンダに収容されたピストンロッド67と、を備えている。ピストンロッド67は、上部基礎5に連結されている。
この冷却液供給機構31Dでは、弾性すべり支承20とすべり板10との相対変位により、ピストンロッド67とシリンダとが摺動して摩擦熱が発生する。すると、図16(b)に示すように、この摩擦熱は、開閉機構62のばね65に伝わり、ばね65の付勢力が低下して、開閉弁64が移動し、冷却液供給管60が開放される。これにより、冷却液供給管60を通して冷却液Cがすべり板10の上面に供給される。
本実施形態によれば、上述の(1)の効果に加えて、以下の効果がある。
【0033】
(3)弾性すべり支承20とすべり板10との相対移動により摩擦ダンパ61に熱が発生すると、この熱によりばね65が変形して開閉弁64を移動させ、冷却液供給管60を通して冷却液Cがすべり板10の上面に供給される。よって、この冷却液Cにすべり板10の摩擦熱が吸収されるので、弾性すべり支承20とすべり板10との間の摩擦係数の低下を抑制できる。
【0034】
〔第6実施形態〕
図17(a)は、本発明の第6実施形態に係る免震構造1Eの開閉機構62Eの模式図である。
本実施形態では、開閉機構62Eの構成が、第5実施形態と異なる。
開閉機構62Eは、冷却液供給管60を塞ぐ筒状の可溶栓70を備えている。この可溶栓70の内部には、貫通孔71が形成されており、この貫通孔71は、融点の低い金属72で埋められている。具体的には、融点の低い金属72は、Zn、Bi、Inを含む可溶栓合金であり、例えば、千住スプリンクラー株式会社製の可溶合金を使用したRoHS対応可溶栓がある。この場合、可溶栓70の融点は、50℃~100℃となる。
この開閉機構62Eでは、弾性すべり支承20とすべり板10との相対変位により、ピストンロッド67とシリンダとが摺動して摩擦熱が発生する。すると、図17(b)に示すように、この摩擦熱は、開閉機構62Eの可溶栓70に伝わり、可溶栓70の金属72が溶解して、冷却液供給管60が開放される。これにより、冷却液供給管60を通して冷却液Cがすべり板10の上面に供給される。
本実施形態によれば、上述の(1)、(3)と同様の効果がある。
【0035】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0036】
1、1A、1B、1C、1D、1E…免震構造 2…免震装置
3、3A、3B、3C、3D…冷却装置 4…下部基礎 5…上部基礎
10…すべり板 11…外周壁 12…排水管
20…弾性すべり支承 21…すべり材 22…下部鋼板
23…積層ゴム 24…上部鋼板
30、30A、30B、30C、30D…冷却液タンク
31、31A、31B、31C、31D…冷却液供給機構
40…冷却液供給管 41…閉塞材 42…ワイヤ(連結材)
50…貫通孔 51…誘導板 52…閉塞材 53…ワイヤ(連結材)
60…冷却液供給管 61…摩擦ダンパ 62、62E…開閉機構
63…開閉弁収容部
64…開閉弁 65…ばね 66…ばね(形状記憶金属) 67…ピストンロッド
70…可溶栓 71…貫通孔 72…融点の低い金属 C…冷却液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17