(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】ピペットチップのフィルタをフッ素化するための方法、ピペットチップ、関連する製造方法、およびピペット
(51)【国際特許分類】
B01L 3/02 20060101AFI20231207BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B01L3/02 D
G01N1/00 101K
(21)【出願番号】P 2020543819
(86)(22)【出願日】2019-02-18
(86)【国際出願番号】 FR2019050359
(87)【国際公開番号】W WO2019162602
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2022-01-17
(32)【優先日】2018-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】513310243
【氏名又は名称】ジルソン エスアーエス
(73)【特許権者】
【識別番号】518110589
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ クレルモン オーヴェルヌ
(73)【特許権者】
【識別番号】518048101
【氏名又は名称】サントレ ナティオナル ド ラ ルシェルシェ シアンティフィク
(73)【特許権者】
【識別番号】518165800
【氏名又は名称】シグマ クレルモン
【氏名又は名称原語表記】SIGMA CLERMONT
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】バティス,ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】デュボワ,マルク
(72)【発明者】
【氏名】ペルー,ジェレミ
(72)【発明者】
【氏名】ギユー プレール,ベアトリス
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-066246(JP,A)
【文献】特開2001-121005(JP,A)
【文献】特開2004-237142(JP,A)
【文献】特開昭61-266442(JP,A)
【文献】特開平01-066246(JP,A)
【文献】特開2005-279175(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0148348(US,A1)
【文献】特開平08-295751(JP,A)
【文献】特表2008-540856(JP,A)
【文献】特開2013-034941(JP,A)
【文献】特開2014-180591(JP,A)
【文献】特開2009-154134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01L 3/02
G01N 1/00
C08J 9/00-9/36
B01D 39/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピペットチップ(20)のフィルタ(26)をフッ素化するための方法であって、このフィルタ(26)は多孔質固体ポリオレフィン構造によって形成され、
それが次のステップを含むことと:
(a)前記フィルタ(26)をエンクロージャ内に置くこと、
(b)前記エンクロージャ内に真空を作り出すこと、
および
(c)前記エンクロージャ内に気体状態で導入されたフッ素化剤と前記フィルタ(26)を接触させること
、
前記フッ素化剤が二フッ素F
2からなることと、
前記二フッ素F
2が100Paおよび10000Paの間の分圧で前記エンクロージャ内に導入されることと、
ステップ(c)が0℃および100℃の間の温度において行われることと、
さらに、ステップ(c)後に
、前記エンクロージャ内に真空を作り出すステップ(e1)、次に、二水素または二水素を含む混合物と前記フィルタを接触させるステップ(e2)を含み、前記二水素または二水素を含む前記混合物が気体状態で前記エンクロージャ内に導入されることと、
を特徴とする方法。
【請求項2】
前記ポリオレフィンがポリエチレンおよびポリプロピレンから選ばれる、請求項1に記載のフッ素化方法。
【請求項3】
前記ポリオレフィンがポリエチレンである、請求項2に記載のフッ素化方法。
【請求項4】
前記二フッ素F
2が、500Paおよび8000Paの間の分圧で前記エンクロージャ内に導入される、請求項1~3のいずれか1項に記載のフッ素化方法。
【請求項5】
前記二フッ素F
2が、750Paおよび6000Paの間の分圧で前記エンクロージャ内に導入される、請求項4に記載のフッ素化方法。
【請求項6】
ステップ(c)が、10℃および60℃の間の温度において行われる、請求項1~5のいずれか1項に記載のフッ素化方法。
【請求項7】
ステップ(c)が、15℃および25℃の間の温度において行われる、請求項6に記載のフッ素化方法。
【請求項8】
ステップ(c)が、1minおよび60minの間の継続時間に渡って実施される、請求項1~7のいずれか1項に記載のフッ素化方法。
【請求項9】
ステップ(c)が、2minおよび45minの間の継続時間に渡って実施される、請求項8に記載のフッ素化方法。
【請求項10】
ステップ(c)が、5minおよび45minの間の継続時間に渡って実施される、請求項8または9に記載のフッ素化方法。
【請求項11】
ステップ(c)が、10minおよび30minの間の継続時間に渡って実施される、請求項8~10のいずれか1項に記載のフッ素化方法。
【請求項12】
ステップ(c)の間には、前記ポリオレフィンの水素原子の当量のモル数以上のモル数の二フッ素が導入される、請求項1~11のいずれか1項に記載のフッ素化方法。
【請求項13】
ステップ(c)の間に導入される二フッ素のモル数が、前記ポリオレフィンの水素原子の当量のモル数の5倍以上である、請求項12に記載のフッ素化方法。
【請求項14】
ステップ(c)の間に導入される二フッ素のモル数が、前記ポリオレフィンの水素原子の当量のモル数の10倍以上である、請求項12または13に記載のフッ素化方法。
【請求項15】
ステップ(d):ステップ(c)の間に形成された副生成物を除去すること、を含み、
ステップ(e1)およびステップ(e2)がステップ(d)の後に行われる、
請求項1~14のいずれか1項に記載のフッ素化方法。
【請求項16】
ステップ(d)が、ステップ(c)の間に形成された前記副生成物を脱気することによって実施される、請求項
15に記載のフッ素化方法。
【請求項17】
ステップ(d)が、ステップ(c)の間に形成された前記副生成物を真空脱気することによって実施される、請求項
16に記載のフッ素化方法。
【請求項18】
ステップ(c)および(d)が逐次的に実施される、請求項
15~
17のいずれか1項に記載のフッ素化方法。
【請求項19】
ステップ(d)が、ステップ(c)の間に形成された前記副生成物の化学的トラップ法によって実施される、請求項
15に記載のフッ素化方法。
【請求項20】
前記混合物が二水素および窒素を含む、請求項1~
19のいずれか1項に記載のフッ素化方法。
【請求項21】
前記混合物中の二水素の体積パーセンテージが2%vol以上である、請求項
20に記載のフッ素化方法。
【請求項22】
前記混合物中の二水素の体積パーセンテージが5%volおよび20%volの間に含まれる、請求項
20または
21に記載のフッ素化方法。
【請求項23】
ステップ(e
2)の間には、ステップ(c)の間に導入された二フッ素のモル数以下のモル数の二水素が導入される、請求項1~
22のいずれか1項に記載のフッ素化方法。
【請求項24】
ステップ(e
2)が、10minおよび2hの間の継続時間に渡って実施される、請求項1~
23のいずれか1項に記載のフッ素化方法。
【請求項25】
ステップ(e
2)が、30minおよび60minの間の継続時間に渡って実施される、請求項
24に記載のフッ素化方法。
【請求項26】
ステップ(e
2)が0℃および200℃の間の温度において行われる、請求項1~
25のいずれか1項に記載のフッ素化方法。
【請求項27】
ステップ(e
2)が20℃および80℃の間の温度において行われる、請求項
26に記載のフッ素化方法。
【請求項28】
ステップ(b)およびステップ(e
1)の間に、前記エンクロージャ内の圧力が100Pa以下である、請求項1~
27のいずれか1項に記載のフッ素化方法。
【請求項29】
ステップ(b)およびステップ(e
1)の間に、前記エンクロージャ内の圧力が50Pa以下である、請求項
28に記載のフッ素化方法。
【請求項30】
ステップ(b)およびステップ(e
1)の間に、前記エンクロージャ内の圧力が10Pa以下である、請求項
29に記載のフッ素化方法。
【請求項31】
ステップ(c)が、赤外分光によってモニタリングされる、請求項1~
30のいずれか1項に記載のフッ素化方法。
【請求項32】
ステップ(c)が、-CHF-基および-CF
2-基に対応する赤外振動バンドの面積の合計によって割った-CH
2-基に対応する赤外振動バンドの面積の比ACH
2/ACF
xの推移を追跡することによってモニタリングされる、請求項
31に記載のフッ素化方法。
【請求項33】
この比ACH
2/ACF
xが、15以下の値に達するときに、ステップ(c)が止められる、請求項
32に記載のフッ素化方法。
【請求項34】
この比ACH
2/ACF
xが、6以下の値に達するときに、ステップ(c)が止められる、請求項
33に記載のフッ素化方法。
【請求項35】
この比ACH
2/ACF
xが、3以下の値に達するときに、ステップ(c)が止められる、請求項
33または
34に記載のフッ素化方法。
【請求項36】
フッ素化されたフィルタ(26)を含むピペットチップ(20)を製造するための方法であって、前記方法が次のステップを含む、方法:
(i)多孔質固体ポリオレフィン構造によって形成されたフィルタ(26)を提供すること、
(ii)前記フィルタ(26)を前記ピペットチップ内に嵌着すること、および
(iii)請求項1~34のいずれか1項に記載のフッ素化方法を実装することによって、前記フィルタ(26)をフッ素化すること。
【請求項37】
前記フィルタ(26)がポリエチレンから作られる、請求項
36に記載の製造方法。
【請求項38】
フィルタ(26)が、多孔質固体ポリオレフィン構造によって形成されることを特徴とし、請求項1~34のいずれか1項に記載のフッ素化方法を実装することによって、フッ素原子がポリオレフィンの水素原子の少なくともいくつかを置換する、フィルタ(26)を含むピペットチップ(20)。
【請求項39】
前記フィルタ(26)がポリエチレンから作られる、請求項
38に記載のピペットチップ(20)。
【請求項40】
請求項
38または
39に記載のピペットチップ(20)を含むサンプリングピペット(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質固体ポリオレフィン構造によって形成されたフィルタをフッ素化するための方法に関し、このフィルタは、より具体的にはピペットチップに装備することを意図される。
【0002】
本発明は、上で言及されたフッ素化方法によって改変されたフィルタを含む器具に、より具体的には、かかるフィルタを含むピペットチップに、かかるチップを装備するサンプリングピペットに、およびフッ素化されたフィルタを含むピペットチップを製造するための方法にもまた関する。
【背景技術】
【0003】
ピペットは分析化学および分子生物学に日常的に用いられる実験室装備の1個である。
【0004】
この器具はピストンの作用下で作動し、サンプリングされる体積を高い精度で吸入または吐出することを可能にする。ホイールは、器具の内部に配置される気柱を調節することによって、サンプリングされるべき体積を調整することを可能にする。
【0005】
従来、ピペットは、ピペットコーンとしてもまた公知のチップをその下端部に装備する。かかるチップは、取られるサンプルを回収することを意図する取り外し可能な要素である。従来、それはポリプロピレンから作られ、取られるべきサンプルの性質に従って無菌のパッケージ中に保管され得る。
【0006】
取られるサンプルによるピペットの下部の内側および/もしくは外側表面の潜在的なコンタミネーション、ならびに/またはピペットの下部の内側および/もしくは外側表面に存在する先行するコンタミネーションによるサンプルの潜在的なコンタミネーションを限定するために、チップはフィルタを装備し、これは空気の通過を可能化するための多孔質固体構造、だが疎水性の特性をもまた両方有し、その結果、ピペットの本体内へのサンプルの全てまたはいくらかの上昇を妨げる。
【0007】
現行では、多孔質固体構造と疎水性の特性とを同時に有するいくつかのピペットチップフィルタ構造が提案されている。
【0008】
本明細書において以降[1]として参照される特許文献1は、ポリエチレンからまたはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から作られ得る多孔質固体構造によって形成されたフィルタを装備するピペットチップを記載している。実に、このフルオロカーボンポリマーはポリエチレンよりも優れた疎水性の特性をフィルタに付与するが、それにもかかわらず、PTFEはポリエチレンよりも実質的に高価なポリマーのままである。その上、多孔質固体構造を得るためのPTFEの工業的加工は複雑である。これらの欠点に対処するために、文書[1]は、それらをシリコーンによって処理することによってまたはそれらにPTFEを含浸させることによって、多孔質ポリエチレンから作られるフィルタの疎水性を増大させることをもまた提案している。
【0009】
[2]として参照される特許文献2は、ピペットチップフィルタとしての使用にとって好適な疎水性のおよび/または疎油性の多孔質材料を記載している。これらの材料は焼結された多孔質熱可塑性基材と表面処理材料とを含む。この表面処理材料は、多孔質基材の外部に、後者の内部に、または実にこの多孔質基材の内部および外部に配置され得る。熱可塑性基材はポリオレフィン、ナイロン、ポリカーボネート、またはポリエーテルスルホンであり得る。それが少なくとも部分的に熱可塑性基材をコーティングするときには、表面処理材料は、高分子量のフッ素化された化合物、例えばフッ素化されたポリアクリレート、ポリメタクリレート、および/またはポリエステルアクリレートを含む。それが少なくとも部分的に熱可塑性基材中に配置されるときには、表面処理材料は、低分子量のフッ素化された化合物、例えばフッ素化されたウレタン、アロファン酸、オキサゾリドン、および/またはピペラジンを含む。疎水性のおよび/または疎油性の多孔質材料は、低分子量のフッ素化された化合物を含む表面処理材料によってコーティングされた熱可塑性粒子を焼結することによってもまた得られ得る。
【0010】
[3]として参照される特許文献3は、ポリプロピレンから作られた、ポリエチレンから作られた、または繊維絡合によって形成されたフィルタを含み得るピペットチップを記載している。溶媒を蒸発させた後にフィルタに表面粗さを付与することを可能にする濡れ溶液を用いて得られる疎水性のコーティングを適用することによって、このフィルタは部分的にまたは完全に疎水性にされる。濡れ溶液は、キシロールに基づく溶媒中に溶解されたエチレンおよびプロピレンのコポリマーを含む。
【0011】
よって、上で言及された文書[1]から[3]は、特にフィルタがポリオレフィンから作られるときに、疎水性のコーティングをフィルタの多孔質固体構造の表面のレベルにまたはフィルタの多孔質構造そのものの内にさえも生成することによって、ピペットチップのフィルタの疎水性の特性を強化することを提案している。
【0012】
しかしながら、かかる疎水性のコーティングをピペットチップフィルタの表面上にまたは多孔質固体構造中に生成することは、材料の追加からなる。尚、関連するフィルタを製造するための方法をより面倒にすることのほかにも、材料のこの追加は、多孔質固体構造とコーティングとの間に境界面を作り出し、これらの境界面における爾後の層間剥離の潜在的リスクを有する。
【0013】
さらにその上、この疎水性のコーティングが表面上に設けられるかまたはフィルタを形成する多孔質構造中に設けられるかにかかわらず、これらのサンプルがフィルタと接触するであろう際には、この疎水性のコーティングを形成する分子のサンプル中への放出の無視できないリスクがまだある。かかる放出は特に問題になり得る:例として、文書[1]に記載されている通りシリコーンによって処理された多孔質ポリエチレンフィルタはシリコーンを放出し得、これは分析機器、ゆえに分析スペクトルの汚染物質として公知の化合物である。
【0014】
よって、本発明の目標は、従来技術の欠点を克服すること、および多孔質固体ポリオレフィン構造によって形成されたフィルタを含むピペットチップを提供することであり、このフィルタは、もしもフィルタがサンプルと接触しても層間剥離のおよび/または分子の放出のいずれかのリスクなしに顕著な疎水性の特性を特徴とする。
【0015】
本発明のさらなる目標は、これらの顕著な疎水性の特性をフィルタに付与することを可能にする処理方法を提供することからなり、この方法は限定された数のステップを含み、これの工業的コストは限定される。さらにその上、この処理方法は、ポリオレフィンフィルタを製造するための現行の方法に難なくインテグレーションされることにとって好適でなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】欧州特許出願公開第0631817号明細書
【文献】米国特許出願公開第2004/0028890号明細書
【文献】米国特許出願公開第2012/0009100号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1には、上に記載されている目標はピペットチップフィルタをフッ素化するための方法によって達成され、このフィルタは多孔質固体ポリオレフィン構造によって形成される。
【0018】
本発明に従うと、このフッ素化方法は次のステップを含み:
(a)フィルタをエンクロージャ内に置くこと、
(b)エンクロージャ内に真空を作り出すこと、
(c)エンクロージャ内に気体状態で導入されたフッ素化剤とフィルタを接触させること、および、任意に、
(d)ステップ(c)の間に形成された副生成物を除去すること、
このフッ素化剤は二フッ素F2からなり、二フッ素F2は100Paおよび10000Paの間の分圧でエンクロージャ内に導入され、ステップ(c)は0℃および100℃の間の温度において行われる。
【0019】
本発明者は、特に、100Paおよび10000Paの間の分圧においてかつエンクロージャ内の温度が0℃および100℃の間であるような条件下において、真空下におけるエンクロージャ内への唯一のフッ素化剤としての二フッ素F2の導入を組み合わせて、ステップ(a)から(c)または(a)から(d)を実装することは、C-F結合の形成を利するポリオレフィンのC-H結合の破断と、そのようにして、フィルタを形成する多孔質固体構造の外側表面のレベルに設けられているポリオレフィンの水素原子の少なくともいくつかまたは全てをフッ素原子によって置換することとを可能化するということを観察した。
【0020】
そうすることによって、フィルタの疎水性の特性は、文書[1]から[3]のそれぞれに当てはまる通り材料および/または分子の追加によってではなく、ポリオレフィンの水素原子を置換するフッ素原子の連続的勾配の形成によってそれに付与され、フッ素原子のこの連続的勾配は、多孔質固体ポリオレフィン構造の外側表面からコアに向かって減少していく量で多孔質固体構造の厚さに収まる。
【0021】
大量のポリオレフィンフィルタをフッ素化するために小量のフッ素のみが要求されるという意味で、本発明に従うフッ素化方法は工業的にかつ抑えられたコストで実装することが比較的容易である。
【0022】
フッ素化剤からのフッ素原子とポリオレフィンの炭素原子との間に形成される結合は共有結合である。C-F共有結合は490kJ.mol-1という結合エネルギーを特徴とし、これは402kJ.mol-1および414kJ.mol-1の間で確定されているC-H共有結合の結合エネルギーよりも高いので、これらのC-F結合は特に安定である。結果的に、もしも本発明に従うフッ素化方法によって処理されたフィルタが取られるサンプルと接触しても、層間剥離のおよび/またはその中のフッ素原子を放出することによるこのサンプルのコンタミネーションのリスクはない。
【0023】
加えて、一方では(それぞれ50pmのおよび25pmの)フッ素および水素原子の原子半径、他方では(1.35Åのおよび1.07Åの)C-FおよびC-H共有結合の長さは同じ桁であるので、なおさら、本発明に従うフッ素化方法の実装は、多孔質固体ポリオレフィン構造によって呈される初期の形態学、特にその初期の多孔性を保持することを可能にする。
【0024】
よって、ピペットチップフィルタの多孔質固体構造を形成するポリオレフィンの水素原子をフッ素原子に置換することによって、本発明に従うフッ素化方法はフッ素化を実施することを可能にする。
【0025】
本発明に従うフッ素化方法は、それらの形態にかかわらず、いずれかの型のポリオレフィンフィルタに適用されることにとって好適であるという利点をもまた有する。
【0026】
フィルタを形成するポリオレフィンの選び方について実際的な限定はないが、より具体的には、前記ポリオレフィンはポリエチレンおよびポリプロピレンから選ばれる。
【0027】
有利には、フィルタを形成するポリオレフィンはポリエチレンである。
【0028】
実施することが容易かつ迅速であることに加えて、本発明に従うフッ素化方法は少数のステップのみを含み、さらにその上、低いエネルギー消費を有するという利点を有する。
【0029】
本発明に従う方法は、そのフッ素化を企図してフィルタをエンクロージャ内に置くことにあるステップ(a)を含む。このインストールは手動および自動であり得る。
【0030】
エンクロージャを閉じた後に、エンクロージャの体積内におよびフィルタを形成する多孔質固体ポリオレフィン構造の細孔内に存在する酸素および水(湿気)を除去するように、このエンクロージャをエバキュエーションするステップ(b)が実施される。このステップ(b)は、求められる疎水性の効果とは逆の効果を有するであろうポリオレフィンのオキシフッ素化を妨げることを可能にする。
【0031】
ある具体的な変形に従うと、ステップ(b)は、エンクロージャ内において100Pa以下の、有利には50Pa以下の、好ましくは10Pa以下の圧力に達するように実施される。
【0032】
本発明に従うフッ素化方法の有利な変形に従うと、二フッ素F2は500Paおよび8000Paの間の、好ましくは750Paおよび6000Paの間の分圧でエンクロージャ内に導入される。
【0033】
本発明に従うフッ素化方法の別の有利な変形に従うと、フィルタを二フッ素と接触させるステップ(c)はエンクロージャ内において10℃および60℃の間の、好ましくは15℃および25℃の間の温度で行われる。
【0034】
本発明に従うフッ素化方法のある変形に従うと、フィルタを二フッ素と接触させるステップ(c)は1minおよび60minの間の継続時間に渡って実施される。
【0035】
ある有利な変形では、この接触継続時間は2minおよび45minの間、好ましくは5minおよび45minの間、より好ましくは10minおよび30minの間であり得る。
【0036】
ひとたび、フッ素原子が、多孔質固体構造の外側表面のレベルに設けられているポリオレフィンの水素原子を少なくとも部分的に置換すると、顕著な疎水性の特性がポリオレフィンフィルタに付与されるという意味で、ステップ(c)の継続時間は実に限定され得る。コアに行われるであろうフッ素原子による水素原子の置換が明らかに予想され得るが、必要ではない:実に、初期に多孔質固体ポリオレフィン構造の外側表面のレベルに存在する水素原子をフッ素原子によって置換することはそれだけで十分であり、フッ素原子のグラフト化は、そのようにして本発明に従うフッ素化方法によって改変された多孔質固体構造に疎水性の特徴を付与する。
【0037】
本発明者は、2μm未満の深さまで実施されるフッ素原子によるポリオレフィンの水素原子の部分的置換が、かかる疎水性の特性を得ることを可能にするということを実証することができた。
【0038】
本発明に従うフッ素化方法の変形に従うと、フィルタを二フッ素と接触させるステップ(c)の間には、ポリオレフィンの水素原子の当量のモル数以上のモル数の二フッ素が導入される。
【0039】
ポリオレフィンの水素原子の当量のモル数は、その密度によって調節されるガスがアクセス可能である多孔質ポリオレフィンの表面積と、所与の二フッ素拡散深さとを考慮することによって計算される。
【0040】
ポリオレフィンの多孔性はその調製方法に従って変動し得るので、ガスがアクセス可能な表面積の決定が要求される:それは顕微鏡法からのまたはガス吸着もしくはヘリウムピクノメトリーなどの容積測定技術によるデータに基づき得る。それから、このガスがアクセス可能な表面積値は、ポリオレフィンの多孔質構造に従って顕微または分光技術を用いて見積もられ得る二フッ素の拡散深さによって調節される;そのようにして、処理に対して暴露されることにとって好適なポリオレフィン体積が得られる。それから、同じだが多孔質構造を有さずかつ式単位あたりの水素原子数が既知であるポリオレフィンについて決定された密度との比較によって、水素原子のモル数が推測される。
【0041】
有利な変形に従うと、二フッ素のこのモル数は、ポリオレフィンの水素原子の当量のモル数の5倍以上、好ましくは10倍以上である。
【0042】
フッ素化剤の分圧および実装される温度およびフッ素化剤の選び方の具体的な条件から判断して、フィルタを気体状態の二フッ素と接触させるステップ(c)の間に形成される反応副生成物は本質的にフッ化水素HFである。特に、多孔質固体構造の多孔性を実質的に改変することが公知の化合物であるテトラフルオロメタンCF4または実にヘキサフルオロエタンC2F6などの揮発性ペルフルオロカーボン化合物は、わずかしか形成されないことが注目されるべきである。換言すると、本発明に従うフッ素化方法はフィルタにその初期の形態学を失わせない。
【0043】
第1の実施形態に従うと、本発明に従うフッ素化方法はステップ(a)から(c)のみを含み得る。
【0044】
第2の実施形態に従うと、本発明に従うフッ素化方法は1つまたはより多くの追加のステップをもまた含み得る。
【0045】
この第2の実施形態の第1の変形に従うと、有利には、本発明に従うフッ素化方法は、ステップ(c)の間に形成されかつ気体状態である反応副生成物を除去するステップ(d)を含み得る。
【0046】
この除去ステップ(d)は化学的プロセスの手段によって実施され得る。特に、エンクロージャ内にまたは前者の外部に配置されかつそれに接続されたトラップの手段による反応副生成物の化学的トラップ法による。従来、かかるトラップは化合物(例えばフッ素塩)または吸湿性化学組成物によって形成され、これは副生成物(特にHF)のみと反応するようにかつ二フッ素によって分解されないように選ばれる。
【0047】
この除去ステップ(d)は、物理的プロセスの手段によって、すなわち気体状の副生成物の直接的な除去によってもまた実施され得る。特に、これらの副生成物を圧送または脱気、有利には真空脱気することによる。
【0048】
ステップ(c)および(d)は、それらが形成されると、形成された副生成物を除去するために同時的に実施され得、これらのなかにはフッ化水素HFがある。これは、形成された副生成物を除去するステップ(d)が化学的トラップ法によって実施されるときに特に当てはまる。
【0049】
より具体的には、有利には、ステップ(c)および(d)は逐次的に実施され、形成された副生成物を除去するステップ(d)は接触ステップ(c)の終わりに実施される。
【0050】
この第2の実施形態の第2の変形に従うと、有利には、本発明に従うフッ素化方法は、真空をエンクロージャ内に作り出すステップ(e1)、次にフィルタを二水素とまたは二水素を含む混合物と接触させるステップ(e2)を含み得、二水素または二水素を含む混合物は気体状態でエンクロージャ内に導入される。
【0051】
かかるステップ(e2)の実装は、本発明に従うフッ素化方法によって得られるフィルタの多孔質固体構造を安定化することを可能にする。実に、フィルタを二水素と接触させることは、いずれかのいわゆるペンディングのまたは空の結合を安定化することを可能にする。これらは、C-H結合の破断と、特に立体障害の理由でのこれらの破断した結合上におけるフッ素原子による水素原子の置換の欠如とに伴って、ステップ(c)の間に形成され得る。よって、ステップ(e2)の実装は、これらのペンディングのまたは空の結合のレベルでC-H結合を再形成することを可能にし、その結果、前者が例えばエンクロージャを開ける際に空気からの酸素と反応して、フィルタの疎水性の特性を縮減するであろうヒドロキシルおよび/またはカルボキシル結合を形成することを妨げる。
【0052】
本発明に従うフッ素化方法が、ステップ(c)の間に形成された副生成物を除去するステップ(d)を含むかまたは正反対に含まないかにかかわらず、真空化のステップ(e1)およびフィルタを二水素とまたは二水素を含む混合物と接触させるステップ(e2)は実装され得る。
【0053】
本発明に従う方法がステップ(d)を含まないときには、または実にこの方法がステップ(d)を含み、かつこれらのステップ(c)および(d)が同時的であるときには、これらのステップ(e1)、それから(e2)は直接的にステップ(c)の後に実施される。本発明に従う方法がステップ(d)を含み、かつステップ(c)および(d)が同時的ではなく、逐次的に実施されるケースでは、ステップ(e1)、それから(e2)はステップ(d)の後に実施される。
【0054】
ある具体的な変形に従うと、エンクロージャ内において100Pa以下の、有利には50Pa以下の、好ましくは10Pa以下の圧力に達するように、ステップ(e1)は上に記載されているステップ(b)と同じ条件下で実施される。
【0055】
ステップ(e2)の間には、二水素、または二水素を含む混合物が気体状態でエンクロージャ内に導入される。
【0056】
ある具体的な実施形態に従うと、二水素を含む混合物は二水素および窒素の混合物である。有利な変形では、二水素および窒素によって形成される混合物中の二水素の体積パーセンテージは2%vol以上であり、好ましくは5%volおよび20%volの間に含まれる。
【0057】
別の実施形態に従うと、ステップ(e2)の間には、ステップ(c)の間にエンクロージャ内に導入された二フッ素のモル数以下のモル数の二水素が導入される。
【0058】
別の実施形態に従うと、二水素とまたは二水素を含む混合物とフィルタを接触させるステップ(e2)は、10minおよび2hの間の継続時間に渡って実施される。
【0059】
有利な変形では、ステップ(e2)の接触継続時間は30minおよび60minの間であり得る。
【0060】
別の実施形態に従うと、ステップ(e2)は0℃および200℃の間の、好ましくは20℃および80℃の間の温度において行われる。
【0061】
本発明に従う方法の有利な変形に従うと、フッ素原子による水素原子の置換が起こるステップ(c)は赤外分光によってモニタリングされる。
【0062】
実に、赤外分光によって、ポリオレフィンフィルタを二フッ素と接触させるステップ(c)の間に存在する異なる基、より具体的には-CH2-、-CHF、および-CF2-基の吸光スペクトルを得ることが可能である。そのようにして、一方では-CHF-基に対応する赤外振動バンドの面積(ACHFと表される)および他方では-CF2-基に対応する面積(ACF2と表される)の合計(これらの面積の合計はACFxと表され、式中ACFx=ACHF+ACF2)によって割った-CH2-基に対応する赤外振動バンドの面積(ACH2と表される)の比(ACH2/ACFxと表される)の推移を追跡することは、フィルタを形成する多孔質固体ポリオレフィン構造のフッ素化の推移を追跡することを可能にする。
【0063】
本発明に従うフッ素化方法の有利な変形では、ひとたびこの面積比ACH2/ACFxが、15以下の、有利には6以下の、好ましくは3以下の値に達すると、フィルタを二フッ素と接触させるステップ(c)は止められ得る。
【0064】
第2に、本発明はフッ素化されたフィルタを含むピペットチップを製造するための方法に関する。
【0065】
本発明に従うと、この方法は次のステップを含む:
(i)多孔質固体ポリオレフィン構造によって形成されたフィルタを提供すること、
(ii)フィルタをピペットチップ内に嵌着すること、および
(iii)上で定められているフッ素化方法を実装することによって、フィルタをフッ素化すること。
【0066】
明らかに、フィルタを提供するステップ(i)が第1に実施されるが、製造方法のステップ(ii)および(iii)は爾後にいずれかの順序で実施され得る。
【0067】
換言すると、本発明に従うピペットチップを製造するためのこの方法は、以降に記載されるステップシーケンスに従って実施され得る。
【0068】
第1のシーケンスに従うと、ステップ(i)後に、多孔質固体ポリエチレン構造によって形成されたフィルタをチップ内に嵌着するステップ(ii)、次に、チップ内に置かれたこのフィルタをフッ素化するステップ(iii)が実施される。
【0069】
第2のシーケンスに従うと、ステップ(i)後に、多孔質固体ポリエチレン構造によって形成されたフィルタをフッ素化するステップ(iii)、次に、フッ素化されたフィルタをチップ内に嵌着するステップ(ii)が実施される。
【0070】
選択されるシーケンスにかかわらず、フィルタをフッ素化するステップ(iii)は、上に記載されているフッ素化方法を実装することによって実施され、この方法のステップ(a)から(c)ならびに任意のステップ(d)、(e1)、および(e2)に関する特徴は単独でまたは組み合わせで取られる。
【0071】
そのようにして、選択されるシーケンスにかかわらず、本発明に従う製造方法は、初期にポリオレフィンから作られた多孔質固体構造がポリオレフィンの水素原子の少なくともいくつかをフッ素原子によって置換することによって改変されたフィルタを装備するピペットチップを得ることを可能にする。
【0072】
上で述べられている通り、フィルタを形成するポリオレフィンの選び方については実際的な限定はない。しかしながら、ポリオレフィンはより具体的にはポリエチレンおよびポリプロピレンから選ばれる。有利には、フィルタの多孔質固体構造を形成するポリオレフィンはポリエチレンである。
【0073】
ピペットチップは、ポリオレフィンから、例えばポリプロピレンからもまた作られ得る。
【0074】
第3に、本発明はフィルタを含むピペットチップに関する。
【0075】
本発明に従うと、このピペットチップのフィルタは、特にポリエチレンから作られる多孔質固体ポリオレフィン構造によって形成され、上で定められているフッ素化方法を実装することによって、フッ素原子がポリオレフィンの水素原子を置換する。
【0076】
本発明に従うピペットチップフィルタは顕著な疎水性の特性を有する。全ての物事を考えると、このフィルタがサンプルと接触している場合であっても、もしかするとフィルタを形成する多孔質固体構造の細孔に詰まったかもしれないサンプルの部分は、フィルタから分子を放出することによって、汚れまたはコンタミネーションのいずれかのリスクなしに、再び回収され得る。
【0077】
さらにその上、このフィルタは本発明に従うフッ素化方法による処理の前のその形態学を保持し、それはサンプリングされるべき体積についてのいずれかの制約なしにいずれかの型のピペットチップに装備され得る。
【0078】
明らかに、かかるフィルタは例えば湿気からの保護が求められる他の器具に装備され得る。
【0079】
かかる器具の例として、ガスセンサおよびマイクロセンサの言及がなされ得、ガスは任意にオゾン、二酸化窒素、酸素、一酸化物、アンモニア、および硫化水素から選択される。
【0080】
第4に、本発明はサンプリングピペットに関する。
【0081】
本発明に従うと、このサンプリングピペットは、上で定められているチップ、すなわち、特にポリエチレンから作られる多孔質固体ポリオレフィン構造から形成されたフィルタを含むピペットチップを含み、上で定められているフッ素化方法を実装することによって、フッ素原子がポリオレフィンの水素原子を置換する。
【0082】
かかるサンプリングピペットは「シングルチャンネル」型であり得、そのようにして、その下端部に嵌着された単一のチップのみを含み得る。それは「マルチチャンネル」でもまたあり得、そのようにして、その下端部に嵌着されたいくつかのチップを含み得、これはこの目的にとって好適である。
【0083】
このサンプリングピペットは、手動アクチュエーション式もしくは電動機械式ピペット、または実に自動ピペットもしくはピペッティング自動機械(ロボット)であり得る。
【0084】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付の
図1から4の参照によって、本発明の特定の実施形態を参照する次の補足的な記載を読むことによって判明するであろう。
【0085】
明らかに、本発明のこれらの特定の実施形態は単に発明の主題の例示として与えられており、全くこの主題の制限を示さない。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【
図1】
図1は、端部に本発明に従うピペットチップが嵌着されることを意図されるサンプリングピペットの模式的な立面分解画像である。
【
図2】
図2は、
図1に示されているピペットチップの模式的な断面画像である。
【
図3】
図3Aは、本発明に従うピペットチップフィルタをフッ素化する方法の実装によって得られた波数(νと表され、cm
-1で表現される)の関数としての吸光(Aと表され、単位なしで表現される)の推移を伝える吸光スペクトルを例示しており、この方法は3つの異なる二フッ素分圧値で実施される。
図3Bは、-CHF-基に対応する赤外振動バンドの面積および-CF
2-基に対応する赤外振動バンドの面積の合計に対応するACF
xと表される総面積の拡大である。
【
図4】
図4は、5minの継続時間に渡る2つのポリエチレンフィルタ上に乗せられた水滴の推移を例示しており、1つは未処理であり(
図4A)、他方は本発明に従うフッ素化方法によって処理されている(
図4B)。
【0087】
図1および2の共通の要素は同じ参照番号によって特定されるということが指摘される。
【発明を実施するための形態】
【0088】
図1では、本発明に従うピペットチップ20を受け入れるように意図されるサンプリングピペット10が示されている。特に、このサンプリングピペット10は空気置換式の手動または電動ピペットであり得る。
【0089】
このピペット10は、握り12を形成する上部と、
図2に長手断面で示されているピペットのチップまたはコーン20を受け入れるように意図される下部14とを含む。
【0090】
図1の画像では、単一のチップ20が「シングルチャンネル」ピペットとして公知のサンプリングピペット10に取り付けられるように意図される。
【0091】
明らかに、いくつかのチップがいわゆる「マルチチャンネル」サンプリングピペット(提示されていない)に同時に取り付けられ得るということを予想することを妨げる物事はない。
【0092】
図2の参照によると、チップ20は先細りの形状を有するということが観察され、これは、その上部22から、サンプリングされるべき溶液中に浸漬されるように意図されるチップ20の部分に対応するその下部24へと後退する。
【0093】
従来、チップ20は、ポリオレフィンから、より具体的にはポリプロピレンから作られる。
【0094】
チップ20は、ラジアル方向に配置されたフィルタ26をその上部22に含む。このフィルタ26は、好ましくはポリエチレンから作られる多孔質固体ポリオレフィン構造によって形成される。
【0095】
このフィルタ26は、本発明に従うフッ素化方法の実装のおかげで得られる向上した疎水性の特性を有する。
【0096】
本発明に従うフッ素化方法は次の作動条件下で行われる。
【0097】
ポリエチレンフィルタがエンクロージャ内に置かれた。エンクロージャを閉じた後に、異なる分圧で、この場合には1000Pa、3000Pa、および5000Paで二フッ素をその中に導入する前に、10Paのオーダーの真空が同じエンクロージャ内に逐次的に生成された。
【0098】
フッ素化反応は常温において、典型的には20℃において行われ、赤外分光によってモニタリングされた。
【0099】
適用される二フッ素分圧に従って30minに渡ってフィルタを二フッ素と接触させた後に得られた吸光スペクトルを例示している
図3Aの参照がなされ得る。
【0100】
図3Aでは、-CH
2-基に対応する赤外振動バンドは3000cm
-1および2600cm
-1の間の波数範囲に位置し、-CHF-および-CF
2-基に対応する赤外振動バンドは1300cm
-1および900cm
-1の間の波数範囲に位置する。
【0101】
下の表1は、
-
図3AのACH
2と表される-CH
2-基に対応する赤外振動バンドの面積と、
-
図3Aおよび3BのACF
xと表される-CHF-および-CF
2-基に対応する赤外振動バンドの面積の合計と、
の間のACH
2/ACF
xと表される比を提示している。
【0102】
【0103】
同じ接触継続時間では、二フッ素分圧が増大すると増大するフッ素原子による水素原子の置換率が得られるということが観察される。
【0104】
図4は2つのポリエチレンフィルタの表面上に乗せられた水滴の挙動を例示しており、第1のフィルタは処理されていず(
図4A)、第2のフィルタは、
図3Aおよび3Bの参照によって上に記載されかつ3000Paの二フッ素分圧で実装された本発明に従うフッ素化方法によって処理されている(
図4B)。
【0105】
図4Aの参照によると、水滴が乗せられたときには90°のオーダーである接触角θが経時的に低下するということが観察され、未処理のポリエチレンフィルタの外側表面は濡れ性特性を見せ、ゆえに、水がそれ自体の重量の影響下でこのフィルタの多孔質構造の内に侵入するということを意味する。
【0106】
反対に、
図4Bでは、接触角θが5minの観察では90
°よりも高い値のままであるということが観察され、これは、本発明に従うフッ素化方法によって処理されたポリエチレンフィルタの多孔性の内に水が侵入しないということを意味する。よって、フッ素化されたフィルタは同じ継続時間に渡ってその疎水性の特性を保持する。
【0107】
参考文献一覧
[1]EP0631817A1
[2]US2004/0028890A1
[3]US2012/0009100A1
【符号の説明】
【0108】
10 ピペット
12 握り
14 下部
20 チップ
22 上部
24 下部
26 フィルタ