(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】ガスバリア性積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20231207BHJP
C08F 236/20 20060101ALI20231207BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20231207BHJP
B32B 27/26 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B32B27/00 B
C08F236/20
B32B9/00 A
B32B27/26
(21)【出願番号】P 2020563364
(86)(22)【出願日】2019-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2019050923
(87)【国際公開番号】W WO2020138207
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2018244719
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 博貴
(72)【発明者】
【氏名】永縄 智史
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/180962(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/065812(WO,A1)
【文献】特開2018-027660(JP,A)
【文献】国際公開第2017/090592(WO,A1)
【文献】特開2014-166722(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016346(WO,A1)
【文献】特開2004-299230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08F 236/20、2/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程フィルムと、下地層と、ガスバリア層とをこの順で備えるガスバリア性積層体であって、
前記下地層は、重合体成分(A)及び硬化性成分(B)を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層であり、
前記ガスバリア層が、10~2,000nm以下の厚さの無機膜からなるガスバリア層、10~2,000nm以下のガスバリア性樹脂を含むガスバリア層、又は20~1,000nm以下の厚さの高分子化合物を含む層に改質処理を施して得られるガスバリア層であり、
前記ガスバリア性積層体が、以下の要件[1]及び[2]を満たす、ガスバリア性積層体。
[1]
前記工程フィルムを剥離除去したガスバリア性積層体の熱収縮率の絶対値が0.5%以下である。
[2]
前記工程フィルムを剥離除去したガスバリア性積層体の破断伸度が1.9%以上である。
【請求項2】
前記下地層の厚さは、0.1~10μmである、請求項1に記載のガスバリア性積層体。
【請求項3】
前記ガスバリア層は、塗膜である、請求項1又は2に記載のガスバリア性積層体。
【請求項4】
前記硬化性成分(B)は、環化重合性モノマーを含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【請求項5】
前記硬化性成分(B)成分は、更に多官能(メタ)アクリレート化合物を含有し、前記環化重合性モノマーと前記多官能(メタ)アクリレート化合物との質量比が95:5~30:70である、請求項4に記載のガスバリア性積層体。
【請求項6】
前記重合体成分(A)のガラス転移温度は、250℃以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイやエレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ等の電子デバイス用部材等として好ましく用いられるガスバリア性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやエレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ等のディスプレイには、薄型化、軽量化、フレキシブル化等を実現するために、ガラス板に代えて透明プラスチックフィルムを用いることが検討されている。
しかしながら、一般にプラスチックフィルムは、ガラス板に比べて水蒸気や酸素等を透過させやすく、透明プラスチックフィルムをディスプレイの基板として使用すると、基板を透過した水蒸気や酸素等が、ディスプレイデバイス内部の素子等に作用し、デバイスの性能が低下したり、寿命が短くなったりするという問題があった。
この問題を解決するため、水蒸気や酸素の透過を抑制する特性を有するフィルムをディスプレイの基板として用いることが提案されている。以下、水蒸気や酸素の透過を抑制する特性を「ガスバリア性」、ガスバリア性を有するフィルムを「ガスバリアフィルム」、ガスバリア性を有する積層体を「ガスバリア性積層体」という。
【0003】
近年においては、より高性能なディスプレイ等が求められており、電子デバイス用部材等として用いられるガスバリアフィルムにも、優れたガスバリア性に加えて、耐熱性、耐溶剤性、層間密着性に優れ、複屈折率が低く光学等方性に優れること等、様々な特性に優れることが要求されるようになってきている。
例えば、特許文献1には、硬化樹脂層の片面にガスバリア層を有するガスバリアフィルムであって、上記硬化樹脂層が、ガラス転移温度が140℃以上の熱可塑性樹脂、及び、硬化性単量体を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層であるガスバリアフィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のガスバリア性積層体にはまだ改善の余地があり、電子デバイスの進化に伴って、より高い屈曲耐性を備えること、及び、ガスバリア性をより一層高めることが求められている。
【0006】
本発明は、上記問題を鑑み、高い屈曲耐性と優れたガスバリア性を備える、電子デバイス用部材として好適に用いられるガスバリア性積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、工程フィルムと、下地層と、ガスバリア層とをこの順で備えるガスバリア性積層体であって、上記下地層を、重合体成分(A)及び硬化性成分(B)を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層とし、更に上記ガスバリア性積層体の熱収縮率の絶対値と下地層の破断伸度とを所定値とすることで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]を提供するものである。
[1]工程フィルムと、下地層と、ガスバリア層とをこの順で備えるガスバリア性積層体であって、
前記下地層は、重合体成分(A)及び硬化性成分(B)を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層であり、
前記ガスバリア性積層体が、以下の要件(1)及び(2)を満たす、ガスバリア性積層体。
(1)ガスバリア性積層体の熱収縮率の絶対値が0.5%以下である。
(2)ガスバリア性積層体の破断伸度が1.9%以上である。
[2]前記下地層の厚さは、0.1~10μmである、上記[1]に記載のガスバリア性積層体。
[3]前記ガスバリア層は、塗膜である、上記[1]又は[2]に記載のガスバリア性積層体。
[4]前記硬化性成分(B)は、環化重合性モノマーを含有する、上記[1]~[3]のいずれか一つに記載のガスバリア性積層体。
[5]前記硬化性成分(B)成分は、更に多官能(メタ)アクリレート化合物を含有し、前記環化重合性モノマーと前記多官能(メタ)アクリレート化合物との質量比が95:5~30:70である、上記[4]に記載のガスバリア性積層体。
[6]前記重合体成分(A)のガラス転移温度は、250℃以上である、上記[1]~[5]のいずれか一つに記載のガスバリア性積層体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い屈曲耐性と優れたガスバリア性とを備えるガスバリア性積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体の構成を示す断面模式図である。
【
図2】ガスバリア性積層体の製造方法の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、好ましいとする規定は任意に選択でき、好ましいとする規定同士の組み合わせはより好ましいといえる。
本明細書において、「XX~YY」との記載は、「XX以上YY以下」を意味する。
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
本明細書において、例えば、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」と「メタクリル酸」の双方を示し、他の類似用語も同様である。
以下、本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体について説明する。
【0011】
1.ガスバリア性積層体
本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体は、工程フィルムと、下地層と、ガスバリア層とをこの順で備えている。そして、上記下地層は、重合体成分(A)及び硬化性成分(B)を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層であり、ガスバリア性積層体は、以下の要件[1]及び[2]を満たす。
[1]ガスバリア性積層体の熱収縮率の絶対値が0.5%以下である。
[2]ガスバリア性積層体の破断伸度が、1.9%以上である。
本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体においては、下地層を硬化性樹脂組成物の硬化物とすることで、下地層が耐溶剤性に優れたものとなる。このため、例えば、ガスバリア層を塗膜として形成する場合、塗工時に下地層が溶媒で浸食されにくくなる。その結果、ガスバリア性積層体のガスバリア性を低下しにくくすることができる。なお、塗膜とは、塗布材料を基材や対象物上に塗布し、必要に応じて乾燥や加熱等による硬化等の処理を施して得られる被膜である。ガスバリア層を塗膜とする場合は、後述するガスバリア層を形成する成分を含む塗布材料を下地層上に塗布し、乾燥や加熱等による硬化等を行って得られる被膜である。また、下地層を塗膜とする場合は、硬化性樹脂組成物を工程フィルム等の被塗布体に塗布し、乾燥及び加熱や活性エネルギー線の照射等による硬化処理のいずれか一方のみ又は両方を行って得られる被膜である。
また、上記要件[1]を満たすことにより、加熱時におけるガスバリア性積層体の収縮が抑制される。このため、例えば、ガスバリア層を構成する材料を塗工して加熱乾燥することでガスバリア層を下地層上に形成する場合に、下地層とガスバリア層の前駆体とが収縮することによってガスバリア層が変形して結果的にガスバリア性が低下することを回避できる。
更に、上記要件[2]を満たすことにより、ガスバリア性積層体のフレキシブル性が高くなり、ガスバリア性積層体は屈曲耐性に優れ、フレキシブルデバイス用途に適するものとなる。
本願明細書において、ガスバリア性積層体の熱収縮率は、ガスバリア性積層体を熱機械分析装置にセットして、5℃/minで130℃まで昇温させた後に5℃/minで常温まで冷却し、下地層の加熱前後の長尺方向の変位の変化率を測定した値であり、詳しくは実施例に示す手順で測定される。
また、本願明細書において、下地層の破断伸度は、JIS K7127:1999に従って測定される値であり、詳しくは実施例に示す手順で測定される。
【0012】
1-1.下地層
本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体が有する下地層は、重合体成分(A)、及び硬化性成分(B)を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなる。下地層は単層であってもよく、積層された複数の層を含んでいてもよい。
【0013】
〔重合体成分(A)〕
重合体成分(A)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは250℃以上、より好ましくは290℃以上、更に好ましくは320℃以上である。Tgが250℃以上であることにより、下地層の熱収縮を抑制し、結果として、ガスバリア性積層体の熱収縮率を上述した範囲に調整することが容易となる(つまり、上記要件[1]を満たしやすくなる)。
ここでTgは、粘弾性測定(周波数11Hz、昇温速度3℃/分で0~250℃の範囲で引張モードによる測定)により得られたtanδ(損失弾性率/貯蔵弾性率)の最大点の温度をいう。
【0014】
重合体成分(A)の重量平均分子量(Mw)は、通常、100,000~3,000,000、好ましくは200,000~2,000,000、より好ましくは250,000~2,000,000、特に好ましくは500,000~1,000,000の範囲である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは、1.0~5.0、より好ましくは、2.0~4.5の範囲である。重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算の値である。Mwを100,000以上とすることで、下地層の破断伸度を大きくさせやすくなる。
【0015】
重合体成分(A)としては、熱可塑性樹脂が好ましく、非晶性熱可塑性樹脂がより好ましい。非晶性熱可塑性樹脂を用いることで、光学等方性に優れた下地層を得やすくなり、また、透明性に優れるガスバリア性積層体が得られ易くなる。また、非晶性熱可塑性樹脂は概して有機溶剤に溶け易いため、後述するように、溶液キャスト法を利用して、効率よく下地層を形成することができる。
ここで、非晶性熱可塑性樹脂とは、示差走査熱量測定において、融点が観測されない熱可塑性樹脂をいう。
【0016】
重合体成分(A)は、特に、ベンゼンやメチルエチルケトン(MEK)等の低沸点の汎用の有機溶剤に可溶なものが好ましい。汎用の有機溶媒に可溶であれば、塗工によって下地層を形成することが容易になる。
【0017】
重合体成分(A)として、特に好ましいものは、Tgが250℃以上の非晶質熱可塑性樹脂であって、ベンゼンやMEK等の低沸点の汎用の有機溶剤に可溶なものである。
【0018】
また重合体成分(A)としては、耐熱性の観点から、芳香族環構造又は脂環式構造等の環構造を有する熱可塑性樹脂が好ましく、芳香族環構造を有する熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0019】
重合体成分(A)の具体例としては、ポリイミド樹脂、及び、ポリアリレート樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は概してTgが高く耐熱性に優れており、また、非晶質熱可塑性樹脂であるため、溶液キャスト法による塗膜形成が可能である。これらの中でも、Tgが高く耐熱性に優れており、また、良好な耐熱性を示しつつも汎用の有機溶媒に可溶なものを得やすいという点からポリイミド樹脂が好ましい。
【0020】
ポリイミド樹脂としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、例えば、芳香族ポリイミド樹脂、芳香族(カルボン酸成分)-環式脂肪族(ジアミン成分)ポリイミド樹脂、環式脂肪族(カルボン酸成分)-芳香族(ジアミン成分)ポリイミド樹脂、環式脂肪族ポリイミド樹脂、およびフッ素化芳香族ポリイミド樹脂等を使用することができる。特に、分子内にフルオロ基を有するポリイミド樹脂が好ましい。一般に、ポリイミド樹脂のTgは250℃以上である。
【0021】
具体的には、芳香族ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物を用いて、ポリアミド酸への重合、化学イミド化反応を経て得られるポリイミド樹脂が好ましい。
【0022】
芳香族ジアミン化合物としては、合わせて用いられるテトラカルボン酸二無水物との反応により、共通の溶媒(例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC))に可溶で、所定の透明性を有するポリイミドを与える芳香族ジアミン化合物であれば、任意の芳香族ジアミン化合物を使用することができる。具体的には、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエ-テル、4,4’-ジアミノジフェニルエ-テル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(4-アミノフェニル)〕スルホン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェニル)〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エ-テル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エ-テル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エ-テル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス〔4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル〕ベンゼン、1,3-ビス〔4-(4-アミノ-6-フルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル〕ベンゼン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルなどが挙げられる。
【0023】
これらの芳香族ジアミン化合物は単独で用いてもよく、2種類以上の芳香族ジアミン化合物を使用しても良い。そして、透明性や耐熱性の観点から、好ましい芳香族ジアミン化合物としては、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス〔4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル〕ベンゼン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルなどのフルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物が挙げられ、使用する芳香族ジアミン化合物の少なくとも1種類はフルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物であることが好ましく、特に好ましくは2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルである。フルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物を用いることで、透明性、耐熱性、溶剤への可溶性を得ることが容易となる。
【0024】
テトラカルボン酸二無水物としては、上記芳香族ジアミン化合物と同様に、共通の溶媒(例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC))に可溶で所定の透明性を有するポリイミドを与えるテトラカルボン酸二無水物であれば、任意のものを使用でき、具体的には、4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,4-ヒドロキノンジベンゾエ-ト-3, 3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物などが例示される。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよく、二種類以上のテトラカルボン酸二無水物を使用しても良い。そして、透明性、耐熱性及び溶剤への可溶性の観点から、4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物など、少なくとも1種類のフルオロ基を有するテトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。
【0025】
ポリアミド酸への重合は、生成するポリアミド酸が可溶な溶剤への溶解下で、上記芳香族ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物を反応させることにより行うことができる。ポリアミド酸への重合に用いる溶剤としては、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド等の溶剤を用いることができる。
【0026】
ポリアミド酸への重合反応は、撹拌装置を備えた反応容器で撹拌しながら行うことが好ましい。例えば、上記溶剤に所定量の芳香族ジアミン化合物を溶解させて、撹拌しながらテトラカルボン酸二無水物を投入して反応を行い、ポリアミド酸を得る方法、テトラカルボン酸二無水物を溶剤に溶解させて、撹拌しながら芳香族ジアミン化合物を投入して反応させてポリアミド酸を得る方法、芳香族ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物を交互に投入して反応させてポリアミド酸を得る方法などが挙げられる。
【0027】
ポリアミド酸への重合反応の温度については特に制約はないが、0~70℃の温度で行うことが好ましく、より好ましくは10~60℃であり、更に好ましくは20~50℃である。重合反応を上記範囲内で行うことで、着色が少なく透明性に優れた高分子量のポリアミド酸を得ることが可能となる。
【0028】
また、ポリアミド酸への重合に使用する芳香族ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物は概ね当モル量を使用するが、得られるポリアミド酸の重合度をコントロールするために、テトラカルボン酸二無水物のモル量/芳香族ジアミン化合物のモル量(モル比率)を0.95~1.05の範囲で変化させることも可能である。そして、テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物のモル比率は、1.001~1.02の範囲であることが好ましく、1.001~1.01であることがより好ましい。このようにテトラカルボン酸二無水物を芳香族ジアミン化合物に対して僅かに過剰にすることで、得られるポリアミド酸の重合度を安定させることができるとともに、テトラカルボン酸二無水物由来のユニットをポリマーの末端に配置することができ、その結果、着色が少なく透明性に優れたポリイミドを与えることが可能となる。
【0029】
生成するポリアミド酸溶液の濃度は、溶液の粘度を適正に保ち、その後の工程での取り扱いが容易になるよう、適切な濃度(例えば、10~30質量%程度)に整えることが好ましい。
【0030】
得られたポリアミド酸溶液にイミド化剤を加えて化学イミド化反応を行う。イミド化剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水安息香酸などのカルボン酸無水物を用いることができ、コストや反応後の除去のしやすさの観点から無水酢酸を使用することが好ましい。使用するイミド化剤の当量は化学イミド化反応を行うポリアミド酸のアミド結合の当量以上であり、アミド結合の当量の1.1~5倍であることが好ましく、1.5~4倍であることがより好ましい。このようにアミド結合に対して少し過剰のイミド化剤を使用することで、比較的低温でも効率的にイミド化反応を行うことができる。
【0031】
化学イミド化反応には、イミド化促進剤として、ピリジン、ピコリン、キノリン、イソキノリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の脂肪族、芳香族又は複素環式第三級アミン類を使用することができる。このようなアミン類を使用することで、低温で効率的にイミド化反応を行うことができ、その結果イミド化反応時の着色を抑えることが可能となり、より透明なポリイミドを得やすくなる。
【0032】
化学イミド化反応温度については特に制約はないが、10℃以上50℃未満で行うことが好ましく、15℃以上45℃未満で行うことがより好ましい。10℃以上50℃未満の温度で化学イミド化反応を行うことで、イミド化反応時の着色が抑えられ、透明性に優れたポリイミドを得やすくなる。
【0033】
この後、必要に応じて、化学イミド化反応により得られたポリイミド溶液に、ポリイミドの貧溶媒を加えてポリイミドを析出させて粉体を形成させる粉体化、乾燥を行う。
【0034】
ポリイミド樹脂としては、ベンゼンやMEKなどの低沸点の有機溶剤に可能であることが好ましく、MEKに可溶であることがより好ましい。MEKに可溶であると、塗布・乾燥によって容易に硬化性樹脂組成物の層を形成することができる。
【0035】
フルオロ基を含むポリイミド樹脂は、MEK等の沸点の低い汎用の有機溶剤に溶解しやすくなり、塗布法で下地層を形成しやすくなるという観点から、好ましい。
フルオロ基を有するポリイミド樹脂としては、分子内にフルオロ基を有する芳香族ポリイミド樹脂が好ましく、分子内に以下の化学式で示す骨格を有するものが好ましい。
【0036】
【0037】
上記化学式で示される骨格を有するポリイミド樹脂は、上記骨格の剛直性が高いことにより、300℃を超える極めて高いTgを有している。このため、下地層の耐熱性を大きく向上させ得る。また、上記骨格は直線的であり比較的柔軟性が高く、下地層の破断伸度を高くさせやすくなる。更に、上記骨格を有するポリイミド樹脂は、フルオロ基を有することによりMEK等の低沸点の汎用有機溶剤に溶解し得る。したがって、溶液キャスト法を用いて塗工を行い、塗膜として下地層を形成することができ、また、乾燥による溶剤除去も容易である。上記化学式で示される骨格を有するポリイミド樹脂は、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルと、4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物とを用いて、上述のポリアミド酸の重合及びイミド化反応により得ることができる。
【0038】
ポリアリレート樹脂は、芳香族ジオールと芳香族ジカルボン酸又はそのクロライドとの反応により得られる高分子化合物からなる樹脂である。ポリアリレート樹脂も、比較的高いTgを有しており、伸び特性も比較的良好である。ポリアリレート樹脂のTgは、170~300℃程度の範囲内であり、その構造によって異なるが、Tgが250℃以上のものもある。ポリアリレート樹脂としては、特に限定されず、公知のものが使用できる。
【0039】
芳香族ジオールとしては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン〔ビスフェノールF〕、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(3’-メチル-4’-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、2,2-ビス(3’-メチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)オクタン等のビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類;1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン〔ビスフェノールZ〕、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等のビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(2,6-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(2,3,6-トリメチル-4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-フルオロフェニルメタン、ビス(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)-4-フルオロフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-クロロフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-ブロモフェニルメタン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-4-フルオロフェニルメタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン〔ビスフェノールP〕、1,1-ビス(3’-メチル-4’-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(3’-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(3’-フェニル-4’-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-1-(4’-ニトロフェニル)エタン、1,1-ビス(3’-ブロモ-4’-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジベンジルメタン等のビス(ヒドロキシフェニル)フェニルアルカン類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)エーテル等のビス(ヒドロキシフェニル)エーテル類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ケトン等のビス(ヒドロキシフェニル)ケトン類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)スルフィド等のビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド等のビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン〔ビスフェノールS〕、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)スルホン等のビス(ヒドロキシフェニル)スルホン類;9,9-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3’-メチル-4’-ヒドロキシフェニル)フルオレン等のビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類;等が挙げられる。
【0040】
芳香族ジカルボン酸又はそのクロライドとしては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエーテル4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、及びそれらのクロライド等が挙げられる。また、用いるポリアリレート系樹脂は、変性ポリアリレート系樹脂であってもよい。これらの中でも、ポリアリレート系樹脂としては、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパンとイソフタル酸との反応により得られる高分子化合物からなる樹脂が好ましい。
【0041】
重合体成分(A)は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができるが、単一種類のポリイミド樹脂を用いたもの、種類の異なるポリイミド樹脂を複数用いたもの、及び、ポリイミド樹脂にポリアミド樹脂及びポリアリレート樹脂のうち少なくとも一方を添加したものが、伸び特性を調整し得る観点、及び、耐溶剤性の観点から好ましい。
【0042】
ポリアミド樹脂としては、有機溶媒に可溶であるものが好ましく、ゴム変性ポリアミド樹脂が好ましい。ゴム変性ポリアミド樹脂としては、例えば、特開2004-035638号公報に記載のものを用いることができる。
【0043】
ポリイミド樹脂にポリアミド樹脂やポリアリレート樹脂を添加する場合、添加する樹脂の量は、Tgを高く維持しつつ、適度に柔軟性を付与する観点から、ポリイミド樹脂100質量部に対して、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは50質量部以下、より更に好ましくは30量部以下であり、また、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。
【0044】
〔硬化性成分(B)〕
硬化性成分(B)は、重合反応、又は、重合反応及び架橋反応に関与し得る成分であり、例えば、重合性不飽和結合を有し、重合反応、又は、重合反応及び架橋反応に関与し得る単量体である。なお、本明細書において、「硬化」とは、この「単量体の重合反応」、又は、「単量体の重合反応及び引き続く重合体の架橋反応」を含めた広い概念を意味する。硬化性成分(B)を用いることで、耐溶剤性に優れるガスバリア性積層体を得ることができる。
【0045】
硬化性成分(B)の分子量は、通常、3,000以下、好ましくは200~2,000、より好ましくは200~1,000である。
硬化性成分(B)中の重合性不飽和結合の数は特に制限されない。硬化性成分(B)は、重合性不飽和結合を1つ有する単官能型の単量体であっても、複数有する2官能型や3官能型等の多官能型の単量体であってもよい。
【0046】
前記単官能型の単量体としては、単官能の(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。
単官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。例えば、窒素原子を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体、脂環式構造を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体、ポリエーテル構造を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体等が挙げられる。
【0047】
窒素原子を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、下記式で示される化合物が挙げられる。
【0048】
【0049】
式中、R1は、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~12の有機基を表し、R2とR3は、結合して環構造を形成してもよく、R4は、2価の有機基を表す。
R1で表される炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、メチル基が好ましい。
R2及びR3で表される炭素数1~12の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の、炭素数1~12のアルキル基;シクロペンチル基、シクロへキシル基等の、炭素数3~12のシクロアルキル基;フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の、炭素数6~12の芳香族基;が挙げられる。これらの基は、任意の位置に置換基を有していてもよい。また、R2とR3が一緒になって環を形成してもよく、該環は、骨格中に更に窒素原子や酸素原子を有していてもよい。
R4で表される2価の有機基としては、-(CH2)m-、-NH-(CH2)m-で表される基が挙げられる。ここで、mは、1~10の整数である。
【0050】
これらの中でも、窒素原子を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、下記式で表される(メタ)アクリロイルモルホリンが好ましいものとして挙げられる。
【0051】
【0052】
窒素原子を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体を、硬化性成分(B)として用いることで、より耐熱性に優れる下地層を形成することができる。
【0053】
脂環式構造を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、下記式で示される化合物が挙げられる。
【0054】
【0055】
式中、R1は上記と同じ意味を表し、R5は脂環式構造を有する基である。
R5で表される脂環式構造を有する基としては、シクロへキシル基、イソボルニル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、トリシクロデカニル基等が挙げられる。
【0056】
脂環式構造を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体の具体例としては、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-アダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0057】
脂環式構造を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体を、硬化性成分(B)として用いることで、より光学特性に優れる下地層を形成することができる。
【0058】
ポリエーテル構造を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、下記式で示される化合物が挙げられる。
【0059】
【0060】
式中、R1は上記と同じ意味を表し、R6は炭素数1~12の有機基を表す。R6で表される炭素数1~12の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の、炭素数1~12のアルキル基;シクロへキシル基等の、炭素数3~12のシクロアルキル基;フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の、炭素数6~12の芳香族基;等が挙げられる。jは、2~20の整数を表す。
【0061】
ポリエーテル構造を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体の具体例としては、エトキシ化o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0062】
ポリエーテル構造を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体を、硬化性成分(B)として用いることで、靭性に優れる下地層を形成することができる。
【0063】
前記多官能型の単量体としては、多官能の(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。
多官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。例えば、2~6官能の(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。
2官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、下記式で示される化合物が挙げられる。
【0064】
【0065】
式中、R1は、上記のものと同じ意味を表し、R7は、2価の有機基を表す。R7で表される2価の有機基としては、下記式で示される基が挙げられる。
【0066】
【0067】
(式中、sは1~20の整数を表し、tは、1~30の整数を表し、uとvは、それぞれ独立に、1~30の整数を表し、両末端の「-」は、結合手を表す。)
【0068】
前記式で示される2官能の(メタ)アクリル酸誘導体の具体例としては、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性及び靭性の観点から、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等の、上記式において、R7で表される2価の有機基がトリシクロデカン骨格を有するもの、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等の、上記式において、R7で表される2価の有機基がビスフェノール骨格を有するもの、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン等の、上記式において、R7で表される2価の有機基が9,9-ビスフェニルフルオレン骨格を有するものが好ましい。
【0069】
また、これら以外の2官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、ジ(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0070】
3官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
4官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
5官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
6官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0071】
硬化性成分(B)は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、硬化性成分(B)は、耐熱性及び耐溶剤性により優れる下地層が得られることから、多官能型の単量体が好ましい。多官能の単量体としては、重合体成分(A)と混ざりやすく、かつ、重合物の硬化収縮が起こりにくく硬化物のカールが抑制できるという観点から、2官能(メタ)アクリル酸誘導体が好ましい。硬化性成分(B)が多官能型の単量体を含む場合、その含有量は、硬化性成分(B)の全量中、40質量%以上が好ましく、50~100質量%がより好ましく、80~100質量%がさらに好ましい。
【0072】
硬化性成分(B)は、環化重合性モノマーを含有していることが好ましい。環化重合性モノマーとは、環化しながらラジカル重合する性質をもつモノマーである。
環化重合性モノマーは、重合により分子内に環構造を形成しながら線形の高分子に成長していくが、一般的な単官能の硬化性単量体を用いるよりも下地層の耐溶剤性、耐熱性を向上させることができる。その理由として、一つは、環化重合性モノマーの重合体では、高分子鎖中に環構造が形成されるために、一般的な線形の高分子よりも剛直な分子となり、これにより下地層の耐熱性が向上すると考えられる。また、環化重合性モノマーでは、分子内の環化反応が選択的に起こるように分子設計されているが、一部のモノマーでは分子間反応が起こり、そのモノマーに由来する構成単位には反応性の官能基が残存する。この反応性の官能基が他のモノマーと反応することにより、高分子鎖の分岐が生じ、環化重合性モノマーの重合体に架橋構造が形成される。これによって、下地層の耐熱性がさらに向上し、また、耐溶剤性も向上するものと考えられる。一方で、環化重合性モノマーの重合体は、大部分は線形構造をとっており、また、環化重合により得られる環構造は、芳香環と比較すると柔軟であるため、下地層の柔軟性も両立でき、下地層は高い破断伸度を示す(つまり、上記要件[2]を満たしやすくなる)。
【0073】
具体的な環化重合性モノマーとしては、非共役ジエン類が挙げられ、例えば、以下の式(1)で表されるα-アリルオキシメチルアクリル酸系モノマーを用いることができる。
【0074】
【0075】
(式(1)において、R8は、水素原子または1価の有機基を表す。有機基は、炭化水素で構成され、エーテル基を有していてもよい。炭化水素の水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【0076】
有機基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状構造を含んでいてもよい。有機基に含まれる炭化水素基は特に限定されない。一例を挙げると、炭化水素基は、炭素数1以上の鎖状飽和炭化水素基、炭素数3以上の鎖状不飽和炭化水素基、炭素数3以上の脂環式炭化水素基、炭素数6以上の芳香族炭化水素基等である。これらの中でも、炭化水素基は、炭素数1~30の鎖状飽和炭化水素基、炭素数3~30の鎖状不飽和炭化水素基、炭素数4~30の脂環式炭化水素基および炭素数6~30の芳香族炭化水素基であることが好ましい。置換基は特に限定されない。一例を挙げると、置換基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、シアノ基、トリメチルシリル基等である。
【0077】
鎖状飽和炭化水素基は特に限定されない。一例を挙げると、鎖状飽和炭化水素基は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-アミル基、sec-アミル基、tert-アミル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、sec-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、sec-オクチル基、tert-オクチル基、2-エチルヘキシル基、カプリル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、ペンタデシル基、セチル基、ヘプタデシル基、ステアリル基、ノナデシル基、エイコシル基、セリル基、メリシル基等である。
【0078】
鎖状不飽和炭化水素基は特に限定されない。一例を挙げると、鎖状不飽和炭化水素基は、クロチル基、1,1-ジメチル-2-プロペニル基、2-メチル-ブテニル基、3-メチル-2-ブテニル基、3-メチル-3-ブテニル基、2-メチル-3-ブテニル基、オレイル基、リノール基、リノレン基等である。
【0079】
脂環式炭化水素基は特に限定されない。一例を挙げると、脂環式炭化水素基は、シクロペンチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、4-メチルシクロヘキシル基、4-tert-ブチルシクロヘキシル基、トリシクロデカニル基、イソボルニル基、アダマンチル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基等である。
【0080】
芳香族炭化水素基は特に限定されない。一例を挙げると、芳香族炭化水素基は、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、4-tert-ブチルフェニル基、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ジフェニルエチル基、トリフェニルメチル基、シンナミル基、ナフチル基、アントラニル基等である。
【0081】
エーテル結合を有する炭化水素基は特に限定されない。一例を挙げると、エーテル結合を有する炭化水素基は、メトキシエチル基、メトキシエトキシエチル基、メトキシエトシキエトキシエチル基、3-メトキシブチル基、エトキシエチル基、エトキシエトキシエチル基などの鎖状エーテル基;シクロペントキシエチル基、シクロヘキシルオキシエチル基、シクロペントキシエトキシエチル基、シクロヘキシルオキシエトキシエチル基、ジシクロペンテニルオキシエチル基などの脂環式炭化水素基と鎖状エーテル基を併せ持つ基;フェノキシエチル基、フェノキシエトキシエチル基などの芳香族炭化水素基と鎖状エーテル基を併せ持つ基;グリシジル基、β-メチルグリシジル基、β-エチルグリシジル基、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル基、2-オキセタンメチル基、3-メチル-3-オキセタンメチル基、3-エチル-3-オキセタンメチル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロフルフリル基、テトラヒドロピラニル基、ジオキサゾラニル基、ジオキサニル基などの環状エーテル基等である。
【0082】
本実施形態において、式(1)中のR8は、水素原子であるか、炭素数が1~6である炭化水素基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0083】
中でも、2-アリロキシメチルアクリル酸の炭素数1~4のアルキルエステル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸シクロヘキシルが好ましく、2-アリロキシメチルアクリル酸の炭素数1~4のアルキルエステルがより好ましく、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルが更に好ましい。
【0084】
他の具体的な環化重合性モノマーとしては、例えば、以下の式(2)で表されるモノマーが挙げられる。
【0085】
【0086】
(式(2)中、Xは酸素原子もしくはメチレン基であり、aは0または1、bは1または2、cは1または2の整数を表す。R9は炭素数6以下のアルキル基を表す。)
【0087】
式(2)で表される環化重合性単量体としては、ジメチル-2,2’-[オキシビス(メチレン)]ビス-2-プロペノエート、ジエチル-2,2’-[オキシビス(メチレン)]ビス-2-プロペノエート、ジ(n-プロピル)-2,2’-[オキシビス(メチレン)]ビス-2-プロペノエート、ジ(i-プロピル)-2,2’-[オキシビス(メチレン)]ビス-2-プロペノエート、ジ(n-ブチル)-2,2’-[オキシビス(メチレン)]ビス-2-プロペノエート、ジ(n-ヘキシル)-2,2’-[オキシビス(メチレン)]ビス-2-プロペノエート、ジシクロヘキシル-2,2’-[オキシビス(メチレン)]ビス-2-プロペノエート等が挙げられる。
【0088】
硬化性成分(B)は、上述した多官能(メタ)アクリレート化合物と、環化重合性モノマーとが含まれることがより好ましい。これらを併用することで、下地層の破断伸度を上述の範囲に調整しつつ、下地層の熱収縮を抑制し、結果として、ガスバリア性積層体の熱収縮率を上述した範囲に調整しやすくとなる。
硬化性成分(B)において、環化重合性モノマーと多官能(メタ)アクリレート化合物との質量比は、好ましくは95:5~30:70、より好ましくは90:10~35:65、更に好ましくは90:10~40:60である。環化重合性モノマーと多官能(メタ)アクリレート化合物の質量比が上記範囲にあることにより、下地層の破断伸度を上述の範囲に調整しつつ、ガスバリア性積層体の熱収縮率を上述した範囲に調整することが更に容易となる。
【0089】
〔硬化性樹脂組成物〕
本発明の実施形態に係る下地層を形成するのに用いる硬化性樹脂組成物は、重合体成分(A)、硬化性成分(B)、及び所望により、後述する重合開始剤やその他の成分を混合し、適当な溶媒に溶解又は分散させることにより調製することができる。
【0090】
硬化性樹脂組成物中の、重合体成分(A)と硬化性単量体(B)の合計含有量は、溶媒を除いた硬化性樹脂組成物全体の質量に対して、好ましくは40~99.5質量%、より好ましくは60~99質量%、さらに好ましくは80~98質量%である。
【0091】
硬化性樹脂組成物中の、重合体成分(A)と硬化性成分(B)の含有量は、重合体成分(A)と硬化性成分(B)との質量比で、好ましくは、重合体成分(A):硬化性成分(B)=30:70~90:10、より好ましくは、35:65~80:20である。
硬化性樹脂組成物において、重合体成分(A):硬化性単量体(B)の質量比がこのような範囲にあることで、得られる下地層の柔軟性がより向上しやすく、下地層の耐溶剤性も保たれやすい傾向がある。
【0092】
また、硬化性樹脂組成物中の硬化性成分(B)の含有量が上記範囲であれば、例えば、下地層を溶液キャスト法等によって得る場合、効率よく溶媒を除去することができるため、乾燥工程の長時間化によるカールやうねり等の変形の問題が解消される。
【0093】
硬化性樹脂組成物には、所望により重合開始剤を含有させることができる。重合開始剤は、硬化反応を開始させるものであれば、特に制限なく用いることができ、例えば、熱重合開始剤や光重合開始剤が挙げられる。
【0094】
熱重合開始剤としては、有機過酸化物やアゾ系化合物が挙げられる。
有機過酸化物としては、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類;アセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール類;t-ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド、p-メンタンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド等のヒドロパーオキサイド類;t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシエステル類;等が挙げられる。
アゾ系化合物としては、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル等が挙げられる。
【0095】
光重合開始剤としては、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-[4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル]-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン等のアルキルフェノン系光重合開始剤;2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィネート、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイド等のリン系光重合開始剤;ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル]チタニウム等のチタノセン系光重合開始剤;1,2-オクタンジオン-1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン-1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)等のオキシムエステル系光重合開始剤;ベンゾフェノン、p-クロロベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-メチルベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-(13-アクリロイル-1,4,7,10,13-ペンタオキサトリデシル)-ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系光重合開始剤;チオキサントン、2-クロロチオキサントン、3-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系光重合開始剤;等が挙げられる。
【0096】
上記の光重合開始剤の中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィネート、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイド等のリン系光重合開始剤が好ましい。
重合体成分(A)が芳香族環を有する熱可塑性樹脂である場合、重合体成分(A)が紫外線を吸収する結果、硬化反応が起こりにくいことがある。しかしながら、上記のリン系光重合開始剤を用いることで、上記重合体成分(A)に吸収されない波長の光を利用して硬化反応を効率よく進行させることができる。
重合開始剤は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0097】
重合開始剤の含有量は、硬化性樹脂組成物全体に対して、0.05~15質量%が好ましく、0.05~10質量%がより好ましく、0.05~5質量%が更に好ましい。
【0098】
また、前記硬化性樹脂組成物は、重合体成分(A)、硬化性成分(B)、及び重合開始剤に加えて、トリイソプロパノールアミンや、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン等の光重合開始助剤を含有していても良い。
【0099】
前記硬化性樹脂組成物の調製に用いる溶媒としては、特に制限されず、例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、塩化エチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、モノクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤;1,3-ジオキソラン等のエーテル系溶媒;等が挙げられる。
【0100】
前記硬化性樹脂組成物中の溶媒の含有量は、特に限定されないが、重合体成分(A)1gに対し、通常、0.1~1,000g、好ましくは、1~100gである。溶媒の量を適宜調節することによって、硬化性樹脂組成物の粘度を適宜なものに調節することができる。
【0101】
また、前記硬化性樹脂組成物は、本発明の目的、効果を損なわない範囲内で、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の、公知の添加剤を更に含有していてもよい。
【0102】
前記硬化性樹脂組成物を硬化させる方法は、用いる重合開始剤や硬化性単量体の種類に応じて適宜決定することができる。詳細は、後述する本発明のガスバリア性積層体の製造方法の項で説明する。
【0103】
〔下地層の性状等〕
本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体は、以下の要件[2’]を満たすことが好ましい。
[2’]下地層の破断伸度が、2.5%以上である。
【0104】
要件[2’]を満たすとともに、上述した要件[1]に適する下地層とすることにより、加熱によって下地層が変形することが抑制され、結果的にガスバリア性積層体のガスバリア性を向上させることができ、ガスバリア性積層体のフレキシブル性を高くすることができる。下地層の破断伸度の上限は、特に限定されないが、通常、20%以下、好ましくは15%以下である。
ここで、環化重合性モノマーを用いると、高温時の弾性率を比較的高く維持したまま、破断伸度を向上させることができ、要件[2’]を満たしやすくなる。その一方、硬化性成分(B)を全て環化重合性モノマーとしてしまうと、ガスバリア性積層体のガスバリア性が低下する傾向にある。本発明者らが種々検討した結果、熱収縮率の絶対値を一定範囲内に抑えることにより、ガスバリア性の低下が抑制されることが判明した。これは、熱によって下地層が影響を受けるため、例えば、ガスバリア層を塗工により形成する際の加熱によって、下地層が平面方向に変形を生じるところ、熱収縮率が所定範囲内になるように、材料等を選択することより、上の現象が抑制されるものと思われる。
【0105】
要件[2’]を満たすためには、例えば、重合体成分(A)として、ポリイミド樹脂を用いたり、更にポリアミド樹脂等を添加することで柔軟な骨格を導入したり、重合体成分(A)の分子量を増加させたり、硬化性成分(B)として、環化重合性モノマーを用いることにより、芳香環の存在割合を減少させて、下地層の伸び特性を高めたりすることが有効である。
また、例えば、多官能(メタ)アクリレート化合物と環化重合性モノマーとを併用することで、網目構造を増やすようにしたり、重合性成分(A)として、ポリイミド樹脂に代表されるような剛直であり、ガラス転移温度の高いものを選択したりして、上記要件[1]に適する下地層とすることができる。
【0106】
下地層の厚さは特に限定されず、ガスバリア性積層体の目的に合わせて決定すればよい。下地層の厚さは、通常、0.1~300μm、好ましくは0.1~100μm、より好ましくは、0.1~50μm、更に好ましくは0.1~10μm、より更に好ましくは0.2~10μmである。
【0107】
下地層を例えば、0.1~10μm程度の厚さにすると、ガスバリア性積層体の厚さが大きくなることを防止でき、薄型のガスバリア性積層体とすることができる。薄型のガスバリア性積層体であれば、薄型化が求められる有機ELディスプレイ等の用途において、ガスバリア性積層体が適用デバイス全体の厚さの増大要因とならないため好ましい。また、薄型のガスバリア性積層体であれば、ガスバリア性積層体の実装後のフレキシブル性及び屈曲耐性を向上させることができる。
【0108】
前記下地層は、耐溶剤性に優れる。耐溶剤性に優れることから、例えば、下地層表面に他の層を形成する際に有機溶剤を用いる場合であっても、下地層表面がほとんど溶解しない。したがって、例えば、下地層表面に、有機溶剤を含む樹脂溶液を用いてガスバリア層を形成する場合であっても、下地層の成分がガスバリア層に混入しにくいため、ガスバリア性が低下しにくい。
【0109】
この観点から、前記下地層のゲル分率は90%以上が好ましく、94%以上がより好ましい。ゲル分率が90%以上の下地層は、耐溶剤性に優れるものであるため、下地層表面に他の層をコーティングにより形成する際に有機溶剤を用いる場合であっても、下地層表面がほとんど溶解せず、耐溶剤性に優れるガスバリア性積層体を得やすくすることができる。
【0110】
ここで、ゲル分率とは、100mm×100mmにカットした下地層を、予め質量を測定した150mm×150mmのナイロンメッシュ(#120)で包み、トルエン(100mL)中に3日間浸漬し、取り出して120℃で1時間乾燥させ、次いで、23℃相対湿度50%の条件下に3時間放置して調湿を行った後、その質量を測定して、以下の式によって得られるものである。
【0111】
ゲル分率(%)=[(浸漬後の残存樹脂の質量)/(浸漬前の樹脂の質量)]×100
【0112】
下地層は、ガスバリア層との層間密着性に優れる。すなわち、前記下地層上にアンカーコート層を設けずにガスバリア層を形成することができる。
【0113】
下地層は、無色透明であることが好ましい。下地層が無色透明であることで、本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体を光学用途に好ましく用いることができる。
【0114】
下地層は、複屈折率が低く光学等方性に優れる。前記下地層の面内の位相差は、通常、20nm以下であり、15nm以下が好ましい。厚さ方向の位相差は、通常、-500nm以下であり、-450nm以下が好ましい。また、面内の位相差を下地層の厚さで割った値(複屈折率)は、通常、100×10-5以下であり、好ましくは20×10-5以下である。
下地層の面内の位相差、厚さ方向の位相差、複屈折率が上記の範囲内であれば、複屈折率が低く光学等方性に優れるガスバリア性積層体が得られ、本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体を光学用途に好ましく用いることができる。
【0115】
下地層の熱収縮率の絶対値は、0.5%以下であり、好ましくは0.3%以下、更に好ましくは0.2%以下である。
【0116】
下地層の破断伸度は、好ましくは2.5%以上、より好ましくは2.6%以上、更に好ましくは2.7%以上、特に好ましくは3.0%以上である。下地層の破断伸度が2.5%以上であれば、ガスバリア性積層体の破断伸度を2%以上程度に調整しやすくなり、結果的に、屈曲耐性に優れ、柔軟性に優れるガスバリア性積層体が得られ易い。
【0117】
下地層の130℃における引張弾性率は、好ましくは1.0×103MPa以上、1.3×103MPa以上、より好ましくは1.5×103MPa%以上、更に好ましくは2.0×103MPa以上である。下地層の130℃における引張弾性率が1.3×103MPa以上であれば、下地層の耐熱性を高くすることができ、ガスバリア性積層体のガスバリア性の水蒸気透過率を低く、具体的には、1×10-2(g・m-2・day-1)以下とすることが容易となる。
【0118】
下地層は、上述のように、耐熱性、耐溶剤性、層間密着性、透明性に優れ、更に、複屈性率が低く光学等方性に優れる。したがって、後述するように、このような特性を有する下地層上に、例えば、溶液キャスト法によりガスバリア層を形成することで、当該ガスバリア層は、優れたガスバリア性を発現し、しかも、下地層の耐熱性及び耐溶剤性の少なくとも一方に起因して、熱及び溶媒の少なくとも一方によりガスバリア性が損なわれることも防止される。また、得られるガスバリア性積層体の耐熱性、層間密着性、透明性に優れたものとなる。更に、複屈性率が低く光学等方性に優れるガスバリア性積層体を得ることができる。
【0119】
1-2.ガスバリア層
本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体のガスバリア層は、ガスバリア性を有する限り、材質等は特に限定されない。例えば、無機膜からなるガスバリア層、ガスバリア性樹脂を含むガスバリア層、高分子化合物を含む層に改質処理を施して得られるガスバリア層等が挙げられる。
これらの中でも、薄く、ガスバリア性及び耐溶剤性に優れる層を効率よく形成できることから、ガスバリア層は、無機膜からなるガスバリア層、及び高分子化合物を含む層に改質処理を施して得られるガスバリア層が好ましい。
【0120】
無機膜としては、特に制限されず、例えば、無機蒸着膜が挙げられる。
無機蒸着膜としては、無機化合物や金属の蒸着膜が挙げられる。
無機化合物の蒸着膜の原料としては、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ等の無機酸化物;窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン等の無機窒化物;無機炭化物;無機硫化物;酸化窒化ケイ素等の無機酸化窒化物;無機酸化炭化物;無機窒化炭化物;無機酸化窒化炭化物等が挙げられる。
金属の蒸着膜の原料としては、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、及びスズ等が挙げられる。
これらは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中では、ガスバリア性の観点から、無機酸化物、無機窒化物又は金属を原料とする無機蒸着膜が好ましく、更に、透明性の観点から、無機酸化物又は無機窒化物を原料とする無機蒸着膜が好ましい。また、無機蒸着膜は、単層でもよく、多層でもよい。
【0121】
無機蒸着膜の厚さは、ガスバリア性と取り扱い性の観点から、好ましくは10~2,000nm、より好ましくは20~1,000nm、より好ましくは30~500nm、更に好ましくは40~200nmの範囲である。
【0122】
無機蒸着膜を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD(物理的蒸着)法や、熱CVD(化学的蒸着)法、プラズマCVD法、光CVD法等のCVD法が挙げられる。
【0123】
ガスバリア性樹脂を含むガスバリア層において、用いるガスバリア性樹脂としては、ポリビニルアルコール、又はその部分ケン化物、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン等の酸素等を透過しにくい樹脂が挙げられる。
【0124】
ガスバリア性樹脂を含むガスバリア層の厚さは、ガスバリア性の観点から、好ましくは10~2,000nm、より好ましくは20~1,000nm、より好ましくは30~500nm、更に好ましくは40~200nmの範囲である。
【0125】
ガスバリア性樹脂を含むガスバリア層を形成する方法としては、ガスバリア性樹脂を含む溶液を、下地層上に塗布し、得られた塗膜を適宜乾燥する方法が挙げられる。
【0126】
高分子化合物を含む層(以下、「高分子層」ということがある)に改質処理を施して得られるガスバリア層において、用いる高分子化合物としては、ケイ素含有高分子化合物、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系ポリマー、芳香族系重合体等が挙げられる。これらの高分子化合物は1種単独で、あるいは2種以上を組合せて用いることができる。
【0127】
これらの中でも、高分子化合物はケイ素含有高分子化合物が好ましい。ケイ素含有高分子化合物としては、ポリシラザン系化合物(特公昭63-16325号公報、特開昭62-195024号公報、特開昭63-81122号公報、特開平1-138108号公報、特開平2-84437号公報、特開平2-175726号公報、特開平4-63833号公報、特開平5-238827号公報、特開平5-345826号公報、特開2005-36089号公報、特開平6-122852号公報、特開平6-299118号公報、特開平6-306329号公報、特開平9-31333号公報、特開平10-245436号公報、特表2003-514822号公報、国際公開WO2011/107018号等参照)、ポリカルボシラン系化合物(Journal of Materials Science,2569-2576,Vol.13,1978、Organometallics,1336-1344,Vol.10,1991、Journal of Organometallic Chemistry,1-10,Vol.521,1996、特開昭51-126300号公報、特開2001-328991号公報、特開2006-117917号公報、特開2009-286891号公報、特開2010-106100号公報等参照)、ポリシラン系化合物(R.D.Miller、J.Michl;Chemical Review、第89巻、1359頁(1989)、N.Matsumoto;Japanese Journal of Physics、第37巻、5425頁(1998)、特開2008-63586号公報、特開2009-235358号公報等参照)、及びポリオルガノシロキサン系化合物(特開2010-229445号公報、特開2010-232569号公報、特開2010-238736号公報等参照)等が挙げられる。
【0128】
これらの中でも、優れたガスバリア性を有するガスバリア層を形成できる観点から、ポリシラザン系化合物が好ましい。ポリシラザン系化合物としては、無機ポリシラザンや有機ポリシラザンが挙げられる。無機ポリシラザンとしてはペルヒドロポリシラザン等が挙げられ、有機ポリシラザンとしてはペルヒドロポリシラザンの水素の一部又は全部がアルキル基等の有機基で置換された化合物等が挙げられる。これらの中でも、入手容易性、及び優れたガスバリア性を有するガスバリア層を形成できる観点から、無機ポリシラザンがより好ましい。
また、ポリシラザン系化合物は、ガラスコーティング材等として市販されている市販品をそのまま使用することもできる。
ポリシラザン系化合物は、一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0129】
前記高分子層は、上述した高分子化合物の他に、本発明の目的を阻害しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、硬化剤、他の高分子、老化防止剤、光安定剤、難燃剤等が挙げられる。
【0130】
高分子層中の、高分子化合物の含有量は、優れたガスバリア性を有するガスバリア層を形成できる観点から、50質量%以上であるのが好ましく、70質量%以上であるのがより好ましい。
【0131】
高分子層を形成する方法としては、例えば、高分子化合物の少なくとも一種、所望により他の成分、及び溶剤等を含有する層形成用溶液を、公知の方法によって下地層または所望により下地層上に形成されたプライマー層上に塗布し、得られた塗膜を適度に乾燥して形成する方法が挙げられる。
【0132】
層形成用溶液を塗布する際は、スピンコーター、ナイフコーター、グラビアコーター等の公知の装置を使用することができる。
【0133】
得られた塗膜を乾燥させたり、ガスバリア性積層体のガスバリア性を向上させるため、塗膜を加熱したりすることが好ましい。加熱、乾燥方法としては、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等、従来公知の乾燥方法が採用できる。加熱温度は、通常、80~150℃であり、加熱時間は、通常、数十秒から数十分である。
【0134】
ガスバリア性積層体のガスバリア層を形成する際に、例えば、上述したようなポリシラザン系化合物を用いる場合は、塗工後の加熱によってポリシラザンの転化反応が生じ、ガスバリア性に優れた塗膜となる。
その一方、このような塗膜を形成する際の加熱によって、耐熱性の低い下地層を用いている場合は、下地層に変形を生じる恐れがある。下地層の変形は、ガスバリア性積層体のガスバリア層のガスバリア性に悪影響を与える可能性がある。しかしながら、本発明の実施形態に係る下地層は、耐熱性に優れているため、塗工時及び塗工後の加熱によっても変形を生じ難い。したがって、下地層の変形に起因するガスバリア性積層体のガスバリア性の低下も回避することができる。
【0135】
高分子層の厚さは、通常、20~1,000nm、好ましくは30~800nm、より好ましくは40~400nmである。
高分子層の厚さがナノオーダーであっても、後述するように改質処理を施すことで、充分なガスバリア性能を有するガスバリア性積層体を得ることができる。
また、上記高分子層は、ケイ素化合物を含む組成物の塗膜に改質処理を施したものであることが好ましい。高分子層が、ケイ素化合物を含む組成物の塗膜に改質処理を施したものであると、例えば、蒸着やスパッタリングにより設けた無機膜よりも柔軟性に富むものとすることができる。
【0136】
改質処理としては、イオン注入、真空紫外光照射等が挙げられる。これらの中でも、高いガスバリア性能が得られる点から、イオン注入が好ましい。イオン注入において、高分子層に注入されるイオンの注入量は、形成するガスバリア性積層体の使用目的(必要なガスバリア性、透明性等)等に合わせて適宜決定すればよい。
【0137】
注入されるイオンとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等の希ガスのイオン;フルオロカーボン、水素、窒素、酸素、二酸化炭素、塩素、フッ素、硫黄等のイオン;
メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等のアルカン系ガス類のイオン;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等のアルケン系ガス類のイオン;ペンタジエン、ブタジエン等のアルカジエン系ガス類のイオン;アセチレン、メチルアセチレン等のアルキン系ガス類のイオン;ベンゼン、トルエン、キシレン、インデン、ナフタレン、フェナントレン等の芳香族炭化水素系ガス類のイオン;シクロプロパン、シクロヘキサン等のシクロアルカン系ガス類のイオン;シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロアルケン系ガス類のイオン;
金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、クロム、チタン、モリブデン、ニオブ、タンタル、タングステン、アルミニウム等の導電性の金属のイオン;
シラン(SiH4)又は有機ケイ素化合物のイオン;等が挙げられる。
【0138】
有機ケイ素化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn-プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn-ブトキシシラン、テトラt-ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン;
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、(3,3,3-トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン等の無置換若しくは置換基を有するアルキルアルコキシシラン;
ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアリールアルコキシシラン;
ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)等のジシロキサン;
ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、テトラキスジメチルアミノシラン、トリス(ジメチルアミノ)シラン等のアミノシラン;
ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラメチルジシラザン等のシラザン;
テトライソシアナートシラン等のシアナートシラン;
トリエトキシフルオロシラン等のハロゲノシラン;
ジアリルジメチルシラン、アリルトリメチルシラン等のアルケニルシラン;
ジ-t-ブチルシラン、1,3-ジシラブタン、ビス(トリメチルシリル)メタン、テトラメチルシラン、トリス(トリメチルシリル)メタン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ベンジルトリメチルシラン等の無置換若しくは置換基を有するアルキルシラン;
ビス(トリメチルシリル)アセチレン、トリメチルシリルアセチレン、1-(トリメチルシリル)-1-プロピン等のシリルアルキン;
1,4-ビストリメチルシリル-1,3-ブタジイン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン等のシリルアルケン;
フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン等のアリールアルキルシラン;
プロパルギルトリメチルシラン等のアルキニルアルキルシラン;
ビニルトリメチルシラン等のアルケニルアルキルシラン;
ヘキサメチルジシラン等のジシラン;
オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン等のシロキサン;
N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド;
ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド;
等が挙げられる。
これらのイオンは、一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0139】
中でも、より簡便に注入することができ、特に優れたガスバリア性を有するガスバリア層が得られることから、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、及びクリプトンからなる群から選ばれる少なくとも一種のイオンが好ましい。
【0140】
イオンを注入する方法としては、特に限定されないが、電界により加速されたイオン(イオンビーム)を照射する方法、プラズマ中のイオンを注入する方法等が挙げられる。中でも、簡便にガスバリア性のフィルムが得られることから、後者のプラズマイオンを注入する方法が好ましい。
【0141】
プラズマイオン注入法としては、(α)外部電界を用いて発生させたプラズマ中に存在するイオンを、高分子層に注入する方法、又は(β)外部電界を用いることなく、前記層に印加する負の高電圧パルスによる電界のみで発生させたプラズマ中に存在するイオンを、高分子層に注入する方法が好ましい。
【0142】
前記(α)の方法においては、イオン注入する際の圧力(プラズマイオン注入時の圧力)を0.01~1Paとすることが好ましい。プラズマイオン注入時の圧力がこのような範囲にあるときに、簡便にかつ効率よく均一にイオンを注入することができ、目的のガスバリア層を効率よく形成することができる。
【0143】
前記(β)の方法は、減圧度を高くする必要がなく、処理操作が簡便であり、処理時間も大幅に短縮することができる。また、前記層全体にわたって均一に処理することができ、負の高電圧パルス印加時にプラズマ中のイオンを高エネルギーで高分子層に連続的に注入することができる。更に、radio frequency(高周波、以下、「RF」と略す。)や、マイクロ波等の高周波電力源等の特別の他の手段を要することなく、層に負の高電圧パルスを印加するだけで、高分子層に良質のイオンを均一に注入することができる。
【0144】
前記(α)及び(β)のいずれの方法においても、負の高電圧パルスを印加するとき、すなわちイオン注入するときのパルス幅は、1~15μsecであるのが好ましい。パルス幅がこのような範囲にあるときに、より簡便にかつ効率よく、均一にイオンを注入することができる。
【0145】
また、プラズマを発生させるときの印加電圧は、好ましくは-1~-50kV、より好ましくは-1~-30kV、特に好ましくは-5~-20kVである。印加電圧が-1kVより小さい値でイオン注入を行うと、イオン注入量(ドーズ量)が不十分となり、所望の性能が得られにくくなる。一方、-50kVより大きい値でイオン注入を行うと、イオン注入時にフィルムが帯電し、またフィルムへの着色等の不具合が生じやすくなり、好ましくない。
【0146】
プラズマイオン注入するイオン種としては、前記注入されるイオンとして例示したのと同様のものが挙げられる。
【0147】
高分子層にプラズマ中のイオンを注入する際には、プラズマイオン注入装置を用いる。
プラズマイオン注入装置としては、具体的には、(i)高分子層(以下、「イオン注入する層」ということがある。)に負の高電圧パルスを印加するフィードスルーに高周波電力を重畳してイオン注入する層の周囲を均等にプラズマで囲み、プラズマ中のイオンを誘引、注入、衝突、堆積させる装置(特開2001-26887号公報)、(ii)チャンバー内にアンテナを設け、高周波電力を与えてプラズマを発生させてイオン注入する層周囲にプラズマが到達後、イオン注入する層に正と負のパルスを交互に印加することで、正のパルスでプラズマ中の電子を誘引衝突させてイオン注入する層を加熱し、パルス定数を制御して温度制御を行いつつ、負のパルスを印加してプラズマ中のイオンを誘引、注入させる装置(特開2001-156013号公報)、(iii)マイクロ波等の高周波電力源等の外部電界を用いてプラズマを発生させ、高電圧パルスを印加してプラズマ中のイオンを誘引、注入させるプラズマイオン注入装置、(iv)外部電界を用いることなく高電圧パルスの印加により発生する電界のみで発生するプラズマ中のイオンを注入するプラズマイオン注入装置等が挙げられる。
【0148】
これらの中でも、処理操作が簡便であり、処理時間も大幅に短縮でき、連続使用に適していることから、(iii)又は(iv)のプラズマイオン注入装置を用いるのが好ましい。
前記(iii)及び(iv)のプラズマイオン注入装置を用いる方法については、国際公開WO2010/021326号公報に記載のものが挙げられる。
【0149】
前記(iii)及び(iv)のプラズマイオン注入装置では、プラズマを発生させるプラズマ発生手段を高電圧パルス電源によって兼用しているため、RFやマイクロ波等の高周波電力源等の特別の他の手段を要することなく、負の高電圧パルスを印加するだけで、プラズマを発生させ、高分子層に連続的にプラズマ中のイオンを注入し、表面部にイオン注入により改質された部分を有する高分子層、すなわちガスバリア層が形成されたガスバリア性積層体を量産することができる。
【0150】
イオンが注入される部分の厚さは、イオンの種類や印加電圧、処理時間等の注入条件により制御することができ、高分子層の厚さ、ガスバリア性積層体の使用目的等に応じて決定すればよいが、通常、5~1,000nmである。
【0151】
イオンが注入されたことは、X線光電子分光分析(XPS)を用いて高分子層の表面から10nm付近の元素分析測定を行うことによって確認することができる。
【0152】
ガスバリア層がガスバリア性を有していることは、ガスバリア層の水蒸気透過率が小さいことから確認することができる。
ガスバリア層の、40℃、相対湿度90%雰囲気下における水蒸気透過率は、通常1.0g/m2/day以下であり、好ましくは0.8g/m2/day以下であり、より好ましくは0.5g/m2/day以下であり、更に好ましくは0.1g/m2/day以下である。水蒸気透過率は、公知の方法で測定することができる。
【0153】
1-3.工程フィルム
工程フィルムは、ガスバリア性積層体を保存、運搬等する際に、下地層や、ガスバリア層、また上述したその他の層を保護する役割を有し、所定の工程において剥離されるものである。
【0154】
ガスバリア性積層体が工程フィルムを有する場合、ガスバリア性積層体は片面に工程フィルムを有していてもよく、両面に工程フィルムを有していてもよい。後者の場合は、2種類の工程フィルムを用いて、先に剥離する工程フィルムをより剥離しやすいものにするのが好ましい。下地層側に工程フィルムを有する場合、工程フィルムを有していないガスバリア性積層体に比べて、下地層を保護しつつハンドリング性の高いガスバリア性積層体とすることができる。
【0155】
工程フィルムは、シート状またはフィルム状のものが好ましい。シート状またはフィルム状とは、長尺のものに限らず、短尺の平板状のものも含まれる。
【0156】
工程フィルムとしては、グラシン紙、コート紙、上質紙等の紙基材;これらの紙基材にポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙;上記紙基材に、セルロース、デンプン、ポリビニルアルコール、アクリル-スチレン樹脂等で目止め処理を行ったもの;あるいはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルムやポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム等のプラスチックフィルム;ガラス等が挙げられる。
【0157】
また、工程フィルムは、取り扱い易さの点から、紙基材や、プラスチックフィルム上に剥離剤層を設けたものであってもよい。剥離層は、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、アルキッド系剥離剤、オレフィン系剥離剤等、従来公知の剥離剤を用いて形成することができる。
剥離剤層の厚さは、特に制限されないが、通常、0.02~2.0μm、より好ましくは0.05~1.5μmである。
【0158】
工程フィルムの厚さは、取り扱い易さの点から、1~500μmが好ましく、5~300μmがより好ましい。
【0159】
工程フィルムの表面粗さRa(算術平均粗さ)は、10.0nm以下が好ましく、8.0nm以下がより好ましい。また、表面粗さRt(最大断面高さ)は、100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。
表面粗さRa及びRtが、それぞれ、10.0nm、100nmを超えると、工程フィルムと接する層の表面粗さが大きくなり、ガスバリア性積層体のガスバリア性が低下するおそれがある。
なお、表面粗さRa及びRtは、100μm×100μmの測定面積で、光干渉法により得られた値である。
【0160】
1-4.ガスバリア性積層体
上述したように、本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体は、工程フィルムと、下地層と、ガスバリア層とをこの順で備えている。ガスバリア性積層体を実際に用いる際、ガスバリア性積層体から工程フィルムを剥離し、ディスプレイや電子デバイスに貼り付けて使用する。
【0161】
上述のとおり、本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体は、以下の要件[1]を満たす。
[1]ガスバリア性積層体の熱収縮率の絶対値が0.5%以下である。
【0162】
要件[1]を満たすためには、例えば、上述したように、下地層を形成するための硬化性樹脂組成物に含まれる硬化性成分(B)として、多官能(メタ)アクリレート化合物と環化重合性モノマーとを併用することで、網目構造を増やすようにしたり、重合性成分(A)として、ポリイミド樹脂に代表されるような剛直でありながらも柔軟な構造を備えるものを選択したりすればよい。
【0163】
また、上述のとおり、本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体は、以下の要件[2]を満たす。
[2]ガスバリア性積層体の破断伸度が、1.9%以上である。
ガスバリア性積層体の破断伸度は、2.0%以上であることが好ましい。ガスバリア性積層体の破断伸度がこのような範囲にあることで、ガスバリア性積層体のフレキシブル性を高くすることができる。下地層の破断伸度の上限は、特に限定されないが、通常、17%以下、好ましくは13%以下である。
【0164】
ガスバリア層の厚さは、通常、下地層と比べて著しく薄いため、ガスバリア性積層体の破断伸度は下地層の影響を大きく受け、下地層の破断伸度と近い値となる傾向がある。そのため、下地層が上述した要件[2’]を満たしていれば、ガスバリア層等の影響によってガスバリア性積層体の破断伸度が下地層の破断伸度よりも僅かに小さくなったとしても、要件[2]を満たすガスバリア性積層体を得ることが容易である。
【0165】
ガスバリア性積層体の厚さは、目的とする電子デバイスの用途等によって適宜決定することができる。本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体の実質的な厚さは、取り扱い性の観点から、好ましくは0.3~50μm、より好ましくは0.5~25μm、より好ましくは0.7~12μmである。
なお、「実質的な厚さ」とは、使用状態における厚さをいう。すなわち、上記ガスバリア性積層体は、工程シート等を有していてもよいが、使用時に除去される部分(工程シート等)の厚さは、「実質的な厚さ」には含まれない。
【0166】
本発明の実施形態に係る下地層は、柔軟性に優れたものとすることができ、さらに、ガスバリア性積層体の厚さを小さくすると、ガスバリア性積層体の実装後の屈曲耐性をより向上させることもできる。
【0167】
本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体は、上述した下地層及びガスバリア層を有するため、耐熱性、耐溶剤性、層間密着性及びガスバリア性に優れ、しかも、複屈折率が低く光学等方性に優れる。ガスバリア性積層体の面内の位相差は、通常、20nm以下であり、15nm以下が好ましい。厚さ方向の位相差は、通常、-500nm以下であり、-450nm以下が好ましい。また、面内の位相差をガスバリア性積層体の厚さで割った値(複屈折率)は、通常、100×10-5以下であり、好ましくは20×10-5以下である。
ガスバリア性積層体の面内の位相差、厚さ方向の位相差、複屈折率が上記の範囲内であれば、本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体は光学等方性に優れ、光学用途に好ましく用いることができる。
【0168】
本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体の、40℃、相対湿度90%雰囲気下での水蒸気透過率は、通常、1.0×10-2g/m2/day以下、好ましくは8.0×10-3g/m2/day以下、より好ましくは6.0×10-3g/m2/day以下である。
【0169】
本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体は、下地層と、該下地層の少なくとも片面にガスバリア層とを有する。本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体は、下地層とガスバリア層とを、それぞれ1層ずつ有するものであってもよいし、下地層及び/又はガスバリア層を2層以上有するものであってもよい。
【0170】
本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体の具体的な構成例を、
図1に示す。
図1に示すガスバリア性積層体(10)は、下地層(2)の片面に、ガスバリア層(3)を有し、下地層(2)の、ガスバリア層(3)とは反対側の面に工程フィルム(1)を有するものである。工程フィルム(1)を剥離除去すると、下地層(2)とガスバリア層(3)を含む符号10aで表す部分が、工程フィルム除去後のガスバリア性積層体となる。
【0171】
本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体は、
図1に示すものに限定されず、下地層の両面にガスバリア層を有していてもよいし、下地層及びガスバリア層を一組として、複数組が積層されたものであってもよい。また、本発明の目的を損ねない範囲で、更に他の層を1層又は2層以上含有するものであってもよい。
他の層としては、例えば、導電体層、衝撃吸収層、接着剤層、接合層、工程シート等が挙げられる。また、他の層の配置位置は特に限定されない。
【0172】
導電体層を構成する材料としては、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物等が挙げられる。具体的には、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO);フッ素をドープした酸化スズ(FTO);酸化スズ、ゲルマニウムをドープした酸化亜鉛(GZO)、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の半導電性金属酸化物;金、銀、クロム、ニッケル等の金属;これら金属と導電性金属酸化物との混合物;ヨウ化銅、硫化銅等の無機導電性物質;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の有機導電性材料;等が挙げられる。
【0173】
導電体層の形成方法には特に制限はない。例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、熱CVD法、プラズマCVD法等が挙げられる。
【0174】
導電体層の厚さはその用途等に応じて適宜選択すればよい。通常10nmから50μm、好ましくは20nmから20μmである。
【0175】
衝撃吸収層は、ガスバリア層に衝撃が加わった時に、ガスバリア層を保護するためのものである。衝撃吸収層を形成する素材としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、オレフィン系樹脂、ゴム系材料等が挙げられる。
【0176】
衝撃吸収層の形成方法としては特に制限はなく、例えば、前記衝撃吸収層を形成する素材、及び、所望により、溶剤等の他の成分を含む衝撃吸収層形成溶液を、積層すべき層上に塗布し、得られた塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱等して形成する方法が挙げられる。
また、別途、剥離基材上に衝撃吸収層を成膜し、得られた膜を、積層すべき層上に転写して積層してもよい。
衝撃吸収層の厚さは、通常1~100μm、好ましくは5~50μmである。
【0177】
接着剤層は、ガスバリア性積層体を被着体に貼付する場合に用いられる層である。接着剤層を形成する材料としては、特に限定されず、アクリル系、シリコーン系、ゴム系等の公知の接着剤または粘着剤、ヒートシール材等を使用することもできる。
【0178】
接合層は、下地層及びガスバリア層を一組として、複数の組を貼り合せてガスバリア性積層体を製造する場合等に用いられる層である。接合層は、隣り合う各組のうち一方に含まれる下地層と他方に含まれるガスバリア層とを接合して積層構造を保持するための層である。接合層は、単層であっても、複数層であってもよい。接合層としては、接着剤を用いて形成された単層構造の層からなるものや、支持層の両面に接着剤を用いて形成された層が形成されてなるものが挙げられる。
【0179】
接合層を形成する際に用いる材料は、下地層及びガスバリア層の組同士を接合し、積層構造を保持できるものである限り、特に制限されず、公知の接着剤を用いることができるが、常温で下地層及びガスバリア層の組同士を接合することができるという点から、粘着剤であることが好ましい。
接合層に用いる粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系
粘着剤、ゴム系粘着剤等が挙げられる。これらの中でも、粘着力、透明性および取り扱い
性の点から、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤が好ましい。また、後述するような架
橋構造を形成し得る粘着剤が好ましい。
また、粘着剤は、溶剤型粘着剤、エマルジョン型粘着剤、ホットメルト型粘着剤等のい
ずれの形態のものであってもよい。
【0180】
2.ガスバリア性積層体の製造方法
本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体は工程フィルムを用いて製造される。工程フィルムを用いることで、ガスバリア性積層体を効率よく、かつ、容易に製造することができる。特に、以下の工程1~3を有する方法が好ましい。
【0181】
工程1:工程フィルム上に、Tgが250℃以上の重合体成分(A)、及び硬化性成分(B)を含有する硬化性樹脂組成物を用いて硬化性樹脂層を形成する工程
工程2:工程1で得られた硬化性樹脂層を硬化させて、硬化樹脂層からなる下地層を形成する工程
工程3:工程2で得られた下地層上に、ガスバリア層を形成する工程
【0182】
図2に、本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体の製造工程の一例を示す。
図2(a)が上記工程1に、
図2(b)が上記工程2に、
図2(c)が上記工程3に、それぞれ対応する。
【0183】
(工程1)
先ず、工程フィルム上に、Tgが250℃以上の重合体成分(A)、及び硬化性成分(B)を含有する硬化性樹脂組成物を用いて硬化性樹脂層(
図2(a)の符号2a)を形成する。
【0184】
用いる工程フィルム、硬化性樹脂組成物としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
硬化性樹脂組成物を工程フィルム上に塗工する方法は、特に制限されず、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等の公知の塗布方法を利用することができる。
【0185】
得られた塗膜を乾燥する方法は特に制限されず、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等、従来公知の乾燥方法を利用することができる。上記のように、本発明の実施形態に係る下地層を形成するために用いる硬化性樹脂組成物は、非常に高いTgを有する重合体成分(A)を含有するものであるが、硬化性成分(B)を含有することで、溶液キャスト法を用いて得られた塗膜を乾燥する場合、溶剤を効率よく除去することができる。
【0186】
塗膜の乾燥温度は、通常、30~150℃、好ましくは、50~100℃である。
乾燥塗膜(硬化性樹脂層)の厚さは、特に制限されないが、硬化させた後の厚さと殆ど差はないことから、上述した下地層の厚さと同様にすればよい。
【0187】
(工程2)
次いで、工程1で得られた硬化性樹脂層を硬化させて硬化樹脂層を形成する。この硬化樹脂層が下地層(
図2(b)の符合2)となる。
硬化性樹脂層を硬化する方法としては、特に限定されず、公知の方法が採用できる。例えば、硬化性樹脂層が、熱重合開始剤を含有する硬化性樹脂組成物を用いて形成されたものである場合、硬化性樹脂層を加熱することで硬化性樹脂層を硬化させることができる。加熱温度は、通常、30~150℃、好ましくは、50~100℃である。
【0188】
また、硬化性樹脂層が、光重合開始剤を含有する硬化性樹脂組成物を用いて形成されたものである場合、硬化性樹脂層に活性エネルギー線を照射することで硬化性樹脂層を硬化させることができる。活性エネルギー線は、高圧水銀ランプ、無電極ランプ、キセノンランプ等を用いて照射することができる。
【0189】
活性エネルギー線の波長は、200~400nmが好ましく、350~400nmがより好ましい。照射量は、通常、照度50~1,000mW/cm2、光量50~5,000mJ/cm2、好ましくは1,000~5,000mJ/cm2の範囲である。照射時間は、通常、0.1~1,000秒、好ましくは1~500秒、更に好ましくは10~100秒である。光照射工程の熱負荷を考慮して前述の光量を満たすために、複数回照射しても構わない。
【0190】
この場合、活性エネルギー線照射による重合体成分(A)の劣化や、下地層の着色を防止するために、硬化反応に不要な波長の光を吸収するフィルタを介して、活性エネルギー線を硬化性樹脂組成物に照射してもよい。この方法によれば、硬化反応に不要で、かつ、重合体成分(A)を劣化させる波長の光がフィルタに吸収されるため、重合体成分(A)の劣化が抑制され、無色透明の下地層が得られやすくなる。
フィルタとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の樹脂フィルムを利用することができる。樹脂フィルムを用いる場合、工程1と工程2の間に、硬化性樹脂層上にポリエチレンテレフタレートフィルム等の樹脂フィルムを積層させる工程を設けることが好ましい。なお、樹脂フィルムは、通常は、工程2の後に剥離される。
【0191】
また、硬化性樹脂層に電子線を照射することで、硬化性樹脂層を硬化させることもできる。電子線を照射する場合は、通常、光重合開始剤を利用しなくても、硬化性樹脂層を硬化させることができる。電子線を照射する場合は、電子線加速器等を用いることができる。照射量は、通常10~1,000kradの範囲である。照射時間は、通常、0.1~1,000秒、好ましくは1~500秒、更に好ましくは10~100秒である。
【0192】
硬化性樹脂層の硬化は、必要に応じて窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。不活性ガス雰囲気下で硬化を行うことにより、酸素や水分等が硬化を妨げることを回避しやすくなる。
【0193】
(工程3)
その後、工程2で得られた下地層上に、ガスバリア層(
図2(c)の符号3)を形成する。
ガスバリア層を形成する方法としては、先に説明した方法を適宜採用することができる。
例えば、ガスバリア層が、ケイ素含有高分子化合物を含む層に改質処理を施して得られる層である場合、ケイ素含有高分子化合物を含む層を下地層上に形成する工程と、該ケイ素含有高分子化合物を含む層に、改質処理を施す工程によってガスバリア層を形成することができる。
【0194】
ガスバリア性積層体に含まれるガスバリア層は、押出成形法や塗布法など様々な方法で形成され得るが、ガスバリア層の形成方法によっては、ガスバリア性積層体のガスバリア性能が低下する場合がある。特に、加熱を伴う形成方法、例えば、塗布・乾燥によってガスバリア層を形成する場合、下地層が物理的又は化学的に影響を受けて、ガスバリア性などの特性が低下してしまう恐れがあった。
しかし、本発明の実施形態に係る下地層は、上述したように、重合体成分(A)及び硬化性成分(B)を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層であり、重合体成分(A)のTgが250℃以上であるため、ガスバリア層を形成する際の加熱によって、下地層が影響を受けにくい。このため、形成されるガスバリア層が、製造工程中に下地層の変形等による影響を受けにくくなり、ガスバリア層に、例えば、マイクロクラック等が発生してガスバリア性を低下させるといった問題を生じにくくなる。
【0195】
ケイ素含有高分子化合物を含む層を形成する方法や改質処理を施す方法としては、先に説明したものを採用することができる。
また、改質処理を施す方法としては、工程2で得られた下地層上に、ケイ素含有高分子化合物を含む層が形成された長尺状のフィルムを、一定方向に搬送しながら、前記ケイ素含有高分子化合物を含む層に、改質処理を施してガスバリア性積層体を製造するのが好ましい。
この製造方法によれば、例えば、長尺状のガスバリア性積層体を連続的に製造することができる。
【0196】
なお、工程フィルムは、通常は、ガスバリア性積層体の用途等に応じて、所定の工程において剥離され、
図2(c)に示されるように、工程フィルム(3)除去後のガスバリア性積層体(10a)となる。例えば、工程3の後に他の層等を形成し、その後、工程フィルムを剥離してもよいし、工程3の後に工程フィルムを剥離してもよい。また、工程2と工程3の間に工程フィルムを剥離してもよい。
【0197】
このように、前記工程1~3を有する製造方法は、工程フィルムを利用して硬化性樹脂層を形成するものであるが、この方法によって得られるガスバリア性積層体は、工程フィルムを有していてもよいし、有していなくてもよい。
上述したガスバリア性積層体の製造方法によれば、本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体を効率よく、連続的に、かつ容易に製造することができる。
【実施例】
【0198】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0199】
各実施例及び比較例の、下地層及びガスバリア性積層体の物性値の測定と評価は以下の手順で行った。
【0200】
<下地層の耐溶剤性>
下地層を25mm×25mmの試験片に裁断し、試験片をキシレン溶媒中に2分間浸漬し、浸漬前後の試験片の変化を目視により観察し、下記の基準に従い耐溶剤性を評価した。
A:変化なし。
B:わずかな外形変化が見受けられるが、実用上問題ない。
C:白化や、膨潤・カール・うねり等の外形変化を生じ、実用に支障がある。
【0201】
<ガスバリア性積層体の熱収縮率>
ガスバリア性積層体を5mm×30mmの試験片に裁断し、工程フィルムに相当する下地層側の第1のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを剥離除去し、熱機械分析装置TMA4000SE(ネッチ・ジャパン株式会社)を用いて、チャック間距離20mmに設定した後、5℃/minで130℃まで昇温させた後に5℃/minで常温まで冷却した。なお、加熱前後の長尺方向の変位の変化率(チャック間距離20mmに対する変位量の割合を百分率で示した値)を熱収縮率とした。なお、ガスバリア性積層体が収縮した場合を負の値、伸長した場合を正の値とした。
【0202】
<ガスバリア性積層体の水蒸気透過率(WVTR)>
ガスバリア性積層体を50cm2の面積の円形状の試験片に裁断し、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製、装置名:AQUATRAN)を用い、40℃90%RH条件下にてガス流量20sccmで水蒸気透過率(g/m2/day)を測定した。なお、測定装置の検出下限は0.0005g/m2/dayである。ガスバリア性積層体は、下地層を形成するのに用いたPETフィルムを剥がすと自立性に劣るため、当該PETフィルムが積層された状態で測定を行った。ガスバリア層の水蒸気透過率はPETフィルムよりもはるかに小さいため、PETフィルムの積層によるWVTRへの影響は無視できるほどに小さい。
【0203】
<下地層及びガスバリア性積層体の破断伸度>
下地層を15mm×150mmの試験片に裁断し、JIS K7127:1999に従い、破断伸度を測定した。具体的には、上記試験片を、引張試験機(島津製作所社製,オートグラフ)にて、チャック間距離100mmに設定した後、200mm/minの速度で引張試験を行い、破断伸度[%]を測定した。なお、試験片が降伏点を持たない場合には引張り破断ひずみを、降伏点を持つ場合には引張り破断呼びひずみを破断伸度とした。また、ガスバリア層を設けたガスバリア性積層体(工程フィルムなし)についても同様の試験を行った。
【0204】
[実施例1]
下地層となる硬化性樹脂組成物1を以下の手順で調製した。
<硬化性樹脂組成物1>
重合体成分として、ポリイミド樹脂(PI)のペレット(河村産業株式会社製、製品名KPI-MX300F、Tg=354℃、重量平均分子量28万)100質量部をメチルエチルケトン(MEK)に溶解して、PIの15質量%溶液を調製した。次いで、この溶液に、硬化性単量体として、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(新中村化学工業社製、A-DCP)122質量部、及び重合開始剤として、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド(BASF社製、Irgacure819)5質量部を添加、混合して、硬化性樹脂組成物1を調製した。なお、本実施例及び他の実験例において使用した硬化性単量体および重合開始剤は溶媒を含まず、全て固形分100%の原料である。
次に、工程フィルムとして、片面に易接着層を有する第1のPETフィルム(東洋紡社製、PET100A-4100、厚さ100μm)を使用し、このPETフィルムの易接着層面とは反対の面に、硬化性樹脂組成物を塗布し、塗膜を90℃で3分間加熱して乾燥した。
更に、この乾燥した塗膜上に、片面に易接着層を有する第2のPETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4100、厚さ50μm)を、易接着面とは反対の面が対向するように積層し、ベルトコンベア式紫外線照射装置(アイグラフィクス社製、製品名:ECS-401GX)を使用して、高圧水銀ランプ(アイグラフィクス社製、製品名:H04-L41)にて、紫外線ランプ高さ100mm、紫外線ランプ出力3kw、光線波長365nmの照度が400mW/cm2、光量が800mJ/cm2(オーク製作所社製、紫外線光量計UV-351にて測定)の条件で、第2のPETフィルムを介して紫外線照射して硬化反応を行い、厚さ5μmの下地層を形成した。
次いで、第2のPETフィルムを剥離して下地層を露出させ、この下地層上にポリシラザン化合物(ペルヒドロポリシラザン(PHPS)を主成分とするコーティング剤(メルクパフォーマンスマテリアルズ社製、アミアクカNL-110-20、溶媒:キシレン))をスピンコート法により塗布し、130oCで2分間加熱乾燥させることで、ペルヒドロポリシラザンを含む、厚さ200nmの高分子化合物層(ポリシラザン層)を形成した。
次に、プラズマイオン注入装置(日本電子社製、RF電源:「RF」56000;栗田製作所社製、高電圧パルス電源:PV-3-HSHV-0835)を用いて、ガス流量100sccm、Duty比0.5%、印加DC電圧-6kV周波数1,000Hz、印加RF電力1,000W、チャンバー内圧0.2Pa、DCパルス幅5μsec、処理時間200秒の条件で、アルゴンガス由来のイオンを高分子化合物層(ポリシラザン層)の表面に注入し、ガスバリア層を形成した。このように、下地層上にガスバリア層を積層することにより、ガスバリア性積層体を作製した。
【0205】
[実施例2]
硬化性単量体として、ジシクロペンタジエンジアクリレート(新中村化学工業社製、A-DCP)61質量部、環化重合性モノマーであるアリルエーテル型アクリレート(株式会社日本触媒製、FX-AO-MA)61質量部を用いた以外は実施例1と同様にしてガスバリア性積層体を作製した。
【0206】
[比較例1]
硬化性単量体として、環化重合性モノマーであるアリルエーテル型アクリレート(株式会社日本触媒製、FX-AO-MA)122質量部のみを用いた以外は実施例1と同様にしてガスバリア性積層体を作製した。
【0207】
[比較例2]
重合体成分として、ポリイミド樹脂の代わりに、ポリスルホン樹脂(PSF)のペレット(BASF社製、ULTRASON S6010、Tg=187℃、重量平均分子量6万)100質量部を用いた以外は、比較例1と同様にしてガスバリア性積層体を作製した。
【0208】
[比較例3]
ペレットの溶解溶媒としてMEKの代わりにトルエン、重合体成分として、ポリイミド樹脂の代わりに、ポリカーボネート樹脂(PC)のペレット(Tg≦190℃、重量平均分子量10万未満)100質量部を用いた以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性積層体を作製した。
【0209】
各実施例及び比較例の測定結果を表1に示す。
【0210】
【0211】
表1から明らかなように、実施例1、2については、下地層が耐溶剤性及び破断伸度に優れており、また、工程フィルム除去後のガスバリア性積層体が破断伸度及び熱収縮率に優れており、ガスバリア性積層体の水蒸気透過率も優れている。
一方、比較例1~3については、下地層の耐溶剤性は良好であるが、工程フィルム除去後のガスバリア性積層体の熱収縮率の絶対値が実施例1よりも大きく、ガスバリア性積層体の水蒸気透過率も実施例1に比べて1桁以上低下している。また、下地層及びガスバリア積層体のいずれの破断伸度も、実施例よりも劣る結果となっている。
【産業上の利用可能性】
【0212】
本発明のガスバリア性積層体によれば、高い破断伸度を有しつつ、しかもガスバリア性をより一層高めることができることから、ガスバリア性と、フレキシブル性や耐屈曲性とを同時に要求される電子デバイス、例えば、フレキシブル有機EL素子等、また、フレキシブル熱電変換素子等、大気劣化し易い各種電子デバイスを構成する素子用の部材に適用され得る。
【符号の説明】
【0213】
1:工程フィルム
2:下地層
2a:硬化前の下地層
3:ガスバリア層
10:ガスバリア性積層体
10a:工程フィルム除去後のガスバリア性積層体