(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0587 20100101AFI20231207BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231207BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20231207BHJP
H01M 50/103 20210101ALI20231207BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20231207BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20231207BHJP
【FI】
H01M10/0587
H01M10/052
H01M10/0566
H01M50/103
H01M50/119
H01M50/414
(21)【出願番号】P 2021148901
(22)【出願日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼士 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】泉本 貴昭
【審査官】山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-029411(JP,A)
【文献】特開2020-092049(JP,A)
【文献】特開2017-111940(JP,A)
【文献】特開2014-116180(JP,A)
【文献】国際公開第2012/111077(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0587
H01M 10/0566
H01M 10/052
H01M 50/103
H01M 50/119
H01M 50/414
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極体、非水電解液、及びこれらを収容する
扁平な直方体状の
金属製の電池ケースを備え
、前記電極体は、正極基材と正極合材層を含む正極と負極基材と負極合材層を含む負極とが、多孔性樹脂からなるセパレータを介して積層され、捲回されて、扁平に形成されており、
前記電極体は、前記扁平な直方体状の金属製の電池ケースに挿入された非水電解液二次電池の製造方法であって、
前記電極体の正極基材と正極合材層を含む正極と、負極基材と負極合材層を含む負極とが、多孔性樹脂からなるセパレータを介して積層して捲回する捲回工程と、
捲回された前記電極体を扁平にプレスする捲回体プレス工程と、
前記電極体を前記電池ケース内で乾燥するセル乾燥工程と、
初充電工程と、
エージング工程と、
検査工程とを含み、
前記非水電解液二次電池が10~35°Cである常温時のみに、前記電極体を直接又は間接に厚み方向から
210N/cm
2
以下の範囲の荷重で加圧して
、少なくとも前記初充電工程及び前記検査工程において拘束
し、
かつ前記セル乾燥工程と、前記エージング工程では、拘束を行わず、
前記非水電解液二次電池の316~210N/cm
2
におけるばね定数をばね定数Hとし、当該非水電解液二次電池の95~74N/cm
2
におけるばね定数をばね定数Lとしたとき、
ばね定数Hに対するばね定数Lの比率L/Hが予め設定した設定値となるように前記拘束の条件を設定することを特徴とする非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記比率L/Hが、0.34≦L/H≦0.41となるようにしたことを特徴とする
請求項1に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記非水電解液二次電池が、リチウムイオン二次電池であることを特徴とする
請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池の製造方法に係り、詳しくはハイレート劣化の少ない非水電解液二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年リチウムイオン二次電池などの非水電解液二次電池では、電気自動車などの電源として利用するため、多数のセル電池を直列・並列に接続し、高電圧・高電流を供給するようになっている。そのため、多数のセル電池を積載するため、電極板を捲回した捲回型の電池が用いられている。さらに、コンパクト性や冷却効率を高めるため、扁平状の捲回型の電極体を用いたセル電池が用いられることが多くなった。
【0003】
扁平状の捲回型の電極体では、充放電に伴って活物質層が膨張・収縮する。これにより、電極体内で圧力が上昇したり低下したりする。そのため、支持塩の濃度に分布(ムラ)が生じたり、非水電解液が電極体の外部に流出して、液枯れを生じたりすることがある。その結果、二次電池の内部抵抗が上昇することがある。特にハイレート充放電を繰り返すような態様で使用される二次電池では、いわゆるハイレート劣化が急速に進むことがある。
【0004】
そこで、例えば特許文献1には以下のような発明が記載されている。捲回外周部分のばね定数を捲回内周部分よりも大きくする。このことで、電極体の膨張を抑制し、ハイレート劣化を抑制する。非水電解液の移動が生じやすい負極の中央領域において、捲回外周部分のばね定数を捲回内周部分のばね定数よりも大きくすることで、捲回外周部分が硬くなり、伸縮し難くなる。このことにより、捲回外周部分では充放電時の厚みの変化を抑えることができる。その結果、捲回電極体の巻き終わりの部分から非水電解液が押し出されることを好適に抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、捲回内外周でばね定数を変化させるために、電極体の長手方向で電極組成や合材密度を変更する必要があり、電極体が複雑化するという問題があった。また、製造プロセスも複雑化するという問題があった。
【0007】
本発明の非水電解液二次電池の製造方法が解決しようとする課題は、電極体を複雑化させないで、ハイレート充放電を繰り返すような態様で使用されても劣化を少なくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明の非水電解液二次電池では、電極体、非水電解液、及びこれらを収容する直方体状の電池ケースを備えた非水電解液二次電池であって、前記電極体は、正極基材と正極合材層を含む正極と負極基材と負極合材層を含む負極とが、多孔性樹脂からなるセパレータを介して積層され、捲回されて、扁平に形成されており、前記非水電解液二次電池の316~210N/cm2におけるばね定数をばね定数Hとし、当該非水電解液二次電池の95~74N/cm2におけるばね定数をばね定数Lとしたとき、前記ばね定数Hに対するばね定数Lの比率L/Hが、0.34≦L/H≦0.41であることを特徴とする。
【0009】
前記非水電解液二次電池が、リチウムイオン二次電池である場合に好適に実施することができる。
また、本発明の非水電解液二次電池の製造方法では、電極体、非水電解液、及びこれらを収容する直方体状の電池ケースを備えた非水電解液二次電池の製造方法であって、前記非水電解液二次電池が10~35°Cである常温時のみに、前記電極体を直接又は間接に厚み方向から加圧して拘束することを特徴とする。
【0010】
また、前記電極体の正極基材と正極合材層を含む正極と、負極基材と負極合材層を含む負極とが、多孔性樹脂からなるセパレータを介して積層して捲回する捲回工程と、捲回された前記電極体を扁平にプレスする捲回体プレス工程と、前記電極体を前記電池ケース内で乾燥するセル乾燥工程と、初充電工程と、エージング工程と、検査工程とを含み、前記拘束は、少なくとも前記初充電工程と、前記検査工程のいずれかにおいて行い、前記セル乾燥工程と、前記エージング工程では、行わないようにすることができる。
【0011】
また、前記非水電解液二次電池の316~210N/cm2におけるばね定数をばね定数Hとし、当該非水電解液二次電池の95~74N/cm2におけるばね定数をばね定数Lとしたとき、ばね定数Hに対するばね定数Lの比率L/Hが予め設定した設定値となるように前記拘束の条件を設定することができる。
【0012】
さらに、前記比率L/Hが、0.34≦L/H≦0.41となるようにすることもできる。
前記拘束における加圧は、210N/cm2以下の範囲の荷重で行われることが好ましい。
【0013】
前記非水電解液二次電池が、リチウムイオン二次電池である場合に好適に実施することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の非水電解液二次電池及び非水電解液二次電池の製造方法によれば、電極体を複雑化させないで、ハイレート充放電を繰り返すような態様で使用されても劣化を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池の斜視図である。
【
図2】リチウムイオン二次電池の電極体の積層体の構成を示す模式図である。
【
図3】リチウムイオン二次電池の電極体の積層体の構成を示す模式図である。
【
図4】幅方向Wから見た電極体の端部の構成を示す模式図である。
【
図5】本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造工程を示すフローチャートである。
【
図6】本実施形態のばね定数を調整するためのプロセスAを示すフローチャートである。
【
図7】本実施形態の実施例と比較例の試験の条件を示す表である。
【
図8】本実施形態のリチウムイオン二次電池のハイレート劣化を試験するための矩形波試験を示すグラフである。
【
図9】本実施形態の実施例と比較例の試験の結果を示す表である。
【
図10】本実施形態の実施例と比較例の試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の非水電解液二次電池及び非水電解液二次電池の製造方法を、リチウムイオン二次電池1とその製造方法の一実施形態を例に
図1~10を参照して説明する。
(第1の実施形態の構成)
<本実施形態の原理>
本実施形態のリチウムイオン二次電池1及びその製造方法によれば、電極体10を複雑化させないで、ハイレート充放電を繰り返すような態様で使用されても劣化を少なくすることができる。
【0017】
ハイレート充放電を繰り返すと、扁平状の捲回型の電極体10では充放電に伴って活物質層が膨張・収縮する。これにより、電極体10内で圧力が上昇したり低下したりする。そのため、支持塩の濃度に分布(ムラ)が生じたり、非水電解液17が電極体10の外部に流出して、液枯れを生じたりすることがある。その結果、リチウムイオン二次電池1の内部抵抗が上昇することがある。このような原因で性能低下することをハイレート劣化と呼ぶ。
【0018】
このため、本実施形態のリチウムイオン二次電池1及びその製造方法では、ハイレート劣化を抑制するため、支持塩の濃度に分布(ムラ)が生じたり、非水電解液が電極体10の外部に流出して、液枯れを生じたりすることを抑制する。そのためには、電極体10内で圧力の上昇や低下を抑制する。
【0019】
具体的には、高荷重時で高SOCの状態では、電極体10は膨張している。この状態において、電極体10を柔らかくすることで体積変化を吸収し膨張時の電解液が排出されないようにする。このことで高SOCの状態での電解液の保液性を高い状態に保つ。
【0020】
一方、低荷重時で低SOCの状態では、電極体10は収縮している。この状態において、電極体10を硬くすることで体積変化を抑制し、収縮時の電解液が排出されないようにする。このことで低SOCの状態でも電解液の保液性を高い状態に保つ。
【0021】
これらを両立することで、ハイレート劣化の少ないリチウムイオン二次電池とすることができる。
そこで、本発明らは、電極体10の硬さを、リチウムイオン二次電池としての316~210N/cm2におけるばね定数をばね定数Hとし、リチウムイオン二次電池としての95~74N/cm2におけるばね定数をばね定数Lとした。そして、膨張時の硬さと収縮時の硬さに分けて把握することとした。ここで、リチウムイオン二次電池組立後において、ばね定数H及びばね定数Lは、電池ケース11を介して間接的に測定して電極体10の硬さを測定する。そして、実験を通して、ばね定数Hに対するばね定数Lの比率L/Hが、0.34≦L/H≦0.41である場合に、バランスがよく、ハイレート劣化が少ないことを見出した。
【0022】
また、本発明者らは、これを実現するために、常温プロセスのみ拘束することによって低荷重側のばね定数Lが特異的に増加することを見出した。そして、この特性を利用することで、ばね定数Hに対するばね定数Lの比率L/Hが、0.34≦L/H≦0.41とする製造方法を見出した。
【0023】
<リチウムイオン二次電池1の構成>
まず、本実施形態の前提となるリチウムイオン二次電池1の構成を簡単に説明する。
図1は、リチウムイオン二次電池1の斜視図である。
図1に示すようにリチウムイオン二次電池1は、セル電池として構成される。上側に開口部を有する直方体状の電池ケース11を備える。電池ケース11は、電池ケース11を封止する蓋体12を備える。電池ケース11の内部には電極体10が収容される。電池ケース11内には図示しない注液孔から非水電解液17が注入される。電池ケース11及び蓋体12はアルミニウム合金等の金属で構成されている。リチウムイオン二次電池1は、電池ケース11に蓋体12を取り付けることで密閉された電槽が構成される。またリチウムイオン二次電池1は、蓋体12に、電力の充放電に用いられる負極外部端子14、正極外部端子16を備えている。
【0024】
<電極体10>
図2は、リチウムイオン二次電池1の電極体10の積層体の構成を示す模式図である。
図2に示すように、リチウムイオン二次電池1の電極体10は、負極板100と正極板110とセパレータ120を備える。負極板100は、負極基材101の両面に負極合材層102を備える。正極板110は、正極基材111の両面に正極合材層112を備える。負極板100と、正極板110は、セパレータ120を介して重ねて積層された電極体10が構成される。この積層体が捲回軸を中心に長手方向Zに捲回され、扁平に整形されてなる電極体10を構成する。
【0025】
負極接続部103は、負極板100の負極合材層102から電気を取り出す集電部として機能する。正極接続部113は、正極板110の正極合材層112から電気を取り出す集電部として機能する。
【0026】
<電極体10の端部構成>
図3は、捲回された電極体10の幅方向の負極側の端部を示す斜視図である。電極体10は捲回軸を中心に中心C-Cの部分が支えられて捲回される(
図5:S3)。次に、幅方向Wと直交する厚み方向Dから一対の対抗するプレス機2(
図4参照)により捲回体プレス工程(
図5:S4)で、幅方向Wから見た端部が競走用トラック状の扁平な形状に整形される。そして、扁平な電極体10は、
図1に示すように電池ケース11に収容され、負極接続部103には、負極集電体13が溶接される。正極接続部113には正極集電体15が溶接される。接続部と集電体との溶接方法としては、例えば超音波溶接や抵抗溶接、電気溶接がある。そして、蓋体12を貫通して負極集電体13には負極外部端子14が接続され、正極集電体15には正極外部端子16が接続される。
【0027】
ここで、電極体10の捲回軸と平行な方向を「幅方向W」とする。また、電極体10の捲回軸と直交しかつ平坦部Fの面と直交する方向を「厚み方向D」という。また、幅方向W及び厚み方向Dと直交する方向を「長さ方向Z」という。
【0028】
<平坦部Fと湾曲部R>
図4は、幅方向Wから見た電極体10の端部の構成を示す模式図である。扁平にプレスされた電極体10の中央部は直線状で、負極板100、正極板110及びセパレータ120により平面状の「平坦部F」が形成されている。
【0029】
また、平坦部Fの上端及び下端は、積層された負極板100、正極板110、セパレータ120からなる電極体10が半円柱状に湾曲されて、湾曲部Rが形成される。
この湾曲部Rは、幅方向Wから見てほぼ同心円の半円状となっており、これらの半円の中心になっている位置を「中心C」とする。この中心Cは、幅方向Wに続く直線して観念できる。
【0030】
<負極板100>
負極基材101の両面に負極合材層102が形成されて負極板100が構成されている。負極基材101は、実施形態ではCu箔から構成されている。負極基材101は、負極合材層102の骨材としてのベースとなるとともに、負極合材層102から電気を集電する集電部材の機能を有している。負極板100は、金属製の負極基材101上に負極合材層102が形成される。第1の実施形態では負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いる。
【0031】
負極板100は、例えば、負極活物質と、溶媒と、結着剤(バインダー)とを混練し、混練後の負極合材を負極基材101に塗布して乾燥することで作製される。
<正極板110>
正極基材111の両面に正極合材層112が形成されて正極板110が構成されている。正極基材111は、実施形態ではAl箔やAl合金箔から構成されている。正極基材111は、正極合材層112の骨材としてのベースとなるとともに、正極合材層112から電気を集電する集電部材の機能を有している。
【0032】
正極板110は、正極基材111の表面に正極合材層112が形成されている。正極合材層112は正極活物質を有する。正極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)等を用いることができる。また、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2を任意の割合で混合した材料を用いてもよい。
【0033】
また、正極合材層112は、導電材を含む。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛(グラファイト)を用いることができる。
【0034】
正極板110は、例えば、正極活物質と、導電材と、溶媒と、結着剤(バインダー)とを混練し、混練後の正極合材を正極基材111に塗布して乾燥することで作製される。
<セパレータ120>
セパレータ120は、負極板100及び正極板110の間に非水電解液17を保持するための多孔性樹脂であるポリプロピレン製等の不織布である。また、セパレータ120としては、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、および多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせて使用することもできる。非水電解液17に電極体10に浸漬させるとセパレータ120の端部から中央部に向けて非水電解液が浸透する。
【0035】
<セパレータ120の機械的性質>
セパレータ120の構成は、全体として多孔性の構造であるが、その機械的な構成は、比較的太い骨格部分と、この骨格部分に形成された比較的細い3次元状の網目状の部分を有する。そして、捲回体プレス工程(S4)で、このセパレータ120を圧縮すると、弾力がある樹脂であるので、その空隙部分が潰れるように弾性変形をする。このとき、同じ力が掛かっても、比較的太い骨格部分よりも、この骨格部分に形成された比較的細い3次元状の網目状の部分の方がより大きく変形する。この圧縮された状態から、力を掛けない自由状態とすると、セパレータ120全体として、弾性復元力で、その厚みがほぼ復元する。このとき、より大きな変形をした比較的細い3次元状の網目状の部分は、降伏点を超える変形で、塑性変形する部分がある。これに対して比較的太い骨格部分は塑性変形しにくく、弾性復元力で、ほぼ元の形状に復元する。セパレータ120は、このように圧縮されると、硬くなりばね常数が上昇する。
【0036】
<セパレータ120の温度に依存する塑性変形>
セパレータ120は、常温(10~35°C)では、比較的塑性変形しにくいが、高温(35°Cを超える温度)では、比較的塑性変形しやすくなる。
【0037】
常温であるか否かは、作業環境の温度に由来するものでもよい。あるいは、電池自体が発熱若しくは放熱することによる温度変化に由来するものでもよい。さらに、外部から加熱若しくは冷却することによる温度変化に由来するものでもよい。要するに、セパレータ120が塑性変形しやすいか、あるいは塑性変形しにくいかが問題となる。
【0038】
<セパレータ120の圧縮によるばね定数の変化>
ここで、「拘束」とは、電極体10を直接又は間接に厚み方向Dから加圧して、セパレータ120を圧縮することをいう。加圧は、直接プレス装置などで、電極体10を挟んで圧縮するようにしてもよい。あるいは、電極体10を電池ケース11に収容後、電池ケース11を厚み方向Dに押圧することで電極体10を圧縮するようにしてもよい。さらに、セル電池を複数個スタックした状態で、電池ケース11を厚み方向Dに押圧するようにしてもよい。押圧はプレス機2に限らず、拘束用のフレームにより、ねじで締め付けるような構成でもよい。
【0039】
高温時に電極体10を圧縮すると、軟化したセパレータ120が圧縮され、空隙部分が潰れるように塑性変形し、硬くなる。すなわちばね定数が大きくなる。
一方、常温で電極体10を圧縮すると、軟化していないセパレータ120が圧縮され、空隙部分が潰れるように塑性変形し硬くなるが、その程度は、高温に比較して小さい。すなわちばね定数が大きくなる程度が小さい。
【0040】
<ばね定数Hとばね定数L>
そこで、本発明者らは、二次電池としての316~210N/cm2におけるばね定数を「ばね定数H」とし、二次電池としての95~74N/cm2におけるばね定数を「ばね定数L」として、膨張時の硬さと収縮時の硬さに分けて把握することとした。
【0041】
ここで、バネ定数としては、常温(10~35℃)下において、二次電池における電極体10に対応する部分を、電池ケース11を介して、規定の圧力で押圧することで計測することができる。
【0042】
「ばね定数H」は、大きな力が掛かったときの挙動を示す。具体的には、高荷重時で高SOCの状態における電極体10が膨張しているときの挙動である。この状態において、「ばね定数H」を小さく変化させる、すなわち電極体10を柔らかくすることで体積変化を吸収し膨張時の電解液が排出されないようにする。このことで高SOCの状態での電解液の保液性を高い状態に保つ。
【0043】
「ばね定数L」は、小さな力が掛かったとき挙動を示す。具体的には、低荷重時で低SOCの状態における電極体10が収縮しているときの挙動を示す。この状態において、「ばね定数L」を大きく変化させる。すなわち電極体10を硬くすることで体積変化を抑制し、収縮時の電解液が排出されないようにする。このことで低SOCの状態でも電解液の保液性を高い状態に保つ。
【0044】
<ばね定数Hとばね定数Lの比率L/Hの設定>
高温時に拘束すると、セパレータ120のばね定数Hもばね定数Lも、ともに大きくなるように変化する。
【0045】
一方、常温時に拘束すると、セパレータ120のばね定数Hは変化しにくいが、ばね定数Lのみ高くなるように変化する。すなわちばね定数Hとばね定数Lの値が近接する。
ここで、ばね定数Hに対するばね定数Lの比率を「L/H」とする。
【0046】
本発明者らは、高SOC状態と低SOC状態のそれぞれで、高い保液性を維持するためには、この「比率L/H」が重要であることを見出した。
ばね定数比率(L/H)が小さすぎる場合、例えば、ばね定数Hがばね定数Lに対して比較的大きい場合や、ばね定数Lがばね定数Hに対して比較的小さい場合である。この場合は、電極体10が膨張収縮した際の保液性が悪化し塩濃度ムラがつきやすい状態になることが想定される。
【0047】
一方、ばね定数比率(L/H)が大きすぎる場合、例えば、ばね定数Hがばね定数Lに対して比較的小さい場合や、ばね定数Lがばね定数に対して比較的大きい場合である。この場合は、電極体10が膨張した際の保液量が大きくなりすぎ、塩濃度ムラを助長する、もしくは電極体10が硬くなりすぎ電解液の排出流入を妨げ塩濃度ムラがつきやすい状態になることが想定される。
【0048】
本実施形態では、後述するように、ばね定数Hに対するばね定数Lの比率L/Hが、0.34≦L/H≦0.41となるように設定する。
<ばね定数Hとばね定数Lの調整>
多孔性樹脂からなるセパレータ120は、捲回体プレス工程(S4)の前にあった比較的細い三次元状の網目状の部分は、捲回体プレス工程(S4)における降伏点を超える変形で、塑性変形し、空隙の径が、捲回体プレス工程前より小さくなる。つまり、セパレータ120の「ばね定数」は、捲回体プレス工程(S4)の前後で、変わってくる。上述のように、捲回体プレス工程(S4)の前後で、骨格部分の復元力のため全体の寸法は、大きく変わらない。しかしながら、全体の寸法は復元しても非水電解液17の交換は、空隙が潰れて小さくなった分だけ、ばね定数が大きく変化している。なお、捲回体プレス工程(S4)は、比較的塑性変形がしにくい常温下で行われるため、柔らかさは維持される。
【0049】
一方、セル乾燥工程(S8)と、エージング工程(S11)では、いずれも高温下で行われるため、これらの工程で拘束すると、軟化したセパレータ120が大きく塑性変形して、電極体10のばね定数Hもばね定数Lも、いずれも大きくなるように大きく変化する。
【0050】
また、初充電工程(S10)と、自己放電検査工程(S12)、出荷検査工程(S13)などは、いずれも常温下で行われるため、これらの工程で拘束してもセパレータ120の塑性変形は小さく、電極体10のばね定数Lのみが大きくなるように変化する。
【0051】
すなわち、「拘束」を「常温下」で行うことで、「ばね定数L」のみを調整することができる。その結果、ばね定数Hとばね定数Lの比率L/Hを設定値とするように調整することが可能になる。
【0052】
<非水電解液17>
非水電解液は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。ここで、非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)を用いることができる。また、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種または二種以上の材料でもよい。また、支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI等を用いることができる。またこれらから選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
【0053】
<リチウムイオン二次電池1の製造工程>
図5は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の製造工程を示すフローチャートである。
図5を参照して、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の製造工程の概略を説明する。
【0054】
<源泉工程(S1)>
本実施形態では、まず源泉工程(S1)を行う。ここで源泉工程とは、リチウムイオン二次電池1の電池要素の作成の工程である。具体的には、リチウムイオン二次電池1の電池要素を構成する負極板100、正極板110及びセパレータ120をそれぞれ作成する工程である。
【0055】
<積層工程(S2)>
源泉工程(S1)で負極板100、正極板110及びセパレータ120をそれぞれ作成したら、積層工程(S2)を行う。
【0056】
図2に示すように、積層工程では、負極板100、セパレータ120、正極板110、セパレータ120の順に積層していく。このとき、負極合材層102と正極合材層112とは、セパレータ120を介して対面するように配置される。また、幅方向Wの一方の端部には、負極接続部103がセパレータ120から突出するように配置される。他方の端部には、正極接続部113がセパレータ120から突出するように配置される。
【0057】
<捲回工程(S3)>
図2に示すように積層工程(S2)で、負極板100、セパレータ120、正極板110、セパレータ120の順に積層された電極体10に対して捲回工程(S3)を行う。捲回工程(S3)では、幅方向Wの捲回軸AXを中心に、心材で中心C-Cの部分が支持されて巻き付けられる。
【0058】
図3、
図4は、捲回工程(S3)完了後の電極体10を示す模式図である。
図4に示すように、捲回された電極体10は競走用のトラックのような平坦部Fと、その両端に形成される湾曲部Rが形成される。
【0059】
<捲回体プレス工程(S4)>
図4は、捲回体プレス工程(S4)中の電極体10を示す模式図である。
図4に示すように、捲回工程(S3)において電極体10は、捲回された幅方向Wから見て平坦部Fと、その両端に形成される湾曲部Rが形成される。この電極体10は、厚み方向Dから、一対の対向する平面からなるプレス面2aを備えたプレス機2で平坦部Fが挟まれて、100kNを超えない力で押圧され圧縮される。捲回体プレス工程(S4)で、プレス機2により押圧された電極体10は、弾性反発力により数秒で形状がほぼ回復するが、セパレータ120の組織が潰れて硬くなり、ばね常数が上昇する。このとき、セパレータ120の組織が樹脂の軟化で潰れ過ぎないように温度は25°Cに維持されている。また、プレス時間や押圧力は、ばね定数の変化を見て調整される。
【0060】
<端子溶接工程(S5)>
図2に示すように、捲回体プレス工程(S4)で整形した電極体10は、一端に負極基材101が露出した負極接続部103が形成されており、他端に正極基材111が露出した正極接続部113が形成されている。
【0061】
そこで、
図3に示すように、端子溶接(S5)において負極接続部103に負極集電体13が、溶接され、電気的・機械的に接続される。
また、
図1に示すように正極接続部113にも正極集電体15が、溶接され、電気的・機械的に接続される。
【0062】
<ケース挿入工程(S6)>
そして、
図1に示すように、捲回され扁平になった電極体10と、ここに溶接された正極集電体15、負極集電体13は、ケース挿入(S6)の工程で、電池ケース11に挿入される。
【0063】
<封缶溶接工程(S7)>
封缶溶接(S7)の工程で、電池ケース11と蓋体12がレーザ溶接などにより、密封される。この段階ではまだ非水電解液は注液されておらず、蓋体12の注液口が開口している。
【0064】
<セル乾燥工程(S8)>
セル乾燥(S8)の工程では、電池ケース内に残存している水分などを十分に乾燥させるため、電池内の温度が例えば105°C程度まで上昇させる。この工程では、温度が高くセパレータ120の樹脂が軟化するため、拘束は行わない。
【0065】
<注液・封止工程(S9)>
注液・封止(S9)の工程で注液口から乾燥した電槽内に非水電解液17を注液する。注液が完了したら、注液口を密封する。これで、セル電池の組み立てが完了する。
【0066】
<初充電工程(S10)>
セル電池の組み立てが完了したら初充電工程(S10)を行う。ここでは、SEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜の形成などを目的として、初充電が行われる。初充電は、比較的低い充電レートで行われ、電池の温度上昇が抑制されている。本実施形態では、概ね25°C程度で行われる。この状態では、セパレータ120を構成する樹脂は軟化していない。初充電工程(S10)では、拘束が行われる。拘束は10kN以下で行われる。拘束は、初充電工程(S10)が完了するまで行われるが、圧力及び時間は、ばね定数Lを見ながら、調整される。
【0067】
<エージング工程(S11)>
初充電工程(S10)が完了したら、エージング工程(S11)を行なう。エージング工程(S11)では、セル電池を化学的に安定化・活性化をする。その目的の1つとしては、電極内に存在する微細な金属により生じる微細な電極間の短絡がある場合、この金属に電流を流して、高温にすることで、この金属を溶解し、微細な短絡を解消する。このため、エージング工程(S11)では、高温、例えば本実施形態では60°C程度に保温して行う。このため、本実施形態のプロセスAでは、エージング工程(S11)では、セパレータ120を構成する樹脂が高温で軟化するため、ばね常数が高くなりすぎるため、拘束を行わない。
【0068】
<自己放電検査工程(S12)>
自己放電検査工程(S12)は、リチウムイオン二次電池1を初充電工程(S10)でSOC100%の満充電を行い、エージング工程(S11)で、高温下で放置した後の開放電圧OCVを測定する。その結果、どの程度電圧低下が生じているかにより、過大な自己放電を生じていないかを検査する工程である。この工程は、エージング工程(S11)と連続する測定の工程であるが、エージング工程(S11)から時間が経過しているため、電池の温度は、20°C程度の常温で行われる。
【0069】
<出荷検査工程(S13)>
そして出荷検査工程(S12)では、外観や液漏れ検査、セル電圧や、電池内部抵抗などの検査が行われ、所定の性能を発揮するものが製品となる。検査は、常温の20°Cで行われる。検査が完了した車載用のリチウムイオン二次電池1は、複数個でスタックされて電池スタックとされる。このとき、電池スタックは200~10000N、好ましくは3000~6000Nで押圧した状態で拘束される。
【0070】
さらに複数の電池スタックが容器に収容され、制御装置や各種センサなどが装着されて車両用の電池パックとなる。
(実施例)
図6は、本実施形態のばね定数を調整するためのプロセスA、プロセスB、プロセスCを示すフローチャートである。プロセスAは、上記リチウムイオン二次電池1の製造工程S1~S13において、ばね常数の調整に関連する工程の条件の組み合わせである。
【0071】
図7は、プロセスA、プロセスB、プロセスCの条件を示す表である。
<捲回プレス工程の条件>
まず捲回体プレス工程(S4)において、この電極体10は、厚み方向Dから、一対の対向する平面からなるプレス面2aを備えたプレス機2で平坦部Fが挟まれて、100kN以下の力で押圧され圧縮される。このときの「圧縮」は、本実施形態の「拘束」とは区別されるものである。ここでのプレスは、温度25°Cの常温で、押圧力は、100kNを超えないが、「拘束」よりも大きな力で圧縮する。
【0072】
この結果、セパレータ120の多孔性の組織は潰されて、一部塑性変形をしてばね定数Hは大きくなる。但し、25°C程度の常温下で行われるため、塑性変形は制限される。この条件は、プロセスA、B、Cに共通の条件である。
【0073】
<セル乾燥工程の条件>
次に、セル乾燥工程(S8)では、温度が105°Cの高温に設定される。このときは、拘束しない。仮に、このような高温で拘束すると、セパレータ120の材料が軟化し、塑性変形しやすい状態になっているため、セパレータ120が潰れて、ばね常数が急速に上昇してしまう。この条件も、プロセスA、B、Cに共通の条件である。
【0074】
<初充電工程の条件>
初充電工程(S10)では、比較的低充電レートでゆっくり充電するため、発熱は少なく、本実施形態では、概ね温度25°Cで行う。ここでは、常温の範囲であるので、10kN以下の荷重で拘束を行った。常温、低荷重で拘束を行うため、ばね定数Lのみを高くする効果がある。
【0075】
この条件は、プロセスA、B、Cに共通の条件である。
<エージング工程の条件>
エージング工程(S11)では、微細金属を溶解するため電池を加熱しており、プロセスAでは電池の温度を60°Cと高温に保持している。ここで、プロセスAでは、セパレータ120が高温となり、塑性変形しやすい状態となっているため、ばね常数の急激な上昇を避けるため、拘束は行わない。なおプロセスBも同様に拘束は行わない。これに対して、プロセスCにおいては拘束を行っている。そのため、プロセスCでは、ばね定数が上昇し、特にばね定数Hは、大幅に上昇している。
【0076】
<自己放電検査工程の条件>
自己放電検査工程(S12)では、エージング工程(S11)終了後に一定時間、常温である温度20°Cで、10kN以下の荷重で拘束している。拘束は検査終了まで行っている。このため、プロセスAでは、ばね定数Lのみを上昇させ、ばね定数Hとの差を小さくしてL/Hの比率を小さくする。
【0077】
この条件はプロセスAのみであり、プロセスB及びプロセスCに関しては、拘束していないことで、異なる条件となっている。特に、プロセスBでは、拘束は初充電工程(S10)のみであるので、セパレータ120は柔らかく、ばね定数Hもばね定数Lも低くなっている。
【0078】
<出荷検査工程の条件>
出荷検査工程(S13)では、外観や液漏れ検査、セル電圧や、電池内部抵抗などの検査を行う。特に、加熱の必要もなく、発熱することもない。プロセスAでは、常温の温度20°Cで、10kN以下の荷重で、検査が終了するまでの時間を利用して拘束する。このため、ばね定数Lのみが上昇する。
【0079】
この条件はプロセスAのみであり、プロセスB及びプロセスCに関しては、拘束していないことで、異なる条件となっている。特に、プロセスBでは、拘束は初充電工程(S10)のみであるので、セパレータ120は柔らかく、ばね定数Hもばね定数Lも低くなっている。
【0080】
(実施例)
<ハイレート劣化試験>
本実施形態では、実施例1~8、比較例1、2により、本発明を検証した。実施例1~8では条件を変えて、プロセスAによりリチウムイオン二次電池1を製造した。比較例1では、プロセスBによりリチウムイオン二次電池1を製造した。比較例2では、プロセスCによりリチウムイオン二次電池1を製造した。そして、それぞれのリチウムイオン二次電池1を矩形波試験により、どの程度ハイレート劣化が生じるかを試験した。
【0081】
<矩形波試験>
図8は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1のハイレート劣化を試験するための矩形波試験を示すグラフである。
【0082】
矩形波試験は、数10~数100Aの電流を数秒~数10秒間印加し、その1/10程度の電流を逆向きに同容量印加を繰り返す試験である。このような繰り返しで、ハイレートでの充放電を行ってハイレート劣化を生じさせる。
【0083】
本実施形態では、電池温度25℃で、100Aで10秒充電し、10Aで100秒放電する。詳しくは、開始してから5秒経過するまでは電流0[A]で、5秒経過した時点で電流を0[A]から100[A]に上昇させて充電する。そして15秒経過した時点で、100[A]から0[A]として充電を終了する。さらに、20秒経過した時点で、0[A]から-10[A]で100秒放電する。そして120秒経過した時点で-10[A]から0[A]とし125秒経過した時点で、1サイクルを終了する。このサイクルを1000サイクル繰り返した。
【0084】
そして検査前と1000サイクル終了後のセルの内部抵抗[Ω]を測定して増加率を算出した。
<拘束条件>
拘束については、精密万能試験機オートグラフ(株式会社島津製作所の登録商標)により電極体10を直接若しくは間接に荷重を測定した。本実施形態では、拘束は4500[N]とした。
【0085】
<ハイレート劣化試験の結果>
図9は、本実施形態の実施例と比較例の試験の結果を示す表である。
図10は、本実施形態の実施例と比較例の試験の結果を示すグラフである。
【0086】
<プロセスA>
実施例1~8は、巻き数や、合材層の組成等の条件を変えてプロセスAで製造したリチウムイオン二次電池1の抵抗上昇率を測定した結果である。
【0087】
その結果、ばね定数Hは、164~239であり、これに対するばね定数Lは58~90の範囲となっている。そして、ばね定数L/ばね定数Hの比率が、L/H=0.34~0.41の範囲となっている。そして、抵抗上昇率(矩形波試験前後の内部抵抗[Ω]の上昇率)は、1.09~1.17の範囲となっている。
【0088】
<プロセスB>
これに対し、比較例1では、プロセスBで製造したリチウムイオン二次電池1の抵抗上昇率を測定した結果である。プロセスBでは、拘束は初充電工程(S10)のみであるので、セパレータ120は柔らかく、ばね定数Hもばね定数Lも低くなっている。
【0089】
その結果、ばね定数Hは、183であり、これに対するばね定数Lは58となっている。そして、ばね定数L/ばね定数Hの比率が、L/H=0.32となっている。そして、抵抗上昇率は、1.24と高くなっている。
【0090】
<プロセスC>
また比較例2では、プロセスCで製造したリチウムイオン二次電池1の抵抗上昇率を測定した結果である。プロセスCでは、高温下のエージング工程(S11)で拘束を行っている。そのため、プロセスCでは、高温で軟化したセパレータ120の多孔体の組織が潰されて塑性変形してばね定数が上昇し、特にばね定数Hは、大幅に上昇している。
【0091】
その結果、ばね定数Hは、238と極めて高い。これに対するばね定数Lは102と高くなっている。そして、ばね定数L/ばね定数Hの比率が、L/H=0.42となっている。そして、抵抗上昇率は、1.21と高くなっている。
【0092】
<試験の結論>
以上のような試験を通じて、導き出された結論は、プロセスAで製造したリチウムイオン二次電池1は、抵抗上昇率が1.09~1.17に抑えられている。一方、プロセスBで製造した比較例1や、プロセスCで製造した比較例2では、抵抗上昇率が1.21~1.24と高い数値を示した。すなわち、プロセスAで製造したリチウムイオン二次電池1は、プロセスBやプロセスCで製造したリチウムイオン二次電池1よりも、有意にハイレート劣化しにくいことが証明できた。
【0093】
言い換えると、ばね定数L/ばね定数Hの比率を、L/H=0.34~0.41の範囲とすることで、抵抗上昇率を1.09~1.17に抑えることができた。このため、抵抗上昇率を抑えるためには、ばね定数L/ばね定数Hの比率を制御することで達成できることが分かった。
【0094】
(本実施形態の作用)
ハイレート劣化は、ハイレート充放電を繰り返し扁平状の捲回型の電極体10では充放電に伴って活物質層が膨張・収縮する。これにより、電極体10内で圧力が上昇したり低下したりする。そのため、支持塩の濃度に分布(ムラ)が生じたり、非水電解液17が電極体10の外部に流出して、液枯れを生じたりすることがある。その結果、リチウムイオン二次電池1の内部抵抗が上昇することがある。このような原因で性能低下することに起因する。
【0095】
本実施形態では、電極体10の硬さを、ばね定数をばね定数Hとばね定数Lとして、膨張時の硬さと収縮時の硬さに分けて把握した。
しかしながらこのような使用環境においても、ばね定数Hに対するばね定数Lの比率L/Hが、0.34≦L/H≦0.41である場合に、バランスがよく、ハイレート劣化が少ないことを見出した。
【0096】
また、これを実現するために、常温プロセスのみ拘束することによって低荷重側のばね定数が特異的に増加することを見出し、この特性を利用することで、ばね定数Hに対するばね定数Lの比率L/Hが、0.34≦L/H≦0.41とする製造方法とした。
【0097】
このため、本実施形態のリチウムイオン二次電池1では、電極体10内で圧力の上昇や低下を抑制し、支持塩の濃度に分布(ムラ)が生じたり、非水電解液17が電極体10の外部に流出して、液枯れを生じたりすることを抑制することができる。
【0098】
具体的には、高荷重時で高SOCの状態では、電極体10は膨張している。この状態において、電極体10を柔らかくすることで体積変化を吸収し膨張時の非水電解液17が排出されないようにする。このことで高SOCの状態での非水電解液17の保液性を高い状態に保つ。
【0099】
一方、低荷重時で低SOCの状態では、電極体10は収縮している。この状態において、電極体10を硬くすることで体積変化を抑制し、収縮時の非水電解液17が排出されないようにする。このことで低SOCの状態でも非水電解液17の保液性を高い状態に保つ。
【0100】
これらを両立することで、ハイレート劣化の少ないリチウムイオン二次電池1とすることができる。
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池1、及びその製造方法によれば、電極体10を複雑化させないで、ハイレート充放電を繰り返すような態様で使用されても劣化を少なくすることができる。
【0101】
(2)塩濃度ムラ低減を電極体10のみで達成可能であり、通常プロセス内でばね定数を制御するため、特別な設備は要求されず、コストアップなくハイレート劣化を効果的に抑制することができる。
【0102】
(3)また、本実施形態のリチウムイオン二次電池1では、特別な構造は要求されず、電池ケース11へのダメージによる耐圧寿命の低下や局所的な電気化学反応によるリチウム析出等のリスクを発生させない。
【0103】
(4)本実施形態のリチウムイオン二次電池1の製造方法では、所定条件の「拘束」を行うだけで実施できるため、従来の生産設備を用いて、既存のリチウムイオン二次電池1の製造に適用することができる。
【0104】
(別例)
○本実施形態では、リチウムイオン二次電池1を例に本発明を説明したが、他の非水電解液ン二次電池にも適用できる。
【0105】
○本実施形態では、車載用の薄板状のリチウムイオン二次電池1を例示したが、円柱形の電池などにも適用できる。また、車載用に限らず、船舶用、航空機用、さらに定置用の電池にも適用できる。
【0106】
○プロセスAの拘束の温度、荷重、時間は例示である。対象となる電池の特性に対して、拘束の温度、荷重、時間は、当業者において、ハイレート劣化が少なくなるように最適化して実施することができる。
【0107】
○
図5、
図6に示すフローチャートは、例示であり当業者においてその手順を付加し削除し変更し、順序を変えて実施することができる。
○ハイレート劣化については、矩形波試験により検査したが、ハイレート劣化が評価できれば、矩形波試験による検査に限定されるものではない。
【0108】
○本発明は、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲で、当業者によりその構成を付加し削除し変更し、順序を変えて実施することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0109】
1…リチウムイオン二次電池
2…プレス機
2a…プレス面
10…電極体
11…電池ケース
12…蓋体
13…負極集電体
14…負極外部端子
15…正極集電体
16…正極外部端子
17…非水電解液
100…負極板
101…負極基材
102…負極合材層
103…負極接続部
110…正極板
111…正極基材
112…正極合材層
113…正極接続部
120…セパレータ
F…平坦部
R…(平坦部の両端に形成される一対の半円柱状の)湾曲部
C…湾曲部Rの中心(半円柱状に形成された湾曲部Rの中心軸に位置する点)
W…(電極体を捲回する軸と平行な方向を)幅方向
D…(電極体を捲回する軸と直交しかつ平坦部の面と直交する方向を)厚み方向
Z…(幅方向及び厚み方向と直交する方向を)長さ方向