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特許7398375電解装置用の分散触媒含有アノード組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】電解装置用の分散触媒含有アノード組成物
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/081 20210101AFI20231207BHJP
   B01J 31/28 20060101ALI20231207BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20231207BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20231207BHJP
   C25B 11/02 20210101ALI20231207BHJP
   C25B 11/055 20210101ALI20231207BHJP
【FI】
C25B11/081
B01J31/28 M
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B11/02
C25B11/055
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020534586
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 US2018066345
(87)【国際公開番号】W WO2019126243
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】62/609,401
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【弁理士】
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】ハウグ,アンドリュー ティー.
(72)【発明者】
【氏名】アブル,ジョン イー.
(72)【発明者】
【氏名】レビンスキー,クシシュトフ エー.
(72)【発明者】
【氏名】シュタインバッハ,アンドリュー ジェイ.エル.
(72)【発明者】
【氏名】サン, フューシャ
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-152112(JP,A)
【文献】特表2009-509776(JP,A)
【文献】特開2014-076541(JP,A)
【文献】特表2015-501374(JP,A)
【文献】特表2016-503723(JP,A)
【文献】特開2017-095800(JP,A)
【文献】特表2017-527701(JP,A)
【文献】国際公開第16/191057(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0035124(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0322631(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 31/28
B01J 35/02
B01J 37/02
C25B 1/00 - 15/08
H01M 8/10 - 8/1286
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解装置用電極組成物であって、
(a)アイオノマー結合剤と、
(b)54固体体積%未満の複数の針状粒子と、を含み、
前記複数の針状粒子が、前記電極組成物全体に分散され、
前記針状粒子が、表面の少なくとも一部分上に触媒材料の層を有する微細構造化コアを含み、
前記微細構造化コアが、多核芳香族炭化水素、複素環式化合物、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、
前記触媒材料が、イリジウムを含み、
前記針状粒子が、白金を実質的に含まない、電極組成物。
【請求項2】
前記触媒材料が、ルテニウム又は酸化ルテニウムのうちの少なくとも1つを更に含む、請求項1に記載の電極組成物。
【請求項3】
前記イリジウムが、酸化イリジウムを含む、請求項1又は2に記載の電極組成物。
【請求項4】
前記触媒材料の層が、ナノ構造化触媒層を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記アイオノマー結合剤が、ペルフルオロスルホン酸、ペルフルオロスルホンイミド酸、スルホン化ポリイミド、ペルフルオロイミド、スルホン化ポリトリフルオロスチレン、スルホン化炭化水素ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記アイオノマー結合剤が、1100以下の当量重量を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記微細構造化コアの表面の少なくとも一部分上の前記触媒材料の層が、100nm未満の厚さを有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の電極組成物。
【請求項8】
電解装置用電極インク組成物であって、
(a)アイオノマー結合剤と、
(b)54固体体積%未満の複数の針状粒子であって、前記針状粒子が、表面の少なくとも一部分上に触媒材料の層を有する微細構造化コアを含み、前記微細構造化コアが、多核芳香族炭化水素、複素環式化合物、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、前記触媒材料が、イリジウムを含み、前記針状粒子が、白金を実質的に含まない、針状粒子と、
(c)溶媒と、
を含み、前記複数の針状粒子が、前記組成物全体に分散されている、触媒インク組成物。
【請求項9】
酸素発生反応のためのアノードへの組成物の使用であって、前記組成物が、(a)アイオノマー結合剤と、(b)54固体体積%未満の複数の針状粒子と、を含み、前記複数の針状粒子が電極組成物全体に分散され、前記針状粒子が、表面の少なくとも一部分上に触媒材料の層を有する微細構造化コアを含み、前記微細構造化コアが、多核芳香族炭化水素、複素環式化合物、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、前記触媒材料が、イリジウムを含み、前記針状粒子が、白金を実質的に含まない、使用。
【請求項10】
互いに反対側にある第1及び第2の主面を有するプロトン交換膜と、
前記プロトン交換膜の前記第1主面上のカソードと、
前記プロトン交換膜の前記第2主面上のアノードであって、前記アノードが、(a)アイオノマー結合剤と、(b)54固体体積%未満の複数の針状粒子と、を含み、前記複数の針状粒子が電極組成物全体に分散され、前記針状粒子が、表面の少なくとも一部分上に触媒材料の層を有する微細構造化コアを含み、前記微細構造化コアが、多核芳香族炭化水素、複素環式化合物、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、前記触媒材料が、イリジウムを含み、前記針状粒子が、白金を実質的に含まない、アノードと、
前記カソードに接触する第1のガス拡散層と、
前記アノードに接触する第2のガス拡散層と、
前記カソード及び前記アノードに接続された電源と、
を含む、電解装置。
【請求項11】
水から水素及び酸素を生成する方法であって、
アノード部分と、カソード部分と、それらの間にあるイオン伝導膜と、を含む電解装置を得ることであって、前記アノードが電極組成物を含み、前記電極組成物が、(a)アイオノマー結合剤と、(b)54固体体積%未満の複数の針状粒子と、を含み、前記複数の針状粒子が、前記電極組成物全体に分散され、前記針状粒子が、表面の少なくとも一部分上に触媒材料の層を有する微細構造化コアを含み、前記微細構造化コアが、多核芳香族炭化水素、複素環式化合物、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、前記触媒材料が、イリジウムを含み、前記針状粒子が、白金を実質的に含まない、得ることと、
前記電解装置の前記アノード部分に水を添加することと、
前記アノード部分と前記カソード部分との間に十分な電位差を適用して、水から水素及び酸素を生成することと、
を含む、方法。
【請求項12】
二酸化炭素から一酸化炭素及び酸素を生成する方法であって、
アノード部分と、カソード部分と、それらの間にあるイオン伝導膜と、を含む電解装置を得ることであって、前記アノードが電極組成物を含み、前記電極組成物が、(a)アイオノマー結合剤と、(b)54固体体積%未満の複数の針状粒子と、を含み、前記複数の針状粒子が、前記電極組成物全体に分散され、前記針状粒子が、表面の少なくとも一部分上に触媒材料の層を有する微細構造化コアを含み、前記微細構造化コアが、多核芳香族炭化水素、複素環式化合物、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、前記触媒材料が、イリジウムを含み、前記針状粒子が、白金を実質的に含まない、得ることと、
前記電解装置の前記カソード部分に二酸化炭素を添加することと、
前記アノード部分と前記カソード部分との間に十分な電位差を適用して、二酸化炭素から一酸化炭素及び酸素を生成することと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
触媒インクと、アノード電極と、触媒コーティングされた基材と、を含む、電解装置アノード用の分散触媒を含む組成物が開示される。
【発明の概要】
【0002】
エネルギー産業では、環境清浄度を達成するために再生可能資源からのエネルギーを利用することへの関心が高い。再生可能エネルギーの変換及び貯蔵を可能にしたいという要望から、クリーンで環境に優しいエネルギーキャリアとしての水素に関心が高まっている。同様に、水素が可能にする移動性(hydrogen-enabled mobility)(例えば、自動車燃料電池)の普及は、水素を発生するための経済的手段の必要性への対応に更に拍車をかけている。
【0003】
風力及び太陽エネルギーのような再生可能エネルギー源は変動し得ることから、過剰な太陽及び風力エネルギーを貯蔵可能な水素燃料に変換するため、及び様々な電力需要のために更なる使用可能な水素燃料を生成するための両方で魅力的な燃料発生源として、ポリマー電解質膜(PEM)水電解が浮上してきた。
【0004】
したがって、より安価かつ/又はより効率的な電解装置を特定することが要望されている。
【0005】
一態様では、電解装置用電極組成物であって、
(a)アイオノマー結合剤と、
(b)54固体体積%未満の複数の針状粒子と、を含み、複数の針状粒子が、電極組成物全体に分散され、針状粒子が、表面の少なくとも一部分上に触媒材料の層を有する微細構造化コアを含み、微細構造化コアが、多核芳香族炭化水素、複素環式化合物、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、触媒材料が、イリジウムを含み、針状粒子が、白金を実質的に含まない、電極組成物が記載される。
【0006】
別の態様では、触媒インク組成物であって、
(a)アイオノマー結合剤と、
(b)54固体体積%未満の複数の針状粒子であって、針状粒子が、表面の少なくとも一部分上に触媒材料の層を有する微細構造化コアを含み、微細構造化コアが、多核芳香族炭化水素、複素環式化合物、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、触媒材料が、イリジウムを含み、針状粒子が、白金を実質的に含まない、針状粒子と、
(c)溶媒と、
を含み、複数の針状粒子が、電極組成物全体に分散されている、触媒インク組成物が記載される。
【0007】
一態様では、物品が提供される。物品は、
その上にコーティングを有する基材を含み、コーティングが、(a)アイオノマー結合剤と、(b)54固体体積%未満の複数の針状粒子と、を含み、複数の針状粒子が、コーティング全体に分散され、針状粒子が、表面の少なくとも一部分上に触媒材料の層を有する微細構造化コアを含み、微細構造化コアが、多核芳香族炭化水素、複素環式化合物、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、触媒材料が、イリジウムを含み、針状粒子が、白金を実質的に含まない。
【0008】
一態様では、電解装置が提供される。電解装置は、互いに反対側にある第1及び第2の主面を有するプロトン交換膜と、
プロトン交換膜の第1主面上のカソードと、
プロトン交換膜の第2主面上のアノードと、
カソードに接触するガス拡散層と、
アノードに接触するアノードガス拡散層と、
電源と、を含み、アノードは、(a)アイオノマー結合剤と、
(b)複数の針状粒子と、を含み、複数の針状粒子が、電極組成物全体に分散され、針状粒子が、表面の少なくとも一部分上に触媒材料の層を有する微細構造化コアを含み、微細構造化コアが、多核芳香族炭化水素、複素環式化合物、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、触媒材料が、イリジウムを含み、針状粒子が、白金を実質的に含まない。
【0009】
以上の発明の概要は、各実施形態について説明することを意図するものではない。本発明における1つ以上の実施形態の詳細は、以下の説明にも記載されている。その他の特徴、目的、及び利点は、本明細書から及び特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図面は、例示的ではあるが限定的ではなく、本明細書で論じられる様々な実施形態を全般的に示す。
【0011】
図1】本明細書に記載の例示的な膜電極接合体の図である。
【0012】
図2】様々なアノードのセル電圧対電流密度を示す図である。
【0013】
図3】様々なアノードのセル電圧対電流密度を示す図である。
【0014】
図4】実施例1~8及び比較例A~Cについての、1.5ボルトのセル電圧における電流密度対電極充填量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、開示された主題のいくつかの実施形態について細部にわたって言及する。実施形態の諸例は部分的に添付の図面に示されている。開示されている主題は、列挙された請求項に関連して記述されるが、例示されている主題は、これらの請求項を開示されている主題に限定することを意図しないことが理解される。
【0016】
本文書において、「1つの(a)」、「1つの(an)」、又は「その(the)」という用語は、文脈上明確な別段の指示がない限り、1つ以上を含めるために使用される。「又は」という用語は、特に断りのない限り非排他的な(nonexclusive)「又は」を指すために使用される。「A及びBのうちの少なくとも1つ」又は「A又はBのうちの少なくとも1つ」という記述は、「A、B、又はA及びB」と同じ意味を有する。加えて、本明細書で用いられている特に定義されていない表現又は用語は、説明のみを目的としており、限定するためではないと理解されるべきである。節の見出しの使用はいずれも、本文書の読み取りを補助することを意図しており、限定と解釈すべきではなく、節の見出しに関連する情報は、その特定の節の中又は外に存在し得る。この文書内で参照されている全ての出版物、特許、特許文献は、個別に参考により組み込まれている場合と同様に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書と、参照することによってそのように組み込まれたこれらの文献との間に一致しない語法がある場合、組み込まれた参照文献の語法は、本明細書の語法の補足と解釈されるべきである。すなわち、相いれない不一致については本明細書の語法が支配する。
【0017】
本明細書で使用する場合、用語
「及び/又は」は、述べられた事柄の一方又は両方が起こり得ることを示すために使用され、例えば、A及び/又はBは、(A及びB)並びに(A又はB)を含み、
「高度にフッ素化された」とは、C-H結合の少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は更には99%がC-F結合により置換され、C-H結合の残部がC-H結合、C-Cl結合、C-Br結合、及びこれらの組み合わせから選択される化合物を指し、
「ペルフルオロ化」とは、全ての水素原子がフッ素原子に置換されている、炭化水素から誘導される基又は化合物を意味する。しかし、ペルフルオロ化化合物は、酸素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子のような、フッ素原子及び炭素原子以外の原子を更に含有してもよい。
ポリマーの「当量重量」(EW)は、1当量の塩基を中和するポリマーの重量を意味し、
「置換された」は、化学種について、所望の生成物又はプロセスを阻害しない慣用の置換基によって置換されていることを意味し、例えば置換基は、アルキル、アルコキシ、アリール、フェニル、ハロ(F、Cl、Br、I)、シアノ、ニトロなどであってよく、
「ナノスケール触媒粒子」は、標準的な2θX線回折スキャンにおいて回折ピーク半値幅として測定して、約10nm以下寸法を少なくとも1つ有する又は約10nm以下の結晶サイズを有する触媒材料の粒子を意味し、「個別の」は、別々の識別情報を有する別個の要素を指すが、要素が互いに接触していることを除外しない。
【0018】
また、本明細書において、端点による範囲の記載は、その範囲内に包含される全ての数を含む(例えば、1~10は、1.4、1.9、2.33、5.75、9.98などを含む)。
【0019】
また、本明細書において、「少なくとも1つ」の記載は、1以上の全ての数(例えば、少なくとも2、少なくとも4、少なくとも6、少なくとも8、少なくとも10、少なくとも25、少なくとも50、少なくとも100など)を含む。
【0020】
本開示は、電解装置のアノードに使用され得る組成物に関する。電解装置は、入力された反応物質(例えば、水又は二酸化炭素)に基づいて、水素、一酸化炭素、又はギ酸などを製造するために使用できるデバイスである。
【0021】
例示的な電解装置が図1に示されており、これはアノード105を含む膜電極接合体100を備える。アノード105に隣接しているのは、互いに反対側にある第1及び第2の主面を有するプロトン交換膜104である。カソード103は、プロトン交換膜104に隣接してその第1主面上に位置し、一方、アノード105はプロトン交換膜104の第2主面に隣接している。ガス拡散層107は、カソード103に隣接して位置する。プロトン交換膜104は、電気絶縁性であり、水素イオン(例えば、プロトン)のみが膜104を通過できる。
【0022】
水の電気分解の操作において、水は膜電極接合体100のアノード105に導入される。アノード105において、水は、分子酸素(O)と、水素イオン(H)と、電子とに分離される。水素イオンはプロトン交換膜104を通って拡散し、一方で電位117は電子をカソード103へと動かす。カソード103において、水素イオンは電子と結合して水素ガスを形成する。
【0023】
イオン伝導膜は、生成物である両ガスの間に、耐久性があり、非多孔質で非導電性の機械的障壁を形成するが、Hイオンを容易に通過させもする。ガス拡散層(GDL)は、アノード及びカソード電極材料を出入りする反応物質及び生成する水の輸送を促進して、電流を伝導する。いくつかの実施形態では、アノード及びカソード電極層がGDLに適用され、触媒コーティングバッキング層(catalyst coated backing、CCB)を形成し、得られたCCBがPEMで挟まれ、5層MEAを形成する。5層MEAの5層は、順に、アノードGDL、アノード電極層、PEM、カソード電極層、及びカソードGDLである。他の実施形態では、アノード及びカソード電極層が、PEMのいずれかの側に適用され、得られた触媒コーティング膜(CCM)が、2つのGDLの間に挟まれ、5層MEAを形成する。動作中、5層MEAは2つの流場プレートの間に位置して接合体を形成し、いくつかの実施形態では、2つ以上の接合体が一緒に積層され、電解装置スタックを形成する。
【0024】
本開示は、電極用触媒含有分散組成物、及びそれから製造される物品に関する。このような電極触媒含有分散組成物は、アイオノマー結合剤内に分散された複数の針状粒子を含む。複数の針状粒子は、電極組成物中で配向されていない。本明細書で使用するとき、「配向されていない」とは、それらの長軸がランダムに配向し、パターンが観察されない針状粒子を指す。これらの触媒含有分散組成物は、電解装置のアノードに使用され得る。
【0025】
針状粒子
【0026】
本明細書に開示される針状粒子は、複数の微細構造化コアを含む別個の細長い粒子であり、微細構造化コアの表面の少なくとも一部分が、触媒材料の層を含む。
【0027】
微細構造化コアは、その上に配置された触媒材料の支持体として機能する有機化合物を含む、細長い粒子である。本開示の微細構造化コアは細長いが、必ずしも形状が直線状ではなく、構造の端部で屈曲して、巻かれて、若しくは湾曲していてもよく、又は構造自体が全長に沿って、屈曲して、巻かれて、若しくは湾曲していてもよい。
【0028】
微細構造化コアは、有機化合物から製造される。有機化合物としては、π電子密度が広範に非局在化した鎖又は環を含む平面分子が挙げられる。この開示において使用するのに適した有機化合物は、通常、ヘリンボーン構成で結晶化する。好ましい化合物としては、多核芳香族炭化水素及び複素環式化合物として広く分類され得るものが挙げられる。多核芳香族化合物は、Morrison and Boyd,Organic Chemistry,Third Edition,Allyn and Bacon,Inc.(Boston:1974),Chapter 30に記載されており、複素環式芳香族化合物は、Morrison and Boyd,supra,Chapter 31に記載されている。多核芳香族炭化水素の部類の中でも、ナフタレン、フェナントレン、ペリレン、アントラセン、コロネン、ピレン、及び前述の部類の化合物の誘導体が、この開示に好ましい。好ましい有機化合物は、市販のペリレンレッド顔料、N,N’-ジ(3,5-キシリル)ペリレン-3,4:9,10-ビス(ジカルボキシイミド)であり、以後はペリレンレッドと称する。複素環式芳香族化合物の部類の中でも、フタロシアニン、ポルフィリン、カルバゾール、プリン、プテリン、及び前述の部類の化合物の誘導体が、この開示に好ましい。この開示に特に有用なフタロシアニンの代表例は、フタロシアニン及びその金属錯体、例えば銅フタロシアニンである。この開示に有用なポルフィリンの代表例は、ポルフィリンである。
【0029】
針状要素を製造する方法は、当該技術分野において公知である。例えば、有機微細構造化要素を作製するための方法は、Materials Science and Engineering,A158(1992),pp.1-6;J.Sci.Technol.A,5,(4),July/August,1987,pp.1914-16;J.Vac.Sci.Technol.A,6,(3),May/August,1988,pp.1907-11;Thin Solid Films,186,1990,pp.327-47;J.Mat.Sci.,25,1990,pp.5257-68;Rapidly Quenched Metals,Proc.of the Fifth Int.Conf.on Rapidly Quenched Metals,Wurzburg,Germany(Sep.3-7,1984),S.Steeb et al.,eds.,Elsevier Science Publishers B.V.,New York,(1985),pp.1117-24;Photo.Sci.and Eng.,24,(4),July/August,1980,pp.211-16;並びに当該特許の開示が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,568,598号(Bilkadi et al.)及び同第4,340,276号(Maffitt et al.)、K.Robbie,et al,「Fabrication of Thin Films with Highly Porous Microstructures,」J.Vac.Sci.Tech.A,Vol.13 No.3,May/June 1995,pages 1032-35及びK.Robbie,et al.,「First Thin Film Realization of Bianisotropic Medium,」J.Vac.Sci.Tech.A,Vol.13,No.6,November/December 1995,pages 2991-93に開示されている。
【0030】
例えば、有機化合物は、例えば、真空蒸着(例えば、真空蒸発、昇華、及び化学蒸着)、並びに溶液コーティング又は分散コーティング(例えば、ディップコーティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、ブレード又はナイフコーティング、バーコーティング、ロールコーティング、及び注入コーティング(すなわち、液体を表面に注ぎ、液体を表面上で流動させること))を含む、当該技術分野において公知の技術を使用して、基材にコーティングされる。次いで、有機化合物の層は、層が物理的変化を受けるように処理され(例えば、アニーリング、プラズマエッチング)、有機化合物の層が成長し、別個の配向された単結晶又は多結晶の微細構造化コアの高密度配列を含む微細構造層を形成する。この方法の後、微細構造化コアの長軸の配向は、通常、基材表面に対して垂直である。
【0031】
一実施形態では、有機化合物が基材に蒸気コーティングされる。基材は変更することができ、加熱プロセスに適合するように選択される。例示的な基材としては、ポリイミド及び金属箔が挙げられる。蒸着中の基材の温度は、選択した有機化合物に応じて変化させることができる。ペリレンレッドについては、室温付近の基材温度(25℃)が良好である。真空蒸着の速度は変化させることができる。堆積する有機化合物の層の厚さは変化させることができ、選択された厚さは、アニーリング工程が実行された後に得られる微細構造の主寸法を決定する。層の厚さは、典型的には約1nm~約1マイクロメートルの範囲であり、好ましくは約0.03マイクロメートル~約0.5マイクロメートルの範囲である。次いで、有機化合物の層を、堆積した有機化合物が物理的変化を受け、純粋な単結晶又は多結晶の微細構造化コアを含む微細層の生成をもたらすように、十分な温度及び時間、所望により減圧下で、加熱する。これらの単結晶又は多結晶の微細構造は、本開示の針状粒子を形成し、触媒材料の層を支持するために使用される。
【0032】
本開示の触媒材料は、イリジウムを含む。イリジウムは、イリジウム金属、酸化イリジウム、及び/又はIrO[式中、xは0~2の範囲であってもよい]などのイリジウム含有化合物の形態であってもよい。一実施形態では、触媒材料はルテニウムを更に含み、ルテニウムは、ルテニウム金属、酸化ルテニウムの形態であってもよく、及び/又は酸化イリジウム、RuO[式中、xは0~2の範囲であってもよい]などのルテニウム含有化合物であってもよい。水系電解装置用途では、白金系アノードは、イリジウムの対応物よりも酸素発生の効率が低くなる傾向がある。したがって、針状粒子は、白金を実質的に含まない(組成物が、触媒材料中に1、0.5、又は更には0.1原子%未満の白金を含むことを意味する)。イリジウム及び/又はルテニウムは、それらの合金、及びそれらの均質混合物を含む。
【0033】
イリジウム及びルテニウムは、同じ微細構造化コア上に配置されてもよく、又は別々の微細構造化コア上に配置されてもよい。
【0034】
触媒材料は、複数の微細構造化コアの少なくとも1つの表面(より好ましくは、少なくとも2つ、又は更には3つの表面)に配置される。触媒材料は、電子が針状粒子の一部分から針状粒子の別の部分へ連続的に移動することができるように、表面にわたる連続層として配置される。有機化合物の表面の触媒材料の層は、アノードにおいて酸素発生のための多数の反応部位を作り出す。
【0035】
一実施形態では、触媒材料が有機化合物の表面に堆積して、まずナノ構造化触媒層を作り出し、この層がナノスケール触媒粒子又は触媒薄膜を含む。一実施形態では、ナノスケール触媒粒子が、標準的な2θX線回折スキャンにおいて回折ピーク半値幅として測定して、約10nm以下の少なくとも1つの寸法を有する又は約10nm以下の結晶サイズを有する粒子である。触媒材料を有機化合物の表面に更に堆積させ、ナノスケール触媒粒子を含む薄膜を形成することができ、触媒粒子は互いに接触していても、接触しなくてもよい。
【0036】
一実施形態では、有機化合物の表面の触媒材料の層の厚さを変化させることができるが、典型的には、微細構造化コアの側面で、少なくとも0.3、0.5、1、又は更には2nm、かつ5、10、20、40、60、又は更には100nm以下の範囲である。
【0037】
一実施形態では、触媒材料が、真空蒸着、スパッタリング、物理蒸着、又は化学蒸着によって微細構造化コアに適用される。
【0038】
一実施形態では、本開示の針状粒子は、まず上に記載したように基材上で微細構造化コアを成長させ、微細構造化コアに触媒材料の層を適用し、次いで、触媒コーティングされた微細構造化コアを基材から取り外して、ばらばらの針状粒子を形成することによって、形成される。このような微細構造化コアの製造方法、及び/又はこれを触媒材料でコーティングする方法は、例えば、米国特許第5,338,430号(Parsonage et al.)、同第5,879,827号(Debe et al.)、同第5,879,828号(Debe et al.)、同第6,040,077号(Debe et al.)、及び第6,319,293号(Debe et al.)、同第6,136,412号(Spiewak et al.)、並びに同第6,482,763号(Haugen et al.)に開示されており、参照によって本明細書に組み込まれる。触媒コーティングされた微細構造化コアを基材から取り外すこのような方法は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2011/0262828号(Noda et al.)に開示されている。
【0039】
複数の針状粒子は、様々な形状を有することができるが、個々の針状粒子の形状は、好ましくは均一である。形状としては、ロッド、円錐、円筒、及びラス(lath)が挙げられる。一実施形態では、針状粒子が大きなアスペクト比を有し、アスペクト比は、長さ(長軸寸法)の、直径又は幅(短軸寸法)に対する比として定義される。一実施形態では、針状粒子が、少なくとも3、5、7、10、又は更には20、かつ多くとも60、70、80、又は更には100の平均アスペクト比を有する。一実施形態では、針状粒子が、250、300、400、又は更には500nm(ナノメートル)を超え、かつ750nm、1ミクロン、1.5ミクロン、2ミクロン、又は更には5ミクロン未満の平均長さを有する。一実施形態では、針状粒子が、15、20、又は更には30nmを超え、かつ100nm、500nm、750nm、1ミクロン、1.5ミクロン、又は更には2ミクロン未満の平均直径(又は幅)を有する。このような長さ及び直径(又は幅)の測定値は、透過電子顕微鏡(transmission electron microscopy、TEM)によって得ることができる。
【0040】
一実施形態では、針状粒子のサイズ、すなわち長さ及び断面積は、粒子同士で概ね均一である。本明細書で使用するとき、サイズに関して「均一」という用語は、個々の針状粒子の断面の長軸寸法が、長軸寸法の平均値から約23%以下で変化し、個々の針状粒子の断面の短軸寸法が、短軸寸法の平均値から約28%以下で変化することを意味する。針状粒子の均一性は、針状粒子を含有する物品の特性及び性能の均一性をもたらす。このような特性としては、光学、電気、及び磁気特性が挙げられる。例えば、電磁波の吸収、散乱、及び捕捉は、微細層の均一性に大きく依存する。
【0041】
アイオノマー結合剤
【0042】
アイオノマー結合剤はポリマー電解質材料であり、電気化学セルの膜のポリマー電解質材料と、同じであってもなくてもよい。アイオノマー結合剤は、電極を介したイオンの輸送を助けるために使用される。アイオノマー結合剤は固体ポリマーであり、したがって、電極中に存在すると、電解触媒への反応物質の輸送を阻害し得る。水電解装置では、反応物質流体は、液状水であって、気体ではない。PEM電解装置電極を通る反応物質水の輸送は、気体反応物質を使用した場合よりもはるかに速いと考えられる。したがって、本開示は電解装置に関するものであることから、高電流動作を低減することなく、本明細書に開示される電極組成物に、より多くのアイオノマーを使用できると考えられる。電極中のアイオノマーの割合が高いことは、コストの観点から有利となり得、かつ/又は最適な性能を可能にし得る。一実施形態では、電極組成物は、電極組成物の全固体体積(すなわち、針状粒子とアイオノマー結合剤とを含む)に対して54、52、50、又は更には48固体体積%未満の針状粒子を含み、及び/又は代替的に、電極組成物の全固体体積に対して46、48、50、又は更には52固体体積%を超えるアイオノマーを含む。
【0043】
有用なポリマー電解質材料は、ポリマー主鎖に結合したスルホネート基、カーボネート基、又はホスホネート基などのアニオン性官能基、並びにこれらの組み合わせ及び混合物を含むことができる。一実施形態では、アニオン性官能基が、好ましくはスルホネート基である。ポリマー電解質材料は、イミド基、アミド基、又は別の酸性官能基を、これらの組み合わせ及び混合物と共に含むことができる。
【0044】
有用なポリマー電解質材料の例は、高度にフッ素化され、典型的にはペルフルオロ化された、フルオロカーボン材料である。このようなフルオロカーボン材料は、テトラフルオロエチレンと1種以上のフッ素化酸性官能性コモノマーとのコポリマーであり得る。フルオロカーボン樹脂は、ハロゲン、強酸、及び塩基に対して高い化学的安定性を有するため、有益に使用することができる。例えば、高い耐酸化性又は耐酸性が望ましい場合、スルホネート基、カーボネート基、又はホスホネート基を有するフルオロカーボン樹脂、特にスルホネート基を有するフルオロカーボン樹脂を、有益に使用することができる。
【0045】
スルホネート基を含む例示的なフルオロカーボン樹脂としては、ペルフルオロスルホン酸(例えば、ナフィオン)、ペルフルオロスルホンイミド酸(PFIA)、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリトリフルオロスチレン、スルホン化炭化水素ポリマー、ポリスルホン、及びポリエーテルスルホンが挙げられる。他のフルオロカーボン樹脂としては、ペルフルオロメチルイミド(PFMI)、及びペルフルオロブチルイミド(PFBI)などのペルフルオロイミドが挙げられる。一実施形態では、フルオロカーボン樹脂は、側鎖1つ当たり複数のプロトン性基を含むポリマーである。
【0046】
市販のポリマー電解質材料としては、例えば、3M Company(St.Paul,MN)から「ダイニオン」の商品名、DuPont Chemicals(Wilmington,DE)から「ナフィオン」の商品名、旭硝子株式会社(東京、日本)から「フレミオン」の商品名、旭化成ケミカルズ株式会社(東京、日本)から「アシプレックス」の商品名で入手可能なもの、並びにElectroChem,Inc.,Woburn,MA、及びAldrich Chemical Co.,Inc.,Milwaukee,WIから入手可能なものが挙げられる。
【0047】
一実施形態では、ポリマー電解質材料は、ペルフルオロ-X-イミドから選択され、ここでXは、メチル、ブチル、プロピル、フェニルなどであり得るが、これらに限定されない。
【0048】
典型的には、イオン伝導性ポリマーの当量重量は、少なくとも約400、500、600、又は更には700、かつ約825以下、900以下、1000以下、1100以下、1200以下又は更には1500以下である。
【0049】
一実施形態では、アイオノマー結合剤の針状粒子に対する比は、重量で1:100~1:1、より好ましくは1:20~1:2である。
【0050】
一実施形態では、アイオノマー結合剤の針状粒子に対する比は、体積で1:10~10:1、より好ましくは1:3~3:1である。
【0051】
溶媒
典型的には、複数の微細構造要素は、アイオノマー結合剤、及び様々な溶媒と共に、分散体、例えばインク又はペーストの形態で適用される。
【0052】
一実施形態では、複数の針状粒子及びアイオノマー結合剤は、溶媒中に分散される。例示的な溶媒としては、水、ケトン(アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、及びシクロヘキサノンなど)、アルコール(メタノール、イソプロパノール、プロパノール、エタノール、及びプロピレングリコールブチルエーテルなど)、ポリアルコール(グリセリン及びエチレングリコールなど)、炭化水素(シクロヘキサン、ヘプタン、及びオクタンなど)、ジメチルスルホキシド、並びにフッ素化溶媒、例えばヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸、及び部分フッ素化又はペルフルオロ化されたアルカン又は三級アミンなど(3M Co.(St.Paul,MN)から「3M NOVEC ENGINNERED FLUID」又は「3M FLUOROINERT ELECTRONIC LIQUID」の商品名で入手可能なものなど)が挙げられる。
【0053】
一実施形態では、触媒インク組成物は、水と、1つ以上の溶媒と、所望により界面活性剤と、を所望により含む水性分散液である。
【0054】
一実施形態では、触媒インク組成物は、固体(すなわち、複数の針状粒子、及びアイオノマー結合剤)の重量当たり0.1~50%、5~40%、10~25%、より好ましくは1~10重量%の溶媒を含有する。
【0055】
物品
【0056】
一実施形態では、触媒組成物が、ポリマー電解質膜(polymer electrolyte membrane、PEM)又はガス拡散層(GDL)などの基材に適用され、又は転写基材上に適用され、続いてPEM又はGDL上に転写される。
【0057】
PEMは、当該技術分野で公知である。PEMは、任意の適したポリマー電解質を含んでもよい。ポリマー電解質は、典型的には、共通の主鎖に結合したアニオン性官能基を有し、これは、典型的にはスルホン酸基であるが、カルボン酸基、イミド基、アミド基、又は他の酸性官能基も含んでよい。ポリマー電解質は、典型的には、高度にフッ素化されており、最も典型的には、ペルフルオロ化されている。例示的なポリマー電解質としては、アイオノマー結合剤について上で言及したものが挙げられる。ポリマー電解質は、典型的には、250ミクロン未満、より典型的には175ミクロン未満、より典型的には125ミクロン未満、いくつかの実施形態では100ミクロン未満、いくつかの実施形態では約50ミクロンの厚さを有するフィルム(すなわち膜)としてキャストされる。PEMはポリマー電解質からなってもよく、又はポリマー電解質が多孔質支持体(PTFEなど)に吸収されてもよい。既知のPEMの例としては、「NAFION PFSA MEMBRANES」の商品名でE.I.du Pont de Nemours and Co.(Wilmington,DE)から入手可能なもの、「GORESELECT MEMBRANE」でW.L.Gore&Associates,Inc.(Newark,DE)から、及び「ACIPLEX」で旭化成株式会社(東京、日本)から入手可能なもの、並びに3M Co.(St.Paul,MN)からの3Mメンブレンが挙げられる。
【0058】
GDLも、当該技術分野において公知である。一実施形態では、アノードGDLは、チタン、白金、金、イリジウム、又はこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む金属でコーティング又は含浸された焼結金属繊維不織布又はフェルト、例えば、中国特許第203574057号(Meeker,et al.)及び国際公開第2016/075005号(Van Haver,et al.)に開示されているものである。
【0059】
転写基材は、電極としての最終用途を意図しない一時的な支持体であり、製造中又は保管中に電極を支持及び/又は保護するために使用される。転写基材は、使用前に電極物品から取り外される。転写基材は、多くの場合剥離コーティングでコーティングされた、バッキングを含む。電極は剥離コーティング上に配置され、これにより、転写基材から電極を容易にきれいに取り外すことができる。このような転写基材は、当該技術分野において公知である。バッキングは、多くの場合、PTFE、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、及び同様の材料から、剥離剤コーティングあり又はなしで構成される。
【0060】
剥離剤の例としては、カルバメート、ウレタン、シリコーン、フルオロカーボン、フルオロシリコーン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。カルバメート剥離剤は、通常、長い側鎖を有し、比較的高い軟化点を有する。例示的なカルバメート剥離剤は、Anderson Development Co.(Adrian,Mich)から「ESCOAT P20」の商品名で入手可能な、並びにMayzo Inc.(Norcross,GA.)から、RA-95H、RA-95HS、RA-155、及びRA-585Sとして様々なグレードで上市されている、ポリビニルオクタデシルカルバメートである。
【0061】
表面適用される(すなわち、局所用)剥離剤の例示的な例としては、米国特許第2,532,011号(Dahlquist et al.)に開示されているものなどのポリビニルカルバメート、反応性シリコーン、フルオロケミカルポリマー、米国特許第4,313,988号(Bany et al.)及び同第4,482,687号(Kessel et al.)に開示されているものなどのエポキシシリコーン、米国特許第5,512,650号(Leir et al.)に開示されているものなどのポリオルガノシロキサン-ポリウレアブロックコポリマー等が挙げられる。
【0062】
シリコーン剥離剤は、通常、少なくとも2個の架橋性反応基、例えば、2個のエチレン性不飽和有機基を含むオルガノポリシロキサンポリマーを含む。いくつかの実施形態では、シリコーンポリマーは、2個の末端架橋性基、例えば、2個の末端エチレン性不飽和基を含む。いくつかの実施形態では、シリコーンポリマーは、ペンダント官能基、例えば、ペンダントエチレン性不飽和有機基を含む。いくつかの実施形態では、シリコーンポリマーが、1当量当たり20,000グラム以下、例えば、1当量当たり15,000グラム以下、又は更には10,000グラム以下のビニル当量重量を有する。いくつかの実施形態では、シリコーンポリマーは、1当量当たり少なくとも250グラム、例えば、1当量当たり少なくとも500グラム、又は更には少なくとも1000グラムのビニル当量重量を有する。いくつかの実施形態では、シリコーンポリマーは、1当量当たり500~5000グラム、例えば、1当量当たり750~4000グラム、又は更には1当量当たり1000~3000グラムのビニル当量重量を有する。
【0063】
市販のシリコーンポリマーとしては、Gelest Inc.から「DMS-V」の商品名で入手可能なもの、例えば、DMS-V05、DMS-V21、DMS-V22、DMS-V25、DMS-V31、及びDMS-V33が挙げられる。平均で少なくとも2個のエチレン性不飽和有機基を含む他の市販のシリコーンポリマーとしては、「SYL-OFF 2-7170」及び「SYL-OFF 7850」(Dow Corning Corporationから入手可能)、「VMS-T11」及び「SIT7900」(Gelest Inc.から入手可能)、「SILMER VIN 70」、「SILMER VIN 100」及び「SILMER VIN 200」(Siltech Corporationから入手可能)、並びに2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン(Aldrichから入手可能)が挙げられる。
【0064】
剥離剤はまた、フルオロシリコーンポリマーを含み得る。市販のエチレン性不飽和フルオロシリコーンポリマーは、Dow Corning Corp.(Midland,MI)から、例えば、「SYL-OFF FOPS-7785」及び「SYL-OFF FOPS-7786」を含む、SYL-OFFシリーズの商品名で入手可能である。他のエチレン性不飽和フルオロシリコーンポリマーは、General Electric Co.(Albany,NY)及びWacker Chemie(Germany)から市販されている。更なる有用なエチレン性不飽和フルオロシリコーンポリマーは、米国特許第5,082,706号(Tangney)のカラム5、67行~カラム7、27行にて成分(e)として記載されている。フルオロシリコーンポリマーは、適した架橋剤と組み合わせたとき、剥離コーティング組成物の形成に特に有用である。1つの有用な架橋剤は、Dow Corning Corp.から「SYL-OFF Q2-7560」の商品名で入手可能である。他の有用な架橋剤は、米国特許第5,082,706号(Tangney)及び同第5,578,381号(Hamada et al.)に開示されている。
【0065】
電極組成物は、あらかじめ、インク、ペースト又は分散体中に一緒に混合されてもよい。以上のように、電極組成物は次いで、1つ又は複数の層においてPEM、GDL又は転写物品に適用され得るが、各層は同じ組成を有し、又はいくつかの層が異なる組成を有する。当該技術分野において公知のコーティング技法を使用して、電極組成物を基材にコーティングすることができる。例示的なコーティング方法としては、ナイフコーティング、バーコーティング、グラビアコーティング、スプレーコーティング等が挙げられる。
【0066】
コーティング後、典型的には、コーティングされた基材を乾燥させて、少なくとも部分的に溶媒を電極組成物から除去し、電極層が基材に残る。
【0067】
一実施形態では、組成物は、組成物の全固体体積(すなわち、針状粒子及びアイオノマー結合剤を含む)に対して54、52、50又は更には48固体体積%未満の針状粒子を含む。得られた電極に十分な針状粒子が存在しない場合、導電性が不十分となり、性能が低下することがある。したがって、一実施形態では、組成物は、導電する組成物の全固体体積に対して少なくとも1、5、10、20又は更には25固体体積%の針状粒子を含む。
【0068】
コーティングが転写基材に適用される場合、電極は典型的にはPEMの表面に転写される。一実施形態では、コーティングされた転写基材は、熱及び圧力と共にPEMに押し付けられ、その後、コーティングされた転写基材が除去及び廃棄され、PEMの表面に接合された電極が残る。
【0069】
一実施形態では、コーティングは、図1で説明した水電解装置などの電解装置に組み込まれる。
【0070】
カソードガス拡散層、カソード、プロトン交換膜、アノード、及びアノードガス拡散層を含む膜電極接合体に加えて、電解装置は、カソードガス拡散層に接触するカソードガスケットを更に含むことができる。
【0071】
膜電極接合体は、典型的には、1組の流場プレートの間に設置され、反応物質である水のアノード電極への分配、アノード電極からの生成物である酸素の除去及びカソードからの生成物である水素の除去、並びに電極への電圧及び電流の適用を可能にする。流場プレートは、典型的には、流路を含む非多孔質プレートであり、反応物質及び生成物に対して低い透過性を有し、導電性である。
【0072】
流場及びMEA接合体は繰り返すことができ、典型的には電気的に直列に接続された繰り返し単位の積層体が得られる。
【0073】
セル接合体は、1組の集電体及び圧縮ハードウェアも含み得る。
【0074】
水入力の場合、電解装置の動作は、水素ガス及び酸素ガスを生成し、水及び電気エネルギーを消費する。標準状態で水から水素及び酸素を電気化学的に生成するには、電池に1.23V以上の電圧を適用することが必要とされる。セル電圧が1.23V以上に増加すると、アノードとカソードとの間に電子電流が生じる。電子電流は、水の消費速度並びに水素及び酸素の生成に比例する。
【0075】
本開示の電解装置は、本明細書に記載の膜電極接合体と一致する任意の好適な動作電流密度、例えば、80℃において0.001A/cm~30A/cm、0.5A/cm~25A/cm、1A/cm~20A/cm、2A/cm~10A/cmの範囲、又は0.001A/cm、0.01、0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、22、24、26、28A/cm又は30A/cm以上について、これ未満、これと同じ、又はこれより大きい。
【0076】
概ね、測定された電流密度は、アノード電極の絶対触媒活性の近似比例測定値である。電流密度と触媒活性との関係は、低い電極過電圧において特に当てはまる。全ての他の成分及び動作条件が固定されている場合、所与のセル電圧における電流密度が高いほど、高い絶対触媒活性を示した。単位平面面積当たりの触媒表面積が増加すると、単位平面面積当たりの活性触媒部位の数が増加することにより、絶対触媒活性が比例的に増加することが予想されると通常考えられている。単位電極平面積当たりの触媒表面積を増加させる方法としては、(1)電極の触媒(すなわち、Ir)含有量を増加させる(すなわち、単位電極平面面積当たりのIr面充填量(areal loading)を高くする)こと、及び(2)単位Ir含有量当たりの触媒(すなわち、Ir)表面積を増加させる(すなわち、Irの1グラム当たりのIr電気化学表面の比表面積(m)を高くする)こと、が挙げられる。理論に束縛されるものではないが、ウィスカー上のIr金属薄膜の厚さが減少するにつれて、薄膜表面にあるIr金属の割合が薄膜のバルク内よりも増加することにより、比表面積(m/g)は増加すると予想される。PR149ウィスカー形状に基づいて、PR149ウィスカー支持体上のIr薄膜厚が約10nm未満に減少すると、実質的により大きな絶対増加面積ゲイン(absolute incremental area gain)が生じると予想される。
【0077】
従来、ウィスカー支持体上の最小実用触媒コーティング厚さには制限が存在し得ることが予想され、その制限未満では触媒が実質的に失活され得る。電解装置用アノード電極の動作は、電気化学的酸素発生反応を可能にするため、電極内の電子伝導を必要とする。触媒コーティング針状粒子及びアイオノマーを含み、いかなる他の電子導体も含まない電極では、電極内の電子伝導は、金属触媒内のみで発生すると考えられる。厚さが減少するにつれて、触媒薄膜は熱力学的に安定でなくなる場合があり、その代わりに、互いに接触していない個々の粒の形態をとり得る。触媒が互いに接触していない個々の粒子の形態である場合、電子伝導の欠如により、触媒材料のいくらかの割合が電気化学的に活性でなくなり、性能が失われることとなる。
【0078】
本開示では、意外にも、電解装置のアノード中に分散した針状粒子の使用は、微細構造化コア上の触媒材料厚さの減少に伴い、特定の電圧で電流密度の単調増加を引き起こすことが判明した。これにより、より少ない触媒材料の使用が可能になる。
【0079】
様々な実施形態において、本開示は、電解装置を使用する方法を提供する。方法は、本明細書に記載の電解装置の任意の実施形態を使用する任意の好適な方法であり得る。例えば、方法は、アノード及びカソードを横切る電位を適用することを含み得る。一実施形態では、アノードは、水電解又は二酸化炭素電解などの酸素発生反応に使用されてもよい。一実施形態では、酸性膜電極接合体を用いた水電解において、水(例えば、脱イオン水などの任意の好適な水)をアノードに提供することができ、アノード側で酸素ガス、カソード側で水素ガスを生成することができる。一実施形態では、アルカリ膜電極接合体を用いた水電解において、水をカソード側に提供することができ、アノード側で酸素ガス、カソード側で水素ガスを生成することができる。一実施形態では、二酸化炭素電解において、二酸化炭素をカソード側に提供して、アノード側で酸素、カソード側で一酸化炭素を生成することができる。
【0080】
本開示の例示的な実施形態としては、これらに限定されるものではないが、以下が挙げられる。
【0081】
実施形態1.電解装置用電極組成物であって、
(a)アイオノマー結合剤と、
(b)54固体体積%未満の複数の針状粒子と、を含み、複数の針状粒子が、電極組成物全体に分散され、針状粒子が、表面の少なくとも一部分上に触媒材料の層を有する微細構造化コアを含み、微細構造化コアが、多核芳香族炭化水素、複素環式化合物、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、触媒材料が、イリジウムを含み、針状粒子が、白金を実質的に含まない、電極組成物。
【0082】
実施形態2.触媒材料が、ルテニウム又は酸化ルテニウムのうちの少なくとも1つを更に含む、実施形態1に記載の電極組成物。
【0083】
実施形態3.イリジウムが、酸化イリジウムを含む、実施形態1又は2に記載の電極組成物。
【0084】
実施形態4.触媒材料の層が、ナノ構造化触媒層を含む、実施形態1~3のいずれか1つに記載の組成物。
【0085】
実施形態5.多核芳香族炭化水素が、ペリレンレッドを含む、実施形態1~4のいずれか1つに記載の組成物。
【0086】
実施形態6.針状粒子が、少なくとも3のアスペクト比を有する、実施形態1~5のいずれか1つに記載の組成物。
【0087】
実施形態7.アイオノマー結合剤が、ペルフルオロスルホン酸、ペルフルオロスルホンイミド酸、スルホン化ポリイミド、ペルフルオロイミド、スルホン化ポリトリフルオロスチレン、スルホン化炭化水素ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む、実施形態1~6のいずれか1つに記載の組成物。
【0088】
実施形態8.アイオノマー結合剤が、1100以下の当量重量を有する、実施形態1~7のいずれか1つに記載の組成物。
【0089】
実施形態9.微細構造化コアの表面の少なくとも一部分上の触媒材料の層が、100nm未満の厚さを有する、実施形態1~8のいずれか1つに記載の電極組成物。
【0090】
実施形態10.微細構造化コアの表面の少なくとも一部分上の触媒材料の層が、少なくとも0.5nm及び多くとも10nmの厚さを有する、実施形態1~9のいずれか1つに記載の電極組成物。
【0091】
実施形態11.溶媒が、アルコール、ポリアルコール、ケトン、水、フッ素化溶媒、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む、実施形態1~10のいずれか1つに記載の組成物。
【0092】
実施形態12.電解装置用の触媒インク組成物であって、
(a)アイオノマー結合剤と、
(b)54固体体積%未満の複数の針状粒子であって、針状粒子が、表面の少なくとも一部分上に触媒材料の層を有する微細構造化コアを含み、微細構造化コアが、多核芳香族炭化水素、複素環式化合物、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、触媒材料が、イリジウムを含み、針状粒子が、白金を実質的に含まない、針状粒子と、
(c)溶媒と、
を含み、複数の針状粒子が、電極組成物全体に分散されている、触媒インク組成物。
【0093】
実施形態13.組成物が1~40重量%の固体を含む、実施形態12に記載の触媒インク。
【0094】
実施形態14.その上にコーティングを有する基材を含む物品であって、当該コーティングが、(a)アイオノマー結合剤と、
(b)54固体体積%未満の複数の針状粒子と、を含み、複数の針状粒子が、コーティング全体に分散され、針状粒子が、表面の少なくとも一部分上に触媒材料の層を有する微細構造化コアを含み、微細構造化コアが、多核芳香族炭化水素、複素環式化合物、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、触媒材料が、イリジウムを含み、針状粒子が、白金を実質的に含まない、物品。
【0095】
実施形態15.基材が、ガス拡散層、ライナー、又はイオン伝導膜である、実施形態14に記載の物品。
【0096】
実施形態16.組成物アノードの酸素発生反応のためのアノードへの組成物の使用であって、組成物が、(a)アイオノマー結合剤と、(b)複数の針状粒子と、を含み、複数の針状粒子が、電極組成物全体に分散され、針状粒子が、表面の少なくとも一部分上に触媒材料の層を有する微細構造化コアを含み、微細構造化コアが、多核芳香族炭化水素、複素環式化合物、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、触媒材料が、イリジウムを含み、針状粒子が、白金を実質的に含まない、使用。
【0097】
実施形態17.酸素発生反応が、水電解装置又は二酸化炭素電解装置内で起こる、実施形態16に記載の使用。
【0098】
実施形態18.組成物が、54固体体積%未満の複数の針状粒子を含む、実施形態16又は17に記載の使用。
【0099】
実施形態19.触媒材料の層が、ナノ構造化触媒層を含む、実施形態16~18のいずれか1つに記載の使用。
【0100】
実施形態20.多核芳香族炭化水素が、ペリレンレッドを含む、実施形態16~19のいずれか1つに記載の使用。
【0101】
実施形態21.針状粒子が、少なくとも3のアスペクト比を有する、実施形態16~20のいずれか1つに記載の使用。
【0102】
実施形態22.微細構造化コアの表面の少なくとも一部分上の触媒材料の層が、100nm未満の厚さを有する、実施形態16~21のいずれか1つに記載の使用。
【0103】
実施形態23.微細構造化コアの表面の少なくとも一部分上の触媒材料の層が、少なくとも0.5nm及び多くとも10nmの厚さを有する、実施形態16~22のいずれか1つに記載の使用。
【0104】
実施形態24.
互いに反対側にある第1及び第2の主面を有するプロトン交換膜と、
プロトン交換膜の第1主面上のカソードと、
プロトン交換膜の第2主面上のアノードであって、当該アノードが、(a)アイオノマー結合剤と、(b)複数の針状粒子と、を含み、複数の針状粒子が、電極組成物全体に分散され、針状粒子が、表面の少なくとも一部分上に触媒材料の層を有する微細構造化コアを含み、微細構造化コアが、多核芳香族炭化水素、複素環式化合物、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、触媒材料が、イリジウムを含み、針状粒子が、白金を実質的に含まない、アノードと、
カソードに接触する第1のガス拡散層と、
アノードに接触する第2のガス拡散層と、
カソード及びアノードに接続された電源と、
を含む、電解装置。
【0105】
実施形態25.組成物が、54固体体積%未満の複数の針状粒子を含む、実施形態24に記載の電解装置。
【0106】
実施形態26.触媒材料の層が、ナノ構造化触媒層を含む、実施形態24又は25に記載の電解装置。
【0107】
実施形態27.多核芳香族炭化水素が、ペリレンレッドを含む、実施形態24~26のいずれか1つに記載の電解装置。
【0108】
実施形態28.針状粒子が、少なくとも3のアスペクト比を有する、実施形態24~27のいずれか1つに記載の電解装置。
【0109】
実施形態29.微細構造化コアの表面の少なくとも一部分上の触媒材料の層が、100nm未満の厚さを有する、実施形態24~28のいずれか1つに記載の電解装置。
【0110】
実施形態30.微細構造化コアの表面の少なくとも一部分上の触媒材料の層が、少なくとも0.5nm及び多くとも10nmの厚さを有する、実施形態24~29のいずれか1つに記載の電解装置。
【0111】
実施形態31.水から水素及び酸素を生成する方法であって、
アノード部分と、カソード部分と、それらの間にあるイオン伝導膜と、を含む電解装置を得ることであって、アノードが電極組成物を含み、電極組成物が、(a)アイオノマー結合剤と、(b)複数の針状粒子と、を含み、複数の針状粒子が、電極組成物全体に分散され、針状粒子が、表面の少なくとも一部分上に触媒材料の層を有する微細構造化コアを含み、微細構造化コアが、多核芳香族炭化水素、複素環式化合物、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、触媒材料が、イリジウムを含み、針状粒子が、白金を実質的に含まない、得ることと、
電解装置のアノード部分に水を添加することと、
アノード部分とカソード部分との間に十分な電位差を適用して、水から水素及び酸素を生成することと、
を含む、方法。
【0112】
実施形態32.二酸化炭素から一酸化炭素及び酸素を生成する方法であって、
アノード部分と、カソード部分と、それらの間にあるイオン伝導膜と、を含む電解装置を得ることであって、アノードが電極組成物を含み、電極組成物が、(a)アイオノマー結合剤と、(b)複数の針状粒子と、を含み、複数の針状粒子が、電極組成物全体に分散され、針状粒子が、表面の少なくとも一部分上に触媒材料の層を有する微細構造化コアを含み、微細構造化コアが、多核芳香族炭化水素、複素環式化合物、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含み、触媒材料が、イリジウムを含み、針状粒子が、白金を実質的に含まない、得ることと、
電解装置のカソード部分に二酸化炭素を添加することと、
アノード部分とカソード部分との間に十分な電位差を適用して、二酸化炭素から一酸化炭素及び酸素を生成することと、
を含む、方法。
【0113】
実施形態33.組成物が、54固体体積%未満の複数の針状粒子を含む、実施形態31又は32に記載の方法。
【0114】
実施形態34.触媒材料の層が、ナノ構造化触媒層を含む、実施形態31~33のいずれか1つに記載の方法。
【0115】
実施形態35.多核芳香族炭化水素が、ペリレンレッドを含む、実施形態31~34のいずれか1つに記載の方法。
【0116】
実施形態36.針状粒子が、少なくとも3のアスペクト比を有する、実施形態31~35のいずれか1つに記載の方法。
【0117】
実施形態37.微細構造化コアの表面の少なくとも一部分上の触媒材料の層が、100nm未満の厚さを有する、実施形態31~36のいずれか1つに記載の方法。
【0118】
実施形態38.微細構造化コアの表面の少なくとも一部分上の触媒材料の層が、少なくとも0.5nm及び多くとも10nmの厚さを有する、実施形態31~37のいずれか1つに記載の方法。
【実施例
【0119】
特に明記しない限り、実施例及び本明細書の他の部分における全ての部、百分率、比率等は、重量によるものであり、実施例において使用された全ての試薬は、例えば、Sigma-Aldrich Company,Saint Louis,Missouri等の、一般の化学物質製造業者から入手した、若しくは入手可能なものであるか、又は従来の方法によって合成できるものである。
【0120】
以下の実施例では、これらの略称が使用される。A=アンペア、cm=センチメートル、g=グラム、℃=摂氏度、RH=相対湿度、mA=ミリアンペア、mol=モル、sccm=標準立方センチメートル/分、及びV=ボルト。
【0121】
比較例及び実施例で調製するための材料としては、以下の表1の材料が挙げられる。
【表1】
【0122】
電極の調製
【0123】
支持された微細構造化ウィスカーのウェブの調製
【0124】
微細構造化ウィスカーを、ペリレンレッド顔料(PR149)の層を熱アニーリングし、これを、その開示が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,812,352号(Debe)に詳細に記載のとおり、微細構造化触媒転写ポリマー基材(MCTS)上に見掛け上の厚さ220nmで昇華真空コーティングすることによって調製した。
【0125】
その開示が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,136,412号(Spiewak et al.)に詳細に記載されているように、PR149がその上に堆積される基材として、MCTS(ポリイミドフィルム(「KAPTON」)上で作製)のロール品(roll-good)ウェブを使用した。MCTS基材表面は、約3マイクロメートルの高さの頂部を有し、6マイクロメートルの間隔をあけて配置される、V字形状の特徴部を有していた。次に、見掛け上100nmの厚さのCrの層を、所望のウェブ速度でターゲットの下のMCTSウェブに単回のパスでCrを堆積させるのに十分であると当業者に知られている、DCマグネトロン平面スパッタリングターゲット及び典型的なAr背圧並びにターゲット電力を使用して、MCTS表面上にスパッタ堆積させた。
【0126】
次に、CrコーティングMCTSウェブを、ペリレンレッド顔料(PR149)を含有する昇華源上で通し進めた。ウェブが昇華源上を単回通過して、0.022mg/cm、又は約220nmの厚さのペリレンレッド顔料(PR149)の層を堆積させるのに十分な蒸気圧フラックスをもたらすよう、ペリレンレッド顔料(PR149)を500℃近くの制御温度まで加熱した。昇華物の質量又は厚さ堆積速度は、フィルムの厚さを感知する光学的方法又は質量を感知する水晶発振子装置を含む、当業者に公知の任意の適した方法で測定することができる。次に、その開示が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,039,561号(Debe)に詳細に記載のとおり、ペリレンレッド顔料(PR149)を堆積したままの層を配向結晶性ウィスカーの層に変換するのに十分な温度分布を有する真空中にペリレンレッド顔料(PR149)コーティングウェブを所望のウェブ速度で通過させ、熱アニーリングすることにより、ペリレンレッド顔料(PR149)コーティングをウィスカー相に変換した。結果としてウィスカー層は、走査型電子顕微鏡(SEM)画像から測定して、1平方マイクロメートル当たり約68ウィスカーの平均ウィスカー面数密度を有し、約0.6マイクロメートルの平均長さを有する。
【0127】
支持された微細構造化ウィスカー上への触媒コーティングされたナノ構造化薄膜の調製。
【0128】
触媒コーティングされたナノ構造化薄膜(NSTF)は、米国特許第5,338,430号(Parsonage et al.)の図4Aに記載されているものと同様であるが、ロール品(roll-good)基材ウェブ上へのコーティングを可能にする追加能力を有する真空スパッタ堆積システムを使用して、支持された微細構造化ウィスカーのウェブ上に、上方から触媒をスパッタコーティングすることによって調製した。スパッタリングガスとして約5mTorrの圧力で超高純度Arを用いることによって、コーティングをスパッタ堆積させた。ロール品基材の断面を(in sections)、通電された5インチ×15インチ(13cm×38cm)の平面状スパッタリングターゲットにさらすことによって、支持されたナノ構造化ウィスカーのウェブ上に触媒層を堆積させ、ロール品基材全体の表面上に触媒の堆積物を得た。マグネトロンスパッタリングターゲット堆積速度及びウェブ速度を制御して、基材上に所望の触媒の面充填量を得た。DCマグネトロンスパッタリングターゲットの堆積速度及びウェブ速度は、当業者に知られている標準的な方法により測定した。基材を、所望の触媒面充填量が得られるまで、通電されたスパッタリングターゲットに繰り返しさらすことによって、触媒を基材上に更に堆積させた。
【0129】
カソードの調製
【0130】
カソード調製については、スパッタリングターゲットは、純粋な5インチ×15インチ(13cm×38cm)の平面状Ptスパッタターゲット(Materion(Clifton,NJ)から入手)であり、支持されたナノ構造ウィスカーのウェブ上にPt堆積させて、「PR149」ウィスカー上に支持された0.25mg/cm白金ナノ構造薄膜触媒を有するPt-NSTFを形成した。
【0131】
アノード調製例A~C
【0132】
調製例A~Cについては、スパッタリングターゲットは、5インチ×15インチ(13cm×38cm)の平面状Irスパッタリングターゲット(Materion(Clifton,NJ)から入手)であり、支持されたナノ構造化ウィスカーのウェブ上へのIrの堆積が得られた。表2は、調製例A~Cの特性を要約する。
【0133】
例えば、調製例Aでは、基材上のIr面充填量は0.75mg/cmであり、基材上のPR149面充填量は0.022mg/cmであり、97.2wt(重量)%Irの針状触媒粒子を得た。Ir金属の密度、22.56g/cmに基づいて、0.75mg/cmの平面換算厚(planar equivalent thickness)は332nmと計算された。調製例Aを、上に記載したMCTS上のPR149ウィスカー支持体上に堆積させた。これは、平面積1cm当たり約10cmの表面積を有する、すなわち表面粗さ係数が約10であると推定された。表面粗さ係数が約10である基材上の平面換算332nmのコーティングは、PR149ウィスカー支持体上に約33.2nmの厚さ、すなわち平面換算厚さの1/10を有することとなる。比較例AのIrコーティングの物理的厚さは、透過電子顕微鏡(TEM)によって直接評価することができる。理論に束縛されるものではないが、PR149支持体をコーティングする33.2nmのIrのモルホロジーは、溶融Ir金属粒からなるIr金属薄膜の形態であると予想される。
【0134】
アノード調製例D~F
【0135】
調製例D~Fについては、スパッタリングターゲットは、5インチ×15インチ(13cm×38cm)の平面状Irスパッタリングターゲット(Materion(Clifton,NJ)から入手)であり、支持されたナノ構造化ウィスカーのウェブ上へのIrの堆積が得られた。表2に、成長基材上のIr面充填量及び成長基材上のPR149面充填量を示す。
【表2】
【0136】
実施例A:調製例DのIrコーティングされたPR149ウィスカーを、以下に記載する手動ブラッシング法によってMCTS基材から除去した。MCTS基材上のおよそ30インチの触媒をフード内に広げ、触媒コーティング側を上向きにした。1895 Stencil#6ブラシ(China Stencil)を、毛を下にしてフィルムに当てて保持した。滑らかな、引きずる動きを用いて、ブラシをフィルム全体に動かし、ウィスカーを除去した。このブラシの動きを、事実上全てのウィスカーがフィルムから除去され、光沢のあるクロム表面が残るまで続けた。この時フィルムの一方の端部にある、除去されたウィスカーを、ブラシで70mmのアルミニウム皿(VWR)に入れた。次いで、ウィスカーをこの皿から秤量及び保管用のガラス瓶に注いだ。次いで、新しい、長さ30インチ(76cm)のNSTF+Irウィスカーコーティングされたフィルムを広げ、十分な量のウィスカー(1~5グラム)が得られるまでブラッシングプロセスを繰り返した。
【0137】
次いで、ブラッシングされた触媒2.0グラムを125mLのポリエチレンボトル(VWR)に入れた。次いで、追加の溶媒を安全に添加するため、このボトルを、窒素のみが入ったグローブバッグ(VWR)に移動した。窒素バッグ内で少なくとも5分後、0.5グラムの水、12グラムのt-ブタノール、及び1.5グラムのプロピレングリコールブチルエーテルをボトルに添加した。次いで、これを、短時間振盪した後、1.26グラムの3M725EWアイオノマー溶液(60:40 nPa:水(重量比)溶媒中の固形分18.8重量%)(725EWアイオノマー粉末は3M company(St.Paul,MN,USA)から入手可能)を混合物に添加した。最後に、50グラムの6mm ZrO媒体(高密度酸化ジルコニウムボール、直径5mm、密度6g/cm、Glen Mills(Clifton,NJ)から入手可能)をボトルに添加した。これを最初に最長で1分間振盪し、次いで、自動ローラー上で、60~180rpmで24時間回転させ(すなわち、ボールミル処理し)、電極インクをZrO媒体から分離した。この電極インクから作製された電極を、乾燥させた後、計算により10.6%のアイオノマー重量分率(Ir、ペリレンレッド、アイオノマーを含む)を得た。これはアイオノマー固体体積分率51%を意味する(アイオノマー、ペリレンレッド及びイリジウム含有量を比較)。実施例Aの配合詳細を表3に要約する。
【表3】
【0138】
実施例B
【0139】
実施例Bを実施例Aと同様に配合した。ただし、調製例EのIrコーティングPR149ウィスカーを使用し、電極インク組成物は9.3%のアイオノマー重量分率(Ir、ペリレンレッド、アイオノマーを含む)を得た点が異なる。これは、アイオノマー固体体積分率51%を意味する(アイオノマー、ペリレンレッド及びイリジウム含有量を比較)。表3に要約する。
【0140】
実施例C
【0141】
実施例Cを実施例Aと同様に配合した。ただし、調製例FのIrコーティングPR149ウィスカーを使用し、電極インク組成物は5.3%のアイオノマー重量分率(Ir、ペリレンレッド、アイオノマーを含む)を得た点が異なる。これは、アイオノマー固体体積分率62%を意味する(アイオノマー、ペリレンレッド及びイリジウム含有量を比較)。表3に要約する。
【0142】
比較例A~Cの触媒コーティング膜(CCM)の調製
【0143】
米国特許第5,879,827号(Debe et al.)に詳細に記載されたプロセスを使用して、上に記載した触媒コーティングウィスカーを100μm厚の3M825EW MEMBRANEの両面(フルCCM)上に転写することにより、触媒コーティング膜(CCM)を製造した。μ上記のカソード調製品(0.25mg/cmPt-NSTF触媒層)をPEMの片側(カソード側となることを意図する)に積層(laminate)し、膜のもう片方(アノード)側にIr-NSTF(調製例A~Cの1つ)を積層した。触媒転写は、ラミネーター(ChemInstruments,Inc.(West Chester Township,OH,USA)から商品名「HL-101」で入手)を使用して、(それぞれの基材上の)触媒を薄膜上にホットロール積層することによって実施した。ホットロール温度は350°F(177℃)であり、ガスライン圧を供給して、ラミネーターロールを、ニップにおいて150psi(1.03MPa)で合わせた。Pt触媒及びIr触媒でコーティングされたMCTSを、15.2cm×11.4cmの矩形形状にあらかじめ切断し、3M825EW PEMの10.8cm×10.8cm部分の2つの側面に挟んだ。両面に触媒コーティングMCTSを有する膜を、2mil(51マイクロメートル)の厚さのポリイミドフィルムの間に配置し、次いで外側に紙を配置した後、重ね合わせ接合体を、1.2ft./分(37cm/分)の速度でホットロールラミネーターのニップに通過させた。ニップに通した直後、接合体がまだ温かいうちに、ポリイミド及び紙の層を素早く除去し、CrコーティングMCTS基材及びPET基材をCCMから手ではがし、触媒コーティングウィスカーはPEM表面に付着したままにした。PEM表面に付着した触媒コーティングウィスカーは、表面に部分的に埋め込まれた配向ウィスカーの単一層からなる電極を形成する。アノード電極の面Ir充填量を表4に列挙する。
【表4】
【0144】
実施例1
【0145】
実施例Aの電極インクを、自動メイヤーバーコーター(Paul N.Garner Co.(Pompano Beach,FL,USA)から商品「GARDCO AUTOMATIC DRAWDOWN MACHINE」で入手)によって制御されたメイヤーバーを使用して転写基材上にコーティングした。コーティング後、コーティングされた基材を、不活性(窒素流)オーブン中で乾燥させて、有効に、全てではなくても大部分の溶媒を、電極組成物から少なくとも除去し、基材上に乾燥電極層を残した。乾燥後、乾燥電極コーティング及びライナーの質量を測定し、既知のライナー質量を減算した。乾燥電極の面積質量充填量は、乾燥電極質量を基材の面積で除算することによって得た。上記表3の乾燥電極組成情報及び表2の触媒組成情報を用いて、電極Ir充填量を0.215mg/cmと算出し、表4に列挙した。
【0146】
触媒コーティング膜(CCM)は、米国特許第5,879,827号(Debeら)に詳細に記載されたプロセスを使用して、上記のカソード調製品(0.25mg/cmPt-NSTF触媒層)をPEM(100μm厚の3M825EW膜)の片側(カソード側となることを意図する)に積層することによって作成した。転写基材上の分散Ir-NSTF触媒層を、薄膜のもう片方(アノード)側に積層した。触媒転写は、ラミネーター(ChemInstruments,Inc.(West Chester Township,OH,USA)から商品名「HL-101」で入手)を使用して、(それぞれの基材上の)触媒を薄膜上にホットロール積層することによって実施した。ホットロール温度は350°F(177℃)であり、ガスライン圧を供給して、ラミネーターロールを、ニップにおいて150psi(1.03MPa)で合わせた。Pt触媒コーティングMCTSを、15.2cm×11.4cmの矩形形状にあらかじめ切断し、PEMの10.8cm×10.8cm部分の片側上に挟んだ。ライナー上の実施例Aを7.5cm×7.5cmの正方形にあらかじめ切断し、PEMの10.8cm×10.8cmの部分のもう片方側に挟んだ。片側のライナー上に実施例A電極、もう片側にカソード触媒コーティングMCTSを有する膜を、2mil(51マイクロメートル)厚のポリイミドフィルムの間に配置し、次いで、外側に紙を配置した後、接合体を、1.2ft./分(37cm/分)の速度でホットロールラミネーターのニップに通過させた。ニップを通過した直後の、接合体がまだ温かい間に、MCTS基材及びポリイミド及び紙のライナー層を素早く除去し、その後MCTS基材及び実施例A基材を剥離除去して、PEM表面に付着した電極を残した。
【0147】
実施例2及び3
【0148】
実施例2及び3の触媒コーティング膜を、実施例1と同様に調製した。ただし、実施例Aからの電極インクのコーティングプロセスを変更して、乾燥電極コーティングにおいてそれぞれ0.655及び0.669mg/cmのIr面充填量を得るようにした点が異なる(表4に列挙)。
【0149】
実施例4、5、6、及び7
【0150】
実施例4、5、6、及び7の触媒コーティング膜を、実施例1と同様に調製した。ただし、実施例Aの代わりに実施例Bの電極インクを使用したこと、及び電極コーティングを変更して、実施例4、5、6、及び7についてそれぞれ0.143、0.264、0.737、及び0.739mg/cmのIr面充填量を得るようにした点が異なる(表4に列挙)。
【0151】
実施例8
【0152】
実施例8の触媒コーティング膜を、実施例1の触媒コーティング膜と同様に調製した。ただし、実施例Aの代わりに実施例Cの電極インクを使用して電極を形成し、電極をコーティングして、0.798mg/cmのIr面充填量を得た点が異なる(表4に記載)。
【0153】
試験セル
【0154】
上記実施例及び比較例で作製したフルCCMを、水電解装置単セルで試験した。フルCCMを、適切なガス拡散層と共に、4蛇行流動場(quad serpentine flow fields)を備える50cmの単セル試験ステーション(Fuel Cell Technologies(Albuquerque,NM)から「50SCH」の商品名で入手)内に直接設置した。アノード側の通常の黒鉛流動場ブロックを、電解装置動作中の高アノード電位に耐えるよう、同じ寸法及び流動場設計のPtめっきTi流動場ブロック(Giner,Inc.(Auburndale,MA)から入手)と置き換えた。
【0155】
膜電極接合体は以下のように形成した:1)ガラス強化ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム(「PTFE COATED FIBERGLASS」の商品名でNott Company(Arden Hills,MN,USA)から入手)から作製された名目上非圧縮性のカソードガスケット、組み立てられたセルにおいて所望のガス拡散層圧縮をもたらすように計算された厚さを有する選択されたフィルム、10cm×10cmの外寸及び7cm×7cmの内部中空を有する調製されたガスケットを、50cmFuel Cell Technologies(Albuquerque,NM)電気化学セル(モデルSCH50、上記のとおり)の黒鉛流動場ブロックの表面に置いた;2)選択されたカソード多孔質カーボン紙をガスケットの中空部分に入れ、このとき疎水性表面(存在する場合)が上を向いてCCMのカソード触媒側と接触するようにした;3)調製したCCMを、カーボン紙の表面上に置き、このときH発生反応(HER)触媒を有するカソード側がカーボン紙の(疎水性)表面と接触して配置されるようにした、4)10cm×10cmの外寸外及び7cm×7cmの内部中空を有するアノードガスケットを、CCMの酸素発生触媒コーティング表面上に配置した;5)アノードガス拡散層(商品名「BEKIPOR TITANIUM」でBekaert Corp(Marietta,GA)から入手可能な不織布チタンシート、0.5mg/cmの白金でコーティングされている)を、アノードガスケットの中空部分に入れ、このとき白金めっき側がCCMのアノード触媒(Ir)側に面するようにした;6)白金化されたチタン流動場ブロックをアノードガス拡散層及びガスケットの表面上に配置した。次いで、チタン流動場ブロック、アノードガス拡散層、CCM、カソードガス拡散層、及び黒鉛流動場ブロックを、ねじで一緒に圧縮した。部品を点検して、部品が一様に組み立てられ、封止され得ることを確認した。
【0156】
18Mohms-cmの抵抗を有する精製水を、アノードに75mL/分で供給した。電源(商品名「ESS」、モデルESS 12.5-800-2-D-LB-RSTLでTDK-Lambda(Neptune,NJ)から入手)を、セルに接続し、適用セル電圧又は電流密度を制御するために使用した。セル電圧は、電圧計(商品名「FLAK」、モデル8845A 6-1/2 DIGIT PRECISION MULTIMETERでFLUKE Corporationから入手)を使用して測定した。セル電流は、電源によって測定した。
【0157】
セル性能は、分極曲線の測定によって評価され、セル電流密度は、温度80℃及びセルアノードへの水流速75mL/分で、セル電圧の範囲にわたって測定された。電源を使用して、セル電圧を1.40Vに設定し、300秒間保持した。300秒間保持の間に、電流密度及びセル電圧を1秒当たり約1点で測定した。この測定プロセスを1.45、1.50、1.55、1.60、1.65、1.70、1.75、1.80、1.85、1.90、1.95、及び2.00Vで繰り返し、分極曲線の前半を完成させた。分極曲線の後半は、2.00V、1.95、1.90、1.85、1.80、1.75、1.70、1.65、1.60、1.55、1.50、1.45、及び1.40Vの設定点において、同様の電流及び電圧測定値から構成した。
【0158】
最終的な分極曲線データを以下のように分析した。最初に、分極曲線の前半から、測定された電流密度及びセル電圧対時間(1.40Vから2.00Vに増加する部分)を、各設定点において300秒で独立して平均し、平均分極曲線を作成した。図2及び3は、比較例及び実施例の平均分極曲線を含むプロットである。次に、1.45、1.50、及び1.55Vの特定のセル電圧における電流密度を平均分極曲線データを線形補間することによって得た。補間した電流密度を、以下の表5に列挙する。図4は、1.50Vにおける補間電流密度を、比較例及び実施例のアノード電極Ir面充填量の関数としてプロットした図である。
【表5】
【0159】
結果
【0160】
図4及び表5は、比較例A、B、及びCと実施例1、2、3、4、5、6、7、及び8の1.50Vにおける電流密度を、アノード電極Ir面充填量の関数として比較している。1.50Vのセル電圧において、測定された電流密度は、アノード電極の絶対触媒活性の近似比例測定値である。所与のセル電圧における電流密度が高いほど、より高い絶対触媒活性を示した。比較例A、B、及びCのアノード電極は、膜の表面に埋め込まれたIrコーティングウィスカーの単一配向層からなり、膜上の単位面積当たりのウィスカーの面数密度は、MCTS成長基材上とほぼ同じで、約68/平方マイクロメートルであった。これらの電極におけるIr含有量の変動は、ウィスカー上に堆積されるIrの量を変化させることによって実施され、これは、支持ウィスカー上のIr金属薄膜の厚さを増加させた。上記のように、Ir薄膜の厚さが増加するにつれて、比表面積(単位質量当たりの表面積)は減少し得る。比較例A及びCでは、電極充填量が0.20から0.75mg/cmまで約275%増加するのにつれて、電流密度は0.032から0.039A/cmまで約23%増加し、支持体のIr金属厚さの8.9から33.2nmへの増加と一致する。
【0161】
実施例1~8のアノード電極は、アイオノマー含有電極内にランダムに分布した複数のIrコーティングされたウィスカーからなる。単位電極面積当たりのIrコーティングウィスカーの面数密度は、電極インク製造パラメータ(例えば、ウィスカー対アイオノマー重量比、所与の湿潤コーティング厚さにおける溶媒比)及び乾燥電極コーティング厚さの選択に基づいて個別調整することができる。単位電極面積当たりの面Ir充填量の変動は、電極コーティング厚さ及びPR149ウィスカー支持体上のIrコーティング厚さを選択することによって達成された。製造パラメータの選択に応じて、単位電極面積当たりのウィスカーの面数密度は、MCTS成長基材上のIrコーティングPR149ウィスカーの面数密度は、約68/平方マイクロメートルの上及び下の範囲となり得る。
【0162】
2.2nm厚のIrコーティングを有するPR149ウィスカーを含む実施例1及び3では、電極Ir面充填量が0.215から0.669mg/cmに増加するのにつれて、電流密度が0.045から0.107A/cmまで134%増加した。4.4nm厚のIrコーティングを有するPR149ウィスカーを含む実施例4及び7では、電極Ir面充填量が0.143から0.739mg/cmに増加するのにつれて、電流密度が0.031から0.082A/cmまで161%増加した。
【0163】
実施例2、3、6、7、及び8は、0.655~0.798mg/cmの範囲のIr面電極充填量を有し、2.2、4.4及び16.6nm厚のIrコーティングを有するPR149ウィスカーを含む。この充填量範囲内では、PR149支持体上のIr厚さが16.6から4.4、2.2nmへと減少するにつれて、1.50Vにおける電流密度が0.043から0.080~0.082、0.091~0.107A/cmへと単調に増加した。
【0164】
同様の範囲のIr面電極充填量において、実施例1と比べた実施例3の絶対電流密度の増加、134%は、比較例Aと比べた比較例Cの絶対電流密度の増加、23%よりも高かった。
【0165】
典型的には、電極の厚さが増加するにつれて電極抵抗も増加し、より高い電流密度では、抵抗損失が低電流密度改善よりも大きくなるために、低電流密度で観察される改善は、より大きくなる。本実施例では、意外にも、比較的低い電流密度及び低いセル電圧(例えば、1.50V付近)で観察された、比較例に対する実施例の性能の改善が、より高い電流密度及びより高いセル電圧(例えば、1.90V付近)でも維持されることが判明した。
【0166】
本発明の範囲及び趣旨を逸脱することのない、本発明の予見可能な改変及び変更が、当業者には明らかであろう。本発明は、例示目的のために本出願に記載されている実施形態に限定されるものではない。本明細書で言及される文書は全て、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書の記述と本明細書に述べられ参照により組み込まれる任意の文書中の開示との間に何らかの不一致及び矛盾が存在する場合、本明細書の記述が優先される。
図1
図2
図3
図4