(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】個別粒子ビームのアジマス偏向用の粒子ビームシステム及び粒子ビームシステムにおけるアジマス補正の方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/147 20060101AFI20231207BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
H01J37/147 B
H01J37/28 B
(21)【出願番号】P 2021573553
(86)(22)【出願日】2020-05-20
(86)【国際出願番号】 DE2020000100
(87)【国際公開番号】W WO2020249147
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-01-17
(31)【優先権主張番号】102019004124.0
(32)【優先日】2019-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】520284322
【氏名又は名称】カール ツァイス マルチセム ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【氏名又は名称】橋本 大佑
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100205833
【氏名又は名称】宮谷 昂佑
(72)【発明者】
【氏名】ハンス フリッツ
(72)【発明者】
【氏名】アンドラーシュ ゲー マイヨール
(72)【発明者】
【氏名】ダーク ツァイトラ―
(72)【発明者】
【氏名】アルネ トーマ
(72)【発明者】
【氏名】イェルク ヤコビ
【審査官】菅原 拓路
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第09666406(US,B1)
【文献】国際公開第2018/122176(WO,A1)
【文献】特開2003-332207(JP,A)
【文献】特開2002-175968(JP,A)
【文献】特開2016-219292(JP,A)
【文献】特開2014-007013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子ビームシステムであって、
複数の荷電した個別粒子ビームを発生させるよう構成されたマルチビーム粒子源と、
前記個別粒子ビームをアジマス方向に偏向させる磁界マルチ偏向器アレイと
を備え、該磁界マルチ偏向器アレイは、
複数の開口を有する導磁性の多孔プレートであり、前記個別粒子ビーム毎に前記多孔プレートの異なる開口を実質的に通過するように前記粒子ビームのビーム経路に配置された導磁性の多孔プレートと、
単独の開口を有する導磁性の第1開孔プレートであり、複数の個別粒子ビームが前記第1開孔プレートの前記単独の開口を実質的に通過するように前記粒子ビームのビーム経路に配置された導磁性の第1開孔プレートと、
なお、前記多孔プレート及び前記第1開孔プレートは、2つの前記プレート間に空洞が形成されるように相互に接続され、
磁界を発生させる第1コイルであり、前記複数の個別粒子ビームが前記コイルを実質的に通過するように前記多孔プレートと前記第1開孔プレートとの間の前記空洞に配置された第1コイルと
を含む粒子ビームシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記第1開孔プレートの前記開口は、前記粒子ビームシステムの光軸と一致する中心点を含む粒子ビームシステム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記多孔プレートは、前記第1開孔プレートの上流で前記個別粒子ビームのビーム経路に配置される粒子ビームシステム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記多孔プレートは、前記第1開孔プレートの下流で前記個別粒子ビームのビーム経路に配置される粒子ビームシステム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記マルチ偏向器アレイはさらに、
単独の開口を有する導磁性の第2開孔プレートであり、前記複数の個別粒子ビームが前記第2開孔プレートの前記単独の開口を実質的に通過するように前記粒子ビームのビーム経路に配置された導磁性の第2開孔プレートと、
なお、前記多孔プレート及び前記第2開孔プレートは、2つの前記プレート間に第2空洞が形成されるように相互に接続され、
磁界を発生させる第2コイルであり、前記複数の個別粒子ビームが前記第2コイルを実質的に通過するように前記多孔プレートと前記第2開孔プレートとの間の前記第2空洞に配置された第2コイルと
を含み、該第2コイルの巻き方向は、前記第1コイルの巻き方向と逆である粒子ビームシステム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記マルチ偏向器アレイの前記プレートのうち少なくとも1つの透磁率μ
rは、
μ
r≧500
である粒子ビームシステム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記マルチ偏向器アレイの前記プレートのうち少なくとも1つは、以下の材料:鉄、ニッケル、コバルト、フェライト、ミューメタル、ナノ結晶金属の少なくとも1つを含む粒子ビームシステム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記マルチ偏向器アレイの前記導磁性のプレートのうち少なくとも1つの厚さは30μm以上である粒子ビームシステム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記多孔プレートの前記開口、及び/又は前記第1開孔プレー
トの前記開口は円形である粒子ビームシステム。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記多孔プレートの前記開口の直径dは、d≦150μmである粒子ビームシステム。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記多孔プレートの前記開口の配置は六角形である粒子ビームシステム。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、少なくとも1つのコイルが発生させる磁界の強度は設定可能であり、且つ該磁界の強度Bは、B≦5mTである粒子ビームシステム。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、
前記多孔プレートの前記開口付近の磁界を局所的に個別に設定するよう構成されたマルチコイルアレイ
をさらに備え、該マルチコイルアレイは、前記個別粒子ビームが前記マルチコイルアレイのコイルを通過するように前記磁界マルチ偏向器アレイの前記空洞の外部に配置される粒子ビームシステム。
【請求項14】
請求項5に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記第2開孔プレートの前記開口は円形である粒子ビームシステム。
【請求項15】
磁界内に位置付られた試料上の個別粒子ビームのテレセントリシティ設定のための、請求項1~
14のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムの使用。
【請求項16】
特に請求項1~
14のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムを用いた、粒子ビームシステムにおけるアジマス補正の方法であって、
複数の荷電粒子ビームを試料に入射させるステップと、
前記試料に対する前記個別粒子ビームの入射角を確認するステップと、
所定の入射角からの前記入射角の偏差を確認するステップと、
前記偏差をラジアル成分及びアジマス成分に分割するステップと、
偏向電界及び/又は偏向磁界により前記個別粒子ビームに関する前記偏差の前記アジマス成分を補正するステップと
を含む方法。
【請求項17】
請求項
16に記載の方法において、
偏向電界及び/又は偏向磁界により前記個別粒子ビームに関する前記偏差の前記ラジアル成分を補正するステップ
をさらに含む方法。
【請求項18】
請求項
16又は17に記載の方法において、前記アジマス成分を補正するステップは、磁界マルチ偏向器アレイの励磁の計算と、計算された励磁の発生とを含む方法。
【請求項19】
請求項
17に記載の方法において、前記ラジアル成分を補正するステップは、ラジアル補正のための電磁レンズの励磁の計算と、計算された励磁の発生とを含む方法。
【請求項20】
請求項
16~19のいずれか1項に記載の方法において、
前記所定の入射角はテレセントリック照明に対応する、又は
前記所定の入射角は対物レンズのコマフリー点を通る照明に対応する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の粒子ビームを操作する粒子ビームシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
シングルビーム粒子顕微鏡と同様に、マルチビーム粒子顕微鏡を用いて、微視的スケールの物体を分析することができる。これらの粒子顕微鏡を用いて、例えば物体の表面を表すその物体の画像を記録することができる。このようにして、例えば表面の構造を分析することができる。シンブルビーム粒子顕微鏡では、電子、陽電子、ミュオン、イオン等の荷電粒子の単独の粒子ビームを用いて物体を分析するが、マルチビーム粒子顕微鏡では、複数の粒子ビームをこの目的で用いる。束とも称する複数の粒子ビームを同時に物体の表面に指向させる結果として、同じ期間内に走査し分析できる物体の表面の面積は、シングルビーム粒子顕微鏡に比べて大幅に大きい。
【0003】
特許文献1は、平行な電子ビーム束を用いて検査対象の物体を走査するために複数の電子ビームを用いて動作する電子顕微鏡システムの形態の多粒子ビームシステムを開示している。電子ビーム束は、複数の開口を有する多孔プレートに電子源を向けることにより生成された電子ビームにより生成される。電子ビームの電子の一部は多孔プレートに入射してそこに吸収され、ビームのうち別の部分は多孔プレートの開口を通過することで、各開口の下流のビーム経路で電子ビームが整形され、この電子ビームの断面は開口の断面により規定される。さらに、適切に選択された電界が多孔プレートの上流及び/又は下流のビーム経路に与えられることにより、多孔プレートの各開口がそこを通過する電子に対してレンズとして働くことで、多孔プレートから離れて位置する平面に電子ビームが集束するという効果がある。電子ビームの焦点が形成される平面は、下流の光学ユニットにより検査対象の物体の表面に結像され、個々の電子ビームが一次ビームとして集束して物体に入射する。それから、物体から生じる後方散乱電子又は二次電子等の相互作用生成物が生成され、これらが二次ビームを形成するように整形されてさらに別の光学ユニットにより検出器に指向される。検出器では、二次ビームのそれぞれが別個の検出器素子に入射し、当該検出器素子により検出された電子強度が、対応する一次ビームが物体に入射する部位における物体に関する情報を提供する。走査型電子顕微鏡の慣例的な方法で物体の電子顕微鏡写真を生成するために、一次ビーム束は、物体の表面にわたって系統的に走査される。
【0004】
記載の多粒子ビームシステムでは、高分解能及び高スループットが実際の十分且つ有効な使用に非常に重要である。特に、生じる種々のタイプの結像誤差を大幅に減らすことが望ましい。
【0005】
多くの場合、検査対象の物体への粒子ビームのテレセントリック入射が粒子ビームシステムで望まれる。個別粒子ビームは、試料にそれぞれ直交入射する。これには、高度に構造化された物体の場合でも非常に良質の記録を達成できるという利点がある。
【0006】
しかしながら、まさにテレセントリック条件でこそ、磁界内に位置する物体の場合に実施が困難なことがある。実際には、例えば、通常は20mTを超える磁界強度が像平面で生じるように磁界界浸型レンズを対物レンズとして用いる場合に、この問題に直面する。角度偏差又はアジマス偏差が、このとき特別な意味を帯びる。したがって、アジマス偏差を適宜補正することが望ましい。
【0007】
特許文献2は、アジマス偏向に原理上は用いることができる磁界発生手段を開示している。当該特許文献は、この目的で、粒子ビームの移動方向に対して直交方向に磁界を発生する1つ又は複数のコイルを開口内の壁に配置した電磁コイルアレイを提案している。不均一な四極場を用いれば、収差の補正が原理上は可能であり、個別粒子ビームのアジマス偏向が原理上は可能である。しかしながら、電磁コイルアレイを有する磁界発生手段の案は、多くの配線及び絶縁手段を必要とするので製造し難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2005/024881号
【文献】米国特許出願公開第2003/0183773号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、個別粒子ビームの全てについて個別に粒子ビームシステムにおけるアジマス角の容易な設定を可能にする粒子ビームシステムを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、独立特許請求項の主題により達成される。本発明の有利な実施形態は、従属特許請求項から明らかである。
【0011】
この特許出願は、独国特許出願第10 2019 004 124.0号の優先権を主張し、その全範囲の開示を参照により本特許出願に援用する。
【0012】
本発明者らは、磁界におけるアジマス偏向の発生を調査し、これに関して大量の計算及びシミュレーションを行った。発見の1つは、磁界界浸型レンズにおけるラジアル方向及びアジマス方向のテレセントリシティ誤差が、光軸からの個別粒子ビームの距離に実質的に比例することである。よって、適当な補正でこのタイプの誤差を適宜補償することが可能なはずである。
【0013】
本発明の結果として、パラメータをごく僅かに又は1つだけ用いて、それでも個別粒子ビーム毎にそれぞれ適切に所望のアジマス偏向を行うことが単純明快に可能となる。本発明の第1実施形態によれば、これは、磁界の特定の磁界整形により粒子ビームの荷電粒子をほぼ急激に変化する磁界に入射させるか又はほぼ急激に減少する磁界から出射させることにより達成される。これを例示的に説明すると、上記急激に変化する磁界への入射により、一般化角運動量の磁界成分が急変すると言える。これに対して、磁界から出射すると、上記磁界成分は再度ゼロになり、保存則により運動学的な角運動量に変換される。換言すれば、磁界への入射時の荷電粒子の運動学的な角運動量は、磁界からの出射時のものとは異なる。運動学的な角運動量のこの変化は、アジマス偏向に対応する。
【0014】
本発明の第1態様によれば、本発明は、粒子ビームシステムであって、
複数の荷電した個別粒子ビームを発生させるよう構成されたマルチビーム粒子源と、
個別粒子ビームをアジマス方向に偏向させる磁界マルチ偏向器アレイと
を備え、磁界マルチ偏向器アレイは、
複数の開口を有する導磁性の多孔プレートであり、個別粒子ビーム毎に多孔プレートの異なる開口を実質的に通過するように粒子ビームのビーム経路に配置された導磁性の多孔プレートと、
単独の開口を有する導磁性の第1開孔プレートであり、複数の個別粒子ビームが第1開孔プレートの単独の開口を実質的に通過するように粒子ビームのビーム経路に配置された導磁性の第1開孔プレートと、
なお、多孔プレート及び第1開孔プレートは、2つのプレート間に空洞が形成されるように相互に接続され、
磁界を発生させる第1コイルであり、複数の個別粒子ビームがコイルを実質的に通過するように多孔プレートと第1開孔プレートとの間の空洞に配置された第1コイルと
を含む粒子ビームシステムに関する。
【0015】
本発明によれば、少なくとも1つの粒子源が設けられるが、複数の粒子源を設けることも可能である。荷電粒子は、例えば、電子、陽電子、ミュオン、又はイオンその他の荷電粒子であり得る。好ましくは、荷電粒子は、例えば熱電界放出源(TFE)を用いて生成された電子である。しかしながら、他の粒子源を用いることもできる。
【0016】
本発明の中核は、個別粒子ビームをアジマス方向に偏向させる磁界マルチ偏向器アレイである。これは、上記特定の磁界整形を可能にする。この場合、導磁性の多孔プレート及び導磁性の第1開孔プレートは、規定の形状でコイル又は巻線の磁力線を出す又は分布させる磁気レンズの上部及び下部磁極片であると原理上は理解され得る。好ましい変形実施形態によれば、多孔プレートの複数の開口及び第1開孔プレートの単独のより大きな開口は、磁極片の唯一の開口を実質的に表す。つまり、多孔プレートの開口及び第1開孔プレートの単独の開口以外は、多孔プレートと第1開孔プレートとの間に形成された空洞は完全に閉じている。コイルは、空洞の内側壁に位置する。個別粒子ビームの全てがコイルの巻線を通過する。第1開孔プレートの単独のより大きな開口の領域のスカラー磁界強度は、システムの光軸に対して実質的に回転対称である。多孔プレートの個別粒子ビーム用の小さな開口の領域では、これは当てはまらない。ここでは、開口の領域の回転対称性が破れ、荷電粒子が開口を通過すると、磁界強度又は磁束の急変が起こる。
【0017】
本発明の代替的な変形実施形態によれば、多孔プレート及び第1開孔プレートは相互に電気的に絶縁される。2つのプレート間に形成された空洞は、このとき事実上は実質的に完全に閉じるのではなく、例えば周囲ギャップを有し得る。換言すれば、マルチ偏向器アレイの上部及び下部磁極片は相互に絶縁され、2つのプレート又は磁極片に異なる電圧を印加することにより、磁界に加えて電界も発生させることが可能である。こうして発生させた電界は、マルチレンズアレイとして働く。
【0018】
本発明の好ましい実施形態によれば、多孔プレートは、第1開孔プレートの上流で荷電粒子ビームのビーム経路に配置される。この場合、荷電粒子は、磁界マルチ偏向器アレイに入射すると磁束のジャンプを受ける。
【0019】
本発明の代替的な実施形態によれば、多孔プレートは、第1開孔プレートの下流で個別粒子ビームのビーム経路に配置される。この場合、上記ジャンプは磁界マルチ偏向器アレイから出射すると起こる。
【0020】
本発明のさらに別の好ましい変形実施形態によれば、マルチ偏向器アレイはさらに、
単独の開口を有する導磁性の第2開孔プレートであり、複数の個別粒子ビームが第2開孔プレートの単独の開口を実質的に通過するように粒子のビーム経路に配置された導磁性の第2開孔プレートと、
なお、多孔プレート及び第2開孔プレートは、2つのプレート間に第2空洞が形成されるように相互に接続され、
磁界を発生させる第2コイルであり、複数の個別粒子ビームが第2コイルを実質的に通過するように多孔プレートと第2開孔プレートとの間の第2空洞に配置された第2コイルと
を含み、第2コイルの巻き方向は、第1コイルの巻き方向と逆である。
【0021】
本発明のこの変形実施形態において、磁界マルチ偏向器アレイは実質的に対称化される。多孔プレートは、このときマルチ偏向器アレイ内の中央に位置するので、多孔プレートに作用する力が弱くなる。したがって、こうして対称化されたマルチ偏向器アレイの設計には、構造上の利点がある。しかしながら依然として、多孔プレートを通過すると、個別粒子ビームが受ける磁束の急変が起こる。さらに、所望の磁界を整形するために、両方のコイルの巻き方向が相互に逆であることが重要である。コイルの巻き方向は、ここではいずれの場合も技術的な電流の流れの方向で示される。したがって、コイルにおける電流方向の反転は、巻線の構造上の変化がなければ、巻き方向の反転にも対応する。さらに、マルチ偏向器アレイの上部は、マルチ偏向器アレイの下部領域に構造上は全く等しくすることができる。
【0022】
本発明の好ましい実施形態によれば、マルチ偏向器アレイのプレートのうち少なくとも1つ及び/又はプレートの少なくとも1つの導磁性コーティングの透磁率μrは、μr≧500、特にμr≧2,000、μr≧5,000、及び/又はμr≧10,000である。この高い透磁率は、マルチ偏向器アレイの磁界の良好な整形を可能にする。好ましくは、マルチ偏向器アレイのプレートの全て及び/又はプレートの導磁性コーティングの全てが、最大限の透磁率μrを有する。これは、多孔プレートにも第1開孔プレートにも、また場合によっては第2開孔プレートにも当てはまる。さらにこれは、マルチ偏向器アレイの壁領域に、又は多孔プレートと1つ又は複数の単孔プレートとの間の接続部品にも当てはまることが好ましい。
【0023】
本発明の好ましい実施形態によれば、マルチ偏向器アレイのプレートのうち少なくとも1つは、以下の材料:鉄、ニッケル、コバルト、フェライト、ミューメタル、ナノ結晶金属の少なくとも1つを含む。これらの材料は、非常に高い透磁率μrを有する。材料は、プレートのコーティングの形態をとることもできる。
【0024】
本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、マルチ偏向器アレイの磁性プレートのうち少なくとも1つ又は導磁性コーティングの厚さは、30μm以上である。薄い層又はプレートは、特に小さな磁界強度で磁気飽和が既に達成されるので、磁束に対して低い導電率を有する。したがって、ある程度大きなプレート厚を用いることが好ましい。代替として、例えばケイ素でできた非磁性のキャリアプレートを用いることができ、その上に導磁性の層が対応する厚さで施される。マルチ偏向器アレイで必要な磁界強度に関して、通常はプレート厚又は層厚30μmからは磁気飽和に達しなくなる。
【0025】
本発明の好ましい実施形態によれば、多孔プレート及び/又は開孔プレートの開口は円形である。個別粒子ビームが通過する開口の全てが円形であることが好ましい。よって、これは多孔プレートの開口だけでなく、第1開孔プレートの単独の開口にも当てはまり、第2の開孔プレートが設けられる場合はその開口にも当てはまる。開口の幾何学的形状は、磁界整形に影響を及ぼす。円形の開口により、所望の磁界形状を最大限に実現することができる。
【0026】
本発明の好ましい実施形態によれば、多孔プレートの開口の直径dは、d≦150μm、特にd≦50μm及び/又はd≦10μmである。
【0027】
原理上、開口径dは、個別粒子ビームが衝突せずに各開口を通過するのに十分なほど大きくなければならない。よって、個別粒子ビームが多孔プレート自体によって整形されるのではなく、複数の個別粒子ビームが予め形成されている。逆に、選択される開口の直径dが小さいほど、磁界の局所的急変がより達成しやすい。したがって、中間像では、個別粒子ビームのビーム断面が最小であり、したがって多孔プレートの開口の直径をより小さく設計しても粒子ビームを著しくトリミングすることがないので、多孔プレートを中間像に位置決めすることも有利である。
【0028】
本発明のさらに別の実施形態によれば、多孔プレートの開口の配置は六角形である。これは、個別粒子ビームが(nを自然数として一般式3n(n-1)+1に従って)例えば61個又は91個の個別粒子ビームを有する六角形構造に従って配置され、この配置が多孔プレートにも幾何学的に設けられることを意味する。
【0029】
一実施形態において、六角形配置の場合、粒子ビームシステムの光軸が多孔プレートの開口のうち1つの中央を通ることも可能である。これは、幾何学的理由からビーム補正に有利である。
【0030】
さらに、粒子ビームシステムの光軸は、一実施形態では第1開孔プレートの単独の開口の中央を通り得る。上述のように、第2開孔プレートも設けられる場合、粒子ビームシステムの光軸は、同様に第2開孔プレートの単独の開口の中央を通って延びることが好ましい。
【0031】
本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、少なくとも1つのコイルが発生させる磁界の強度は設定可能であり、且つ/又は磁界強度Bは、B≦0.1mT、B≦1.0mT、及び/又はB≦5mTである。特に、間隔0~0.1mT、0~1mT、又は0~5mTの任意の磁界強度が設定可能であるように、コイルを通る電流を変えることが可能である。コイルが1つしかない場合、磁界は、その1つのコイルの磁界のみによって決まる。コイルが2つある場合、第1開孔プレート及び第2開孔プレートの両方が存在し、結果として磁界は2つのコイルにより設定される。両方のコイルを通る電流がこの場合は同じであることが好ましいので、各磁界は同じサイズだが相互に逆向きである。電流又はコイルが発生させる磁界を設定可能である結果として、所望のアジマス偏向を目標通りに設定することができる。強い磁界は強いアジマス偏向をここでは意味し、弱い磁界は弱いアジマス偏向を意味する。設定可能であるべき通常のアジマス偏向角βは、0≦β≦0.1mrad、0≦β≦1mrad、及び/又は0≦β≦5mradである。
【0032】
本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、粒子ビームシステムはさらに、
多孔プレートの開口付近の磁界を局所的に個別に設定するよう構成されたマルチコイルアレイ
を備え、マルチコイルアレイは、個別粒子ビームがマルチコイルアレイのコイルを通過するように磁界マルチ偏向器アレイの空洞の外部に配置される。例えば、マルチコイルアレイを多孔プレート上の外部に配置することが可能である。重要なのは、コイルがここでは多孔プレート内又は開口内に着座するのではなく、実際には多孔プレートの外部又はマルチ偏向器アレイの外部にあることである。このように、個別粒子ビームのマルチ偏向器アレイへの入射及び/又はマルチ偏向器アレイからの出射時に不良が起こらない。その代わりに、マルチコイルアレイは、必要であれば、アジマス偏向の個別の後調整(前調整)又は後補正(前補正)を可能にする。原理上、アジマス偏向はマルチ偏向器アレイで行われ続け、マルチコイルアレイは、個別粒子ビーム毎のアジマス偏向に行われ得る微調整のためのものに過ぎない。マルチコイルアレイの個々のコイルの磁界強度も、それに応じて個別に設定することができる。
【0033】
本発明の第2態様によれば、本発明は、粒子ビームシステムであって、
複数の荷電した個別粒子ビームを発生させるよう構成されたマルチビーム粒子源と、
個別粒子ビームをアジマス方向に偏向させるアジマス偏向器であり、時間変動磁界を発生させてアジマス方向の渦電界を発生させる手段を含むアジマス偏向器と
を備えた粒子ビームシステムに関する。よって、本発明のこの第2変形実施形態は、この場合も、個別粒子ビームのアジマス方向の偏向を可能にする場が極めて目標通りに生成されることに基づく。この変形実施形態において、これは、渦電界の形態で存在して磁界の時間的変動により発生する電界である。
【0034】
時間変動磁界を発生させる手段は、粒子ビームシステムの光軸と一致する軸を有し且つ個別粒子ビームを通過させるように配置されたコイルを含むことが好ましい。よって、コイルの巻線は、粒子ビームシステムの個別粒子ビームの全てを取り囲むする。
【0035】
アジマス方向の渦電界の強度を磁界の時間的変動により設定することが可能である。時間的変動が一定である場合、一定の渦電流を発生させることができる。実際的な側面では、磁界の時間的変動は、無制限に続くことはなく、実際の磁界はある時点で最大強度に達する。したがって、本発明の好ましい実施形態によれば、磁界の時間的変動を粒子ビームシステムの走査間隔に適合させることが合理的である。これにより、個別粒子ビームが全ての走査プロセスで同じ渦電界に遭遇することが可能である。
【0036】
本発明の第3態様は、磁界内に位置する試料上の個別粒子ビームのテレセントリシティ補正のための、上述のような変形実施形態の粒子ビームシステムの使用に関する。この場合、個別粒子ビームは、そのアジマス偏差に関してそれぞれ個別に補正され得る。特に、上記使用は、磁界界浸型レンズを対物レンズとして用いる場合の、すなわち個別粒子ビームが試料の領域の磁界により試料に直交はしないが特定の角度で入射する場合の、テレセントリシティ補正に関する。個別粒子ビームのこの回転又は傾斜は、アジマス方向の対応する偏向により上記粒子ビームシステムを用いて補正することができる。
【0037】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明は、特に、限定はされないが、いくつかの変形実施形態において上述したような粒子ビームシステムの使用による、粒子ビームシステムにおけるアジマス補正の方法であって、
複数の荷電粒子ビームを試料に入射させるステップと、
試料に対する個別粒子ビームの入射角を確認するステップと、
既定の入射角からの入射角の偏差を確認するステップと、
偏差をラジアル成分及びアジマス成分に分割するステップと、
偏向電界及び/又は偏向磁界により個別粒子ビームに関する偏差のアジマス成分を補正するステップと
を含む方法に関する。
【0038】
個別粒子ビームの入射角を確認するために、例えば、他の点では同一のビーム誘導の場合に少なくとも2つの画像をステージの異なるZ位置で、すなわち粒子ビームシステムの対物レンズからの物体の距離を変えて記録することができる。2つの画像を相互に比較することができ、比較中に観察された画像内容の変位から入射角を計算することができる。
【0039】
偏差を確認し、各偏差をラジアル成分及びアジマス成分に分割し、続いて偏差のアジマス成分を補正するために、コンピュータプログラムが用いられる。ラジアル成分及びアジマス成分への分割が重要なのは、2つの偏差を異なる偏向器又は補正器を用いて対応して補正できるからである。規定の又は所望の最適な入射角からの偏差のアジマス成分は、特に本発明による上記粒子ビームシステムにより補正することができる。しかしながら、従来技術から既知の他の粒子ビームシステムを本発明による方法に用いることも原理上は可能である。
【0040】
好ましくは、個別粒子ビームに関する偏差のアジマス成分に加えて、ラジアル成分も、偏向電界及び/又は偏向磁界により補正される。好ましくは、このラジアル補正は、アジマス補正とは異なる補正装置又は偏向器により行われる。ラジアル補正は、例えば、個々のビーム全てに全体的に作用する回転対称磁気レンズを用いて達成され得る。代替として、個々のビームを静電マルチ偏向器アレイで個別にラジアル方向に偏向させることが可能である。
【0041】
好ましくは、アジマス成分を補正するステップは、磁界マルチ偏向器アレイの励磁の計算と、計算された励磁の発生とを含む。換言すれば、所望のアジマス偏向を発生させるためにマルチ偏向器アレイの第1及び/又は第2コイルに流れなければならない電流が確認される。代替として、アジマス成分の補正は、アジマス偏向器の時間的な磁界変動の計算と、計算された磁界変動の発生とを含む。
【0042】
さらに別の好ましい変形実施形態によれば、ラジアル成分を補正するステップは、ラジアル補正のための電磁レンズの励磁の計算と、計算された励磁の発生とを含む。
【0043】
さらに別の好ましい変形実施形態によれば、所定の入射角は物体のテレセントリック照明に対応する。テレセントリック照明又はテレセントリック照射は、特に高度に構造化された物体の場合に最良の画像結果を得るのに望ましい。
【0044】
代替として、所定の入射角は、対物レンズのコマフリー点を通る照明又は照射に対応する。この場合、生じる像収差は大幅に少なくなる。
【0045】
本発明の上記例示的な実施形態は、結果として技術的な矛盾が起こらない限り相互に完全に又は部分的に組み合わせることができる。
【0046】
本発明は、添付図面を参照してさらによく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図2】磁界マルチ偏向器アレイの概略断面図を示す。
【
図4】個別粒子ビームのラジアル及びアジマス偏向を概略的に示す。
【
図5】さらに別の磁界マルチ偏向器アレイの概略断面図を示す。
【
図6】2つの開孔プレートを有する磁界マルチ偏向器アレイの概略断面図を示す。
【
図7】付加的なマルチコイルアレイを有する磁界マルチ偏向器アレイの概略断面図を示す。
【
図8】渦電界に基づくアジマス偏向器の概略図を示す。
【
図10】マルチビーム粒子顕微鏡の磁界マルチ偏向器アレイの位置決めの概略図を示す。
【
図11】アジマス補正の方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1は、複数の粒子ビームを用いるマルチビーム粒子顕微鏡1の形態の粒子ビームシステム1の概略図である。粒子ビームシステム1は、検査対象の物体から生じてその後に検出される相互作用生成物、例えば二次電子を生成するために、その物体に入射する複数の粒子ビームを生成する。粒子ビームシステム1は、走査型電子顕微鏡(SEM)タイプであり、複数の場所5で物体7の表面に入射して相互に空間的に離れた複数の電子ビーム点又はスポットをそこで生成する複数の一次粒子ビーム3を用いる。検査対象の物体7は、任意の所望のタイプ、例えば半導体ウェーハ又は生体試料とし、小型化素子等の配置を含み得る。物体7の表面は、対物レンズ系100の対物レンズ102の第1平面101(物体平面)に配置される。
【0049】
図1の拡大詳細
図I1は、第1平面101に形成された入射部位5の正矩形視野103を有する物体平面101の平面図を示す。
図1において、入射部位の数は25個であり、5×5視野103を形成する。入射部位の数25は、説明の単純化の理由から選択された数である。実際には、ビームの、したがって入射部位の数は、大幅に多く、例えば20×30、100×100等になるよう選択することができる。
【0050】
図示の実施形態において、入射部位5の視野103は、隣接する入射部位間が一定の距離P1である実質的に正矩形の視野である。距離P1の例示的な値は、1マイクロメートル、10マイクロメートル、及び40マイクロメートルである。しかしながら、視野103が他の対称性、例えば六方対称性を有することも可能である。
【0051】
第1平面101で整形されたビームスポットの直径は小さくなり得る。上記直径の例示的な値は、1ナノメートル、5ナノメートル、10ナノメートル、100ナノメートル、及び200ナノメートルである。ビームスポット5を整形するための粒子ビーム3の集束は、対物レンズ系100により実行される。
【0052】
物体に入射した一次粒子は、相互作用生成物、例えば、二次電子、後方散乱電子、又は他の理由で運動の逆転を起こした一次粒子を生成し、これらが物体7の表面から又は第1平面101から生じる。物体7の表面から生じる相互作用生成物は、対物レンズ102により整形されて二次粒子ビーム9を形成する。粒子ビームシステム1は、複数の二次粒子ビーム9を検出器系200へ誘導する粒子ビーム経路11を提供する。検出器系200は、二次粒子ビーム9を粒子マルチ検出器209へ指向させる投影レンズ205を有する粒子光学ユニットを含む。
【0053】
図1の詳細
図I2は、二次粒子ビーム9が部位213で入射する粒子マルチ検出器209の個々の検出領域が位置付けられた平面211の平面図を示す。入射部位213は、相互に対して規則的な距離P
2で視野217に置かれる。距離P
2の例示的な値は、10マイクロメートル、100マイクロメートル、及び200マイクロメートルである。
【0054】
一次粒子ビーム3は、少なくとも1つの粒子源301(例えば、電子源)、少なくとも1つのコリメーションレンズ303、多孔装置305、及び視野レンズ307を備えたビーム生成装置300で生成される。粒子源301は、発散粒子ビーム309を生成し、これは、多孔装置305を照明するビーム311を整形するためにコリメーションレンズ303によりコリメート又は少なくとも実質的にコリメートされる。
【0055】
図1の詳細
図I3は、多孔装置305の平面図を示す。多孔装置305は、複数の開口又は開孔315が形成された多孔プレート313を含む。開口315の中心点317は、物体平面101のビームスポット5により形成された視野103に結像される視野319に配置される。孔315の中心点317間の距離P
3の例示的な値は、5マイクロメートル、100マイクロメートル、及び200マイクロメートルであり得る。開孔315の直径Dは、開孔の中心点間の距離P
3より小さい。直径Dの値の例は、0.2×P
3、0.4×P
3、及び0.8×P
3である。
【0056】
照明粒子ビーム311の粒子は、開孔315を通過して粒子ビーム3を形成する。プレート313に入射した照明ビーム311の粒子は、プレート313に吸収されて粒子ビーム3の形成に寄与しない。
【0057】
印加される電界により、多孔装置305は、ビーム焦点323が平面325に形成されるように粒子ビーム3のそれぞれを集束させる。代替として、ビーム焦点323は仮想的であり得る。ビーム焦点323の直径は、例えば10ナノメートル、100ナノメートル、及び1マイクロメートルであり得る。
【0058】
視野レンズ307及び対物レンズ102は、ビーム焦点323が形成される平面325を第1平面101に結像して入射部位5又はビームスポットの視野103をそこに生成するための第1結像粒子光学ユニットを提供する。物体7の表面が第1平面に配置されている場合、ビームスポットも対応して物体表面に形成される。
【0059】
対物レンズ102及び投影レンズ装置205は、第1平面101を検出平面211に結像するための第2結像粒子光学ユニットを提供する。よって、対物レンズ102は第1及び第2粒子光学ユニット両方の一部であるレンズだが、視野レンズ307は第1粒子光学ユニットのみに属し、投影レンズ205は第2粒子光学ユニットのみに属する。
【0060】
ビームスイッチ400が、多孔装置305と対物レンズ系100との間の第1粒子光学ユニットのビーム経路に配置される。ビームスイッチ400は、対物レンズ系100と検出器系200との間のビーム経路の第2光学ユニットの一部でもある。
【0061】
こうしたマルチビーム粒子ビームシステム及びそこで用いられるコンポーネント、例えば粒子源、多孔プレート、及びレンズ等に関するさらなる情報は、国際特許出願である特許文献1、国際公開第2007/028595号、国際公開第2007/028596号、国際公開第2011/124352号、及び国際公開第2007/060017号、及び独国特許出願第10 2013 026 113.4号及び独国特許出願第10 2013 014 976.2号から得ることができ、上記出願の開示の全範囲を参照により本願に援用する。
【0062】
マルチビーム粒子ビームシステムは、マルチビーム粒子ビームシステムの個々の粒子光学コンポーネントを制御するよう構成され且つマルチ検出器209により得られた信号を評価及び解析するよう構成されたコンピュータシステム10をさらに備える。この場合、コンピュータシステム10は、複数の個別コンピュータ又はコンポーネントから構成され得る。
【0063】
ここで、個別粒子ビーム3をアジマス方向に偏向させるために、上記マルチビーム粒子ビームシステムに本発明による磁界マルチ偏向器アレイ500又は本発明によるアジマス偏向器600を組み込むことができる。例えば特に、対物レンズ102が物体7に非常に近接して位置し、且つ対物レンズ102が磁界界浸型レンズとして具現される場合に、これは合理的である。その理由は、その場合に個別粒子ビーム3の偶発的なアジマス偏向が対物レンズ102の磁界で起こるからである。これを、本発明による意図的なアジマス偏向により補償することができる。
【0064】
図2は、磁界マルチ偏向器アレイ500の概略断面図を示す。磁界マルチ偏向器アレイ500は、導磁性の多孔プレート501及び導磁性の第1開孔プレート502を含む。多孔プレート501は、複数の円形の開口506を有し、個別粒子ビームが多孔プレート501の開口506を実質的に通過するように粒子ビームのビーム経路に配置される。粒子ビームシステムの光軸Zも、多孔プレート501の開口506を通って延びる。図示の例では、多孔プレート501は、第1開孔プレート502の上方又は上流の粒子ビームのビーム経路に配置される。第1開孔プレート502は、単独の円形の開口507を有し、全ての個別粒子ビーム3又は少なくとも複数の個別粒子ビームが第1開孔プレート502の単独の開孔を実質的に通過するように粒子のビーム経路に配置される。システムの光軸Zは、ここでは第1開孔プレート502の開口507の中心点を通って延びる。
【0065】
多孔プレート501及び第1開孔プレート502は、実質的に閉じた空間508が2つのプレート501及び502間に形成されるように側部領域503、504を介して相互に接続される。コイル505が、上記空洞508の側方領域に位置付けられる。コイル505の巻き方向は、断面にバツ印又は点で示す。この配置のコイルの磁力線は、光軸Zと実質的に平行である。概して、
図2に示す磁界マルチ偏向器アレイ500の例は、実質的に扁平な中空円筒の幾何学的形状を有する。上記円筒の開口は、多孔プレート501の開口506及び第1開孔プレート502の単独の中央開口507により形成される。それ以外は、配線接続用の開口(図示せず)があるだけである。
【0066】
接続用の側部領域503及び504を含む多孔プレート501及び第1開孔プレート502は、高い透磁率μrを有する材料からそれぞれ形成される。側部領域503及び504を含むプレート501及び502は、ここでは同じ材料でできていることが好ましい。好ましい材料は、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、フェライト、ミューメタル、若しくはナノ結晶金属、又は上記材料の合金である。図示の例のプレート501、502及び側部領域503、504の厚さは、約30μm以上である。対応して高い透磁率μrにより、上記プレート501、502の厚さは、必要な磁界強度に対する磁気飽和を回避するのに十分である。代替として、接続用の側部領域503及び504を含む多孔プレート501及び第1開孔プレート502を、例えばケイ素でできた非磁性のキャリアプレートからそれぞれ形成することが可能であり、その上に上記材料のうち1つでできた磁性層が30μm以上の対応する厚さで施される。コイル505が発生させる磁界の通常の最大磁界強度は、約0.1mT~5mTであり、例えば1mTである。コイル505が発生させる磁界の強度はここでは設定可能である。
【0067】
多孔プレート501の開口506は、個別粒子ビーム3が開口506を通過できるように配置される。よって、開口の幾何学的配置は、システムで用いられる個別粒子ビーム3の幾何学的形状に適合される。特に、多孔プレート501の開口配置は、nを自然数として式3n(n-1)+1に従って六角形であり得る。
【0068】
よって、個別粒子ビーム3は、説明したような磁界マルチ偏向器アレイ500を通過する。
図2は、例として3つのビームS0、S1、及びS2を示す。ビームS0は、多孔プレート501及び単孔プレート502の両方を通ってシステムの光軸Zに沿って移動する。これは、ここではコイル505が発生させた磁界で偏向されない。これに対して、2つのビームS1、S2は、マルチ偏向器アレイ500に軸外で入射する。最初に、これらは光軸Zと平行に多孔プレート501の開口506に入る。続いてこれらは、磁界で偏向され、これを説明のために
図2に誇張して示す。
【0069】
図3は、磁気スカラーポテンシャルの概略図を示す。スカラーポテンシャルは、等電位線SM0、SM1、及びSM2の形態で示す。空洞508内で又はプレート501及び502からかなりの距離で、光軸Zに対して垂直な平面におけるスカラーポテンシャルは一定であり、直線の水平線としてSM0で示すことができる。第1開孔プレート502の開口507の領域では、スカラーポテンシャルの等電位線は僅かに湾曲する。これをSM1で概略的に示す。空洞508の中央及び第1開孔プレート502の開口507内の磁気スカラーポテンシャルの等電位線は、光軸Zに関して回転対称であり、その理由は、第1開孔プレート502の開口507が光軸Zに対して中央に配置され、第1開孔プレート502の開口507の中心点又は質量中心が光軸Z上に位置するからである。
【0070】
多孔プレート501の領域では状況が異なる。ここで、計算及びシミュレーションによれば、SM2で概略的に示すように、開口506のそれぞれの領域では磁気スカラーポテンシャルの等電位線の曲がりが強い。開口506の領域では、これらは対称性の破れの局所的領域である。よって、磁気スカラーポテンシャルは、開口506のそれぞれの領域で急変する。個別粒子ビーム3が多孔プレート501の開口506を通過するとき、磁束はそれによりほぼ急激に変化する。個別粒子ビームの全てが開口506を通過するとき、これらは磁気スカラーポテンシャルの同じ勾配を通過する。これに対して、個別粒子ビームが単孔プレート502の大きな開口507を通過するとき、これらはスカラーポテンシャルの異なる勾配を通過する。
【0071】
アジマス補正の基礎となる効果を、以下のように例示的に説明することができる。磁束の上記急変により、一般化角運動量の磁界成分が個別粒子ビーム3に与えられる。この一般化角運動量は、磁界成分及び運動成分を有する。マルチ偏向器アレイ500をさらに通過してマルチ偏向器アレイ500を離れると、ジャンプがないので、角運動量の上記磁界成分は運動学的な角運動量に変換される。角運動量の上記運動成分の変化は、アジマス偏向に対応する。この偏向の大きさは、ここでは光軸Zからの個別粒子ビーム3の距離に応じて変わる。光軸Zからの個別粒子ビームの距離が大きいほど、上記ビームのアジマス偏向が大きくなる。したがって、個別粒子ビーム3のそれぞれが、光軸Zからのその距離rに特に比例してアジマス方向に個別に偏向される。しかしながら、そのための視野の個別設定は必要なく、唯一必要な磁界は単一のコイル505により個別粒子ビーム3の全てに対して等しく生成される。よって、マルチ偏向器アレイの幾何学的形状又は多孔プレート501及び第1開孔プレート502の特定の配置と、対応する導磁性材料の使用とが、アジマス偏向の効果にとって重要である。偏向の強さは、コイル505を流れる電流により設定することができる。代替として、偏向の強さは、多孔プレート501と単孔プレート502との間の距離により設定することができる。いずれの場合も1つのパラメータのみが変わるが、これにより、光軸Zに対する個別粒子ビーム3それぞれの位置に対応して個別粒子ビーム3毎にアジマス方向の偏向が個別に設定される。
【0072】
図4は、個別粒子ビームのラジアル及びアジマス偏向を示す。
図4a)は、個別粒子ビームS3のラジアル偏向を示す。まず、粒子ビームシステムの光軸Zが示されている。S3は、円Kで示すラジアル偏向素子に光軸Zと平行に入射する軸外ビームである。偏向素子又は円Kは、ここではラジアル平面E
rに対して直交する向きの平面にある。ラジアル平面E
rは、光軸及び個別粒子ビームS3と円Kとの交点により規定される。ビームS3の偏向は、このとき、ビームS3が偏向器Kを通って進んだ後でもラジアル平面E
r内に依然として位置付けられるようなものである。概して、ビームS3は、平面E
r内で角度αだけ偏向される。ラジアル平面E
r内のこのタイプの偏向は、ラジアル偏向を表す。
【0073】
図4b)は、個別粒子ビームS4のアジマス偏向を例として示す。この場合も、中心点Mを有する円Kで示す偏向器の光軸Zが示されている。この偏向器Kは、例えば、
図2及び
図3に示す発明によるマルチ偏向器アレイの多孔プレート501であり得る。個別粒子ビームS4のアジマス偏向は、このときタンジェンシャル平面E
tで起こる。タンジェンシャル平面E
tは、ここでは半径rを有する円Kの接線方向に位置する。アジマス偏向は、ここでは比較的小さく、したがって偏向したビームS4は、アジマス偏向完了後に依然としてほぼタンジェンシャル平面E
t内で移動する。ビームS4は、ここではタンジェンシャル平面E
t内で角度βだけ偏向される。
【0074】
図4c)は、中心点Mを有する円Kを用いたラジアル偏向及びアジマス偏向の組み合わせを概略平面図で再度示す。ラジアル偏向は、ここでは原理上は半径rの方向に起こり、よって中心点Mの方向又は中心点Mから離れる方向を向く。これに対して、アジマス偏向は、水平角φの方向の偏向である。ここで、極座標r及びφをラジアル平面E
r及びタンジェンシャル平面E
t内の各偏向を指す偏向角α及びβと混同すべきではない。
【0075】
図5は、さらに別の磁界マルチ偏向器アレイ500の概略断面図を示す。
図5で用いる参照符号は、
図2及び
図3で既に用いたものに対応する。しかしながら、
図5に示すマルチ偏向器アレイ500の変形実施形態は、多孔プレート501及び単孔(第1開孔)プレート502が相互に電気的に絶縁されていることが
図2及び
図3に示す例示的な実施形態とは異なる。多孔プレート501と単孔プレート502との間に、2つのプレート501及び502を相互に電気的に絶縁する周囲ギャップ513が位置付けられる。代替として、ギャップ513に電気絶縁材料を充填することができる。本発明のこの変形実施形態において、異なる電位を多孔プレート501及び単孔プレート502に印加することが可能である。多孔プレート501と単孔プレート502との間に電位すなわち電圧を印加するために、接続514及び515がそれぞれ設けられる。ここでのギャップ513は、磁束に対する抵抗も形成する。しかしながら、ギャップ513が十分に細い場合、コイル505が発生させた磁界を依然として十分に正確に誘導することができる。
【0076】
図6は、2つの開孔プレート502及び510を有する磁界マルチ偏向器アレイ500の概略図を示す。
図6で用いる参照符号は、
図2のものに対応する。磁界マルチ偏向器アレイ500の図示の配置は、対称化した変形形態を示す。多孔プレート501は、ここではマルチ偏向器アレイ500の中央に、すなわち第1単孔プレート502と第2単孔プレート510との間の中央に位置付けられる。第1開孔プレート501のように、導磁性の第2開孔プレート510も同様に、単独の円形開口511を有し、複数の個別粒子ビーム3が第1開孔プレート502及び第2開孔プレート510の両方を実質的に通過するように粒子ビーム3のビーム経路に配置される。よって、光軸Zは、第1開孔プレート502の単独の開口507の中央及び第2開孔プレート510の単独の開口511の中央の両方を通って延びる。第2空洞509が、多孔プレート501と第2開孔プレート510との間に形成される。第2コイル512がこの空洞509に位置付けられる。この第2コイル512の巻線は、第1コイル505の巻き方向と逆向きである。プレート501、502、及び510の対称配置により、
図2に示す配置の場合と同じアジマス方向の偏向の効果を得ることができる。しかしながら、マルチ偏向器アレイ500の対称設計により、多孔プレート501に作用する力があまり強くないので、この設計が有利である。この実施形態でも、個別粒子ビーム3が多孔プレート501の開口506を通過すると磁気スカラーポテンシャル又は磁束で実際のジャンプが起こる。この例示的な実施形態のプレート501、502、及び510も、ギャップにより相互に電気的に絶縁することができ、さらに異なる電位の印加によりレンズ効果を与えることができる。
【0077】
図7は、付加的なマルチコイルアレイを有する磁界マルチ偏向器アレイ500の概略断面図を示す。全ての(又はほぼ全ての)開口506の上方にそれぞれ1つのコイル517が配置される。コイルのそれぞれが、開口506の1つを包囲する。コイルは、開口506内に着座しない。コイル517は、実質的に円形であり、各コイル軸が光軸Zと平行であるように配置される。よって、各コイル517は個別粒子ビーム3を包囲する。このように、光軸Z上に位置付けられていない全ての開口506でアジマス偏向の個別の後補正が可能であり得る。このような後補正は、光軸Z上に位置付けられている中央開口516には概して必要ない。すなわち、中央の個別粒子ビーム3は通常はアジマス偏向に関して補正する必要がないので、図示の例ではここに位置付けられるコイル517はない。代替として、中央開口516付近にコイル517を配置することも可能である。これは、個別粒子ビームが多孔プレート501の通過時に受け得る磁束の弱まりを補償するのに役立つ。
【0078】
上記例示的な実施形態が、第1及び/又は第2開孔プレートが単独の開口を有すると述べている場合、それは、第1及び/又は第2開孔プレートに、物体に入射して所望のアジマス偏向を受ける複数の又は全ての個別粒子ビームが通過する1つの開口があることを意味する。しかしながら、本発明で得られる効果は、第1及び/又は第2開孔プレートが領域外に位置付けられたさらなる開口を有し、所望のアジマス偏向を受けるべき複数の個別粒子ビームがそこを通過するか、又は上記複数に属さない他の個別粒子ビームがそこを通過する場合には妨げられない。
【0079】
図8は、本発明の代替的な変形実施形態を示す。これは、渦電界の発生に基づくアジマス偏向器600を概略的に示す。これらの渦電界はアジマス偏向を可能にする。上記渦電界は、時間変動磁界により発生する。磁界B自体はコイル605により発生する。このコイル605の巻線は回転対称であり、コイル605は光軸Zと同軸方向に向けられる。よって、電流が流れるコイル605の場合、磁力線Mは光軸Zと実質的に平行である。コイル605における時間変動電流により、このとき磁界Bの強度が経時的に変わる場合、光軸Zの周りで環状方向の渦電界Eが発生する。
【0080】
図9は、
図8のアジマス偏向器600の対応する平面図を示す。光軸Zは中心に位置付けられ、電流が流れるコイル605は2つの外側の円形リングで図示する。渦電界Eは、光軸Zの周りに環状に延びる。個別粒子ビーム3は、このときアジマス偏向器600の通過時に電界Eにより渦電界の方向に偏向される。換言すれば、個別粒子ビームのアジマス角が変わる。この偏向の強さは、磁界の時間的変動が行われる速さに応じて変わる。
【0081】
粒子ビームシステムは、通常は試料又は物体7を走査して照射するので、粒子ビームシステムの走査間隔(帰線時間として知られる)に磁界Bのリセットを適合させることが妥当である。例えば、コイル605を流れる電流が各ライン走査中に一定速度で増減し得る結果として、磁界に関して時間的に一定の変動速度がライン走査中に得られる。帰線中、すなわち粒子ビームをライン開始点に戻す間に、コイル605を流れる電流をその初期値にリセットすることができる。このようにして、粒子ビームは原理上は常に同じ渦電界に遭遇する。
【0082】
図10は、マルチビーム粒子顕微鏡1の磁界マルチ偏向器アレイ500の位置決めの概略図を示す。同様に、アジマス方向の渦電界の発生に基づくアジマス偏向器600を用いることもできる。磁界マルチ偏向器アレイ500の位置は、ここでは概ね柔軟に選択することができる。
【0083】
図10a)において、マルチ偏向器アレイ500は、マルチビーム粒子源付近又は個別粒子ビーム3を形成する多孔プレート313付近に配置される。
図10a)は、発散粒子ビーム309を発生させる粒子源301(例えば、電子源)を具体的に示す。上記ビーム309は、コンデンサ系303を通過する。次に、ビームは多孔プレート313に入射し、個別粒子ビーム3が生成される。上記多孔プレート313の直下流に、図示の例では本発明によるマルチ偏向器アレイ500が位置付けられる。アジマス偏向に関してそこで補正されたビームは、その後のビーム経路で中間像SGを形成した後に、視野レンズ系FLを通過し、最後に対物レンズ102を通して物体7に結像する。対物レンズ102は、特に磁界界浸型レンズであり得るので、物体7は、界浸型レンズ102の磁界内に依然として位置付けられる。磁界界浸型レンズ102の磁界による個別粒子ビーム3の傾斜は、マルチ偏向器アレイ500内でアジマス方向の偏向により補正され得る。マルチ偏向器アレイ500のコイルの電流は、マルチ偏向器アレイ500による個別粒子ビームのアジマス偏向が界浸磁界による個別粒子ビームのそれぞれのアジマス偏向を実質的に補償するように対応して設定される。
【0084】
図10b)に示す例では、マルチ偏向器アレイ500は、中間像SGの領域に位置付けられる。これには、
図10a)に示す例とは異なり、物体7上のビーム3の位置が設定偏向角の変更時に大きく変わらないという利点がある。しかしながら、マルチ偏向器アレイ500の他の位置決めも原理上は可能である。
【0085】
図11は、アジマス補正の方法のフローチャートを示す。第1ステップS1において、物体7を照射する。これは、複数の荷電した個別粒子ビーム3が試料7に入射することを意味する。さらなるステップS2において、適当な装置を用いて試料7への個別粒子ビーム3の入射角を確認する。個別粒子ビームの入射角を確認するために、例えば、他の点では同一のビーム誘導の場合に、対物レンズからの物体の距離を変えて物体の少なくとも2つの画像を記録することができる。2つの画像を相互に比較することができ、比較中に観察された画像内容の変位から入射角を計算することができる。ステップS3において、確認した入射角の全てについて、規定の最適な又はその他既定の入射角からの入射角の偏差を確認する。これらの最適な入射角は、概して各結像に特に有利な所望の角度である。例えば、最適な入射角は、個別粒子ビームが試料に直交入射するテレセントリック照明に対応することが可能である。事前に選択された最適な入射角は、対物レンズのコマフリー点を通る照明に対応することも可能である。
【0086】
さらなるステップS4において、確認した偏差をラジアル成分及びアジマス成分に分割する。ラジアル成分及びアジマス成分を、続いて別個に補正することができる。したがって、方法ステップS5において、偏向電界/偏向磁界を用いてアジマス偏差を補正する。追加として又は代替として、方法S6において、個別粒子ビームに関する偏差のラジアル成分を、偏向電界及び/又は偏向磁界を用いて補正することができる。方法ステップS5及びS6の順序はここでは任意であり、偏差の同時又は部分的に同時の補正も原理上は可能である。
【0087】
ステップS5におけるアジマス成分の補正は、ここでは特に、磁界マルチ偏向器アレイ500の励磁の計算と、計算された励磁の発生とを含む。換言すれば、例えば、多孔プレート501で磁界における所望の磁界ジャンプ及び/又は所望の対称性の破れを引き起こし、さらにアジマス方向の所望の偏向をもたらす所望の磁界を発生させるために、第1コイル505に流れなければならない電流が計算される。さらに、第2コイル512がある場合、その第2コイル512に流れなければならない電流を求めることもできる。電流レベルを第1コイル505の電流レベルと同一に選択することが特に可能だが、第1コイル505の巻き方向は第2コイル512の巻き方向とは異なる。さらに、存在し得る任意のマルチコイルアレイのコイル517も、各自の電流レベルに関して計算して設定することができる。代替として、多孔プレート501と第1単孔プレート502及び場合によっては第2単孔プレート510との間のプレート距離を計算して設定することができる。いずれの場合も設定すべき使用パラメータの値は、ルックアップテーブルに記憶することができ、その内容は本発明による方法の実行中に評価される。
【0088】
同様に、角度偏差のラジアル成分の補正は、ラジアル補正のための電磁レンズの励磁の計算と、計算された励磁の発生とを含む。代替として、ラジアル補正は、静電マルチ偏向器アレイで行うことができ、関連する電位を計算し発生させることができる。
【0089】
本発明によるマルチ偏向器アレイ500又はアジマス偏向器600を有する記載の粒子ビームシステムは、特にアジマス補正に用いることができる。しかしながら、従来技術から既知の他の偏向装置で、アジマス及び/又はラジアル方向の補正が原理上は可能である。しかしながら、実際には、本発明による方法は、本発明によるアジマス偏向器500、600で特に容易且つ明快に実行することができる。