(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】膜反応器、膜反応器システムおよびメタノールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/152 20060101AFI20231207BHJP
C07C 31/04 20060101ALI20231207BHJP
B01D 63/06 20060101ALI20231207BHJP
B01D 61/36 20060101ALN20231207BHJP
【FI】
C07C29/152
C07C31/04
B01D63/06
B01D61/36
(21)【出願番号】P 2021210288
(22)【出願日】2021-12-24
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 翔平
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-008940(JP,A)
【文献】国際公開第2012/086836(WO,A1)
【文献】特開2007-055970(JP,A)
【文献】特開2019-156658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/151
C07C 29/152
C07C 31/02
B01D 53/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素と水素からメタノールと水を連続的に合成する膜反応器であって、
触媒担持部とガス分離膜とが積層した構造を有し、
前記触媒担持部の上流側に二酸化炭素と水素を供給する供給手段と、
二酸化炭素と水素からメタノールと水を合成する触媒を担持した前記触媒担持部と、
二酸化炭素、水素、メタノールおよび水の混合ガスからメタノールと水を選択的に透過させる前記ガス分離膜と、
前記ガス分離膜を透過したメタノールと水を
掃引ガスとともに排出する手段と、
前記ガス分離膜を透過しなかった混合ガスを、前記触媒担持部から前記ガス分離膜の下流側に流通させるバイパス通路とを備え、
前記ガス分離膜を透過しなかった混合ガスを、前記掃引ガスとして使用することを特徴とする膜反応器。
【請求項2】
前記膜反応器が前記触媒担持部と前記ガス分離膜とが積層した筒状構造をしており、
前記触媒担持部が前記筒状構造の外層を構成し、前記ガス分離膜が前記筒状構造の内層を構成し、
二酸化炭素と水素が前記筒状構造の外層の外側から供給され、
前記ガス分離膜を透過したメタノールと水が、前記掃引ガスとともに、前記筒状構造の内層の内側の空間を流れて排出され、
前記バイパス通路は、前記空間内の掃引ガスの流れの上流側に連通することを特徴とする請求項1に記載の膜反応器。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の膜反応器と、
前記膜反応器の下流に、二酸化炭素、水素、メタノールおよび水の混合ガスから、二酸化炭素と水素をガスとして分離し、メタノールと水を液体として分離する冷却手段と、
前記冷却手段で分離された二酸化炭素と水素を前記膜反応器の上流側に還流させる還流手段とを備えることを特徴とする二酸化炭素と水素からメタノールと水を連続的に合成する膜反応器システム。
【請求項4】
前記冷却手段の下流に、蒸留によってメタノールと水とを分離する分離手段を備えることを特徴とする請求項3に記載の膜反応器システム。
【請求項5】
二酸化炭素と水素からメタノールと水を連続的に合成するメタノールの製造方法であって、
触媒担持部とガス分離膜とが積層した構造を有した膜反応器を使用し、
前記触媒担持部の上流側に二酸化炭素と水素を供給し、
前記触媒担持部において、担持された触媒を用いて、二酸化炭素と水素からメタノールと水を合成し、
前記ガス分離膜によって、二酸化炭素、水素、メタノールおよび水の混合ガスからメタノールと水を分離して透過させ、
前記ガス分離膜を透過したメタノールと水
を掃引ガスとともに排出する製造方法であり、
前記掃引ガスとして、前記触媒担持部において前記ガス分離膜を透過しなかった混合ガスを使用することを特徴とするメタノールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素と水素からメタノールと水を連続的に合成する膜反応器、膜反応器システムおよびメタノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境上の悪影響を軽減するために、二酸化炭素の低減が求められており、二酸化炭素を利用したメタノール合成技術が着目されている。
現状において、プラントが建設され、量産化された技術は、二酸化炭素と水素を高温高圧下で触媒を用いて反応させる工程と、反応生成物を冷却してメタノールと水を分離する工程と、得られたメタノールと水の混合液を蒸留法を用いて脱水する工程とからなる。
【0003】
しかし、上記技術は、特に高温高圧下で触媒を用いて反応させる工程において、膨大なエネルギーを必要とするため、投入する電気エネルギーの製造時に大量の二酸化炭素を発生させることとなり、全工程としては二酸化炭素を低減させるに至っていない。
【0004】
そこで、二酸化炭素と水素を触媒を用いて反応させる際に、投入するエネルギーを低減できるメタノールの製造技術として、膜反応器を用いた製造技術に着目した。
【0005】
膜反応器を用いたメタノールの製造技術として、既にいくつかの先行技術が開示されている。特許文献1には、反応で副生する水を選択的に反応系外に分離除去する水選択透過膜体を用いたメタノール製造用反応器が開示されている。また、特許文献2には、水蒸気分離膜を透過した水蒸気を掃引ガスを流通させて流出させる工程を有するメタノール製造方法が開示されている。掃引ガスとして、窒素または空気を用いている。いずれの技術も、分離膜によって反応生成物の水蒸気を除くことにより反応を進行させることができ、反応に必要なエネルギーを低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-55970号公報
【文献】特開2018-8940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示された技術は、水選択透過膜体を透過した水を真空ポンプで吸引するものであり、真空ポンプを稼働させるためのエネルギーを必要とするものである。また、特許文献2に開示された技術は、掃引ガスを流通させるために、掃引ガスの供給装置を稼働させるためのエネルギーを必要とするものである。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものである。本発明は、メタノールの製造に必要なエネルギーを低減させることが可能であり、掃引ガスを供給するための設備を簡略化することができる膜反応器、膜反応器システムおよびメタノールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、膜反応器を用いたメタノールの製造方法において、二酸化炭素と水素の反応によって生成したメタノールと水を系外に排出するために使用される掃引ガスについて検討を行った。その結果、触媒担持部においてガス分離膜を透過しなかった混合ガスを使用することによって、掃引ガスの供給装置が不要となり、メタノールの製造に必要なエネルギーを低減させることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1)本発明の膜反応器は、二酸化炭素と水素からメタノールと水を連続的に合成する膜反応器であって、触媒担持部とガス分離膜とが積層した構造を有し、前記触媒担持部の上流側に二酸化炭素と水素を供給する供給手段と、二酸化炭素と水素からメタノールと水を合成する触媒を担持した前記触媒担持部と、二酸化炭素、水素、メタノールおよび水の混合ガスからメタノールと水を選択的に透過させる前記ガス分離膜と、前記ガス分離膜を透過したメタノールと水を掃引ガスとともに排出する手段と、前記ガス分離膜を透過しなかった混合ガスを、前記触媒担持部から前記ガス分離膜の下流側に流通させるバイパス通路とを備え、前記ガス分離膜を透過しなかった混合ガスを、前記掃引ガスとして使用することを特徴としている。
【0011】
(2)本発明の膜反応器は、前記(1)に記載の膜反応器であって、前記膜反応器が前記触媒担持部と前記ガス分離膜とが積層した筒状構造をしており、前記触媒担持部が前記筒状構造の外層を構成し、前記ガス分離膜が前記筒状構造の内層を構成し、二酸化炭素と水素が前記筒状構造の外層の外側から供給され、前記ガス分離膜を透過したメタノールと水が、前記掃引ガスとともに、前記筒状構造の内層の内側の空間を流れて排出され、前記バイパス通路は、前記空間内の掃引ガスの流れの上流側に連通することが好ましい。
【0012】
(3)本発明の膜反応器システムは、前記(1)または前記(2)に記載の膜反応器と、前記膜反応器の下流に、二酸化炭素、水素、メタノールおよび水の混合ガスから、二酸化炭素と水素をガスとして分離し、メタノールと水を液体として分離する冷却手段と、前記冷却手段で分離された二酸化炭素と水素を前記膜反応器の上流側に還流させる還流手段とを備えることを特徴とする二酸化炭素と水素からメタノールと水を連続的に合成する膜反応器システムである。
【0013】
(4)本発明の膜反応器システムは、前記(3)に記載の膜反応器システムの前記冷却手段の下流に、蒸留によってメタノールと水とを分離する分離手段を備えることが好ましい。
【0014】
(5)本発明のメタノールの製造方法は、二酸化炭素と水素からメタノールと水を連続的に合成するメタノールの製造方法であって、触媒担持部とガス分離膜とが積層した構造を有した膜反応器を使用し、前記触媒担持部の上流側に二酸化炭素と水素を供給し、前記触媒担持部において、担持された触媒を用いて、二酸化炭素と水素からメタノールと水を合成し、前記ガス分離膜によって、二酸化炭素、水素、メタノールおよび水の混合ガスからメタノールと水を分離して透過させ、前記ガス分離膜を透過したメタノールと水を掃引ガスとともに排出する製造方法であり、前記掃引ガスとして、前記触媒担持部において前記ガス分離膜を透過しなかった混合ガスを使用することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の膜反応器、膜反応器システムおよびメタノールの製造方法は、メタノールの製造に必要なエネルギーを低減させることが可能であり、掃引ガスを供給するための設備を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態の膜反応器の構成を示す模式的断面図である。
【
図2】
図1の膜反応器の模式的断面図の一部分IIを拡大した模式的断面図である。
【
図3】本実施形態の膜反応器システムの構成を示す模式図である。
【
図4】生成したメタノールと水を膜反応器から外部へ排出する方法の構成を示す模式図である。(a)は減圧機を用いる製造方法の構成の模式図である。(b)は不活性ガスを用いる製造方法の構成の模式図である。(c)はブロアーを用いる製造方法の構成の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、詳しく説明する。
【0018】
環境対策として、排ガスや大気中から回収された二酸化炭素を用いて、他の有用な化合物に変換して有効活用しようとする試みが種々行われている。
二酸化炭素と水素からメタノールと水を合成する方法は、既に広く知られている。その反応式は、下記の(1)式となる。また、一酸化炭素を経由する反応として、下記の(2)式と(3)式を経てメタノールが合成される場合もある。
CO2+3H2→CH3OH+H2O ・・・(1)
CO2+H2→CO+H2O ・・・(2)
CO+2H2→CH3OH ・・・(3)
【0019】
上記の反応は、高温で進行するため、反応系中では原料の二酸化炭素と水素も、生成物であるメタノールと水も、ガス(気体)として存在している。
【0020】
上記の反応は、触媒の存在下で進行するが、平衡反応であるため、メタノールの収率を高めるためには、生成物であるメタノールまたは水を反応系の系外に排出させることが有効である。メタノールまたは水を反応系の系外に排出させる手段として、代表的な方法がガス分離膜を有した膜反応器を用いる方法である。
【0021】
本実施形態の二酸化炭素と水素からメタノールと水を連続的に合成するメタノールの製造方法は、触媒担持部とガス分離膜とが積層した構造を有する膜反応器を使用する。
本実施形態のメタノールの製造方法は、膜反応器を用いて、以下の工程を経て行われる。
(a)触媒担持部の上流側に原料ガスである二酸化炭素と水素を供給する。
(b)触媒担持部において、担持された触媒によって、二酸化炭素と水素からメタノールと水を生成させる。
(c)ガス分離膜によって、二酸化炭素、水素、メタノールおよび水の混合ガスからメタノールと水を分離して、透過させる。
(d)ガス分離膜の下流側に掃引ガスを流して、ガス分離膜を透過したメタノールと水を掃引ガスとともに反応系外に排出する。
【0022】
触媒担持部とガス分離膜とが積層した構造を有した膜反応器は、その形態において特に限定されず、平板状、曲面状、筒形状等がある。膜反応器の代表的な形態が、触媒担持部とガス分離膜とを内外層として積層した筒状構造の膜反応器である。触媒担持部が筒状構造の外層を構成し、ガス分離膜が筒状構造の内層を構成する形態が好ましい。
【0023】
図1は、本実施形態の膜反応器20の構成を示す模式的断面図である。
膜反応器20は、円筒形の筒状構造をしている。筒状構造の最外層が内部を保護するための筐体1である。そのすぐ内側に触媒担持部2があり、触媒担持部2の内側にガス分離膜3があり、ガス分離膜3の内側は空洞部4である。
【0024】
二酸化炭素と水素からなる原料ガス9は、膜反応器20の原料ガス注入口5から膜反応器20内の触媒担持部2の外側に供給される。触媒担持部2内において、原料ガス9からメタノールと水が生成する反応が進行する。その結果、触媒担持部2内は、二酸化炭素、水素、メタノールおよび水がガスとして混合した状態で存在する。混合ガスのうち、メタノールと水は、ガス分離膜3を選択的に透過する。メタノールと水は、ガス分離膜3を透過して、ガス分離膜3の内側の空洞部4内に流入する。すなわち、空洞部4とは、ガス分離膜3の下流側に存在し、筒状構造の膜反応器20の内層の内側の空間のことである。
【0025】
膜反応器20の内層の内側の空洞部4内には、掃引ガス11、12が図の向かって左側(上流側)の入口7から流入し、図の向かって右側(下流側)の出口8に向かって流れている。空洞部4内に流入したメタノールと水は、掃引ガス11とともに空間内を流れていき、出口8から排出されて、反応系外に出る。
【0026】
触媒担持部2内に存在していた二酸化炭素、水素、メタノールおよび水からなる混合ガスのうち、ガス分離膜を透過しなかった混合ガス10は、膜反応器20のガス排出口6から膜反応器20の外部へ排出される。
【0027】
本実施形態において、触媒担持部2内には、担体に担持された触媒が充填されている。触媒としては、遷移金属を有する金属触媒が好ましく、遷移金属としては、Cu、Zn等が好ましい。また、担体としては、アルミナ(Al2O3)やシリカ(SiO2)等の金属酸化物からなる担体が好ましい。
【0028】
膜反応器を用いて二酸化炭素と水素からメタノールと水を合成する方法において、生成したメタノールと水を膜反応器から外部へ排出する手段として、上記の掃引ガスを用いる方法にもいくつかの方法が存在する。
【0029】
図4は、生成したメタノールと水を膜反応器から外部へ排出する方法の構成を示す模式図である。
図4(a)は、空洞部内に存在するガスを減圧機61を用いて吸引して、外部へ排出する方法の模式図である。この方法では、減圧機61を設置することが必要であり、減圧機61を稼働させるためのエネルギーが必要となり、エネルギー使用量が増大する。
【0030】
図4(b)は、掃引ガスとして不活性ガスを用いる方法の模式図である。不活性ガスとして、ヘリウムやアルゴンなどを用いる。この方法では、不活性ガスボンベ62を設置することが必要となり、製造コストが増大する。
【0031】
図4(c)は、掃引ガスとして空気を使用し、ブロワーを用いる方法の模式図である。ブロワー64を設置することが必要であり、空気中の水分の影響で反応系中からの脱水効率が低下する。また、外気の状態に影響されて、反応効率が変動するおそれがある。
【0032】
本発明者は、掃引ガスとして、触媒担持部においてガス分離膜を透過しなかった混合ガスを使用することを創案した。
そこで、ガス分離膜を透過しなかった混合ガスを、触媒担持部からガス分離膜の下流側に流通させるバイパス通路を設置した。当該バイパス通路を経由して、ガス分離膜を透過しなかった混合ガスを、ガス分離膜の下流側に供給して、掃引ガスとして使用することを検討した。
【0033】
図3は、本実施形態の膜反応器システムの構成を示す模式図である。
図3には、膜反応器31のガス排出口から、膜反応器31の内層の内側の空間内の掃引ガスの流れの上流側に連通するバイパス通路35が設置されている。ガス分離膜を透過しなかった混合ガスは、当該バイパス通路35を経由して、膜反応器31の内層の内側の空間内の掃引ガスの流れの上流側に流通される。その結果、ガス分離膜を透過しなかった混合ガスを掃引ガスとして使用することが可能となった。
【0034】
ガス分離膜を透過しなかった混合ガスを掃引ガスとして使用すると、掃引ガスを流すために、特にエネルギーを使用する必要がなくなった。また、掃引ガスを流すために、新たな設備を設置することも不要となった。すなわち、
図4(a)、(b)、(c)において課題となっていた問題点を解消することができた。
【0035】
図3の本実施形態の膜反応器システムは、膜反応器31の下流に、冷却手段としての冷却トラップ32を備えている。冷却トラップ32は、二酸化炭素、水素、メタノールおよび水の混合ガスを冷却することによって、メタノールと水を液体として分離し、二酸化炭素と水素をガスとして分離する。また、本実施形態の膜反応器システムは、冷却トラップ32でガスとして分離された二酸化炭素と水素を、膜反応器31の上流側に還流させる還流手段39を備えている。
【0036】
ガス分離膜を透過しなかった混合ガスは、掃引ガスとして膜反応器31の内層の内側の空間内を流れると同時に、ガス分離膜を透過したメタノールと水と一緒になって、反応系外に排出される。排出された混合ガス37のうち、反応の結果生成したメタノールと水は、冷却トラップ32によって液体として分離され、二酸化炭素と水素はガスとして分離される。分離された二酸化炭素と水素は、還流手段39によって膜反応器の上流側に還流されて、再びメタノール製造のための原料ガスとして利用されるため、問題はない。
【0037】
図2は、
図1の膜反応器20の模式的断面図の一部分IIを拡大した模式的断面図である。触媒担持部2内には、二酸化炭素、水素、メタノールおよび水が混合した状態で存在する。一方、空洞部4内には、ガス分離膜を透過しなかった混合ガスを掃引ガスとして使用するため、二酸化炭素と水素とを主体とするガスが混合した状態で存在する。
そうすると、触媒担持部2内は、メタノールおよび水の分圧が高い状態にあり、空洞部4内は、メタノールおよび水の分圧が低い状態にある。そのため、メタノールおよび水は、分圧の高い触媒担持部2内から、ガス分離膜3を介して、分圧の低い空洞部4内に移動しようとする(
図2中、破線の矢印参照)。その結果、触媒担持部2内におけるメタノール合成の平衡反応において、メタノールの収率を高める方向に働くことになる。
二酸化炭素と水素は、触媒担持部2内と空洞部4内のいずれにおいても主成分であり、分圧が高いため、分圧差が生じにくく、ガス分離膜3を介して二酸化炭素と水素が透過することは少ない。
【0038】
図3の本実施形態の膜反応器システムは、冷却トラップ32の下流に、蒸留塔33を備えている。蒸留塔33は、冷却トラップ32によって液体として分離されたメタノールと水の混合物から、蒸留によってメタノールと水とを分離することができる。蒸留塔33は、メタノールと水とを蒸留によって分離する分離手段として代表的なものである。
【0039】
このようにして、本実施形態の膜反応器システムは、二酸化炭素と水素を原料ガスとして、メタノールと水を連続的に合成し、メタノールを得ることを可能とするものである。
【0040】
図3の膜反応器システムの実施形態の変形例として、以下のものがある(不図示)。
膜反応器31のガス分離膜を透過しなかった混合ガスの一部を、バイパス通路35を経由して、膜反応器31の内層の内側の空間内の掃引ガスの流れの上流側に流通させる。そして、膜反応器31のガス分離膜を透過しなかった混合ガスの他の部分は、膜反応器31の原料ガスの流路34に合流させる。このような複数の混合ガスの流路を設けることによって、膜反応器31の内層の内側の空間内の掃引ガスの流量を自由に設定することが可能となる。
【0041】
以上述べてきたように、本実施形態の膜反応器、膜反応器システムおよびメタノールの製造方法は、掃引ガスとしてガス分離膜を透過しなかった混合ガスを用いることによって、メタノールの製造に必要なエネルギーを低減させることが可能であり、掃引ガスを供給するための設備を簡略化することができ、メタノールの収率を高めることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 筐体
2 触媒担持部
3 ガス分離膜
4 空洞部
5 原料ガス注入口
6 ガス排出口
7 入口
8 出口
9 原料ガス
10 混合ガス
11 掃引ガス
12 掃引ガス
20 膜反応器
31 膜反応器
32 冷却トラップ
33 蒸留塔
34 原料ガスの流路
35 バイパス通路
37 混合ガス
39 還流手段