(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20231207BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20231207BHJP
F28F 13/18 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C23C26/00 A
B32B15/08 Z
F28F13/18 Z
(21)【出願番号】P 2020511109
(86)(22)【出願日】2019-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2019014069
(87)【国際公開番号】W WO2019189788
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-04-21
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2018068916
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100206324
【氏名又は名称】齋藤 明子
(72)【発明者】
【氏名】賀川 みちる
(72)【発明者】
【氏名】久保田 浩治
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0169857号明細書
【文献】特開2017-57439号公報
【文献】特開2017-129537号公報
【文献】特開2018-17424号公報
【文献】特開2017-15328号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 26/00
B01D 53/26
B01D 53/28
B01J 20/22
B01J 20/30
B32B 15/04
F28F 13/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材とその上に形成された金属有機構造体とを有してなる積層体の製造方法であって、
(工程1a)金属基材の表面を活性化する工程、および
(工程2)上記金属基材の表面を、少なくとも1種の金属イオンを含む溶液および少なくとも1種の有機配位子を含む溶液と接触させ、金属基材上に金属有機構造体を形成する工程
を含み、
前記工程1aの活性化により前記金属基材の表面に形成された金属イオンと、前記金属イオンを含む溶液中の金属イオンが同じである、
製造方法。
【請求項2】
前記金属基材を構成する金属は、Si、Al、Cu、Fe、Ni、もしくはZn、またはFe/Ni/Cr合金である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属基材の表面を活性化する工程は、金属基材の表面を、フッ化水素、塩化水素、フッ素、または塩素で処理することにより行われる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程2において、溶液に含まれる金属イオンは、Al、Cu、Fe、Mn、またはCoのイオンである、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記有機配位子は、1,4-ベンゼンジカルボン酸、1,2-ベンゼンジカルボン酸、マレイン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、4,4’,4”-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス安息香酸、4,4’-ビピリジン、トリアゾール、イミダゾール、3,3’-ビピラゾール、ベンゾイミダゾール、および3,5-ピリジンジカルボン酸から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
積層体から構成され
、
前記積層体は、金属基材と該金属基材上に形成された金属有機構造体とを有してなる積層体であって、前記金属基材を構成する金属は、Si、Al、Cu、Fe、Ni、もしくはZn、またはFe/Ni/Cr合金であり、
前記金属有機構造体は、金属イオンと、有機配位子とを含み、
前記金属イオンが、Si、Al、もしくはFe、またはFe/Ni/Cr合金に由来する金属イオンであって、前記有機配位子が、1,4-ベンゼンジカルボン酸、1,2-ベンゼンジカルボン酸、マレイン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、4,4’,4”-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス安息香酸、4,4’-ビピリジン、トリアゾール、イミダゾール、3,3’-ビピラゾール、ベンゾイミダゾール、および3,5-ピリジンジカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物に由来するか、
前記金属イオンが、Znに由来する金属イオンであって、前記有機配位子が、1,4-ベンゼンジカルボン酸、1,2-ベンゼンジカルボン酸、マレイン酸、4,4’,4”-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス安息香酸、4,4’-ビピリジン、トリアゾール、イミダゾール、3,3’-ビピラゾール、ベンゾイミダゾール、および3,5-ピリジンジカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物に由来するか、
前記金属イオンが、Niに由来する金属イオンであって、前記有機配位子が、1,4-ベンゼンジカルボン酸、1,2-ベンゼンジカルボン酸、マレイン酸、4,4’,4”-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス安息香酸、4,4’-ビピリジン、トリアゾール、イミダゾール、3,3’-ビピラゾール、ベンゾイミダゾール、および3,5-ピリジンジカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物に由来するか、
前記金属イオンが、Cuに由来する金属イオンであって、前記有機配位子が、1,2-ベンゼンジカルボン酸、マレイン酸、4,4’,4”-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス安息香酸、4,4’-ビピリジン、トリアゾール、イミダゾール、3,3’-ビピラゾール、ベンゾイミダゾール、および3,5-ピリジンジカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物に由来し、
上記金属基材の表面の金属原子が、上記金属有機構造体の一部を構成している
、フィン。
【請求項7】
請求項
6に記載のフィンを有してなる、除加湿器。
【請求項8】
請求項
6に記載のフィンを有してなる、熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層体の製造方法、および該製造方法により得られる積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属有機構造体(MOF:Metal Organic Framework)は、多孔質の配位ネットワーク構造を有し、吸着材、触媒等として用いられている。かかる金属有機構造体は、支持体の表面に形成され、積層体として用いられ得る。
【0003】
支持体とその表面に形成された金属有機構造体を含む積層体およびその製造方法は、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1では、(a)支持体表面の少なくとも一部の上に、少なくとも一種の金属イオンを含む第一の溶液を吹き付ける工程と、(b)該支持体表面の少なくとも一部の上に、少なくとも二座の有機化合物の少なくとも一種を含む第二の溶液を吹き付ける工程とを含み、工程(b)が、工程(a)の前で、後で、あるいは同時に行われて、多孔性金属有機構造体の層を形成する方法により、積層体が製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のような積層体は、支持体である基材の表面に重なった状態で金属有機構造体(以下、「MOF」ともいう)が形成されている。本発明者らは、このような積層体においては、MOF層は基材への密着性が低く、MOF層が基材から剥離する不具合が生じ得ることを見出した。
【0006】
本開示における課題は、金属有機構造体の剥離が抑制された金属基材とその上に形成された金属有機構造体とを有してなる積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の態様を含む。
1. 金属基材とその上に形成された金属有機構造体とを有してなる積層体の製造方法であって、
(工程1a)金属基材の表面を活性化する工程、または
(工程1b)金属基材の表面を修飾し、その上に金属層を形成する工程、および
(工程2)上記工程1aまたは工程1bで処理された金属基材を、少なくとも1種の金属イオンを含む溶液および少なくとも1種の有機配位子を含む溶液と接触させ、金属基材上に金属有機構造体を形成する工程
を含む製造方法。
2. 金属基材とその上に形成された金属有機構造体とを有してなる積層体の製造方法であって、
(工程1a)金属基材の表面を活性化する工程、および
(工程2)上記金属基材の表面を、少なくとも1種の金属イオンを含む溶液および少なくとも1種の有機配位子を含む溶液と接触させ、金属基材上に金属有機構造体を形成する工程
を含む製造方法。
3. 前記金属基材を構成する金属は、Si、Al、Cu、Fe、Ni、もしくはZn、またはFe/Ni/Cr合金である、上記[1]または[2]に記載の製造方法。
4. 前記金属基材の表面を活性化する工程は、金属基材の表面を、フッ化水素、塩化水素、フッ素、または塩素で処理することにより行われる、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の製造方法。
5. 前記工程2において、溶液に含まれる金属イオンは、Al、Cu、Fe、Mn、またはCoのイオンである、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の製造方法。
6. 前記金属基材の表面に形成された金属イオンと、前記溶液中の金属イオンが同じである、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の製造方法。
7. 前記有機配位子は、1,4-ベンゼンジカルボン酸、1,2-ベンゼンジカルボン酸、マレイン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、4,4’,4”-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス安息香酸、4,4’-ビピリジン、トリアゾール、イミダゾール、3,3’-ビピラゾール、ベンゾイミダゾール、および3,5-ピリジンジカルボン酸から選択される、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の製造方法。
8. 上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の製造方法により得られる積層体。
9. 金属基材と該金属基材上に形成された金属有機構造体とを有してなる積層体であって、上記金属基材の表面の金属原子が、上記金属有機構造体の一部を構成している、積層体。
10. 金属基材と該金属基材上に形成された金属有機構造体とを有してなる積層体であって、上記金属基材の表面が修飾されており、該修飾された表面上に金属層を有し、該金属層上に金属有機構造体が形成されている、積層体。
11. 上記[9]または[10]に記載の積層体から構成されるフィン。
12. 上記[11]に記載のフィンを有してなる、除加湿器。
13. 上記[11]に記載のフィンを有してなる、熱交換器。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、金属基材とその上に形成された金属有機構造体とを有してなる積層体において、金属有機構造体が基材から剥がれることを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の製造方法について説明する。
【0010】
本開示の製造方法は、金属基材とその上に形成された金属有機構造体とを有してなる積層体の製造方法であって、
(工程1a)金属基材の表面を活性化する工程、
(工程1b)金属基材の表面を修飾し、その上に金属層を形成する工程、および
(工程2)上記工程1aまたは工程1bで処理された金属基材を、少なくとも1種の金属イオンを含む溶液および少なくとも1種の有機配位子を含む溶液と接触させ、金属基材上に金属有機構造体を形成する工程
を含む。
【0011】
以下、工程1aについて説明する。
【0012】
工程1aは、金属基材の表面を活性化する工程である。
【0013】
まず、金属基材を準備する。
【0014】
上記金属基材を構成する金属は、Si、Al、Cu、Fe、Ni、もしくはZn、またはこれらを含む合金であり得る。
【0015】
上記合金としては、特に限定されないが、例えばFe/Ni/Cr合金、Al/Cu合金等が挙げられる。
【0016】
好ましい態様において、金属基材を構成する金属は、Alである。
【0017】
上記金属基材の形状は、特に限定されず、用途に応じて種々の形状であり得る。下記するように、本開示の積層体は、MOF層の剥離が生じにくいので、複雑な形状の基材であっても使用することができる。例えば、上記金属基材の形状は、板状、棒状などの単純な形状に加え、表面積を大きくするための、フィン状、凹凸形状、細孔構造等であってもよい。表面積を大きくし、MOFの機能を最大限に利用できることから、フィン状、凹凸形状、細孔構造等が好ましい。
【0018】
次に、上記金属基材の表面を処理することにより、金属基材の表面を活性化する。
【0019】
上記処理は、金属基材の表面を活性化できる処理であれば特に限定されないが、例えばエッチング、O2イオン処理、大気圧プラズマ処理、UVO3(紫外線-オゾン)処理、熱水処理等が挙げられる。好ましくは、エッチング処理が用いられる。
【0020】
上記活性化とは、下記する工程2の処理により有機配位子が金属基材の表面と結合し、金属有機構造体を形成できる状態をいう。例えば、金属基材の表面の活性化は、金属基材の表面に金属イオンを形成することを含む。
【0021】
上記エッチングは、上記金属基材の表面を、金属基材の種類に応じて、フッ化水素、塩化水素、フッ素、または塩素等のエッチング剤で処理することにより行うことができる。中でも、溶液として扱えることからフッ化水素によるエッチングが好ましい。
【0022】
上記金属基材の表面のエッチング剤での処理は、金属基材の表面とエッチング剤とを接触させることにより行うことができる。処理に用いるエッチング剤は、気体であっても、液体であってもよいが、好ましくは液体である。
【0023】
上記エッチング剤での処理温度は、好ましくは0~50℃、より好ましくは10~30℃、典型的には室温である。
【0024】
上記エッチング剤での処理時間は、好ましくは30~60分、より好ましくは15~30分である。
【0025】
次に、工程1bについて説明する。
【0026】
工程1bは、金属基材の表面を修飾し、その上に金属層を形成する工程である。
【0027】
まず、工程1aと同様に金属基材を準備する。
【0028】
次いで、上記金属基材の表面を処理して、表面を修飾する。
【0029】
ここに、「修飾する」とは、金属基材の表面に、官能基または分子を付与し、表面を改質することを意味する。
【0030】
上記金属基材の表面を修飾する方法としては、例えば、金属基材の表面に付与したい化合物、例えばポリ(エチレングリコール)メタクリレート等を、金属基材の表面とのカップリング能を有する化合物、例えばメタクリロイルオキシエチルフォスフェート等と共重合させ、得られた共重合体で金属基材の表面を処理することにより行うことができる。
【0031】
好ましい態様において、上記共重合体としては、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート/メタクリロイルオキシエチルフォスフェート共重合体(重合比は、99/1~80/20、好ましくは99/1~95/5、具体的には97/3である)等が挙げられる。
【0032】
上記処理により、共重合体は、そのカップリング能を有する部分(メタクリロイルオキシエチルフォスフェート由来の部分)により金属基材と結合し、金属基材の表面を修飾する。
【0033】
次いで、表面が修飾された金属基材を処理して、金属基材の修飾面に金属層を形成する。かかる処理の方法としては、上記で修飾された金属基材を、金属イオンを含む処理剤、例えば金属アルコキシドのアルコール溶液で処理することにより行うことができる。
【0034】
例えば、修飾された金属基材上にAl層を形成する場合には、アルミニウムブトキシドのエタノール溶液で処理する。
【0035】
上記工程1aまたは工程1bにおいて処理された金属基材を工程2に付す。以下、工程2について説明する。
【0036】
工程2は、上記で処理された金属基材の表面を、少なくとも1種の金属イオンを含む溶液および少なくとも1種の有機配位子を含む溶液と接触させ、金属基材上に金属有機構造体を形成する工程である。
【0037】
上記溶液に含まれる金属イオンは、特に限定されないが、例えば、Ia族、IIa族、IIIa族、IVa~VIII族、Ib~VIb族からなる群から選択される金属のイオンである。かかる金属イオンは、好ましくは、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ro、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、TI、Si、Ge、Sn、Pb、As、Sb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、En、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびYbのイオンであり得る。
【0038】
具体的には、かかる金属イオンは、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Sc3+、Y3+、Ln3+、Ti4+、Zr4+、Hf4+、V4+、V3+、V2+、Nb3+、Ta3+、Cr3+、Mo3+、W3+、Mn3+、Mn2+、Re3+、Re2+、Fe3+、Fe2+、Ru3+、Ru2+、Os3+、Os2+、Co3+、Co2+、Rh2+、Rh+、Ir2+、Ir+、Ni2+、Ni+、Pd2+、Pd+、Pt2+、Pt+、Cu2+、Cu+、Ag+、Au+、Zn2+、Cd2+、Hg2+、Al3+、Ga3+、ln3+、TI3+、Si4+、Si2+、Ge4+、Ge2+、Sn4+、Sn2+、Pb4+、Pb2+、As5+、As3+、As+、Sb5+、Sb3+、Sb+、Bi5+、Bi3+、Bi+、La3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Pm3+、Sm3+、En3+、Gd3+、Tb3+、Dy3+、Ho3+、Er3+、Tm3+、またはYb3+であり得る。
【0039】
上記金属イオンは、1種のみであっても2種以上であってもよい。好ましくは、上記金属イオンは1種である。
【0040】
好ましい態様において、上記金属イオンは、Al3+、Cu2+、Cu+、Fe3+、Fe2+、Mn3+、Mn2+、Co3+、またはCo2+であり、好ましくはAl3+、Fe3+である。
【0041】
上記溶液に含まれる金属イオンは、上記金属基材の表面に形成される金属イオンと同じであっても、異なっていてもよいが、好ましくは同じである。
【0042】
上記金属イオンを含む溶液は、上記金属イオンを含む塩の溶液であり得る。かかる塩は、有機酸塩、無機酸塩、有機塩基塩または無機塩基塩のいずれであってもよい。上記塩は、好ましくは無機酸塩である。
【0043】
上記有機酸塩としては、例えば、モノカルボン酸塩(例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩など)、多価カルボン酸塩(例えば、フマル酸塩、マレイン酸塩など)、オキシカルボン酸塩(例えば、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩など)、有機スルホン酸塩(例えば、メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩など)等が挙げられる。
【0044】
上記無機酸塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等が挙げられる。
【0045】
好ましい態様において、金属イオンを含む塩は、無機酸塩、特に硝酸塩であり得る。
【0046】
上記金属イオンを含む溶液の溶媒は、例えば、エタノール、ジメチルホルムアミド、トルエン、メタノール、クロロベンゼン、ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、水、過酸化水素、メチルアミン、水酸化ナトリウム溶液、N-メチルピロリドンエーテル、アセトニトリル、塩化ベンジル、トリエチルアミン、もしくはエチレングリコール、またはこれらの混合物であり得る。
【0047】
上記金属イオンを含む溶液は、好ましくは5~20質量%、より好ましくは5~10質量%であり得る。
【0048】
上記金属イオンを含む溶液は、他の成分として、触媒、酸等を含んでいてもよい。
【0049】
上記有機配位子は、上記金属基材の表面または金属層の表面の金属イオンおよび上記溶液に含まれる金属イオンと、少なくとも2つの配位結合を形成することができるものであれば特に限定されない。
【0050】
上記配位結合は、例えば、金属イオンと少なくとも1つの配位結合を形成することができる官能基により形成される。
【0051】
上記配位結合を形成することができる官能基としては、例えば、-COOH、-CS2H、-NO2、-B(OH)2、-SO3H、-Si(OH)3、-Ge(OH)3、-Sn(OH)3、-Si(SH)4、-Ge(SH)4、-Sn(SH)3、-PO3H、-AsO3H、-AsO4H、-P(SH)3、-As(SH)3、-CH(RSH)2、-C(RSH)3、-CH(RNH2)2、-C(RNH2)3、-CH(ROH)2、-C(ROH)3、-CH(RCN)3、および-C(RCN)3が挙げられる。上記式中、Rは、単結合、炭素数1~5のアルキレン基(例えば、メチレン、エチレン、n-プロピレン、i-プロピレン、n-ブチレン、i-ブチレン、tert-ブチレンまたはn-ペンチレン基)、炭素数6~14の2価の芳香族基(例えば、例えばフェニレン)、または上記アルキレン基と芳香族基の組み合わせ(例えば、-フェニレン-アルキレン-フェニレン-)である。また、上記配位結合を形成することができる官能基としては、複素環中に含まれるヘテロ原子、好ましくは窒素原子であってもよい。
【0052】
好ましい態様において、上記配位結合を形成することができる官能基は、-COOH、-NO2等であり得る。
【0053】
上記有機配位子は、好ましくは、二座以上となるように上記官能基を有する。かかる有機配位子において、官能基以外の部分は、有機配位子が金属イオンと配位結合を形成できる限り、限定されない。
【0054】
一の態様において、上記有機配位子は、飽和もしくは不飽和の脂肪族化合物、芳香族化合物または脂肪族芳香族化合物に由来する。
【0055】
上記脂肪族化合物または脂肪族芳香族化合物の脂肪族部分は、直鎖、分枝鎖、または環状であってもよい。脂肪族部分は、環状である場合、複数の環を有していてもよい。上記脂肪族化合物または脂肪族芳香族化合物の脂肪族部分は、好ましくは1~15個の炭素原子を有し、より好ましくは1~10個の炭素原子、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個の炭素原子を有する。好ましい態様において、上記脂肪族部分は、メタン、アダマンタン、アセチレン、エチレンまたはブタジエンに由来する。
【0056】
上記芳香族化合物または脂肪族芳香族化合物の芳香族部分は、1個以上の環、例えば2、3、4または5個の環を有していてもよい。これらの環は、縮合していても、縮合していなくてもよい。上記芳香族化合物または脂肪族芳香族化合物の芳香族部分は、好ましくは1、2、または3個、より好ましくは1または2個の環を有する。また、上記化合物の各環は、環中に少なくとも1種のヘテロ原子、例えばN、O、S、B、P、Si、Al、好ましくはN、OまたはSを有していてもよい。芳香族化合物または脂肪族芳香族化合物の芳香族部分は、炭素数6の環を1または2個含むことが好ましい。芳香族部分は、2個である場合、かかる2個の環は縮合していても、縮合していなくてもよい。好ましい態様において、かかる芳香族部分は、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ビピリジルまたはピリジルに由来する。
【0057】
一の態様において、上記有機配位子は、ジカルボン酸、トリカルボン酸またはテトラカルボン酸に由来する。
【0058】
上記ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、マレイン酸、1,4-ブタンジカルボン酸、1,4-ブテンジカルボン酸、4-オキソピラン-2,6-ジカルボン酸、1,6-ヘキサンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、1,8-ヘプタデカンジカルボン酸、1,9-ヘプタデカンジカルボン酸、ヘプタデカンジカルボン酸、アセチレンジカルボン酸、1,2-ベンゼンジカルボン酸、1,3-ベンゼンジカルボン酸、2,3-ピリジンジカルボン酸、ピリジン-2,3-ジカルボン酸、1,3-ブタジエン-1,4-ジカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸、p-ベンゼンジカルボン酸、イミダゾール-2,4-ジカルボン酸、2-メチルキノリン-3,4-ジカルボン酸、キノリン-2,4-ジカルボン酸、キノキサリン-2,3-ジカルボン酸、6-クロロキノキサリン-2,3-ジカルボン酸、4,4’-ジアミノフェニルメタン-3,3’-ジカルボン酸、キノリン-3,4-ジカルボン酸、7-クロロ-4-ヒドロキシキノリン-2,8-ジカルボン酸、ジイミドジカルボン酸、ピリジン-2,6-ジカルボン酸、2-メチルイミダゾール-4,5-ジカルボン酸、チオフェン-3,4-ジカルボン酸、2-イソプロピルイミダゾール-4,5-ジカルボン酸、テトラハイドロピラン-4,4-ジカルボン酸、ペリレン-3,9-ジカルボン酸、ペリレンジカルボン酸、プルリオールE200-ジカルボン酸、3,6-ジオキサオクタンジカルボン酸、3,5-シクロヘキサジエン-1,2-ジカルボン酸、オクタンジカルボン酸、ペンタン-3,3-ジカルボン酸、4,4’-ジアミノ-1,1’-ビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、4,4’-ジアミノビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、ベンジジン-3,3’-ジカルボン酸、1,4-ビス(フェニルアミノ)ベンゼン-2,5-ジカルボン酸、1,1’-ビナフチルジカルボン酸、7-クロロ-8-メチルキノリン-2,3-ジカルボン酸、1-アニリノ-アントラキノン-2,4’-ジカルボン酸、ポリテトラヒドロフラン250-ジカルボン酸、1,4-ビス(カルボキシメチル)ピペラジン-2,3-ジカルボン酸、7-クロロキノリン-3,8-ジカルボン酸、1-(4-カルボキシ)フェニル-3-(4-クロロ)フェニルピラゾリン-4,5-ジカルボン酸、1,4,5,6,7,7-ヘキサクロロ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、1,3-ジベンジル-2-オキソイミダゾリジン-4,5-ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ナフタレン-1,8-ジカルボン酸、2-ベンゾイルベンゼン-1,3-ジカルボン酸、1,3-ジベンジル-2-オキソイミダゾリデン-4,5-cis-ジカルボン酸、2,2’-ビキノリン-4,4’-ジカルボン酸、ピリジン-3,4-ジカルボン酸、3,6,9-トリオキサウンデカンジカルボン酸、ヒドロキシベンゾフェノンジカルボン酸、プルリオールE300-ジカルボン酸、プルリオールE400-ジカルボン酸、プルリオールE600-ジカルボン酸、ピラゾール-3,4-ジカルボン酸、2,3-ピラジンジカルボン酸、5,6-ジメチル-2,3-ピラジンジカルボン酸、4,4’-ジアミノ(ジフェニルエーテル)ジイミドジカルボン酸、4,4’-ジアミノジフェニルメタンジイミドジカルボン酸、4,4’-ジアミノ(ジフェニルスルホン)ジイミドジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,3-アダマンタンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、8-メトキシ-2,3-ナフタレンジカルボン酸、8-ニトロ-2,3-ナフタレンジカルボン酸、8-スルホ-2,3-ナフタレンジカルボン酸、アントラセン-2,3-ジカルボン酸、2’,3’-ジフェニル-p-ターフェニル-4,4”-ジカルボン酸、(ジフェニルエーテル)-4,4’-ジカルボン酸、イミダゾール-4,5-ジカルボン酸、4(1H)-オキオチオクロメン-2,8-ジカルボン酸、5-tert-ブチル-1,3-ベンゼンジカルボン酸、7,8-キノリンジカルボン酸、4,5-イミダゾールジカルボン酸、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、ヘキサトリアコンタンジカルボン酸、テトラデドカンジカルボン酸、1,7-ヘプタンジカルボン酸、5-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジカルボン酸、2,5-ジヒドロキシ-1,4-ジカルボン酸、ピラジン-2,3-ジカルボン酸、フラン-2,5-ジカルボン酸、1-ノネン-6,9-ジカルボン酸、エイコセンジカルボン酸、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン-3,3’-ジカルボン酸、1-アミノ-4-メチル-9,10-ジオキソ-9,10-ジヒドロアントラセン-2,3-ジカルボン酸、2,5-ピリジンジカルボン酸、シクロヘキセン-2,3-ジカルボン酸、2,9-ジクロロフルオルビン-4,11-ジカルボン酸、7-クロロ-3-メチルキノリン-6,8-ジカルボン酸、2,4-ジクロロベンゾフェノン-2’,5’-ジカルボン酸、1,3-ベンゼンジカルボン酸、2,6-ピリジンジカルボン酸、1-メチルピロール-3,4-ジカルボン酸、1-ベンジル-1H-ピロール-3,4-ジカルボン酸、アントラキノン-1,5-ジカルボン酸、3,5-ピラゾールジカルボン酸、2-ニトロベンゼン-1,4-ジカルボン酸、ヘプタン-1,7-ジカルボン酸、シクロブタン-1,1-ジカルボン酸、1,14-テトラデドカンジカルボン酸、5,6-デヒドロノルボルナン-2,3-ジカルボン酸、5-エチル-2,3-ピリジンジカルボン酸、およびカンファージカルボン酸が挙げられる。
【0059】
上記トリカルボン酸としては、例えば、2-ヒドロキシ-1,2,3-プロパントリカルボン酸、7-クロロ-2,3,8-キノリントリカルボン酸、1,2,3-、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、2-ホスフォノ-1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、4,4’,4”-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス安息香酸、1-ヒドロキシ-1,2,3-プロパントリカルボン酸、4,5-ジヒドロ-4,5-ジオキソ-1H-ピロロ[2,3-F]キノリン-2,7,9-トリカルボン酸、5-アセチル-3-アミノ-6-メチルベンゼン-1,2,4-トリカルボン酸、3-アミノ-5-ベンゾイル-6-メチルベンゼン-1,2,4-トリカルボン酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、およびオーリントリカルボン酸が挙げられる。
【0060】
上記テトラカルボン酸としては、1,1-ジオキシドペリロ[1,12-BCD]チオフェン-3,4,9,10-テトラカルボン酸、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸または(ペリレン-1,12-スルホン)-3,4,9,10-テトラカルボン酸などのペリレンテトラカルボン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸またはメソ-1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸などのブタンテトラカルボン酸、デカン-2,4,6,8-テトラカルボン酸、1,4,7,10,13,16-ヘキサオキサシクロオクタデカン-2,3,11,13-テトラカルボン酸、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸、1,2,11,12-ドデカンテトラカルボン酸、1,2,5,6-ヘキサンテトラカルボン酸、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,9,10-デカンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、テトラヒドロフランテトラカルボン酸、およびシクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸などのシクロペンタンテトラカルボン酸が挙げられる。
【0061】
一の態様において、上記有機配位子は、環ヘテロ原子により配位結合を形成することができる複素環に由来する。かかる複素環としては以下の複素環が挙げられる。該複素環は、非置換であっても置換されていてもよい。
【0062】
【0063】
好ましい態様において、上記有機配位子は、1,4-ベンゼンジカルボン酸、1,2-ベンゼンジカルボン酸、マレイン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、4,4’,4”-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス安息香酸、4,4’-ビピリジン、トリアゾール、イミダゾール、3,3’-ビピラゾール、ベンゾイミダゾール、および3,5-ピリジンジカルボン酸から選択される。
【0064】
上記の有機配位子は、1種のみであっても、2種以上であってもよい。
【0065】
尚、本明細書において「由来する」とは、所定の化合物そのものに加え、かかる化合物の一部がプロトン化した形態、完全にプロトン化した形態を含むことを意味する。
【0066】
上記有機配位子を含む溶液の溶媒は、例えば、エタノール、ジメチルホルムアミド、トルエン、メタノール、クロロベンゼン、ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、水、過酸化水素、メチルアミン、水酸化ナトリウム溶液、N-メチルピロリドンエーテル、アセトニトリル、塩化ベンジル、トリエチルアミン、もしくはエチレングリコール、またはこれらの混合物であり得る。
【0067】
上記金属イオンを含む溶液の溶媒と上記有機配位子を含む溶液の溶媒は、同じであっても、異なっていてもよいが、好ましくは同じである。
【0068】
上記有機配位子を含む溶液は、好ましくは5~30質量%、より好ましくは10~20質量%であり得る。
【0069】
上記有機配位子を含む溶液は、他の成分として、触媒、塩基等を含んでいてもよい。
【0070】
工程1aまたは工程1bで処理された金属基板の表面を、少なくとも1種の金属イオンを含む溶液および少なくとも1種の有機配位子を含む溶液と接触させる方法は、金属基材上に金属有機構造体が形成される限り特に限定されない。
【0071】
例えば、上記の処理は、上記金属基材を、金属イオンの溶液および有機配位子の溶液に浸漬することにより行ってもよく、あるいは、スプレー等により、上記金属基材の表面に金属イオンの溶液および有機配位子の溶液を塗布することにより行ってもよい。
【0072】
上記の処理は、金属基材を、金属イオンの溶液および有機配位子の溶液のそれぞれと別個に接触させることにより行ってもよく、同時に接触させてもよい。
【0073】
一の態様において、金属基材を、金属イオンの溶液および有機配位子の溶液の混合溶液に接触させてもよい。
【0074】
別の態様において、金属基材を、有機配位子の溶液に接触させ、次いで、金属イオンの溶液に接触させてもよい。
【0075】
別の態様において、金属基材を、金属イオンの溶液に接触させ、次いで、有機配位子の溶液に接触させてもよい。
【0076】
別の態様において、金属基材を、金属イオンの溶液と有機配位子の溶液と、交互に複数回、接触させてもよい。かかる場合、金属イオンの溶液および有機配位子の溶液は、それぞれ、同じ溶液を用いてもよく、別の溶液を用いてもよい。例えば、最初にある金属イオンの溶液(例えば金属基材の金属と同じ金属のイオンを含む溶液)を用い、その後の別の金属イオンの溶液を用いてもよい。
【0077】
かかる処理において、処理温度は、好ましくは10~100℃、より好ましくは20~40℃である。
【0078】
かかる処理において、処理時間は、好ましくは15~120分、より好ましくは60~120分である。
【0079】
以上のようにして、工程1aまたは工程1bおよび工程2を行うことにより、金属基材の表面に金属有機構造体の層を形成することができる。
【0080】
得られる金属有機構造体の層の厚みは、特に限定されないが、例えば1μm~10mm、好ましくは100μm~5mm、より好ましくは500μm~2mmであり得る。
【0081】
上記金属有機構造体の形成は、X線回折、X線光電子分光(XPS)、走査電子顕微鏡(SEM)観察などにより確認することができる。
【0082】
本開示の方法において、上記の工程1a、工程1bおよび工程2は、適宜、後処理を含んでいてもよい。
【0083】
例えば、工程2の接触処理の後に、加熱処理を行ってもよい。
【0084】
本開示の方法によれば、金属基材からの金属有機構造体の剥離が抑制された積層体を得ることができる。本開示はいかなる理論にも拘束されないが、剥離が抑制される理由は以下のように考えられる。工程1aを行う場合、工程1aにおいて金属基材の表面に、金属基材由来の金属イオンが形成され、工程2において該金属イオンを起点として金属有機構造体が形成されると考えられる。換言すれば、金属基材の表面の原子が、金属有機構造体の一部を構成し、金属基材と金属有機構造体が一体となった状態にあると言える。また、工程1bを行う場合、工程1bにおいて金属基材の表面が修飾され、次いで金属層が形成され、この金属層の金属イオンを起点として金属有機構造体が形成されると考えられる。即ち、金属有機構造体は金属層と一体となるように形成されており、金属基材はその修飾表面により有機金属構造体を保持した状態にあると考えられる。換言すれば、金属基材、金属層および有機金属構造体は、一体となった状態にあると言える。即ち、本開示の積層体において、金属基材と有機金属構造体は、直接結合して、または金属層を介して結合して一体となった状態にある。
【0085】
本開示は、本開示の製造方法により得られる積層体も含む。
【0086】
一の態様において、本開示は、
金属基材と上記金属基材上に形成された金属有機構造体とを有してなる積層体であって、金属基材上に、金属基材と一体となるように金属有機構造体が形成されている積層体
を含む。
【0087】
一の態様において、本開示は、
金属基材と該金属基材上に形成された金属有機構造体とを有してなる積層体であって、上記金属基材の表面の金属原子が、上記金属有機構造体の一部を構成している積層体
を含む。
【0088】
一の態様において、本開示は、
金属基材と該金属基材上に形成された金属有機構造体とを有してなる積層体であって、上記金属基材の表面が修飾されており、該修飾された表面上に金属層を有し、該金属層上に金属有機構造体が形成されている、積層体
を含む。かかる積層体においては、好ましくは、金属基材は、金属層と修飾部により化学的に結合しており、さらに金属層の金属原子が、上記金属有機構造体の一部を構成している。
【0089】
本開示の積層体は、金属基材と金属有機構造体間の密着性が高い。従って、本開示の積層体は、耐久性が求められる用途、例えば調湿用途等においても好適に用いることができる。また、本開示の積層体は、金属有機構造体の層の剥離が生じにくいことから複雑な形状の基材であっても適用することができる。かかる観点からも、フィン形状等、表面積を大きくするために複雑な形状が求められる調湿または熱交換に適していると言える。
【0090】
従って、本開示は、本開示の積層体から構成されるフィンを含む。
【0091】
また、本開示は、本開示の積層体から構成されるフィンを有してなる、除加湿器を含む。
【0092】
また、本開示は、本開示の積層体から構成されるフィンを有してなる、熱交換器を含む。
【実施例】
【0093】
実施例1
金属基材として、Alのテストピースを準備した。前処理として、上記金属基材を、アセトン中で30分間超音波洗浄し、次いで、HFE7200に浸漬した後、乾燥させた。
次いで、各金属基材をHF溶液に30分間浸漬し、その後、Al(NO3)3・9H2O(5.43g,25mmol)の水溶液(50mL)に金属基材を浸漬させた。NaOH(6.0g,3eq,150mmol)およびテレフタル酸(8.3g,50mmol)を溶解した水溶液(80mL)を加え、100℃で12時間加熱した。
後処理として、金属基材の表面をメタノールで洗浄し、70℃で加熱乾燥し、金属基材上に金属有機構造体の層を形成した。
【0094】
実施例2
金属基材としてFeのテストピースを用いた以外は、実施例1と同様にして、金属基材の表面に金属有機構造体の層を形成した。
【0095】
実施例3
金属基材をHFに浸漬する代わりに、金属基材の表面にUV-O3(テクノビジョン社製UV-オゾン照射装置)を10分間照射した以外は、実施例1と同様にして、金属基材の表面に金属有機構造体の層を形成した。
【0096】
実施例4
金属基材としてFeのテストピースを用いた以外は、実施例3と同様にして、金属基材の表面に金属有機構造体の層を形成した。
【0097】
実施例5
枝付試験管に、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート(シグマアルドリッチ製、以下、「PEGMA」と称する)(19.4g)、メタクリロイルオキシエチルフォスフェート(東邦化学工業製、以下、「PPME」と称する)(0.6g)、およびイソプロピルエーテル(以下「IPA」と称する)(80g)を仕込み、10分間窒素バージし、70℃に加熱した。次いで、アゾビスイソブチロニトリル(以下、「AIBN」と称する)(0.1161g)を加え、6時間反応させて、PEG-PPME重合体(重合比97/3)の溶液(樹脂固形分濃度0.5重量%)を得た。
【0098】
金属基材として、Alのテストピースを準備した。前処理として、上記金属基材を、アセトン中で30分間超音波洗浄し、次いで、HFE7200に浸漬した後、乾燥させた。次いで、金属基材を、上記で得られたPEGMA/PPMA重合体の溶液に浸漬した後、大気中(20℃、湿度30%)で一昼夜放置して、PEGコート基材を得た。
【0099】
次に、アルミニウムブトキシド(75mg)をエタノール(10mL)に加え、1時間超音波処理して、アルミニウムブトキシド/エタノール溶液を得た。次いで、上記で得られたPEGコート基材をエタノールで3回洗浄し水を除去した後、上記アルミニウムブトキシド/エタノール溶液に浸漬し、超音波で1時間処理した。
【0100】
次に、Al(NO3)3・9H2O(5.43g,25mmol)の水溶液(50mL)に、金属基材を浸漬させ、NaOH(6.0g,3eq,150mmol)およびテレフタル酸(8.3g,50mmol)を溶解した水溶液80mLを加え、100℃で12時間加熱した。その後、メタノールにて表面を洗浄し、70℃で加熱乾燥して、金属基材上に金属有機構造体の層を形成した。
【0101】
比較例1
金属基材をHFに浸漬する処理を行わないこと以外は、実施例1と同様にして、金属基材の表面に金属有機構造体の層を形成した。
【0102】
比較例2
Al(NO3)3およびテレフタル酸から別途錯体を形成し、得られた錯体とバインダーとしてのウレタン樹脂を混合し、そこに金属基材を浸漬することにより、金属基材の表面に金属有機構造体の層を形成した。
【0103】
耐久性試験
実施例1~5および比較例1~2で得られた積層体を、それぞれ、70℃の温水に1500時間浸漬させた。その後、表面のMOFの剥がれを目視で観察した。また、浸漬前後での基材の重量変化率を求めた。結果を下記表に示す。
【0104】
【0105】
上記の結果から、金属有機構造体の形成前に、金属表面を活性化した本開示の積層体は、剥がれが少なく、密着性が高いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本開示の金属基材とその上に形成された金属有機構造体とを有してなる積層体は、吸着材、触媒などに好適に用いることができる。