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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 4/02 20060101AFI20231207BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20231207BHJP
   C08F 20/10 20060101ALI20231207BHJP
   C08F 20/26 20060101ALI20231207BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C09J4/02
C08F2/44 B
C08F2/44 C
C08F20/10
C08F20/26
C09J11/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020525692
(86)(22)【出願日】2019-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2019023734
(87)【国際公開番号】W WO2019240277
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2018114119
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】星野 貴子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 慶次
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-108102(JP,A)
【文献】特開昭58-084803(JP,A)
【文献】特表2011-515565(JP,A)
【文献】特開平08-169806(JP,A)
【文献】特開昭58-084802(JP,A)
【文献】国際公開第2017/138567(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0242817(US,A1)
【文献】特開2003-105009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00;301/00
C09J 1/00-5/10;9/00-201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン、シクロオレフィン、ポリスチレン、繊維強化プラスチックからなる群のうちの1種以上からなる被着体の接着に使用するための、第一剤及び第二剤を含む二剤型の接着剤組成物であって、
前記第一剤が、(1)(メタ)アクリレート、(2)有機ホウ素化合物を含有し、酸素含有量が5ppm以下であり、
前記第二剤が、(3)リン酸エステルを含有し、
前記(2)有機ホウ素化合物の使用量が、前記(1)(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.01~10質量部であり、
前記(2)有機ホウ素化合物が、トリエチルボラン-1,3-ジアミノプロパン錯体、トリエチルボラン-ジエチレントリアミン錯体、トリブチルボラン-3-メトキシ-1-プロピルアミン錯体からなる群のうちの1種以上から選択されるアルキルボラン-アミン錯体であり、
前記(3)リン酸エステルの使用量が、前記(1)(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.5~20質量部であり、
前記第一剤及び前記第二剤のうちの少なくとも一方が、更に、(4)エラストマー成分を含有する
ことを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
前記(3)リン酸エステルが、一般式(A)で示されるリン酸エステルである請求項1記載の接着剤組成物。
【化1】
【請求項3】
前記(3)リン酸エステルの使用量が、前記(1)(メタ)アクリレート100質量部に対して、1~10質量部である請求項1又は2記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記(1)(メタ)アクリレートが(1-1)環状エーテル骨格を有する(メタ)アクリレートを含有する請求項1~3のいずれか1項記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記(1)(メタ)アクリレートが(1-1)環状エーテル骨格を有する(メタ)アクリレートと(1-2)脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートを含有する請求項1~4のいずれか1項記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記(2)有機ホウ素化合物の使用量が、前記(1)(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.01~5質量部である請求項1~5のいずれか1項記載の接着剤組成物。
【請求項7】
前記(4)エラストマー成分を、前記(1)(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.1~40質量部含有する請求項1~6のいずれか1項記載の接着剤組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載の接着剤組成物により接合された接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、優れた貯蔵安定性を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンやポリプロピレン等に代表されるポリオレフィンは、自動車部品や電機部品、建築用資材、食品包装用フィルム等の材料として幅広い分野で使用されている。ポリオレフィンは非極性材料であるため、接着が困難な難接着体である。
【0003】
一方、二液主剤型のアクリル系接着剤は、室温において短時間で硬化する、混合比ずれの影響が小さい、接着と剥離のバランスに優れる、という特徴を有しており、構造用接着剤として幅広い分野で使用されている。
【0004】
しかし、上記の二液主剤型のアクリル系接着剤は、他の接着剤と同様に、ポリオレフィンに対する接着性が低いため、ポリオレフィンの接着に適用することは困難である。
【0005】
これらの難接着体に接着する場合、火炎処理、イトロ処理、コロナ放電、プラズマ処理、オゾン又は酸による酸化、スパッタエッチング等の表面処理を必要とすることが多い。これらの難接着体に接着する場合、プライマーを用いて難接着体の表面を被覆してもよいが、プライマー付着のために上記の表面処理を必要とすることが多く、その処理を施しても十分な接着性が得られない場合がある。
【0006】
特許文献1~5には、有機ホウ素化合物と(メタ)アクリレートを含有する組成物が記載されている。しかし、特許文献1~5は酸素含有量を記載していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-003109号公報
【文献】特表2007-515547号公報
【文献】特開2016-047901号公報
【文献】特表2000-504353号公報
【文献】特表2012-530601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、優れた貯蔵安定性を示す組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、以下を提供できる。
【0010】
<1>第一剤及び第二剤を含む二剤型の組成物であって、
前記第一剤が、(1)(メタ)アクリレート、(2)有機ホウ素化合物を含有し、酸素含有量が5ppm以下であり、
前記第二剤が、(3)リン酸エステルを含有する
ことを特徴とする組成物。
【0011】
<2>前記(3)リン酸エステルが、一般式(A)で示されるリン酸エステルである<1>記載の組成物。
【化1】
【0012】
<3>前記(3)リン酸エステルの使用量が、前記(1)(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.5~20質量部である<1>又は<2>記載の組成物。
【0013】
<4>前記(1)(メタ)アクリレートが(1-1)環状エーテル骨格を有する(メタ)アクリレートを含有する<1>~<3>のいずれか1項記載の組成物。
【0014】
<5>前記(1)(メタ)アクリレートが(1-1)環状エーテル骨格を有する(メタ)アクリレートと(1-2)脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートを含有する<1>~<4>のいずれか1項記載の組成物。
【0015】
<6>前記(2)有機ホウ素化合物が、アルキルボラン-アミン錯体である<1>~<5>のいずれか1項記載の組成物。
【0016】
<7>前記アルキルボラン-アミン錯体が、トリエチルボラン-1,3-ジアミノプロパン錯体、トリエチルボラン-ジエチレントリアミン錯体、トリブチルボラン-3-メトキシ-1-プロピルアミン錯体からなる群のうちの1種以上である<6>記載の組成物。
【0017】
<8>前記(2)有機ホウ素化合物の使用量が、前記(1)(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.01~10質量部である<1>~<7>のいずれか1項記載の組成物。
【0018】
<9>前記第一剤及び前記第二剤のうちの少なくとも一方が、更に、(4)エラストマー成分を含有する<1>~<8>のいずれか1項記載の組成物。
【0019】
<10><1>~<9>のいずれか1項記載の組成物を含む硬化性樹脂組成物。
【0020】
<11><1>~<9>のいずれか1項記載の組成物を含む接着剤組成物。
【0021】
<12>ポリオレフィン、シクロオレフィン、ポリスチレン、繊維強化プラスチックからなる群のうちの1種以上からなる被着体の接着に使用する<11>記載の接着剤組成物。
【0022】
<13><11>又は<12>記載の接着剤組成物により接合された接合体。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、貯蔵安定性を有する組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本実施形態で使用する(1)(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。(メタ)アクリレートはモノマーが好ましい。(メタ)アクリロイル基とは、「アクリロイル基」又は「メタアクリロイル基」を意味する。(メタ)アクリレートとは、「アクリレート」又は「メタアクリレート」を意味する。本実施形態の組成物は第一剤と第二剤とに分けて使用するので、各成分の「使用量」とは、第一剤と第二剤における当該成分の量の合計をいう。本明細書における数値範囲は、別段の断わりがない限りはその上限値と下限値を含むものとする。
【0025】
本実施形態で使用する(1)(メタ)アクリレートは、(1-1)環状エーテル骨格を有する(メタ)アクリレートを含有することが好ましい。本実施形態で使用する(1)(メタ)アクリレートは、(1-1)環状エーテル骨格を有する(メタ)アクリレート、(1-2)脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートからなる群の1種以上を含有することが好ましく、(1-1)環状エーテル骨格を有する(メタ)アクリレートと(1-2)脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートを含有することが好ましい。(1)(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリロイル基を1個有する単官能(メタ)アクリレートが好ましい。
【0026】
(1-1)環状エーテル骨格を有する(メタ)アクリレート
環状エーテル骨格を有する(メタ)アクリレートとしては、グリシジル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、3-エチル-3-オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、(2-メチル-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート、γ-ブチロラクトン(メタ)アクリレート、ジオキソラン(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、オキセタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの1種以上が使用できる。環状エーテル骨格の中では、5~6員環が好ましい。環状エーテル骨格は、酸素数1を有することが好ましい。環状エーテル骨格は、炭素数2~5を有することが好ましい。環状エーテル骨格を有する(メタ)アクリレートの中では、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0027】
(1-2)脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレート
アルキル(メタ)アクリレートとしては、一般式(B)で示される(メタ)アクリレートが好ましい。
一般式(B) Z-O-R11
(式中、Zは(メタ)アクリロイル基を示し、R11は脂肪族炭化水素基を示す。)
脂肪族炭化水素基の炭素数は1~20が好ましく、4~12がより好ましい。脂肪族炭化水素基としては、飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。
【0028】
このような(メタ)アクリレートとしては、R11が脂環式炭化水素基である(メタ)アクリレート(以下、脂環式(メタ)アクリレートという)が好ましい。脂環式(メタ)アクリレートの中では、飽和脂環式(メタ)アクリレートが好ましい。飽和脂環式(メタ)アクリレートとしては、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、イソボルニル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0029】
(1-2)脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートとしては、鎖式脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートも挙げられる。鎖式脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートとしては、イソオクチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0030】
(1)(1-1)環状エーテル骨格を有する(メタ)アクリレートと(1-2)脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートを含有する(メタ)アクリレートの含有割合は、(1)(メタ)アクリレート100質量部中、質量比で、(1-1):(1-2)=20~90:10~80が好ましく、40~70:30~60がより好ましく、50~60:40~50が最も好ましい。
【0031】
本実施形態で使用する(2)有機ホウ素化合物は、ホウ素原子を有する有機錯体であることが好ましい。(2)有機ホウ素化合物は、例えば、(メタ)アクリレートの重合開始剤として作用する。有機ホウ素化合物の中では、アルキルボラン錯体が好ましい。アルキルボラン錯体の中では、アルキルボラン-アミン錯体が好ましい。アルキルボラン-アミン錯体は、アルキルボランにアミンを配位させて錯体化したものである。アルキルボラン-アミン錯体としては、トリエチルボラン-1,3-ジアミノプロパン錯体等のトリエチルボラン-ジアミノプロパン錯体、トリエチルボラン-ジエチレントリアミン錯体、トリブチルボラン-3-メトキシ-1-プロピルアミン錯体、トリブチルボラン-1,3-ジアミノプロパン錯体、トリイソブチルボラン-1,3-ジアミノプロパン錯体等が挙げられる。これらの1種以上が使用できる。これらの中では、トリエチルボラン-ジアミノプロパン錯体、トリエチルボラン-ジエチレントリアミン錯体からなる群のうちの1種以上が好ましく、トリエチルボラン-ジエチレントリアミン錯体がより好ましい。
【0032】
本実施形態で使用するホウ素化合物の使用量は、(1)(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましく、0.2~4質量部が最も好ましい。0.01質量部以上だと接着性が向上し、10質量部以下であれば硬化反応が早くなりすぎず、作業性が低下しない。本実施形態に係る組成物が有する第一剤は、上記の(1)成分及び(2)成分を含む。
【0033】
また本実施形態に係る組成物が有する第二剤は、(3)リン酸エステルを含有する。(3)リン酸エステルは、例えば、(メタ)アクリレートの硬化促進剤として作用する。本実施形態で使用する(3)リン酸エステルとしては、一般式(A)で示される化合物が好ましい。
【0034】
【化2】
【0035】
1は、成分(2)との反応性が高い点で、炭素数が1~20の飽和若しくは不飽和炭化水素からなる基、CH2=CR2C(O)O-(R3u-基からなる群のうちの1種以上が好ましく、CH2=CR2C(O)O-(R3u-基がより好ましい。
【0036】
1が、炭素数が1~20の飽和若しくは不飽和炭化水素からなる基である場合、(3)リン酸エステルとしては、2-エチルヘキシルアシッドホスフェートが好ましい。R1が、CH2=CR2C(O)O-(R3u-基である場合、(3)リン酸エステルとしては、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0037】
リン酸エステルとしては、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ジブチルピロホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、アルキル(C12,C14,C16,C18)アシッドホスフェート、イソトリデシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ブチルグリコールエーテルアシッドフォスフェート等が挙げられる。これらの1種以上が使用できる。これらの中では、成分(2)との反応性が高い点で、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレートからなる群のうちの1種以上が好ましく、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0038】
本実施形態で使用するリン酸エステルの使用量は、(1)(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.5~20質量部が好ましく、1~10質量部がより好ましく、1.5~8質量部が最も好ましい。0.5質量部以上だと接着性が発現し、20質量部以下だと硬化反応が早くなりすぎず、作業性が低下しない。
【0039】
本実施形態の組成物は、接着性を向上させるために、(4)エラストマー成分を使用することが好ましい。当該組成物が有する第一剤及び第二剤のうち少なくとも一方が、(4)成分を含有してよい。(4)エラストマー成分とは、常温でゴム状弾性を有する高分子物質をいい、(メタ)アクリレートに溶解又は分散できるものが好ましい。
【0040】
(4)エラストマー成分としては、(メタ)アクリロニトリル-ブタジエン-(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリロニトリル-ブタジエン-メチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体、(メタ)アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体、並びに、(メタ)アクリロニトリル-ブタジエンゴム、線状ポリウレタン、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム及びブタジエンゴム等の各種合成ゴム、天然ゴム、スチレン-ポリブタジエン-スチレン系合成ゴムといったスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエチレン-EPDM合成ゴムといったオレフィン系熱可塑性エラストマー、並びに、カプロラクトン型、アジペート型及びPTMG型といったウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールマルチブロックポリマーといったポリエステル系熱可塑性エラストマー、ナイロン-ポリオールブロック共重合体やナイロン-ポリエステルブロック共重合体といったポリアミド系熱可塑性エラストマー、1,2-ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、並びに、塩ビ系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらのエラストマー成分は相溶性が良ければ、1種以上を使用してもよい。
これらの中では、(メタ)アクリレートに対する溶解性や接着性の点で、(メタ)アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ブタジエンゴムからなる群の1種以上が好ましく、(メタ)アクリロニトリル-ブタジエンゴムがより好ましい。
【0041】
(4)エラストマー成分の使用量は、接着性の点で、(1)(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.1~40質量部が好ましく、1~15質量部がより好ましく、2~8質量部が最も好ましい。
【0042】
本実施形態の組成物は、パラフィン類、重合禁止剤を含む各種の酸化防止剤、カップリング剤、可塑剤、充填剤、着色剤及び防腐剤等の既に知られている物質を使用できる。
【0043】
本実施形態の実施態様は、二剤型の組成物として使用する。すなわち本実施形態の組成物の必須成分全てを貯蔵中は混合せずに、当該組成物を第一剤及び第二剤に分け、第一剤が少なくとも成分(2)を、第二剤が少なくとも成分(3)を、別々に含有する。使用時には、両剤を同時に又は別々に被着体に塗布して接触、硬化させてよい。(4)エラストマー成分は、第一剤及び第二剤の両方又は一方に含有できる。
【0044】
本実施形態の組成物は、二剤の正確な計量を必要とせず、不完全な計量や混合、時には二剤の接触だけでも、常温で硬化する。本実施形態の組成物の硬化には、紫外線を必要としない。本実施形態の組成物は、作業性に優れる。
【0045】
本実施形態の組成物が有する第一剤は、酸素含有量が5ppm以下である。酸素含有量は1ppm以下が好ましく、0.1ppm以下がより好ましい。酸素含有量とは、例えば、組成物中に溶存する溶存酸素の量をいう。第一剤の溶存酸素含有量を5ppm以下にすることにより、貯蔵安定性が向上する。
【0046】
溶存酸素含有量を調整し、低減する方法としては、組成物を減圧下に撹拌して溶存酸素を除去する方法、窒素ガス雰囲気中に組成物を噴霧又は滴下してガス交換で溶存酸素を低減する方法、組成物に窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を除去する方法、酸素透過性膜に酸素が溶解している液体を接触させ溶存酸素を連続的に低減する方法等が挙げられる。
【0047】
本実施形態の組成物は、硬化性樹脂組成物として使用できる。本実施形態の組成物は、接着剤組成物として使用できる。
【0048】
本実施形態の接着剤組成物は、被着体に使用することが好ましい。被着体としては、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、シクロオレフィン、ポリスチレン、繊維強化プラスチックからなる群のうちの1種以上が好ましい。繊維強化プラスチックは、例えば、繊維を含有するプラスチックである。繊維としては、炭素繊維が好ましい。プラスチックとしては、ポリオレフィンが好ましい。本実施形態は、ポリオレフィン等といった難接着体、繊維を含有するポリオレフィン等といった難接着体に対して、優れた接着性を有する。
【実施例
【0049】
以下、本実施形態を実施例により説明するが、本実施形態はこれら実施例に限定されるものではない。各使用材料の使用量の単位は質量部で示す。各使用材料については、次のような略号を使用した。特記しない限り、温度23℃、湿度50%RH環境下で、行った。
【0050】
<実施例1~8>
表1の組成にて各使用材料を混合して、第一剤と第二剤からなる接着剤組成物を調製した。窒素ガス雰囲気中にて、各使用材料を混合し、酸素含有量を調整した。必要に応じ、混合前の段階で、各使用材料に窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を調整した。結果を表1に示す。
【0051】
(使用材料)
テトラヒドロフルフリルメタアクリレート:市販品
イソオクチルアクリレート:市販品
イソボルニルメタアクリレート:市販品
アルキルボラン-アミン錯体:商品名「TEB-DETA」(BASF社製、トリエチルボラン-ジエチレントリアミン錯体)
リン酸エステル:市販品、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート、一般式(A)において、t=1、R2はCH2=C(CH3)COO-C24
PP:ポリプロピレン試験片、市販品
CFR-PP:炭素繊維を含有するポリプロピレン試験片、市販品
NBR:アクリロニトリル-ブタジエンゴム、市販品
ポリブタジエン:市販品
【0052】
物性については、次のようにして測定した。
【0053】
[引張せん断強度(引張せん断接着強さ(被着体:PP))]
JIS K-6856に従い、試験片(25mm×25mm×0.7mmt、PP)の片側に第一剤と第二剤を混合したものを塗布し、その後、直ちにもう1枚の試験片(25mm×25mm×2mmt、PP)を重ね合わせて貼り合わせた。その後、室温で24時間養生したものを試料とした。試料の引張せん断強度(単位:MPa)は、温度23℃、湿度50%RH環境下において、引張速度10mm/分で測定した。接着された複合材料の破壊状態として、基材と接着剤の界面での破壊を「界面破壊」とし、接着層内部の破壊を「凝集破壊」とし、基材の破壊又は破断又は降伏点を示す値を「材料破壊」とした。PPについては、4MPaで降伏点を示し、基材が伸びる状態を「材料破壊」とした。試験片と接着剤の界面の接着性が大きい点で、「材料破壊」が好ましい。
【0054】
[引張せん断強度(引張せん断接着強さ(被着体:CFR-PP))]
JIS K-6856に従い、試験片(25mm×25mm×0.7mmt、PP)の片側に第一剤と第二剤を混合したものを塗布し、その後、直ちにもう1枚の試験片(25mm×25mm×2mmt、CFR-PP)を重ね合わせて貼り合わせた。その後、室温で24時間養生したものを試料とした。試料の引張せん断強度(単位:MPa)は、温度23℃、湿度50%RH環境下において、引張速度10mm/分で測定した。接着された複合材料の破壊状態として、基材と接着剤の界面での破壊を「界面破壊」とし、接着層内部の破壊を「凝集破壊」とし、基材の破壊又は破断又は降伏点を示す値を「材料破壊」とした。試験片と接着剤の界面の接着性が大きい点で、「材料破壊」が好ましい。
【0055】
[粘度(安定性粘度)]
第一剤を試料とした。レオーメーターを用い、パラレルプレートPP25(プレート径25mm)を用いて、ギャップ0.5mm、23℃環境下において、回転速度20rpmの2分値(回転してから2分後の値)の粘度を粘度値とした。貯蔵安定性の評価として、調整直後(保管0日)の粘度値(保管0日粘度)と、23℃の条件下で1か月貯蔵した後の粘度値(23℃1か月保管後粘度)を求めた。比として(23℃1か月保管後粘度/保管0日粘度)を求め、安定性粘度とした。貯蔵安定性の点で、(23℃1か月保管後粘度/保管0日粘度)は5以下が好ましい。
【0056】
[酸素濃度の測定]
第一剤を調製してから速やかに、第一剤を採取し、その溶存酸素量を測定した。第一剤の溶存酸素濃度は、堀場製作所社製の溶存酸素測定装置「ポータブル型溶存酸素系 OM-71」を用いて測定した。
【0057】
【表1】
【0058】
<比較例1~7>
表2の組成にしたこと以外は実施例1と同様にして接着剤組成物を作製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
実施例1~9の接着剤組成物では、ポリプロピレンや炭素繊維を含有するポリプロピレンに対して接着性や貯蔵安定性が高い。一方、比較例は、第一剤の酸素含有量が大きいため、貯蔵安定性が小さい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本実施形態は、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレンやポリエチレン等)等の難接着体に対して接着性や貯蔵安定性を有するため、自動車部品や電気部品等を簡単に接着できる。