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特許7398454車両用サスペンション、及び仮想ステアリングピボットを用いた駆動機構
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  • 特許-車両用サスペンション、及び仮想ステアリングピボットを用いた駆動機構 図1
  • 特許-車両用サスペンション、及び仮想ステアリングピボットを用いた駆動機構 図2
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  • 特許-車両用サスペンション、及び仮想ステアリングピボットを用いた駆動機構 図9A
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  • 特許-車両用サスペンション、及び仮想ステアリングピボットを用いた駆動機構 図10
  • 特許-車両用サスペンション、及び仮想ステアリングピボットを用いた駆動機構 図11
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】車両用サスペンション、及び仮想ステアリングピボットを用いた駆動機構
(51)【国際特許分類】
   B60G 3/20 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
B60G3/20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021526760
(86)(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-08
(86)【国際出願番号】 AU2019000142
(87)【国際公開番号】W WO2020097661
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】2018904353
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】521063188
【氏名又は名称】アプライド・エレクトリック・ビークル・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・ブロードベント
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-201342(JP,A)
【文献】特開2015-214273(JP,A)
【文献】特開2004-090822(JP,A)
【文献】特開平05-058127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵可能な車輪のためのサスペンション及び駆動機構であって、
回転軸を有し、かつ内側及び外側のホイールエッジによって定義される車輪幅を有する前記車輪、を支持するために適合された車輪支持アセンブリと、
前記車両のシャーシ構造と前記車輪支持アセンブリとの間に連結された前後のアッパーコントロールアームと、
使用中に前記車両のシャーシ構造と前記車輪支持アセンブリとの間に連結される前後のロアコントロールアームと、
ステアリングコントロールアセンブリと前記車輪支持アセンブリとの間に連結されたステアリングアームと、を含み、
前記前後のアッパーコントロールアームと、前記前後のロアコントロールアームと、はそれぞれボールジョイントを介して前記シャーシ構造と前記車輪支持アセンブリとに結合され、
前記前後のアッパーコントロールアームは、前記回転軸よりも上方、かつ前記車輪の内周よりも内側で、前記車輪支持アセンブリに連結され、
前記前後のロアコントロールアームは、前記回転軸よりも下方、かつ前記車輪の内周よりも内側で、前記車輪支持アセンブリに連結されて、
前記前後のアッパーコントロールアーム及び前記前後のロアコントロールアームが、前記車輪支持アセンブリのための仮想ステアリングピボット軸を確立するように角度が付けられており、
前記仮想ステアリングピボット軸は、前記回転軸の横方向に延び、前記車輪の幅内に位置し、
前記仮想ステアリングピボット軸の位置は、前記ステアリングアームによって制御される前記車輪支持アセンブリのステアリング角度に応じて変化し、
前記サスペンション及び前記駆動機構は、操舵可能な前記車輪内に配置され、前記車輪を駆動するための電気駆動部を含み、
前記仮想ステアリングピボット軸上にある仮想ピボットのうちの少なくとも1つが、前記車輪のステアリング走行の少なくとも1つのポイントにおいて、前記電気駆動部が占める容積内に存在する、サスペンション及び駆動機構。
【請求項2】
請求項1に記載のサスペンション及び駆動機構であって、
前記コントロールアームは、前記車輪が操舵を必要とするエンベロープを最小化するように配置され
前記車輪が操舵に必要とするエンベロープを最小化するために、ステアリング軸の地面との接触点が、操舵中の前記車輪に対して、旋回外側の車輪では後方に、旋回内側の車輪では前方に並進する、サスペンション及び駆動機構。
【請求項3】
請求項1に記載のサスペンション及び駆動機構であって、
前記仮想ステアリングピボット軸の変化により、前記車輪の外側を上げ、かつ前記車輪の内側を下げることで、前記車両の旋回時のボディロール効果を低減する、サスペンション及び駆動機構。
【請求項4】
請求項1に記載のサスペンション及び駆動機構であって、
前記前後のアッパーコントロールアームがウィッシュボーンサスペンションアームに置き換えられている、サスペンション及び駆動機構。
【請求項5】
請求項1に記載のサスペンション及び駆動機構であって、
前記前後のアッパーコントロールアームの代わりに、前記車輪支持アセンブリに堅く動かないように取り付けられたサスペンションストラットが取り付けられている、サスペンション及び駆動機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用サスペンション、及び仮想ステアリングピボットを用いた駆動機構に関する。本発明は、特に、電動車を参照して説明されている。
【背景技術】
【0002】
広範囲な道路交通のための電気自動車の導入には、車両の設計とエンジニアリングに多くの機会と課題があり、特に、完全自立型又は半自律型の電気自動車を検討している場合はなおさらである。最も重要な機会の1つは、電気自動車が持つ潜在的な効率性を活用することである。電気自動車をより効率的に運用する方法としては、車両全体の重量を減らすこと、蓄積されたエネルギーから車両の動きへの変換効率(例えばドライブトレインの効率)を最適化すること、及び所与のプラットフォームで利用可能な車体サイズと室内スペースを最適化することなどがある。
【0003】
自動車の駆動に適した電気駆動部(ドライブアセンブリ)は、自動車内のモータの配置に大きな柔軟性をもたらす。内燃機関は、その大きさと複雑さから、エンジンを(少なくとも横方向に)中央に配置し、機械的なトランスミッションを介して2つ以上の車輪を駆動することを必要とする一方、よりコンパクトな電気モータは、車両構造内に様々な方法で配置することができる。例えば、四輪電気自動車では、前輪及び/又は後輪のアセンブリのそれぞれに電気駆動ユニットを組み込み、前輪及び/又は後輪を直接駆動することができます。これにより、機械的な伝達ロスを減らして効率を向上させたり、パワートレインの部品数を減らして軽量化を図ったりすることができる。
【0004】
さらに、操舵に使用される車両の2つ又は4つの車輪は、操舵車輪の操作に応じてロックトゥロックへと移動する際の車輪の移動円弧のために、車体内にかなりのスペースが必要である。特に、車輪にダイレクトドライブモータを搭載した車両では、ステアリングピボット点の最適な配置が制限される。
【0005】
上から見ると、車輪の最外周から、ステアリング操作時にホイールアセンブリが回転するピボット点(仮想キングピン)までの距離によって、車輪の操舵に必要なエンベロープが決定される。
【0006】
このピボット点がタイヤの中心を垂直に貫いていれば、タイヤがそれ自身の軸で回転するため、この距離は最小となり、必要なエンベロープも最小となる。実際には、従来の車両では、この位置にピボット点を配置することは困難であり、自己センタリング性がなく、ドライバからのフィードバックが制限されるなど、車両のハンドリング特性が低下してしまう。
【0007】
そのため、ピボット点は通常、キングピンやステアリングアームの位置によって定義される車輪の内側のエッジに隣接しており、車両のステアリングとハンドリングのダイナミクスのためにこのスペースをトレードオフにする必要があるため、必要なエンベロープは最小限に抑えられない。
【0008】
アッカーマン・ステアリングは、この概念をさらに推し進め、ステアリングの動きを2つのピボットに分け、それぞれの車輪のハブの近くに1つを配置することで、ステアリング時のタイヤの擦れを最小限にしている。
【0009】
サスペンションの動きによってキャンバやディレクショナルアライメント(トーイン、トーアウト)が変化し、この基本的なステアリングのジオメトリが複雑になり、さらにキャスタ角、キャンバ角、キングピンの傾き、オフセット又はスクラブ半径によってさらに複雑になる。これらの調整はいずれも、想定される全てのすべての車速において、特定の車両のハンドリング特性を導入又は低減するように設計されている。多くの場合、ハンドリング特性は、車両の走行速度が上がるほどに低下する。
【0010】
これらの要因が組み合わさって、車体の下には、車輪が車両のシャーシや車体に拘束されずにロックトゥロックへと自由に動くことができるように、かなりの面積を確保する必要がある。
【0011】
キャスタ角は、ステアリングにある程度の「自己センタリング性」を持たせるために従来のステアリング機構に導入されている。これにより、車両の方向安定性を高め、ふらつきを抑えることができる。キャスタ角の設定が不適切であると、ドライバは曲がっているときも曲がっていないときもステアリング車輪を動かす必要があり、直進性を維持することが困難になる。
【0012】
完全な自律制御に必要な電子制御式ステアリングを車両に搭載した場合、ステアリング操作の作動は、特に車両が旋回から直進方向に戻るときに、ヒステリシス効果をもたらす自然な自己センタリング性と衝突する可能性がある。この場合、オーバーシュートを抑えるためにステアリング応答をどれだけ減衰させるかと、車両を素早く旋回させるためのステアリングのダイナミックレスポンスと、の間でトレードオフの関係が生じる。
【0013】
さまざまな理由によって車両の全体的な寸法が重要である。電気自動車の場合、走行速度や車両サイズに基準があり、それに基づいてデザインやコンプライアンスの基準が適用される。コンパクトな車両サイズを維持しながら、室内スペースを最大限に確保することは困難である。そのため、車内空間を最大限に活用するためには、ホイールアーチやホイール外周部の乗員エリアへの侵入を最小限することが重要である。
【0014】
上記を考慮して、本発明の実施形態は、特に自律型電気道路車両に適用する場合において、車両の操舵可能な車輪のための改良されたサスペンション及び駆動機構を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【0015】
本発明の一態様は、以下のように構成される。
車両の操舵可能な車輪のためのサスペンション及び駆動機構は、
回転軸を有し、かつ内側及び外側のホイールエッジによって定義される車輪幅を有する前記車輪、を支持するために適合された車輪支持アセンブリと、
前記車両のシャーシ構造と前記車輪支持アセンブリとの間に連結された前後のアッパーコントロールアームと、
使用中に前記車両のシャーシ構造と前記車輪支持アセンブリとの間に連結される前後のロアコントロールアームと、
ステアリングコントロールアセンブリと前記車輪支持アセンブリとの間に連結されたステアリングアームと、を含み、
前記前後のアッパーコントロールアームと、前記前後のロアコントロールアームと、はそれぞれボールジョイントを介して前記シャーシ構造と前記車輪支持アセンブリとに結合され、
前記前後のアッパーコントロールアームは、前記回転軸よりも上方、かつ前記車輪の内周よりも内側で、前記車輪支持アセンブリに連結され、
前記前後のロアコントロールアームは、前記回転軸よりも下方、かつ前記車輪の内周よりも内側で、前記車輪支持アセンブリに連結されて、
前記前後のアッパーコントロールアーム及び前記前後のロアコントロールアームが、前記車輪支持アセンブリのための仮想ステアリングピボット軸を確立するように角度が付けられており、
前記仮想ステアリングピボット軸は、前記回転軸の横方向に延び、前記車輪の幅内に位置し、
前記仮想ステアリングピボット軸の位置は、前記ステアリングアームによって制御される前記車輪支持アセンブリのステアリング角度に応じて変化し、
前記サスペンション及び前記駆動機構は、操舵可能な前記車輪内に配置され、前記車輪を駆動するための電気駆動部を含み、
前記仮想ステアリングピボット軸上にある仮想ピボットのうちの少なくとも1つが、前記車輪のステアリング走行の少なくとも1つの時点において、前記電気駆動部が占める容積内に存在する、サスペンション及び駆動機構。
【0016】
好ましくは、前記コントロールアームは、前記車輪が操舵を必要とするエンベロープを最小化するように配置されている。
【0017】
好ましくは、前記コントロールアームは、前記車輪が操舵を必要とするエンベロープを最小化するために、前記仮想ステアリングピボット軸が前記車輪のコンタクトパッチの上で実質的に垂直に保たれるように配置されている。
【0018】
好ましくは、前記車輪のステアリング回転の終了時に、前記車輪が操舵に必要とするエンベロープを最小限にするために、前記仮想ピボットが前記車輪のコンタクトパッチの中心よりも実質的に垂直になっている。
【0019】
好ましくは、前記車輪が操舵に必要とするエンベロープを最小化するために、ステアリング軸の地面との接触点が、操舵中の前記車輪に対して、旋回外側の車輪では後方に、旋回内側の車輪では前方に並進する。
【0020】
好ましくは、前記車輪のキャスタ軸の地面との接触点が、前記車輪の直進時と旋回時に実質的に同じ位置に保たれる。
【0021】
好ましくは、前記仮想ステアリングピボット軸の変化により、前記車両のドロップ効果を低減し、当該ドロップ効果の低減によりステアリングの自己センタリング効果を最小化する。
【0022】
好ましくは、前記仮想ステアリングピボット軸の変化により、旋回時に前記車輪の外側を上げることで、前記車両のボディロール効果を低減する。
【0023】
好ましくは、別の実施形態では、前記前後のアッパーコントロールアームがウィッシュボーンサスペンションアームに置き換えられている。
【0024】
好ましくは、別の実施形態では、前記前後のロアコントロールアームがウィッシュボーンサスペンションアームに置き換えられている、
【0025】
好ましくは、さらなる実施形態では、前記前後のアッパーコントロールアームの代わりに、前記車輪支持アセンブリに堅く動かないように取り付けられたサスペンションストラットが取り付けられている。
【0026】
先進的なステアリングとサスペンションのジオメトリにより、車両のスペースを有効に活用することができ、ステアリング用のピボットを持つ二輪又は四輪の電気自動車に適用できる。
【0027】
実施形態では、サスペンション機構は、インホイール電気駆動部を採用した電気自動車での利用に適しており、通常、サスペンションのカップリングを配置するために利用される車両ホイール内のスペースが、インホイール電気駆動ユニットの配置によって制約される。電気駆動ユニットは、ブレーキ、ギアボックス、モーターコントローラ、及び冷却システムなどをアセンブリの一部として含むが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本発明は、電気自動車の車輪のサスペンションとステアリングの形状を改良し、操舵される車輪を車体のエンベロープ内に収容するために必要なスペースを最小限にすることを目的とする。本開示のシステムは、高度な運動学的原理を利用して、可変ピボット点を導入する。この可変ピボット点は、所定の操舵角でのフルロックトゥロック走行中にホイールが円弧を移動する際に、結果として得られるホイール位置が車体エンベロープ内の最も好ましい位置になるように移動する。
【0029】
5リンク式サスペンションの構成を採用することで、また、各サスペンションエレメントの長さや接続部を選択することで、ステアリングの操作量に応じて仮想ピボット点を変化させることができます。一対のロアサスペンションコントロールアームと一対のアッパーサスペンションコントロールアームは、ステアリングアームと組み合わされ、車輪の位置を支持及び制御する。
【0030】
上から見ると、仮想ピボット点が、車体内のホイール位置を最適化するために半径の異なる非線形経路で移動する。同時に、キャスタ/バンプステアやその他のサスペンションダイナミクスの制御を維持しながら、一定の旋回角に対してアッカーマンジオメトリの変化率を制御する。
【0031】
各コントロールアームの長さ、及びピボット点のオフセットと位置は、コントロールアームのオーバートラベル、オーバーセンター、又はバインディングを避けるために慎重に選択される。
【0032】
アッパーコントロールアームとロアコントロールアームを外挿すると、その有効な交点にそれぞれの仮想ピボット点ができ、仮想ピボット点を結ぶ線が仮想の可変キングピン軸を表す。
【0033】
走行中のどの位置でも、車体に対して最も有利なポジションをとることで、車輪を車体の下に収容するために必要なエンベロープが削減され、空間を非常に効率的に利用することができ、その結果、車体サイズと全体の重量が削減される。
【0034】
さらに、低速の自律走行車には、5リンク式サスペンションのジオメトリを調整することで、自己センタリングの傾向を取り除き、ステアリングの角度に関わらず方向安定性を維持することができる。このサスペンションと自律制御を組み合わせることで、ステアリングホイールの回転角に目立ったヒステリシスやオーバーシュートがなく、特にセンターに戻るようなステアリングのスムーズな操作が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
本発明のさらなる開示、目的、利点、及び態様は、例示のためだけに与えられているため、本発明を限定するものではない。添付の図面と併せて取られる好ましい実施形態の以下の説明を参照することによって、関連技術の当業者によってより好適に理解され得る。
【0036】
図1】本発明の一実施形態に係るサスペンションシステムの実施に適した車両の側面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るサスペンションシステムを車両のシャーシに取り付けた状態を示す平面及び正面を含む斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係るサスペンションシステムの平面及び正面を含む斜視図であり、車両のシャーシとボディから切り離された関連する車輪を示す。
図4】一実施形態のサスペンションシステムを分離して見た内部正面図である。
図5】サスペンションシステムの正面図である。
図6】サスペンションシステムの下側の正面を含む斜視図である。
図7】サスペンションシステムの正面図である。
図8】本発明の一実施形態における仮想ピボット点の移動を俯瞰して示す図である。
図9A】本発明の一実施形態における仮想ピボット点の移動を側面から見た図である。
図9B】本発明の一実施形態における仮想ピボット点の移動を側面から見た図である。
図10】最適化された車体のステアリングのエンベロープの配置を示す説明図である。
図11】従来のサスペンション取り付け方法を採用したホイールの注釈付きの図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
電気自動車のサスペンション及びステアリングシステムの一実施形態について、添付図面を参照しながら以下に説明する。本実施形態に開示されるサスペンションシステムは、以下の点に対処する。
【0038】
・仮想的な車輪のピボット点を生成するための5リンク式配置の設計とエンジニアリング。この配置により、インホイールモータなどの電気駆動部の搭載が可能になるとともに、トルクステアやバンプステアに関連する車両のハンドリング特性が最適化される。
【0039】
・車両のサスペンションの機構とジオメトリの設計とエンジニアリングにより、車輪の関節エンベロープの最大寸法を縮小し、同じ車両長でより広い室内スペースを確保できる効率的な車両パッケージングを実現する。
【0040】
・ステアリング時に車両のアウトボード側に可変重量をジャッキアップするためのサスペンションシステムとジオメトリの設計とエンジニアリング。これにより、車両の安定性、走行中の接地性、及び搭乗者の快適性が向上する。
【0041】
・5リンク式サスペンション及びインホイールモータドライブのプラットフォーム(車両のサスペンション)での運用に最適化されたステアリングの配置。
【0042】
図1は、本発明の実施形態におけるサスペンション及びステアリングシステムの実施に適した車両10の一例を示す側面図である。車両10は、シャーシ構造(図示せず)と、前輪14及び後輪16に支持されたボディ12と、を有する。車両10は、前輪14及び後輪16それぞれの中に取り付けられた電気駆動部(アセンブリ)30を有する。前輪14は、使用中の車両の方向を制御するために操縦可能であるが、操縦性を向上させるために後輪16も操縦可能としてもよい。本例では、車両10は、自律的な道路走行に適合した、コンパクトで比較的軽量な、人員を輸送する車両を含む。サスペンション及びステアリングシステムは、これらの制約や特徴を考慮して設計されている。
【0043】
図2には、本実施形態のサスペンションシステムの平面及び正面を含む斜視図が示され、サスペンションシステムは、車両シャーシ18に装着され、サスペンションの構成要素を明らかにするために、それぞれの車輪自体が取り外されている。車両サスペンションアセンブリ40は、車輪支持アセンブリを車両シャーシ18に連結する。図示しているように、車輪支持アセンブリは、電気駆動部30を内蔵するホイールハブ20と、ハブ支持構造(直立部)22と、を含む。車両10の車輪はホイールハブ20に取り付けられ、ホイールハブ20は直立部22に取り付けられる。
【0044】
図3に示すサスペンションアセンブリ40は、左右のフロントサスペンションアセンブリを含み、左右の車輪14L、14Rを示しているが、車両のシャーシを示していない。図4から図7は、サスペンションアセンブリ40を独立させて示す様々な他の図である。
【0045】
サスペンションアセンブリ40は、シャーシ18を直立部22に連結する上下ペアのコントロールアームを含む。具体的には、前後のアッパーコントロールアーム55、50は、使用時に車輪の回転軸の上方でシャーシを直立部に連結し、前後のロアコントロールアーム65、60は、車輪の回転軸の下方でシャーシを直立部に連結する。前後のアッパーコントロールアーム55、50は、それぞれシャーシマウント56、51を有し、それぞれのシャーシマウント56、51にボールジョイントが組み込まれており、シャーシマウントに対するコントロールアームの関節運動を可能にする。前後のアッパーコントロールアームの他端は、同じくボールジョイントを含むマウント57、52で直立部22に連結されている。前後のロアコントロールアームは、同様に、車輪の回転軸の下方に配置され、それぞれのシャーシマウント66、61及び直立マウント67、62を有する。例えば、1以上のスプリング及びダンパーを含むサスペンションストラットアセンブリ80は、84で前方のロアコントロールアーム65に連結されている下端と、使用時に82でシャーシに連結されている上端と、を有する。ステアリングコントロールアセンブリ72と、直立部22へのボールジョイントカップリング71と、の間に延在する、ステアリングアーム70が備えられている。ステアリングアームアップライトカップリング71は、アッパーコントロールアームマウントとロアコントロールアームマウントと、の中間に位置し、そこから前方方向にオフセットされている。
【0046】
この例示的な実施形態では、一対のアッパーコントロールアーム及びロアコントロールアームは、実質的に同様の構成で、それぞれ車輪の回転軸の上及び下に配置されている。この配置において、一対のアッパーコントロールアーム及びロアコントロールアームがそれぞれ仮想ピボット点を確立し、これらの仮想ピボット点間の線は、仮想的で可変なキングピン軸又はステアリング軸を表す。
【0047】
本発明の実施形態によるサスペンションアセンブリによって可能になるサスペンションと、ステアリングのジオメトリと、の効果を、図8、9、及び10に図示する。
【0048】
図8において、ロアコントロールアームとステアリングアームの図示とともに、車両10の前輪を真上から示す。この図は、サスペンションアセンブリによって確立された仮想ピボット点が、ステアリング操作によってどのように動くかを示す。この図は、ステアリングアクシスと地面との接触点が、旋回における外側の車輪では当該車輪に対して後方に移動し、旋回における内側の車輪では当該車輪に対して前方に移動することを示す。このように、走行中のどの時点でも車体に対して当該接触点の最も有利な位置を採用することで、車輪を車体の下に収容するために必要なエンベロープが低減し、空間を非常に効率的に利用することができ、その結果、車体のサイズと全体の重量を低減することができる。
【0049】
サスペンションアセンブリのジオメトリをさらに改良することで、自己センタリング性を排除し、ステアリングの角度に関わらず方向安定性を維持することができる。自律制御を組み合わせる場合、特に中心に戻るステアリング操作を、ステアリングホイールの回転角に目立ったヒステリシスやオーバーシュートもなく、スムーズに行うことができる。
【0050】
図9は、ビークルダイナミクスに影響を与える要因を図示したものであり、高速安定性のためのキャスタ付きフロントサスペンションの一定の荷重/力と、操舵角変更時のキャンバの変化と、を示す。図9Aは、操舵時に接触点が車輪の垂直中心線よりも前方に移動し、自ら中心に戻る操舵効果を奏する従来のサスペンションシステムを示す。接触点の移動は、車輪が前方に向いているときの接触点(90A)と、車輪の向きが変化したときの接触点(91A)と、を比較することでわかる。対照的に、図9Bを参照すると、本発明の実施形態におけるサスペンション及びステアリングシステムは、自動ステアリング車両に特に適した独自のサスペンションジオメトリを可能にしており、ステアリング時には、ステアリングの接触点(91B)を車輪の元の垂直中心線に再配置するために車輪アセンブリを後方に移動させる。つまり、車輪の直線時(90B)と回転時(91B)の接触点は、キャスタ軸に対して実質的に同じ位置にとどまることができる。従って、この配置は、自ら中心に戻る効果を排除し、従来のドライバのフィードバック(自律的に制御される車両には不要及び/又は不利であってもよい)を変更することができる一方で、キャスタ角及びキャスタ角の利点を維持することができる。
【0051】
本発明の実施形態によるサスペンションシステムは、自律走行車に適用可能な制御及びハンドリング特性を扱うだけでなく、操舵された車輪のピボットに対する車体の許容範囲を最適化するために使用することができる。この効果は、左側にインホイール電気駆動アセンブリを備えた車両の車輪の典型的なステアリング配置が図示され、かつ右側に本発明の実施形態によって可能になる最適なエンベロープステアリング配置が図示されている、図10に示されている。
【0052】
上から見たとき、車輪が必要とするエンベロープは、車輪の最外周から、ステアリング操作時に車輪アセンブリが回転するピボット点(仮想キングピンとも呼ばれる)までの距離で決定される。もし、このピボット点がタイヤの中心を垂直に貫いていれば、タイヤがそれ自身の軸で回転するため、この距離は最小になり、必要なエンベロープも最小になる可能性が高い。実際には、ピボット点がこの位置に固定されていると、従来は車両のハンドリング特性が低下すると考えられていたが、自動操舵車両には適している。従って、ピボット点は通常、キングピン又はステアリングアームの位置によって規定される車輪の内側のエッジに隣接して配置されており、車両のステアリング及びハンドリングダイナミクスのためにこのスペースをトレードオフにする必要があるため、必要なエンベロープが最小にならない。しかし、本実施形態に記載されているサスペンション及びステアリングシステムは、好ましい車両ハンドリング特性を維持しながら、操舵された車輪を収容するために必要な車体のエンベロープを最適化することができる。
【0053】
図11は、従来のサスペンション構成を持つ車両の車輪を示す図であり、本実施形態で使用されかつ関連分野で知られている適切な用語を注記したものである。この図で注目すべきは、「スクラブ半径」である。この半径を適切な距離まで小さくすることが、本発明の実施形態の重要な特徴である。通常、インホイール電気駆動とブレーキアセンブリの組み合わせでは、車輪のピボットマウントの配置に制約のために、スクラブ半径が非常に大きくなる。高負荷時には、タイヤがたわんでスクラブ半径がゼロに近づくため、通常はある程度のスクラブ半径が望ましい。また、ブレーキ時や加速時のフィードバックを得るための、スクラブ半径が推奨される。スクラブ半径を大きくすると、ステアリングの据え切りが容易になる。
【0054】
また、図11において注目すべきは、ハブモータとブレーキを備えたインホイール電気駆動部を搭載した車輪では最も位置決めが難しい、ロアボールジョイント(又は仮想ポイント)である。そのため、アッパーボールジョイントは、物理的なシングルボールジョイントを備えた従来のウィッシュボーンの端部によって提供されてもよいが、ロアリンクには一対のコントロールアームを用いて仮想的なステアリングの中心を作る方が有利であると考えられる。さらに、アッパーコントロールアームを、車輪支持アセンブリに堅固に(動かないように)取り付けられたサスペンションストラットに置き換えて、マクファーソンストラット式のロアアーム上の仮想的な中心を使用するバリエーションもある。これと同じ原理で、ロアコントロールアームをウィッシュボーンに置き換え、アッパーリンクを一対のコントロールアームのままとすることも可能である。
【0055】
理解すべきことは、「仮想ピボット軸」は、2つの(上下の)仮想ピボット点を通る線によって生成されることである。再び図8を参照すると、これらの仮想ピボット点75のうちの1つが、車輪支持アセンブリ40(前述の図2に描かれている)の操舵角に応じて変化する一方で、車輪支持アセンブリ40に取り付けられた車輪14の幅内に位置し続けることが図示されている。前述の実施形態では、電気駆動部30は、車輪支持アセンブリ40を介して操舵可能な車輪14内に取り付けられており、各車輪14のための(2つの)仮想ピボット点75のうちの少なくとも1つは、操舵移動の少なくとも1つの時点において、電気駆動部30によって占有される容積内に存在する。電気駆動部30によって占有される容積内にある仮想ピボット点75のこの特徴は、図10に示される「最適なエンベロープステアリング配置」に大きく寄与し、これは、車両10のボディサイズ及び室内空間を最適化するために有利であり、車両10が自律的に道路走行を行う電動車両である場合にはさらに有利である。
【0056】
もう1つの特徴は、図7に示すような、サスペンションストラット80のロアコントロールアーム65への取り付け位置と、サスペンション機構のジオメトリと、の組み合わせによってセルフレベリング又はジャッキアップが可能であることである。図8は、外側の車輪が操縦されると、ロアコントロールアーム65が、旋回における外側の車輪のために後方に回転することを示している。サスペンションストラット80はこのコントロールアーム65に取り付けられているため、この後方回転の作用により、ストラットがより直立した位置に回転し、リンク距離の短縮と、ストラット80をコントロールアーム65に対してより垂直に作用することによるストラット80の速度または有効剛性の増加と、の両方を通じて、このホイールアセンブリを持ち上げる効果が得られる。走行中の車両10が旋回に入ると、重量が外側の車輪に伝達されて、その車輪が垂れ下がり、車両10が回転するが、本実施形態では、上述したジオメトリがこの回転効果に抵抗する。
【0057】
上記した実施形態では、車両10は、4つの操舵可能かつ電気的に駆動される車輪14、16を有する。しかし、図示されていない実施形態では、車両はその車輪のうち2つだけが操舵可能かつ電気的に駆動されてもよいことを理解すべきである。
【0058】
本発明の実施形態の構造及び実装は、非限定的な例としてのみ記載されており、当業者にとっては、多くの追加の変更及び変形例が、本発明の意図及び範囲から逸脱することなく、明らかなものである。
【0059】
本明細書中の文章、装置、行為、又は知識に関する議論は、本発明の背景を説明するために含まれています。これらのいずれかの情報が、本明細書の開示及び特許請求の範囲の優先日又はそれ以前にオーストラリア又は他の地域の関連技術における先行技術基盤又は一般的な知識の一部を形成していることを認めるものとみなされるべきではない。
【0060】
本明細書及び特許請求の範囲では、文脈上他に要求されない限り、「含む」という語、および「含んで」や「含み」などの変化形は、記載された数若しくはステップ、又は数若しくはステップのグループを含むことを意味するが、他の数若しくはステップ、又は数若しくはステップのグループを除外することを意味しないと理解される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11