(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】試料中の非結合C5の定量化方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20231207BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20231207BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20231207BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20231207BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20231207BHJP
【FI】
G01N33/53 R
G01N33/543 501A
G01N33/543 575
C12Q1/02
C12N15/13
C12N15/12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022010933
(22)【出願日】2022-01-27
(62)【分割の表示】P 2019520719の分割
【原出願日】2017-10-19
【審査請求日】2022-01-27
(32)【優先日】2016-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503102674
【氏名又は名称】アレクシオン ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】マーク ダイシンガー
(72)【発明者】
【氏名】マーク マ
(72)【発明者】
【氏名】ブルース アンドリアン
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-151738(JP,A)
【文献】特開昭59-005958(JP,A)
【文献】特表2016-520542(JP,A)
【文献】国際公開第2016/151558(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗C5抗体での治療前および治療後のヒト患者から得た試料中で、非結合のヒトC5補体タンパク質(C5)を定量化する方法であって、前記方法が、
a.
ストレプトアビジン被覆粒子に対して、ビオチン化抗C5捕捉抗体を結合させることであって、該ビオチン化抗C5捕捉抗体が、該
ストレプトアビジン被覆粒子を含むカラムを備えるGyros Bioaffy 200コンパクトディスク(CD)に毛細管作用によって付着して、該CDがGyrolab xPloreまたはGyrolab XP機器内で遠心力を受けることによって、該ビオチン化抗C5捕捉抗体が、該カラム中の該
ストレプトアビジン被覆粒子へと動かされることと、
b.該試料中の非結合C5を捕捉することであって、該試料が毛細管作用によって該CDに付着して、該CDがGyrolab xPloreまたはGyrolab XP機器内で遠心力を受けることによって、該試料が、該カラム中の該
ストレプトアビジン被覆粒子に結合した該ビオチン化抗C5捕捉抗体へと動かされることと、
c.捕捉されたC5を検出することであって、アレクサフルオール(AlexaFluor)標識抗C5検出抗体が、毛細管作用によって該CDに付着し、該抗C5検出抗体が、該捕捉抗体によって結合されるエピトープとは異なるエピトープにおいてC5に結合し、該CDがGyrolab xPloreまたはGyrolab XP機器内で遠心力を受けることによって、該検出抗体が、該カラム中の該
ストレプトアビジン被覆粒子に結合された該捕捉抗体に結合されたC5へと動かされることと、
d.レーザー誘導蛍光検出を使用して、捕捉されたC5を定量化することと、
を含み、該治療前の試料が少なくとも1:20で希釈され、該治療後の試料が約1:2で希釈される、方法。
【請求項2】
工程dから得たデータを、C5枯渇試料に添加した既知の量のC5から作成した標準曲線と比較することによって、C5抗体の濃度または量を計算することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試料の希釈に、Rexxip A緩衝液が使用され、前記検出抗体の希釈に、Rexxip F緩衝液が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記機器を、
0.1%のTween(登録商標) 20および0.02%のアジ化ナトリウムと共にPBSを含む洗浄緩衝液ならびにpH11緩衝液を用いて別個に二回プライミングすることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記Gyros Bioaffy 200 CDが、前記抗C5抗体について0.015μg/mL~300μg/mLのダイナミックレンジを持つ、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記治療後の試料が約1:30希釈で希釈される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記試料が、ヒト患者から得た血清試料または血漿試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記患者が抗C5抗体での治療を受けている、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記患者が、
(a)配列番号9、10、11の配列を有する重鎖CDR1、CDR2、CDR3ドメインと、配列番号12、13および14の配列を有する軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3ドメイン;または
(b)配列番号28、29、11の配列を有する重鎖CDR1、CDR2、CDR3ドメインと、配列番号12、13および14の配列を有する軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3ドメイン
を含む抗体での治療を受けている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記抗C5検出抗体が、N19-8(マウス抗ヒトC5抗体)である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表の組み込み
本出願は配列表を含んでおり、該配列表はASCIIフォーマットで電子的に提出されたものであり、かつその全体が参照により本明細書に援用される。このASCIIコピーは2017年10月18日に作成され、1900-426PCT_SL.txtという名称であり、サイズは54,331バイトである。
【0002】
本発明は、免疫関連疾患および遊離(非結合)薬剤標的の定量化アッセイの分野に関する。
【背景技術】
【0003】
補体タンパク質C5は、補体カスケードの重要な成分であり、エクリズマブおよびALXN1210などの薬物の標的である。この標的が適切に定量化されることは、疾患状態のモニタリング、モデリング、投薬量選択、ラベル・クレームなどのために不可欠である。遊離標的の捕捉試薬として薬剤を使用した多くのリガンド結合アッセイフォーマットは、試料のインキュベーション中に、捕捉試薬が既にマトリックス中の薬剤に結合した標的との動的平衡を作ることがあるという点で、本質的に不備がある。この平衡により、アッセイは、マトリックス中の遊離標的の量を過大評価することが可能であり、これによって潜在的に不正確なモデリング、投薬選択、データファイリング、およびラベル・クレームにつながる。
【0004】
リガンド結合アッセイにおけるこの過大評価を克服するための共通戦略は、試料のインキュベーション時間を短縮することであり、これによって捕捉試薬がマトリックス中の薬剤から結合した標的を引き出す機会が減少する。これを達成するためには、被覆試薬の濃度を5倍ほど増加させる必要性がしばしばあるが、これは短縮された試料インキュベーションの効果を本質的に最小化することがある。また、治療前の試料は、治療後の試料よりもずっと高いレベルで遊離標的を持つ傾向があり、しばしば状況毎に異なる試料の希釈を必要とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、試料からの遊離(非結合)ヒトC5補体タンパク質(C5)を定量化する方法を提供するものであって、該方法が、
a.ストレプトアビジン被覆粒子に対して、ビオチン化抗C5捕捉抗体を結合させることであって、前記ビオチン化抗C5捕捉抗体が、ストレプトアビジン被覆粒子を含むカラムを備えるGyros Bioaffy 200 CDに毛細管作用によって付着して、該CDがGyrolab xPloreまたはGyrolab XP機器内で遠心力を受けることによって、ビオチン化抗C5捕捉抗体が、カラム中のストレプトアビジン被覆粒子へと動かされることと、
b.試料中の遊離(非結合)C5を捕捉することであって、該試料が毛細管作用によってCDに付着して、前記CDがGyrolab xPloreまたはGyrolab XP機器内で遠心力を受けることによって、試料が、カラム中のストレプトアビジン被覆粒子に結合した前記ビオチン化抗C5捕捉抗体へと動かされることと、
c.捕捉された遊離C5を検出することであって、アレクサフルオール(AlexaFluor)標識抗C5検出抗体が、毛細管作用によってCDに付着して、該抗C5検出抗体が、捕捉抗体によって結合されるエピトープとは異なるエピトープにおいてC5に結合し、前記CDがGyrolab xPloreまたはGyrolab XP機器内で遠心力を受けることによって、該検出抗体が、前記カラム中のストレプトアビジン被覆粒子に結合された捕捉抗体に結合された遊離C5へと動かされることと、
d.レーザー誘導蛍光検出を使用して、捕捉された遊離C5を定量化することと、を含む。
【0006】
本開示を制限することなく、本開示の多数の実施形態を説明の目的で以下に記載する。
【0007】
項1 試料からの遊離(非結合)ヒトC5補体タンパク質(C5)を定量化する方法であって、該方法が、a.ストレプトアビジン被覆されたメソスケールディスカバリー(Meso Scale Discovery(登録商標))(MSD(登録商標))96ウェルアッセイプレートに対して、ビオチン化抗C5捕捉抗体を結合させることと、b.試料を該プレートに添加することによって、試料中の遊離(非結合)C5を捕捉することと、c.sulfo-tag標識した抗C5検出抗体をプレートに添加することにより捕捉された遊離C5を検出することと、d.電気化学発光を使用して、捕捉された遊離C5を定量化することと、を含むものであって、試料が約1:2で希釈され、試料が氷上に保持され、工程b~cは約15~30分であり、ビオチン化抗C5捕捉抗体は、約5μg/mLの濃度で添加される、方法。
【0008】
項2 試料からの遊離(非結合)ヒトC5補体タンパク質(C5)を定量化する方法であって、該方法が、a.ストレプトアビジン被覆粒子に対して、ビオチン化抗C5捕捉抗体を結合させることであって、前記ビオチン化抗C5捕捉抗体が、前記ストレプトアビジン被覆粒子を含むカラムを備えるGyros Bioaffy 200 CDに毛細管作用によって付着して、該CDがGyrolab xPloreまたはGyrolab XP機器内で遠心力を受けることによって、前記ビオチン化抗C5捕捉抗体が、前記カラム中のストレプトアビジン被覆粒子へと動かされることと、b.前記試料中の前記遊離(非結合)C5を捕捉することであって、前記試料が毛細管作用によって前記CDに付着して、前記CDがGyrolab xPloreまたはGyrolab XP機器内で遠心力を受けることによって、前記試料が、前記カラム中の前記ストレプトアビジン被覆粒子に結合した前記ビオチン化抗C5捕捉抗体へと動かされることと、c.捕捉された遊離C5を検出することであって、アレクサフルオール(AlexaFluor)標識抗C5検出抗体が、毛細管作用によって前記CDに付着して、該抗C5検出抗体が、捕捉抗体によって結合されるエピトープとは異なるエピトープにおいてC5に結合し、前記CDがGyrolab xPloreまたはGyrolab XP機器内で遠心力を受けることによって、検出抗体が、前記カラム中の前記ストレプトアビジン被覆粒子に結合された捕捉抗体に結合された前記遊離C5へと動かされることと、d.レーザー誘導蛍光検出を使用して、捕捉された遊離C5を定量化することと、を含む方法。
【0009】
項3 工程dから得たデータを、項1の方法を使用してC5枯渇試料に添加した既知の量のC5から作成した標準曲線と比較することによって、遊離C5抗体の濃度または量を計算することをさらに含む、項1に記載の方法。
【0010】
項4 工程dから得たデータを、項2の方法を使用してC5枯渇試料に添加した既知の量のC5から作成した標準曲線と比較することによって、遊離C5抗体の濃度または量を計算することをさらに含む、項2に記載の方法。
【0011】
項5 Gyros Evaluatorソフトウェアを用いて遊離C5抗体の濃度を計算することをさらに含む、項3に記載の方法。
【0012】
項6 前記試料がヒト患者から獲得される、先行する項のいずれか一つに記載の方法。
【0013】
項7 前記試料が血清試料または血漿試料である、項6に記載の方法。
【0014】
項8 患者を抗C5抗体で治療している、先行する項のいずれか一つに記載の方法。
【0015】
項9 前記患者をエクリズマブで治療している、項8に記載の方法。
【0016】
項10 前記患者をALXN1210で治療している、項8に記載の方法。
【0017】
項11 前記ビオチン化捕捉抗体がエクリズマブまたはALXN1210である、先行する項のいずれか一つに記載の方法。
【0018】
項12 抗C5検出抗体がN19-8(マウス抗ヒトC5抗体)である、先行する項のいずれか一つに記載の方法。
【0019】
項13 試料の希釈に、Rexxip A緩衝液が使用され、検出抗体の希釈に、Rexxip F緩衝液が使用される、項2の方法。
【0020】
項14 Gyros機器を、Bioaffy wash 1およびpH11緩衝液を用いて別個に二回プライミングすることをさらに含む、項2の方法。
【0021】
項15 試料が患者からのヒト血清試料であり、抗C5抗体で治療する前および治療した後の患者の血清試料の遊離C5が定量化され、治療前および治療後の試料の両方が同じ希釈で希釈される、項2の方法。
【0022】
項16 治療前および治療後の試料の両方が1:20~1:30の希釈で希釈される、項15に記載の方法。
【0023】
特定の態様では例えば以下の項目が提供される:
(項目1)
試料からの遊離(非結合)ヒトC5補体タンパク質(C5)を定量化する方法であって、前記方法が、
a.ストレプトアビジン被覆されたメソスケールディスカバリー(Meso Scale Discovery((登録商標)))(MSD(登録商標))96ウェルアッセイプレートに対して、ビオチン化抗C5捕捉抗体を結合させることと、
b.前記試料を前記プレートに添加することによって、前記試料中の前記遊離(非結合)C5を捕捉することと、
c.sulfo-tag標識した抗C5検出抗体を前記プレートに添加することにより前記捕捉された遊離C5を検出することと、
d.電気化学発光を使用して、捕捉された遊離C5を定量化することと、を含むものであって、
前記試料が約1:2で希釈され、前記試料が氷上に保持され、工程b~cは約15~30分であり、前記ビオチン化抗C5捕捉抗体は、約5μg/mLの濃度で添加される、方法。
(項目2)
試料からの遊離(非結合)ヒトC5補体タンパク質(C5)を定量化する方法であって、前記方法が、
a.ストレプトアビジン被覆粒子に対して、ビオチン化抗C5捕捉抗体を結合させることであって、前記ビオチン化抗C5捕捉抗体が、ストレプトアビジン被覆粒子を含むカラムを備えるGyros Bioaffy 200 CDに毛細管作用によって添加されて、前記CDがGyrolab xPloreまたはGyrolab XP機器内で遠心力を受けることによって、前記ビオチン化抗C5捕捉抗体が、前記カラム中の前記ストレプトアビジン被覆粒子へと動かされることと、
b.前記試料中の前記遊離(非結合)C5を捕捉することであって、前記試料が毛細管作用によって前記CDに添加されて、前記CDが前記Gyrolab xPloreまたはGyrolab XP機器内で遠心力を受けることによって、前記試料が、前記カラム中の前記ストレプトアビジン被覆粒子に結合した前記ビオチン化抗C5捕捉抗体へと動かされることと、
c.捕捉された遊離C5を検出することであって、アレクサフルオール(AlexaFluor)標識抗C5検出抗体が、毛細管作用によって前記CDに添加されて、前記抗C5検出抗体が、前記捕捉抗体によって結合されるエピトープとは異なるエピトープにおいてC5に結合し、
前記CDが前記Gyrolab xPloreまたはGyrolab XP機器内で遠心力を受けることによって、前記検出抗体が、前記カラム中の前記ストレプトアビジン被覆粒子に結合された前記捕捉抗体に結合された前記遊離C5へと動かされることと、
d.レーザー誘導蛍光検出を使用して、前記捕捉された遊離C5を定量化することと、を含む方法。
(項目3)
工程dから得たデータを、項目1記載の方法を使用してC5枯渇試料に添加した既知の量のC5から作成した標準曲線と比較することによって、遊離C5抗体の濃度または量を計算することをさらに含む、項目1記載の方法。
(項目4)
工程dから得たデータを、項目2記載の方法を使用してC5枯渇試料に添加した既知の量のC5から作成した標準曲線と比較することによって、遊離C5抗体の濃度または量を計算することをさらに含む、項目2記載の方法。
(項目5)
Gyros Evaluatorソフトウェアを用いて遊離C5抗体の濃度を計算することをさらに含む、項目3記載の方法。
(項目6)
前記試料がヒト患者から得られる、項目1から5のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
前記試料が血清試料または血漿試料である、項目6記載の方法。
(項目8)
患者が抗C5抗体で治療されている、項目1から7のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
前記患者がエクリズマブで治療されている、項目8記載の方法。
(項目10)
前記患者がALXN1210で治療されている、項目8記載の方法。
(項目11)
前記ビオチン化捕捉抗体がエクリズマブまたはALXN1210である、項目1から10のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
検出抗C5抗体がN19-8(マウス抗ヒトC5抗体)である、項目1から11のいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
試料の希釈に、Rexxip A緩衝液が使用され、前記検出抗体の希釈に、Rexxip F緩衝液が使用される、項目2記載の方法。
(項目14)
前記Gyros機器を、Bioaffy wash 1およびpH11緩衝液を用いて別個に二回プライミングすることをさらに含む、項目2記載の方法。
(項目15)
前記試料が患者からのヒト血清試料であり、抗C5抗体を用いた前記患者の治療前および治療後の血清試料の前記遊離C5が定量化され、前記治療前および治療後の試料の両方が同じ希釈で希釈される、項目2記載の方法。
(項目16)
前記治療前および治療後の試料の両方が1:20~1:30の希釈で希釈される、項目15記載の方法。
本発明のこれらおよびその他の態様に従って、多数のその他の態様が提供される。本発明のその他の特徴および態様は、以下の発明を実施するための形態および添付の特許請求の範囲からより完全に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【0025】
【
図2】
図2は、7個体のドナーの血清の平行性を示すグラフである。
【0026】
【
図3】
図3は、7個体のドナー血清の平行性を示す。
【0027】
【
図4-1】
図4Aおよび
図4Bは、早期の医薬品開発業務受託機関(CRO)へのアッセイの移管の結果を示す。
【
図4-2】
図4Cは、早期CRO移管結果における選択性を示す。
【0028】
【
図5】
図5は、MRD(minimum required dilution(最小必要希釈率))は30が最適であることを示す。
【0029】
【
図6】
図6は、キャリーオーバー評価でキャリーオーバーがないことを示す。
【0030】
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書で使用される場合、名詞の前の「a」または「複数の」という語は、特定の名詞のうちの一つ以上を表す。例えば、「哺乳動物細胞」という語句は、「一つ以上の哺乳動物細胞」を表す。
【0032】
「哺乳動物細胞」という語は当技術分野で公知であり、例えば、ヒト、ハムスター、マウス、ミドリザル、ラット、ブタ、ウシ、ハムスター、またはウサギを含む、任意の哺乳動物からのまたは由来の任意の細胞を指すことができる。一部の実施形態では、哺乳動物細胞は、不死化細胞、分化細胞、未分化細胞、幹細胞などであり得る。
【0033】
本明細書で使用される場合、「対象(subject)」および「患者」という語は区別せずに使用される。患者または対象は、ヒト患者またはヒト対象でありうる。
【0034】
「組換えタンパク質」という語は当技術分野で公知である。簡潔に述べると、「組換えタンパク質」という語は、細胞培養系を使用して製造することができるタンパク質を指すことができる。細胞培養系の細胞は、例えば、ヒト細胞を含む哺乳動物細胞、昆虫細胞、酵母細胞、または細菌細胞に由来することができる。一般的に、細胞培養中の細胞は、関心の組換えタンパク質をコードする導入核酸を含有する(この核酸は、プラスミドベクターなどのベクター上で生じ得る)。組換えタンパク質をコードする核酸は、タンパク質をコードする核酸に動作可能に連結された異種プロモーターを含むこともできる。
【0035】
「免疫グロブリン」という語は当技術分野で公知である。簡潔に述べると、「免疫グロブリン」という語は、免疫グロブリンタンパク(例えば、可変ドメイン配列、フレームワーク配列、または定常ドメイン配列)の少なくとも15個のアミノ酸(例えば、少なくとも20、30、40、50、60、70、80、90、または100個のアミノ酸、または100個以上のアミノ酸)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを指すことができる。例えば、免疫グロブリンは、例えば、軽鎖免疫グロブリンの少なくとも15個のアミノ酸、例えば、CDR H3などの重鎖免疫グロブリンの少なくとも15個のアミノ酸を含むことができる。免疫グロブリンは、単離された抗体(例えば、IgG、IgE、IgD、IgA、またはIgM)であってもよい。免疫グロブリンは、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)のサブクラスであってもよい。免疫グロブリンは、抗体断片、例えば、Fab断片、F(ab’)2断片、またはscFvとすることができる。免疫グロブリンはまた、少なくとも一つの免疫グロブリンドメインを含む改変タンパク質とすることができる(例えば、融合タンパク質)。改変タンパク質または免疫グロブリン様タンパク質はまた、二重特異性抗体もしくは三重特異性抗体、または二量体、三量体もしくは多量体の抗体、またはダイアボディ、DVD-Ig、CODV-Ig、Affibody(登録商標)もしくはNanobody(登録商標)とすることができる。免疫グロブリンの非限定的な例が本明細書に記載されており、免疫グロブリンのさらなる例は当技術分野で公知である。
【0036】
「改変タンパク質(engineered protein)」という語は当技術分野で公知である。簡潔に述べると、「改変タンパク質」という語は、生物体(例えば、哺乳動物)内に存在する内因性核酸によって自然にコードされるのではないポリペプチドを指すことができる。改変タンパク質の例には、改変酵素であって、該改変酵素の安定性および/もしくは触媒活性の増加をもたらす一つ以上のアミノ酸の置換、欠失、挿入または付加を伴う改変酵素、融合タンパク質、ヒト化抗体、キメラ抗体、二価抗体、三価抗体、四結合ドメイン抗体、ダイアボディ、ならびに、少なくとも一つの組換えscaffold配列を含有する抗体結合タンパク質が挙げられる。
【0037】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という語は区別なく使用され、当技術分野で公知であり、長さまたは翻訳後修飾に関わらず、アミノ酸の任意のペプチド結合連結鎖を意味することができる。
【0038】
「抗体」という語は当技術分野で公知である。「抗体」という語は、「免疫グロブリン」という語と区別なく使用されうる。簡潔に述べると、それは、二つの軽鎖ポリペプチドと二つの重鎖ポリペプチドとを含む全抗体を指すことができる。全抗体には、IgM、IgG、IgA、IgD、及びIgE抗体を含む異なる抗体アイソタイプが含まれる。「抗体」という語は、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ化抗体またはキメラ抗体、ヒト化抗体、霊長類化抗体(primatized antibody)、脱免疫化抗体、および完全ヒト抗体を含む。抗体は、例えば、ヒトなどの哺乳動物、非ヒト霊長類(例えば、オランウータン、ヒヒ、またはチンパンジー)、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、アレチネズミ(gerbil)、ハムスター、ラット、およびマウスなどの種々の種のいずれかにおいて作られるか、またはそれらに由来しうる。抗体は、精製抗体または組換え抗体とすることができる。抗体はまた、少なくとも一つの免疫グロブリンドメインを含む改変タンパク質または抗体様タンパク質とすることができる(例えば、融合タンパク質)。改変タンパク質または抗体様タンパク質はまた、二重特異性抗体もしくは三重特異性抗体、または二量体、三量体もしくは多量体の抗体、またはダイアボディ、DVD-Ig、CODV-Ig、Affibody(登録商標)もしくはNanobody(登録商標)とすることができる。
【0039】
「抗体断片」、「抗原結合断片」という語、または類似の語は、当技術分野で公知であり、例えば、標的抗原(例えば、ヒトC5)に結合して該標的抗原の活性を阻害する能力を保持する抗体の断片を指す。かかる断片としては、例えば、一本鎖抗体、一本鎖Fv断片(scFv)、Fd断片、Fab断片、Fab’断片、またはF(ab’)2断片が挙げられる。scFv断片は、scFvの由来となる抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域との両方を含む一本鎖ポリペプチドである。さらに、細胞内抗体(intrabody)、ミニボディ(minibody)、トリアボディ(triabody)、およびダイアボディもまた、抗体の定義内に含まれ、本明細書に記載の方法での使用に適合する。例えば、Todorovska et al.(2001)J Immunol Methods 248(1):47-66;Hudson and Kortt(1999)J Immunol Methods 231(1):177-189;Poljak(1994)Structure 2(12):1121-1123;Rondon and Marasco(1997)Annual Review of Microbiology 51:257-283を参照されたい。抗原結合断片は、重鎖ポリペプチドの可変領域、および軽鎖ポリペプチドの可変領域も含みうる。従って、抗原結合断片は、抗体の軽鎖ポリペプチドおよび重鎖ポリペプチドのCDRを含むことができる。
【0040】
「抗体断片」という語はまた、例えば、ラクダ化された(camelized)単一ドメイン抗体等である単一ドメイン抗体を含み得る。例えば、,Muyldermans et al.(2001)Trends Biochem Sci 26:230-235;Nuttall et al.(2000)Curr Pharm Biotech 1:253-263;Reichmann et al.(1999)J Immunol Meth 231:25-38;PCT出願国際公開第94/04678号および第94/25591号、ならびに米国特許第6,005,079号を参照されたい。「抗体断片」という語はまた、単一ドメイン抗体が形成されるように修飾を有する二つのVHドメインを含む単一ドメイン抗体を含む。
【0041】
「抗体」という語はまた、「抗原結合断片」および「抗体断片」を含む。
【0042】
「例えば」および「(例えば)~など(等)の」という語およびそれらと文法的に同等なものに関して、「限定されない」という語句は、別段の明示がない限り、以下に従うことが理解される。本明細書で使用される場合、「約」という語は、実験誤差による変動を考慮することを意味する。本明細書に報告されるすべての測定値は、別段の明示がない限り、「約」という語が明文で用いられていても用いられていなくても、「約」という語によって変形されるものと理解される。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈により別途明確に指示されない限り、複数の指示対象を含む。
【0043】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって通常理解される意味と同じ意味を有する。本発明で使用するための方法および材料が本明細書に記載されており、当技術分野で公知のその他の適切な方法および材料も使用できる。材料、方法、および実施例は単に例示的なものであり、限定することを意図していない。本明細書に記載されるすべての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリー、およびその他の参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。矛盾する場合、定義を含めて本明細書が考慮される。
【0044】
補体系
【0045】
周知のように、補体系は、体の他の免疫系と共に作用することで、細胞病原体およびウイルス病原体の侵入に対して防御する。少なくとも25個の補体タンパク質がある。補体成分は、複雑だが正確な一連の酵素的切断および膜結合イベントにおいて相互作用することにより、それらの免疫防御機能を達成する。その結果である補体カスケードが、オプソニン作用、免疫調節作用および溶解作用を有する産物の産生を導く。
【0046】
補体カスケードは、古典経路(「CP」)、レクチン経路(「LP」)、または副経路(「AP」)を経て進行することができる。レクチン経路は典型的には、高マンノースである基質にマンノース結合レクチン(「MBL」)が結合することにより開始される。APは抗体と独立であることができ、病原体表面上の特定の分子によって開始されうる。CPは、典型的には、標的細胞上の抗原部位の抗体認識および該抗原部位への結合によって開始される。これらの経路は、C3転換酵素に収束するが、これは補体成分C3が活性プロテアーゼによって切断されてC3aおよびC3bが得られる点である。
【0047】
APのC3転換酵素は、補体成分C3の自発的な加水分解によって始動されるが、これは血液中の血漿内に豊富である。このプロセスはまた、「tickover」としても知られており、C3におけるチオエステル結合の自発的な開裂を経て生じ、C3iまたはC3(H2O)を形成する。tickoverは、活性化されたC3の結合をサポートする、および/または中性もしくは陽性の電荷特性を持つ表面(例えば、細菌細胞表面)の存在によって促進される。このC3(H2O)の形成が、血漿タンパク質因子Bの結合を可能にし、これは次に因子Dにより因子BがBaおよびBbに切断される。Bb断片はC3に結合したままであり、C3(H2O)Bb-「液相(fluid-phase)」または「開始(initiation)」のC3転換酵素、を含有する複合体を形成する。少量で生成されるのみであるが、液相C3転換酵素は、複数のC3タンパク質をC3aおよびC3bに切断することができ、C3bの生成とその後のある表面(例えば、細菌表面)へのC3bの共有結合とが結果として生じる。表面結合性C3bに結合した因子Bは、因子Dによって切断されて、それによってC3b、Bbを含有する表面結合性AP C3転換酵素複合体を形成する。例えば、Muller-Eberhard(1988)Ann Rev Biochem 57:321-347を参照されたい。
【0048】
APのC5転換酵素-(C3b)2,Bb-は、第二のC3bモノマーがAP C3転換酵素に付加すると形成される。例えば、Medicus et al.(1976)J Exp Med 144:1076-1093およびFearon et al.(1975)J Exp Med 142:856-863を参照されたい。第二のC3b分子の役割は、C5に結合させて、Bbでの切断のためにそれを提示することである。例えば、Isenman et al.(1980)J Immunol 124:326-331を参照されたい。APのC3転換酵素およびC5転換酵素は、例えば、上記したMedicus et al.(1976)に記載されるような、三量体タンパク質プロパージンの付加によって安定化される。しかしながら、プロパージンの結合は、機能的な副経路のC3転換酵素またはC5転換酵素の形成には不用である。例えば、Schreiber et al.(1978)Proc Natl Acad Sci USA 75:3948-3952、およびSissons et al.(1980)Proc Natl Acad Sci USA 77:559-562を参照されたい。
【0049】
CPのC3転換酵素は、C1q、C1r、およびC1sの複合体である補体成分C1が、標的抗原(例えば、微生物抗原)に結合している抗体と相互作用することによって形成される。C1のC1q部分が抗体抗原複合体に結合することで、Clrを活性化させるものであるC1の構造変化が生じる。活性C1rは次に、C1に会合したC1sを切断し、それによって活性型セリンプロテアーゼが生成する。活性C1sは、補体成分C4をC4bおよびC4aに切断する。C3bと同様に、新たに生成されたC4b断片は、標的表面(例えば、微生物細胞表面)上の適切な分子とのアミド結合またはエステル結合を容易に形成する非常に反応性の高いチオールを含有する。C1sはまた、補体成分C2をC2bおよびC2aに切断する。C4bおよびC2aによって形成される複合体は、CPのC3転換酵素であり、これはC3をC3aおよびC3bに処理する能力を有する。CPのC5転換酵素-C4b、C2a、C3b-は、C3bモノマーがCPのC3転換酵素に付加すると形成される。例えば、上記したMuller-Eberhard(1988)、およびCooper et al.(1970)J Exp Med 132:775-793を参照されたい。
【0050】
C3bはまた、C3転換酵素およびC5転換酵素におけるその役割に加えて、マクロファージおよび樹状細胞などの抗原提示細胞の表面上に存在する補体受容体とのその相互作用を通してオプソニンとして機能する。C3bのオプソニン作用は、概して、補体系の最も重要な抗感染機能の一つであると考えられている。C3bの作用を阻害する遺伝子病変を有する患者は、多種多様な病原性生物体に感染しやすく、一方、補体カスケードシーケンス下流の病変を有する患者、すなわち、C5の作用を阻害する病変を有する患者は、ナイセリア(Neisseria)感染のみに対してより感染しやすいため、いくらか感染しやすいのみであることが判明している。
【0051】
APおよびCPのC5転換酵素は、C5を切断するが、これは正常なヒト血清中において約75μg/ml(0.4μM)で見られる190kDaのベータグロブリンである。C5はグリコシル化されており、その質量の約1.5~3パーセントが炭水化物に起因する。成熟C5は、655アミノ酸の75kDaのベータ鎖にジスルフィド結合している、999アミノ酸の115kDaのアルファ鎖のヘテロ二量体である。C5は、単一コピー遺伝子の一本鎖前駆体タンパク質産物として合成される(Haviland et al.(1991)J Immunol.146:362-368)。このヒト遺伝子の転写物のcDNA配列が、18アミノ酸リーダー配列に加えて1658個のアミノ酸のうちの分泌されたプロC5前駆体を予測する。例えば、米国特許第6,355,245号を参照されたい。
【0052】
プロC5前駆体は、655アミノ酸および659アミノ酸の後で切断されて、アミノ末端断片(上記配列のアミノ酸残基+1~655)としてのベータ鎖と、カルボキシル末端断片(上記配列のアミノ酸残基660~1658)としてのアルファ鎖とが得られ、この二つの間にある四個のアミノ酸(上記配列のアミノ酸残基656~659)は欠失している。
【0053】
C5aは、アルファ鎖のうちの最初の74個のアミノ酸(すなわち、上記配列のアミノ酸残基660~733)を含むアミノ末端断片として、副経路または古典経路のいずれかのC5転換酵素によってC5のアルファ鎖から切断される。11kDa質量のC5aの約20パーセントは、炭水化物に起因する。転換酵素作用(convertase action)の切断部位は、アミノ酸残基733においてであるかまたはそれに直接隣接している。この切断部位にまたは隣接して結合することとなる化合物は、C5コンバターゼ酵素が切断部位に接近するのを阻害し、それによって補体阻害剤として作用する可能性がある。切断部位の遠位部位でC5に結合する化合物は、例えば、C5とC5転換酵素との相互作用の立体障害介在性阻害によってC5切断を阻害する可能性もある。化合物はまた、マダニ唾液(tick saliva)の補体阻害剤であるOrnithodoros moubata C阻害剤(OmCI)の作用機序と一致する作用機序において、C5転換酵素のC5切断部位への接近を減少させる、C5のアルファ鎖のC345Cドメインの柔軟性を低下させることによってC5切断を防止しうる。例えば、Fredslund et al.(2008)Nat Immunol 9(7):753-760を参照されたい。
【0054】
C5はC5転換酵素活性以外の手段によって活性化することもできる。制限されたトリプシン消化(例えば、Minta and Man(1997)J Immunol 119:1597-1602およびWetsel and Kolb(1982)J Immunol 128:2209-2216)および酸処理(Yamamoto and Gewurz(1978)J Immunol 120:2008およびDamerau et al.(1989)Molec Immunol 26:1133-1142)により、C5を切断して活性C5bを産生することもできる。
【0055】
C5の切断により、強力なアナフィラトキシンおよび走化性因子であるC5aが放出され、溶解性終末補体複合体C5b-9の形成がもたらされる。C5aおよびC5b-9はまた、加水分解酵素、活性酸素種、アラキドン酸代謝産物、および様々なサイトカインなどの下流炎症因子の放出を増幅することによって、多面発現的な細胞活性化特性も有する。
【0056】
終末補体複合体の形成の第一工程は、C5bをC6、C7、およびC8と組み合わせることを含み、C5b-8複合体を標的細胞表面で形成する。C5b-8複合体がいくつかのC9分子と結合すると、膜傷害複合体(「MAC」、終末補体複合体「TCC」であるC5b-9)が形成される。標的細胞膜に十分な数のMACを挿入すると、それらが作り出す開口(MACポア)が、赤血球などの標的細胞の急速な浸透圧溶解に介在する。非溶解(non-lytic)性の濃度の低いMACは、その他の影響を生じうる。特に、内皮細胞および血小板への少数のC5b-9複合体の膜内挿入は、有害な細胞活性化を引き起こす可能性がある。一部の事例では、活性化が細胞溶解に先行しうる。
【0057】
C3aおよびC5aはアナフィラトキシンである。これら活性化された補体成分は、好塩基球および肥満細胞からのヒスタミン、ならびに、平滑筋収縮、血管透過性亢進、白血球活性化、および、細胞過形成をもたらす細胞増殖を含めた他の炎症性の現象をもたらす他の炎症の介在物質が放出される、肥満細胞の脱顆粒を誘発することがある。C5aはまた、炎症促進性顆粒球を補体活性化部位に引き付ける働きをする走化性ペプチドとして機能する。
【0058】
C5a受容体は、気管支および肺胞の上皮細胞ならびに気管支の平滑筋細胞の表面上で発見される。C5a受容体は、好酸球、肥満細胞、単球、好中球、および活性化リンパ球上でも発見されている。
【0059】
補体系が適切に機能することで、微生物に感染することに対して頑強な防御がもたらされる一方、補体の不適切な制御または活性化が、例えば、関節リウマチ;ループス腎炎;喘息;虚血再灌流障害;非典型溶血性尿毒症症候群(「aHUS」);デンスデポジット病;発作性夜間血色素尿症(PNH);黄斑変性症(例えば、加齢性黄斑変性;溶血、肝酵素上昇および血小板低下の症候群(HELLP症候群);血小板減少性血栓性紫斑病(TTP);自然死産;Pauci-immune型血管炎;表皮水疱症;習慣性流産;多発性硬化症(MS);外傷性脳損傷;ならびに、心筋梗塞、心肺バイパスおよび血液透析から生じた損傷を含む、様々な障害の発症に関与してきた。例えば、Holers et al.(2008)Immunological Reviews 223:300-316を参照されたい。
【0060】
抗C5抗体
【0061】
患者を治療するための本開示の方法で使用するため、捕捉抗体として使用するため、および/または、検出抗体として使用するための抗C5抗体は、任意の抗ヒトC5抗体である。
【0062】
特定の実施形態では、抗C5抗体は、エクリズマブ、その抗原結合断片、エクリズマブの抗原結合断片を含むポリペプチド、エクリズマブの抗原結合断片を含む融合タンパク質、またはエクリズマブの一本鎖抗体バージョンである。
【0063】
一部の実施形態では、補体C5タンパク質はヒト補体C5タンパク質である(ヒト前駆タンパク質は配列番号4で示す)。
【0064】
抗C5抗体は、補体C5タンパク質に結合する抗体であり、それはまたC5aの生成を阻害する能力を有する。抗C5抗体はまた、例えばC5が断片C5aおよびC5bに切断されること等を阻害する能力を有することができるため、終末補体複合体の形成を防止することができる。
【0065】
例えば、抗C5抗体は、C5タンパク質(例えば、ヒトC5タンパク質)のC5a活性断片の生成または活性を阻害する。この阻害作用を通じて、この抗体は、例えばC5aの炎症促進作用等を阻害する。抗C5抗体は、C5bの生成または活性を阻害するための活性をさらに持つことができる。この阻害作用を通じて、この抗体は、例えば細胞の表面におけるC5b-9膜傷害複合体の生成等をさらに阻害することができる。
【0066】
一部の実施形態では、抗C5抗体はエクリズマブである。配列番号5は、エクリズマブの重鎖全体を示す。配列番号6は、エクリズマブの軽鎖全体を示す。配列番号9~11はそれぞれ、エクリズマブの重鎖のCDR1~3を示す。配列番号12~14はそれぞれ、エクリズマブの軽鎖のCDR1~3を示す。配列番号15は、エクリズマブの重鎖の可変領域を示す。また配列番号16は、エクリズマブの軽鎖の可変領域を示す。
【0067】
エクリズマブは、炎症促進性の反応を引き出す可能性を低減するように、ヒトIgG2/IgG4ハイブリッド定常領域をもつ、ヒト化抗ヒトC5モノクローナル抗体(アレクシオンファーマ社(Alexion Pharmaceuticals、Inc.))である。エクリズマブは商品名ソリリス(Soliris(登録商標)))を有し、現在、発作性夜間血色素尿症(「PNH」)および非典型溶血性尿毒症症候群(「aHUS」)の治療用に承認されている。発作性夜間血色素尿症は、溶血性貧血の一種であるが、血管内溶血は補体調節タンパク質CD59およびCD55の欠損に起因する顕著な特徴である。CD59は、例えば、終末補体複合体の形成を阻害する機能がある。aHUSは、とりわけ、スロンボリティック(thrombolitic)な微小血管障害症の阻害、身体全体の微小血管内での凝血の形成、および急性腎不全をもたらす、慢性的な無制御な補体活性化を伴う。エクリズマブはヒトC5タンパク質に特異的に結合し、強力な炎症促進性タンパク質C5aの生成の形成を阻害する。エクリズマブさらに、終末補体複合体の形成を阻害する。エクリズマブによる治療は、PNH患者の血管内溶血を減少させ、aHUSでは補体価を減少させる。例えば、Hillmen et al.,N Engl J Med 2004;350:552-9;Rother et al.,Nature Biotechnology 2007;25(11):1256-1264;Hillmen et al.,N Engl J Med 2006,355;12,1233-1243;Zuber et al.,Nature Reviews Nephrology 8,643-657(2012)| doi:10.1038/nrneph.2012.214;米国特許出願公開第2012/0237515号、および米国特許第6,355,245号を参照されたい。
【0068】
さらに他の実施形態では、抗C5抗体は、パキセリズマブ(pexelizumab)(配列番号1)を含むエクリズマブの一本鎖バージョンである、全抗体エクリズマブの特異的一本鎖バージョンである。例えば、Whiss(2002)Curr Opin Investig Drugs 3(6):870-7;Patel et al.(2005)Drugs Today(Barc)41(3):165-70;Thomas et al.(1996)Mol Immunol 33(17-18):1389-401;および米国特許第 6,355,245号を参照されたい。さらに他の実施形態では、本発明の方法で使用するための阻害剤は、パキセリズマブの一本鎖変異体であるが、パキセリズマブ抗体アミノ酸配列の軽鎖の38位にあるアルギニン(R)(Kabat番号および配列番号2で示したアミノ酸配列番号に従う)がグルタミン(Q)に変更されている。配列番号2で示すアミノ酸配列を有する一本鎖抗体は、一本鎖抗体パキセリズマブ(配列番号1)の変異体であって、38位におけるアルギニン(R)がグルタミン(Q)で置換されている。変異パキセリズマブ抗体(variant pexelizumab antibody)中に存在する例示的なリンカーのアミノ酸配列を、配列番号3で示している。
【0069】
特定の実施形態では、抗C5抗体は、エクリズマブ由来の変異体であり、エクリズマブと比べて一つ以上の改善された特性(例えば、薬物動態特性の改善)を有する。変異エクリズマブ抗体(variant eculizumab antibody)(本明細書ではエクリズマブ変異体、変異エクリズマブ等とも称する)またはそのC5結合断片は、以下のものである:(a)補体成分C5に結合し;(b)C5aの生成を阻害し;C5の断片C5aおよびC5bへの切断をさらに阻害することができる。変異エクリズマブ抗体は、ヒトにおいて、10日を超えるか、または、少なくとも10日(例えば、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33もしくは34日を超えるか、または、少なくとも11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33もしくは34日)の、血清半減期を有することができる。かかる変異エクリズマブ抗体は、国際特許出願PCT/US2015/019225及び米国特許第9,079,949号に記載されている。
【0070】
特定の実施形態では、エクリズマブ変異抗体は、配列番号7(重鎖)および配列番号8(軽鎖)で示す配列によって規定される抗体、またはその抗原結合断片である。この抗体はALXN1210としても知られている。この抗体は、ヒトC5に結合して、またC5aの形成のみならずC5の断片C5aおよびC5bへの切断を阻害するため、終末補体複合体の形成が防止される。
【0071】
特定の実施形態では、エクリズマブ変異体は、BNJ441(配列番号24、配列番号25、および配列番号16で示す配列を含む抗体。配列番号6~8で示す配列も参照のこと)である。特定の実施形態では、エクリズマブ変異体は、配列番号24、配列番号25および配列番号8で示す配列によって規定される。
【0072】
特定の実施形態では、抗C5抗体は、結果として得られるポリペプチドが補体タンパク質C5(「C5」)に結合するように、配列番号1~3、5~16、および23~29、および33で示す一つ以上の配列を含むか、またはそれらからなるポリペプチドC5阻害剤である。
【0073】
一部の実施形態では、本開示の方法で使用するための抗C5抗体は、全抗体ではない。一部の実施形態では、抗C5抗体は、一本鎖抗体である。一部の実施形態では、本開示の方法で使用するための抗C5抗体は、二重特異性抗体である。一部の実施形態では、本開示の方法で使用するための抗C5抗体は、ヒト化モノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体、またはヒトモノクローナル抗体、またはそれらのいずれかの抗原結合断片である。
【0074】
本開示の方法で使用するための抗C5抗体は、配列番号1、配列番号2、配列番号5、および配列番号6、もしくは配列番号7および配列番号8で示すアミノ酸配列、もしくは上記のいずれかの抗原結合断片を含むことができ、またはそれらからなることができる。ポリペプチドは、配列番号9~16で示すアミノ酸配列のうちの一つ以上を含むことができる。
【0075】
さらに他の実施形態では、抗C5抗体は、LFG316(スイス、バーゼルのノバルティス社とドイツ、プラネックのモルフォシス社)または米国特許第8,241,628号および米国特許第8,883,158号の表1の配列によって規定される別の抗体、Mubodina(登録商標)(イタリアバ、ベルガモのAdienne Pharma&Biotech社)(例えば、米国特許第7,999,081号を参照のこと)、rEV576(Coversin)(スイス、ジュネーブのVolution Immuno-pharmaceuticals社)(例えば、Penabad et al.,Lupus,2014 Oct;23(12):1324-6.doi:10.1177/0961203314546022.を参照のこと)、ARC1005(デンマーク、バウスベアのノボノルディクス社)、SOMAmer(コロラド州、ボルダーのSomAlogic社)、SOB1002(スウェーデン、ストックホルムのSwedish Orphan Biovitrum社)、RA101348(マサチューセッツ州ケンブリッジのラ・ファーマシューティカルズ社(Ra Pharmaceuticals))である。
【0076】
一部の実施形態では、抗C5抗体は、モノクローナル抗体であってもよい。他の実施形態では、抗C5抗体は、モノクローナル抗体などの抗体の可変領域、またはその断片を含む。他の実施形態では、抗C5抗体は、C5補体タンパク質に特異的に結合する免疫グロブリンである。他の実施形態では、抗C5抗体は改変タンパク質または組換えタンパク質である。一部の実施形態では、抗C5抗体は全抗体ではないが、抗体の部分を含む。一部の実施形態では、抗C5抗体は、一本鎖抗体である。一部の実施形態では、抗C5抗体は、二重特異性抗体である。一部の実施形態では、抗C5抗体は、ヒト化モノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体、またはヒトモノクローナル抗体、またはそれらのいずれかの抗原結合断片である。抗C5抗体を作製する方法は当技術分野で公知である。
【0077】
上述のように、抗C5抗体は、補体成分C5タンパク質を阻害する。特に、抗C5抗体は、C5aアナフィラキシンの生成、または補体成分C5タンパク質(例えば、ヒトC5タンパク質)のc5aおよびC5b活性断片の生成を阻害する。したがって、抗C5抗体は、例えばC5aの炎症促進作用等を阻害し、また、細胞表面におけるC5b-9膜傷害複合体(「MAC」)の生成およびその後の細胞溶解を阻害しうる。例えば、Moongkarndi et al.(1982)Immunobiol 162:397およびMoongkarndi et al.(1983)Immunobiol 165:323を参照されたい。
【0078】
一部の実施形態では、抗C5抗体は、欠失変異体、挿入変異体、および/または置換変異体を含む、抗原に結合したままの抗C5抗体(エクリズマブなど)の変異抗体である。例えば、配列番号1、配列番号2、または配列番号7および配列番号8で示すポリペプチドを参照されたい。例えば組換えDNA技術による、こうした変異体を作製する方法は、当技術分野で周知である。
【0079】
一部の実施形態では、抗C5抗体は、融合タンパク質である。融合タンパク質は、融合タンパク質が融合タンパク質をコードする核酸から発現されるように、組換えによって構築されうる。融合タンパク質は、一つ以上のC5結合ポリペプチドのセグメント(例えば、配列番号1、配列番号2、もしくは配列番号5および/もしくは配列番号6、配列番号7および/もしくは配列番号8、または配列番号9~16のうちのいずれか一つ以上で示すC5結合セグメント)と、該C5結合セグメントに対して異種である一つ以上のセグメントとを含むことができる。異種配列は、例えば、抗原性タグ(例えば、FLAG、ポリヒスチジン、赤血球凝集素(「HA」)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(「GST」)、またはマルトース結合タンパク質(「MBP」)などの任意の好適な配列とすることができる。異種配列はまた、例えばルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(「GFP」)、またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(「CAT」)である、診断マーカーまたは検出可能なマーカーとして有用なタンパク質とすることもできる。一部の実施形態では、異種配列は、C5結合セグメントを関心の細胞、組織、または微小環境に向かわせるターゲティング部分とすることができる。一部の実施形態では、ターゲティング部分は、ヒト補体受容体(例えば、ヒト補体受容体2)の可溶形態、またはC3bもしくはC3dに結合する抗体(例えば、一本鎖抗体)である。一部の実施形態では、ターゲティング部分は、腎臓特異的抗原などの組織特異的抗原に結合する抗体である。組換えDNA技術による等、こうした融合タンパク質を構築する方法は、当技術分野で周知である。
【0080】
一部の実施形態では、抗C5抗体は、ターゲティング部分と融合する。例えば、構築物は、C5結合ポリペプチドと、ポリペプチドを補体活性化部位に向かわせるターゲティング部分とを含むことができる。かかるターゲティング部分には、例えば、補体受容体1(CR1)の可溶形態、補体受容体2(CR2)の可溶形態、またはC3bおよび/もしくはC3dに結合する抗体(またはその抗原結合断片)が含まれ得る。
【0081】
組換えDNA技術を含めて、融合タンパク質(例えば、C5結合ポリペプチドと、ヒトCR1またはヒトCR2の可溶形態とを含有する融合タンパク質)を生成する方法は、当技術分野で公知であり、例えば、米国特許第6,897,290号;米国特許出願公開第2005265995号、およびSong et al.(2003)J Clin Invest 11(12):1875-1885に記載されている。
【0082】
特定の実施形態では、抗C5抗体は、二重特異性抗体である。二重特異性抗体(例えば、抗C5抗体と、C3bおよび/またはC3dに結合する抗体とを含む二重特異性抗体)を製造する方法も当技術分野で公知である。C5結合抗体およびその他の抗体を含む二重特異性抗体を意図している。
【0083】
多種多様な二重特異性抗体の形態は、抗体工学分野で公知であり、二重特異性抗体(例えば、抗C5抗体[すなわち、C5結合抗体]と、C3b、C3d、または組織特異的抗原に結合する抗体とを含む二重特異性抗体)の製造方法は、当業者の範囲において周知である。例えば、Suresh et al.(1986)Methods in Enzymology 121:210;PCT出願国際公開第96/27011号;Brennan et al.(1985)Science 229:81;Shalaby et al.,J.Exp.Med.(1992)175:217-225;Kostelny et al.(1992)J Immunol 148(5):1547-1553;Hollinger et al.(1993)Proc Natl Acad Sci USA 90:6444-6448;Gruber et al.(1994)J Immunol 152:5368、およびTutt et al.(1991)J Immunol 147:60を参照されたい。
【0084】
二重特異性抗体はまた、架橋されたまたは異種結合(heteroconjugate)の抗体も含む。異種結合抗体は、任意の好都合な架橋法を使用して作製されうる。好適な架橋剤は当技術分野で周知であり、米国特許 第4,676,980号に、多数の架橋技術と共に開示されている。米国特許第5,534,254号には、例えば、ペプチドカプラー(peptide coupler)、キレート剤、または化学的結合もしくはジスルフィド結合によって共に連結された一本鎖Fv断片を含む、いくつかの異なるタイプの二重特異性抗体が記載されている。別の例では、Segal and Bast[(1995)Curr Protocols Immunol Suppl.14:2.13.1-2.13.16]には、二つの単一特異性抗体を化学的に架橋結合して、それにより二重特異性抗体を形成する方法が記載されている。二重特異性抗体は、例えば、C5結合抗体、および、例えばC3b、C3d、または肺特異的抗原、眼特異的抗原、腎特異的抗原などに結合する抗体から選択される二つの一本鎖抗体を複合化することによって形成することができる。
【0085】
二重特異性抗体は、リンカー(例えば、ポリペプチドリンカー)によって共有結合した二つの異なるscFv断片を含有する、タンデム一本鎖(sc)Fv断片とすることができる。例えば、Ren-Heidenreich et al.(2004)Cancer 100:1095-1103およびKorn et al.(2004)J Gene Med 6:642-651を参照されたい。リンカーの例には、(Gly4Ser)2[GGGGSGGGGS、配列番号17]、(Gly4Ser)3[GGGGSGGGGSGGGGS、配列番号18]、(Gly3Ser)4[GGGSGGGSGGGSGGGS、配列番号19]、(G3S)[GGGS、配列番号20]、SerGly4[SGGGG、配列番号21]および SerGly4SerGly4[SGGGGSGGGG、配列番号22]を挙げることができるが、これに限定されない。
【0086】
一部の実施形態では、リンカーは、例えば、Grosse-Hovest et al.(2004)Proc Natl Acad Sci USA 101:6858-6863に記載されているように、CH1ドメイン等の重鎖ポリペプチド定常領域の全てもしくは一部を含有することができるか、または、該全てもしくは一部とすることができる。一部の実施形態では、二つの抗体断片は、例えば、米国特許第7,112,324号および第5,525,491号にそれぞれ記載される、ポリグリシン-セリンまたはポリセリン-グリシンのリンカーによって共有結合させることができる。米国特許第5,258,498も参照されたい。二重特異性のタンデムscFv抗体を生成するための方法は、例えば、Maletz et al.(2001)Int J Cancer 93:409-416;Hayden et al.(1994)Ther Immunol 1:3-15、およびHonemann et al.(2004)Leukemia 18:636-644に記載されている。あるいは、抗体は、例えば、Zapata et al.(1995)Protein Eng.8(10):1057-1062に記載されている、「直鎖状抗体」とすることができる。簡潔に述べると、これら抗体は、一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む。
【0087】
二重特異性抗体はダイアボディとすることもできる。例えば、Hollinger et al.(1993)Proc Natl Acad Sci USA 90:6444-6448に記載のダイアボディ技術では、二重特異性抗体断片を作製するための代替機構が提供されている。この断片は、短すぎて同じ鎖上では二つのドメイン間を結合することができないリンカーによって軽鎖可変ドメイン(VL)に接続されている重鎖可変ドメイン(VH)を含む。従って、一つの断片のVHおよびVLドメインは、別の断片の相補的なVLおよびVHドメインと強制的に結合されて、それによって二つの抗原結合部位を形成する。Zhu et al.(1996)Biotechnology 14:192-196およびHelfrich et al.(1998)Int J Cancer 76:232-239もまた参照されたい。二重特異性一本鎖ダイアボディ(「scDb」)と共に、scDbを生成するための方法とが、例えば、Brusselbach et al.(1999)Tumor Targeting 4:115-123;Kipriyanov et al.(1999)J Mol Biol 293:41-56、およびNettlebeck et al.(2001)Mol Ther 3:882-891に記載されている。
【0088】
Wu et al.(2007)Nat Biotechnol 25(11):1290-1297に記載の四価(tetravalent)の二重可変領域免疫グロブリン(DVD-Ig)分子等である二重特異性抗体の異型も本発明の方法で使用することができる。DVD-Ig分子は、二つの異なる親抗体からの二つの異なる軽鎖可変ドメイン(VL)が、直接に、または組換えDNA技術による短鎖のリンカーを介して、それに続いて短鎖定常ドメインが、タンデム型に連結されるように設計されている。二つの親抗体からDVD-Ig分子を生成するための方法は、例えば、PCT国際公開第08/024188号および第07/024715号にさらに記載されている。また、例えば、米国特許出願公開第20070004909号に記載されている二重特異性の形態も包含される。使用できる別の二重特異性の形態は、国際公開第2012/135345号に記載された四つのドメイン抗体様分子を改変した形態である、交差二重V領域(Cross-Over Dual V Region)(CODV-Ig)である。CODV-Igは、改変二重特異性抗体様分子に有用であることが証明されており、C末端Vドメイン(内部)での立体障害がDVD-Igの構築を防止できるものである。
【0089】
二重特異性抗体分子を形成するために使用されるC5結合抗体および/またはターゲティング部分は、例えば、キメラ、ヒト化、再ヒト化、脱免疫化、または完全ヒトとすることができ、その全てが当技術分野で周知である。
【0090】
抗C5抗体は、組換えDNA技術によって産生されてもよい。例えば、C5結合ポリペプチド(例えば、配列番号2で示すアミノ酸配列を含む、または配列番号2で示すアミノ酸配列からなる、C5結合ポリペプチド)をコードする核酸は、例えば、プロモーター配列、リボソーム結合部位、転写開始配列および転写終止配列、翻訳開始配列および翻訳終止配列、転写ターミネーターシグナル、ポリアデニル化シグナル、およびエンハンサー配列または活性化因子配列を含む、転写調節配列ならびに翻訳調節配列を含有する発現ベクターに挿入することができる。調節配列は、プロモーターならびに転写開始および終止配列を含む。さらに、発現ベクターは、例えば、発現のための哺乳動物または昆虫細胞において、ならびにクローニングおよび増幅のための原核宿主において、二つの異なる生物体中で維持され得るように、二つ以上の複製系を含むことができる。
【0091】
哺乳動物細胞中を含む、多くの細胞中の核酸からの抗C5抗体の発現に関して、当技術分野で周知のいくつかの可能性のあるベクター系(プラスミドベクター系など)が利用可能である。
【0092】
発現ベクターは、核酸のその後の発現に適した方法で、当技術分野で周知の方法によって細胞内に導入され得る。
【0093】
抗C5抗体は、任意の適切な宿主細胞中で発現してもよい。適切な宿主細胞としては、例えば酵母、細菌、昆虫、植物体、及び哺乳動物の細胞が挙げられ、これには、大腸菌などの細菌、酵母(Saccharomyces cerevisiae)およびピシア・パストリス(Pichia pastoris)などの真菌、SF9などの昆虫細胞、哺乳動物細胞株(例えば、ヒト細胞株)、初代細胞株(例えば、初代哺乳動物細胞)、チャイニーズハムスター卵巣(「CHO」)細胞、ならびにNSOなどの適切な骨髄腫細胞株が含まれる。
【0094】
一部の実施形態では、抗C5抗体は、トランスジェニック動物(例えば、トランスジェニック哺乳動物)内で発現され、それらから精製されてもよい。例えば、抗C5抗体は、トランスジェニック非ヒト哺乳動物(例えば、げっ歯類、ヒツジまたはヤギ)内で産生され、例えばHoudebine(2002)Curr Opin Biotechnol 13(6):625-629;van Kuik-Romeijn et al.(2000)Transgenic Res 9(2):155-159、およびPollock et al.(1999)J Immunol Methods 231(1-2):147-157に記載されるように乳から単離してもよい。
【0095】
抗C5抗体は、タンパク質を発現させるのに十分な条件下および時間の間、ポリペプチドをコードする核酸を含有する発現ベクターにより形質転換された宿主細胞を培養することによって細胞から産生してもよい。タンパク質発現のためのこのような条件は、発現ベクターおよび宿主細胞の選択によって変動し、またルーチンな実験を通して当業者によって容易に確認されることとなる。例えば、組換えDNA技術の包括的開示を有する、Current Protocols in Molecular Biology,Wiley & Sons,and Molecular Cloning--A Laboratory Manual --3rd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(2001)を参照されたい。
【0096】
発現後、抗C5抗体は、当業者に公知の様々な方法で単離または精製されてもよい。
【0097】
一部の実施形態では、本明細書に記載される抗C5抗体は、以下のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む:
【0098】
QVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGHIFSNYWIQWVRQAPGQGLEWMGEILPGSGHTEYTENFKDRVTMTRDTSTSTVYMELSSLRSEDTAVYYCARYFFGSSPNWYFDVWGQGTLVTVSS(配列番号24)。
【0099】
一部の実施形態では、抗C5抗体は、以下のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む:DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCGASENIYGALNWYQQKPGKAPKLLIYGATNLADGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQNVLNTPLTFGQGTKVEIK(配列番号16)。
【0100】
一部の実施形態では、抗C5抗体は、変異ヒトFc定常領域の由来となる天然のヒトFc定常領域の親和性よりも高い親和性を有するヒト新生児Fc受容体(FcRn)に結合する変異ヒトFc定常領域を含むことができる。例えば、Fc定常領域は、変異ヒトFc定常領域の由来となる天然のヒトFc定常領域と比べて、一つ以上(例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個、またはそれ以上)のアミノ酸置換を含むことができる。置換により、相互作用のpH依存性を維持しながら、pH6.0における変異Fc定常領域を含有するIgG抗体のFcRnに対する結合親和性を増加させることができる。例えば、Hinton et al.(2004)J Biol Chem 279:6213-6216およびDatta-Mannan et al.(2007)Drug Metab Dispos 35:1-9を参照されたい。抗体のFc定常領域内の一つ以上の置換が、pH6.0におけるFcRnに対するFc定常領域の親和性を増加させる(相互作用のpH依存性を維持しながら)か否かを試験する方法は、当技術分野で公知であり、実施例に例証する。例えば、Datta-Mannan et al.(2007)J Biol Chem 282(3):1709-1717;国際公開第98/23289号;国際公開第97/34631号、および米国特許第6,277,375号を参照されたい。
【0101】
FcRnに対する抗体Fc定常領域の結合親和性を高める置換は、当技術分野で公知であり、例えば、(1)Dall’Acqua et al.(2006)J Biol Chem 281:23514-23524に記載のM252Y/S254T/T256Eの三つの置換、(2)Hinton et al.(2004)J Biol Chem 279:6213-6216およびHinton et al.(2006)J Immunol 176:346-356に記載のM428LまたはT250Q/M428Lの置換、および(3)Petkova et al.(2006)Int Immunol 18(12):1759-69に記載のN434AまたはT307/E380A/N434Aの置換を含む。代替的な置換の組み合わせとしては、例えばDatta-Mannan et al.(2007)J Biol Chem 282(3):1709-1717に記載されている、P257I/Q311I、P257I/N434HおよびD376V/N434Hがある。
【0102】
一部の実施形態では、変異定常領域(variant constant region)は、EUアミノ酸残基255における、バリンに対する置換を有する。一部の実施形態では、変異定常領域は、EUアミノ酸残基309における、アスパラギンに対する置換を有する。一部の実施形態では、変異定常領域は、EUアミノ酸残基312における、イソロイシンに対する置換を有する。一部の実施形態では、変異定常領域は、EUアミノ酸残基386における置換を有する。
【0103】
一部の実施形態では、変異Fc定常領域は、それの由来であるネイティブ定常領域と比べて、30以下(例えば、29個、28個、27個、26個、25個、24個、23個、22個、21個、20個、19個、18個、17個、16個、15個、14個、13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、または2個)のアミノ酸の置換、挿入または欠失を含む。一部の実施形態では、変異Fc定常領域は、M252Y、S254T、T256E、N434S、M428L、V259I、T250I、およびV308Fからなる群から選択される一つ以上のアミノ酸置換を含む。一部の実施形態では、変異ヒトFc定常領域は、それぞれEUナンバリングで、428位にメチオニンと434位にアスパラギンを含む。一部の実施形態では、変異Fc定常領域は、例えば、米国特許第8,088,376号に記載される428L/434Sの二つの置換を含む。
【0104】
一部の実施形態では、変異定常領域は、ネイティブヒトFc定常領域と比べて、アミノ酸位置237、238、239、248、250、252、254、255、256、257、258、265、270、286、289、297、298、303、305、307、308、309、311、312、314、315、317、325、332、334、360、376、380、382、384、385、386、387、389、424、428、433、434、または436(EUナンバリング)における置換を含む。一部の実施形態では、置換は、237位におけるグリシンに対するメチオニン;238位におけるプロリンに対するアラニン;239位におけるセリンに対するリシン;248位におけるリシンに対するイソロイシン;位250位におけるトレオニンに対する、アラニン、フェニルアラニン、イソロイシン、メチオニン、グルタミン、セリン、バリン、トリプトファン、またはチロシン;252位におけるメチオニンに対する、フェニルアラニン、トリプトファン、またはチロシン;254位におけるセリンに対するトレオニン;255位におけるアルギニンに対するグルタミン酸;256位におけるとレオニンに対する、アスパラギン酸、グルタミン酸、またはグルタミン;257位におけるプロリンに対する、アラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、セリン、トレオニン、またはバリン;258位におけるグルタミン酸に対するヒスチジン;265位におけるアスパラギン酸に対するアラニン;270位におけるアスパラギン酸に対するフェニルアラニン;286位におけるアスパラギンに対する、アラニンまたはグルタミン酸;289位におけるトレオニンに対するヒスチジン;297位におけるアスパラギンに対するアラニン;298位におけるセリンに対するグリシン;303位におけるバリンに対するアラニン;305位におけるバリンに対するアラニン;307位におけるトレオニンに対する、アラニン、アスパラギン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、バリン、トリプトファン、またはチロシン、308位におけるバリンに対する、アラニン、フェニルアラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、プロリン、グルタミン、またはトレオニン;309位におけるロイシンまたはバリンに対する、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、もしくはアルギニン;311位におけるグルタミンに対する、アラニン、ヒスチジン、またはイソロイシン;312位におけるアスパラギン酸に対する、アラニンまたはヒスチジン;314位におけるロイシンに対する、リシンまたはアルギニン;315位におけるアスパラギンに対する、アラニンまたはヒスチジン;317位におけるリシンに対するアラニン;325位におけるアスパラギンに対するグリシン;332位におけるイソロイシンに対するバリン;334位におけるリシンに対するロイシン;360位におけるリシンに対するヒスチジン;376位におけるアスパラギン酸に対するアラニン;380位におけるグルタミン酸に対するアラニン;382位におけるグルタミン酸に対するアラニン;384位におけるアスパラギンまたはセリンに対するアラニン;385位におけるグリシンに対するアスパラギン酸またはヒスチジン;386位におけるグルタミンに対するプロリン;387位におけるプロリンに対するグルタミン酸;389位におけるアスパラギンに対する、アラニンまたはセリン;424位におけるセリンに対するアラニン;428位におけるメチオニンに対する、アラニン、アスパラギン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、トレオニン、バリン、トリプトファン、またはチロシンの;433位におけるヒスチジンに対するリシン;434位におけるアスパラギンに対するアラニン、フェニルアラニン、ヒスチジン、セリン、トリプトファン、またはチロシン;および、436位におけるチロシンまたはフェニルアラニンに対するヒスチジン、からなる群からのために選択され、すべてEUナンバリングによる。
【0105】
抗C5抗体は治療剤として使用されてもよく、任意の適切な剤形/組成物として、また任意の適切な経路によって(例えば、IV注射によって)、それを必要とする患者に投与される。抗C5抗体はまた、本明細書に開示される方法において捕捉抗体または検出抗体としても使用されうる。
【0106】
逆分離(Back Disassociation)ELSIAアッセイモデリング
【0107】
標的バイオマーカー/有効性バイオマーカーを定量化する場合、従来のプレートベースのリガンド結合アッセイでは、遊離分析物を過大評価する可能性がある。このような状況での遊離分析物の過大評価は、生体内(in vivo)での真のものよりも有効性の欠如がより低く示唆される。エクリズマブは、2つの極めて稀な疾患の適応症に認可されたmAb治療薬であり、補体因子C5(190kD)を標的とする。薬剤の存在下での遊離C5の適切な定量化が重要である。
【0108】
Biacoreの結果に基づくと、従来のプレートベースのリガンド結合アッセイでは、エクリズマブ-C5複合体の約15%が、25℃でka=約1.1e6(1/M s)およびkd=4.6e-5(1/s)で60分で解離する。
【0109】
表1に、その抗原に対して結合したままの抗体の量(%で)を、時間の関数(Kd-1秒当たりの解離の割合)として示している。
【0110】
【0111】
実験的証拠は、ELSIAプレートに結合している抗原が、溶液およびプレートに対して平衡に到達するのに少なくとも30時間が必要であることを示す。
【0112】
臨界パラメータは、インキュベーション時間、希釈時間、希釈温度、および試料対アッセイ範囲である。プレートインキュベーション時間が短いと、解離が減少する場合がある。二つの希釈工程中に冷却することで、速度kdを遅くし、抗原-mAbおよび抗原-mAb-抗原が解離しないようにさせることができる。希釈時間を短くすると、解離が減少する場合がある。希釈の不足が解離を減少させうる。可能であれば、純粋な試料を測定する。
【0113】
抗原濃度及びmAb濃度(PK)のデータの不一致は、以下に原因がある:アッセイの希釈および時間が異なること;測定された抗原濃度が、遊離抗原の過大評価であること;および測定されたmAb(PK)が、希釈による解離に起因した真の遊離mAbの過大評価であること、および溶液抗原(solution antigen)に起因した総mAbの過小評価であること。
【0114】
溶血モデリング(C5を含有するヒト血清試料についての溶血アッセイを使用する)が、抗原、PK、および溶血(PD)データの不一致は以下に原因があるということを示唆している:アッセイの希釈および時間が異なること;測定された抗原濃度が、溶血アッセイにおける遊離抗原の過大評価であること;および測定されたmAb-エクリズマブ-(PK)が、希釈による解離に起因した真の遊離mAbの過大評価であること、および溶液抗原に起因した総mAbの過小評価であること;ならびに、測定された溶血が、希釈による解離に起因した真の遊離抗原の過大評価であること。
【0115】
平衡方程式
【0116】
【0117】
mAb+L=mAb*L
【0118】
【0119】
Kd=1/ka=[Mab]遊離x[L]遊離/[Mab*L]結合
【0120】
【0121】
Kd=解離定数、Ka=会合定数
【0122】
Kオフ=解離速度、kオン=会合速度
【0123】
投与後は、生体内(in vivo)の可溶性L(リガンド)に対するmAbの結合は、質量作用の法則に従うものと仮定した。試料採取、保存などの生体外での条件は、生体内(in vivo)とは異なる条件に平衡が移行しうる。
【0124】
kオフの値は多くの場合、温度と緩衝液への感度が高い。平衡時間は、30℃の場合と比較して、0℃で約30倍増加する。解離速度定数は、常にアッセイの条件下で決定する必要がある。
【0125】
L遊離の測定
【0126】
薬物開発において決定を下すために次第に使用されてきており、用量とスケジュールの選択に有用である。Lの動態を理解することが、有効なmAb遊離レベルの規定の助けとなり得る。
【0127】
遊離C5標的リガンドの測定アッセイ
【0128】
変形されたELISAアッセイフォーマット
【0129】
ELISAを実施する前に結合フォームを除去する。BiacoreまたはELISAを使用して解離量を測定し、測定されているものから減算する。LC/MSまたはその他の方法を使用して総エクリズマブ濃度を測定し、総C5を決定する。平衡方程式を使用して遊離C5を計算する。計算は平衡方程式に基づくが、それには生体内(in vivo)のKdを正しく推定する必要がある。
【0130】
変形されたMSD遊離C5アッセイ
【0131】
試料のインキュベーションは、60分から、提案される15分間のインキュベーションに減少させた。試料希釈は1:1000から1:2(50%血清)に減少させた。室温の代わりに氷上で試料をインキュベートして、おそらく解離が減少された。
【0132】
ELISAの前に、以下の結合フォームを除去する:
【0133】
分子ふるい
【0134】
固相抽出
【0135】
アフィニティ分離、すなわちプロテインG、プロテインAまたは抗ヒトFCカラム
【0136】
カラムまたはフィルタへの吸着により、追加のプロセスが誤差を発生させる場合がある
【0137】
解離も発生し得、またプロセスは労働集約型である
【0138】
遊離C5を定量化する方法の特定の実施形態
【0139】
本明細書に開示される方法において、Gyrosシステム(スウェーデン、ウプサラのGyros AB社;www.gyros.com)を使用する。Gyrosアッセイは、秒単位で微細構造に沿って試料を通過させるため、逆向きである解離が生じる機会はあり得ない。Gyrosシステムは、アフィニティ流動フォーマットを使用し、インキュベーションを省き、実行時間が短縮される。Gyrosプラットフォームは、Gyrolabプラットフォームに統合される高再現性のナノリットルマイクロ流体工学により設計されたGyros専有CD技術を使用するが、それがレーザー誘導蛍光検出を使用した平行性プロセッシングを伴う免疫アッセイを自動化する。このことは、CD内に含まれるナノリットルスケールのマイクロ流体構造を通る液体の流れを導く、遠心力および毛細管力の正確で自動化された制御を通して可能となる。
【0140】
円形のBioaffyコンパクトディスク(CD)を使用する。PCRプレートは、試料および試薬のために使用しうる。多くの利用可能なPCRプレートを使用してよい。プレートは箔で封止され、蒸発を防止する。捕捉試薬(ビオチン化抗C5抗体など)は、毛細管作用によってCDに入る。疎水性部が液体の流れを停止させる。このCDは、Gyrolab xPloreまたはGyrolab XPなどのアッセイ専用の機器の内部で遠心力を受ける。この遠心力により、試薬が、CD内部のカラムの中へと動かされる。捕捉試薬は、カラム内のストレプトアビジン被覆粒子に結合する。その後試料が、毛細管作用によってCDに入り、活性化されたカラムに試料が付着する。その後検出試薬(例えば、アレクサフルオール(AlexaFluor)標識抗C5抗体、捕捉試薬として使用される抗C5抗体とは異なるエピトープに結合するもの)が、毛細管作用によってカラムに入り、カラムに付着する。その後、カラムをレーザーでスキャンする(90秒以内に112カラム)。Rexxip Aは、標準試料、QC、試料に用いられ得、またRexxip Fは、検出Abに用いられ得る。次いで、レーザー誘導蛍光を使用して、試料(例えば、C5)の濃度または量を測定する。
【0141】
Gyrosアッセイは、使用するサンプル量が非常に少なく(4μlなど)、所要時間が非常に短い(1.5時間など)。較正範囲は0.78pM~300pMである。
【0142】
本開示は、試料からの遊離(非結合)ヒトC5補体タンパク質(C5)を定量化する方法を提供するものであって、該方法が、
a.ストレプトアビジン被覆粒子に対して、ビオチン化抗C5捕捉抗体を結合させることであって、前記ビオチン化抗C5捕捉抗体が、ストレプトアビジン被覆粒子を含むカラムを備えるGyros Bioaffy 200 CDに毛細管作用によって付着して、該CDがGyrolab xPloreまたはGyrolab XP機器内で遠心力を受けることによって、ビオチン化抗C5捕捉抗体が、カラム中のストレプトアビジン被覆粒子へと動かされることと、
b.試料中の遊離(非結合)C5を捕捉することであって、試料が毛細管作用によってCDに付着して、前記CDがGyrolab xPloreまたはGyrolab XP機器内で遠心力を受けることによって、該試料が、カラム中のストレプトアビジン被覆粒子上に結合したビオチン化抗C5捕捉抗体へと動かされることと、
c.捕捉された遊離C5を検出することであって、アレクサフルオール(AlexaFluor)標識抗C5検出抗体が、毛細管作用によってCDに付着して、該抗C5検出抗体が、捕捉抗体によって結合されるエピトープとは異なるエピトープにおいてC5に結合し、前記CDがGyrolab xPloreまたはGyrolab XP機器内で遠心力を受けることによって、該検出抗体が、カラム中のストレプトアビジン被覆粒子上に結合された捕捉抗体に結合された遊離C5へと動かされることと、
d.レーザー誘導蛍光検出を使用して、捕捉された遊離C5を定量化することと、を含む。
【0143】
Gyrolab xPloreまたはGyrolab XPなどのGyroアッセイを使用するために適切な任意の機器を使用してもよい。
【0144】
特定の実施形態では、Rexxip A緩衝液が試料に使用され、Rexxip F緩衝液が、検出抗体を希釈するのに使用される。任意の適切な緩衝液を使用してもよい。
【0145】
特定の実施形態では、Gyros機器が、Bioaffy wash 1およびpH11緩衝液を用いて別個に二回プライミングされる。任意の適切な緩衝液を使用してもよく、プライミングは省いてもよく、また任意の適切な回数でなされてもよい。
【0146】
他の態様では、試料からの遊離(非結合)ヒトC5補体タンパク質(C5)を定量化する方法を提供するものであって、該方法が、a.ストレプトアビジン被覆されたメソスケールディスカバリー(Meso Scale Discovery(登録商標))(MSD(登録商標))(メリーランド州ロックビルのMeso Scale Diagnostic社、https://www.mesoscale.com/en)96ウェルアッセイプレートに対して、ビオチン化抗C5捕捉抗体を結合させることと、b.試料を該プレートに添加することによって、試料中の遊離(非結合)C5を捕捉することと、c.sulfo-tag標識した抗C5(特定の実施形態では、ルテニル化(ruthenyled)されたsulfo-tag標識した抗C5)検出抗体をプレートに添加することにより捕捉された遊離C5を検出することと、d.電気化学発光を使用して、捕捉された遊離C5を定量化することと、を含むものであって、試料が約1:2で希釈され、試料が氷上に保持され、工程b~cは約15~30分であり、ビオチン化抗C5捕捉抗体は、約5μg/mLの濃度で添加される。
【0147】
エクリズマブで治療された患者からの血清試料などである試料中のC5は、遊離(非結合)していてもよく、またはエクリズマブに結合していてもよい。
【0148】
特定の実施形態では、この方法が、工程dから得たデータをC5枯渇試料に添加した既知の量のC5から作成した標準曲線と比較することによって、試料中の遊離C5抗体の濃度または量を計算することをさらに含む。コントロールを含む試料は、患者の試料と同じ方法で処理される。
【0149】
特定の実施形態では、この方法は、Gyros Evaluatorソフトウェアまたは他の好適なソフトウェアを用いて遊離C5抗体の濃度を計算することをさらに含む。
【0150】
特定の実施形態では、試料はヒト患者から獲得される。特定のさらなる実施形態では、試料は血清試料である。さらに他の実施形態では、試料は、エクリズマブまたはALXN1210などの抗C5抗体で治療を受けている患者からのものである。特定の実施形態では、試料はエクリズマブまたはALXN1210での治療前に採取される。他の実施形態では、試料はエクリズマブまたはALXN1210での治療後に採取される。試料は、C5を含みうる任意の適切な試料であってもよく、血清、血漿、血液、尿、固体試料などであってもよい。試料は、当技術分野で公知の方法に従って、使用のために取得されて調製されてもよい。
【0151】
特定の実施形態では、ビオチン化捕捉抗体はエクリズマブまたはALXN1210である。ビオチン化捕捉抗体は、任意の抗C5抗体であってもよい。
【0152】
特定の実施形態では、抗C5検出抗体はN19-8(マウス抗ヒトC5抗体)である。抗C5検出抗体は、任意の抗C5抗体であってもよい。任意の所与のアッセイにおける抗C5検出抗体は、そのアッセイで使用される捕捉抗体と比較してC5上の異なるエピトープを認識するものであり;そのため、C5への結合は、捕捉抗体と競合しない。
【0153】
抗体をビオチンまたはアレクサフルオールと複合化する方法は当技術分野で公知である。
【0154】
特定の実施形態では、試料が患者からのヒト血清試料であり、抗C5抗体で治療する前および治療した後の患者の血清試料の遊離C5が定量化され、治療前および治療後の試料はいずれも同じ希釈で希釈される。さらなる実施形態では、使用される希釈は1:30である。
【0155】
例示的な使用
【0156】
本明細書に開示される方法は、試料中の遊離(非結合)C5の濃度または量を定量化する必要がある任意の目的に使用されうる。この方法は、例えば、エクリズマブ療法によって治療されている患者からのヒト血清試料中の遊離(非結合)C5の濃度または量を検出するために使用することができる。こうした試料の遊離(非結合)C5の濃度または量は、患者の疾患状態のモニタリングを可能にする。このアッセイは、治療法として使用されるエクリズマブに結合したC5分子ではなく、遊離(非結合)C5を定量化するような例において有利である。
【0157】
遊離C5が適切に定量化されることは、疾患状態のモニタリング、モデリング、投薬量選択、ラベル・クレームなどの複数の理由にとって不可欠である。
【実施例】
【0158】
実施例
【0159】
本発明についてよりよく理解するために、以下の実施例を説明する。これらの実施例は、説明のみを目的としており、いかなる方法によっても本発明の範囲を限定するものとして解釈されるものではない。
【0160】
実施例1 遊離C5を定量化するGyrolabプラットフォーム
【0161】
補体タンパク質C5は、補体カスケードの重要な成分であり、アレクシオン社の薬物、エクリズマブおよびALXN1210の標的である。この標的を適切に定量化することは、モデリングおよびラベル・クレームの両方にとって不可欠である。遊離標的のための捕捉試薬として薬剤を使用する多くのリガンド結合アッセイフォーマットは、試料インキュベーション中に、捕捉試薬が既にマトリックス中の薬剤に結合した標的との動的平衡を作ることがあるという点で、本質的に不備がある。この平衡により、アッセイは、マトリックス中の遊離標的の量の過大評価が可能であり、これによって潜在的に不正確なモデリング、投薬選択、データファイリング、およびラベル・クレームにつながる。
【0162】
リガンド結合アッセイにおけるこの過大評価を克服するための共通戦略は、試料のインキュベーション時間を短縮することであり、これによって捕捉試薬がマトリックス中の薬剤から結合した標的を引き出す機会が減少する。これを達成するためには、被覆試薬の濃度を5倍ほど増加させる必要性がしばしばあるが、これは短縮された試料インキュベーションの効果を本質的に最小化することがある。また、治療前の試料は、治療後の試料よりもずっと高いレベルで遊離標的を持つ傾向があり、しばしば状況毎に異なる試料希釈を必要とする。
【0163】
Gyrolab技術は、アッセイ洗浄液、試薬、およびプロスクライブド(proscribed)間隔でディスク上の微細構造の全体にわたってスピンされる試料に基づく。捕捉試薬が固定化された微細構造の全体にわたって、試料がスピンされるのに必要な時間は、約6秒であるため、理論的には、マトリックス中の結合されたどの標的にとっても、解離して、また捕捉抗体として使用される薬剤に結合される時間はほとんどない。さらに、Gyrosアッセイの広いダイナミックレンジでは、治療前の試料に対してはある希釈、治療後の試料に対しては別の希釈とするのではなく、試験試料の範囲の全体にわたって普遍的な一つの試料希釈を持つことがより適切である。
【0164】
材料および方法
【0165】
材料:
【0166】
Bioaffy 200ディスク、Rexxip A緩衝液、Rexxip F緩衝液、pH11緩衝液、プレート箔(ニュージャージー州ウォレンのGyros US社)
【0167】
精製したヒトC5、C5枯渇血清(テキサス州タイラーのCompTech社)
【0168】
ビオチン化エクリズマブ、ビオチン化ALXN1210、アレクサフルオール(AlexaFluor)標識N19/8抗体(コネチカット州ニューヘイブン、Alexion Pharmaceuticals社)
【0169】
96ウェルPCRプレート、Bioaffy wash 1(0.1%のTween 20、0.02%のアジ化ナトリウムを含むPBS)(すべてマサチューセッツ州ウォルサムのサーモフィッシャー社製の洗浄液成分)
【0170】
機器:
【0171】
Gyros xPloreまたはXPワークステーション機器(ニュージャージー州ウォレンのGyros US社)
【0172】
方法:
【0173】
Gyros機器は、各緩衝液自身のステーションをもつ、Bioaffy wash 1およびpH11緩衝液を用いて別個に二回プライミングされる。これらのプライミングサイクル中(それぞれ約20分間)に、アッセイ試薬、洗浄液および試料を以下に記載するとおり調製する。実行に必要な数のBioaffy 200ディスク(Gyros xPloreの場合一枚、Gyros XPワークステーションの場合最大五枚)を、冷蔵庫から取り出して、周囲室温にさせる。
【0174】
アッセイの標準曲線は、精製したヒトC5タンパク質から作成し、該精製したヒトC5タンパク質は、300μg/mLでC5枯渇ヒト血清中にスパイク(添加)され、その後300(初回スパイク)、100、33.3、11.1、3.70、1.23、0.41、0.14、0.045、0.015、および0.005μg/mLのとおりに3倍希釈される。0.005μg/mL標準試料がアンカーポイントである。C5枯渇血清中で作成する場合、曲線は、Rexxip A緩衝液中で1:5で希釈され、混合され、次いで最終希釈を1:30として混合しながら、Rexxip A緩衝液中で1:6でもう一回希釈される。希釈した標準試料を、それぞれの位置にそれぞれの必要量でPCRプレートに移す。
【0175】
品質管理(QC)試料は、標準試料と同じ方法で調製される。精製したヒトC5は、240、10.0、および0.045μg/mLでC5枯渇ヒト血清中にスパイクされる。次いで、これら試料は、最終希釈1:30の標準曲線試料について説明した通り、二回(Rexxip A緩衝液中で1:5で、その後1:6で)希釈される。必要に応じて、検出限界における試料(検出上限(ULOQ)は300μg/mL、また検出下限(LLOQ)は0.015μg/mL)を、同様に調製する。希釈されたQCを、それぞれの位置にそれぞれの必要量でPCRプレートに移す。
【0176】
未知のヒト血清試料は、最終希釈1:30として、二回(Rexxip A緩衝液中で1:5で、その後1:6で)希釈される。希釈された未知の血清試料を、それぞれの位置にそれぞれの必要量でPCRプレートに移す。
【0177】
ビオチン化捕捉試薬(エクリズマブまたはALXN1210)は、Bioaffy wash 1中で作用濃度100μg/mLに調製されて、アレクサフルオール標識されたN19/8は、Rexxip F中で作用濃度1μg/mLに調製される。これら試薬の両方を、必要な量でPCRプレート上のそれぞれの所定位置に移す。Bioaffy wash 1はアッセイ緩衝液として使用され、PCRプレート上のそれぞれの所定位置に搭載される。
【0178】
標準試料、QC、任意の未知の血清試料、アッセイ試薬、およびアッセイ洗浄液を搭載したPCRプレートを、箔で封止し、その後Gyros機器に搭載する。必要数のBioaffy 200ディスクもまた当該機器に搭載する。
【0179】
Gyrosクライアントソフトウェアを使用して、Gyrosシステムでアッセイを行う。これは三工程のアッセイ(捕捉、分析物、検出)であり、捕捉抗体、試料、および検出抗体がプログラムされた間隔で、間欠的な洗浄工程の合間に添加される。アッセイ実行時間は一ディスク当たり約一時間である。データはGyros Evaluatorソフトウェアによって処理されるか、またはWatsonなどのラボ情報システム(LIMS(laboratory information system))へのインポートのためにエクスポート可能である。このアッセイでは、応答の重み付けを伴う5PLの曲線フィッティングを使用する。
【0180】
結果
【0181】
ヒト血清中の遊離C5の定量化のためのGyrosアッセイは、使用される捕捉試薬(エクリズマブまたはALXN1210)に関わらず、0.039~18.75μg/mLまたは0.015~300μg/mLのダイナミックレンジを持つ。このダイナミックレンジおよび試料希釈(特定の実施形態では、初回の治療前の試料については1:20~1:30、その後、初回治療後のすべての試料について2倍)は、240μg/mL程度の高さの遊離レベルを有するであろう治療前か(しかしながら200μg/mLを超えるのは稀である)、または0.5μg/mLより低い良好なレベルを持つであろう治療後のいずれかの、全ての予想される濃度の試料をカバーする。捕捉試薬としてALXN1210を用いた、この範囲にわたるアッセイ性能についての詳細は、表2を参照されたい。
【0182】
表2 ヒト血清中の遊離C5測定のダイナミックレンジにわたるGyros QC性能(2日間、4回の別個の実行)
【表2】
【0183】
標的バイオマーカーアッセイの選択性は、重要なアッセイパラメータである。表3は、それぞれの試料中に既にある内因性C5のレベルの測定において相加効果を有する、50μg/mLの精製されたC5の参照物質でスパイクされた10人のドナーの血清に関するデータを示す。Gyrosアッセイは、この内因性の結合相手を含む試料中にスパイクさせた精製されたC5を正確に測定した。
【0184】
表3 ヒト血清中の遊離C5に対する10人のドナー試料のGyros選択性(ALXN1210捕捉)
【表3】
【0185】
平行性は、それが代替マトリックス(ここでは、C5枯渇ヒト血清)の標準曲線とその精製された参照物質(ここでは、精製されたヒトC5)との適合度を決定しうるものとなるため、バイオマーカーアッセイで決定される重要な要素である。プロスクライブド(proscribed)希釈1:30の前に追加希釈でマトリックス試料を事前処理することによって、平行性が、代替の曲線とそれから測定された未知試料との間におけるアッセイ応答についての相違を表すことができる。
図1は、上述のQC試料と同様に調製される三個体のドナーの血清および三つのQC試料についての両方の濃度についての平行性の結果を示す。これらデータは、アッセイが平行性を持ち、代替の曲線が適切であることを示唆する。
図1 C5枯渇血清中でスパイクされた個体血清試料およびQC試料は、その後、平行性試験パスするMRDの前に、同じ血清中で希釈した。
【0186】
ヒト血清プールに、様々な濃度のエクリズマブでスパイクした。これを、様々な濃度のALXN1210を用いて、同一プールの別のアリコートで繰り返された。スパイクされた試料の両セットを、プレートベースの遊離C5アッセイおよびGyros遊離C5アッセイの両方でアッセイした。エクリズマブをスパイクした試料を、両方のアッセイプラットフォーム上で捕捉試薬としてエクリズマブを用いてアッセイし、いずれにおいても、ALXN1210を捕捉として用いてALXN1210試料をアッセイした。表4および5は、それぞれ、プレートベースアッセイ、Gyrosアッセイの結果を示す。スパイクした試料の各セットについてのGyrosアッセイの結果の方が低く、プレートベースのアッセイとは異なることを示しており、血清中の薬剤から引き出されて捕捉試薬に結合している結合C5はほとんどない。
【0187】
表4 ALXN1210およびエクリズマブをスパイクした、ヒト血清中の遊離C5に関するプレートベースアッセイ結果
【表4】
表6 ALXN1210およびエクリズマブをスパイクした、ヒト血清中の遊離C5に関するGyrosアッセイ結果
【0188】
【0189】
考察
【0190】
ヒト血清中の遊離C5の定量化のためのGyrosアッセイは、広いダイナミックレンジ(エクリズマブまたはALXN1210の捕捉試薬いずれかで、0.015~300μg/mL)を持つ。試料希釈1:30でのこのダイナミックレンジにより、治療前の試料および治療後の試料の両方の測定が可能になり、それによってそれぞれのシナリオ毎に異なる希釈にする必要性がなくなる。このように共通の希釈により、試料が誤った希釈でアッセイされる可能性があるような試料処理の誤差も除去される。
【0191】
アッセイの選択性および平行性が、代替マトリックスおよび参照物質が、ヒト血清中で測定される内因性の結合相手に適切であるということを示している。
【0192】
いずれも捕捉試薬を治療薬として使用することによる、Gyrosアッセイおよびプレートベースアッセイの両方で実行されたスパイクした試料からのデータによれば、Gyrosアッセイが、血清試料中の薬剤に既に結合しているC5との何らかの平衡に達するように薬物が捕捉試薬として使用されることの可能性を大幅に減少させていることが示唆される。この平衡およびそれに関連する真に遊離であるC5を過剰に定量化する可能性におけるこうした減少は、共通の試料希釈を許容する拡大されたダイナミックレンジに加えて、エンドユーザーに対してより正確な測定を可能にさせる。
【0193】
実施例2 遊離C5のGyroアッセイ
【0194】
アッセイパラメータ
【0195】
100μg/mLの捕捉Ab
【0196】
1μg/mLの検出Ab
【0197】
参照物質としての精製されたヒトC5
【0198】
標準試料およびQCの調製用C5枯渇血清
【0199】
Bioaffy 200nL ディスク
【0200】
標準試料、QC、試料(試料希釈30)のためのRexxip A
【0201】
検出AbのためのRexxip F
【0202】
洗浄液1:Bioaffy wash 1
【0203】
洗浄液2:pH11緩衝液
【0204】
3工程アッセイ(C-A-D)
【0205】
PMT 1%
【0206】
通例のプレートベースのECLアッセイフォーマットは、0.0274~20.0 μg/mLのダイナミックレンジを持つ。
【0207】
試料希釈スキーム:前治療用を20、治療用を2
【0208】
典型的な内因性の遊離C5濃度は50.0~150.0μg/mLの範囲である。
【0209】
提案される曲線範囲は0.005~300.0μg/mLであり、すべての試料について共通の希釈であることが好ましい。
【0210】
図2および
図3は、7個体のドナー血清の平行性を示す。これは従来のECLアッセイに対する改良であり、MRDを超える希釈ではリターンの減少をもたらした。
【0211】
早期CROアッセイの移管の結果を、
図4Aおよび
図4B(2日間の要約データ;QCレベル毎にN=6(二回実行、それぞれN=3)(MRD(30)の確認))に示している。定量限界が所望のアッセイ範囲をカバーし;一つの希釈率で、予想されるすべての事象がカバーされる。
図4Cは、早期CROの移管の結果における選択性を示す。
【0212】
図5は、MRD(minimum required dilution(最小必要希釈率))は30が最適であることを示す。25~30になると、低い最終感度が幾分失われ(5ng/mL対15ng/mL);15ng/mLでもECL(電気化学発光)アッセイよりも2倍感度が高い。
【0213】
図6は、キャリーオーバー評価でキャリーオーバーがないことを示し、試薬の濃度およびパラメータが確認される。
【0214】
【0215】
実施例3 メソスケールディスカバリー(Meso Scale Discovery(登録商標))の電気化学発光技術を使用した従来技術の遊離C5アッセイ
【0216】
従来技術の遊離C5アッセイには、制約があることが証明されている。以下に一例を示す。
【0217】
この従来技術の遊離C5アッセイは、Meso Scale Discovery(登録商標)電気化学発光技術を使用したヒト血清試料中の遊離C5補体タンパク質を定量化するよう設計されている。エクリズマブをビオチンと複合化し、ストレプトアビジン被覆されたMSD(登録商標)96ウェルアッセイプレート上に固定される。アッセイ標準曲線試料は、C5枯渇血清中の精製されたヒトC5の段階希釈によって調製され、試験および品質管理試料と共にプレートに添加される。固定したエクリズマブに対して捕捉されたC5は、エクリズマブにより結合されたエピトープとは異なるC5上のエピトープと結合するMSD(登録商標)SulfoTagと複合化したN19-8を使用して検出される。N19-8-タグは、アッセイプレートの電極表面で電気化学刺激が開始されると、ECL信号として光を放射する。信号の強度は、捕捉されたC5の量に比例する。捕捉された複合体のECL信号は、MSD(登録商標)Sector Imager 2400を使用して測定する。重み付けされた4パラメータの曲線フィッティングの標準曲線は、y軸に標準試料のECL信号を、x軸上の対応するC5濃度に対してプロットすることによって作成する。各血清試料中のC5の濃度は、既知のC5濃度の標準曲線に対して、標準曲線の直線領域にある値を用いて試料のECL信号を補間することによって求めることができる。標準曲線の希釈、QC試料、および患者試料のそれぞれについて、三つ組のウェルの平均を計算し、報告している。
【0218】
このアッセイは、エクリズマブの存在下で遊離C5を測定するための特定の制約を有することが分かっている。エクリズマブと結合するC5とのモル比(1:2.53)に基づく理論的計算と比較して、測定された遊離C5濃度の間にある一貫したバイアスを記録した。このバイアスは、エクリズマブが高濃度(35~2000μg/mL)であってさえも遊離C5の過大評価を導く。したがって、様々なC5濃度に対して35μg/mLのエクリズマブをスパイクすることによってアッセイの制約を評価するためにある実験が実施された。この結果は、測定された遊離C5濃度と理論的な遊離C5濃度との間のバイアスをはっきりと示した。このバイアスは、アッセイ手順の間に、試験試料中のエクリズマブとC5とが解離することによって生じ得る。特定のアッセイ条件は、ル・シャトリエの法則に基づいて解離の方へ結合平衡をシフトするように決定される。
【0219】
アッセイの変形および根拠
【0220】
同じアッセイプラットフォームを使用して、以下の表に要約されているとおり新しいC5アッセイに四つの主要な変形を実施した。
【0221】
表6:これまでの遊離C5アッセイに対する変形
【表6-2】
【0222】
結果
【0223】
この四つの変形により、アッセイの真度(accuracy)の点に関してこれまでの遊離C5アッセイと新しい遊離C5アッセイとを比較するために追加の実験を実施した。人体で確認されることが予測される目標濃度を説明するために、理論的に計算された遊離C5濃度を生成した。様々な濃度のエクリズマブを、プールした正常ヒト血清中にスパイクし、これまでの遊離C5アッセイと新しい遊離C5アッセイとの両方で測定した。この結果は、新しい遊離C5アッセイが、理論上の値と比較してはるかに正確な結果をもたらしたということを強く示唆する。さらに、この結果は、複数の異なるアナリストによって確認され、アッセイの真度、精度および堅牢性が実証された。すべての結果は、アッセイの範囲内(0.0016~20μg/mL)にあり、精度が≦25%のCVである。
【0224】
表7:これまでのC5アッセイ対 新しいC5アッセイの結果の比較
【表7】
*生理緩衝液中で70μg/mLの平均ヒトC5濃度を使用した結合化学量論に基づいて算出された理論濃度。
【0225】
結論
【0226】
これまでの遊離C5アッセイに対する変形が、エクリズマブ-C5間の解離の影響を最小化することによってアッセイの真度の改善をもたらした。バイアス%は、濃度≧250μg/mLで、遊離C5の理論的な%と比較して、エクリズマブ濃度が増加するに伴って増加する。血清遊離C5は、新しいアッセイでは、結果的にエクリズマブ濃度が≧250μg/mLとなり、したがって注意深く解釈されるべきである。しかしながら、これらの非常に低いレベルである遊離C5濃度では、臨床試料中で溶血が開始されることが予想されない。
【0227】
これまでのアッセイと比較して新しい血清遊離C5アッセイが改善された性能であるため、エクリズマブ被覆プレートからALXN1210被覆プレートへの切り替えは、ALXN1210血清試料中での遊離C5の測定値がより反映されることを確実にするように適合される。
【0228】
実施例4 GyroLabプラットフォームを使用したヒト血漿中のC5aの定量化アッセイ
【0229】
この試験は、ヒト血漿中の遊離C5aを測定するためのGyrosアッセイを検証した。このアッセイでは、GyroLabプラットフォームを用いて、遊離C5aおよびAlexa 647標識抗C5a抗体を捕捉し、ヒト血漿中のC5aを検出するためにビオチン化抗体(ALXN1007)を使用した。この試験により、この方法がヒト血漿中のC5aの定量化のその意図された目的に適切であるということが示された。
【0230】
略語:
BPM:バイオ分析プロジェクトマネージャー(Bioanalytical Project Manager)
CV:変動係数
C5a:補体因子5a
低VS:低検証試料
中VS:中検証試料
高VS:高検証試料
LLOQ:定量下限
ULOQ:定量上限
BLQ:定量限界より下
ALQ:定量限界より上
MRD:Minimum Required Dilution(最小必要希釈率)
PBST:リン酸緩衝生理食塩水、0.01% Tween
【0231】
C5a DesArg精製ヒト補体タンパク質を0.51mg/mLで参照標準として使用する。
【0232】
11個のゼロでない標準からなる新たに作成された定量化標準曲線を、C5aでスパイクし、Rexxip AN緩衝液に希釈し、試験されるすべてのCD上に含有させた。ブランクも試験され、すべてのCDに含まれた。C5aの濃度は、60、30、15、7.5、3.75、1.88、0.938、0.469、0.234、0.117、及び0.059ng/mLであった。0.059ng/mLおよび0.117ng/mLのデータポイントをアンカーポイントとして評価した。すべての検量線用標準試料を試験前にアッセイ希釈液で2倍に希釈し、試験される各CDにおいてデュプリケートで試験した。Gyrolab XPでは、同じウェルから試料を二回添加することによってデュプリケートで実施した。このデータを、Gyrosデータ解析ソフトウェア内の五パラメータのロジスティック曲線回帰モデルにあてはめた。
【0233】
バイオマーカーC5aの上限(ULOQ)、高(高VS)、中(中VS)、低(低VS)および二つの下限(LLOQ-1およびLLOQ-2)の各濃度を表す検証コントロール試料を、それぞれのレベルでRexxip AN中にC5aをスパイクすることによって調製し、定量化範囲を評価した。Rexxip ANからなるブランクをすべてのアッセイに使用した。検証中の各CDには、各々のULOQ、高VS、中VS、低VS、LLOQ-1およびLLOQ-2、ならびにブランクの一式が含まれた。全てのコントロールを新しく調製し、かつ、アッセイ希釈液で2倍に希釈した。C5aは以下の濃度でスパイクした。
・ ULOQ=40ng/mL
・ 高VS=20ng/mL
・ 中VS=2.5ng/mL
・ 低VS=0.625ng/mL
・ LLOQ-1=0.200ng/mL
・ LLOQ-2=0.156ng/mL
【0234】
C5を除去するために、内因性の試料(個体2および11)がDynabead処理に供され、すべてのCDに含ませ、トレンド処理(trending)用の試料を使用することの有用性を得るためにデュプリケートで試験した。
【0235】
概略的アッセイ手順
【0236】
C5aの定量化曲線用試料および検証コントロール用試料を調製し、Rexxip AN緩衝液を含むPCRプレート中で希釈し、その後続いてアッセイ希釈液(1M NaCl +0.5% Tween)でMRDを2として希釈した。
【0237】
検証評価に使用される試料は、C5を除去するために急速振とうしながら少なくとも1時間、磁気ビーズに結合された抗C5抗体とインキュベーションを行うことができる。それら試料については、10uLの試料を20uLの抗C5結合ビーズに添加し、強力に振とうしながら1時間インキュベートした。振とうインキュベーション後、ビーズを溶液から分離するために、プレートをプレートベースの磁石に少なくとも2分間晒した。10uLの試料を、ビーズペレットを撹乱することなく注意深く取り出し、Gyros搭載リスト(loading list)に従ってPCRプレートに添加した。試料の最終MRDは3であるが、Gyros搭載リストにおける希釈係数は1.5である。
【0238】
ビオチン化ALXN1007(捕捉抗体)を、PBST中で100ug/mLに調製し、Gyro Lab搭載リストに従ってPCRプレートに添加した。Alexa 647標識抗C5a抗体(検出抗体)を、Rexxip F緩衝液中で4ug/mLに調製し、Gyro Lab搭載リストに従ってPCRプレートに添加した。
【0239】
Alexa 647標識抗C5a/C5a des-Arg精製ヒト補体タンパク質は、モル抗体当たり4.2モルのAlexa Fluor(登録商標)647染料で標識した、マウスIgG2amAbである。
【0240】
方法検証
【0241】
アッセイの方法検証には、アッセイ内およびアッセイ間の精度および真度、検量線の応答および範囲、希釈直線性、選択性、平行性、短期間安定性、長期間安定性、凍結解凍安定性、ならびにプロセス安定性が含まれた。検証中は、検量線に対して記載された許容基準に基づいて実行が許容された。検証中に実施されたすべての実行の要約を表8に示す。
【0242】
【0243】
検量線範囲
【0244】
標準曲線の精度および真度を評価するために、検証のための各実行に、セクション15で定義された九つのゼロでない標準および二つのアンカーポイントからなる標準曲線を含めた。アンカーポイントを含ませるかまたは除外するかは、曲線の定量化可能な範囲内での曲線フィッティングを基にした。各アッセイにゼロ(分析物なし)のブランクを含めたが、曲線フィッティングには含めなかった。すべての点は、二アナリストによって七回の別個の実行でデュプリケートで試験され、Gyro Lab Evaluatorソフトウェア内の5パラメータのロジスティック曲線フィッティングを使用して標準曲線を計算した。
【0245】
精度は、パーセントで表した変動係数(CV)によって表され、以下の式を使用して計算した:
【0246】
【0247】
%相対誤差(%RE)は、以下の式を使用して計算したが、式中、公称濃度はマトリックスにスパイクされる参照標準の濃度と等しい:
【0248】
【0249】
アッセイの総合誤差(total error)は、以下の式を使用して評価した:
【0250】
%TE=絶対値%RE+%CV
【0251】
目標の許容基準:ゼロでない標準の最低75%は、最低標準および最高標準においては平均の逆算濃度(BCC(back calculated concentration))が公称値の±25%と等しいかそれ以内でありうるが、それ以外は公称値の±20%と等しいかそれ以内の平均BCCである必要がある。各標準のCVは、最低標準および最高標準においてはCVが25%以下でありうるが、それ以外は20%以下である必要がある。
【0252】
99.2~109.2%の範囲の回収率と、1.5~13.1%のCVの範囲の精度とを伴って、試験された全てのレベルで、九つのゼロでない検量線用標準が許容基準を満たした。相対誤差(relative error)は0.4~9.2%のREであり、2.1~22.3%のTEの範囲の総合誤差を伴った。0.117ng/mLおよび0.059ng/mLの二つの最低較正濃度が、試料分析の間アンカーポイントとして使用され、曲線フィッティングに基づいて分析に含まれるか除外されることとなる。アッセイの検量線範囲は0.234~60ng/mLであった。データを表9に示す。
【0253】
【0254】
定量化可能な範囲(アッセイ範囲)、真度および精度
【0255】
定量化可能な範囲ならびにアッセイの真度および精度を評価するために、各実行にはコントロールを含有させた。
【0256】
アッセイ内の精度については、各コントロールを、1回の実行に対して一アナリストで六つの複製を一度に試験した。アッセイ内の精度の実行は、試験されたすべてのコントロールに対する許容基準を満たした。回収率は、96.3~111.7%の範囲であり、2.3~20.2%CVの範囲であった精度を伴った。相対誤差は0.0~10.5%の範囲であり、総合誤差は6.6~25.3%の範囲であった。データを表10に示す。
【0257】
表10 アッセイ内精度
【表10-1】
【表10-2】
【0258】
目標の許容基準:真度に関しては、コントロール毎の平均計算濃度は、LLOQおよびULOQにおいては平均計算濃度が公称値の±30%と等しいかそれ以内でありうるが、それ以外は公称値の±25%と等しいかそれ以内である必要がある。精度に関しては、コントロール毎のCVは、LLOQおよびULOQにおいてはCVが30%以下であるが、それ以外は25%以下である必要がある。アッセイのLLOQは、許容可能な精度および真度を伴う最低コントロールであり、アッセイのULOQは許容可能な精度および真度を伴う最高コントロールである。総合誤差は40%以下である必要がある。
【0259】
アッセイ間の精度については、各コントロールは、二アナリストによってデュプリケートで、七回の実行にわたって試験された。アッセイ内の評価(実行7)の最初の二つの複製を、一つのアッセイ間の評価として含めた。試験したすべてのコントロールについて、アッセイ内の精度の基準が満たされた。回収率は、96.4~116.6%の範囲であり、2.0から20.5%CVの範囲であった精度を伴った。相対誤差は1.4~16.6%の範囲であり、総合誤差は3.4から34.0%の範囲であった。データを表11に示す。
【0260】
表11 アッセイ間の精度
【表11-1-1】
【表11-1-2】
【0261】
目標の許容基準:真度に関しては、コントロール毎の平均計算濃度は、LLOQおよびULOQにおいては平均計算濃度が公称値の±30%と等しいかそれ以内でありうるが、それ以外は公称値の±25%と等しいかそれ以内である必要がある。精度に関しては、コントロール毎のCVは、LLOQおよびULOQにおいてはCVが30%以下であるが、それ以外は25%以下である必要がある。アッセイのLLOQは、許容可能な精度および真度を伴う最低コントロールであり、アッセイのULOQは許容可能な精度および真度を伴う最高コントロールである。総合誤差は40%以下である必要がある。
【0262】
希釈直線性およびminimum required dilution(最小必要希釈率)(MRD)は、マトリックスの四個体のロットで評価された。マトリックスに、ULOQより上の100ng/mLで参照標準をスパイクし、アッセイ希釈液で4倍に3回希釈し、その後抗C5結合磁気ビーズで処理してあらゆる混入C5を除去した。希釈直線性用試料を二回の実行にわたって一度に評価し、一アナリストによってデュプリケートで試験した。実行5からの個体13は、64倍希釈に関連した高CVであることから、実行9で再評価した。このアッセイにより、希釈直線性が実証され、すべてのロットに対してすべての希釈でスパイクされたマトリックスの四つのロットで、許容基準を満たしている。最大希釈は64倍である。希釈毎の回収率は、希釈についてを補正すると、94.0~117%の範囲であり、0.8~11.1%の範囲であったCVを伴った。ビーズ処理で必要とされる血漿試料に対するMRDは三である。標準のビーズ処理のMRDを伴うALQである試料は、アッセイの定量化可能な範囲内にある結果を得るために、64倍まで希釈できる。データを表11に示す。
【0263】
目標の許容基準:希釈直線性については、定量化可能な範囲内に収まる希釈の平均濃度は、希釈について補正すると、公称値の25%と等しいかそれ以内であるか、または25%以下のCVを有する必要がある。許容基準を満たす試料のいずれかにおける最大希釈は、最大許容試料希釈である。
【0264】
表11 希釈直線性
【表11-2-1】
【表11-2-2】
【0265】
500ng/mLでスパイクしたマトリックス中で、プロゾーン(ホック効果(Hock Effect))を評価した。プロゾーンは、一アナリストによってデュプリケートで一度に評価した。試料を抗C5結合磁気ビーズで処理した。計算された応答は、アッセイの定量化可能な範囲よりも大きく、プロゾーン(フック効果)が観察されなかったことを実証した。データを表12に示す。
【0266】
【0267】
プロゾーン効果は、観察された応答が、公称濃度がULOQのより上である試料のアッセイの定量化可能な範囲の範囲内またはそれ未満である場合に明らかにされる。
【0268】
アッセイ選択性は、5、1および0.3ng/mLでC5aをマトリックスの10個体のロットにスパイクし、続いて抗C5抗体結合磁気ビーズで処理することによって評価した。各個体のスパイクされていない試料も評価した。事前定量化中に低いレベルのC5aを含むことを示したロットを選択した。選択性用試料は、一アナリストによって2回の実行にわたってデュプリケートで一度に評価した。このアッセイは、選択性の目標の許容基準を満たした。スパイクされた十個体のうち八個体が、内因性のC5aについて補正すると、公称値の25%以内で回収された。データを表13に示す。
【0269】
目標の許容基準:スパイクされたマトリックスの最低80%は、公称値の±25%以内である必要がある。
【0270】
表13 選択性
IND = 個体
【表13-1-1】
【表13-1-2】
【表13-2】
【0271】
平行性
【0272】
事前定量化中に内因性のC5a検出可能レベルを有することが示された六個体(男性3名および女性3名)を選択して、平行性を評価した。試料は、アッセイ希釈液で二倍連続希釈を3回行い、次いで抗C5結合磁気ビーズでビーズ処理を行った。平行性用試料を2アナリストによる2回の実行にわたって評価した。実行4で試験された六個体のうち四個体が、高い試料CVのために実行9で繰り返された。このアッセイでは、平行性の欠如が示さ、アッセイの相対定量性が強調されたが、使用を妨げるものではない。試料CVの範囲は0.1%~27.1%であった。データを表14に示す。
【0273】
【0274】
安定性
【0275】
約4℃および室温での短期間保存、意図される保存温度での長期間保存、ならびに数回の凍結解凍サイクルに供される試料の安定性を調査した。安定性評価のために、高濃度(5ng/mL)および低濃度(1ng/mL)のC5aでスパイクされたマトリックスを使用した。安定性試料の複数のアリコートを、意図された保存温度(-80°C)、室温、約4℃での保存、および凍結/解凍実験のために調製した。各レベルにつき一つのアリコートを、新鮮なコントロール試料(参照条件)として直ちに分析した。残りの試料は、特定の保存期間および条件の後で試験した。すべての安定性評価には、アッセイ許容性を評価するために新たに調製された標準曲線用試料および検証用試料が含まれた。すべての安定性用試料を、抗C5抗体結合磁気ビーズで処理した。プロセス安定性も評価された。
【0276】
短期間安定性
【0277】
低安定性用および高安定性用の試料のアリコートを解凍し、室温で2時間20分保存し、また約4℃で、最大23時間29分保存した。すべての短期間安定性用試料を六つの複製で実行した。安定性用試料は、短期間安定性の許容基準を満たした。各条件の試料は、参照標準の30%以内であり、CVは4.6~11.6%の範囲であった。データを表15に示す。
【0278】
【0279】
目標の許容基準:短期間安定性用試料毎の平均計算濃度は、新鮮なコントロール試料の値の±30%以内であり、≦30%のCVを有する必要がある。
【0280】
長期間安定性は、1、3、6、9、12、15、18、21、24か月で評価される。低濃度および高濃度の安定性用試料のアリコートを調製し、適切な温度(-80℃)で保存した。すべての長期間安定性用試料は、少なくとも六つの複製で実行されることとなる。検証レポートは、長期間安定性データを含むように修正されることとなる。
【0281】
目標の許容基準:長期間安定性用試料毎の平均計算濃度は、新鮮なコントロール試料の値の±30%以内であり、≦30%のCVを有する必要がある。
【0282】
凍結および解凍の安定性
【0283】
低濃度および高濃度の安定性間試料のアリコートを、約-80℃での6回の凍結解凍サイクルに供した。安定性用試料を室温で少なくとも一時間解凍し、その後新規サイクルを受ける前に最低12時間再凍結させた。凍結および解凍の安定性の評価は、三回および六回の凍結/解凍サイクルを完了した試料に対して行われた。すべての凍結および解凍の安定性用試料を六つの複製で試験した。安定性用試料は、凍結および回答の安定性の許容基準を満たした。各条件の試料は、参照標準の30%以内であり、CVは1.4~8.1%の範囲であった。データを表16に示す。
【0284】
表16 凍結解凍安定性
【表16-1】
【表16-2】
【0285】
プロセス安定性(げっ歯類)
【0286】
標準曲線、QCならびに、その後二つのアッセイ準備PCRプレートに分離される捕捉試薬および検出試薬を調製することによってプロセス安定性を評価した。内因性の試料もまた各時点毎に含まれた。プレートを封止し、Gyros機器のデッキ上に配置した。各プレートは、一プレート当たり一ディスクを用いて、時間を0時間および2時間で評価した。標準曲線は、試験された両方の時点で許容基準を満たした。九つのゼロの標準についての総平均の回収率%は、96.8~104.4%の範囲であり、0.4~8.3%の範囲であるCVを伴った。QCについての総平均の回収率は、98.3~118.3%の範囲であり、1.5~18%の範囲であるCVを伴った。各時点について試験された標準曲線およびQCのデータを表17に示す。内因性試料のデータを表18に示す。アッセイは、最大2時間のプロセス安定性を実証している。
【0287】
表17 プロセス安定性の標準試料およびQC
【表17-1】
【表17-2】
【0288】
【0289】
アッセイプレートをGyrolab XPワークステーション上でリードし、GyroLab evaluatorソフトウェアを使用して解析し、Microsoft Excel 2007以降のバージョンにインポートした。算術手段、標準偏差、精度(CV%)などの記述統計は、Microsoft Excel 2007以降のバージョンを使用して決定した。
【0290】
CVが25%より大きい場合、九つのゼロでない標準点のうち最大二つのマスキングを許容する一つの計画補正があった。
【0291】
試験中に二つの偏差が記録された。
【0292】
偏差#226
【0293】
実行1から8について補完的バイオ分析ワークシート上に、時計および温度計が記載されていなかった。すべての実行が予測されるとおりに実行されて、実験室内の較正された時計および温度計を使用して時間および温度が記録されるので、この偏差による試験データへの影響はなかった。
【0294】
偏差#237
【0295】
・要件:ビオチンALXN1007(捕捉抗体)は、PBST中で100ug/mLに調製し、Gyro Lab搭載リストに従ってPCRプレートに添加する。
【0296】
・偏差:ビオチンALXN1007(捕捉抗体)を、PBST中で89ug/mLに調製し、Gyro Lab搭載リストに従ってPCRプレートに添加した。
【0297】
この偏差は実行1で発生した。この偏差は、ビオチンALXNが、概略的アッセイ手順のセクションで特定したとおりの100ug/mLではなく、89ug/mlで調製されたというものである。実行1の分析中にアナリストによって追加のワークシート上で誤字が発見されて、ALXN1007の以前の保存濃度がワークシート上に記録され、計算に使用された。該アナリストがワークシートを修正し、当該修正を記載した。実行の検証を行ったところ、この修正の計算が不正確であることが発見されて記載された。
【0298】
この偏差は、実行は失敗であったと記録され、データが試験の分析に使用されなかったため、試験への影響はなかった。標準曲線に関連して高いCVであったことから、この実行は目標の基準を満たさなかったのである。
【0299】
表19 アッセイ手順
【表19-1】
【表19-2】
【0300】
表20 アッセイ手順(ビーズ調製)
【表20-1-1】
【表20-1-2】
【表20-1-3】
【表20-2-1】
【表20-2-2】
【0301】
表21 重要な試薬
以下の試薬は、特定の提供者とロットから使用される。
【表21】
【0302】
表22 追加的試薬
【表22-1】
【表22-2】
【0303】
その他の実施形態
【0304】
前述の説明は、本発明の例示的な実施形態のみを開示している。
【0305】
本発明についてその詳細な説明と併せて説明してきたが、前述の説明は説明を意図しているものであって、添付の特許請求の範囲によって規定されている本発明の範囲を限定するものではないということを理解されたい。その他の態様、利点、および変形は、添付の請求項の範囲内にあるものである。したがって、本発明の特定の特徴のみが図示され、記述されているが、当業者にとっては多くの変形および変更が生じるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の趣旨内に収まるものとしてこうした変形および変更のすべてを網羅することが意図されているということを理解されたい。
【0306】
表23:一部の核酸およびアミノ酸配列
【表23-1】
【表23-2】
【表23-3】
【表23-4】
【表23-5】
【表23-6】
【表23-7】
【表23-8】
【表23-9】
【表23-10】
【表23-11】
【表23-12】
【表23-13】
【配列表】