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  • 特許-ゴム組成物、加硫ゴム及びタイヤ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】ゴム組成物、加硫ゴム及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20231207BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20231207BHJP
   C08L 9/02 20060101ALI20231207BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231207BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20231207BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/00
C08L9/02
C08K3/013
C08L15/00
B60C1/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020556035
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2019042981
(87)【国際公開番号】W WO2020100627
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2018215881
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸本 祥子
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-168469(JP,A)
【文献】特開2018-131559(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126633(WO,A1)
【文献】特開2008-120937(JP,A)
【文献】特開2010-121681(JP,A)
【文献】特開2009-263587(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126629(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム、ポリブタジエンゴム、及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含むゴム成分と、
ゴム成分100質量部に対し、60質量部を超え、シリカ及びカーボンブラックからなる充填剤と、
を含有し、
前記ゴム成分中の前記天然ゴムの質量nが40質量%以上であり、前記質量n、前記ポリブタジエンゴムの質量b、及び前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量sが、s≦b≦n(ただし、n=bのとき、s<b)の関係にあり、
前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの前記質量sに対する前記ゴム成分のスチレン結合量st(%)の割合(st/s)が0.7以下であり、
加硫ゴム特性として、-20℃の弾性率が3.5~7.8MPaであり、-20℃のtanδが0.250~0.350であるゴム組成物。
【請求項2】
更に、液状ポリマー及びアクリル樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含有する請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記質量sに対する前記質量bの割合(b/s)が1.0~2.0であり、
前記ゴム成分の含有量aに対する前記ゴム成分のビニル結合量vi(%)の割合〔vi/a〕が8以上である請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記シリカは、セチルトリメチルアンモニウムブロミド比表面積が、160m/g以上である請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記ポリブタジエンゴム及び前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴムが、それぞれシラン変性されている請求項1~4のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ポリブタジエンゴムは、1,3-ブタジエン単位中のシス-1,4結合量が90%以上のハイシスポリブタジエンゴムである請求項1~5のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
更に、空隙導入剤を有する請求項1~6のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記空隙導入剤が、発泡剤、硫酸金属塩、熱膨張性マイクロカプセル及び多孔質セルロース粒子からなる群より選択される少なくとも一種である請求項7に記載のゴム組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のゴム組成物を加硫した加硫ゴム。
【請求項10】
空隙を有する請求項9に記載の加硫ゴム。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の加硫ゴムを用いたタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、加硫ゴム及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面上でタイヤを走行させると、路面とタイヤとの間にできる水膜によりタイヤがスリップし、ブレーキ性能が低下することから、スタッドレスタイヤにおいては、氷雪路面上でもグリップが効き、車両を制動し易くなるといった氷上性能の向上が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、タイヤの氷上性能を大幅に向上させることが可能なゴム組成物を提供することを目的として、ゴム組成物を、互いに非相溶な複数のポリマー相を形成する少なくとも三種のジエン系重合体と、シリカと、を含み、前記ジエン系重合体の少なくとも三種は、各配合量が前記ジエン系重合体の総量の10質量%以上であり、前記配合量が前記ジエン系重合体の総量の10質量%以上であるジエン系重合体の中でガラス転移温度(Tg)が最も低いジエン系重合体(A)の配合量は、該ジエン系重合体(A)以外の前記ジエン系重合体の中で、配合量が最も多いジエン系重合体の配合量の85質量%以上であり、前記配合量が前記ジエン系重合体の総量の10質量%以上であるジェン系重合体の中で、ガラス転移温度(Tg)が最も高いジエン系重合体(C)よりはガラス転移温度(Tg)が低い、前記ジエン系重合体(A)以外のジエン系重合体(B)は、ケイ素原子を含む化合物により変性されており、前記ジエン系重合体(B)は、共役ジエン化合物とスチレンとの共重合体であって、式(i)(St+Vi/2≦33;式中、Stはジエン系重合体(B)の結合スチレン含量(質量%)であり、Viはジエン系重合体(B)の共役ジエン化合物部分のビニル結合量(質量%)である)の関係を満たし、前記シリ力の配合量が、前記ジエン系重合体の合計100質量部に対して25質量部以上である内容とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2017/126629号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
タイヤの氷上性能を向上するには、タイヤを柔らかくしてグリップ力を向上することができるが、操縦安定性が低下することがあった。また、タイヤの破壊特性も低下し易かった。しかしながら、特許文献1に示される手法では、低温(例えば-20℃)におけるタイヤのヒステリシスロス(tanδ)が不足し、氷上性能、操縦安定性、低燃費性、及び耐破壊性に改善の余地があった。
【0006】
本発明は、氷上性能、操縦安定性、低燃費性、及び耐破壊性に優れるタイヤ、並びに該タイヤが得られる加硫ゴム及びゴム組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1> 天然ゴム、ポリブタジエンゴム、及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含むゴム成分と、ゴム成分100質量部に対し、60質量部を超える充填剤と、を含有し、前記ゴム成分中の前記天然ゴムの質量nが40質量%以上であり、前記質量n、前記ポリブタジエンゴムの質量b、及び前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量sが、s≦b≦n(ただし、n=bのとき、s<b)の関係にあり、加硫ゴム特性として、-20℃の弾性率が3.5~7.8MPaであり、-20℃のtanδが0.250~0.350であるゴム組成物。
【0008】
<2> 更に、液状ポリマー及びアクリル樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含有する<1>に記載のゴム組成物。
【0009】
<3> 前記質量sに対する前記質量bの割合(b/s)が1.0~2.0であり、
前記ゴム成分の含有量aに対する前記ゴム成分のビニル結合量vi(%)の割合〔vi/a〕が8以上である<1>又は<2>に記載のゴム組成物。
【0010】
<4> 前記充填剤が、シリカを含有する<1>~<3>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
<5> 前記シリカは、セチルトリメチルアンモニウムブロミド比表面積が、160m/g以上である<4>に記載のゴム組成物。
【0011】
<6> 前記ポリブタジエンゴム及び前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴムが、それぞれシラン変性されている<4>又は<5>に記載のゴム組成物。
<7> 前記ポリブタジエンゴムは、1,3-ブタジエン単位中のシス-1,4結合量が90%以上のハイシスポリブタジエンゴムである<1>~<6>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
【0012】
<8> 更に、空隙導入剤を有する<1>~<7>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
<9> 前記空隙導入剤が、発泡剤、硫酸金属塩、熱膨張性マイクロカプセル及び多孔質セルロース粒子からなる群より選択される少なくとも一種である<8>に記載のゴム組成物。
【0013】
<10> <1>~<9>のいずれか1つに記載のゴム組成物を加硫した加硫ゴム。
<11> 発泡孔を有する<10>に記載の加硫ゴム。
<12> <10>又は<11>に記載の加硫ゴムを用いたタイヤ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、氷上性能、操縦安定性、低燃費性、及び耐破壊性に優れるタイヤ、並びに該タイヤが得られる加硫ゴム及びゴム組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】シリカの粒子における内心方向断面概略図(部分拡大図)である。
図2】水銀圧入法に基づく水銀ポロシメータを用いた測定による、シリカの水銀の圧入排出曲線(概略図)であり、縦軸は、水銀の圧入曲線Cでは微分水銀圧入量(-dV/d(log d))を示し、水銀の排出曲線Dでは微分水銀排出量(-dV/d(log d))を示し、Vは、水銀の圧入曲線Cでは水銀圧入量(cc)、水銀の排出曲線Dでは水銀排出量(cc)を意味し、dはシリカの細孔における開口部の直径(nm)を意味し、横軸はこのd(nm)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明をその実施形態に基づき詳細に例示説明する。
なお、以下の説明において、数値範囲を示す「A~B」の記載は、端点であるA及びBを含む数値範囲を表し、「A以上B以下」(A<Bの場合)、又は「A以下B以上」(B<Aの場合)を表す。
また、質量部及び質量%は、それぞれ、重量部及び重量%と同義である。
【0017】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含むゴム成分と、ゴム成分100質量部に対し、60質量部を超える充填剤と、を含有し、ゴム成分中の天然ゴムの質量nが40質量%以上であり、質量n、ポリブタジエンゴムの質量b、及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量sが、s≦b≦n(ただし、n=bのとき、s<b)の関係にあり、加硫ゴム特性として、-20℃の弾性率が3.5~7.8MPaであり、-20℃のtanδが0.250~0.350である。
ゴム組成物が上記構成であることで、本発明のゴム組成物から得られるタイヤは、氷上性能、操縦安定性、低燃費性、及び耐破壊性に優れるに優れる。
かかる理由は定かではないが、次の理由によるものと推察される。
【0018】
スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)とポリブタジエンゴム(BR)はブタジエン由来の構造により相溶し易く、SBR及びBRと、天然ゴム(NR)とは分離し易い傾向にある。従って、本発明のゴム成分は、NRを含む相(NR相という)と、SBR及びBRを含む相(SB相という)とに相分離し易いと考えられる。
SB相は、SBRよりも低弾性のBRと、BRよりも高弾性のSBRとを含み、SBRがBRよりも多くならない構成(s≦b)であるため、タイヤの低温(-20℃)での弾性率を低下し、タイヤが変形し易くなるので低温でのヒステリシスロスを高めることができ、ブレーキも効き易いと考えられる。
ゴム成分中、NRの含有量が40%以上であり、BRよりも少なくならない(b≦n)ので、タイヤの低温での弾性率を低下し、タイヤが変形し易くなるので低温でのヒステリシスロスを高めることができ、ブレーキも効き易いと考えられる。
更に、充填剤がゴム成分100質量部に対し、60質量部を超える量で含まれることで、タイヤは耐破壊性に優れる。また、本発明のゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴムが、-20℃の弾性率が3.5~7.8MPaであり、-20℃のtanδが0.250~0.350である加硫ゴム特性を有することで、本発明のゴム組成物から得られるタイヤは、操縦安定性と低燃費性に優れる。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
〔ゴム成分〕
本発明のゴム組成物は、天然ゴム(NR)と、ポリブタジエンゴム(BR)と、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)とを含むゴム成分を含有する。
既述のように、SBRとBRはブタジエン由来の構造により相溶し易く、SBR及びBRと、NRとは分離し易いことから、ゴム成分は、NRを含む相(NR相)と、SBR及びBRを含む相(SB相)とに相分離し易い。SBRは剛直なスチレン由来の構造を有するため、SBRを含むSB相はNR相よりも硬く、ゴム成分はNR相とSB相とで、柔-硬の相構造をなしていると考えられる。本発明のゴム組成物に含まれるゴム成分がかかる相構造を有することにより、本発明のゴム組成物から得られるタイヤは、低温時の弾性率が低く、ヒステリシスロスが高くなると考えられる。
【0020】
ゴム成分は、未変性でもよいし、変性されていてもよいが、SB相に充填剤(特に、シリカ)をより多く分配する観点から、SB相を構成するゴム成分であるポリブタジエンゴム及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムのいずれか一方又は両方が、充填剤に親和性のある変性官能基によって変性されていることが好ましい。
【0021】
[変性官能基]
変性官能基としては、充填剤(特に、シリカ)に対して親和性のある官能基であれば特に制限はないが、窒素原子、ケイ素原子、酸素原子、及びスズ原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子を含むことが好ましい。
例えば、窒素原子を含む変性官能基、ケイ素原子を含む変性官能基、酸素原子を含む変性官能基、スズ原子を含む変性官能基等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、窒素原子を含む変性官能基、ケイ素原子を含む変性官能基および酸素原子を含む変性官能基が、シリカ、カーボンブラック等の充填剤と強く相互作用する点で好ましい。
【0022】
ゴム成分への変性官能基の導入方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、官能基含有重合開始剤を用いる方法、官能基含有モノマーをその他化合物と共重合させる方法、ゴム成分の重合末端に変性剤を反応させる方法等が挙げられる。これらは、1種単独の方法で行ってもよいし、2種以上を合わせて行ってもよい。
【0023】
-窒素原子を含む変性官能基-
窒素原子を含む変性官能基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(I)で表される置換アミノ基、下記一般式(II)で表される環状アミノ基等が挙げられる。
【0024】
【化1】
【0025】
式中、Rは、1~12個の炭素原子を有する、アルキル基、シクロアルキル基、又はアラルキル基である。ここで、アルキル基としては、メチル基、エチル基、ブチル基、オクチル基、又はイソブチル基が好ましく、シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基が好ましく、アラルキル基としては、3-フェニル-1-プロピル基が好ましい。各々のRは、同種のものであっても異種のものであってもよい。
【0026】
【化2】
【0027】
式中、R基は、3~16個のメチレン基を有する、アルキレン基、置換アルキレン基、オキシ-アルキレン基又はN-アルキルアミノ-アルキレン基である。ここで、置換アルキレン基は、一置換から八置換されたアルキレン基を含み、置換基の例としては、1~12個の炭素原子を有する、直鎖若しくは分岐鎖アルキル基、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、アリール基、又はアラルキル基が挙げられる。ここで、アルキレン基としては、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、及びドデカメチレン基が好ましく、置換アルキレン基としては、ヘキサデカメチレン基が好ましく、オキシアルキレン基としては、オキシジエチレン基が好ましく、N-アルキルアミノ-アルキレン基としては、N-アルキルアザジエチレン基が好ましい。
【0028】
一般式(II)で表される環状アミノ基の例としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、2-(2-エチルヘキシル)ピロリジン、3-(2-プロピル)ピロリジン、3,5-ビス(2-エチルヘキシル)ピペリジン、4-フェニルピペリジン、7-デシル-1-アザシクロトリデカン、3,3-ジメチル-1-アザシクロテトラデカン、4-ドデシル-1-アザシクロオクタン、4-(2-フェニルブチル)-1-アザシクロオクタン、3-エチル-5-シクロヘキシル-1-アザシクロヘプタン、4-ヘキシル-1-アザシクロヘプタン、9-イソアミル-1-アザシクロヘプタデカン、2-メチル-1-アザシクロヘプタデセ-9-エン、3-イソブチル-1-アザシクロドデカン、2-メチル-7-t-ブチル-1-アザシクロドデカン、5-ノニル-1-アザシクロドデカン、8-(4’-メチルフェニル)-5-ペンチル-3-アザビシクロ[5.4.0]ウンデカン、1-ブチル-6-アザビシクロ[3.2.1]オクタン、8-エチル-3-アザビシクロ[3.2.1]オクタン、1-プロピル-3-アザビシクロ[3.2.2]ノナン、3-(t-ブチル)-7-アザビシクロ[4.3.0]ノナン、1,5,5-トリメチル-3-アザビシクロ[4.4.0]デカン等から、窒素原子に結合した水素原子を1つ取り除いた基が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
-ケイ素原子を含む変性官能基-
ケイ素原子を含む変性官能基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(III)で表されるカップリング剤を用いて形成される、ケイ素-炭素結合を有する変性官能基等が挙げられる。
SB相を構成するゴム成分と、ケイ素とを、ケイ素-炭素結合を介して化学的に結合させることにより、SB相と充填剤との親和性を高め、SB相により多くの充填剤を分配することができる点で好ましい。
一般的に、ケイ素は、単にゴム組成物中に混合された場合、ゴム成分との親和性の低さに起因して、ゴム組成物の補強性等は低いが、SB相を構成するゴム成分とケイ素とを、ケイ素-炭素結合を介して化学的に結合させることにより、SB相を構成するゴム成分と充填剤との親和性を高め、タイヤのヒステリシスロスをより高めることができる。
【0030】
【化3】
【0031】
式中、Zはケイ素であり、Rはそれぞれ独立して、1~20個の炭素原子を有するアルキル基、3~20個の炭素原子を有するシクロアルキル基、6~20個の炭素原子を有するアリール基、及び7~20個の炭素原子を有するアラルキル基からなる群から選択され、Rはそれぞれ独立して塩素又は臭素であり、aは0~3であり、bは1~4であり、且つa+b=4である。ここで、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-ブチル基、n-オクチル基、及び2-エチルヘキシルが好ましく、シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基が好ましく、アリール基としては、フェニル基が好ましく、アラルキル基としては、ネオフィル基が好ましい。各々のRは、同種ものであっても異種のものであってもよい。各々のRは、同種ものであっても異種のものであってもよい。
【0032】
変性ゴムのシリカとの相互作用を高めることを目的とした場合には、以下の一般式(III-1)で示される化合物及び一般式(III-2)で示される化合物の少なくとも一種を有する変性剤が挙げられる。
【0033】
【化4】
【0034】
一般式(III-1)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1~20の一価の脂肪族炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基を示し、aは0~2の整数であり、ORが複数ある場合、複数のORは互いに同一でも異なっていても良く、また分子中には活性プロトンは含まれない。
【0035】
ここで、一般式(III-1)で表される化合物(アルコキシシラン化合物)の具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ-n-プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ-n-ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ-sec-ブトキシシラン、テトラ-tert-ブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメトキシジメチルシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン等を挙げることができるが、これらの中で、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン及びジメチルジエトキシシランが好適である。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせても用いてもよい。
【0036】
【化5】
【0037】
一般式(III-2)中、Aはエポキシ、グリシジルオキシ、イソシアネート、イミン、カルボン酸エステル、カルボン酸無水物、環状三級アミン、非環状三級アミン、ピリジン、シラザン及ジスルフィドからなる群より選択される少なくとも一種の官能基を有する一価の基であり、Rは単結合又は二価の炭化水素基であり、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1~20の一価の脂肪族炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、bは0~2の整数であり、ORが複数ある場合、複数のORは互いに同一であっても異なっていても良く、また分子中には活性プロトンは含まれない。
【0038】
一般式(III-2)で表される化合物の具体例としては、エポキシ基含有アルコキシシラン化合物、例えば、2-グリシジルオキシエチルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシエチルトリエトキシシラン、(2-グリシジルオキシエチル)メチルジメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、(3-グリシジルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル(メチル)ジメトキシシラン等を挙げることができる。これらの中で、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランを好適に用いることができる。
【0039】
ケイ素を用いたカップリング剤の例としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒドロカルビルオキシシラン化合物、SiCl(四塩化ケイ素)、(R)SiCl、(RSiCl、(RSiCl等が挙げられる。なお、Rは、各々独立に1~20個の炭素原子を有するアルキル基、3~20個の炭素原子を有するシクロアルキル基、6~20個の炭素原子を有するアリール基、又は7~20個の炭素原子を有するアラルキル基を表す。
これらの中でも、ヒドロカルビルオキシシラン化合物は、シリカに対して高い親和性を有する観点から好ましい。
【0040】
(ヒドロカルビルオキシシラン化合物)
ヒドロカルビルオキシシラン化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(IV)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物を挙げることができる。
【0041】
【化6】
【0042】
式中、n1+n2+n3+n4=4(但し、n2は1~4の整数であり、n1、n3及びn4は0~3の整数である)であり、Aは、飽和環状3級アミン化合物残基、不飽和環状3級アミン化合物残基、ケチミン残基、ニトリル基、(チオ)イソシアナート基(イソシアナート基又はチオイソシアナート基を示す。以下、同様)、(チオ)エポキシ基、イソシアヌル酸トリヒドロカルビルエステル基、炭酸ジヒドロカルビルエステル基、ニトリル基、ピリジン基、(チオ)ケトン基、(チオ)アルデヒド基、アミド基、(チオ)カルボン酸エステル基、(チオ)カルボン酸エステルの金属塩、カルボン酸無水物残基、カルボン酸ハロゲン化合物残基、並びに加水分解性基を有する第一もしくは第二アミノ基又はメルカプト基の中から選択される少なくとも1種の官能基であり、n4が2以上の場合には同一でも異なっていてもよく、Aは、Siと結合して環状構造を形成する二価の基であっても良く、R21は、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、n1が2以上の場合には同一でも異なっていてもよく、R23は、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基、炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基又はハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)であり、n3が2以上の場合には同一でも異なっていてもよく、R22は、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、いずれも窒素原子及び/又はケイ素原子を含有していてもよく、n2が2以上の場合には、互いに同一もしくは異なっていてもよく、或いは、一緒になって環を形成しており、R24は、炭素数1~20の二価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、n4が2以上の場合には同一でも異なっていてもよい。加水分解性基を有する第一もしくは第二アミノ基又は加水分解性基を有するメルカプト基における加水分解性基として、トリメチルシリル基又はtert-ブチルジメチルシリル基が好ましく、トリメチルシリル基が特に好ましい。なお、本明細書において、「炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基」は、「炭素数1~20の一価の脂肪族炭化水素基もしくは炭素数3~20の一価の脂環式炭化水素基」を意味する。二価の炭化水素基の場合も同様である。
【0043】
さらに、一般式(IV)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物は、下記一般式(V)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物であることがより好ましい。
【0044】
【化7】
【0045】
式中、p1+p2+p3=2(但し、p2は1~2の整数であり、p1及びp3は0~1の整数である)であり、Aは、NRa(Raは、一価の炭化水素基、加水分解性基又は含窒素有機基である。加水分解性基として、トリメチルシリル基又はtert-ブチルジメチルシリル基が好ましく、トリメチルシリル基が特に好ましい。)、或いは、硫黄であり、R25は、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、R27は、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基、炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基又はハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)であり、R26は、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基、炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基又は含窒素有機基であり、いずれも窒素原子及び/又はケイ素原子を含有していてもよく、p2が2の場合には、互いに同一もしくは異なり、或いは、一緒になって環を形成しており、R28は、炭素数1~20の二価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基である。
【0046】
さらに、一般式(IV)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物は、下記一般式(VI)又は(VII)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物であることがより好ましい。
【0047】
【化8】
【0048】
式中、q1+q2=3(但し、q1は0~2の整数であり、q2は1~3の整数である)であり、R31は炭素数1~20の二価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、R32及びR33はそれぞれ独立して加水分解性基、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、R34は炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、q1が2の場合には同一でも異なっていてもよく、R35は炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、q2が2以上の場合には同一でも異なってもよい。
【0049】
【化9】
【0050】
式中、r1+r2=3(但し、r1は1~3の整数であり、r2は0~2の整数である)であり、R36は炭素数1~20の二価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、R37はジメチルアミノメチル基、ジメチルアミノエチル基、ジエチルアミノメチル基、ジエチルアミノエチル基、メチルシリル(メチル)アミノメチル基、メチルシリル(メチル)アミノエチル基、メチルシリル(エチル)アミノメチル基、メチルシリル(エチル)アミノエチル基、ジメチルシリルアミノメチル基、ジメチルシリルアミノエチル基、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、r1が2以上の場合には同一でも異なっていてもよく、R38は炭素数1~20のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、r2が2の場合には同一でも異なっていてもよい。
【0051】
また、一般式(IV)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物が、下記一般式(VIII)又は(IX)で表される2つ以上の窒素原子を有する化合物であることが好ましい。
【0052】
【化10】
【0053】
式中、TMSはトリメチルシリル基であり、R40はトリメチルシリル基、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、R41は炭素数1~20のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、R42は炭素数1~20の二価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基である。
【0054】
【化11】
【0055】
式中、TMSはトリメチルシリル基であり、R43及びR44はそれぞれ独立して炭素数1~20の二価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、R45は炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、複数のR45は、同一でも異なっていてもよい。
【0056】
また、一般式(IV)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物が、下記一般式(X)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物であることも好ましい。
【0057】
【化12】
【0058】
式中、r1+r2=3(但し、r1は0~2の整数であり、r2は1~3の整数である。)であり、TMSはトリメチルシリル基であり、R46は炭素数1~20の二価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、R47及びR48はそれぞれ独立して炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基である。複数のR47又はR48は、同一でも異なっていてもよい。
【0059】
さらに、一般式(IV)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物が、下記一般式(XI)で表される化合物であることが好ましい。
【0060】
【化13】
【0061】
式中、Yはハロゲン原子であり、R49は炭素数1~20の二価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、R50及びR51はそれぞれ独立して加水分解性基又は炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であるか、或いは、R50及びR51は結合して二価の有機基を形成しており、R52及びR53はそれぞれ独立してハロゲン原子、ヒドロカルビルオキシ基、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基である。R50及びR51としては、加水分解性基であることが好ましく、加水分解性基として、トリメチルシリル基又はtert-ブチルジメチルシリル基が好ましく、トリメチルシリル基が特に好ましい。
【0062】
以上の一般式(IV)~(XI)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物は、変性ゴム成分がアニオン重合により製造される場合に用いられることが好ましい。
また、一般式(IV)~(XI)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物は、アルコキシシラン化合物であることが好ましい。
【0063】
アニオン重合によってジエン系重合体を変性する場合に好適な変性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、3,4-ビス(トリメチルシリルオキシ)-1-ビニルベンゼン、3,4-ビス(トリメチルシリルオキシ)ベンズアルデヒド、3,4-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)ベンズアルデヒド、2-シアノピリジン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1―メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0064】
ヒドロカルビルオキシシラン化合物は、アニオン重合における重合開始剤として用いられるリチウムアミド化合物のアミド部分であることが好ましい。
リチウムアミド化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウムヘキサメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピぺリジド、リチウムへプタメチレンイミド、リチウムドデカメチレンイミド、リチウムジメチルアミド、リチウムジエチルアミド、リチウムジブチルアミド、リチウムジプロピルアミド、リチウムジへプチルアミド、リチウムジへキシルアミド、リチウムジオクチルアミド、リチウムジ-2-エチルへキシルアミド、リチウムジデシルアミド、リチウム-N-メチルピベラジド、リチウムエチルプロピルアミド、リチウムエチルブチルアミド、リチウムエチルベンジルアミド、リチウムメチルフェネチルアミド等が挙げられる。例えば、リチウムヘキサメチレンイミドのアミド部分となる変性剤はヘキサメチレンイミンであり、リチウムピロリジドのアミド部分となる変性剤はピロリジンであり、リチウムピぺリジドのアミド部分となる変性剤はピぺリジンである。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
-酸素原子を含む変性官能基-
酸素原子を含む変性官能基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブドキシ基、t-ブトキシ基等のアルコキシ基;メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基等のアルコキシアルキル基;メトキシフェニル基、エトキシフェニル基等のアルコキシアリール基;エポキシ基、テトラヒドロフラニル基等のアルキレンオキシド基;トリメチルシリロキシ基、トリエチルシリロキシ基、t-ブチルジメチルシリロキシ基等のトリアルキルシリロキシ基等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
SB相により多くの充填剤を含ませる観点から、ポリブタジエンゴム及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムは、いずれか一方又は両方がシラン変性されていることが好ましい。具体的には、ポリブタジエンゴム及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムが、それぞれ、既述の一般式(IV)~(XI)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物で変性されたゴム成分であることが好ましい。
【0067】
ゴム成分は、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴム以外のゴム(他のゴムと称する)を含有していてもよい。
他の合成ゴムとしては、合成イソプレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体ゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム等が例示される。これらの合成ジエン系ゴムは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
ゴム成分中の天然ゴムの質量nは40質量%以上であり、質量n、ポリブタジエンゴムの質量b、及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量sが、s≦b≦n(ただし、n=bのとき、s<b)の関係にある。
なお、質量n、質量b、質量sの単位は「質量%」である。
天然ゴムの質量nとポリブタジエンゴムの質量bとは同じであってもよいが、同時にポリブタジエンゴムの質量bとスチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量sとが同じになることはない。
ゴム成分中の天然ゴムの質量nが40質量%未満であると、得られるタイヤが低温において硬くなり、タイヤが変形しにくくなるため、低温における低弾性率と、低温における高ヒステリシスロスを両立することができず、ひいては氷上でのブレーキ性能を十分に実現することができない。
【0069】
具体的には、天然ゴムの質量nが40~80質量%であり、ポリブタジエンゴムの質量bが5~40質量%であり、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量sが3~30質量%であることが好ましい。なお、n、b及びsの合計が100質量%を超えることはない[(n+b+s)≦100]。
より好ましくは、天然ゴムの質量nが40~70質量%であり、ポリブタジエンゴムの質量bが10~40質量%であり、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量sが5~25質量%である。更に好ましくは、天然ゴムの質量nが40~65質量%であり、ポリブタジエンゴムの質量bが20~40質量%であり、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量sが10~25質量%である。
【0070】
スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量sに対するポリブタジエンゴムの質量bの割合(b/s)は1.0~2.0であることが好ましい。スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの量sがポリブタジエンゴムの量bと同等か、より少ないことで、SB相の弾性率が高くなりすぎることを抑制し、低温環境下におけるタイヤの弾性率を下げ易い。
ゴム成分中のスチレン-ブタジエン共重合体ゴムの量sは、10~30質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがより好ましく、10~22質量%であることがより更に好ましい。
【0071】
ゴム成分の含有量a(質量部)に対するゴム成分のビニル結合量vi(%)の割合〔vi/a〕は8以上であることが好ましい。
ゴム成分の含有量aの単位は「質量部」である。〔vi/a〕は、下記式により算出される。
[(a×vi)+(asb×visb)]/a
式中、
は、ポリブタジエンゴムの含有量(質量部)、
viは、ポリブタジエンゴムのビニル結合量(%)、
sbは、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの含有量(質量部)、
visbは、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムのビニル結合量(%)である。
含有量a、asbの単位は「質量部」である。
vi/aが8以上であることで、低温でのヒステリシスロスを高めることができ、ブレーキも効き易い。
更に、本発明の効果をより達成し易くする観点から、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量sに対するポリブタジエンゴムの質量bの割合(b/s)が1.0~2.0であり、かつ、ゴム成分の含有量aに対するゴム成分のビニル結合量vi(%)の割合〔vi/a〕が8以上であることが好ましい。
ゴム成分のビニル結合量vi(%)は、赤外法(モレロ法)で求めることができる。
【0072】
スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量sに対するゴム成分のスチレン結合量st(%)の割合(st/s)は1.0以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましく、0.6以下であることが更に好ましい。
st/sが1.0以下であることで、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの剛直性が和らぐことから、低温環境下におけるタイヤの弾性率をより低くすることができ、氷上ブレーキ性能を向上し易い。
ゴム成分のスチレン結合量st(%)は、赤外法(モレロ法)で求めることができる。
【0073】
ポリブタジエンゴムは、タイヤの耐破壊性を向上させる観点から、1,3-ブタジエン単位中のシス-1,4結合量が90%以上のハイシスポリブタジエンゴムであることが好ましい。
ハイシスポリブタジエンゴムとは、FT-IRによる測定において、1,3-ブタジエン単位中のシス-1,4結合量が90%以上であるポリブタジエンゴムを意味し、ハイシスポリブタジエンゴムの1,3-ブタジエン単位中のシス-1,4結合含有量は、好ましくは92%以上99%以下である。
ハイシスポリブタジエンゴムの製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造すればよい。例えば、ネオジム系触媒を用いてブタジエンを重合する方法が挙げられる。
ハイポリシスブタジエンゴムは市販されており、例えば、JSR(株)製の「BR01」、「T700」、宇部興産(株)製の「ウベポールBR150L」などが挙げられる。
なお、ハイシスポリブタジエンゴムは、変性されていてもよいし、変性されていなくてもよいが、既述のとおり、シラン変性されていることが好ましい
【0074】
〔充填剤〕
本発明のゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、60質量部を超える充填剤を含有する。
ゴム組成物中の充填剤含有量は、ゴム成分100質量部に対し、63質量部以上であることが好ましく、66質量部以上であることがより好ましく、また、85質量部以下であることが好ましく、75質量部以下であることがより好ましい。
【0075】
充填剤は、特に制限されず、例えば、ゴム組成物を補強する補強性充填剤が用いられる。補強性充填剤は、例えば、シリカ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等の白色充填剤;カーボンブラック等が挙げられる。
充填剤として、シリカのみを単独で用いてもよいし、シリカ及びカーボンブラックの両方を用いてもよいが、充填剤は、少なくともシリカを含有することが好ましい。
【0076】
更に、全シリカ含有量の50質量%以上が、ポリブタジエンゴム及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含む相(SB相)に含まれることが好ましい。
SB相に含まれるシリカの量が、全シリカの50質量%未満であると、NR相を柔軟にすることができ、タイヤの低温時の弾性率を下げることができる。
SB相に含まれるシリカの量は、50質量%を超えることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
SB相に含まれるシリカを含む充填剤の量(充填剤分配率)は、次の方法により測定することができる。
なお、ゴム組成物中の充填剤分配率は、加硫ゴム中の充填剤分配率に近似し、ゴム組成物を加硫した加硫ゴムを測定試料として、充填剤分配率を測定することができる。
【0077】
例えば、試料の上面に対し角度38°をなす方向に試料を切削した後、切削により形成された該試料の平滑面を、該平滑面に対し垂直な方向から、走査型電子顕微鏡(SEM)〔例えば、Carl Zeiss社製、商品名「Ultra55」〕により、集束イオンビームを用いて、加速電圧1.8~2.2Vで撮影する。得られたSEM画像を画像処理し、解析することで、充填剤分配率を測定することができる。解析手法はいくつかあるが、例えば本発明では下記のような解析法を適用することができる。
本発明のNR相とSB相のように、ゴム成分が2相に分かれた系を測定する場合には、得られたSEM画像をヒストグラムにより2種のゴム成分と充填剤部分に3値化像に変換して得られた3値化像に基づき、画像解析することが手段の一つとして考えられる。その場合、2種の各ゴム成分の相に含まれる充填剤周囲長を求め、測定面積内の充填剤総量から一方のゴム成分の相に存在する充填剤の割合を算出する。充填剤が2種のゴム成分の境界面にある場合は、各ゴム成分と充填剤の3つが接している2点を結び、充填剤の周囲長を分割する。なお、20ピクセル以下の粒子は、ノイズと見做しカウントしない。また、充填剤の存在率測定法、画像解析方法等は上記内容に限定されない。
【0078】
(カーボンブラック)
カーボンブラックは、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。カーボンブラックは、例えば、FEF、SRF、HAF、ISAF、及びSAFグレードのものが好ましく、HAF、ISAF、及びSAFグレードのものがより好ましい。
【0079】
(シリカ)
シリカの種類は特に限定されず、一般グレードのシリカ、シランカップリング剤などで表面処理を施した特殊シリカなど、用途に応じて使用することができる。
シリカは、CTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)比表面積が、160m/g以上であることが好ましく、160m/gを超えることがより好ましく、170mg以上であることが更に好ましく、175m/g以上であることが特に好ましい。また、シリカのCTAB比表面積は、好ましくは600m/g以下、より好ましくは300m/g以下、特に好ましくは270m/g以下である。シリカのCTAB比表面積が160m/g以上であることで、タイヤの耐摩耗に優れる。また、シリカのCTAB比表面積が600m/g以下の場合、転がり抵抗が小さくなる。
シリカとしては、特に制限はなく、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、湿式シリカが好ましい。これらシリカは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0080】
本発明のゴム組成物は、シリカとして、CTAB比表面積(m/g)〔式(Y)中では、単に「CTAB」と表示〕とインクボトル状細孔指数(IB)とが、下記式(Y):
IB≦-0.36×CTAB+86.8 (Y)
の関係を満たすシリカを使用してもよい。
【0081】
ここで、CTAB比表面積(m/g)とは、ASTM D3765-92に準拠して測定された値を意味する。ただし、ASTM D3765-92はカーボンブラックのCTABを測定する方法であるため、本発明では、標準品であるIRB#3(83.0m/g)の代わりに、別途セチルトリメチルアンモニウムブロミド(以下、CE-TRABと略記する)標準液を調製し、これによってシリカOT(ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)溶液の標定を行い、上記シリカ表面に対するCE-TRAB1分子当たりの吸着断面積を0.35nmとして、CE-TRABの吸着量から算出される比表面積(m/g)をCTABの値とする。これは、カーボンブラックとシリカとでは表面が異なるので、同一表面積でもCE-TRABの吸着量に違いがあると考えられるためである。
【0082】
また、インクボトル状細孔指数(IB)とは、下記式(Z)で求められる値を意味する。
IB=M2-M1 ・・・(Z)
ここで、M1は、直径1.2×10nm~6nmの範囲にある開口部を外表面に具えた細孔を有するシリカに対し、水銀圧入法に基づく水銀ポロシメータを用いた測定において、圧力を1PSIから32000PSIまで上昇させた際における水銀圧入量の最大値を示す開口部の直径(nm)を示す。
また、M2は、同測定において、圧力を32000PSIから1PSIまで下降させた際における水銀排出量の最大値を示す開口部の直径(nm)を示す。
水銀圧入法に基づく水銀ポロシメータを用いた測定は、従来より細孔の形態を評価するのに多く採用される電子顕微鏡を用いた測定よりも簡便であり、かつ定量性に優れるので、有用な方法である。
【0083】
一般に、シリカの粒子は、その外表面に開口部を具えた凹状を呈した細孔を多数有している。図1に、シリカの粒子における内心方向断面でのこれら細孔の形状を模した概略図を示す。粒子における内心方向断面でかかる凹状を呈した細孔は、様々な形状を呈している。例えば、粒子の外表面における開口部の直径Maと粒子内部における細孔径(内径)Raとが略同一の形状、すなわち粒子の内心方向断面において略円筒状を呈する細孔Aがある。また、例えば、粒子内部における細孔径(内径)Rbよりも粒子の外表面における開口部の直径Mbの方が狭小である形状、すなわち粒子の内心方向断面においてインクボトル状を呈する細孔Bもある。しかしながら、粒子の内心方向断面においてインクボトル状を呈する細孔Bであると、粒子の外表面から内部へとゴム分子鎖が侵入しにくい。そのため、シリカをゴム成分に配合した際にゴム分子鎖がシリカを充分に吸着することができない。したがって、かかるインクボトル状を呈する細孔B数を低減し、粒子の内心方向断面において略円筒状を呈する細孔A数を増大させることが好ましい。それによって、ゴム分子鎖の侵入を効率的に促進することができる。また、tanδを増大させることなく、充分な補強性を発揮して、タイヤの操縦安定性の向上に寄与することが可能となる。
【0084】
上記観点から、本発明では、ゴム成分に配合するシリカに関し、粒子の内心方向断面においてインクボトル状を呈する細孔B数を低減すべく、上記インクボトル状細孔指数(IB)を規定する。上述のように、水銀圧入法に基づく水銀ポロシメータを用いた測定において圧力を上昇させた際、略円筒状を呈する細孔Aは外表面の開口部が開放的であるために細孔内部に水銀が圧入されやすい。しかし、インクボトル状を呈する細孔Bは外表面の開口部が閉鎖的であるために細孔内部に水銀が圧入されにくい。一方、圧力を下降させた際には、同様の理由により、略円筒状を呈する細孔Aは細孔内部から細孔外部へ水銀が排出されやすい。しかし、インクボトル状を呈する細孔Bは細孔内部から細孔外部へ水銀がほとんど排出されない。
【0085】
したがって、図2に示すように、水銀圧入法に基づく水銀ポロシメータを用いた測定では、水銀の圧入排出曲線C-Dにヒステリシスが生じる。すなわち、比較的低圧力下では略円筒状を呈する細孔A内に徐々に水銀が圧入される。しかし、ある圧力に達した時点で、それまで水銀が侵入しにくかったインクボトル状を呈する細孔Bを含む、略円筒状を呈する細孔以外の細孔内にも一気に水銀が圧入される。それによって、急激に圧入量が増大する。その結果、縦軸を微分水銀圧入量(-dV/d(log d))、横軸をシリカの細孔における開口部の直径d(nm)とした場合に水銀の圧入曲線Cを描くこととなる。一方、圧力を充分に上昇させた後に圧力を下降させていくと、比較的高圧力下では水銀が排出されにくい状態が継続する。しかし、ある圧力に達した時点で、細孔内に圧入されていた水銀が細孔外に一気に排出され、急激に排出量が増大する。その結果、縦軸を微分水銀排出量(-dV/d(log d))、横軸をシリカの細孔における開口部の直径M(nm)とした場合に水銀の排出曲線Dを描くこととなる。一旦細孔内に圧入された水銀は、圧力の下降時には細孔外に排出されにくい傾向にある。そのため、圧力の下降時では上昇時における圧入量の増大を示す直径(M1)の位置よりも大きい値を示す直径(M2)の位置で排出量の増大が見られる。これらの直径の差(M2-M1)が図2のIBに相当する。特にインクボトル状を呈する細孔Bにおいては、圧入された水銀が排出されにくい傾向が顕著である。圧力上昇時には細孔B内に水銀が圧入されるものの、圧力下降時には細孔B外に水銀がほとんど排出されない。
【0086】
こうした測定方法を採用し、細孔の性質に起因して描かれる水銀圧入排出曲線C-Dを活用して、上記式(Z)に従い、M1(nm)と、M2(nm)との差IBを求めれば、かかる値が見かけ上はこれらの直径の差(長さ:nm)を示す。しかし、実質的にはシリカに存在するインクボトル状を呈する細孔Bの存在割合を示す細孔指数を意味することとなる。すなわち、充分に狭小な開口部を有するインクボトル状を呈する細孔Bの占める存在割合が小さいほど、水銀圧入量と水銀排出量とがほぼ同量に近づく。その結果、M1とM2との差が短縮してIB値が小さくなる。一方、インクボトル状を呈する細孔Bの占める存在割合が大きいほど、水銀圧入量よりも水銀排出量が減少し、M1とM2との差が拡大してIB値が大きくなる。
なお、既述のように、M1は、水銀圧入量の最大値を示す開口部の直径(nm)である。具体的には、水銀圧入法に基づく水銀ポロシメータを用いた測定において圧力を1PSIから32000PSIまで上昇させた際に水銀圧入量の最大値を示す開口部の直径(nm)である。また、M2は、水銀排出量の最大値を示す開口部の直径(nm)である。具体的には、圧力を32000PSIから1PSIまで下降させた際における水銀排出量の最大値を示す開口部の直径(nm)である。
【0087】
こうしたIBは、上記CTABの値によっても変動し得る性質を有しており、CTABが増大するにつれ、IB値が低下する傾向にある。したがって、本発明で用いるシリカは、上記式(Y)〔IB≦-0.36×CTAB+86.8〕を満たすのが好ましい。IB及びCTABが式(Y)を満たすシリカであると、狭小な開口部を有するインクボトル状を呈する細孔B数が有効に低減され、略円筒状を呈する細孔Aが占める存在割合が増大する。そのため、ゴム分子鎖を充分に侵入させて吸着させることができ、充分な補強性を発揮して、タイヤの転がり抵抗を増大させることなく、操縦安定性の向上を図ることが可能となる。
【0088】
式(Y)を満たすシリカは、CTAB比表面積が、好ましくは200m/g以上であり、200m/gを超えることがより好ましく、210~300m/gであることが更に好ましく、220~280m/gであることがより一層好ましく、230~270m/gであることが特に好ましい。CTAB比表面積が200m/g以上であれば、ゴム組成物の貯蔵弾性率が更に向上し、該ゴム組成物を適用したタイヤの操縦安定性を更に向上させることができる。また、CTAB比表面積が300m/g以下であれば、シリカをゴム成分中で良好に分散させることができ、ゴム組成物の加工性が向上する。
【0089】
本発明のゴム組成物は、更に、シランカップリング剤を含有してもよい。シランカップリング剤としては、ゴム工業で通常使用されているシランカップリング剤を用いることができる。
【0090】
〔樹脂〕
本発明のゴム組成物は、樹脂を含有することが好ましい。
本発明のゴム組成物が樹脂を含有することで、得られる加硫ゴム及びタイヤの低温での弾性率をより低下することができ、氷上で硬くなりがちなタイヤを路面の凹凸に適応させ易くなるため、氷上でのブレーキ性能をより高めることができる。
樹脂としては、C5系樹脂;C5/C9系樹脂;C9系樹脂;フェノール樹脂;テルペン系樹脂;テルペン-芳香族化合物系樹脂;アクリル樹脂等が挙げられる。これら樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0091】
C5系樹脂としては、脂肪族炭化水素樹脂及び脂環式炭化水素樹脂が挙げられる。
脂肪族炭化水素樹脂としては、C5系の石油留分を重合して製造された石油樹脂が挙げられる。高純度の1,3-ペンタジエンを主原料に製造された石油樹脂としては、日本ゼオン(株)製の商品名「クイントン100」シリーズ(A100、B170、K100、M100、R100、N295、U190、S100、D100、U185、P195N等)が挙げられる。また、他のC5系の石油留分を重合して製造された石油樹脂としてはエクソンモビール社製の商品名「エスコレッツ」シリーズ(1102、1202(U)、1304、1310、1315、1395等)、三井化学(株)製の商品名「ハイレッツ」シリーズ(G-100X、-T-100X、-C-110X、-R-100X等)が挙げられる。
脂環式炭化水素樹脂としては、C5留分から抽出されたシクロペンタジエンを主原料に製造されたシクロペンタジエン系石油樹脂、C5留分中のジシクロペンタジエンを主原料として製造されたジシクロペンタジエン系石油樹脂等が挙げられる。例えば、高純度のシクロペンタジエンを主原料に製造されたシクロペンタジエン系石油樹脂としては、日本ゼオン(株)製の商品名「クイントン1000」シリーズ(1325、1345等)が挙げられる。また、ジシクロペンタジエン系石油樹脂としては、丸善石油化学(株)の商品名「マルカレッツM」シリーズ(M-890A、M-845A、M-990A等)が挙げられる。
【0092】
C5/C9系樹脂としては、C5/C9系合成石油樹脂が挙げられ、具体的には、例えば、石油由来のC5~C11留分を、AlCl、BFなどのフリーデルクラフツ触媒を用いて重合して得られる固体重合体が挙げられ、より具体的には、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、インデンなどを主成分とする共重合体等が挙げられる。C5/C9系樹脂は、C9以上の成分の少ない樹脂が、ジエン系重合体との相溶性の観点から好ましい。ここで、「C9以上の成分が少ない」とは、樹脂全量中のC9以上の成分が50質量%未満、好ましくは40質量%以下であることを言うものとする。C5/C9系樹脂は、市販品を利用することができ、例えば、商品名「クイントン(登録商標)G100B」(日本ゼオン株式会社製)、商品名「ECR213」(エクソンモービルケミカル社製)等が挙げられる。
【0093】
C9系樹脂としては、C9系合成石油樹脂が挙げられ、C9留分をAlCl、BFなどのフリーデルクラフツ型触媒を用い、重合して得られた固体重合体であり、インデン、メチルインデン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどを主成分とする共重合体等が挙げられる。
フェノール樹脂としては、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン-ホルムアルデヒド樹脂、クレゾール-ホルムアルデヒド樹脂などが好ましく、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂が特に好ましい。
【0094】
テルペン系樹脂は、天然由来のテレピン油又はオレンジ油を主原料に製造された樹脂をいい、ヤスハラケミカル(株)製の商品名「YSレジン」シリーズ(PX-1250、TR-105等)、ハーキュリーズ社製の商品名「ピコライト」シリーズ(A115、S115等)が挙げられる。
テルペン-芳香族化合物系樹脂としては、例えば、テルペンフェノール樹脂が挙げられ、具体的には、ヤスハラケミカル(株)製の商品名「YSポリスター」シリーズ(U-130、U-115等のUシリーズ、T-115、T-130、T-145等のT-シリーズ、)、荒川化学工業(株)製の商品名「タマノル901」等が挙げられる。
【0095】
アクリル樹脂としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ヘキシル等のアクリル酸アルキルエステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル等のメタアクリル酸アルキルエステル類のポリマーが使用できるが、特にポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレートまたはポリブチルメタクリレートなどが挙げられる。
アクリル樹脂は水酸基、エポキシ基、カルボキシル基及びアルコキシシリル基から選択される少なくとも一種で変性されていてもよい。
ゴム組成物が樹脂としてアクリル樹脂を含むことで、ゴムの柔軟性を高める効果があるため、氷上性能を高めることが可能となる。また、上述したアクリル樹脂は、シリカ等の充填剤との相互作用が高く、ゴム組成物中での分散性が向上するため、ゴム組成物をタイヤに使用した際、タイヤ表面にブルームとして浸出されることが抑えられる。その結果、本発明のゴム組成物をタイヤに使用した際、初期の氷上性能だけでなく、経年後の氷上性能についても高く維持することができる。
使用するアクリル樹脂は1種類であっても2種類以上であってもよい。
【0096】
NR相をより柔軟化し、低温でのタイヤの弾性率をより下げる観点から、C5系樹脂、C5/C9系樹脂、テルペン系樹脂、及びテルペン-芳香族化合物系樹脂からなる群より選択される1種以上のイソプレン骨格を含む樹脂は、NR相に含まれることが好ましい。また、NR相に樹脂を分配易くする観点から、イソプレン骨格を含む樹脂は、イソプレン骨格を主骨格として有する樹脂を用いることが好ましい。具体的には、C5系樹脂、テルペン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。以上の中でも、C5系樹脂が好ましい。
【0097】
樹脂のゴム組成物中の含有量は、特に限定されるものではないが、ゴム成分100質量部に対して5~60質量部が好ましく、10~50質量部がより好ましい。
また、低温における低弾性率と、低温における高ヒステリシスロスを両立する観点、及び、ゴム組成物をトレッドに適用した際に、タイヤの氷上性能と耐摩耗性を更に向上する観点から、シリカの質量si(質量部)に対する樹脂の質量rs(質量部)の割合(rs/si)は、0.1~1.2であることが好ましい。
【0098】
〔軟化剤〕
本発明のゴム組成物は、軟化剤を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
軟化剤としては、プロセスオイル、潤滑油、ナフテンオイル、パラフィン、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリンなどの石油系軟化剤;ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油などの脂肪油系軟化剤;蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリンなどのワックス類;液状ポリマー等が挙げられる。これら軟化剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、軟化剤は、液状ポリマーを用いることが好ましい。
【0099】
ゴム組成物が、-20℃の弾性率が3.5~7.8MPaであり、-20℃のtanδが0.250~0.350の加硫ゴム特性を有し、タイヤの氷上性能を向上する観点から、液状ポリマーの重量平均分子量は、6,000以上であることが好ましく、7,000以上であることがより好ましく、8,000以上であることが更に好ましい。同様の観点から、液状ポリマーの重量平均分子量は、20,000以下であることが好ましく、14,500以下であることがより好ましい。
【0100】
ゴム組成物は、液状ポリマー及びアクリル樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含有していてもよい。
ゴム組成物が液状ポリマー及びアクリル樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含有する場合には、液状ポリマー及びアクリル樹脂の合計量は、ゴム成分100質量部に対して1質量部以上であることが好ましい。
これによって、ゴム組成物が、-20℃の弾性率が3.5~7.8MPaであり、-20℃のtanδが0.250~0.350の加硫ゴム特性を有し易く、タイヤの氷上性能を向上し、低燃費性及び破壊特性を確保し易い。
同様の観点から、液状ポリマー及びアクリル樹脂の合計量は、ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上であることがより好ましく、7質量部以上であることが更に好ましい。また、同様の観点から、液状ポリマー及びアクリル樹脂の合計量は、ゴム成分100質量部に対して、35質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、25質量部以下であることが更に好ましい。
【0101】
液状ポリマーは、特に制限されず、例えば、液状ポリイソプレン、液状ポリブタジエン、液状スチレン-ブタジエン共重合体等のジエン系液状ポリマー、液状ポリブテン、液状シリコーンポリマー、シラン系液状ポリマー等が挙げられる。中でも、液状ポリブタジエンを用いることが好ましい。
使用する液状ポリマーは1種類であっても2種類以上であってもよい。
液状ポリブタジエンは、共役ジエン化合物部分のビニル結合量が20%以上であることで、NR相に偏在し易くなる。
【0102】
液状ポリブタジエンを、よりNR相に偏在し易くする観点から、液状ポリブタジエンの共役ジエン化合物部分のビニル結合量は30%以上であることが好ましく、40%以上がより好ましく、45%以上がより好ましく、50%以上が更に好ましい。また、ゴムの硬度上昇抑制の観点から、液状ポリブタジエンの共役ジエン化合物部分のビニル結合量は70%以下であることが好ましく、65%以下であることがより好ましく、59%以下であることが更に好ましい。
【0103】
〔空隙導入剤〕
本発明のゴム組成物は、空隙導入剤を含有することが好ましい。
ゴム組成物が空隙導入剤を含有することで、加硫ゴムが表面又は内部、あるいは表面及び内部に空隙を有するため、当該加硫ゴムを用いたタイヤは、柔軟性を有し、氷路面に密着し易くなると共に、タイヤ表面の空隙に、路面上の水が吸い込まれ、氷雪路面から水が排除され易いため、氷上ブレーキ制動性能を向上することができる。
空隙導入剤は、例えば、発泡剤、硫酸金属塩、熱膨張性マイクロカプセル、多孔質セルロース粒子等が挙げられ、これらの中の1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。氷上性能の観点から、発泡剤を用いることが好ましい。
空隙導入剤のゴム組成物中の含有量は、特に限定されるものではないが、氷上性能(氷上ブレーキ制動性能)及び操縦安定性の観点から、ゴム成分100質量部に対して0.1~20質量部が好ましく、1~10質量部がより好ましい。
【0104】
(発泡剤)
ゴム組成物が発泡剤を含有することにより、ゴム組成物の加硫中に、発泡剤によって加硫ゴムに気泡が生じ、加硫ゴムを発泡ゴムとすることができる。発泡ゴムは柔軟性を有するため、加硫ゴムを用いたタイヤ表面は、氷路面に密着し易くなる。また、気泡により加硫ゴム表面及びタイヤ表面に気泡由来の穴(発泡孔)が生じ、水を排水する水路として機能する。
【0105】
発泡剤としては、具体的には、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、ジニトロソペンタスチレンテトラミン、ベンゼンスルホニルヒドラジド誘導体、p,p’-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、二酸化炭素を発生する重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、窒素を発生するニトロソスルホニルアゾ化合物、N,N’-ジメチル-N,N’-ジニトロソフタルアミド、トルエンスルホニルヒドラジド、p-トルエンスルホニルセミカルバジド、p,p’-オキシビスベンゼンスルホニルセミカルバジド等が挙げられる。なかでも、製造加工性の観点から、アゾジカルボンアミド(ADCA)、及びジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)が好ましい。これら発泡剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
また、発泡剤のゴム組成物中の含有量は、特に限定されるものではないが、ゴム成分100質量部に対して1~10質量部が好ましく、2~8質量部がより好ましい。
【0106】
ゴム組成物は、更に、発泡助剤として尿素、ステアリン酸亜鉛、ベンゼンスルフィン酸亜鉛、亜鉛華等を用いてもよい。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。発泡助剤を併用することにより、発泡反応を促進して反応の完結度を高め、経時的に不要な劣化を抑制することができる。
【0107】
発泡剤を含有するゴム組成物を加硫した後に得られる加硫ゴムにおいて、その発泡率は、通常1~50%、好ましくは5~40%である。発泡剤を配合した場合、発泡率が50%以下であることで、ゴム表面の空隙も大きくなり過ぎず、充分な接地面積を確保できる。また、排水溝として有効に機能する気泡の形成を確保しつつ、気泡の量を適度に保持できる。従って、耐久性を損なうおそれもない。ここで、加硫ゴムの発泡率とは、平均発泡率Vsを意味し、具体的には次式(1)により算出される値を意味する。
Vs=(ρ/ρ-1)×100(%) (1)
式(1)中、ρは加硫ゴム(発泡ゴム)の密度(g/cm)を示し、ρは加硫ゴム(発泡ゴム)における固相部の密度(g/cm)を示す。なお、加硫ゴムの密度及び加硫ゴムの固相部の密度は、エタノール中の加硫ゴムの質量と空気中の加硫ゴムの質量を測定し、これから算出される。また、発泡率は、発泡剤及び発泡助剤等の種類、量等により適宜変化させることができる。
【0108】
(硫酸金属塩)
ゴム組成物が硫酸金属塩を含有すると、ゴム組成物を加硫して得られるタイヤ表面から硫酸金属塩が突出し、研磨性であるという不利益なしでクロー(claw)機能を果す。その後、引続いて、ゴムマトリックスから硫酸金属塩が漸次退出することで空洞が生じ、氷表面の水膜を排出するための貯蔵容積および通路として機能する。これらの条件下においては、タイヤ表面(例えば、トレッドの表面)と氷との接触はもはや潤滑ではなく、従って、摩擦係数が改良される
【0109】
硫酸金属塩としては、硫酸マグネシウムが挙げられる。
硫酸金属塩は、マイクロメートルサイズの粒子であることが好ましい。具体的には、平均粒度および中央値粒度(双方とも質量で示す)が、1μm~1mmであることが好ましく、中央値粒度が、2μm~800μmであるがより好ましい。
【0110】
平均粒度および中央値粒度が、1μm以上であることで、目標とする技術的効果(即ち、適切な微細粗さの形成)が得られ易い。また、平均粒度および中央値粒度が、1mm以下であることで、特にゴム組成物をトレッドとして使用する場合、審美性の低下を抑制し(トレッド表面上に明白過ぎる粒子が出現することを抑制することができる)、融氷上のグリップ性能を損ないにくい。
【0111】
これらの全ての理由により、硫酸金属塩の中央値粒度は、2μm~500μmであることが好ましく、5~200μmであることがより好ましい。この特に好ましい粒度範囲は、一方での所望の表面粗さと他方でのゴム組成物と氷との良好な接触と間の最適な妥協点に相応しているようである。
さらにまた、上記の理由と同じ理由により、ゴム組成物中の硫酸金属塩の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、好ましくは5~40質量部、より好ましくは10~35質量部である。
【0112】
粒度の分析および微小粒子の中央値粒度(または実質的に球形であると想定しての微小粒子の平均直径)の算出のための、例えば、レーザー回析による種々の既知の方法が応用可能である(例えば、規格ISO‐8130‐13または規格JIS K5600‐9‐3を参照されたい)。
【0113】
また、機械的篩分けによる粒度分析も、簡単に勝つ好ましく使用し得る;その操作は、規定量のサンプル(例えば、200g)を、振動テーブル上で、種々の篩直径により(例えば、1.26に等しい累進比に従い、1000、800、630、500、400、…100、80および63μmのメッシュにより)、30分間篩分けすることからなる;各篩において集めた超過サイズを精密天秤で秤量する;物質の総質量に対する各メッシュ直径における超過サイズの%を、その秤量から推定する;最後に、中央値粒度(または中央値直径)または平均粒度(または平均直径)を粒度分布のヒストグラムから既知の方法で算出する。
【0114】
(熱膨張性マイクロカプセル)
熱膨張性マイクロカプセルは、熱可塑性樹脂で形成された殻材中に、熱膨張性物質を内包した構成からなる。熱膨張性マイクロカプセルの殻材はニトリル系重合体により形成することができる。
またマイクロカプセルの殻材中に内包する熱膨張性物質は、熱によって気化または膨張する特性をもち、例えば、イソアルカン、ノルマルアルカン等の炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種類が例示される。イソアルカンとしては、イソブタン、イソペンタン、2-メチルペンタン、2-メチルヘキサン、2,2,4-トリメチルペンタン等を挙げることができ、ノルマルアルカンとしては、n-ブタン、n-プロパン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン等を挙げることができる。これらの炭化水素は、それぞれ単独で使用しても複数を組み合わせて使用してもよい。熱膨張性物質の好ましい形態としては、常温で液体の炭化水素に、常温で気体の炭化水素を溶解させたものがよい。このような炭化水素の混合物を使用することにより、未加硫タイヤの加硫成形温度域(150℃~190℃)において、低温領域から高温領域にかけて十分な膨張力を得ることができる。
このような熱膨張性マイクロカプセルとしては、例えばスェーデン国エクスパンセル社製の商品名「EXPANCEL 091DU-80」または「EXPANCEL 092DU-120」等、或いは松本油脂製薬社製の商品名「マツモトマイクロスフェアー F-85D」または「マツモトマイクロスフェアー F-100D」等を使用することができる。
熱膨張性マイクロカプセルのゴム組成物中の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、0.1~10質量部であることが好ましく、0.5~5質量部であることがより好ましい。
【0115】
(多孔質セルロース粒子)
ゴム組成物が多孔性セルロース粒子を含有すると、ゴム組成物を加硫して得られるタイヤ表面に多孔性セルロース粒子が露出している場合、氷雪路面上の水が多孔性セルロース粒子に吸収され、タイヤと路面との間の水を除去することができる。また、多糖類であるセルロースの存在により、タイヤと氷雪路面上の水との相互作用が生じるため、変性ポリオキシアルキレングリコールによるタイヤと水との相互作用をより高めることもできる。
【0116】
多孔質セルロース粒子は、空隙率75~95%という多孔質構造を持つセルロース粒子であり、ゴム組成物に配合することにより、氷上性能を著しく向上させることができる。多孔質セルロース粒子の空隙率が75%以上であることにより、氷上性能の向上効果に優れ、また、空隙率が95%以下であることにより、粒子の強度を高めることができる。該空隙率は、より好ましくは80~90%である。
【0117】
多孔質セルロース粒子の空隙率は、一定質量の試料(即ち、多孔質セルロース粒子)の体積をメスシリンダーで測定し、嵩比重を求めて、下記式から求めることができる。
空隙率[%]={1-(試料の嵩比重[g/ml])/(試料の真比重[g/ml])}×100
ここで、セルロースの真比重は1.5である。
【0118】
多孔質セルロース粒子の粒径は、特に限定しないが、耐摩耗性の観点から、平均粒径が1000μm以下のものが好ましく用いられる。平均粒径の下限は、特に限定されないが、5μm以上であることが好ましい。平均粒径は、より好ましくは100~800μmであり、更に好ましくは200~800μmである。
【0119】
多孔質セルロース粒子としては、長径/短径の比が1~2である球状粒子が好ましく用いられる。このような球状構造の粒子を用いることにより、ゴム組成物中への分散性を向上して、氷上性能の向上、耐摩耗性等の維持に寄与することができる。長径/短径の比は、より好ましくは1.0~1.5である。
【0120】
多孔質セルロース粒子の平均粒径と、長径/短径の比は、次のようにして求められる。すなわち、多孔質セルロース粒子を顕微鏡で観察して画像を得て、この画像を用いて、粒子の長径と短径(長径と短径が同じ場合には、ある軸方向の長さとこれに直交する軸方向の長さ)を100個の粒子について測定し、その平均値を算出することで平均粒径が得られ、また、長径を短径で割った値の平均値により長径/短径の比が得られる。
【0121】
このような多孔質セルロース粒子としては、レンゴー株式会社から「ビスコパール」として市販されており、また、特開2001-323095号公報、特開2004-115284号公報等に記載されており、それらを好適に用いることができる。
【0122】
多孔質セルロース粒子のゴム組成物中の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、0.3~20質量部であることが好ましい。含有量が0.3質量部以上であることにより、氷上性能の向上効果を高めることができ、また、20質量部以下であることにより、ゴム硬度が高くなりすぎるのを抑えることができ、耐摩耗性の低下を抑制することができる。多孔質セルロース粒子の含有量は、より好ましくは1~15重量部であり、更に好ましくは3~15質量部である。
【0123】
〔親水性短繊維〕
ゴム組成物は、親水性短繊維を含有していてもよい。
ゴム組成物が親水性短繊維を含有すると、ゴム組成物の加硫後、タイヤ(特にトレッド)中に長尺状の気泡が存在し、タイヤの摩耗によって長尺状の気泡がタイヤ表面に露出して空洞が形成され、効率的な排水を行う排水路として機能し易い。ここで、空洞は、穴状、窪み状及び溝状のいずれの形状であってもよい。
更に、短繊維が親水性であることで、タイヤ表面にできる短繊維由来の空洞が吸水し易くなる。
【0124】
ここで、親水性短繊維とは、水に対する接触角が5~80度である短繊維をいう。
親水性短繊維の水に対する接触角は、親水性短繊維を平滑な板状に成形した試験片を用意し、協和界面化学(株)の自動接触角計DM-301を用い、25℃、相対湿度55%条件下で、試験片の表面に水を滴下して、その直後に真横から観察したときに、試験片表面が成す直線と水滴表面の接線とが成す角度を測定することにより求めることができる。
【0125】
親水性短繊維としては、分子内に親水性基を有する樹脂(親水性樹脂と称することがある)を用いることができ、具体的には、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子から選択される少なくとも1つを含む樹脂であることが好ましい。例えば、-OH、-COOH、-OCOR(Rはアルキル基)、-NH、-NCO、及び-SHからなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を含む樹脂が挙げられる。これらの置換基のなかでも、-OH、-COOH、-OCOR、-NH、及び-NCOが好ましい。
【0126】
親水性樹脂は水に対する接触角が小さく、水に対して親和性があることが好ましいが、親水性樹脂は水に不溶であることが好ましい。
親水性樹脂が水に不溶であることで、加硫ゴム表面及びタイヤ表面に水が付着したときに、水に親水性樹脂が溶け込んでしまうことを防ぐことができ、短繊維由来の空洞の吸水力を保持することができる。
【0127】
以上のような、水に対する接触角が小さく、一方で、水に不溶である親水性樹脂としては、より具体的には、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ビニルアルコール単独重合体、ポリ(メタ)アクリル酸樹脂或いはそのエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレングリコール樹脂、カルボキシビニル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、ポリビニルピロリドン樹脂、ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体、メルカプトエタノール等が挙げられる。
なかでも、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ビニルアルコール単独重合体、ポリ(メタ)アクリル酸樹脂、ポリアミド樹脂、脂肪族ポリアミド系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、及びアクリル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、エチレン-ビニルアルコール共重合体がより好ましい。
【0128】
短繊維の形状は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、短繊維100個の平均値として、長軸方向の長さが0.1~10mmであることが好ましく、0.5~5mmであることがより好ましい。このような形状であるこで、短繊維を含むゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴム中に、ミクロな排水溝として機能し得る長尺状気泡を効率良く形成することができる。
また、同様の観点から短繊維の平均径(D)としては、短繊維100個の平均値として、10~200μmであることが好ましく、20~100μmであることがより好ましい
短繊維のゴム組成物中の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、0.1~10質量部であることが好ましく、0.5~5質量部であることがより好ましい。
【0129】
〔加硫剤〕
本発明のゴム組成物は、加硫剤を含有することが好ましい。
加硫剤は、特に制限はなく、通常、硫黄を用い、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等を挙げることができる。
本発明のゴム組成物においては、当該加硫剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましい。この含有量が0.1質量部以上であることで加硫を充分に進行させることができ、10質量部以下をとすることで、加硫ゴムの老化を抑制することができる。
ゴム組成物中の加硫剤の含有量はゴム成分100質量部に対して、0.5~8質量部であることがより好ましく、1~6質量部であることが更に好ましい。
【0130】
〔他の成分〕
本発明のゴム組成物は、既述のゴム成分、充填剤、シランカップリング剤、樹脂、軟化剤、空隙導入剤、及び加硫剤に加え、他の成分を含有していてもよい。
他の成分としては、特に限定されず、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、ステアリン酸、老化防止剤、亜鉛華、発泡助剤、加硫促進剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して含有していてもよい。
【0131】
<ゴム組成物の調製>
本発明のゴム組成物は、上述した各成分を配合して、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー等の混練り機を使用して混練りすることによって製造することができる。
ここで、ゴム成分、充填剤等の配合量は、ゴム成分中の含有量として既述した量と同じである。
各成分の混練は、全一段階で行ってもよく、二段階以上に分けて行ってもよい。二段階で成分を混練する方法としては、例えば、第一段階において、ゴム成分、充填剤、樹脂、シランカップリング剤、親水性短繊維、並びに、加硫剤及び発泡剤以外の他の配合成分を混練し、第二段階において、加硫剤及び発泡剤を混練する方法が挙げられる。
混練の第一段階の最高温度は、130~170℃とすることが好ましく、最終段階の最高温度は、90~120℃とすることが好ましい。
【0132】
本発明のゴム組成物は、加硫ゴム特性として、-20℃の弾性率(G’)が3.5~7.8MPaであり、-20℃のtanδが0.25~0.35である特性を有する。
本発明のゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴムが上記特性を有することで、加硫ゴムを用いて得られるタイヤは、氷上性能、操縦安定性、低燃費性、及び耐破壊性に優れる。
同様の観点から、-20℃の弾性率(G’)は、4.0~6.6MPaであることが好ましく、4.1~6.1MPaであることがより好ましく、4.3~6.0MPaであることが更に好ましい。同様に、-20℃のtanδは、0.25~0.35であることが好ましく、0.27~0.35であることがより好ましく、0.29~0.35であることが更に好ましい。
【0133】
加硫ゴムの-20℃の弾性率(G’)及び-20℃のtanδは、ゴム成分の質量の増減、特に、ゴム成分中の天然ゴム、ポリブタジエンゴム、及びスチレンブタジエン共重合体ゴムの質量の増減;ポリブタジエンゴム、及びスチレンブタジエン共重合体ゴムのミクロ構造;、充填剤の質量の増減;、液状ポリマー及びアクリル樹脂の質量の増減等によって調整することができる。
【0134】
<加硫ゴム、タイヤ>
本発明の加硫ゴム及びタイヤは、本発明のゴム組成物を用いてなる。
本発明の加硫ゴムは、本発明のゴム組成物を加硫してなる。
タイヤは、適用するタイヤの種類、部材等に応じ、本発明のゴム組成物を用いて成形後に加硫して得てもよい。また、予備加硫工程等を経て、一旦、ゴム組成物から半加硫ゴムを得た後、これを用いて成形後、さらに本加硫して得てもよい。
タイヤの各種部材の中でも、低温における低弾性率と、低温における高ヒステリシスロスを両立し、氷上でのブレーキ性能に優れる観点から、トレッド部材、特に、スタッドレスタイヤ用のトレッド部材に適用するのが好ましい。なお、タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0135】
本発明の加硫ゴム及びタイヤは、空隙を有することが好ましい。
既述のように、ゴム組成物が空隙導入剤を含有することで、加硫ゴム表面又は内部に空隙をもたらすことができる。具体的には、空隙導入剤が発泡剤である場合は、ゴム組成物の加硫の過程で発泡し、加硫ゴムに空隙をもたらすことができる。また、空隙導入剤が親水性短繊維である場合は、加硫ゴムから親水性短繊維が抜け落ちたり、親水性短繊維が溶融することで、加硫ゴム表面又は内部に空隙をもたらすことができる。
【0136】
加硫ゴム及びタイヤの発泡率は、通常1~50%であり、好ましくは5~40%である。発泡率が当該範囲であることで、タイヤ表面の発泡孔が大きくなり過ぎず、充分な接地面積を確保できる。また、排水溝として有効に機能する発泡孔の形成を確保しつつ、気泡の量を適度に保持できるので、耐久性を損なうおそれもない。ここで、タイヤの発泡率は、既述の式(1)により算出される。
【実施例
【0137】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0138】
<ゴム組成物の調製>
表1~3に示す配合処方にて、バンバリーミキサーを用いて、ゴム組成物の配合成分を混練し、サンプルとなるゴム組成物を調製した。なお、混練の最終段階において、加硫剤である硫黄、及び加硫促進剤を配合した。
【0139】
【表1】
【0140】
表1~3中の成分の詳細は次のとおりである。
(1)ゴム成分
天然ゴム:TSR20
BR:宇部興産(株)製、商品名「UBEPOL 150L」、シス-1,4-ポリブタジエンゴム
変性BR1:下記方法により製造した変性ポリブタジエンゴム
変性BR2:下記方法により製造した変性ポリブタジエンゴム
変性SBR:下記方法により製造した変性スチレン-ブタジエン共重合体ゴム
【0141】
(2)充填剤
シリカ1:下記方法により合成したシリカ、CTAB比表面積=180m/g
シリカ2:東ソーシリカ(株)製、商品名「NIPSIL AQ」、CTAB比表面積=150m/g、窒素吸着比表面積(NSA)=200m/g
カーボンブラック:旭カーボン(株)製、商品名「カーボンN134」、NSA=146m/g
【0142】
(3)シランカップリング剤:Evonic社製、商品名「Si69」
(4)軟化剤
オイル:ナフテン系プロセスオイル、出光興産(株)製、商品名「ダイアナプロセスオイルNS-24」、流動点=-30℃
液状ポリマー:Cray Valley社製、商品名「Ricon142」
【0143】
(5)樹脂
C5系樹脂:東燃化学(株)製、商品名「Escorez 1102」
アクリル樹脂:東亜合成(株)製、商品名「ARUFON UG-4010」
【0144】
(6)ステアリン酸:新日本理化(株)製、商品名「ステアリン酸50S」
(7)亜鉛華:ハクスイテック(株)製、商品名「3号亜鉛華」
(8)加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーDM」、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド
(9)加硫剤:鶴見化学(株)製、商品名「粉末硫黄」
(10)老化防止剤:N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン
【0145】
(11)空隙導入剤:発泡剤、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)
(12)親水性短繊維:下記の方法で作製した親水性短繊維
【0146】
〔変性BR1の製造方法〕
(1)触媒の調製
乾燥し、窒素置換された、ゴム詮付容積100ミリリットルのガラスびんに、以下の順番に、ブタジエンのシクロヘキサン溶液(15.2質量%)7.11g、ネオジムネオデカノエートのシクロヘキサン溶液(0.56モル/リットル)0.59ミリリットル、メチルアルミノキサンMAO(東ソーアクゾ株式会社製、商品名「PMAO」)のトルエン溶液(アルミニウム濃度として3.23モル/リットル)10.32ミリリットル、水素化ジイソブチルアルミニウム(関東化学株式会社製)のヘキサン溶液(0.90モル/リットル)7.77ミリリットルを投入した。これを室温で2分間熟成した後、塩素化ジエチルアルミニウム(関東化学株式会社製)のヘキサン溶液(0.95モル/リットル)1.45ミリリットルを加えた。これを室温で、時折攪拌しながら15分間熟成した。こうして得られた触媒溶液中のネオジムの濃度は、0.011モル/リットルであった。
【0147】
(2)中間重合体の製造
約900ミリリットル容積のゴム栓付きガラスびんを乾燥し、窒素置換し、乾燥精製されたブタジエンのシクロヘキサン溶液および乾燥シクロヘキサンを各々投入し、ブタジエン12.5質量%のシクロヘキサン溶液が400g投入された状態とした。次に、前記(1)で調製した触媒溶液2.28ミリリットル(ネオジム換算0.025mmol)を投入し、50℃温水浴中で1.0時間重合を行い、中間重合体を製造した。得られた重合体のミクロ構造は、シス-1,4結合量95.5%、トランス-1,4結合量3.9%、ビニル結合量0.6%であった。
【0148】
(3)変性処理
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラ濃度が1.0モル/リットルのヘキサン溶液を、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランがネオジムに対して23.5モル当量になるように、前記(2)で得た重合体溶液に投入し、50℃にて60分間処理した。
次いで、ソルビタントリオレイン酸エステル(関東化学株式会社製)を1.2ミリリットル加えて、さらに60℃で1時間変性反応を行った後、重合系に老化防止剤2,2’-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)(NS-5)のイソプロパノール5質量%溶液2ミリリットルを加えて反応の停止を行った。さらに微量のNS-5を含むイソプロパノール中で再沈殿を行ない、ドラム乾燥することにより、変性ポリブタジエン(変性BR1)を得た。変性BR1には、マクロゲルは認められず、100℃ムーニー粘度(ML1+4:100℃)は59であった。変性処理後のミクロ構造も上記中間重合体のミクロ構造と同様であった。
【0149】
〔変性BR2の製造方法〕
(1)未変性ポリブタジエンの製造
窒素置換された5Lオートクレーブに、窒素下、シクロヘキサン1.4kg、1,3-ブタジエン250g、2,2-ジテトラヒドロフリルプロパン(0.285mmol)シクロヘキサン溶液として注入した。これに2.85mmolのn-ブチルリチウム(BuLi)を加えた後、攪拌装置を備えた50℃温水浴中で4.5時間重合を行なった。1,3-ブタジエンの反応転化率は、ほぼ100%であった。この重合体溶液の一部を、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール1.3gを含むメタノール溶液に抜き取り重合を停止させた。その後、スチームストリッピングにより脱溶媒し、110℃のロールで乾燥して、変性前のポリブタジエンを得た。得られた変性前のポリブタジエンについてミクロ構造(ビニル結合量)を測定した結果、ビニル結合量は30質量%であった。
【0150】
(2)第1級アミン変性ポリブタジエン(変性BR2)の製造
上記(1)で得られた重合体溶液を、重合触媒を失活させることなく、温度50℃に保ち、第1級アミノ基が保護されたN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン1129mg(3.364mmol)を加えて、変性反応を15分間行った。
この後、縮合促進剤であるテトラキス(2-エチル-1,3-ヘキサンジオラト)チタン8.11gを加え、更に15分間攪拌した。
最後に反応後の重合体溶液に、金属ハロゲン化合物として四塩化ケイ素242mgを添加し、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを添加した。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒及び保護された第1級アミノ基の脱保護を行い、110℃に調温された熱ロールによりゴムを乾燥し、第1級アミン変性ポリブタジエン(変性BR2)を得た。得られた変性ポリブタジエンについてミクロ構造(ビニル結合量)を測定した結果、得られた重合体のミクロ構造は、ビニル結合量30質量%であった。
【0151】
中間重合体、未変性ポリブタジエン及び変性ポリブタジエンのミクロ構造(ビニル結合量)は赤外法(モレロ法)により測定した。
【0152】
〔変性SBRの製造方法〕
乾燥し、窒素置換した800mLの耐圧ガラス容器に、1,3-ブタジエンのシクロヘキサン溶液およびスチレンのシクロヘキサン溶液を、1,3-ブタジエン67.5gおよびスチレン7.5gになるように加えた。更に、2,2-ジテトラヒドロフリルプロパン0.6mmolを加え、0.8mmolのn-ブチルリチウムを加えた。その後、50℃で1.5時間重合を行った。この際の重合転化率がほぼ100%となった重合反応系に対し、変性剤としてN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシランを0.72mmol添加し、50℃で30分間変性反応を行った。その後、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)のイソプロパノール5質量%溶液2mLを加えて反応を停止させ、常法に従い乾燥して変性SBRを得た。得られた変性SBRのミクロ構造(ビニル結合量)をモレロ法で測定した結果、結合スチレン量が10質量%、ブタジエン部分のビニル結合量が40%であった。
【0153】
ゴム成分として用いた重合体の結合スチレン量はH-NMRスペクトルの積分比より求めた。
また、ゴム成分の含有量a(質量部)に対するゴム成分のビニル結合量vi(%)の割合〔vi/a〕を、既述の式:[(a×vi)+(asb×visb)]/aに基づいて算出し、表2~3の「〔vi/a〕」欄に示した。
【0154】
〔シリカ1の製造方法〕
撹拌機を備えた180リットルのジャケット付きステンレス反応槽に、水89リットルとケイ酸ナトリウム水溶液(SiO160g/リットル、SiO/NaOモル比3.3)1.70リットルを入れ、75℃に加熱した。生成した溶液中のNaO濃度は0.015mol/リットルであった。
【0155】
この溶液の温度を75℃に維持しながら、上記と同様のケイ酸ナトリウム水溶液を流量520ミリリットル/分で、硫酸(18mol/リットル)を流量23ミリリットル/分で同時に滴下した。流量を調整しつつ、反応溶液中のNaO濃度を0.005~0.035mol/リットルの範囲に維持しながら中和反応を行った。反応途中から反応溶液は白濁をはじめ、46分目に粘度が上昇してゲル状溶液となった。さらに、添加を続けて100分で反応を停止した。生じた溶液中のシリカ濃度は60g/リットルであった。引き続いて、上記と同様の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加してケイ酸スラリーを得た。得られたケイ酸スラリーをフィルタープレスで濾過、水洗を行って湿潤ケーキを得た。次いで湿潤ケーキを乳化装置を用いてスラリーとして、噴霧式乾燥機で乾燥し、湿式法含水ケイ酸のシリカ1を得た。
【0156】
シリカ1のCTAB比表面積は、180m/gであった。
シリカ1のCTAB比表面積は、ASTM D3765-92記載の方法に準拠して実施した。この際、カーボンブラックの標準品であるIRB#3(83.0m/g)を使用せず、別途セチルトリメチルアンムニウムブロミド(以下、CE-TRABと略記する)標準液を調製した。この標準液によって含水ケイ酸OT(ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)溶液の標定を行い、含水ケイ酸表面に対するCE-TRAB1分子当たりの吸着断面積を0.35nmとして、CE-TRABの吸着量から比表面積(m/g)を算出した。
【0157】
シリカ1のインクボトル状細孔指数(IB)は、20.00であった。
シリカ1のインクボトル状細孔指数(IB)は、次のようにして求めた。
水銀ポロシメータPOREMASTER-33(Quantachrome社製)を用いて、水銀圧入法に基づき、まず圧力を1~32000PSIまで上昇させた。含水ケイ酸の外表面において開口部の直径1.2×10nm~6nmである細孔について水銀圧入量を測定し、図2に示したように圧入量のピークに位置する直径(M1)を求めた。次に、圧力を32000PSI~1PSIまで下降させて、水銀を細孔内から排出した。このときの排出曲線から得られた排出量のピークに位置する直径(M2)を求めた。これらM1及びM2の値から式(Z)〔IB=M2-M1〕によりIBを算出した。
【0158】
〔親水性短繊維の製造方法〕
特開2012-219245号公報に開示の製造例3に従い、二軸押出機を2台用い、ホッパーにポリエチレン[日本ポリエチレン社製、ノバテックHJ360(MFR5.5、融点132℃)]40質量部と、エチレン-ビニルアルコール共重合体[クラレ社製、エバールF104B(MFR4.4、融点183℃)]40質量部とを投入した。ダイ出口から各々同時に押し出して、常法に従って得られた繊維を長さ2mmにカットして、ポリエチレンからなる被覆層が形成された親水性短繊維を作製した。
【0159】
<加硫ゴム特性の評価>
〔実施例1~12、比較例1~9〕
下記手法により、加硫ゴム特性、すなわち、貯蔵弾性率(G’)及び損失正接(tanδ)を測定した。また、既述の式(1)により加硫ゴムの発泡率を求めた。結果を表2~3に示す。
氷上性能評価で作製した試作タイヤから切り出した加硫ゴムを用い、-20℃の貯蔵弾性率(G’)及び-20℃の損失正接(tanδ)を、粘弾性測定装置ARES(ティーエイインスツルメンツ社製)を用いて、歪0.1%、10Hzの条件で測定した。
【0160】
0.1%G’が小さい程、弾性率が小さいことを示し、良好な性能を示す。また、0.1%tanδが大きい程、ヒステリシスロスが高いことを示し、良好な性能と言える。
【0161】
<タイヤの評価>
1.氷上性能評価
〔実施例1~5、比較例2〕
得られたゴム組成物をトレッドに用いて、常法によって試験用のタイヤ(タイヤサイズ195/65R15)を作製した。
各実施例及び各比較例の試験用タイヤを排気量1600ccクラスの国産乗用車(アンチロックブレーキシステム:ABS搭載)に4本を装着し、氷温-1℃でのブレーキ制動距離を測定した。比較例1の試験用タイヤの制動距離を100とし、下記式により指数表示した。
氷上性能指数=(比較例1の試験用タイヤの制動距離/比較例1以外の試験用タイヤの制動距離)×100
氷上性能指数が大きい程、氷上性能が優れていることを示し、許容範囲は102以上である。
【0162】
〔実施例6~12、比較例1、3~9〕
得られたゴム組成物をトレッドに用いて、常法によって試験用のタイヤ(タイヤサイズ195/65R15)を作製する。
各実施例及び各比較例の試験用タイヤを排気量1600ccクラスの国産乗用車(アンチロックブレーキシステム:ABS搭載)に4本を装着し、氷温-1℃でのブレーキ制動距離を測定する。比較例1の試験用タイヤの制動距離を100とし、下記式により指数表示する。
氷上性能指数=(比較例1の試験用タイヤの制動距離/比較例1以外の試験用タイヤの制動距離)×100
氷上性能指数が大きい程、氷上性能が優れていることを示し、許容範囲は102以上である。
【0163】
2.操縦安定性評価
〔実施例1~12、比較例1~9〕
得られたゴム組成物をトレッドに用いて、常法によって試験用のタイヤ(タイヤサイズ195/65R15)を作製した。作製した試作タイヤから切り出した加硫ゴムの、貯蔵弾性率(E’)を、上島製作所社製スペクトロメーターを用いて測定した。測定条件は、温度30℃、初期歪2%、動歪1%、周波数52Hzとした。比較例1のE’を100として、指数表示とした。
操縦安定性指数が大きい程、操縦安定性が優れていることを示し、許容範囲は100以上である。
なお、実施例6~12、比較例1、3~9において、試験結果は予測値である。
【0164】
3.低燃費性評価
〔実施例1~12、比較例1~9〕
操縦安定性評価で作製した試作タイヤから切り出した加硫ゴムの、損失正接(tanδ)を、上島製作所社製スペクトロメーターを用いて測定した。測定条件は、温度50℃、初期歪2%、動歪1%、周波数52Hzとした。比較例1のtanδを100として、指数表示とした。
低燃費性指数が大きい程、低燃費性が優れていることを示し、許容範囲は100以上である。
なお、実施例6~12、比較例1、3~9において、試験結果は予測値である。
【0165】
4.耐破壊性評価
〔実施例1~12、比較例1~9〕
操縦安定性評価で作製した試作タイヤから切り出した加硫ゴムから、JIS K 6251:2004に準拠して、ダンベル状3号型試験片を作製した。当該試験片を100℃24時間熱老化させて得たサンプルの100℃での切断時引張応力(TSb)(MPa)を測定した。比較例1の試験片の切断時引張応力を100とし、下記式により指数表示した。
耐破壊性指数=(比較例1以外の試験片の切断時引張応力/比較例1の試験片の切断時引張応力)×100
破壊特性指数が大きい程、タイヤが破壊しにくく、破壊特性が優れていることを示し、許容範囲は95以上である。
なお、実施例6~12、比較例1、3~9において、試験結果は予測値である。
【0166】
【表2】
【0167】
【表3】
【0168】
表2~3からわかるように、実施例の試作タイヤは、いずれも、氷上性能指数が102以上であり、操縦安定性指数及び低燃費性指数が100以上であり、かつ、耐破壊性指数が95以上であり、氷上性能、操縦安定性、低燃費性、及び耐破壊性に優れることがわかる。
一方、比較例の試作タイヤは、氷上性能指数、操縦安定性指数、低燃費性指数、及び耐破壊性指数のいずれか1つ以上が、基準値を下回り、氷上性能、操縦安定性、低燃費性、及び耐破壊性を同時に向上することができないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明によれば、氷上性能、操縦安定性、低燃費性、及び耐破壊性に優れるタイヤを提供することができる。該タイヤは、氷雪路面での走行でもグリップ力が効き、車両の制動性に優れるため、スタッドレスタイヤに好適である。
図1
図2